(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ノルボルネン部分を担う新規アミノ酸
(51)【国際特許分類】
C07C 229/32 20060101AFI20221104BHJP
C07C 227/16 20060101ALI20221104BHJP
C07C 319/12 20060101ALI20221104BHJP
C12P 13/04 20060101ALI20221104BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20221104BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20221104BHJP
C07C 323/58 20060101ALI20221104BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221104BHJP
【FI】
C07C229/32 CSP
C07C227/16
C07C319/12
C12P13/04 ZNA
C07K14/00
C12P21/02 C
C07C323/58
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2020524682
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2018069726
(87)【国際公開番号】W WO2019016354
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-07-16
(32)【優先日】2017-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520022953
【氏名又は名称】バランクス・バイオテック・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】ルケシュ,ミハエル
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-207793(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108044(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 323/55
C07C 319/12
C07C 229/32
C07C 227/16
C12P 13/04
C07K 14/00
C12P 21/02
C12N 15/09
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
【化1】
[式中、Xは、Hであるか又はヒドロキシ、ハロゲン、アミン、チオール、又はカルボキシによって置換されてもよい-C
1-C
6アルキルである]の新規化合物。
【請求項2】
D若しくはL-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-メチルアルコール-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-メチル-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-イソプロピルアルコール-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-メチルチオール-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-ブタンアミン-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-イソペンタン-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-酪酸-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-メチルピロリジン-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-メチル(プロピル)スルファン-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-1-ブチルグアニジン-3-ノルボルネンセリン、L-2-プロピオンアミド-3-ノルボルネンセリン、L-2-ブチルアミド-3-ノルボルネンセリンからなる群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
【表1-1】
【表1-2】
からなる群より選択される、請求項1又は請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒドをトレオニンアルドラーゼの存在下にアミノ酸と反応させる工程を含んでなる、一般式Iの化合物を製造する方法
であって、
一般式Iの化合物は以下であり、
【化2】
[式中、Xは、Hであるか又はヒドロキシ、ハロゲン、アミン、チオール、又はカルボキシによって置換されてもよい-C
1
-C
6
アルキルである]、
前記アミノ酸が、グリシン、アラニン、セリン、イソロイシン、ロイシン、トレオニン、グルタミン酸、プロリン、メチオニン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、リジン、及びシステインからなる群より選択される、
前記方法。
【請求項5】
トレオニンアルドラーゼが真核生物又は原核生物起源である
、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
トレオニンアルドラーゼが細菌、酵母、又は真菌起源である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
トレオニンアルドラーゼが、シュードモナス属(Pseudomonas)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)、アゾリゾビウム属(Azorhizobium)、メチロバクテリウム属(Methylobacterium)、エスケリキア属(Escherichia)、テルモトガ門(Thermotoga)、シリシバクター属(Silicibacter)、パラコッカス属(Paracoccus)、ボルデテラ属(Bordetella)、コルウェリア属(Colwellia)、サッカロミセス属(Saccharomyces)に由来する、請求項4~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
トレオニンアルドラーゼがシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)に由来する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
トレオニンアルドラーゼが細胞溶解液として含まれる、請求項4~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの一般式Iのアミノ酸を含んでなるポリペプチド
であって、
一般式Iは以下である、
【化3】
[式中、Xは、Hであるか又はヒドロキシ、ハロゲン、アミン、チオール、又はカルボキシによって置換されてもよい-C
1
-C
6
アルキルである]、
