(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】触媒及びそれを用いた不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/887 20060101AFI20221107BHJP
C07C 45/35 20060101ALI20221107BHJP
C07C 47/22 20060101ALI20221107BHJP
C07C 51/21 20060101ALI20221107BHJP
C07C 57/05 20060101ALI20221107BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221107BHJP
【FI】
B01J23/887 Z
C07C45/35
C07C47/22 A
C07C51/21
C07C57/05
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019049332
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】保田 将吾
(72)【発明者】
【氏名】平岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】河村 智志
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-077508(JP,A)
【文献】特表2011-516377(JP,A)
【文献】特開2013-202459(JP,A)
【文献】特表平08-500322(JP,A)
【文献】特開2013-043125(JP,A)
【文献】JO, Bu Young et al.,Performance of Mo-Bi-Co-Fe-K-O catalysts prepared from a sol-gel solution containing a drying control chemical additive in the partial oxidation of propylene,Appl. Catal. A General,NL,Elsevier B.V.,2007年08月24日,Vol. 332, No. 2,pp. 257-262,DOI: 10.1016/j.apcata.2007.08.025
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
550℃で焼成を行った場合のX線回折パターンにおける
X線回折角度2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度
をX線回折角度2θ=26.5±0.3°の範囲内の最大ピーク強度で除し、100を乗じた値(J)が
42.0以上
50.0以下であ
り、
540℃で焼成を行った場合のX線回折角度2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度をX線回折角度2θ=26.5±0.3°の範囲内の最大ピーク強度で除し、100を乗じた値(L)と上記(J)が下記式(3)の関係にあり、
-0.133≦(J-L)/10≦0.869・・・(3)
下記式(1)で表される組成を有し、
不活性担体に担持された不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒の製造に用いられる球状成形品。
Mo
a1
Bi
b1
Ni
c1
Co
d1
Fe
e1
X
f1
Y
g1
Z
h1
O
i1
・・・(1)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、ケイ素、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0≦e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)
【請求項2】
請求項
1に記載の触媒であって、ニッケルを必須成分とし、上記式(1)中のb1、c1、d1が下記式(2)の関係にある
球状成形品。
0.325≦c1/(b1+d1)≦0.405・・・(2)
【請求項3】
前記不活性担体がシリカ及び/又はアルミナである請求項
1又は2に記載の
球状成形品。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の球状成形品を550℃で焼成する不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物製造用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高活性であり、高収率で目的物を得られる新規触媒に関するものであり、特に不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を酸化的に製造する際に、高活性かつ高収率を実現するものである。なお、特に高活性の実現への寄与が大きく、反応浴温度を下げても実用的な活性を得ることができる触媒である。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法は工業的に広く実施されている。
特に、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法に関しては、その収率の向上や触媒活性を改善する手段として多くの報告がなされている(例えば特許文献1等)。
