(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】液滴吐出器
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20221104BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
B41J2/14 613
B41J2/14 501
B41J2/14 305
B41J2/14 611
B41J2/14 607
B41J2/16 305
B41J2/16 401
(21)【出願番号】P 2021153980
(22)【出願日】2021-09-22
(62)【分割の表示】P 2019538316の分割
【原出願日】2017-09-19
【審査請求日】2021-10-21
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520324628
【氏名又は名称】スリーシー プロジェクト マネージメント リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【氏名又は名称】大野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】マカヴォイ,グレゴリー ジョン
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-205815(JP,A)
【文献】特開2008-265183(JP,A)
【文献】特開2001-347655(JP,A)
【文献】特開2006-281763(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0228011(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/14
B41J 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの駆動回路と、
前記駆動回路に電気的に接続された電子回路と、
流体を貯蔵する流体チャンバと、
第1および第2の電極の間に設けられた圧電体を有する圧電アクチュエータと、を備え、
前記第1および第2の電極のうちの少なくとも1つは、前記少なくとも1つの駆動回路に接続され、
前記駆動回路は、前記電子回路よりも前記圧電アクチュエータに対して近接した位置に設けられ、
前記駆動回路は、前記電子回路からの入力に基づいて前記第1および第2の電極のうちの少なくとも1つに電圧を印加して前記圧電アクチュエータの変形を誘起し、前記流体チャンバ内の流体を吐出
し、
前記圧電体が450℃よりも低い温度において処理可能な1つまたは複数の圧電材料を含む液滴吐出器。
【請求項2】
前記駆動回路は、前記電子回路と離間している請求項1記載の液滴吐出器。
【請求項3】
基板を備え、
前記駆動回路は基板上に設けられている請求項1又は2記載の液滴吐出器。
【請求項4】
前記電子回路は前記駆動回路と同一の基板上に設けられている請求項1から3のいずれか一項記載の液滴吐出器。
【請求項5】
前記基板上の少なくとも一部分に設けられたノズル形成層と、
前記ノズル形成層を貫通する配線接続部を備え、
前記駆動回路は、前記配線接続部を通して前記第1および第2の電極の少なくとも1つに電圧を印加する請求項3又は4記載の液滴吐出器。
【請求項6】
前記駆動回路は、第1の駆動回路および第2の駆動回路を備え、
前記第1の駆動回路は前記第1の電極に接続され、前記第2の駆動回路は前記第2の電極に接続され、
前記第1の駆動回路は前記第2の駆動回路よりも前記流体チャンバに近い位置に設けられている請求項1から5のいずれか一項記載の液滴吐出器。
【請求項7】
前記ノズル形成層は、電気相互接続層を備え、
前記電子回路は前記電気相互接続層を介して、前記駆動回路に電気的に接続される請求項
5に記載の液滴吐出器。
【請求項8】
前記第1および第2の電極のうちの少なくとも1つは、電気相互接続層を介して、前記少なくとも1つの駆動回路に電気的に接続されている請求項7に記載の液滴吐出器。
【請求項9】
前記1つまたは複数の圧電材料はPVD堆積された圧電材料である請求項
1から8のいずれか一項記載の液滴吐出器。
【請求項10】
前記1つまたは複数の圧電材料は窒化アルミニウムおよび/または酸化亜鉛を含む請求項
1から9のいずれか一項記載の液滴吐出器。
【請求項11】
前記電子回路及び前記駆動回路はCMOS駆動回路を含む請求項
1から10のいずれか一項記載の液滴吐出器。
【請求項12】
共通基板を共有する請求項1から
11のいずれか一項記載の液滴吐出器を複数備えるプリントヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリントヘッドのための液滴吐出器、液滴吐出器を備えるプリントヘッド、
プリントヘッドのための液滴吐出器を製造するための方法、および液滴吐出器を備えるプ
リントヘッドを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、印刷媒体(紙など)の上にインクの液滴を噴射することに
よって、デジタル画像を媒体上に再現するために使用される。多くのインクジェットプリ
ンタは、プリントヘッドのインクジェットノズルからの個々のインク液滴の順次の吐出が
制御される「ドロップオンデマンド」技術を内蔵する。インク液滴は、媒体に固着するの
に十分な運動量で吐出される。各液滴は、与えられた駆動信号に従って吐出され、このこ
とは、ドロップオンデマンドインクジェットプリンタを、微細なノズルを通じてインクを
圧送することによってインク液滴の連続的な流れが生成される連続的なインクジェットデ
バイスから区別している。
【0003】
最も商業的に成功した2つのドロップオンデマンド技術は、熱インクジェットプリンタ
および圧電インクジェットプリンタである。熱インクジェットプリンタは、印刷流体が、
水などの揮発性成分を含むことを必要とする。加熱要素が、プリントヘッド内の揮発性流
体における気泡の自発的な核生成を生じさせ、ノズルを通じて流体の液滴を吐出させる。
圧電インクジェットプリンタは、代わりに、流体チャンバの壁内に圧電アクチュエータを
内蔵する。圧電要素の変形によって圧電アクチュエータの撓みが生じ、流体チャンバ内に
貯蔵された印刷流体において圧力変化を誘起し、それによってノズルを通じて液滴を吐出
させる。
【0004】
熱インクジェットプリンタは、(流体が適切な揮発性を発揮しなければならないので)
非常に少量の印刷流体を噴射するためにのみ使用可能である。熱インクジェットプリンタ
は、コゲーション(kogation)の問題があり、乾燥したインクの残余が加熱要素
に堆積し、それらの使用可能な耐用年数を短縮させる。
【0005】
圧電インクジェットプリンタは、広範な流体とともに使用可能であり、コゲーションの
問題がないため、熱インクジェットプリンタよりも長い動作耐用年数を有する。しかしな
がら、既存の圧電技術では、典型的には、熱インクジェットプリントヘッドに比べて、各
プリントヘッド当たりに非常に小さなノズル数しか達成できない。圧電プリントヘッドは
、典型的には、流体における圧力波を通じて隣接する圧電アクチュエータおよび流体チャ
ンネルが互いに相互作用を起こす音響的クロストーク問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プリントヘッド上の隣接する圧電液滴吐出器の間での音響的クロストークを
減少し、より大きなノズル数が達成されることを可能にする、プリントヘッドのための向
上した圧電液滴吐出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、プリントヘッドのための液滴吐出器を提供する。液滴吐出器は
、典型的には、装着面および反対側のノズル面を有する基板と、基板と一体化された(例
えば、駆動回路の)少なくとも1つの電子コンポーネントと、基板のノズル面の少なくと
も一部分に形成されたノズル形成層と、少なくとも一部基板によって、および少なくとも
一部ノズル形成層によって画定された流体チャンバであって、少なくとも一部前記ノズル
形成層のノズル部分によって画定された流体チャンバ出口を有する流体チャンバと、ノズ
ル形成層のノズル部分の少なくとも一部分に形成された圧電アクチュエータと、圧電アク
チュエータおよびノズル形成層を覆う保護層と、を備える。圧電アクチュエータは、典型
的には、第1および第2の電極の間に設けられた圧電体を備える。前記第1および第2の
電極のうちの少なくとも1つは、典型的には、(例えば、駆動回路の)少なくとも1つの
電子コンポーネントに電気的に接続される。圧電体は、典型的には、450℃よりも低い
温度において処理可能な1つまたは複数の圧電材料を含む(例えば、それらから形成され
る)。
【0008】
300℃を超えると、一体化された電子コンポーネント(例えば、CMOS電子コンポ
ーネント)は、典型的には、劣化し始め、デバイスの動作を損ない、効率を低下させる。
450℃を超えると、一体化された電子コンポーネント(例えば、CMOS電子コンポー
ネント)は、典型的には、更に大幅に劣化する。従って、450℃よりも低い温度におい
て処理可能な圧電材料の使用は、前記少なくとも1つの電子コンポーネントに重大な損傷
を与えることなく圧電アクチュエータを処理し、(例えば、駆動回路の)少なくとも1つ
の電子コンポーネントと一体化することを可能にする。
【0009】
圧電体は、300℃よりも低い温度において処理可能な1つまたは複数の圧電材料を含
んでよい(例えば、それらから形成されてよい)。300℃よりも低い温度において処理
可能な圧電材料の使用は、前記少なくとも1つの電子コンポーネントへの損傷を更に減ら
しつつ圧電アクチュエータを処理し、(例えば、駆動回路の)少なくとも1つの電子コン
ポーネントと一体化することを可能にする。300℃よりも低い温度において処理可能な
圧電材料の使用は、典型的には、単一の基板での(例えば、単一の基板ウエハからの)複
数の流体吐出器の大量生産から機能デバイスのより大きな歩留まりが達成されることを可
能にする。
【0010】
圧電アクチュエータを少なくとも1つの電子コンポーネント(例えば駆動電子装置)と
一体化することによって、別個の液滴吐出器駆動電子装置(典型的には、既存のデバイス
においては、任意の圧電プリントヘッドマイクロチップとは別個に提供される)を提供す
る必要性が減少または排除される。従って、多くの液滴吐出器が、1つのチップ上で近接
して一体化され得、チップ当たりのノズル数を増加させ、プリントヘッドの包括的サイズ
を減少させ、既存の圧電プリントヘッドにおいて達成可能だったプリントヘッドノズルの
密度より大きなプリントヘッドノズルの密度を可能にする。単一のプリントヘッドチップ
上での一体化に関連する他の利点には、最終的な製造コストの減少、モジュール化、デバ
イスの信頼性などがある。
【0011】
450℃よりも低い(または300℃よりも低い)温度で処理可能な圧電材料は、典型
的には、より高い温度での処理を必要とする圧電材料よりも圧電特性が低い(例えば、圧
