(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】静電容量検出装置及び静電容量検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 27/26 20060101AFI20221104BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20221104BHJP
G06F 3/044 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
G01R27/26 C
G06F3/041 470
G06F3/041 522
G06F3/044 120
(21)【出願番号】P 2021554853
(86)(22)【出願日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2020038199
(87)【国際公開番号】W WO2021090636
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2019202625
(32)【優先日】2019-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤由 達巳
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116706(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/059967(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0102037(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0285971(US,A1)
【文献】特表2018-518899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/26
G06F 3/041
G06F 3/044
H03K 17/955
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出電極に近接する検出対象物と前記検出電極との間の静電容量を検出する静電容量検出装置であって、
前記検出電極に近接して配置されたシールド電極に供給される第1の交流電圧を出力する第1電圧出力回路と、
前記第1の交流電圧の周波数と略等しい周波数の第2の交流電圧を出力する第2電圧出力回路と、
前記検出電極に接続される反転入力端子と前記第2の交流電圧が印加される非反転入力端子との電圧差を増幅して出力する演算増幅器と、
を有し、
前記第2電圧出力回路は、前記検出電極に近接する前記検出対象物が存在しない状態において、前記演算増幅器の出力電圧の振幅が前記第1の交流電圧の振幅よりも小さくなるように調整された前記第2の交流電圧を出力することを特徴とする静電容量検出装置。
【請求項2】
前記第1の交流電圧の位相と前記第2の交流電圧の位相とは略等しいことを特徴とする請求項1に記載の静電容量検出装置。
【請求項3】
前記演算増幅器の出力端子と前記反転入力端子との間に設けられた帰還キャパシタを有することを特徴とする請求項1または2に記載の静電容量検出装置。
【請求項4】
前記帰還キャパシタは静電容量値の調整が可能であることを特徴とする請求項3に記載の静電容量検出装置。
【請求項5】
前記第2電圧出力回路は、前記第1の交流電圧を減衰させた電圧を前記第2の交流電圧として出力することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の静電容量検出装置。
【請求項6】
前記第2電圧出力回路は、第1キャパシタと第2キャパシタとの直列回路を備え、
前記第1電圧出力回路は、前記直列回路の両端に前記第1の交流電圧を印加し、
前記第2電圧出力回路は、前記第1の交流電圧が第1キャパシタと前記第2キャパシタにより分圧された前記第2の交流電圧を生じさせることを特徴とする請求項5に記載の静電容量検出装置。
【請求項7】
前記第2電圧出力回路は、前記検出電極に近接する前記検出対象物が存在しない状態において、前記演算増幅器の出力電圧の振幅が前記第1の交流電圧の振幅よりも小さくなるような前記第2の交流電圧を生じさせるように調整された静電容量比を有する前記第1キャパシタと前記第2キャパシタとを含むことを特徴とする請求項6に記載の静電容量検出装置。
