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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221104BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20221104BHJP
   B60L 58/18 20190101ALI20221104BHJP
   B60L 58/22 20190101ALI20221104BHJP
   B60L 58/25 20190101ALI20221104BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/08
B60L58/18
B60L58/22
B60L58/25
B60L9/18 J
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019165691
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021044949
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】西村 宗世
(72)【発明者】
【氏名】居安 誠二
(72)【発明者】
【氏名】深谷 淳
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-529307(JP,A)
【文献】特開2014-226000(JP,A)
【文献】特開2011-155788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 27/08
B60L 58/18
B60L 58/22
B60L 58/25
B60L 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子巻線(21U,21V,21W,21X,21Y)を有する多相回転電機(20)と、
上アームスイッチ(QUH,QVH,QWH,QXH,QYH)及び下アームスイッチ(QUL,QVL,QWL,QXL,QYL)の直列接続体を有し、前記電機子巻線と前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチの接続点とが接続されるインバータ(30)と、
各相の前記上アームスイッチの高電位側端子と、第1蓄電池(40a)及び第2蓄電池(40b)それぞれの正極端子とに接続される正極母線(Lp)と、
各相の前記下アームスイッチの低電位側端子と、前記第1蓄電池及び前記第2蓄電池それぞれの負極端子とに接続される負極母線(Ln)と、
前記正極母線のうち一対の前記上アームスイッチの高電位側端子との接続点の間、及び前記負極母線のうち一対の前記下アームスイッチの低電位側端子との接続点の間の少なくとも一方に設けられた切替用スイッチ(SW)と、
前記切替用スイッチ、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチをオンオフする操作部(60)と、を備え、
前記操作部は、前記切替用スイッチをオフにした状態で前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチをオンオフすることにより、前記第1蓄電池からの電流を、前記インバータ及び前記電機子巻線を介して前記第2蓄電池に流す第1通電処理と、前記第2蓄電池からの電流を、前記インバータ及び前記電機子巻線を介して前記第1蓄電池に流す第2通電処理と、を交互に実施する昇温制御を行う電力変換装置(10)。
【請求項2】
前記電機子巻線は、星形結線されており、
前記インバータにおいて、前記操作部によりオフに切り替えられる前記切替用スイッチよりも、前記第1蓄電池側の前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチを、第1区分の上アームスイッチ及び下アームスイッチとし、
前記インバータにおいて、前記操作部によりオフに切り替えられる前記切替用スイッチよりも、前記第2蓄電池側の前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチを、第2区分の上アームスイッチ及び下アームスイッチとし、
前記操作部は、前記第1区分に属する前記上アームスイッチ及び下アームスイッチを交互にオンオフし、かつ前記第2区分に属する前記上アームスイッチ及び下アームスイッチを交互にオンオフする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記多相回転電機は3相以上の電機子巻線を有し、
前記操作部は、前記第1蓄電池及び前記第2蓄電池の昇温要求が大きい場合、全相の前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチをオンオフする前記昇温制御を行い、前記第1蓄電池及び前記第2蓄電池の昇温要求が小さい場合、前記第1区分及び前記第2区分のうち2相以上の区分において、一部の相の前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチをオフに維持しつつ前記昇温制御を行う請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記操作部は、上位の制御装置(70)と通信する機能を有し、前記上位の制御装置から前記昇温制御の実施要求がある場合に、前記昇温制御を行う請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
車両に搭載される電力変換装置において、