そのなかで特許文献2には触媒活性成分のCu-Kα線を用いたX線回折パターンにおいて2θ=26.5±0.3°に現れるCoMoO4の回折ピーク(h)の強度Phに対する、2θ=27.76±0.3°に現れるβ―Bi2Mo2O9の回折ピーク(i)の強度Piの比Ri=Pi/Phを0.4以上2.0以下の範囲に制御することにより、高収率および高選択な触媒が得られるとの記載がある。特許文献3には触媒活性成分のCu-Kα線を用いたX線回折分析によって測定される2θ=5°以上90°以下の範囲の結晶化度Tを4%以上18%以下の範囲に制御することにより、触媒活性、選択率等の触媒性能を向上させることが出来ると記載されている。
【0003】
上記のような手段をもって改良をはかっても、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等の部分酸化反応により対応する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造において、さらなる収率向上や触媒活性の改善が求められている。例えば、目的生成物の収率は、製造に要するプロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等の使用量を左右し製造コストに多大な影響を与える。また、触媒活性は目的生成物を製造する際の反応浴温度を左右し、活性の低い触媒を使用した場合には目的生成物の収量を保つために反応浴温度を上げざるを得ない。すると、触媒が熱的ストレスを受けることとなり、選択率や収率の低下が引き起こされ、触媒寿命の低下を招くことにもなる。
加えて、特許文献1~3にはX線回折パターンの2θ=28.4±0.15°のピーク強度に注目して検討を行った記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2016/136882号
【文献】特開2017-024009号公報
【文献】国際公開2010/038677号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法に使用される触媒であって、触媒活性および目的生成物の収率が高い触媒を提案するものである。そして、本発明の触媒を使用することで、安全に、安定して、低コストで気相接触酸化方法の長期運転が可能となるものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの研究によれば、550℃で触媒の焼成を行った場合のX線回折パターンにおけるX線回折角度2θ=26.5±0.3°の範囲内の最大ピーク強度に対する2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度の比(J)が、特定の範囲に含まれる触媒が、特に触媒活性に優れ、また高収率も実現するものであることを見出し、本発明を完成させるに行ったものである。
【0007】
即ち、本発明は、以下1)~10)に関する。
1)
モリブデン、ビスマス、およびコバルトを必須成分として含有し、550℃で触媒の焼成を行った場合のX線回折パターンにおけるX線回折角度2θ=26.5±0.3°の範囲内の最大ピーク強度に対する2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度の比(J)が36.0以上57.5以下である触媒。
2)
触媒組成が下記式(1)で表される上記1)に記載の触媒。
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1Xf1Yg1Zh1Oi1・・・(1)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1、およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0≦e1≦5、0≦f1≦2、0≦g1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)
3)
上記2)に記載の触媒であって、ニッケルを必須成分とし、上記式(1)中のb1、c1、d1が下記式(2)の関係にある触媒。
0.325≦c1/(b1+d1)≦0.405・・・(2)
4)
540℃で焼成を行った場合のX線回折パターンにおけるX線回折角度2θ=26.5±0.3°の範囲内の最大ピーク強度に対する2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度の比(L)と上記(J)が下記式(3)の関係にある上記1)乃至3)のいずれか一項に記載の触媒。
-0.133≦(J-L)/10≦0.869・・・(3)
5)
不活性担体に担持された上記1)乃至4)のいずれか一項に記載の触媒。
6)
上記不活性担体がシリカ及び/又はアルミナである上記5)に記載の触媒。
7)
触媒が不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物の製造用である上記1)乃至6)のいずれか一項に記載の触媒。
8)
上記1)乃至7)のいずれか一項に記載の触媒を用いた不飽和アルデヒド化合物、及び/又は不飽和カルボン酸化合物の製造方法。
9)
上記8)において不飽和アルデヒド化合物がアクロレインであり、不飽和カルボン酸化合物がアクリル酸である製造方法。
10)
上記1)乃至7)のいずれか一項に記載の触媒を用いて製造された不飽和アルデヒド化合物及び/又は不飽和カルボン酸化合物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の触媒は、気相接触酸化反応における触媒活性の向上、及び収率向上に非常に有効であり、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する場合に有用である。
