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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】タイルの接着方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 21/18 20060101AFI20221104BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
E04F21/18 H
E04F13/08 101V
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019115279
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2021001471
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(73)【特許権者】
【識別番号】598164511
【氏名又は名称】不二窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】清水 美木夫
(72)【発明者】
【氏名】岡路 明良
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 安雄
(72)【発明者】
【氏名】宮野 覚也
(72)【発明者】
【氏名】吾郷 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】本橋 正彦
(72)【発明者】
【氏名】南谷 英彰
(72)【発明者】
【氏名】西丸 匡
【審査官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-101254(JP,A)
【文献】特開昭56-153054(JP,A)
【文献】特開平7-324476(JP,A)
【文献】特開2015-200070(JP,A)
【文献】登録実用新案第3162274(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 21/18
E04F 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイルを振動させつつ接着剤に押付ける振動工具を用いたタイルの接着方法であって、
タイルの被着面に、複数列の接着剤を平行に設ける工程(a)と、
振動工具によりタイルを接着剤に押付けながら振動工具を移動させる作業を、所定の繰返方向に繰り返す工程(b)と、
を有し、
前記工程(b)では、少なくとも接着剤の延伸方向の端部において、振動工具を、接着剤の延伸方向に対し前記繰返方向の後方に傾斜した方向へと、タイルの外側に向かって移動させることを特徴とするタイルの接着方法。
【請求項2】
前記工程(b)では、
接着剤の延伸方向の端部より内側の部分において、振動工具を接着剤の延伸方向に移動させた後、
接着剤の延伸方向の端部において、振動工具を、接着剤の延伸方向に対し前記繰返方向の後方に傾斜した方向へと、タイルの外側に向かって移動させることを特徴とする請求項1記載のタイルの接着方法。
【請求項3】
前記工程(b)の前に、接着剤の延伸方向の端部とそれより内側の部分との境界部にマーキングを形成することを特徴とする請求項2記載のタイルの接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイルの接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性接着剤を用いたタイルの接着方法としては、図6(a)に示すように、壁面等の被着面30に接着剤50を塗布した後、図6(b)に示すように櫛目ごて100を用いて接着剤50の櫛引きを行い、櫛目状の接着剤50の上に図6(c)に示すようにタイル70を配置し、図6(d)に示すようにタイル70を接着剤50に押付けて接着させる方法が知られている。
【0003】
