(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 9/04 20060101AFI20221107BHJP
H01Q 1/36 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
H01Q9/04
H01Q1/36
(21)【出願番号】P 2019029521
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】陳 偉一
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/068430(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0231464(US,A1)
【文献】特表2003-516010(JP,A)
【文献】特開2009-094631(JP,A)
【文献】特開2011-035672(JP,A)
【文献】特開2017-152981(JP,A)
【文献】特開2016-208383(JP,A)
【文献】特開2008-181492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直列に接続される少なくとも1個の直列枝共振回路をそれぞれ有する一対の周期構造回路を、前記一対の周期構造回路の各一端を接続する所定の原点の接続点から所定の角度θでV字形状で配置して構成された0次共振器を用いたアンテナ装置であって、
前記一対の周期構造回路の各他端に接続された一対の容量性反射素子と、
前記接続点に接続された誘導性反射素子と
を備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記一対の周期構造回路、前記一対の容量性反射素子及び前記誘導性反射素子により0次共振モードで動作し、
前記一対の周期構造回路により1/2波長共振モードで動作することを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記各直列枝共振回路は、LC共振回路である請求項1又は2記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記一対の容量性反射素子は互いに容量結合される請求項1~3のうちのいずれか1つに記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記アンテナ装置は、前記誘導性反射素子を介して前記接続点に給電される請求項1~4のうちのいずれか1つに記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば0次共振器を用いたアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、右手/左手系複合伝送線路からなる0次共振器を用いたマイクロ波回路、及びアンテナ装置に関する研究が行われている(例えば、非特許文献1及び2参照)。0次共振器は、動作周波数が共振器のサイズに依存せず、当該共振器内で電磁界分布が一様となる特徴があり、アンテナの小型化、あるいは逆に大型化も可能であると言われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】A. Sanada, C. Caloz and T. Itoh, "Zeroth-order resonance in composite right/left-handed transmission line resonators," Asia-Pacific Microwave Conference, Vol. 3, Seoul, Korea, November 2003, pp. 1588-1592.
【文献】T. Ueda, G. Haida and T. Itoh, "Zeroth-Order Resonators with Variable Reactance Loads at Both Ends," IEEE Transmission on Microwave Theory and Techniques, Vol. 59, No. 3, March 2011, pp. 612-618.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、0次共振器を用いたアンテナ装置は、上述の非特許文献1及び2において開示されているように、狭帯域でしか動作しない問題点があった。
【0006】
例えば特許文献1は、従来技術に比較して高い効率で動作し、鋭いビーム幅を可能とする非相反メタマテリアル伝送線路装置を用いたアンテナ装置を開示している。しかし、伝送線路装置を用いているために、長細くなり、大型になるという問題点があった。
【0007】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、0次共振器を用いたアンテナ装置において、従来技術に比較して広帯域で動作しかつ小型化できるアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアンテナ装置は、
互いに直列に接続される少なくとも1個の直列枝共振回路をそれぞれ有する一対の周期構造回路を、前記一対の周期構造回路の各一端を接続する所定の原点の接続点から所定の角度θでV字形状で配置して構成された0次共振器を用いたアンテナ装置であって、
前記一対の周期構造回路の各他端に接続された一対の容量性反射素子と、
前記接続点に接続された誘導性反射素子と
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
従って、本発明に係るアンテナ装置によれば、0次共振器を用いたアンテナ装置において、従来技術に比較して広帯域で動作しかつ小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】比較例に係る左手系/右手系複合伝送線路を用いた0次共振器の等価回路図である。
【
図2】実施形態に係るアンテナ装置で用いる0次共振器の等価回路図である。
