(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】バックラッシを制御可能な溝カム機構、及びこれを用いた移動装置
(51)【国際特許分類】
G02B 7/04 20210101AFI20221107BHJP
【FI】
G02B7/04 D
(21)【出願番号】P 2019076728
(22)【出願日】2019-04-14
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】518169750
【氏名又は名称】エスアイテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129159
【氏名又は名称】黒沼 吉行
(72)【発明者】
【氏名】大沼 靖
【審査官】▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-203707(JP,A)
【文献】特開2006-042913(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132780(WO,A1)
【文献】特開2013-080080(JP,A)
【文献】特開平08-243865(JP,A)
【文献】特開2010-054850(JP,A)
【文献】特開2004-198996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02-7/16
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
G03B 17/56-17/583
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学機器を含む製品または部品を保持する為のスタンドであって、
当該スタンドは、光学機器を含む製品または部品を保持する保持部材と、当該保持部材と所定の高さに保持する脚部材とからなり、
当該保持部材と脚部材とは、
カム溝とフォロアピンとからなる溝カム機構で接続されて
おり、
当該カム溝とフォロアピンとの間に確保されているバックラッシには、フォロアピンに外装されて、厚さ方向に変形自在なパイプ部材が設けられており、
前記保持部材と脚部材の何れか一方にはカム溝が形成されると共に、他方には当該カム溝を貫通して前記フォロアピンが螺着または挿入される穴部が形成されており、
前記パイプ部材は、カム溝の幅の80%以上、120%以下の外径に形成されており、
前記フォロアピンはネジ又はビスによって構成されており、
前記パイプ部材は、当該ネジ又はビスによって軸心方向に収縮されることにより径方向の厚さが増大されて、前記バックラッシを閉塞可能である、
ことを特徴とする、スタンド。
【請求項2】
前
記カム溝が形成された保持部材又は脚部材は、当該フォロアピンによって他方の部材と連結されている、請求項
1に記載のスタンド。
【請求項3】
前記フォロアピンの頭部には径方向に広がったフランジ部が設けられており、当該フランジ部が前記パイプ部材を軸心方向に押圧し、
前記カム溝は、底面を備えるか、又は前記穴部が形成された保持部材又は脚部におけるカム溝との対向面によって閉塞されている、請求項
1に記載のスタンド。
【請求項4】
前記フォロアピンに抜け防止ワッシャーを設け、当該抜け止め防止ワッシャーは前記カム溝の周囲を支持して脱落を阻止している、請求項1~3の何れか一項に記載のスタンド。
【請求項5】
前記パイプ部材は、その軸心長が、カム溝の深さの105%以上、200%以下である、請求項4に記載のスタンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝カム機構におけるカム溝とフォロアピンとの間に生じるバックラッシの大きさを制御する事のできる溝カム機構、及びこれを用いた移動装置に関し、特に当該カム機構による機械要素又は部材同士の上下、左右、前後方向への移動を正確に行う事のできるようにした、バックラッシを制御可能な溝カム機構及び移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械要素や部材同士を特定の方向に相対的に移動させる機構として、アリ溝機構、レール機構、及び溝カムが存在する。このうち溝カム機構は、溝又は長孔からなるカム溝内を、フォロアピンが相対移動(スライド移動)させることで、両者の移動方向をカム溝の延伸方向に規制するものとなっており、カム溝とフォロアピンとの相対的な移動が必要となっていた。そしてこの相対的な移動を実現する為に、当該カム溝とフォロアピンとの間には、当該スライド移動を実現する為のバックラッシが必要不可欠となっていた。
