(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】走行車線推薦方法、走行車線推薦装置、走行制御方法及び走行制御装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20221104BHJP
G01C 21/26 20060101ALI20221104BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20221104BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20221104BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G01C21/26 A
B60W30/10
B60W40/06
(21)【出願番号】P 2019062810
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】南里 卓也
(72)【発明者】
【氏名】方 芳
【審査官】上野 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-300903(JP,A)
【文献】特開2013-122739(JP,A)
【文献】特開2012-059046(JP,A)
【文献】国際公開第2017/017760(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/190212(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179209(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
23/00-25/00
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が走行する道路の複数の車線の中から前記自車両を走行させる走行車線を推薦する走行車線推薦装置の走行車線推薦方法であって、
前記自車両前方の複数の車線の路面上にある路面ペイントを検出し、検出された前記路面ペイントが最初にペイントされたときの領域に対して残っている割合を存在割合として算出し、
前記自車両が走行する自車線の路面ペイントの存在割合と、前記自車線に隣接する隣接車線の路面ペイントの存在割合とを比較して、前記存在割合が小さいほうの車線を前記走行車線として推薦する
ことを特徴とする走行車線推薦方法。
【請求項2】
前記自車線の路面ペイントの存在割合と前記隣接車線の路面ペイントの存在割合との差を算出し、算出された前記差が所定の閾値以上である場合に、前記存在割合が小さいほうの車線を前記走行車線として推薦することを特徴とする請求項1に記載の走行車線推薦方法。
【請求項3】
前記自車両の前方の所定距離以内に、前記自車両が前記自車線から右左折する交差点がない場合に、前記存在割合が小さいほうの車線を前記走行車線として推薦することを特徴とする請求項1または2に記載の走行車線推薦方法。
【請求項4】
前記路面ペイントは、横断歩道または停止線であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の走行車線推薦方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載された走行車線推薦方法によって推薦された前記走行車線に前記自車両の走行経路を設定することを特徴とする走行制御方法。
【請求項6】
前記自車両が障害物を回避するために前記走行経路に設定された車線から隣接車線に車線変更し、前記隣接車線の路面ペイントの存在割合が前記走行経路に設定された車線の路面ペイントの存在割合よりも小さい場合には、前記自車両が、前記走行経路に設定された車線に車線変更して戻るタイミングを遅らせることを特徴とする請求項5に記載の走行制御方法。
【請求項7】
自車両が走行する道路の複数の車線の中から前記自車両を走行させる走行車線を推薦する走行車線推薦装置であって、
前記自車両前方の複数の車線の路面上にある路面ペイントを検出し、検出された前記路面ペイントが最初にペイントされたときの領域に対して残っている割合を存在割合として算出し、
前記自車両が走行する自車線の路面ペイントの存在割合と、前記自車線に隣接する隣接車線の路面ペイントの存在割合とを比較して、前記存在割合が小さいほうの車線を前記走行車線として推薦する
ことを特徴とする走行車線推薦装置。
【請求項8】