前記操作部は、前記車両の停車時に前記昇温制御を実施し、前記車両の走行時において前記多相回転電機を駆動している場合よりも、前記車両の停車時に前記昇温制御を実施している場合の方が、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのスイッチング周波数を高くする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記車両の停車時に実施される前記昇温制御のスイッチング周波数は、人の可聴域よりも高い方に外れた周波数である請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記第1蓄電池及び前記第2蓄電池の電圧を監視する電圧監視部(50a,50b)を備え、
前記電圧監視部は、前記操作部に電圧監視情報を通知する機能を有し、
前記操作部は、前記電圧監視部から通知された前記電圧監視情報に基づき、前記第1蓄電池の端子電圧と前記第2蓄電池の端子電圧とが均等化されるように、前記昇温制御を実施する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電池の温度が低い場合に蓄電池を昇温する制御が行われている。特許文献1には、蓄電池と、コンデンサと、蓄電池とコンデンサとの間に接続されたインバータとを備え、蓄電池とコンデンサとの間で無効電力の授受を行うことにより蓄電池を昇温する電力変換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5865736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄電池とコンデンサとの間で無効電力の授受を行う場合、その無効電力に比例してコンデンサの端子電圧が変動する。この変動により、コンデンサの端子電圧が、コンデンサの耐圧性能から定まる許容上限値を超え、コンデンサの信頼性が低下する懸念がある。
【0005】
この問題に対処するには、コンデンサの端子電圧の変動量を低減する必要がある。変動量を低減するために、コンデンサの容量を大きくする対策が考えられる。しかしながら、この場合、コンデンサが大型化してしまう。このように、蓄電池を昇温させる場合に電力の授受対象となる構成の端子電圧の変動量を低減しつつ、蓄電池の昇温能力を向上することについては、未だ改善の余地があると考えられる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、電力の授受対象となる構成の端子電圧の変動量を低減しつつ、蓄電池の昇温能力を向上することができる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、電機子巻線を有する多相回転電機と、上アームスイッチ及び下アームスイッチの直列接続体を有し、前記電機子巻線と前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチの接続点とが接続されるインバータと、各相の前記上アームスイッチの高電位側端子と、第1蓄電池及び第2蓄電池それぞれの正極端子とに接続される正極母線と、各相の前記下アームスイッチの低電位側端子と、前記第1蓄電池及び前記第2蓄電池それぞれの負極端子とに接続される負極母線と、前記正極母線のうち一対の前記上アームスイッチの高電位側端子との接続点の間、及び前記負極母線のうち一対の前記下アームスイッチの低電位側端子との接続点の間の少なくとも一方に設けられた切替用スイッチと、前記切替用スイッチ、前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチをオンオフする操作部と、を備え、前記操作部は、前記切替用スイッチをオフにした状態で前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチをオンオフすることにより、前記第1蓄電池からの電流を、前記インバータ及び前記電機子巻線を介して前記第2蓄電池に流す第1通電処理と、前記第2蓄電池からの電流を、前記インバータ及び前記電機子巻線を介して前記第1蓄電池に流す第2通電処理と、を交互に実施する昇温制御を行う。
【0009】
本発明では、切替用スイッチがオフにされることにより、インバータを介して第1蓄電池及び第2蓄電池の間で無効電力の授受を行うことができる。ここで、蓄電池の容量は、コンデンサの容量に比べて十分大きい。このため、蓄電池の無効電力の授受に対する端子電圧の変動量は、コンデンサの無効電力の授受に対する端子電圧の変動量よりも十分小さい。したがって、コンデンサ及び蓄電池の間ではなく、蓄電池同士の間で無効電力の授受を行うことで、昇温制御時における各蓄電池の端子電圧の変動量を低減できる。この際、第1蓄電池及び第2蓄電池の間で授受される無効電力を多くしたとしても、各蓄電池の端子電圧の変動量は小さい。このため、各蓄電池の端子電圧の変動量を低減しつつ、各蓄電池の昇温能力を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る電力変換装置の構成図。
図2】制御装置の処理手順を示すフローチャート。
図3】等価回路を示す図。
図4】制御装置の機能ブロック図。
図5】指令電流の設定方法を示す図。
図6】昇温PWM制御時の電流値及びスイッチングパターンの推移を示す図。
図7】シミュレーション結果を示す図。
図8】比較例に係るシミュレーション結果を示す図。
図9】第1実施形態の変形例1に係る制御装置の機能ブロック図。
図10】ヒステリシス制御態様を示すタイムチャート。
図11】第1実施形態の変形例2に係る制御装置の処理手順を示すフローチャート。
図12】昇温PWM制御時の電流値及びスイッチングパターンの推移を示す図。
図13】第1実施形態の変形例3に係る制御装置の処理手順を示すフローチャート。
図14】指令電流の補正方法を示す図。
図15】指令電流の補正方法を示す図。
図16】第2実施形態に係る電力変換装置の構成図。
図17】制御装置の機能ブロック図。
図18】昇温PWM制御時の電流値及びスイッチングパターンの推移を示す図。
図19】5相の多相回転電機及びインバータを備えられた電力変換装置の構成図。
