(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】余剰水の処理方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20221104BHJP
C02F 1/04 20060101ALI20221104BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20221104BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
G21F9/06 G
G21F9/06 551Z
C02F1/04 E
C02F1/70 A
C02F1/58 A
(21)【出願番号】P 2019048664
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴司
(72)【発明者】
【氏名】浅井 由季
(72)【発明者】
【氏名】永田 亮
(72)【発明者】
【氏名】野田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】吉永 智美
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 博徳
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-091297(JP,A)
【文献】特開2018-173391(JP,A)
【文献】特開2014-092441(JP,A)
【文献】特開2014-130093(JP,A)
【文献】特開2016-080508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントの系統の化学除染時に、前記系統中の機器に純水を供給することにより生じるシュウ酸を含む余剰水の処理方法であって、
前記余剰水が貯留されたタンクにpH調整剤を添加し、前記余剰水のpHを3.0以上7.0以下に調整するpH調整工程と、
前記pH調整工程後に、前記余剰水を濃縮する濃縮工程と、を含
み、
前記余剰水に亜硫酸水素ナトリウムを添加して前記余剰水中の過マンガン酸イオンを分解する過マンガン酸イオン分解工程を含み、
前記pH調整工程は、前記過マンガン酸イオン分解工程後に実施される余剰水の処理方法。
【請求項2】
前記過マンガン酸イオン分解工程では、前記余剰水中の前記過マンガン酸イオンの残留量に対して、0.5当量以上2.0当量以下の前記亜硫酸水素ナトリウムが添加される
請求項1に記載の余剰水の処理方法。
【請求項3】
前記過マンガン酸イオン分解工程では、前記余剰水中の前記過マンガン酸イオンの残留量に対して、1.0当量以上1.5当量以下の前記亜硫酸水素ナトリウムが添加される
請求項1に記載の余剰水の処理方法。
【請求項4】
前記pH調整工程では、前記余剰水のpHが5.0以上7.0以下に調整される請求項1
から請求項3の何れか一項に記載の余剰水の処理方法。
【請求項5】
前記pH調整工程では、前記余剰水のpHが5.0以上6.0以下に調整される
請求項4に記載の余剰水の処理方法。
【請求項6】
前記pH調整工程では、前記pH調整剤としてホウ酸が添加される請求項1から
請求項5の何れか一項に記載の余剰水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、余剰水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントでは、運用中のメンテナンス作業や、廃炉時の解体作業に際して、機器や配管等に付着した放射性核種を除去する除染作業が行われる。特に、原子力プラントの系統を構成する配管部材(主としてステンレス鋼及びインコネルを含む)は、運用中に高温高圧の環境下に曝されることから、表面に酸化被膜が形成され、被膜中に放射性核種が取り込まれる。この酸化被膜を除去し、部材を除染する方法として、化学除染と呼ばれる方法が知られている。
【0003】