請求項7に記載された走行車線推薦装置によって推薦された前記走行車線に前記自車両の走行経路を設定することを特徴とする走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が走行する道路の複数の車線の中から自車両を走行させる走行車線を推薦する走行車線推薦方法及びその装置に関する。また、走行車線推薦方法によって推薦された走行車線に自車両の走行経路を設定する走行制御方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、車両を円滑に走行させるための走行車線の推薦方法として、特許文献1が開示されている。特許文献1に開示された情報提供システムでは、地図データに基づいて取得された自車両前方の特徴情報と、先行車両との相対速度に基づいて、推奨レーンを選択していた。ここで、地図データに基づいて取得された特徴情報には、左折専用レーン等の車線情報と、渋滞やリンク所要時間等の統計・走行履歴データが含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の走行車線の推薦方法では、走行履歴データが十分に構築されていない道路環境や通信環境が悪い道路環境では、先行車両の相対速度だけで推奨レーンを選択しなければならなかった。そのため、どの車線が円滑に走行できるのか事前に判断できないので、例えば駐車車両を回避するために頻繁に車線変更が必要になるという問題点があった。
【0005】
そこで、本発明は上記実情に鑑みて提案されたものであり、走行履歴データが十分に構築されていない道路環境や通信環境が悪い道路環境であっても、自車両が円滑に走行できる走行車線を推薦する走行車線推薦方法及びその装置を提供することを目的とする。また、走行履歴データが十分に構築されていない道路環境や通信環境が悪い道路環境であっても、自車両が円滑に走行できる走行車線に走行経路を設定する走行制御方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る走行車線推薦方法及びその装置は、自車両前方の複数の車線の路面上にある路面ペイントを検出し、検出された路面ペイントが最初にペイントされたときの領域に対して残っている割合を存在割合として算出する。そして、自車両が走行する自車線の路面ペイントの存在割合と、自車線に隣接する隣接車線の路面ペイントの存在割合とを比較して、存在割合が小さいほうの車線を走行車線として推薦する。また、本発明の一態様に係る走行制御方法及びその装置は、本発明の一態様に係る走行車線推薦方法によって推薦された走行車線に自車両の走行経路を設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様に係る走行車線推薦方法及びその装置によれば、走行履歴データが十分に構築されていない道路環境や通信環境が悪い道路環境であっても、自車両が円滑に走行できる車線を走行車線として推薦することができる。また、本発明の一態様に係る走行制御方法及びその装置によれば、走行履歴データが十分に構築されていない道路環境や通信環境が悪い道路環境であっても、自車両が円滑に走行できる走行車線に走行経路を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る走行制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る走行制御装置の走行車線推薦部による走行車線の推薦方法を説明するための図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る走行制御装置による走行制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る走行制御装置の走行車線推薦部による走行車線推薦処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る走行車線推薦装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を適用した一実施形態について図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0010】
[走行制御装置の構成]
図1は、本実施形態に係る走行制御装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る走行制御装置は、物体検出装置1と、自車位置推定装置3と、地図記憶装置4と、マイクロコンピュータ100とを備える。本実施形態に係る走行制御装置は、車両に搭載されており、目的地までの走行経路を設定して、搭載された車両を目的地まで自動運転で走行させる走行制御を実行する。
【0011】