【請求項8】
前記第2電圧出力回路は、静電容量値が可変の前記第2キャパシタを有することを特徴とする請求項6または7に記載の静電容量検出装置。
【請求項9】
前記第2電圧出力回路は、前記検出電極に近接する前記検出対象物が存在しない状態において、前記演算増幅器の出力電圧をVoとし、前記第1の交流電圧をVasとし、前記第2の交流電圧をVpとした場合に、振幅の関係がVo<Vp<Vasを満たすように調整された前記第2の交流電圧を出力することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の静電容量検出装置。
【請求項10】
前記第2電圧出力回路は、前記検出電極に近接する前記検出対象物が存在しない状態において、前記第1の交流電圧をVasとし、前記第2の交流電圧をVpとし、前記検出電極と前記シールド電極との間の静電容量をCrsとし、前記検出電極と前記検出対象物以外のグランドとの間の寄生容量をCrglとした場合に、Vp<Crs×Vas/(Crs+Crgl)を満たすように調整された前記第2の交流電圧を出力することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の静電容量検出装置。
【請求項11】
検出電極に近接する検出対象物と前記検出電極との間の静電容量を検出する静電容量検出方法であって、
前記検出電極に近接して配置されたシールド電極に供給される第1の交流電圧を出力する第1電圧出力ステップと、
周波数と位相が前記第1の交流電圧に略等しい第2の交流電圧を出力する第2電圧出力ステップと、
前記検出電極に接続される反転入力端子と前記第2の交流電圧が印加される非反転入力端子との電圧差を演算増幅器において増幅して出力する演算増幅ステップと、
を有し、
前記第2電圧出力ステップは、前記検出電極に近接する前記検出対象物が存在しない状態において、前記演算増幅器の出力電圧の振幅が前記第1の交流電圧の振幅よりも小さくなるように調整された前記第2の交流電圧を出力することを特徴とする静電容量検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量検出装置及び静電容量検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
指などの検出対象物の近接を静電容量に基づいて検出するタッチセンサやタッチパッドなどの入力装置が知られている。入力装置に用いられる静電容量の検出方式には、一般に、相互容量式と自己容量式がある。相互容量式では、交差して配置された2つの電極間の静電容量が検出され、自己容量式では、グランドに対する検出電極の静電容量が検出される。
【0003】
自己容量式は、相互容量式に比べて静電容量の検出感度が高いという利点を有する。しかしながら、グランドと検出電極の間に大きな寄生容量が存在すると、検出結果の信号に寄生容量の成分が大きな割合を占めるようになり、検出対象物の容量成分のダイナミックレンジが小さくなるため、検出感度が低下する。また、寄生容量の容量変動がノイズとなり、静電容量の検出精度が低下する。
【0004】
従来、このような寄生容量の影響を軽減するため、検出電極と同電位に駆動されたシールド電極(アクティブシールドとも呼ばれる)が検出電極の周囲に配置されている(例えば、下記の特許文献1を参照)。アクティブシールドを設けることにより、検出電極が周囲の導体と静電結合を生じ難くなるため、寄生容量が減少する。また、アクティブシールドを検出電極と同電位にすると、アクティブシールドと検出電極との間の静電容量は検出結果に影響を与えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4198306号公報
【文献】国際公開第2018/116706号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクティブシールドによって寄生容量は減少するものの、全てを無くすことはできない。そのため、より高い検出感度を得ようとしても、残留する寄生容量の影響により高い検出感度を得ることができない場合がある。また、特許文献1に開示されている静電容量型センサでは、実際に出力される出力電圧が飽和し、十分な高い検出感度を得ることができない場合がある。
【0007】