図20】切替用スイッチの配置を変更した電力変換装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る電力変換装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照にしつつ説明する。本実施形態において、電力変換装置は車両に搭載されている。
【0012】
図1に示すように、電力変換装置10は、多相回転電機20と、インバータ30とを備えている。電力変換装置10は、第1組電池40a及び第2組電池40bを昇温するために、多相回転電機20及びインバータ30を介して、第1組電池40a及び第2組電池40b間で無効電力の授受を行う機能を有している。
【0013】
多相回転電機20は、3相の同期機であり、ステータ巻線として星形結線されたU,V,W相巻線21U,21V,21Wを備えている。各相巻線21U,21V,21Wは、電気角で120°ずつずれて配置されている。多相回転電機20は、例えば永久磁石同期機である。本実施形態において、多相回転電機20は車載主機であり、車両の走行動力源となる。
【0014】
インバータ30は、各相上アームスイッチQUH,QVH,QWHと、各相下アームスイッチQUL,QVL,QWLとの直列接続体を3相分備えている。本実施形態では、各スイッチQUH,QVH,QWH,QUL,QVL,QWLとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられており、具体的にはIGBTが用いられている。このため、各スイッチQUH,QVH,QWH,QUL,QVL,QWLの高電位側端子はコレクタであり、低電位側端子はエミッタである。各スイッチQUH,QVH,QWH,QUL,QVL,QWLには、フリーホイールダイオードとしての各ダイオードDUH,DVH,DWH,DUL,DVL,DWLが逆並列に接続されている。
【0015】
U相上アームスイッチQUHのエミッタと、U相下アームスイッチQULのコレクタとには、バスバー等のU相導電部材31Uを介して、U相巻線21Uの第1端が接続されている。V相上アームスイッチQVHのエミッタと、V相下アームスイッチQVLのコレクタとには、バスバー等のV相導電部材31Vを介して、V相巻線21Vの第1端が接続されている。W相上アームスイッチQWHのエミッタと、W相下アームスイッチQWLのコレクタとには、バスバー等のW相導電部材31Wを介して、W相巻線21Wの第1端が接続されている。各相巻線21U,21V,21Wの第2端同士は、中性点Oで接続されている。なお、本実施形態において、各相巻線21U,21V,21Wは、ターン数が同じに設定されている。これにより、各相巻線21U,21V,21Wは、例えばインダクタンスが同じに設定されている。
【0016】
各上アームスイッチQUH,QVH,QWHのコレクタと、第1組電池40a及び第2組電池40bの正極端子とは、バスバー等の正極母線Lpにより接続されている。各下アームスイッチQUL,QVL,QWLのエミッタと、第1組電池40a及び第2組電池40bの負極端子とは、バスバー等の負極母線Lnにより接続されている。
【0017】
正極母線Lpには、第1組電池40a側から順に、U,V,W相上アームスイッチQUH,QVH,QWHのコレクタが接続されている。正極母線Lp上における、一対のU,V相上アームスイッチQUH,QVHのコレクタとの接続点の間には、切替用スイッチSWが備えられている。切替用スイッチSWがオフされることにより、2つの接続点の間が電気的に遮断される。本実施形態では、切替用スイッチSWとしてリレーが用いられている。
【0018】
電力変換装置10は、正極母線Lpと負極母線Lnとを接続するコンデンサ32を備えている。なお、コンデンサ32は、インバータ30の外部に備えられていてもよいし、インバータ30に内蔵されていてもよい。
【0019】
第1組電池40a及び第2組電池40bは、複数の単位電池の直列接続体として構成されており、端子電圧が例えば数百Vとなるものである。単位電池は、1つの単電池又は複数の単電池の直列接続体で構成されている。これらの単電池は、例えばリチウムイオン2次電池とすればよい。なお、本実施形態において、第1組電池40aが第1蓄電池に相当し、第2組電池40bが第2蓄電池に相当する。
【0020】
電力変換装置10は、第1監視ユニット50a及び第2監視ユニット50bを備えている。第1監視ユニット50aは、第1組電池40aを構成する各単位電池の端子電圧及び温度等を監視する。第2監視ユニット50bは、第2組電池40bを構成する各単位電池の端子電圧及び温度等を監視する。なお、本実施形態において、第1監視ユニット50a及び第2監視ユニット50bが、電圧監視部に相当する。
【0021】
制御装置60は、マイコンを主体として構成され、多相回転電機20の制御量をその指令値にフィードバックすべく、インバータ30を構成する各スイッチQUH~QWLのスイッチング制御を行う。制御量は、例えばトルクである。なお、本実施形態において、制御装置60が、操作部に相当する。
【0022】
この他にも制御装置60は、切替用スイッチSWをオンオフしたり、第1監視ユニット50a、第2監視ユニット50b及び電力変換装置10の外部に設けられた上位制御装置70と通信したりする。ここで、上位制御装置70は、車両の制御を統括する。
【0023】
電力変換装置10は、多相回転電機20の各相巻線21U,21V,21Wに流れる電流を検出する電流センサ61を備えている。電流センサ61の検出値は、制御装置60に入力される。
【0024】
続いて、各組電池40a,40bの昇温制御について説明する。図2は、昇温制御処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、制御装置60により、例えば所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0025】