また、本発明の触媒はホットスポット温度の低減のような発熱を伴う部分酸化反応のプロセス安定性にも向上効果が見られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[X線回折パターンにおける2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度の比]
本発明の触媒は、X線回折パターンにおける2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度に関して特徴を有するものである。このX線回折パターンは、Cu-Kαを使用したものであり、2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度は他の不動ピークである2θ=26.5°±0.3°の範囲内の最大ピークとの相対値を意味する。具体的には、2θ=26.5°±0.3°の強度で除し、100を乗じた値を意味する。なお、本明細書中では、550℃で焼成を行ったあとにX線回折測定を行った場合の上記値をJと定義し、540℃で焼成を行ったあとにX線回折測定を行った場合の上記値をLと定義して、使用する場合がある。
なお、X線回折角度(2θ)の測定方法として例えば株式会社リガク製UltimaIVを使用して、X線CuKα線(λ=0.154nm)、出力40kV、30mA、測定範囲10~60°、測定速度毎分10°の条件でX線回折角度(2θ)の測定を行うことが挙げられるが、測定原理を逸脱しない限りこれに限定されるものでは無い。
また、本発明の触媒は、550℃で焼成を行った場合の上記最大ピーク強度の比(J)が36.0以上57.5以下である。
上記値Jが36.0以上57.5以下である触媒は、触媒活性に優れており、反応浴温度を下げても原料の目的化合物への転化率を高く維持することができる。このJの下限としてより好ましくは40.0であり、更に好ましくは42.0であり、特に好ましくは42.5であり、最も好ましくは45.0である。また、Jの上限としてより好ましくは55.0であり、更に好ましくはであり50.0、特に好ましくは46.0である。特に好ましいJの範囲としては、45.0≦J≦46.0である。
【0010】
550℃で焼成を行うとは、焼成炉内部の触媒が焼成される区画の温度が550℃であることを意味し、540℃で焼成を行うとは焼成炉内部の触媒が焼成される区画の温度が540℃であることを意味する。ただし、550℃で焼成する場合、上記区画の温度は545℃より高く555℃より低い温度に保たれた状態であれば良く、540℃で焼成する場合は535℃より高く545℃より低い温度に保たれた状態であれば良い。
また、上記550℃や540℃での焼成は、X線回折角度(2θ)測定の為の前処理としての機能を有し、触媒製造工程において、どのような焼成工程を経由しても、また焼成工程を有さなくても、問題ない。ただし、焼成工程を550℃や540℃で行う場合には、これを上記前処理として、そのままX線回折角度(2θ)測定を行っても問題ない。
なお、焼成時間は特に限定されないが、1時間以上40時間以下が好ましく、更に好ましくは2時間以上10時間以下であり、特に好ましくは3時間以上5時間以下である。本試験を行うに当たっては焼成時間を4時間に限定してX線回折角度(2θ)を測定するものでも良い。ただし、この焼成時間は最高温度での保持時間を意味し、昇温時間、降温時間が含まない。すなわち焼成時間4時間とした場合にも、最高温度到達から4時間であり、昇温時間、降温時間は焼成時間として算入しない。
また、焼成炉内の雰囲気も特に限定されないが、酸素濃度が10%以上30%以下であると好ましく、15%以上25%以下であるとより好ましい。
【0011】
[触媒組成について]
本発明の触媒は、下記式(1)で表される組成を有する場合が好ましい。
Moa1Bib1Nic1Cod1Fee1Xf1Yg1Zh1Oi1・・・(1)
(式中、Mo、Bi、Ni、CoおよびFeはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム、およびタリウムから選ばれる少なくとも一種の元素、Zは周期表の第1族から第16族に属し、上記Mo、Bi、Ni、Co、Fe、X、およびY以外の元素から選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1、h1およびi1はそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Y、Zおよび酸素の原子数を表し、a1=12としたとき、0<b1≦7、0≦c1≦10、0<d1≦10、0<c1+d1≦20、0≦e1≦5、0≦g1≦2、0≦f1≦3、0≦h1≦5、およびi1=各元素の酸化状態によって決まる値である)
【0012】
上記式(1)において、b1~i1の好ましい範囲は以下である。
0.2<b1≦2、1≦c1≦5、3≦d1≦8、5≦c1+d1≦15、0.5≦e1≦4、0.01≦g1≦1、0≦f1≦1.5、0≦h1≦2。
またさらに好ましい範囲は以下である。
0.5<b1≦1、2≦c1≦4、5≦d1≦7、7≦c1+d1≦12、1≦e1≦3、0.02≦g1≦0.2、0≦f1≦1、0≦h1≦1。
なお、Yは2種以下含有される場合が好ましく、1種類である場合が特に好ましい態様である。また、f1とh1は0である場合が特に好ましい態様である。
【0013】
[担持について]
触媒調製後に予備焼成を行った予備焼成粉体を不活性担体に担持させた触媒は、本発明の触媒として特に効果の優れたものである。
不活性担体の材質としてはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカアルミナ、炭化ケイ素、炭化物、およびこれらの混合物など公知の物を使用でき、さらにその粒径、吸水率、機械的強度、各結晶相の結晶化度や混合割合なども特に制限はなく、最終的な触媒の性能、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。担体と予備焼成粉体の混合の割合は、各原料の仕込み質量により、下記式より担持率として算出される。