このため、高い検出感度を得ることのできる静電容量検出装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施の形態の一観点によれば、検出電極に近接する検出対象物と前記検出電極との間の静電容量を検出する静電容量検出装置であって、前記検出電極に近接して配置されたシールド電極に供給される第1の交流電圧を出力する第1電圧出力回路と、前記第1の交流電圧の周波数と略等しい周波数の第2の交流電圧を出力する第2電圧出力回路と、前記検出電極に接続される反転入力端子と前記第2の交流電圧が印加される非反転入力端子との電圧差を増幅して出力する演算増幅器と、を有し、前記第2電圧出力回路は、前記検出電極に近接する前記検出対象物が存在しない状態において、前記演算増幅器の出力電圧の振幅が前記第1の交流電圧の振幅よりも小さくなるように調整された前記第2の交流電圧を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
開示の静電容量検出装置によれば、高い検出感度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】シールド電極を有する静電容量検出装置の構成図
【
図2】シールド電極を有する静電容量検出装置の説明図
【
図3】第1の実施に形態における静電容量検出装置の構成図
【
図4】第1の実施に形態における静電容量検出装置の説明図(1)
【
図5】第1の実施に形態における静電容量検出装置の説明図(2)
【
図6】第1の実施に形態における静電容量検出装置の説明図(3)
【
図7】第1の実施に形態における静電容量検出装置の説明図(4)
【
図8】第1の実施に形態における静電容量検出装置の説明図(5)
【
図9】第1の実施に形態における静電容量検出装置の説明図(6)
【
図10】第1の実施に形態における静電容量検出装置の説明図(7)
【
図11】第1の実施に形態における静電容量検出装置の説明図(8)
【
図12】第1の実施に形態における入力装置の構成図
【
図13】第2の実施に形態における静電容量検出装置を含む入力装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0012】
最初に、シールド電極の設けられた静電容量検出装置について説明する。
図1に示される静電容量検出装置は、検出電極10、シールド電極20、演算増幅器30、帰還抵抗40、帰還キャパシタ50、交流電源である交流電圧出力回路60等を有している。
【0013】
検出電極10は、演算増幅器30の反転入力端子(-)に接続されており、シールド電極20は、演算増幅器30の非反転入力端子(+)に接続されており、演算増幅器30の出力端子と反転入力端子(-)との間には、帰還抵抗40及び帰還キャパシタ50が並列に接続されており、負帰還がかけられている。また、シールド電極20には、交流電圧出力回路60が接続されており、電圧Vasの交流電圧が印加されている。帰還抵抗40は抵抗値を可変することができ、帰還キャパシタ50は静電容量値を可変することができる。
【0014】
図1に示される静電容量検出装置では、検出電極10とシールド電極20との間には、静電容量Crsが形成され、検出電極10とGNDとの間には、寄生容量Crglが形成される。検出電極10と指や手等の検出対象物100との間には、静電容量Crgが形成され、検出電極10に指や手等の検出対象物100が近づいた場合には、静電容量Crgの容量が増加し、演算増幅器30より出力される出力電圧Voの振幅が大きくなる。
【0015】
ここで、検出電極10に指や手等の検出対象物100が近づいた場合における検出感度を高くする方法としては、交流電圧出力回路60より出力されシールド電極20に印加される印加電圧Vasの振幅を大きくすることが有効であるが、印加電圧Vasの振幅を大きくした場合、演算増幅器30より出力される出力電圧Voの振幅は、印加電圧Vasの振幅よりも大きくなる。
【0016】
しかしながら、静電容量検出装置においては、電源電圧の制約により、電源電圧VDDが上限となるため、
図2に示されるように、出力電圧Voは、電源電圧VDDよりも高い電圧や、接地電位GNDよりも低い電圧は出力されず、出力電圧Voの波形は上下において飽和した波形となる。このため、検出感度を十分に高めることができない。
【0017】
〔第1の実施の形態〕
次に、第1の実施の形態における静電容量検出装置について説明する。本実施の形態における静電容量検出装置は、検出電極10により検出される検出信号のダイナミックレンジを広くするものである。具体的には、指や手等の検出対象物100が近接していない状態における出力を小さくすることにより、検出感度を向上させるものである。
