(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】パラフィン系ガス油の使用
(51)【国際特許分類】
C10L 1/08 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
C10L1/08
(21)【出願番号】P 2019569957
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2018067689
(87)【国際公開番号】W WO2019007857
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-06-22
(32)【優先日】2017-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】ギー,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ,ロドニー・グリン
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,リチャード・ヒュー
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-270101(JP,A)
【文献】特開2007-270108(JP,A)
【文献】特表2005-520926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮点火内燃エンジンの排気ガス再循環(EGR)システムにおける堆積物の蓄積を低減させるためのディーゼル燃料組成物中のパラフィン系ガス油の使用
であって、
前記パラフィン系ガス油が、ディーゼル燃料組成物全体に基づいて50%v/vから100%v/vのレベルで存在し、
前記パラフィン系ガス油が、フィッシャー・トロプシュ由来のガス油から選択され、
フィッシャー・トロプシュ由来のガス油が、フィッシャートロプシュ由来のガス油の重量に対して3%w/w以下のシクロパラフィンを含み、40℃で2.0~5.0mm
2
/sの範囲内の動粘度、0.775~0.785g/cm
3
の範囲内の密度、0.1%w/w未満の芳香族含有量、および70~77のセタン価を有する、上記使用。
【請求項2】
前記パラフィン系ガス油が、前記パラフィン系ガス油の総重量に基づいて、95重量%超のパラフィンを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記パラフィン系ガス油が、前記パラフィン系ガス油の前記総重量に基づいて、98重量%超のパラフィンを含む、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記ディーゼル燃料組成物が、ディーゼル系燃料をさらに含む、請求項1~
3のいずれか
一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮点火エンジンにおける排気ガス再循環(EGR)システムでの特定の利点を提供するためのパラフィン系ガス油の使用に関する。具体的には、本発明は、圧縮点火エンジンにおける排気ガス再循環システムでの堆積物の蓄積を低減するためのパラフィン系ガス油の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガス再循環(EGR)は、小型、中型、および大型のディーゼルエンジンシステムから、2ストロークの低速船舶用エンジンまでの広い範囲のディーゼルエンジンに適用可能なNOx排出制御技術である。EGRシステムの構成は、必要なEGRレートおよび特定用途の他の要求に依存する。ほとんどのEGRシステムとして、以下の主要なハードウェアコンポーネント:1つ以上のEGR制御弁、1つ以上のEGRクーラ、配管、フランジ、およびガスケットが含まれる。
【0003】
EGRシステムは、様々なEGRハードウェアコンポーネント上に堆積する堆積物によって汚染される傾向があることが見出されている。これは、高圧EGRシステムに特有の問題である。システム内に形成する堆積物は、NOx排出量および燃料消費量を増加させ得るとともに、深刻な場合にはEGR弁を詰まらせることによってシステムを故障させ得る。酸化触媒および/または微粒子フィルタが、EGRファウリングを引き起こす排気ガスからの炭化水素および微粒子を低減させるために、EGRシステムの前に取り付けられ得るが、これによって、コストおよび複雑さが追加されるため、製造業者によって広く採用されていない。低圧EGRの場合、DPFは、エンジンと低圧EGRシステムとの間に位置されるため、堆積物は、これらの構成においてそれほど問題ではない。
