(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】人工膝関節
(51)【国際特許分類】
A61F 2/38 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
A61F2/38
(21)【出願番号】P 2021513506
(86)(22)【出願日】2020-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2020006157
(87)【国際公開番号】W WO2020208942
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019075260
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508282465
【氏名又は名称】帝人ナカシマメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清友 大惟
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴之
【審査官】五閑 統一郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第4045194(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0206997(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0277537(US,A1)
【文献】特許第5798190(JP,B1)
【文献】米国特許第7413577(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内顆および外顆を含む大腿骨コンポーネントと、
前記内顆を受ける内側摺動面および前記外顆を受ける外側摺動面を有し、前記内側摺動面および前記外側摺動面の内外方向の曲率半径が前後方向の所定範囲において前方から後方に向かって大きくなる脛骨コンポーネントと、を備え、
内外方向において、伸展位での前記内顆の最下点と前記外顆の最下点との中間点が前記脛骨コンポーネントの中心に対して前記脛骨コンポーネントの幅の2~10%だけ内方に位置するように、前記内側摺動面および前記外側摺動面が内方に寄せられている、人工膝関節。
【請求項2】
前後方向において、伸展位での前記内顆と前記内側摺動面との接触位置は、前記脛骨コンポーネントの後端から前記脛骨コンポーネントの長さの40~65%の範囲内にある、請求項1に記載の人工膝関節。
【請求項3】
前記脛骨コンポーネントの上面における前記大腿骨コンポーネントよりも外方に張り出す端部には、外方に向かって下向きに傾斜する傾斜面が形成されている、請求項1または2に記載の人工膝関節。
【請求項4】
内外方向における前記内側摺動面の最下点を前後方向に連ねた最下点ラインが前方に向かって内向きに湾曲する、請求項1~3の何れか一項に記載の人工膝関節。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工膝関節に関する。
【背景技術】
【0002】
人工膝関節は、変形性膝関節症、慢性関節リウマチ、骨腫瘍を罹患した患者や、外傷等を負った患者の膝関節と置換される。人工膝関節は、大腿骨の一部と代替される大腿骨コンポーネントと、脛骨の一部と代替される脛骨コンポーネントを含む。場合によっては、人工膝関節は、膝蓋骨コンポーネントを含むことがある。
【0003】
一般的に、大腿骨コンポーネントは内顆および外顆を含み、脛骨コンポーネントは内顆を受ける内側摺動面および外顆を受ける外側摺動面を有する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の人工膝関節でも健常な膝関節に近い動きを実現できるものの、その再現度をより向上させることが望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、健常な膝関節と同様の動きを実現することができる人工膝関節を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、健常な膝関節では、伸展位において大腿骨の遠位部(脛骨側の端部)の内外方向の中心が脛骨の近位部(大腿骨側の端部)の内外方向の中心よりも内方に寄っていることを発見した。一方、従来の人工膝関節では、内外方向において大腿骨コンポーネントの中心と脛骨コンポーネントの中心とが一致していた。そこで、それらの内外方向の中心をずらせば健常な膝関節と同様の動きを実現できるのではないかと考えた。本発明は、このような観点からなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明の膝関節は、内顆および外顆を含む大腿骨コンポーネントと、前記内顆を受ける内側摺動面および前記外顆を受ける外側摺動面を有し、前記内側摺動面および前記外側摺動面の内外方向の曲率半径が前後方向の所定範囲において前方から後方に向かって大きくなる脛骨コンポーネントと、を備え、内外方向において、伸展位での前記内顆の最下点と前記外顆の最下点との中間点が前記脛骨コンポーネントの中心に対して前記脛骨コンポーネントの幅の2~10%だけ内方に位置するように、前記内側摺動面および前記外側摺動面が内方に寄せられている、ことを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、内外方向においては、人工膝関節を装着した患者の大腿骨と脛骨との相対位置関係が伸展位では健常な人の大腿骨と脛骨との相対位置関係と同様となる。