【0018】
本実施の形態における静電容量検出装置は、
図3に示されるように、検出電極10、シールド電極20、演算増幅器30、帰還抵抗40、帰還キャパシタ50、第1電圧出力回路160、第2電圧出力回路170等を有しており、検出電極10に近接する検出対象物100と検出電極10との間の静電容量を検出する。検出電極10とシールド電極20は、近接して配置されている。
【0019】
検出電極10は、演算増幅器30の反転入力端子(-)に接続されており、シールド電極20は、第1電圧出力回路160に接続されている。第1電圧出力回路160は、検出電極10に近接して配置されたシールド電極20に供給される第1の交流電圧Vasを出力する。演算増幅器30の非反転入力端子(+)には、第2電圧出力回路170が接続されている。第2電圧出力回路170は、第1の交流電圧Vasの周波数と略等しい周波数の第2の交流電圧Vpを出力する。演算増幅器30の出力端子と反転入力端子(-)との間には、帰還抵抗40及び帰還キャパシタ50が並列に接続されており、負帰還がかけられている。また、帰還キャパシタ50は、静電容量値の調整が可能である。演算増幅器30は、検出電極10に接続される反転入力端子(-)と第2の交流電圧Vpが印加される非反転入力端子(+)との電圧差を増幅して出力する。尚、第1電圧出力回路160より出力される第1の交流電圧Vasの位相と、第2電圧出力回路170より出力される第2の交流電圧Vpの位相とは略等しい。
【0020】
本実施の形態における静電容量検出装置では、検出電極10とシールド電極20との間には、静電容量Crsが形成され、検出電極10とGNDとの間には、寄生容量Crglが形成される。検出電極10と検出対象物となる指や手等の検出対象物100との間には、静電容量Crgが形成され、検出電極10に指や手等の検出対象物100が近づいた場合には、静電容量Crgの容量が増加し、演算増幅器30より出力される出力電圧Voの振幅が大きくなる。
【0021】
本実施の形態においては、第2電圧出力回路170は、検出電極10に近接する検出対象物100が存在しない状態において、演算増幅器30の出力電圧Voの振幅が第1の交流電圧Vasの振幅よりも小さくなるように調整された第2の交流電圧Vpを出力する。言い換えれば、指や手等の検出対象物100が、検出電極10の近くに存在しておらず、検出対象物100を認識していない状態において、出力電圧Voの振幅、及び、第1の交流電圧Vasの振幅が、Vas>Voとなるように、第2電圧出力回路170より出力される第2の交流電圧Vpの振幅を設定する。この状態を
図4に示す。なお、第2電圧出力回路170は、Vas>Voの関係が満たされるかぎり、どのような方法を用いて第2の交流電圧Vpの振幅を調整してもよい。例えば、第2電圧出力回路170は、Vasの振幅値とVoの振幅値とをモニターし、自動的にVas>Voの関係が満たされるように第2の交流電圧Vpの振幅を調整してもよいし、Vas>Voの関係が満たされるように手動により第2の交流電圧Vpの振幅を調整してもよい。また後述する第2の実施の形態のように、第2電圧出力回路170は、第1の交流電圧Vasを減衰させた電圧を第2の交流電圧Vpとして出力してもよい。
【0022】
これにより、第1電圧出力回路160より出力される第1の交流電圧Vasの振幅が、最も大きな電圧の振幅となるため、ダイナミックレンジを最大限広げることができ、検出感度を高めることができる。尚、本願においては、不等式等におけるVas、Vp、Voとの記載は、第1の交流電圧Vasの振幅、第2の交流電圧Vpの振幅、出力電圧Voの振幅を意味するものとする。
【0023】
また、本実施の形態においては、Vp<Crs×Vas/(Crs+Crgl)、または、Vo<Vp<Vasとなるように、第2電圧出力回路170より出力される第2の交流電圧Vpの振幅を設定してもよい。この状態を
図5に示す。
【0024】
これにより、指や手等の検出対象物100が検出されていない状態における出力電圧Voの振幅を更に小さくすることができ、出力電圧Voが飽和しにくく、帰還キャパシタ50により定まる電圧ゲインを大きくすることが可能となり、検出感度を向上させることができる。
【0025】
即ち、第2電圧出力回路170は、検出電極10に近接する検出対象物100が存在しない状態において、演算増幅器30の出力電圧をVoとし、第1の交流電圧をVasとし、第2の交流電圧をVpとした場合に、振幅の関係がVo<Vp<Vasを満たすように調整された第2の交流電圧Vpを出力してもよい。