電定数がより低い)。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの高温処理可能な圧
電材料から形成された圧電アクチュエータは、他の要因が全て等しいとき、窒化アルミニ
ウム(AlN)などの低温処理可能な圧電材料から形成された圧電アクチュエータよりも
一桁大きい力を発揮することができる。
【0012】
しかしながら、発明者は、(既存の液滴吐出器に見られるように流体チャンバ出口から
遠くに離れて設けられる流体チャンバの壁にではなく)ノズル形成層のノズル部分に圧電
アクチュエータを提供することによって、低温処理可能な圧電材料の使用が可能になる程
に液滴吐出器の液滴吐出効率が十分に向上され得ることを見出した。低温処理可能な圧電
材料の使用を可能にするのは本発明における液滴吐出器の特定の構造であり、それ自体が
駆動電子装置との液滴吐出器の一体化を可能にする。
【0013】
特には、第1および第2の電極の間への電場の印加は、典型的には、圧電アクチュエー
タの変形を誘起し、これは、ノズル形成層のノズル部分の著しく減衰された振動をもたら
す。ノズル形成層のノズル部分の振動は、流体チャンバ内の振動圧力場をもたらし、流体
チャンバ出口を通った液滴の吐出を駆動する。(流体チャンバ出口から遠くに離れて設け
られる流体チャンバの壁を変位させるのではなく)ノズル形成層のノズル部分を変位させ
ることによって、流体の液滴の吐出のために必要となるのは比較的小さな流体圧力、故に
比較的小さな作動力になり、それによって、より低い圧電定数を有する低温処理可能な圧
電材料の使用が容易になる。
【0014】
低温処理可能な圧電材料を含む圧電アクチュエータによって発揮される力は(高温処理
可能な圧電材料を含む圧電アクチュエータを使用するデバイスに比べて)比較的小さく、
故に、達成される流体圧力が比較的小さいので、プリントヘッドの隣接する流体チャンバ
の間での(プリントヘッドを通じて伝播する音響波による)音響的クロストークは減少さ
れる。圧力が低いことで流体の圧縮率が減少し、音響的クロストークが発生することが少
なくなる。より低い響的クロストークレベルは、印刷品質の低下を伴うことなく、プリン
トヘッド上の隣接した液滴吐出器の更に近接した一体化を可能にする。
【0015】
圧電材料の処理は、典型的には、前記圧電材料の堆積を含む。圧電材料の処理は、堆積
後に圧電材料の更なる処理(すなわち、堆積された圧電材料の堆積後処理、または「後処
理」)も含んでよい。圧電材料の処理は、圧電材料の焼きなまし(すなわち、堆積後の)
を含んでよい。
【0016】
450℃よりも低い(または300℃よりも低い)温度において処理可能な圧電材料は
、典型的には、450℃よりも低い(または300℃よりも低い)温度において堆積可能
な圧電材料である。450℃よりも低い(または300℃よりも低い)温度において処理
可能な圧電材料は、典型的には、450℃またはそれよりも高い(または300℃または
それより高い)温度における如何なる堆積後処理(堆積後焼きなましなど)も必要としな
い。従って、典型的には、450℃よりも低い(または300℃よりも低い)温度におい
て処理可能な圧電材料は、(すなわち、圧電体を圧電性にするために圧電材料の焼きなま
しが必要であるなら)、450℃よりも低い(または300℃よりも低い)温度において
(堆積の後に)焼きなまし可能な圧電材料である。
【0017】
1つまたは複数の圧電材料は、典型的には、圧電アクチュエータが450℃よりも低い
(または300℃よりも低い)温度において製造可能であるように、450℃よりも低い
(または300℃よりも低い)温度において処理可能(例えば、堆積可能、および必要で
あるなら焼きなまし可能)である。450℃よりも低い(または300℃よりも低い)温
度における圧電アクチュエータの製造は、基板と一体化された少なくとも1つの電子コン
ポーネントとの圧電アクチュエータの一体化を可能にする。
【0018】
従って、典型的には、圧電体は、450℃よりも低い(または300℃よりも低い)温
度において、(例えば、1つまたは複数の圧電材料の堆積、および必要であるなら焼きな
ましによって)形成可能である。
【0019】
1つまたは複数の圧電材料は、典型的には、450℃よりも低い(または300℃より
も低い)基板温度において処理可能(例えば、堆積可能、および必要であるなら焼きなま
し可能)である。換言すれば、基板の温度は、典型的には、1つまたは複数の圧電材料の
処理(例えば、堆積、および必要であるなら焼きなまし)中に、450℃(または300
℃)に達することはなく、またはそれを超えることはない。基板の温度は、典型的には、
圧電体の形成中に、450℃(または300℃)に達することはなく、またはそれを超え
ることはない。基板の温度は、典型的には、圧電アクチュエータの製造中に、450℃(
または300℃)に達することはなく、またはそれを超えることはない。基板の温度は、
(例えば、全体的な)液滴吐出器の製造中に、450℃(または300℃)に達すること
はなく、またはそれを超えることがなくてよい。
【0020】
圧電体は、典型的には、1つまたは複数の(例えば、低温)物理気相堆積(PVD:p
hysical vapour deposition)方法によって、堆積可能である
(例えば、堆積される)。圧電体は、典型的には、450℃よりも低い(または、より好
ましくは300℃よりも低い)温度において(すなわち、基板温度において)、1つまた
は複数の(例えば、低温)物理気相堆積方法によって、堆積可能である(例えば、堆積さ
れる)。
【0021】
圧電体は、1つまたは複数の(例えば、低温)PVD堆積可能圧電材料を含んでよい(
例えば、それらから形成されてよい)。圧電体は、1つまたは複数の(例えば、低温)P
VD堆積された圧電材料を含んでよい(例えば、それらから形成されてよい)。
【0022】
物理気相堆積方法(例えば、低温物理気相堆積方法)は、以下の堆積方法、すなわち、
陰極アーク堆積、電子ビーム物理気相堆積、蒸発堆積、パルスレーザー堆積、スパッタ堆
積のうちの1つまたは複数を含んでよい。スパッタ堆積は、単一のまたは複数のスパッタ
リング目標からの材料のスパッタリングを含んでよい。
【0023】
1つまたは複数の圧電材料は、典型的には、450℃よりも低い(または300℃より
も低い)堆積温度を有する。1つまたは複数の圧電材料は、450℃よりも低い(または
300℃よりも低い)PVD堆積温度を有してよい。1つまたは複数の圧電材料は、45
0℃よりも低い(または300℃よりも低い)スパッタリング温度を有してよい。1つま
たは複数の圧電材料は、450℃よりも低い(または300℃よりも低い)堆積後焼きな
まし温度を有してよい。堆積温度、PVD堆積温度、スパッタリング温度または焼きなま
し温度は、典型的には、それぞれの処理中の基板の温度であることは理解されよう。
【0024】
圧電体は、1つの圧電材料を含んでよい(例えば、それから形成されてよい)。代替的
に、圧電体は、2つ以上の圧電材料を含んでよい(例えば、それらから形成されてよい)
。
【0025】
圧電体は、アルミニウムおよび窒素、ならびに、任意選択で、スカンジウム、イットリ
ウム、チタニウム、マグネシウム、ハフニウム、ジルコニウム、スズ、クロム、ホウ素か
ら選択される1つまたは複数の元素を含むセラミック材料を含んでよい(例えば、それか
ら形成されてよい)。
【0026】
圧電体は、窒化アルミニウム(AlN)を含んでよい(例えば、それから形成されてよ
い)。
【0027】
圧電体は、酸化亜鉛(ZnO)を含んでよい(例えば、それから形成されてよい)。
【0028】
1つまたは複数の圧電材料は、窒化アルミニウムおよび/または酸化亜鉛を含んでよい
(例えば、それからなってよい)。
【0029】
窒化アルミニウムは、純粋な窒化アルミニウムからなってよい。代替的に、窒化アルミ
ニウムは、1つまたは複数の元素を含んでよい(すなわち、窒化アルミニウムは、窒化ア
ルミニウム化合物を含んでよい)。窒化アルミニウムは、以下の元素、すなわち、スカン
ジウム、イットリウム、チタニウム、マグネシウム、ハフニウム、ジルコニウム、スズ、
クロム、ホウ素のうちの1つまたは複数を含んでよい。
【0030】
圧電体は、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)を含んでよい(例えば、それ
から形成されてよい)。窒化スカンジウムアルミニウムにおけるスカンジウムのパーセン
テージは、典型的には、製造性の限界以内でd31圧電定数を最適化するように選ばれる
。例えば、ScxAl1-xNにおけるxの値は、典型的には、0<x≦0.5の範囲か
ら選ばれる。スカンジウムの割合が大きくなると、典型的には、より大きなd31の値(
すなわちより強い圧電効果)がもたらされる。窒化スカンジウムアルミニウムにおけるス
カンジウムの質量パーセント(すなわち、重量パーセント)は、典型的には、5%より大
きい。窒化スカンジウムアルミニウムにおけるスカンジウムの質量パーセント(すなわち
、重量パーセント)は、典型的には、10%より大きい。窒化スカンジウムアルミニウム
におけるスカンジウムの質量パーセント(すなわち、重量パーセント)は、典型的には、
20%より大きい。窒化スカンジウムアルミニウムにおけるスカンジウムの質量パーセン
ト(すなわち、重量パーセント)は、典型的には、30%より大きい。窒化スカンジウム
アルミニウムにおけるスカンジウムの質量パーセント(すなわち、重量パーセント)は、
典型的には、40%より大きい。窒化スカンジウムアルミニウムにおけるスカンジウムの
質量パーセント(すなわち、重量パーセント)は、50%未満であるかまたはそれに等し
くてよい。
【0031】
窒化アルミニウム化合物(および、特には、窒化スカンジウムアルミニウム)を含む窒
化アルミニウムならびに酸化亜鉛は、450℃よりも低い、またはより好ましくは300
℃よりも低い温度で堆積され得る圧電材料である。窒化アルミニウム化合物(および、特
には、窒化スカンジウムアルミニウム)を含む窒化アルミニウムならびに酸化亜鉛は、4
50℃よりも低い、またはより好ましくは300℃よりも低い温度で、物理気相堆積(例
えば、スパッタリング)によって堆積され得る圧電材料である。窒化アルミニウム化合物
(および、特には、窒化スカンジウムアルミニウム)を含む窒化アルミニウムならびに酸
化亜鉛は、堆積後の焼きなましを典型的には必要としない圧電材料である。
【0032】
圧電体は、450℃よりも低い、またはより好ましくは300℃よりも低い温度での物
理気相堆積によって堆積された窒化アルミニウム(例えば、窒化アルミニウム化合物、例
えば、窒化スカンジウムアルミニウム)および/または酸化亜鉛を含んでよい(例えば、
それらから形成されてよい)。
【0033】
圧電体は、1つまたは複数のIII-V族および/またはII-VI族半導体(すなわ
ち、周期表のIII族およびV族ならびに/またはII族およびVI族からの元素を含む
化合物半導体)を含んでよい(例えば、それらから形成されてよい)。このようなIII
-V族およびII-VI族半導体は、典型的には、六角ウルツ鉱結晶構造(hexago
nal wurtzite crystal structure)に結晶化する。六角