担持率(質量%)=(成形に使用した予備焼成粉体の質量)/{(成形に使用した予備焼成粉体の質量)+(成形に使用した担体の質量)}×100
上記担持率としての好ましい上限は、80%であり、さらに好ましくは60%である。
また好ましい下限は、20%であり、さらに好ましくは30%である。
なお不活性担体としては、シリカ及び/又はアルミナが好ましく、シリカとアルミナの混合物が特に好ましい。
なお、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。使用できるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等が好ましく、グリセリンの濃度5質量%以上の水溶液が好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高性能な触媒が得られる。これらバインダーの使用量は、予備焼成粉末100質量部に対して通常2~60質量部であるが、グリセリン水溶液の場合は10~30質量部が好ましい。担持に際してバインダーと予備焼成粉末は成型機に交互に供給しても、同時に供給してもよい。
【0014】
本発明の触媒が上述の発明の効果を示す理由は不明であるが、一般的にX線回折分析における測定において2θ=26.5°付近にはコバルトモリブデートの回折ピークが現れ、2θ=28.4°付近にはビスマスモリブデートの回折ピークが現れる。加えて、コバルトモリブデートには触媒中に酸素を取り込む役割があり、ビスマスモリブデートには触媒反応の活性点として原料化合物を目的生成物へ変換する役割があるとされている。
本発明のJの値が36.0未満の場合には触媒中のビスマスモリブデートの結晶が少なく、原料化合物から目的生成物への変換が遅くなることに起因して活性が低下し、対して、Jが57.5より大きくなる場合には触媒中のコバルトモリブデートの結晶が少なく、触媒に取り込まれる酸素原子が少なくなることに起因して活性が低下すると考えられる。
【0015】
上記、Jの値を調整する手段として、後述する各製造工程での各条件を変更しても制御できるが、例えば、(I)触媒組成を変更する方法、(II)調合工程での溶液の温度を変更する方法、(III)調合工程にかける時間を変更する方法、(IV)乾燥工程での乾燥温度を変更する方法、(V)焼成工程での温度と時間を変更する方法、および(I)から(V)を組み合わせる方法があげられる。(I)の方法で調整を行う場合には触媒活性成分中の触媒組成が、上記式(1)において、c1/(b1+d1)が下記式(2)である場合が好ましい。
0.325≦c1/(b1+d1)≦0.405・・・(2)
c1/(b1+d1)の上限値は0.390であるとより好ましく0.350であるとさらに好ましく0.340であると特に好ましい。c1/(b1+d1)の下限値は0.330であるとより好ましい。すなわち、0.330以上0.340である場合が特に好ましい態様の一つである。
【0016】
[式(3)について]
本願発明の触媒は、540℃で焼成を行った場合のX線回折パターンにおけるX線回折角度2θ=26.5±0.3°の範囲内の最大ピーク強度に対する2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度の比(L)と550℃で焼成を行った場合のX線回折パターンにおけるX線回折角度2θ=26.5±0.3°の範囲内の最大ピーク強度に対する2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度の比(J)が下記式(3)の関係にある場合が好ましい。
-0.133≦(J-L)/10≦0.869・・・(3)
上記(J-L)は焼成温度を540℃から550℃に変更した時、すなわち焼成温度を10℃変化させた時のX線回折角度2θ=26.5±0.3°の範囲内の最大ピーク強度に対する2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度の比の変化量であり、これを10で除した値は焼成温度に対する依存性の値である。本願発明の触媒は上述したコバルトモリブデートとビスマスモリブデートの比率の焼成温度依存性が一定の範囲にあることで、高活性時の収率向上効果をより高める事ができる。
なお、(J-L)/10の上限として、より好ましくは0.600であり、さらに好ましくは0.400であり、特に好ましくは0.200である。また下限としては、より好ましくは-0.100であり、さらに好ましくは0であり、特に好ましくは0.100である。従って、0.100≦(J-L)/10≦0.200である場合が、最も好ましい態様の一つである。
【0017】
[触媒の製造方法等について]
本発明の予備焼成粉体や触媒を構成する各元素の出発原料としては特に制限されるものではないが、例えばモリブデン成分の原料としては三酸化モリブデンのようなモリブデン酸化物、モリブデン酸、パラモリブデン酸アンモニウム、メタモリブデン酸アンモニウムのようなモリブデン酸またはその塩、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸のようなモリブデンを含むヘテロポリ酸またはその塩などを用いることができる。
【0018】
ビスマス成分の原料としては硝酸ビスマス、炭酸ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマスのようなビスマス塩、三酸化ビスマス、金属ビスマスなどを用いることができる。これらの原料は固体のままあるいは水溶液や硝酸溶液、それらの水溶液から生じるビスマス化合物のスラリーとして用いることができるが、硝酸塩、あるいはその溶液、またはその溶液から生じるスラリーを用いることが好ましい。