物体検出装置1は、自車両に搭載されたレーザレーダやミリ波レーダ、カメラなど、自車両の周囲に存在する物体を検出するための複数の異なる種類の物体検出センサを備える。物体検出装置1は、複数の物体検出センサを用いて、自車両の周囲における物体を検出する。物体検出装置1は、他車両、バイク、自転車、歩行者を含む移動物体、及び駐車車両を含む静止物体を検出する。例えば、移動物体及び静止物体の自車両に対する位置、姿勢、大きさ、速度、加速度、減速度、ヨーレート等を検出する。物体検出装置1は、検出結果として、例えば自車両の上方の空中から眺めた天頂図において、物体の2次元の位置、姿勢、大きさ、速度などを出力する。
【0012】
自車位置推定装置3は、自車両に搭載されたGPS(グローバル・ポジショニング・システム)やオドメトリなど自車両の絶対位置を計測する位置検出センサを備える。自車位置推定装置3は、位置検出センサを用いて、自車両の絶対位置、すなわち、所定の基準点に対する自車両の位置、姿勢及び速度を計測する。
【0013】
地図記憶装置4は、自車両が走行する道路の構造を示す地図情報を記憶している。地図記憶装置4は、地図情報を格納した地図データベースでもよいし、クラウドコンピューティングにより地図情報を外部の地図データサーバから取得してもよい。地図記憶装置4が記憶している地図情報には、車線の絶対位置や車線の接続関係、相対位置関係などの情報が含まれる。
【0014】
マイクロコンピュータ100は、物体検出装置1及び自車位置推定装置3による検出結果及び地図記憶装置4の地図情報に基づいて、自車両の目的地までの走行経路を設定し、設定された走行経路に沿って自車両を自動運転で走行させる走行制御を実行する。特に、マイクロコンピュータ100は、自車両が走行する道路の複数の車線の中から自車両を走行させる走行車線を推薦し、推薦された走行車線に走行経路を設定する。
【0015】
マイクロコンピュータ100(制御部またはコントローラの一例)は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備える汎用のマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータ100には、走行制御装置として機能させるためのコンピュータプログラム(走行制御プログラム)がインストールされている。コンピュータプログラムを実行することにより、マイクロコンピュータ100は、走行制御装置が備える複数の情報処理回路(2、5、10、21、22)として機能する。ただし、専用のハードウェアを用意して、マイクロコンピュータ100を構成することも可能である。また、マイクロコンピュータ100は、車両に関する他の制御に用いる電子制御ユニット(ECU)と兼用してもよい。
【0016】
マイクロコンピュータ100は、物体検出統合・追跡部2と、地図内自車位置推定部5と、走行車線推薦部10と、自車経路生成部21と、走行制御部22とを備える。さらに、走行車線推薦部10は、道路形状判定部11と、路面ペイント特定部12と、存在割合算出部13と、推薦部14とを備える。
【0017】
物体検出統合・追跡部2は、物体検出装置1の複数の物体検出センサから得られた複数の物体位置、姿勢、大きさ、速度等の検出結果を基に、各センサの誤差特性も考慮した上で最も物体位置の誤差が少なくなるような最も合理的な位置を算出する。そして、各物体に対して一つの2次元位置、姿勢、大きさ、速度などを出力する。さらに、異なる時刻に出力された物体位置、姿勢、大きさ、速度などに対して、異なる時刻間における物体の同一性検証(対応付け)を行い、かつ、その対応付けを基に、物体の速度情報を推定する。
【0018】
地図内自車位置推定部5は、自車位置推定装置3により得られた自車両の絶対位置、及び地図記憶装置4に記憶されている地図データから、地図上における自車両の位置及び姿勢を推定する。例えば、自車両が走行している道路、さらに当該道路の中で自車両が走行する車線を特定する。
【0019】
走行車線推薦部10は、物体検出統合・追跡部2により得られた検出結果と、地図内自車位置推定部5により特定された自車両の位置に基づいて、自車両が走行する道路の複数の車線の中から自車両を走行させる走行車線を推薦する。
【0020】
ここで、
図2を参照して、本実施形態に係る走行車線の推薦方法を説明する。
図2に示すように、走行車線推薦部10は、自車両50の前方の複数の車線の路面上にある停止線52や横断歩道54などの路面ペイントを車載センサで検出する。そして、自車両50が現在走行する自車線の路面ペイントの濃さと、自車線に隣接する隣接車線の路面ペイントの濃さを比較して、路面ペイントが薄くなっているほうの車線を走行車線として推薦する。
【0021】
例えば、
図2では、自車線の停止線52と横断歩道54のペイントは残っているが、隣接車線の停止線52と横断歩道54のペイントは消えてなくなっている部分があるので、隣接車線の交通量の方が多いと推定することができる。これは、何等かの要因によって自車線に障害があり、隣接車線のほうが円滑に走行できる結果であると推定することができる。そこで、周囲に車線変更を阻害するような車両が存在していない場合には、自車両を隣接車線へ車線変更させるように、走行車線推薦部10は隣接車線を推薦する。その結果、