接着剤50の櫛引きを行うのは、接着剤50をタイル70の全面に偏り無く均等に接着させ、タイル70の接着不良を防ぐためである。すなわち、図6(a)に示すような接着剤50の平らな表面にタイル70を均一に貼付けようとすると、タイル70の裏側から空気が抜けずに大きな気泡が残り、接着不良を引き起こす。これに対し、図6(b)に示すように櫛目ごて100を用いて接着剤50の表面に櫛引きを行うことで、複数列の接着剤50が平行に延伸するように形成され、各列の接着剤50の間の谷部が空気抜きの経路となり、大きな気泡による接着不良を防ぐことができる。
【0004】
このように、接着剤50はタイル70の全面に偏り無く均等に接着していることが重要であり、そのためビブラート加振機などの振動工具によってタイル70を振動させつつ接着剤50に押付けるといったことも行われる。特許文献1にはこのような振動工具の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭62-029666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、各辺が60cm以上のサイズを有する大判のタイル70も建築工事によく用いられるようになっている。大判のタイル70では、図6(c)に示すようにタイル70の配置を行った後、振動工具によりタイル70を接着剤50に押付けながら振動工具を移動させ、タイル70を万遍なく接着剤50に接着させて接着率を確保することが重要である。なお、ここでいう接着率とは、タイル裏面の面積に占める接着剤50の付着面積の割合をいう。タイル裏面は、タイル70の被着面30側の面である。
【0007】
より高い接着率の確保のためには、振動工具の移動時に図6(b)に示す各列の接着剤50の間の空気をうまく外に逃がす必要があるが、そのようなタイル70の接着方法について従来具体的に確立されたものがなかった。接着剤50の間の空気が外に逃げずにタイル裏面の接着剤50の各列の間にとどまると、タイル70の接着率が低くなり施工不良の原因となる。
【0008】
特に大判のタイル70の場合、施工現場で一旦接着したタイル70を剥がして接着状況を確認したり、接着したタイル70の一部を切欠いて引張強度試験を実施することは、機能上・意匠上とも不具合を生じ現実的でないので、充分な接着率を予見できる信頼性の高い具体的な接着方法の確立が望まれている。
【0009】
本発明は前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、接着率の向上により施工品質を高めることができるタイルの接着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するための本発明は、タイルを振動させつつ接着剤に押付ける振動工具を用いたタイルの接着方法であって、タイルの被着面に、複数列の接着剤を平行に設ける工程(a)と、振動工具によりタイルを接着剤に押付けながら振動工具を移動させる作業を、所定の繰返方向に繰り返す工程(b)と、を有し、前記工程(b)では、少なくとも接着剤の延伸方向の端部において、振動工具を、接着剤の延伸方向に対し前記繰返方向の後方に傾斜した方向へと、タイルの外側に向かって移動させることを特徴とするタイルの接着方法である。
【0011】
本発明では、上記のように振動工具を移動させつつタイルの押付けを行うことにより、各列の接着剤の間の空気をうまく外に逃がすことができる。すなわち、本発明者は、タイルを模した原寸大の透明なアクリル板を振動工具によって接着剤に押付けながら振動工具を移動させる実験を行った結果、各列の接着剤の間の空気を外に逃がすため単に接着剤の延伸方向に沿って振動工具を移動させるだけでは、後述するように接着剤の延伸方向の端部において接着剤の潰れが広い範囲に生じ、これが上記移動を繰り返す際に各列の接着剤の間の空気を外に逃がす妨げとなり、タイル裏面の接着剤の各列の間にとどまる空気量が増加する問題があることがわかった。そこで本発明者は、係る問題を避けることのできる接着方法について上記アクリル板を用いて検討を行った結果、少なくとも接着剤の延伸方向の端部において、振動工具を接着剤の延伸方向に対し傾斜した方向へと移動させて上記繰返方向の後方に退避させることが有効であるという知見を得た。これによりタイル裏面の接着剤の各列の間にとどまる空気量を低減し、接着率を向上させることで施工品質を高めることができる。
【0012】
