(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】心理状態判定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/16 20060101AFI20221107BHJP
G08G 1/16 20060101ALN20221107BHJP
【FI】
A61B5/16 100
G08G1/16 F
(21)【出願番号】P 2019139541
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【氏名又は名称】角谷 智広
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】村松 潤哉
(72)【発明者】
【氏名】北川 敬
(72)【発明者】
【氏名】中内 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】南 哲人
(72)【発明者】
【氏名】中古賀 理
(72)【発明者】
【氏名】清水 健吾
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-508553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/16-5/18
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の瞳孔の径を測定する瞳孔測定部と、
人の心理状態を判定する心理判定部と、
前記心理判定部が判定に用いるための期間を設定する期間設定部と、
を有し、
前記期間設定部は、
基準時刻と、
前記基準時刻から第1時刻までの第1期間と、
前記第1時刻から第2時刻までの第2期間と、
を設定し、
前記心理判定部は、
前記瞳孔測定部が前記第1期間および前記第2期間に測定した瞳孔の径の変化履歴から、
人の心理状態が、快状態と、不快状態と、中性状態と、のいずれであるかを判定すること
を含む心理状態判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の心理状態判定装置において、
前記心理判定部は、
前記瞳孔測定部が前記第1期間に測定した瞳孔の径の変化量から、
人の心理状態が、快状態と不快状態とを含む情動状態と、中性状態と、のいずれであるかを判定する第1ステップを実行すること
を含む心理状態判定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の心理状態判定装置において、
前記心理判定部は、
前記瞳孔測定部が前記第2期間に測定した瞳孔の径の変化量から、
人の心理状態が、快状態と、不快状態と、のいずれであるかを判定する第2ステップを実行すること
を含む心理状態判定装置。
【請求項4】
請求項2に記載の心理状態判定装置において、
前記心理判定部は、
前記基準時刻から瞳孔の径の変化量の最大値に達する時刻までの時間から、
人の心理状態が、快状態と、不快状態と、のいずれであるかを判定する第2ステップを実行すること
を含む心理状態判定装置。
【請求項5】
請求項2に記載の心理状態判定装置において、
前記心理判定部は、
前記瞳孔測定部が前記第2期間に測定した瞳孔の径の変化量と、前記基準時刻から瞳孔の径の変化量の最大値に達する時刻までの時間と、から、
人の心理状態が、快状態と、不快状態と、のいずれであるかを判定する第2ステップを実行すること
を含む心理状態判定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の心理状態判定装置において、
前記第1時刻は、
前記基準時刻から0.5秒以上1秒以下の時間が経過した後の時刻であり、
前記第2時刻は、
前記第1時刻から0.5秒以上1秒以下の時間が経過した後の時刻であること
を含む心理状態判定装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の心理状態判定装置において、
人に刺激を提示する刺激提示部を有すること
を含む心理状態判定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の心理状態判定装置において、
前記刺激提示部は、
人の視覚に刺激を提示する視覚刺激提示部を有すること
を含む心理状態判定装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の心理状態判定装置において、
前記刺激提示部は、
