IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ロイコケア・アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

特許7170329処理中の生物医薬製品の安定化のための新規な方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】処理中の生物医薬製品の安定化のための新規な方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20221107BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221107BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221107BHJP
   A61K 9/19 20060101ALN20221107BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20221107BHJP
【FI】
A61K39/395 J
A61K47/18
A61K47/26
A61K9/19
C07K16/18
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019514711
(86)(22)【出願日】2017-09-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2017073368
(87)【国際公開番号】W WO2018050870
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-06-16
(31)【優先権主張番号】16189346.6
(32)【優先日】2016-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508329885
【氏名又は名称】ロイコケア・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】ショルツ,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ケムター,クリスティナ
(72)【発明者】
【氏名】アルトリヒター,イェンス
(72)【発明者】
【氏名】クリーフーバー,トーマス
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/059284(WO,A1)
【文献】特表2015-525748(JP,A)
【文献】特許第5798356(JP,B2)
【文献】国際公開第2015/140751(WO,A1)
【文献】特表2014-522827(JP,A)
【文献】特表2014-523243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 38/00
A61K 45/00
A61K 9/00
A61K 47/00
C07K 16/18
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的のモノクローナル抗体を含む生物医薬製品を生産する方法であって、前記方法が、
(a)目的のモノクローナル抗体の原薬を調製する第1相であって、前記第1相が、
(a1)採取、および、
(a2)濃縮、
から選択される少なくとも1つの処理ステップを含み、
前記第1相における前記少なくとも1つの処理ステップが、少なくとも3つのアミノ酸を含む組成物の存在下で行なわれ、
前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供するものであり、
ならびに、
(b)(a)で調製された前記原薬をさらに処理して生物医薬製品を得る第2相であって、前記第2相が、
(b1)再緩衝化、
(b2)凍結、
(b3)解凍、および、
(b4)充填
から選択される少なくとも1つの処理ステップを含み、
前記第2相における前記少なくとも1つの処理ステップが、
(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸、ならびに、
(ii)1つまたは複数の糖、
を含み、
アミノ酸と糖との比が10:1~1:100(w/w)である組成物の存在下で行なわれる前記第2相を含み、
ここで、前記正に荷電した官能基を提供するアミノ酸が、リジン、アルギニン、ヒスチジンおよびオルニチンからなる群から選択され、
前記抗酸化官能基を提供するアミノ酸が、メチオニン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、N-アセチルトリプトファン、N-アセチルヒスチジンおよびカルノシンからなる群から選択され、
前記浸透圧調整機能を提供するアミノ酸が、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ベタイン、カルニチン、クレアチン、クレアチニンおよびβ-アラニンからなる群から選択され、
前記緩衝機能を提供するアミノ酸が、グリシン、アルギニンおよびヒスチジンからなる群から選択されるものである、
前記方法。
【請求項2】
(b)で得られた前記生物医薬製品が、液体製剤としての保存および/または投与のためにさらに処理される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体製剤が、0.001から100mg/ml未満の濃度範囲における前記生物医薬製品の保存および/または投与のためのものであり、前記製剤が以下の賦形剤:
(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸であって、
ここで、前記正に荷電した官能基を提供するアミノ酸が、リジン、アルギニン、ヒスチジンおよびオルニチンからなる群から選択され、
前記抗酸化官能基を提供するアミノ酸が、メチオニン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、N-アセチルトリプトファン、N-アセチルヒスチジンおよびカルノシンからなる群から選択され、
前記浸透圧調整機能を提供するアミノ酸が、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ベタイン、カルニチン、クレアチン、クレアチニンおよびβ-アラニンからなる群から選択され、
前記緩衝機能を提供するアミノ酸が、グリシン、アルギニンおよびヒスチジンからなる群から選択されるものである、
ならびに、
(ii)1つまたは複数の糖、
を含み、
前記アミノ酸と前記糖との比が4:1~1:2(w/w)に調節されていることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記液体製剤が、100~500mg/mlの高濃度範囲における前記生物医薬製品の保存および/または投与のためのものであり、前記製剤が以下の賦形剤:
(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸であって、
ここで、前記正に荷電した官能基を提供するアミノ酸が、リジン、アルギニン、ヒスチジンおよびオルニチンからなる群から選択され、
前記抗酸化官能基を提供するアミノ酸が、メチオニン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、N-アセチルトリプトファン、N-アセチルヒスチジンおよびカルノシンからなる群から選択され、
前記浸透圧調整機能を提供するアミノ酸が、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ベタイン、カルニチン、クレアチン、クレアチニンおよびβ-アラニンからなる群から選択され、
前記緩衝機能を提供するアミノ酸が、グリシン、アルギニンおよびヒスチジンからなる群から選択されるものである、
ならびに、
(ii)1つまたは複数の糖、
を含み、
前記アミノ酸と前記糖との比が4:1~1:1(w/w)に調節されていることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記液体製剤が、前記目的のモノクローナル抗体と前記(i)の少なくとも3つのアミノ酸との比が3.5:1~1:2(w/w)になるようにさらに調節される、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
(c)(b)で得られた前記生物医薬の原薬を乾燥して、乾燥された生物医薬製品を得る第3のステップをさらに含み、前記第3相における前記乾燥ステップが、以下の賦形剤:
(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸、ならびに、
(ii)1つまたは複数の糖、
を含む組成物の存在下で行なわれ、
目的のモノクローナル抗体と前記賦形剤の合計との比が1:1~1:10(w/w)に調節され、ここで、前記賦形剤が
(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸、ならびに、
(ii)1つまたは複数の糖、
を含むものであり、
ここで、前記正に荷電した官能基を提供するアミノ酸が、リジン、アルギニン、ヒスチジンおよびオルニチンからなる群から選択され、
前記抗酸化官能基を提供するアミノ酸が、メチオニン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、N-アセチルトリプトファン、N-アセチルヒスチジンおよびカルノシンからなる群から選択され、
前記浸透圧調整機能を提供するアミノ酸が、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ベタイン、カルニチン、クレアチン、クレアチニンおよびβ-アラニンからなる群から選択され、
前記緩衝機能を提供するアミノ酸が、グリシン、アルギニンおよびヒスチジンからなる群から選択されるものである、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(b)で得られた前記生物医薬製品の乾燥が、フリーズドライ、スプレー乾燥、またはスプレーフリーズドライによるものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(c)で得られた前記乾燥された生物医薬製品が滅菌され、好ましくは最後に滅菌される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(c)で得られた前記乾燥された生物医薬製品を再構成して液体製剤を得るステップをさらに含み、
前記乾燥された生物医薬製品を再構成して、
(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸であって、
ここで、前記正に荷電した官能基を提供するアミノ酸が、リジン、アルギニン、ヒスチジンおよびオルニチンからなる群から選択され、
前記抗酸化官能基を提供するアミノ酸が、メチオニン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、N-アセチルトリプトファン、N-アセチルヒスチジンおよびカルノシンからなる群から選択され、
前記浸透圧調整機能を提供するアミノ酸が、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ベタイン、カルニチン、クレアチン、クレアチニンおよびβ-アラニンからなる群から選択され、
前記緩衝機能を提供するアミノ酸が、グリシン、アルギニンおよびヒスチジンからなる群から選択されるものである、
ならびに、
(ii)1つまたは複数の糖、
を含み、
前記アミノ酸と前記糖との比が4:1~1:1(w/w)である組成物の中で液体の生物医薬製品を得ることを特徴とする、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)における前記組成物が0.5mg/ml~10mg/mlのトリプトファンおよび0.5mg/ml~30mg/mlのヒスチジンを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アミノ酸と前記糖との比が10:1~100:1に調節される、請求項3、4、5、6、および9に記載の方法。
【請求項12】
前記目的のモノクローナル抗体と前記賦形剤の合計との比が1:1~1:500に調節される、請求項5または6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は目的の生体分子を含む生物医薬製品を生産する方法に関し、前記方法は(a)目的の生体分子の原薬を調製する第1相であって、前記第1相が、(a1)採取、(a2)精製、(a3)再緩衝化、および(a4)濃縮から選択される少なくとも1つの処理ステップを含み、この第1相における前記少なくとも1つの処理ステップが、少なくとも3つのアミノ酸を含む組成物の存在下で行なわれ、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、第1相、および(b)(a)で調製された原薬をさらに処理して生物医薬製品を得る第2相であって、前記第2相が、(b1)再緩衝化、(b2)凍結、(b3)解凍、および(b4)充填から選択される少なくとも1つの処理ステップを含み、この第2相における前記少なくとも1つの処理ステップが、(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸、および(ii)1つまたは複数の糖を含み、アミノ酸と糖との比が10:1~1:100(w/w)である組成物の存在下で行なわれる第2相を含む。本発明はさらに、本発明の方法によって得られた、または得られる生物医薬製品に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、特許出願および製造元のマニュアルを含む多くの文献を引用する。これらの文献の開示は本発明の特許性に関連があるとは考えられないが、参照により全体として本明細書に組み込まれる。より具体的には、全ての参照した文献は、それぞれの個別の文献が具体的かつ個別に参照によって組み込まれると指示されているかのように同程度に参照により組み込まれる。
【0003】
生物医薬製品の分野、ならびにそれらの生産方法の分野は、急速に拡大している。一般に、目的の生体分子のスケールアップした生産の後、生物医薬製品は2つの主要な後続の下流相によって得られる。早期の第1相では、いわゆる原薬(本明細書ではバルク薬またはバルク原薬とも称する)が製造される。したがって、本明細書における原薬という用語は活性医薬成分のみでなく、たとえば緩衝剤、塩および安定剤も含む処理されたバルクでもある。後期の第2相では、前記原薬がさらに処理されて生物医薬製品になる。
【0004】
生物医薬製品の生産の間の1つの重要な観点は用いる生体分子の安定性である。医薬用のタンパク質およびペプチド、ならびに核酸、ポリペプチド、タンパク質、多糖、およびエンベロープされたウイルスまたはウイルス様粒子の場合にはリン脂質等の様々な種類の分子を含むより複雑な生体分子粒子は、それぞれの処理ステップの間に物理的および化学的なストレスを受けることが知られている。これらのストレスによって価値のない分子的変化が生じることがあり、それが次に機能の喪失、そして時にはさらに重大な安全性の問題を生じることが多い。最終の生物医薬製品の安定性には、それぞれの保存条件による老化プロセスによるさらなる問題もある。
【0005】
製造プロセス全体の間の生物医薬製品において生じる分子的変化は累積的である。換言すれば、初期原薬を生産するための個別の製造ステップの変化の組合せ、その保存および出荷、充填および仕上げ手順を含む原薬の薬剤製品への後続の開発ステップ、それに続く薬剤製品の出荷および保存、ならびに適用のための最終調製物に必要なステップ-これらが全て足し合わされて薬剤製品内で多くの望ましくない分子的変化を生じる。したがって、そのような分子的変化を避けることが、最終薬剤製品を製剤化する段階のみでなく、原薬の製造における早期の下流相においても重要な目標である。
【0006】
原薬の製造プロセスは、典型的には第1ステップとしての、たとえば生産細胞株からの、または分泌された生体分子の場合には増殖培地からの、目的の生体分子の採取から始まる。細胞培養または未精製の生体分子バルク原薬を含む培地から採取された生体分子は次いでさらに精製され、特徴付けされる。一般に、原薬を含む溶液は超遠心または標準的緩衝液中でのいくつかのクロマトグラフィーステップ等の処理ステップを受ける。これらの緩衝液は、典型的には条件を満たす密度勾配精製またはクロマトグラフィー精製が可能になるように最適化されるが、これらは通常、個別の生体分子につき具体的に選択されるいかなる安定化賦形剤も含まない。これらの手順により、生体分子または原薬は通常、生物医薬製造のこの早期相において既に物理的および化学的ストレスに曝される。特に、精製ステップには典型的には大きな物理的および化学的ストレスが付随する。したがって、できるだけ早期に、好ましくは採取および/または精製の間に、最大の安定化を引き起こす一般的なニーズが存在する。
【0007】
採取された生体分子の特徴付けの以下のステップは、いくつかの可能な分析方法の1つ(または複数)によって行なうことができる。これらの分析方法を実施可能にするには、採取された生体分子または原薬がその中に存在する緩衝液が、分析手順に干渉して生体分子または原薬の分子の完全性および純度に関する誤った解釈に導く可能性のある成分を含まないことが重要である。したがって、薬剤製品の製造の間のさらなる下流プロセスステップに必要でない全ての賦形剤を避けながら同時に、採取、精製および/または特徴付けの間またはその後にできるだけ早く、原薬の最大の安定化を達成することが重要である。
【0008】
原薬が分子の完全性および純度の要求を満たすことが確認されれば、精製され特徴付けられた原薬は次いで、濾過、充填、凍結乾燥、包装、保存および輸送等の原薬を処理する後続のステップの間の製品の品質および完全性を維持することを意図した賦形剤の中に調剤される。
【0009】
典型的には、原薬は凍結材料として保存される。凍結の欠点は、これらの凍結解凍手順の間に低温変性(Privalov PL、Crit.Rev、Biochem.Mol.Biol.、1990)およびタンパク質のアンフォールディング効果が生じ得ることである。バルク凍結解凍によって多くの操作上および製品品質上の利点が得られる一方、凍結濃縮機構のために原薬の安定性には不利であることも証明され得る。そのような機構には、pHの変化(Pikal-Cleland KAら、J.Pharm.Sci.、2002)ならびに賦形剤および生体分子の制御されない進行性の濃縮が含まれ、これらは生体分子の構造の変性を生じることがある(Rathore NおよびRajan RS、Biotechnol.Prog.、2008:Webb SDら、BioPharm、2002;Lashmar UTら、BioProcess Int、2007;Glaser V.、Gen.Eng.Biotechnol.News、2005)。さらに、凍結されたバルク薬はさらに処理する前に解凍する必要が必然的にある。解凍は、たとえば氷と液体の界面において、および再結晶の間に、原薬に付加的なストレスおよび損傷を与えることがある。多くの場合には、解凍手順の間に付加的な混合プロセスが含まれる。これらの場合には、液体と空気の界面等における原薬の損傷をもたらす剪断応力、発泡、および/または気泡の発生によるさらなる生体分子の損傷を避けるために、混合パラメーターを注意深く調節しなければならない(Rathore NおよびRajan RS、Biotechnol.Prog.、2008)。
【0010】
いずれの特定の製品に対する上記のバルク凍結解凍の影響も用いるそれぞれの生体分子に特有であり、したがっていくつかの原薬の調製についての製品品質には影響し得るが、他には影響しない。したがって、大スケールの処理に先立って、目的のそれぞれの個別の製品についての製品品質に対する多数の凍結解凍サイクルの影響を評価することが勧められる。これは典型的には大スケールのプロセスを模倣した標準化パラメーターを用いる小スケールの実験で行なわれ、最も好適な安定化賦形剤を同定するためのさらなる系統的選択ステップを含むことが多い。
【0011】
いったん原薬が得られれば、これは薬剤製品へとさらに処理される。これらの後続の処理ステップはしばしば「製剤化ステップ」とも称され、たとえば選択された賦形剤の濃縮、pHの調節、ならびに所望の電導性および生体分子の濃度の調節(すなわち生物医薬製品の濃縮)を含む(Scott C.、BioProcess Int.、2006)。開発のこの段階の間に、さらなるプロセスは希釈ステップまたは緩衝液交換(再緩衝化)等のステップも含み得る。緩衝液交換については、生体分子-溶質の相互作用を制限するために選択され、表面への吸着事象およびそれに続く原薬の分子の完全性の喪失をもたらすことが知られている限外濾過または透析濾過が典型的には行なわれている(Stoner MRら、J Pharm.Sci.、2004)。したがって、たとえば透析によって再緩衝化し、または緩衝液交換を実施する場合のさらなる目的は、液体と膜との相互作用の間の分子の完全性の既知の喪失および原薬の吸着を低減しまたは避けることと予想される。
【0012】
タンパク質の場合には、無菌濾過および薬剤製品の充填等のさらなる処理ステップは、原薬の生体分子を、タンパク質のアンフォールディングを引き起こすことがある高い剪断応力および表面への吸着に曝すことが多い(Maa Y、Hsu CC、Biotechnol.Bioeng.、1997)。治療用抗体については、固液界面の存在下における剪断による顕著なレベルのタンパク質の凝集および沈殿が報告されている(Biddlecombeら、Biotechnol.Prog.、2007)。さらに、充填プロセスを窒素下に行なわない場合には、このプロセスは生体分子の酸化および脱アミノ化を伴うことがある(Sharma B.、Biotechnol.Adv.、2007)。
【0013】
保存を最適化し、許容できる保存期間を達成するために、生物医薬製品は凍 結乾燥されることが多い。凍結乾燥には3つの主なステップ、すなわち凍結、一次乾燥および二次乾燥が含まれる。これらのステップのそれぞれは、生物医薬製品の生体分子の構造の不可逆的な変化および/またはより大きなレベルの凝集を生じる不安定性につながることがある。たとえば、生体分子の周囲からのバルク水の除去は、正常では生体分子の構造を正しく折り畳まれた形態に保つ疎水性効果の程度を低減させることがある。さらに、生物医薬の原薬または薬剤製品における生体分子の氷/水界面への吸着は変性をもたらすことがある(Strambini GBおよびGabellieri E.、Biophys.J.、1996)。したがって、生物医薬の原薬または薬剤製品中の生体分子への著しい損傷を避けるために、適切な医薬賦形剤および適切な凍結乾燥サイクルパラメーターを選択することが重要である。安定性の課題に加えて、薬剤製品を成功裡に創出するためにはケーキの形成および再構成が重要なパラメーターである(Rathore N、Rajan RS、Biotechnol.Prog.、2008)。
【0014】
充填、包装およびラベル貼付け等の後続の取扱いの間、特に適切な温度制御なしにラベル貼付けを行なった場合、または試料がラベル貼付け、保存、輸送および対象者への送達/投与の間に機械的ストレスに曝された場合には、物理的なストレスが起こることもある。特に、保存および輸送の間の剪断応力、熱ストレスおよび限定された光安定性は、特に低温流通の課題を有する送達サイトにとって重大な物流および経済上の問題である。したがって、高い温度は生体分子をタンパク質に基づく生体分子の熱アンフォールディングおよび凝集をもたらす熱ストレスに曝すことがある。さらに、光の存在は溶存酸素と相まってペルオキシラジカルの形成を導き、これがペプチド骨格の光分解を導くことがある(Davies MJ、Dean RT、Oxford University Press、1997)。これらの取扱いステップの間に起こり得る物理的ストレスは、製剤が液体製剤か乾燥製剤かによって考慮しなければならない。典型的には、乾燥製剤は液体製剤よりも安定である。
【0015】
最後に、生物医薬製品のヒトまたは動物の健康を含む医学における応用のためには、好適な賦形剤の選択を含んで最終の生物医薬製品の組成を選択する際に、意図された投与ルートを考慮に入れなければならない。たとえば、高濃縮治療用抗体の静脈内、経皮、皮内、皮下、または筋肉内投与には、容易で苦痛のない投与を可能にするために、十分なシリンジ通過性、注入性、好適なオスモル濃度および低い粘度等の適切な条件が必要である。一方、経口、経肺、または経鼻投与を意図する場合には、異なった要求が適用される。たとえば、経口投与には薬剤製品が消化性分子によって活性を失うことなしに胃腸管を通過することを可能にする製剤が必要であり、経肺投与には上気道および下気道の通過の間、および溶解した後にはそれぞれの粘膜の通過の間、安定である乾燥製剤が必要である。
【0016】
国際出願WO2005/007185号は、しばしば用いられる安定剤であるヒト血清アルブミン(HSA)の添加なしにタンパク質医薬を安定化させることを目的としている。その代わりに、安定化溶液は(i)好ましくは非イオン性洗浄剤、すなわち界面活性剤である表面活性物質および(ii)少なくとも2つのアミノ酸の混合物を含み、少なくとも2つのアミノ酸はグルタミン酸塩とグルタミンまたはアスパラギン酸塩とアスパラギンのいずれかである。この出願の目的は、一次的には保存中の、特に高温における6か月を超える長期保存中の低濃縮医薬化合物の安定化にある。しかし、処理中および製造中の具体的な安定化については記載されていない。
【0017】
国際出願WO2008/000780号には、タンパク質を含むスプレー乾燥粉末が少なくとも30%または少なくとも40%のフェニルアラニンを含む場合には安定化され、有利な空力学的挙動を有することが記載されている。粉末にフェニルアラニンを添加することにより、粉末の凝集および接着特性が粒子間の相互作用を低減させるように変化する。粉末粒子の表面をより疎水性にすることによって粉末の空力学的特性が改善され、したがって経肺適用のためにより好適になる。したがって、WO2008/000780号の目的は一次的には最終の「即投与」製品の調節であり、調製中の一般的な安定化および生産手順の改善については検討されていない。
【0018】
欧州特許出願EP第1789019号は、新規のオリゴ糖混合物の添加によって安定化された経肺適用のためのタンパク質薬剤のスプレー乾燥粉末を記載している。処理中のアミノ酸の組合せの明示的な保護効果には対処していない。その代わり、この出願は前記スプレー乾燥粉末を経肺適用のために好適にするために安定化または最適化することを目的としている。
【0019】
