(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】粒径が異なる2以上のフィラーを含むポリイミドフィルムおよびこれを含む電子装置
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20221104BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20221104BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08L79/08
C08K3/36
(21)【出願番号】P 2021531015
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 KR2019003492
(87)【国際公開番号】W WO2020111400
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-06-01
(31)【優先権主張番号】10-2018-0152037
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・ドン ユン
(72)【発明者】
【氏名】キム・ドン ユン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ・ジョン ユル
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2017-0112475(KR,A)
【文献】特開2007-208087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02、5/12-5/22、
C08K3/00-13/08、C08L1/00-101/14、
H05K3/28-3/28、B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドからなるベースフィルムおよび前記ベースフィルムに分散されている無機系フィラーを含むポリイミドフィルムであって、
前記ポリイミドフィルムは、モジュラスが3.5GPa以下であり、
前記無機系フィラーは、平均粒径(D50)が2μmないし2.7μmの範囲に属する第1フィラー群および平均粒径(D50)が1μmないし1.7μmの範囲に属する第2フィラー群を含み、
前記第1フィラー群および第2フィラー群は、それぞれ粒径に関する下記関係式1を満足
し、
0.7≦(D90-D10)/(D50)≦1.2(1)
前記無機系フィラーの総重量を基準として、前記第1フィラー群を60重量%ないし80重量%、前記第2フィラー群を20重量%ないし40重量%含み、
前記無機系フィラーは、球状のシリカであり、
前記ポリイミドフィルムの総重量に対して0.05重量%ないし0.3重量%の無機系フィラーを含み、
1m×1mの単位面積当たりの長径30μm以上の表面欠陥個数が10個以下である、ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記無機系フィラーは、平均粒径(D50)が0.3μmないし0.6μmの範囲に属し、前記関係式1を満足する第3フィラー群をさらに含む請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記無機系フィラーの総重量を基準として、前記第3フィラー群を5重量%以上ないし20重量%未満で含む請求項
2に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記第1フィラー群は、D90が3.0μmないし4.1μmであり、D10が1.0μmないし1.6μmであり、
前記第2フィラー群は、D90が1.5μmないし2.5μmであり、D10が0.7μmないし1.2μmである請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記第3フィラー群は、D90が0.4μmないし0.9μmであり、D10が0.2μmないし0.4μmである請求項
2に記載
のポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記ポリイミドフィルムは、ヘイズ(haze)が12以下であり、平均粗さが20nm以上
である請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記ポリイミドフィルムは、下記関係式2を満足する請求項1に記載のポリイミドフィルム:
12μm≦T×L≦40μm(2)
ここで、Tは、ポリイミドフィルムの厚さであって、30μmないし50μmであり、
Lは、ポリイミドフィルムの透過率であって、理論的な最大透過率である1に対する相対値であり、0.4ないし0.6である。
【請求項8】
前記ベースフィルムを成しているポリイミドは、ジアンハイドライド単量体およびジアミン単量体の重合で形成されたポリアミド酸のイミド化から由来したものである請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項9】
前記ジアンハイドライド単量体は、ピロメリット酸ジアンハイドライド(PMDA)であり、
前記ジアミン単量体は、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(4,4'-ODA)、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル(3,4'-ODA)、p-メチレンジアニリン(p-MDA)、または、m-メチレンジアニリン(m-MDA)からなる群から選択された一つ以上である請求項
8に記載のポリイミドフィルム。
【請求項10】
請求項1に記載のポリイミドフィルムを製造する方法であって、
ジアンハイドライド単量体およびジアミン単量体を有機溶媒中で重合してポリアミド酸溶液を製造するステップ;
前記ポリアミド酸溶液に無機系フィラーを混合して前駆体組成物を製造するステップ;
および
前記前駆体組成物を支持体上に製膜した後、イミド化してポリイミドフィルムを形成するステップを含む、方法。
【請求項11】
請求項1に記載のポリイミドフィルムを、光学フィルム、絶縁フィルムおよび保護フィルムのうちの少なくとも一つとして含む、電子装置。
【請求項12】
前記電子装置は、折り曲げ、湾曲およびローリングから選択される少なくとも一つを通じて形態が可変的に変形されるディスプレイ装置、または、ウェアラブル機器であり、前記ポリイミドフィルムは、前記電子装置の変形に対応して共に変形される請求項
11に記載の電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径が異なる2以上のフィラーを含むポリイミドフィルムおよびこれを含む電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド(polyimide、PI)は、硬直な芳香族主鎖と共に化学的安定性が非常に優れたイミド環を基にして、有機材料の中でも最高水準の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性を有する高分子材料である。
そこで、ポリイミドは、自動車、航空宇宙分野、軟性回路基板などの中核的な材料として広く使用されており、最近では、無色透明なポリイミドフィルムが開発されることによって、光学特性、耐屈曲性、耐摩耗性、寸法安定性などが要求されるディスプレイの絶縁、保護フィルムとしても使用されている。
ポリイミドフィルムは、前駆体であるポリアミド酸溶液を製造し、前記ポリアミド酸溶液を薄い厚さに製膜した後、熱処理して製造することができる。
このように製造されたポリイミドフィルムは、平滑度の向上のためにニップロール(Nip-roll)などで加工されることや、表面の改質のためにコロナ処理されることもあり、ロール(roll)によってワインディングされて保管することができる。
ただし、通常のポリイミドフィルムは、平均粗さが低いため、上記のような仕上げ処理を行う場合、フィルム表面でブロッキング現象が誘発されることがあり、ワインディングが容易ではない工程上の制約がある。
【0003】