ステップS10では、各組電池40a,40bの昇温要求があるか否かを判定する。例えば、上位制御装置70から各組電池40a,40bの昇温指示があったと判定した場合、又は各監視ユニット50a,50bにより検出された各組電池40a,40bの温度が、設定温度未満であると判定した場合、昇温要求があると判定すればよい。ここで、設定温度と比較する温度は、例えば、検出された各単位電池の温度のうち最も低い温度、又は検出された各単位電池の温度に基づいて算出した各単位電池の平均温度としてもよい。
【0026】
なお、本実施形態において、ステップS10で肯定判定する状況は、多相回転電機20の駆動前における車両の停車中の状況を想定している。
【0027】
ステップS10において昇温要求がないと判定した場合には、ステップS11に進み、多相回転電機20の駆動要求があるか否かを判定する。本実施形態において、この駆動要求には、多相回転電機20の回転駆動により車両を走行させる要求が含まれる。
【0028】
ステップS11において駆動要求がないと判定した場合には、ステップS12に進み、電力変換装置10を待機モードに設定する。このモードに設定することにより、インバータ30の各スイッチQUH~QWLをオフする。そして、ステップS13において、切替用スイッチSWをオンにし、電力変換装置10を多相回転電機20の駆動に備えさせる。
【0029】
ステップS11において駆動要求があると判定した場合には、ステップS14に進み、電力変換装置10を駆動モードに設定する。そして、ステップS15において、切替用スイッチSWをオンする。その後、ステップS16において、多相回転電機20を回転駆動させるべく、インバータ30の各スイッチQUH~QWLのスイッチング制御を行う。これにより、車両の駆動輪が回転し、車両を走行させることができる。なお、ステップS16におけるスイッチング制御は、例えば、各相巻線21U,21V,21Wに印加する指令電圧とキャリア信号(例えば、三角波信号)との大小比較に基づくPWM、又はパルスパターンを用いて実施されればよい。
【0030】
ステップS10において昇温要求があると判定した場合には、ステップS17に進み、電力変換装置10を昇温制御モードに設定する。ステップS18では、切替用スイッチSWをオフにする。
【0031】
ステップS19では、各組電池40a,40bを昇温させる昇温PWM制御を行う。以下、この制御について説明する。
【0032】
図3(a)に、昇温PWM制御で用いられる電力変換装置10の回路構成を示す。図3(a)において、切替用スイッチSWはオフにされている。この切替用スイッチSWを基準として、各スイッチQUH~QWL等は、第1区分又は第2区分に分類される。すなわち、切替用スイッチSWよりも、第1組電池40a側にあるU相上アームスイッチQUH、U相下アームスイッチQULを第1区分の上アームスイッチ及び下アームスイッチとする。U相上アームスイッチQUH、U相下アームスイッチQUL、U相上アームダイオードDUH及びU相下アームダイオードDULは、第1区分のレグ30aを構成する。
【0033】
一方、切替用スイッチSWよりも、第2組電池40b側にあるV相上アームスイッチQVH、W相上アームスイッチQWH、V相下アームスイッチQVL、W相下アームスイッチQWLを第2区分の上アームスイッチ及び下アームスイッチとする。V相上アームスイッチQVH、W相上アームスイッチQWH、V相下アームスイッチQVL、W相下アームスイッチQWL、V相上アームダイオードDVH、W相上アームダイオードDWH、V相下アームダイオードDVL及びW相下アームダイオードDWLは、第2区分のレグ30bを構成する。
【0034】
図3(a)の回路は、図3(b)の等価回路として示すことができる。図3(b)では、各相巻線21U,21V,21Wは巻線21として示している。第1区分のレグ30aにおいて、U相上アームスイッチQUHは第1上アームスイッチQHAとして示し、U相上アームダイオードDUHは第1上アームダイオードDHAとして示している。また、U相下アームスイッチQULは第1下アームスイッチQLAとして示し、U相下アームダイオードDULは第1下アームダイオードDLAとして示している。
【0035】
第2区分のレグ30bにおいて、V,W相上アームスイッチQVH,QWHは第2上アームスイッチQHBとして示し、V,W相上アームダイオードDVH,DWHは第2上アームダイオードDHBとして示している。また、V,W相下アームスイッチQVL,QWLは第2下アームスイッチQLBとして示し、V,W相下アームダイオードDVL,DWLは第2下アームダイオードDLBとして示している。なお、本実施形態では、昇温制御時において、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのオンオフは同期するように制御され、また、V,W相下アームスイッチQVL,QWLのオンオフは同期するように制御される。
【0036】
図3(b)の回路は、第1組電池40aと第2組電池40bとの間で双方向の電力伝達が可能なHブリッジ回路である。図3(b)において、VAは第1組電池40aの端子電圧を示し、IAは第1組電池40aに流れる電流を示す。そして、VBは第2蓄電池40bの端子電圧を示し、IBは第2蓄電池40bに流れる電流を示す。各組電池40a,40bの充電電流が流れる場合にIA,IBは負となり、第1,第2組電池40a,40bの放電電流が流れる場合にIA,IBは正となる。また、VLは巻線21の端子電圧を示し、ILは巻線21に流れる電流を示す。第1組電池40aから、巻線21を介して第2組電池40bへと向かう方向に電流が流れる場合にILは正となり、その逆方向に電流が流れる場合にILは負となる。
【0037】
第1上アームスイッチQHA及び第2下アームスイッチQLBが同時にオンすると、巻線21の端子電圧VLが「VA」となる。このため、巻線21に正方向の電流ILが流れ、巻線21が励磁される。本実施形態において、この動作が第1通電処理に相当する。一方、第1下アームスイッチQLA及び第2上アームスイッチQHBが同時にオンすると、巻線21の端子電圧VLが「-VB」となり、巻線21に負方向の電流ILが流れ、巻線21が励磁される。本実施形態において、この動作が第2通電処理に相当する。