化学除染方法では、まず、部材を過マンガン酸等の酸化剤が添加された水溶液中に接触させて、部材の表面に付着した酸化被膜に含まれるクロム系酸化物中のクロムを酸化溶出させる。次に、シュウ酸等の有機酸を水溶液に添加して、酸化被膜の主要成分である鉄系酸化物中の鉄やニッケルを溶出させる。このとき、コバルト等の放射性核種も同時に溶出される。そして、化学除染方法では、放射性核種が溶出された水溶液をイオン交換樹脂に接触させて、酸化皮膜とともに放射性物質を除去している。
【0004】
このような化学除染方法として、例えば、特許文献1には、過マンガン酸を沈殿させる還元剤を処理水に添加することで、過マンガン酸を沈殿物として除去する除染廃液処理方法が記載されている。この除染廃液処理方法では、処理水中のマンガンを減少させることで、イオン交換樹脂の使用量を低減させている。
【0005】
また、化学除染方法によって原子力プラント内を除染する系統除染では、化学溶液である処理水が、一次冷却水のように原子力プラント内を循環される。処理水を循環させるために、一次冷却水を圧送するために設けられた一次冷却材ポンプが使用される。この際、処理水中に含まれる様々な微粒子が一次冷却材ポンプのシール部分に流入すると、一次冷却材ポンプの破損の原因となる。そのため、純水を一次冷却材ポンプに供給することで、一次冷却材ポンプを保護しながら、系統除染は行われる。純水を供給することで、系統内を流れる処理水の流量が増加してしまい、不要な余剰水が発生する。
【0006】
このような余剰水は、処理水と同様に、過マンガン酸イオンが含まれているために別途処理する必要がある。具体的な処理方法として、余剰水は、原子力プラント内から回収されてタンク内に溜められる。その後、亜硫酸水素ナトリウムが添加されることで、余剰水中の過マンガン酸イオンが分解除去されている。過マンガン酸イオンが除去された余剰水は、最終的にエバポレータによって濃縮された後に廃棄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このような余剰水は、処理水にシュウ酸を添加した後にも生じる。そのため、余剰水中にシュウ酸が含まれている場合がある。余剰水は、濃縮された後にアスファルト固化されて廃棄されるが、シュウ酸が含有されているとアスファルト固化時に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、余剰水中に含まれるシュウ酸を高い精度で除去することが望まれている。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、余剰水中に含まれるシュウ酸を高い精度で除去することが可能な余剰水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明の第一態様に係る余剰水の処理方法は、原子力プラントの系統の化学除染時に、前記系統中の機器に純水を供給することにより生じるシュウ酸を含む余剰水の処理方法であって、前記余剰水が貯留されたタンクにpH調整剤を添加し、前記余剰水のpHを3.0以上7.0以下に調整するpH調整工程と、前記pH調整工程後に、前記余剰水を濃縮する濃縮工程と、を含み、前記余剰水に亜硫酸水素ナトリウムを添加して前記余剰水中の過マンガン酸イオンを分解する過マンガン酸イオン分解工程を含み、前記pH調整工程は、前記過マンガン酸イオン分解工程後に実施される。
【0011】
このような構成によれば、余剰水のpHが7.0以下とされていることで、濃縮工程で二酸化マンガンによってシュウ酸が分解される際の反応速度を向上させることができる。その結果、余剰水中に残留するシュウ酸を高い精度で除去することができる。さらに、余剰水のpHが3.0以上とされていることで、余剰水を処理するために使用されている設備の腐食量を抑えることができる。
また、余剰水中に含まれるシュウ酸の量が多い場合に、pH調整工程でpHが調整された後の余剰水に影響を及ぼさないタイミングで、余剰水中のシュウ酸の多くを除去できる。
【0012】
