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  • 特許-給水栓自動排水装置 図1
  • 特許-給水栓自動排水装置 図2
  • 特許-給水栓自動排水装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】給水栓自動排水装置
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/05 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
E03C1/05
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020154233
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2021055528
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2019172458
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392035972
【氏名又は名称】株式会社ヤマト
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 利明
(72)【発明者】
【氏名】関口 隆
(72)【発明者】
【氏名】福原 寛
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-147818(JP,A)
【文献】実開平04-000980(JP,U)
【文献】特開2004-251019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/00-1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の開栓信号が制御部に入力すると開栓動作する既存の給水栓に後付けする自動排水装置であって、
複数の外部信号が出力可能であるとともに、出力する外部信号を人が選択することで、前記開栓信号と同等の外部信号を前記制御部に対して出力する信号出力部と、
前記信号出力部に定期的に動作指令を出力するタイマ部と、を有し、
前記開栓信号の信号ラインに前記外部信号の信号ラインを並列接続することで前記給水栓に後付けされ、
前記信号出力部は前記タイマ部から入力する動作指令によって外部信号を出力し、前記外部信号により前記給水栓を定期的に開栓動作させ給水栓内部及びその上流域の水を排出させることを特徴とする給水栓自動排水装置。
【請求項2】
給水栓が人の手指の直接的な動作によって開栓信号を出力する手動スイッチを備え、
前記手動スイッチの開栓信号と同等の外部信号を出力して給水栓を開栓動作させることを特徴とする請求項1に記載の給水栓自動排水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水又は湯を吐出する給水栓の管内での湯水の滞留を防止して細菌類の繁殖を抑制する給水栓自動排水装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種施設や店舗等において水又は湯を供給する配水システムが一般的に設けられている。このような配水システムに関し、比較的大規模な医療施設、介護施設、商業ビル等では、例えば下記[特許文献1]に示すような返水管を備えた配水システムが多く用いられている。しかしながら、比較的大規模な施設では設置場所や設置エリアによって給水栓の使用頻度が異なり、使用頻度が極端に低い給水栓では、この給水栓に繋がる枝管内に湯水が長時間滞留する場合が有る。そして、このような配管内での湯水の滞留は細菌繁殖の要因となり好ましいものではない。特に、近年レジオネラ属菌による感染症が増加傾向にあり、医療施設や介護施設におけるレジオネラ属菌対策が要求されている。
【0003】
この問題点に関し本願発明者らは、図3に示すように、給水栓4に繋がる枝管2の先側に排出配管40(40a)を設け、この排出配管40を開閉弁42によって定期的に開閉することで枝管2内の湯水を入れ替え、枝管2内における湯水の長時間の滞留を防止して細菌類の繁殖を抑制する[特願2019-18349号]に記載の発明を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-292058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[特願2019-18349号]に記載の発明により枝管内の水は定期的に排出され細菌類の繁殖を抑制することが可能となった。しかしながら、[特願2019-18349号]に記載の発明では枝管2から分岐した給水栓4側の配管内の湯水を排出することはできず、ここがレジオネラ属菌等の細菌繁殖の温床となる可能性が有る。尚、近年では医療・介護施設や商業施設、公共施設で用いられる給水栓は図3に示すようなバルブを手で回すものではなく、スイッチやセンサ等によって電気的に開閉するものが主流となっている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、給水栓内の湯水を定期的に排出して管内の細菌の繁殖を抑制する給水栓自動排水装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)所定の開栓信号が制御部12に入力すると開栓動作する既存の給水栓10に後付けする自動排水装置であって、