【0038】
図4に、昇温PWM制御の機能ブロック図を示す。制御装置60は、電流偏差算出部62を備えている。電流偏差算出部62は、指令電流IM*から、電流センサ61により検出された電流値(以下、検出電流IMr)を減算することにより、電流偏差ΔIMを算出する。ここで、本実施形態では、U相導電部材31Uに流れる電流値を検出電流IMrとすればよい。
【0039】
本実施形態において、指令電流IM*は、図5に示すように、正弦波として設定される。詳しくは、指令電流IM*の1周期Tcにおいて、指令電流IM*の値が0以外の値から0になるタイミング(以下、ゼロクロスタイミング)に対して、正の指令電流IM*と負の指令電流IM*とが点対称になるように指令電流IM*を設定する。これにより、図5において、指令電流IM*の第1ゼロクロスタイミングAから第2ゼロクロスタイミングBまでの期間が、第2ゼロクロスタイミングBから第3ゼロクロスタイミングCまでの期間に等しくなる。
【0040】
また、指令電流IM*の1周期Tcにおいて、第1領域の面積S1と第2領域の面積S2とが等しくなる。第1領域の面積S1は、指令電流IM*の1周期Tcにおいて、指令電流IM*の第1ゼロクロスタイミングAから第2ゼロクロスタイミングBまでの時間軸と、正の指令電流IM*とで囲まれる領域である。第2領域の面積S2は、1周期Tcにおいて、指令電流IM*の第2ゼロクロスタイミングBから第3ゼロクロスタイミングCまでの時間軸と、負の指令電流IM*とで囲まれる領域である。
【0041】
第1領域の面積S1と第2領域の面積S2とが等しくなるように設定されることにより、1周期Tcにおける第1組電池40a及び第2組電池40bの充放電電流の収支を合わせることができる。このため、昇温制御に伴い、第1組電池40aの端子電圧VAと第2組電池40bの端子電圧VBとの差が大きくなることを抑制できる。
【0042】
なお、指令電流IM*の1周期Tcの逆数である指令電流IM*の周波数fcは、例えば、人の可聴域の下限側の周波数に設定されることが望ましい。具体的には、周波数fcは、A特性において補正値(dB)が0以下となる周波数領域である1kHz以下に設定されることが望ましい。より望ましくは、30Hz~100Hzの間の周波数(例えば50Hz)に設定されることが望ましい。
【0043】
図4において、制御装置60は,フィードバック制御器63と,第1PWM生成部64とを備えている。フィードバック制御器63は、電流偏差算出部62で算出された電流偏差ΔIMを0にフィードバックするための操作量として、第1デューティ比D1*を算出する。第1デューティ比D1*は、U相上、下アームスイッチQUH,QULの1スイッチング周期Tswにおいて、オン時間Tonの比率(Ton/Tsw)を定める値である。なお、フィードバック制御器63で用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御である。
【0044】
第1PWM生成部64は、フィードバック制御器63で算出された第1デューティ比D1*に基づいて、U相上アームスイッチQUHのゲート信号を生成する。ここで、ゲート信号は、各スイッチQUH~QWLのオン又はオフを指示する信号である。
【0045】
第1反転器65は、U相上アームスイッチQUHのゲート信号の論理を反転させることにより、U相下アームスイッチQULのゲート信号を生成する。
【0046】
第2PWM生成部66には、第2デューティ比D2*が入力される。第2PWM生成部66は、第2デューティ比D2*に基づいて、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのゲート信号を生成する。本実施形態では、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのゲート信号は同期している。
【0047】
第2反転器67は、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのゲート信号の論理を反転させることにより、V,W相下アームスイッチQVL,QWLのゲート信号を生成する。本実施形態では、V,W相下アームスイッチQVL,QWLのゲート信号は同期している。また、V,W相上、下アームスイッチQVH,QWH,QVL,QWLの第2デューティ比D2*は一定の値に設定されている。ここで、第2デューティ比D2*は、無効電力を大きくするため、1近くに設定されることが望ましい。しかし、インバータ30の抵抗値等により、流すことができる電流は変化するため、大きなデューティ比に設定することが困難な場合がある。このため、第2デューティ比D2*の値は、徐々に1から下げられ、所望の電流値を流すことができるデューティ比に設定される。
【0048】
図6に、昇温PWM制御時の電流値及びスイッチングパターンの推移を示す。図6(a)は、検出電流IMrの推移を示し、図6(b)は、第1組電池40aに流れる電流IAの推移を示し、図6(c)は、第2組電池40bに流れる電流IBの推移を示す。図6(d)は、U相上アームスイッチQUHのゲート信号の推移を示し、図6(e)は、U相下アームスイッチQULのゲート信号の推移を示す。図6(f)は、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのゲート信号の推移を示し、図6(g)は、V,W相下アームスイッチQVL,QWLのゲート信号の推移を示す。
【0049】
指令電流IM*に応じた電流制御を行うため、フィードバック制御器63によって、U相上、下アームスイッチQUH,QULの第1デューティ比D1*が設定される。第1デューティ比D1*に基づき、図6(d),(e)のように、U相上アームスイッチQUHとU相下アームスイッチQULとが交互にオンされる。また、第2デューティ比D2*に基づき、図6(f),(g)のように、V,W相上アームスイッチQVH,QWH及びV,W相下アームスイッチQVL,QWLが、交互にオンされる。この制御により、図6(b)、(c)に示すように、第1組電池40aにはパルス状の電流IAが流れ、第2組電池40bにはパルス状の電流IBが流れる。