このような理由により、ポリイミドフィルムの前駆体であるポリアミド酸溶液に酸化チタン、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などのフィラーを添加し、フィルムの平均粗さの向上およびブロッキング現象を最小化する方法が考慮されている。
ただし、前記列挙した無機系フィラーは、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液との相溶性には優れておらず、このため、分散性が良くないというディメリットがある。また、無機系フィラーは、一般的に粒子形態が一定しない非定型であって、比表面積が広く、形態が相補的な粒子同士が互いに結合され易いという特徴がある。
したがって、無機系フィラーは、ポリアミド酸溶液で容易に分散されず、凝集することがある。
凝集した無機系フィラーは、ポリイミドフィルムの表面に大小の突起を形成し、ポリイミドフィルムの平滑度、透過率などを低下させることがある。また、突起は、ポリイミドフィルムが接着または接触する対象体、例えば、ディスプレイの表面を破損させることがある。
前記突起は、ポリイミドフィルムの透明性、透過率の低下だけでなく、光散乱を誘発し、優れた光学的特性が必須的に要求されるディスプレイ用ポリイミドフィルムに致命的なディメリットとして作用する。
したがって、このような問題を一挙に解消することができる、新規のポリイミドフィルムの必要性が高くなる実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、突起などの表面欠陥がなく、所定の平均粗さと平滑度を有し、透過率に優れたポリイミドフィルムを提供するものである。
本発明の一側面で、それぞれ特定した平均粒径(D50)の範囲に属する複数のフィラー群を含む無機系フィラーが、前記目的の達成に必須的な因子として開示される。
特に、複数のフィラー群は、本発明の特定の関係式1を満足することができる。このような特定の場合で、無機系フィラーは、ベースフィルムに均一に分散され、凝集を最小化することができる。
結果として、本発明のポリイミドフィルムは、フィラーを含むにもかかわらず、フィラーの凝集による突起が実質的に生じないというメリットを有することができる。
ポリイミドフィルムは、また、無機系フィラーが、平均粒径が互いに異なる範囲にあるフィラー群を含むことによって、所定の平均粗さと平滑度および優れた透過率を有することができ、このような点に基づいて、ディスプレイなどの技術分野に適用することができる。
本発明の他の側面で、ポリイミドフィルムは、形態が可変的に変形される電子装置、例えば、ディスプレイ装置に適合した、所定のモジュラスを有することができる。
そこで、本発明は、これの具体的実施例を提供するのに実質的な目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの実施態様において、本発明は、ポリイミドからなるベースフィルムおよび前記ベースフィルムに分散されている無機系フィラーを含むポリイミドフィルムを提供するところ、
前記ポリイミドフィルムは、モジュラスが3.5GPa以下であることができ、
前記無機系フィラーは、平均粒径(D50)が2μmないし2.7μmの範囲に属する第1フィラー群および平均粒径(D50)が1μmないし1.7μmの範囲に属する第2フィラー群を含み、
前記第1フィラー群および第2フィラー群は、それぞれ粒径に関する下記関係式1を満足することができる。
一つの実施態様において、本発明は、ポリイミドフィルムを製造する方法を提供する。
一つの実施態様において、本発明は、ポリイミドフィルムを、光学フィルム、絶縁フィルムおよび保護フィルムのうちの少なくとも一つとして含む電子装置を提供する。
前記電子装置は、折り曲げ、湾曲およびローリングから選択される少なくとも一つを通じて形態が可変的に変形するディスプレイ装置、または、ウェアラブル機器であり、前記ポリイミドフィルムは、前記電子装置の変形に対応して共に変形する電子装置であることができる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下では、本発明に係る「ポリイミドフィルム」および「ポリイミドフィルムの製造方法」の順で発明の実施態様をより詳細に説明する。
これに先立ち、本明細書および請求の範囲で使用された用語や単語は通常的または辞典的な意味で限定して解釈されてはならず、発明者は、その自身の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に立脚して、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈されなければならない。
したがって、本明細書に記載された実施例の構成は、本発明の最も好ましい一つの実施例に過ぎないだけで、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではないため、本出願時点においてこれらに置き換えられる様々な均等物と変形例が存在し得ることを理解しなければならない。
【0007】
本明細書において、単数の表現は、文脈上明らかに異なることを意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、ステップ、構成要素、または、これらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、構成要素、または、これらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないものと理解されなければならない。
本明細書において、「ジアンハイドライド(二無水物;dianhydride)」は、その前駆体または誘導体を含むものと意図されるが、これらは、技術的にはジアンハイドライドでなくてもよいが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミド酸を形成するものであり、このポリアミド酸は、再びポリイミドに変換することができる。
本明細書において、「ジアミン」は、その前駆体または誘導体を含むものと意図されるが、これらは、技術的にはジアミンでなくてもよいが、それにもかかわらず、ジアンハイドライドと反応してポリアミド酸を形成するものであり、このポリアミド酸は、再びポリミッドに変換することができる。
本明細書において、量、濃度、または、他の値またはパラメータが、範囲、好ましい範囲、または、好ましい上限値および好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別に開示されるかにかかわらず、任意の一対の任意の上範囲の限界値、または、好ましい値および任意の下範囲の限界値、または、好ましい値で形成されたすべての範囲を具体的に開示するものと理解されなければならない。数値の範囲が本明細書で言及される場合、別に記述されなければ、その範囲は、その終点およびその範囲内のすべての整数と分数を含むものと意図される。本発明の範疇は、範囲を定義するときに言及される特定の値に限定されないものと意図される。
【0008】
ポリイミドフィルム
本発明に係るポリイミドフィルムは、ポリイミドからなるベースフィルムおよび前記ベースフィルムに分散されている無機系フィラーを含むことができる。
ここで、前記無機系フィラーは、平均粒径(D50)が2μmないし2.7μmの範囲に属する第1フィラー群および平均粒径(D50)が1μmないし1.7μmの範囲に属する第2フィラー群を含むことができる。前記第1フィラー群および第2フィラー群は、それぞれ粒径に関する下記関係式1を満足することができる。
0.7≦(D90-D10)/(D50)≦1.2(1)
【0009】
同じ平均粒径を有するフィラー群(filler group)であっても粒径の分布が異なることがあり、粒径分布によって効果への影響が異なることがある。このような粒径分布は、D10、D50、D90によって確認することができる。
D90は、フィラー群でも粒径が大きい10%の粒子のうち、最も小さい粒子が有する粒子サイズであり、D10は、フィラー群でも粒径が小さい10%の粒子のうち、最も大きい粒子が有する粒子サイズであり、平均粒径(D50)は、フィラー群で粒径が小さい50%のうち、最も大きい粒子が有する粒子サイズである。