図2に示すように、路面ペイントが薄くなっていた隣接車線では、車両がスムーズに通過することができる。これに対して、路面ペイントが濃いほうの自車線には、前方に駐車車両56が存在しており、車線変更せずに自車線を走行していた場合には通過時間が余計にかかっていたことになる。
【0022】
このように、隣接する車線間で路面ペイントの濃さに差が生じる理由は、一方の車線に駐車車両等の障害物が慢性的に存在しており、この道路を走行している車両が経験的に駐車車両の存在している車線を避けて走行しているためである。また、直進レーンが右折や左折の専用レーンに変化するような車線でも路面ペイントが濃くなる場合が多く発生している。
【0023】
そこで、本実施形態に係る走行車線の推薦方法では、路面ペイントの濃さを判定するために、路面ペイントが最初にペイントされたときの領域に対して残っている割合を存在割合として算出する。そして、自車両が走行する自車線の路面ペイントの存在割合と、自車線に隣接する隣接車線の路面ペイントの存在割合とを比較して、存在割合が小さいほうの車線を走行車線として推薦している。これにより、本実施形態に係る走行車線の推薦方法では、自車両が、障害物の存在している車線を避けて走行できるようにしている。以下に、走行車線推薦部10の具体的な構成を説明する。
【0024】
道路形状判定部11は、地図記憶装置4に記憶されている地図情報に基づいて、自車両が走行する道路の形状を判定する。そして、自車両が車線変更するための車線候補が存在するか否かを判定するために、自車両の前方の道路が二車線以上であるか否かを判定する。ここで、道路形状判定部11は、二車線以上でない場合、すなわち片側一車線である場合には、走行車線の推薦処理を行わずに終了する。
【0025】
一方、自車両の前方の道路が二車線以上である場合には、道路形状判定部11は、設定されている自車両の走行経路に基づいて、自車両の前方の所定距離以内に、自車両が自車線から右左折する交差点が存在するか否かを判定する。そして、所定距離以内に自車両が自車線から右左折する交差点が存在する場合には、道路形状判定部11は走行車線の推薦処理を行わずに終了する。
【0026】
例えば、自車両が交差点を左折するために左側の車線を走行している場合に、左折する交差点が近づいているにも関わらず、右側の車線が推薦されて右側に車線変更してしまうと、すぐに左側の車線に戻らなければならない。その結果、自車両は、車線変更を繰り返して円滑な走行ができなくなってしまう。そこで、自車両の前方の所定距離以内に、自車両が自車線から右左折する交差点が存在する場合には、走行車線を推薦しないようにしている。尚、所定距離は、車線変更が行われても運転者が煩わしさを感じない距離に設定されていればよく、実験やシミュレーションによって決定すればよい。
【0027】
路面ペイント特定部12は、自車両前方の複数の車線の路面上にある路面ペイントを検出して路面ペイントが存在する存在領域を特定する。具体的に、路面ペイント特定部12は、地図上における自車両の位置を基に、車線内にある路面ペイントとして、停止線や横断歩道、その他の道路標示が存在することを検出する。また、周囲を撮像するカメラや周囲の物体を検出するLiDAR(Light Detection And Ranging)を車載している場合には、カメラやLiDARによって路面ペイントを検出してもよい。さらに、地図情報を使わずに、信号機や一時停止の標識などの物標を基に、一時停止の路面ペイントが存在するはずの位置を直接特定して検出してもよい。尚、ここで検出される路面ペイントは、道路を横断する方向に車幅以上の長さを有する路面ペイントであることが好ましい。例えば、停止線や横断歩道である。
【0028】
そして、路面ペイント特定部12は、検出した路面ペイントを車載センサでセンシングして路面ペイントが存在する存在領域を特定する。例えば、カメラを車載している場合には、カメラの画像上で画像処理によって路面ペイントの位置・大きさ・形状を検出することで存在領域を特定する。また、LiDARを車載している場合には、LiDARのポイントクラウド上で、反射強度を指標として路面ペイントの位置・大きさ・形状を検出することで存在領域を特定する。尚、ここで特定する存在領域は、路面上に実際に路面ペイントが残っている領域であり、多くの車両が走行した結果、路面ペイントが剥がれて残っていない領域は含まれていない。
【0029】