ウルツ鉱結晶構造に結晶化したIII-V族およびII-VI族半導体は、典型的には、
それらの非中心対称性の結晶構造のせいで圧電性である。
【0034】
圧電体は、非強誘電性圧電材料を含んでよい(例えば、それから形成されてよく、また
はそれからなってよい)。1つまたは複数の圧電材料は、1つまたは複数の非強誘電性圧
電材料であってよい。強誘電性材料は、典型的には、印加された強い電場の下での、(す
なわち、堆積後)極性調整を必要とする。非強誘電性圧電材料は、典型的には、極性調整
を必要としない。
【0035】
圧電体は、典型的には30pC/N未満の、または、より典型的には20pC/N未満
の、または、更により典型的には10pC/N未満の大きさを有する圧電定数d31を有
する。1つまたは複数の圧電材料は、典型的には30pC/N未満の、または、より典型
的には20pC/N未満の、または、更により典型的には10pC/N未満の大きさを有
する圧電定数d31を有する。
【0036】
1つまたは複数の圧電材料は、典型的には、CMOS適合性である。このことによって
、1つまたは複数の圧電材料は、典型的にはCMOS電子構造に損傷を与える物質を含む
ものではないこと、または、典型的にはそのような物質を使用することなく処理可能(例
えば、堆積可能、および必要であるなら焼きなまし可能)であることが理解されよう。例
えば、1つまたは複数の圧電材料の処理(例えば、堆積、および必要であるなら焼きなま
し)は、典型的には、(塩酸などの)酸(例えば、強酸)および/または(水酸化カリウ
ムなどの)アルカリ(例えば、強アルカリ)の使用を含まない。
【0037】
ノズル形成層は、ノズルプレートを備えてよい。ノズルプレートは、材料の単一の層か
らなってよい。代替的に、ノズルプレートは、(例えば、異なる)材料の2つ以上の層の
積層構造からなってよい。ノズルプレートは、典型的には、およそ70GPaからおよそ
300GPaの間のヤング係数(すなわち、引張弾性係数)をそれぞれ有する1つまたは
複数の材料から形成される。ノズルプレートは、二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(S
i3N4)、炭化珪素(SiC)、酸窒化珪素(SiOxNy)のうちの1つまたは複数
から形成されてよい。
【0038】
ノズル形成層は、電気相互接続層を備えてよい。電気相互接続層は、典型的には、電気
絶縁体によって包囲された1つまたは複数の電気接続部(例えば、電気配線)を備える。
1つまたは複数の電気接続部(例えば、電気配線)は、典型的には、金属または金属合金
から形成される。適切な金属としては、アルミニウム、銅、タングステン、およびそれら
の合金がある。電気絶縁体は、典型的には、二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(Si3
N4)、または酸窒化珪素(SiOxNy)などの誘電材料から形成される。
【0039】
電気相互接続層は、基板とノズルプレートとの間に設けられてよい(例えば、形成され
てよい)。電気相互接続層は、基板の第2の面上に設けられてよく(例えば、形成されて
よく)、ノズルプレートは、電気相互接続層上に設けられてよい(例えば、形成されてよ
い)。ノズルプレートは、電気相互接続層への電気接続部がそれらを通って形成され得る
1つまたは複数の開口を備えてよい。
【0040】
電気相互接続層のノズル部分は、ノズル形成層のノズル部分の少なくとも一部を形成し
てよい。電気相互接続層のノズル部分は誘電材料からなってよい。代替的に、電気相互接
続層は、ノズル形成層のノズル部分の一部を形成しなくてよい。
【0041】
第1および第2の電極は、典型的には、金属(チタニウム、プラチナ、アルミニウム、
タングステンまたはそれらの合金など)の1つまたは複数の層を備える。第1および第2
の電極は、典型的には、450℃よりも低い(または、より典型的には、300℃よりも
低い)温度において(すなわち、基板温度において)、(例えば、低温)PVDによって
堆積される。
【0042】
第1の電極は、少なくとも1つの電子コンポーネントに電気的に接続されてよい。第2
の電極は、少なくとも1つの電子コンポーネントに電気的に接続されてよい。第1および
第2の電極の両方は、少なくとも1つの電子コンポーネントに電気的に接続されてよい。
【0043】
液滴吐出器は、駆動回路を備えてよい。駆動回路は、典型的には、基板と一体化される
。少なくとも1つの電子コンポーネントは、典型的には、駆動回路の一部を形成する。第
1および第2の電極のうちの少なくとも1つは、駆動回路に電気的に接続されてよい。第
1の電極は、駆動回路に電気的に接続されてよい。第2の電極は、駆動回路に電気的に接
続されてよい。第1および第2の電極の両方は、駆動回路に電気的に接続されてよい。
【0044】
少なくとも1つの電子コンポーネントは、第1および第2の電極の間に、(例えば、可
変的な)電位差(すなわち、電圧)を、(すなわち、使用中に)提供するように構成され
てよい。少なくとも1つの電子コンポーネントは、第1および第2の電極の間の電位差(
すなわち、電圧)を、(すなわち、使用中に)変化させるように構成されてよい。
【0045】
駆動回路は、第1および第2の電極の間に、(例えば、可変的な)電位差(すなわち、
電圧)を、(すなわち、使用中に)提供するように構成されてよい。駆動回路は、第1お
よび第2の電極の間の電位差(すなわち、電圧)を、(すなわち、使用中に)変化させる
ように構成されてよい。
【0046】
少なくとも1つの電子コンポーネントは、少なくとも1つの能動電子コンポーネント(
例えば、トランジスタ)を備えてよい。追加的にまたは代替的に、少なくとも1つの電子
コンポーネントは、少なくとも1つの受動電子コンポーネント(例えば、抵抗器)を備え
てよい。
【0047】
少なくとも1つの電子コンポーネントは、基板と一体化された少なくとも1つのCMO
S(すなわち、相補型金属酸化物半導体:complementary metal-o
xide-semiconductor)電子コンポーネントを備えてよい。
【0048】
駆動回路は、基板と一体化されたCMOS回路(例えば、CMOS電子装置)を備えて
よい。
【0049】
CMOS電子コンポーネント(例えば、CMOS回路の一部を形成するCMOS電子コ
ンポーネント、すなわちCMOS電子装置)は、典型的には、標準的なCMOS製造方法
によって基板上に形成(例えば、成長)される。例えば、一体化されたCMOS電子コン
ポーネントは、以下の方法、すなわち、物理気相堆積、化学気相堆積、電気化学堆積、分
子線エピタキシー、原子層堆積、イオン注入、フォトパターニング、反応性イオンエッチ
ング、プラズマ照射のうちの1つまたは複数によって堆積されてよい。
【0050】
保護層は、典型的には、圧電アクチュエータおよびノズル形成層の上に形成される。保
護層は、典型的には、圧電アクチュエータおよびノズル形成層を覆う。保護層は、典型的
には、化学的に不活性であり、不浸透性であり、および/または流体撥水性(fluid
-repellent)である。保護層は、低いヤング係数(すなわち、引張弾性係数)
を有するべきである。保護層は、ノズル形成層(および、特には、ノズルプレート)およ
び/または圧電体のヤング係数よりも実質的に小さなヤング係数を有するべきである。保
護層は、典型的には、50GPa未満のヤング係数を有する。保護層は、ポリイミドまた
はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの1つまたは複数の高分子材料から、も
しくはダイヤモンド状炭素(DLC)から形成されてよい。
【0051】
液滴吐出器は、典型的には、一体式である。液滴吐出器は、典型的には、一体化される
(すなわち、一体型液滴吐出器)。基板、ノズル形成層、圧電アクチュエータ、流体チャ
ンバ、(例えば、駆動電子装置の)少なくとも1つの電子コンポーネント、および保護層
は、典型的には、一体化(すなわち、互いに対して)される。液滴吐出器は、典型的には
、基板、ノズル形成層、圧電アクチュエータ、(例えば、駆動電子装置の)少なくとも1
つの電子コンポーネント、および保護層を、1つまたは複数の堆積処理を通じて一体的に
形成することによって製造される。液滴吐出器は、典型的には、1つまたは複数の個別に
形成されたコンポーネント(例えば、個別に形成された基板、ノズル形成層、圧電アクチ
ュエータ、電子コンポーネントおよび/または保護層)を一緒に接合することによって製
造されるものではない。
【0052】
基板の装着面は、流体入口開口を備えてよい。流体入口開口は、典型的には、流体チャ
ンバと流体連通する。
【0053】
流体チャンバは、実質的に細長くてよい。流体チャンバは、典型的には、基板の装着面
からノズル面まで延在する。流体チャンバは、典型的には、装着面および/またはノズル
面に対して実質的に垂直な方向に沿って延在する。
【0054】
流体チャンバは、基板の平面を通るその断面が実質的に円形状であってよい。流体チャ
ンバは、基板の平面を通るその断面が実質的に多角形状であってよい(例えば、流体チャ
ンバはその断面が実質的に矩形状であってよい)。流体チャンバは、基板の平面を通るそ
の断面が多面的であってよい。
【0055】
流体チャンバは、その形状が実質的に角柱状であってよい。実質的に角形状の流体チャ
ンバの長手軸は、典型的には、装着面および/またはノズル面に対して実質的に垂直な方
向に沿って延在する。
【0056】
流体チャンバは、その形状が実質的に筒状であってよい。実質的に筒状のチャンバの長
手軸は、典型的には、装着面および/またはノズル面に対して実質的に垂直な方向に沿っ
て延在する。
【0057】
ノズル形成層のノズル部分は、典型的には、流体チャンバを横切って延在するノズル形
成層の部分であり、それによって、流体チャンバの少なくとも1つの壁を形成する。
【0058】
ノズル形成層のノズル部分は、典型的には、基板を越えて突出し、従って、基板とは独
立して屈曲可能である。
【0059】
ノズル形成層のノズル部分は、実質的に環状であってよい。
【0060】
ノズル形成層のノズル部分の周辺部は、実質的に多角形状であってよい。ノズル形成層
のノズル部分の周辺部は、実質的に多面的であってよい。ノズル形成層のノズル部分は、
典型的には、開口を備える。開口は、実質的に円形状であってよい。開口は、実質的に多
角形状であってよい。開口は、多面的であってよい。
【0061】
ノズル形成層のノズル部分(すなわち、流体チャンバを横切って延在し、それによって
流体チャンバの少なくとも1つの壁を形成するノズル形成層の部分)は、基板の平面にお
けるその断面において流体チャンバの形状に実質的に類似するように付形されてよい。例
えば、流体チャンバが実質的に筒状(すなわち、その断面が実質的に円形状)であるとき
、ノズル形成層のノズル部分の周辺部は、実質的に円形状である。
【0062】
プリントヘッドは、インクジェットプリントヘッドであってよい。液滴吐出器は、イン
クジェットプリントヘッドのための(例えば、インクジェットプリントヘッドにおける使