フィラー群をなす粒子間の粒径のばらつきは、様々な因子が関係することができ、D90とD10との差も、そのような因子の一つとして見ることができる。
要約すると、D90とD10との差が大きいほど、フィラー群をなす粒子間の粒径のばらつきが大きいものと解釈することができ、逆の場合、粒径のばらつきが小さいものと解釈することができる。
これに関連して、単一のフィラー群の無機系フィラーがベースフィルムに分散されているとき、大きい粒径のばらつき、すなわち、前記関係式1の範囲を外れる場合は、ベースフィルムのある一部分では、D90内外の粒径を有する「大粒子」がより多く存在し、他の部分では、D10内外の粒径を有する「小粒子」がより多く存在する「粒子の不均一な分布」を意味する。
ベースフィルムで無機系フィラーの不均一な分布は、ポリイミドフィルムが一定しない表面粗さを有するようにして、大粒子または小粒子がベースフィルムのある一部分に偏ることによって、無機系フィラー由来の突起がポリイミドフィルムの表面に形成される問題に帰結する。
したがって、フィラー群をなす粒子の粒径のばらつきが小さいことが突起形成を抑制できる因子として理解することができる。
前記粒径のばらつきが適正な水準であっても、フィラー群の平均粒径が過度に大きいと、ベースフィルムの前駆体であるポリアミド酸溶液で重力によって沈降する粒子の数が増加することがある。したがって、粒子は、ベースフィルムの一部分に偏ることがあり、これは前述の粒子の不均一な分布のもう一つの例である。他にも過度に大きい平均粒径のフィラー群は、ポリイミドフィルムの平均粗さの向上に寄与することができるが、フィルムの平滑度と透過率を低下させることがある。他の側面で、高品質が要求されるディスプレイ用ポリイミドフィルムの場合、粒径が過度に大きいフィラー粒子自体が欠陥として認識されることもある。
また、前記粒径のばらつきが適正な水準であっても、フィラー群の平均粒径が過度に小さい場合には、フィラー群の比表面積の増加により、フィラー粒子がポリアミド酸溶液で凝集しやすく、これにより、突起形成を誘起することができる。それだけではなく、過度に小さい平均粒径のフィラー群は、平滑度と透過率の向上に寄与することはできるが、平均粗さを大幅に下げることができ、これは、フィルムの製造工程において、スクラッチなどの追加的な欠陥を生じさせる原因として作用する。
すなわち、フィラー群の粒径のばらつきおよび平均粒径のいずれか一つの因子では、前述の問題が解消され難い。
また、平均粒径が大きい場合には、粒子分布が均一であっても、D90とD10との差が大きく示されることがあり、逆に、平均粒径が小さい場合には、粒子分布が均一でなくても、D90とD10との差が小さく示されることがあるので、単に、D90とD10との差だけでは粒径分布を代表するには限界がある。
したがって、前記関係式1のように、D10、D50、D90の関係を確立する場合に、初めて粒径分布を代表することができ、前記関係式1の範囲を満足する場合に、初めて本発明が目的とする効果を達成することができる。
前記フィラー群が関係式1を満足するとき、フィラー群をなす粒子の分散効率が増大され、粒子がベースフィルムに比較的に均一に分布され得るものと推測し、実際に、本発明のポリイミドフィルムは、実質的に突起が生じないか、または、非常に極少量の突起を含むことができ、平均粗さ、平滑度および透過率も適正な水準で内在することができる。これについては、「発明を実施するための具体的な内容、実施例」で明確に立証する。
【0010】
本発明のポリイミドフィルムは、また、平均粒径が互いに異なる範囲に属する第1フィラー群と第2フィラー群とを含む無機系フィラーを通じて、第1フィラー群と第2フィラー群から発現され得る特徴が互いに相補的に作用し、適正な水準の平均粗さ、平滑度および透過率を内在することに特徴がある。
前述のように、フィラー群の平均粒径によって、ポリイミドフィルムの平均粗さ、平滑度および透過率のいずれか一つが犠牲になることがあり、一つの平均粒径の範囲に属する単一のフィラー群を使用すると、これらは互いに両立し難いはずである。
しかし、本発明のポリイミドフィルムは、相対的に大きい平均粒径の範囲の第1フィラー群が適正な水準の平均粗さを維持し、相対的に小さい平均粒径の範囲の第2フィラー群によって平滑度と透過率が適正な水準で内在することができ、互いに両立し難い平均粗さ、ならびに平滑度と透過率が所定の水準で両立した新規のポリイミドフィルムである。
これに対する一つの具体的な例において、前記ポリイミドフィルムは、ヘイズ(haze)が12以下、詳細には、10以下であり、平均粗さが20nm以上、詳細には、20nmないし50nm、さらに詳細には、20nmないし40nmであることができる。前記ヘイズは、透過率と反比例の関係であるため、本発明のポリイミドフィルムが透過率に優れていることが予想できる。具体的には、本発明のポリイミドフィルムは、理論的な最大透過率である1に対する相対値として0.4ないし0.6の透過率を有することができる。
以上を実現するための一つの具体的な例において、前記第1フィラー群は、D90が3.0μmないし4.1μmであり、D10が1.0μmないし1.6μmであり、前記第2フィラー群は、D90が1.5μmないし2.5μmであり、D10が0.7μmないし1.2μmであることができる。
前記第1フィラー群のD90が前記範囲を下回ると、無機フィラー全体を基準とした比表面積が増加し、粒子の凝集が誘発され得るので、好ましくない。また、前記第1フィラー群のD90が前記範囲を上回ると、ポリアミド酸溶液で重力によって沈降する粒子の数が増加し得るので、好ましくない。
前記第1フィラー群のD10が前記範囲を下回ると、無機フィラー全体を基準とした比表面積が増加し、粒子の凝集が誘発され得るので、好ましくない。また、前記第1フィラー群のD10が前記範囲を上回ると、第2フィラー群の大粒子、例えば、D90の粒子と大きい粒径のばらつきを示すことがあり、この場合、無機系フィラーの不均一な分布が深化し得るので、好ましくない。
前記第2フィラー群のD90とD10の場合もまた、前述の第1フィラー群のそれと類似する弊害が生じ得るので、前記の範囲から選択されることが好ましい。
【0011】
以上を実現するための一つの具体的な例において、ポリイミドフィルムは、これの総重量に対して0.05重量%ないし0.3重量%の無機系フィラーを含むことができる。
前記無機系フィラーの含量が前記範囲を上回ると、ポリイミドフィルムの機械的特性が大きく低下することがあり、前記範囲を下回る場合、本発明が意図した効果が発現されないことがある。
また、無機系フィラーをなす第1フィラー群と第2フィラー群との含量が、本発明の範囲を超えて調和していない場合、例えば、第2フィラー群の含量が過度に高く、このため、第1フィラー群の含量が減少すると、平均粗さが低下することがあるが、第2フィラー群によって平滑度と透過率が顕著には改善されない。
逆に、第1フィラー群の含量が過度に高く、これにより、第2フィラー群の含量が減少すると、第2フィラー群による平滑度と透過率の改善効果が発現されず、不均一な分布が誘発されることができる。
すなわち、第1フィラー群と第2フィラー群との含量がある適正な水準であるとき、これらのそれぞれから発現され得る特徴がバランスを保ちながら、本発明が意図した効果が発現され得るが、前記適正な水準を外れると、このようなバランスが崩れ、ポリイミドフィルムに否定的な影響を及ぼすことができる。
【0012】
そこで、本発明は、第1フィラー群と第2フィラー群の好ましい含量を開示する。
これに対する一つの例において、前記無機系フィラーは、その総重量を基準として、前記第1フィラー群を60重量%ないし80重量%、詳細には、65重量%ないし75重量%、さらに詳細には、68重量%ないし72重量%含むことができる。前記無機系フィラーは、また、それの総重量を基準として、前記第2フィラー群を20重量%ないし40重量%、詳細には、25重量%ないし35重量%、さらに詳細には、28重量%ないし32重量%を含むことができる。
このような含量の範囲内で選択される第1フィラー群と第2フィラー群を使用するとき、本発明が目的とする効果が発現され得ることを理解しなければならない。
【0013】