【0003】
一方、従前においてはこのバックラッシ無しのカム駆動装置も提案されている。例えば、特許文献1(特開平8-50224号公報)では、両側に案内軌道面を有するピッチ曲線と、2つの圧力ローラを有する駆動部とを伴う特にレンズ系のためのバックラッシのないカム駆動装置が提案されており、当該カム駆動装置は、圧力ローラが互いにばね作用を及ぼし合うようにそれぞれ1つの案内軌道面に圧接され、駆動部は追加の部品、特に弾性リングを伴うロール又はボールを具備しており、この弾性リングは通常は案内軌道面と接触しないが、案内軌道面に対し垂直な衝撃を受けたときには一方の案内軌道面と接触し変形するものとして形成されている。
【0004】
また特許文献2(米国特許第4,322,151号公報)は、この種のバックラッシュ無しカム駆動装置を開示している。当該バックラッシなしカム駆動装置について、衝撃の結果、案内面の変形を生じるという問題が知られており、バックラッシなし案内機能は弾性の本体又はばねの装荷によるものと想定される。そして衝撃に対抗するために、付加的な対を成すピン/案内部材を結合し、それらの追加案内部材の衝撃による変形は入念な計画の下に受け入れられることから、衝撃が好ましい方向に起こるのであれば、カム駆動装置の実際の案内面は保護されるのとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-50224号公報
【文献】米国特許第4,322,151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、既存の溝カム機構では、カム溝とフォロアピンとが相対的に移動する為に、両者間には、当該スライド移動を実現する為のバックラッシが必要不可欠となっていた。そしてこのバックラッシ(即ち、カム溝とフォロアピンとの間の間隙)は、当該溝カム機構におけるガタ付きを生じさせるものとなっていた。そこで、かかるガタ付きを無くすために、加工精度を上げて、カム溝の幅とフォロアピンの直径の寸法差を少なくすることも考えられるが、加工精度の上昇に伴って、加工コストも増加してしまう。
【0007】
一方、前記特許文献1に示されるように弾性リングを伴うロール又はボールを設けたり、或いは特許文献2に示されているように弾性の本体又はばねの装荷を行った場合には、これら部材の追加や加工が必要となってしまい製造コストが上昇し、更にこれら部材を設置する為に、製品の小型化に支障を来すことになる。
【0008】
そこで、本発明は、加工精度を必要とせず、さらにガタ防止の為の特別な機構や構造を別途設ける必要を無くして、溝カム機構におけるカム溝とフォロアピンとの間に生じるバックラッシの大きさを制御する事のできる溝カム機構及びこれを用いた移動装置を提供することを第1の課題とする。
【0009】
また本発明では、前記バックラッシの大きさを制御し、更には当該バックラッシを除去することを可能として、当該カム機構による機械要素又は部材同士の上下、左右、前後方向への移動を正確に行う事のできるようにした、バックラッシを制御可能な溝カム機構及び移動装置を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の少なくとも何れかを解決する為に、本発明ではバックラッシとして形成される隙間に、変形自在なパイプ部材を設置し、当該パイプ部材を変形させることで当該バックラッシの大きさを制御できるようにした溝カム機構と、此れを用いたスタンドを提供する。
【0011】