用のために構成された)液滴吐出器であってよい。液滴吐出器は、インクジェット液滴吐
出器であってよい。
【0063】
プリントヘッドは、プリンテッドエレクトロニクスの製造における使用のために流体(
例えば、機能流体)を印刷するように構成されてよい。
【0064】
プリントヘッドは、生物学的流体を印刷するように構成されてよい。生物学的流体は、
典型的には、生物学的巨大分子、例えば、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチド、
微生物および/または酵素を含む。プリントヘッドは、希釈液または試薬などの、生物学
または生物工学の用途において使用される他の流体を印刷するように構成されてよい。
【0065】
プリントヘッドは、ボクセルプリントヘッド(すなわち、3D印刷、例えば、積層印刷
(additive printing)における使用のために構成されたプリントヘッ
ド)であってよい。
【0066】
本発明の第2の態様は、複数の、本発明の第1の態様による液滴吐出器を備えるプリン
トヘッドを提供する。複数の液滴吐出器は、共通基板を共有してよい。例えば、複数の液
滴吐出器は、前記共通基板上に一体化されてよい。
【0067】
プリントヘッドは、インクジェットプリントヘッドであってよい。複数の液滴吐出器の
各々は、インクジェット液滴吐出器であってよい。
【0068】
プリントヘッドは、プリンテッドエレクトロニクスの製造における使用などのために機
能流体を印刷するように構成されてよい。
【0069】
プリントヘッドは、生物学的流体を印刷するように構成されてよい。生物学的流体は、
典型的には、生物学的巨大分子、例えば、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチド、
微生物および/または酵素を含む。プリントヘッドは、希釈液または試薬などの、生物学
または生物工学の用途において使用される他の流体を印刷するように構成されてよい。
【0070】
プリントヘッドは、ボクセルプリントヘッド(すなわち、3D印刷、例えば、積層印刷
における使用のために構成されたプリントヘッド)であってよい。
【0071】
本発明の第3の態様は、プリントヘッドのための液滴吐出器を製造する方法を提供し、
方法は、第1の面および第1の面の反対側の第2の面を有する基板を提供するステップと
、基板の第2の面内にまたは基板の第2の面上に少なくとも1つの電子コンポーネントを
形成するステップと、基板の第2の面上にノズル形成層を形成するステップと、450℃
よりも低い温度において、ノズル形成層上に圧電アクチュエータを形成するステップと、
圧電アクチュエータおよびノズル形成層を覆う保護層を形成するステップと、基板におい
て流体チャンバを形成するステップと、を備える。
【0072】
圧電アクチュエータを形成するステップは、典型的には、ノズル形成層上に第1の電極
を形成するステップと、450℃よりも低い温度において、第1の電極上に1つまたは複
数の圧電材料の少なくとも1つの層を形成するステップと、1つまたは複数の圧電材料の
少なくとも1つの層上に第2の電極を形成するステップと、を備える。第1の電極を形成
するステップおよび第2の電極を形成するステップも、典型的には、450℃よりも低い
温度において実行される。
【0073】
300℃を超えると、一体化された電子コンポーネント(例えば、CMOS電子コンポ
ーネント)は、典型的には、劣化し始め、デバイスの動作を損ない、効率を低下させる。
450℃を超えると、一体化された電子コンポーネント(例えば、CMOS電子コンポー
ネント)は、典型的には、更に大幅に劣化する。従って、450℃よりも低い温度におい
て圧電アクチュエータを形成するステップ(例えば、第1の電極、1つまたは複数の圧電
材料、および第2の電極を形成するステップ)は、前記少なくとも1つの電子コンポーネ
ントに重大な損傷を与えることなく圧電アクチュエータが(例えば、駆動回路の)少なく
とも1つの電子コンポーネントと一体化することを可能にする。
【0074】
方法は、300℃よりも低い温度において、ノズル形成層上に圧電アクチュエータを形
成するステップを備えてよい。圧電アクチュエータを形成するステップは、ノズル形成層
上に第1の電極を形成するステップと、300℃よりも低い温度において、第1の電極上
に1つまたは複数の圧電材料の少なくとも1つの層を形成するステップと、1つまたは複
数の圧電材料の少なくとも1つの層上に第2の電極を形成するステップと、を備えてよい
。第1の電極を形成するステップおよび第2の電極を形成するステップも、300℃より
も低い温度において実行されてよい。300℃よりも低い温度において圧電アクチュエー
タを形成するステップ(例えば、第1の電極、1つまたは複数の圧電材料、および第2の
電極を形成するステップ)は、前記少なくとも1つの電子コンポーネントに更により小さ
な損傷しか与えずに、圧電アクチュエータが(例えば、駆動回路の)少なくとも1つの電
子コンポーネントと一体化することを可能にする。このことは、典型的には、単一の基板
ウエハでの複数の流体吐出器の大量生産から機能デバイスのより大きな歩留まりが達成さ
れることを可能にする。
【0075】
方法は、典型的には、450℃よりも低い(または300℃よりも低い)基板温度にお
いて、ノズル形成層上に圧電アクチュエータを形成するステップを備える。換言すれば、
基板の温度は、典型的には、圧電アクチュエータを形成するステップ中に、450℃に達
することはなく、またはそれを超えることはない(もしくは300℃よりも低い)。従っ
て、圧電アクチュエータを形成するステップは、典型的には、ノズル形成層上に第1の電
極を形成するステップと、450℃よりも低い(または300℃よりも低い)基板温度に
おいて、第1の電極上に1つまたは複数の圧電材料の少なくとも1つの層を形成するステ
ップと、1つまたは複数の圧電材料の少なくとも1つの層上に第2の電極を形成するステ
ップと、を備える。第1の電極を形成するステップおよび第2の電極を形成するステップ
も、典型的には、450℃よりも低い(または300℃よりも低い)基板温度において実
行される。基板の温度は、(例えば全体的な)液滴吐出器の製造中に、450℃(または
300℃)に達することはなく、またはそれを超えることがなくてよい。
【0076】
ノズル形成層を形成するステップ、保護層を形成するステップ、および流体チャンバを
形成するステップは、450℃未満の(または、より典型的には、300℃よりも低い)
温度において行われてよい。
【0077】
ノズル形成層を形成するステップは、前記ノズル形成層においてノズル開口を形成する
ステップを備えてよい。ノズル形成層は、基板の第2の面の1つまたは複数の部分に形成
されてよく、それによってノズル開口を形成してよい。代替的に、ノズル形成層が、先ず
基板の第2の面上に形成されてよく、続いて、ノズル形成層の一部分が取り除かれ、それ
によってノズル開口を形成してよい。ノズル開口は、典型的には、ノズル形成層の全厚を
貫通して(すなわち、基板の第1および/または第2の面に実質的に垂直な方向に)延在
する。
【0078】
基板において流体チャンバを形成するステップは、典型的には、基板において凹部を形
成するステップを備える。凹部(すなわち、流体チャンバ)は、基板の第1の面において
形成されてよい。凹部(すなわち、流体チャンバ)を形成するステップは、ノズル形成層
を形成するステップの後に行われてよい。凹部(すなわち、流体チャンバ)を形成するス
テップは、ノズル形成層上に圧電アクチュエータを形成するステップの後に行われてよい
。凹部(すなわち、流体チャンバ)を形成するステップは、保護層を形成するステップの
後に行われてよい。例えば、方法は、先ず、第1の面および第1の面の反対側の第2の面
を有する基板を提供するステップと、次いで、基板の第2の面内にまたは基板の第2の面
上に少なくとも1つの電子コンポーネントを形成するステップと、次いで、基板の第2の
面上にノズル形成層を形成するステップと、次いで、450℃よりも低い温度において、
ノズル形成層上に圧電アクチュエータを形成するステップと、次いで、圧電アクチュエー
タおよびノズル形成層を覆う保護層を形成するステップと、次いで、基板において流体チ
ャンバを形成するステップと、を備えてよい。
【0079】
基板において凹部(すなわち、流体チャンバ)を形成するステップは、前記凹部(すな
わち、前記流体チャンバ)を基板の全厚を貫通して(すなわち、第1の面から第2の面ま
で)形成するステップを備えてよい。基板において形成される凹部(すなわち、流体チャ
ンバ)は、典型的には、基板の全厚を貫通して(すなわち、第1の面から第2の面まで)
延在する。凹部(すなわち、流体チャンバ)は、典型的には、ノズル形成層を貫通して延
在することはない。
【0080】
凹部(すなわち、流体チャンバ)は、典型的には、基板において、ノズル形成層におけ
る開口の場所に重なる(例えば、一致する)場所に形成される。ノズル形成層の一部分(
例えば、ノズル形成層のノズル部分)は、典型的には、凹部(すなわち、流体チャンバ)
の少なくとも1つの壁を形成する。ノズル形成層のノズル部分は、典型的には、凹部(す
なわち、流体チャンバ)の一部分を横切って延在する。凹部(すなわち、流体チャンバ)
は、典型的には、ノズル開口と流体連通する。ノズル形成層におけるノズル開口は、典型
的には、ノズル形成層を貫通して、凹部(すなわち、流体チャンバ)内に延在する開口で
ある。従って、ノズル開口は、典型的には、流体チャンバ出口を画定する。流体流路は、
典型的には、第1の面から、流体チャンバを通り、開口を通って、第2の面に向かって画
定される。
【0081】
基板の第1の面は、典型的には、流体リザーバを備えるプリントヘッド支持体に装着さ
れるように構成された基板の装着面である。基板の第2の面は、典型的には、前記装着面
の反対側の基板のノズル面である。
【0082】
450℃よりも低い(または、より典型的には300℃よりも低い)温度において、圧
電アクチュエータを形成するステップは、450℃よりも低い(または、より典型的には
300℃よりも低い)温度において、圧電アクチュエータを堆積するステップを備えてよ
い。450℃よりも低い(または、より典型的には300℃よりも低い)温度において、
圧電アクチュエータを形成するステップは、450℃よりも低い(または、より典型的に
は300℃よりも低い)温度において、1つまたは複数の物理気相堆積方法によって、圧
電アクチュエータを堆積するステップを備えてよい。
【0083】
物理気相堆積方法(例えば、低温物理気相堆積方法)は、典型的には、以下の堆積方法
、すなわち、陰極アーク堆積、電子ビーム物理気相堆積、蒸発堆積、パルスレーザー堆積
、スパッタ堆積のうちの1つまたは複数を含む。スパッタ堆積は、単一のまたは複数のス
パッタリング目標からの材料のスパッタリングを含んでよい。
【0084】
1つまたは複数の圧電材料の少なくとも1つの層を形成するステップは、450℃より
も低い(または、より典型的には300℃よりも低い)温度において、1つまたは複数の
圧電材料の少なくとも1つの層を堆積するステップを備えてよい。1つまたは複数の圧電