【0004】
したがって、最初に堆積物の形成を防ぐとともに、製造業者が使用した機器に関わらず、全てのEGRシステムに適用可能な燃料ベースの溶液を提供することが望ましいだろう。
【0005】
ディーゼル燃料組成物にパラフィン系ガス油を使用することにより、EGR堆積物の蓄積における驚くべきかつこれまで認識されていなかった低減が達成され得ることが、今や驚くべきことに発見された。
【発明の概要】
【0006】
本発明によれば、圧縮点火内燃エンジンの排気ガス再循環(EGR)システムにおける堆積物の蓄積を低減させるためのディーゼル燃料組成物におけるパラフィン系ガス油の使用が提供される。
【0007】
本発明の別の態様によれば、圧縮点火内燃エンジンの排気ガス再循環(EGR)システムにおける堆積物の蓄積を低減させるための方法が提供され、この方法は、パラフィン系ガス油を含むディーゼル燃料組成物をエンジン内に導入するステップを含む。
【0008】
ディーゼル燃料組成物にパラフィン系ガス油を使用すると、圧縮点火内燃エンジンのEGRシステムにおける堆積物の堆積を低減させることができることが見出された。
【0009】
ディーゼル燃料組成物にパラフィン系ガス油を使用すると、まずEGRシステムにおける堆積物の形成を防ぐことができ、製造業者が使用した機器に関わらず、全てのEGRシステムに適用可能であることも見出された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】は以下の表3に示される結果のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中で使用される場合、圧縮点火エンジンのEGRシステムにおける堆積物の蓄積を低減する目的で、ディーゼル燃料組成物にパラフィン系ガス油を使用することが提供される。本発明のこの態様の文脈において、「堆積物の蓄積の低減」という用語は、堆積物の蓄積における任意の程度の低減を包含する。堆積物の堆積の低減は、パラフィン系ガス油を含まない類似の燃料配合によって引き起こされるEGRシステムにおける堆積物の堆積に比し、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、および特に70%以上のオーダーであり得る。本明細書中で使用される場合、「蓄積を低減させる」という用語は、また、まずEGR堆積物形成の防止を包含する。
【0012】
これらのシステムが、低圧EGRシステムよりも堆積物堆積の影響を受けやすいため、本発明は、高圧EGRシステムの場合に特に有用であることが見出された。
【0013】
本発明は、従来のディーゼル燃料を用いて形成された既存のEGR堆積物を浄化する目的で使用され得ることも想定される。
【0014】
本明細書中の第1の必須成分は、パラフィン系ガス油である。パラフィン系ガス油燃料は、好ましくは、20%v/vから100%v/v、好ましくは50%v/vから100%v/v、より好ましくは80%v/vから100%v/v、さらにより好ましくは90%v/vから100%v/vの範囲内のレベルで、本明細書中のディーゼル燃料組成物中に存在する。
【0015】
本発明において使用するためのパラフィン系ガス油は、ディーゼル燃料組成物において使用するのに好適である限り、任意の好適な供給源から得ることができる。
【0016】
好適なパラフィン系ガス油には、例えば、フィッシャー・トロプシュ由来ガス油、および水素化植物油(HVO)に由来するガス油、およびそれらの混合物が含まれる。
【0017】
EGR堆積物の防止および低減の観点から、粘度、密度および蒸留特性などの他の特性がディーゼル仕様の要件内に収まることを保証する一方で、本明細書中で使用されるパラフィン系ガス油は、フィッシャー・トロプシュ由来のガス油燃料であることが好ましい。フィッシャー・トロプシュ由来のガス油のパラフィン特性は、それを含むディーゼル燃料組成物が従来のディーゼルに比し、高いセタン価を有することを意味する。
【0018】