【0050】
制御装置60が、指令電流IM*に応じてU相上、下アームスイッチQUH,QULを制御することで、図6(a)のように、検出電流IMrが正弦波状に制御される。第1期間P1において、正の検出電流IMrを流すために、第1組電池40aは放電され、第2組電池40bは充電されている。そのため、第1期間P1において、図6(b)に示すように第1組電池40aには正の電流IAが流れ、図6(c)に示すように第2組電池40bには負の電流IBが流れている。つまり、第1期間P1に第1通電処理が実施されている。
【0051】
第2期間P2において、負の検出電流IMrを流すために、第1組電池40aは充電され、第2組電池40bは放電されている。そのため、第2期間P2において、図6(b)に示すように第1組電池40aには負の電流が流れ、図6(c)に示すように第2組電池40bには正の電流が流れている。つまり、第2期間P2に第2通電処理が実施されている。なお、上記第1組電池40a及び第2組電池40bに流れるパルス状の電流の平均値IAave,IBaveは、指令電流IM*の周波数fcと同じ周波数成分を含む正弦波状の電流となる。
【0052】
本実施形態において、ステップS16の処理が行われる場合の各スイッチQUH~QWLのスイッチング周波数f1よりも、ステップS19の処理が行われる場合の各スイッチQUH~QWLのスイッチング周波数f2の方が高く設定されている。つまり、車両の走行時において多相回転電機20を駆動している場合のスイッチング周波数f1よりも、車両の停車時昇温制御を実施している場合のスイッチング周波数f2の方が高くなる。また、上記スイッチング周波数f2は、人の可聴域よりも高い方に外れた周波数に設定されている。詳しくは、上記スイッチング周波数f2は、例えば16kHz以上の周波数に設定されている。
【0053】
図7に、本実施形態のシミュレーション結果を示す。図7(a)~(c)は、先の図6(a)~(c)に対応しており、図7(d)はコンデンサ32の端子電圧の推移を示す。図7(d)に示すように、コンデンサ32の端子電圧は変動していない。
【0054】
図8に、上記特許文献1に記載の構成である比較例のシミュレーション結果を示す。図8(a),(b)は、先の図7(a),(d)に対応している。なお、図8(b)と図7(d)とに示すSKは、比較例に流す電流の1周期における長さを示している。図8に示す比較例に流す電流の1周期における長さは、図7に示す本実施形態に流す電流の1周期における長さの1/20に設定している。つまり、図8に示す比較例における電流の周波数fcは、図7に示す本実施形態における電流の周波数fcの20倍に設定している。このように設定しているのは、比較例では、コンデンサ32の端子電圧の変動量を抑えるために、それと反比例する電流の周波数を高く設定する必要があるためである。しかしながら、この場合、昇温制御時の騒音が増加してしまう問題があった。
【0055】
図8(b)に示すように、比較例では、検出電流IMrと同じ周期で、コンデンサ32の端子電圧が変動している。この変動量を小さくするには、検出電流IMrの電流振幅を小さくすればよいが、その場合、昇温能力を落とさなければならない。また、コンデンサ32の容量を大きくすることでも、端子電圧の変動量を小さくすることはできる。しかしながら、この場合、コンデンサ32の大型化が必要であった。
【0056】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0057】
本実施形態では、昇温制御モードに設定されることにより切替用スイッチSWがオフにされ、第1組電池40aと第2組電池40bとの間で双方向の電力伝達が可能なHブリッジ回路が構成される。このため、インバータ30及び多相回転電機20を介して、第1組電池40a及び第2組電池40bの間で無効電力の授受を行うことができる。ここで、各組電池40a,40bの容量は、コンデンサ32の容量に比べて十分大きい。このため、各組電池40a,40bの無効電力の授受に対する端子電圧の変動量は、コンデンサ32の無効電力の授受に対する端子電圧の変動量よりも十分小さい。したがって、コンデンサ32及び各組電池40a,40bの間ではなく、各組電池40a,40bの間で無効電力の授受を行うことで、昇温制御時におけるコンデンサ32及び各組電池40a,40bの端子電圧の変動量を低減できる。この際、第1組電池40a及び第2組電池40bの間で授受される無効電力を多くしたとしても、コンデンサ32及び各組電池40a,40bの端子電圧の変動量は小さい。このため、組電池40a,40bの昇温能力を向上することができる。
【0058】
さらに、コンデンサ32の端子電圧の変動量を低減できるため、コンデンサ32の容量を小さくし、コンデンサ32を小型化することができる。また、電流の周波数fcを低くし、昇温制御時の騒音を小さくすることができる。
【0059】
上位制御装置70からの要求がある場合、又は制御装置60が各組電池40a,40bの温度を設定温度未満であると判定した場合にのみ、昇温制御を実施するため、電力変換装置10における電力の損失を抑えることができる。
【0060】
車両の走行時において多相回転電機20を駆動している場合よりも、車両の停車時に昇温制御を実施している場合にスイッチング周波数を高くした。これにより、電機子巻線に流れる電流の制御性を向上することができる。
【0061】
なお、スイッチング周波数を高くすることにより、スイッチング損失に伴う各上アームスイッチQUH,QVH,QWH、及び各下アームスイッチQUL,QVL,QWLの発熱が懸念される。しかし、昇温制御時においては、車両の周囲が低温環境であるため、各上アームスイッチQUH,QVH,QWH、及び各下アームスイッチQUL,QVL,QWLの温度がその許容上限値を超えるおそれは小さい。
【0062】