前記工程(b)では、接着剤の延伸方向の端部より内側の部分において、振動工具を接着剤の延伸方向に移動させた後、接着剤の延伸方向の端部において、振動工具を、接着剤の延伸方向に対し前記繰返方向の後方に傾斜した方向へと、タイルの外側に向かって移動させることが望ましい。
前記のような広い範囲の接着剤の潰れが生じるのは主に接着剤の延伸方向の端部であるため、それより内側の部分では接着剤の延伸方向に沿って振動工具を移動させることで、各列の接着剤の間の空気をタイルの外側に押し出すことが可能である。
【0013】
前記工程(b)の前に、接着剤の延伸方向の端部とそれより内側の部分との境界部にマーキングを形成することも望ましい。
これにより、当該マーキングを振動工具の移動開始位置や移動終了位置の目安とでき、作業性の向上に寄与する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、接着率の向上により施工品質を高めることができるタイルの接着方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】タイル7の接着方法を示す図。
図2】振動工具9とその移動により生ずる状況を示す図。
図3】タイル7の押圧力に抵抗する接着剤5の範囲を示す図。
図4】本発明の実施形態に係るタイル7の接着方法における振動工具9の移動について示す図。
図5】振動工具9の移動手順の具体例を示す図。
図6】タイル70の接着方法の概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明の実施形態に係るタイルの接着方法では、まず図1(a)に示すようにタイルの被着面3に接着剤5を塗布する。図1(a)の左図は被着面3の正面を見た図であり、右図は左図の線A-Aによる被着面3の断面を示す図である。
【0018】
被着面3は例えば建築物の壁面等であり、コンクリート、モルタル、各種ボード等で形成されるが、特に限定されない。被着面3が壁面の場合、タイル施工においてタイル剥落の危険性を排除すべき点で、接着率の確保が特に重要となる。
【0019】
接着剤5は、櫛目ごてを用いて櫛目状に被着面3に塗付けられ、これにより複数列の接着剤5が平行に設けられる。各列の接着剤5は水平方向に延伸し、各列の接着剤5の間には谷部6が形成される。なお、接着剤5の塗付け厚にばらつきがあるとタイル裏面に接着剤5が一様に接しなくなってしまうため、塗付け厚を均一に整えることが必要である。そのためには、櫛目ごてを被着面3に対して一定の角度(例えば45°)を保ったまま塗付けを行う必要があり、直角二等辺三角形定規を一体とした櫛目ごて(不図示)を使い、塗付け中の目視管理を容易にする等の工夫が有効である。また、櫛目ごてによる塗付け方向すなわち各列の接着剤5の延伸方向は水平に限られることはなく、タイルの寸法や形状に応じて任意に設定できる。接着剤5は例えば変性シリコーン樹脂等の樹脂による弾性接着剤であるが、接着剤5がこれに限定されることもない。
【0020】
その後、本実施形態では、図1(b)に示すように接着剤5の上にタイル7を配置し、タイル7を手で押さえ接着剤5に軽く接着させて位置決めを行った後、ビブラート加振機などの振動工具によりタイル7を振動させつつ接着剤5に押付ける。図1(b)はタイル7を接着剤5の上に配置した状態を図1(a)と同様に示す図であり、左図では説明のためタイル裏面の接着剤5の外縁も点線により図示している。
【0021】
タイル7は四隅の角度が90°である四角形状の大判タイルである。タイル7の各辺の長さは例えば60cm以上とするが、タイル7の形状やサイズがこれに限定されることはない。
【0022】
図2(a)はタイル7の接着に用いる振動工具9を示す図である。振動工具9は、先端の加振部91が前後方向に一定のストロークで細かく進退することによってタイル7を振動させつつ接着剤5に押付ける。
【0023】
例えば図2(b)の位置aに加振部91を当ててタイル7を接着剤5に押付けると、位置aの近傍の接着剤5が図に示すように潰れてタイル7の裏面に密着する。
【0024】
この時、接着剤5の間の谷部6が埋まる方向に接着剤5が潰れるので、谷部6の空気をタイル7の外側に逃がすためには、加振部91によりタイル7を接着剤5に押付けながら、図中A1に示すように振動工具9を接着剤5の延伸方向に沿って当該延伸方向の端部まで移動させるなどして、谷部6の空気をタイル7の外側に押し出すことになる。タイル7は一般的に下から上へと順に接着させてゆくので、上記A1のような振動工具9の移動を下から上へと順にA2、A3、…と繰り返す。