一方、場合によっては、前記無機系フィラーがポリイミドフィルムの平滑度の向上を目的として、平均粒径(D50)が0.3μmないし0.6μmの範囲に属し、前記関係式1を満足する第3フィラー群をさらに含むことができる。
ただし、前記第3フィラー群は、平均粒径が小さく、凝集しやすく、ポリイミドフィルムの平均粗さを低下させることができるので、制限的な含量で含まれることが好ましい。これに対する一つの具体的な例において、前記無機系フィラーは、その総重量を基準として、前記第3フィラー群を5重量%以上ないし20重量%未満、詳細には、5重量%ないし10重量%、さらに詳細には、7重量%ないし10重量%で含むことができる。
前記無機系フィラーが第3フィラー群をさらに含むとき、第2フィラー群の一部が第3フィラー群に置き換えられる形態で含まれることができ、この場合、第2フィラー群に対する第3フィラー群の重量比(第3フィラー群の重量/第2フィラー群の重量)が0.1ないし1であることができる。
前記第3フィラー群は、D90が0.4μmないし0.9μmであり、D10が0.2μmないし0.4μmであることができる。
前記第3フィラー群のD90が前記範囲を下回ると、無機フィラー全体を基準とした比表面積が増加し、粒子の凝集が誘発され得るので、好ましくない。また、前記第3フィラー群のD90が前記範囲を上回ると、平滑度の向上を期待し難い。また、前記第3フィラー群のD10が前記範囲を下回ると、無機フィラー全体を基準とした比表面積が増加し、粒子の凝集が誘発されることができ、前記範囲を上回ると、平滑度の向上を期待し難い。
【0014】
本発明の無機系フィラーは、ポリアミド酸溶液との相溶性に優れたシリカ、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムおよび硫酸バリウムからなる群から選択された一つ以上であることができ、詳細には、よく凝集されない特性を有する球状のシリカであることができる。
【0015】
一つの具体的な例において、前記ベースフィルムを成しているポリイミドは、ジアンハイドライド単量体およびジアミン単量体の重合で形成されたポリアミド酸のイミド化から由来したものであることができる。
前記ポリアミド酸の重合に使用することができるジアミン単量体は、芳香族ジアミンであって、以下のように分類して挙げることができる。
1)1,4-ジアミノベンゼン(または、パラフェニレンジアミン、PPD、PDA)、1,3-ジアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、3,5-ジアミノ安息香酸(または、DABA)などのように、構造上、ベンゼン環を一つを有するジアミンであって、相対的に硬直な構造のジアミン
2)4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(または、オキシジアニリン、ODA)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(p-メチレンジアニリン)、3,4’-ジアミノジフェニルメタン(m-メチレンジアニリン)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4、4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’、5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン(または、o-トリジン)、2,2’-ジメチルベンジジン(または、m-トリジン)、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジクロロベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1、3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシドなどのように、構造上、ベンゼン環を2つ有するジアミン;
3)1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(または、TPE-R)、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(または、TPE-Q)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)-4-トリフルオロメチルベンゼン、3,3’-ジアミノ-4-(4-フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジ(4-フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(3-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのように、構造上、ベンゼン環を3つ有するジアミン;
4)3,3’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1、1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンなどのように、構造上、ベンゼン環を4つ有するジアミン。
これらは、所望のとおり、単独または2種以上を組み合わせて用いることができるが、本発明で特に好ましく用いることができるジアミン単量体は、透過率を向上させることができる特徴を内在した単量体である4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-ODA)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-ODA)、p-メチレンジアニリン(p-MDA)、または、m-メチレンジアニリン(m-MDA)からなる群から選択された一つ以上であることができる。
【0016】
前記ポリアミド酸の重合に使用することができるジアンハイドライド単量体は、芳香族テトラカルボン酸ジアンハイドライドであることができる。
前記芳香族テトラカルボン酸ジアンハイドライドは、ピロメリット酸ジアンハイドライド(または、PMDA)、3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンハイドライド(または、s-BPDA)、2,3、3’、4’-ビフェニルテトラカルボン酸ジアンハイドライド(または、a-BPDA)、オキシジフタル酸ジアンハイドライド(または、ODPA)、ジフェニルスルホン-3,4,3’、4’-テトラカルボン酸ジアンハイドライド(または、DSDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィドジアンハイドライド、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3、3-ヘキサフルオロプロパンジアンハイドライド、2,3,3’、4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアンハイドライド、3,3’、4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアンハイドライド(または、BTDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタンジアンハイドライド、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパンジアンハイドライド、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸アンハイドライド)、p-ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸アンハイドライド)、m-テルフェニル-3,4,3’、4’-テトラカルボン酸ジアンハイドライド、p-テルフェニル-3,4,3’、4’-テトラカルボン酸ジアンハイドライド、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼンジアンハイドライド、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼンジアンハイドライド、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニルジアンハイドライド、2,2-ビス〔(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパンジアンハイドライド(BPADA)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸ジアンハイドライド、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジアンハイドライド、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸ジアンハイドライドなどを挙げることができる。これらは、所望のとおり、単独または2種以上を組み合わせて用いることができるが、本発明で特に好ましく用いることができるジアンハイドライド単量体は、ピロメリット酸ジアンハイドライド(PMDA)であることができる。