前記ポリペプチド。
【請求項11】
ノルボルネン基を有する前記アミノ酸が野生型ポリペプチド中の当該アミノ酸残基に対応する位置で組み込まれる、請求項10に記載のポリペプチド。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のポリペプチドを提供する工程、前記ポリペプチドをテトラジン又はアジド化合物と接触させる工程、及びそのテトラジン又はアジドのノルボルネン基への環化付加反応による連結を可能にするためにインキュベートする工程を含んでなる、ノルボルネン基を含んでなるポリペプチドを製造する方法。
【請求項13】
一般式Iの化合物をポリペプチド中へ遺伝的に組み込むか又はペプチド合成を介して組み込む
、ポリペプチドを製造する方法
であって、
一般式Iの化合物は以下である、
【化4】
[式中、Xは、Hであるか又はヒドロキシ、ハロゲン、アミン、チオール、又はカルボキシによって置換されてもよい-C
1
-C
6
アルキルである]、
前記方法。
【請求項14】
一般式Iの化合物の、化学合成用の構築ブロック(building block)化合物として、又は医薬品成分用のシントン(synthon)としての使用
であって、
一般式Iの化合物は以下である、
【化4】
[式中、Xは、Hであるか又はヒドロキシ、ハロゲン、アミン、チオール、又はカルボキシによって置換されてもよい-C
1
-C
6
アルキルである]、
前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、ノルボルネン部分を担う新規アミノ酸に、その酵素的製造についての方法に、そして当該新規化合物のクリックケミストリー(click chemistry)又は部位特異的タンパク質修飾における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] 生体分子の選択的な修飾は、現代の医薬品開発における1つの選択肢である。ノルボルネン反応基を担うβ-ヒドロキシアミノ酸は、ペプチド及びタンパク質の化学における構築ブロックとして、並びに医薬有効成分のシントンにも特に有用である。
【0003】
[0003] 前記官能性のあるアミノ酸を生成するための現行のアプローチでは、有機溶媒中での多数の合成工程を使用して、労力を要する後処理工程が続く(Lang et al., 2013)。
【0004】
[0004] WO2013/108044は、ノルボルネン基を有するアミノ酸を含んでなるポリペプチドを開示する。具体的には、直交性(orthogonal)tRNAシンテターゼ/tRNA対を使用することによって、Nε-5-ノルボルネン-2-イルオキシカルボニル-L-リジンを遺伝的に組み込む。
【0005】
[0005] 依然として、様々な化学基と反応し得る、ノルボルネン基を担う新規アミノ酸へのニーズがある。具体的には、水性条件において、そして室温で、生理学的pHで非常に速い速度で反応する新規アミノ酸へのニーズがある。
【発明の概要】
【0006】
[0006] 本発明の目的は、ノルボルネン基を担う新規アミノ酸を提供することである。この目的は、本発明の主題によって解決される。
[0007] 本発明は、ノルボルネン基を担う新規アミノ酸に、前記新規アミノ酸を生成するための方法に、そしてそれらの使用に関する。
【0007】
[0008] 本発明の1つの態様は、一般式I:
【0008】
【0009】
[式中、Xは、Hであるか又はヒドロキシ、ハロゲン、アミン、チオール、又はカルボキシによって置換されてもよい-C1-C6アルキルである]の化合物に関する。
[0009] 本発明のさらなる態様は、D若しくはL-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-メチルアルコール-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-メチル-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-イソプロピルアルコール-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-メチルチオール-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-ブタンアミン-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-イソペンタン-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-酪酸-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-メチルピロリジン-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-メチル(プロピル)スルファン-3-ノルボルネンセリン、D若しくはL-2-1-ブチルグアニジン-3-ノルボルネンセリン、L-2-プロピオンアミド-3-ノルボルネンセリン、及びL-2-ブチルアミド-3-ノルボルネンセリンからなる群より選択される化合物に関する。
【0010】
[0010] 本発明の1つの態様は、表1より選択される化合物に関する。
[0011] 表1
【0011】
【0012】
【0013】
[0012] 本発明のさらなる態様は、本明細書に記載されるような化合物を製造するための方法に関する。該方法は、ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒドをトレオニンアルドラーゼの存在下にアミノ酸と反応させる工程を含む。
【0014】
[0013] 本発明の1つの態様は、アミノ酸が、グリシン、アラニン、セリン、イソロイシン、ロイシン、トレオニン、グルタミン酸、プロリン、メチオニン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、リジン、及びシステインからなる群より選択される、本明細書に記載されるような方法に関する。
【0015】
[0014] 本発明の1つの態様は、トレオニンアルドラーゼが真核生物又は原核生物起源であり、好ましくは、細菌、酵母、又は真菌起源である、本明細書に記載されるような方法に関する。
【0016】
[0015] 本発明のさらなる態様は、トレオニンアルドラーゼが、シュードモナス属(Pseudomonas)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)、アゾリゾビウム属(Azorhizobium)、メチロバクテリウム属(Methylobacterium)、エスケリキア属(Escherichia)、テルモトガ門(Thermotoga)、シリシバクター属(Silicibacter)、パラコッカス属(Paracoccus)、ボルデテラ属(Bordetella)、コルウェリア属(Colwellia)、サッカロミセス属(Saccharomyces)に由来する、好ましくはシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)に由来する、本明細書に記載されるような方法に関する。
【0017】
[0016] 本発明のさらなる態様は、トレオニンアルドラーゼが細胞溶解液として含まれる、本明細書に記載されるような方法に関する。
[0017] 本発明のさらなる態様は、一般式Iの少なくとも1つのアミノ酸を含んでなるポリペプチドに関する。
【0018】