国際出願WO2010/151703号は、ペプチドまたはポリペプチドの安定性を増大させ、凝集を低減させ、または免疫原性を低減させるための、少なくとも1つのアルキルグリコシドを含む薬学的組成物を開示している。薬学的組成物の処理において用いるアミノ酸または特定のアミノ酸の組合せを含む組成物は記載されていない。
【0020】
米国特許出願US第2014/0127227号は、高濃縮製剤に対しても安定性および粘度に対処するための少なくとも1つのアミノ酸を含むタンパク質製剤について記載している。この出願は市販の生物医薬製品の製剤の安定性に焦点を当てており、早期の開発相の間および原薬の調製の間の生物医薬に対する賦形剤の効果には対処していない。
【0021】
国際出願WO2013/001044号は、IgM抗体等の複雑な生体分子であっても、乾燥および再構成の間のアンフォールディングを防止し効率的なリフォールディングを可能にするためのアミノ酸に基づく組成物の利点を記載している。国際出願WO2010/115835号は、照射および最後の滅菌の間でさえも材料表面に固定化された生体物分子を保護するためのアミノ酸含有組成物の利点を記載している。WO2010/112576号においても、照射および最後の滅菌の間の生体分子、ここでは密閉容器中の生体分子の保護のためのアミノ酸含有組成物の利点が開示されている。国際出願WO2013/001034号には、保存および輸送中の生きたウイルスの保護のためのアミノ酸含有組成物の利点が記載されている。最後に、WO2015/059284号には、熱ストレス、スプレー乾燥、および最後の滅菌の間の、たとえばインフルエンザに対する市販ワクチンの保護のためのアミノ酸含有組成物の利点が記載されている。しかし、これらの出願のいずれにおいても、早期処理ステップを含む抗体の生産の種々の処理ステップの間、および薬剤製品への最終製剤化の間の安定化には対処されていない。
【0022】
まとめると、これまでに利用可能な大部分の安定化アプローチは生産プロセスにおける1つの特定のステップ、改善された保存条件、または意図された投与ルートのための最適化された製剤に焦点を当てている。これまでのところ、生物医薬の原薬および薬剤製品の製造の間の早期の分子の変化を避けること、およびさらなる処理の間のこれらの早期の不安定性が増大する可能性を避けることについては考慮が払われていない。さらに、これらのアプローチのいずれも、全体の調製プロセスを考慮して、すなわち大部分もしくは全ての生産、下流の処理、および製剤化ステップを通して改善された保護を提供することを目的とし、同時にこれらのステップに必要な種々の安定化組成物の量を最小化することを目的として開発されてはいない。したがって、生物医薬の原薬および薬剤製品の製造を改善するために現在存在する製剤設計を改善するニーズがいまだに存在する。
【発明の概要】
【0023】
このニーズは、特許請求の範囲で特徴付けられる実施形態を提供することによって対処される。
【0024】
したがって、本発明は目的の生体分子を含む生物医薬製品を生産する方法に関し、前記方法は(a)目的の生体分子の原薬を調製する第1相であって、前記第1相が、(a1)採取、(a2)精製、(a3)再緩衝化、および(a4)濃縮から選択される少なくとも1つの処理ステップを含み、この第1相における前記少なくとも1つの処理ステップが、少なくとも3つのアミノ酸を含む組成物の存在下で行なわれ、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、第1相、および(b)(a)で調製された原薬をさらに処理して生物医薬製品を得る第2相であって、前記第2相が、(b1)再緩衝化、(b2)凍結、(b3)解凍、および(b4)充填から選択される少なくとも1つの処理ステップを含み、この第2相における前記少なくとも1つの処理ステップが、(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸、および(ii)1つまたは複数の糖を含み、アミノ酸と糖の比が10:1~1:100(w/w)である組成物の存在下で行なわれる第2相を含む。
【0025】
本明細書で用いる用語「生物医薬製品」は周知であって医薬製品に関し、前記医薬製品は1つまたは複数の生体分子に基づいている(本明細書において生体分子に基づく医薬製品とも称する)。生物学的供給源から製造され、抽出され、もしくは半合成された、またはたとえば化学合成され、もしくはたとえばインビトロ翻訳タンパク質等のインビトロ系を介して合成された任意の生体分子に基づく医薬製品は、前記用語に包含される。「生物医薬製品」という用語はまた、「生物医薬」、「薬剤製品」、「生物学的医学製品」、「生物学的製剤」または「生物製剤」という用語と相互交換可能に用いられる。
【0026】
生物医薬製品は目的の生体分子を含む。本明細書で用いる用語「生体分子」は、典型的には生体中に存在する任意の分子に関する。好ましい生体分子は、タンパク質、炭水化物、脂質、および核酸等の大きな高分子、ならびに一次代謝物、二次代謝物、および天然産生物等の小分子である。「生体分子」という用語は1種類の生体分子に限定されず、2つ以上の生体分子も包含し、すなわち「1つまたは複数の生体分子」も意味する。
【0027】
本発明の方法はそのような生物医薬製品の生産に関し、生産は2つの相を含む。第1相では目的の生体分子の原薬が調製される。第2相では前記原薬がさらに処理されて生物医薬製品が得られる。
【0028】
「原薬」という用語は本明細書において「バルク薬」または「バルク原薬」という用語と相互交換可能に用いられる。これらの用語は当技術分野で周知であり、薬剤における使用のために表され、薬剤の製造、処理、または包装の際に用いられて薬剤の活性成分または最終用量形態になる任意の物質を意味する。FDAの定義によれば、この用語はそのような物質の合成に用いられる中間体を含まない。
【0029】
本発明の製造方法の前記第1相は、(a1)採取、(a2)精製、(a3)再緩衝化、および(a4)濃縮から選択される少なくとも1つの処理ステップを含む。
【0030】
本明細書で用いる用語「含む」は、言及されたステップおよび/または成分に加えてさらなるステップおよび/または成分が含まれてもよいことを意味する。たとえば、好ましい実施形態では、この用語は、ステップ(a)の組成物等の組成物中に糖が存在することを包含する。しかし、この用語はまた、特許請求された主題が、言及されたステップおよび/または成分のみからなっていることも包含する。
【0031】
本明細書で用いる用語「少なくとも」は、具体的に言及された量または数を意味するが、具体的に言及された量または数を超える量または数も意味する。たとえば、「少なくとも1つ」という用語は、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも20等、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50なども包含する。さらに、この用語は正確に1、正確に2、正確に3、正確に4、正確に5、正確に6、正確に7、正確に8、正確に9、正確に10、正確に20、正確に30、正確に40、正確に50なども包含する。言及された処理ステップに関して、「~から選択される少なくとも1つの処理ステップ」という用語は、前記処理ステップの1つ、2つ、3つ、4つまたは5つが行なわれることを包含するが、6つの処理ステップの全てが行なわれることも包含する。これらの処理ステップを列挙する順序は特に制限されないが、2つ以上のステップが行なわれる場合には、前記ステップは言及された順序で行なわれることが好ましいことが理解されよう。たとえば再緩衝化等のある種の処理ステップが、本発明の方法の前記第1相で原薬を調製するプロセスにおいて2回以上行なわれてもよいことがさらに理解されよう。
【0032】
本明細書で用いる用語「採取する」は、目的の生体分子を産生する供給源から目的の生体分子を得るプロセスステップに関する。たとえば組み換えヒトインスリン、ヒト成長ホルモン、エリスロポエチン(EPO)、血液凝固因子、モノクローナル抗体およびインターフェロン等の市販の治療用タンパク質の大部分は、枯草菌および大腸菌、酵母およびその他の真菌等の微生物、または哺乳類細胞を供給源として用いる大スケール発酵によって生産される。治療用タンパク質の重要な供給源としての哺乳類細胞培養の顕著な例としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞および幼児ハムスター腎臓(BHK)細胞がある。前記供給源は培養培地中に生体分子を分泌し、または細胞内に生体分子を発現することができる。後者の場合には、タンパク質を採取するために細胞を破壊する追加的な要求があるので、採取手順は典型的にはより複雑である。さらに、生体分子は動物組織、体液、および植物等の供給源から採取することもできる。
【0033】
採取のプロセスにおいて用いられる典型的な方法には、遠心、濾過およびミクロ濾過、ならびにクロマトグラフィーが含まれる。これらの方法は当技術分野で周知である。
【0034】
本明細書で用いる用語「精製」は、目的の生体分子を単離するために用いられる手法に関する。精製は典型的にはさらなる処理のために高度に精製された原薬、すなわち目的の生体分子以外の他の物質を含まない、もしくは実質的に含まない生成物を回収するために生物医薬製造の早期の相において行なわれる。生体分子を精製するために典型的に実施される方法およびステップには、たとえば生体分子の濃縮および/またはたとえば遠心、沈殿、濾過/超遠心、またはイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、およびサイズ排除クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーの方法による異物(宿主細胞)タンパク質を除去するための清浄化、ならびにたとえば分解生成物、生成物の酸化、脱アミド化、または分解形態等の生成物の誘導体、および発熱性物質等の夾雑物のたとえばサイズ排除クロマトグラフィーによる除去のためのさらなる仕上げステップが含まれる。
【0035】
本明細書で用いる用語「再緩衝化」は、原薬または最終薬剤製品のための適合されたまたは最適化された環境を得るための存在する製剤の改質のための方法に関する。再緩衝化を行なう1つの可能は方法は、存在する製剤をたとえば水または緩衝液の添加によって希釈することである。あるいは、存在する製剤は、たとえば本明細書で以下に述べる賦形剤等の特定の賦形剤を添加することによって改質することができる。再緩衝化を行なう特に好ましい方法は透析によるものである。透析は当技術分野で周知の方法であり、膜を横切る小分子溶質の拡散を可能にするために半透過性透析膜が用いられ、液体の成分が交換されて生体分子は分子量および透析膜の適用した分子量カットオフに応じて透析カセットの中に保持される。
【0036】
本明細書で用いる用語「濃縮」は、それぞれの分子(製造の段階に応じてたとえば生体分子、原薬もしくは生物医薬の原薬または薬剤製品)の濃度の増大に関する。好ましくは、濃度はそれぞれの濃縮された生成物が用いられる最終濃度および用量に対応するレベルに増大される。
【0037】
本発明の生産方法のこの第1相は特定の組成物、すなわち少なくとも3つのアミノ酸を含む組成物の存在下で行なわれ、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せは、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する。本明細書においてこの組成物は「第1相組成物」または「早期相組成物」とも称する。
【0038】
前記組成物は少なくとも3つのアミノ酸の存在によって特徴付けられる。これらの3つのアミノ酸は、言及された4つの官能基を提供するように選択される。「少なくとも3つのアミノ酸」という用語は、3つの異なったアミノ酸を意味することが認識されよう。
【0039】
本明細書で用いる用語「アミノ酸」は当技術分野で周知である。アミノ酸はタンパク質の本質的な構成要素である。本発明によれば、「アミノ酸」という用語は、相互に結合してジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド等のオリゴマーもしくはポリマーまたはタンパク質(本明細書ではポリペプチドとも称される)を形成しない遊離アミノ酸を意味する。これらは、非極性、脂肪族、極性、非荷電、正および/または負荷電、および/または芳香族R基を有する賦形剤の特徴的な群に分類することができる(Nelson D.L.、Cox M.M.、Lehninger Biochemie(2005)、122~127頁)。
【0040】
本発明によるアミノ酸は、天然産生アミノ酸ならびに人工アミノ酸またはこれらの天然産生アミノ酸もしくは人工アミノ酸の誘導体から選択することができる。天然産生アミノ酸は、たとえば20個のタンパク源性アミノ酸、すなわちグリシン、プロリン、アルギニン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、システイン、フェニルアラニン、リジン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、メチオニン、セリン、バリン、チロシン、スレオニン、およびトリプトファンである。その他の天然産生アミノ酸は、たとえばカルニチン、クレアチン、クレアチニン、グアニジノ酢酸、オルニチン、ヒドロキシプロリン、ホモシステイン、シトルリン、ヒドロキシリジン、またはβ-アラニンである。人工アミノ酸は、異なった側鎖長および/もしくは側鎖構造を有し、ならびに/またはα炭素原子と異なった部位にアミン基を有するアミノ酸である。アミノ酸の誘導体は、限定しないがN-アセチルトリプトファン、ホスホノセリン、ホスホノスレオニン、ホスホノチロシン、メラニン、アルギニノコハク酸およびそれらの塩ならびにDOPAである。本発明に関して、全ての用語はそれぞれのアミノ酸の塩も含む。
【0041】
正に荷電した官能基をそれらの対応する側鎖を介して提供するアミノ酸は当技術分野で周知であり、たとえばリジン、アルギニン、ヒスチジン、およびたとえばオルニチン等の非タンパク源性アミノ酸が含まれる。
【0042】
本明細書で用いる用語「浸透圧調整機能を提供するアミノ酸」は、浸透圧特性を提供するアミノ酸に関する。そのようなアミノ酸も当技術分野で周知であり、たとえばグリシン、アラニン、およびグルタミン酸、ならびにたとえばベタイン、カルニチン、クレアチン、クレアチニン、およびβ-アラニン等の、それぞれタンパク源性および非タンパク源性のアミノ酸の誘導体が含まれる。
【0043】
本明細書で用いる用語「抗酸化官能基を提供するアミノ酸」は、その側鎖(の1つ)を介して抗酸化特性を提供するアミノ酸に関する。そのようなアミノ酸も当技術分野で周知であり、たとえばメチオニン、システイン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、およびチロシン、ならびにたとえばN-アセチルトリプトファン、N-アセチルヒスチジン、またはカルノシン等のタンパク源性および非タンパク源性のアミノ酸の誘導体が含まれる。
【0044】
「緩衝機能を提供するアミノ酸」という用語は、その官能基の1つまたは複数を介して緩衝能を提供するアミノ酸に関する。そのようなアミノ酸は当技術分野で周知であり、たとえばグリシン、アルギニン、およびヒスチジンが含まれる。
【0045】
1つのアミノ酸が前記官能基および/または機能のいくつか、たとえばそれぞれ2つ、3つ、または4つ全ての官能基および機能を組み合わせ得ることも認識されよう。本明細書においてはアミノ酸がそのような官能基および/または機能の提供において重複してもよいことも意図される。すなわち、たとえばヒスチジンのように、抗酸化官能基を提供するアミノ酸が緩衝機能を提供してもよい。
【0046】
ある実施形態では、すなわち組成物が正確に3つのアミノ酸からなる場合には、4つ全ての官能性基および機能がそれぞれ前記3つのアミノ酸によって提供されることが必要である。換言すれば、アミノ酸の少なくとも1つはそれぞれ官能性基および機能の2つ(またはそれ以上)を提供する。たとえば、グリシンは浸透圧調整機能ならびに緩衝機能を提供し、ヒスチジンは抗酸化官能基ならびに緩衝機能を提供する。
【0047】
好ましい実施形態では、この第1相組成物はアミノ酸のみからなる。すなわち、これは糖(糖アルコールを含む)、キレート化剤、およびアミノ酸以外の抗酸化剤、界面活性剤、安定化タンパク質またはペプチド等の他の賦形剤を含まない。さらにより好ましくは、第1相組成物はそれぞれ4つの言及された官能基および機能を提供する正確に3つのアミノ酸からなる。
【0048】
代替の好ましい実施形態では、この第1相組成物は少なくとも1つの糖を含む。より好ましい実施形態では、第1相組成物は上で言及されたアミノ酸および少なくとも1つの糖からなる。
【0049】
本発明による第1相組成物中に含ませる少なくとも3つのアミノ酸の好ましい量は5mg/ml~100mg/ml、より好ましくは10mg/ml~75mg/ml、さらにより好ましくは15mg/ml~50mg/ml、最も好ましくはその量は約20mg/mlである。これらの好ましい量は溶液中に存在する全てのアミノ酸の合計を意味することが認識されよう。
【0050】
本明細書で用いる用語「約」は、明示的に言及された値ならびにそれからの小さな偏差を包含する。換言すれば、「約20mg/ml」のアミノ酸の量は、正確でなくてもよいが言及された20mg/mlの量を含むが、数mg/mlの相違があってもよく、したがってたとえば21mg/mlまたは19mg/mlを含む。
【0051】
当業者であればそのような値は相対的な値で、その値が言及された値にほぼ対応している限り、完全な正確性を要求していないことを熟知している。したがって、言及された値からのたとえば15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%の偏差は「約」という用語に包含される。15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%のこれらの偏差は、「約」という用語を用いる本発明に関連する全ての実施形態にあてはまる。
【0052】
本発明の方法は、第1相における言及された処理ステップが、この第1相組成物の「存在下で」行なわれることを必要とする。換言すれば、バルク原薬は第1相組成物と接触させられる。これは、たとえば目的の生体分子が、存在する溶媒を第1相組成物と交換することによって、またはたとえば抗体の場合には第1の精製カラムの間に、もしくはウイルスベクターの場合には超遠心の間に、存在する溶媒に少なくとも3つのアミノ酸を添加することによって、第1相組成物中に直接採取されるならば、達成される。
【0053】
この第1相で得られた原薬は次いで、原薬を生物医薬製品に製剤化するために、さらなる処理ステップの第2相にさらに供される。この第2相では、(b1)再緩衝化、(b2)凍結、(b3)解凍、および(b4)充填から選択される少なくとも1つの処理ステップが行なわれる。
【0054】
第1相に関して本明細書で上に提供した定義および好ましい実施形態は、他に定義しない限り準用される。たとえば、用語「含む」、「少なくとも」、「再緩衝化」、「透析」、「アミノ酸」、「~の存在下で」等は上で定義した通りである。
【0055】
本明細書で用いる用語「凍結」は、試料を固体の凍結状態に移すプロセスに関する。凍結は典型的には保存のための試料を調製するために利用される。それは、この状態ではたとえば汚染のリスクが低減されるためである。
【0056】
本明細書で用いる用語「解凍」は、試料を固体の凍結状態から非凍結状態に移すプロセスに関する。大部分の場合には、解凍された試料は液相で存在することになるが、乾燥生成物が凍結された場合には、解凍された生成物はさらなる処理のために引き続いて再構成することができる乾燥した非凍結状態に戻ることになる。いったん解凍されれば、生成物はたとえば充填等のさらなる開発または製造プロセスに利用可能である。
【0057】
本明細書で用いる用語「充填」は、液体または乾燥された生成物をさらなる処理のために、または最終製品として輸送、保存、および/または投与のために、特別の容器に移すプロセスに関する。
【0058】
本発明の生産方法のこの第2相は、これも特定の組成物の存在下で行なわれ、この場合には組成物は少なくとも3つのアミノ酸および1つまたは複数の糖を含む。この組成物は本明細書において「第2相組成物」とも称する。
【0059】
前記組成物は少なくとも3つのアミノ酸の存在によって特徴付けられ、必然的に存在する官能基および機能は、第1相組成物について定義した通りである。しかし、アミノ酸の実際の選択は第1相組成物におけるものと同じアミノ酸に限定されない。その代わりに、アミノ酸のいくつかまたは全ては、第1相組成物のアミノ酸と異なっていてもよい。本明細書においては、第2相組成物の少なくとも3つのアミノ酸は第1相組成物の少なくとも3つのアミノ酸と同一であることも包含される。
【0060】
さらに、第2相組成物には1つまたは複数の糖が存在する。
【0061】
本明細書で用いる用語「糖」は、任意の種類の糖、すなわち炭水化物の単糖、二糖、またはオリゴ糖の形態、ならびに糖アルコール、またはアミノ糖、たとえばグルコサミンもしくはN-アセチルグルコサミン等の糖誘導体を意味する。好適な糖の例には、限定しないがトレハロース、サッカロース、マンニトール、およびソルビトールが含まれる。
【0062】
本発明による溶液中に含まれる糖の好ましい量は5~200mg/ml、より好ましくは10~100mg/ml、さらにより好ましくは15~80mg/mlであり、最も好ましくはその量は約30mg/mlである。異なった種類の糖の混合物を用いる場合は、これらの好ましい量は溶液中の全ての糖の合計を意味する。
【0063】
本発明によれば、第2相組成物中に存在する前記アミノ酸と糖との比は、10:1~1:100である。この比はアミノ酸と糖の濃度を意味し、典型的にはmg/mlで表される。好ましくは、比は5:1~1:50、より好ましくは2.5:1~1:25、最も好ましくは1:1~1:2である。
【0064】
本発明によれば、生物医薬製品の生産のための改善された方法が開発された。この方法は、支持組成物における繰り返しのステップに依存する変更の必要性の低減と組み合わせた、生産プロセス全体を通して単純であるが効率的な保護を提供することに焦点を当てて開発された。この目的のため、本方法の早期相において単純なアミノ酸組成物が用いられる。驚くべきことに、このアミノ酸組成物は採取の直後および初期の精製ステップの間に原薬を安定化させるために十分であることが見出された。さらに、この早い段階で既に原薬を安定化させることによって、全体の製造プロセス、保存および投与を通して製品の品質と安定性の改善が得られることが見出された。
【0065】
本方法は、原薬の生産の間の本方法の早期相における安定化組成物は、少数のアミノ酸、すなわち3つ(または任意選択でそれ以上)のアミノ酸の存在のみを必要とし、したがって原薬の開発の間に典型的には必要とされる分析手順に支障をきたすことがないという、さらなる利点を提供する。
【0066】
これらの知見は特に驚くべきものである。それは、たとえばWO2013/001044号、WO2010/115835号、WO2010/112576号、WO2013/001034号またはWO2015/059284号等の以前の研究によって、アミノ酸の種々の組合せが、さらなる安定化賦形剤の存在下または非存在下で、種々のストレス条件の下に特定の生体分子の三次元構造に保護効果を提供することが示されたからである。これらのストレス条件は、たとえば高温における保存の間、ならびに生体分子の滅菌の間の生体分子の乾燥および/または再構成であった。しかし、これらの組成物はこれらのストレス条件下では効果がある一方、本明細書では驚くべきことに、原薬調製の早期相で既に、たとえば細胞培養システムからの採取の際に直接、およびたとえば最初の超遠心ステップの後で用いた場合には、これらの組成物の全てが本発明による「早期相組成物」と同じ優れた効果を提供するわけではないことが見出された。
【0067】
たとえば以下の実施例2に示すように、「早期相」安定化組成物を早期に添加することは、全体の調製手順の間の生物医薬製品の安定性に大きな影響を与え得る。したがって、本発明の安定化組成物の早期の適用は、全体の生産プロセスの間の特定の生体分子に対する顕著な安定化効果を有することが見出された。
【0068】
これらの知見はたとえば実施例3~5および実施例7でさらに実証される。これらは、たとえば最終の治療用抗体製剤の透析または濃縮による再緩衝化等の、生産プロセスの間の処理ステップに通常関与するストレスへの曝露に対する本発明のいくつかの組成物の安定化効果を示す。低濃度の治療用抗体製剤(実施例3および4)ならびに高濃縮治療用抗体製剤(実施例5)の両方は、本発明による種々の組成物中で調製すれば、もとの供給元の製剤における同様の調製ステップと比較して低減された凝集形成を示すことが見出された。
【0069】
さらに、実施例7に示すように、高濃縮液体治療用抗体製剤を調製するために市販の液体トラスツズマブ製剤を濃度200mg/mlに濃縮すると、望ましくない凝集物の形成の増加が生じる。対照的に、本発明の組成物中における追加的な再緩衝化ステップに続くこの治療用抗体の濃縮は、この凝集物形成の増加を避けるために十分であった。実施例8、9および10では、生物医薬の製造および処理ステップの間の本発明の組成物の安定化効果を確認するさらなるデータが示される。実施例は、モノクローナル抗体トラスツズマブが再緩衝化および後続の濃縮ステップならびに機械的ストレスのモデルとしての撹拌の間にストレスを受けた際に、本発明の組成物がもとの供給元液体製剤よりも優れていたことを示している。
【0070】
原薬の種々の生産ステップの間の再緩衝化、透析および濃縮のモデルとしての上述の実施例は、この早期相の間の本発明の組成物の安定化効果はアミノ酸と糖の濃度比に特に依存しないことを示している。驚くべきことに、後の下流処理相において、アミノ酸と糖(または糖混合物)との濃度比、および/またはアミノ酸と原薬との濃度比は、たとえば液体の保存、高温での液体の保存(たとえば実施例3~7を参照)の間、および特に高濃縮抗体製剤(たとえば実施例5および7を参照)の場合における粘度に対して強い医薬製品安定化効果を引き起こす。
【0071】
本方法の早期相における安定化アミノ酸組成物が単純であることは、それぞれの薬剤製品を得るためのさらなる処理ステップの間の原薬の要求に容易に適応できるというさらなる利点を有する。たとえば糖および/または糖混合物等の他の賦形剤を添加することによる初期の単純な安定化製剤の改質により、追加の再緩衝化ステップを避けることまたは限定することによって、最終製剤に容易に適応できることが可能になる。したがって、全体の生産および製剤プロセスを通して、取扱いおよびストレスの多い処理ステップの必要が少なくなり、それにより適用されるストレスが少なくなり、生物医薬製品の安定性が増大し、また生物医薬の原薬および薬剤製品の製造に伴う仕事量とコストが低減される。
