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特許7170147非一時的なコンピュータ可読記憶媒体、コンピュータ実装方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】非一時的なコンピュータ可読記憶媒体、コンピュータ実装方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
A61B5/1455
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2021541444
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-10
(86)【国際出願番号】 US2020015662
(87)【国際公開番号】W WO2020160135
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】16/260,631
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519422371
【氏名又は名称】ムラタ バイオス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】マザー、スコット トーマス
(72)【発明者】
【氏名】リッチ、カルロス エイ.
(72)【発明者】
【氏名】コフトゥン、ウラジミール ブイ.
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-507118(JP,A)
【文献】特開2012-095940(JP,A)
【文献】特表2015-502197(JP,A)
【文献】特開平09-103425(JP,A)
【文献】国際公開第2011/033628(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/1455
A61B 5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数のデータ処理装置によって実行されたときに、前記1つ又は複数のデータ処理装置に動作を実行させる命令を含むコンピュータプログラムで符号化された非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記動作は、
患者の身体の近傍に配置された光センサによって検出された光の第1の波長であるスペクトルの赤外光部分に対応する第1の信号を受信することと、
前記光センサによって検出された光の第2の波長であるスペクトルの赤色光部分に対応する第2の信号を受信することと、を含み、
前記動作は、受信した前記第1の信号及び前記第2の信号のそれぞれの信号について、
前記信号をAC信号とDC信号とに分離することと、
前記AC信号を成分信号であって、それぞれが周波数制限帯域を表す成分信号に分離することと、
分数位相変換を通して前記成分信号を分析して、所望の成分信号と前記所望の成分信号に関連する高調波信号とを識別することと、
前記所望の成分信号、前記高調波信号、及び前記DC信号を平滑化することと、
前記平滑化された所望の成分信号、前記平滑化された高調波信号、及び前記平滑化されたDC信号を組み合わせて変調信号を生成することと、を含み、
前記動作は、
前記第1の信号から得られた前記変調信号及び前記第2の信号から得られた前記変調信号に基づき、該両変調信号の比率に応じて求まる変調比信号を生成することと、
前記変調比信号に基づいて前記患者の身体の末梢の酸素飽和度(SpO)を決定することと、を含
前記平滑化された所望の成分信号、前記平滑化された高調波信号、及び前記平滑化されたDC信号を組み合わせて変調信号を生成することは、
前記平滑化された所望の成分信号と、前記平滑化された高調波信号とを線形結合して結合信号を生成することと、
前記平滑化されたDC信号を使用して前記結合信号を正規化して前記変調信号を生成することと、を含む、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項2】
前記動作は、受信した前記第1の信号及び前記第2の信号のそれぞれの信号について、第1のサンプルレートを有する前記受信した信号を、前記第1のサンプルレートよりも高い第2のサンプルレートを有するアップサンプリングされた信号に変換することをさらに含み、
前記信号を前記AC信号と前記DC信号とに分離することは、前記アップサンプリングされた信号を前記AC信号と前記DC信号とに分離することを含む、請求項1に記載の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項3】
前記第1の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号とを識別することは、前記成分信号の時間整合された振幅値を分析することを含む、請求項1に記載の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項4】
前記第1の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号とを識別することは、前記高調波信号の振幅の関係を分析することを含む、請求項1に記載の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項5】
前記動作は、前記所望の成分信号の瞬間的な周期を計算することにより、アトミックな周期を決定することをさらに含む、請求項1に記載の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項6】
前記第1の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号とを識別することは、前記アトミックな周期に基づいて前記高調波信号を識別することを含む、請求項5に記載の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項7】
前記動作は、前記アトミックな周期に基づいて、アトミックなパルス間隔を決定することをさらに含む、請求項5に記載の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項8】
前記第2の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号との識別は、前記アトミックなパルス間隔に基づく、請求項7に記載の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項9】
前記動作は、前記決定したアトミックなパルス間隔に基づいて、前記患者の身体の脈拍数を決定することをさらに含む、請求項7に記載の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項10】
前記AC信号を前記成分信号に分離することは、
隣接した間隔を空けた帯域中心を有する帯域通過フィルタのバンクを使用して前記AC信号をフィルタリングすることと、
前記帯域通過フィルタのバンクの出力を正規化して前記成分信号を生成することと、を含む、請求項1に記載の非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項11】
患者の身体の近傍に配置された光センサによって検出された光の第1の波長であるスペクトルの赤外光部分に対応する第1の信号を受信することと、
前記光センサによって検出された光の第2の波長に対応する第2の信号であるスペクトルの赤色光部分を受信することと、を含み、
受信した前記第1の信号及び前記第2の信号のそれぞれの信号について、
前記信号をAC信号とDC信号とに分離することと、
前記AC信号を成分信号であって、それぞれが周波数制限帯域を表す成分信号に分離することと、
分数位相変換を通して前記成分信号を分析して、所望の成分信号と前記所望の成分信号に関連する高調波信号とを識別することと、
前記所望の成分信号、前記高調波信号、及び前記DC信号を平滑化することと、
前記平滑化された所望の成分信号、前記平滑化された高調波信号、及び前記平滑化されたDC信号を組み合わせて変調信号を生成することと、を含み、
前記第1の信号から得られた前記変調信号及び前記第2の信号から得られた前記変調信号に基づき、該両変調信号の比率に応じて求まる変調比信号を生成することと、
前記変調比信号に基づいて前記患者の身体の末梢の酸素飽和度(SpO)を決定することと、を含
前記平滑化された所望の成分信号、前記平滑化された高調波信号、及び前記平滑化されたDC信号を組み合わせて変調信号を生成することは、
前記平滑化された所望の成分信号と、前記平滑化された高調波信号とを線形結合して結合信号を生成することと、
前記平滑化されたDC信号を使用して前記結合信号を正規化して前記変調信号を生成することと、を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項12】
受信した前記第1の信号及び前記第2の信号のそれぞれの信号について、第1のサンプルレートを有する前記受信した信号を、前記第1のサンプルレートよりも高い第2のサンプルレートを有するアップサンプリングされた信号に変換することをさらに含み、
前記信号を前記AC信号と前記DC信号とに分離することは、前記アップサンプリングされた信号を前記AC信号と前記DC信号とに分離することを含む、請求項11に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項13】
前記第1の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号とを識別することは、前記成分信号の時間整合された振幅値を分析することを含む、請求項11に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項14】
前記第1の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号とを識別することは、前記高調波信号の振幅の関係を分析することを含む、請求項11に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項15】
前記所望の成分信号の瞬間的な周期を計算することにより、アトミックな周期を決定することをさらに含む、請求項11に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項16】
前記第1の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号とを識別することは、前記アトミックな周期に基づいて前記高調波信号を識別することを含む、請求項15に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項17】
前記アトミックな周期に基づいて、アトミックなパルス間隔を決定することをさらに含む、請求項15に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項18】
前記第2の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号との識別は、前記アトミックなパルス間隔に基づく、請求項17に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項19】
前記決定したアトミックなパルス間隔に基づいて、前記患者の身体の脈拍数を決定することをさらに含む、請求項17に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項20】
前記AC信号を前記成分信号に分離することは、
隣接した間隔を空けた帯域中心を有する帯域通過フィルタのバンクを使用して前記AC信号をフィルタリングすることと、
前記帯域通過フィルタのバンクの出力を正規化して前記成分信号を生成することと、を含む、請求項11に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項21】
光を検出するように構成された光センサと、
ディスプレイ装置と、
前記光センサ及び前記ディスプレイ装置と結合された1つ又は複数のデータ処理装置と、
1つ又は複数のデータ処理装置によって実行されたときに、前記1つ又は複数のデータ処理装置に動作を実行させる命令を含むコンピュータプログラムで符号化された非一時的なコンピュータ可読記憶媒体と、を含み、前記動作は、
患者の身体の近傍に配置された前記光センサによって検出された光の第1の波長であるスペクトルの赤外光部分に対応する第1の信号を受信することと、
前記光センサによって検出された光の第2の波長であるスペクトルの赤色光部分に対応する第2の信号を受信することと、を含み、
前記動作は、受信した前記第1の信号及び前記第2の信号のそれぞれの信号について、
前記信号をAC信号とDC信号とに分離することと、
前記AC信号を成分信号であって、それぞれが周波数制限帯域を表す成分信号に分離することと、
分数位相変換を通して前記成分信号を分析して、所望の成分信号と前記所望の成分信号に関連する高調波信号とを識別することと、
前記所望の成分信号、前記高調波信号、及び前記DC信号を平滑化することと、
前記平滑化された所望の成分信号、前記平滑化された高調波信号、及び前記平滑化されたDC信号を組み合わせて変調信号を生成することと、を含み、
前記動作は、
前記第1の信号から得られた前記変調信号及び前記第2の信号から得られた前記変調信号に基づき、該両変調信号の比率に応じて求まる変調比信号を生成することと、
前記変調比信号に基づいて前記患者の身体の末梢の酸素飽和度(SpO)を決定することと、
前記ディスプレイ装置に前記決定された患者の身体のSpOを表す値を表示させることと、を含
前記平滑化された所望の成分信号、前記平滑化された高調波信号、及び前記平滑化されたDC信号を組み合わせて変調信号を生成することは、
前記平滑化された所望の成分信号と、前記平滑化された高調波信号とを線形結合して結合信号を生成することと、
前記平滑化されたDC信号を使用して前記結合信号を正規化して前記変調信号を生成することと、を含む、システム。
【請求項22】
前記動作は、受信した前記第1の信号及び前記第2の信号のそれぞれの信号について、第1のサンプルレートを有する前記受信した信号を、前記第1のサンプルレートよりも高い第2のサンプルレートを有するアップサンプリングされた信号に変換することをさらに含み、
前記信号を前記AC信号と前記DC信号とに分離することは、前記アップサンプリングされた信号を前記AC信号と前記DC信号とに分離することを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記第1の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号とを識別することは、前記成分信号の時間整合された振幅値を分析することを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項24】
前記第1の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号とを識別することは、前記高調波信号の振幅の関係を分析することを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項25】
前記動作は、前記所望の成分信号の瞬間的な周期を計算することにより、アトミックな周期を決定することをさらに含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項26】
前記第1の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号とを識別することは、前記アトミックな周期に基づいて前記高調波信号を識別することを含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記動作は、前記アトミックな周期に基づいて、アトミックなパルス間隔を決定することをさらに含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項28】
前記第2の信号について、前記所望の成分信号と前記高調波信号との識別は、前記アトミックなパルス間隔に基づく、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記動作は、前記決定したアトミックなパルス間隔に基づいて、前記患者の身体の脈拍数を決定することをさらに含む、請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
前記AC信号を前記成分信号に分離することは、
隣接した間隔を空けた帯域中心を有する帯域通過フィルタのバンクを使用して前記AC信号をフィルタリングすることと、
前記帯域通過フィルタのバンクの出力を正規化して前記成分信号を生成することと、を含む、請求項21に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体、コンピュータ実装方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
パルスオキシメトリは、センサから受信した光電容積脈波(PPG:photoplethysmogram)信号に基づいて、患者の末梢の血液中に存在する時間的に局所的な平均酸素飽和率(SpO)を推定するために使用される。PPGを介してSpOを推定する基本原理は、血液中の酸素濃度のレベルに応じて、異なる波長の光で組織内の血液量中の光透過、及び/又は血液量からの光反射が相対的に減衰するという関係に依拠する。通常、2つの波長の光、例えば、スペクトルの赤色光部分及び赤外光(IR:infrared)部分の波長が使用される。それぞれの波長ごとに、PPGが患者の末梢にある場所、例えば、指先又は耳たぶで得られ、本明細書では以後、一般性を損なうことなく、それぞれ赤色PPG及びIR PPGと呼ばれる。発光源及び検出器は、通常であれば、容易に入手可能な発光ダイオード(LED)及び光ダイオードをそれぞれ使用して実装される。次に、これらの2つのPPGから抽出されたパラメータからレシオメトリックな測定値が導出されるが、これは、2つの波長の相対的な減衰特性により、SpOへのマッピングが、概して良好に動作し単調になり、広域にわたる母集団の患者に有効である。
【0003】
PPG信号は、主として2つの成分、すなわち、組織内のバルク光透過率に対応するDC成分と、心拍1回ごとの血流(及びその血流による血液量の変化)による透過率の変調に対応するAC成分と、によって特徴付けされる。透過率の生の変調は、PPG信号のAC成分の生の振幅を検出することにより測定される。DC成分の測定値でこの生の振幅測定値を正規化すると、次に、変調率項が得られる。
【0004】
赤色PPG信号から変調率項を得て、それをIR PPG信号の変調率項で割り算すると、正規化された比率Rが形成され、これがSpO値にマッピングされる。RのSpO値へのマッピングは、通常、臨床設定(例えば、低酸素実験室)において実行される校正手順を通して決定することができ、ここで、Rの値は、動脈血酸素飽和度(SaO)の基準測定値と同時に収集される。(R,SaO)値の対の集合は、制御された一連の低酸素状態が、(安全性を監視しながら)それぞれに誘導された人間の被験者の集合に対して収集され、それにより、対応するSaO値の範囲を確立する。次に、例えば、検索テーブル又は多項式近似を使用して、(R,SaO)値の対の範囲にわたってマッピングを展開する。次に、Rの値にこのマップを適用すると、SpOの対応する値が得られ、SaOの推定値であるとされる。通常、SpOの値は、およそ70%~100%の範囲で、現場で許容できる精度で分解可能である。
【0005】
PPG信号のAC成分は、血管の血流に相関するパルスで構成されており、心周期に従ってピーク及び周期的な挙動を有する。この理由により、脈拍数(PR:pulse rate)は、この成分から直接導出してもよい。単純なピークの検出及び間隔のカウントから、高度な脈拍数検出方法まで多くの方法が利用可能である。平滑化を適用して、脈拍数の時間的に局所的な平均を計算する場合が多い。
【0006】