【0026】
あるいは、第2電圧出力回路170は、検出電極10に近接する検出対象物100が存在しない状態において、第1の交流電圧をVasとし、第2の交流電圧をVpとし、検出電極10とシールド電極20との間の静電容量をCrsとし、検出電極10と検出対象物以外のグランド(GND)との間の寄生容量をCrglとした場合に、Vp<Crs×Vas/(Crs+Crgl)を満たすように調整された第2の交流電圧Vpを出力してもよい。
【0027】
また、本実施の形態における静電容量検出方法では、検出電極10に近接する検出対象物100と検出電極10との間の静電容量を検出する静電容量検出方法であって、検出電極10に近接して配置されたシールド電極20に供給される第1の交流電圧Vasを出力する第1電圧出力ステップと、周波数と位相が第1の交流電圧Vasに略等しい第2の交流電圧Vpを出力する第2電圧出力ステップと、検出電極10に接続される反転入力端子(-)と第2の交流電圧Vpが印加される非反転入力端子(+)との電圧差を演算増幅器30において増幅して出力する演算増幅ステップとを有し、第2電圧出力ステップは、検出電極10に近接する検出対象物100が存在しない状態において、演算増幅器30の出力電圧Voの振幅が第1の交流電圧Vasの振幅よりも小さくなるように調整された第2の交流電圧Vpを出力するものである。
【0028】
本実施の形態においては、第1電圧出力回路160より出力される第1の交流電圧Vasと、第2電圧出力回路170より出力される第2の交流電圧Vpとを分けることにより、電圧の振幅の関係を容易にVas>Vpとすることができ、出力電圧Voの振幅を小さくすることができる。
【0029】
図6は、検出電極10の近傍に検出対象物100が存在していない状態における検出電極10部分の等価回路を示す。Vn0は、演算増幅器30が接続されていない状態における検出電極10部分のノードの電圧を意味する。ここで、
図7に示されるように、検出電極10が演算増幅器30の反転入力端子(-)に接続された場合、第2の交流電圧Vpの振幅が大きいと、破線矢印で示されるように、寄生容量Crglへの電流流入量が増える。よって、第1の交流電圧Vasの振幅を可能な限り大きくしても、第2の交流電圧Vpの振幅を小さくすることにより、検出電極10の近傍に検出対象物100が存在していない状態における出力電圧Voの振幅を小さくすることができる。
【0030】
また、
図6に示される等価回路より、
図8に示されるように電圧Vn0を算出すると、Vn0=Crs×Vas/(Crs+Crgl)となる。このVn0の値は、静電容量Crsと寄生容量Crglとにより定まる比率(Crs/(Crs+Crgl))に、第1の交流電圧Vasを乗算した値である。検出電極10に演算増幅器30が接続されていない状態では、静電容量Crsを流れる電流irsと、寄生容量Crglを流れる電流irglとは同じ値である。
図8乃至
図11において矢印の向きはある時間の電流の向きを表しており第1の交流電圧Vasの電圧の変化の極性により向きは変わる。
【0031】
ここで、
図9に示されるように、Vas>Vp>Vn0の場合には、破線矢印に示すように電流が流れ、静電容量Crsに流れる電流irsよりも、寄生容量Crglに流れる電流irglが多くなり、出力電圧Voの振幅が第2の交流電圧Vpの振幅より大きくなる。
【0032】
また、
図10に示されるように、Vas>Vp=Vn0の場合には、破線矢印に示すように電流が流れ、静電容量Crsを流れる電流irsと、寄生容量Crglを流れる電流irglは同じになる。これにより、出力電圧Voの振幅は、第2の交流電圧Vpの振幅と等しくなる。
【0033】
また、
図11に示されるように、Vn0>Vpの場合には、破線矢印に示すように電流が流れ、寄生容量Crglに流れる電流irglよりも、静電容量Crsに流れる電流irsが多くなり、出力電圧Voの振幅が、第2の交流電圧Vpの振幅よりも小さくなる。従って、上述したVp<Crs×Vas/(Crs+Crgl)という条件は、Vo<Vp<Vasという条件と同義である。
【0034】
よって、第2電圧出力回路170より出力される第2の交流電圧Vpの振幅を調整することにより、出力電圧Voの振幅を小さくすることができ、演算増幅器30からの出力電圧Voが飽和しにくくなるため、ノイズ等が入力した場合であっても、線形性を保ちながら、後段でのフィルタリング処理が可能となる。
【0035】