【0072】
さらに、特許を請求する生産プロセスの間の本明細書に記載した組成物の使用により、最終生物医薬製品のオスモル濃度は450mOsmol/kg未満になる。高いオスモル濃度は注射部位における疼痛および副作用に関連することが幾人かの研究者によって報告されている。したがって、非経口適用される溶液のオスモル濃度は450mOsmol/kg未満、好ましくは生理学的範囲の275~320mOsmol/kgに近いことが一般に許容されている。本発明の方法によって得られた薬剤製品はヒトおよび動物への投与のための医薬製品に対するこの要求を満たす。
【0073】
まとめると、本発明者らは驚くべきことに、極めて単純なアミノ酸組成に基づく本発明の早期相組成物を用いることによって、生物医薬の原薬および薬剤製品の調製において必要な後続の処理ステップのための理想的な出発点が提供されることを見出した。この初期相組成物を基礎として用いて、組成の最小の調節のみを必要とし、同時にバランスを取った安定化効果を達成するモジュール式で開発相に特化した製剤アプローチが可能である。このようにバランスを取った製剤は、特定の生物医薬製品の種々の保存および/または投与目的等の後続のステップの特定の要求に従って特に調整することができる。
【0074】
本明細書に提供する本発明の方法の全ての実施形態によれば、本発明の方法による原薬生産の早期相の間で用いられるべき好ましい組成物は、アミノ酸、すなわちアルギニン、グリシン、トリプトファン、およびヒスチジンから選択される3つのアミノ酸、または前記4つのアミノ酸の組合せのいずれかを含む。さらに、本明細書に提供する本発明の方法の全ての実施形態によれば、好ましい後期相組成物は、アルギニン、グリシン、トリプトファン、およびヒスチジンから選択される3つのアミノ酸、または前記4つのアミノ酸の組合せのいずれかを含み、アミノ酸はトレハロースおよびサッカロース等の糖または糖の混合物との組合せである。任意選択でキレート化剤および/または抗酸化剤を添加してもよい。生産の後期相のためのより好ましい組成物は、キレート化剤EDTAおよび/または抗酸化剤アスコルビン酸をさらに含む。
【0075】
本発明の方法の好ましい実施形態では、(b)で得られた生物医薬製品は、保存および/または投与のために液体製剤としてさらに処理される。
【0076】
本発明によれば、「保存」は後続の処理ステップまたは対象者への投与のために直ちに用いられない原薬または薬剤製品を規定の条件に保つことを意味する。したがって、本明細書で用いる用語「保存」は特に限定されず、たとえば製造現場、研究室、使用前の医療施設もしくは診療における原薬もしくは薬剤製品の保存、原薬もしくは薬剤製品の輸送/出荷、またたとえば生物医薬製品の分注等の調製ステップも包含する。
【0077】
保存の条件は原薬または薬剤製品の種類、ならびに製品が投与のためのものであれば意図された投与経路に依存する。たとえば、薬剤製品の無菌性および安定性を考慮し、制御すべきである。多くの原薬は温度または紫外光による分解プロセスを防止するためにそれぞれ、低温および/または暗所に保たなければならない。さらに、液体製剤として投与されることになる薬剤製品は、適用の前に追加的な再構成ステップを行なう必要性を回避するために、使用まで好ましくは液体として保たれる。
【0078】
生物医薬製品は、任意の好適な処理ステップで保存および/または投与のために処理することができる。そのような処理ステップの非限定的な例には、たとえば無菌充填、すなわち製剤が予め調製された無菌の容器に移される充填が含まれ、それにより生物医薬製品は後の投与手順に好適である。
【0079】
液体製剤の場合には、たとえば充填の際の生物医薬製品の濃度は、これが投与に必要な最終濃度に対応するように選択されることが好ましい。さらに、製剤はこれが製品を安定化させ、したがって充填、保存および投与の間の分子の完全性および機能の喪失を避け、または最小化するように選択されることが特に好ましい。
【0080】
乾燥製剤の場合には、保存および/または投与のための処理は、少量の再構成剤(たとえば注射用水、WFI)による後の再構成に際して、好ましくは再緩衝化および/または追加の処理ステップによる濃度の調節をすることなく、簡単な手順によって最終用量が達成されるように薬剤製品の濃度を調節しなければならないということを含んでいる。
【0081】
生物医薬製品が凍結製品として存在する場合には、前記凍結製品は充填前に解凍しなければならない。得られた液体は最終用量に分注しなければならない。この段階では凍結解凍が分子の完全性および機能の喪失をもたらし、したがって最終用量を調節しなければならないことを考慮しなければならない。
【0082】
本発明の方法のこの好ましい実施形態によれば、生物医薬製品は処理されて液体製剤になる。前記液体製剤は、たとえば試験管または凍結管、シリンジ、マイクロニードル、ディスペンサー、経皮パッチ等の任意の好適なバイアルまたは容器またはキャリア内で保存し、および/または投与のために提供することができる。
【0083】
典型的には、生物医薬製品の保存は規定の条件で行なわれる。そのような規定の条件には、たとえば米国食品医薬品局(FDA)の「good storage practice」ガイドラインおよび医薬品規制調和国際会議(ICH)のガイドラインに規定されているように、特定の温度プロファイル、湿度およびその他の保存条件が含まれる。しかし、生物医薬製品の輸送/出荷の間、また投与の間に問題が生じ、常にそのような厳しい条件を遵守できないこともある。たとえば、特に第三世界の諸国への輸送において低温流通が妨げられることがあり、試料が光に曝されることや振盪による機械的ストレスに曝されることがある。これは、乾燥製剤よりもそのような不都合な条件による損傷に影響されやすい液体製剤に関して特に重要である。
【0084】
生物医薬製品の保存中の安定性は、部分的には上記の保存条件の遵守によるが、適切な安定化賦形剤の存在、ならびに生物医薬製品それ自体の性質および濃度にも影響される。したがって、生物医薬製品を適切な液体製剤で供給することにより、生物医薬製品を不都合な条件から保護することができ、それによりその安定性を向上させることができる。
【0085】
したがって、本発明の方法の好ましい実施形態では、液体製剤は0.001から100mg/ml未満の濃度範囲における生物医薬製品の保存および/または投与のためのものであり、製剤は、(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸、および(ii)1つまたは複数の糖を含み、アミノ酸と糖との比が4:1~1:2(w/w)に調節されていることを特徴とする。
【0086】
この好ましい実施形態は、低濃度の液体形態での生物医薬製品の保存に関する。本明細書で上に定義したように、そのような低濃度は100mg/ml未満の生物医薬製品の濃度である。
【0087】
そのような低濃度の液体製剤の安定性を改善するために、製剤は少なくとも3つのアミノ酸および1つまたは複数の糖を含むように調節される。「少なくとも3つのアミノ酸」および「糖」の定義および好ましい実施形態は、本発明の方法に関して本明細書で上に提供した通りである。しかし、アミノ酸の実際の選択は本明細書で上に定義した第1相および/または第2相組成物と同じアミノ酸に限定されず、その代わりにアミノ酸のいくつかまたは全ては、第1相および/または第2相組成物のアミノ酸と異なっていてもよい。この好ましい実施形態の少なくとも3つのアミノ酸が第1相および/または第2相組成物の少なくとも3つのアミノ酸と同一であることも、本明細書に包含される。糖に関しても同じことが適用される。
【0088】
重要なことに、アミノ酸と糖との比は4:1~1:2(w/w)に調節すべきである。いかにしてそのような調節が行なえるかは当技術分野で周知である。好ましくは、アミノ酸と糖との重量対重量比を調節することによって、調節が行なわれる。溶液中に既に存在する賦形剤の量の知識およびそれらの既知の分子量に基づいて、希釈に用いる上記の比を得るために添加が必要な賦形剤の追加量を計算することができる。
【0089】
下記の低濃縮治療用抗体製剤に対応する実施例3および4に示すように、本発明の方法によって得られた原薬を、アミノ酸と糖との比を4:1~1:2(w/w)として言及された少なくとも3つのアミノ酸および糖と組み合わせることによって、早期の生産プロセスおよび後続の高温での液体保存の両方において凝集および断片化に関して優れた結果が提供されることが、驚くべきことに見出された。生産プロセスの早期のプロセスステップの間、ならびに生産プロセスの種々の段階の間の凍結解凍事象を模倣する多数の凍結解凍サイクルの後の機能の喪失および分子の完全性の喪失を防止するためのこの安定化組成物も実施例2に示した。これらの処理ステップの間に糖と組み合わせたアミノ酸に基づく製剤を用いて製品の損失を避けることによって、さらなる再緩衝化および透析のステップを避けることができる。
【0090】
本発明の方法の代替の好ましい実施形態では、液体製剤は100~500mg/mlの高濃度範囲における生物医薬製品の保存および/または投与のためのものであり、製剤は以下の賦形剤:(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸、および(ii)1つまたは複数の糖を含み、アミノ酸と糖との比が4:1~1:1(w/w)に調節されていることを特徴とする。
【0091】
この代替の好ましい実施形態は、高濃度の液体形態での生物医薬製品の保存に関する。本明細書で上に定義したように、そのような高濃度は100~500mg/mlの範囲の生物医薬製品の濃度である。
【0092】
そのような高濃度の液体製剤の安定性を改善するために、製剤は少なくとも3つのアミノ酸および1つまたは複数の糖を含むように調節される。「少なくとも3つのアミノ酸」および「糖」の定義および好ましい実施形態は、本発明の方法に関して本明細書で上に提供した通りである。
【0093】
この場合も、アミノ酸の実際の選択は本明細書で上に定義した組成物と同じアミノ酸に制限されず、その代わりにアミノ酸のいくつかまたは全ては、上に定義した組成のアミノ酸と異なっていてもよい。この好ましい実施形態の少なくとも3つのアミノ酸が上で定義した組成物の1つの少なくとも3つのアミノ酸と同一であることも、本明細書に包含される。糖に関しても同じことが適用される。
【0094】
重要なことに、アミノ酸と糖との比は4:1~1:1(w/w)、たとえば3:1~2:1(w/w)に調節すべきである。最も好ましくは、比は1:1(w/w)である。上で考察したように、比を調節する方法は当技術分野で公知である。好ましくは、調節はアミノ酸と糖との重量対重量比を調節することによって行なわれる。溶液中に既に存在する賦形剤の量の知識およびそれらの既知の分子量に基づいて、希釈に用いる上記の比を得るために添加が必要な賦形剤の追加量を計算することができる。
【0095】
本発明の方法のこの好ましい実施形態によって、液体製剤中に追加の賦形剤が含まれてもよいことも予想される。そのような追加の賦形剤は、好ましくはキレート化剤、追加の抗酸化剤、および界面活性剤から選択される。
【0096】
本明細書で用いる用語「キレート化剤」は、たとえば製剤中の金属イオンで触媒される酸化反応を避けるために製剤中の金属イオンを捕捉する賦形剤に関する。キレート化剤の非限定的な例には、デスフェラール、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、またはデフェロキサミン(DFO)が含まれる。そのようなキレート化剤は、水銀[Hg]、ヒ素[As]、鉛[Pb]等の有毒な金属剤を生体とさらに相互作用させることなく排泄できる化学的に不活性な形態に変換することによって解毒するためのキレート化療法において一般に用いられている。本発明によれば、キレート化剤は低濃度、たとえば0.3~0.5mg/mlで用いられ、これは治療効果を引き起こさないが、むしろたとえば保存中の生物医薬製品を安定化させることになることが理解されよう。
【0097】
本明細書で用いる用語「追加の抗酸化剤」は、限定しないがメチオニン、システイン、グルタチオン、トリプトファン、ヒスチジン、アスコルビン酸および本明細書に列挙した薬剤の任意の誘導体に関する。
【0098】
本明細書で用いる用語「界面活性剤」は、表面活性薬剤に関する。この用語には、その特性および用途に応じて、湿潤化剤、乳化剤および懸濁剤も含まれる。表面活性薬剤は、低濃度でシステムの表面または界面に吸着されて表面または界面の自由エネルギーおよび表面または界面の張力を変化させる物質である。これらは有機溶媒と水の両方に溶解するので、これらは「両性」と呼ばれる。本発明による好ましい界面活性剤には、限定しないがポリソーベート20(Tween20)およびポリソーベート80(Tween80)が含まれる。
【0099】
以下の実施例5~7に示すように、生物医薬製品、たとえば本発明の方法によって得られた高濃縮治療用抗体製剤を、アミノ酸と糖との比を4:1~1:1(w/w)として言及された少なくとも3つのアミノ酸および糖と組み合わせることによって、もとの供給元の製剤と比較して治療用抗体の処理の間、特に透析による再緩衝化および/または濃縮の間の凝集が少なくなることが、驚くべきことに見出された。さらに、この製剤によって、高温での後続の液体の保存中の凝集および分解が低減された。実施例8および9によってこの知見はさらに確認される。たとえば、米国特許第9364542号B2に概略が示された好ましい製剤と比較して、またもとの液体の供給元と比較して、本発明の製剤の優れた安定化効果が強調された。
【0100】
さらに、保存中の液体保存時間動力学の定量的統計解析によって、本発明の組成物による安定化効果は統計的に有意であることが明らかになった。
【0101】
最も重要なことに、高濃縮生物医薬製品のそのような液体製剤は、驚くべきことにたとえば投与のための最終製品のシリンジ通過性のために重要な要素である、特に低い粘度を有することが、実施例5および7で見出された。特に実施例5は、本発明に対応し120mg/mlの濃度でそれぞれの抗体を含む高濃縮治療用抗体製剤がもとの供給元の製剤の測定された粘度(約5mPas・秒)と比較して4mPas・秒未満の顕著に低い粘度を有していることを示している。さらに実施例7では、本発明に対応し200および220mg/mlの濃度で抗体を含む高濃縮治療用抗体製剤が20mPas・秒よりも顕著に低い粘度を示した。全体として、全ての実施形態で粘度はもとの供給元の製剤よりも低いことが見出された。したがって、これらの値は対応する先行技術の製剤より低かった。
【0102】
したがって、高濃度の液体形態における生物医薬製品の保存のこの実施形態の特に好ましい実施形態では、高濃縮生物医薬製品の粘度は20mPas・秒未満であり、高濃縮生物医薬製品の濃度が100mg/ml~120mg/mlである場合には粘度は4未満である。高濃縮生物医薬製品の濃度が120mg/ml~150mg/mlである場合には粘度は8mPas・秒未満であり、高濃縮生物医薬製品の濃度が150mg/ml~220mg/mlである場合には粘度は20mPas・秒未満である
【0103】
本発明のこの方法のさらにより好ましい実施形態では、液体製剤は目的の生体分子と(i)の少なくとも3つのアミノ酸との比が3.5:1~1:2(w/w)になるようにさらに調節される。比の調節は好ましくは重量対重量比で行なわれる。目的の生体分子と糖との比の調節に関して本明細書で上に提供した詳細は、目的の生体分子と少なくとも3つのアミノ酸との比のさらなる調節に関するこの実施形態に準用される。
【0104】
本発明の方法の好ましい実施形態では、高濃縮原薬のための液体製剤はプロリンを含まない。実施例8は、本発明による安定化効果が米国特許第9364542号B2によるプロリンを含む製剤より優れていることを実証した。このことは、CEX-HPLCを用いて分析した制限された化学分解によって確認された。好ましい実施形態では、アミノ酸と糖との比は10:1~1:100である。さらに、生体分子と賦形剤との好ましい比は1:1~1:500である。これらの比は他の実施形態でも好ましい。
【0105】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、本方法は、(c)(b)で得られた生物医薬の原薬を乾燥して、乾燥された生物医薬製品を得る第3のステップをさらに含み、この第3相における前記乾燥ステップは、(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸、および(ii)1つまたは複数の糖を含む組成物の存在下で行なわれ、目的の生体分子と賦形剤の合計との比は1:1~1:10(w/w)に調節される。
【0106】
この好ましい実施形態によれば、本発明の方法によって得られた生物医薬製品はさらに、乾燥された生物医薬製品を得るためのさらなる乾燥ステップに供される。生物医薬製品は、液体含量が体積の20%未満、たとえば10%未満、たとえば5%未満、より好ましくは体積の3%未満、2%未満、または1%未満に除去されまたは低減されれば乾燥していると考えられる。最も好ましくは、液体は0.5%またはそれ未満に低減される。乾燥のための好適な方法には、限定しないが凍結乾燥(フリーズドライ)、スプレー乾燥、凍結スプレー乾燥、対流乾燥、伝導乾燥、ガス流乾燥、ドラム乾燥、真空乾燥、誘電乾燥(たとえば高周波またはマイクロウェーブによる)、表面乾燥、空気乾燥または気泡乾燥が含まれる。
【0107】
本発明の方法のこの実施形態によれば、前記乾燥ステップは、(i)少なくとも3つのアミノ酸および(ii)1つまたは複数の糖を含む組成物の存在下で行なわれる。この場合も、「少なくとも3つのアミノ酸」および「糖」の定義および好ましい実施形態は、本発明の方法に関して本明細書で上に提供した通りである。またアミノ酸の実際の選択は本明細書で上に定義した組成物中と同じアミノ酸に限定されず、その代わりにアミノ酸のいくつかまたは全ては、上に定義した組成物のアミノ酸と異なっていてもよい。この好ましい実施形態の少なくとも3つのアミノ酸が上で定義した組成物の1つの少なくとも3つのアミノ酸と同一であることも、本明細書に包含される。糖に関しても同じことが適用される。
【0108】
重要なことに、目的の生体分子と賦形剤の合計との比は1:1~1:10(w/w)、たとえば1:2、1:5、1:8(w/w)等の比に調節すべきである。最も好ましくは、比は1:2(w/w)である。上で考察したように、比を調節する方法は当技術分野で公知である。この好ましい実施形態に関しても、調節は目的の生体分子と賦形剤の合計との重量対重量比を調節することによって行なわれる。溶液中に既に存在する賦形剤の量の知識およびそれらの既知の分子量に基づいて、希釈に用いる上記の比を得るために添加が必要な賦形剤の追加量を計算することができる。
【0109】
本発明の方法のこの好ましい実施形態によって、乾燥ステップに用いる組成物中に追加の賦形剤が含まれてもよいことも予想される。そのような追加の賦形剤は、好ましくはキレート化剤、追加の抗酸化剤、および界面活性剤から選択される。前記追加の賦形剤について本明細書で上に提供した定義および好ましい実施形態が準用される。
【0110】
以下の実施例1に示すように、本発明の方法によって得られた生物医薬の原薬を、目的の生体分子と賦形剤の合計との比を1:1~1:10(w/w)として言及された少なくとも3つのアミノ酸および糖と組み合わせることによって、目的の乾燥した生体分子に優れた安定性が提供されることが、驚くべきことに見出された。実施例1において、アデノウイルスベクター調製物を本発明の組成物と組み合わせることによって、早期相の下流ステップおよび後続のフリーズドライの間で既に、ウイルス粒子の感染タイターおよび水力学的半径の完全な保持が得られた。対照的に、もとの供給元の製剤における対応するアデノウイルスベクター製剤のフリーズドライでは、感染性の顕著な喪失および粒子径の増大が生じた。一般的なリン酸塩緩衝食塩液(PBS)と組み合わせた同様の手順では、フリーズドライの後で既に感染性の完全な喪失および粒子径の大きな増大が生じた。最も重要なことに、生物医薬の原薬または薬剤製品のそのような乾燥製剤は、分注、分配、出荷、保存等のさらなる種々の取扱いステップに好適である。
【0111】
本発明の方法のさらにより好ましい実施形態では、(b)で得られた生物医薬製品の乾燥はフリーズドライ、スプレー乾燥、またはスプレーフリーズドライによる。
【0112】
フリーズドライは凍結乾燥とも称されるが、当技術分野で周知であり、試料を凍結し、引き続いて十分な熱を加えながら周囲の圧力を低下させ、材料中の凍結した水を固相から気相へ直接昇華させ、続いて二次の乾燥相を行なうステップを含む。好ましくは、湿気の再吸収を防ぐために、凍結乾燥された調製物を次にシールする。
【0113】
スプレー乾燥も当技術分野で周知であり、溶液、懸濁液またはエマルジョンを単一のプロセスステップで固体粉末に変換する方法である。一般に、液体製品の濃縮液は気化デバイスにポンプで送られ、そこで破壊されて小さな液滴になる。これらの液滴は熱気流に曝されて、乾燥空気中に懸濁したままで極めて急速にその湿気を失う。乾燥粉末はサイクロン中で遠心作用によって湿った空気から分離される。すなわち、高密度の粉末粒子はサイクロンの壁の方に押しやられ、軽い湿った空気は排気管を通して追い出される。
【0114】
スプレー乾燥は凍結ステップを必要とせず、凍結乾燥に比べて必要なエネルギーコストが低いので、しばしば選択される方法である。スプレー乾燥も、高温との短い接触時間と特別なプロセス制御のために、生体分子に適した特に有利な乾燥手順であることが示されている。したがって、スプレー乾燥によりただ1回のステップで分散可能な乾燥粉末が得られるので、生体分子の乾燥手法としてはフリーズドライより好まれることが多い。
【0115】
スプレーフリーズドライも当技術分野で周知であり、フリーズドライとスプレー乾燥に共通の処理ステップを組み合わせた方法である。提供された試料は低温媒体(たとえば液体窒素)中に霧化され、これが衝撃凍結された液滴の分散体を生成する。この分散体は次いでフリーズドライヤーで乾燥される。
【0116】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、ステップ(c)で得られた乾燥した生物医薬製品は滅菌され、好ましくは最後に滅菌される。
【0117】
本明細書で用いる用語「最後の滅菌」は、ステップ(c)で得られた製品を滅菌するプロセスに関し、前記滅菌プロセスは、たとえば本明細書で以下に考察する対象者への投与を可能にするための再構成等の意図された使用のための調製に先立つこの試料の取扱いにおける最後の(すなわち最終の)プロセスである。
【0118】
生物医薬製品を滅菌する手段および方法は、当技術分野で周知である。たとえば、乾燥された試料は容器またはバイアルの中に存在し、またはそれらに導入されることができ、容器またはバイアルは次いで閉鎖され、病原体、特に細菌およびウイルスを実質的に不活性化するために十分な時間、滅菌条件に曝される。滅菌条件の非限定的な例には、β線、X線、またはγ線等の照射、酸化エチレン処理、熱不活性化、オートクレーブ、またはプラズマ滅菌が含まれる。
【0119】
好ましくは、滅菌は照射または酸化エチレン処理によって行なわれる。
【0120】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、本方法はステップ(c)で得られた乾燥された生物医薬製品を再構成して液体製剤を得るステップをさらに含み、このステップは、乾燥された生物医薬製品を再構成して、(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸、および(ii)1つまたは複数の糖を含み、アミノ酸と糖との比が4:1~1:1(w/w)である組成物の中で液体の生物医薬製品を得ることを特徴としている。
【0121】
したがって、本発明の方法の好ましい実施形態に従って得られた乾燥された生物医薬製品は、液体製剤を得るために引き続いて再構成される。再構成は、少なくとも3つのアミノ酸および1つまたは複数の糖を含む組成物が得られる溶液中で行なわれる。この場合も、粘度の程度、「少なくとも3つのアミノ酸」および「糖」の定義および好ましい実施形態は、本発明の方法に関して本明細書で上に提供した通りであるが、アミノ酸の実際の選択は本明細書で上に定義した組成物中と同じアミノ酸に限定されず、その代わりにアミノ酸のいくつかまたは全ては、上に定義した組成物のアミノ酸と異なっていてもよい。この好ましい実施形態の少なくとも3つのアミノ酸が上で定義した組成物の1つの少なくとも3つのアミノ酸と同一であることも、本明細書に包含される。糖に関しても同じことが適用される。
【0122】
重要なことに、アミノ酸と糖との比は4:1~1:1(w/w)であり、たとえば3:1または2:1(w/w)の間である。最も好ましくは、比は1:1(w/w)である。上で考察したように、比を調節する方法は当技術分野で公知である。この好ましい実施形態に関しても、調節はアミノ酸と糖との重量対重量比を調節することによって行なわれる。溶液中に既に存在する賦形剤の量の知識およびそれらの既知の分子量に基づいて、希釈に用いる上記の比を得るために添加が必要な賦形剤の追加量を計算することができる。
【0123】
本発明の方法のこの好ましい実施形態によって、乾燥ステップに用いる組成物中に追加の賦形剤が含まれてもよいことも予想される。そのような追加の賦形剤は、好ましくはキレート化剤、追加の抗酸化剤、および界面活性剤から選択される。前記追加の賦形剤について本明細書で上に提供した定義および好ましい実施形態が準用される。そのような追加の賦形剤は(もしあれば)その前のステップの1つにおいて用いた追加の賦形剤と同一であるように選択してもよいが、それとは異なるように独立に選択してもよい。
【0124】
本発明の方法の好ましい実施形態では、ステップ(a)における組成物は0.5mg/ml~10mg/mlのトリプトファンおよび0.5mg/ml~30mg/mlのヒスチジンを含む。
【0125】
実施例2~7に示すように、トリプトファンとヒスチジンのバランスを取った重量対重量比の溶液は、原薬の安定性を増大させ、糖との組合せにおいては薬剤製品の安定性を増大させる。
【0126】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、目的の生体分子はタンパク質およびペプチド、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0127】
本明細書で用いる用語「ペプチド」は、30個までのアミノ酸からなる分子の群を表し、「タンパク質」は、30個を超えるアミノ酸からなる。ペプチドおよびタンパク質はダイマー、トリマーおよびそれ以上のオリゴマーをさらに形成し、すなわち同一でもよく同一でなくてもよい2つ以上の分子からなっていてもよい。対応する高次構造はそれゆえ、ホモまたはヘテロダイマー、ホモまたはヘテロトリマー等と名付けられる。用語「ペプチド」および「タンパク質」(「タンパク質」は「ポリペプチド」と相互交換可能に用いられる)は天然に改質されたペプチド/タンパク質も意味し、改質はたとえばグリコシル化、アセチル化、ホスホリル化等によって達成される。そのような改質は当技術分野で周知である。さらに、アミノ酸および/またはペプチド結合が機能性アナログで置換されたそのようなペプチドおよびタンパク質のペプチド模倣体も本明細書に包含される。