フィッシャー・トロプシュ由来のガス油は、本明細書中で使用されるのに好ましいパラフィン系ガス油であるが、本明細書中で使用される「パラフィン系ガス油」という用語は、植物油の水素処理(HVO)から誘導されるそれらのパラフィン系ガス油も含む。HVOプロセスは、石油精製技術に基づいている。このプロセスでは、水素がトリグリセリド植物油分子から酸素を除去し、トリグリセリドを3つの別々の鎖に分割してパラフィン系炭化水素を生成するために使用される。
【0019】
本発明によれば、本明細書中で使用されるためのパラフィン系ガス油(すなわち、フィッシャー・トロプシュ由来のガス油、水素化植物油由来のガス油)は、好ましくは、少なくとも95%w/w、より好ましくは、少なくとも98%w/w、さらにより好ましくは、少なくとも99.5%w/w、もしくは、最も好ましくは、100%w/wまでのパラフィン系成分、好ましくは、イソパラフィンおよび通常のパラフィンからなるであろう。
【0020】
「フィッシャー・トロプシュ由来」とは、燃料または基油が、フィッシャー・トロプシュ縮合プロセスの合成生成物であること、またはフィッシャー・トロプシュ縮合プロセスの合成生成物から由来されることを意味する。「非フィッシャー・トロプシュ由来」という用語は、それに応じて解釈され得る。フィッシャー・トロプシュ由来の燃料は、また、GTL(気体から液体)燃料とも称され得る。
【0021】
フィッシャー・トロプシュ反応は、適切な触媒の存在下で、かつ通常は高温(例えば125~300°C、好ましくは、175~250°C)および/または圧力(例えば、5~100bar、好ましくは、12~50bar)で、一酸化炭素および水素を、より長い鎖、通常はパラフィン系炭化水素に変換する:
n(CO+2H2)=(-CH2-)n+nH2O+熱。所望に応じて、2:1以外の水素:一酸化炭素比が使用され得る。
【0022】
一酸化炭素および水素は、それら自体が、有機または無機、天然または合成の供給源、通常は、天然ガスから、または有機的に誘導されたメタンのいずれかから誘導されてもよい。
【0023】
ガス油、灯油燃料、および基油製品は、フィッシャー・トロプシュ反応から直接、または、例えば、フィッシャー・トロプシュ合成製品の分画により間接的に、または水素化フィッシャー・トロプシュ合成製品から得られ得る。水素化処理は、沸点範囲を調整するための水素化分解(例えば、GB2077289およびEP0147873を参照のこと)および/または分岐パラフィンの割合を増加させることによりコールドフロー特性を改善することが可能な水素化異性化を伴う。EP0583836は、2段階水素化処理プロセスを記載しており、その中では、フィッシャー・トロプシュ合成生成物が、最初に実質的に異性化または水素化分解を受けないような条件下で水素変換に供され(これは、オレフィンおよび酸素含有成分を水素化する)、次に得られた生成物の少なくとも一部が、水素化分解および異性化が起こり、実質的にパラフィン系の炭化水素燃料または油を生成するような条件下で、水素変換される。所望のディーゼル燃料画分は、その後、例えば蒸留により単離され得る。
【0024】
他の合成後処理、例えば重合、アルキル化、蒸留、分解-脱炭酸、異性化および水素化改質が、例えばUS-A-4125566およびUS-A4478955に記載されるように、フィッシャー・トロプシュ縮合生成物の特性を変更するために使用され得る。
【0025】
パラフィン系炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成のための典型的な触媒は、触媒活性成分として、周期表のVIII族からの金属、特に、ルテニウム、鉄、コバルト、またはニッケルを含む。そのような好適な触媒は、例えば、EP0583836に記載されている。
【0026】
フィッシャー・トロプシュに基づくプロセスの例は、「シェル中間留分合成プロセス」、van der Burgtら(上記参照)に記載されたSMDS(シェル中間留分合成)である。このプロセス(また、シェル「ガスから液体」または「GTL」技術と称される場合がある)は、天然ガス(主にメタン)由来の合成ガスを、次に水素化転化および分別されてガス油および灯油などの液体輸送燃料を生成し得る重質長鎖炭化水素(パラフィン)ワックスに変換することによって、ディーゼル範囲製品を生成する。触媒転化ステップのために固定床反応器を利用するSMDSプロセスのバージョンは、現在、マレーシアのビントゥルおよびカタールのラスラファンのパールGTLで使用されている。SMDSプロセスによって調製された灯油および(ガス)油は、例えば、Royal Dutch/Shell Group of Companiesから市販されている。