さらに、昇温制御時のスイッチング周波数は、人の可聴域よりも高い方に外れた周波数とした。昇温制御は車両の停車時に実施される。このような状況は、インバータ30のスイッチング制御に伴う騒音に対する人の聴感の感度が高くなる状況である。したがって、スイッチング周波数を、人の可聴域よりも高い方に外れた非可聴域の周波数に設定することにより、昇温制御時における騒音を低減することができる。
【0063】
<第1実施形態の変形例1>
図4の構成に代えて、図9に示す構成によりスイッチング制御を行ってもよい。制御装置60において、ヒステリシス制御器68は、指令電流IM*と検出電流IMrとに基づいて、図10(b)に示すU相上アームスイッチQUHのゲート信号を生成する。詳しくは、ヒステリシス制御器68は、指令電流IM*と検出電流IMrとの電流偏差に基づいて、U相上アームスイッチQUHのゲート信号を生成する。第1反転器65は、U相上アームスイッチQUHのゲート信号の論理を反転させることにより、図10(c)に示すU相下アームスイッチQULのゲート信号を生成する。これにより、図12(a)に示すように、指令電流IM*に対して、±ΔIの幅を持った範囲で検出電流IMrが制御される。
【0064】
<第1実施形態の変形例2>
図2に示す昇温制御処理の手順に代えて、図11に示す手順で昇温制御を行ってもよい。図11では、ステップS10で昇温要求が有りと判定された後のステップS20で、昇温しなければならない温度が、予め設定された設定温度以上か否かを判定する。昇温しなければならない各組電池40a,40bの温度が設定温度以上の場合、ステップS21で3相昇温制御モードに設定する。この処理は第1実施形態で説明した昇温制御処理と同一である。昇温しなければならない各組電池40a,40bの温度が設定温度未満の場合、ステップS22で、2相昇温制御モードに設定する。これにより、本実施形態では、昇温制御時において、W相上、下アームスイッチQWH,QWLをオフに維持する。
【0065】
図12は、2相昇温制御モードにおける昇温PWM制御時の電流値及びスイッチングパターンの推移を示す図である。図12には、W相上、下アームスイッチQWH,QWLがオフ制御に維持される例を示す。図12(a)は、検出電流IMrの推移を示し、図12(b)は、第1組電池40aに流れる電流IAの推移を示し、図12(c)は、第2組電池40bに流れる電流IBの推移を示す。図12(d)は、U相上アームスイッチQUHのゲート信号の推移を示し、図12(e)は、U相下アームスイッチQULのゲート信号の推移を示す。図12(f)は、V相上アームスイッチQVHのゲート信号の推移を示し、図12(g)は、V相下アームスイッチQVLのゲート信号の推移を示す。図12(h)は、W相上、下アームスイッチQWH,QWLのゲート信号の推移を示す。
【0066】
W相上、下アームスイッチQWH,QWLをオフに維持することで、3相で昇温制御をする場合に比べて、等価回路のインダクタンスを大きくすることができる。よって、各組電池40a,40bの昇温要求が小さい場合、昇温制御時におけるリップル電流が低減され、多相回転電機20における鉄損及び騒音を低減することができる。なお、2相昇温制御モードにおいて、W相上、下アームスイッチQWH,QWLをオフに維持する代わりに、V相上、下アームスイッチQVH,QVLをオフに維持してもよい。
【0067】
<第1実施形態の変形例3>
図2に示す昇温制御処理の手順に代えて、図13に示す手順で昇温制御を行ってもよい。図13では、ステップS10で肯定判定した場合にステップS23に進み、第1組電池40aの電圧VAと第2組電池40bの電圧VBが一致するか判定する。一致すると判定した場合、ステップS17に進み昇温制御モードに設定する。一方、一致しないと判定した場合、ステップS24で、指令電流IM*の補正を行う。補正後は、ステップS17に進み昇温制御モードに設定する。
【0068】
ステップS24で行う指令電流IM*の補正は、各監視ユニット50a,50bから送信された情報に基づいて、第1組電池40aの端子電圧VAと第2組電池40bの端子電圧VBとが均等化されるように、指令電流IM*に直流成分Idc(>0)を加算又は減算する。
【0069】
制御装置60は、第1組電池40aの端子電圧VAが第2組電池40bの端子電圧VBよりも高いと判定した場合、図14に示すように、補正前の指令電流IM*に直流成分Idcを加算することにより、補正後の指令電流IM*を算出する。これにより、1周期Tcの補正後の指令電流IM*において、第1領域の面積S1が第2領域の面積S2よりも大きくなる。その結果、1周期Tcにおいて、第1組電池40aの放電電流が、第2組電池40bの放電電流を上回り、第1組電池40aの端子電圧VAと第2組電池40bの端子電圧VBとが均等化される。
【0070】
一方、制御装置60は、第1組電池40aの端子電圧VAが第2組電池40bの端子電圧VBよりも低いと判定した場合、図15に示すように、補正前の指令電流IM*に直流成分Idcを減算することにより、補正後の指令電流IM*を算出する。これにより、1周期Tcの補正後の指令電流IM*において、第1領域の面積S1が第2領域の面積S2よりも小さくなる。その結果、1周期Tcにおいて、第2組電池40bの放電電流が、第1組電池40aの放電電流を上回り、第1組電池40aの端子電圧VAと第2組電池40bの端子電圧VBとが均等化される。
【0071】
以上説明した本実施形態によれば、昇温制御を行いつつ、第1組電池40aの端子電圧VAと第2組電池40bの端子電圧VBとの均等化を図ることができる。
【0072】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0073】
図16に示すように、切替用スイッチSWは、負極母線Ln上に備えられていてもよい。負極母線Lnには、第1組電池40a側から順に、U,V,W相下アームスイッチQUL,QVL,QWLのエミッタが接続されている。切替用スイッチSWは、負極母線Ln上における、一対のU,V相下アームスイッチQUL,QVLのエミッタとの接続点の間に備えられている。図16において、便宜上、先の図1に示した構成と同じ符号を付している。