【
図3A】実施形態に係る0次共振器を用いたアンテナ装置の構成例を示す平面図である。
【
図4】比較例に係るアンテナ装置の入力インピーダンスの周波数特性を示すグラフである。
【
図5】比較例に係るアンテナ装置の反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
【
図6】比較例に係るアンテナ装置の入力インピーダンスの周波数特性を示すスミスチャートである。
【
図7】
図3Aのアンテナ装置の入力インピーダンスの調整方法を示す周波数特性のグラフである。
【
図8】
図7の調整方法を示すスミスチャートである。
【
図9】別の比較例に係るアンテナ装置の反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
【
図10A】
図3Aのアンテナ装置において角度θを変化したときの反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
【
図10B】
図3Aのアンテナ装置において角度θを変化したときの反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
【
図11】
図3Aのアンテナ装置において長さLを変化したときの反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
【
図12】
図3Aのアンテナ装置において接地導体41の面積を減少させたときの反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
【
図13】
図3Aのアンテナ装置において接地導体41の横幅を変化させたときの反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
【
図14A】
図3Aのアンテナ装置において接地導体41の横幅を変化させる前の放射パターンを示す図である。
【
図14B】
図3Aのアンテナ装置において接地導体41の横幅を変化させた後の放射パターンを示す図である。
【
図15A】
図3Aのアンテナ装置を試作したアンテナ装置の平面図の写真である。
【
図15B】前記試作したアンテナ装置の背面図の写真である。
【
図16】
図3Aのアンテナ装置の反射係数S11の周波数特性の実測値S11mとシミュレーション値S11sを示すグラフである。
【
図17A】
図3Aのアンテナ装置において周波数f=3.2GHzのときの放射パターン(H面)を示す図である。
【
図17B】
図3Aのアンテナ装置において周波数f=3.9GHzのときの放射パターン(H面)を示す図である。
【
図17C】
図3Aのアンテナ装置において周波数f=4.9GHzのときの放射パターン(H面)を示す図である。
【
図17D】
図3Aのアンテナ装置において周波数f=5.3GHzのときの放射パターン(H面)を示す図である。
【
図17E】
図3Aのアンテナ装置において周波数f=5.8GHzのときの放射パターン(H面)を示す図である。
【
図18】
図3Aのアンテナ装置において放射利得Gpの周波数特性の実測値Gpmとシミュレーション値Gpsを示すグラフである。
【
図19】
図3Aのアンテナ装置と、比較例に係るUWB用ボウタイアンテナ装置との比較を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明にかかる実施形態について図面を参照して説明する。なお、同一又は同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0012】
(比較例の0次共振器の構成)
図1は比較例に係る、メタマテリアルの一種である左手系/右手系複合伝送線路(以下、CRLH線路という。)30を用いた0次共振器の等価回路図である。
【0013】
図1において、端子T1と端子T2との間に、複数の直列枝共振回路10が直列に接続され、各直列枝共振回路10の両端にそれぞれ接地との間に複数の並列枝共振回路20が接続されている。ここで、各直列枝共振回路10は、インダクタンスL
Rのインダクタ11と、キャパシタンスC
Lのキャパシタ12とを有し、共振角周波数ωseを有する。また、各並列枝共振回路20は、インダクタンスL
Lのインダクタ21と、キャパシタンスC
Rのキャパシタ22とを有し、共振角周波数ωshを有する。なお、周期構造回路の周期長(単位セルの単位長)をpとする。さらに、端子T1と接地との間には、リアクタンスX
Lを有するインピーダンス素子31が接続され、端子T2と接地との間には、リアクタンス-X
Lを有するインピーダンス素子32が接続される。
【0014】
以上のように構成された0次共振器において、端子T1と端子T2との間の回路はCRLH線路30を構成しており、0次共振器は当該CRLH線路30の実効屈折率が0となるときに共振する。ここで、実効屈折率が0で管内波長が無限大となり、共振周波数が共振器のサイズに依存しないので、動作周波数を固定したまま、共振器サイズを波長に比べて小さくすることも、逆に大きくすることも可能である。前者は電気的に小さいアンテナ装置の構成法に、後者は指向性アンテナ装置への応用に利用することが考えられる。
【0015】
0次共振器は、その電磁界分布にも特徴があり、共振器内の位置に関係なく一様となる。従来の共振器内の電磁界分布と違い、定在波による腹節を持たない。0次共振器の両端反射条件においては、両端開放、両端短絡の場合も含めて、互いに複素共役の関係にあるインピーダンス素子31,32の組をそれぞれ伝送線路の両端子T1,T2に挿入することにより、各単位セル内の直列枝共振回路10と、並列枝共振回路20とが同時に共振する二重共振状態が実現できる。また、両端子T1,T2のインピーダンス素子31,32である反射素子のリアクタンスの大きさXLの値を変えるだけで、各単位セル内の直列枝共振回路10と並列枝共振回路20のエネルギー分布を連続的に変えることができる。これにより、直列枝回路に流れる電流と、並列枝回路に流れる電流の大きさの比を連続的に変えることができる。
【0016】
実施形態.