【0025】
このような振動工具9の移動を繰り返す方向を、以下「繰返方向」と呼ぶことがあり、本実施形態では下から上へと向かう方向である。また振動工具9の移動を繰り返す際に先に振動工具9の移動を行う方を「繰返方向の後方」と呼ぶことがあり、本実施形態では下方である。なお、タイル7を下から上へと順に接着させてゆくのは、接着剤5が硬化するまでのわずかな期間、一時的に、当該タイル7の荷重を、目地幅を確保するためのスペーサを介して下段のタイル(不図示)に預けるためであり、こうすることで、当該タイル7は、下段のタイルの仕上げ面の出入りに合わせ、段差がつかないように下から上へと接着していく。ただし、このような手順と異なる接着方法も当然にあり得る。
【0026】
ところで、本発明者は大判タイルの接着方法について鋭意検討しており、タイル7を模した原寸大の透明なアクリル板を振動工具9を用いて接着剤5に接着させる実験を行った結果、A1のように振動工具9を接着剤5の延伸方向に移動させる場合、図2(c)に示すように、振動工具9が接着剤5の延伸方向の端部の位置aにある時に上下に広い範囲の接着剤5が潰れ、次に振動工具9をA2のように移動させる時に潰れるべき接着剤5が延伸方向の端部において先行して潰れ、当該移動時に埋められるべき谷部6が先行して埋められてしまう(図中b参照)ことが分かった。
【0027】
結果、振動工具9を図2(d)のA2に示すように移動させたときに、接着剤5の間の谷部6の空気がうまく外に逃げずにタイル7の裏面の接着剤5の各列の間にとどまり、タイル7の接着率が低下する問題が生じる。
【0028】
ここで、図2(c)のように接着剤5の延伸方向の端部で上下に広い範囲の接着剤5が潰れるのは、振動工具9によるタイル7の押圧力に振動工具9の近傍の一定面積の接着剤5が抵抗するためである。
【0029】
すなわち、図3(a)に示すように振動工具9の位置aが接着剤5の延伸方向の端部より内側の部分にあるときには、当該位置aを中心とする円形の範囲cに存在する接着剤5が押圧力に抵抗して潰れるが、図3(b)に示すように振動工具9の位置aが接着剤5の延伸方向の端部にあるときには、当該位置aを中心とする円形の範囲cの一部が、接着剤5の延伸方向の端部より外側の、接着剤5が存在しない領域となる。
【0030】
図3(b)の範囲c内の接着剤5の面積は、上記領域内に延伸させた仮想的な接着剤dの面積分だけ、図3(a)の範囲c内の接着剤5の面積よりも減少する。そのため、図3(b)の範囲c内の接着剤5に作用する単位面積当たりの押圧力が増大し、接着剤5の潰れが大きくなる。その結果、図3(b)の範囲cを越えて、その上下に位置する接着剤5への押圧力が作用することとなるため、押圧力に抵抗する接着剤5の範囲が図3(b)のc’に示すように上下に広がり、押圧力に抵抗する接着剤5の面積が図3(b)のd’に示すように増加する。この面積の増分は上記仮想的な接着剤dの面積におおよそ対応する。
【0031】
このような理由により、単に図2(b)のA1に示すように接着剤5の延伸方向に沿って振動工具9を移動させるだけでは、接着剤5の延伸方向の端部において接着剤5の潰れが上下に広い範囲に生じ、これが図2(c)のA2に示すように振動工具9の移動を上へと繰り返す際に谷部6の空気を外に逃がす妨げとなり、タイル7の接着率が低下する。
【0032】
そこで本発明者は、タイル7の接着率低下の問題を避けることのできる接着方法について前記のアクリル板を用いて検討を行い、その結果、図4(a)に示すように、少なくとも接着剤5の延伸方向の端部においては、振動工具9をC1に示すように斜め下方(すなわち接着剤5の延伸方向に対し繰返方向の後方に傾斜した方向)へとタイル7の外側に向かって移動させ、下方(繰返方向の後方)に振動工具9を退避させることが有効であるという知見を得た。
【0033】
これにより、接着剤5の延伸方向の端部で上下に広い範囲c’の接着剤5が潰れても、これがC2のように振動工具9の移動を上へと繰り返す際に接着剤5の間の谷部6の空気を外に逃がす妨げとならず、高い接着率を確保することが可能になる。なお、接着剤5の延伸方向の端部は、例えば幅1.0m×高さ3.0mのタイル7の場合、タイル7の側辺から20cm程度内側までの範囲とするが、特に限定されない。