複数の外部信号が出力可能であるとともに、出力する外部信号を人が選択することで、前記開栓信号と同等の外部信号を前記制御部12に対して出力する信号出力部52と、
前記信号出力部52に定期的に動作指令を出力するタイマ部54と、を有し、
前記開栓信号の信号ラインに前記外部信号の信号ラインを並列接続することで前記給水栓10に後付けされ、
前記信号出力部52は前記タイマ部54から入力する動作指令によって外部信号を出力し、前記外部信号により前記給水栓10を定期的に開栓動作させ給水栓10内部及びその上流域の水を排出させることを特徴とする給水栓自動排水装置80を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)給水栓10が人の手指の直接的な動作によって開栓信号を出力する手動スイッチ20aを備え、前記手動スイッチ20aの開栓信号と同等の外部信号を出力して給水栓10を開栓動作させることを特徴とする上記(1)記載の給水栓自動排水装置80を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る給水栓自動排水装置は、給水栓の使用、不使用に関わらず、定期的に給水栓内部の水を排出し入れ替えを行う。これにより、給水栓内部及びその上流域に同じ湯水が長期間滞留することはなく、レジオネラ属菌等の細菌類の繁殖を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る給水栓自動排水装置を示す図である。
図2】本発明に係る給水栓自動排水装置の実験結果を示すグラフである。
図3】本願発明者らによる従来の自動排水装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る給水栓自動排水装置について図面に基づいて説明する。図1に示す本発明に係る給水栓自動排水装置80は、人間の動作によって発せられる開栓信号によって開栓動作する給水栓10に対する自動排水装置であって、開栓信号と同等の外部信号を給水栓10側に出力する信号出力部52と、この信号出力部52に定期的に動作指令を出力するタイマ部54と、を有している。
【0011】
ここで、本発明に適用可能な給水栓10に関して説明を行う。本発明に適用可能な給水栓10は、水道水や図示しない給湯装置からの湯、もしくはこれらの混合水を吐出する吐出口14と、この吐出口14と接続した給水管16と、この給水管16を開閉する開閉弁等の周知の開閉手段18と、この開閉手段18を開閉制御する制御部12と、人間の動作によって所定の開栓信号を出力するスイッチ機構20と、このスイッチ機構20からの開栓信号を制御部12に伝達する信号ライン22(22a、22b)と、を有している。尚、代表的なスイッチ機構20としては、人の手指が押圧もしくは接触するなどの直接的な動作によって開栓信号を出力する手動スイッチ20aや、人の手指の接近を感知して自動的に開栓信号を出力する周知の近接センサ20b等が挙げられる。そして、これらスイッチ機構20からの開栓信号が制御部12に入力すると、制御部12は開閉手段18を予め設定された一定の時間、開動作させる。この開栓動作により、給水栓10の吐出口14からは給水管16からの湯水が一定時間吐出する。そして、所定時間が経過すると制御部12は開閉手段18を閉動作させ、これにより吐出口14からの湯水の吐出は停止する。ここで、使用頻度が低いあまり使用されない給水栓10では給水管16内及びその上流域の湯水が長期間滞留し、レジオネラ属菌等の細菌繁殖の温床となる可能性が有る。
【0012】
次に、本発明に係る給水栓自動排水装置80の各部の構成を説明する。先ず、給水栓自動排水装置80の信号出力部52は、前述のようにスイッチ機構20が出力する開栓信号と同等の外部信号を信号ライン56を介して制御部12に出力する機能を有する。尚、外部信号に関しては、予めスイッチ機構20が出力する開栓信号を測定して、これと同等の信号を出力するように信号出力部52の回路設計を行うことで生成する。また、信号出力部52が複数の外部信号を出力可能に構成するとともに、出力する外部信号を人が選択可能とする。この構成によれば、給水栓自動排水装置80を複数種類の給水栓10(開栓信号)に対応させることができる。
【0013】
また、タイマ部54は予め設定された時間毎に所定の動作指令を信号出力部52に対して出力するものであり、周知のタイマ手段を用いることができる。尚、動作指令の出力間隔は例えば6時間、12時間、24時間等で予め固定しても良いし、人が設定もしくは選択可能としても良い。
【0014】