【0027】
フィッシャー・トロプシュ法のおかげで、フィッシャー・トロプシュ由来のガス油には、硫黄および窒素を本質的に含んでいないか、検出不可能なレベルの硫黄および窒素を含む。これらのヘテロ原子を含む化合物は、フィッシャー・トロプシュ触媒に対する毒として作用する傾向があるため、合成ガス原料から除去される。さらに、通常操作されるプロセスは、芳香族成分を全く生成しないかまたは実質的に生成しない。
【0028】
例えば、フィッシャー・トロプシュガス油の芳香族含有量は、例えば、ASTM D4629によって決定されるように、通常、1%w /w未満、好ましくは、0.5%w/w未満、より好ましくは、0.1%w/w未満である。
【0029】
一般的に言えば、フィッシャー・トロプシュ由来の燃料は、例えば、石油由来の燃料に比し、比較的低いレベルの極性成分、特に極性界面活性剤を有する。このことは、改善された消泡および曇り除去性能に寄与し得ると考えられている。そのような極性成分は、例えば、酸素化化合物、硫黄および窒素含有化合物を含み得る。フィッシャー・トロプシュ由来の燃料中の低レベルの硫黄は、全てが同じ処理プロセスによって除去されるため、一般的に、酸素化化合物および窒素含有化合物の両方の低レベルの指標である。
【0030】
本発明において使用されるフィッシャー・トロプシュ由来のガス油燃料は、石油由来のディーゼルの蒸留範囲と同様の蒸留範囲を有する液体炭化水素中間留分燃料であり、典型的には160℃~400℃の範囲内、好ましくは、360℃以下のT95である。繰り返しになるが、フィッシャー・トロプシュ由来の燃料は、硫黄、窒素および芳香族などの望ましくない燃料成分が少ない傾向にある。
【0031】
本発明において使用されるフィッシャー・トロプシュ由来のガス油燃料は、典型的には、15℃で、0.76~0.80g/cm3、好ましくは、0.77~0.79g/cm3、より好ましくは、0.775~0.785g/cm3の密度(EN ISO 12185により測定)を有する。
【0032】
本発明において使用されるフィッシャー・トロプシュ由来のガス油燃料は、好ましくは、70超のセタン価(ASTM D613)、好適には、70~85のセタン価、最も適切には、70~77のセタン価を有する。
【0033】
本発明において使用されるフィッシャー・トロプシュ由来のガス油燃料は、2.0mm2/秒~5.0mm2/秒、好ましくは、2.5mm2/秒~4.0mm2/秒の範囲内の(ASTM D445に従って測定された)40℃における動粘度を有する。
【0034】
本発明において使用されるフィッシャー・トロプシュ由来のガス油は、5ppmw(100万分の1重量部)以下、好ましくは、2ppmw以下の硫黄含有量(ASTM D2622)を有する。
【0035】
本発明において使用されるフィッシャー・トロプシュ由来のガス油燃料は、販売に好適であり、ガス油燃料の特定の特性を必要とする用途において使用される、別個の最終製品として製造されるものである。特に、それは、上記のようにフィッシャー・トロプシュ由来のガス油燃料に通常関連する範囲内に収まる蒸留範囲を示す。
【0036】
本発明に係る燃料組成物は、2つ以上のフィッシャー・トロプシュ由来のガス油燃料の混合物を含み得る。
【0037】
本発明によれば、本明細書中で使用されるフィッシャー・トロプシュ由来の成分(すなわち、フィッシャー・トロプシュ由来のガス油)は、フィッシャー・トロプシュ由来の成分の重量で、好ましくは、3%w/w以下、より好ましくは、2%w/w以下、さらにより好ましくは、1%w/w以下のシクロパラフィン(ナフテン)含むだろう。
【0038】
本明細書中で使用されるフィッシャー・トロプシュ由来の成分(すなわち、フィッシャー・トロプシュ由来のガス油)は、好ましくは、フィッシャー・トロプシュ由来の成分の重量で、1%w/w以下、より好ましくは、0.5%w/w以下のオレフィンを含む。
【0039】
本発明の本明細書中に記載されるディーゼル燃料組成物は、ディーゼル燃料としての使用に特に好適であり、優れたコールドフロー特性により冬季用ディーゼル燃料として北極圏用途のために使用され得る。
【0040】
例えば、-10℃以下の曇り点(EN 23015)または-20℃以下のコールドフィルタ目詰まり点(CFPP)(EN 116で測定)は、本明細書中の燃料組成物で可能であり得る。
【0041】