また、本発明の第二態様に係る余剰水の処理方法では、第一態様において、前記pH調整工程では、前記余剰水のpHが5.0以上7.0以下に調整されてもよい。
【0013】
このような構成とすることで、余剰水は弱酸性に近づく。そのため、余剰水を処理するために使用されている設備の腐食量は抑えられる。
【0014】
また、本発明の第三態様に係る余剰水の処理方法では、第一態様において、前記pH調整工程では、前記余剰水のpHが5.0以上6.0以下に調整されてもよい。
【0015】
このような構成とすることで、余剰水のpHが6.0以下とされていることで、余剰水が弱酸性となり、シュウ酸を分解させる際の反応速度をより向上させることができる。
【0016】
また、本発明の第四態様に係る余剰水の処理方法では、第一態様から第三態様のいずれか一つにおいて、前記pH調整工程では、前記pH調整剤としてホウ酸が添加されてもよい。
【0017】
このような構成とすることで、ホウ酸自体が緩衝作用を持つために、余剰水が濃縮されてもpHが低下しにくくなる。その結果、濃縮工程で、予定していたpHのまま余剰水を濃縮できる。
【0020】
また、本発明の他の態様に係る余剰水の処理方法では、第一態様において、前記過マンガン酸イオン分解工程では、前記余剰水中の前記過マンガン酸イオンの残留量に対して、0.5当量以上2.0当量以下の前記亜硫酸水素ナトリウムが添加されてもよい。
【0021】
また、本発明の他の態様に係る余剰水の処理方法では、第一態様において、前記過マンガン酸イオン分解工程では、前記余剰水中の前記過マンガン酸イオンの残留量に対して、1.0当量以上1.5当量以下の前記亜硫酸水素ナトリウムが添加されてもよい。
【0022】
このような構成とすることで、濃縮工程でシュウ酸を分解するために適量の二酸化マンガンを確保することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、余剰水中に含まれるシュウ酸を速やかに除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】化学除染方法の対象となる除染対象物の例を示す図である。
【
図3】実施形態における余剰水の処理方法のフロー図である。
【
図4】実施形態における余剰水の処理システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施形態について
図1から
図4を参照して説明する。
まず、余剰水が生じる化学除染方法S1の対象となる除染対象物Zについて説明する。化学除染の対象となる除染対象物Zは、原子力プラントの系統を構成する配管、容器、各種機器等の部品であって、炉水が接触する部品である。
【0027】
ここで、原子力プラントとしては、例えば、
図1に示すように、加圧水型原子炉50を備える原子力発電プラントPがある。この原子力発電プラントPは、燃料棒51等が収納される加圧水型原子炉50と、加圧水型原子炉50内の一次冷却水(軽水)の沸騰を抑えるために一次冷却水を加圧する加圧器52と、一次冷却水の熱により二次冷却水を蒸気にする蒸気発生器53と、蒸気発生器53からの一次冷却水を加圧水型原子炉50に戻す一次冷却材ポンプ54と、蒸気発生器53で発生した蒸気で駆動する蒸気タービン56と、蒸気タービン56の駆動で発電する発電機57と、蒸気タービン56からの蒸気を水に戻す復水器58と、復水器58からの水を蒸気発生器53に戻す給水ポンプ59と、を備えている。
【0028】
この加圧水型原子炉50と蒸気発生器53とは一次冷却水配管55a及び55bで接続されている。蒸気発生器53と蒸気タービン56とは蒸気配管55cで接続されている。復水器58と蒸気タービン56とは給水配管55dで接続されている。
【0029】
このように構成された原子力発電プラントPにおいて、炉水、即ち一次冷却水に接する部材である一次冷却系部材が除染対象物Zである。除染対象物Zとしては、加圧水型原子炉50、加圧器52、蒸気発生器53、一次冷却材ポンプ54、これらを接続する一次冷却水配管55a及び55b、この一次冷却水配管55a及び55b等に設けられている各種弁等がある。これら除染対象物Zは、鉄を主成分としてクロムやニッケルを含むステンレス鋼やニッケル基合金であるインコネル等で形成されている。