【0128】
そのような機能性アナログには、セレノシステイン等の、20個の遺伝子コードされたアミノ酸以外の全ての既知のアミノ酸が含まれる。好適なタンパク質またはペプチドの特定の好ましい例を本明細書で以下に詳細に述べる。
【0129】
タンパク質およびペプチドの好ましい例は、抗体およびホルモンである。
本発明による抗体は、たとえばポリクローナルまたはモノクローナル抗体であってよい。本明細書で用いる用語「抗体」には、キメラ(ヒト定常ドメイン、非ヒト可変ドメイン)、一本鎖およびヒト化(非ヒトCDRの例外を有するヒト抗体)抗体、ならびに抗体断片等、とりわけFab、Fab’、Fd、F(ab’)2、FvまたはscFv断片またはナノ抗体、すなわち一本鎖モノマー可変抗体ドメイン等の実施形態も含まれる。たとえばHarlow、Lane、「Antibodies,A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1988およびHarlow、Lane、「Using Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1999を参照されたい。
【0130】
抗体産生の手法は当技術分野で周知であり、たとえばHarlow、Lane(1988)および(1999)(同所)に記載されている。
【0131】
好ましくは、抗体は治療効果を引き起こす抗体である。好ましい抗体の非限定的な例には、インフリキシマブ、ベバシズマブ、ラニビズマブ、セツキシマブ、ラニビズマブ、パリビズマブ、アバゴボマブ、アブシキシマブ、アクトクスマブ、アダリムマブ、アフェリモマブ、アフツズマブ、アラシズマブ、アラシズマブペゴール、ALD518、アレムツズマブ、アリロクマブ、アレムツズマブ、アルツモマブ、アマツキシマブ、アナツモマブマフェナトックス、アンルキンズマブ、アポリズマブ、アルシツモマブ、アセリズマブ、アルチヌマブ、アトリズマブ、アトロリミウマブ、トシリズマブ、バピネウムズマブ、バシリキシマブ、バビツキシマブ、ベクツモマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベルチリムマブ、ベシレソマブ、ベバシズマブ、ベズロトクスマブ、ビシロマブ、ビバツズマブ、ビバツズマブメルタンシン、ブリナツモマブ、ブロソツマブ、ブレンツキシマブベドチン、ブリアキヌマブ、ブロダルマブ、カナキヌマブ、カンツズマブメルタンシン、カンツズマブメルタンシン、カプラシズマブ、カプロマブペンデチド、カルルマブ、カツマキソマブ、CC49、セデリズマブ、セルトリズマブペゴール、セツキシマブ、シタツズマブボガトックス、シクスツムマブ、クラザキズマブ、クレノリキシマブ、クリバツズマブテトラキセタン、コナツムマブ、クレネズマブ、CR6261、ダセツズマブ、ダクリズマブ、ダロツズマブ、ダラツムマブ、デムシズマブ、デノスマブ、デツモマブ、ドルリモマブアリトックス、ドロジツマブ、ヅリゴツマブ、ヅピルマブ、エクロメキシマブ、エクリズマブ、エドバコマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エフングマブ、エロツズマブ、エルシリモマブ、エナバツズマブ、エンリモマブペゴール、エノキズマブ、エノキズマブ、エノチクマブ、エノチクマブ、エンシツキシマブ、エピツモマブシツキセタン、エプラツズマブ、エルリズマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、エトロリズマブ、エクスビビルマブ、エクスビビルマブ、ファノレソマブ、ファラリモマブ、ファルレツズマブ、ファシヌマブ、FBTA05、フェルビズマブ、フェザキヌマブ、フィクラツズマブ、フィジツムマブ、フランボツマブ、フォントリズマブ、フォラルマブ、フォラビルマブ、フレソリムマブ、フルラヌマブ、フツキシマブ、ガリキシマブ、ガニツマブ、ガンテネルマブ、ガビリモマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゲボキズマブ、ギレンツキシマブ、グレムバツムマブベドチン、ゴリムマブ、ゴミリキシマブ、GS6624、イバリズマブ、イブリツモマブチウキセタン、イクルクマブ、イゴボマブ、イムシロマブ、イムガツズマブ、インクラクマブ、インダツキシマブラブタンシン、インフリキシマブ、インテツムマブ、イノリモマブ、イノツズマブオゾガマイシン、イピリムマブ、イラツムマブ、イトリズマブ、イキセキズマブ、ケリキシマブ、ラベツズマブ、レブリキズマブ、レマレソマブ、レルデリムマブ、レキサツムマブ、リビビルマブ、リゲリズマブ、リンツズマブ、リリルマブ、ロルボツズマブメルタンシン、ルカツムマブ、ルミリキシマブ、マパツムマブ、マスリモマブ、マブリリムマブ、マツズマブ、メポリズマブ、メテリムマブ、ミラツズマブ、ミンレツモマブ、ミツモマブ、モガムリズマブ、モロリムマブ、モタビズマブ、モキセツモマブパスドトックス、ムロモナブ-CD3、ナコロマブタフェナトックス、ナミルマブ、ナプツモマブエスタフェナトックス、ナルナツマブ、ナタリズマブ、ネバクマブ、ネシツムマブ、ネレリモマブ、ネスバクマブ、ニモツズマブ、ニボルマブ、ノフェツモマブメルペンタン、オカラツズマブ、オクレリズマブ、オヅリモマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オロキズマブ、オマリズマブ、オナルツズマブ、オポルツズマブモナトックス、オレゴボマブ、オルチクマブ、オテリキシズマブ、オキセルマブ、オザネズマブ、オゾラリズマブ、パジバキシマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、パノバクマブ、パルサツズマブ、パスコリズマブ、パテクリズマブ、パトリツマブ、ペムツモマブ、ペラキズマブ、ペルツズマブ、ペキセリズマブ、ペジリズマブ、ピンツモマブ、プラクルマブ、ポネズマブ、プリリキシマブ、プリツムマブ、PRO140、クイリズマブ、ラコツモマブ、ラドレツマブ、ラフィビルマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レガビルマブ、レスリズマブ、リロツムマブ、リツキシマブ、ロバツムマブ、ロレヅマブ、ロモソズマブ、ロンタリズマブ、ロベリズマブ、ルプリズマブ、サマリズマブ、サリルマブ、サツモマブペンデチド、セクキヌマブ、セビルマブ、シブロツズマブ、シファリムマブ、シルツキシマブ、シムツズマブ、シプリズマブ、シルクマブ、ソラネズマブ、ソリトマブ、ソネプシズマブ、ソンツズマブ、スタムルマブ、スレソマブ、スビズマブ、タバルマブ、タカツズマブテトラキセタン、タドシズマブ、タリズマブ、タネズマブ、タプリツモマブパプトックス、テフィバズマブ、テリモマブアリトックス、テナツモマブ、テフィバズマブ、テリモマブアリトックス、テナツモマブ、テネリキシマブ、テプリズマブ、テプロツムマブ、TGN1412、トレメリムマブ、チシリムマブ、チルドラキズマブ、チガツズマブ、TNX-650、トシリズマブ、トラリズマブ、トシツモマブ、トラロキヌマブ、トラスツズマブ、TRBS07、トレガリズマブ、トレメリムマブ、ツコツズマブセルモロイキン、ツビルマブ、ウブリツキシマブ、ウレルマブ、ウルトキサズマブ、ウステキヌマブ、バパリキシマブ、バテリズマブ、ベドリズマブ、ベルツズマブ、ベパリモマブ、ベセンクマブ、ビシリズマブ、ボロシキシマブ、ボルセツズマブマフォドチン、ボツムマブ、ザルツムマブ、ザノリムマブ、ザツキシマブ、ジラリムマブおよびゾリモマブアリトックスが含まれる。
【0132】
本明細書で用いる用語「ホルモン」は当技術分野で周知であり、代謝障害の治療に用いられる治療用生体分子の群に関する。非限定的な例にはテリパラチドおよびエストロゲンが含まれる。テリパラチドは成長ホルモンである副甲状腺ホルモンの組み換え形であり、骨粗鬆症等の骨代謝障害の治療に広く用いられている。エストロゲンは閉経後障害の治療に広く用いられており、子宮がんのリスクを低減するためにプロゲステロンと併用して投与される。
【0133】
本発明の方法のより好ましい実施形態では、目的の生体分子は抗原、たとえばワクチンとしての使用のための抗原である。
【0134】
本明細書で用いる場合、用語「抗原」は宿主の生体に免疫反応を誘起することができる分子を意味する。典型的には、抗原はタンパク質および多糖である。しかし、タンパク質および多糖と組み合わせると、脂質または核酸も抗原性となり得る。抗原は細菌、ウイルス、およびその他の微生物の部分、たとえばそれらの被覆、カプセル、細胞壁、鞭毛、線毛、または毒素等から誘導されることが多い。抗原は非微生物、たとえば自己抗原、または花粉、卵白、もしくは移植した組織/器官からの、もしくは輸血された血液細胞の表面等のタンパク質等の外来(非自己)抗原であってもよい。本発明によれば、用語「抗原」には、限定しないが(i)1つの特定のタンパク質等の、1つの特定の抗原の分子種で代表される抗原、(ii)異なったタンパク質の混合物またはタンパク質と多糖の混合物等の、異なった抗原の分子種の抗原混合物、ならびに(iii)たとえばスプリットウイルス抗原におけるように、ウイルスがたとえば界面活性剤または別の方法によって破壊され、他のウイルス成分がさらに除去されていない調製物であるさらなる成分を含む抗原調製物が含まれる。
【0135】
好ましくは、抗原はワクチンとしての使用のためのものである。ワクチン調製のための好適な抗原は当技術分野で周知であり、当技術分野で一般に適用されるワクチン生産のための抗原を選択するための考慮は、本発明によるワクチンとしての使用のための好適な抗原の選択に関して準用される。したがって、当技術分野で既に利用可能な抗原、ならびに新規な抗原が用いられる。
【0136】
抗原の特に好ましい例は、たとえばウイルス様粒子およびライフウイルスを含むサブユニット抗原またはウイルスベクターである。
【0137】
「ウイルスベクター」は、製造、保存および流通に際して種々の化学的および物理的分解経路に曝されやすい高分子の複雑な超分子集合体である。本発明による用語「ウイルスベクター」はキャリア、すなわちウイルスから誘導される「ベクター」に関する。本発明による「ウイルスベクター」は、天然産生の、または改質されたウイルス、ならびにウイルス様粒子(VLP)から誘導されたベクターを含む。ウイルスがベクターの開発のための出発材料である場合、動物またはヒト患者での臨床使用に適することを保証するため、安全性および特異性等のある種の要求を満たす必要がある。ウイルスベクターの制御されない複製を避けることは、1つの重要な視点である。これは通常、ウイルスの複製に重要なウイルスゲノムの一部を欠失させることによって達成される。そのようなウイルスは、続いて新規なビリオンを産生することなしに標的細胞に感染することができる。さらに、ウイルスベクターは標的細胞の生理機能に影響しないか最小の影響しかしない必要があり、ウイルスベクターゲノムの再配列は起こるべきでない。天然産生の、または改質されたウイルスから誘導されたそのようなウイルスベクターは当技術分野で周知であり、一般に用いられるウイルスベクターの非限定的な例には、たとえばModified Vaccinia Ankara(MVA)ウイルスまたはアデノウイルスが含まれる。
【0138】
ウイルス様粒子から誘導されたベクターも当技術分野で周知であり、たとえばTegerstedtら(Tegerstedtら(2005)、「Murine polyomavirus virus-like particles(VLPs)as vectors for gene and immune therapy and vaccines against viral infections and cancer」Anticancer Res.25(4):2601-8)に記載されている。VLPの1つの主な利点は、弱毒化した生ウイルスをウイルスベクターとして用いた場合に起こり得る再アセンブリーのリスクを全く伴わないということである。したがって、これらは本発明による「複製欠損性ウイルスベクター」に相当する。VLPを用いる産生には、目的の特定のウイルス株の遺伝子配列が入手できれば、従来のワクチンの産生よりも早く開始できるというさらなる利点がある。VLPは、T細胞およびB細胞の強力な免疫応答を引き起こすことができる立体配座的ウイルスエピトープを提示するウイルス表面タンパク質の繰り返し高密度ディスプレイを含む。VLPは、FDAの承認を受けたB型肝炎およびヒトパピローマウイルス用のワクチンを開発するために既に用いられてきた。さらに、VLPはチクングンヤウイルスに対する前臨床ワクチンを開発するために用いられてきた。インフルエンザウイルスに対するVLPワクチンがインフルエンザウイルスに対する保護において他のワクチンより優れているということが、証拠によってさらに示唆されている。早期の臨床試験において、インフルエンザに対するVLPワクチンはインフルエンザAウイルスサブタイプH5N1と1918インフルエンザの両方に対して完全な保護を提供するようであった。
【0139】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、最終の生物医薬製剤は筋肉内、皮下、皮内、経皮、口腔、経口、経鼻、および/または吸入適用のためにさらに調節される。口腔、経肺、または鼻内投与を意図する場合には、異なった要求が適用される。たとえば口腔投与には薬剤製品が消化性分子によって活性を失うことなく胃腸管を通過することが可能な製剤が必要であり、経肺投与には上気道および下気道を通過する間、また溶解した場合にはそれぞれの粘膜を通過する間に安定な乾燥製剤が必要である。皮下または筋肉内注射等の他の投与ルートについては、オスモル濃度、粘度、注射性およびシリンジ通過性を考慮しなければならない。たとえば、注射部位における疼痛および有害事象を低減するために、賦形剤の数を少なくしてオスモル濃度および粘度を制限することが好ましい。
【0140】
本明細書で上に考察したように、特許を請求する生産プロセスの間の本明細書に記載した組成物の使用により、最終生物医薬製品のオスモル濃度は450mOsml/kg未満になる。高いオスモル濃度は注射部位における疼痛および副作用に関連することが幾人かの研究者によって報告されている。したがって、非経口適用される溶液のオスモル濃度は450mOsml/kg未満、好ましくは生理学的範囲の275~320mOsml/kgに近いことが一般に許容されている。本発明の方法によって得られた薬剤製品はヒトおよび動物への投与のための医薬製品に対するこの要求を満たす。
【0141】
本発明はさらに、本発明によって得られた、または得られる生物医薬製品に関する。
【0142】
本発明の生物医薬製品の好ましい実施形態では、前記製品は筋肉内、皮下、皮内、経皮、口腔、経口、経鼻、および/または吸入適用における使用のためのものである。本発明の生物医薬製品の別の好ましい実施形態では、前記製品は研究、治療および/または予防目的のためのものである。
【0143】
本発明の好ましい実施形態によれば、薬剤製品はワクチン接種における使用のためのものである。ワクチン接種における使用のための薬剤製品はそのまま、すなわちそれ自体で、または薬剤製品と同時にもしくは別に、すなわち薬剤製品の投与の前もしくは後に投与されるアジュバントと組み合わせて、用いることができることが認識されよう。本明細書で用いる用語「アジュバント」は、ワクチンに対する受容者の免疫応答を強化する1つまたは複数の化合物に関する。アジュバントはワクチンに対するより早期の、より強力な応答、および/またはより永続する免疫応答を促進するためにしばしば加えられ、それによりワクチン用量が低減されることが多い。アジュバントの非限定的な例には、たとえば水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム、有機化合物であるスクアレンが含まれるが、たとえばToll様レセプターのリガンド、QS21、水酸化アルミニウム誘導体、オイル浸漬物、リピッドAおよびその誘導体(たとえばモノホスホリルリピッドA(MPL)、CpGモチーフ、ポリI:C dsRNA、ムラミルジペプチド(MDP)、フロイント完全アジュバント(FCA、非ヒト用のみ)、フロイント不完全アジュバント(FIA、非ヒト用のみ)、またはMF59C等の化合物も含まれる。そのようなアジュバントは当技術分野で周知である。
【0144】
本発明によって製剤化された薬剤製品ワクチンは優れた熱安定性を有し、したがって低温流通が保証されない状況下であっても長期の保存および輸送に耐えることができる。さらに、薬剤製品ワクチンの高い安定性によって必要なアジュバントの量を低減することができ、またはアジュバントを不要にすることさえできる。アジュバントは当技術分野において典型的には十分なワクチン効果のために重要と考えられるが、しばしば重篤な副作用を引き起こすことが知られてもいるので、これはさらなる利点を提供するものである。
【0145】
本発明はある選択肢において目的の生体分子を含む生物医薬の原薬を生産する方法に関し、前記方法は(a1)採取、(a2)精製、(a3)再緩衝化、および(a4)濃縮から選択される少なくとも1つの処理ステップを含み、前記少なくとも1つの処理ステップは、少なくとも3つのアミノ酸を含む組成物の存在下で行なわれ、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せは、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する。
【0146】
本発明の方法に関して本明細書で上に提供した全ての定義および好ましい実施形態は、本発明のこの代替の方法に準用される。たとえば、組成物中に存在するアミノ酸の選択および/または量のための上述の好ましい実施形態、生体分子の好ましい選択等は、この代替の方法に等しく適用される。
【0147】
下流の処理における生体分子の安定化は、採取後の早期のステップではなく充填および仕上げステップで対処されることが一般的であるため、本発明のステップは、極めて興味深い。
【0148】
本発明のこの代替の方法によれば、本方法は好ましい実施形態において生物医薬製品を得るために原薬をさらに処理する第2のステップを含み、前記第2のステップは(b1)再緩衝化、(b2)凍結、(b3)解凍、および(b4)充填から選択される少なくとも1つの処理ステップを含み、前記少なくとも1つの処理ステップは、(i)少なくとも3つのアミノ酸であって、前記少なくとも3つのアミノ酸の組合せが、少なくとも1つの正に荷電した官能基、少なくとも1つの抗酸化官能基、少なくとも1つの浸透圧調整機能、および少なくとも1つの緩衝機能を提供する、少なくとも3つのアミノ酸、および(ii)1つまたは複数の糖を含み、アミノ酸と糖の比が10:1~1:100(w/w)である組成物の存在下で行なわれる。
【0149】
本発明の方法に関して本明細書で上に提供した全ての定義および好ましい実施形態は、本発明のこの代替の方法に準用される。たとえば、組成物中に存在するアミノ酸の選択および/または量のための上述の好ましい実施形態、生体分子の好ましい選択、好ましい比等は、この代替の方法に等しく適用される。
【0150】
他に定義しない限り、本明細書で用いる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。不一致が生じた場合は、定義を含めて特許明細書が優越する。
【0151】
本明細書、特に特許請求の範囲で特徴付けた実施形態に関しては、従属請求項で述べたそれぞれの実施形態が、前記従属請求項が従属するそれぞれの(独立または従属)請求項のそれぞれの実施形態と組み合わせられることが意図されている。たとえば、3つの選択肢A、BおよびCに言及する独立請求項1、3つの選択肢D、EおよびFに言及する従属請求項2、ならびに請求項1および2に従属し、3つの選択肢G、HおよびIに言及する請求項3の場合には、具体的にそうではないことが述べられない限り、明細書は明らかに組合せA,D,G;A,D,H;A,D,I;A,E,G;A,E,H;A,E,I;A,F,G;A,F,H;A,F,I;B,D,G;B,D,H;B,D,I;B,E,G;B,E,H;B,E,I;B,F,G;B,F,H;B,F,I;C,D,G;C,D,H;C,D,I;C,E,G;C,E,H;C,E,I;C,F,G;C,F,H;C,F,Iに対応する実施形態を開示していることを理解されたい。
【0152】
同様に、また独立および/または従属請求項が選択肢に言及していない場合でも、従属請求項が先行する複数の請求項に遡って引用するならば、それに包含される主題の任意の組合せが明示的に開示されているとみなされることが理解される。たとえば、独立請求項1、遡って請求項1を引用する従属請求項2、および遡って請求項2および1を引用する従属請求項3の場合には、請求項3と1の主題の組合せは、請求項3、2および1の主題の組合せと同様に、はっきりとかつ明白に開示されているということになる。請求項1から3のいずれか一項を引用するさらなる従属請求項4が存在する場合には、請求項4および1、請求項4、2および1、請求項4、3および1、ならびに請求項4、3、2および1の主題の組合せは、はっきりとかつ明白に開示されているということになる。
【0153】
上記の考慮は添付した全ての請求項に準用される。非限定的な例を挙げれば、請求項10、6および1の組合せは、請求項の構造に鑑みて、はっきりとかつ明白に予想される。たとえば、請求項10、2および1の組合せ等についても同じことが適用される。
【図面の簡単な説明】
【0154】
図1-1】原薬の安定性の評価モデルとしてのフリーズドライ前のアデノウイルスベクター組成物の水力学的半径の動的光散乱(DLS)測定:(A)対照としてのアデノウイルスストック溶液のDynaPro DLSソフトウェアによる正則化フィットを用いるDLS実験で記録した相関関数の評価。(B)希釈により組成物1と混合した直後のアデノウイルスベクター調製物の相関関数の評価。(C)希釈により組成物2と混合した直後のアデノウイルスベクター調製物の相関関数の評価。組成物1および2におけるアデノウイルスベクター調製物の計算された水力学的半径は、未処理のストック溶液中のアデノウイルス粒子の測定された半径および文献から知られた値と一致する。
図1-2】原薬の安定性の評価モデルとしてのフリーズドライ前のアデノウイルスベクター組成物の水力学的半径の動的光散乱(DLS)測定:(A)対照としてのアデノウイルスストック溶液のDynaPro DLSソフトウェアによる正則化フィットを用いるDLS実験で記録した相関関数の評価。(B)希釈により組成物1と混合した直後のアデノウイルスベクター調製物の相関関数の評価。(C)希釈により組成物2と混合した直後のアデノウイルスベクター調製物の相関関数の評価。組成物1および2におけるアデノウイルスベクター調製物の計算された水力学的半径は、未処理のストック溶液中のアデノウイルス粒子の測定された半径および文献から知られた値と一致する。
図2】原薬の安定性の評価モデルとしてのフリーズドライ前のアデノウイルスベクター組成物の水力学的半径の動的光散乱(DLS)測定:(A)もとの供給元の製剤と混合した直後のアデノウイルスベクター調製物のDynaPro DLSソフトウェアによる正則化フィットを用いるDLS実験で記録した相関関数の評価。(B)PBSと混合した直後のアデノウイルスベクター調製物の相関関数の評価。前の図とは対照的に、もとの供給元の製剤およびPBSと混合した後のアデノウイルス粒子の水力学的半径は、未処理のストック溶液と比較して増大している。
図3】原薬の安定性の評価モデルとしての種々の製剤におけるフリーズドライ後のアデノウイルスベクターのインビトロ感染性:アデノウイルスベクター調製物を希釈によって製剤化し、続いて組成物1および2の中でフリーズドライした。フリーズドライしたベクターを再構成した後、アデノウイルスのHexonタンパク質の抗体に基づく比色検出によって、HEK293細胞におけるインビトロ感染性アッセイを行ない、感染細胞中でアデノウイルスが増幅に成功していることを示した。組成物1および2で製剤化したアデノウイルスベクター調製物の感染タイターが完全に保持されていることが観察された(破線で示す陽性対照と比較したmlあたりの感染ユニット)。対照的に、もとの供給元の製剤で希釈したアデノウイルスベクターのフリーズドライによって感染タイターの顕著な損失が生じ、PBSで希釈したアデノウイルスベクターのフリーズドライによって対応する感染タイターは完全に失われた。
図4】原薬の安定性の評価モデルとしてのフリーズドライ後の対応するアデノウイルスベクター調製物中のアデノウイルス粒子の水力学的半径の動的光散乱(DLS)測定:(A)組成物1の中でフリーズドライした後のアデノウイルスベクター調製物のDynaPro DLSソフトウェアによる正則化フィットを用いるDLS実験で記録した相関関数の評価。(B)組成物2の中でフリーズドライした後のアデノウイルスベクター調製物の評価。組成物1および2におけるアデノウイルスベクター調製物の計算された水力学的半径は、未処理のストック溶液(図1A)中のアデノウイルス粒子の測定された半径および文献から知られた値と一致する。
図5】原薬の安定性の評価モデルとしてのフリーズドライ後の対応するアデノウイルスベクター調製物中のアデノウイルス粒子の水力学的半径の動的光散乱(DLS)測定:(A)もとの供給元の製剤中でフリーズドライした直後のアデノウイルスベクター調製物のDynaPro DLSソフトウェアによる正則化フィットを用いるDLS実験で記録した相関関数の評価。(B)PBS中でフリーズドライした直後のアデノウイルスベクター調製物の相関関数の評価。前の図とは対照的に、もとの供給元の製剤中およびPBS中でフリーズドライした後のアデノウイルス粒子の水力学的半径は、未処理のストック溶液(図1A)と比較して高次の凝集物の形成を伴って増大する。
図6】原薬の安定性の評価モデルとしての種々の製剤中におけるフリーズドライおよび後続の乾燥製剤の高温での保存後におけるアデノウイルスベクターのインビトロ感染性:t=0d(左の黒いバー)は、フリーズドライおよび保存前の再構成直後のインビトロ感染性を示す。破線は未処理陽性対照の対応する感染タイターを示す。(A)もとの供給元緩衝液およびPBSと比較した、組成物1および2における希釈によって再緩衝化し、フリーズドライした製剤を引き続いて25℃および60%の残存湿度で21日(中央のバーの組)および42日(右側のバーの組)保存した後のアデノウイルスベクター組成物のインビトロ感染性。(B)もとの供給元緩衝液およびPBSと比較した、組成物1および2における希釈によって再緩衝化し、フリーズドライした製剤を引き続いて40℃および75%の残存湿度で7日(中央のバーの組)および28日(右側のバーの組)保存した後のアデノウイルスベクター組成物のインビトロ感染性。組成物1および2の中で調製した試料ではアデノウイルスの感染性の完全な保持が観察された。一方、もとの供給元緩衝液中またはPBS中の保存では、アデノウイルスの感染性は完全に失われた。