即ち本発明では、カム溝とフォロアピンとからなる溝カム機構であって、カム溝とフォロアピンとの間に確保されているバックラッシには、フォロアピンに外装されて、厚さ方向に変形自在なパイプ部材が設けられている溝カム機構を提供する。
【0012】
上記本発明の溝カム機構において、前記フォロアピンは、ネジ又はビスによって構成することができる。また前記カム溝は、底部を有する溝として形成する他、厚さ方向に貫通した孔として形成することもできる。よって、本発明においてカム溝は貫通孔として形成されていても良い。そして、前記パイプ部材は、前記フォロアピンを構成するネジ又はビスによって軸心方向に収縮されることにより径方向の厚さが増大されて、前記バックラッシを閉塞可能に形成することができる。
【0013】
また本発明では、前記課題の何れかを解決する為に、製品または部品を保持するスタンドであって、保持する製品または部品の移動方向を前記溝カム機構によって規制するように構成したスタンドを提供する。
【0014】
即ち、光学機器を含む製品または部品を保持する為のスタンドであって、当該スタンドは、光学機器を含む製品または部品を保持する保持部材と、当該保持部材と所定の高さに保持する脚部材とからなり、当該保持部材と脚部材とは、前記本発明にかかる溝カム機構で接続されているスタンドを提供する。
【0015】
かかるスタンドが保持する製品や部品は特に限定されるものではなく、光学機器などの様に焦点を合わせる為に移動が必要となるものや、他の製品や部品との関係で位置決めが必要なものを含む。特に望ましくは、バックラッシに起因するガタが不都合となる製品や部品である。
【0016】
上記本発明にかかるスタンドでは、前記保持部材と脚部材の何れか一方にはカム溝が形成されると共に、他方には当該カム溝を貫通して前記フォロアピンが螺着または挿入される穴部(又は孔部)が形成されており、カム溝が形成された保持部材又は脚部材は、当該フォロアピンによって他方の部材と連結することができる。
【0017】
更に上記本発明にかかるスタンドでは、前記フォロアピンの頭部には径方向に広がったフランジ部が設けられており、当該フランジ部が前記パイプ部材を軸心方向に押圧し、前記カム溝は、底面を備えるか、又は前記穴部(又は孔部)が形成された保持部材又は脚部におけるカム溝との対向面によって閉塞されているものとして形成することができる。前記底部または対向面とフランジ部との間で、前記パイプ部材を押し潰し、これにより当該パイプ部材の厚さを増大させて、前記バックラッシを塞ぐことができる。
【0018】
更に本発明では、前記課題を解決する為に、カムとピンとからなり、いずれも精密な公差を必要としないカム溝を有するカム溝部品と、プラスチックなどで加工されたパイプ状の部品(以降「フォロアピン」と呼ぶ)と、フォロアピンのパイプ内部に入るネジ(以降「ねじピン」と呼ぶ)を有し、ねじピンを締め込むことによりフォロアピンが変形し、フォロアピンの外径がカム溝内壁へ密着し、フォロアピンの内径がピンネジの外径に密着することにより、ガタの原因となる隙間(即ち「バックラッシ」)を埋める構造を有しているネジ・ピン構造を提供する。
【発明の効果】
【0019】
上記本発明にかかる溝カム機構は、カム溝とフォロアピンとの間に確保されているバックラッシには、フォロアピンに外装されて、厚さ方向に変形自在なパイプ部材が設けられていることから、溝カム機構におけるカム溝とフォロアピンとの間に生じるバックラッシの大きさは、当該パイプ部材によって調整することができる。よって、カム溝やフォロアピンの加工精度を必要とせず、さらにガタ防止の為の特別な機構や構造を別途設ける必要を無くして、溝カム機構におけるカム溝とフォロアピンとの間に生じるバックラッシの大きさを制御する事のできる溝カム機構及びこれを用いた移動装置を提供することができる。
【0020】
そして、前記バックラッシは、パイプ部材によってその大きさを制御できることから、当該パイプ部材の肉厚によっては、当該バックラッシを除去することも可能となり、当該溝カム機構による機械要素又は部材同士の上下、左右、前後方向への移動を正確に行う事のできるようにした、バックラッシを制御可能な溝カム機構及び移動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1の実施形態に係る溝カム機構の分解斜視図