(本実施形態の0次共振器の構成)
図2は実施形態に係るアンテナ装置で用いる0次共振器の等価回路図である。
図1に記載した比較例に係るCRLH線路30からなる0次共振器から、本実施形態に係る共振器では、CRLH線路30を構成する各単位セル内に含まれていた並列枝共振回路20を取り除き、直列枝共振回路10のみからなる周期構造回路33を構成する。周期構造回路33では、並列枝共振回路20が存在しないので、インピーダンスが互いに複素共役の関係となる一対の両端子T1,T2のインピーダンス素子(反射素子)のリアクタンスX
Lを変えることにより、直列枝共振回路10に流れる電流の大きさや、給電線から見た入力インピーダンスを制御することができる。後述するように、これらの特性を線状アンテナに適用して、0次共振アンテナ装置の小型化及び広帯域化を図る。
【0017】
(容量装荷V字型0次共振線状メタマテリアルアンテナ装置の構成法)
図3Aは実施形態に係る0次共振器を用いたアンテナ装置の構成例を示す平面図である。また、
図3Bは
図3AのA-A’線についての縦断面図であり、
図3Cは
図3AのB-B’線についての縦断面図である。
【0018】
図3A~
図3Cの誘電体基板40において、一対の素子導体51~53;61~63にそれぞれキャパシタC12~C13;C22~C23を周期的に挿入して、直列LC共振回路からなる一対の周期構造回路(
図2の33に対応するので、以下符号33を付す。)を構成する。一対の周期構造回路33を左右対称のV字形状で配置し、当該V字形状の一対の周期構造回路33の上側終端にはそれぞれ結合用キャパシタC14,C24を介して容量性反射素子となる素子導体54,64を接続する。一方、一対の周期構造回路33の下側終端にはそれぞれキャパシタC11,C21を介して共通の誘導性反射素子となるミアンダ形状の素子導体72を接続する。これにより、直列枝のみからなるV字型0次共振器構造を構成する。
【0019】
また、外部給電線としてマイクロストリップ線路の線路導体71を、誘導性反射素子の素子導体72の他端から接続する。さらに、素子導体72及び線路導体71を含む領域に対して裏面に接地導体41を配置する。ここで、誘電体基板40を挟設する線路導体71及び接地導体41によりマイクロストリップ線路を構成する。マイクロストリップ線路の線路導体71の幅は特性インピーダンス50Ωに対応する幅に設定される。なお、ここでミアンダ形状の素子導体72はインピーダンス変換の機能も有する。
【0020】
以上のように構成されたアンテナ装置において、アンテナ装置の小型化のために、上側端部における容量性反射素子を構成する素子導体54,64を互いに容量結合しているが、本発明はこれに限らず、当該容量結合せずに、例えば素子導体54,64をそれぞれ素子導体51~53;61~63と平行となるように一直線上で形成してもよい。このように構成しても0次共振器を用いたアンテナ装置を構成できる。
【0021】
(実施例1)
具体的に作成したアンテナ装置では、上記のアンテナ装置に係る回路を、横幅72mm×縦長57mmのサイズを有する誘電率2.62の誘電体基板40上に形成し、誘電体基板40の厚さを0.8mmとし、V字型アンテナ装置の素子導体51~53の幅は1mmで、素子導体72から素子導体54,64までのアンテナ装置のサイズは23.4×10mmである。なお、当該アンテナ装置のモデルは電磁界シミュレータHFSSを用いて作成している。
【0022】
(アンテナ装置の入力インピーダンスの調整)
本実施形態に係るアンテナ装置の入力インピーダンス特性を調べるため、比較例として、
図3Aにおいて、誘導性反射素子となるミアンダ形状の素子導体72を接続しない比較例に係るアンテナ装置を考える。
【0023】
図4は比較例に係るアンテナ装置の入力インピーダンスZinの周波数特性を示すグラフである。
図4から明らかなように、入力インピーダンスZinの実部Re[Zin]は50Ωと給電線路の特性インピーダンスに近いが、その虚部Im[Zin]は0から大きくずれた値を示している。また、入力インピーダンスZinの虚部Im[Zin]が0より小さい値となっていることから容量性を示す。
【0024】
図5は比較例に係るアンテナ装置の反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
図5から明らかなように、
図4の考察と同様に、入力インピーダンスZinの虚部Im[Zin]が0から大きくずれているので、十分な整合が取れておらず、インピーダンス整合回路の再作成が必要となることがわかる。
【0025】
図6は比較例に係るアンテナ装置の入力インピーダンスZinの周波数特性を示すスミスチャートである。公知のように、スミスチャートの上半分領域は誘導性を、下半分は容量性を示す。