人の聴覚に刺激を提示する聴覚刺激提示部を有し、
前記聴覚刺激提示部は、
人の心理状態と無関係な音を断続的に提示し、
前記期間設定部は、
前記聴覚刺激提示部が人に音の提示を開始する時刻を基準時刻に設定すること
を含む心理状態判定装置。
【請求項10】
請求項9に記載の心理状態判定装置において、
前記聴覚刺激提示部は、
人の心理状態と無関係な音を周期的に提示すること
を含む心理状態判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、人の心理状態を推定する心理状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人の心理状態は、消費行動、乗り物の運転傾向など、種々の活動に影響を与える。人の心理状態は、外部からの刺激によって変動する。そのため、人の心理状態を推定する方法が研究開発されてきている。
【0003】
特許文献1には、人の瞳孔径から人の感情強度を推定する技術が開示されている。特許文献1には、感情計算部が第2瞳孔径情報を第1瞳孔径情報で正規化することにより、ターゲット画像を観察した観察者の感情の強さを推定するための情報を生成する。観察者の感情の強さを推定するための情報は、第2瞳孔径情報を第1瞳孔径情報で正規化した値が大きいほど観察者の感情の強さが強いことに対応している(特許文献1、特許5438591号公報の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、特許文献1の技術では、人の感情強度を推定することはできる。しかし、その感情が、快、不快のいずれであるかを判定することは困難である。人の心理状態が快状態の場合と不快状態の場合とを比較すると、人の活動は全く異なっている。
【0006】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、人の心理状態が快状態、不快状態、中性状態のいずれであるかを判定することのできる心理状態判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様における心理状態判定装置は、人の瞳孔の径を測定する瞳孔測定部と、人の心理状態を判定する心理判定部と、心理判定部が判定に用いるための期間を設定する期間設定部と、を有する。期間設定部は、基準時刻と、基準時刻から第1時刻までの第1期間と、第1時刻から第2時刻までの第2期間と、を設定する。心理判定部は、瞳孔測定部が第1期間および第2期間に測定した瞳孔の径の変化履歴から、人の心理状態が、快状態と、不快状態と、中性状態と、のいずれであるかを判定する。
【0008】
この心理状態判定装置は、人の心理状態を人の瞳孔の径の測定値から判定することができる。仮に、人の瞳孔以外についての測定値を用いないとしても、人の心理状態を判定することができる。そのため、非常に簡便であり、複雑な計測装置がなくとも、この心理状態判定装置は、人の心理状態を判定することができる。
【発明の効果】
【0009】
本明細書では、人の心理状態が快状態、不快状態、中性状態のいずれであるかを判定することのできる心理状態判定装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態の心理状態判定装置の概略構成を示す図である。
【
図2】第1の実施形態の心理状態判定装置の制御系を示すブロック図である。
【
図3】人に刺激を提示したときの瞳孔の径の応答性を模式的に示すグラフである。
【
図4】第1の実施形態の心理状態判定装置が人の心理状態を判定するフローを説明するためのフローチャートである。
【
図5】第2の実施形態の心理状態判定装置が人の心理状態を判定するフローを説明するためのフローチャートである。
【
図7】刺激に対する瞳孔の径の変化量を示すグラフである。
【
図8】第1期間T1の期間内における瞳孔径の変化量を示すグラフである。
【
図9】第2期間T2の期間内における瞳孔径の変化量を示すグラフである。
【
図10】基準時刻t0からピーク値をとる時刻までの経過時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な実施形態について、心理状態判定装置を例に挙げて説明する。しかし、本明細書の技術はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(第1の実施形態)
1.心理状態判定装置
図1は、第1の実施形態の心理状態判定装置100の概略構成を示す図である。心理状態判定装置100は、人の瞳孔の径の経時変化を測定することにより人の心理状態を推定する装置である。
