(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】磁気センサ装置
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20221107BHJP
H01L 43/02 20060101ALI20221107BHJP
G01M 13/04 20190101ALN20221107BHJP
【FI】
G01R33/02 D
H01L43/02 Z
G01M13/04
(21)【出願番号】P 2018149587
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591248577
【氏名又は名称】東京理学検査株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 功一
(72)【発明者】
【氏名】新井 豊
(72)【発明者】
【氏名】杉山 利樹
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-033027(JP,A)
【文献】特開2005-091208(JP,A)
【文献】特開2014-202704(JP,A)
【文献】特開2009-216689(JP,A)
【文献】特開2008-032677(JP,A)
【文献】特開2018-054461(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0017412(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 33/00-33/26、
G01B 7/00-7/34、
G01M 13/00-13/045、
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つ以上のMIセンサを一列に限って有する感磁プローブ部と、
該感磁プローブ部の各MIセンサを駆動するとともに各MIセンサからの出力信号を検出可能に構成されたセンサ駆動検出回路と、
前記感磁プローブ部および前記センサ駆動検出回路を搭載する基板と、
を備え
、
前記基板は、少なくとも前記感磁プローブ部を搭載する部分に可撓性を有する
ことを特徴とする磁気センサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械要素を非分解で診断する技術に係り、特に、機械要素として、ずぶ焼入れ、浸炭焼入れないし浸炭窒化等の処理を施して用いられる深溝玉軸受または円筒、円錐ないし球面(自動調心)ころ軸受等の軸受の軌道輪の状態を非分解で診断する上で好適な診断技術に関する。
【背景技術】
【0002】
機械要素の一例として、例えば軸受の軌道面の疲労が進展して疲労限界を迎えると、軌道面のはく離に至る。軌道面にはく離が生じた軸受は、音や振動が大きくなり、最終的には割れてしまうこともある。このような軸受の軌道面はく離に伴う振動を把握することで、軸受の破損を捕える技術は多く報告されている。一方で、市場のニーズとしては、軌道面はく離よりも前の段階で軸受の状態を把握できる技術が求められる。例えば特許文献1には、X線測定により軸受の組織状態を把握する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、X線での軸受の組織状態の測定は、人体への影響を考慮して遮蔽空間でなくては測定ができず、また、測定に際して軸受を切断する必要がある。そのため、診断後の軸受を継続して使用することはできない。さらに、X線測定機は、基本的には大型で据え置く形態がほとんどであり、現場での測定技術としては不向きである。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、機械要素の疲労状態を非分解で診断し得る磁気センサ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで、本発明者は、転がり軸受において、その軌道輪の負荷圏では、転動体が軌道面を繰り返し通過することで、時間の経過とともに負荷を受けた軌道面表面下の材料組織が変化することに着目した(以下、この組織変化を本明細書では「軸受の疲労」とも呼称する。)。本発明者が軌道面の磁束密度を仔細に考察したところ、この材料組織の変化は磁性の変化を同時に伴い、軌道面またはその内部に、軸受の使用前と使用後とで異なる磁束密度が発生するという知見を得た。そして、その磁束密度の変化量は軸受の疲労の進行度合と相関があるという知見を得た。