上記基本原理だけに基づいたSpO測定値の実用化は、例えば、従来のフィルタリング及びエネルギー検出方法を使用して、AC成分及びDC成分の抽出、並びにAC振幅の測定を実行することで、かなり簡単に行うことができる。条件が好都合である限り、例えば、信号対ノイズ比(SNR)が比較的高い限り(より具体的には、バックグラウンドノイズ又は干渉源と比較して、変調率が比較的大きい場合)、このような基本的方法は概してうまく機能する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際には、SNRを下げる様々な条件が原因で、課題が発生する可能性がある。例えば、患者自身の呼吸がPPGを変調し、AC成分信号内に別個の周期的な干渉成分を発生させ、場合によっては所望のパルス媒介変調よりも大きな生の出力を有することになる。また、光検知点に関連する末端での動きも、PPGに同様の変調効果を及ぼし、動きに応じて周期的又は一時的な干渉項のいずれかを発生させる可能性がある。加えて、患者は低灌流を示す場合があり、これにより変調率が低下し、ゆえに、バックグラウンドノイズ及び/又は干渉項に対するAC信号の振幅が低下する。SNRを低下させるこのような条件により、正規化された比率Rが1に偏りがちになり(実際には、マッピングされたSpO値が85%の付近に偏りがちになる場合が多い)、広域にわたる患者の母集団で所望の範囲のSpOの精度を維持するための実際の性能上の課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、パルスオキシメトリに関するシステム及び技法について記載する。システムは、並列チャネルを通してPPG信号を同時に処理する。それぞれのチャネルごとに、システムは、PPG信号の入力処理と、解析ウェーブレットバンク処理と、2相(QP:quarter-phase)ドメイン高調波検出及び追跡と、QPドメイン高調波状態ベクトルフィルタリング及び振幅統計処理と、を実行する。PPG信号の入力処理には、高調波処理に必要とされる周波数分解能に対応してシステムのサンプルレートを増加させるためのサンプル補間、帯域外アーチファクトの影響を低減し、SNRを全般的に向上させるためのフィルタリング、及びPPG信号の基本的なAC成分及びDC成分への帯域分離が含まれる。解析ウェーブレットバンク処理は、それぞれSNRが実質的に向上したn成分帯域に、AC成分を分離する。QPドメイン高調波検出及び追跡には、QP変換及び状態ベクトル生成、QP状態空間での高調波パターン識別に基づくQPごとのパルス間隔を推定するための周期性検出、並びにn高調波に対するQP空間での高調波パラメータの追跡が含まれる。QPドメイン高調波状態ベクトルフィルタリング及び振幅統計処理には、高調波振幅のロバスト移動測定値を形成するためのパラメータの個別の高調波ごとのフィルタリング(QP空間の線形平滑化)と、PPG信号のDC成分のQP同期フィルタリングと、AC成分パルス振幅のロバスト測定値を形成するための高調波振幅の組み合わせと、正規化されたパーセント比率PPGパルス変調のロバスト移動測定値及び正規化された変調比の移動測定値を形成するためのAC情報とDC情報との組み合わせと、瞬間的なパルス間隔を形成するためのQP同期フィルタリングと、が含まれる。システムは、次に、正規化された変調比の平滑化された移動推定値を形成するために正規化された変調比の移動測定値の統計フィルタリングを実行し、瞬間的なパルス間隔の平滑化された移動推定値を形成するために瞬間的なパルス間隔の統計フィルタリングを実行する。システムは、次に、SpOを出力するために正規化された変調比の平滑化された移動推定値をマッピングし、脈拍数を出力するために瞬間的なパルス間隔の平滑化された移動推定値をマッピングする。
【0009】
システムは、個別に高いSNRを有する高調波QP成分を使用し、追跡された高調波QPパラメータをQP時間で平均化して、SNRをさらに高めることによって、(a)相対的に灌流が少ない(局所血液量が少ない)こと、及び(b)相対的に皮膚が暗い(生の信号の減衰量が大きい)ことにより引き起こされる変調率が小さい振幅レベルの正確なSpO推定値を提供することができる。システムは、周期性パターン検出を使用してパルスによる周期成分を追跡し、呼吸アーチファクト及び動きアーチファクトによる成分を排除することによって、心肺結合アーチファクト及び動きアーチファクトに耐性を有することができる。
【0010】
概して、革新的な一態様では、システムは、光を検出するように構成された光センサと、ディスプレイ装置と、光センサ及びディスプレイ装置と結合された1つ又は複数のデータ処理装置と、コンピュータプログラムで符号化された非一時的なコンピュータ可読記憶媒体と、を含む。プログラムは、1つ又は複数のデータ処理装置によって実行されたときに、1つ又は複数のデータ処理装置に動作を実行させる命令を含む。動作は、患者の身体の近傍に配置された光センサによって検出された光の第1の波長に対応する第1の信号を受信することと、光センサによって検出された光の第2の波長に対応する第2の信号を受信することと、を含む。受信した第1の信号及び第2の信号のそれぞれの信号について、動作は、信号をAC信号とDC信号とに分離することと、AC信号を成分信号であって、それぞれが周波数制限帯域を表す成分信号に分離することと、成分信号から、又はECGに基づく心拍数検出器などの別のソースから基礎となる脈拍数を識別することと、分数位相変換を通して成分信号を分析して、所望の成分信号と、所望の成分信号に関連する高調波信号であって、すべてが基礎となる脈拍数と時間的に局所的に関連する高調波信号とを識別することと、所望の成分信号、高調波信号、及びDC信号を平滑化することと、平滑化された所望の成分信号、平滑化された高調波信号、及び平滑化されたDC信号を組み合わせて変調信号を生成することと、を含む。動作は、第1の信号から得られた変調信号及び第2の信号から得られた変調信号に基づいて変調比信号を生成することと、変調比信号に基づいて患者の身体の末梢の酸素飽和度(SpO)を決定することと、ディスプレイ装置に決定された患者の身体のSpOを表す値を表示させることと、を含む。
【0011】
別の態様では、装置は、コンピュータプログラムで符号化された非一時的なコンピュータ可読記憶媒体を含む。プログラムは、1つ又は複数のデータ処理装置によって実行されたときに、1つ又は複数のデータ処理装置に動作を実行させる命令を含む。動作は、患者の身体の近傍に配置された光センサによって検出された光の第1の波長に対応する第1の信号を受信することと、光センサによって検出された光の第2の波長に対応する第2の信号を受信することと、を含む。受信した第1の信号及び第2の信号のそれぞれの信号について、動作は、信号をAC信号とDC信号とに分離することと、AC信号を成分信号であって、それぞれが周波数制限帯域を表す成分信号に分離することと、成分信号から、又はECGに基づく心拍数検出器などの別のソースから基礎となる脈拍数を識別することと、分数位相変換を通して成分信号を分析して、所望の成分信号と、所望の成分信号に関連する高調波信号であって、すべてが基礎となる脈拍数と時間的に局所的に関連する高調波信号とを識別することと、所望の成分信号、高調波信号、及びDC信号を平滑化することと、平滑化された所望の成分信号、平滑化された高調波信号、及び平滑化されたDC信号を組み合わせて変調信号を生成することと、を含む。動作は、第1の信号から得られた変調信号、及び第2の信号から得られた変調信号に基づいて変調比信号を生成することと、変調比信号に基づいて患者の身体の末梢の酸素飽和度(SpO)を決定することと、を含む。
【0012】
別の態様では、方法は、患者の身体の近傍に配置された光センサによって検出された光の第1の波長に対応する第1の信号を受信することと、光センサによって検出された光の第2の波長に対応する第2の信号を受信することと、を含む。受信した第1の信号及び第2の信号のそれぞれの信号について、動作は、信号をAC信号とDC信号とに分離することと、AC信号を成分信号であって、それぞれが周波数制限帯域を表す成分信号に分離することと、成分信号から、又はECGに基づく心拍数検出器などの別のソースから基礎となる脈拍数を識別することと、分数位相変換を通して成分信号を分析して、所望の成分信号と、所望の成分信号に関連する高調波信号であって、すべてが基礎となる脈拍数と時間的に局所的に関連する高調波信号とを識別することと、所望の成分信号、高調波信号、及びDC信号を平滑化することと、平滑化された所望の成分信号、平滑化された高調波信号、及び平滑化されたDC信号を組み合わせて変調信号を生成することと、を含む。方法は、第1の信号から得られた変調信号及び第2の信号から得られた変調信号に基づいて変調比信号を生成することと、変調比信号に基づいて患者の身体の末梢の酸素飽和度(SpO)を決定することと、を含む。
【0013】
このようなシステムの様々な他の機能及び利益は、前述の詳細な説明及び特許請求の範囲から明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】パルスオキシメトリシステムの一例を示すブロック図である。
図2】入力処理及び帯域分離ユニットの一例を示すブロック図である。
図3a】解析ウェーブレットバンクの1帯域のインパルス応答を示すプロットである。
図3b】解析ウェーブレットバンクの実数部の周波数応答を示すプロットである。
図4】ディスプレイデバイスと通信状態にある患者着用センサを含む、パルスオキシメトリシステムの一例を示す図である。
図5】パルスオキシメトリシステムによって実行される動作の例を示すフローチャートである。
図6】パルスオキシメトリシステムを実装するために使用し得るコンピュータシステムの一例を示すブロック図である。
図7】コンピュータシステムの一例を示すブロック図であり、パルスオキシメトリシステムを実装するために使用し得るホストシステムを描いている図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
様々な図面中の同様の参照番号及び名称は、同様の要素を表示する。
図1は、パルスオキシメトリシステム100の一例を示すブロック図である。システム100は、電子部品、例えば、パルスオキシメトリを容易にするハードウェア及び/又はソフトウェアを含む。システム100は、患者の末梢血液中に存在する時間的に局所的な平均酸素飽和率(SpO)、及び患者の脈拍数(PR)の時間的に局所的な平均を推定する。いくつかの実装形態では、システム100の一部は、心電図(ECG)、心拍数、呼吸数、酸素飽和度、血圧、体温、及び脈拍数といった、生理的な生命徴候データを継続的に収集することが可能な患者監視デバイスに含まれている。患者監視デバイスの例には、2015年10月22日に出願された、「Patient Care and Health Information Management Systems and Methods」と題する米国特許出願公開第2015/0302539号明細書、及び2016年2月9日に出願された、「Patient Worn Sensor Assembly」と題する米国特許出願公開第2016/0228060号明細書に記載されているような胸部センサ、並びに、2018年1月25日に出願された、「Sensor Connection Assembly for Integration with Garment」と題する米国特許出願公開第2018/0213859号明細書に記載のセンサアセンブリのような、周辺機器と接続する他のセンサアセンブリが含まれ、それらの開示は、その全体が、参照によって本明細書に組み込まれる。いくつかの実装形態では、システム100の一部は、胸部センサ、指先プローブ、耳たぶプローブ、又は非侵襲的血圧(NIBP:non-invasive blood pressure)カフのような、1つ又は複数の周辺機器から受信した信号を使用して、生理的な生命徴候データを分析し、表示する監視ステーションに含まれている。監視ステーションの例には、ベッドサイドモニタ及び中央サーバステーションが含まれ、それらもまた、米国特許出願公開第2015/0302539号明細書に記載されている。
【0016】
システム100は、光センサ102を含み、光センサ102は、患者の末梢にある場所、例えば、指先又は耳たぶで感知した2つの波長の光、例えば、スペクトルの赤外光部分及び赤色光部分に対応する(信号I及びRとして表示されている)光電容積脈波(PPG)信号を生成する。光センサ102は、例えば、患者の指先又は耳たぶに取り付けることができる。センサ102は、例えば、発光ダイオード(LED)及びフォトダイオードをそれぞれ使用して実装された光源及び検出器を含む場合がある。センサ102は、PPGを継続的に取得して、継続的な酸素飽和度及び脈拍数の監視をやり易くすることができる。センサ102は、50Hz及び60Hzの光照射干渉をフィルタリングできるように、74Hz~76HzのレートでPPGをサンプリングすることができる。
【0017】
システム100は、並列チャネルを通してI信号及びR信号を同時に処理する。それぞれのチャネルごとに、システム100は、入力処理及び帯域分離ユニット104と、解析ウェーブレットバンク106と、2相(QP)ドメイン高調波検出及び追跡ユニット108と、QPドメイン高調波状態ベクトルフィルタリング及び振幅統計処理ユニット110と、を含む。2006年2月23日に出願された、「Apparatus for Signal Decomposition,Analysis and Reconstruction」と題する米国特許第7,702,502号明細書、2006年2月23日に出願された、「System and Method for Signal Decomposition,Analysis and Reconstruction」と題する米国特許第7,706,992号明細書、2008年11月26日に出願された、「Physiological Signal Processing to Determine a Cardiac Condition」と題する米国特許第8,086,304号明細書、及び2014年3月17日に出願された、「Method and Apparatus for Signal Decomposition,Analysis,Reconstruction and Tracking」と題する米国特許第9,530,425号明細書は、準周期的な成分を概して有する信号として得られる場合に、I信号及びR信号の処理に適用可能な技法の開示を含む。米国特許第7,702,502号明細書、米国特許第7,706,992号明細書、米国特許第8,086,304号明細書、及び米国特許第9,530,425号明細書の内容全体が、参照によって、本明細書に組み込まれる。
【0018】
レシオメトリックな測定値を有するシステムの場合、2つの処理チャネルは、可能な限り類似した処理ダイナミクス(例えば、フィルタリング、遅延、等々)を有することが可能であるため、感知システム(例えば、光センサ102)での動的変化が、時間的に整合し、且つ、位相的に整合して、処理チャネルを通して波及していく。このように、リップル効果が比率点に一緒に到達するので、それらは、相殺されることにより、出力で最小になる傾向があり、過渡現象に対するロバスト性がもたらされる。この理由で、システム100は、IチャネルとRチャネルとの間、及びACチャネルとDCチャネルとの間の遅延を確実に同期させるために、あらゆる点で並列チャネル間の対称性を維持することができる。
【0019】
いくつかの実装形態では、入力処理及び帯域分離ユニット104は、後続のQPドメイン高調波処理に必要とされる周波数分解能に対応するためにPPG信号のサンプルレートを増加させるためにサンプル補間を実行し、帯域外アーチファクトの影響を低減し、SNRを全般的に向上させるためにフィルタリングを実行し、PPG信号のAC成分及びDC成分への帯域分離を実行する。図2は、入力処理及び帯域分離ユニット104の一例を示すブロック図である。入力処理及び帯域分離ユニット104は、AC成分を帯域通過フィルタリングし、DC成分を多段低域通過フィルタリングすることによって、生のPPG信号中の帯域外の干渉及びアーチファクトを低減する。
【0020】
いくつかの実装形態では、入力処理及び帯域分離ユニット104は、帯域制限補間ユニット202を含む。帯域制限補間ユニット202は、補間ユニット204及び低域通過フィルタ206を含み、PPG信号の帯域制限補間を実行して、高周波(HF)干渉を減衰させ、入力サンプルレートを因数NITPだけ上げる。いくつかの実装形態では、補間ユニットはバイパスされているため、事実上、NITP=1となる。
【0021】
QPドメイン高調波検出及び追跡ユニット108に関して以下でより詳細に説明するように、システム100は、PPG信号の拍動変調部分の経時変化する高調波成分の抽出及び追跡を実行する。分解される最高周波数fHI(したがって、システム通過帯域)は、(1)分解される高調波の数nと、(2)最も高い高調波が分解される最高脈拍数rHIと、の積によって決まる。コーナ周波数がこの周波数に実質的に近い低域通過フィルタ206は、帯域外の高周波の干渉項を減衰させ、システムのSNRを向上させることができる。
【0022】
正常な脈拍数、例えば、正常洞調律(NSR:normal sinus rhythm)から軽度の運動まで(約120毎分脈拍数(BPM:beats per minute))の範囲では、高調波電力の大部分(約90%)は、PPG信号の最初の3つの高調波に実質的に含まれている。この範囲を超えると、高調波電力は、脈拍数の増加とともに着実に低下し、その結果、約180BPMを超えると、信号のほとんどが第1高調波、すなわち、モフォロジーは疑似正弦波になる。その結果、以下となる。
【0023】
HI=n×rHI=3×120BPM=360BPM=6Hz
最高関心信号周波数である周波数fHIは、PPG信号から高調波成分を抽出するための解析ウェーブレットバンク106(後述する)で必要とされる最高周波数ウェーブレット帯域を名目上定義する。I信号及びR信号の処理に適用可能な技法に関連して、参照によって本明細書に組み込まれている特許文献に記載されているように、解析ウェーブレットバンク106は、通常、高い計算効率を維持するために、スケーリング間隔の幅を整数個のサンプルに制限する。この制限により、ウェーブレット中心周波数が高くなるほど、周波数分解能が粗くなる可能性がある。すなわち、整数個のサンプルスケール幅によって課せられる時間量子化による影響が大きくなるほど、スケールが縮小するため、ウェーブレット帯域の中心周波数がますます量子化される。この課題に加え、分解される各高調波成分の分離を維持するために、より高い周波数で十分な分解能を維持したいという要望がある。
【0024】
生のPPG信号の公称入力サンプルレートFsi=75Hzであれば、帯域中心量子化は、帯域間応答ギャップを生成するのに十分なものとなり、帯域間応答ギャップは、最高脈拍数で高調波振幅を曖昧さなしに分解することができないほど大きくなる。この問題を解決するために、いくつかの実装形態では、入力処理及び帯域分離ユニット104は、入力信号ストリームを再サンプリングすること(すなわち、「アップサンプリングすること」)により、解析ウェーブレットバンク106によって処理するためにサンプルを補間する。帯域制限補間ユニット202は、補間ユニット204によるゼロインサーションと、後続する低域通過フィルタ206による同期低域通過フィルタリングとを組み合わせることによって実装された帯域制限補間を提供して、加えられたゼロを「埋める(fill in)」。低域通過フィルタのコーナ周波数は、最高予想信号周波数で設定して、高周波ノイズ及びアーチファクトに対抗してSNRを最適化するように帯域制限をさらに提供することができる。このアップサンプリングは、生の入力サンプルレートFsiの整数倍数NITPでアップサンプリングされたレートFを提供する。アップサンプリングの因数NITP=3を使用して、fHI=6Hzで第3高調波を適切に分解するために必要な周波数分解能を提供することができ、これにより、公称内部ウェーブレット処理サンプルレートF=225Hzが得られる。
【0025】
補間ユニット204は、計算効率が高い演算であるゼロインサーションを使用してもよい。低域通過フィルタ206もまた、米国特許第7,706,992号明細書に記載されているような、スケーリングされた積分カーネル演算子を使用することにより、高い計算効率を有して実装されている。補間ユニット204は、それぞれの連続する入力サンプルの間に、(NITP-1)個の値がゼロであるサンプルを挿入することにより、生のPPG信号xを因数NITPだけアップサンプリングする。この後に、スケーリングされた積分カーネルを使用して実装された同期低域通過フィルタ206が続く。米国特許第7,706,992号明細書に記載されているように、このデジタルスケーリングされた積分カーネルの周波数応答は、大きさが正弦関数にほぼ従い、(F/w)の整数倍数では、ヌル(null)を有する。なお、wは、サンプルでの積分器のスケールパラメータであり、Fは、アップサンプリングされたサンプルレートである。wを整数倍数NITPに設定すると、新たなサンプルレートで応答がヌルになり、これにより、ゼロ補間プロセスによって導入された時間ドメインのリップルアーチファクトが除去される。したがって、スケールは次式に従って設定される。
【0026】
=NITP・round(F/(NITP・fHI/k6dB))
これにより、整数倍数NITPであるサンプル(レートFでサンプリング)で最も近似しているスケールが得られ、-6dBの低域通過コーナ周波数がfHIに可能な限り近くなる。なおここで、因数k6dBは、低域通過フィルタ206の第1の周波数-応答ヌルに対する-6dBの点の比であり、スケーリングされた積分器演算子の次数に依存する。
【0027】
次に、最終補間結果の全体的な滑らかさ及び帯域外HFの排除は、整数因数(w/NITP)のサイズ、すなわち、積分器のスケール内の入力サンプルの数、及びスケーリングされた積分器の次数によって制御される。二次積分器カーネルにより、十分な程度の滑らかさ及び帯域外HFの排除が得られる。公称入力サンプルレートFsi=75Hzの場合、帯域制限補間器のスケーリングされた積分には、以下のパラメータを使用してもよい。
【0028】
ITP=3,F=225Hz,fHI=6Hz
【0029】
【表1】