【0034】
一方、接着剤5の延伸方向の端部より内側の部分においては、前記と同様、接着剤5の延伸方向に振動工具9を移動させて谷部6の空気を外側に押し出すことができる。図4(a)の例では、接着剤5の延伸方向の端部より内側の部分において、B1、B2、B3、…のように接着剤5の延伸方向に振動工具9を移動させる作業を下から上へと繰り返し、その後、接着剤5の延伸方向の端部において、C1、C2、C3…のように振動工具9を斜め下方へとタイル7の外側に向かって移動させる作業を繰り返す。
【0035】
ただし図4(b)のように、振動工具9をB1に示すように接着剤5の延伸方向に移動させた後、これに続けて振動工具9をC1に示すように斜め下方に移動させてもよい。この場合も、接着剤5の延伸方向の端部において振動工具9を斜め下方に移動させることで、当該端部において上下に広い範囲c’の接着剤5が潰れても、これがB2、C2のように振動工具9の移動を上へと繰り返す際に接着剤5の間の谷部6の空気を外に逃がす妨げとならず、高い接着率を確保することが可能になる。
【0036】
図5(a)は、以上の説明に基づく振動工具9の移動手順の具体例を示す図であり、この例では、タイル7を接着剤5の上に配置した後、接着剤5の延伸方向(図の左右方向に対応する)の中心でタイル7上に後述する方法でマーキング11を形成するとともに、接着剤5の延伸方向の端部とそれより内側の部分との境界部でタイル7上にマーキング13を形成し、これを振動工具9の移動開始位置や移動終了位置の目安とする。
【0037】
なお、マーキング11、13の形成の時期はこれに限らず、振動工具9の移動作業の前であればいつでもよい。また、マーキング11、13の形成にはマスキングテープなどを用いることができるが、接着剤5の延伸方向の中心や上記の境界部の位置が認識できればその形成方法も特に限定されない。またマーキング11、13は省略することも可能である。
【0038】
上記のようにマーキング11、13を形成した後、B1、B2、B3、…に示すように、マーキング11、13の間(接着剤5の延伸方向の端部より内側の部分)において、振動工具9によりタイル7を接着剤5に押付けながら振動工具9を接着剤5の延伸方向に移動させる作業を下から上へと順に繰り返す。
【0039】
その後、C1、C2、C3、…に示すように、マーキング13の外側(接着剤5の延伸方向の端部)において、振動工具9によりタイル7を接着剤5に押付けながら、振動工具9を斜め下方(接着剤5の延伸方向に対し繰返方向の後方に傾斜した方向)へとタイル7の外側に向かって移動させる作業を下から上へと順に繰り返す。振動工具9の移動方向C1、C2、C3の傾斜角は例えば45°とするが、特に限定されない。
【0040】
なお、本実施形態では2人の作業者がタイル7の左半分、右半分での作業を分担して行い、それぞれの領域で上記の工程を実施するが、これは接着剤5のオープンタイムを考慮したものであり、場合によっては1人の作業者により上記の工程を実施してもよい。オープンタイムとは、接着剤5を被着面3に塗布してからタイル貼りを完了するまでの間をいう。B1、B2、B3、…の間隔、およびC1、C2、C3、…の間隔も接着剤5のオープンタイムや施工性等を考慮して定められ、例えば幅1.0m×高さ3.0mのタイル7の場合5cm~10cm程度に定めるが、これに限定されることもない。
【0041】
また、B1に示すように振動工具9を移動させた後、続けてC1に示すように振動工具9を斜め下方に移動させ、この一連の作業を下から上へと順に繰り返すことも可能である。ただしこの場合、振動工具9の移動途中でその移動方向を変える必要がある。これに対し、前記の例では振動工具9の移動途中でその移動方向を変える必要が無く、作業の正確性や作業指示のし易さ等の点で有利である。
【0042】
振動工具9の具体的な移動手順は図5(a)の例に限らず、例えば図5(b)に示すように、接着剤5の延伸方向の中心でタイル7上にマーキング11を形成した後、C1、C2、C3、…に示すように、接着剤5の延伸方向の中心から振動工具9を斜め下方へと移動させる作業を下から上へと順に繰り返し行ってもよい。
【0043】