本明細書中に記載されるディーゼル燃料組成物は、パラフィン系ガス油に加えてディーゼル系燃料を含み得る。
【0042】
ディーゼル系燃料は、50ppm未満の硫黄を含む石油由来低の硫黄ディーゼル、例えば、超低硫黄ディーゼル(ULSD)またはゼロ硫黄ディーゼル(ZSD)など、内燃エンジンにおける使用に好適な任意の石油由来のディーゼルであり得る。好ましくは、低硫黄ディーゼルは10ppm未満の硫黄を含む。
【0043】
本発明における使用に好ましい石油由来の低硫黄ディーゼルは、典型的には、15℃で0.81~0.865g/cm3、好ましくは、0.82~0.85g/cm3、より好ましくは、0.825~0.845g/cm3の密度、セタン価(ASTM D613)少なくとも51、および40℃で1.5~4.5mm2/s、好ましくは、2.0~4.0mm2/s、より好ましくは、2.2~3.7mm2/sの動粘度(ASTM D445)を有するだろう。
【0044】
一実施形態において、ディーゼル系燃料は、従来の石油由来のディーゼルである。
【0045】
一般的に言えば、本発明の文脈において、燃料組成物は、燃料添加剤が添加されてもよい。特に明記しない限り、燃料組成物中のそのような各添加剤の(活性物質)濃度は、好ましくは10000ppmwまで、より好ましくは、5~1000ppmwの範囲内、有利には、75~300ppmw、例えば、95~150ppmwである。そのような添加剤は、燃料組成物の生成中の様々な段階で添加されてもよい。製油所でベース燃料に追加されるものは、例えば、帯電防止剤、パイプライン抗力低減剤、中間留分流動性向上剤(MDFI)(例えば、エチレン/酢酸ビニル共重合体またはアクリレート/無水マレイン酸共重合体)、潤滑性向上剤、酸化防止剤およびワックス沈降防止剤から選択され得る。
【0046】
燃料組成物は洗浄剤を含み得、これは、エンジン内部の、特に燃料噴射システム内、例えば、インジェクタノズル内などの燃焼関連堆積物の蓄積を除去および/または防止するように作用し得る薬剤(好適には界面活性剤)を意味する。そのような材料は、分散剤添加剤と称されることもある。燃料組成物が洗浄剤を含む場合、好ましい濃度は、燃料組成物全体に基づいて20~500ppmw、より好ましくは、40~500ppmw、最も好ましくは、40~300ppmwまたは100~300ppmwまたは150~300ppmwの範囲の活性物質洗浄剤である。洗浄剤含有ディーゼル燃料添加剤は知られており、市販されている。好適な洗浄剤添加剤の例として、ポリオレフィン置換スクシンイミドまたはポリアミンのスクシンアミド、例えばポリイソブチレンスクシンイミドまたはポリイソブチレンアミンスクシンアミド、脂肪族アミン、マンニッヒ塩基またはアミンおよびポリオレフィン(例えば、ポリイソブチレン)無水マレイン酸が挙げられる。特に好ましいものは、ポリイソブチレンスクシンイミドなどのポリオレフィン置換スクシンイミドである。
【0047】
燃料添加剤として、例えば、洗浄剤と組み合わせて組み込まれ得る他の成分として、潤滑性向上剤、曇り除去剤、例えば、アルコキシル化フェノールホルムアルデヒドポリマー、消泡剤(例えば、市販のポリエーテル変性ポリシロキサン)、着火性向上剤(セタン価向上剤)(例えば、硝酸2-エチルヘキシル(EHN)、硝酸シクロヘキシル、過酸化ジ-tert-ブチル、およびUS4208190の2列27行から3列21行に開示されているもの)、防錆剤(例えば、テトラプロペニルコハク酸のプロパン-1,2-ジオールセミエステル、またはコハク酸誘導体の多価アルコールエステル、そのアルファ炭素原子の少なくとも1つ上に、20~500個の炭素原子を含む非置換または置換された脂肪族炭化水素基を有するコハク酸誘導体、例えば、ポリイソブチレン置換コハク酸のペンタエリスリトールジエステル)、腐食防止剤、消臭剤、耐摩耗添加剤、抗酸化剤(例えば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノールなどのフェノール類、またはN、N‘-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン)、金属不活性化剤、静電気拡散剤添加物およびそれらの混合物が挙げられる。
【0048】
添加剤は、消泡剤を、より好ましくは、防錆剤および/または腐食防止剤および/または潤滑性添加剤と組み合わせて、含むことが好ましい。
【0049】