従って、検出電極10の近傍に検出対象物100が存在していない状態において、出力電圧Voと、第2の交流電圧Vpとが同じとなるように調整した場合には、出力電圧Voの振幅は、第2の交流電圧Vpの振幅と同じになるまでしか下げることができず、検出感度を高くする効果は十分ではない。しかしながら、本実施の形態における静電容量検出装置では、出力電圧Voの振幅は、第2の交流電圧Vpの振幅よりも低くすることが可能であり、これにより、高い検出感度とノイズ耐性を得ることができる。
【0036】
(入力装置)
次に、本実施の形態における静電容量検出装置を用いた入力装置について説明する。本実施の形態における入力装置は、
図12に示されるように、センサ部110、静電容量検出部120、処理部130、記憶部140、インターフェース(I/F)部150等を有する。尚、本実施の形態における静電容量検出装置は、センサ部110と、静電容量検出部120の一部により構成される。
【0037】
本実施の形態における入力装置は、指やペンなどの検出対象物100がセンサ部110に近接した場合に、センサ部110に設けられた電極と検出対象物100との間の静電容量を検出し、この検出結果に基づいて、検出対象物100の近接に応じた情報が入力される。例えば入力装置は、センサ部110に対する検出対象物100の近接の有無や、センサ部110と検出対象物100との距離などの情報を、静電容量の検出結果に基づいて取得する。入力装置は、例えばタッチセンサやタッチパッドなどのユーザーインターフェース装置に適用される。なお、本明細書における「近接」とは、2つの物が近くにあることを意味しており、2つの物同士が接触している場合と接触していない場合の両方を含む意味である。
【0038】
センサ部110は、指やペンなどの検出対象物100の近接を検出するための検出電極10と、検出電極10に近接して配置されたシールド電極20を有する。検出電極10は、センサ部110において検出対象物100が近接する領域に配置される。例えば、検出対象物100の検出領域の表面が絶縁性のカバー層で覆われており、カバー層より下層側に検出電極10が配置される。シールド電極20は、検出対象物100以外の導体と検出電極10との静電結合を防止したり電磁波などの外来ノイズを防ぐためのシールドであり、検出対象物100の検出領域の検出する表面に対して検出電極10を挟んで反対側に配置される。
【0039】
静電容量検出部120は、検出対象物100と検出電極10との間に形成される静電容量Crgの静電容量値を検出し、その検出結果を示す信号Dsを出力する。
【0040】
処理部130は、入力装置の全体的な動作を制御する回路であり、例えば、記憶部140に格納されるプログラムの命令コードに従って処理を実行するコンピュータや、特定の機能を実現するロジック回路を含む。処理部130の処理は、コンピュータにおいてプログラムに基づいて実現してもよいし、少なくとも一部を専用のロジック回路で実現してもよい。
【0041】
処理部130は、静電容量検出部120にから出力される検出結果の信号Dsに基づいて、検出対象物100がセンサ部110に近接しているか否かの判定や、検出対象物100とセンサ部110との距離や、検出対象物100の位置座標の算出を行う。なお、センサ部110は複数の検出電極10を含んでいてもよく、静電容量検出部120は複数の検出電極10の各々について静電容量Crgの静電容量値の検出を行ってもよい。
【0042】
また、処理部130は、外来ノイズの影響による静電容量検出部120の検出感度の低下を回避するため、後述する静電容量検出部120の第1の交流電圧Vasの周波数を変更する処理も行う。
【0043】
記憶部140は、処理部130を構成するコンピュータのプログラムや、処理部130において処理に使用されるデータ、処理の過程で一時的に保持されるデータなどを記憶する。記憶部140は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクなど、任意の記憶デバイスを用いて構成される。
【0044】
インターフェース部150は、入力装置と他の装置(例えば入力装置を搭載する電子機器のホストコントローラなど)との間でデータをやり取りするための回路である。処理部130は、静電容量検出部120の検出結果に基づいて得られた情報(検出対象物100の有無、検出対象物100の近接位置、検出対象物100との距離、検出対象物100の大きさなど)を、インターフェース部150によって図示しない上位装置に出力する。上位装置では、これらの情報を用いて、例えばポインティング操作やジェスチャ操作などを認識するユーザーインターフェースが構築される。