さらに、路面ペイント特定部12は、検出された路面ペイントが最初にペイントされたときのペイント領域を推定する。具体的に、路面ペイント特定部12は、地図上における自車両の位置を基に、車線内にある路面ペイントが最初にペイントされたときの位置・大きさ・形状を推定する。また、カメラを車載している場合には、カメラの画像上で検出された路面ペイントの位置・大きさ・形状に基づいて、路面ペイントが最初にペイントされたときのペイント領域を推定する。さらに、LiDARを車載している場合には、LiDARのポイントクラウド上で検出された路面ペイントの位置・大きさ・形状に基づいて、路面ペイントが最初にペイントされたときのペイント領域を推定する。
【0030】
例えば、路面ペイント特定部12は、停止線や横断歩道等の道路標示の形状をした枠を用意しておき、その枠をカメラの画像上やLiDARのポイントクラウド上の路面ペイントの位置に重畳することで、剥がれた部分を補ってペイント領域を推定する。尚、ここで推定するペイント領域は、路面上に実際に路面ペイントが残っている領域に加えて、路面ペイントが剥がれて残っていない領域も含んでいる。
【0031】
存在割合算出部13は、推定されたペイント領域に対して存在領域が残っている割合を存在割合として算出する。存在割合は、以下の式(1)で算出することができる。
存在割合=存在領域の面積/ペイント領域の面積 ・・・(1)
式(1)に示すように、存在割合は、路面ペイントがどの程度剥がれずに残っているかを示す指標である。また、存在割合の代わりに、路面ペイントがどの程度剥がれているかを示す指標として剥離率を使用することもできる。
【0032】
推薦部14は、自車両が走行する自車線の路面ペイントの存在割合と、自車線に隣接する隣接車線の路面ペイントの存在割合とを比較して、存在割合が小さいほうの車線を走行車線として推薦する。すなわち、自車線の路面ペイントの濃さと隣接車線の路面ペイントの濃さを比較して、路面ペイントが薄くなっているほうの車線を走行車線として推薦する。
【0033】
このとき、推薦部14は、自車線の路面ペイントの存在割合と隣接車線の路面ペイントの存在割合との差を算出し、この差が所定の閾値以上である場合に、存在割合が小さいほうの車線を走行車線として推薦する。これにより、自車線の路面ペイントの濃さと隣接車線の路面ペイントの濃さに、大きな違いがある場合のみ走行車線を推薦し、違いが大きくない場合には推薦しないようにしている。したがって、車線変更をしたほうがよい場合のみ走行車線を推薦するので、頻繁に車線変更が行われることを防止し、自車両を円滑に走行させることができる。尚、所定の閾値は、隣接する車線間において、車線変更が必要になる程度の値に設定されていればよく、実験やシミュレーションによって決定すればよい。
【0034】
さらに、推薦部14は、自車線と隣接車線との間の区画線(白線)が薄くなっている地点がある場合には、車線変更する車両が多い地点であると推測して、その地点で車線変更するように推薦しても良い。また、自車線の路面ペイントが薄い場所と隣接車線の路面ペイントが薄い場所が切り替わっている地点がある場合には、その地点で車線変更するように推薦しても良い。
【0035】
自車経路生成部21は、走行車線推薦部10によって推薦された走行車線に自車両の走行経路を設定して、自車両の走行経路を生成する。このとき、自車経路生成部21は、推薦された走行車線を基に、自車両が走行する車線に沿うように交通規則を順守しながら自車両の走行経路を生成する。さらに、自車経路生成部21は、周囲の車両の位置や速度から予測される軌道を基に、他車と衝突しない軌道で、尚且つ、他車の挙動により自車両が急減速、急ハンドルとならないような滑らかな軌道となるように自車両の走行経路と速度プロファイルを生成する。
【0036】
また、自車経路生成部21は、自車両が障害物を回避するために走行経路に設定された車線から隣接車線に車線変更した場合には、隣接車線の路面ペイントの存在割合と走行経路に設定された車線の路面ペイントの存在割合を比較する。そして、隣接車線の路面ペイントの存在割合のほうが小さい場合には、自車両が、走行経路に設定された車線に車線変更して戻るタイミングを遅らせる。例えば、自車両が、走行経路に設定された車線を走行しているときに、駐車車両や工事現場等の障害物により隣接車線に車線変更した場合には、隣接車線の存在割合が小さければ、走行経路に設定されているという理由で、すぐには元の車線に戻らないようにする。これにより、走行経路に設定された車線にすぐに戻った結果、再び駐車車両が存在して、繰り返し車線変更することを防止できる。尚、この場合には、走行経路に設定された車線に戻る必要があるタイミング、例えば走行経路で右左折すると設定された交差点の近くまで、元の車線に戻るタイミングを遅らせればよい。
【0037】