図1に示すように、心理状態判定装置100は、視覚刺激提示部110と、聴覚刺激提示部120と、瞳孔測定部130と、制御部140と、を有する。視覚刺激提示部110と聴覚刺激提示部120とは、人に刺激を提示する刺激提示部である。
【0013】
視覚刺激提示部110は、人に視覚刺激を提示するためのものである。視覚刺激提示部110は、例えば、ディスプレイである。視覚刺激提示部110は、例えば、人に映像または画像を視覚刺激として提示する。
【0014】
聴覚刺激提示部120は、人に聴覚刺激を提示するためのものである。聴覚刺激提示部120は、例えば、スピーカーである。聴覚刺激提示部120は、例えば、人に音声指示または音楽を聴覚刺激として提示する。または、その他の聴覚刺激を与えてもよい。聴覚刺激提示部120は、例えば、人の心理状態と無関係な音を断続的に提示する。その無関係な音は周期的であってもよい。
【0015】
瞳孔測定部130は、人の瞳孔の径を測定するためのものである。瞳孔測定部130は、人の瞳孔を継続的に測定する。そのため、瞳孔測定部130は、瞳孔の径の変化履歴を測定する。瞳孔測定部130は、例えば、高解像度カメラである。
【0016】
制御部140は、視覚刺激提示部110と、聴覚刺激提示部120と、瞳孔測定部130と、を制御する。また、制御部140は、人の心理状態を判定する。
【0017】
2.制御系
図2は、第1の実施形態の心理状態判定装置100の制御系を示すブロック図である。
図2に示すように、制御部140は、視覚刺激制御部141と、聴覚刺激制御部142と、期間設定部143と、瞳孔情報取得部144と、瞳孔径算出部145と、心理判定部146と、を有する。
【0018】
視覚刺激制御部141は、視覚刺激提示部110を制御する。そして、視覚刺激制御部141は、視覚刺激提示部110が人に提示する映像または画像を選択する。また、視覚刺激制御部141は、人に映像または画像を提示するタイミングを期間設定部143から入力される。
【0019】
聴覚刺激制御部142は、聴覚刺激提示部120を制御する。そして、聴覚刺激制御部142は、聴覚刺激提示部120が人に提示する音声指示または音楽を選択する。また、聴覚刺激制御部142は、人に音声指示または音楽を提示するタイミングを期間設定部143から入力される。
【0020】
期間設定部143は、心理判定部146が判定に用いるための期間を設定する。後述するように、心理判定部146は、期間設定部143が設定した期間内の瞳孔の径の変化履歴を判定に用いる。期間設定部143は、基準時刻と、基準時刻から第1時刻までの第1期間と、第1時刻から第2時刻までの第2期間と、を設定する。基準時刻は、例えば、聴覚刺激提示部120が人に音の提示を開始する時刻である。第1時刻は、基準時刻から0.5秒以上1秒以下の時間が経過した後の時刻である。第2時刻は、第1時刻から0.5秒以上1秒以下の時間が経過した後の時刻である。
【0021】
瞳孔情報取得部144は、瞳孔測定部130から人の瞳孔の映像または画像の情報を受信する。人の瞳孔の映像または画像の情報の時刻は、期間設定部143が設定する時刻と同期している。瞳孔情報取得部144は、人の瞳孔の映像または画像の情報を瞳孔径算出部145に送信する。
【0022】
瞳孔径算出部145は、瞳孔情報取得部144により取得された人の瞳孔の映像または画像から人の瞳孔の径を算出する。この瞳孔の径の値は、期間設定部143が設定する時刻と関連付けられている。このため、瞳孔径算出部145は、経過時間とともに人の瞳孔の径の値を出力し続ける。
【0023】
心理判定部146は、人の心理状態を判定する。心理判定部146は、期間設定部143により設定される基準時刻と第1期間と第2期間とを受信する。また、心理判定部146は、期間設定部143の時刻と関連付けられた瞳孔の径の値を瞳孔径算出部145から受信する。
【0024】
3.人の心理状態の分類
第1の実施形態では、人の心理状態は、「情動状態」と、「中性状態」と、に分類される。そして、「情動状態」は、「快状態」と、「不快状態」と、に分類される。第1の実施形態では、快状態、不快状態以外のその他の情動状態は取り扱わない。
【0025】
中性状態とは、人が特に情動を抱いていない通常の状態である。情動状態とは、人がある程度の情動を抱いている状態である。快状態とは、人が快的な気持ちを感じている状態である。不快状態とは、人が不快な気持ちを感じている状態である。
【0026】
4.刺激に対する瞳孔の径の応答性