【0017】
一方、本発明に係るポリイミドフィルムは、下記関係式2を満足することができる。
12μm≦T×L≦40μm(2)
ここで、Tは、ポリイミドフィルムの厚さであって、30μmないし50μmであり、Lは、ポリイミドフィルムの透過率であって、理論的な最大透過率である1に対する相対値であり、0.4ないし0.8、詳細には、0.4ないし0.6である。
【0018】
このような関係を満足するポリイミドフィルムは、例えば、優れた光透過率に基づいて、光学的特性が要求されるディスプレイ装置、詳細には、折り曲げ、湾曲およびローリングから選択される少なくとも一つを通じて形態が可変的に変形するディスプレイ装置の絶縁、保護フィルムとして適している。
一つの例において、両端部が同一な方向に変形される、例えば、反るディスプレイ装置は、変形される方向に向かう内側面と、その対向面である外側面とを有する。前記ディスプレイ装置を変形させるとき、内側面では、力がディスプレイ装置の両端部から中心部の方向に伝達され、外側面では、力がディスプレイ装置の中心部から両端部の方向に伝達される。
仮に、前記ポリイミドフィルムが前記のように変形するディスプレイ装置の外側面に付加されているならば、ディスプレイ装置の中心部から両端部の方向に伝達される力によってポリイミドフィルムに引張力が形成される。このとき、ポリイミドフィルムのモジュラスが過度に高いと、ポリイミドフィルムが硬い(Brittle)特性を有するようになり、引張する方向に変形することができない。この場合のポリイミドフィルムは、ディスプレイの内部に応力を印加してディスプレイの寿命を短縮させる問題を誘起することができる。
逆に、前記ポリイミドフィルムが前記内側面に付加された場合には、別の引張力が形成されず、両端部から中心部の方向に伝達される力によってポリイミドフィルムが圧縮される傾向がみられる。したがって、前記内側面に付加されるポリイミドフィルムは、高いモジュラスを有するので、圧縮力に強い特性を有することが有利である。
本発明のポリイミドフィルムは、モジュラスが3.5GPa以下であって、相対的に低いモジュラスに基盤して変形されるディスプレイ装置で内側面に付加されることに特化したものであると言える。ただし、以上は、本発明に係るポリイミドフィルムに対する非制限的な例として説明したものであって、本発明のポリイミドフィルムの用途がこれに限定されるものではないことを強調する。
【0019】
ポリイミドフィルムの製造方法
本発明に係るポリイミドフィルムを製造する方法は、
ジアンハイドライド単量体およびジアミン単量体を有機溶媒中で重合してポリアミド酸溶液を製造するステップ;
前記ポリアミド酸溶液に無機系フィラーを混合して前駆体組成物を製造するステップ;および
前記前駆体組成物を支持体上に製膜した後、イミド化してポリイミドフィルムを形成するステップを含むことができる。
【0020】
前記ポリアミド酸を重合する方法は、例えば、
(1)ジアミン単量体の全量を有機溶媒中に入れ、その後、ジアンハイドライド単量体をジアミン単量体と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(2)ジアンハイドライド単量体の全量を有機溶媒中に入れ、その後、ジアミン単量体をジアンハイドライド単量体と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(3)ジアミン単量体のうち一部の成分を有機溶媒中に入れた後、反応成分に対して、ジアンハイドライド単量体のうち一部の成分を約95モル%ないし105モル%の割合で混合した後、残りのジアミン単量体成分を添加し、これに続いて、残りのジアンハイドライド単量体成分を添加し、ジアミン単量体およびジアンハイドライド単量体が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;
(4)ジアンハイドライド単量体を有機溶媒中に入れた後、反応成分に対して、ジアミン化合物のうち一部の成分を95モル%ないし105モルの割合で混合した後、他のジアンハイドライド単量体成分を添加し、続いて、残りのジアミン単量体成分を添加し、ジアミン単量体およびジアンハイドライド単量体が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;および
(5)有機溶媒中で、一部のジアミン単量体成分と一部のジアンハイドライド単量体成分とのいずれか一つが過量になるように反応させて第1重合物を形成し、また、他の有機溶媒中で、一部のジアミン単量体成分と一部のジアンハイドライド単量体成分とのいずれか一つが過量になるように反応させて第2重合物を形成した後、第1、第2重合体を混合し、重合を完結する方法であって、このとき、第1重合物を形成するときに、ジアミン単量体成分が過剰である場合、第2重合体では、ジアンハイドライド単量体成分を過量にし、第1重合体でジアンハイドライド単量体成分が過剰である場合、第2重合体ではジアミン単量体成分を過量にして、第1、第2重合体を混合して、これらの反応に使用される全体のジアミン単量体成分とジアンハイドライド単量体成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法などを挙げることができる。
ただし、前記方法は、本発明の実施を助けるための例示であって、本発明の範疇がこれらに限定されるものではなく、公知の如何なる方法を使用し得ることは言うまでもない。
前記ジアミン単量体およびジアンハイドライド単量体は、前述の実施態様で記載しているような単量体が使用されることができる。
【0021】
前記有機溶媒は、ジアミン、ジアンハイドライド単量体とポリアミド酸が溶解し得る溶媒であれば、特に限定されないが、一つの例として、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であることができる。
前記非プロトン性極性溶媒の非制限的な例として、
N、N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N、N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、p-クロロフェノール、o-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)およびジグリム(Diglyme)などを挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
場合によっては、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、水などの補助的溶媒を使用して、ポリアミド酸の溶解度を調節することもできる。
一つの例において、本発明のポリアミド酸溶液の製造に特に好ましく使用することができる有機溶媒は、アミド系溶媒であるN、N’-ジメチルホルムアミドおよびN、N’-ジメチルアセトアミドであることができる。
【0022】