材料の少なくとも1つの層を形成するステップは、450℃よりも低い(または、より典
型的には300℃よりも低い)温度において、物理気相堆積方法によって、1つまたは複
数の圧電材料の少なくとも1つの層を堆積するステップを備えてよい。
【0085】
方法は、450℃よりも低い(または、より典型的には300℃よりも低い)温度にお
いて、1つまたは複数の圧電材料の任意の堆積後処理を行うステップを備えてよい。方法
は、450℃よりも低い(または、より典型的には300℃よりも低い)温度において、
1つまたは複数の圧電材料を焼きなますステップを備えてよい。しかしながら、より典型
的には、方法は、堆積後処理(例えば、焼きなまし)ステップを備えない。
【0086】
圧電アクチュエータを形成するステップは、圧電体を、アルミニウムおよび窒素、なら
びに、任意選択で、スカンジウム、イットリウム、チタニウム、マグネシウム、ハフニウ
ム、ジルコニウム、スズ、クロム、ホウ素から選択される1つまたは複数の元素を含むセ
ラミック材料から形成するステップを備えてよい。
【0087】
1つまたは複数の圧電材料の少なくとも1つの層を形成するステップは、1つの圧電材
料の少なくとも1つの層を形成するステップからなってよい。代替的に、1つまたは複数
の圧電材料の少なくとも1つの層を形成するステップは、2つ以上の圧電材料の少なくと
も1つの層を形成するステップからなってよい。
【0088】
1つまたは複数の圧電材料の少なくとも1つの層を形成するステップは、前記1つまた
は複数の圧電材料の1つの層を形成するステップからなってよい。代替的に、1つまたは
複数の圧電材料の少なくとも1つの層を形成するステップは、前記1つまたは複数の圧電
材料の2つ以上の層を形成するステップからなってよい。
【0089】
1つまたは複数の圧電材料は、窒化アルミニウムを含んでよい。追加的にまたは代替的
に、1つまたは複数の圧電材料は、酸化亜鉛を含んでよい。450℃よりも低い(または
、より典型的には300℃よりも低い)温度において、圧電アクチュエータを形成するス
テップ(例えば、450℃よりも低い(または、より典型的には300℃よりも低い)温
度において、1つまたは複数の圧電材料の少なくとも1つの層を形成するステップ)は、
450℃よりも低い(または、より典型的には300℃よりも低い)温度において、窒化
アルミニウム(AlN)および/または酸化亜鉛(ZnO)を堆積するステップを備えて
よい。
【0090】
窒化アルミニウムは、純粋な窒化アルミニウムからなってよい。代替的に、窒化アルミ
ニウムは、1つまたは複数の元素を含んでよい(すなわち、窒化アルミニウムは、窒化ア
ルミニウム化合物を含んでよい)。窒化アルミニウムは、以下の元素、すなわち、スカン
ジウム、イットリウム、チタニウム、マグネシウム、ハフニウム、ジルコニウム、スズ、
クロム、ホウ素のうちの1つまたは複数を含んでよい。
【0091】
450℃よりも低い(または、より典型的には300℃よりも低い)温度において、圧
電アクチュエータを形成するステップ(例えば、450℃よりも低い(または、より典型
的には300℃よりも低い)温度において、1つまたは複数の圧電材料の少なくとも1つ
の層を形成するステップ)は、450℃よりも低い(または、より典型的には300℃よ
りも低い)温度において、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)を堆積するステ
ップを備えてよい。
【0092】
窒化スカンジウムアルミニウムにおけるスカンジウムのパーセンテージは、典型的には
、製造性の限界以内でd31圧電定数を最適化するように選ばれる。例えば、ScxAl
1-xNにおけるxの値は、典型的には、0<x≦0.5の範囲から選ばれる。スカンジ
ウムの割合が大きくなると、典型的には、より大きなd31の値(すなわちより強い圧電
効果)がもたらされる。窒化スカンジウムアルミニウムにおけるスカンジウムの質量パー
セント(すなわち、重量パーセント)は、典型的には、5%より大きい。窒化スカンジウ
ムアルミニウムにおけるスカンジウムの質量パーセント(すなわち、重量パーセント)は
、典型的には、10%より大きい。窒化スカンジウムアルミニウムにおけるスカンジウム
の質量パーセント(すなわち、重量パーセント)は、典型的には、20%より大きい。窒
化スカンジウムアルミニウムにおけるスカンジウムの質量パーセント(すなわち、重量パ
ーセント)は、典型的には、30%より大きい。窒化スカンジウムアルミニウムにおける
スカンジウムの質量パーセント(すなわち、重量パーセント)は、典型的には、40%よ
り大きい。窒化スカンジウムアルミニウムにおけるスカンジウムの質量パーセント(すな
わち、重量パーセント)は、50%未満であるかまたはそれに等しくてよい。
【0093】
1つまたは複数の圧電材料は、1つまたは複数のIII-V族および/またはII-V
I族半導体(すなわち、周期表のIII族およびV族ならびに/またはII族およびVI
族からの元素を含む化合物半導体)を含んでよい。このようなIII-V族およびII-
VI族半導体は、典型的には、六角ウルツ鉱結晶構造に結晶化する。六角ウルツ鉱結晶構
造に結晶化したIII-V族およびII-VI族半導体は、典型的には、それらの非中心
対称性の結晶構造のせいで圧電性である。それ故、450℃よりも低い(または、より典
型的には300℃よりも低い)温度において、圧電アクチュエータを形成するステップ(
例えば、450℃よりも低い(または、より典型的には300℃よりも低い)温度におい
て、1つまたは複数の圧電材料の少なくとも1つの層を形成するステップ)は、450℃
よりも低い(または、より典型的には300℃よりも低い)温度において、1つまたは複
数のIII-V族および/またはII-VI族半導体を堆積するステップを備えてよい。
【0094】
1つまたは複数の圧電材料は、非強誘電性圧電材料を含んでよい。強誘電性材料は、典
型的には、印加された強い電場の下での(すなわち、堆積後)極性調整を必要とする。非
強誘電性圧電材料は、典型的には、極性調整を必要としない。それ故、450℃よりも低
い(または、より典型的には300℃よりも低い)温度において、圧電アクチュエータを
形成するステップ(例えば、450℃よりも低い(または、より典型的には300℃より
も低い)温度において、1つまたは複数の圧電材料の少なくとも1つの層を形成するステ
ップ)は、1つまたは複数の非強誘電性圧電材料を堆積するステップを備えてよい。方法
は、典型的には、堆積後に1つまたは複数の圧電材料を極性調整するステップを含まない
。
【0095】
圧電アクチュエータの圧電体は、典型的には30pC/N未満の、または、より典型的
には20pC/N未満の、または、更により典型的には10pC/N未満の大きさを有す
る圧電定数d31を有する。1つまたは複数の圧電材料は、典型的には30pC/N未満
の、または、より典型的には20pC/N未満の、または、更により典型的には10pC
/N未満の大きさを有する圧電定数d31を有する。
【0096】
ノズル形成層上に第1の電極を形成するステップは、典型的には、ノズル形成層上に金
属(チタニウム、プラチナ、アルミニウム、タングステンまたはそれらの合金など)の1
つまたは複数の層を堆積するステップを備える。金属は、(例えば、低温)PVDによっ
て堆積されてよい。金属は、典型的には、450℃よりも低い(または、より典型的には
、300℃よりも低い)温度において堆積される。
【0097】
圧電材料上に第2の電極を形成するステップは、典型的には、圧電材料上に金属(チタ
ニウム、プラチナ、アルミニウム、タングステンまたはそれらの合金など)の1つまたは
複数の層を堆積するステップを備える。金属は、(例えば、低温)PVDによって堆積さ
れてよい。金属は、典型的には、450℃よりも低い(または、より典型的には、300
℃よりも低い)温度において堆積される。
【0098】
少なくとも1つの電子コンポーネントは、少なくとも1つの能動電子コンポーネント(
例えば、トランジスタ)を備えてよい。追加的にまたは代替的に、少なくとも1つの電子
コンポーネントは、少なくとも1つの受動電子コンポーネント(例えば、抵抗器)を備え
てよい。
【0099】
基板の第2の面内にまたは基板の第2の面上に少なくとも1つの電子コンポーネントを
形成するステップは、基板内にまたは基板上に前記少なくとも1つの電子コンポーネント
を一体的に形成する(例えば、一体化する)ステップを備えてよい。基板の第2の面内に
または基板の第2の面上に少なくとも1つの電子コンポーネントを形成するステップは、
基板内にまたは基板上に少なくとも1つのCMOS(すなわち、相補型金属酸化物半導体
)電子コンポーネントを一体的に形成する(例えば、一体化する)ステップを備えてよい
。
【0100】
方法は、基板上に駆動回路を形成するステップを備えてよい。少なくとも1つの電子コ
ンポーネントは、駆動回路の一部を形成してよい。
【0101】
駆動回路は、基板と一体化されたCMOS回路(例えば、CMOS電子装置)を備えて
よい。
【0102】
方法は、CMOS電子コンポーネント(例えば、CMOS回路の一部を形成するCMO
S電子コンポーネント、すなわちCMOS電子装置)を、物理気相堆積、化学気相堆積、
電気化学堆積、分子線エピタキシー、原子層堆積、イオン注入、フォトパターニング、反
応性イオンエッチング、プラズマ照射などの標準的なCMOS製造方法によって、基板内
にまたは基板上に形成(例えば、一体的に形成、例えば、一体化)するステップを備えて
よい。
【0103】
方法は、基板、少なくとも1つの電子コンポーネント、ノズル形成層、(例えば、第1
の電極、1つまたは複数の圧電材料の少なくとも1つの層、および第2の電極を備える)
圧電アクチュエータ、および保護層を一体的に形成(例えば、一体化)し、それによって
一体式液滴吐出器を形成するステップを備えてよい。
【0104】
ノズル形成層を形成するステップは、ノズルプレートを形成するステップを備えてよい
。ノズルプレートを形成するステップは、材料の単一の層を堆積するステップを備えてよ
い。代替的に、ノズルプレートを形成するステップは、(例えば、異なる)材料の2つ以
上の層を堆積し、それによって、積層構造を形成するステップを備えてよい。ノズルプレ
ートは、典型的には、およそ70GPaからおよそ300GPaの間のヤング係数(すな
わち、引張弾性係数)をそれぞれ有する1つまたは複数の材料から形成される。ノズルプ
レートは、二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、酸
窒化珪素(SiOxNy)のうちの1つまたは複数から形成されてよい。従って、ノズル
を形成するステップは、以下の材料、すなわち、二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(S
i3N4)、炭化珪素(SiC)、酸窒化珪素(SiOxNy)のうちの1つまたは複数
の層を堆積させるステップを備えてよい。
【0105】
ノズル形成層を形成するステップは、電気相互接続層を形成するステップを備えてよい
。電気相互接続層を形成するステップは、典型的には、1つまたは複数の電気接続部(例