屈曲位に関しては、膝の屈曲に伴って大腿骨コンポーネントが後方へ移動することが知られている。内側摺動面および外側摺動面の内外方向の曲率半径は前方よりも後方の方が大きいため、膝の屈曲に伴って大腿骨コンポーネントが後方へ移動すると、内外方向における大腿骨コンポーネントの拘束力が低下する。その結果、靭帯や関節包を含む軟部組織の張力などによって大腿骨コンポーネントが内外方向へ移動し易くなる。すなわち、膝を屈曲したときでも人工膝関節を装着した患者の大腿骨と脛骨との相対位置関係は健常な人の大腿骨と脛骨との相対位置関係と同様となり得る。このため、人工膝関節を装着したときの軟部組織の緊張および弛緩のバランスが健常な膝関節と近似する。従って、健常な膝関節と同様の動きを実現することができる。
【0010】
前後方向において、伸展位での前記内顆と前記内側摺動面との接触位置は、前記脛骨コンポーネントの後端から前記脛骨コンポーネントの長さの40~65%の範囲内にあってもよい。この構成によれば、前後方向においても、人工膝関節を装着した患者の大腿骨と脛骨との相対位置関係が、健常な人の大腿骨と脛骨との相対位置関係と同様となる。
【0011】
前記脛骨コンポーネントの上面における前記大腿骨コンポーネントよりも外方に張り出す端部には、外方に向かって下向きに傾斜する傾斜面が形成されていてもよい。この構成によれば、外側側副靭帯と脛骨コンポーネントとの干渉を回避することができる。
【0012】
内外方向における前記内側摺動面の最下点を前後方向に連ねた最下点ラインが前方に向かって内向きに湾曲してもよい。この構成によれば、膝を屈曲したときに大腿骨コンポーネントの後方への移動に伴って大腿骨コンポーネントを外方へ誘導することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、健常な膝関節と同様の動きを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る人工膝関節の分解斜視図である。
【
図2】
図1に示す人工膝関節の装着状態の断面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿った断面図である(大腿骨および脛骨は省略)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に、本発明の一実施形態に係る人工膝関節1を示す。本実施形態の人工膝関節1は、左足用のものであり、
図1の左下方向が内方、右上方向が外方であり、
図1の右下方向が前方、左上方向が後方である。
図2は、人工膝関節1の装着状態の断面図である。
【0016】
人工膝関節1は、大腿骨11の一部が切除され、これと代替される大腿骨コンポーネント2と、脛骨12の一部が切除され、これと代替される脛骨コンポーネント3を含む。なお、
図2中の符号13は外側側副靭帯、符号14は内側側副靭帯、符号15は前十字靭帯、符号16は後十字靭帯である。
【0017】
大腿骨コンポーネント2は、コバルトクロム合金やチタン合金などの金属からなる。大腿骨コンポーネント2は、大腿骨11の前方切除面に固定される前壁21と、前壁21の下端部から大腿骨11の下方を通って大腿骨11の後方まで延在する内顆22および外顆23を含む。
【0018】
内顆22および外顆23は、互いに内外方向に離間している。内顆22と外顆23の間の隙間は、前十字靭帯15および後十字靭帯16との干渉を回避するためのものである。また、前壁21の下部には、内顆22と外顆23の間を通って前後方向に延びる、膝蓋骨または膝蓋骨コンポーネントが摺動する膝蓋骨溝が形成されている。
【0019】
内顆22の外側面は、前後方向および内外方向に湾曲する三次元的な曲面となっている。同様に、外顆23の外側面は、前後方向および内外方向に湾曲する三次元的な曲面となっている。
【0020】
脛骨コンポーネント3は、本実施形態では、前十字靭帯15を切除し、後十字靭帯16を温存するタイプである。ただし、脛骨コンポーネント3は、前十字靭帯15および後十字靭帯16の双方を切除するタイプであってもよい。双方を切除するタイプの場合、脛骨コンポーネント3の略中央には上向きに突出する突起が形成される。あるいは、脛骨コンポーネント3は、前十字靭帯15および後十字靭帯16の双方を温存するタイプであってもよいし、後十字靭帯16を温存し、前十字靭帯15を再建するタイプであってもよい。
【0021】
脛骨コンポーネント3は、コバルトクロム合金やチタン合金などの金属からなるベース4と、ポリエチレンなどからなる樹脂プレート5を含む。ベース4は、脛骨12の上方切除面に固定されるプレート部41と、プレート部41の略中央から下向きに延びるステム42を含む。さらに、ベース4は、プレート部41およびステム42に接続された三角形状のキール43を含む。ベース4は、ステム42およびキール43に加えて、あるいはステム42およびキール43に代えて、後述する内側摺動面51および外側摺動面52の下方に位置する一対のペグ44を含んでもよい。
【0022】
樹脂プレート5は、平面視で、ベース4のプレート部41と同じ形状の輪郭を有している。樹脂プレート5の上面には、大腿骨コンポーネント2の内顆22を受ける内側摺動面51と、大腿骨コンポーネント2の外顆23を受ける外側摺動面52が形成されている。
【0023】
内側摺動面51は、前後方向および内外方向に湾曲する三次元的な曲面となっている。同様に、外側摺動面52は、前後方向および内外方向に湾曲する三次元的な曲面となっている。
【0024】
より詳しくは、