【
図2】溝カム機構を示す正面図であり、(A)パイプ部材の膨張前、(B)パイプ部材の膨張後を示している。
【
図3】パイプ部材の膨張工程を示す要部拡大断面図であり、(A)分解断面図、(B)膨張前断面図、(C)膨張後断面図を示している。
【
図5】第2の実施形態に係る溝カム機構における(A)分解断面図、(B)膨張後断面図を示している。
【
図6】第3の実施形態に係る溝カム機構の分解斜視図
【
図8】第3の実施の形態に係る溝カム機構の要部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本実施の形態にかかる溝カム機構と、此れを利用したスタンドを具体的に説明する。特に本実施の形態に係る溝カム機構は、直線方向に移動を規制するように構成した溝カム機構を示している。ただし、当該溝カム機構における移動方向は、湾曲乃至は曲折させるなど、任意の方向に規制することができ、これはカム溝3の形状によって制御することができる。
【0023】
先ず、第1の実施の形態に係る溝カム機構を、
図1~3を参照しながら説明する。この実施の形態に係る溝カム機構は、フォロアピン4が螺着されるネジ穴からなる穴部18(貫通していても、貫通していなくても良い)を備えた板状のベース部材1と、当該ベース部材1に対向配置されると共に、図面における上下方向(X方向)に上下移動可能なステージ部材2とで構成されており、当該ステージ部材2にはその移動方向に沿う向きに延伸するカム溝3が形成されている。かかるカム溝は底部を有する溝として形成する他、厚さ方向に貫通する溝として形成することができる。そしてこのカム溝3内には、フォロアピン4と、このフォロアピン4に外装されるパイプ部材5が設けられている。本実施の形態において、当該フォロアピン4はネジを用いて形成されており、当該ネジからなるフォロアピン4は、前記ベース部材1に設けられた穴部18に螺着されている。これにより当該フォロアピン4はベース部材1に固定され、前記ステージ部材2をカム溝3の延伸方向に、スライド移動を規制することができる。
【0024】
かかる構成部材の各寸法の一例を示せば、例えばカム溝3の幅寸法を4.1mm~4.3mmとした場合には、パイプ部材5の外径(Φ)は3.8mm~4.0mmとすることができる。かかるパイプ部材は、カム溝の幅の80%以上、120%以下、特に80%以上、98%以下の外径となるように形成するのが望ましい。パイプ部材の外径がカム溝の幅以上に形成した場合には、当該カム溝内にパイプ部材を挿入する際に、当該パイプ部材はカム溝の長さ方向に楕円上に変形することができる。また、当該パイプ部材5の長さ(軸心長)は、少なくとも前記カム溝3の深さ以上であって、カム溝3の高さに収縮された状態において、カム溝3の内壁とフォロアピン4の外周面との間に生じるバックラッシを閉塞する幅になるように規制して形成される。かかるネジからなるパイプ部材5は、スペーサとして一般に入手可能なプラスチック製の部品などでも良い。かかるスペーサは、一般に寸法も細かく分類されており、材質も多種多様のものが提供されていることから、必要な大きさ及び材質のパイプ部材5を困難なく入手可能である。また、仮に当該パイプ部材5をオーダーして製造したとしても、容易且つ低コストで製造できる。
【0025】
かかるパイプ部材5は、後述するフォロアピン4をベース部材1の穴部18に螺着することによって、軸心方向に収縮される程度の変形容易性(変形自在性)を有し、且つ当該収縮によって肉厚方向に広がった後においては、ガタを生じさせない程度の固さを有する材料で形成されることが望ましい。更に当該パイプ部材5はカム溝3内をスライド移動することから、カム溝3との間で摩擦抵抗が小さいものを使用することが望ましい。よって、かかるパイプ部材5は、テフロン(登録商標)樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂などの各種プラスチックを用いて形成する他、アルミニウム、錫、鉛等の塑性変形しやすい金属を用いて形成することもできる。
【0026】