なお、N=2の場合、k6dB=0.44295であり、DITPは、レートFでのサンプルに固有の遅延である。
【0030】
アップサンプリングされた帯域制限PPG信号のAC成分は、高域通過フィルタ208を通して分離される。高域通過フィルタ208は、PPG信号の生の光透過に関連する大きなDCオフセットを除去し、ゼロベースラインを中心とした出力をもたらすように、且つ、低い公称脈拍数帯域エッジ(いくつかの実装形態では、2秒のビート単位のパルス間隔に相当する30BPM又は0.5Hz)未満の実用的な程度の低周波アーチファクトを排除するように設計されている。いくつかの実装形態では、高域通過フィルタ208は、線形位相応答を有することができる。時間スケールのサイズを考えると、高域通過フィルタ208は、フィルタの固有の群遅延によるシステム内のタイムラグを最小化するために、最小位相応答を有することができる。再帰型のIIRフィルタトポロジを使用すると、メモリ効率の良いフィルタアーキテクチャにつながる場合がある。二次応答を使用することで、優れた安定性、及びストップバンドでの十分な排除を得ることができる。高域通過フィルタ208は、以下のアナログドメイン伝達関数に従って規定される。
【0031】
【数1】

式中、ωは、コーナ周波数(単位はラジアン/秒)を制御し、Qは、コーナ周波数でのフィルタの共振を制御する。Qの値は、例えば、Q=0.720に設定して、通過帯域での応答のフラットさ及びコーナ周波数での応答のシャープさを最大限にしつつ、インパルス応答のリンギングを最小限に抑えることができる。このQの値に対して、式ω=2πkは、因数k=1.325で周波数f=0.5Hzでのフィルタの-6dBの点を設定する。
【0032】
高域通過フィルタ208は、下記形式の二次差分方程式を使用してデジタル方式で実装することができる。
HP(n)=bx(n)+bx(n-1)+bx(n-2)-aHP(n-1)-aHP(n-2)。
【0033】
式中、x(n)及びyHP(n)はそれぞれ、サンプル時間nにおける高域通過フィルタ208の信号入力及び信号出力である。フィルタ応答は、係数a,bによって決定される。高域通過フィルタ208は、特にその通過帯域及び遷移帯域において、アナログフィルタ応答の非常に近いマッチングを提供することができるので、アナログモデルを近似するデジタルフィルタを生成するために、双一次変換を用いることができる。その結果、デジタルフィルタ係数は以下のとおりになる。
【0034】
【表2】