[0018] 本発明のさらなる態様は、ノルボルネン基を有する前記アミノ酸が野生型ポリペプチド中の当該アミノ酸残基に対応する位置で組み込まれる、本明細書に記載されるようなポリペプチドに関する。
【0019】
[0019] 本発明の1つの態様は、前記ノルボルネン基がテトラジン又はアジド基へ連結している、本明細書に記載されるようなポリペプチドに関する。
[0020] 本発明の1つの態様は、本明細書に記載されるようなポリペプチドを提供する工程、前記ポリペプチドをテトラジン又はアジド化合物と接触させる工程、及びテトラジン又はアジドのノルボルネン基への環化付加反応による連結を可能にするためにインキュベートする工程を含んでなる、ノルボルネン基を含んでなるポリペプチドを生成する方法に関する。
【0020】
[0021] 本発明の1つの態様は、一般式Iの化合物をポリペプチド中へ遺伝的に組み込むか又はペプチド合成を介して組み込む、本明細書に記載されるようなポリペプチドを生成する方法に関する。
【0021】
[0022] 本発明のさらなる態様は、一般式Iの化合物の、化学における構築ブロックとして、又は医薬成分用のシントンとしての使用に関する。
[0023]
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】[0024] 図面1は、発現ベクターを図示する。トレオニンアルドラーゼの遺伝子は、誘導性アラビノースプロモーターの制御下にある。このベクターは、p15a複製起点によって宿主細胞中に維持される。kan遺伝子の恒常的発現によって、カナマイシンへの耐性が付与される。
【
図2】[0025] 図面2は、共溶媒スクリーニング実験の結果を示す。
【
図3】[0026] 図面3は、タンデム質量分析法によるペプチド配列決定によって切り出された、テトラジンTAMRAで修飾されたNorIを担うeGFP変異体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[0027] 本発明は、ノルボルネン部分をβ炭素に担う新規β-ヒドロキシアミノ酸に関する。この新規β-ヒドロキシアミノ酸化合物は、クリック化学反応において、室温の水性条件において、生理学的pHでごく速い速度で様々な基(例えば、テトラジン、アジド)と反応することができる。
【0024】
[0028] 従って、本発明の1つの態様は、一般式I:
【0025】
【0026】
[式中、Xは、Hであるか又はヒドロキシ、ハロゲン、アミン、チオール、又はカルボキシによって置換されてもよい-C1-C6アルキルである]の新規β-ヒドロキシアミノ酸化合物に関する。
【0027】
[0029] この新規化合物は、合成経路によるか又は生体触媒合成によるかのいずれかで提供される。ベンズアルデヒドとグリシンを使用するβ-ヒドロキシ-α-アミノ酸の合成では、L及びD-トレオニンアルドラーゼが利用されてきた。しかしながら、アルドラーゼは、アクセプターについては柔軟であるが、ドナー基質については厳密であることが知られている。それらは、グリシンを受容するものの、それらは、ベンズアルデヒド又はアセトアルデヒドとともに、D及びL-アラニン、DL-ロイシン、グリシンエチルエステル、グリシンアミド、及びエタノールアミンを受容しない(Steinreiber et al., 2007)。
【0028】
[0030] 驚くべきことに、本発明者は、L及びD-トレオニンアルドラーゼが、D及びL-アラニン、D及びL-セリン、及びD及びL-リジンをアミノ酸ドナーとして、そしてノルボルネン-2-カルボキシアルデヒドをアルデヒドアクセプターとして受容することを見出した。
【0029】
[0031] 従って、本発明のさらなる態様は、ノルボルネン-2-カルボキシアルデヒドをトレオニンアルドラーゼの存在下にアミノ酸と反応させる、新規β-ヒドロキシアミノ酸化合物を生成するための方法に関する。
【0030】
[0032] 本明細書に使用される「トレオニンアルドラーゼ」という用語は、トレオニンアルドラーゼ活性を有する酵素を意味し、これは、アルデヒド依存性炭素-炭素間リアーゼの群(EC4.1.2)に属して、好ましくはEC4.1.2.5又はEC4.1.2.25の酵素分類群に属している。トレオニンアルドラーゼ活性は、β-ヒドロキシ-α-アミノ酸のグリシンとその対応アルデヒドへの可逆的な分割を触媒する能力として定義される。トレオニンアルドラーゼは、フェニルセリンアルドラーゼ又はβ-ヒドロキシアスパラギン酸アルドラーゼと呼ばれる場合もある。トレオニンアルドラーゼは、ほとんど普遍的な酵素であって、例えば、シュードモナス属(Pseudomonas)、エシェリキア属(Escherichia)、エロモナス属(Aeromonas)、テルモトガ門(Thermotoga)、シリシバクター属(Silicibacter)、パラコッカス属(Paracoccus)、ボルデテラ属(Bordetella)、コルウェリア属(Colwellia)、及びサッカロマイセス属(Saccharomyces)が含まれる、細菌、古細菌、酵母、及び真菌に見出し得る。具体的には、この酵素は、シュードモナス・プチダ(P. putida)、緑膿菌(P. aeruginosa)、シュードモナス・フルオレッセンス(P. fluorescence)、大腸菌(E. coli)、エロモナス・ジャンダエイ(A. jandaei)、テルモトガ・マリティマ(T. maritima)、シリシバクター・ポメロイ(Silicibacter pomeroyi)、パラコッカス・デニトリフィカンス(P. denitrificans)、ボルデテラ・パラパータシス(B. parapertussis)、ボルデテラ・ブロンキセプティカ(B. bronchiseptica)、コルウェリア・サイクレリスラエア(C. psychrerythreae)、及び出芽酵母(S. cerevisiae)に由来する。好ましくは、トレオニンアルドラーゼは、例えば、シュードモナス・プチダ(P. putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(P. fluorescence)、又は緑膿菌(P. aeruginosa)のようなシュードモナス属の菌種に由来する。当業者には、アミノ酸と特定のノルボルネン-2-カルボキシアルデヒドの変換に適しているトレオニンアルドラーゼをいかに見出すかが知られている。好ましくは、シュードモナス・プチダ(P. putida)由来のトレオニンアルドラーゼを使用する。
【0031】
[0033] 本発明による方法において利用されるトレオニンアルドラーゼは、野生型の酵素であっても、遺伝子工学による酵素であってもよい。
[0034] 例えば、トレオニンアルドラーゼは、粗製酵素として、市販酵素として、市販調製品よりさらに精製された酵素として、例えば、分散液、乳液、溶液の形態でも固定化された形態でも存在してよい。トレオニンアルドラーゼは、トレオニンアルドラーゼを自然に又は遺伝子修飾により保有する細胞全体(場合によっては、透過処理及び/又は固定化される)において、又はそのような活性のある細胞の溶解液において、その供給源より既知の精製法の組合せによって入手し得る。トレオニンアルドラーゼの全細胞における発現は、当業者に知られた方法を使用して高めることができる。当業者には、トレオニンアルドラーゼを含む天然に存在する(野生型)酵素の変異体も本発明による方法において利用し得ることが明らかであろう。例えば、ランダム突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、指向性進化法、遺伝子シャッフリング、融合タンパク質(例えば、トレオニンアルドラーゼとデカルボキシラーゼの融合タンパク質)、等のような突然変異誘発技術を使用して、野生型酵素をコードするDNAを修飾することによって、例えば野生型酵素の変異体を作製することができて、そうすると、そのDNAは、野生型酵素とは少なくとも1つのアミノ酸が異なる酵素をコードして、このように修飾されたDNAの好適な(宿主)細胞における発現が有効になる。トレオニンアルドラーゼの変異体は、例えば、基質への選択性、及び/又は活性、及び/又は安定性、及び/又は耐溶剤性、及び/又はpHプロフィール、及び/又は温度プロフィールに関して改善された特性を有する場合がある。あるいはまた代わりに、野生型酵素をコードするDNAは、その発現を高めるために修飾してよい。