【0019】
その他の成分元素の出発原料としては、一般にこの種の触媒に使用される金属元素のアンモニウム塩、硝酸塩、亜硝酸塩、炭酸塩、次炭酸塩、酢酸塩、塩化物、無機酸、無機酸の塩、ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸の塩、硫酸塩、水酸化物、有機酸塩、酸化物またはこれらの混合物を組み合わせて用いればよいが、アンモニウム塩および硝酸塩が好適に用いられる。
【0020】
これら活性成分を含む化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。スラリー液は、各活性成分含有化合物と水とを均一に混合して得ることができる。スラリー液における水の使用量は、用いる化合物の全量を完全に溶解できるか、または均一に混合できる量であれば特に制限はない。乾燥方法や乾燥条件を勘案して、水の使用量を適宜決定すれば良い。通常、スラリー調製用化合物の合計質量100質量部に対して、100質量部以上2000質量部以下である。水の量は多くてもよいが、多過ぎると乾燥工程のエネルギーコストが高くなり、又完全に乾燥できない場合も生ずるなどデメリットが多い。
【0021】
上記各成分元素の供給源化合物のスラリー液は上記の各供給源化合物を、(イ)一括して混合する方法、(ロ)一括して混合後、熟成処理する方法、(ハ)段階的に混合する方法、(ニ)段階的に混合・熟成処理を繰り返す方法、および(イ)~(ニ)を組み合わせた方法により調製することが好ましい。ここで、上記熟成とは、「工業原料もしくは半製品を、一定時間、一定温度などの特定条件のもとに処理して、必要とする物理性、化学性の取得、上昇あるいは所定反応の進行などをはかる操作」のことをいう。なお、本発明において、上記の一定時間とは、5分以上24時間以下の範囲をいい、上記の一定温度とは室温以上の水溶液ないし水分散液の沸点以下の範囲をいう。このうち最終的に得られる触媒の活性及び収率の面で好ましいのは(ハ)段階的に混合する方法であり、更に好ましいのは段階的に母液に混合する各原料は全溶した溶液とする方法であり、最も好ましいのはモリブデン原料を調合液またはスラリーとした母液に、アルカリ金属溶液、硝酸塩の各種混合液を混合する方法である。ただし、この工程で必ずしもすべての触媒構成元素を混合する必要はなく、その一部の元素または一部の量を以降の工程で添加してもよい。
【0022】
本発明において、必須活性成分を混合する際に用いられる攪拌機の攪拌翼の形状は特に制約はなく、プロペラ翼、タービン翼、パドル翼、傾斜パドル翼、スクリュー翼、アンカー翼、リボン翼、大型格子翼などの任意の攪拌翼を1段あるいは上下方向に同一翼または異種翼を2段以上で使用することができる。また、反応槽内には必要に応じてバッフル(邪魔板)を設置しても良い。
【0023】
次いで、このようにして得られたスラリー液を乾燥する。乾燥方法は、スラリー液が完全に乾燥できる方法であれば特に制約はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固などが挙げられる。これらのうち本発明においては、スラリー液を短時間に粉末又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリー液の濃度、送液速度等によって異なるが、概ね乾燥機の出口における温度が70℃以上150℃以下である。
【0024】
上記のようにして得られた触媒前駆体は予備焼成し、成形を経て、本焼成することで、成形形状を制御、保持することが可能となり、工業用途として特に機械的強度が優れた触媒が得られ、安定した触媒性能を発現できる。
【0025】
成形は、シリカ等の担体に担持する担持成形と、担体を使用しない非担持成形のいずれの成形方法も採用できる。具体的な成形方法としては、例えば、打錠成形、プレス成形、押出成形、造粒成形等が挙げられる。成形品の形状としては、例えば、円柱状、リング状、球状等が運転条件を考慮して適宜選択可能であるが、球状担体、特にシリカやアルミナ等の不活性担体に触媒活性成分を担持した、平均粒径3.0mm以上10.0mm以下、好ましくは平均粒径3.0mm以上8.0mm以下の担持触媒であるとよい。担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート方法等が広く知られており、予備焼成粉末が担体に均一に担持できる方法で有れば特に限定されないが、触媒の製造効率等を考慮した場合、転動造粒法が好ましい。具体的には、固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内にチャージされた担体を、担体自体の自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここに予備焼成粉体を添加することにより粉体成分を担体に担持させる方法である。なお、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。使用できるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等がより好ましく、グリセリンの濃度5質量%以上の水溶液がさらに好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高性能な触媒が得られる。これらバインダーの使用量は、予備焼成粉末100質量部に対して通常2~60質量部であるが、グリセリン水溶液の場合は15~50質量部が好ましい。担持に際してバインダーと予備焼成粉末は成型機に交互に供給しても、同時に供給してもよい。また、成形に際しては、公知の添加剤、例えば、グラファイト、タルク等を少量添加してもよい。なお、成形において添加される成形助剤、細孔形成剤、担体はいずれも、原料を何らかの別の生成物に転換する意味での活性の有無にかかわらず、本発明における活性成分の構成元素として考慮しないものとする。