【0045】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態について説明する。
図13に、第2の実施の形態における静電容量検出装置を有する入力装置を示す。
【0046】
第2の実施の形態における静電容量検出装置の第2電圧出力回路270は、例えば減衰器であり、第1の交流電圧Vasを減衰させた電圧を第2の交流電圧Vpとして出力する。第2電圧出力回路270は、第1キャパシタCa及び第2キャパシタCbの直列回路を含む。第1電圧出力回路160は、この直列回路の両端に第1の交流電圧Vasを印加する。第1の交流電圧Vasが第1キャパシタCa及び第2キャパシタCbにより分圧されることで、第2キャパシタCbに第2の交流電圧Vpが生じる。第1キャパシタCaの一方の端子が第2電圧出力回路270の出力に接続され、第1キャパシタCaの他方の端子が第2キャパシタCbの一方の端子に接続され、第2キャパシタCbの他方の端子がグランドに接続される。
【0047】
従って、第2電圧出力回路270は、第1の交流電圧Vasを減衰させた電圧を第2の交流電圧Vpとして出力する。
【0048】
即ち、第2電圧出力回路270は、第1の交流電圧Vasが第1キャパシタCaと第2キャパシタCbにより分圧された第2の交流電圧Vpを生じさせる。
【0049】
また、第1の実施の形態における静電容量装置の場合と同様に、第2電圧出力回路270は、検出電極10に近接する検出対象物100が存在しない状態において、演算増幅器30の出力電圧Voの振幅が第1の交流電圧Vasの振幅よりも小さくなるように調整された第2の交流電圧Vpを出力する。言い換えれば、第2電圧出力回路270は、検出電極10に近接する検出対象物100が存在しない状態において、演算増幅器30の出力電圧Voの振幅が第1の交流電圧Vasの振幅よりも小さくなるような第2の交流電圧Vpを生じさせるように調整された静電容量比を有する第1キャパシタCaと第2キャパシタCbとを含む。
【0050】
第2電圧出力回路270は、静電容量値が可変の第2キャパシタCbを有する。
【0051】
本実施の形態によれば、第1の交流電圧Vasを減衰させた電圧が第2の交流電圧Vpとして第2電圧出力回路270から出力される。トランジスタ等の能動素子を含まない減衰器を用いて第2の交流電圧Vpを生成することにより、第2の交流電圧Vpのノイズが小さくなるため、静電容量Crgの静電容量値の検出精度を高めることができる。
【0052】
本実施の形態によれば、第1キャパシタCaと第2キャパシタCbとの直列回路に第1の交流電圧Vasが印加され、第1の交流電圧Vasに応じた第2の交流電圧Vpが第2キャパシタCbにおいて生じる。これにより、抵抗による減衰器を用いる場合に比べてノイズが小さくなるため、静電容量Crgの静電容量値の検出精度を高めることができる。
【0053】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。従って、第1の実施の形態の場合と同様に、第2電圧出力回路270は、検出電極10に近接する検出対象物100が存在しない状態において、演算増幅器30の出力電圧をVoとし、第1の交流電圧をVasとし、第2の交流電圧をVpとした場合に、振幅の関係がVo<Vp<Vasを満たすように調整された第2の交流電圧Vpを出力してもよい。この場合には、指や手等の検出対象物100が検出されていない状態における出力電圧Voの振幅を更に小さくすることができ、出力電圧Voが飽和しにくく、帰還キャパシタ50により定まる電圧ゲインを大きくすることが可能となり、検出感度を向上させることができる。
【0054】
以上、実施の形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【0055】
本国際出願は2019年11月7日に出願した日本国特許出願2019-202625号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2019-202625号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0056】
10 検出電極
20 シールド電極
30 演算増幅器
40 帰還抵抗
50 帰還キャパシタ
100 検出対象物
160 第1電圧出力回路
170 第2電圧出力回路