また、本実施の形態に係る溝カム機構を製造する際には、フォロアピン4も市販のネジを用いて形成することができ、これは多種多様の大きさ及び材質のものが提供されていることから、容易に入手することができる。かかるフォロアピン4もプラスチックや金属からなるネジを使用することができる。なお、当該フォロアピン4は必ずしもネジで構成される必要はなく、前記穴部18に嵌入されるピン等であっても良い。
【0027】
以上のような部材からなる溝カム機構は、前記パイプ部材5の外径は、カム溝3の幅よりも小さいことから、そのまま組み合わせただけでは、カム溝3とパイプ部材5の間およびフォロアピン4とパイプ部材5の間には隙間が存在するため、ガタが発生することになる。
【0028】
そこで本実施の形態では、
図3に示す様に、フォロアピン4の締め込みによって、プラスチック等からなるパイプ部材5を軸心方向(即ち、
図3の垂直方向)に潰して変形させ、それによりパイプ部材5の外径は外側へ、内径は内側に膨張させて、バックラッシを無くしてガタの発生を抑えている。即ち、
図3(A)に示す様に、カム溝3内に円筒状乃至は円盤状のパイプ部材5を設け、当該パイプ部材5の中心孔にネジからなるフォロアピン4を挿入する。この時、当該カム溝3とパイプ部材5との間、及びパイプ部材5とフォロアピン4との間には隙間が存在する。そして
図3(C)に示す様にネジからなるフォロアピン4をベース部材1の穴部18内にねじ込むことにより、当該パイプ部材5はベース部材におけるカム溝の対向面との間に挟まれて、径方向に肉厚が厚くなるように変形する。その結果、当該パイプ部材5によって、前記カム溝3とパイプ部材5との間、及びパイプ部材5とフォロアピン4との間には隙間を閉塞する。
【0029】
これにより、パイプ部材5の外径がカム溝3の内壁へ密着し、パイプ部材5の内径がフォロアピン4の外径に密着するため、カム溝3とパイプ部材5(さらにはフォロアピン4)の間のガタつきはなくなる。その結果、ステージ部材2はカム溝3に沿って、ガタ付きが生じることなく正確に直線移動することができる。
【0030】
次に
図4及び5を参照しながら、第2の実施の形態にかかる溝カム機構を具体的に説明する。特に本実施の形態に係る溝カム機構は、前記ステージ部材2の脱落(即ち、当該ステージ部材2の厚さ方向への抜け出し)を阻止できるように構成している。
【0031】
即ち、前記
図1~3に示した第1の実施の形態に係る溝カム機構は、フォロアピン4がカム溝3内に収容されていることから、ステージ部材2はその厚さ方向(Z方向)に抜けることか考えられる。そこで本実施の形態では、
図4及び5に示す様に、ステージ部材2に形成したカム溝3の周りに、抜け防止用段部6を設け、フォロアピン4に抜け防止ワッシャー7を設けることで、ステージ部材2が抜けることを防止している。即ち、ステージ部材2のカム溝3の周りには、段状に凹ませた抜け防止用段部6を形成し、フォロアピン4に抜け防止ワッシャー7が、当該抜け防止用段部6まで延出するように構成している。その結果、当該ステージ部材2は、抜け止め防止ワッシャーによって押さえられ、前記ベース部材1から離れる事態を無くすことができる。なお、当該抜け止め防止ワッシャーは、ステージ部材2におけるカム溝3の周囲を支持していればよく、当該カム溝3の周囲は必ずしも段状に形成されていなくともよい。また当該抜け止めワッシャ7は、フォロアピン4の頭部に、径方向に広がったフランジ部として機能することができ、当該ワッシャはフォロアピン4と一体化しても良い。
【0032】
また、フォロアピン4と抜け防止ワッシャー7は、一般に販売されているもので良く、ねじとワッシャーが一体になったワッシャー付きねじも一般に提供されているため、これを利用してもよい。
【0033】
抜け防止ワッシャー7を利用するか、又はワッシャー付きねじを利用して、ステージ部材2の抜け防止をする際は、パイプ部材5は、その軸心長が、カム溝3の深さより若干長いもの、望ましくはカム溝3の深さの105%以上、200%以下の軸心長のもの、特に望ましくはカム溝3の深さの115%以上、180%以下の軸心長のものを使用する、例えばカム溝3の高さが1.5mmの場合には、軸心方向への収縮前におけるパイプ部材5の軸心長は2.0~2.5mm程度のものを使用するのが望ましい。かかる長さのパイプ部材5をフォロアピン4と抜け防止ワッシャー7で押していくことで、パイプ部材5は、カム溝3の高さと同じ1.5mmまで潰れ、同時にパイプ部材5の外径と内径は、それぞれカム溝3の内壁と、フォロアピン4の外径に密着することができる。