【0030】
この除染対象物Zを構成する金属元素は、わずかに炉水に溶出して、一部が加圧水型原子炉50内の燃料棒51表面に付着する。燃料棒51の表面に付着した金属元素は、燃料から中性子線が照射させることにより、原子核反応を起こして、クロム、鉄、ニッケル、コバルト等の放射性核種となる。これら放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒51の表面に付着したままであるが、その一部が炉水中に溶出されたり、不溶性固体として放出されたりする。炉水中に溶出又は放出された放射性核種は、除染対象物Zの炉水接触面に付着する。このため、除染対象物Zの近傍で作業する作業員は、部品に形成された酸化皮膜中の放射性核種からの放射線に晒されることになる。
【0031】
化学除染方法S1は、上記で説明した原子力発電プラントPを廃止する際等に行われる系統除染に関するものである。化学除染方法S1では、除染対象物Zである配管等の内部で化学溶液である処理水を循環させる。これにより、除染対象物Zの内表面に付着している放射性核種を含んだ酸化被膜を除去して廃棄している。化学除染方法S1は、
図2に示すように、酸化工程S2と、還元工程S3と、除染工程S4と、分解工程S5と、浄化工程S6とを含んでいる。
【0032】
酸化工程S2は、除染対象物Zの内部に酸化剤を添加した処理水を供給し循環させる。具体的には、酸化剤として過マンガン酸を添加する。酸化工程S2では、除染対象物Zの内部に過マンガン酸を添加した処理水を循環させることで、ステンレス鋼やニッケル基合金を含む除染対象物Zに付着した酸化被膜中のクロムがCr6
+として酸化溶出する。その結果、酸化工程S2では、この放射性核種であるクロムを含有する処理水である一次処理水が生成される。
【0033】
還元工程S3は、酸化工程S2後に実施される。還元工程S3では、一次処理水に、還元剤として、微量のシュウ酸が添加される。還元工程S3では、過マンガン酸を添加したことで、一次処理水に含まれている過マンガン酸イオンや、沈殿している二酸化マンガンがシュウ酸によって分解される。つまり、還元工程S3では、一次処理水に含まれた過マンガン酸イオンや、沈殿している二酸化マンガンが分解可能な量のシュウ酸が添加される。また、微量のシュウ酸が添加されることで、除染対象物Zからニッケルが一次処理水中に溶出される。
【0034】
除染工程S4は、還元工程S3後に実施される。除染工程S4では、一次処理水に有機酸として、還元工程S3よりも多量のシュウ酸が添加される。また、本実施形態の除染工程S4では、イオン交換樹脂等の吸着材へ多量のシュウ酸が添加された一次処理水である二次処理水を通水させることで、溶出した金属が除去される。具体的には、二次処理水は循環され、除染対象物Zの内部に何度も供給される。二次処理水が除染対象物Zの内部に供給されることで、除染対象物Zから鉄、ニッケル、及びコバルトが処理水中に溶出される。さらに、除染対象物Zから二次処理水中に溶出されたらクロム、鉄、ニッケル、及びコバルトが吸着材を用いて除去される。
【0035】
分解工程S5は、除染工程S4後に実施される。分解工程S5では、二次処理水中のシュウ酸が分解される。分解工程S5では、例えば、二次処理水に紫外線を照射することで、二次処理水中のシュウ酸が水と二酸化炭素に分解される。なお、分解工程S5では、シュウ酸が他の方法で分解されてもよい。これにより、二次処理水からシュウ酸が分解除去された三次処理水が生成される。
【0036】
浄化工程S6は、分解工程S5後に実施される。本実施形態の浄化工程S6では、除染工程S4で除去しきれなかったクロム、鉄、ニッケル、及びコバルトが除去される。具体的には、浄化工程S6では、例えば、イオン交換樹脂等の吸着材を用いて、処理水中に含まれるクロム、鉄、ニッケル、及びコバルト等の放射性核種や、これら放射性核種で汚染された残留成分(シュウ酸等のイオン)を除去することで除染が行われる。その後、除染対象物Zの線量を測定し、十分に線量が低下している場合には、化学除染方法S1が終了される。また、除染対象物Zの線量が未だ高い場合には、必要に応じて酸化工程S2から浄化工程S6が繰り返し実施される。除染された処理水は、次サイクル以降で再び利用することができる。