このように製造されたポリアミド酸溶液のポリアミド酸は、重量平均分子量が150,000g/mole以上ないし1,000,000g/mole以下であることができ、詳細には、260,000g/mole以上ないし700,000g/mole以下であることができ、さらに詳細には、280,000g/mole以上ないし500,000g/mole以下であることができる。
このような重量平均分子量を有するポリアミド酸、より優れた耐熱性と機械的物性を有するポリイミドフィルムの製造に好ましい。
一般的に、ポリアミド酸の重量平均分子量は、ポリアミド酸と有機溶媒を含むポリアミド酸溶液の粘度に比例するため、前記粘度を調整してポリアミド酸の重量平均分子量を前記範囲に制御することができる。
これは、ポリアミド酸溶液の粘度がポリアミド酸固形分の含量、詳細には、重合反応に使用されたジアンハイドライド単量体とジアミン単量体との総量に比例するからである。ただし、重量平均分子量が粘度に対して一次元の線形的な比例関係を示すものではなく、対数関数の形態で比例する。
すなわち、より高い重量平均分子量のポリアミド酸を得るために粘度を増加させても、重量平均分子量が増加し得る範囲が制限的であるのに対し、粘度を過度に高くする場合、ポリイミドフィルムの製膜工程でダイを通じた前駆体組成物の吐出時に、ダイ内部の圧力上昇などによる工程性の問題を誘起することができる。
そこで、本発明のポリアミド酸溶液は、15重量%ないし20重量%のポリアミド酸固形分および80重量%ないし85重量%の有機溶媒を含むことができ、この場合、粘度が90,000cP以上ないし350,000cP以下、詳細には、100,000cP以上ないし300,000cPであることができる。粘度の測定は、常温でせん断速度(Shear Rate)1(1/sec)の条件で行われる。このような粘度範囲内で、ポリアミド酸の重量平均分子量が前記範囲に属することができ、前駆体組成物は、前述の製膜工程上の問題を誘発しないことができる。
【0023】
前記ポリアミド酸溶液に無機系フィラーを混合して前駆体組成物を製造するステップは、無機系フィラーと有機溶媒とを混合した混合物をミリングまたは超音波分散した後、前記ポリアミド酸溶液に混合して前駆体組成物を製造するステップ;または、無機系フィラーと有機溶媒とを混合した混合物を、前記ポリアミド酸溶液に混合した状態でミリングして前駆体組成物を製造するステップを含むことができる。
前記ミリングは、非制限的にビーズミリング(bead milling)法の使用が考慮できる。ビーズミリングは、混合物の流速が低い場合でも、効果的に撹拌することができ、分散に有利な点がある。ただし、これは、発明の実施を助けるための例示だけであることを理解しなければならない。
【0024】
前記前駆体組成物を支持体上に製膜した後、イミド化してポリイミドフィルムを形成するステップには、熱イミド化法、化学イミド化法、または、前記熱イミド化法と化学イミド化法とを併用する複合イミド化法を用いることができる。
これについては、以下の非制限的な例を挙げ、より具体的に説明する。
【0025】
<熱イミド化法>
熱イミド化法は、化学的触媒を排除し、熱風や赤外線乾燥機などの熱源でイミド化反応を誘導する方法であって、
前記前駆体組成物を乾燥してゲルフィルムを形成する過程;および
前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを得る過程を含むことができる。
ここで、ゲルフィルムとは、ポリアミド酸からポリイミドへの変換に対して、中間ステップで自己支持性を有するフィルムの中間体であると理解することができる。
前記ゲルフィルムを形成する過程は、前駆体組成物をガラス板、アルミニウム箔、無断(endless)ステンレスベルト、または、ステンレスドラムなどの支持体上にフィルム状にキャスティングし、その後、支持体上の前駆体組成物を50℃ないし200℃、詳細には、80℃ないし200℃の範囲の可変的な温度で乾燥することであってもよい。
これにより、前駆体組成物に部分的な硬化および/または乾燥が起こることによってゲルフィルムが形成される。次いで、支持体から剥離してゲルフィルムを得ることができる。
場合によっては、後の熱処理の過程で得られるポリイミドフィルムの厚さおよび大きさを調整し、配向性を向上させるために、前記ゲルフィルムを延伸させる工程が行われてもよいし、延伸は、機械搬送方向(MD)および機械搬送方向に対する横方向(TD)のうちの少なくとも一つの方向に行われてもよい。
このように得られたゲルフィルムを、テンターに固定した後、50℃ないし650℃、詳細には、150℃ないし600℃の範囲の可変的な温度で熱処理してゲルフィルムに残存する水、残留溶媒などを除去し、残っているほぼすべてのアミド酸基をイミド化して、本発明のポリイミドフィルムを得ることができる。
場合によっては、前記のように得られたポリイミドフィルムを400℃ないし650℃の温度で5秒ないし400秒間加熱して仕上げ、ポリイミドフィルムをさらに硬化させることもでき、得られたポリイミドフィルムに残留し得る内部応力を緩和させるために、所定の張力の下でこれを行うこともできる。
【0026】
<化学イミド化法>
前記化学イミド化法は、前駆体組成物に脱水剤および/またはイミド化剤を添加してアミド酸基のイミド化を促進する方法である。
ここで、「脱水剤」とは、ポリアミド酸に対する脱水作用を通じて閉環反応を促進する物質を意味しており、これに対する非制限的な例として、脂肪族の酸アンハイドライド、芳香族の酸アンハイドライド、N、N’-ジアルキルカルボジイミド、ハロゲン化低級脂肪族、ハロゲン化低級脂肪酸アンハイドライド、アリールホスホン酸ジハライドおよびチオニルハライドなどを挙げることができる。この中でも、入手の容易性およびコストの観点から、脂肪族酸アンハイドライドが好ましく、これの非制限的な例として、酢酸アンハイドライド(AA)、プロピオン酸アンハイドライドおよび乳酸アンハイドライドなどを挙げることができ、これらを単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。
また、「イミド化剤」とは、ポリアミド酸に対する閉環反応を促進する効果を有する物質を意味しており、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミンおよび複素環式3級アミンなどのイミン系成分であることができる。この中でも、触媒としての反応性の観点から、複素環式3級アミンが好ましい。複素環式3級アミンの非制限的な例として、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン(BP)、ピリジンなどを挙げることができ、これらを単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。
脱水剤の添加量は、ポリアミド酸のうちアミド酸基1モルに対して0.5モルないし5モルの範囲内であることが好ましく、1.0モルないし4モルの範囲内であることが特に好ましい。また、イミド化剤の添加量は、ポリアミド酸のうちアミド酸基1モルに対して0.05モルないし2モルの範囲内であることが好ましく、0.2モルないし1モルの範囲内であることが特に好ましい。
前記脱水剤およびイミド化剤が前記範囲を下回ると、化学的イミド化が不十分で、製造されるポリイミドフィルムにクラックが形成されることがあり、フィルムの機械的強度も低下することがある。また、これらの添加量が前記範囲を上回ると、イミド化が過度に急速に進行でき、この場合、フィルム状にキャスティングし難いか、製造されたポリイミドフィルムがブリトル(brittle)な特性を奏することがあり、好ましくない。
【0027】
<複合イミド化法>
以上の化学イミド化法に連携して、熱イミド化法を追加で行う複合イミド化法をポリイミドフィルムの製造に用いることができる。
具体的には、複合イミド化法は、低温で前駆体組成物に脱水剤および/またはイミド化剤を添加する化学イミド化法の過程;および前記前駆体組成物を乾燥してゲルフィルムを形成し、前記ゲルフィルムを熱処理する熱イミド化法の過程を含むことができる。
前記化学イミド化法の過程を行うときに、脱水剤とイミド化剤の種類および添加量は、前述の化学イミド化法で説明したように、適切に選択することができる。