【0032】
[0035] 「エナンチオ選択的なトレオニンアルドラーゼ」という用語は、使用されるアルデヒドに対応するβ-ヒドロキシ-α-アミノ酸中間体のエナンチオマーの一方を選好する酵素、即ち、カルボン酸基に対してα位にある炭素(アミノ基が付く炭素)のL配置又はD配置のいずれか一方へのエナンチオ選択性を有するトレオニンアルドラーゼを意味すると理解される。例えば、当業者には、カルボン酸基に対するα-炭素のL配置に選択的であるトレオニンアルドラーゼ、並びにそのD配置に選択的であるトレオニンアルドラーゼが知られている。
【0033】
[0036] トレオニンアルドラーゼのエナンチオ選択性は、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、又は最も特別には、少なくとも99%である。
【0034】
[0037] 本明細書に使用されるように、90%のエナンチオ選択性という用語は、そのアミノ酸と対応するアルデヒドがβ-ヒドロキシ-α-アミノ酸中間体のエナンチオマーの一方へ90%変換されて、対応するβ-ヒドロキシ-α-アミノ酸の他のエナンチオマーへ10%変換されることを意味する。従って、好ましくは、生成される立体異性体のジアステレオマー過剰率(d.e.)は、80%であろう。
【0035】
[0038] 選択される反応条件は、酵素の選択に依存する。当業者には、温度、pH、濃度、溶媒の使用、等のような様々な変数をいかに最適化すべきかがわかっている。本発明の方法において、温度とpHは、さほど決定的ではない。しかしながら、好ましくは、この方法は、4と10の間のpHで行われる。特に、この変換は、4.5と8.0の間のpHで、又は6.0と7.5の間のpHで行われる。温度は、好ましくは、0℃と80℃の間で選択される。好ましくは、温度は、5℃と50℃の間、又は10℃と40℃の間、又は25℃と37℃の間である。
【0036】
[0039] 本発明の方法に適した溶媒には、例えば、水、水と水混和性有機溶媒(例えば水と混和可能なアルコール類(例、メタノール)、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリジン、アセトニトリル)の単相混合物;又は水と非混和性有機溶媒(例えば、炭化水素、エーテル、等)の二相混合物、又は所謂イオン液体(例えば、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、又はトリフルオロメタンスルホン酸のような酸、又は(CF3SO2)2N-をアニオン性の対応物とする、1,3-ジアルキルイミダゾリウム塩又はN-アルキルピリジニウム塩)が含まれる。好ましくは、本発明の方法では、水とジメチルスルホキシド(DMSO)の単相混合物、例えば、DMSO含量が1%と50%(v/v)の間、又は5%と30%(v/v)の間、又は10%と20%(v/v)の間である水を使用する。
【0037】
[0040] また、本発明の方法を、有機相(ノルボルネン-カルボキシアルデヒド基質を含む)、水相(通常、アミノ酸とトレオニンアルドラーゼを含む)、及び好適な界面活性剤(非イオン性、カチオン性、又はアニオン性)、等を含んでなる、マクロ又はミクロエマルジョンの両連続系のようなエマルジョン系において実施することが可能である。
【0038】
[0041] アミノ酸又はその塩とノルボルネン-カルボキシアルデヒドの間のモル比は、原理上は、決定的ではない。アミノ酸又はその塩とノルボルネン-カルボキシアルデヒドの間のモル比は、>1であって、例えば、1000:1、又は100:1、又は10:1であってよい。
【0039】
[0042] 試薬である、アミノ酸又はその塩、ノルボルネン-カルボキシアルデヒド、及び酵素トレオニンアルドラーゼの添加の順序は、原理上は、決定的でない。例えば、この方法は、バッチ形式(即ち、すべてを一度に加える)でも、フェドバッチ(fed-batch)形式(即ち、典型的には、一方又は両方の試薬を供給することによるが、酵素(複数)も供給してよい)でも実施してよい。この反応の間に生成するβ-ヒドロキシアミノ酸を除去する、及び/又はトレオニンアルドラーゼを再生利用することは、有利であり得る。このことは、バッチにおいてなし得るが、当然ながら、継続的に行ってもよい。
【0040】
[0043] この反応物へ補因子を加えてトレオニンアルドラーゼの酵素活性を高めることは、有利であり得る。当業者には、補因子の例が知られていて、ピリドキサール-5-リン酸、補酵素B12、フラビンアデニンジヌクレオチド、ホスホパンテイン、チアミン、S-アデノシルメチオニン、ビオチン、塩類(例えば、Mg2+、Mn2+、Na+、K+、及びCl-)が含まれる。補因子の選択は、酵素の選択に左右されて、例えば、シュードモナス・プチダ(P. putida)由来トレオニンアルドラーゼの酵素活性は、ピリドキサール-5-リン酸の添加によって高まる場合がある。例えば、ピリドキサール-5-リン酸は、この方法へ0.001mMと10mMの間、又は0.01mMと1mMの間、又は0.1mMと0.5mMの間の濃度で加えてよい。
【0041】
[0044] トレオニンアルドラーゼの最適量は、使用される基質アルデヒドに依存して、当業者は、定型的な実験により容易に決定することができる。アミノ酸又はその塩は、0.1Mと4Mの間、又は0.5Mと3Mの間、又は1.0Mと2.5Mの間の濃度で使用し得る。
【0042】
[0045] ノルボルネン-カルボキシアルデヒドは、1mMと1000mMの間、又は10mMと500mMの間、又は20mMと100mMの間の濃度で使用し得る。
[0046] 本発明のさらなる態様は、ノルボルネン基を有する単一アミノ酸を含んでなるポリペプチドに関する。ノルボルネン基を担う単一アミノ酸だけを有することで、正確に規定されるポリペプチド生成物が提供される。ノルボルネン基を担う単一アミノ酸だけを有することで、多重標識化又は不完全標識化の問題が回避される(反応が完了しなければ、不均一な生成物が生じる可能性があって、ノルボルネン基を担う単一アミノ酸だけを有することによって有益に対処される問題になり得る)。いくつかの態様では、前記ノルボルネン基が、ノルボルネングリシン、ノルボルネンアラニン、ノルボルネンセリン、ノルボルネンイソロイシン、ノルボルネンロイシン、ノルボルネントレオニン、ノルボルネングルタミン酸、ノルボルネンプロリン、ノルボルネンメチオニン、ノルボルネンアルギニン、ノルボルネンアスパラギン、ノルボルネングルタミン、ノルボルネンリジン、及びノルボルネンシステインのアミノ酸残基として存在する。本発明のいくつかの態様は、ノルボルネングリシン、ノルボルネンアラニン、ノルボルネンセリン、又はノルボルネンリジンのアミノ酸残基として存在するノルボルネン基に関する。好ましい態様において、前記単一アミノ酸は、N末端アミノ酸ではない。好ましくは、N末端アミノ基は、ノルボルネンを含まない。本発明のさらなる態様は、ノルボルネンを担うアミノ酸残基がその内部アミノ酸であるポリペプチドに関する。