【0037】
ここで、原子力プラントの系統の化学除染時に、系統中の機器に純水を供給することにより生じる余剰水の処理方法S100について説明する。上述した化学除染方法S1では、一次冷却材ポンプ54を保護するために、一次冷却材ポンプ54に純水が供給されながら、酸化工程S2、還元工程S3、及び除染工程S4が実施される。酸化工程S2、還元工程S3、及び除染工程S4では、純水が供給されることで、除染対象物Z内を循環する処理水の量が増加する。そのため、処理水の一部(供給された純水の量と同量の処理水)が、余剰水として、除染対象物Z内部から回収されてタンク(不図示)に溜められる。本実施形態の余剰水の処理方法S100では、還元工程S3及び除染工程S4で回収された余剰水であって、シュウ酸(H2C2O4)が含有された余剰水に対して各種処理が行われる。
【0038】
なお、本実施形態で処理される余剰水としては、シュウ酸が含まれていない酸化工程S2で回収された余剰水を還元工程S3及び除染工程S4で回収された余剰水と混合させたものも含まれる。なお、酸化工程S2で生じる余剰水には、シュウ酸ではなく、過マンガン酸(HMnO4)や二酸化マンガン(MnO2)や水酸化ナトリウム(NaOH)や過マンガン酸カリウム(KMnO4)が含まれている。
【0039】
具体的には、
図3に示すように、余剰水の処理方法S100は、余剰水取得工程S200と、シュウ酸分解工程S300と、過マンガン酸イオン分解工程S400と、pH調整工程S500と、濃縮工程S600と、廃棄工程S700とを含んでいる。
【0040】
また、余剰水の処理方法S100は、
図4に示すような余剰水の処理システム100によって実施される。余剰水の処理システム100は、ホールドアップタンク(タンク)111と、薬剤供給部145と、ウェストホールドアップタンク150と、廃液エバポレータ160とを備えている。
【0041】
図3及び
図4に示すように、余剰水取得工程S200では、還元工程S3及び除染工程S4で回収された余剰水がホールドアップタンク111に取水される。なお、余剰水取得工程S200では、還元工程S3及び除染工程S4で回収された余剰水とともに、酸化工程S2で回収された余剰水もホールドアップタンク111に取水されてもよい。したがって、ホールドアップタンク111にはシュウ酸が含まれた余剰水が貯留される。
【0042】
シュウ酸分解工程S300は、余剰水取得工程S200後に実施される。シュウ酸分解工程S300では、ホールドアップタンク111内の余剰水に対して、薬剤供給部145によって酸化剤として過マンガン酸カリウムが添加される。
【0043】
薬剤供給部145は、途中に弁が設けられた薬注ライン141を介してホールドアップタンク111に接続されている。薬剤供給部145では、余剰水に供給する各種薬剤が準備され、必要な量をホールドアップタンク111に供給している。シュウ酸分解工程S300では、薬剤供給部145には、過マンガン酸カリウムが準備されている。薬剤供給部145は、薬注ライン141を介してホールドアップタンク111に過マンガン酸カリウムを供給する。これにより、余剰水中に含まれるシュウ酸の一部が分解される。したがって、シュウ酸分解工程S300では、ホールドアップタンク111及び薬剤供給部145が、シュウ酸の一部を分解するシュウ酸分解部となる。薬剤供給部145は、ホールドアップタンク111に過マンガン酸カリウムを供給した後に、フラッシングされる。
【0044】