高域通過フィルタ208はさらに、高域通過フィルタ208の入力と出力との間の経路差として形成された相補的な低域通過フィルタ出力を提供し、サンプルドメインにおいて、yI_HP(n)=x(n)-yHP(n)が得られる。このようにして形成された低域通過フィルタは、概してそのストップバンドで特に急峻なカットオフ特性を有していないが、その群遅延は、遷移帯域において高域通過フィルタ208の群遅延に一致する傾向があるため、R信号及びI信号両方のAC信号経路及びDC信号経路の対応する処理段階に沿ってタイムアライメントを保つように機能する。
【0035】
高域通過フィルタ208の出力yHPをタッピングしてxacを構成し、生のPPG信号(RとIの両方)のフィルタリングされたAC成分を形成し、そこから変調振幅が推定される。この波形はPPG信号の拍動成分を含んでいるので、脈拍数PRの推定に使用してもよい。この信号自体を使用して、(例えば、米国特許出願公開第2015/0302539号明細書に記載されているようなベッドサイドモニタ又は中央ナースステーションなどのディスプレイ120上に)きれいな、ゼロを中心としたPPG波形を表示してもよい。通常はI信号の方が、振幅が大きいため、I信号から得られたフィルタリングされたAC成分が通常この目的のために使用される。
【0036】
相補的な低域通過の出力yI_HPをタッピングして、xLPを構成し、時間整合された、部分的に分離されたDC成分を形成することで、ほとんど追加の計算コストなしで、fを超える何らかのAC成分の初期低域通過減衰をもたらすことにより、低域通過フィルタ210への入力として有利に機能する。
【0037】
専用の線形位相低域通過平滑フィルタ210は、アップサンプリングされた/帯域制限されたPPG信号のDC成分を分離する。低域通過フィルタ210は、PPG信号の生の光透過を表す移動平均時間局所値を提供するために、生のPPG信号から残留するすべての拍動成分及び過渡成分を除去するように設計されている。加えて、その時間遅延は、AC成分の対応する処理経路の時間遅延と一致するように整合される。低域通過フィルタ210は、スケーリングされた積分器カーネルを使用して実装されることで、高い計算効率が実現される。
【0038】
図1及び図2に示されているように、AC処理経路は、解析ウェーブレットバンク106並びにQPドメイン高調波検出及び追跡ユニット108とともに、AC成分高域通過フィルタ208を含み、QPドメイン高調波状態ベクトルフィルタリング及び振幅統計処理ユニット110の入力に現れる前に、分離されたDC成分と組み合わせられて、AC成分の処理が行われる。基礎となる信号変化に起因した過渡現象を最小化することに関して前述した原理に従って、QPドメイン高調波状態ベクトルフィルタリング及び振幅統計処理ユニット110へのAC処理経路及びDC処理経路の固有の遅延は、この両方が等しくなるように設計されている。これらの、図2の補間ユニット204の入力xから図1のQPドメイン高調波状態ベクトルフィルタリング及び振幅統計処理ユニット110までの遅延、Dac及びDdcは、それぞれ以下の通りである。
【0039】
ac=DITP+DHP+DBNK
dc=DITP+DHP+DLP
式中、DBNKは、解析ウェーブレットバンク106の固有の遅延であり、DHPは、入力処理及び帯域分離ユニット104の高域通過フィルタ208の群遅延であり、DLPは、入力処理及び帯域分離ユニット104のDC成分低域通過フィルタ210の固有の遅延である。DC経路遅延は、上述したように、DC成分低域通過フィルタ210の入力が、高域通過フィルタ208の相補的な低域通過の出力xLPから得られるので、DHPを含む。QPドメイン高調波検出及び追跡ユニット108は、メモリのない動作であるため、固有の遅延が事実上ゼロである。したがって、Dac及びDdcが等しい場合、DLP=DBNKである。これを満たすDC成分低域通過フィルタ210のスケールは、次式によって遅延から求められる。
【0040】
=2・DLP/N+1
これは、2・DLPが次数Nの整数倍数である限り整数値であり、N=2、且つ、DLPもまた整数であれば、整数であることが保証される。以下で論じるように、一例では、解析ウェーブレットバンク106は固有の遅延DBNK=1833を有する。処理サンプルレートがF=225Hzである場合、低域通過フィルタ210のパラメータは、以下の通りになる。
【0041】
【表3】

低域通過フィルタ210に対する-6dBの低域通過カットオフは、この例では、F=k6dB・F/w又は0.0543Hzであり、これにより、拍動成分のほぼ完全な減衰、及び、非常に効果的なDC平滑化を得ることができる( =2の場合、k6dB=0.44295であることに留意されたい)。低域通過フィルタ210の出力は、PPG信号R,Iの両方の、生のDC伝送成分の移動推定値であり、正規化及びその後の処理の目的で移動変調振幅推定値に時間整合される。
【0042】
図1を参照すると、解析ウェーブレットバンク106は、得られたPPG信号のAC成分を処理する。解析ウェーブレットバンク106は、それぞれSNRが実質的に向上したn成分帯域に、AC成分を分離することを実行する。米国特許第7,706,992号明細書及び米国特許第9,530,425号明細書に記載されているように、解析ウェーブレットバンク106は、入力AC信号を準周期的な成分に分離し、準周期的な成分はそれぞれ、入力信号帯域幅に比べて大幅に帯域制限された情報を含んでいる。その結果、入力信号に含まれる局所的な周期性に関連する情報を含んでいる帯域は、SNRを向上させてこうした情報を提示する。
【0043】
解析ウェーブレットバンク106は、帯域の中心が隣接して間隔を空けて配置された帯域通過フィルタのバンクとして設計することができる。各帯域通過フィルタは、その周波数応答に従ってバンク入力信号に存在する周期性に様々な量で応答し、帯域通過の中心周波数に最も近い周波数に対して最大の出力振幅を有する。(準)周期的な成分を含んでいるバンク入力信号の場合、ある時点において最大の出力振幅を実質的に有するフィルタは、その隣のフィルタに比べると、中心がそれらの信号成分の周波数に最も近い周波数帯域になる。その時間点における帯域周波数の関数としての帯域振幅をトレーシングすると、それらの関連する周波数にある「ピーク」が明らかになる。時間の関数としてのこれらの振幅ピークを見つけて追跡し、それらのピークによってインデックス付けされた帯域内の基礎となる情報とともに、解析ウェーブレットバンク106の設計の基礎となる原理を形成する。帯域通過フィルタを使用する別の利点は、バンクの各フィルタが比較的狭い帯域幅であることで、関連する周波数成分に比べて、SNRが概して高くなるということである。
【0044】
解析ウェーブレットバンク106に対する設計上の考慮事項は、帯域通過フィルタの「Q」(相対的な帯域幅)によって制御される、システム100のいわゆる「時間周波数フレーム」である。時間周波数フレームと密接に結びついているのは、帯域の周波数間隔である。帯域の重なりが過剰になると、隣接する帯域間の選択性が低下し、関連する成分を識別するためのスペクトルのピークのシャープさが「ぼやける」傾向がある。しかしながら、帯域の重なりが不十分であると、帯域中心間のクロスオーバ領域での振幅損失が過剰になり、信号のスペクトル表現に「穴」が残り、極端な場合には、スペクトルのピークのパターンが曖昧になってしまう可能性がある。Qが大きくなると、フィルタ帯域幅が狭くなり、フィルタを所定量の帯域の重なりに対して、周波数的に間隔を狭くすることが可能になるため、周波数分解能が向上する。しかしながら、狭いフィルタ帯域幅を実装すると、時間的に広いインパルス応答を有することが必要になる場合があり、これは、ひいては時間分解能の低下につながる。ゆえに、Qの選択とは、周波数分解能と時間分解能との間の兼ね合いを表す。
【0045】
米国特許第9,530,425号明細書に記載されているように、QP空間での処理により、単に所与の帯域の中心周波数をレート推定値として使用することにより伝達されるよりも、時間及び周波数の両方においてはるかに高い精度で時間周波数情報を取得することが可能になる。この特性により、周波数分解能が帯域中心間で周波数を厳密に分解するための要件を緩和する。理論上、入力の周期的な成分の第2高調波から基本波を分離するためには、1オクターブ当たり最低2つの帯域が必要になるが、実際には、帯域間の応答のクロスオーバ損失を低くするために、より多くの帯域が必要になる場合がある。
【0046】
およそ3サイクルの長さのウェーブレットサポート(インパルス応答の長さ)が、成分の周波数分離及び十分に速い応答時間の両方を上手く組み合わせて、脈拍数の変動性に関連する予想される時間ダイナミクスを分解することができる。帯域中心から-0.5dB未満の帯域間クロスオーバディップのレベルは、パルスオキシメトリの成分振幅を表す際に十分な振幅精度を提供することができる。それに応じて、帯域間隔を1オクターブ当たり9帯域に設定してもよい。
【0047】
解析ウェーブレットバンク106は、米国特許第7,706,992号明細書に記載されているような解析成分帯域を有する並列形式Kovtun-Ricciウェーブレット変換の拡張形式を使用して実装することができる。ウェーブレットは、スケーリングされた微分カーネル及びスケーリングされた積分カーネルのカスケードで構成されている。スケーリングされた微分カーネルは、zドメインの伝達関数を有する。
【0048】
【数2】

帯域pの場合、スケールパラメータk及び次数パラメータNdpを有する。
スケーリングされた積分カーネル及びスケーリングされた差分カーネルに加えて、解析ウェーブレットバンク106は、本明細書ではスケーリングされた櫛形カーネルと呼ばれる、以下のzドメインの伝達関数を有する追加のカーネルタイプをカーネルのカスケードに含むことができる。
【0049】
【数3】