図3は、人に刺激を提示したときの瞳孔の径の応答性を模式的に示すグラフである。
図3は実験の傾向を模式的に描いたものであるが、実際の実験値を示しているわけではない。
図3の横軸は時間である。
図3の縦軸は瞳孔の径の変化量である。
図3において、実線は快状態を示し、一点鎖線は不快状態を示し、破線は中性状態を示している。
【0027】
感情と結びつく刺激が人に与えられると、その人の瞳孔は、一瞬縮瞳した後に散瞳し、やがて収束する。ここで、散瞳とは人の瞳孔が拡大することをいう。なお、後述するように、刺激から人が受けた感情によって、人の瞳孔の径の変化の仕方がやや異なっている。
【0028】
図3には、基準時刻t0と、第1時刻t1と、第2時刻t2とが示されている。基準時刻t0は、感情とは無関係な刺激を人に提示する時刻である。第1時刻t1は、基準時刻t0から0.5秒以上1秒以下の時刻である。第2時刻t2は、第1時刻t1から0.5秒以上1秒以下の時刻である。第1期間T1は、基準時刻t0から第1時刻t1までの時間である。第2期間T2は、第1時刻t1から第2時刻t2までの時間である。
【0029】
期間設定部143は、基準時刻t0と第1時刻t1と第2時刻t2とを設定する。これにより、第1期間T1および第2期間T2が設定されることとなる。第1期間T1および第2期間T2は、心理判定部146が人の心理状態を判定するために瞳孔の径を測定するための時間である。
【0030】
なお、基準時刻t0から1秒後の時刻は、例えば、第1時刻t1から第2時刻t2までの間に含まれる。つまり、瞳孔の径の変化は、1秒程度の時間で変化する。
【0031】
基準時刻t0では、瞳孔の径の変化量は0mmである。
【0032】
第1期間T1では、いずれの状態であっても瞳孔の径は単調に増加する。中性状態のみが、瞳孔の径の上昇がやや抑えられている。第2期間T2では、いずれの状態であっても瞳孔の径の増加は停止し、その後瞳孔の径は減少に転じている。つまり、第2期間T2の期間内に、いずれの状態も最大値をとる。そして、快状態の瞳孔の径は、他の状態の瞳孔の径に比べて伸び、より後の時刻で最大値をとる。
【0033】
実線で示される快状態は、点P1、点P2、点Pmを有する。点P1は、第1時刻t1における瞳孔の径の値である。点P2は、第2時刻t2における瞳孔の径の値である。点Pmは、瞳孔の径の最大値である。点Pmは、第2期間T2の期間内にある。
【0034】
一点鎖線で示される不快状態は、点N1、点N2、点Nmを有する。点N1は、第1時刻t1における瞳孔の径の値である。点N2は、第2時刻t2における瞳孔の径の値である。点Nmは、瞳孔の径の最大値である。点Nmは、第2期間T2の期間内にある。
【0035】
破線で示される中性状態は、点A1、点A2、点Amを有する。点A1は、第1時刻t1における瞳孔の径の値である。点A2は、第2時刻t2における瞳孔の径の値である。点Amは、瞳孔の径の最大値である。点Amは、第2期間T2の期間内にある。
【0036】
第1時刻t1においては、中性状態の点A1の値に比べて、快状態の点P1および不快状態の点N1の値が大きい。そのため、中性状態とその他の状態とを区別することができる。なお、快状態の点P1の値と不快状態の点N1の値とは近い。
【0037】
第2時刻t2においては、中性状態の点A2および不快状態の点N2の値に比べて、快状態の点P2の値が大きい。そのため、快状態とその他の状態とを区別することができる。なお、不快状態の点N2の値と中性状態の点A2の値とは近い。
【0038】
なお、
図3は、あくまで傾向を示すグラフに過ぎない。刺激に対する応答は、提示する刺激により
図3の曲線から多少なりともずれる。しかし、例えば、第1時刻t1における中性状態とその他の状態とを区別する場合のように、値の差が大きいところを選べば、それぞれの状態を区別することができる。
【0039】
5.人の心理状態の判定方法
心理判定部146が行う人の心理状態の判定方法について説明する。第1の実施形態では、心理判定部146は、瞳孔測定部130が第1期間T1および第2期間T2に測定した瞳孔の径の変化履歴から、人の心理状態が、快状態と、不快状態と、中性状態と、のいずれであるかを判定する。
【0040】
ここで、瞳孔の径の変化履歴とは、瞳孔の径の変化量と、基準時刻から瞳孔の径の変化量が最大値をとる時刻までの経過時間と、を含む。時刻tにおける人の瞳孔の径の変化量とは、基準時刻t0における人の瞳孔の径から時刻tにおける人の瞳孔の径が変化した量のことである。一般に、人の瞳孔は、刺激を受けた後に拡大する傾向にある。そのため、瞳孔の径の変化量は、一般に正の値である。
