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  • 特許-PCB汚染物の溶断方法 図1
  • 特許-PCB汚染物の溶断方法 図2
  • 特許-PCB汚染物の溶断方法 図3
  • 特許-PCB汚染物の溶断方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】PCB汚染物の溶断方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/35 20220101AFI20221104BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20221104BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20221104BHJP
   B09B 101/15 20220101ALN20221104BHJP
【FI】
B09B3/35 ZAB
B09B3/40
B09B5/00 C
B09B101:15
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019123910
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2021007928
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】安達 政隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 肇
(72)【発明者】
【氏名】福田 茂
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-269654(JP,A)
【文献】特開2005-095710(JP,A)
【文献】搬出困難な微量PCB汚染廃電気機器等の設置場所における解体・切断方法,環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部,2015年
【文献】加藤和利ほか,溶断時の熱伝導に関する実験結果について,消防科学研究所報,No.27,1990年,第95~101頁
【文献】加藤政利ほか,ゴミ焼却プラントにおける機械的切断技術,五洋建設技術年報,Vol.33,2003年,第13-1~13-8頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00-5/00
B23K7/00-7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCB汚染物と同じ鋼種からなるテストピースに対して該テストピースの板厚及び溶断速度をパラメータとして溶断試験を実施し、溶断線からの距離に応じて設定した複数の温度測定点について前記テストピースの表面温度を測定する工程と、
測定された前記テストピースの表面温度データに基づいて、前記テストピースの表面温度がダイオキシン再合成温度以上となる、前記テストピースの溶断線からの最大距離を求めて、前記PCB汚染物の溶断線を挟むPCB拭き取り範囲を決定する工程と、
前記PCB汚染物の表面に付着しているPCBの拭き取りを前記PCB拭き取り範囲内について行った後、前記PCB汚染物の溶断線に沿って該PCB汚染物を溶断する工程とを備えることを特徴とするPCB汚染物の溶断方法。
【請求項2】
請求項1記載のPCB汚染物の溶断方法において、前記PCB汚染物のPCB拭き取り範囲とそれ以外の領域の境界部分について温度監視を行いながら、前記PCB汚染物の溶断を行い、前記境界部分の温度が表面設定温度に近接した際、アラーム警報を発して溶断作業を停止し、前記PCB汚染物冷却後、溶断作業を再開することを特徴とするPCB汚染物の溶断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCB汚染物の溶断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)が付着しているPCB汚染物は、付着しているPCBの濃度が5000ppm以下であれば、無害化処理施設において無害化処理を行うことができるが、無害化処理施設の受入条件を満足するサイズとしなければならない。そのため、PCB汚染物を、収集運搬用の漏れ防止型金属容器(2m角程度等)に収納できるサイズに切断する必要がある。
【0003】
PCB汚染物を切断する際、作業効率の高いプラズマ切断やガス切断などによってPCB汚染物を溶断した場合、溶断熱によりPCBが揮発して拡散し作業環境が悪化する。さらに、PCBはダイオキシンの前駆体(ベンゼン環、塩素)を多く含んでおり、冷却過程でダイオキシンが再合成される懸念がある(例えば非特許文献1参照)。因って、PCB汚染物を溶断する場合、作業エリアにグリーンハウスを設置して密閉化し、負圧を確保すると共に、PCBやダイオキシン除去のための排ガス処理設備が必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】平岡正勝,「廃棄物処理におけるダイオキシン類の生成と制御」,廃棄物学会誌,Vol.1,No.1,1990年,p.20-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、PCB汚染物を溶断すると、溶断熱によりPCBの揮発並びにダイオキシンの再合成が発生する。そのため、従来は、溶断作業を断念したり、溶断線付近のPCB拭き取りを行った後、溶断作業を実施していた。また、PCB拭き取り範囲が適切かどうか不明のままPCB汚染物の溶断作業を実施した場合、有毒ガスの発生量を多めに想定せざるを得ず、排ガス処理設備能力が過大となっていた。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、PCB汚染物の溶断に際し、PCB揮発及びダイオキシン再合成のおそれがあるPCB拭き取り範囲を設定することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るPCB汚染物の溶断方法は、