【0006】
ここで、上記特許文献1記載の技術では、軸受を分解する必要があるところ、磁束密度の変化により生じる磁力線は、軌道輪の端面(側面)や周面にも発生する。そこで、本発明は、このような知見に基づいて鋭意検討の結果完成されたものである。
特に、本発明は、軸受の軌道輪の端面もしくは周面に配置する、軸受診断用として好適な、所定構成の感磁プローブ部を有する磁気センサを設置することで、軌道輪の疲労状態を的確に捕え、これにより、軸受の測定部の磁束密度から、軸受を分解せずにその疲労の進行度を判定可能とする上で好適なものである。
【0007】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る磁気センサ装置は、二つ以上の磁気センサを一列に限って有する感磁プローブ部と、該感磁プローブ部の各磁気センサを駆動するとともに各磁気センサからの出力信号を検出可能に構成されたセンサ駆動検出回路と、前記感磁プローブ部および前記センサ駆動検出回路を搭載する基板と、を備えることを特徴とする。なお、本発明の一態様に係る磁気センサ装置において、前記基板が、可撓性を有することは好ましい。
【0008】
本発明によれば、感磁プローブ部が、二つ以上の磁気センサを一列に限って有し、センサ駆動検出回路は、感磁プローブ部の各磁気センサを駆動するとともに各磁気センサからの出力信号を検出可能に構成されているので、軸受等の機械要素を分解せずに、当該機械要素の外面または外周面からその磁束密度を感磁プローブ部の磁気センサで容易に測定できる。そのため、機械要素の測定部の磁束密度から、機械要素の疲労状態を非分解で診断できる。
【0009】
従来、軸受等の機械要素の軌道面の疲労状態を把握する装置は、X線測定にしろ、その他の測定装置にしろ、機械要素を分解することが必須である。これに対し、本発明では、機械要素を分解しないで測定可能である。
すなわち、本発明は、軸受等の機械要素の疲労に伴う組織変化が磁束密度の変化を伴うことから、磁束密度の変化が現われる部位では、その変化に応じた磁力線が周囲に生じる点に着目した点にある。よって、本発明によれば、軸受等の機械要素を分解していない非分解状態であっても、機械要素の側面ないし周面にて磁力線を把握できる所定構成の感磁プローブ部を有する磁気センサ装置を配置することにより機械要素自体の磁束密度変化を測定し、機械要素の疲労状態を非分解で診断できるのである。
【0010】
また、本発明によれば、測定面に対して、磁気センサを直接接触あるいは近接させなくとも磁束密度の変化を測定可能なので、機械要素およびこれを備える装置のメンテナンスの時間が大幅に解消されるという効果もある。また、現在主流である振動測定では、軸受等の機械要素が破損してからでなければその疲労状態を判定ができないが、本発明では、軸受等の機械要素の破損前にその疲労状態を把握できるため、機械要素を定期的に交換するなど、効率的かつ安全に機械要素およびこれを備える装置を稼動できる。
【発明の効果】
【0011】
上述のように、本発明によれば、機械要素の疲労状態を非分解で診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一態様に係る磁気センサ装置の一実施形態を示す模式的説明図(基板を屈曲させていない状態)であり、同図(a)はその平面図、(b)は正面図である。
【
図2】
図1の磁気センサ装置の一使用態様(基板を屈曲させた状態)を示す模式的説明図であり、同図(a)はその平面図、(b)は正面図である。
【
図3】本発明の一使用態様である磁気センサ装置での軸受測定を示す模式的説明図である。
【
図4】
図1の磁気センサ装置の感磁プローブ部の一使用態様を示す模式的説明図であり、同図(a)は磁気センサ付き軸受装置の軌道輪(この例では外輪)の測定面幅が狭い例、(b)は軌道輪の測定面幅が広い例を示している。
【
図5】本発明の磁気センサ装置の他の使用態様(複数仕様)である磁気センサでの軸受測定を示す模式的説明図である。
【
図6】使用後の軸受軌道輪(外輪)の磁束密度分布と磁力線を説明する模式図であり、同図(a)はその正面図、(b)は平面図である。
【
図7】軌道輪の端面から磁束密度を測定した試験(1)における外輪一周に亘って測定した磁束密度分布を示すグラフである。
【
図8】軌道輪の端面から磁束密度を測定した試験(2)における外輪一周に亘って測定した磁束密度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る磁気センサ装置の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0014】