えば、電気配線)と、電気絶縁体の1つまたは複数の層とを、基板の第2の面上に形成す
るステップを備える。1つまたは複数の電気接続部(例えば、電気配線)は、典型的には
、金属または金属合金から形成される。適切な金属としては、アルミニウム、銅、タング
ステン、およびそれらの合金がある。電気絶縁体は、典型的には、二酸化珪素(SiO2
)、窒化珪素(Si3N4)、または酸窒化珪素(SiOxNy)などの誘電材料から形
成される。
【0106】
電気相互接続層を形成するステップは、典型的には、1つまたは複数の電気接続部と、
電気絶縁体の1つまたは複数の層とを、イオン注入、化学気相堆積、物理気相堆積、エッ
チング、化学機械平坦化、電気めっき、プラズマ照射、フォトパターニングなどの方法を
使用して堆積するステップを備える。
【0107】
方法は、基板の第2の面上に電気相互接続層を形成するステップと、次いで、電気相互
接続層上にノズルプレートを形成するステップと、を備えてよい。
【0108】
本発明の第4の態様は、共通基板上に複数の液滴吐出器を形成するステップを備え、各
液滴吐出器は、本発明の第3の態様によるいずれか1つの方法によって形成される、プリ
ントヘッドを製造する方法を提供する。方法は、典型的には、共通基板を、流体リザーバ
を備えるプリントヘッド支持体上に装着するステップを更に備える。プリントヘッドは、
インクジェットプリントヘッドであってよい。
【0109】
本発明の第5の態様は、プリントヘッドのための液滴吐出器であって、装着面および反
対側のノズル面を有する基板と、基板と一体化された少なくとも1つの電子コンポーネン
トと、基板のノズル面の少なくとも一部分に形成されたノズル形成層と、少なくとも一部
基板によって、および少なくとも一部ノズル形成層によって画定された流体チャンバであ
って、少なくとも一部前記ノズル形成層のノズル部分によって画定された流体チャンバ出
口を有する流体チャンバと、ノズル形成層のノズル部分の少なくとも一部分に形成された
圧電アクチュエータであって、窒化アルミニウムおよび/または酸化亜鉛から形成された
圧電体を備え、圧電体は、第1および第2の電極の間に設けられ、前記第1および第2の
電極のうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの電子コンポーネントに電気的に接続さ
れる、圧電アクチュエータと、圧電アクチュエータおよびノズル形成層を覆う保護層と、
を備える液滴吐出器を提供する。
【0110】
圧電体は、PVD堆積された圧電体であってよい。圧電体は、450℃よりも低い(ま
たは、より典型的には300℃よりも低い)温度において堆積された、PVD堆積された
圧電体であってよい。
【0111】
窒化アルミニウムは更に、以下の元素、すなわち、スカンジウム、イットリウム、チタ
ニウム、マグネシウム、ハフニウム、ジルコニウム、スズ、クロム、ホウ素のうちの1つ
または複数を含んでよい。
【0112】
液滴吐出器は、インクジェットプリントヘッドのための(すなわち、インクジェットプ
リントヘッドにおける使用のために構成された)液滴吐出器であってよい。
【0113】
本発明の第6の態様は、複数の、本発明の第5の態様のいずれか1つの実施形態による
液滴吐出器を備えるプリントヘッドを提供する。複数の液滴吐出器は、共通基板を共有し
て(例えば、その上に一体化されて)よい。
【0114】
プリントヘッドは、インクジェットプリントヘッドであってよい。
【0115】
プリントヘッドは、プリンテッドエレクトロニクスの製造における使用などのために機
能流体を印刷するように構成されてよい。
【0116】
プリントヘッドは、生物学的流体を印刷するように構成されてよい。生物学的流体は、
典型的には、生物学的巨大分子、例えば、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチド、
微生物および/または酵素を含む。プリントヘッドは、希釈液または試薬などの、生物学
または生物工学の用途において使用される他の流体を印刷するように構成されてよい。
【0117】
プリントヘッドは、ボクセルプリントヘッド(すなわち、3D印刷、例えば、積層印刷
における使用のために構成されたプリントヘッド)であってよい。
【0118】
本発明の第7の態様は、プリントヘッドのための液滴吐出器を製造する方法であって、
第1の面および第1の面の反対側の第2の面を有する基板を提供するステップと、基板の
第2の面内にまたは基板の第2の面上に少なくとも1つの電子コンポーネントを形成する
ステップと、基板の第2の面上にノズル形成層を形成するステップと、ノズル形成層上に
第1の電極を形成するステップと、450℃よりも低い温度において、第1の電極上に窒
化アルミニウムおよび/または酸化亜鉛の少なくとも1つの層を形成するステップと、圧
電材料の少なくとも1つの層上に第2の電極を形成するステップと、圧電アクチュエータ
およびノズル形成層を覆う保護層を形成するステップと、を備える方法を提供する。
【0119】
窒化アルミニウムおよび/または酸化亜鉛の少なくとも1つの層が堆積される温度は、
典型的には、堆積処理中の基板の温度である(すなわち、それは基板温度である)ことが
理解されよう。
【0120】
450℃よりも低い温度において、第1の電極上に窒化アルミニウムおよび/または酸
化亜鉛の少なくとも1つの層を形成するステップは、300℃よりも低い温度(すなわち
基板温度)において、第1の電極上に窒化アルミニウムおよび/または酸化亜鉛の前記少
なくとも1つの層を形成するステップからなってよい。
【0121】
窒化アルミニウムおよび/または酸化亜鉛の少なくとも1つの層を形成するステップは
、物理気相堆積によって、窒化アルミニウムおよび/または酸化亜鉛の前記少なくとも1
つの層を堆積するステップを備えてよい。
【0122】
窒化アルミニウムは更に、以下の元素、すなわち、スカンジウム、イットリウム、チタ
ニウム、マグネシウム、ハフニウム、ジルコニウム、スズ、クロム、ホウ素のうちの1つ
または複数を含んでよい。
【0123】
プリントヘッドは、インクジェットプリントヘッドであってよい。液滴吐出器は、イン
クジェットプリントヘッドのための(例えば、インクジェットプリントヘッドにおける使
用のために構成された)液滴吐出器であってよい。液滴吐出器は、インクジェット液滴吐
出器であってよい。
【0124】
プリントヘッドは、プリンテッドエレクトロニクスの製造における使用などのために機
能流体を印刷するように構成されてよい。
【0125】
プリントヘッドは、生物学的流体を印刷するように構成されてよい。生物学的流体は、
典型的には、生物学的巨大分子、例えば、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチド、
微生物および/または酵素を含む。プリントヘッドは、希釈液または試薬などの、生物学
または生物工学の用途において使用される他の流体を印刷するように構成されてよい。
【0126】
プリントヘッドは、ボクセルプリントヘッド(すなわち、3D印刷、例えば、積層印刷
における使用のために構成されたプリントヘッド)であってよい。
【0127】
本発明の第8の態様は、共通基板上に複数の液滴吐出器を形成するステップを備え、各
液滴吐出器は、本発明の第7の態様のいずれか1つの実施形態による方法によって形成さ
れる、プリントヘッドを製造する方法を提供する。方法は、共通基板を、流体リザーバを
備えるプリントヘッド構造上に装着するステップを備えてよい。
【0128】
プリントヘッドは、インクジェットプリントヘッドであってよい。
【0129】
プリントヘッドは、プリンテッドエレクトロニクスの製造における使用などのために機
能流体を印刷するように構成されてよい。
【0130】
プリントヘッドは、生物学的流体を印刷するように構成されてよい。生物学的流体は、
典型的には、生物学的巨大分子、例えば、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチド、
微生物および/または酵素を含む。プリントヘッドは、希釈液または試薬などの、生物学
または生物工学の用途において使用される他の流体を印刷するように構成されてよい。
【0131】
プリントヘッドは、ボクセルプリントヘッド(すなわち、3D印刷、例えば、積層印刷
における使用のために構成されたプリントヘッド)であってよい。
【0132】
次に、以下の図面を参照し、本発明の例示的実施形態が示される。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【
図1】第1の実施形態による一体化された流体素子(fluidics)、電子回路、ノズルおよびアクチュエータを含む一体式流体液滴吐出器デバイスの図である。
【
図2】
図1に図示された線F2に沿った一体式液滴吐出器デバイスの断面図である。
【
図3】保護コーティングが取り除かれた状態の、
図1において図示される一体式液滴吐出器の特徴を図示するノズルの平面図である。
【
図4】
図1の液滴吐出器デバイスのための駆動パルスの実施態様を図示する概略図である。
【
図5】
図1の液滴吐出器デバイスを製造するための製造プロセスフローの概略図である。
【
図6】本発明の第2の例示的実施形態による電極構造の代替的な実施態様を図示する断面図である。
【
図7】
図6の液滴吐出器デバイスのための代替的な駆動パルスの実施態様を図示する概略図である。
【
図8】本発明の第4の例示的実施形態によるノズル構造の代替的な実施態様の断面を図示する概略図である。
【
図9】本発明の第5の例示的実施形態によるボンドパッド構造の代替的な実施態様を図示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0134】
1つまたは複数の例示的実施形態の詳細な説明
第1の例示的実施形態
図1から
図5を参照して第1の例示的実施形態が説明される。
【0135】
図1は、本発明の第1の例示的実施形態による一体化された流体素子、電子回路、ノズ
ルおよびアクチュエータを含む一体式流体液滴吐出器デバイス1を図示する。
図2は、図
1に図示された線F2に沿った一体式液滴吐出器デバイス1の断面図である。
【0136】
図1および
図2において図示されるように、流体液滴吐出器デバイスは、基板100、
流体入口チャンネル101、電子回路200、配線を備える相互接続層300、圧電アク
チュエータ400、ノズルプレート500、保護前面600、ノズル601、およびボン
ドパッド700を含む一体式チップである。
図1は、ボンドパッド領域104およびノズ
ル領域105を図示する。
【0137】
基板100の厚さは、典型的には、20から1000マイクロメートルの間である。相
互接続層300、圧電アクチュエータ400、ノズルプレート500および保護前面60
0の厚さは、典型的には、0.5から5マイクロメートルの間である。ノズル601の直
径は、典型的には、3から50マイクロメートルの間である。流体入口チャンネル103
は、50から800マイクロメートルの間の特性寸法を有する。
【0138】
図1において図示される一体式チップは、4列のノズルを備える。各列は、交互パター