【0043】
[0047] 本発明のいくつかの態様は、ノルボルネン基を含んでなるポリペプチドを生成する方法に関し、前記方法は、ノルボルネン基を含んでなるアミノ酸をポリペプチドの中へ遺伝的に組み込むことを含んでなる。ノルボルネン基を遺伝的に組み込むことは、規定されるポリペプチドの正確な構築を可能にする。ノルボルネン基の位置は、正確に制御することができる。このことにより、有利にも、ポリペプチド全体をノルボルネン基の付加のための複雑な反応工程へ処することの必要が回避される。
【0044】
[0048] 好適にも、当該ポリペプチドを生成することについて記載される方法は、(i)ポリペプチドをコードする核酸(該核酸は、ノルボルネン基を有するアミノ酸をコードする直交性コドンを含む)を提供する工程;(ii)前記直交性コドンを認識して、ノルボルネン基を有する前記アミノ酸をポリペプチド鎖の中へ組み込むことが可能な直交性tRNAシンテターゼ/tRNA対の存在下で前記核酸を翻訳する工程を含む。好適にも、前記直交性コドンは、アンバーコドン(TAG)を含み、前記tRNAは、MbtRNAcuAを含み、そして前記tRNAシンテターゼは、MbPylRSを含む。
【0045】
[0049] 好適にも、ノルボルネン基を含んでなる前記アミノ酸は、ノルボルネングリシン、ノルボルネンアラニン、ノルボルネンセリン、ノルボルネンイソロイシン、ノルボルネンロイシン、ノルボルネントレオニン、ノルボルネングルタミン酸、ノルボルネンプロリン、ノルボルネンメチオニン、ノルボルネンアルギニン、ノルボルネンアスパラギン、ノルボルネングルタミン、ノルボルネンリジン、及びノルボルネンシステインである。本発明のいくつかの態様は、ノルボルネングリシン、ノルボルネンアラニン、ノルボルネンセリン、又はノルボルネンリジンのアミノ酸残基として存在するノルボルネン基に関する。
【0046】
[0050] 好適にも、前記アミノ酸は、上記の表1に収載されている。
[0051] いくつかの態様において、当該ポリペプチドは、単一のノルボルネン基を含む。このことには、そのノルボルネン基で指向される可能性があるさらなる化学的修飾への特異性を維持するという利点がある。例えば、目的のポリペプチド中に単一のノルボルネン基だけがある場合、部分修飾というあり得る課題(例えば、ポリペプチド中のノルボルネン基の亜集合だけを後に修飾すること)、又は同じポリペプチド中の交互のノルボルネン基の間で反応微小環境が変動する課題(このことは、ポリペプチド中の異なる位置にある異なるノルボルネン基(複数)の間で不均等な反応性をもたらす可能性がある)が有利にも回避される。故に、いくつかの態様において、当該ポリペプチドは、単一のノルボルネンアミノ酸残基を含む。
【0047】
[0052] ノルボルネン基の組込みの重要な利点は、ラベルのような、広範囲のきわめて有用なさらなる化合物をそのノルボルネン基へ容易かつ特異的に付けることが可能であることである。
【0048】
[0053] 本発明のさらなる態様は、テトラジン又はアジド基へ連結される前記ノルボルネン基に関する。このテトラジン又はアジド基は、発蛍光団(fluorophore)へ、又はPEG基へ、又は医薬活性物質へさらに連結してよい。
【0049】
[0054] この発蛍光団は、フルオロセイン、テトラメチルローダミン(TAMRA)、又はホウ素-ジピロメタン(BODIPY)からなる群より選択され得る。
[0055] 別の側面において、本発明は、ノルボルネン基を含んでなるポリペプチドを生成する方法に関し、前記方法は、上記に記載のようなノルボルネン基を含んでなるポリペプチドを提供する工程、前記ポリペプチドをテトラジン又はアジド化合物と接触させる工程、及びテトラジン又はアジドのノルボルネン基への環化付加反応による連結を可能にするために該混合物をインキュベートする工程を含んでなる。前記環化付加反応は、例えば、逆電子要請型ディールス・アルダー(Diels-Alder)環化付加反応であってよい。
【0050】
[0056] この化学には、反応速度の利点がある。従って、好適にも、前記反応は、16時間、14時間、12時間、10時間、9時間、8時間、7時間、6時間、5時間、4時間、3時間、2時間、又はさらに少ない時間で進行することが可能である。本発明のいくつかの態様では、前記反応が30分か又はさらに少ない時間で進行することが可能である。
【0051】
[0057] 別の側面において、本発明は、前記テトラジン又はアジド化合物をPEG基へ連結する、上記に記載されるような方法を行うことを含んでなる、ポリペプチドをPEG化する方法に関する。ある種の反応環境が反応時間に影響を及ぼす場合があることが注目されよう。試験管内(in vitro)反応には、2時間、30分、又はそれ未満といった、ごく短い時間が適用されるものである。
【0052】
[0058] 生体内(in vivo)、又は組織培養基又は真核生物用の他の好適な培地のような真核生物培養条件での反応では、所望される標識化を達成するのに、30分より多く、又は2時間より長い間実行する必要があり得る。
【0053】
[0059] 本明細書にまた記載されるのは、ノルボルネン基を含んでなるポリペプチドを作製する方法であって、前記方法は、ノルボルネン基を組み込むことが所望される前記ポリペプチド中の位置(複数)に対応する1ヶ所以上の位置(複数)にアンバーコドンを提供するために、前記ポリペプチドをコードする核酸を修飾する工程を含んでなる。好適にも、前記核酸を修飾する工程は、あるコドンをアンバーコドン(TAG)へ突然変異させる工程を含む。
【0054】
[0060] 標的指向すること(即ち、例えば、アンバー変異抑圧を介した非天然アミノ酸での置換)は、好適にも、選択される位置がテトラジン又はアジド-発蛍光団にとってアクセス可能である、即ちフォールドされたタンパク質の表面上に存在するように行われる。従って、元の野生型配列中の極性アミノ酸は、標的指向されるのに特に適した位置である。
【0055】
[0061] 原理上は、本発明は、ポリペプチド中のどの位置にも適用することができる。好適には、本発明は、ポリペプチドのN末端アミノ酸へ適用されない。目的のポリペプチドにおいて標的指向されるアミノ酸の位置を選択する場合、表面残基を選択することが有利である。表面残基は、配列解析によって、又は三次元分子モデリングによって決定し得る。表面残基は、当該技術分野で知られたどの好適な方法によっても決定し得る。表面残基に標的指向することの利点には、発蛍光団のような色素、又は生物物理学的標識のような標識のより良好な提示が含まれる。表面残基に標的指向することの利点には、より簡単な、又はより効率的な下流修飾が含まれる。表面残基に標的指向することの利点には、標識の適用によるポリペプチドの構造及び/又は機能の破綻の可能性がより低いことが含まれる。
【0056】
[0062] 目的のポリペプチドにおいて標的指向するのに特に適したアミノ酸残基には、非疎水性残基が含まれる。好適にも、疎水性残基は、本発明によって標的指向されない。好適にも、親水性残基が標的指向される。好適にも、極性残基が標的指向される。好適にも、グリシン、アラニン、セリン、イソロイシン、ロイシン、トレオニン、グルタミン酸、プロリン、メチオニン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、リジン、又はシステインが標的指向される。好適にも、グリシン、アラニン、セリン、又はリジンが標的指向される。本明細書に使用される「標的指向される(targeted)」は、標的指向されている残基のコドンを直交性コドンに置き換えて、本明細書に記載されるようなポリペプチドを合成することを意味する。