帯域pの場合、スケールパラメータk,c、並びに次数パラメータNcpを有する。このカーネルの固有の遅延は、Dcp=Ncp・k・(c-1)である。Ncp=1の場合、スケーリングされた櫛形カーネルの周波数応答は、ディリクレ関数(Dirichlet function)であり、DCの周りの第1のメインローブで正弦関数に密接に近似し、次に、これらのメインローブをスケールパラメータkによって制御された間隔で(具体的には、Fが処理サンプルレートである場合に、F/(2k)の周波数間隔で)、周波数にわたって繰り返す。ここでは値kは、設計によって、スケーリングされた差分カーネルの表現に現れるのと同じスケーリング値kに設定される。これは、スケーリングされた差分カーネルの第1のメインローブに対してスケーリングされた櫛形カーネルの第1の繰り返されたメインローブを中心としており、メインローブのピークを中心とした新たな、より選択的な帯域通過関数を定義している。
【0050】
スケーリングされた櫛形カーネルの特徴は、繰り返される各メインローブのいずれかの側に対して応答ヌルであり、スケールパラメータcに従って各中心から間隔を空けていることで、c=2の場合、ヌルはメインローブの中心間の中間にあり、cが大きくなると、ヌルは、比例してメインローブの中心に近づいていくようになっている。これらのヌルには、メインローブの帯域幅を狭くする効果があり、フィルタのQを効果的に増加させる。次数Ncpの増加に伴いQも増加するため、このカーネルの特徴は、Qを制御し得る2つのパラメータである。c=2の場合でも、サイドヌルが追加されることで得られるQが増加し、性能がさらに向上する可能性があり、これにより、スケーリングされた微分フィルタの次数だけを増やすことによって同様のQを得る場合よりも、インパルス応答の広がりが少なくなる。一方、次数を増やすと、メインローブ画像間のサイドローブの高さが減少する場合があるため、次数Ncpは、第1の通過帯域ヌルをちょうど超えた領域でのストップバンド排除を制御する手段になる。
【0051】
広帯域という意味合いでは、スケーリングされた櫛形カーネルは、櫛形フィルタ、すなわち、DCの周りにローブを有し、スケールkに従ってローブが繰り返されるフィルタとして作用する。純粋な帯域通過応答を得るためには、周波数F/(2k)を中心とするDCを上回るメインローブ応答の第1の繰り返しを分離することができる。DCでローブを排除するためには、DCで一次応答ヌルを有するので、スケーリングされた差分カーネルを利用する。次に、スケーリングされた積分カーネルを利用して、最初を上回るメインローブ画像を排除するだけでなく、インパルス応答の全体的な平滑化も提供する。これらの2つのカーネルをストップバンド排除という役割で使用すると、実際には高い次数を必要としない傾向がある(例えば、通常、次数4で十分な帯域外排除を得ることができる)。
【0052】
したがって、帯域通過ウェーブレット応答をプログラムするためのパラメータは、k、C、Ncp、Ndp、w、及びNipである。p番目の帯域通過の場合、kが中心周波数を制御し、Qは、(一次)c及び(二次)Ncpと、スケーリングされた微分次数Ndpとの組み合わせによって制御される。パラメータNcp,Ndpは、DC付近のストップバンド排除を制御し、スケーリングされた積分スケールw及び次数 ip は、通過帯域を超えたストップバンド排除を制御する。
【0053】
米国特許第7,706,992号明細書に記載されているように、変換ウェーブレットのスケールパラメータkは、基本帯域通過ローブのピークの周波数を制御し、一方、スケールパラメータwは、低域通過の第1のヌルの周波数を決定する。公称値であるw≒2k/3を選ぶと、その第1のヌルがHcp(z)の第2の帯域通過ローブのピーク、すなわち、櫛の第1の繰り返しにほぼ位置し、基本帯域通過応答を効果的に分離する。積分次数パラメータNipは、低域通過動作のストップバンドの減衰の度合いを制御する。すなわち、値Nip=4で、効果的な性能が低い計算負荷で得られる場合がある。
【0054】
微分次数パラメータNdpは、帯域通過関数の帯域幅を制御する。フィルタバンクの場合、それは、帯域応答間の重なりの量を制御する。値Ndpは、帯域応答の合計が電力帯域にわたってほぼ平らになるように選ぶことができ、これにより、総複素電力が周波数に関して比較的偏らずに表されるようにする。
【0055】
この一群の帯域通過ウェーブレットは、計算効率が高く、線形位相応答を特徴とする。米国特許第7,706,992号明細書に記載されているように、基礎となる成分のタイミング情報は帯域全体にわたりレートが変化するので、それを保存するために、変換は帯域全体にわたるタイムアライメントを用いて実装される。
【0056】
上記の説明及び導出に従い、また、PPG信号に対して以前に規定されたサンプリング周期の場合、解析ウェーブレットバンク106の帯域通過ウェーブレットは、以下の設計パラメータを使用して実装することができる。
【0057】
【表4】

値FCpは、p番目の帯域がそのピーク振幅応答を示す周波数として定義された、帯域の中心周波数である。周波数範囲は、必要な基本脈拍数の範囲(30~240BPM)を分解するのに十分な範囲だけでなく、最大120BPMで第3高調波を分解するのに必要な範囲もカバーしている。上述したように、帯域は、1オクターブ当たり公称9帯域の間隔で配置されているため、34帯域で所望のレート範囲を完全に網羅することが実現される。このウェーブレット次数で得られた時間ドメインのインパルス応答の特徴は、有効時間長がおよそ3サイクルであるため、局所的に周期的な挙動に対して良好な時間分解能を表している。
【0058】
図3aは、フィルタバンクの第1の帯域に上記のパラメータを実装して得られたインパルス応答を示すプロット300である。ウェーブレットは解析的であるので、インパルス応答は複素数値になる。トレース「real」及び「imag」は、それぞれインパルス応答の実数部及び虚数部である。トレース「mag」は、各時間点における瞬間的な複素数大きさである。図3bは、解析ウェーブレットバンクの実数部の周波数応答を示すプロット350である。
【0059】
フィルタバンク全体にわたって確実に相対応答を校正するために、帯域出力信号は、帯域中心で単位利得に正規化される。校正係数KCR,KCIは、実数部振幅応答及び虚数部振幅応答を(それぞれ)その中心周波数FCpで評価し、逆数を得ることにより決定される。実数フィルタ出力と虚数フィルタ出力にそれぞれの校正係数を乗算することで、校正されたフィルタバンクを得ることができる。それに応じて、各対応する帯域の校正係数は、以下のとおりである。
【0060】
【表5】

図1を参照すると、QPドメイン高調波検出及び追跡ユニット108は、QP変換及び状態ベクトル生成、QP状態空間での高調波パターン識別に基づくQPごとのパルス間隔PIQPを推定するためのロバスト周期性検出、並びにn高調波に対するQP空間での高調波パラメータの追跡を実行する。QP変換により、検出及び追跡ユニット108は、拍動信号の準周期的な成分を分析して、QP更新点で発生する臨界振幅及び局所的な位相/周波数パラメータを抽出し、時間周波数QP状態ベクトルを生成する。QP更新点は、信号中の固有の情報更新に関連した時点であり、当然、信号の基礎となるサンプルレートよりもはるかに低いレートで生じる。
【0061】
検出及び追跡ユニット108は、成分信号のそれぞれに関してQP遷移を検出し、米国特許第7,706,992号明細書に記載されているように、各遷移において、関連するQP対象を形成する。PPG処理の目的で、QP対象には、基礎となる成分の帯域のインデックスとともに、QP検出の時点における位相値(位相ラベルで示される)、時間値、及び成分の振幅が含まれる。現在の時点での現在のQPを帯域全体にわたってアレイに集めることにより、米国特許第7,706,992号明細書に記載されているように、帯域単位でインデックスが付けられ、任意の帯域での任意のQP対象の更新時に更新されるQP状態ベクトルが形成される。この状態ベクトルに含まれる集約された時間周波数情報は、所望の信号成分の識別及び追跡と、その瞬間的な周波数及び振幅の精度の高い推定と、を可能にするための基礎を形成する。
【0062】
検出及び追跡ユニット108は、所望の信号に関連するQP状態情報を識別し、選択し、そして追跡することにより、SNRをさらに向上させる。QP状態ベクトルは、周波数及び時間の両方に関する瞬間的な振幅情報(例えば、時間周波数分析)を提供し、この情報を分析して、所望の信号及びアーチファクトを識別し、区別するためのパターンを調べることができる。関連するQP振幅の現在の状態は、周波数帯域全体にわたって得られ、QP状態スペクトルを形成し、そのピークは、時間的に局所的な準周期的な成分に関連する。所望の信号に関連するこのような成分のピークには、脈拍数及びその高調波(パルス高調波列)が含まれ、一方、他のピークは、呼吸(呼吸数)から及び/又は反復的な動きから生じるものなど、他の準周期的なアーチファクトに関連する場合がある。
【0063】
検出及び追跡ユニット108は、QP状態スペクトル中のピークのパターンを分析して、所望の信号の典型的に高調波のパターンと、他の準周期的なアーチファクトが基本波を超える振幅が小さいか、又は不安定である高調波を有する傾向があるという事実と、をうまく活用することにより、所望の信号に関連するピークのみを識別する。入力信号の過渡現象は、複数の帯域にわたって同時に出現し、及び/又は、比較的短時間である傾向があるため、追跡プロセスでのフィルタリングを通して完全に排除されるか、又は抑制されるかのいずれかである。
【0064】
ピーク検出の後、検出及び追跡ユニット108は、サイズによってピークをランク付けして、それらを基に測定値を形成する。計算時間を節約するために、最初の3つのピークだけを高調波列の分析のために保存してもよい。というのは、これを超えるピークはすべて、高調波によるもの(したがって、すでに高調波列の一部である)か、又は下位レベルのアーチファクトによるもの、のいずれかであるためである。同様の理由で、これらの最高ランクの3つのうちの、振幅が第1の(最大の)ピークの少なくとも最小限の割合(fraction)であるピークのみが、さらなる分析の適格性を認定される可能性がある。この割合は0.35に設定することができる。通常の、高SNR条件の下では、1つのピークのみが適格性を認定される可能性があるため、このピークを検出期間として直接使用してもよい。
【0065】
これ以外の場合、残りの適格性を認定されたピークごとに、こうしたピーク、及びこうしたピークの高調波周波数に対応する帯域で、QP振幅スペクトルがサンプリングされる。次に、このQP振幅の列は合計され、これにより、適格性を認定されたピークそれぞれに1つの高調波列振幅(HTA:harmonic-train amplitude)測定値を形成する。上記で論じたように、計算の際に3つの高調波を使用してもよい。より高い周波数の基本ピークに起こり得るように、高調波の帯域のインデックスが提供された帯域を超える場合、それらの高調波の振幅の寄与はゼロに設定される。これらのHTAは、ここでもまた、測定値に従ってランク付けされ、最大の2つだけが保存される。
【0066】
次に、検出及び追跡ユニット108は、このHTAのペアにピークペア振幅測定値ルールのセットを適用して、所望の信号に最も関連するものを選択する。一実装形態では、ルールのセットは以下の通りである。
【0067】
●ピークが大きいほど周波数帯域が高い場合
→このピークを受け入れる(これよりもより小さい、低レートのピークはアーチファクトである可能性が高い)。
【0068】
●それ以外の場合(低レートのピークが最大である:絶対的、相対的レートルールを確認する)
〇最大ピークが上限呼吸数帯域を上回るレートの帯域を有する場合
→このピークを受け入れる(呼吸のアーチファクトにしてはレートが高すぎる)。
【0069】
〇それ以外の場合、高調波が関係していないかピークペアの帯域中心を確認する。
■ピーク重心(補間されたピーク)を計算する。
■高調波パターンを求めて補間された帯域重心を比較する。
【0070】
●2/1又は3/1の領域での周波数比
●1.2帯域以内の比率@1オクターブ当たり9帯域
■帯域関係が高調波である場合
高調波列の測定値振幅のペアを比較する。
【0071】
●小さい方のピーク<0.9*大きい方のピークである場合
→大きい方のピークを受け入れる(小さい方のピークは第2高調波である可能性が高い)。
【0072】
●それ以外の場合
→小さい方のピークを受け入れる(大きい方のピークはPR/2におけるアーチファクトである可能性が高い)。
【0073】
■それ以外の場合(帯域関係が高調波でない)
●小さい方のピーク>0.62*大きい方のピークである場合
→小さい方のピークを受け入れる(パルスであるのに十分な大きさのピーク)。
【0074】
●それ以外の場合
→大きい方のピークを受け入れる(小さい方のピークはアーチファクトである可能性が高い)。
【0075】
上記のルールでは、上限呼吸数帯域は、(過呼吸の上限に相当するレート)65BPMで帯域12に相当し得る。スペクトルにピークが1つだけしか生じない場合には、このピークがデフォルトで受け入れられる。スペクトルにピークが生じない場合には、スペクトル中の最大の振幅の帯域をピークとして受け入れてもよい。
【0076】
上記のルールにおいてピーク重心を計算するために、検出及び追跡ユニット108は、重心(質量中心)計算法を使用して、補間された帯域インデックスを計算する。中央帯域は、帯域インデックスと対応する帯域振幅との積の帯域ごとの合計を、帯域振幅の帯域ごとの合計で割ったものとして計算される。計算で使用される帯域は、ピーク帯域及びそれを跨いでいる帯域を含む。跨いでいる帯域が対称性の基準を満たす場合には、それらは両方ともピーク帯域とともに使用される。そうでない場合には、次に、跨いでいる帯域の最大のものがピーク帯域とともに使用される。
【0077】
対称性の基準は、跨いでいる帯域の振幅の絶対差をそれらの振幅の平均値で割ったもの(すなわち、ブランド-アルトマン測定値(Bland-Altman measure)に相当する振幅類似性測定値)として定義される。この測定値は、値0.1(すなわち、+/-10%の類似性)に設定することができる閾値と比較され、測定値がこの閾値以下である場合に類似性が宣言される。
【0078】
検出及び追跡ユニット108は、受け入れられたHTAを使用して、基本となる帯域を選択し、この帯域が、今度はパルス間隔の基本に関連付けされる。次に、検出及び追跡ユニット108は、この帯域及びその高調波帯域に関連するQP状態情報を使用して、これらのn高調波のQP情報を追跡するための専用のQP高調波状態ベクトルを更新する。帯域インデックスが上限を超える高調波には、QPドメイン高調波状態ベクトルフィルタリング及び振幅統計処理ユニット110での適切な処理が必要な高調波としてフラグが立てられる。
【0079】
QP高調波状態情報に対する更新は、含まれている高調波のいずれかの位相ラベル(位相進みを表示する)の変化を伴うQP時間インデックスの進みによって表示される。これらの更新は、Iチャネル及びRチャネルのそれぞれの高調波ごとに検出され、その点において対応する振幅及び間隔の統計が更新される。安定した振幅の統計を形成するために、QP振幅は、QP空間で動作するスケーリングされた積分カーネルを通して個別に平滑化される。積分スケールは、基本心臓周期の基礎となるウェーブレットスケールのサポートと当然一致する複数のQPに設定される。システム100の場合、これは、2.5心臓周期、すなわち、基本周期の1周期当たり4QPで10QPとなる。高調波の場合、高調波次数に比例してスケールが大きくなる。これにより、高調波をすべて同じ時間サポートに厳密に従わせることで、平滑化はすべての高調波に対して同じ時間スケールで効果的に同期されるようになる。高調波がバンクの範囲外であるとフラグが立てられたQP更新では、振幅平滑化への入力はゼロに設定される。二次スケーリングされた積分カーネルは、この段階で十分な平滑化を提供することができる。
【0080】
最も低い高調波に対応する追跡された帯域は、PPGパルスの基本周期に対応する周波数情報、したがって、パルス間隔(PI)にも対応する周波数情報を有する。Iチャネルの検出及び追跡ユニット108は、QP「アトミックな周期」と呼ばれる、基本波の瞬間的な周期を計算することにより、パルス間隔推定値を決定する。このアトミックな周期を抽出すると、QP更新のたびにパルス間隔PIQPが得られる。米国特許第7,706,992号明細書に記載されているように、これは、1つのQP更新からこの特定の成分の次の更新までの計算時間及び位相差に基づき、これにより、今度は、基礎となる周波数成分の周期に関する情報が高い精度で生み出される。この場合のQPのアトミックな周期は、以下のように表現される。
【0081】
PIQP=dTQP/dPQP
値PIQPは、1周期当たりの秒数を単位とした(瞬間的な)アトミックなパルス間隔に対応する。値dTQPは、基本波に対する前回のQP更新から現在のQP更新までの、秒単位の時間間隔に対応する。値dPQPは、前回のQP状態更新から現在のQP状態更新までトラバースされた2相ラベルの数に関連する位相値の進みに対応しており、以下の表に従って評価することができる。
【0082】
【表6】