特に、潤滑性向上剤は、それが低い(例えば、500ppmw以下の)硫黄含有量を有する場合、燃料組成物中に含まれることが特に好ましい。潤滑性向上剤は、燃料組成物全体に基づいて、50~1000ppmw、好ましくは100~1000ppmwの濃度で好都合に存在する。
【0050】
燃料組成物中の曇り除去剤の(活性物質)濃度は、好ましくは、1~20ppmw、より好ましくは、1~15ppmw、さらにより好ましくは、1~10ppmw、および有利には1~5ppmwの範囲内であろう。存在する任意の着火性向上剤の(活性物質)濃度は、好ましくは、600ppmw以下、より好ましくは、500ppmw以下、好都合には、300~500ppmwであろう。
【0051】
本発明の別の態様によれば、添加剤が以下の1つ以上の機能を有する添加剤から選択される圧縮点火内燃エンジンシステムの排気ガス再循環(EGR)システムにおける堆積物の蓄積を低減させるための1つ以上の添加剤の使用が提供される。
炭化水素排出量の低減;
微粒子排出の低減;
燃焼後の分散性の保持;
燃焼後の洗浄力の保持;
燃焼後の親水性の保持;
煙排出量の低減;
すす酸化温度の低減。
【0052】
本発明は、燃料組成物が、例えば、ロータリーポンプ、インラインポンプ、ユニットポンプ、電子ユニットインジェクタ、またはコモンレールタイプの直接噴射ディーゼルエンジンにおいて、あるいは、間接噴射ディーゼルエンジンにおいて使用される、または使用されることを意図している場合に、特に適用可能であり得る。燃料組成物は、大型および/または小型ディーゼルエンジンにおいて、ならびに路上使用または路外使用のために設計されたエンジンにおいて使用するのに好適であり得る。
【0053】
少なくとも上記の用途のために好適とするために、本発明のディーゼル燃料組成物は、好ましくは、1つ以上の以下の特徴を有する。
40℃における、1.9mm2/s以上の、より好ましくは、1.9~4.5mm2/sの範囲内の動粘度。
800kg/m3以上の、より好ましくは、800~860kg/m3の、さらにより好ましくは、800~845kg/m3の範囲内の密度。
360℃C以下のT95。
0℃~-13℃の、より好ましくは、-5℃~-8℃の範囲内の曇り点。
-8℃~-30℃の、より好ましくは、-15℃~-20℃の範囲内のCFPP。
【0054】
本発明は、以下の非限定的な実施例により説明される。
【実施例】
【0055】
2つの異なる燃料を、本明細書中の実施例において使用した。1つの燃料は、10ppmのヒンダードフェノール酸化防止剤(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、別名BHT)を含むGTLガス油であった。
【0056】
表1は、本明細書中の実施例で使用したGTLガス油の物理的および組成的特性を示す。GTLガス油は、Ras LaffanのPearl GTLから入手し、Shell/Royal Dutch Group of Companiesから市販されている。第2の燃料は、従来のディーゼル燃料(Diesel B7)であった。実施例で使用した従来のディーゼル燃料(Diesel B7)の物理的特性を、表2に示す。本明細書中で使用される場合、「Diesel B7」は、7%のバイオ燃料成分を含むディーゼル系燃料を意味する。
【表1】
【表2】
【0057】
試験方法
実施例で使用したエンジンは、標準のPSA DV6 1.6L Euro 5エンジンであった。クリーンなEGRシステムを計量し、エンジンに取り付けた。
【0058】
試験を、2500 rpmおよび5kW(19Nm)の試験条件で、24時間連続して実行した。試験期間全体において、エンジンの冷却水温度を、37℃に制御した。試験が完了すると、エンジンを解体して、全てのEGRコンポーネントの重量を測定した。次に、堆積物を除去するために、EGRシステム全体を、溶剤および音波浴を使用してクリーニングする前に。全てのEGRコンポーネントの写真を撮影した。次に、エンジンに取り付けて次の試験を実行する前に、クリーンなEGRシステムの重量を再測定した。試験では、B7燃料とGTL燃料とを切り替えた。各燃料で2つの試験を実行した。
【0059】
これらの実験の結果を、以下の表3に示す。
【表3】
【0060】
【0061】
討論
表3の結果および
図1のグラフから分かるように、従来のディーゼルB7燃料に比し、GTL燃料の場合におけるEGRコンポーネント上に形成される堆積物の量が有意に低減している。