ンで隣の列に対してオフセットされている。異なる構成において任意の数のノズル列が可
能である。チップ上でのノズルの配置は、目標印刷密度(すなわち、インチ当たりのドッ
ト(dpi:dots per inch)の数)、目標発射頻度(target fi
ring frequency)および/または目標印刷速度を達成するように構成され
る。特定の印刷要件を満たす広範な異なるノズル構成が可能である。異なるプリントヘッ
ドノズル構成は、個々のノズルならびにノズルに固有の駆動電子装置201および202
を配置することによってもたらされる。
【0139】
基板100は、シリコンウエハから形成され、支持体102、流体入口チャンネル10
1および電子回路200を備える。
【0140】
流体入口チャンネル101は、1つの面に流体入口103として開口を有するように基
板100の厚さを貫通して形成され、他端部において、ノズルプレート500およびノズ
ル601によって終端される。流体入口チャンネル101の壁は、基板100および相互
接続層300を通じて類似の断面を有する。流体入口チャンネル101は、実質的に筒状
(すなわち、基板の平面におけるその断面が実質的に円形状)である。ノズルプレートと
の境界面および流体入口境界面における流体入口チャンネル101の角部は、応力集中を
最小化するために丸められている。
【0141】
電子回路200は、流体入口103を含む面とは反対側の基板100の面上に形成され
る。電子回路200は、デジタルおよび/またはアナログ回路を含み得る。電子回路の一
部分201および202は、相互接続層300を貫通する配線301によって、圧電アク
チュエータ400に直接的に接続され、駆動波形の印加を最適化するためにアクチュエー
タ400に近接して位置する。電極アクチュエータ配線相互接続部301および302は
、連続的な単一の構築物であってよく、または配線の複数の層から構築されてもよい。駆
動電子装置は、圧電アクチュエータに設定電圧または成形電圧(shaped volt
age)を、設定期間の間、印加するように構成されてよい。
【0142】
電子回路203の一部分は、全体的な一体式液滴吐出器デバイスの包括的動作に関連し
、アクチュエータ駆動回路201および202から離間して位置し得る。チップの一般的
動作に関連する回路203は、データルーティング、認証、チップ監視(例えば、チップ
温度監視)、使用年数管理、歩留まり情報処理、および/または不良ノズル監視などの広
範な機能を行うことができる。回路203は、相互接続層300を通じてボンドパッド7
00ならびに固有の電極駆動回路201および202に接続される。チップ駆動電子装置
203は、データキャッシング、データルーティング、バス管理、一般的論理(gene
ral logic)、同期、セキュリティ、認証、電力ルーティング、および/または
入力/出力などの異なる機能を行うように構成されたアナログおよび/またはデジタル回
路を含んでよい。チップ駆動電子装置203は、タイミング回路、インタフェース回路、
センサおよび/または時計などの回路コンポーネントを備えてよい。
【0143】
チップの異なる区画、例えば、ノズル列の間またはチップの周辺部付近に位置するいく
つかの一般的駆動電子装置エリアがあってよい。
【0144】
電子駆動回路は、CMOS駆動回路を含む。
【0145】
相互接続層300は、電子回路200および基板100の上に直接的に形成され、電気
絶縁体と配線とを備える。相互接続層300における配線は、チップ電子回路203をボ
ンドパッド700とアクチュエータ電極駆動回路201および202との両者に接続する
。相互接続層300は、ノズルの間、チップの周辺部付近および/または駆動電子装置の
上にルーティングされる電力およびデータのルーティング配線を含む。相互接続層300
は、典型的には、異なる配線路を有する複数の層を備える。
【0146】
ノズルプレート500は、相互接続層300の上に形成される。ノズルプレート500
は、単一の材料または複数の材料の積層体のいずれかから形成される。ノズルプレート5
00は、チップの前面を連続的に横切り、下方の相互接続層300と上方のアクチュエー
タ電極401との間に配線のための電気開口を有する。
【0147】
ノズルプレート500は、堆積温度、組成、化学的処理ステップに関してCMOS電子
駆動回路200とともに製造可能でなければならない1つまたは複数の材料から形成され
る。また、ノズルプレート材料は、化学的に安定しているとともに、噴射される流体に対
して不浸透性でなければならない。また、ノズルプレート材料は、圧電アクチュエータの
機能に適合していなければならない。例えば、適切な材料のヤング係数は、70GPaか
ら300GPaの範囲の間にある。しかしながら、ヤング係数におけるばらつきは、ノズ
ルプレート500の厚さを変えることによって吸収され得る。例示的なノズルプレート材
料は、二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、および
酸窒化珪素(SiOxNy)のうちの1つまたは複数(例えば、それらの組み合わせまた
は積層体を含む)を含む。
【0148】
各圧電アクチュエータ400は、第1の電極401、圧電層402および第2の電極4
03の積層体を備える。第1の電極401は、ノズルプレート500に取り付けられる。
圧電アクチュエータ402は、第1の電極401に取り付けられる。第2の電極403は
、第1の電極の取り付け面とは反対側の圧電アクチュエータの面に取り付けられる。
【0149】
第1の電極401は、相互接続層300における配線接続部301に電気的に接続され
る。第2の電極403は、相互接続層300における配線接続部302に電気的に接続さ
れる。第1の電極401および第2の電極403は、互いから電気的に絶縁されている。
電極材料は、導電性であり、典型的には、チタニウム(Ti)、アルミニウム(Al)、
チタンアルミナイド(TiAL)、タングステン(W)もしくはプラチナ(Pt)または
それらの合金などの金属または金属間化合物から形成される。これらの材料は、(堆積温
度および化学的処理適合性に関して)CMOS駆動回路および圧電層とともに製造可能で
ある。
【0150】
圧電アクチュエータ402は、CMOSおよび相互接続回路の製造との適合性のために
選ばれた材料から形成される。CMOS駆動回路は、典型的には、約450℃までの温度
に耐えることができる。しかしながら、高い歩留まりの製造には、ピーク製造温度は大幅
に低く、典型的には300℃になる必要がある。CMOS駆動電子装置をある期間よりも
長く高い温度に晒す堆積方法は、性能を劣化させることがあり、典型的には、ドーパント
可動性および相互接続層内の配線の劣化に影響を与える。温度制限は、圧電層のための堆
積方法を限定する。適切は圧電材料としては、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミ
ニウム化合物(特には、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN))および酸化亜鉛
(ZnO)があり、これらはCMOS電子装置に適合性がある。圧電材料の組成は、圧電
特性を最適化するように選ばれる。例えば、窒化アルミニウム化合物における任意の添加
元素の濃度(窒化スカンジウムアルミニウムにおけるスカンジウムの濃度など)は、典型
的には、d31圧電定数の大きさを最適化するように選ばれる。窒化スカンジウムアルミ
ニウムにおけるスカンジウムの濃度が高いほど、典型的にはd31の値が大きくなる。窒
化スカンジウムアルミニウムにおけるスカンジウムの質量パーセントは、50%ほどであ
ってよい。
【0151】
圧電アクチュエータ材料は、ノズルプレート500の表面全体に連続するものではない
。圧電材料は、ノズルプレートの上に主に位置し、電極開口404およびノズル405の
周囲の領域を含むいくつかの開口を含む。
【0152】
保護前面600は、液滴吐出器デバイス100の外側面上に形成され、圧電アクチュエ
ータ402、電極401および403ならびにノズルプレート500を覆う。保護前面は
、ノズル601のためのおよびボンドパッド700のための開口を有する。保護前面材料
は、化学的に不活性であり、不浸透性である。また、保護前面材料は、吐出される流体に
対して撥水性であってよい。保護前面材料の機械的特性は、圧電アクチュエータ400お
よびノズルプレート500の押し出し動作への影響を最小化するように注意深く選ばれる
。保護前面材料は、例えば、処理温度および化学的処理適合性に関して、CMOS適合性
処理フローによって製造可能であるように選ばれる。保護前面600は、電極401およ
び403ならびに圧電アクチュエータ402のいずれかとの流体の接触を防止する。適切
な保護前面材料としては、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ダイ
ヤモンド状炭素(DLC)または関連する材料がある。
【0153】
図3は、第1の実施形態による、保護コーティング600が取り除かれた状態の、一体
式液滴吐出器構造1の特徴を図示するノズルの平面図である。破線は、下方の圧電アクチ
ュエータ400の流体入口103の位置を示す。
【0154】
使用時には、流体液滴吐出器デバイス1は、流体入口103に流体を供給可能な基板に
装着される。流体圧は、典型的には、流体入口103においてわずかに負圧であり、流体
入口チャンネル101は、典型的には、表面張力によって引き起こされる毛細管現象によ
って「呼び水を差され」または流体で充填される。流体入口103に呼び水が差されると
、ノズル601は、毛細管現象によって保護前面600の外側面まで呼び水が差される。
流体は、負の流体圧とノズル601の幾何画的形状との組み合わせによって、ノズル60
1を通り過ぎて保護面600の外側面の上まで移動することはない。
【0155】
アクチュエータ駆動回路201および202は、包括的駆動回路203からのタイミン
グ信号に応じて駆動電極401および403への電圧パルスの印加を制御する。圧電材料
402にわたる電極電圧の印加は、電場を生じさせる。この場の印加は、圧電材料402
を変形させる。この変形は、材料における極性の向きに対する電場の向きに応じて引張歪
みまたは圧縮歪みのどちらかであり得る。圧電材料402の伸長または収縮に起因して誘
起された歪みは、ノズルプレート500、圧電アクチュエータ400および保護前方層6
00の厚さに歪み勾配をもたらし、流体入口チャンネルに対して垂直な移動または変位を
起こす。
【0156】
圧電材料の圧電特性は、横圧電定数d31によって部分的に特徴づけられ得る。d31
は、第1の方向に垂直な第2の方向沿って圧電材料において誘起された歪みに対して前記
第1の方向において圧電材料にわたって印加される電場に関連する圧電係数テンソル量の
特定の成分である。図示される圧電アクチュエータ400は、印加された電場が、電場が
印加された方向に垂直な方向において材料に歪みを誘起するように構成され、従って、d
31定数によって特徴づけられる。
【0157】
DCまたは一定の電場の印加は、ノズルプレート500の正または負の実変位を起こし