図7】原薬の安定性の評価モデルとしてのフリーズドライおよび後続の40℃、14日の保存後の対応するアデノウイルスベクター調製物中のアデノウイルス粒子の水力学的半径の動的光散乱(DLS)測定:(A)組成物1の中における乾燥製剤の40℃、14日の保存後のアデノウイルスベクター調製物のDynaPro DLSソフトウェアによる正則化フィットを用いるDLS実験で記録した相関関数の評価。(B)組成物2の中における乾燥製剤の40℃、14日の保存後のアデノウイルスベクター調製物の評価。組成物1および2におけるアデノウイルスベクター調製物の計算された水力学的半径は、未処理のストック溶液(図1A)中のアデノウイルス粒子の測定された半径および文献から知られた値と一致する。
図8】原薬の安定性の評価モデルとしてのフリーズドライおよび後続の40℃、14日の保存後の対応するアデノウイルスベクター調製物中のアデノウイルス粒子の水力学的半径の動的光散乱(DLS)測定:(A)もとの供給元の製剤中におけるフリーズドライおよび後続の40℃、14日の保存後のアデノウイルスベクター調製物のDynaPro DLSソフトウェアによる正則化フィットを用いるDLS実験で記録した相関関数の評価。(B)PBS中におけるフリーズドライおよび後続の40℃、14日の保存後のアデノウイルスベクター調製物の相関関数の評価。前の図とは対照的に、もとの供給元の製剤中およびPBS中でフリーズドライし、引き続いて高温で保存した後のアデノウイルス粒子の水力学的半径は、未処理のストック溶液と比較して高次の凝集物の形成を伴って増大する。
図9】原薬の安定性の評価モデルとしてのプロセスステップ1またはプロセスステップ2で調製された原薬安定化組成物1および2の中での製剤化の後のアデノウイルスベクター調製物のインビトロ感染性:アデノウイルス調製物を、それぞれCsCl密度超遠心による精製ステップ(プロセスステップ1)の直後、または後の調製プロセス(プロセスステップ2)中で、それぞれ組成物1または2の中での透析によって再緩衝化した。プロセスステップ1では、両方の組成物中で陽性対照(破線で示す)と比較して透析後の感染タイターの完全な保持が観察された。対照的に、調製プロセス2での透析では、組成物2の中で行なった場合には感染タイターのほぼ2ログレベルの顕著な損失が生じた一方、組成物1の中での透析ではプロセスステップ1で得られた結果と同様に感染タイターの完全な保持が得られた。
図10-1】原薬の安定性の評価モデルとしてのプロセスステップ1またはプロセスステップ2の間の安定化組成物1および2の中での対応するアデノウイルスベクター原薬調製物中のアデノウイルス粒子の水力学的半径のDLS測定:プロセスステップ1または2における透析を用いる組成物1中のアデノウイルスベクター粒子調製物の再緩衝化によって、粒子(A)および(C)の水力学的半径の保持が得られた。プロセスステップ1における調製の間の組成物2の中のアデノウイルス粒子の再緩衝化によって、アデノウイルスベクター(B)の水力学的半径の完全な保持が得られた。対照的に、プロセスステップ2における調製の間の組成物2の中のアデノウイルス粒子の再緩衝化では、粒子の水力学的半径の増大およびこれに伴う大きな凝集物の形成が生じた(D)。
図10-2】原薬の安定性の評価モデルとしてのプロセスステップ1またはプロセスステップ2の間の安定化組成物1および2の中での対応するアデノウイルスベクター原薬調製物中のアデノウイルス粒子の水力学的半径のDLS測定:プロセスステップ1または2における透析を用いる組成物1中のアデノウイルスベクター粒子調製物の再緩衝化によって、粒子(A)および(C)の水力学的半径の保持が得られた。プロセスステップ1における調製の間の組成物2の中のアデノウイルス粒子の再緩衝化によって、アデノウイルスベクター(B)の水力学的半径の完全な保持が得られた。対照的に、プロセスステップ2における調製の間の組成物2の中のアデノウイルス粒子の再緩衝化では、粒子の水力学的半径の増大およびこれに伴う大きな凝集物の形成が生じた(D)。
図11】原薬の安定性の評価モデルとしての繰り返し適用した凍結解凍サイクルの後のアデノウイルスベクター調製物のインビトロ感染性:(A)プロセスステップ1における調製の間の透析によるアデノウイルスベクター調製物の再緩衝化。(B)プロセスステップ2における調製の間の透析によるアデノウイルスベクター調製物の再緩衝化。両方の調製手順(プロセスステップ1および2)において、組成物1の中の再緩衝化により、破線で示す陽性対照と比較して、透析後(初期タイター)ならびに5回および10回の凍結解凍サイクルの適用の後、感染性の完全な保持が得られた((A)および(B))。調製プロセスの早期のステップ(プロセスステップ1)の間の組成物2の中における再緩衝化でも、透析直後の感染性の完全な保持が得られ(初期タイター、A、左のバーの組)、繰り返し凍結解凍サイクルの適用の後に、感染タイターの僅かな損失が生じた(A)。対照的に、プロセスステップ2における調製の間の組成物2における再緩衝化では、透析直後で既に感染タイターの顕著な低減が生じた(B;左のバーの組)。繰り返し凍結解凍サイクルをさらに適用すると、感染タイターのさらに顕著な低減が生じた(B;中央および右のバーの組)。
図12】原薬の安定性の評価モデルとしての5回または10回の凍結解凍サイクルの適用の後の安定化組成物1中におけるアデノウイルス粒子の水力学的半径の動的光散乱(DLS)測定:プロセスステップ2における透析を用いた組成物1の中のアデノウイルスベクター粒子調製物の再緩衝化により、(A)5回の凍結解凍サイクルの適用の後、および(B)10回の凍結解凍サイクルの適用の後の、粒子の水力学的半径の保持が得られた。
図13-1】原薬の安定性の評価モデルとしての5回の凍結解凍サイクルの適用の後のプロセスステップ1またはプロセスステップ2の間の安定化組成物1および2の中におけるアデノウイルス粒子の水力学的半径の動的光散乱(DLS)測定:プロセスステップ1または2における透析を用いた組成物1の中のアデノウイルスベクター粒子調製物の再緩衝化により、5回の凍結解凍サイクル(A)および(B)の適用後の粒子の水力学的半径の保持が得られた。対照的に、プロセスステップ1または2における調製の間の組成物2の中のアデノウイルス粒子の再緩衝化では、5回の凍結解凍サイクル(C)および(D)の適用後、粒子の水力学的半径の増大およびこれに伴う高次の凝集物の形成が生じた。
図13-2】原薬の安定性の評価モデルとしての5回の凍結解凍サイクルの適用の後のプロセスステップ1またはプロセスステップ2の間の安定化組成物1および2の中におけるアデノウイルス粒子の水力学的半径の動的光散乱(DLS)測定:プロセスステップ1または2における透析を用いた組成物1の中のアデノウイルスベクター粒子調製物の再緩衝化により、5回の凍結解凍サイクル(A)および(B)の適用後の粒子の水力学的半径の保持が得られた。対照的に、プロセスステップ1または2における調製の間の組成物2の中のアデノウイルス粒子の再緩衝化では、5回の凍結解凍サイクル(C)および(D)の適用後、粒子の水力学的半径の増大およびこれに伴う高次の凝集物の形成が生じた。
図14】原薬の薬剤製品処理へのモデルとしての再緩衝化後の低濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCクロマトグラム:トラスツズマブのフリーズドライ調製物(ハーセプチン(登録商標))を再構成し、続いてフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤の組成物、または本発明の組成物それぞれHer_1またはHer_9(A)およびHer-1またはHer-2(B)の中での透析によって再緩衝化した(トラスツズマブ-25mg/ml)。溶出時間約16分の主ピークは抗体の構造的に不変のモノマー分子に対応し、より早く溶出時間14分で溶出する小さなピークは凝集物、特にダイマーに対応し、もとの供給元の製剤中の11分のより早いピーク(黒い線)は高次凝集物である。もとの供給元の製剤中における再緩衝化によって、ダイマーの形態の凝集物形成の増大およびさらに高次の凝集物が生じた。対照的に、本発明の組成物中における再緩衝化によって、トラスツズマブ標準品と同等の量の凝集物および抗体のダイマーピークとモノマーピークとの間の明確なベースラインの分離が得られた。
図15】原薬の薬剤製品処理へのモデルとしての再緩衝化後の低濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCクロマトグラム:トラスツズマブのフリーズドライ調製物(ハーセプチン(登録商標))を再構成し、続いて液体のもとの供給元の製剤の組成物中での透析によって再緩衝化した。-80℃で保存した、再構成したフリーズドライトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))のアリコートを、それぞれ本発明の組成物11_1および11_1+トレハロース中での透析によって再緩衝化した(トラスツズマブ-20mg/ml)。溶出時間約17分の主ピークは抗体の構造的に不変のモノマー分子に対応し、より早く溶出時間14.5分で溶出する小さなピークは凝集物、特にダイマーに対応する。液体のもとの製剤の適用によって一般に、フリーズドライ製品のもとの供給元の製剤と比較して、透析を用いる調製手順の間の抗体の凝集傾向が低減した(実施例3、図14)。しかし、組成物11_1および11_1+トレハロース中での抗体の再緩衝化により、凝集物の形成のさらに僅かな低減が得られた。
図16】原薬の薬剤製品処理へのモデルとしての再緩衝化後の高濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:もとの容器から直接取り出したトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標)、トラスツズマブ-120mg/ml)の液体調製物の未処理試料のSE-HPLCプロファイルは、組成物3および4の中の液体のもとのトラスツズマブ製剤の再緩衝化後の試料と比較して分析したところ、同等のピークプロファイルが得られた。溶出時間約16.5分の主ピークは抗体の構造的に不変のモノマー分子に対応し、より早く溶出時間14分で溶出する小さなピークは凝集物、特にダイマーに対応する。微量の断片が溶出時間20分で溶出した。組成物3および4の中の抗体の得られたSE-HPLCプロファイルは、未処理のもとの供給元の製剤中の抗体の対応するクロマトグラムと完全に同等である。
図17】原薬の薬剤製品処理へのモデルとしての再緩衝化後および/または濃縮後の高濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:市販の液体トラスツズマブ製剤(ハーセプチン(登録商標)、トラスツズマブ-120mg/ml)の濃度200mg/mlへの濃縮によって、16.5分における主ピークの溶出の前の溶出時間15分の顕著なショルダー溶出によって証明されるように、未処理の出発材料と比較して凝集物形成の顕著な増大が生じた。対照的に、本発明の3つの組成物(組成物4_3、4_4または4_5)のいずれかによる液体トラスツズマブ製剤の再緩衝化、および後続の200mg/mlへの濃縮によって、未処理のもとの液体トラスツズマブ製剤のSECプロファイルの完全な保持(図8)および抗体のダイマーによる13分のピークと溶出時間16分のモノマーピークとの明確なベースラインの分離が得られた。微量の断片が溶出時間20分で溶出した。
図18-1】薬剤製品の安定性のモデルとしての、透析直後の時点t=0、および続いて45℃で21日および28日保存した後の低濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:(A)もとの供給元の製剤、(B)組成物Her_1、(C)組成物Her_2、および(D)組成物Her_9中の透析を用いて再緩衝化した後の低濃縮液体治療用抗体製剤(トラスツズマブ-25mg/ml)の保存。もとの供給元の製剤中の保存により、本発明の製剤中での抗体の保存と比較して、凝集物(13分で溶出)および断片(20分超で溶出)の形成の増大が生じた。
図18-2】薬剤製品の安定性のモデルとしての、透析直後の時点t=0、および続いて45℃で21日および28日保存した後の低濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:(A)もとの供給元の製剤、(B)組成物Her_1、(C)組成物Her_2、および(D)組成物Her_9中の透析を用いて再緩衝化した後の低濃縮液体治療用抗体製剤(トラスツズマブ-25mg/ml)の保存。もとの供給元の製剤中の保存により、本発明の製剤中での抗体の保存と比較して、凝集物(13分で溶出)および断片(20分超で溶出)の形成の増大が生じた。
図19-1】薬剤製品の安定性のモデルとしての高濃縮トラスツズマブ製剤の時点t=0および指示された分析時点における高温での液体保存後のSE-HPLCプロファイル:未処理のもとの供給元の製剤(ハーセプチン(登録商標)、トラスツズマブ-120mg/ml)の並行した液体保存と比較した、安定化組成物3および4の中の透析を用いた再緩衝化後の、高濃縮トラスツズマブ-120mg/mlの40℃、1.5日(A)、40℃、12日(B)、または30℃、21日(C)の液体保存。本発明の組成物中の保存により、抗体の凝集傾向が低減し(凝集物の溶出は14分)、組成物4の場合には断片化の僅かな低減がさらに観察された(断片の溶出は21分)。
図19-2】薬剤製品の安定性のモデルとしての高濃縮トラスツズマブ製剤の時点t=0および指示された分析時点における高温での液体保存後のSE-HPLCプロファイル:未処理のもとの供給元の製剤(ハーセプチン(登録商標)、トラスツズマブ-120mg/ml)の並行した液体保存と比較した、安定化組成物3および4の中の透析を用いた再緩衝化後の、高濃縮トラスツズマブ-120mg/mlの40℃、1.5日(A)、40℃、12日(B)、または30℃、21日(C)の液体保存。本発明の組成物中の保存により、抗体の凝集傾向が低減し(凝集物の溶出は14分)、組成物4の場合には断片化の僅かな低減がさらに観察された(断片の溶出は21分)。
図20】薬剤製品の粘度のモデルとしての、未処理のもとの液体トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標)、120mg/ml)製剤と比較した、透析を用いた組成物3および4の中の再緩衝化の後の高濃縮トラスツズマブ製剤の動粘度:組成物3および4の中のもとの液体トラスツズマブ製剤(ハーセプチン(登録商標)、トラスツズマブ-120mg/ml)の再緩衝化(トラスツズマブ-120mg/ml)により、未処理のもとの液体の供給元の製剤中の高濃縮トラスツズマブの測定された粘度と比較して、特に組成物4で、また組成物3ではそれほどではないが、顕著に低減した粘度が得られた。
図21】薬剤製品の安定性のモデルとしての液体保存後の高濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))のフリーズドライ調製物を再構成し、もとの液体の供給元の製剤の組成物およびそれぞれ組成物3、4_1および4_2の中での透析によって再緩衝化し、続いてもとの液体の供給元の製剤でトラスツズマブ-135mg/mlに、組成物3でトラスツズマブ-145mg/mlに、組成物4_1でトラスツズマブ-150mg/mlに、組成物4_2でトラスツズマブ-151mg/mlに濃縮した。(A)40℃で8日液体保存した後、および(B)30℃で1か月液体保存した後のトラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル。もとの液体の供給元の製剤中での30℃および40℃での指示された期間のトラスツズマブの液体保存により、凝集物ピークと16分のモノマーピークとの間のショルダーの形成を伴う14分で溶出する凝集物の形成の増大、およびモノマーピークと20分で溶出するやや増大した断片ピークとの間のショルダーを伴う断片の形成が生じた。対照的に、組成物3、4_1および4_2の中での40℃、8日および30℃、1か月のそれぞれの抗体の保存により、凝集物ピークとモノマーピークとの間の明らかなベースラインの分離を伴う凝集の低減および断片化の低減が生じた。
図22】薬剤製品の安定性のモデルとしての液体保存後の高濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))のフリーズドライ調製物を再構成し、もとの液体の供給元の製剤の組成物およびそれぞれ組成物3、4_1および4_2の中での透析によって再緩衝化し、続いてもとの液体の供給元の製剤でトラスツズマブ-135mg/mlに、組成物3でトラスツズマブ-145mg/mlに、組成物4_1でトラスツズマブ-150mg/mlに、組成物4_2でトラスツズマブ-151mg/mlに濃縮した。(A)25℃で6か月液体保存した後、および(B)2~8℃で6か月液体保存した後のトラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル。もとの液体の供給元の製剤中での2~8℃および25℃での指示された期間の抗体の液体保存により、組成物3、4_1および4_2の中での抗体の液体保存と比較して、特に25℃の場合に、ダイマーとして14分で、またダイマーピークと16分のモノマーピークとの間のショルダーとして溶出する凝集物の形成の増大、および17分のモノマーピークと20分との間のショルダーとして溶出する断片の形成の増大が生じた。組成物3、4_1および4_2の中で製剤化した抗体のSE-HPLCプロファイルは、凝集物ピークとモノマーピークとの間の明らかなベースラインの分離を示した。2~8℃で6か月の液体保存の場合には、全ての製剤において断片化は軽微な事象に過ぎなかった。
図23】薬剤製品の安定性のモデルとしての40℃での液体保存後の高濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:液体の市販液体トラスツズマブ製剤(ハーセプチン(登録商標)、トラスツズマブ-120mg/ml)の濃度200mg/mlへの濃縮および本発明の3つの組成物(組成物4_3、4_4、または4_5)のいずれかによる液体トラスツズマブ製剤(ハーセプチン(登録商標)、トラスツズマブ-120mg/ml)の再緩衝化、ならびに後続の200mg/mlへの濃縮。(A)40℃、3日の液体保存後、および(B)40℃、14日の液体保存後のSE-HPLCプロファイル。そのような高濃度の抗体の保存中の断片化は軽微な事象に過ぎなかった。本発明の組成物中では、凝集の傾向はもとの供給元の製剤と比較して大きく低減し、14分で溶出する凝集物のピークと16分で溶出するモノマーピークとの間の明らかなベースラインの分離がさらに観察された。
図24】薬剤製品の安定性のモデルとしての高温での液体保存後の高濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:液体の市販液体トラスツズマブ製剤(ハーセプチン(登録商標)、トラスツズマブ-120mg/ml)の濃度200mg/mlへの濃縮および本発明の3つの組成物(組成物4_3、4_4、または4_5)のいずれかによる液体トラスツズマブ製剤(ハーセプチン(登録商標)、トラスツズマブ-120mg/ml)の再緩衝化、ならびに後続の200mg/mlへの濃縮。(A)30℃、42日の液体保存後、および(B)25℃、3か月の液体保存後のSE-HPLCプロファイル。そのような高濃度の抗体の保存中の断片化は軽微な事象に過ぎなかった。本発明の組成物中では、凝集の傾向はもとの供給元の製剤と比較して大きく低減し、14分で溶出する凝集物のピークと16分で溶出するモノマーピークとの間に明らかなベースラインの分離がさらに観察された。
図25】薬剤製品の粘度のモデルとしての、高濃縮トラスツズマブ製剤の動粘度:液体のもとの供給元のトラスツズマブ製剤(ハーセプチン(登録商標)、トラスツズマブ-120mg/ml)の濃度220mg/mlへの濃縮、液体のもとの供給元のトラスツズマブ製剤(ハーセプチン(登録商標)、トラスツズマブ-120mg/ml)の透析による再緩衝化、および後続の組成物4_3、4_4および4_5の中での220および200mg/mlへの濃縮。高濃縮トラスツズマブ製剤の動粘度を、2つの異なった濃度、200mg/ml(白色のバー)および220mg/ml(灰色のバー)で測定した。もとの供給元の製剤については、濃度220mg/mlの抗体製剤の粘度のみ測定した。抗体濃度220mg/mlにおける組成物4_3および4_4に対応する抗体製剤の動粘度は、同じ濃度のもとの供給元の製剤の動粘度と比較して、顕著に低減していた。組成物4_4では測定した動粘度は僅かに増大していた。抗体濃度200mg/mlの試料で評価した動粘度においても同様の傾向が示された。
図26-1】液体保存中の高濃縮トラスツズマブのSE-HPLC分析:SE-HPLCで得られた凝集物ピーク(上)、モノマーピーク(中)および断片ピーク(下)の相対AUCを示す。(A)もとの製剤と比較した、F2-1およびF2-2中での30℃、3か月の液体保存中の120mg/mlトラスツズマブのSE-HPLCの相対AUC。(B)もとの製剤と比較した、F2-3およびF2-4中での25℃、6か月の液体保存中の150mg/mlトラスツズマブのSE-HPLCピークの相対AUC。(C)もとの液体製剤と比較した、F2-5、F2-6およびF2-7中での25℃、3か月の液体保存中の200mg/mlトラスツズマブのSE-HPLCピークの相対AUC。もと:(120mg/ml)F0製剤(F0)
図26-2】液体保存中の高濃縮トラスツズマブのSE-HPLC分析:SE-HPLCで得られた凝集物ピーク(上)、モノマーピーク(中)および断片ピーク(下)の相対AUCを示す。(A)もとの製剤と比較した、F2-1およびF2-2中での30℃、3か月の液体保存中の120mg/mlトラスツズマブのSE-HPLCの相対AUC。(B)もとの製剤と比較した、F2-3およびF2-4中での25℃、6か月の液体保存中の150mg/mlトラスツズマブのSE-HPLCピークの相対AUC。(C)もとの液体製剤と比較した、F2-5、F2-6およびF2-7中での25℃、3か月の液体保存中の200mg/mlトラスツズマブのSE-HPLCピークの相対AUC。もと:(120mg/ml)F0製剤(F0)
図26-3】液体保存中の高濃縮トラスツズマブのSE-HPLC分析:SE-HPLCで得られた凝集物ピーク(上)、モノマーピーク(中)および断片ピーク(下)の相対AUCを示す。(A)もとの製剤と比較した、F2-1およびF2-2中での30℃、3か月の液体保存中の120mg/mlトラスツズマブのSE-HPLCの相対AUC。(B)もとの製剤と比較した、F2-3およびF2-4中での25℃、6か月の液体保存中の150mg/mlトラスツズマブのSE-HPLCピークの相対AUC。(C)もとの液体製剤と比較した、F2-5、F2-6およびF2-7中での25℃、3か月の液体保存中の200mg/mlトラスツズマブのSE-HPLCピークの相対AUC。もと:(120mg/ml)F0製剤(F0)
図27-1】液体保存中のトラスツズマブのカチオン交換クロマトグラフィー(CEX-HPLC)分析:(A)もとの製剤と比較した、F2-1およびF2-2中での30℃、3か月の液体保存中の120mg/mlトラスツズマブのCEX-HPLCピークの相対AUC。(B)もとの製剤と比較した、F2-3およびF2-4中での25℃、6か月の液体保存中の150mg/mlトラスツズマブのCEX-HPLCピークの相対AUC。(C)もとの液体製剤と比較した、F2-5、F2-6およびF2-7中での25℃、3か月の液体保存中の200mg/mlトラスツズマブのCEX-HPLCピークの相対AUC。もと:(120mg/ml)F0製剤(F0)。(A~C)酸性種(上)、主ピーク種(中)および塩基性種(下)。
図27-2】液体保存中のトラスツズマブのカチオン交換クロマトグラフィー(CEX-HPLC)分析:(A)もとの製剤と比較した、F2-1およびF2-2中での30℃、3か月の液体保存中の120mg/mlトラスツズマブのCEX-HPLCピークの相対AUC。(B)もとの製剤と比較した、F2-3およびF2-4中での25℃、6か月の液体保存中の150mg/mlトラスツズマブのCEX-HPLCピークの相対AUC。(C)もとの液体製剤と比較した、F2-5、F2-6およびF2-7中での25℃、3か月の液体保存中の200mg/mlトラスツズマブのCEX-HPLCピークの相対AUC。もと:(120mg/ml)F0製剤(F0)。(A~C)酸性種(上)、主ピーク種(中)および塩基性種(下)。
図27-3】液体保存中のトラスツズマブのカチオン交換クロマトグラフィー(CEX-HPLC)分析:(A)もとの製剤と比較した、F2-1およびF2-2中での30℃、3か月の液体保存中の120mg/mlトラスツズマブのCEX-HPLCピークの相対AUC。(B)もとの製剤と比較した、F2-3およびF2-4中での25℃、6か月の液体保存中の150mg/mlトラスツズマブのCEX-HPLCピークの相対AUC。(C)もとの液体製剤と比較した、F2-5、F2-6およびF2-7中での25℃、3か月の液体保存中の200mg/mlトラスツズマブのCEX-HPLCピークの相対AUC。もと:(120mg/ml)F0製剤(F0)。(A~C)酸性種(上)、主ピーク種(中)および塩基性種(下)。
図28】原薬の薬剤製品処理へのモデルとしての再緩衝化および後続の抗体濃度200mg/mlへの濃縮後の高濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:フリーズドライしたトラスツズマブ調製物(ハーセプチン(登録商標))を再構成し、それぞれもとの液体の供給元の製剤の組成物ならびに組成物4_1、4_3および4_5の中の透析によって再緩衝化し、続いてトラスツズマブ濃度200mg/mlに濃縮した。もとの液体の供給元の製剤中の抗体の濃縮によって、組成物4_1、4_3および4_5の中で製剤化した抗体の濃縮と比較して、保持時間14分で溶出する凝集物の形成の増大が生じた。