【0057】
[0063] 別の側面において、本発明は、上記に記載されるような、均一の組換えポリペプチドに関する。好適にも、前記ポリペプチドは、上記に記載のような方法によって作製される。
【0058】
[0064] 本発明のさらなる態様は、本明細書に記載の方法(複数)に従って生成されるポリペプチドに関する。上記の新しい方法の生成物であるだけでなく、そのようなポリペプチドは、ノルボルネン基を含んでなることの有利な技術上の特徴を有する。
【0059】
[0065] 突然変異させること(mutating)は、当該技術分野におけるその通常の意味を有して、言及される残基、モチーフ、又はドメインの置換又は短縮化(truncation)又は欠失に言及し得る。突然変異は、ポリペプチドレベルで(例えば、変異配列を有するポリペプチドの合成によって)もたらしても、ヌクレオチドレベルで(例えば、変異配列をコードする核酸を作製することによって)もたらしてもよく、この核酸は、その後翻訳されて、その変異したポリペプチドを生成し得る。所与の変異部位への置換アミノ酸としてどのアミノ酸も特定されない場合、好適にも、前記部位の無作為化を使用してよい。
【0060】
[0066] フラグメントは、長さが少なくとも10個のアミノ酸、又は少なくとも25個のアミノ酸、又は少なくとも50個のアミノ酸、又は少なくとも100個のアミノ酸、又は少なくとも200個のアミノ酸、又は少なくとも250個のアミノ酸、又は少なくとも300個のアミノ酸、又は少なくとも313個のアミノ酸、又は目的のポリペプチドの大部分である。
【0061】
[0067] 本発明による方法において、前記遺伝的組込みでは、好ましくは、直交性又は拡張性の遺伝暗号を使用し、ここでは、ノルボルネン基のある特定アミノ酸残基をコードするように1以上の特異的な直交性コドンが割り当てられたので、直交性tRNAシンテターゼ/tRNA対を使用することによって、それを遺伝的に組み込むことができる。この直交性tRNAシンテターゼ/tRNA対は、原理上は、ノルボルネン基を含んでなるアミノ酸付きのtRNAを担当することが可能で、ノルボルネン基を含んでなるアミノ酸を直交性コドンに応じてポリペプチド鎖の中へ組み込むことが可能などのそのような対でもよい。直交性コドンは、直交性コドンのアンバー、オーカー(ochre)、オパール(opal)でも、四つ組コドン、又は他の三つ組コドンでもよい。このコドンには、ノルボルネン基を含んでなるアミノ酸を担うのに使用される直交性tRNAに対応することだけが求められる。好ましくは、直交性コドンは、アンバーである。
【0062】
[0068] 本明細書に記載されるような方法のために目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、組換え複製可能ベクターの中へ組み込むことができる。このベクターは、適合可能な宿主細胞において核酸を複製するために使用し得る。従って、さらなる態様において、本発明は、本発明によるポリヌクレオチドを複製可能ベクター中へ導入すること、該ベクターを適合可能な宿主細胞中へ導入すること、及び該ベクターの複製を可能にする条件の下で該宿主細胞を増殖させることによって本発明のポリヌクレオチドを作製する方法を提供する。該ベクターは、宿主細胞より回収し得る。好適な宿主細胞には、大腸菌(E. coli)のような細菌、並びに出芽酵母(S. cerevisiae)及びメタノール資化性酵母(P. pastoris)のような酵母、並びに、昆虫細胞、HEK細胞、及びチャイニーズハムスター卵巣細胞のような高等真核生物の宿主細胞が含まれる。
【0063】
[0069] 好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、ベクター中において、コード配列の宿主細胞による発現をもたらすことが可能である制御配列へ機能可能的に連結している、即ち、該ベクターは、発現ベクターである。「機能可能的に連結する」という用語は、記載される諸成分がその企図されたやり方で機能することを可能にする関係にあることを意味する。コード配列へ「機能可能的に連結する」調節配列は、制御配列と適合可能な条件の下でコード配列の発現が達成されるようなやり方で結合(ligate)される。本発明のベクターは、記載のような好適な宿主細胞の中へ形質転換又はトランスフェクトされて、本発明のタンパク質の発現をもたらすことが可能である。この方法は、上記に記載のような発現ベクターで形質転換された宿主細胞を、該タンパク質をコードするコード配列のベクターによる発現をもたらす条件の下で培養すること、そして発現されたタンパク質を場合によっては回収することを含み得る。
【0064】
[0070] 該ベクターは、例えば、複製起点、(場合によっては)前記ポリヌクレオチドの発現のためのプロモーター、そして(場合によっては)そのプロモーターのレギュレーターを備えた、プラスミド又はウイルスのベクターであり得る。このベクターは、1以上の選択可能なマーカー遺伝子(例えば、細菌プラスミドの場合は、アンピシリン耐性遺伝子)を含有し得る。例えば、宿主細胞をトランスフェクトするか又は形質転換するために、ベクターを使用してよい。
【0065】
[0071] 本発明のタンパク質をコードする配列へ機能可能的に連結する制御配列には、プロモーター/エンハンサーと他の発現調節シグナルが含まれる。これらの制御配列は、発現ベクターがその中で使用されるように設計される宿主細胞と適合可能であるように選択され得る。プロモーターという用語は、当該技術分野においてよく知られていて、最小プロモーターから上流のエレメント及びエンハンサーが含まれるプロモーターに及ぶ、サイズと複雑さが多様である核酸領域が含まれる。
【0066】
[0072] 本発明の別の側面は、好適には細菌細胞又は真核細胞において、ノルボルネン含有アミノ酸(複数)を選択されるタンパク質の中へ遺伝的及び部位特異的に組み込む、生体内(in vivo)の方法のような方法である。前記方法によって遺伝的に組み込むことの1つの利点は、この態様では、ノルボルネンアミノ酸を含んでなるタンパク質が標的細胞中で直接合成され得るので、それらを一度形成された細胞の中へ送達することの必要が回避されることである。この方法は、以下の工程を含む:
i)該タンパク質をコードするヌクレオチド配列中の所望部位にアンバーコドンのような直交性コドンを導入する工程、又はそこで特定のコドンをそれに置き換える工程、
ii)ピロリルシル-tRNAシンテターゼ/tRNA対のような直交性tRNAシンテターゼ/tRNA対の発現系を細胞中に導入する工程、
iii)本発明によるノルボルネン含有アミノ酸のある培地において該細胞を増殖させる工程。
【0067】
[0073] 工程(i)は、該タンパク質の遺伝子配列中の所望される部位で、特定のコドンをアンバーコドンのような直交性コドンに置き換えることを伴う。このことは、該タンパク質をコードするヌクレオチド配列のある、プラスミドのような構築体を単に導入することによって達成し得て、ここでノルボルネン含有アミノ酸が導入/置換されることが所望される部位は、アンバーコドンのような直交性コドンを含むように改変される。これは、当業者の能力内にあることであって、そのような実施例を本明細書に示す。