図1に示すように、本実施形態は、磁気センサ装置10と、制御部4および表示部5とを備える。なお、本実施形態では、機械要素の一例として、転がり軸受を測定対象とした例であり、磁気センサ装置10は、転がり軸受の鋼製軌道輪の軌道面表面層または軌道輪内部の金属組織状態から疲労を診断する例で説明する。
制御部4は、センサ駆動検出回路3を制御するとともに必要な情報を取得可能に構成される。また、表示部5は、感磁プローブ部1の各磁気センサ1A~Eから取得された信号等の情報を表示可能になっている。なお、この磁気センサ装置10で診断可能な機械要素の一例としての軸受は、強磁性体、常磁性体、反磁性体の何れであっても良い。
【0015】
同図に示すように、本実施形態の磁気センサ装置10は、感磁プローブ部1、基板2およびセンサ駆動検出回路3を有する。本実施形態の感磁プローブ部1は、二つ以上(この例では5個)の磁気センサ1A、1B、1C、1D、1Eを有する。感磁プローブ部1は、本実施形態の例では、可撓性を有する基板2の帯状延在部に沿って一列に限って配置される。センサ駆動検出回路3は、感磁プローブ部1の各磁気センサ1A~Eを駆動するとともに各磁気センサ1A~Eからの出力信号を検出可能に構成されている。
【0016】
各磁気センサ1A、1B、1C、1D、1Eは磁束密度を計測するセンサである。本実施形態の磁気センサ装置10は、磁気センサ1A、1B、1C、1D、1Eとして、磁束密度の高さを示すMIセンサ(Magneto Impedance)を用いている。MIセンサによって3軸方向の磁束密度情報を検出できる。そのため、より精度ある疲労進行の診断が可能となる。
なお、この種の磁気センサは、磁石などの磁気発生手段を搭載していることが通常であるが、本実施形態の磁気センサ装置10においては、機械要素である転がり軸受の鋼製軌道輪自体の疲労部に生じる組織変化が磁束密度の変化を伴うため、磁気発生手段を搭載不要である。
【0017】
基板2は、磁界への影響が小さい常磁性体製であり、感磁プローブ部1の相対位置が変動しない程度の剛性をもつ可撓性を有する基板によって構成されている。本実施形態の基板2は、転がり軸受20の形状として、例えばハブユニット軸受などにも対応することを想定しており、測定対象となる転がり軸受20の形状に合わせて、適切な位置に感磁プローブ部1の各磁気センサ1A~1Eが配置されるように、可撓性を有するフレキシブル基板を採用している。基板2はプラスチック製のものを使用することができる。
そのため、感磁プローブ部1は、
図2に示すように、必要に応じて屈曲して角度をつけて使用可能である。この例では、基板2をその帯状延在部の基端部の位置で感磁プローブ部1を90°屈曲させて使用する状態のイメージを示している。
【0018】
図3に示すように、磁気センサは軸受の測定に用いることができ、転がり軸受20の負荷圏側に感磁プローブ部1を配置する。転がり軸受20は、負荷圏側において、軌道輪22の軌道面またはその内部の疲労により磁束密度を生じ、磁界分布に変動を生じさせる。その磁束密度強度は、自然に存在する外部磁束密度よりも十分に大きい。
感磁プローブ部1は、当該軌道輪22の軌道面またはその内部の磁束密度変動を検知して、転がり軸受20の軌道面またはその内部の疲労を検出できる。なお、転がり軸受20の疲労部を診断するためには、測定対象となる転がり軸受20の使用前の磁束密度の高さの状態を標準とする。
【0019】
ここで、本実施形態の例では、感磁プローブ部1が複数の磁気センサ1A~Eを一列に有する例を示しているが、基板2上に感磁プローブ部1として配置したときに感磁する磁気センサは一つだけであっても、軌道輪の疲労部に生じる磁束密度の変化を測定可能である。そのため、本実施形態のように、感磁プローブ部1として、必ずしも複数の磁気センサ1A~1Eの全てが軌道面上に配置されている必要はない。
【0020】
また、感磁プローブ部1として、複数の磁気センサ1A~1Eを基板2上に配置する場合であっても、全ての磁気センサ1A~1Eを感磁する磁気センサとして使用する必要はない。つまり、転がり軸受20の測定部に対する複数の感磁プローブ部1の配置位置(基板2の取り付け位置)は、周辺のスペースに合わせて適宜調整可能である。また、感磁プローブ部1から転がり軸受20までの対向距離は、転がり軸受20の残留磁束密度の影響を受けない程度の距離だけ離隔配置することが望ましい。本実施形態での離隔距離は、たとえば2mmとすることができる。
【0021】
具体的には、例えば