前記ゲルフィルムを形成する過程では、脱水剤および/またはイミド化剤を含有する前駆体組成物をガラス板、アルミニウム箔、無断(endless)ステンレスベルト、または、ステンレスドラムなどの支持体上にフィルム状にキャスティングし、その後、支持体上の前駆体組成物を50℃ないし200℃、詳細には、80℃ないし200℃の範囲の可変的な温度で乾燥する。このような過程で、脱水剤および/またはイミド化剤が触媒として作用してアミド酸基がイミド基に素早く変換されることができる。
場合によっては、後の熱処理の過程で得られるポリイミドフィルムの厚さおよび大きさを調整し、配向性を向上させるために、前記ゲルフィルムを延伸させる工程が行われてもよいし、延伸は、機械搬送方向(MD)および機械搬送方向に対する横方向(TD)のうちの少なくとも一つの方向に行われてもよい。
前記ゲルフィルムの揮発分の含量については、前述の熱イミド化法で説明したことがそのまま適用することができる。
このように得られたゲルフィルムを、テンターに固定した後、50℃ないし650℃、詳細には、150℃ないし600℃の範囲の可変的な温度で熱処理してゲルフィルムに残存する水、触媒、残留溶媒などを除去し、残っているほぼすべてのアミド酸基をイミド化して、本発明のポリイミドフィルムを得ることができる。このような熱処理過程でも、脱水剤および/またはイミド化剤が触媒として作用してアミド酸基がイミド基に素早く切り替えられ、高いイミド化率を実現することができる。
場合によっては、前記のように得られたポリイミドフィルムを400℃ないし650℃の温度で5秒ないし400秒間加熱して仕上げ、ポリイミドフィルムをさらに硬化させることもでき、得られたポリイミドフィルムに残留し得る内部応力を緩和させるために、所定の張力の下でこれを行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例1に係るポリイミドフィルムの表面を撮影した写真である。
【
図2】比較例6に係るポリイミドフィルムの表面を撮影した写真である。
【実施例】
【0029】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用および効果をより詳述することにする。ただし、このような実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎず、これにより発明の権利範囲が決まるわけではない。
【0030】
<実施例1>
製造例1-1:前駆体組成物の製造
1.0L反応器に、窒素雰囲気下で有機溶媒として、ジメチルホルムアミド(DMF)515.75gを投入した。温度を25℃に設定した後、ジアミン単量体として、ODAを44.27g投入し、30分ほど攪拌して単量体が溶解したことを確認した後に、ジアンハイドライド単量体として、PMDAを46.78g投入し、 最終的に、粘度100,000cPないし150,000cPとなるように最後の投入量を調節して投入し、ポリアミド酸溶液を製造した。
その後、下記の特性を有する第1フィラー群および第2フィラー群を含む無機系フィラーを、前記ポリアミド酸固形分に対して0.15%でポリアミド酸溶液に混合して前駆体組成物を製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2μmの球状のシリカであり、D10が1.1μmであり、D90が3.0μmであり、無機系フィラーの総重量に対して70重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1μmの球状のシリカであり、D10が0.7μmであり、D90が1.5μmであり、無機系フィラーの総重量に対して30重量%。
製造例1-2:ポリイミドフィルムの製造
製造例1-1で製造された前駆体組成物100gに、触媒として、イソキノリン(IQ)3.0g、無水酢酸(AA)20.8g、およびDMF16.2gを投入した後、均一に混合してSUS plate(100SA、Sandvik)にドクターブレードを使用して470μmにキャスティングし、100℃ないし200℃の温度範囲で乾燥させた。
次いで、フィルムをSUS Plateから剥離してピンフレームに固定させ、高温テンターに移送した。
フィルムを高温テンターで200℃から600℃まで加熱した後、25℃で冷却した後、ピンフレームから取り外して、横×縦が1m×1mであり、厚さ50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0031】
<実施例2>
下記の特性を有する第1フィラー群および第2フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2.7μmの球状のシリカであり、D10が1.5μmであり、D90が4.1μmであり、無機系フィラーの総重量に対して70重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1.7μmの球状のシリカであり、D10が1.2μmであり、D90が2.5μmであり、無機系フィラーの総重量に対して30重量%。
【0032】
<実施例3>
下記の特性を有する第1フィラー群および第2フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した。
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2.2μmの球状のシリカであり、D10が1.3μmであり、D90が3.3μmであり、無機系フィラーの総重量に対して70重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1.3μmの球状のシリカであり、D10が0.9μmであり、D90が1.9μmであり、無機系フィラーの総重量に対して30重量%。
【0033】
<実施例4>
下記の特性を有する第1フィラー群および第2フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2.2μmの球状のシリカであり、D10が1.3μmであり、D90が3.3μmであり、無機系フィラーの総重量に対して80重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1.3μmの球状のシリカであり、D10が0.9μmであり、D90が1.9μmであり、無機系フィラーの総重量に対して20重量%。
【0034】
<実施例5>
下記の特性を有する第1フィラー群、第2フィラー群、第3フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2μmの球状のシリカであり、D10が1.1μmであり、D90が3.0μmであり、無機系フィラーの総重量に対して70重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1μmの球状のシリカであり、D10が0.7μmであり、D90が1.5μmであり、無機系フィラーの総重量に対して20重量%;
-第3フィラー群:平均粒径(D50)が0.3μmの球状のシリカであり、D10が0.2μmであり、D90が0.42μmであり、無機系フィラーの総重量に対して10重量%。
【0035】
<実施例6>
下記の特性を有する第1フィラー群、第2フィラー群、第3フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2.7μmの球状のシリカであり、D10が1.5μmであり、D90が4.1μmであり、無機系フィラーの総重量に対して70重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1.7μmの球状のシリカであり、D10が1.2μmであり、D90が2.5μmであり、無機系フィラーの総重量に対して20重量%;
-第3フィラー群:平均粒径(D50)が0.6μmの球状のシリカであり、D10が0.4μmであり、D90が0.9μmであり、無機系フィラーの総重量に対して10重量%。
【0036】
<比較例1>
下記の特性を有する第1フィラー群および第2フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2μmのリン酸カルシウムであり、D10が0.7μmであり、D90が5.3μmであり、無機系フィラーの総重量に対して70重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1μmの硫酸バリウムであり、D10が0.4μmであり、D90が2.3μmであり、無機系フィラーの総重量に対して30重量%。