【0026】
予備焼成方法や予備焼成条件または本焼成方法や本焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。予備焼成や本焼成は、通常、空気等の酸素含有ガス流通下または不活性ガス流通下で、200℃以上600℃以下、好ましくは300℃以上550℃以下で、0.5時間以上、好ましくは1時間以上40時間以下で行う。ここで、不活性ガスとは、触媒の反応活性を低下させない気体のことをいい、具体的には、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。尚、触媒を使用して不飽和アルデヒド、及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際の反応条件等に応じて、特に本焼成における最適な条件は異なり、本焼成工程の工程パラメーターすなわち雰囲気中の酸素含有率、最高到達温度や焼成時間等の変更を行うことは当業者にとって公知であるため、本発明の範疇に入るものとする。また、本焼成工程は前述の予備焼成工程よりも後に実施されるものとし、本焼成工程における最高到達温度(本焼温度)は、前述の予備焼成工程における最高到達温度(予備焼成温度)よりも高いものとする。焼成の手法は流動床、ロータリーキルン、マッフル炉、トンネル焼成炉など特に制限はなく、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。
【0027】
本発明の触媒は、不飽和アルデヒド化合物、不飽和カルボン酸化合物を製造する為の触媒として使用される場合が好ましく、第一段目すなわち、不飽和アルデヒド化合物を製造する為の触媒として用いることが更に好ましく、プロピレンからアクロレインを製造する為の触媒として用いることが特に好ましい。
【0028】
[第二段目触媒について]
本発明の触媒を、不飽和アルデヒド化合物を製造する為の触媒として用いた場合、第二段目の酸化反応を行い、不飽和カルボン酸化合物を得ることができる。
この場合、第二段目の触媒としては、本願発明の触媒を用いることもできるが、好ましくは下記式(4)で表される触媒である。
Mo12Va2Wb2Cuc2Sbd2X2e2Y2f2Z2g2Oh2(4)
(式中、Mo、V、W、Cu、SbおよびOはそれぞれ、モリブデン、バナジウム、タングステン、銅、アンチモンおよび酸素を示し、X2はアルカリ金属、およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Y2はマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を、Zはニオブ、セリウム、すず、クロム、マンガン、鉄、コバルト、サマリウム、ゲルマニウム、チタンおよび砒素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をそれぞれ示す。またa2、b2、c2、d2、e2、f2、g2およびh2は各元素の原子比を表し、モリブデン原子12に対して、a2は0<a2≦10、b2は0≦b2≦10、c2は0<c2≦6、d2は0<d2≦10、e2は0≦e2≦0.5、f2は0≦f2≦1、g2は0≦g2<6を表す。また、h2は前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子数である。)。
【0029】
上記式(4)で表される触媒の製造にあたっては、この種の触媒、例えば酸化物触媒、ヘテロポリ酸又はその塩構造を有する触媒を調製する方法として一般に知られている方法が採用できる。触媒を製造する際に使用できる原料は特に限定されず、種々のものが使用できる。例えば、三酸化モリブデンのようなモリブデン酸化物、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウムのようなモリブデン酸又はその塩、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸のようなモリブデンを含むヘテロポリ酸又はその塩などを用いることができる、アンチモン成分原料としては特に制限はないが、三酸化アンチモンもしくは酢酸アンチモンが好ましい。バナジウム、タングステン、銅等、その他の元素の原料としてはそれぞれの硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、酸化物、金属等が使用できる。
【0030】
これら活性成分を含む化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
次いで前記で得られたスラリー液を乾燥し、触媒活性成分固体とする。乾燥方法は、スラリー液が完全に乾燥できる方法であれば特に制約はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固などが挙げられるが、スラリー液を短時間に粉末又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリー液の濃度、送液速度等によって異なるが、概ね乾燥機の出口における温度が70~150℃である。また、この際得られるスラリー液乾燥体の平均粒径が10~700μmとなるように乾燥するのが好ましい。
【0032】