図29-1】薬剤製品の安定性のモデルとしての、液体保存後の高濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:フリーズドライしたトラスツズマブ調製物(ハーセプチン(登録商標))を再構成し、もとの液体の供給元の製剤の組成物中、ならびにフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤であるが米国特許第9364542号B2に記載された濃度でアミノ酸グリシンおよびプロリンを追加的に含む製剤中の透析によって再緩衝化した(実施例16)。比較のため、再構成したトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))を、それぞれ組成物4_1、4_3および4_5の中の透析によって追加的に再緩衝化した。続いて全ての製剤をトラスツズマブ濃度200mg/mlに濃縮した。(A)および(B)。組成物4_1、4_3および4_5の中で製剤化したトラスツズマブの55℃、24時間の液体保存後のSE-HPLCプロファイルを、それぞれもとの液体の供給元の製剤と比較し(A)、グリシンおよびプロリンを加えたもとの液体の供給元の製剤と比較した(B)。(C)および(D)。組成物4_1、4_3および4_5の中で製剤化したトラスツズマブの40℃、14日の液体保存後のSE-HPLCプロファイルを、それぞれもとの液体の供給元の製剤と比較し(C)、グリシンおよびプロリンを加えたもとの液体の供給元の製剤と比較した(D)。(E)および(F)。組成物4_1、4_3および4_5の中で製剤化したトラスツズマブの40℃、28日の液体保存後のSE-HPLCプロファイルを、それぞれもとの液体の供給元の製剤と比較し(E)、グリシンおよびプロリンを加えたもとの液体の供給元の製剤と比較した(F)。高温で種々の時間、液体保存した後の図示したSE-HPLCクロマトグラムによって、特に前記米国特許に従ってグリシンおよびプロリンを添加したフリーズドライ製品のもとの製剤と比較して、組成物4_1、4_3および4_4は凝集物の形成を効果的に防止したことが示された。
図29-2】薬剤製品の安定性のモデルとしての、液体保存後の高濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:フリーズドライしたトラスツズマブ調製物(ハーセプチン(登録商標))を再構成し、もとの液体の供給元の製剤の組成物中、ならびにフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤であるが米国特許第9364542号B2に記載された濃度でアミノ酸グリシンおよびプロリンを追加的に含む製剤中の透析によって再緩衝化した(実施例16)。比較のため、再構成したトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))を、それぞれ組成物4_1、4_3および4_5の中の透析によって追加的に再緩衝化した。続いて全ての製剤をトラスツズマブ濃度200mg/mlに濃縮した。(A)および(B)。組成物4_1、4_3および4_5の中で製剤化したトラスツズマブの55℃、24時間の液体保存後のSE-HPLCプロファイルを、それぞれもとの液体の供給元の製剤と比較し(A)、グリシンおよびプロリンを加えたもとの液体の供給元の製剤と比較した(B)。(C)および(D)。組成物4_1、4_3および4_5の中で製剤化したトラスツズマブの40℃、14日の液体保存後のSE-HPLCプロファイルを、それぞれもとの液体の供給元の製剤と比較し(C)、グリシンおよびプロリンを加えたもとの液体の供給元の製剤と比較した(D)。(E)および(F)。組成物4_1、4_3および4_5の中で製剤化したトラスツズマブの40℃、28日の液体保存後のSE-HPLCプロファイルを、それぞれもとの液体の供給元の製剤と比較し(E)、グリシンおよびプロリンを加えたもとの液体の供給元の製剤と比較した(F)。高温で種々の時間、液体保存した後の図示したSE-HPLCクロマトグラムによって、特に前記米国特許に従ってグリシンおよびプロリンを添加したフリーズドライ製品のもとの製剤と比較して、組成物4_1、4_3および4_4は凝集物の形成を効果的に防止したことが示された。
図29-3】薬剤製品の安定性のモデルとしての、液体保存後の高濃縮トラスツズマブ製剤のSE-HPLCプロファイル:フリーズドライしたトラスツズマブ調製物(ハーセプチン(登録商標))を再構成し、もとの液体の供給元の製剤の組成物中、ならびにフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤であるが米国特許第9364542号B2に記載された濃度でアミノ酸グリシンおよびプロリンを追加的に含む製剤中の透析によって再緩衝化した(実施例16)。比較のため、再構成したトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))を、それぞれ組成物4_1、4_3および4_5の中の透析によって追加的に再緩衝化した。続いて全ての製剤をトラスツズマブ濃度200mg/mlに濃縮した。(A)および(B)。組成物4_1、4_3および4_5の中で製剤化したトラスツズマブの55℃、24時間の液体保存後のSE-HPLCプロファイルを、それぞれもとの液体の供給元の製剤と比較し(A)、グリシンおよびプロリンを加えたもとの液体の供給元の製剤と比較した(B)。(C)および(D)。組成物4_1、4_3および4_5の中で製剤化したトラスツズマブの40℃、14日の液体保存後のSE-HPLCプロファイルを、それぞれもとの液体の供給元の製剤と比較し(C)、グリシンおよびプロリンを加えたもとの液体の供給元の製剤と比較した(D)。(E)および(F)。組成物4_1、4_3および4_5の中で製剤化したトラスツズマブの40℃、28日の液体保存後のSE-HPLCプロファイルを、それぞれもとの液体の供給元の製剤と比較し(E)、グリシンおよびプロリンを加えたもとの液体の供給元の製剤と比較した(F)。高温で種々の時間、液体保存した後の図示したSE-HPLCクロマトグラムによって、特に前記米国特許に従ってグリシンおよびプロリンを添加したフリーズドライ製品のもとの製剤と比較して、組成物4_1、4_3および4_4は凝集物の形成を効果的に防止したことが示された。
図30-1】薬剤製品の安定性のモデルとしての、液体保存後の高濃縮トラスツズマブ製剤のCEX-HPLC分析:フリーズドライしたトラスツズマブ調製物(ハーセプチン(登録商標))を再構成し、もとの液体の供給元の製剤の組成物中、ならびにフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤であるが米国特許第9364542号B2(実施例16)に記載された濃度でアミノ酸グリシンおよびプロリンを追加的に含む製剤中の透析によって再緩衝化した。比較のため、再構成したトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))を、それぞれ組成物4_1、4_3および4_5の中の透析によって追加的に再緩衝化した。続いて全ての製剤をトラスツズマブ濃度200mg/mlに濃縮した。(A)55℃での液体保存中の指示された分析時点における、(B)40℃での液体保存中の指示された分析時点における、(C)25℃での液体保存中の指示された分析時点における、酸性荷電バリアントの形成に対応するピークの相対的面積百分率の増大の経過。抗体分子の酸性荷電したバリアントの形成を図示した経過は、抗体分子の化学変化に対する組成物4_1、4_3および4_5の安定化効果をさらに裏付けるものである。特に、酸性荷電バリアントの形成に対する安定化は、トラスツズマブ分子の主な化学変化として知られ、高温での液体保存中の酸性荷電バリアントの形成量に主に寄与する脱アミド化に対する、組成物4_1、4_3および4_5の高い安定化効果を示唆している。対照的に、米国特許の実施例に従って添加剤としてアミノ酸グリシンおよびプロリンを添加したフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤は、高い抗体濃度における高温での液体保存の経過中に酸性荷電バリアントが生成する顕著に高い傾向を示した。
図30-2】薬剤製品の安定性のモデルとしての、液体保存後の高濃縮トラスツズマブ製剤のCEX-HPLC分析:フリーズドライしたトラスツズマブ調製物(ハーセプチン(登録商標))を再構成し、もとの液体の供給元の製剤の組成物中、ならびにフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤であるが米国特許第9364542号B2(実施例16)に記載された濃度でアミノ酸グリシンおよびプロリンを追加的に含む製剤中の透析によって再緩衝化した。比較のため、再構成したトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))を、それぞれ組成物4_1、4_3および4_5の中の透析によって追加的に再緩衝化した。続いて全ての製剤をトラスツズマブ濃度200mg/mlに濃縮した。(A)55℃での液体保存中の指示された分析時点における、(B)40℃での液体保存中の指示された分析時点における、(C)25℃での液体保存中の指示された分析時点における、酸性荷電バリアントの形成に対応するピークの相対的面積百分率の増大の経過。抗体分子の酸性荷電したバリアントの形成を図示した経過は、抗体分子の化学変化に対する組成物4_1、4_3および4_5の安定化効果をさらに裏付けるものである。特に、酸性荷電バリアントの形成に対する安定化は、トラスツズマブ分子の主な化学変化として知られ、高温での液体保存中の酸性荷電バリアントの形成量に主に寄与する脱アミド化に対する、組成物4_1、4_3および4_5の高い安定化効果を示唆している。対照的に、米国特許の実施例に従って添加剤としてアミノ酸グリシンおよびプロリンを添加したフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤は、高い抗体濃度における高温での液体保存の経過中に酸性荷電バリアントが生成する顕著に高い傾向を示した。
【発明を実施するための形態】
【0155】
実施例によって本発明を説明する。
【実施例
【0156】
実施例1
フリーズドライし、続いて保存したアデノウイルスベクターの機能的および構造的完全性のインビトロ研究により、アミノ酸および糖に基づく組成物が、下流処理の早期相における原薬の安定性を評価するためのモデルにおいてアデノウイルスベクターを安定化することが示された。
【0157】
1.1 材料および方法
組成物1および2は、アミノ酸の合計40g/lに対応する濃度で7つのアミノ酸、アラニン、アルギニン、グリシン、グルタミン酸、リジン、ヒスチジンおよびトリプトファンを含んでいた。しかし組成物1では、組成物2と比較して、トリプトファン濃度を5倍に増加し、ヒスチジンおよびグルタミン酸濃度を1.667倍に増加し、他のアミノ酸、アルギニン、グリシン、リジンの濃度を低減し、アラニン濃度を変更しなかった結果、アミノ酸全量を40g/lの同じ濃度とした。さらに、組成物2とは対照的に、組成物1に追加の界面活性剤ポリソーベート80を0.05g/lの濃度で添加した。両方の組成物は対応する糖としてトレハロースを、アミノ酸/トレハロース比1:2(w/w)で含んでいた。全ての組成物でpH値を7に調整した。
【0158】
もとの供給元の製剤(Firma Sirion、Martinsried/Munich、Germany)の7.5×1010IFU/mlの濃度で、-80℃で保存したアデノウイルスのストック溶液を用いた。
【0159】
1.1.1 試料調製およびフリーズドライ
組成物1または組成物2を用いてストック溶液を1×10IFU/mlの濃度に希釈することによって、アデノウイルスベクターストック溶液を再緩衝化した。比較のため、もとの供給元の製剤またはPBSを用いて、ストック溶液を同じ濃度に希釈した。
【0160】
フリーズドライ用の試料を調製するため、種々のアデノウイルス製剤を2Rフリーズドライバイアル(Schott AG、Maintz、Geramany)中で体積500μlに分注し、続いて以下の乾燥パラメーターによってフリーズドライした。
【0161】
【表1】
【0162】
フリーズドライの後、試料を目視で検査し、時点t=0における初期感染タイターの解析まで、試料の一部を2~8℃で短期間保存した。試料の他の部分を医薬品規制調和国際会議(ICH)のガイドラインに従って、残存湿度60%の環境条件下、25℃で21日もしくは42日、または残存湿度75%の環境条件下、40℃で7日もしくは28日、保存した。
【0163】
1.1.2 細胞培養中のアデノウイルスベクターの感染タイターの測定
アデノウイルスベクター製剤の感染タイターを解析するため、感染細胞中のアデノウイルスの増幅に成功した後、アデノウイルスのヘキソンタンパク質の検出によって、HEK293細胞培養における抗体に基づくウイルス滴定実験を適用した。24ウェルのマイクロタイタープレートのウェルあたり2.5×10個のHEK293(CCS)細胞(Firma Sirion、Martinsried/Munich、Germany)を体積500μlで播種した。アデノウイルスベクター製剤を、フリーズドライの直後、または25℃および40℃で保存した後の指示された時点で再構成した。陽性対照として、もとの供給元の製剤(Firma Sirion、Martinsried/Munich、Germany)中の濃度7.5×1010IFU/mlで、-80℃で保存したアデノウイルスストック溶液のアリコートを用いた。続いて、アデノウイルス試料の連続希釈を調製し、得られた希釈物のウェルあたり50μlを細胞の感染に用いた。プレートを37℃で42時間インキュベートした。感染の後、細胞をメタノールで固定し、一次抗ヘキソンタンパク質抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc.、Dallas、Texas、USA)とインキュベートし、続いて一次抗体に特異的なホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート二次抗マウス抗体(Cell Signaling Technology、Danvers、Massachusetts、USA)とインキュベートし、ジアミノベンジジン(Carl Roth GmbH and Co.KG、Grafrath、Germany)とのHRP酵素反応を行なった。褐色の着色は感染細胞を示す。顕微鏡下で褐色に着色した細胞を計数することによって、感染細胞の数を定量した。それぞれの感染細胞は1個の感染性ウイルス粒子として計数される。
【0164】
1.1.3 動的光散乱(DLS)測定
-80℃で保存したアデノウイルスストック溶液のアリコートに対応する未処理の陽性対照と比較した、再緩衝化直後でフリーズドライ前に採取した試料、ならびにアデノウイルスベクター製剤の再構成の後の試料について、DLSを行なった。後者の場合、DLSはフリーズドライの直後(t=0)または25℃(21日、42日)および40℃(7日、28日)での保存の関連する時点で行なった。
【0165】
この目的のため、試料5μlを特別のDLSキュベットにピペットで入れ、DynaPro Nanostar DLS装置(Wyatt Technology Europe GmbH、Dernbach、Germany)で分析した。それぞれの実験製剤について、同じ条件でブランク測定を行なった。DLS測定は10または20サイクルで、20~40秒の取得時間で行なった。得られた相関曲線を、DynaPro DLSソフトウェアで解析した。
【0166】
1.2 結果
興味あることに、アデノウイルスベクター調製物を本発明の溶液(組成物1または組成物2)と混合した直後のDLS実験で記録した相関関数の評価によって、もとのストック溶液中の未処理のアデノウイルス粒子の水力学的半径(図1A)と比較して、アデノウイルスベクターの水力学的半径の完全な保持(図1Bおよび図1C)が示唆された。フリーズドライの前の試料の調製プロセスの間の、もとの供給元の製剤またはPBSによる希釈によるアデノウイルスストック溶液の同様の混合によって既に、未処理のアデノウイルスベクター(図1A)と比較して、アデノウイルスベクターの測定された水力学的半径の顕著な増大が生じた(図2Aおよび図2B)。
【0167】
フリーズドライ後のインビトロ感染性アッセイによって、早期相のダウンスケールステップおよび後続のフリーズドライの間で既に、安定化組成物1および2の中でのアデノウイルスベクター調製物の製剤が、図1に破線で示した陽性対照の感染タイターに対応する感染タイターを生じることが明らかになった。したがって、フリーズドライ後の感染タイターの完全な保持が観察された。対照的に、もとの供給元の製剤中で再緩衝化したアデノウイルスベクターをフリーズドライした場合には、感染タイターの顕著な喪失が観察され、PBS中でのフリーズドライでは対応する感染タイターは完全に喪失された(図3)。
【0168】
乾燥された製品を再構成した後のアデノウイルス調製物のインビトロ感染性の結果は、動的光散乱実験による水力学的半径の並行した測定の結果とよく一致した。早期相ダウンスケールステップと後続のフリーズドライの間で既に、アデノウイルスベクター調製物と本発明の組成物1および2との組合せにより、ウイルス粒子の水力学的半径の完全な保持が得られた(実施例1、図4Aおよび4B)。対照的に、もとの供給元の製剤中での対応するアデノウイルスベクター調製物のフリーズドライでは、粒径の増大が生じた(実施例1、図5A)。一般的なリン酸緩衝食塩液(PBS)と組み合わせた同様の試料調製手順では、フリーズドライ後で既に、粒径の大きな増大(実施例1、図5B)および顕著な量の高次凝集物の形成が生じた。
【0169】
これらの相違はフリーズドライ調製物の保存後で、より顕著であった。もとの供給元の製剤中でフリーズドライしたウイルスベクターの完全な機能の喪失(図6)が観察され、PBS中で得られた結果と同様であった。対照的に、25℃または40℃での保存後でも、製造プロセスの早期に安定化組成物1および2の中で製剤化したフリーズドライアデノウイルスベクター組成物は、陽性対照、すなわちフリーズドライ前のアデノウイルスベクター(図6のダイアグラムに破線で示す)とほぼ同じウイルス活性を保持していた。
【0170】
インビトロ感染性実験のこれらの結果は、並行して行なったDLS実験とよく対応している。例として、本発明の組成物1および2の中での、またはもとの供給元の製剤およびPBSの中での、乾燥されたアデノウイルスベクター組成物の保存後の記録されたDLS相関関数の評価を、それぞれ40℃、14日の保存後、図7および図8に示した。安定化組成物1および2の中での乾燥されたアデノウイルスベクター調製物の保存によって、もとの供給元の製剤中およびPBS中で保存されたアデノウイルス粒子(実施例1、図8Aおよび図8B)とは対照的に、アデノウイルス粒子の測定された水力学的半径の保持が得られた(実施例1、図7Aおよび図7B)。
【0171】
実施例2
凍結解凍ストレスの後の種々のアデノウイルスベクター調製物の機能的および構造的完全性のインビトロ研究により、特定のアミノ酸組成物が下流処理の早期相における原薬の安定性を評価するためのモデルにおいて他よりも優れた安定化効果を示すことが示された。
【0172】
2.1 材料および方法
2.1.1 試料調製およびさらなる処理
eGFPタンパク質をコードするDNAを含むアデノウイルスタイプ5ベクターの高タイターのアデノウイルスベクターストック。5×10個のHEK293細胞にアデノウイルス粒子を導入した。導入の48時間後に細胞を採取し、Na-DeoxycholatおよびDNase I処理によってウイルス粒子の放出を行なった。CsCl勾配超遠心および通常それに続くPD10カラム上のもとの供給元の製剤による緩衝液交換によってウイルス粒子を精製し、続いて感染タイターを測定した。得られた高タイターのアデノウイルスストックを続いて分注し、-80℃で保存した。
【0173】
試料調製-プロセスステップ1:CsCl勾配超遠心の直後にアデノウイルスベクター調製物を再緩衝化することによって、アデノウイルスベクター製剤を調製した。得られたアデノウイルスベクターバンドを採取し、組成物1または2のいずれかで(1.1に記載したように)2~8℃で透析した。得られた製剤を分注し、-80℃で保存した。
【0174】
試料調製-プロセスステップ2:凍結された(-80℃)アデノウイルスストック溶液(7.5×1010IFU/ml、Sirion、Martinsried/Munich、Germany)をもとの供給元緩衝液中で解凍し(室温、RT)、続いて組成物1および2の中で、2~8℃で透析した。
【0175】
2.1.2 プロセスステップ1およびステップ2の調製物からのアデノウイルス試料の繰り返し凍結解凍サイクル
後続のストレス条件の間のアデノウイルスベクター調製物の安定性を解析するため、組成物1または2の中で製剤化したアデノウイルスベクター50μlを繰り返し凍結(-80℃)解凍(RT)サイクルに供した。HEK293細胞培養(1.1.2に記載)におけるウイルス滴定により、初期時点t=0ならびに5回および10回の凍結解凍サイクルの後で、インビトロ感染性(1.1.2に記載)を測定した。並行して、アデノウイルス粒子の水力学的半径をDLS(1.1.3に記載)によって測定した。
【0176】
2.2 結果
インビトロ感染性アッセイにより、陽性対照(図9の破線)と比較して、組成物1はプロセスステップ1とステップ2の両方のアデノウイルスベクター調製物の感染タイターを完全に保持していることが明らかになった(図9)。超遠心ステップの直後(プロセスステップ1)の組成物2の中におけるアデノウイルスベクター調製物の再緩衝化も、アデノウイルスベクター調製物の感染性を完全に保持していた。興味あることに、プロセスステップ2の後で用いた組成物2は、初期タイターのほぼ2ログレベルの喪失を生じた(図9)。
【0177】
さらなる凍結解凍サイクル(5回および10回)に際して、生産プロセスステップおよび再緩衝化の時点に関わらず、組成物1は完全な感染タイターを保持していた(図11Aおよび図11B)。対照的に、2つの異なったプロセスステップ1および2で調製した場合、組成物2は全く異なった効果を生じた。プロセスステップ2によって得られた組成物2の試料の感染タイターは、5回の凍結解凍サイクルの後で顕著に低減し、10回のサイクルの後ではさらに大きく低減した(図11B)。アデノウイルスベクターを早期のプロセスステップ1で組成物2の中で製剤化した場合には、5回の凍結解凍サイクルの後で僅かなタイターの喪失が観察された。10回の凍結解凍サイクルではより大きな低減が生じたが、プロセスステップ2における調製と比較して僅かな程度であった(図11A)。
【0178】
繰り返し凍結解凍サイクルの前後の感染タイターの測定と並行して、対応するアデノウイルス粒子の水力学的半径を動的光散乱(DLS)によって解析した(図10図12および図13)。超遠心による精製ステップの直後のアデノウイルスベクター調製物の再緩衝化(調製ステップ1)によって、両方の組成物においてウイルス粒子の水力学的半径の完全な保持が得られ(図10Aおよび図10B)、対応するインビトロ感染性の完全な保持が確認された(図9)。組成物1の場合には、プロセスステップ2によってアデノウイルスベクター調製物を再緩衝化した後に水力学的粒子半径の僅かな増大が観察され(図10C)、これは図9に示す感染性の結果と一致している。対照的に、処理ステップ2に対応する組成物2の中のアデノウイルスベクター調製物の再緩衝化によって、高次凝集物の形成を伴うアデノウイルス粒子の水力学的半径の顕著な増大が生じ(図10D)、これはインビトロ感染性試験における機能の喪失(図9)を説明するものであろう。
【0179】
5回および10回の繰り返し凍結解凍サイクルの後、特に組成物2におけるウイルス粒子の水力学的半径の変化をDLSによって測定した。プロセスステップ1および2で調製した場合、組成物1では顕著な増大は観察されなかった。例として、5回および10回の凍結解凍サイクルの適用後の組成物1の中におけるアデノウイルス粒子のサイズについてのDLSの結果を図12に示す。プロセスステップ1で組成物2を用いた場合、5回の凍結解凍サイクルの後で既に高次凝集物の形成を伴って水力学的半径が顕著に増大し、10回の凍結解凍サイクルの後、およびプロセスステップ2で用いた場合には、半径のさらなる増大とDSL測定限界外の高次凝集物のために測定できなかった(図13Cおよび図13D)。5回の凍結解凍サイクルの適用の後の、プロセスステップ1および2のいずれかで調製した組成物1および2におけるアデノウイルス粒子サイズの挙動を図13A図13Dに示す。
【0180】
要旨および結論として、組成物1は一般に、適用された両方の早期生産ステップにおいてアデノウイルスベクター粒子に対して優れた安定化効果を示した。対照的に、組成物2は超遠心直後に用いた場合には安定化効果を示したが、生産プロセスの後の方で用いた場合には組成物1と比較して低減した安定化効果が観察された。
【0181】
DLSデータは、実施例1で示されたインビトロ感染性データと相関している。これにより、ウイルスベクター組成物の生産プロセスの早期にアミノ酸に基づいて特に調整された安定化組成物を用いることが、生物医薬製造のさらなる処理ステップの間の安定性に重要であることが結論される。さらに、溶液の多分散性の低減の観点からのウイルスベクター系組成物の安定化により、高いインビトロ感染性を有する溶液が得られる。
【0182】
実施例3
低濃縮治療用抗体製剤の処理中および液体保存中の分子の完全性の解析により、特定のアミノ酸と糖の組成物によって、原薬の薬剤製品処理へのモデルにおいて抗体が凝集および特に断片化する傾向が低減されることが示された。
【0183】
3.1 材料および方法
組成物Her_1およびHer_2は、組成物Her_1の場合には9.4g/lのトレハロース、組成物Her_2の場合には9.4g/lのメチオニンとの組合せとして、7つのアミノ酸、アラニン、アルギニン、グリシン、グルタミン酸、リジン、ヒスチジンおよびトリプトファンをアミノ酸の合計濃度30.6g/lで含み、全賦形剤濃度40g/lとなっていた。アミノ酸の合計とトレハロースとの比は3.25:1であった。組成物Her_9は、10g/lのトレハロースおよび10g/lのメチオニンとの組合せとして4つの塩基性アミノ酸、高濃度のアルギニン、グリシン、トリプトファンおよび緩衝液濃度のヒスチジンのみをアミノ酸の合計濃度20g/lで含んでいた。4つの塩基性アミノ酸の合計とトレハロースとの対応する比は2:1であった。全ての例においてIgGと賦形剤との(重量:重量)比は1:1.6であった。もとの供給元の製剤の場合のIgGと賦形剤との比は1:1であった。全ての組成物でpH値を6に調整した。
【0184】
モデルタンパク質として、市販のフリーズドライハーセプチン(登録商標)(Roche、Basel、Switzerland)、すなわち治療用ヒト化IgG1モノクローナル抗体(トラスツズマブ)を用いた。所望の量の水によるフリーズドライ薬剤の再構成により、もとの供給元の製剤として抗体濃度IgG1 25mg/mlとなった(トレハロース24g/l、ヒスチジン緩衝液0.9mg/ml、約5mM、ポリソーベート20 0.1g/l、pH6)。
【0185】
3.1.1 試料調製
得られた製剤を、もとの供給元の製剤の組成物ならびに種々のアミノ酸に基づく組成物Her_1、Her_2およびHer_9中、2~8℃で透析した後、全ての製剤を無菌濾過し、液体保存のため無菌のバイアルに分注した。試料を37℃および45℃に保存し、保存前、試料調製直後、および指示された時点で、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によってタンパク質の凝集および断片化を解析した。