過マンガン酸イオン分解工程S400は、シュウ酸分解工程S300後に実施される。過マンガン酸イオン分解工程S400では、ホールドアップタンク111内の余剰水に対して、薬剤供給部145によって亜硫酸水素ナトリウムが添加される。即ち、過マンガン酸イオン分解工程S400では、薬剤供給部145には、亜硫酸水素ナトリウムが準備されている。薬剤供給部145は、薬注ライン141を介してホールドアップタンク111に亜硫酸水素ナトリウムを供給する。これにより、シュウ酸が分解された後の余剰水中に含まれる過マンガン酸イオンの一部が分解される。したがって、過マンガン酸イオン分解工程S400では、ホールドアップタンク111及び薬剤供給部145が、過マンガン酸カリウムが添加された後の余剰水中の過マンガン酸イオンの一部を分解する過マンガン酸イオン分解部となる。薬剤供給部145は、ホールドアップタンク111に亜硫酸水素ナトリウムを供給した後に、フラッシングされる。
【0045】
また、過マンガン酸イオン分解工程S400では、余剰水中に残留する過マンガン酸イオンの残留量に基づいて決定された量の亜硫酸水素ナトリウムが余剰水に添加される。具体的には、余剰水中の過マンガン酸イオンの残留量に対して、0.5当量以上2.0当量以下の量の亜硫酸水素ナトリウムが余剰水に添加される。ここで、当量では、イオン当量であって、五価の過マンガン酸イオンに対して二価の亜硫酸イオンを反応させるために必要な亜硫酸水素名ナトリウムの量である。したがって、過マンガン酸イオンの2.5倍の量の亜硫酸イオンを添加させることが可能な亜硫酸水素ナトリウムの添加量が1.0当量となる。なお、過マンガン酸イオン分解工程S400では、余剰水中の過マンガン酸イオンの残留量に対して、1.0当量以上1.5当量以下の量の亜硫酸水素ナトリウムが余剰水に添加されることが好ましい。
【0046】
pH調整工程S500は、過マンガン酸イオン分解工程S400後であって濃縮工程S600前に実施される。pH調整工程S500では、既に過マンガン酸イオンの一部が分解されている余剰水が貯留されたホールドアップタンク111にpH調整剤としてホウ酸が添加される。pH調整工程S500では、薬剤供給部145によってホウ酸が添加される。したがって、pH調整工程S500では、ホールドアップタンク111及び薬剤供給部145が、余剰水のpHを調整するpH調整部となる。pH調整工程S500では、薬剤供給部145には、ホウ酸が準備されている。薬剤供給部145は、薬注ライン141を介してホールドアップタンク111にホウ酸を供給する。薬剤供給部145は、ホールドアップタンク111にホウ酸を供給した後に、フラッシングされる。
【0047】
pH調整工程S500では、濃縮工程S600での濃縮時の余剰水のpHが3.0以上7.0以下となるまでホウ酸が添加される。この際、余剰水のpHは、5.0以上7.0以下に調整されることが好ましく、5.0以上6.0以下に調整されることがより好ましい。また、pH調整工程S500では、余剰水のpHを一定時間経過ごとに測定して確認しながら、ホウ酸が添加される。その際、廃液エバポレータ160内での余剰水のpHが3.0以上7.0以下となるようにpHが調整される。つまり、pH調整工程S500は、濃縮工程S600の直前に行われ、pH調整工程S500後には、別の工程が実施されずに濃縮工程S600が実施されることが好ましい。
【0048】
濃縮工程S600は、pH調整工程S500後に実施される。濃縮工程S600では、pH調整工程S500でpHが調整されたホールドアップタンク111内の余剰水が処理される。具体的には、ホールドアップタンク111内の余剰水は、ウェストホールドアップタンク150を介して廃液エバポレータ160に送られる。
【0049】
ウェストホールドアップタンク150は、途中にポンプ及び弁の設けられた移送ライン151を介してホールドアップタンク111に接続されている。廃液エバポレータ160は、途中にポンプの設けられた廃液ライン161を介してウェストホールドアップタンク150に接続されている。
【0050】
濃縮工程S600では、廃液エバポレータ160に送られた余剰水は、エバポレータによって加熱されることで蒸発させられて、数十倍~数百倍に濃縮される。したがって、濃縮工程S600では、廃液エバポレータ160が、余剰水を濃縮する濃縮部となる。余剰水が濃縮される過程で、余剰水中に残留する過マンガン酸イオンの分解生成物として二酸化マンガンが生じる。その結果、廃液エバポレータ160内では、余剰水が加熱されていることも影響し、下記のような反応が生じる。