図4~6に示すように、内側摺動面51の内外方向の曲率半径MRは、前後方向の所定範囲において前方から後方に向かって大きくなっている。所定範囲は、例えば、内側摺動面51を前後方向に三等分したときの中央の領域である。
【0025】
同様に、外側摺動面52の内外方向の曲率半径LRは、前後方向の所定範囲において前方から後方に向かって大きくなっている。所定範囲は、例えば、外側摺動面52を前後方向に三等分したときの中央の領域である。
【0026】
内側摺動面51および外側摺動面52は、左右対称な位置に設けられているのではなく、内方に寄せられている。より詳しくは、
図2に示すように、内外方向において、伸展位での内顆22の最下点22aと外顆23の最下点23aとの中間点20が脛骨コンポーネント3の中心30に対して脛骨コンポーネント3の幅W(
図4参照)の2~10%だけ内方に位置するように、内側摺動面51および外側摺動面52が内方に寄せられている。換言すれば、内外方向における中間点20と脛骨コンポーネント3の中心30との間の距離Dは、0.02W以上0.1W以下である。なお、内外方向における脛骨コンポーネント3の中心30は、内外方向における脛骨コンポーネント3の幅Wを二等分する線である。
【0027】
また、
図3に示すように、前後方向において、伸展位での内顆22と内側摺動面51との接触位置(内顆22の最下点22aでもある)は、脛骨コンポーネント3の後端から脛骨コンポーネントの長さLの40~65%の範囲内にある。換言すれば、脛骨コンポーネント3の後端から接触位置までの距離L1は、0.4L以上0.65L以下である。
【0028】
さらに、
図2および
図4に示すように、樹脂プレート5の上面(脛骨コンポーネント3の上面でもある)における大腿骨コンポーネント2よりも外方に張り出す端部には、外方に向かって下向きに傾斜する傾斜面53が形成されている。本実施形態では、外側摺動面52と傾斜面53とが隣り合っており、それらの境界によって稜線が形成されている。
【0029】
また、
図3および
図4に示すように、樹脂プレート5の上面における前方の端部にも、
前方に向かって下向きに傾斜する傾斜面
54が形成されている。
【0030】
さらに、脛骨コンポーネント3には、後十字靭帯16との干渉を回避するための窪み31が設けられている。窪み31は、脛骨コンポーネント3の後端から前方に向かって窪んでいる。つまり、窪み31と同一の形状の切り欠きが、ベース4のプレート部41と樹脂プレート5の双方に形成されている。窪み31は、内側摺動面51および外側摺動面52が内方に寄せられているのと同様に、内外方向における脛骨コンポーネント3の中心30よりも内方に寄せられている。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の人工膝関節1では、脛骨コンポーネント3の内側摺動面51および外側摺動面52が内方に寄せられている。従って、内外方向においては、人工膝関節1を装着した患者の大腿骨11と脛骨12との相対位置関係が伸展位では健常な人の大腿骨と脛骨との相対位置関係と同様となる。屈曲位に関しては、膝の屈曲に伴って大腿骨コンポーネント2が後方へ移動することが知られている。内側摺動面51および外側摺動面52の内外方向の曲率半径MR,LRは前方よりも後方の方が大きいため、膝の屈曲に伴って大腿骨コンポーネント2が後方へ移動すると、内外方向における大腿骨コンポーネント2の拘束力が低下する。その結果、靭帯や関節包を含む軟部組織の張力などによって大腿骨コンポーネント2が内外方向へ移動し易くなる。すなわち、膝を屈曲したときでも人工膝関節1を装着した患者の大腿骨11と脛骨12との相対位置関係は健常な人の大腿骨と脛骨との相対位置関係と同様となり得る。このため、人工膝関節1を装着したときの軟部組織の緊張および弛緩のバランスが健常な膝関節と近似する。従って、健常な膝関節と同様の動きを実現することができる。
【0032】
さらに、本実施形態では、伸展位での内顆22と内側摺動面51との接触位置が脛骨コンポーネント3の後端から脛骨コンポーネント3の長さLの40~65%の範囲内にある。従って、前後方向においても、人工膝関節1を装着した患者の大腿骨11と脛骨12との相対位置関係が、健常な人の大腿骨と脛骨との相対位置関係と同様となる。
【0033】
また、脛骨コンポーネント3の上面の外方端部には傾斜面53が形成されているので、外側側副靭帯13と脛骨コンポーネント3との干渉を回避することができる。
【0034】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0035】
例えば、人工膝関節1は、大腿骨コンポーネント2および脛骨コンポーネント3に加えて膝蓋骨コンポーネントを含んでもよい。
【0036】
また、脛骨コンポーネント3の内側摺動面51は、内外方向における内側摺動面51の最下点を前後方向に連ねた最下点ラインが前方に向かって内向き(つまり、外側摺動面52と反対向き)に湾曲するように構成されてもよい。この構成によれば、膝を屈曲したときに大腿骨コンポーネント2の後方への移動に伴って大腿骨コンポーネント2を外方へ誘導することができる。
【0037】
また、脛骨コンポーネント3が前十字靭帯15および後十字靭帯16の双方を温存するタイプの場合、脛骨コンポーネント3は、平面視で内側摺動面51と外側摺動面52との間に後ろ向きに開口する溝が形成された略U字状となる。この場合、ステム42およびキール43は省略される。
【符号の説明】
【0038】
1 人工膝関節
2 大腿骨コンポーネント
20 中間点
22 内顆
22a 最下点
23 外顆
23a 最下点
3 脛骨コンポーネント
30 中心
51 内側摺動面
52 外側摺動面
54 傾斜面