前記のようにして得られた第二段目の触媒活性成分固体は、そのまま被覆用混合物に供することができるが、焼成すると成形性が向上する場合があり好ましい。焼成方法や焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。焼成の最適条件は、使用する触媒原料、触媒組成、調製法等によって異なるが、焼成温度は通常100~350℃、好ましくは150~300℃、焼成時間は1~20時間である。なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。このようにして得られた焼成後の固体は成形前に粉砕されることが好ましい。粉砕方法として特に制限はないが、ボールミルを用いると良い。
【0033】
また、前記第二段目のスラリーを調製する際の活性成分を含有する化合物は、必ずしも全ての活性成分を含んでいる必要はなく、一部の成分を下記成形工程前に使用してもよい。
【0034】
前記第二段目の触媒の形状は特に制約はなく、酸化反応において反応ガスの圧力損失を小さくするために、柱状物、錠剤、リング状、球状等に成型し使用する。このうち選択性の向上や反応熱の除去が期待できることから、不活性担体に触媒活性成分固体を担持し、担持触媒とするのが特に好ましい。この担持は以下に述べる転動造粒法が好ましい。この方法は、例えば固定容器内の底部に、平らなあるいは凹凸のある円盤を有する装置中で、円盤を高速で回転することにより、容器内の担体を自転運動と公転運動の繰返しにより激しく攪拌させ、ここにバインダーと触媒活性成分固体並びに、必要により、これらに他の添加剤例えば成型助剤、強度向上剤を添加した担持用混合物を担体に担持する方法である。バインダーの添加方法は、1)前記担持用混合物に予め混合しておく、2)担持用混合物を固定容器内に添加するのと同時に添加、3)担持用混合物を固定容器内に添加した後に添加、4)担持用混合物を固定容器内に添加する前に添加、5)担持用混合物とバインダーをそれぞれ分割し、2)~4)を適宜組み合わせて全量添加する等の方法が任意に採用しうる。このうち5)においては、例えば担持用混合物の固定容器壁への付着、担持用混合物同士の凝集がなく担体上に所定量が担持されるようオートフィーダー等を用いて添加速度を調節して行うのが好ましい。バインダーは、水やエタノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、結晶性セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース類、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、セルロース類及びエチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等が好ましく、特にグリセリンの濃度5質量%以上の水溶液が好ましい。い。これらバインダーの使用量は、担持用混合物100質量部に対して通常2~60質量部、好ましくは10~50質量部である。
【0035】
上記担持における担体の具体例としては、炭化珪素、アルミナ、シリカアルミナ、ムライト、アランダム等の直径1~15mm、好ましくは2.5~10mmの球形担体等が挙げられる。これら担体は通常は10~70%の空孔率を有するものが用いられる。担体と担持用混合物の割合は通常、担持用混合物/(担持用混合物+担体)=10~75質量%、好ましくは15~60質量%となる量を使用する。担持用混合物の割合が大きい場合、担持触媒の反応活性は大きくなるが、機械的強度が小さくなる傾向にある。逆に、担持用混合物の割合が小さい場合、機械的強度は大きいが、反応活性は小さくなる傾向がある。なお、前記において、必要により使用する成型助剤としては、シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末等が挙げられる。成型助剤の使用量は、触媒活性成分固体100質量部に対して通常1~60質量部である。また、更に必要により触媒活性成分固体及び反応ガスに対して不活性な無機繊維(例えば、セラミックス繊維又はウィスカー等)を強度向上剤として用いることは、触媒の機械的強度の向上に有用であり、ガラス繊維が好ましい。これら繊維の使用量は、触媒活性成分固体100質量部に対して通常1~30質量部である。なお、第一段目の触媒の成形においては、添加される成形助剤、細孔形成剤、担体はいずれも、原料を何らかの別の生成物に転換する意味での活性の有無にかかわらず、本発明における活性成分の構成元素として考慮しないものとする。
【0036】
前記のようにして得られた担持触媒はそのまま触媒として気相接触酸化反応に供することができるが、焼成すると触媒活性が向上する場合があり好ましい。焼成方法や焼成条件は特に限定されず、公知の処理方法および条件を適用することができる。焼成の最適条件は、使用する触媒原料、触媒組成、調製法等によって異なるが、焼成温度は通常100~450℃、好ましくは270~420℃、焼成時間は1~20時間である。なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。
【0037】
本発明の触媒を、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する反応、特にプロピレンを分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してアクロレイン、アクリル酸を製造する反応に使用する場合において、触媒活性の向上、および収率の向上をすることができ、公知の方法と比較して製品の価格競争力の向上に非常に有効である。また、ホットスポット温度の低減のような発熱を伴う部分酸化反応のプロセス安定性にも向上効果が期待できる。更に、本発明の触媒は、環境や最終製品の品質に悪影響の生じる副生成物、たとえば一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO2)、アセトアルデヒドや酢酸、ホルムアルデヒドの低減にも有効である。