MnO2+H2C2O4 → Mn(OH)2+H2O+2CO2
つまり、二酸化マンガンによってシュウ酸が分解される。したがって、余剰水中に残留するシュウ酸のほとんどが濃縮工程S600で分解される。これにより、余剰水は、残留物が濃縮された濃縮水と、残留物がほとんど含まれていない蒸留水とに分離される。
【0051】
廃棄工程S700では、濃縮工程S600で生じた濃縮水がアスファルト固化され、廃棄される。
【0052】
上記のような余剰水の処理方法S100及び余剰水の処理システム100によれば、pH調整工程S500によって、濃縮工程S600で濃縮される余剰水のpHが調整される。その結果、廃液エバポレータ160内での余剰水のpHは3.0以上7.0以下となっている。余剰水のpHが7.0以下とされていることで、廃液エバポレータ160内で二酸化マンガンによってシュウ酸が分解される際の反応速度を向上させることができる。その結果、余剰水中に残留するシュウ酸のほとんどを高い精度で除去することができる。特に、余剰水のpHが6.0以下とされていることで、余剰水が中性ではなく確実に弱酸性となり、シュウ酸を分解させる際の反応速度をより向上させることができる。
【0053】
さらに、余剰水のpHが3.0以上とされていることで、廃液ライン161や廃液エバポレータ160等の余剰水の処理システム100に使用されている設備の腐食量を抑えることができる。特に、余剰水のpHが5.0以上とされていることで、腐食量は大きく抑えられる。また、余剰水のpHが5.0以上とされていることで、余剰水は弱酸性となる。そのため、過マンガン酸イオン分解工程S400で添加された亜硫酸水素ナトリウムが濃縮工程S600においても余剰水中に残留していた場合であっても、亜硫酸ガスが発生してしまうことを抑えることができる。したがって、不具合を生じさせることなく、余剰水中に含まれるシュウ酸を高い精度で除去することができる。
【0054】
また、pH調整工程S500では、ホウ酸を添加することで余剰水のpHが調整されている。ホウ酸は弱酸であり、濃縮水がアスファルト固化される際にボロンが多く(例えば、20000ppm以上)含まれていても悪影響を及ぼすことはない。また、余剰水のpHを調整する際に用いられるpH調整剤として、水酸化ナトリウムや硫酸が使用されることがある。しかしながら、水酸化ナトリウムや硫酸では、少量を添加しただけでも余剰水のpHは大きく変化してしまう。そのため、pHの調整が難しい。さらに、水酸化ナトリウムや硫酸を添加することで余剰水のpHを調整した場合には、余剰水が濃縮されることで、pHが低下しやすくなる。一方で、ホウ酸を添加した場合には、ホウ酸自体が緩衝作用を持つために、余剰水が濃縮されてもpHが低下しにくくなる。その結果、濃縮工程S600で、予定していたpHのまま余剰水を濃縮できる。したがって、余剰水中に残留するシュウ酸を効率よく除去することができる。
【0055】
また、pH調整工程S500の前にシュウ酸分解工程S300が実施される。つまり、余剰水中に酸化剤として過マンガン酸カリウムが添加される。その結果、濃縮工程S600の前に余剰水中のシュウ酸を分解できる。したがって、余剰水中に含まれるシュウ酸の量が多い場合に、pH調整工程S500でpHが調整された後の余剰水に影響を及ぼさないタイミングで、余剰水中のシュウ酸の多くを除去できる。
【0056】
また、シュウ酸分解工程S300後であってpH調整工程S500前に過マンガン酸イオン分解工程S400が実施される。つまり、余剰水に亜硫酸水素ナトリウムが添加される。その結果、シュウ酸分解工程S300によって余剰水中に含まれる過マンガン酸イオンの量が多い場合に、事前に余剰水中の過マンガン酸イオンの量を低減できる。これにより、廃液エバポレータ160において、余剰水の濃縮でのMnO4
-による悪影響を抑えられる。
【0057】