【0041】
5-1.第1ステップ
表1に示すように、心理判定部146は、第1ステップで人の心理状態を「情動状態」と「中性状態」とに分類する。
【0042】
心理判定部146は、第1期間における瞳孔の径の変化量が予め定めた第1閾値J1以上である場合に、その刺激を受けたときの人の心理状態を情動状態と判定する。
【0043】
心理判定部146は、第1期間における瞳孔の径の変化量が予め定めた第1閾値J1未満である場合に、その刺激を受けたときの人の心理状態を中性状態と判定する。
【0044】
このように、心理判定部146は、瞳孔測定部130が第1期間に測定した瞳孔の径の変化量から、人の心理状態が、快状態と不快状態とを含む情動状態と、中性状態と、のいずれであるかを判定する第1ステップを実行する。第1閾値J1は、
図3の点A1と点N1との間の値であるとよい。
【0045】
5-2.第2ステップ
表1に示すように、心理判定部146は、第2ステップで人の心理状態を「快状態」と「不快状態」とに分類する。
【0046】
心理判定部146は、第2期間における瞳孔の径の変化量が予め定めた第2閾値J2以上である場合に、その刺激を受けたときの人の心理状態を快状態と判定する。
【0047】
心理判定部146は、第2期間における瞳孔の径の変化量が予め定めた第2閾値J2未満である場合に、その刺激を受けたときの人の心理状態を不快状態と判定する。
【0048】
このように、心理判定部146は、瞳孔測定部130が第2期間に測定した瞳孔の径の変化量から、人の心理状態が、快状態と、不快状態と、のいずれであるかを判定する第2ステップを実行する。第2閾値J2は、
図3の点P2と点N2との間の値であるとよい。
【0049】
5-3.分類の結果
このように分類の結果、人の心理状態は、「快状態」と「不快状態」と「中性状態」との3種類のうちのいずれかに分類される。
【0050】
[表1]
第1ステップ 第2ステップ
情動状態 快状態
情動状態 不快状態
中性状態
【0051】
6.人の心理状態の判定フロー
図4は、第1の実施形態の心理状態判定装置100が人の心理状態を判定するフローを説明するためのフローチャートである。
【0052】
まず、期間設定部143が、基準時刻を前もって設定する(S101)。次に、視覚刺激提示部110および聴覚刺激提示部120が、人に視覚刺激および聴覚刺激を提示する(S102)。そして、基準時刻に感情とは無関係な刺激を人に与える。次に、瞳孔情報取得部144が基準時刻から人の瞳孔の径を測定するとともに、瞳孔径算出部145が基準時刻からの人の瞳孔の径の変化量を算出する(S103)。そして、S104に進む。
【0053】
心理判定部146は、第1期間における瞳孔の径の変化量が予め定めた第1閾値以上である場合に(S104:Yes)、S105に進み、そうでない場合に(S104:No)、S106に進む。S105では、心理判定部146は、人の心理状態を情動状態と判定し、S107に進む。S106では、心理判定部146は、人の心理状態を中性状態と判定する。
【0054】
心理判定部146は、第2期間における瞳孔の径の変化量が予め定めた第2閾値以上である場合に(S107:Yes)、S108に進み、そうでない場合に(S107:No)、S109に進む。S108では、心理判定部146は、人の心理状態を快状態と判定する。S109では、心理判定部146は、人の心理状態を不快状態と判定する。
【0055】
7.第1の実施形態の効果
第1の実施形態の心理状態判定装置100は、人の心理状態を人の瞳孔の径についての測定値から判定する。判定に必要な測定値としては、人の瞳孔の径のみである。そのため、非常に簡便であり、複雑な計測装置がなくとも、人の心理状態を判定することができる。
【0056】
8.変形例
8-1.期間設定部
第1の実施形態では、期間設定部143は、第1期間の終了時刻および第2期間の終了時刻を保持している。しかし、期間設定部143は、第1期間の終了時刻および第2期間の終了時刻について、ユーザー等の外部からの入力を受け付けてもよい。
【0057】
8-2.視覚刺激または聴覚刺激
第1の実施形態では、心理状態判定装置100は、視覚刺激提示部110と聴覚刺激提示部120との両方を有する。視覚刺激提示部110と、聴覚刺激提示部120とのうち、いずれか一方だけでもよい。
【0058】
その場合であっても、期間設定部143が、基準時刻t0を設定する。この場合の基準時刻t0は、視覚刺激提示部110または聴覚刺激提示部120が感情とは無関係な刺激を人に与える開始時刻である。
【0059】