【0037】
<比較例2>
下記の特性を有する単一のフィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-フィラー群:平均粒径(D50)が2μmのリン酸カルシウムであり、D10が0.7μmであり、D90が5.3μmであり、無機系フィラーの総重量に対して100重量%。
【0038】
<比較例3>
下記の特性を有する第1フィラー群および第2フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が3μmの球状のシリカであり、D10が1.7μmであり、D90が4.7μmであり、無機系フィラーの総重量に対して70重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1μmの球状のシリカであり、D10が0.7μmであり、D90が1.5μmであり、無機系フィラーの総重量に対して30重量%。
【0039】
<比較例4>
下記の特性を有する第1フィラー群および第2フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2μmの球状のシリカであり、D10が1.1μmであり、D90が3.0μmであり、無機系フィラーの総重量に対して70重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が0.6μmの球状のシリカであり、D10が0.4μmであり、D90が0.9μmであり、無機系フィラーの総重量に対して30重量%。
【0040】
<比較例5>
下記の特性を有する第1フィラー群および第2フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2μmの球状のシリカであり、D10が1.1μmであり、D90が3.0μmであり、無機系フィラーの総重量に対して50重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1μmの球状のシリカであり、D10が0.7μmであり、D90が1.5μmであり、無機系フィラーの総重量に対して50重量%。
【0041】
<比較例6>
下記の特性を有する第1フィラー群および第2フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2μmの球状のシリカであり、D10が0.8μmであり、D90が3.5μmであり、無機系フィラーの総重量に対して70重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1μmの球状のシリカであり、D10が0.3μmであり、D90が1.8μmであり、無機系フィラーの総重量に対して30重量%。
【0042】
<比較例7>
下記の特性を有する第1フィラー群および第2フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2μmの球状のシリカであり、D10が1.5μmであり、D90が2.6μmであり、無機系フィラーの総重量に対して70重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1μmの球状のシリカであり、D10が0.7μmであり、D90が1.3μmであり、無機系フィラーの総重量に対して30重量%。
【0043】
<比較例8>
下記の特性を有する第1フィラー群、第2フィラー群、第3フィラー群を含む無機系フィラーを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法でポリイミドフィルムを製造した:
-第1フィラー群:平均粒径(D50)が2μmの球状のシリカであり、D10が1.1μmであり、D90が3.0μmであり、無機系フィラーの総重量に対して70重量%;
-第2フィラー群:平均粒径(D50)が1μmの球状のシリカであり、D10が0.7μmであり、D90が1.5μmであり、無機系フィラーの総重量に対して10重量%;
-第3フィラー群:平均粒径(D50)が0.3μmの球状のシリカであり、D10が0.2μmであり、D90が0.4μmであり、無機系フィラーの総重量に対して20重量%。
以上の実施例および比較例で使用された無機系フィラーについて、下記表1に簡略にまとめた。
【0044】
【0045】
実施例1ないし6および比較例1ないし8で使用されたフィラーが下記関係式1を満足するか否かを下記表2にまとめた。
0.7≦(D90-D10)/(D50)≦1.2(1)
【0046】
【0047】
<実験例2:ポリイミドフィルムの特性評価>
1)平均粗さ評価:ISO1997方法を使用して、各ポリイミドフィルムの平均粗さを測定しており、測定条件は、Cut off0.25mm、測定速度0.1mm/sec、1回当たりの測定長さ3mmの条件で、5回測定した平均値を使用した。このとき、平均粗さを測定する面は、ポリイミドフィルムのエアー面(プレートまたはテンターに接触された面の対向面)が使用された。以上の平均粗さの結果を下記表3に示した。
2)表面欠陥評価:実施例および比較例で製造されたポリイミドフィルムの表面を顕微鏡で観察し、1m×1mの単位面積当たりの長径30μm以上の欠陥個数をチェックし、その結果を表3および
図1(実施例1)と
図2(比較例6)に示した。
3)ヘイズ評価:Haze値は、HM150モデルを用いて、A光源上で測定した。
4)透過率評価:透過率は、HunterLab社のColorQuesetXEモデルを用いて、可視光領域でASTM D1003に提示された方法によって測定した。
ただし、透過率は、任意の物体において、理論的な最大透過率である1に対する相対値であって、下記表3に示した。
【0048】
【0049】
表3の結果から、関係式1を満足し、D50、D90、D10が、本発明の範囲に属し、各フィラー群の含量も、本発明の範囲内にある実施例のすべては、20nm以上の平均粗さ、12以下のヘイズ、0.4以上の透過率および優れた平滑度を示した。
また、実施例では、表面欠陥(突起)がないことが分かる。これについて、実施例1に係るポリイミドフィルムの表面を撮影した
図1を参考すると、ポリイミドフィルムは、滑らかな表面を有することが確認できる。
一方、本発明に係る様々な因子、詳細には、フィラー群の種類、含量、粒径大きさおよび関係式1のうち少なくとも一つを満足していない比較例は、平均粗さ、ヘイズ、透過率、平滑度のうち少なくとも一つが不良であることが分かる。このような比較例の結果から、本発明によって実施されるとき、互いに両立し難い平均粗さ、透過率および平滑度が適正な水準で両立し得ることに注目しなければならない。
また、このように、本発明から外れた比較例は、例えば、
図2のように、複数の表面欠陥を含んでいるので、従来の問題をそのまま含んでいる。
【0050】
<実験例3:ポリイミドフィルムのモジュラス評価>
実施例のポリイミドフィルムについて、Instron 5564モデルを用いて、ASTM D882に提示された方法でモジュラスを測定し、その結果を下記表4に示した。
【0051】
【0052】
前記表4の結果から、本発明に係るポリイミドフィルムは、3.5GPa以下のモジュラスを有することが分かる。
以上、本発明の実施例を参照して説明したが、本発明が属する分野における通常の知識を有する者であれば、前記内容に基づいて本発明の範疇内で様々な応用および変形を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、無機系フィラーを含むポリイミドフィルム、詳細には、本発明の特定の関係式1を満足し、互いに異なる粒径を有する複数のフィラー群からなる無機系フィラーを含むポリイミドフィルムのメリットを以上で具体的に説明した。
まとめると、本発明のポリイミドフィルムは、フィラーの凝集による突起が実質的になく、平均粒径が互いに異なる範囲にあるフィラー群によって互いに両立し難い、平均粗さおよび平滑度、透過率を適正な水準で内在することができる。