また、余剰水に添加する亜硫酸水素ナトリウムの添加量を2.0当量以下とすることで、余剰水中に過剰な亜硫酸水素ナトリウムが添加されてしまうことを抑えることができる。過剰な亜硫酸水素ナトリウムが添加されてしまうと、余剰水の還元が進み、過マンガン酸イオンの多くが水酸化マンガンまで還元されてしまう可能性が高まる。その結果、濃縮工程S600において、シュウ酸を分解するために必要な二酸化マンガンを確保できない可能性がある。さらに、余剰水に添加する亜硫酸水素ナトリウムが多いことで、亜硫酸ガスが発生する可能性も高まってしまう。そのため、余剰水に添加する亜硫酸水素ナトリウムの添加量を2.0当量以下、好ましくは1.5当量以下とすることで、このような不具合を効果的に抑えることができる。
【0058】
また、余剰水に添加する亜硫酸水素ナトリウムの添加量を0.5当量以上とすることで、余剰水中の過マンガン酸イオンを適度に分解することができる。余剰水に亜硫酸水素ナトリウムを添加した場合、余剰水中の溶存酸素や、大気中の酸素と反応されてしまうことで、亜硫酸水素ナトリウムの一部が分解されてしまう。したがって、亜硫酸水素ナトリウムの添加量を0.5当量以下とすると、過マンガン酸イオンが想定以上に残留してしまう可能性がある。そのため、余剰水に添加する亜硫酸水素ナトリウムの添加量を0.5当量以上、好ましくは1.0当量以上とすることで、過マンガン酸イオンを適切に処理できる。
【0059】
したがって、余剰水に添加する亜硫酸水素ナトリウムの添加量を0.5当量以上2.0当量以下とすることで、濃縮工程S600でシュウ酸を分解するために適量の二酸化マンガンを確保することができる。特に、余剰水に添加する亜硫酸水素ナトリウムの添加量を1.0当量以上1.5当量以下とすることで、濃縮工程S600でシュウ酸を分解するために適量の二酸化マンガンを高い精度で確保することができる。
【0060】
(実施形態の他の変形例)
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0061】
なお、余剰水の処理方法S100において、還元工程S3で生じた余剰水と、除染工程S4で生じた余剰水とは、本実施形態のようにまとめて濃縮されて処理されることに限定されるものではない。つまり、還元工程S3で生じた余剰水と、除染工程S4で生じた余剰水とは、別々に濃縮されて廃棄されてもよい。
【0062】
また、余剰水が貯留されるタンクとして、ホールドアップタンク111を用いたが、タンクは一つに限定されるものではなく複数設けられていてもよい。
【0063】
また、各種薬剤を供給するためにホールドアップタンク111に対して薬剤供給部145を設け、供給する薬剤を変更する後にフラッシングして使用したがこのような構成に限定されるものではない。タンクに対して、供給する薬剤ごとに別の薬剤供給部145を設けてもよい。
【0064】
また、余剰水中のシュウ酸の残留量が少ない場合には、シュウ酸分解工程S300は実施されてなくてもよい。加えて、シュウ酸分解工程S300が実施されない場合のように、余剰水中の過マンガン酸イオンの量が少ない場合には、過マンガン酸イオン分解工程S400も実施されてなくてもよい。
【符号の説明】
【0065】
Z 除染対象物
P 原子力発電プラント
51 燃料棒
50 加圧水型原子炉
52 加圧器
53 蒸気発生器
54 一次冷却材ポンプ
56 蒸気タービン
57 発電機
58 復水器
59 給水ポンプ
55a 一次冷却水配管
55b 一次冷却水配管
55c 蒸気配管
55d 給水配管
S1 化学除染方法
S2 酸化工程
S3 還元工程
S4 除染工程
S5 分解工程
S6 浄化工程
S100 余剰水の処理方法
S200 余剰水取得工程
S300 シュウ酸分解工程
S400 過マンガン酸イオン分解工程
S500 pH調整工程
S600 濃縮工程
S700 廃棄工程
100 余剰水の処理システム
111 ホールドアップタンク
145 薬剤供給部
141 薬注ライン
150 ウェストホールドアップタンク
151 移送ライン
160 廃液エバポレータ
161 廃液ライン