図1に示したように、複数の磁気センサ1A~1Eを1×5列に配置した感磁プローブ部1の場合、
図4(a)に配置例を示すように、転がり軸受20の軌道輪22の測定面幅が狭いときは、複数の磁気センサ1A~1Eのうちの一つが、転がり軸受20の測定部に合うように感磁プローブ部1を配置すればよい。これにより、少なくとも一の磁気センサ(同図の例では、複数の磁気センサ1A~1Eのうち、中央に位置する磁気センサ1C)により磁束密度の変化を測定可能である。
【0022】
また、
図4(b)に示すように、転がり軸受20の軌道輪22の測定面に、ある程度の幅がある場合は、複数の磁気センサ1A~1Eのうちの複数にて測定を実施し、同じ測定位置の各磁気感磁プローブ部1A~1Eの測定値を平均化することで、ノイズを低減することもできる。なお、同図の例は、複数の磁気センサ1A~1Eのうち、5つ総ての磁気センサ1A~1Eにより測定を行っている例である。
ここで、鋼材のき裂発生検出などの場合、標準となる検体を用意する必要があるが、本実施形態のように、転がり軸受20の軌道輪22の疲労部を診断する場合、転がり軸受20の使用中も品質に変化がない箇所があれば、その位置を磁束密度変化を測定するための標準位置とすることができる。
【0023】
例えば、転がり軸受20の外輪22が固定され、ラジアル方向に荷重がかかるような使用態様の場合、負荷圏の反対側が非負荷圏となる。そのため、
図5に磁気センサ付き軸受装置の他の例を示すように、上述した磁気センサ装置10と同様の構成を有する、一対の磁気センサ装置10A,10Bを用意し、各感磁プローブ部1が、いずれか一方の鋼製軌道輪のいずれか一の端面に対して、同じ端面の周方向上で対向する位置に配置するように構成することができる。
【0024】
つまり、同図に示すように、一対の磁気センサ装置10A,10Bのうち、第1の磁気センサ装置10Aの感磁プローブ部1は、負荷圏の磁束密度を測定するために、鋼製軌道輪の一の端面に対し周方向での負荷圏位置に配置され、第2の磁気センサ装置10Bの感磁プローブ部1は、非負荷圏の磁束密度を測定するために、軌道輪22の一の端面に対し周方向での非負荷圏に配置される。
【0025】
このように、非負荷圏側にも感磁プローブ部1を配置することで、非負荷圏側を標準位置とすることができる。一方で、転がり軸受20の軸受軌道輪全体に負荷がかかる場合、軌道輪全周が疲労するため、使用中の軸受からは標準位置を設定することができない。よって、このような使用態様の場合は、軸受以外の周辺にて磁束密度の変化が起きない場所を標準位置として設定する、もしくは周辺に磁束密度の変化を起こす磁性体などがなければ、空中を標準としてもよい。
【0026】
[実施例1]
次に、上記磁気センサ装置10を用いて転がり軸受20を非分解で診断する手順について実施例に基づき説明する。
【0027】
[疲労試験]
試験条件は、転がり軸受20として自動調心ころ軸受にて、疲労を加速させるために荷重を大きくし、以下の試験(1)および試験(2)を実施した。
疲労試験(1):転動体(ころ)を半数にした試験
疲労試験(2):転動体(ころ)の面を粗くした試験
【0028】
疲労試験の後、まず、対象となる転がり軸受20が組み込まれた設備ないし装置から当該転がり軸受20を取り外した。次いで、当該転がり軸受20を各構成部品(外輪22、内輪21、転動体23)に分解した。疲労試験を実施した結果、疲労試験(1)の条件では、負荷圏軌道面には摩耗や変色が生じていた。
本実施例では、転がり軸受20の機能評価を完了した自動調心ころ軸受の外輪22にて磁束密度の測定を実施した。評価完了後の転がり軸受20を、外輪22、内輪21、転動体23に分解し、測定対象として外輪22単体を準備した。
【0029】
次いで、このように損傷レベルの異なる自動調心ころ軸受に対して、上記磁気センサ装置10を用い、負荷圏に位置した軌道面の磁束密度の測定を実施した。この例では、上述の感磁プローブ部1により、転がり軸受20の外輪22の磁極の方向およびその強さを測定した。なお、感磁プローブ部1の各磁気センサ1A~1Eは、3軸方向の磁束密度を捕えることできるが、本実施例の測定結果は、測定面に対して垂直方向の磁束密度を示す。
【0030】
負荷圏、非負荷圏が存在する外輪22の磁束密度を軌道面の端面から測定した。この例では、感磁プローブ部1を軌道面の端面に接触させて一周に亘って測定を行った(感磁プローブ部1を固定した状態で軸受軌道輪を一周回する。)。得られた一周分の磁束密度分布から、当該転がり軸受20の外輪22が疲労しているか否かを判定した。なお、試験完了後の磁束密度特性を測定するため、測定前には脱磁や着磁を行ってはならない。