【0068】
[0074] 工程(ii)では、ノルボルネン含有アミノ酸を所望の位置(例、アンバーコドン)に特異的に組み込むための直交性発現系が求められる。従って、ノルボルネン含有アミノ酸付きの前記tRNAを一緒に担当することが可能である、直交性ピロリシル-tRNAシンテターゼのような特定の直交性tRNAシンテターゼと対応する特定の直交性tRNAの対が必要とされる。これらの実施例を本明細書に提供する。
【0069】
[0075] 本発明のタンパク質を発現させるために、本発明によるポリヌクレオチドを含んでなる宿主細胞を使用し得る。本発明のタンパク質の発現を可能にする好適な条件の下で宿主細胞を培養し得る。本発明のタンパク質の発現は、それらが継続的に産生されるように恒常性であっても、発現を始動させるのに刺激が必要とされる、誘導性でもよい。誘導性発現の場合、タンパク質の産生は、例えば、インデューサー物質(例えば、デキサメタゾン又はIPTG)の培養基への添加によって、求められる場合に始動させることができる。
【0070】
[0076] 本発明のタンパク質は、酵素的、化学的、及び/又は浸透圧溶解と物理的な破壊が含まれる、当該技術分野で知られた多様な技術によって宿主細胞より抽出することができる。
【0071】
[0077] 本発明のタンパク質は、分取用クロマトグラフィー、アフィニティー精製、又は他の好適な技術のような、当該技術分野で知られた標準技術によって精製することができる。
【0072】
[0078] 好適にも、目的のポリペプチド中へ組み込まれたノルボルネン基は、テトラジン又はアジド化合物と反応させる。テトラジン又はアジドは、好便にも、目的の分子をノルボルネンを介してポリペプチドへ付けるように作用する。従って、テトラジン又はアジド化合物は、目的の分子をすでに担っている場合がある。
【0073】
[0079] 好適にも、前記テトラジン又はアジド基は、ノルボルネン-テトラジン反応又はノルボルネン-アジド反応を介してそれをポリペプチドへ付けるのに適したどの目的の分子へもさらに結合し得る。
【0074】
[0080] テトラジン類は、容易にアクセス可能な一級アミノ基をそれらが有するように、設計及び合成される。このアミノ基は、標準的なアミンカップリング反応を使用して、多様な化合物と反応させることができる。テトラジン類は、多種多様な反応条件において安定しているので、ほとんどどの化合物も、目的のテトラジンへカップリングすることができる。(ノルボルネンを介したポリペプチドへの付加のために)テトラジンへ結合される例示の化合物には、本明細書に言及されるような様々な発蛍光団が含まれる。テトラジン類は、より洗練された発蛍光団、例えば、STORM、PALM、又はSTEDのような超解像顕微鏡法(Super Resolution Microscopy)に適したもの(例えば、STED顕微鏡法のために開発された、Alexa 色素又は Abberior 製の特殊色素)へもカップリングし得る。脂質も標準技術によりテトラジン類へカップリングし得る。PEGもテトラジン類へカップリングし得て(実施例を参照のこと)、このことは、本発明によるノルボルネンを介したポリペプチドのPEG化に有益である。すべての事例において、我々のアプローチの重要な利益には、本発明によるノルボルネンの組込みが部位特異的であって、最も重要にも、生体内で(in vivo)(及び/又は、大腸菌(E. coli)のような生物体では試験管内で(in vitro))行うことができるという事実が含まれる。対照的に、先行技術のアプローチでは、精製された抗体又はタンパク質だけがノルボルネンと非選択的で非部位特異的なやり方で試験管内で(in vitro)反応し得て、そのことには、上記に説明したように数多くの問題がある。従って、本発明は、本明細書において実証されるように、先行技術の方法と比較して、有意義な利益を提供する。
【0075】
[0081] 本発明のノルボルネン含有ポリペプチドは、好便にも、発蛍光団以外の生物物理学的標識、例えば、NMRプローブ、スピン標識プローブ、IR標識、EM-プローブ、並びに低分子、オリゴヌクレオチド、脂質、ナノ粒子、量子ドット、生物物理学的プローブ(EPR標識、NMR標識、IR標識)、低分子(ビオチン、薬物、脂質)、オリゴヌクレオチド(DNA、RNA、LNA、PNA)、粒子(ナノ粒子、ウイルス)、ポリマー類(PEG、PVC)、タンパク質、ペプチド、諸表面、等へコンジュゲートさせることができる。
【0076】
[0082] ノルボルネンを担う新規アミノ酸は、ポリペプチド又はタンパク質への組込みに特に有用である。従って、テトラジン又はアジド部分を担う部分へのポリペプチド又はタンパク質のコンジュゲーションが想定される。この修飾されたポリペプチド又はタンパク質は、医薬有効成分として使用し得る。ノルボルネン部分を有する新規アミノ酸化合物は、ペプチドケミストリーにおける構築ブロックとして、そして医薬成分のための新規シントンとして信じ難いほどに有用であるかもしれない。
【0077】
[0083] 該化合物は、ポリペプチド、タンパク質、又はその類似体又は前駆体の化学的又は酵素的合成用の構築ブロックとして特に有用である。「構築ブロック」という用語は、化学的又は酵素的操作において使用される構造単位を意味すると理解される。
【0078】
[0084] 本発明の文脈において、「シントン(synthon)」という用語は、化学反応において(例えば、医薬有効成分の合成において)目的の特別な化合物についての合成等価物として使用されるか又は使用され得る化合物を意味する。
【実施例】
【0079】
以下に続く実施例は、本発明の理解を助けるために説明されるが、本発明の範囲をいかなるやり方でも制限することを企図していないし、制限すると解釈してはならない。この実施例には、慣用法の詳細な説明を含めない。そのような方法は、当業者によく知られている。
【0080】
方法:
[0085] フェニルセリン/トレオニンアルドラーゼの遺伝子を収容している大腸菌(E. coli)細胞を培養して、フェニルセリン/トレオニンアルドラーゼを発現させる。収穫後、標準的な細胞破壊手順を使用して、この細胞を破壊する。細胞残滓を遠心分離によって除去して、澄明な細胞溶解液を得る。50mMリン酸緩衝液を使用して、この溶解液を6~9の範囲のpHへ緩衝化する。次いで、この溶解液へアミノ酸とアルデヒド(有機共溶媒(DMSO)の全量20%で溶かす)を加えて、30℃で24時間反応させる。生成物は、この反応の経過の間に沈殿して、pH補正と遠心分離によって回収する。
【0081】
タンパク質組込み:
[0086] メタノサルキナ属(Methanosarcina)由来ピロリシル-tRNAシンテターゼである野生型ピロリシル-tRNAシンテターゼより入手される、変異体ピロリシル-tRNAシンテターゼ、及び/又は変異体ピロリシル-tRNAシンテターゼは、ピロリジンtRNAをアミノアシル化し、本明細書に記載されるようなアミノ酸を組み込む。
【0082】
プラスミド創出:
[0087] シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)kt2440(DSM-6125)ゲノムDNAを鋳型として使用して、フェニルセリン/トレオニンアルドラーゼの遺伝子を増幅した。この鋳型は、単純な細胞溶解と同時にエタノールを使用するDNA沈殿によって調製した。使用したプライマーを以下に示す:
LTAフォワード:GCTAATTCATATGACAGACAAGAGCCAACAATTCGCCAGC
LTAリバース:TACGATTAAGCTTTTATTAGCCACCAATGATCGTGCGGATATC
[0088] この酵素は、L-アラビノース誘導性発現系の制御下に制限酵素(NdeI,HindIII)を使用して、低コピーベクター中へクローン化した。
【0083】
酵素発現:
[0089] プラスミド含有L-TA1を大腸菌(E. coli)BL21(DE3)中へ形質転換して、含有50μg/mLカナマイシンを含有するLBプレート上でのプレート培養によって選択した。単一のコピーを摘出して、カナマイシンを含有する15mLの無菌LB培地中へ接種した。この培養物を振り混ぜながら37℃で一晩インキュベートした。翌日、50mMのグルコースと50μg/mLのカナマイシンを含有する1Lのテリフィック培地(Terrific Broth medium)にこの15mLの一晩培養液を接種した。この培養液を37℃で4時間振り混ぜながら増殖させて、0.2% L-アラビノースを加えることによってこの酵素の発現を誘導した。誘導後、この培養液を30℃での振り混ぜに移して、一晩インキュベートした。翌日、この培養液を、4℃で30分間、5,000gで遠沈させることによって収穫した。この細胞ペレットを0.9%無菌NaClで洗浄して、同じ条件下で再びペレット化した。この細胞ペレットは、さらなる使用まで、-20℃で凍結させた。
【0084】
アミノ酸合成:
[0090] 500mL培養液からの細胞ペレットを室温で融解して、30mLの50mM Na2HPO4緩衝液(pH8)に再懸濁させた。この細胞懸濁液を、音波破砕を使用して溶解した。4℃で30分間、15,000gで細胞残滓をペレット化した。アミノ酸合成のために、この溶解液を、1Mの各アミノ酸、20% DMSO、及び300mMのノルボルネン-カルボキシアルデヒドを含有する100mM Na2HPO4緩衝液(pH7)と1:7で混合する。この反応混合物を30℃で16時間インキュベートする。生じる白色の沈殿を8,000gで30分間の遠心分離によって収穫して、凍結乾燥によって乾燥させて、当該アミノ酸を得る。
【0085】
[0091] ノルボルネン担持アミノ酸は、例えば、ヒト成長ホルモン、副甲状腺ホルモン、又は蛍光タンパク質の中へ組み込まれる。
共溶媒スクリーニング:
[0092] 上記に記載のように細胞溶解液を調製した。共溶媒スクリーニングは、1.5mLエッペンドルフ(Eppendorf)チューブにおいて実施した。この成分は、以下の順序で加えた:50mM Na2HPO4緩衝液(pH8.0)、共溶媒、アルデヒド、及び溶解液。反応混合物の組成は、表1に要約される。10%及び20%(v/v)の以下の共溶媒について試験した:アセトン、アセトニトリル、ブタン-1-オール、tert-ブタノール、1,4-ジオキサン、DMSO、エタノール、酢酸エチル、エチレングリコール、グリセロール、THF、及びトルエン。
【0086】
[0093] 表2-共溶媒スクリーニング用の反応混合物の組成
【0087】
【0088】
[0094] 生成した沈殿を13,000rpmで10分間遠沈させた。次いで、この上清をデカントして、このエッペンドルフチューブ(Eppis)を再び13,000rpmで10分間遠沈させた。残余の上清をピペットで除去した。ペレットを凍結乾燥させた。この目的のために、凍結乾燥器は-53℃まで予冷却して、試料は-20℃で凍結した。次いで、この試料を真空中に2時間置いた。この後で、ラック温度を40℃へ高めて、乾燥を20時間開始した。この収率は、明らかに、使用する共溶媒に左右された(図面1を参照のこと)。
【0089】
[0095] 生成産物の立体化学的分布は、その酵素だけでなく、使用される共溶媒によっても制御することができる。tert-ブタノールの場合、HPLC-UV/HPLC-MS分析によって入手される主要分子種(OPA/N-アセチル-L-システイン(NAC)プレカラム誘導化)は、その主要分子種について85%の立体化学分布であることが明らかになった。
【0090】
ノルボルネンアミノ酸の緑色蛍光タンパク質レポーターへの組込み
[0096] 古細菌(メタノサルキナ属(Methanosarcina)又はメタノカルドコッカス属(Methanocaldococcus)、他のような)由来ピロリシル-tRNAシンテターゼである、野生型ピロリシル-tRNAシンテターゼより入手される変異体ピロリシル-tRNAシンテターゼ、及び/又は変異体ピロリシル-tRNAシンテターゼは、ピロリジンtRNAをアミノアシル化し、本明細書に記載されるようなアミノ酸を組み込む。この変異体ピロリシル-tRNAシンテターゼは、構造情報に基づく(structure guided)部位飽和突然変異誘発又は指向性進化法又はそれらの組合せのような、最先端のタンパク質工学技術によって産生した。また、遺伝子シャッフリングのような他の技術も可能であろう。
【0091】
[0097] p15a複製起点、正しいフレームのアンバー終止コドンを39位のアミノ酸に担う緑色蛍光タンパク質レポーターの変異体[Y39X]、並びにN末端ヘキサヒスチジンタグ、及びカナマイシン耐性遺伝子を収容する発現ベクターの中へ、変異体ピロリシル-tRNAシンテターゼと対応するアンバーサプレッサーピロリジンtRNAを導入した。この変異体ピロリシル-tRNAシンテターゼをアラビノース誘導性プロモーターより発現させて、サプレッサーピロリジンtRNAは、この目的のために通常使用される恒常的プロモーターより発現させた。
【0092】
[0098] 上記に記載の発現ベクターを収容する大腸菌(E. coli)細胞を、50mLのM9最小培地を50μg/mLのカナマイシン(Roth)とC供給源としての1~2%のグルコースとともにそれぞれ含有する250mLフラスコにおいて培養した。培養液をオービタルシェーカー上にて160~180rpm、37℃でインキュベートした。0.8~1.0のD600のときに、0.2%(w/v)のアラビノース(Roth)を添加することによって、このPylRSの発現を誘導した。加えて、5~10mMのNorIを1M NaOHに溶かした。4~24時間の間で発現を行った(温度は、標的酵素に依拠して調整することができる;eGFPでは37℃)。遠心分離(5,000g,4℃で30分間)によって細胞を収穫した。eGFP変異体は、製造業者の使用説明書に従ってNi-NTAアガロースを使用するNi2+-アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。
【0093】
[0099] NorIを担う精製済みeGFP変異体を、6-メチル-テトラジン-5-TAMRAのようなテトラジン担持蛍光色素を反応パートナーとして適用するコンジュゲーションケミストリーによって修飾した。100mM MES緩衝液(pH6)において反応を実施して、4~24時間の間インキュベートした。製造業者の使用説明書に従って、TAMRA標識化eGFP試料をプレキャスト型(pre-casted)SDSゲル上で分離した。標準手順に従って、このゲルをUV光に曝露してTAMRA蛍光を検出した後でクマッシーブルーで染色した。eGFPの予測サイズにあるバンド(約28kDa、図面2を参照のこと)を切り出した。
【0094】
[00100] NorI化合物、並びにTAMRA修飾の存在について、タンデム質量分析法によるペプチド配列決定法によって確認した。成功裡のTAMRA修飾についても、TAMRA蛍光のシグナルをeGFPのサイズに得ることによって確認した。