【0186】
3.1.2 サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
タンパク質の凝集および断片化をSECによって定量した。分析は、UV-280nm検出器およびTSK-ゲルG3000SWXL7.8×300mmカラム(Tosoh Bioscience、Tokyo、Japan)を備えたUHPLCシステムUltiMate3000(Thermo Scientific、Darmstadt、Germany)を用いて30℃、流量0.5ml/分で行なった。SEC分析に先立って、25mg/mlの抗体または他の例によるより高い濃度を含む試料を、SEC運転緩衝液PBSを用いてIgG濃度2.5mg/mlになるように希釈し、特別のHPLCバイアルに分注した。注入量は25μlであった。SEC用の運転緩衝液はDulbeccoのPBS pH7.1(PAA Laboratories、Pasching、Austria)であった。それぞれのシーケンスで分子量標準(BSA、Thermo Scientific、Waltham、MA、USA)およびプラセボ緩衝液を流した。
【0187】
凝集および断片化の%で表した定量は、Chromeleon 7 Chromatography Data Software(Thermo Scientific、Germany)を用いて、モノマーピーク、高分子量種の合計、および低分子量種の合計の曲線下面積を比較することによって測定した。
【0188】
3.2 結果
試料調製
透析直後のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析におけるピークパターンによって、もとの製剤中における約1.55%の凝集ピークの面積百分率への凝集形成の増加、およびより高分子量の凝集物の形成さえも明らかになった。対応するトラスツズマブ標準品中の凝集物の通常の含量は約0.4%であった。無傷の抗体分子に対応するモノマーピークの面積百分率は、これに伴ってもとの製剤中で約98.44%に減少した。
【0189】
対照的に、それぞれ種々のアミノ酸に基づく組成物Her_1、Her_2およびHer_9における透析による最初のIgG1製剤の再緩衝化によって、未処理のトラスツズマブ標準製剤に対応する高分子量凝集物を形成することなく、約0.4%の凝集物量の保持が得られた。対応するモノマーピークの面積百分率はそれぞれ約99.6%に保持された(図14)。
【0190】
45℃における液体保存
もとの供給元の製剤中における抗体の21日間の液体保存の後、凝集物ピークの面積百分率の1.76%への増大が見られ、28日後には凝集物形成は約2.53%にさらに増大した(比較のため、同じストック溶液の未処理トラスツズマブ標準品における凝集は、0.4%の凝集物を含んでいた)。さらに、断片化は21日後に約1.92%、28日後に約2.78%に増大した。凝集と断片化の速度は45℃における保存の経過中、同様であった。アミノ酸に基づく全ての組成物、Her_1、Her_2およびHer_9は、45℃における液体保存の間、抗体の凝集および断片化の程度を低減させたが、その程度は異なっていた。トレハロースおよび/またはメチオニンと組み合わせて7つのアミノ酸を含む組成物(組成物Her_1およびHer_2)は、45℃における液体保存の間の抗体の凝集を顕著に低減した。たとえば、メチオニンと組み合わせて7つのアミノ酸を含む組成物Her_2は、21日間の保存中の凝集物形成を約0.56%(もとの製剤の1.76%に対して)に低減した。45℃、21日の保存後の1.32%の断片化はやや目立ったが、もとの製剤中の保存(1.92%)と比較して顕著に低減した。28日までのさらなる保存の後、凝集は変化せず(もとの製剤の2.53%に対して0.52%)、断片はもとの製剤の2.78%に対して1.49%にやや増大した。トレハロース(アミノ酸とトレハロースの比は2:1であった)およびメチオニンと組み合わせた緩衝液濃度中で4つの塩基性アミノ酸、アルギニン、グリシン、トリプトファン、およびヒスチジンにアミノ酸含量を減少すると、45℃、21日の保存後の凝集物の量は同程度になったが、抗体が断片化する傾向は低減した(1.02%)。45℃、28日の保存後では、凝集物の含量は約0.39%にさらに低減したが、断片化は約1.56%に増大した(図18)。
【0191】
したがって、7つのアミノ酸から4つのアミノ酸へのアミノ酸の量の減少、アミノ酸とトレハロースとの比の3.25:1(7つのアミノ酸およびトレハロース)から2:1(4つのアミノ酸およびトレハロース)への調節、および抗酸化剤として作用するメチオニンの添加により、高温における保存中の抗体の凝集および特に断片化する傾向が低減された。
【0192】
実施例4
低濃縮治療用抗体製剤の処理中および液体保存中の分子の完全性の解析により、特に調整されたアミノ酸と糖の組成物によって、原薬の薬剤製品処理へのモデルにおいて抗体が凝集および特に断片化する傾向が低減されることが示された。
【0193】
4.1 材料および方法
組成物11_1は6つのアミノ酸、アルギニン、グリシン、グルタミン酸、トリプトファン、メチオニンおよびβ-アラニンを対応するアミノ酸の合計濃度48g/lで、また組成物11_1+トレハロースの場合には96g/lのトレハロースとの組合せで含んでいた。この組成物ではアミノ酸とトレハロースとの比は1:2であった。pH値は6に調節した。抗体と賦形剤との比は、トレハロースの添加がない場合には1:2.4(重量:重量)、トレハロースの添加後には1:7.2であった。もとの液体の供給元の組成物の場合には、抗体と賦形剤との比は1:3.4であった。
【0194】
モデルタンパク質として、市販のフリーズドライハーセプチン(登録商標)(Roche、Basel、Switzerland)、すなわち治療用ヒト化IgG1モノクローナル抗体(トラスツズマブ)を用いた。所望の量の水によるフリーズドライ薬剤の再構成により、もとの供給元の製剤中の抗体濃度はIgG1 50mg/mlとなった(トレハロース48g/l、ヒスチジン緩衝液1.8mg/ml、約10mM、ポリソーベート20 0.2g/l、pH6)。
【0195】
4.1.1 試料調製
得られた製剤を、もとの液体の供給元の製剤の組成物(トレハロース79.45g/l、ヒスチジン緩衝液3.13g/l、20mM、メチオニン1.49g/l、ポリソーベート20 0.4g/l、pH6)中、2~8℃での透析により再緩衝化し、続いて部分的に希釈することによって、抗体の最終濃度25g/lおよび50g/lの、もとの液体の供給元の製剤中の製剤を得た。
【0196】
並行して、抗体濃度20mg/mlの市販のハーセプチン(登録商標)をフリーズドライし、再構成し、分注して-80℃に保存したアリコートを解凍した後、アミノ酸に基づく組成物11_1および11_1+トレハロース中での透析による再緩衝化を行なった。
【0197】
試料調製直後に、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いてタンパク質の凝集および断片化を解析した。
【0198】
4.1.2 サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
SECは段落3.1.2に従って行なった。
【0199】
4.2 結果
試料調製
もとの液体の供給元の組成物中での透析後、凝集形成は前の実施例と比較して低減した(凝集物0.4%)。しかし、トレハロースの添加なしの、およびアミノ酸とトレハロースとの比1:2でトレハロースを添加した、さらなるアミノ酸に基づく組成物11_1中で透析した後、凝集は約0.3%にさらに低減した(図15)。
液体保存
【0200】
全体の実施例の経過中、アミノ酸とトレハロースとの比1:2でアミノ酸に基づく製剤(組成物11_1)にトレハロースを添加すると、トレハロースを含まない対応する組成物と比較して、37℃での保存の経過で断片の面積百分率の顕著な低減が生じ、トレハロースの存在下で凝集傾向が僅かに低減した(データは示していない)。
【0201】
したがって、最後の2つの実施例によって既に、アミノ酸とトレハロースとの組合せが明らかに高温での液体保存中の抗体の凝集形成および特に断片化を低減させるための必須要件であることが示された。
【0202】
抗体の凝集および断片化挙動に対する抗体と賦形剤との比の影響は、低濃縮トラスツズマブ製剤を用いた液体保存実験の経過で既に観察されていた。IgG濃度50mg/mlで、また以前の実験の組成物Her_9と同程度の比でトレハロースおよび抗酸化剤と組み合わせた4つの塩基性アミノ酸を含むアミノ酸に基づく組成物中の製剤において、25g/l、50g/lおよび75g/lの濃度で、SECクロマトグラムにより、37℃、42日の保存後に、賦形剤濃度の増大によって凝集形成が低減し、賦形剤の濃度の増大によって断片化が増大することが明らかになった。抗体と賦形剤との最大の比2:1で、断片化は最小となり、凝集物は最大となった(データは示していない)。
【0203】
これらの実施例3および4の結果を併せると、トレハロースとのバランスを取った比と組み合わせた7つのアミノ酸から4つの塩基性アミノ酸へのアミノ酸の量の低減、抗酸化剤、たとえばメチオニンの添加、および抗体と賦形剤とのバランスを取った比は、高温での液体保存の経過中の抗体の凝集および断片化に影響を与えることが示される。
【0204】
実施例5
高濃縮治療用抗体製剤の処理中および液体保存中の分子の完全性および粘度の解析により、特定のアミノ酸と糖の組成物によって、原薬の薬剤製品処理へのモデルにおいて抗体が凝集および特に断片化する傾向が低減されることが示された。
【0205】
5.1 材料および方法
組成物3および4は、4つの塩基性アミノ酸、アルギニン、グリシン、トリプトファンおよびヒスチジンをアミノ酸の合計濃度50g/lで含んでいた。組成物3の場合にはアミノ酸組成物は80g/lのトレハロースとの組合せ、組成物4の場合には32.2g/lのトレハロースとの組合せであった。追加の化合物として組成物3および4は1.5g/lのメチオニンおよび0.4g/lのポリソーベート20を含んでいた。組成物4は追加の2つの化合物、キレート化剤EDTAおよび抗酸化剤アスコルビン酸を含んでいた。得られた賦形剤の合計は、組成物3の場合に131.5g/l、組成物4の場合に85g/lであった。組成物3で塩基性アミノ酸の合計とトレハロースとの比は1:1.55(w/w)でトレハロース過剰、組成物4で塩基性アミノ酸とトレハロースとの比は1.6:1(w/w)でアミノ酸過剰であった。抗体と賦形剤の合計との比は組成物3で1:0.9(w/w)、組成物4で1:1.4(w/w)であった。pH値は5.5に調節した。
【0206】
モデルタンパク質として、もとの供給元の製剤中に濃度120mg/mlでトラスツズマブを含む市販の液体治療用高濃縮抗体ハーセプチン(登録商標)(Roche、Basel、Switzerland)(トレハロース79.45g/l、ヒスチジン緩衝液3.13g/l、20mM、メチオニン1.49g/l、ポリソーベート20 0.4g/l、rHuPh20(組み換えヒトヒアルロニダーゼ)0.024g/l、pH5.5)を用いた。
【0207】
5.1.1 試料調製
25℃、30℃および40℃での保存のため、もとの液体の供給元の製剤中の未処理の抗体製剤の試料を、もとの容器から直接、無菌のHPLCバイアルに分注した。抗体濃度120mg/mlのトラスツズマブのもとの液体の供給元の製剤の別の一部を、本発明の組成物への2~8℃での透析によって再緩衝化した。得られた製剤を無菌濾過し、無菌のHPLCバイアルに分注し、25℃、30℃および40℃で保存した。保存前、試料調製直後、および保存中の指示された時点で、SECによって凝集および断片化を解析した。
【0208】
5.1.2 サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
SECは段落3.1.2に従って行なった。
【0209】
5.1.3 粘度測定
段落5.1.1による試料調製の後、アミノ酸組成物3および4に基づく高濃縮抗体製剤の粘度を、落球式粘度計(Anton Paar GmbH、Ostfildern-Schamhausen、Germany)を用いて、未処理のもとの液体の供給元の製剤の粘度と比較して測定した。高濃縮タンパク質試料(120mg/ml)の密度の測定および落下角70°、20℃での水によるキャピラリの較正の後、キャピラリに球を導入し、約500μlの抗体製剤をキャピラリに注意深く充填した。充填したキャピラリを装置のキャピラリブロックに挿入し、20℃および落下角70°で10個の個別のアッセイとして試料を測定した。
【0210】
5.2 結果
試料調製
もとの容器からの未処理の液体トラスツズマブ製剤のSECプロファイルは、0.19%の小さな凝集ピーク、99.77%のモノマーピークおよび0.04%の断片のみを示した。段落5.1によるアミノ酸に基づく組成物3および4の中でこの製剤を再緩衝化した後、同様のSECプロファイルが解析され、再緩衝化のプロセスの間の抗体に対するアミノ酸に基づく製剤の安定化効果が示唆され(図16)、これは後続の高温での保存中、より顕著であった(図19および次の段落)。
【0211】
液体保存
もとの未処理液体の供給元の製剤中での40℃、1.5日の保存後で既に、凝集形成の増大が測定され(0.22%)、断片化の僅かな増大が見られた(0.09%)。モノマーピークは99.69%に僅かに減少した。対照的に、段落5.1による2つの異なったアミノ酸に基づく組成物3および4の中における抗体の40℃、1.5日の保存により、抗体の凝集傾向の低減およびそれほどではないが断片化傾向の低減が明らかになった(図19A)。組成物3ではアミノ酸とトレハロースとの比が1:1.55(w/w)とアミノ酸に対してトレハロースが過剰で、40℃、1.5日の保存後の凝集物含量は約0.16%、断片は0.06%となった。アミノ酸とトレハロースとの比が1.6:1とアミノ酸過剰の組成物4における40℃、1.5日の保存では、凝集物0.16%および断片0.05%の形成となった。もとの液体の供給元の製剤中の40℃、12日の保存後には、凝集物および断片はさらに増大した(凝集物0.26%、断片0.27%)。組成物3では、40℃、12日の保存後に凝集物は僅か0.20%に、断片は0.29%に増大した。組成物4では、凝集物含量は僅か0.18%であり、断片含量は僅か0.20%に増大した(図19B)。30℃、21日の保存後、もとの供給元の製剤中の凝集物含量も0.26%に増大し、断片は0.13%であった。組成物3ならびに組成物4の中における30℃、21日の保存では、抗体の凝集傾向の低減が明らかになった(組成物3で0.18%、組成物4で0.16%)。組成物3中における抗体の断片化の増大(0.15%)は、もとの製剤および組成物4と同程度であり、組成物4中における断片含量は0.09%に低減した(図19C)。40℃におけるより長期の保存後のデータにより、これらの観察が確認された。もとの製剤中の40℃、42日の保存後、凝集物は0.53%に、断片は0.8%に増大した。対照的に、組成物3および組成物4では、この保存期間後の凝集物含量は0.37%および0.36%であった。さらに、断片はそれぞれ僅かに0.72%および0.66%であった。
【0212】
これらの結果より、アミノ酸に基づく製剤は、40℃および30℃での保存中に、凝集物の形成および特に組成物4では断片の形成に対して、もとの製剤より強い安定化効果を有していることが示唆される。結果はさらに、特にトレハロースに対してアミノ酸が過剰な組成物4が、凝集および断片化に対して組成物3と比較して良好な安定化を示すことを示している。この観察は30℃、3か月の保存後に確認された。もとの製剤では凝集物含量は0.35%であったが、組成物3では凝集物含量は0.26%、組成物4では凝集物含量は0.20%であった。もとの製剤中では断片は0.40%、組成物3では0.46%、組成物4では僅か0.33%であった。30℃、3か月の加速老化条件における高濃縮抗体製剤(120mg/ml)の液体保存経過の定量的統計解析により、上記の発見がさらに実証された。もとの液体製剤中の加速老化(図26)は、組成物3および組成物4と比較して、有意に高い(p<0.01)凝集度を示し、製剤の粘度と一致していた(下記および図26を参照)。対照的に、保存中の断片形成はもとの製剤と組成物3とで同様であったが、組成物4では有意に低減した(p<0.05)(図26A)。これに伴うモノマーピークの低減は組成物3では限定的(p<0.01)であり、組成物4ではもっと少なかった(p<0.01)(図26A)。
【0213】
アミノ酸とトレハロースとの比1.6:1(w/w)の組成物4の安定化効果は、以下の実施例で確認された。
【0214】
糖を含まず、ジペプチドと組み合わせた、アミノ酸、アルギニン、グリシン、グルタミン酸、トリプトファン、メチオニンおよびβ-アラニンのみを含む、実施例4、段落4.1による組成物11_1から誘導されたさらなる組成物1の安定化効果を解析した。上記のそれぞれの分析時点で抗体の凝集は顕著に低減したが、段落5.1による組成物3および特に組成物4と比較して、抗体はより強い断片化の傾向を示し、アミノ酸とトレハロースとのバランスを取った比が凝集および断片化を低減させるという観察が支持された(データは示していない)。
【0215】
さらに、CEX-HPLCによってもとの製剤と比較した、組成物3および4の中の30℃、3か月の加速老化条件での高濃縮抗体製剤(120mg/mL)の液体保存の経過における化学的分解パターンの解析により、たとえば好適な比の糖および1つまたは複数の抗酸化剤の添加による塩基性アミノ酸組成物の調節の有利な効果がさらに強調された。より高濃縮された(120mg/ml)トラスツズマブを用いた場合と同じく、組成物3によって塩基性種が低減する(図27、p<0.05)。したがって、アミノ酸と糖との比をバランスさせることによって、高濃縮トラスツズマブの液体保存中の塩基性化学的分解生成物を制限することが可能になった。
【0216】
このデータは、特定の生体分子の要求(たとえば薬剤製品の最終濃度および粘度)による早期の原薬処理ステップ中に用いる少なくとも3つのアミノ酸、アルギニン、グリシン、ヒスチジンおよび/またはトリプトファンを含む、適用される塩基性アミノ酸組成の調節によって、充填、フリーズドライ、乾燥されたまたは液体の製品の保存等のさらなる処理の間、生体分子が安定化されるという、特許を請求する発明をさらに実証するものである。
【0217】
粘度測定
アミノ酸に基づく高濃縮抗体製剤の測定された動粘度は、未処理の液体の供給元の製剤の対応する粘度と比較して顕著に低減していることが見出された。組成物3の中の動粘度は4mPa・秒、組成物4の中では3.5mPa・秒であった。対照的に、高濃縮の液体のもとの供給元の製剤の動粘度は4.8mPa・秒であった(図20)。
【0218】
組成物4およびもとの供給元の製剤は、ほぼ同様の抗体と賦形剤との比1.4:1(w/w)で抗体を含んでいた。しかし、組成物4では、アミノ酸とトレハロースとの比およびそれに伴う対応する抗体と賦形剤との比の調節は、もとの製剤と比較して、高温での液体保存中の安定化効果と製剤の粘度の顕著な低下の両方で影響を及ぼした。組成物3におけるアミノ酸とトレハロースとの比の調節およびそれによる抗体と賦形剤との比は既に、もとの製剤と比較して安定化効果の増大および製剤粘度の低下を生じたが、組成物4の効果で生じたさらなる調節と比較するとそれほどではなかった。
【0219】
したがって、これらのデータは、バランスを取った比でのアミノ酸とトレハロースとの組合せおよび抗体と賦形剤の合計との比の同時の調節が、高温での液体保存中の抗体の凝集および特に断片化に関する製剤の安定化効果に強い影響を有するという発見をさらに実証するものである。さらに、上述の安定化効果の他に、このようにして組成物を調節することにより、高濃縮治療用抗体製剤の製剤粘度が顕著に低減する。
【0220】
実施例6
高濃縮治療用抗体製剤の処理中および液体保存中の分子の完全性の解析により、特定のアミノ酸と糖の組成物、ならびにアミノ酸と糖との比(w/w)によって、薬剤製品の安定性のモデルにおいて抗体が凝集および特に断片化する傾向が低減されることが示された。
【0221】
6.1 材料および方法
組成物3および4_1は段落5.1による実施例5で適用した同様の組成物である。しかし組成物4_1の場合には、pH5.5へのpHの調節はクエン酸の代わりにHClで行なった。両方の組成物は実施例5の段落5.1による同様のアミノ酸の合計とトレハロースとの比を含んでいた。組成物4_2は実施例5の段落5.1による組成物4のバリアントでもある。組成物4_2は4つの塩基性アミノ酸、アルギニン、グリシン、トリプトファンおよびヒスチジンを含み、さらにアミノ酸アラニンを添加した。組成物4_2では糖分画はトレハロースとサッカロースの比3:1(w/w)の混合物であった。メチオニンの量は3.5g/lに僅かに増加し、追加の賦形剤、たとえばキレート化剤EDTAおよびアスコルビン酸をさらに供給した。
【0222】
組成物4_2ではアミノ酸と糖との比を1:1(w/w)に僅かに減少させた。もとの製剤では、抗体と賦形剤との比は1.6:1(w/w)、組成物3では1:1.1(w/w)、組成物4_1では1.76:1(w/w)、組成物4_2では1.12:1(w/w)であった。
pHは5.5に調節した。
モデルタンパク質として、段落3.1および4.1による市販のフリーズドライハーセプチン(登録商標)(Roche、Basel、Switzerland)を用いた。試料の調製は、市販のフリーズドライハーセプチン(登録商標)を所望の量の水で再構成することによって行なった。
【0223】
6.1.1 試料の調製
得られた製剤を、もとの液体製剤の組成物(トレハロース79.45g/l、ヒスチジン緩衝液3.13g/l(20mM)、メチオニン1.49g/l、ポリソーベート20 0.4g/l、pH5.5)に対して、および段落6.1によるアミノ酸に基づく組成物に対して、2~8℃で透析した。続いて得られたIgG製剤を濃縮して、もとの製剤中で抗体135mg/ml、組成物3の中で抗体145mg/ml、組成物4_1の中で抗体150mg/ml、組成物4_2の中で抗体151mg/mlを得た。続いて製剤を無菌濾過し、無菌のHPLCバイアルに分注し、5℃、25℃、30℃および40℃に保存した。保存前、試料調製直後、および保存中の指示された時点で、SECによって凝集および断片化を解析した。
【0224】
6.1.2 サイズ排除クロマトグラフィー
SECは段落3.1.2に従って行なった。
【0225】
6.2 結果
液体保存
もとの製剤中の40℃、8日の初期保存期間の後で既に、凝集物および断片の形成は顕著に増大していた(液体保存の前の凝集物0.35%および断片なしに対し、それぞれ凝集物0.77%、断片0.75%)。対照的に、試験した全てのアミノ酸に基づく製剤中、40℃、8日の保存で凝集および断片化は明らかに制限された。組成物3では凝集は0.39%、断片化は0.51%であった。組成物4_1では凝集は0.38%で、興味あることに断片化は0.31%にさらに低減した。組成物4_2では、図21Aに示すように、凝集および断片化のさらなる僅かな低減が検出された(凝集物0.36%、断片0.28%)。
【0226】
このデータによって、組成物4(この実施例6における組成物4_1)の液体保存中の特に断片の形成をさらに低減する効果に関する前の実験の結果が確認された。
【0227】
30℃、1か月の保存後に同様の結果が見出された。もとの製剤中の保存により、0.53%の凝集物および0.50%の断片が生じた。組成物3についての対応するSEC分析では、0.4%の凝集物および0.51%の断片が生じた。組成物4_1の中の30℃、1か月の液体保存では、凝集形成(0.35%)および断片形成(0.30%)の顕著な低減が生じた。組成物4_2ででは凝集形成0.32%および断片形成0.31%の同様の結果が示された(図21B)。
【0228】
25℃、6か月の液体保存の後、もとの製剤中の抗体の凝集は0.98%に増大し、断片化は1.00%に達した。組成物3では、凝集において0.71%、断片化において0.9%への小さな増加が示された。両方の組成物、4_1および4_2で、もとの製剤と比較してわずか半分程度の凝集および断片化が見出された。組成物4_1では凝集0.58%、断片0.53%、組成物4_2では凝集0.58%、断片0.56%(図22A)。
【0229】
2~8℃、6か月の液体保存後、25℃での保存と比較して凝集および断片化の小さな変化を伴って同様の結果が見出された(図22B)。
【0230】
組成物4_1および4_2の中における25℃、6か月の高濃縮抗体製剤(150mg/ml)の保存の全経過の定量的統計解析によって、もとの製剤と比較して25℃、6か月の保存中に有意に低減した凝集物および断片(p<0.01)が明らかになり、安定なモノマーピークが保持されていた(図26B)。
【0231】
CEX HPLCを用いてもとの製剤と比較した組成物4_1および4_2の中での25℃、6か月の保存中の高濃縮抗体製剤の化学的分解プロファイルのさらなる解析は、前のSECの結果および前の実施例の結果を強調するものであった。150mg/mLのトラスツズマブの25℃、6か月の保存後、もとの製剤と比較して少ない量の塩基性種が、組成物4_1および4_2で観察された(p<0.05、p<0.01)(図27B)。興味あることに、塩基性種の増大が限られていることに関連して、同じ製剤、組成物4_1および4_2でも、実施例5に示すように組成物3および4と比較して酸性種の増大が限られていた。その結果、高濃縮トラスツズマブの保存中、主ピークの相対AUCは特に組成物4_2によって安定化された。
【0232】
まとめると、これらの結果により、液体保存中の抗体の凝集および断片化の防止のためにバランスを取ったアミノ酸と糖の混合物が必要であり、少なくともアミノ酸過剰、より好ましくはアミノ酸と糖との比が約1:1(w/w)となるアミノ酸と糖との比の調節が安定化効果のさらなる増大を生じることが確認される。
【0233】
実施例7
高濃縮治療用抗体製剤の処理中および液体保存中の分子の完全性および粘度の解析により、特定のアミノ酸と糖の組成物ならびにアミノ酸と糖の比(w/w)ならびにトリプトファンとヒスチジンの濃度および比(w/w)の調節によって、薬剤製品の安定性のモデルにおいて抗体が凝集および特に断片化する傾向が低減されることが示された。
7.1 材料および方法
【0234】
前の実施例からの組成物4_2を濃縮することによって、組成物4_3、4_4および4_5を得た。組成物4_3は実施例6の段落6.1による組成物4_2と同様であるが、組成物4_3では賦形剤の合計を135g/lから90g/lに減少させた。アミノ酸と糖の混合物との比は1:1(w/w)に保ち、抗体と賦形剤との比は2.22:1(w/w)とした。組成物4_4では実施例6の段落6.1の組成物4_2およびこの実施例7の組成物4_3と比較して同様のアミノ酸と糖混合物との混合物を用いたが、アミノ酸と糖との比を3.4:1(w/w)に増加し、抗体と賦形剤との比を3.33:1(w/w)と増加した。組成物4_5でも同じ賦形剤の混合物を用いたが、ヒスチジンのアミノ酸濃度を増加し、トリプトファンの濃度を減少させた。トレハロースとサッカロースとの比は前の実験における3:1(w/w)と比較して2:1(w/w)に低減し、アミノ酸と糖との比を1.5:1(w/w)に低減させた。抗体と賦形剤との比は組成物4_3と同様に2.22:1(w/w)に調節した。もとの液体の供給元の製剤の場合には抗体と賦形剤との比は2.4:1(w/w)であった。pH値は5.5に調節した。