走行制御部22は、自車経路生成部21により生成された走行経路に従って自車両が走行するように、地図内自車位置推定部5により演算された自己位置に基づいて、アクチュエータを駆動して自車両の走行を制御する。駆動するアクチュエータとしては、ステアリングアクチュエータ、アクセルペダルアクチュエータ、及びブレーキペダルアクチュエータのうちの少なくとも1つである。
【0038】
[走行制御処理]
図3を参照して、本実施形態に係る走行制御方法を説明する。
図3は、本実施形態に係る走行制御装置による走行制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
図3に示すように、ステップS01において、物体検出装置1が、複数の物体検出センサを用いて、自車両の周囲における物体の挙動を検出する。ステップS02に進み、物体検出統合・追跡部2が、複数の物体検出センサの各々から得られた複数の検出結果を統合して、各物体に対して一つの検出結果を出力し、検出及び統合された各物体を追跡する。
【0039】
ステップS03に進み、自車位置推定装置3が、位置検出センサを用いて、所定の基準点に対する自車両の位置、姿勢及び速度を計測する。ステップS04に進み、地図記憶装置4が、自車両が走行する道路の構造を示す地図情報を取得する。
【0040】
ステップS05に進み、地図内自車位置推定部5が、ステップS03で計測された自車両の位置、及びステップS04で取得された地図データから、地図上における自車両の位置及び姿勢を推定する。ステップS06に進み、走行車線推薦部10が、ステップS02で得られた検出結果(他車両の挙動)と、ステップS05で特定された地図上における自車両の位置に基づいて、自車両が走行する道路の複数の車線の中から自車両を走行させる走行車線を推薦する。
【0041】
ステップS06の詳細を、
図4を参照して説明する。
図4は、走行車線推薦部10による走行車線推薦処理の処理手順を示すフローチャートである。
図4に示すように、ステップS11において、道路形状判定部11は、ステップS04で取得した地図情報に基づいて、自車両が走行する道路の形状を判定する。
【0042】
ステップS12において、道路形状判定部11は、ステップS11で判定した道路形状に基づいて、自車両の前方の道路が二車線以上であるか否かを判定する。そして、自車両の前方の道路が二車線以上でない場合、すなわち片側一車線である場合には走行車線の推薦処理を終了し、自車両の前方の道路が二車線以上である場合にはステップS13に進む。
【0043】
ステップS13において、道路形状判定部11は、自車両の前方の所定距離以内に、自車両が自車線から右左折する交差点が存在するか否かを判定する。そして、所定距離以内に右左折する交差点が存在する場合には走行車線の推薦処理を終了し、所定距離以内に右左折する交差点が存在しない場合にはステップS14に進む。
【0044】
ステップS14において、路面ペイント特定部12は、自車両前方の複数の車線の路面上にある路面ペイントを検出し、検出した路面ペイントを車載センサでセンシングして路面ペイントが存在する存在領域を特定する。
【0045】
また、路面ペイント特定部12は、検出された路面ペイントが最初にペイントされたときのペイント領域を推定する。例えば、停止線や横断歩道等の道路標示の形状をした枠を用意しておき、その枠をカメラの画像上やLiDARのポイントクラウド上の路面ペイントの位置に重畳することによって、ペイントが剥がれてしまった部分を補ってペイント領域を推定する。
【0046】
ステップS15において、存在割合算出部13は、推定されたペイント領域に対して存在領域が残っている割合を存在割合として算出する。存在割合は、以下の式(1)で算出することができる。
存在割合=存在領域の面積/ペイント領域の面積 ・・・(1)
【0047】
ステップS16において、推薦部14は、自車線の路面ペイントの存在割合と隣接車線の路面ペイントの存在割合との差を算出し、この差が所定の閾値以上であるか否かを判定する。そして、自車線の路面ペイントの存在割合と隣接車線の路面ペイントの存在割合との差が、所定の閾値以上である場合にはステップS17に進み、所定の閾値以上でない場合には走行車線の推薦処理を終了する。
【0048】
ステップS17において、推薦部14は、自車線の路面ペイントの存在割合と、隣接車線の路面ペイントの存在割合とを比較して、存在割合が小さいほうの車線を走行車線として推薦する。すなわち、自車線の路面ペイントの濃さと隣接車線の路面ペイントの濃さを比較して、路面ペイントが薄くなっているほうの車線を走行車線として推薦する。こうして、走行車線が推薦されると、
図4に示す走行車線の推薦処理を終了し、
図3の走行制御処理に戻ってステップS07に進む。
【0049】