得る。ノズルプレートの正の変位は
図4(a)に図示される。
【0158】
パルス式の電場の印加は、ノズルプレート500を振動させ得る。ノズルプレートのこ
の振動は、ノズルプレート500の下の流体入口103に圧力を誘起し、ノズル601か
ら外へ液滴を吐出させる。ノズルプレートの振動の振動数および振幅は、主に、ノズルプ
レート500、圧電アクチュエータ400、保護層600の質量および剛性、流体特性(
例えば、流体密度、流体粘性(ニュートン粘性または非ニュートン粘性)、および表面張
力)、ノズルおよび流体入口の幾何学的形状、ならびに両駆動パルスの構成の関数である
。
【0159】
図4は駆動パルスの実施態様を図示する。電極401および403にわたる電圧パルス
が図示される。電場の方向は、Eとラベル付けられ、撓みはxとラベル付けられる。
【0160】
電極にわたる定常電場またはDC電場の印加は、
図4(a)に図示されるように、圧電
層402における収縮と、流体入口から離間するノズルプレートの定常撓みとをもたらす
。ノズルプレートの下の流体圧は、流体入口供給圧力と同じである。歪みエネルギーは、
ノズルプレート500、圧電アクチュエータ400および保護層600に蓄えられる。
【0161】
図4(b)に図示されるように、この電場が除去され、逆向きの電場パルスが印加され
る。これは蓄えられた歪みエネルギーの解放と、圧電材料402の追加的な伸長の印加と
の両方をもたらす。
図4(b)に図示されるように、アクチュエータは、流体入口に向か
って移動する。これは、流体入口およびノズル領域において正圧をもたらし、ノズル60
1から外へ液滴を吐出させる。逆向きの電場パルスは、DCパルスの除去の直後に与えれ
てよく、またはわずかな期間遅延して与えられてもよい。
【0162】
圧電材料402にわたる電場の最終的な除去は、ノズルプレート500を歪みが誘起さ
れていない位置に戻す。
【0163】
デバイスにおける任意のノズル-アクチュエータ-ノズルプレートのための2つの電極
の制御は、圧電材料の固有の極性に対する印加される電場の方向の切り換えを促進する。
これは、デバイスが蓄えられた歪みエネルギーをノズルプレート500およびアクチュエ
ータ400の構造内に組み入れることを可能にする。この蓄えられた歪みエネルギーの解
放および統合は、ノズルプレートの液滴吐出振動の間の体積変位を増大する。体積変位の
増加は、印加される電圧および電場を増加させる必要なく達成される。
【0164】
図4(a)において説明されたDC電場構成を、
図4(b)に図示されたパルス場構成
によって置き換えることも可能である。これは、より長い期間の間、任意の印加された歪
み効果を最小化するという利点を有する。場のパルスの切り換えの印加のタイミングによ
って、2重パルス式の手法の追加的な利点が可能になる。第1のパルスの印加は、
図4(
b)に図示されるような、流体入口から離間するノズルプレートの初期移動を伴う振動を
誘起する。この振動は、ノズルプレートの下に負の流体圧をもたらし、このことは、ノズ
ルに向かう有効な流体流動をもたらし、ノズルを通る流体吐出流を追加的に増大させ得る
。
【0165】
図5は、液滴吐出器デバイスのための製造プロセスフローを図示する概略図である。図
5(a)に図示されるように、第1の製造ステップは、シリコンウエハ基板の面上に駆動
回路および相互接続層300、例えば、CMOS駆動回路および相互接続部を作成するこ
とである。CMOS駆動回路は、標準的な処理、例えば、p型またはn型基板上へのイオ
ン注入によって形成され、次いで、標準的なCMOS製作処理(例えば、イオン注入、化
学気相堆積(CVD:chemical vapour deposition)、物理
気相堆積(PVD)、エッチング、化学機械平坦化(CMP)および/または電気めっき
)によって配線相互接続層が作成される。
【0166】
後続の製造ステップは、一体式液滴吐出器デバイスの特徴および構造を定めるように実
行される。後続のステップは、前のステップにおいて形成された構造に損傷を与えないよ
うに選ばれる。重要な製造パラメータは、ピーク処理温度である。高温度におけるCMO
Sの処理に関する問題としては、ドーパント可動性および相互接続配線機構の劣化がある
。CMOS電子装置は、450℃の温度に耐えることが知られている。しかしながら、高
い歩留まりのためには、大幅に低い(すなわち、300℃よりも低い)温度が望ましい。
【0167】
図5(b)に図示されるように、ノズルプレート500、圧電アクチュエータ400、
保護層600およびボンドパッド700は、相互接続層の上に形成される。
【0168】
ノズルプレート500は、CVDまたはPVD処理を使用して堆積される。
【0169】
CMOS適合性圧電材料402の形成は、これはアクチュエータの重要な駆動要素であ
るので、特に関心の対象となる。表1は、いくつかの一般的な圧電材料およびそれらに関
連する製造方法を、典型的なd31値とともに列記している。最も大きいd31値を有す
る材料は、一体式CMOS構造の製造に適合しないことが分かる。CMOS構造に適合す
る材料のd31値は低く、従って、大幅に低い押し出し能力しか有さない。
【0170】
【表1】
表から分かるように、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は、PVD(スパッタリングを
含む)によって低温度において堆積され得るが、それに続いて、CMOSにとって許容さ
れる温度を超える温度における焼きなましの後処理を必要とする。PZTは、ゾルゲル法
によっても堆積され得るが、これもまたCMOSの限界を超える高温度の焼きなましを必
要とする。また、PZTの堆積は、商業的に実行することのできない非常にゆっくりとし
た速度ものである。更にPZTは鉛を含有し、これは環境的に望ましいものではない。
【0171】
ZnO、AlN、およびAlN化合物(ScAlNなど)材料は、焼きなましなどの後
処理を必要としない低温度PVD(例えば、スパッタリング)処理を使用しても堆積され
得る。これらの材料は極性調整も必要としない。極性調整ステップは、PZTでは必要と
なり、その場合、材料は、全ての電気双極子を場の方向に向ける非常に強い電場に晒され
る。
【0172】
従って、ZnO、AlN、およびAlN化合物(例えば、ScAlN)材料は、一体式
液滴吐出器デバイスの製作のために商業的に実行可能な材料である。しかしながら、これ
らの材料のd
31の値は、PZTのものよりも著しく低い。吐出効率を向上させるノズル
の特定の構成(すなわち作動可能なノズルプレート)、および(
図4に図示されるように
)作動効率を向上させる2つの制御電極の使用は、これらの材料に関連するより低いd
3
1値を無効にする。
【0173】
圧電電極材料は、PVD(低温度スパッタリングを含む)などのCMOS適合性処理を
使用して堆積される。典型的な電極材料としては、チタニウム(Ti)、プラチナ(Pt
)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)またはそれらの合金があり得る。電極は
、標準的なパターニングおよびエッチング方法によって形成される。
【0174】
保護材料は、スピンオンおよびキュア法(spin on and cure met
hod)(ポリイミドまたは他の高分子材料に適している)を使用して堆積、およびパタ
ーニングされ得る。PTFEなどのいくつかの材料は、より固有の堆積およびパターニン
グ手法を必要とすることがある。
【0175】
ボンドパッドは、CVDまたはPVD(例えば、スパッタリング)などの方法を使用し
て堆積される。
【0176】
図5(c)に図示されるように、流体入口チャンネルは、高アスペクト比の深掘反応性
イオンエッチング(DRIE:Deep Reactive Etching)法を使用
して形成される。流体入口は、ウエハ表裏面位置合わせツールを使用してノズル構造と位
置合わせされる。表裏面位置合わせおよびエッチングステップ中に、ウエハはハンドルウ
エハに装着されてよい。
【0177】
ダイを個片化するためにもDRIE手法が使用されてよいが、ウエハソーなどの他の手
法も使用されてよい。
【0178】
第2の例示的実施形態
図6は、電極構造の代替的な実施態様を図示する断面図である。この実施形態において
、電極403は、配線302によって、駆動回路ではなく接地ライン204に接続される
。接地ライン204は、相互接続層300内に位置し、駆動回路領域203に接続され、
または接地されたボンドパッド700に直接的に接続される。
【0179】
第3の例示的実施形態
図7は、この液滴吐出器デバイスに適合する代替的な駆動パルスの実施態様を図示する
概略図である。
図7において図示されるように、電圧パルスは、電極のうちの一方にだけ
、例えば401にだけ印加される、これは、圧電アクチュエータ400を通る電場を生み
、ノズルプレート500の下向きの変位をもたらす。駆動パルスが電極403に印加され
、接地電圧が電極401に印加されるようにデバイスを構成することも可能である。
【0180】
第4の例示的実施形態
図8は、ノズル構造の代替的な実施態様の断面を図示する概略図であり、流体入口10
1の近傍でノズルプレート層500に取り付けられた相互接続層304の延伸を図示する
。相互接続層の延伸部304は、如何なる配線も有さず、誘電材料だけを含んでよい。別
の変形例において、デバイスはノズルプレート層を有さず、圧電アクチュエータに取り付
けられた相互接続層だけを有する。
【0181】
第5の例示的実施形態
図9は、ボンドパッド構造の代替的な実施態様を図示する断面図である。保護前面は、
ボンドパッド701の近傍で取り除かれている。この幾何学的形状は、外部配線機構のア
クセス性を向上させ、チップの高さより上のワイヤ接合の全体的な高さを減少させる。
【0182】
本明細書において開示された発明の範囲内で、更なる変形および修正がなされ得る。
【0183】
デバイスは、シリコンウエハ基板上に形成されてよい。代替的に、基板は、シリコンオ
ンインシュレータ(silicon-on-insulator)ウエハまたはIII-
V族半導体ウエハを含んでよい。
【0184】
流体入口チャンネルは、実質的に筒状であってよく、従って、基板の平面において、実
質的に円形状の断面を有してよい。代替的に、流体入口チャンネルは、多面的な形状、規
則的な形状、不規則的な形状などを含む様々な他の断面をとってよい。流体入口チャンネ
ルの形状は、典型的には、ノズルのレイアウト、駆動電子装置の配置、相互接続層300
における配線ルーティングなどの、一体式チップデザインの他の態様に依存する。
【0185】
断面形状は、機構の不良をもたらすことなくプリントヘッドチップの幅を最小化するよ
うに選択されてもよい。機構の不良は、構造的なもの(例えば、流体入口が多すぎるとチ
ップの堅牢性を減少させることがある)であったり、動作的なもの(例えば、相互接続ワ
イヤが適切な電流を伝送するためには不十分であることがある)であったりすることがあ
る。プリントヘッドの幅を減少させることは、単一のウエハ上に製造できるチップの数を
増加させるので、望ましい。