次に給水栓10への接続に関して説明を行う。尚、本発明に係る給水栓自動排水装置80は既存の給水栓10に後付けするものである。給水栓自動排水装置80の給水栓10への接続は、給水栓10側の開栓信号の信号ライン22に給水栓自動排水装置80の外部信号の信号ライン56を並列接続することで行う。この構成によれば、既存の給水栓10に給水栓自動排水装置80を極めて容易な作業で接続することが可能となる。尚、給水栓10が図1に示すように複数の信号ライン22を有している場合には、いずれか一方の信号ライン22に接続を行えばよい。ただし、複数の信号ライン22が異なる開栓信号を出力する場合には、外部信号と対応した開栓信号の信号ライン22に外部信号の信号ライン56を接続する必要がある。特に給水栓10が図1に示すように手動スイッチ20aと近接センサ20bの二つのスイッチ機構20を備えている場合には、比較的単純な手動スイッチ20aの開栓信号に外部信号を対応させ、手動スイッチ20a側の信号ライン22aに外部信号の信号ライン56を接続して構成することが好ましい。また、開栓信号の信号ライン22が接続端子を介して制御部12と接続している場合には、信号ライン56をこの接続端子を介して接続しても良い。
【0015】
次に、本発明に係る給水栓自動排水装置80の動作を説明する。先ず、本発明に係る給水栓自動排水装置80を給水栓10に接続し起動させる。これにより、タイマ部54が時間のカウントを開始する。次に、タイマ部54によるカウントが予め設定された所定の時間になると、タイマ部54は信号出力部52に動作指令を出力する。そして、カウンタをリセットしてカウントを再開する。信号出力部52はタイマ部54からの動作指令を受けて所定の外部信号を出力する。出力された外部信号は信号ライン56、22を介して給水栓10の制御部12に入力する。ここで、外部信号は開栓信号と同等の信号であるから、制御部12は外部信号を開栓信号と認識し、開栓信号の入力時と同様に開閉手段18を予め設定された一定時間、開動作させる。これにより、給水栓10の吐出口14から湯水が一定時間吐出する。そして、所定の時間が経過すると制御部12は開閉手段18を閉動作させ、これにより吐出口14からの湯水の吐出は停止する。また、タイマ部54のカウントが再度、予め設定された時間になると再度動作指令が出力され、各部が同様の動作を行って給水栓10の吐出口14から湯水が一定時間吐出する。そして、これらの一連の動作はタイマ部54のカウントにより定期的に繰り返し行われる。
【0016】
そして、この給水栓自動排水装置80の動作により、給水栓10は使用、不使用に関わらず、定期的に湯水の排出が行われ、給水栓10内部(給水管16内)の水の入れ替えが行われる。これにより、給水栓10内部及びその上流域に同じ湯水が長期間滞留することはなく、レジオネラ属菌等の細菌類の繁殖を抑制することができる。
【0017】
ここで、本発明に係る給水栓自動排水装置80の実施設での実験結果を以下に示す。先ず、長期間(数日間)使用していない給水栓10に本発明に係る給水栓自動排水装置80を設置した。そして、この給水栓10を1.5時間の時間間隔で1分間繰り返し開栓動作させ、これを32日間継続して行った。そして、設置直後と32日経過後における、吐水直後の水と3リットル吐出後の水の遊離残留塩素濃度(mg/L)とバイオフィルム形成の指標となる従属栄養細菌の菌数(CFU/mL)の測定を行った。その結果を図2(a)、(b)に示す。
【0018】
図2(a)から、給水栓自動排水装置80の設置直後(実験前)の水道水の遊離残留塩素濃度は吐水直後でも3リットル吐出後でもほぼ0mg/Lであり、0.1mg/L以上という水道法上の基準を満たしていないことが判る。これに対し、32日経過後の遊離残留塩素濃度は吐水直後で0.84mg/L、3リットル吐出後で0.82mg/Lを示し、ともに水道法上の基準0.1mg/L以上を満たすとともに、管理項目としての1.0mg/L以下の基準も満たし、水中の遊離残留塩素濃度は良好な状態に維持されていることが判る。
【0019】
また、図2(b)から、設置直後の水道水の従属栄養細菌の菌数は吐水直後で18000CFU/mLと管理目標である2000CFU/mLを大きく超過し、3リットル吐出後でも1500CFU/mLと管理目標と同等の高い値を示した。これに対して、32日経過後の従属栄養細菌の菌数は吐水直後で82CFU/mL、3リットル吐出後で30CFU/mLという管理目標をはるかに下回る良好な結果が得られた。これらのことから、給水栓自動排水装置80による定期的な排水により、給水栓10内部及びその上流域の水は常時入れ替わり、遊離残留塩素が良好な濃度に維持されて細菌類の繁殖が抑制されていることが実施設で確認された。
【0020】
以上のように、本発明に係る給水栓自動排水装置80は、開栓信号と同等の外部信号を給水栓10の制御部12に定期的に出力する。これにより、給水栓10の使用、不使用に関わらず、定期的に給水栓10を開栓動作させ内部の水を排出し入れ替えを行うことができる。これにより、給水栓10内部及びその上流域に同じ湯水が長期間滞留することはなく、レジオネラ属菌等の細菌類の繁殖を抑制することができる。また、本発明に係る給水栓自動排水装置80は、外部信号の信号ライン56を給水栓10側の開栓信号の信号ライン22に並列接続することで、既存の給水栓10に後付けすることができる。これにより、既存の給水栓10に自動排水機能を簡単に付与することができる。
【0021】
尚、本例で示した給水栓自動排水装置80及び給水栓10の各部の構成、形状、動作機構等は一例であるから、特に本例に限定される訳ではなく、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0022】
10 給水栓
12 制御部
20a 手動スイッチ
22 (開栓信号の)信号ライン
52 信号出力部
54 タイマ部
56 (外部信号の)信号ライン
80 給水栓自動排水装置
図1
図2
図3