図3のステップS07において、自車経路生成部21は、ステップS06で推薦された走行車線に自車両の走行経路を設定して、自車両の走行経路を生成する。ステップS08に進み、走行制御部22は、ステップS07で生成された走行経路に従って自車両が走行するように、自車両の走行制御を実行する。こうして自車両の走行制御が実行されると、本実施形態に係る走行制御装置による走行制御処理は終了する。
【0050】
尚、上述した実施形態では、走行制御装置の一部として、走行車線の推薦処理を行うことを説明したが、
図5に示す走行車線推薦装置によって走行車線の推薦処理を行ってもよい。
図5は、走行車線推薦装置の構成を示すブロック図である。
図5に示すように、走行車線推薦装置は、
図1の自車経路生成部21と走行制御部22を備えていないことが、
図1の走行制御装置と異なっている。したがって、その他の構成や処理は上述した実施形態と同様なので、詳細な説明は省略する。
図5に示す走行車線推薦装置は、車両に搭載されたナビゲーション装置に適用することができ、運転者に対して推薦する走行車線を提示する処理を実行する。
【0051】
[実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る走行車線推薦方法及びその装置では、自車両前方の複数の車線の路面上にある路面ペイントを検出し、検出された路面ペイントが最初にペイントされたときの領域に対して残っている割合を存在割合として算出する。そして、自車両が走行する自車線の路面ペイントの存在割合と、自車線に隣接する隣接車線の路面ペイントの存在割合とを比較して、存在割合が小さいほうの車線を走行車線として推薦する。これにより、自車両が走行する車線について、慢性的に駐車車両が存在する場合や工事現場がある場合、右左折専用レーンになる場合を事前に推測することができる。したがって、走行履歴データが十分に構築されていない道路環境や通信環境が悪い道路環境であっても、自律して自車両の走行車線を推薦することができ、その結果、自車両をより円滑に走行させることができる。
【0052】
また、本実施形態に係る走行車線推薦方法及びその装置では、自車線の路面ペイントの存在割合と隣接車線の路面ペイントの存在割合との差を算出し、この差が所定の閾値以上である場合に、存在割合が小さいほうの車線を走行車線として推薦する。これにより、自車線の路面ペイントの濃さと隣接車線の路面ペイントの濃さに、大きな違いがある場合のみ走行車線を推薦するので、車線変更が本当に必要となる場合のみ走行車線を推薦することができる。したがって、頻繁に車線変更が行われることを防止できるので、自車両を円滑に走行させることができる。
【0053】
さらに、本実施形態に係る走行車線推薦方法及びその装置では、自車両の前方の所定距離以内に、自車両が自車線から右左折する交差点がない場合に、存在割合が小さいほうの車線を走行車線として推薦する。これにより、推薦された車線に車線変更した直後に元の車線に戻るような不自然な挙動を防止することができるので、自車両を円滑に走行させることができる。
【0054】
また、本実施形態に係る走行車線推薦方法及びその装置では、横断歩道または停止線を路面ペイントとして検出する。これにより、道路を横断する方向に車幅以上の長さを有する道路標示を路面ペイントとして検出できるので、隣接する車線の交通量の違いによる路面ペイントの濃さの違いを確実に把握することができる。
【0055】
さらに、本実施形態に係る走行制御方法及びその装置では、本実施形態に係る走行車線推薦方法によって推薦された走行車線に自車両の走行経路を設定する。これにより、自車両が走行する車線について、慢性的に駐車車両が存在する場合や工事現場がある場合、右左折専用レーンになる場合を事前に推測して走行経路を設定することができる。したがって、走行履歴データが十分に構築されていない道路環境や通信環境が悪い道路環境であっても、自車両をより円滑に走行させることができる。
【0056】
また、本実施形態に係る走行制御方法及びその装置では、自車両が障害物を回避するために走行経路の車線から隣接車線に車線変更し、隣接車線の存在割合が走行経路の車線の存在割合よりも小さい場合には、自車両が走行経路の車線に戻るタイミングを遅らせる。これにより、走行経路に設定された車線にすぐに戻った結果、再び駐車車両が存在して、繰り返し車線変更することを防止できるので、自車両を円滑に走行させることができる。
【0057】
以上、実施形態に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【符号の説明】
【0058】
1 物体検出装置
2 物体検出統合・追跡部
3 自車位置推定装置
4 地図記憶装置
5 地図内自車位置推定部
10 走行車線推薦部
11 道路形状判定部
12 路面ペイント特定部
13 存在割合算出部
14 推薦部
21 自車経路生成部
22 走行制御部
50 自車両
52 停止線
54 横断歩道
56 駐車車両
100 マイクロコンピュータ