トラバースされたQP位相ラベルの数は、米国特許第9,530,425号明細書に記載されているように、現在のQP状態の遷移において循環シーケンス・・・A→B→C→D→A・・・に沿って遭遇した増分に対応する。基本的な位相進み(例えば、1刻みの増分)は、最も一般的な位相変化である。現在のQP更新が、選択された基本帯域の変化に関連しており、それがたまたま前のQPで選択された基本帯域の位相ラベルと同じ位相ラベルに更新された場合、ゼロの位相変化が起こり得る。同様に、選択された基本帯域を変化させることで2の位相ラベルの変化が可能であるが、前の帯域から次の帯域への位相の反転をともなう。位相反転は、通常、信号中の過渡現象、又は任意の有意な周期的な成分から離れて位置する帯域に関連しているため、低い相対帯域振幅を示す。システム100は、これらの望ましくない条件をいずれも緩和するように設計することができ、これにより、位相反転は遭遇する可能性が非常に低い遷移タイプになる。
【0083】
検出及び追跡ユニット108は、次に、以下の条件及びルールに従って基本波のQP更新のたびにアトミックなパルス間隔PIQPを更新することができる。
●PIQPが無効浮動小数点数(Inf,NaN)又は負数である場合
→選択された基本ウェーブレット帯域の中心周波数に対応する周期にPIQPを強制する。
【0084】
●それ以外の場合、PIQPが、選択された基本ウェーブレット帯域を上回るか、又は下回る少なくとも1つのウェーブレット帯域の中心周波数に対応する場合
→選択された基本ウェーブレット帯域を上回るか、又は下回るウェーブレット帯域の中心周波数に対応する周期にPIQPをそれぞれ強制する。
【0085】
●それ以外の場合、PIQPは上記計算されたものとしての適格性を認定される。
追跡の更新は、基本波のQP更新時に発生するように定義することができる。
図1に示されるように、Iチャネルの検出及び追跡ユニット108は、Rチャネルの検出及び追跡ユニット108にPIQP及び関連する帯域インデックス情報を提供する。パルス変調の基礎となる基本パルス関連の周期性情報は、PPG信号と、変調のタイミングは主として心臓周期に関連するので灌流の仕組みと、の両方に本質的に共通である。ゆえに、高調波パターンの帯域の識別は、一方のチャネル(「マスタ」)上で計算することができ、次に、関連する帯域選択情報がもう一方のチャネル(「スレーブ」)に伝えられ、高調波追跡の目的で使用される。システム100では、Iチャネルの方が通常高いSNRを示すので、Iチャネルがマスタである。このため、所望のパルス高調波列に関連するQP状態ベクトルの帯域は、PPG信号のパルス変調成分の各高調波を再度表現(及び/又は再構築)するのに十分な、集中的な、SNRが高い経時変化する振幅及び位相/周波数情報、ひいては、PPG信号それ自体の変調成分を含んでいる。
【0086】
周期性検出及び周期帯域選択のプロセスは、IチャネルのQP状態更新のたびに発生し、QP高調波状態ベクトルの更新も同様である。RチャネルのQP高調波状態ベクトルは、RチャネルのQP状態更新のたびに更新され、その更新時に選択された現在の周期帯域を使用する。検出及び追跡ユニット108は、QPドメイン高調波状態ベクトルフィルタリング及び振幅統計処理ユニット110に、2つのQP高調波状態ベクトルを提供する。
【0087】
システム100は、QP同期フィルタリングを実行して瞬間的なパルス間隔PIinstを生成するパルス間隔(PI)フィルタ112を含む。報告された脈拍数のタイムアライメントを維持するために、パルス間隔PIQPは、同じQP時間ベースのフィルタリング/平滑化演算による処理、例えば、QPドメイン高調波状態ベクトルフィルタリング及び振幅統計処理ユニット110で使用されるように、基本波QP振幅に適用されるものと同じパラメータを有するスケーリングされた積分カーネルを通して平滑化され、第1高調波のQP更新のたびに更新されて、平滑化された高調波振幅に同期された瞬間的なパルス間隔PIinstを生成する。
【0088】
QPドメイン高調波状態ベクトルフィルタリング及び振幅統計処理ユニット110は、高調波振幅のロバスト移動測定値を形成するためのパラメータの個別の高調波ごとのフィルタリング(QP空間の線形平滑化)と、PPG信号のDC成分のQP同期フィルタリングと、AC成分パルス振幅のロバスト測定値を形成するための高調波振幅の組み合わせと、正規化されたパーセント比率PPGパルス変調のロバスト移動測定値(I信号経路に対するANI、R信号経路に対するANR)を形成するためのAC成分パルス振幅とDC情報との組み合わせと、を実行する。QPドメイン高調波状態ベクトルフィルタリング及び振幅統計処理ユニット110は、それぞれの高調波ごとにQP振幅パラメータを個別にフィルタリングして、追跡プロセスの出力での変動性及びノイズを全般的に抑制するための統計量の時間ベースの平滑化を行う。PPG信号の分離されたDC成分Idc,Rdcは、基本波QP振幅に適用されるものと同じパラメータを有する並列スケーリングされた積分カーネルを通して平滑化され、同じQP更新時に更新される。これにより、平滑化された高調波振幅に同期された、平滑化されたDC成分Idcs,Rdcsが生成される。
【0089】
各高調波を個別にフィルタリングすることによって、モフォロジーの各細かい側面に関連する振幅を独立して平滑化することができ、特定の高調波に隣接する帯域で発生する可能性のある干渉に対して独立したロバスト性を追加することができる。加えて、これらの高調波状態フィルタは、個別の高調波のQP更新のたびに独立して更新されるため、サンプルごとのフィルタリングと比較して、特に低次の高調波では、QP更新レートは周波数に比例してスケーリングするため、計算処理上の節約が実現される場合がある。AC成分とDC成分との間のタイムアライメントを維持するために、ユニット110は、第1高調波(基本波)のQP更新のたびにPPG信号のDC成分をサンプリングし、同じQP時間ベースのフィルタリング/平滑化演算を使用して、それらを処理してもよい。
【0090】
ユニット110は、平滑化された高調波振幅を組み合わせて、AC成分の振幅、すなわち、PPG信号のパルス振幅のロバスト移動推定値を形成する。追跡更新のたびに、平滑化された統計値は以下のように組み合わせることができる。各PPGチャネルの平滑化された高調波振幅を線形結合して、PPGパルス振幅に対応するAC成分の移動推定値aIR,aを形成する。平滑化された高調波振幅に適用される線形結合の重みは、一様である必要はない。第1高調波の重みを減らすことで、高いSNRでの性能に大きな影響を及ぼさずに、低いSNRで最も低い高調波に最も大きな影響を与える傾向にあるアーチファクトの影響を抑制する効果がある。線形結合のための重みは、以下のように、高調波の次数順に、0.125、1.0、1.0とすることができる。
【0091】
次に、移動推定値aIR,aは、対応する平滑化されたDC成分値によって正規化され、図1にANI及びANRとして示されている、正規化されたパーセント比率PPGパルス変調のロバスト移動測定値が得られる。正規化されたパーセント比率PPGパルス変調ANI,ANRの移動測定値は、追跡更新のたびに以下のように計算される。
【0092】
NI=aIR/Idcs
NR=a/Rdcs
システム100は、ANI及びANRの正規化された変調比の移動測定値Rを提供する除算ユニット114を含む。正規化された変調比R=ANR/ANIは、SpOがそこからマッピングされる瞬間的な移動測定値を形成する。
【0093】
システム100は、統計フィルタ116a,116bを含む。統計フィルタ116aは、正規化された変調比Rの平滑化された移動推定値RPPGを形成する。統計フィルタ116bは、瞬間的なパルス間隔PIinstの平滑化された移動推定値PIPPGを形成する。各統計フィルタは、移動スタックフィルタに基づく統計ベースの平滑化を実行して、最終的な平滑化関数を提供し、最終出力から残っている大きな、中心を離れた過渡的な偏位をすべて除去する。同一の平滑フィルタをR及びPIinstの両方に並行して適用することで、タイムアライメントが全般的に保たれ、最終的な移動PPG測定値RPPG,PIPPGが得られる。
【0094】
統計フィルタ116a,116bは、最終出力から残っている大きな、中心を離れた過渡的な偏位をすべて除去して、出力の読み取り値を全般的に安定させるように設計されている。平均化時間Tstat=2.5秒は、タイムラグを可能な限り低く抑えつつ、許容可能なレベルの平滑化を生み出すことができる。ゆえに、追跡更新のたびに、それぞれの統計フィルタ116a,116bごとの平均化は、現在の追跡更新に先立つ(及び現在の追跡更新を含む)間隔Tstat秒以内に発生するR及びPIinstのそれぞれの値を使用して更新される。単純な移動平均値を実行するのではなく、平滑化された中央値が、純粋な中央値の周囲の範囲にわたって、百分位数の意味合いにおいて中心値の平均をとることによって計算される。中心範囲の平均は、中央値を中心とした4分位数間の範囲の値を含むように設定することで、外れ値に対するロバスト性を保ちつつ、経時的に十分に平滑化された出力も生成することができる。同じパラメータ及び更新時間を使用することによって、2つの平滑化された出力統計値の間に同期を保つことができる。
【0095】
システム100は、マッピングユニット118a,118bを含む。マッピングユニット118aは、RPPGのマッピングを実行して、SpO値を出力する。マッピングユニット118bは、PIPPGのマッピングを実行して、脈拍数PR値を出力する。
【0096】
正規化された変調比RPPGは、多項式関数、例えば、二次多項式によってSpOにマッピングすることができる。多項式の係数は、校正手順によって、例えば、低酸素症実験室で標準的なランプダウンプロトコルに従って被験者からSaO値及び対応するRPPG値を収集し、次に、二次フィッティングを実行してSpOへのマップを形成することによって、決定することができる。各プローブを使用してRPPG値を収集し、次に、それぞれに対応する別個のマップを形成することによって、例えば、指のプローブ及び耳のプローブなど、様々なプローブに対応することができる。
【0097】
多項式は、以下のように評価される。
【0098】
【数4】