図6から明らかなように、当該比較例に係るアンテナ装置では、動作点が下側半分の領域に集中して容量性を示し、この容量を減少するために、スミスチャートを用いながら、もう一方の誘導性反射素子の素子導体72を再形成し、目標とする動作周波数で、中央1の位置(50Ωの純抵抗)に移動するよう作成している。
【0026】
(広帯域動作)
図7は
図3Aのアンテナ装置の入力インピーダンスの調整方法を示す周波数特性のグラフであり、誘導性反射素子の素子導体72の反射特性を再検討した結果、得られたインピーダンスの周波数依存性を示す。
図7から、3GHzから6GHzまでの広帯域に亘り、入力インピーダンスZinの実部Re[Zin]をほぼ50Ωとし、その虚部Im[Zin]を0Ωとなるように調節できた。また、本実施形態に係るアンテナ装置の入力インピーダンスZinの調節方法を以下にまとめて記載する。
(1)低周波側では、0次共振周波数と関連するが、主に周期的にキャパシタC12~C13;C22~C23の容量C
L(
図3A)と、素子導体51~53;61~63のインダクタンスL
R(
図3A)で調整する。
(2)次に、高周波側では、素子導体51~53;61~63のインダクタンスL
R(
図3A)とV形状のなす角度θで入力インピーダンスZinの実部Re[Zin]を調整し、入力インピーダンスZinの虚部Im[Zin]は誘導性反射素子の素子導体72の長さにより調節できる。
【0027】
図8は
図7の調整方法を示すスミスチャートであり、再検討した結果、良好な反射特性の得られたアンテナ装置のスミスチャートを示す。
図8から明らかなように、動作周波数は3GHzから6GHzの広帯域に亘り、良好な整合を得られていることがわかる。
【0028】
(広帯域動作に寄与する共振モード)
本実施形態に係るアンテナ装置は広帯域に亘り反射特性が良好であるが、反射損失が特に小さくなる3箇所の動作周波数でそれぞれ異なる共振モードが関与している。これら3つの共振状態における電流分布の数値計算を、動作周波数3.2GHz、3.92GHz、4.98GHzの場合で電流分布を調べた。この電流分布の調査結果では、3.2GHzの場合で、電流分布がV字形状の一対の周期構造回路33に沿って一様となっていることから、一対の周期構造回路33は誘導性反射素子及び容量性反射素子を含めて0次共振モードで動作することが確認できた。また、3.92GHzの場合では、一対の周期構造回路33と誘導性反射素子の素子導体72の長さを含めてのl/4波長共振モードとして共振していることがわかった。さらに、4.98GHzの場合、V字形状の一対の周期構造回路33の上端から下端までが半波長サイズで共振していることが分かった。以上のことから、本実施形態に係るアンテナ装置は、低域側の0次共振と高域側の複数の波長共振モードを組み合わせることにより、広帯域動作を実現していることを確認した。
【0029】
(素子導体のみのV字形状アンテナ装置との比較)
図9は別の比較例に係るアンテナ装置の反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。本実施形態に係るアンテナ装置と比較するための基本構造として、素子導体51~53;61~63のみからなるV字アンテナ(キャパシタC11~C14;C21~C24なし、誘導性反射素子の素子導体72なし)の構造の回路を「別の比較例」とする。ここで、アンテナ装置の寸法及びその他のパラメータは本実施形態に係るアンテナ装置と同じとなるように設定している。このとき、当該別の比較例に係るアンテナ装置の共振モードは、電磁界分布から波長共振であることがわかっている。
【0030】
図9から明らかなように、当該別の比較例に係るアンテナ装置では、従来のモノポールアンテナ装置と類似して狭帯域動作を示す。
図9の場合、比帯域が10%で、広帯域アンテナとして動作しないことがわかる。
【0031】
(アンテナ装置の構造パラメータ)
本実施形態に係るアンテナ装置の構造作成に用いた誘電体基板40、キャパシタC11~C14;C21~C24の材料特性、誘導性反射素子の素子導体72及び線路導体72の寸法と、アンテナ装置のサイズをそれぞれ以下に示す。
(1)容量性反射素子を構成する素子導体54,64の長手方向の長さL2=8mm;
(2)誘導性反射素子の素子導体72の全体長L3=3.1×2+4.2=10.4mm;
(3)直線部分の周期構造回路33の長さL1=18mm;
(4)誘電体基板40:比誘電率2.60;誘電正接0.0017;番号:NPC-F260A(日本ピラー工業株式会社);
(5)キャパシタC11~C14;C21~C24:0.6pF;番号:GJM1555C1HR60WB01D(村田エレクトロニクス株式会社)。