【0031】
ここで、軌道輪22は、負荷圏の軌道面が転動体23の荷重を繰り返し受けるため、時間の経過とともに疲労が進行(つまり材料組織が変化)する。具体的には、残留オーステナイト(非磁性層)の分解および、マルテンサイト組織のひずみの緩和(磁壁移動が容易になる)が生じる。
なお、軸受を一周測定せずに、負荷圏、非負荷圏に感磁プローブ部1を軸受端面(側面)に接触(あるいは近接)させ、それぞれの値を比較してもよい。本実施例においては、部品単体の状態にて、一周全体の磁束密度を把握するために、感磁プローブ部1の一つの磁気センサにて一周に亘って測定している。
【0032】
軸受一周の磁束密度変化のイメージを
図6に示す。負荷圏の軌道面には、その他の部位と比較して強いS極N極が生じるため、同図に示すような磁力線が生じている。なお、軌道面だけに限らず、外周面側にも磁力線が現われるため、軌道輪22の外周面からも同様の測定が可能である。さらに、
図6(a)においてA側から軸受を見たイメージが同図(b)であるが、同図(b)に示すように、磁力線は軌道輪の端面にも発生しているため、軌道面に限らず軌道輪の端面からも測定が可能である。
測定の際は、軌道輪22の端面中央部に対向する位置に治具を用いて感磁プローブ部1を固定し、軸受の軌道輪22自体を回して測定を行った負荷圏の軌道面中央位置を180°とし、その対面の非負荷圏の軌道面中央位置を0°とする。
【0033】
実際に軌道輪の端面にて端面に感磁プローブ部1を接触させて測定した結果を
図7および
図8に示す。
図7および
図8では、負荷圏を180°の位置とし、その対面から測定を開始した結果となっている。
図7に示すように、疲労試験(1)の結果、負荷圏の軌道面の磁束密度が変化している。非負荷圏の軌道面と比較して、負荷圏の軌道面において磁束密度の変化が認められる。また、
図8に示すように、疲労試験(2)の結果、疲労試験(1)と同様に負荷圏の軌道面にて磁束密度の変化が認められるが、疲労試験(2)よりも大きな磁束密度の変化となっている。
【0034】
疲労試験(2)の外輪軌道面には摩耗、変色が認められることから、外輪22と転動体23とで疲労試験(1)よりも接触が多くあった。そのため、金属同士の接触は、疲労による材料変化よりも大きな磁束密度変化が生じさせ、測定値として大きく現われる。軌道輪の端面から疲労部を捕えるだけでなく、その損傷程度も把握可能である。
このように、本実施形態の磁気センサ装置10によれば、感磁プローブ部1が、二つ以上の磁気センサ1A~1Eを一列に限って有するので、非分解状態の転がり軸受20の軌道輪22の外端面または外周面から、軌道輪22の磁束密度を感磁プローブ部1の磁気センサ1A~1Eで容易に測定できる。
【0035】
そのため、転がり軸受20の軌道面を非破壊に、また、転がり軸受20を非分解で診断でき、磁束密度を捕えることで、転がり軸受20の疲労部を検出できる。また、疲労部だけでなく摩耗などの損傷部も検出できる。さらに、転がり軸受20の破損前に疲労状態を把握できる。
また、本実施形態の磁気センサ装置10によれば、転がり軸受20の破損前に軸受の状態を把握できるため、例えば、磁束密度情報に対応する磁束密度の値に閾値を設け、該閾値と、取得された軌道輪の磁束密度の値とを比較して、転がり軸受の疲労状態を判定することで、軸受を定期的に交換するなど、効率的かつ安全に装置を稼動できる。
【0036】
なお、本発明に係る磁気センサ装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、負荷圏とその他の部位との相対比較となるため、必ずしも軌道面を一周させる必要はなく、例えば、負荷圏とその対面の非負荷圏とを比較するだけでもよい。また、負荷圏の変化を捕らえられる手法であれば、対比する対象が非負荷圏でなくともよい。
【0037】
また、例えば、上記実施形態では、機械要素の一例として、軸受を測定対象とする例で説明したが、本発明に係る磁気センサ装置は、これに限定されず、その作用機序からも明らかなように、「機械要素自体の磁束密度の変化に基づいて、当該機械要素の疲労状態を診断」可能であるから、強磁性体または常磁性体製の種々の機械要素の診断に適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
1 感磁プローブ部
1A、1B、1C、1D、1E 磁気センサ
2 基板
3 センサ駆動検出回路
4 制御部
5 表示部
6 信号線
10 磁気センサ装置
20 転がり軸受(機械要素)
21 内輪(軌道輪)
22 外輪(軌道輪)
23 転動体