【0034】
このとき、カム溝3の深さ(又は高さ)よりも長すぎるパイプ部材5(例えば、カム溝3の深さの200%を超える軸心長のパイプ部材5)を用いた場合には、当該パイプ部材5をフォロアピン4と抜け防止ワッシャー7で潰した際に、パイプ部材5の外径とカム溝3の内壁が密着しすぎて、カム溝3内のフォロアピン4のスライド移動に支障が生じることも考えられる。そこで上記のように、軸心方向に押圧する前のパイプ部材5の軸心長は、カム溝3の高さより若干長いものを使用すれば、パイプ部材5の外径とカム溝3の内壁が密着し、更にパイプ部材5の内径とフォロアピン4が密着した際には、パイプ部材5はカム溝3の延伸方向、即ち
図4における上下方向を長径とした楕円形に変形しながら膨張することができる。この為、当該パイプ部材5がバックラッシ領域に存在しても、フォロアピン4はカム溝3内を円滑にスライド移動することができる。そして前述の通り、パイプ部材5は、スペーサとして市販されているものを使用することができ、これは多種多様な寸法及び材質のものを入手可能なため、上記の条件を満たすパイプ部材5であっても容易に入手できる。
【0035】
また、フォロアピン4を締めすぎた場合は、抜け防止ワッシャー7と抜け防止溝段が密着しすぎて、動きに問題が発生することも考えられる。この場合には、わずかにフォロアピン4を緩めれば、密着が解消されるため問題も解消される。そのためには、当該パイプ部材5は弾性変形可能なプラスチックを用いるのが望ましく、またパイプ部材5の軸心長は、カム溝3の高さより若干長いもの使用することが望ましい。かかるパイプ部材5も市販のスペーサを使用できることから、容易に入手可能である。また、本実施の形態に係る溝カム機構においては、フォロアピン4を締め加減、即ちパイプ部材5の潰し加減によって、当該パイプ部材5の肉厚の変化量を調整することができる為、当該バックラッシュの大きさを、当該パイプ部材5の潰し加減で調整可能な溝カム機構が実現する。
【0036】
特に本実施の形態に示す様に、カム溝3の深さによってネジからなるフォロアピン4の締め込み深さを調整することにより、当該パイプ部材5の変形程度を制御することができることから、パイプ部材5の変形し過ぎによるカム溝3内のスライド移動の障害の問題を解消することができる。
【0037】
次に
図6~8を参照しながら、第3の実施形態に係る溝カム機構を具体的に説明する。特にこの第3の実施形態に係る溝カム機構は、ステージ部材2の上層に、前記ステージ部材2(以下「第1ステージ部材2」とする)のスライド方向と交差する向きにスライド移動する第2ステージ部材8を設けている。かかる第2ステージ部材8も、前記第1ステージ部材2と同様に板状であって、2つの直線状のカム溝3を2本形成しており、各カム溝3内には、前記パイプ部材5を外装したフォロアピン4を挿入している。
【0038】
かかる溝カム機構においては、第1ベース部材1とステージ部材2との相対的なスライド移動と、第1ステージ部材2と第2ステージ部材8との相対的なスライド移動とを行うことができる。そして、両者はその移動方向が異なっていることから、当該第2ステージ部材8は、前記ベース部材1に対して2次元方向にスライド移動することができる。
【0039】
なお、第1ステージ部材2に設けたカム溝3の延伸方向と第2ステージ部材8に設けたカム溝3の延伸方向を直交させた場合には、図面中高さ方向に存在する2次元の平面空間内を自在にスライド移動させることができる。ただし両ステージ部材2におけるカム溝3の延伸方向は特に制限されるものではなく、相互に交差するか、或いは同じ方向に延伸するように形成しても良い。特に両ステージ部材2におけるカム溝3の延伸方向を同じ方向に揃えた場合には、2段階でスライド移動可能な溝カム機構が実現する。
【0040】