【0032】
(V字形状のメタマテリアルアンテナ装置の角度依存性)
本実施形態に係るアンテナ装置の下側先端の一対の周期構造回路33間の角度θ(
図3A)の変化に伴う影響について、アンテナの基本特性に与える角度の影響を調べた。ここで、角度θを変化させると、ボウタイアンテナ装置とほぼ同じ動作原理で、アンテナ装置の素子導体と接地導体間の入力インピーダンスが大きく変わるので、反射特性を微調整することができる。
【0033】
図10A及び
図10Bは
図3Aのアンテナ装置において角度θを変化したときの反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
図10A及び
図10Bから明らかなように、反射特性は角度θの変化と共に変わるが、ほぼ同じ3GHz-6GHzの動作帯域内で広帯域動作することが確認できる。得られた結果としては、本実施形態に係るアンテナ装置の角度θの導入はボウタイアンテナ装置と類似して広帯域動作を獲得するためであるが、従来のボウタイアンテナ装置と大きく異なる点は、帯域を犠牲にすることなく、先端角度を自由に変えられる形成の自由度がある点である。
【0034】
(V字形状の周期構造回路33の長さL1と動作帯域の関係)
V字形状のメタマテリアルアンテナ装置のサイズが変化したとき、動作帯域に与える影響を検討する。周期構造回路33の長さL1(
図3A)が、L1=25mm、L1=18mm、L1=13mmのそれぞれの場合のアンテナ装置についての動作帯域について以下に考察する。
【0035】
図11は
図3Aのアンテナ装置において長さL1を変化したときの反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。上述のように、本実施形態に係るアンテナ装置は、高周波側では半波長共振モードとして動作することから、周期構造回路33の長さL1が短くなると、半波長共振周波数は高周波側へ移動することは明らかである。実際、
図11を参照すると、長さL1が短くなるにつれて、半波長共振周波数は高周波側へ移動し、その結果、動作帯域がより広帯域化していることが確認できる。
【0036】
(接地導体41のサイズの影響)
本実施形態に係るアンテナ装置では、広帯域化動作を目的として、ボウタイアンテナの形状に類似した構造を採用しているため、V字形状の周期構造回路33と接地導体41との間に電磁界が集中している。当該アンテナ装置において、接地導体41のサイズは無視できず、全体構造のうち大きな割合を占めている。当該アンテナ装置の小型化を考える上で、接地導体41の小型化は不可欠であるが、特に低周波側で、放射特性に影響しないよう作成する必要がある。
【0037】
そこで、以下では、接地導体41のサイズの影響を検討する。当該サイズの影響を検討するための2つのモデルを以下に示す。
(モデル1)誘電体基板40の横幅全面(72mm)に接地導体41を形成し、キャパシタC11~C14;C21~C24=0.6pFのとき。
(モデル2)誘電体基板40の横幅を中央部(15mm)に限定して接地導体41を形成することで接地導体41のサイズを大幅に減少させ、キャパシタC11~C14;C21~C24=1.6pFのとき。
【0038】
本実施形態に係るアンテナ装置では、放射原理が帯域により異なるので、接地導体41のサイズを減少させたモデル2の場合、周期構造回路33の最適化な数値設定をしなければならない。得られた結果として、モデル2のキャパシタC11~C14;C21~C24の最適値は1.6pFとなった。
【0039】
図12は
図3Aのアンテナ装置において接地導体41の面積を減少させたとき(モデル2)の反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。モデル2のごとく、キャパシタC11~C14;C21~C24がモデル1に比較して大きくなったことに伴い、低周波側の0次共振モードの動作周波数はより低域側に移動する。但し、動作比帯域としてみたとき、接地導体41のサイズを変更する前とほぼ同じ程度であることがわかる。
【0040】
図13は
図3Aのアンテナ装置において接地導体41の横幅を変化させたときの反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。
図13では、接地導体41の横幅をそれぞれ12mm、15mm、18mmとした場合の反射特性の変化を
図13に示す。
図13から明らかなように、接地導体41のサイズが小さくなるにつれて反射特性が特に低周波側で劣化していくことがわかる。
【0041】
図14Aは