8-3.視覚刺激制御部および聴覚刺激制御部
第1の実施形態では、制御部140は、視覚刺激制御部141および聴覚刺激制御部142を有する。視覚刺激制御部141および聴覚刺激制御部142は、制御部140の外部に存在してもよい。その場合には、制御部140は、視覚刺激制御部141および聴覚刺激制御部142を有さない。
【0060】
8-4.視覚刺激提示部および瞳孔測定部
第1の実施形態では、視覚刺激提示部110と瞳孔測定部130とは別体である。視覚刺激提示部110と瞳孔測定部130とは一体であってもよい。
【0061】
8-5.視覚刺激提示部
第1の実施形態では、視覚刺激提示部110は人から比較的離れた位置に存在する。しかし、視覚刺激提示部110は、より人に近い位置であってもよい。例えば、ゴーグル型のディスプレイを用いてもよい。
【0062】
8-6.瞳孔測定部
瞳孔測定部130は、赤外線カメラであってもよい。この場合には、瞳孔測定部130は、暗い環境下であっても人の瞳孔の径を測定することができる。
【0063】
8-7.車両
車両が、第1の実施形態の心理状態判定装置100を搭載していてもよい。その場合には、運転者が視ている車外の情報が運転者に刺激を提示する。刺激として例えば、他の自動車の運転マナー等が挙げられる。具体的には、他の自動車の運転者に道を譲られたり、危険な運転をする自動車に遭遇した場合が挙げられる。または、その他の刺激として、運転者が告知される交通情報等が挙げられる。この場合の刺激は、自動車が人に与える情報である。
【0064】
8-8.記憶部
心理状態判定装置100は、制御部140の他に記憶部を有していてもよい。
【0065】
8-9.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてもよい。
【0066】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第2の実施形態の機械的構成および制御系は、第1の実施形態と同様である。第2の実施形態の心理判定部が行う処理が、第1の実施形態と異なる。したがって、異なる点について説明する。
【0067】
1.刺激に対する瞳孔の径の応答性
図3を用いて説明する。点Pmをとる時刻は、点Nmをとる時刻および点Amをとる時刻よりも後の時刻である。特に、点Pmをとる時刻と、点Nmをとる時刻とは十分に遠い。そのため、最大値をとる時刻により、快状態の点Pmと不快状態の点Nmとを区別することができる。
【0068】
2.人の心理状態の判定方法
第2の実施形態では、快状態と不快状態とを判定するための判断基準が第1の実施形態と異なっている。つまり、第2の実施形態の第1ステップの判断基準が第1の実施形態と共通であり、第2の実施形態の第2ステップの判断基準が第1の実施形態と異なっている。そのため、快状態と不快状態とを判定する第2ステップについて説明する。
【0069】
心理判定部146は、基準時刻から第2期間中の瞳孔の径の最大値をとる時刻までの経過時間が予め定めた第3閾値J3以上である場合に、その刺激を受けたときの人の心理状態を快状態と判定する。
【0070】
心理判定部146は、基準時刻から第2期間中の瞳孔の径の最大値をとる時刻までの経過時間が予め定めた第3閾値J3未満である場合に、その刺激を受けたときの人の心理状態を不快状態と判定する。
【0071】
このように、心理判定部146は、基準時刻から瞳孔の径の変化量の最大値に達する時刻までの時間から、人の心理状態が、快状態と、不快状態と、のいずれであるかを判定する第2ステップを実行する。第3閾値J3は、
図3の点Pmの時刻と点Nmの時刻との間の時刻であるとよい。
【0072】
3.人の心理状態の判定フロー
図5は、第2の実施形態の心理状態判定装置100が人の心理状態を判定するフローを説明するためのフローチャートである。
図5は、S105までは、
図4と同じである。そのため、S105の後の処理について説明する。S105では、心理判定部146が情動状態と判断し、S207に進む。
【0073】
心理判定部146は、基準時刻から第2期間中の瞳孔の径の最大値をとる時刻までの経過時間が予め定めた第3閾値以上である場合に(S207:Yes)、S108に進み、そうでない場合に(S207:No)、S109に進む。S108では、心理判定部146は、人の心理状態を快状態と判定する。S109では、心理判定部146は、人の心理状態を不快状態と判定する。
【0074】
4.第2の実施形態の効果