式中、RPPGは、入力値xであり、出力yは、SpOのマッピングされた値である。一実装形態では、指のプローブ及び耳のプローブの場合の値aは、以下の通りである。
【0099】
【表7】

出力値の過剰な偏位を防ぐために、SpOの出力値の範囲は、上限値100%、及び下限値0%に制限される場合がある。
【0100】
瞬間的なパルス間隔PIPPGは、通常、次式によって脈拍数PRにマッピングされる。
PR=60・F/PIPPG
式中、パルス間隔は、サンプル数で、PRはBPMで表現される。出力値の過剰な偏位を防ぐために、PRの出力値の範囲は、上限値240BPM、及び下限値30BPMに制限される場合がある。
【0101】
信号振幅の局所的な損失は、リードの剥離などによる完全な信号損失、又は極度に低い灌流、又は心臓の一時停止若しくは不全収縮などによるパルス変調の欠如から生じる場合がある。SpO及びPRはこれらの条件の下で十分に定義されていないため、システム100は、正規化された変調信号の振幅レベルを使用して、パルス変調振幅に、所望の精度の信頼度に対応する十分なレベルの適格性を認定する出力適格性認定ユニット122を含む。この振幅レベルは、AC成分Iacの振幅の移動推定値Iamaを、DC成分Idcからの時間整合された移動推定値Imdとともに形成することと、これらの値の比を、性能が著しく低下することが実験的に観察された点に配置された閾値と比較することと、に基づいていてもよい。
【0102】
移動AC振幅推定値Iama及びDC成分推定値Imdは、AC成分Iac及びDC成分Idcの絶対値を移動平均フィルタでそれぞれ平滑化することにより、形成される。フィルタは、同じパラメータを有するスケーリングされた積分カスケードを用いて実装することができるため、推定値間のタイムアライメントを有する線形位相を有する。平滑化は、二次として3秒の時間スケールで設定して、振幅の低下及び上昇に対する時間応答性を維持し続けながら、推定値からの拍動成分を十分に平滑化することができる。処理サンプルレートがF=225Hzの場合、以下のスケーリングされた積分パラメータを平滑フィルタに使用することができる。
【0103】
【表8】

フラグfsigは、正規化された変調信号の振幅レベルが信頼度の閾値を概ね上回っている場合にアサートされ、下回っている場合にディアサートされるが、これは、信号レベルのパルスオキシメトリに対する適格性を認定するために使用される。信号レベルが閾値をゆっくりと通過し、軽微なリップルが重畳される場合には、適格性認定フラグのチャタリングが発生する可能性がある。これは、閾値にヒステリシスを加える(例えば、閾値を適格性認定状態に逆に関連付ける)ことにより、緩和することができる。また、様々な処理段階に固有のタイムラグがあるため、信号品質の表示がパルスオキシメトリの出力読み取り値と時間的に整合するように、時間遅延をフラグのアサート及びディアサートに加えることができる。
【0104】
出力適格性認定ユニット122は、状態機械を用いた信号適格性認定プロセスを実装することにより、これらの目的を両方とも満たすことができる。状態定義及び状態遷移ルールは、以下の通りである。
【0105】
初期化:状態=NOT_QUAL//fsig=偽
【0106】
【表9】