さらに、タイル7のサイズや形状によっては、図5(c)に示すように、接着剤5の延伸方向の一方の端部とそれより内側の部分との境界部でタイル7上にマーキング13を形成した後、B1、B2、B3、…に示すように、接着剤5の延伸方向の他方の端部とマーキング13の間で振動工具9を接着剤5の延伸方向に移動させる作業を下から上へと順に繰り返し行い、その後、C1、C2、C3、…に示すように、マーキング13の外側において、振動工具9を斜め下方に移動させる作業を下から上へと順に繰り返し行ってもよい。図5(a)の例と同様、B1に示すように振動工具9を移動させた後、続けてC1に示すように振動工具9を斜め下方に移動させる一連の作業を下から上へと順に繰り返し行うことも可能である。
【0044】
また場合によっては、接着剤5の延伸方向および振動工具9の移動方向B、Cを鉛直面内において90°回転させ、同様の作業を行うことも可能である。
【0045】
例えば図5(d)は図5(a)のケースにおける接着剤5の延伸方向と振動工具9の移動方向B、Cを鉛直面内で90°回転させた例であり、接着剤5の延伸方向(図の上下方向に対応する)の中心でタイル7上にマーキング11’が形成されるとともに、接着剤5の延伸方向の端部とそれより内側の部分との境界部にマーキング13’が形成される。
【0046】
そして、B1’、B2’、B3’、…に示すように、マーキング11’、13’の間(接着剤5の延伸方向の端部より内側の部分)において、振動工具9によりタイル7を接着剤5に押付けながら振動工具9を接着剤5の延伸方向に移動させる作業を左から右(繰返方向)へと順に繰り返す。
【0047】
その後、C1’、C2’、C3’、…に示すように、マーキング13’の外側(接着剤5の延伸方向の端部)において、振動工具9によりタイル7を接着剤5に押付けながら、振動工具9を斜め左(接着剤5の延伸方向に対し繰返方向の後方に傾斜した方向)へとタイル7の外側に向かって移動させる作業を左から右へと順に繰り返す。
【0048】
図5(d)の例では振動工具9の移動を左から右へと繰り返しているが、勿論右から左へと繰り返してもよい。この場合、マーキング13’の外側では、振動工具9を斜め右(接着剤5の延伸方向に対し繰返方向の後方に傾斜した方向)へとタイル7の外側に向かって移動させる。
【0049】
なお、振動工具9による作業を行う前には、前記したようにタイル7を手で押さえて接着剤5に軽く接着させることで位置決めを行うが、前記のアクリル板による実験を行った結果から、従来行われるように隣接タイルとの面合せを考えて最初にタイル7の四隅を押さえて位置決めをすると、力を加えた当該四隅周辺の接着剤5が潰れて前記と同様に谷部6を埋めてしまい、これが図2(d)の例と同じく空気を外に逃がす妨げになり、タイル7の接着率が低下することも分かった。そのため、タイル7の位置決め時には従来のように最初にタイル7の四隅を押さえて位置決めをするのではなく、タイル7の中央部を押さえて位置決めすることが望ましく、これによりタイル7の接着率の低下を防ぐことができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、図4、5等で説明したように、少なくとも接着剤5の延伸方向の端部においては、振動工具9を接着剤5の延伸方向に対し前記した繰返方向の後方に傾斜した方向へとタイル7の外側に向かって移動させつつ、タイル7の押付けを行うことにより、各列の接着剤5の間の谷部6の空気をうまく外に逃がし、タイル裏面の接着剤5の各列の間にとどまる空気量を低減し施工品質を高めることができる。
【0051】
また、接着剤5の延伸方向の端部より内側の部分では図4図5(a)、(c)、(d)等に示すように接着剤5の延伸方向に沿って振動工具9を移動させることで、谷部6の空気をタイル7の外側に押し出すことが可能である。
【0052】
また、振動工具9による作業を行う前に前記のマーキング11、11’、13、13’を設けておくことで、振動工具9の移動開始位置や移動終了位置の目安とでき、作業性の向上に寄与する。
【0053】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0054】
3:被着面
5:接着剤
6:谷部
7:タイル
9:振動工具
図1
図2
図3
図4
図5
図6