【0235】
モデルタンパク質として、実施例5の段落5.1による市販の液体治療用高濃縮抗体ハーセプチン(登録商標)(Roche、Basel、Switzerland)を用いた。
【0236】
7.1.1 試料調製
実施例5および6と比較してより高く濃縮されたトラスツズマブ調製物を得るために、もとの液体の供給元の製剤中の抗体を濃縮して200mg/mlとし、組成物4_3、4_4および4_5の中の抗体を2~8℃でのさらなる透析ステップの後で濃縮した。後続の保存実験のため、無菌濾過および後続の無菌HPLCバイアルへの分注によって高濃縮製剤を調製した。高濃縮試料を5℃、25℃、30℃および40℃に保存した。保存前、試料調製直後、および保存中の指示された時点で、SECによって凝集および断片化を解析した。
【0237】
7.1.2 サイズ排除クロマトグラフィー
SECは段落3.1.2に従って行なった。
【0238】
7.1.3 高濃縮抗体製剤の粘度の測定
この実施例による高濃縮抗体製剤の粘度を、実施例5の段落5.1.3による落球式粘度計を用いて測定した。
【0239】
7.2 結果
試料調製
もとの容器からの未処理の液体トラスツズマブ製剤のSECプロファイルは、0.19%の小さな凝集ピーク、99.77%のモノマーピークおよび0.04%の断片のみを示した(実施例5、図16)。対照的に、この市販の液体治療用高濃縮ハーセプチン(登録商標)の抗体濃度約200mg/ml(0.04mg/mlのrHuPH20)への濃縮の後の対応するSECプロファイルは、濃縮試料の顕著に異なったSECプロファイルを生じた。凝集物の形成は、凝集物に対応するピークの約1.9%の面積百分率に増大した。したがって対応するモノマーピークの面積百分率は98.07%に減少した。断片化は変化しなかった。透析によるさらなる再緩衝化ステップの後でアミノ酸に基づく安定化組成物中で製剤化した抗体の同様の濃縮により、未処理のもとの液体トラスツズマブ製剤と同様のSECプロファイルが得られ、凝集物は0.16~0.19%であり、断片化には変化がなかった。モノマーピークの面積百分率は約99.8%であった。さらに、対応するSECクロマトグラムは、抗体の凝集物(ダイマー)に対応する溶出時間14分のピークと構造的に不変の抗体モノマーに対応する溶出時間約16.5分の主ピークとの間に明らかなベースラインの分離を示した(図17)。
【0240】
液体保存
興味あることに、種々の温度におけるこれらの特定の高濃縮製剤の液体保存の全経過の間、もとの製剤中ならびに本発明のアミノ酸に基づく組成物中で、抗体の断片化は軽微な事象に過ぎなかった。この効果は抗体と賦形剤との比を増大させた結果である可能性があり、低濃縮トラスツズマブ製剤を用いた以前の実験で既に観察されていた(実施例4、データは示していない)。
【0241】
40℃、3日の液体保存は、もとの製剤中では凝集物2.11%への凝集の増大および0.1%の断片を生じた。組成物4_3ではこの保存期間で約0.22%の凝集および約0.07%の断片化を生じた。組成物4_4での40℃、3日の保存は、約0.26%の凝集物の形成および約0.06%の断片の形成を生じた。組成物4_5では、凝集物含量は僅か0.18%、断片化は約0.08%と分析された(図23A)。
【0242】
40℃、14日のさらなる液体保存では、もとの製剤中で約2.28%の凝集物含量および0.33%の断片化が生じた。組成物4_3では凝集は僅か0.43%で、断片化は0.33%と同様であった。組成物4_4でも同様の結果が得られ、凝集は約0.40%、断片化は約0.33%であった。組成物4_5でも凝集形成(0.27%)および断片形成0.34%と同様の結果が見られた(図23B)。
【0243】
もとの製剤中の30℃、1か月半の長期液体保存の後、凝集形成は1.84%、断片形成は0.25%であった。組成物4_3では凝集は僅か0.28%、断片化はもとの製剤と同じく0.23%であった。組成物4_4では、凝集形成は0.38%に僅かに増加し、断片形成は約0.22%であった。組成物4_5では、30℃、1か月半の保存後の凝集は僅か0.22%で、断片化は0.25%に達した(図24A)。
【0244】
25℃、3か月の実時間液体保存は、もとの製剤中で約1.89%の凝集形成および0.25%の断片化を生じた。組成物4_3では、25℃での長期保存により0.35%の凝集物と0.22%の断片が生じた。25℃、3か月の保存後、組成物4_4では凝集が0.40%に僅かに増加し、断片形成は0.22%を保っていた。組成物4_5では0.27%と最小の凝集が見られ、0.25%と同様の断片化が達成された(図24B)。
【0245】
種々の温度における抗体の液体保存の間の全ての分析時点で、組成物4_5は凝集に対して最良の安定化効果を示した。組成物4_3および組成物4_4では、種々の温度における液体保存中の抗体の凝集傾向はおおよそ同様であったが、組成物4_5では指示された分析時点で抗体は最小の凝集形成を示した。組成物4_3と組成物4_4の間では、前者の方が僅かに優れた安定化効果を示した。
【0246】
25℃、3か月でのもとの製剤と比較した組成物4_3、4_4および4_5の中における高濃縮抗体製剤(200mg/ml)の液体保存中の抗体の凝集および断片化の傾向ならびにこれに伴うモノマーピークの喪失の評価により、上記の詳細な結果がさらに確認された。
【0247】
抗体ダイマーに対応する凝集ピーク(溶出時間約14分)は、もとの製剤と比較して組成物4_5で有意に(p<0.01、p<0.0001)、また組成物4_3および組成物4_4ではそれほどではないが(p<0.01、p<0.001)低減した(図26C)。組成物4_4(最大の抗体:賦形剤比3.33:1)では、組成物4_3および特に組成物4_5と比較して、製剤粘度の増大を伴う僅かに強い凝集が見られた(図26C図4)。200mg/mLでは関連する断片化は観察されず(図26C)、これは低濃縮製剤で既に観察された抗体と賦形剤との比の増大によるものであろう(以下および図25を参照)。アミノ酸に基づく製剤中のモノマーピークは25℃の液体保存中にほぼ完全に保持されていた。組成物4_3および4_4は、もとの製剤および組成物4_5と比較して断片化の増大が最小であることが示された(p>0.05、図26C)。
【0248】
これらの結果は、組成における両方の変化、すなわちヒスチジンとトリプトファンの濃度の変化およびトレハロースとサッカロースとの比の変化が、特に凝集に対する安定化効果に好ましい影響を有していることを示唆している。緩衝液濃度中に高濃度のトリプトファンおよびヒスチジンを含むアミノ酸に基づく組成物中で断片化は僅かに多く低減される(前の実施例ならびに組成物4_5と比較した組成物4_3および4_4を参照)。アミノ酸とトレハロース/サッカロース混合物との比は、前の実験の組成物4_2から誘導された組成物4_3における1:1(w/w)と比較して組成物4_4では僅かに増加していた(1.5:1(w/w))。
【0249】
したがって、アミノ酸と糖との比の調節と一致したトリプトファンおよびヒスチジンの濃度の調節は、抗体の液体保存中の凝集と断片化を併せて防止するために重要である。さらに、組成物4_4中の抗体と賦形剤との比の3.3:1(w/w)への大きな増大により、液体保存中の抗体の凝集傾向の僅かな増大が生じた。抗体と賦形剤との比を並行して調節することが、本発明によるアミノ酸に基づく組成物の安定化効果に影響することが示された。
【0250】
高温での液体保存中の抗体の化学的分解を解析することによって、同様の観察を行なった。この目的のため、試料を25℃で3か月保存し、CEXで分析した。組成物4_4および4_5は酸性荷電バリアントの形成の有意でない増大(組成物4_5で最小の程度)を生じたが、もとの製剤と比較して特に組成物4_3および4_4の場合に塩基性荷電バリアントの形成の低減を生じた(p<0.05)。主ピーク面積の喪失は組成物4_3および4_4によって部分的に防止され(p>0.05)、組成物4_5ではもとの製剤と同程度であった(図27C)。選択した2つのアミノ酸、ヒスチジンとトリプトファンのw/w比を繰り返して変化させ、酸性および塩基性荷電バリアントの形成の改変を得た(図27C)。
【0251】
粘度測定
実施例5と比較した高濃縮抗体製剤の動粘度の解析のため、この実施例の段落7.1.1の試料調製法に従って製剤の濃度を200mg/mlと220mg/mlに調節した(図25)。もとの液体の供給元の製剤中の高濃縮抗体製剤(220mg/ml)の動粘度を20.53mPa・秒と評価した。220mg/mlの抗体濃度を含む本発明の組成物4_3および4_5において、測定した動粘度は組成物4_3で15.2mPa・秒、組成物4_5で17.6mPa・秒と顕著に低減した。組成物4_4の場合には22.4mPa・秒と僅かな粘度の増大を評価した。これは、組成物4_3および4_5と比較したこの組成物中の抗体と賦形剤との3.7:1と高い比の結果であろう。抗体濃度200mg/mlの対応する製剤の粘度測定も、組成物4_3で11.2mPa・秒、組成物4_4で15.4mPa・秒、組成物4_5で11.6mPa・秒と明らかに低減した粘度を生じた。抗体濃度200mg/mlの場合には、組成物4_4も他の製剤と比較して僅かに増大した粘度を示し、抗体濃度220mg/mlの組成物4_4で評価した同じ傾向を示唆していた。高濃縮抗体(200mg/ml)の液体保存中の組成物4_4の僅かに低減した安定化効果と併せて、これらのデータは、アミノ酸と糖との比のバランスを取った調節の他に抗体と賦形剤との比のバランスを取った調節も安定化効果と製剤粘度の両方に対して顕著な効果を有しているという知見をさらに実証するものである。
【0252】
実施例8
高濃縮抗体製剤の処理中および後続の液体保存中の分子の完全性ならびに化学的安定性の解析により、プロリンを含まない特定のアミノ酸と糖の組成物によって、処理中ならびに後続の液体保存中の凝集傾向を低減できることが示された。特に、グリシンおよびプロリンを含むフリーズドライ製品のもとのトラスツズマブ製剤と比較して、化学的変化は顕著に低減した。
【0253】
8.1 材料および方法
組成物4_1は実施例6で適用した製剤に対応し、組成物4_3および4_5は実施例7で適用した製剤に対応する。これらの製剤の安定化効果を、もとの液体の供給元の製剤(トレハロース79.45g/l、ヒスチジン緩衝液3.13g/l、20mM、メチオニン1.49g/l、ポリソーベート20 0.4g/l、pH5.5)と比較した。これらの製剤中ではpHを5.5に調節した。さらに、本発明の組成物の安定化効果を、米国特許第9364542号B2(実施例16、図29および図30)の教示に従ってアミノ酸グリシンおよびプロリンを添加したフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤(トレハロース20g/l、ヒスチジン緩衝液0.9mg/ml、約5mM、ポリソーベート20 0.1g/l、pH6)と比較した。
【0254】
モデル薬剤として、市販のフリーズドライハーセプチン(登録商標)(Roche、Basel、Switzerland)、すなわち治療用ヒト化IgG1モノクローナル抗体(トラスツズマブ)を用いた。所望の量の水によるフリーズドライ薬剤の再構成により、もとの供給元の製剤(トレハロース20g/l、ヒスチジン緩衝液0.9mg/ml、約5mM、ポリソーベート20 0.1g/l、pH6)中の抗体濃度21mg/mLとなった。
【0255】
8.1.1 試料調製
得られた製剤を、もとの液体製剤の組成物(トレハロース79.45g/l、ヒスチジン緩衝液3.13g/l、約20mM、メチオニン1.49g/l、ポリソーベート20 0.4g/l、pH5.5)およびフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤(トレハロース20g/l、ヒスチジン緩衝液0.9mg/ml、約5mM、ポリソーベート20 0.1g/l、pH6)に対して2~8℃で透析した。ここでこの組成物は米国特許第9364542号B2(実施例16)に記載された濃度でアミノ酸、グリシンおよびプロリンをさらに含んでいた。
【0256】
並行して、段落8.1に詳細を記載したように本発明のアミノ酸に基づく組成物に対して透析を行なった。得られたIgG製剤を続いて濃縮して200mg/mlの抗体を得た。続いて製剤を無菌濾過し、無菌のHPLCバイアルに分注し、米国特許第9364542号B2(実施例16、図29および図30)に記載されているように25℃もしくは40℃、または短期の保存のために55℃に保存した。保存前、試料調製直後、および保存中の指示された時点で、SE-HPLCによって凝集および断片化を解析した。液体保存に際してのタンパク質分子の化学的変化を、CEX-HPLCで解析した。
【0257】
8.1.2 サイズ排除クロマトグラフィー
SECは上記の3.1.2節に記載したように行なった。
【0258】
8.1.3 カチオン交換クロマトグラフィー
CEX-HPLC(UV-280nm検出器、UHPLC UltiMate3000 Thermo Scientific、Germany)およびカチオン交換カラムTSK-gel CM-STAT 4.5×100nm(Tosoh Bioscience、Tokyo、Japan)を、45℃、流量0.8ml/分(注入量25μl)で用いた。CEX-HPLC分析に先立って、試料を運転緩衝液A(10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.5)で2.5mg/mLのIgGに希釈した。固定化されたトラスツズマブ分子を、0%~30%の緩衝液B(10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.5、100mM塩化ナトリウム)を用いた塩化ナトリウム勾配で溶出させた。相対曲線下面積(%AUC)をChromeleon 7クロマトグラフィーデータソフトウェア(Thermo Scientific)で決定した。
【0259】
8.2 結果
試料調製
抗体濃度200mg/mLを得るための透析および後続の濃縮による試料調製の経過の間に、実施例3、5および7の既に得られた結果が確認された。具体的には、本発明の組成物(組成物_4_1、組成物_4_3または組成物_4_5)の1つの中で調製プロセスを行なった場合、トラスツズマブ標準品と同程度の凝集物およびモノマーの量の保持が得られた(凝集物0.65~0.70%、モノマー99.30~99.35%)。これらの結果は、本発明の組成物中で調製した抗体の構造的完全性の保持が調製前の構造的に不変の抗体のレベルと同程度であることを示唆している(図28)。
【0260】
一方、もとの液体の供給元の製剤中で高濃縮抗体を調製するプロセスにより、抗体ダイマーに対応するピーク(保持時間14分)の面積百分率の約0.84%への増大および対応するモノマーピークの約99.16%への低減が生じた。さらに、追加のアミノ酸グリシンおよびプロリンと組み合わせたフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤中における高濃縮トラスツズマブの対応する調製プロセスによっても、凝集物の形成の約0.79%への大きな増大およびその結果としてモノマーピークの99.21%への低減が生じた。
【0261】
液体保存-SE-HPLC
米国特許第9364542号B2で行なわれたような厳しい(すなわち生理学的および薬学的に不適切な高い)温度条件(55℃、24時間)下での抗体の短期液体保存により、もとの液体の供給元の製剤ならびに添加物としてグリシンおよびプロリンを加えたフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤と比較して、凝集および断片化に対する本発明の組成物の効率的な安定化効果が明らかになった。凝集物の形成に対応するピークの面積百分率は、本発明の組成物、特に組成物_4_3および組成物_4_5でほぼ完全に保持され、-80℃で保存したトラスツズマブ標準品と同程度であった(凝集物0.65~0.70%、モノマー99.30~99.35%)。
【0262】
対照的に、添加物グリシンおよびプロリンを加えたもとの供給元の製剤中、およびより顕著にもとの液体の供給元の製剤中における55℃、24時間の短期保存で、凝集の顕著な増大およびモノマーピークの面積百分率のより顕著な低減が生じた(図29、表1、表2、t=0)。55℃、24時間の短期保存の結果として、もとの液体の供給元の製剤中ならびに添加物としてグリシンおよびプロリンを加えたフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤中における断片化も、本発明の組成物中で製剤化した抗体と比較して、僅かに増大した(表1)。
【0263】
40℃/75%RHでのそれぞれ7日、14日、28日および42日の液体保存によって、全ての製剤で抗体の凝集ならびに断片化の傾向が増大していることが明らかになったが、その程度は異なっていた。最も特筆すべきことに、本発明の組成物(組成物_4_1、組成物_4_3および組成物_4_5)の中での抗体の製剤化によって、もとの液体の供給元の製剤ならびにアミノ酸グリシンおよびプロリンと組み合わせたもとの供給元の製剤と比較して、凝集および断片化の顕著な低減が生じた(図29Cおよび図29D、表1および表2)。
【0264】
さらに、25℃における14日および28日の液体保存によって、本発明の溶液が周囲温度および高温ならびに55℃のような極端な温度条件における保存の経過においても凝集および断片化を防止することができるという見解がさらに実証された(表3、表4)。
【0265】
液体保存-CEX-HPLC
米国特許第9364542号B2では、55℃のような生理学的および薬学的に不適切な高い温度条件下での短期保存の間の、濁度測定による抗体の巨視的な不溶性凝集物の形成およびある例ではSE-HPLCによる可溶性凝集物の形成の分析のみが解析されていた。ここでは、55℃における短期保存の間ならびに40℃および25℃における長期保存の間の、抗体分子における化学変化の程度をさらに解析した。55℃、24時間のトラスツズマブの短期保存で既に、全ての製剤において種々の程度の化学変化が誘発されていた。
【0266】
アミノ酸グリシンおよびプロリンを加えたフリーズドライ製品のもとの供給元の製剤(オリジナル+G/P)において、55℃での短期保存の間に、抗体の酸性荷電バリアントの百分率の顕著な増大(>30%)が観察された。表5に示すように、この観察は結果として主ピークの面積百分率の顕著な減少(53.23%)を伴っていた。
【0267】
対照的に、本発明の組成物中での抗体の短期保存では、酸性荷電バリアントの形成が顕著に低減した(たとえば組成物_4_5で<23%)。酸性荷電バリアントの増加はタンパク質の脱アミド化または糖化の証拠を提供するものであり、工業的製造標準における試験製剤のネガティブ選択の重要な基準である。したがって、本発明による種々の組成物をオリジナル+G/Pと比較して試験し、55℃での3日、40℃で21日まで、および25℃で2か月までの保存中の酸性荷電バリアントの改質を検討した(図30)。試験した全ての本発明の組成物は一般に、全ての分析時点および全ての保存温度で、オリジナル+G/Pよりも有意に低い酸性荷電バリアントを生じた。結果として、それゆえ全ての分析時点および温度で、全ての本発明の製剤中で主ピークが大きかった(表5)。
【0268】
実施例9
高濃縮抗体製剤(200mg/mL)の透析、濃縮、および後続の保存の後の分子の完全性のSE-HPLCによる解析は、製造に関連する処理ステップおよび後続の保存における凝集物の増大を制限するための少なくとも3つのアミノ酸の単独の組合せまたはトレハロースとの組合せの妥当性を示している。
【0269】
9.1 材料および方法
組成物5は2つの塩基性アミノ酸、ヒスチジンおよびメチオニンを含み、これは糖を全く含まないことを除いて、もとの供給元の製剤(ヒスチジン、メチオニン、トレハロース)に対応する組成物8と同様である。組成物6は糖を含まず、3つのアミノ酸、ヒスチジン、メチオニンおよびグリシンを含む。組成物9は同様であるがトレハロースを含む。組成物7は5つのアミノ酸、ヒスチジン、メチオニン、アラニン、アルギニンおよびトリプトファンを含み、組成物10は同様であるがトレハロースを含む。
【0270】
モデルタンパク質として、もとの供給元の製剤中に濃度120mg/mlでトラスツズマブを含む市販の液体治療用高濃縮抗体ハーセプチン(登録商標)(Roche、Basel、Switzerland)(トレハロース79.45g/l、ヒスチジン緩衝液3.13g/l、20mM、メチオニン1.49g/l、ポリソーベート20 0.4g/l、rHuPh20(組み換えヒトヒアルロニダーゼ)0.024g/l、pH5.5)を用いた。
【0271】
9.1.1 試料調製
液体治療用高濃縮抗体ハーセプチン(登録商標)を5mMのヒスチジン緩衝液pH5.5に対して2~8℃で透析した。タンパク質濃度の測定および後続の100mg/mlへのタンパク質濃度の調節の後、1.25倍濃縮製剤を用いて、透析された高濃縮抗体の1/5希釈により、抗体を段落9.1の組成物ならびにもとの液体の供給元の製剤中に製剤化して抗体濃度20mg/mlとした。高濃縮抗体製剤を用いた実験のため、選択された組成物およびもとの液体の供給元の製剤中で製剤化した抗体を200mg/mlまでに濃縮した。続いて製剤を無菌濾過し、無菌のHPLCバイアル中に分注して、45℃で14日まで保存した。保存前、透析直後、濃縮ステップの直後、および液体保存中の7日および14日の保存後の凝集および断片化をSE-HPLCで解析した。
【0272】
9.1.2 サイズ排除クロマトグラフィー
SECは段落3.1.2に従って行なった。
【0273】
9.2 結果
液体保存-SE-HPLC
表6に示すように、前の透析および濃縮ステップに続く45℃、7日の保存の後、凝集の増大が観察された。驚くべきことに、2つのアミノ酸を含み糖を含まない製剤が一般に、3つのアミノ酸を含む組成物(7日後0.53%、14日後1.11)と比較して、また5つのアミノ酸を含む組成物(7日後0.4%、14日後0.88%)と比較して、最も高い値(たとえば7日後0.65%、14日後1.29%)を示すことが見出された。したがって主ピークは安定化されていた(表6)。同じアミノ酸の組合せにトレハロースを添加した場合に、この観察が確認された。具体的には、(もとの製剤に対応する)2つのアミノ酸とトレハロースを含む製剤は一般に、3つのアミノ酸を含む組成物(7日後0.43%、14日後0.93)と比較して、また5つのアミノ酸を含む組成物(7日後0.34%、14日後0.8%)と比較して、最も高い値(たとえば7日後0.57%、14日後1.07%)を示した。したがって主ピークは安定化されていた(表6)。
【0274】
実施例10
14日までの定常撹拌のモデルにおける機械的ストレスの後のトラスツズマブ(20mg/ml)の分子の完全性のSE-HPLCによる解析は、製造に関連する処理ステップにおける凝集物の増大を制限するための少なくとも3つの調整されたアミノ酸の組合せの妥当性を示しており、もとの供給元の製剤よりも優れていた。
【0275】
10.1 材料および方法
もとの供給元の製剤はヒスチジン、メチオニン、およびトレハロースを含んでいた。組成物11はトレハロースを含まず、2つの塩基性アミノ酸、ヒスチジンおよびメチオニンを含んでいた。組成物12は3つのアミノ酸、ヒスチジン、メチオニンおよびアラニンを含んでいた。組成物13は5つのアミノ酸、ヒスチジン、メチオニン、アラニン、アルギニンおよびトリプトファンを含んでいた。
【0276】
抗体製剤に定義された撹拌モデルで機械的ストレスを加えた。このモデルでは試料を無菌PCRバイアルに移し、暗所で、750回転/分で14日まで撹拌した。
【0277】
モデルタンパク質として、もとの供給元の製剤中に濃度120mg/mlでトラスツズマブを含む市販の液体治療用高濃縮抗体ハーセプチン(登録商標)(Roche、Basel、Switzerland)(トレハロース79.45g/l、ヒスチジン緩衝液3.13g/l、20mM、メチオニン1.49g/l、ポリソーベート20 0.4g/l、rHuPh20(組み換えヒトヒアルロニダーゼ)0.024g/l、pH5.5)を用いた。
【0278】
10.1.1 試料調製
液体治療用高濃縮抗体ハーセプチン(登録商標)をもとの液体製剤の組成物(トレハロース79.45g/l、ヒスチジン緩衝液3.13g/l(20mM)、メチオニン1.49g/l、ポリソーベート20 0.4g/l、pH5.5)に対して、また5mMのヒスチジン緩衝液pH5.5に対して2~8℃で透析した。タンパク質濃度の測定および後続の20mg/mlへのタンパク質濃度の調節の後、段落10.1に従って抗体を組成物中に製剤化した。続いて製剤をPCRバイアルに移し、10.1に概要を記載した方法で撹拌した。撹拌前および14日撹拌した後のSE-HPLCで解析した凝集および断片化の値を表7に示す。
【0279】
10.1.2 サイズ排除クロマトグラフィー
SE-HPLCCは段落3.1.2に従って行なった。
【0280】
10.2 結果
液体保存-SE-HPLC
表7に示すように、14日の撹拌の後、凝集の増大が観察された。驚くべきことに、1つまたは2つのアミノ酸を含み糖を含まない製剤が一般に、最も高い値を示すことが見出された(たとえばヒスチジン、メチオニンおよびトレハロースを含むもとの製剤で0.32%、トレハロースを含まずヒスチジンおよびメチオニンを含む組成物xで0.36%)。
【0281】
3つのアミノ酸を含む組成物は2つのアミノ酸を含む組成物よりも低い凝集値を示した。表7に代表的に示すように、ヒスチジン、メチオニンおよびアラニンを含む組成物#xは0.62%の凝集値を生じた。5つのアミノ酸を含む組成物は0.24%の凝集値を生じた。したがって主ピークは安定化されていた(表7)。
【0282】
【表2】
【0283】
【表3】
【0284】
【表4】
【0285】
【表5】
【0286】
【表6】
【0287】
【表7】
【0288】
【表8】
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14
図15
図16
図17
図18-1】
図18-2】
図19-1】
図19-2】
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26-1】
図26-2】
図26-3】
図27-1】
図27-2】
図27-3】
図28
図29-1】
図29-2】
図29-3】
図30-1】
図30-2】