【0074】
図17は、本実施形態における昇温PWM制御のブロック図である。図17において、便宜上、先の図4に示した構成と同じ符号を付している。図17に示す構成において、図4に示す構成との相違点は、第2PWM生成部66により生成されるゲート信号が、V,W相下アームスイッチQVL,QWLであり、第2反転器67により生成されるゲート信号が、V,W相上アームスイッチQVH,QWHという点である。
【0075】
図18は、本実施形態における昇温PWM制御時の電流値及びスイッチングパターンの推移である。図18(a)は、検出電流IMrの推移を示し、図18(b)は、第1組電池40aに流れる電流IAの推移を示し、図18(c)は、第2組電池40bに流れる電流IBの推移を示す。図18(d)は、U相上アームスイッチQUHのゲート信号の推移を示し、図18(e)は、U相下アームスイッチQULのゲート信号の推移を示す。図18(f)は、V,W相上アームスイッチQVH,QWHのゲート信号の推移を示し、図18(g)は、V,W相下アームスイッチQVL,QWLのゲート信号の推移を示す。
【0076】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0077】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0078】
・多相回転電機20及びインバータ30は、5相又は7相等、3相以外のものであってもよい。図19に、5相の場合における電力変換装置10の構成を示す。図19において、先の図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0079】
図19では、X相上、下アームスイッチQXH,QXL及び各ダイオードDXH,DXLが追加され、Y相上、下アームスイッチQYH,QYL及び各ダイオードDYH,DYLが追加されている。また、多相回転電機20において、X相巻線21XとY相巻線21Yとが追加されている。また、電力変換装置10において、X相導電部材31XとY相導電部材31Yとが追加されている。
【0080】
・3相以上の多相回転電機20及びインバータを備える電力変換装置10において、昇温しなければならない組電池の温度が設定温度未満の場合、第1区分及び第2区分のうち2相以上の区分において、一部の相の上アームスイッチ及び下アームスイッチをオフに維持しつつ昇温制御を行ってもよい。つまり、この場合、第1区分及び第2区分それぞれにおいて、一部の相の上アームスイッチ及び下アームスイッチがオフに維持され得る。
【0081】
・切替用スイッチSWの配置は、図1図16及び図19に示したものに限らない。要は、正極母線Lp又は負極母線Ln上における、一対のスイッチのコレクタ又はエミッタとの接続点の間に切替用スイッチSWが配置されていればよい。図20に、正極母線Lp上における、一対のV,W相上アームスイッチQVH,QWHのコレクタとの接続点の間に切替用スイッチSWが備えられている場合の電力変換装置10を示す。
【0082】
・第1PWM生成部64及び第2PWM生成部66等が生成するゲート信号の組は、図4に示したものに限らない。
【0083】
例えば、第1PWM生成部64は、V,W相下アームスイッチQVL,QWLのゲート信号を生成し、第1反転器65でV,W相上アームスイッチQVH,QWHのゲート信号を生成する。そして、第2PWM生成部66は、U相上アームスイッチQUHのゲート信号を生成し、第2反転器67でU相下アームスイッチQULのゲート信号を生成するとしてもよい。
【0084】
・電力変換装置10が昇温制御を実行する前、例えば、ステップS19の処理を実行する前に、多相回転電機20に直流電流を流し、ロータの回転角をトルクが発生しない位置に固定するとよい。これにより、昇温制御中に多相回転電機20にトルクが発生し、ロータが回転するのを防ぐことができる。
【0085】
・指令電流IM*の設定方法は、図5に示したものに限らない。1周期Tcにおいて指令電流IM*のゼロクロスタイミングに対して正の指令電流IM*と負の指令電流IM*とが点対称になる関係を満たしつつ、例えば、正の指令電流IM*及び負の指令電流IM*それぞれを台形波又は矩形波に設定してもよい。
【0086】
また、指令電流IM*の設定方法としては、上記点対称の関係を満たすものに限らない。例えば、1周期Tcにおいて、指令電流IM*の第1ゼロクロスタイミングAから第2ゼロクロスタイミングBまでの期間と、指令電流IM*の第2ゼロクロスタイミングBから第3ゼロクロスタイミングCまでの期間とが異なるようにし、かつ、第1領域の面積S1と第2領域の面積S2とが等しくなるように指令電流IM*を設定してもよい。この場合であっても、1周期Tcにおける第1組電池40a及び第2組電池40bの充放電電流の収支を合わせることはできる。
【0087】
・インバータ30を構成する上,下アームスイッチとしては、IGBTに限らず、例えばNチャネルMOSFETであってもよい。この場合、高電位側端子はドレインとなり、低電位側端子はソースとなる。
【0088】
・切替用スイッチSWとしては、リレーに限らない。切替用スイッチSWとして、例えば、ソース同士が接続された一対のNチャネルMOSFETや、IGBTが用いられてもよい。
【0089】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0090】
10…電力変換装置、20…多相回転電機、21U,21V,21W,21X,21Y…U,V,W,X,Y相巻線、30…インバータ、60…制御装置、SW…切替用スイッチ、QUH,QVH,QWH,QXH,QYH…U,V,W,X,Y相上アームスイッチ、QUL,QVL,QWL,QXL,QYL…U,V,W,X,Y相下アームスイッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20