閾値は以下のように設定することができる。
【0107】
【表10】

遅延時間は以下のように設定することができる。
【0108】
【表11】

出力適格性認定ユニット122は、信号条件が芳しくない間、パルスオキシメトリの擬似出力又は誤出力の表示を抑制する手段として信号適格性認定フラグfsigを出力インタフェース124に提供する。遅延は、信号条件が悪化する前にフラグfsigのディアサートを引き起こし、また、信号条件が回復した後にフラグfsigの再アサートを引き起こすように選ぶことで、フラグfsigがアサートされる場合に限り、信号条件が確実に良好であるようにすることができる。
【0109】
システム100は、平均SpO値及び平均PR値をディスプレイ120に連続的に表示することができる。ディスプレイ120は、米国特許出願公開第2015/0302539号明細書に記載されているような、ベッドサイドモニタ、中央サーバステーション、又はモバイルデバイスのディスプレイとすることができる。ディスプレイ120は、患者の警報状態が検出されると、ディスプレイ120のユーザに警告することができる。ディスプレイ120は、例えば、点滅、色の変更、画面の拡大、又はそれ以外の方法で視覚的に警報状態を表示することにより、ユーザに警告することができる。例えば、患者のSpOレベルが許容可能な上限を超えて上昇、又は、許容可能な下限まで低下すると、ディスプレイ120が点滅して、ディスプレイ120のユーザに警報状態を表示することができる。システム100は、可聴警報をトリガすることにより、ユーザに警告することができる。いくつかの実装形態では、様々な可聴警報を使用して、様々な警報状態又は警報状態の重要度を表示することができる。可聴警報の音量を使用して、警報状態の相対的な重要度を表示することもまた可能である。
【0110】
システム100は、ディスプレイ120の1つ又は複数の部分を点滅させ、可聴警報を発出させるか、又は他のデバイスに警報を送信させることにより、警報状態についてユーザに警告することもまた可能である。例えば、ベッドサイドモニタは、中央サーバに警報を送信することができ、中央サーバは、次に、患者に関連付けされた警報の宛先である1人又は複数人の介護者を識別することができる。次に、中央サーバは、識別された介護者に関連付けされたデバイスに警報を送信することができる。
【0111】
パルスオキシメトリシステム100は、集中治療、手術、回復期、救急及び病棟の場、非加圧の航空機内のパイロットなど、患者の酸素濃度が不安定なあらゆる場において、任意の患者の酸素濃度の評価、及び酸素補給の有効性又は必要性の判定に有用な場合がある。システム100は、酸素飽和度の連続値及び即時値を提供することができ、それらは、救急医療では極めて重要であるだけでなく、呼吸器又は心臓に問題がある患者、特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)の患者、又は、無呼吸及び呼吸低下など何らかの睡眠障害の診断には非常に有用でもある。
【0112】
いくつかの実装形態では、システム100は、ポータブル式バッテリ駆動型パルスオキシメータとして実装することができる。このようなポータブル式バッテリ駆動型パルスオキシメータは、酸素補給が必要な高度3,048メートル(10,000フィート)(米国では3,810メートル(12,500フィート))を超えて非加圧の航空機内で操縦するパイロットに有用である。ポータブル式パルスオキシメータは、高高度で、又は練習で酸素レベルが低下している可能性がある登山者及びアスリートにもまた有用である。ポータブル式パルスオキシメータは、システム100を用いて患者の血中酸素及び脈拍を監視することができ、血中酸素レベルをチェックするリマインダーとしての役割を果たす。
【0113】
図4は、米国特許出願公開第2015/0302539号明細書に記載されているようなベッドサイドモニタ、中央サーバステーション、又はモバイルデバイスのディスプレイなどのディスプレイデバイス404と通信状態にある患者着用センサ402を含むシステム400を示す。ディスプレイデバイス404は、患者の情報を表示する。ディスプレイデバイス404は、患者着用センサ402から受信した情報及び/又は患者着用センサ402に関連付けされた患者に関連する情報を含むユーザインタフェース406を表示することができる。患者着用センサ402は、例えば、米国特許出願公開第2015/0302539号明細書に記載されているような胸部センサとすることができる。患者着用センサ402は、患者の皮膚に取り付け、血圧、体温、呼吸数、生体インピーダンス、血中酸素濃度、(ECGを介した)心調律、及び心拍数などの様々な患者の生命徴候を記録するための接点を含むことができる。
【0114】
患者着用センサ402は、例えば、Bluetooth(登録商標)、WiFi、又はセルラープロトコルなどのワイヤレス通信プロトコルを使用して、ワイヤレス接続408を通してディスプレイデバイス404とワイヤレスで通信することができる。患者着用センサ402は、ワイヤレス接続408を通してディスプレイデバイス404に患者の生命徴候情報を送信することができる。いくつかの実装形態では、患者着用センサ402は、ディスプレイデバイス404に情報を送信する前に、収集された生命徴候情報の処理を実行することができ、その一方で、いくつかの実装形態では、患者着用センサ402は、処理された情報の代わりに、又は処理された情報に加えて、生の生命徴候情報をディスプレイデバイス404に送信することができる。ディスプレイデバイス404は、タブレットなど、タッチスクリーン入力を受信することが可能なタッチスクリーンデバイスとすることができる。いくつかの実装形態では、ディスプレイデバイス404は、キーボード、マウス、入力ボタン、或いはボイスコマンドを認識することが可能な1つ又は複数のデバイスから入力を受信することができる。いくつかの実装形態では、ディスプレイデバイス404とワイヤレス通信状態にあるモバイルフォンなどのデバイスを使用して、ディスプレイデバイス404を制御することができる。いくつかの実装形態では、ディスプレイデバイス404は、ユーザが直接入力する及び/又は出力する機能性を含まず、むしろ、患者着用センサ402から受信した生の生命徴候情報を処理し、警報状態を検出し、ディスプレイデバイス404と通信状態にある他のデバイスに警報を送信し、1つ又は複数の中央サーバに患者情報を送信するための処理デバイスとしての役割だけを果たす「ヘッドレス」デバイスである。このような場合であれば、ディスプレイデバイス404にはディスプレイが含まれない。
【0115】
ユーザインタフェース406は、患者着用センサ402に関連付けされた患者の情報を表示する。例えば、患者着用センサ402の電極は、患者の皮膚と接触し、生命徴候情報を収集することができ、この情報は、ワイヤレス接続408を通してディスプレイデバイス404に転送され、ディスプレイデバイス404によって処理され、ユーザインタフェース406の一部として表示される。ユーザインタフェース406は、様々な生命徴候波及び数値レベルを示す。
【0116】
例えば、ユーザインタフェース406は、患者の数値的な心拍数又は脈拍数値412だけでなく、患者の心拍数波形410も示す。示されている例では、患者の脈拍数値412は、毎分80ビートである。ユーザインタフェース406は、414において、許容可能な患者の心拍数レベルを毎分50ビート~120ビートの間に収まるものとして示す。患者の現在の心拍数は毎分80ビートであり、表示された許容範囲内にあるため、現在、患者の心拍数に対する警報状態はない。これは、鐘に「X」のマークを重ね合わせたアイコン146によって表示されている。アイコン146は、患者の現在の心拍数が許容範囲内にあることを表示する。患者の心拍数が許容可能なレベル内にない状況では、アイコン146は警報状態を表示するように変化することができる。例えば、「X」は、アイコン146から消すことができ、アイコン146は点灯又は点滅して、警報状態を表示することができる。加えて、ディスプレイデバイス404は、可聴警報を発して、患者の警報状態について近くの介護者に警告することができる。いくつかの実装形態では、ユーザインタフェース406の他の部分が点滅するか、又はそれ以外の方法で警報状態を表示することができる。例えば、表示された脈拍数値412は、患者の脈拍数が許容可能なレベル外にある場合に点滅することができる。いくつかの実装形態では、アイコン146(又はユーザインタフェース406の他の部分)は、特定の警報状態の重要度を表示するために様々な速度で点滅することができる。例えば、アイコン146は、患者の心拍数が許容範囲から遠ざかるほど、速く点滅することができる。
【0117】
ユーザインタフェース406は、患者の血中酸素濃度波形418及び数値的な血中酸素濃度値420を示す。ユーザインタフェース406は、422において、許容可能な患者の血中酸素濃度範囲もまた示す。ユーザインタフェース406は、患者の血中酸素濃度のレベルが許容範囲内にあることを表示するアイコン424をさらに含む(鐘の上に重ね合わせた「X」のマークによって表示され、警報が「オフ」であることを表示している)。
【0118】
図5は、パルスオキシメトリシステムによって実行される動作500の例を示すフローチャートである。動作500は、図1のシステムなど、1つ又は複数のコンピュータのシステムによって実行することができる。動作500は、上記で論じた詳細を含むことができる。
【0119】
502において、システムは、患者の身体の近傍に置かれた光センサによって検出された光の波長に対応する信号を受信する。信号は、光センサによって検出された光の第1の波長に対応する第1の信号と、光センサによって検出された光の第2の波長に対応する第2の信号と、を含む。
【0120】
動作504~514は、第1の信号及び第2の信号のそれぞれの受信信号ごとに実行される。504において、信号は、サンプルレートを増加させるために任意選択的にアップサンプリングされる。506において、信号は、AC信号とDC信号とに分離される。
【0121】
508において、AC信号は、成分信号に分離され、成分信号のそれぞれは、周波数制限帯域を表す。AC信号を成分信号に分離することは、隣接した間隔を空けた帯域中心を有する帯域通過フィルタのバンクを使用して、AC信号をフィルタリングすることと、帯域通過フィルタのバンクの出力を正規化して成分信号を生成することと、を含むことができる。
【0122】
510において、システムは、分数位相変換を通して成分信号を分析して、所望の成分信号及び所望の成分信号に関連する高調波信号を識別する。所望の成分信号及び高調波信号を識別するために、システムは、第1の信号から得られた最も低い高調波信号の瞬間的な周期を計算することにより、アトミックな周期を決定することができる。第1の信号については、所望の成分信号及び高調波信号は、アトミックな周期に基づいて、成分信号の時間整合された振幅値、及び高調波信号の振幅の関係を分析することによって識別することができる。アトミックな周期に基づいて、システムは、アトミックなパルス間隔を決定することができ、第2の信号の所望の成分信号及び高調波信号は、アトミックなパルス間隔に基づいて識別することができる。
【0123】
512において、システムは、所望の成分信号、高調波信号、及びDC信号を平滑化する。514において、平滑化された所望の成分信号、平滑化された高調波信号、及び平滑化されたDC信号を組み合わせて、変調信号を生成する。平滑化された所望の成分信号、平滑化された高調波信号、及び平滑化されたDC信号を組み合わせることは、平滑化された所望の成分信号と、平滑化された高調波信号とを線形結合して結合信号を生成することと、平滑化されたDC信号を使用して結合信号を正規化して変調信号を生成することと、を含むことができる。
【0124】
516において、システムは、第1の信号から得られた変調信号及び第2の信号から得られた変調信号に基づいて変調比信号を生成する。518において、患者の身体の末梢の酸素飽和度(SpO)は、変調比信号に基づいて決定される。患者の身体のSpOを決定することは、変調比信号の平滑化された移動推定値を生成することと、平滑化された移動推定値を患者の身体のSpOを表す出力値にマッピングすることと、を含むことができる。システムは、上記で決定されたアトミックなパルス間隔に基づいて患者の身体の脈拍数を決定することもまた可能である。
【0125】
図6は、コンピュータ可読媒体602に含まれ、且つ、中央処理ユニット(CPU)604によって実行される上述の動作、データ構造、及び/又はプログラムを実装するコンピュータプログラムを実行するコンピュータシステム600の一例を示すブロック図である。CPU604は、x86シリーズCPU又は当技術分野で既知のその他のCPUとすることができる。プログラムを実行するための入力は、いくつかの実装形態では、キーボード606を介して行うことができる。いくつかの実装形態では、プログラムを実行するための入力は、マウス、ライトペン、タッチスクリーン、タッチパッド、又は当技術分野で既知の任意の他の入力デバイスなどの周辺機器を介して行うことができる。いくつかの実装形態では、上記動作を別のプログラムによって呼び出して、酸素測定データを実行及び処理することができる。処理が完了すると、上述の動作、データ構造、及び/又はプログラムを使用して処理されたデータは、ディスプレイ608に出力するか、又はインターネット610若しくは他のそれ以外のワイヤレス通信チャネルを介して別のユーザ端末612に送ることができる。いくつかの実装形態では、出力はデータベース614か、又は離れた場所にある別のデータベースに入れておくことができる。
【0126】
図7は、コンピュータシステムの一例を示すブロック図であり、いくつかの実装形態では、患者着用センサと通信するための通信モジュール702及び関連付けされた通信リンク704、アプリケーション命令のセットを含んでいるコンピュータ可読媒体708を含むマイクロプロセッサユニット706(MPU)、患者データを記憶するための関連付けされた記憶モジュール710、オペレータ(例えば、医師、技師、又は患者)が使用することでMPU706と対話することができる人間-コンピュータインタフェース712であって、視覚的ディスプレイ、聴覚的ディスプレイ、キーボード、マウス、タッチスクリーン、ハプティックデバイス、又はその他の対話手段を含み得る人間-コンピュータインタフェース712などのユニット又はモジュールのセットを含み得るホスト700を描く。ホスト700は、例えば、プリンタ、スキャナ、及び/又はデータ取得若しくは画像処理装置などのコンピュータ周辺機器に普通は接続し、コンピュータ周辺機器と通信するための、入力/出力モジュール714と、Ethernet(登録商標)及び/又はワイヤレスネットワーク若しくはWiFiなどのコンピュータネットワーク上の他のホストと通信するためのネットワーク通信モジュール716と、もまた含む。
【0127】
本開示に記載された特徴は、デジタル電子回路若しくはコンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又はそれらの組み合わせにおいて実装することができる。装置は、プログラム可能なプロセッサが実行するための情報キャリア、例えば、機械可読記憶デバイスなどにおいて有形で具体化されるコンピュータプログラム製品において実装することができ、方法ステップは、入力データ上で動作し、出力を生成することにより、記載された実装形態の機能を果たす命令のプログラムを実行するプログラム可能なプロセッサによって実行することができる。記載された特徴は、データ及び命令をデータ記憶システムから受信し、データ及び命令をデータ記憶システムに送信するように結合された少なくとも1つのプログラム可能なプロセッサと、少なくとも1つの入力デバイスと、少なくとも1つの出力デバイスと、を含むプログラム可能なシステム上で実行可能な1つ又は複数のコンピュータプログラムで有利に実装することができる。コンピュータプログラムは、ある特定の行為を実行するため、又はある特定の結果をもたらすために、コンピュータにおいて直接的又は間接的に使用することが可能な命令のセットである。コンピュータプログラムは、コンパイル型言語又はインタープリタ型言語を含むプログラミング言語の任意の形態で書くことが可能であり、スタンドアローンプログラムとして、又はモジュール、コンポーネント、サブルーチン、又は、コンピュータ計算する状況での使用に適した他のユニットとしてなど、任意の形態で展開することが可能である。
【0128】
命令のプログラムの実行に適切なプロセッサには、例として、汎用マイクロプロセッサ及び専用マイクロプロセッサの両方、並びに単独のプロセッサ又は任意の種類のコンピュータの複数のプロセッサのうちの1つが含まれる。概して、プロセッサは、読み出し専用メモリ若しくはランダムアクセスメモリ、又はその両方から命令及びデータを受信する。コンピュータの必須要素は、命令を実行するためのプロセッサと、命令及びデータを記憶するための1つ又は複数のメモリとである。概して、コンピュータはまた、データファイルを記憶するための1つ又は複数の大容量記憶デバイスを含むか、又はそれらと通信するために動作可能に結合されており、このようなデバイスには、内蔵ハードディスク及び取外し可能ディスクなどの磁気ディスク、磁気光ディスク、及び光ディスクが含まれる。コンピュータプログラム命令及びデータを有形で具体化するのに適した記憶デバイスには、例として、EPROM、EEPROM、及びフラッシュメモリデバイスなどの半導体メモリデバイスを含むすべての形態の不揮発性メモリ、内蔵ハードディスク及び取外し可能ディスクなどの磁気ディスク、磁気光ディスク、並びにCD-ROM及びDVD-ROMディスクが含まれる。プロセッサ及びメモリは、ASIC(特定用途向け集積回路)によって補完したり、又はASICに組み込んだりすることができる。ユーザとの対話を提供するために、CRT(陰極線管)モニタ又はLCD(液晶ディスプレイ)モニタなど、ユーザに情報を表示するためのディスプレイデバイス及びキーボード、並びに、マウス又はトラックボールなど、ユーザがそれを使ってコンピュータに入力を行うことが可能なポインティングデバイスを有するコンピュータに機能を実装することができる。
【0129】
これらの機能は、データサーバなどのバックエンドコンポーネントを含むコンピュータシステム、又はアプリケーションサーバ若しくはインターネットサーバなどのミドルウェアコンポーネントを含むコンピュータシステム、又は、グラフィカルユーザインタフェース若しくはインターネットブラウザを有するクライアントコンピュータなどのフロントエンドコンポーネントを含むコンピュータシステム、又はそれらの任意の組み合わせで実装することができる。システムのコンポーネントは、通信ネットワークなどの任意の形態又は任意の媒体のデジタルデータ通信によって接続することができる。通信ネットワークの例には、例えば、LAN、WAN、並びにインターネットを形成するコンピュータ及びネットワークが含まれる。コンピュータシステムは、クライアント及びサーバを含むことができる。クライアント及びサーバは、概して互いに隔てられており、通常、記載されているようなネットワークを通して対話する。クライアントとサーバとの関係は、それぞれのコンピュータで作動し、互いにクライアント-サーバ関係を有するコンピュータプログラムによって生じる。
【0130】
本明細書は多くの特定の実装形態の詳細を含むが、これらは、いかなる発明の範囲、又は特許請求の範囲に記載され得る範囲を限定するものと解釈するのではなく、特定の発明の特定の実施形態に特有の機能の説明と解釈するものとする。別個の実施形態の文脈で本明細書に記載されているある特定の機能は、単一の実施形態において組み合わせて実装することもまた可能である。その反対に、単一の実施形態の文脈で説明されている様々な機能は、複数の実施形態で別々に、又は任意の適切な下位の組み合わせで実装することもまた可能である。それに加え、機能は、ある特定の組み合わせで、さらには最初に特許請求の範囲に記載されているように作用するように上記で記載されている場合があるが、場合によっては、特許請求の範囲に記載されている組み合わせからの1つ又は複数の機能が、組み合わせから削除されることがあり、特許請求の範囲に記載されている組み合わせは、下位の組み合わせ、又は下位の組み合わせの変形例に向けられている場合がある。
【0131】
同様に、動作が特定の順番で図面に描かれているが、これは、そのような動作を示された特定の順番若しくは順序で実行する必要があると理解するべきではなく、また、望ましい結果を実現するためには、すべての図示された動作を実行する必要があると理解するべきではない。ある特定の状況では、マルチタスク方式及び並列処理方式が有利な場合がある。それに加え、上述した実施形態における様々なシステムコンポーネントの分離は、そのような分離がすべての実施形態で必要であると理解するべきではなく、説明されたプログラムコンポーネント及びシステムは、概して単一のソフトウェア若しくはハードウェア製品に一体化することが可能であるか、又は複数のソフトウェア又はハードウェア製品にパッケージ化することが可能であると理解するべきである。
【0132】
このように、主題の特定の実施形態を説明してきた。他の実施形態が以下の特許請求の範囲内にある。場合によっては、特許請求の範囲に記載された行動は、異なる順番で実行することができ、やはり望ましい結果を実現する。加えて、添付の図面に描かれているプロセスは、望ましい結果を実現するためには、必ずしも示されている特定の順番又は順序である必要はない。ある特定の実装形態では、マルチタスク方式及び並列処理方式が有利な場合がある。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7