第1の実施形態と同様に、第2の実施形態の心理状態判定装置100は、人の心理状態を人の瞳孔の径についての測定値から判定する。判定に必要な測定値としては、人の瞳孔の径のみである。そのため、非常に簡便であり、複雑な計測装置がなくとも、人の心理状態を判定することができる。
【0075】
5.変形例
第2の実施形態を第1の実施形態の変形例と自由に組み合わせてよい。
【0076】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。
【0077】
1.人の心理状態の判定方法
第3の実施形態では、第2ステップを判断する際に、第1の実施形態で用いた瞳孔の径の変化量と、第2の実施形態で用いた散瞳ピーク値までの経過時間と、の両方を用いる。そのために例えば、サポートベクターマシン等、人工知能を用いればよい。ここで、散瞳ピーク値までの経過時間とは、基準時刻から第2期間中の瞳孔の径の最大値をとる時刻までの経過時間である。
【0078】
このように、心理判定部146は、瞳孔測定部130が第2期間に測定した瞳孔の径の変化量と、基準時刻から瞳孔の径の変化量の最大値に達する時刻までの時間と、から、人の心理状態が、快状態と、不快状態と、のいずれであるかを判定する第2ステップを実行する。
【0079】
2.変形例
第3の実施形態を第1の実施形態の変形例と自由に組み合わせてよい。
【0080】
(実験)
1.実験方法
被験者に対して、快状態、不快状態、中性状態、のいずれかの情動を想起させる写真集を用いた。その写真集としてIAPSを用いた。IAPSの各写真は、9段階の閾値を付与されている。閾値が6以上の写真を快状態を想起させる写真と分類した。閾値が4以上6未満の写真を中性状態を想起させる写真と分類した。閾値が4未満の写真を不快状態を想起させる写真と分類した。
【0081】
被験者は、健康な男性23名と健康な女性9名の合計32名であった。被験者の平均年齢は21.3歳であった。なお、32名のうち2名のデータを除外した。1人あたり、300回のセットを実施した。
【0082】
図6は、実験手順を示す図である。まず、被験者に固視点を500ms提示する。次に、被験者にIAPSの写真を1枚200ms呈示する。ここで提示する写真は、閾値が9段階で付与された写真集のうちの1枚をランダムに選んだ写真である。次に、被験者に固視点を600ms提示する。
【0083】
固視点の提示の終了時を基準時刻t0とする。基準時刻t0から100ms、被験者に音を提示する。この音はオドボール刺激であり、被験者に特に何らかの情動を想起させるものではない。次に、被験者に固視点を1900ms提示する。
【0084】
次に、被験者は、音と画像との組み合わせについて快状態、不快状態、中性状態のどの情動を感じたかを回答する。また、提示された音が高温だったか低温だったかを回答する。ここまでが1セットである。1セットの終了後には、最初の固視点の提示に戻る。
【0085】
そして、被験者が回答した快状態、不快状態、中性状態の情報と、被験者の瞳孔の変化履歴と、を比較した。
【0086】
2.実験結果
2-1.刺激に対する瞳孔の径の応答性
図7は、刺激に対する瞳孔の径の変化量を示すグラフである。
図7の横軸は時間である。
図7の縦軸は瞳孔の径の変化量である。N数は30である。
図7には、
図3に示した結果と同様の結果が示されている。
【0087】
2-2.第1期間
図8は、第1期間T1の期間内における瞳孔径の変化量を示すグラフである。
図8の左側から中性状態、不快状態、快状態の順に棒が示されている。
図8に示すように、高頻度刺激および低頻度刺激の両方に対して、快状態および不快状態の瞳孔径の変化量は、中性状態の瞳孔径の変化量よりも十分に大きい。
【0088】
2-3.第2期間
図9は、第2期間T2の期間内における瞳孔径の変化量を示すグラフである。
図9に示すように、高頻度刺激および低頻度刺激の両方に対して、快状態の瞳孔径の変化量は、不快状態および中性状態の瞳孔径の変化量よりも大きい。
【0089】
2-4.ピークまでの経過時間
図10は、基準時刻t0からピーク値をとる時刻までの経過時間を示すグラフである。
図10に示すように、高頻度刺激および低頻度刺激の両方に対して、快状態における基準時刻t0からピーク値をとるまでの時間は、不快状態における基準時刻t0からピーク値をとるまでの時間よりも十分に長い。
【0090】
2-5.分類結果
図11は、分類結果を示すグラフである。
図11の横軸は散瞳ピークまでの経過時間である。
図11の縦軸は瞳孔径の変化量である。
図11のように分類するために、サポートベクターマシンを用いた。
【0091】
図11に示すように、快状態、不快状態、中性状態、の3種類の状態に空間的に分離することができた。