PCB汚染物と同じ鋼種からなるテストピースに対して該テストピースの板厚及び溶断速度をパラメータとして溶断試験を実施し、溶断線からの距離に応じて設定した複数の温度測定点について前記テストピースの表面温度を測定する工程と、
測定された前記テストピースの表面温度データに基づいて、前記テストピースの表面温度がダイオキシン再合成温度以上となる、前記テストピースの溶断線からの最大距離を求めて、前記PCB汚染物の溶断線を挟むPCB拭き取り範囲を決定する工程と、
前記PCB汚染物の表面に付着しているPCBの拭き取りを前記PCB拭き取り範囲内について行った後、前記PCB汚染物の溶断線に沿って該PCB汚染物を溶断する工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係るPCB汚染物の溶断方法では、前記PCB汚染物のPCB拭き取り範囲とそれ以外の領域の境界部分について温度監視を行いながら、前記PCB汚染物の溶断を行い、前記境界部分の温度が表面設定温度に近接した際、アラーム警報を発して溶断作業を停止し、前記PCB汚染物冷却後、溶断作業を再開するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るPCB汚染物の溶断方法では、PCB汚染物を溶断する前にテストピースによる溶断試験を実施してPCB拭き取り範囲を設定し、該PCB拭き取り範囲内のPCBの拭き取りを行うので、PCB揮発及びダイオキシン再合成の懸念無くPCB汚染物を溶断することができる。その際、PCB拭き取り範囲外において微量のPCBが揮発するが、コンパクトな排ガス処理設備でよいためコストを安価に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】テストピース溶断試験におけるテストピースの表面温度測定位置を示した温度測定点配置図である。
図2】5mm厚のステンレス板テストピースをプラズマ溶断した際の温度測定位置a~eにおける表面温度を示したグラフである。
図3】10mm厚のステンレス板テストピースをプラズマ溶断した際の温度測定位置a~eにおける表面温度を示したグラフである。
図4】PCB汚染物の表面温度管理下のもとに実施されるPCB汚染物溶断作業の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0012】
本発明に係るPCB汚染物の溶断方法では、PCB汚染物を溶断する前にテストピースによる溶断試験を実施してPCBの拭き取り範囲を設定する。以下、本発明の一実施の形態に係るPCB汚染物の溶断方法の手順について説明する。
【0013】
[STEP-1]
PCB汚染物と同じ鋼種からなるテストピースに対して該テストピースの板厚及び溶断速度をパラメータとして溶断試験を実施する。その際、図1に示すように、溶断線からの距離に応じて複数の温度測定点を設定し、テストピース10溶断時におけるテストピース10表面の温度測定を各温度測定点について行う。図1の例では、1~5間の間隔は200mm、溶断線からaまでの距離及びa~eの間隔は100mmである。各温度測定点における温度測定には熱電対を使用した。
【0014】
[STEP-2]
測定されたテストピース10の表面温度データに基づいて、テストピース10の表面温度がダイオキシン再合成温度以上となる、テストピース10の溶断線からの最大距離を求めて、PCB汚染物の溶断線を挟むPCB拭き取り範囲を決定する。
【0015】
図2及び図3に温度測定結果の一例を示す。図2は、5mm厚のステンレス板テストピースをプラズマ溶断した際の温度測定位置a~eにおける表面温度を示したグラフ、図3は、10mm厚のステンレス板テストピースをプラズマ溶断した際の温度測定位置a~eにおける表面温度を示したグラフである。また、温度測定位置a~eにおける各値は温度測定位置1~5の平均である。
【0016】
鉄の融点は1538℃、ダイオキシンの再合成温度は、おおよそ300~500℃である。PCB汚染物の表面温度を管理するに際して、ダイオキシンの再合成温度を超えない管理温度を設定する(表面設定温度)。例えば、表面設定温度を200℃とすることができる。そして、テストピース10の表面温度が表面設定温度(例えば、200℃)以上の領域(溶断線からの最大距離)をPCB拭き取り範囲に設定する。なお、図2及び図3に示すように、表面設定温度よりも低い表面温度領域(例えば、180℃)まで含めた範囲をPCB拭き取り範囲とすることが望ましい。
【0017】
[STEP-3]
PCB汚染物の表面に付着しているPCBの拭き取りをPCB拭き取り範囲内について行った後、PCB汚染物の溶断線に沿って該PCB汚染物を溶断する。その際、図4に示すように、PCB汚染物11のPCB拭き取り範囲とそれ以外の領域の境界部分について温度測定を行いながら、PCB汚染物11の溶断を行うことが望ましい。境界部分の温度が表面設定温度に近接した際には、アラーム警報(図示省略)を発して溶断作業を停止し、PCB汚染物11冷却後、溶断作業を再開する。近接温度は表面設定温度より10~20℃程度低い温度とする。
【0018】
図4の例では、PCB汚染物11を支持脚13上に載置して、PCB汚染物11を溶断線12に沿って溶断する際、PCB汚染物11の上方にサーモカメラ14を設置し、PCB拭き取り範囲とそれ以外の領域の境界部分についてサーモカメラ14により温度監視を行いながら、PCB汚染物11の溶断を行う。
溶断時に発生したガス、ヒューム等は、PCB汚染物11に近接して配置した排ガス処理装置15により吸収する。排ガス処理装置15は、一端が吸込口16とされたダクト17と、複数のフィルター(鉄粉除去フィルタ18、HEPAフィルタ19、活性炭フィルタ20)と、ブロワ21とを備えている。
【0019】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、境界部分の温度センサーとしてサーモカメラを使用しているが、これに限るものではなく、熱電対などを使用してもよい。
【符号の説明】
【0020】
10:テストピース、11:PCB汚染物、12:溶断線、13:支持脚、14:サーモカメラ、15:排ガス処理装置、16:吸込口、17:ダクト、18:鉄粉除去フィルタ、19:HEPAフィルタ、20:活性炭フィルタ、21:ブロワ
図1
図2
図3
図4