図3Aのアンテナ装置において接地導体41の横幅を変化させる前の放射パターンを示す図である。また、
図14Bは
図3Aのアンテナ装置において接地導体41の横幅を変化させた後の放射パターンを示す図である。
図14Aでは、接地導体41の横幅が72mmと大きいため、
図3の上方向(アンテナ上端方向)に放射する。これに対して、
図14Bでは、接地導体41のサイズが小さいので、
図3の下方向(アンテナ下端方向)への放射が強くなる、E面において、8の字形で放射する。
【0042】
(実験による動作検証)
図15Aは
図3Aのアンテナ装置を試作したアンテナ装置の平面図の写真であり、
図15Bは前記試作したアンテナ装置の背面図の写真である。なお、試作したアンテナ装置のパラメータは、数値計算モデルのパラメータと同じであるとした。
【0043】
図16は
図3Aのアンテナ装置の反射係数S11の周波数特性の実測値S11mとシミュレーション値S11sを示すグラフである。
図16から明らかなように、実測値S11mとシミュレーション値S11sは互いに良く一致していることがわかる。また、試作誤差により、低周波側で0.2GHzの帯域誤差がある。実測値S11mの動作比帯域は78.2%であった。
【0044】
次に、放射パターンの測定結果を
図17A~
図17Eに示す。ここで、
図17A~
図17Eは、
図3Aのアンテナ装置において周波数f=3.2~5.8GHzのときの放射パターン(H面)を示す図である。
図17A~
図17Eにおいて、各パターンは以下の通りである。
(1)Gθs:平面(H面)の放射パターンのシミュレーション値;
(2)Gθm:平面(H面)の放射パターンの実測値;
(3)Gφs:垂直面(E面)の放射パターンのシミュレーション値;
(4)Gφm:垂直面(E面)の放射パターンの実測値。
【0045】
本実施形態に係るアンテナ装置はV字形状で角度θの一対の周期構造回路33を有することから、少なからず角度φ方向にも放射成分をもつ。これについては、一対の反射器を接地導体41に対して平行な位置に設置することにより、角度φ方向成分の放射を抑制することができるが、完全にキャンセルすることはできない。従って、交差偏波が存在することとなる。
図17A~
図17Eから明らかなように、角度θ成分はH面内に無指向に放射することがわかる。また、測定結果と数値計算結果がよく一致していることがわかる。
【0046】
図18は
図3Aのアンテナ装置において放射利得Gpの周波数特性の実測値Gpmとシミュレーション値Gpsを示すグラフである。
図18から明らかなように、
図16の反射係数S11が-10dB以下となる3~6GHzの帯域内では最大利得0dBiでほぼ無指向性の放射特性を示している。
【0047】
(他のアンテナとの性能比較)
図19は本実施形態に係る
図3Aのアンテナ装置と、比較例に係るUWB用ボウタイアンテナ装置との比較を示す表である。
【0048】
図19から明らかなように、ボウタイアンテナ装置はUWBアンテナとして120%以上の広帯域を持つが、アンテナ装置の寸法が4分の1波長程度あることから寸法が大きいという問題がある。これに対して、本実施形態に係るアンテナ装置は、動作比帯域は80%程度とボウタイアンテナ装置に比べれば若干見劣りする。しかし、サブ波長サイズで構成できることから、ボウタイアンテナ装置に比べて非常に小さく作成できることがわかる。本実施形態に係るアンテナ装置の小型化がさらに進めば、将来の携帯電話用のアンテナ装置或いはIoTアンテナ装置として使える可能性がある。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、0次共振器を用いたアンテナ装置において、従来技術に比較して広帯域で動作しかつ小型化できる。
【0050】
(変形例)
以上の実施形態では、0次共振器の周期構造回路33において、複数の直列枝共振回路10を備えているが、本発明はこれに限らず、少なくとも1つの直列枝共振回路10を備えて0次共振器を構成すればよい。
【0051】
以上の実施形態では、例えばチップキャパシタを用いてキャパシタC11~C14,C21~C24を構成しているが、本発明はこれに限らず、インターデジタル構造を有するキャパシタを用いて構成してもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 直列枝共振回路
20 並列枝共振回路
11,21 インダクタ
12,22 キャパシタ
30 左手系/右手系複合伝送線路(CRLH線路)
31,32 インピーダンス素子
33 周期構造回路
40 誘電体基板
41 接地導体
51~54,61~64 素子導体
71 線路導体
72 素子導体
C11~C14,C21~C24 キャパシタ
T1,T2 端子