更に、前記ベース部材1又は第1スライド部材に交差する向きに延伸する壁部を設け、当該壁部と前記第2ステージ部材8とを前記した溝カム機構で連結することにより、奥行き方向、即ち第1ステージ部材2の厚さ方向にもスライド移動可能な溝カム機構とすることもできる。即ち、本実施の形態に係る溝カム機構は、任意の方向に組み合わせることにより、上下、左右、奥行き方向からなる三次元方向にベース部材1と第2スライド部材とをスライド移動させる事のできる溝カム機構を実現することもできる。
【0041】
図9は上記各実施の形態に示した溝カム機構を採用したスタンド10を示す側面図である。上記の各溝カム機構は、本実施の形態に示すスタンド10に限ることなく、相対的な移動を必要とする様々な製品や部品同士の連結部に採用することができる。本実施の形態に係るスタンド10は、特に顕微鏡やカメラなどの光学機器17を保持し、且つ焦点調整などの正確な移動が必要となる製品に使用する事のできるスタンド10として具体化している。かかるスタンド10は、卓上などに安定して載置可能な脚部材11と、この脚部材に対して相対的なスライド移動が可能であって、且つ光学機器を保持する保持部材12とで構成している。即ち、脚部材11における立ち上がり部分13をベース部材1として、これに第1ステージ部材2を上記溝カム機構で連結している。
【0042】
特に本実施の形態において、当該第1ステージ部材2は、当該スタンド10の左右方向(
図9の奥行き方向)にスライド移動できるように構成しており、当該スライド移動は上部ダイヤル14によって調整できるように構成している。また当該第1ステージ部材2に対しては、当該スタンド10の高さ方向にスライド移動可能な第2ステージ部材8を、前記溝カム機構によって設けている。これにより、当該第2ステージ部材8は、前記脚部材における立ち上がり部分(ベース部材1)に対して、スタンド10の高さ方向に存在する平面内を自在に移動することができる。そして本実施の形態では、この第2ステージ部材8に対して、スタンド10の正面側に突出する壁部16を設け、当該壁部16に対して、前記第2ステージ部材8と同様に形成した第3ステージ部材9を、前記溝カム機構によって連結している。そしてこの第3ステージ部材9には、スタンド正面から見て奥行き方向(
図9の左右方向)に延伸するカム溝3を形成していることから、当該第3ステージ部材9は、脚部材11における立ち上がり部分13(ベース部材1)に対して奥行き方向にスライド移動することができる。即ち、前記脚部材11における立ち上がり部分13(ベース部材1)、第1~3ステージ部材の各連結部に溝カム機構を使用する事で、第3ステージ部材9に設けた光学機器17を三次元方向に自在に移動でき、しかも各溝カム機構ではバックラッシが解消されていることから、各方向に正確にスライド移動させる事のできるスタンド10が実現する。
【0043】
更に、前記溝カム機構は、スタンド10に限ることなく、レンズのピント・ズーム調整のような円筒カムなどにも利用することもできる。当該溝カム機構をレンズの前後移動などの円筒状の鏡筒レンズユニットに用いれば、加工精度は一般的な範囲であるものの、ガタの少ない鏡筒ユニットを有するレンズの移動機構を実現することができる。その他にも本実施の形態にかかる溝カム機構を、水平なステージ装置に用いれば、ガタの少ない前後左右方向への移動機構を実現することができ、更に垂直な支柱装置に用いれば、ガタの少ない上下の移動機構が実現する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の溝カム機構、及びこれを用いた移動装置は、製品や部品を移動する為の装置や器具において利用することができ、特にガタを生じさせることなく、正確かつ円滑に移動させる事のできる溝カム機構、及びこれを用いた移動装置として利用することができる。また、その利用範囲も実験器具や日常製品に限ることなく、自動車や建設機械などの大型の装置におけるスライド部分に使用することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 ベース部材
2 ステージ部材
3 カム溝
4 フォロアピン
5 パイプ部材
6 抜け防止用段部
7 抜け防止ワッシャー
8 第2ステージ部材
9 第3ステージ部材