【0092】
2-6.識別率
2-6-1.第2期間の瞳孔径の変化率
第1の実施形態の心理状態判定装置100を用いて、被験者の回答と、瞳孔の変化履歴と、を比較した。第1ステップに、第1期間の瞳孔の径の変化率を用い、第2ステップに、第2期間の瞳孔の径の変化率を用いた。そして、分類するためにサポートベクターマシンを用いた。
【0093】
快状態の識別率は90.00%であった。不快状態の識別率は63.33%であった。中性状態の識別率は80.00%であった。これら3種類の状態の平均の識別率は77.78%であった。
【0094】
2-6-2.散瞳ピークまでの経過時間
第2の実施形態の心理状態判定装置100を用いて、被験者の回答と、瞳孔の変化履歴と、を比較した。第1ステップに、第1期間の瞳孔の径の変化率を用い、第2ステップに、散瞳ピークまでの経過時間を用いた。そして、分類するためにサポートベクターマシンを用いた。
【0095】
快状態の識別率は73.33%であった。不快状態の識別率は70.00%であった。中性状態の識別率は80.00%であった。これら3種類の状態の平均の識別率は74.44%であった。
【0096】
2-6-3.第2期間の瞳孔径の変化率および散瞳ピークまでの経過時間
第3の実施形態の心理状態判定装置100を用いて、被験者の回答と、瞳孔の変化履歴と、を比較した。第1ステップに、第1期間の瞳孔の径の変化率を用い、第2ステップに、第2期間の瞳孔の径の変化率および散瞳ピークまでの経過時間の両方を用いた。そして、分類するためにサポートベクターマシンを用いた。
【0097】
快状態の識別率は90.00%であった。不快状態の識別率は70.00%であった。中性状態の識別率は76.67%であった。これら3種類の状態の平均の識別率は78.89%であった。
【0098】
(付記)
第1の態様における心理状態判定装置は、人の瞳孔の径を測定する瞳孔測定部と、人の心理状態を判定する心理判定部と、心理判定部が判定に用いるための期間を設定する期間設定部と、を有する。期間設定部は、基準時刻と、基準時刻から第1時刻までの第1期間と、第1時刻から第2時刻までの第2期間と、を設定する。心理判定部は、瞳孔測定部が第1期間および第2期間に測定した瞳孔の径の変化履歴から、人の心理状態が、快状態と、不快状態と、中性状態と、のいずれであるかを判定する。
【0099】
第2の態様における心理状態判定装置においては、心理判定部は、瞳孔測定部が第1期間に測定した瞳孔の径の変化量から、人の心理状態が、快状態と不快状態とを含む情動状態と、中性状態と、のいずれであるかを判定する第1ステップを実行する。
【0100】
第3の態様における心理状態判定装置においては、心理判定部は、瞳孔測定部が第2期間に測定した瞳孔の径の変化量から、人の心理状態が、快状態と、不快状態と、のいずれであるかを判定する第2ステップを実行する。
【0101】
第4の態様における心理状態判定装置においては、心理判定部は、基準時刻から瞳孔の径の変化量の最大値に達する時刻までの時間から、人の心理状態が、快状態と、不快状態と、のいずれであるかを判定する第2ステップを実行する。
【0102】
第5の態様における心理状態判定装置においては、心理判定部は、瞳孔測定部が第2期間に測定した瞳孔の径の変化量と、基準時刻から瞳孔の径の変化量の最大値に達する時刻までの時間と、から、人の心理状態が、快状態と、不快状態と、のいずれであるかを判定する第2ステップを実行する。
【0103】
第6の態様における心理状態判定装置においては、第1時刻は、基準時刻から0.5秒以上1秒以下の時間が経過した後の時刻である。第2時刻は、第1時刻から0.5秒以上1秒以下の時間が経過した後の時刻である。
【0104】
第7の態様における心理状態判定装置は、人に刺激を提示する刺激提示部を有する。
【0105】
第8の態様における心理状態判定装置においては、刺激提示部は、人の視覚に刺激を提示する視覚刺激提示部を有する。
【0106】
第9の態様における心理状態判定装置においては、刺激提示部は、人の聴覚に刺激を提示する聴覚刺激提示部を有する。聴覚刺激提示部は、人の心理状態と無関係な音を断続的に提示する。期間設定部は、聴覚刺激提示部が人に音の提示を開始する時刻を基準時刻に設定する。
【0107】
第10の態様における心理状態判定装置においては、聴覚刺激提示部は、人の心理状態と無関係な音を周期的に提示する。
【符号の説明】
【0108】
100…心理状態判定装置
110…視覚刺激提示部
120…聴覚刺激提示部
130…瞳孔測定部
140…制御部