【0038】
こうして得られた本発明の触媒は、例えばプロピレンを、分子状酸素含有ガスを用いて気相接触酸化して、アクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する際に使用できる。本発明の製造方法において原料ガスの流通方法は、通常の単流通法でもあるいはリサイクル法でもよく、一般に用いられている条件下で実施することができ特に限定されない。たとえば出発原料物質としてのプロピレンが常温で1~10容量%、好ましくは4~9容量%、分子状酸素が3~20容量%、好ましくは4~18容量%、水蒸気が0~60容量%、好ましくは4~50容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスが20~80容量%、好ましくは30~60容量%からなる混合ガスを反応管中に充填した本発明の触媒上に250~450℃で、常圧~10気圧の圧力下で、空間速度300~5000h-1で導入し反応を行う。
【0039】
本発明において触媒活性の向上とは、特に断りがない限り同じ反応浴温度で触媒反応を行って比較をしたときに原料転化率が高いことを指す。
本発明において収率が高いとは、特に断りがない限り、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして酸化反応を行った場合には、対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の合計収率が高いことを指す。
本発明において触媒活性成分の構成元素とは、特に断りがない限り、上記触媒製造工程において使用するすべての元素を指すが、本焼工程の最高温度以下にて消失、昇華、揮発、燃焼する原料およびその構成元素は、触媒の活性成分の構成元素に含めないものとする。また、成形工程における成形助剤や担体に含まれるケイ素およびその他の無機材料を構成する元素も、触媒の活性成分の構成元素として含まれないものとする。
本発明においてホットスポット温度とは、多管式反応管内の長軸方向に熱電対を設置し、測定される触媒充填層内の温度分布の最高温度であり、反応浴温度とは反応管の発熱を冷却する目的で使用される熱媒の設定温度である。上記温度分布の測定の点数には特に制限はないが、例えば触媒充填長を均等に10から1000に分割する。
本発明において不飽和アルデヒドおよび不飽和アルデヒド化合物とは、分子内に少なくとも一つの二重結合と少なくとも一つのアルデヒドを有する有機化合物であり、たとえばアクロレイン、メタクロレインである。本発明において不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸化合物とは、分子内に少なくとも一つの二重結合と少なくとも一つのカルボキシ基、またはそのエステル基を有する有機化合物であり、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチルである。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例において、転化率、収率、選択率、担持率は以下の式に従って算出した。
原料転化率(%)=(反応したプロピレンまたはt-ブチルアルコールまたはイソブチレンのモル数)/(供給したプロピレンまたはt-ブチルアルコールまたはイソブチレンのモル数)×100
有効収率(%)=(生成したアクロレインおよびアクリル酸またはメタクロレインおよびメタクリル酸の合算モル数)/(供給したプロピレンまたはt-ブチルアルコールまたはイソブチレンのモル数)×100
担持率(質量%)=(成形に使用した予備焼成粉体の質量)/{(成形に使用した予備焼成粉体の質量)+(成形に使用した担体の質量)}×100
【0041】
また、X線回折角度(2θ)の測定方法は、株式会社リガク製UltimaIVを使用して、X線CuKα線(λ=0.154nm)、出力40kV、30mA、測定範囲10~60°、測定速度毎分10°の条件である。また、以下各実施例において記載する焼成時間は、昇温時間、降温時間は算入せず、各焼成温度到達時からの時間を意味する。
【0042】
[実施例1]
ヘプタモリブデン酸アンモニウム100質量部を60℃に加温した純水380質量部に完全溶解させた(母液1)。次に、硝酸カリウム0.17質量部を純水1.6質量部に溶解させて、母液1に加えた。次に、硝酸第二鉄37質量部、硝酸コバルト90質量部及び硝酸ニッケル33質量部を60℃に加温した純水85質量部に溶解させ、母液1に加えた。続いて硝酸ビスマス16質量部を60℃に加温した純水17質量部に硝酸(60質量%)4.1質量部を加えて調製した硝酸水溶液に溶解させ母液1に加えた。この母液1をスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥粉体を440℃、4時間の条件で予備焼成した。こうして得られた予備焼成粉体(仕込み原料から計算される原子比はMo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:0.70:2.0:6.5:2.4:0.040)に対して5質量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして33質量%グリセリン溶液を用いて、不活性の担体に担持率が50質量%となるように球状に担持成形した。こうして得られた粒径5.3mmの球状成形品について、550℃、4時間の条件で本焼成を行い、X線回折角度(2θ)の測定を行った。
また、上記550℃での本焼成を行わず、540℃で4時間の本焼成を行ったものも準備し、X線回折角度(2θ)の測定を行った。
【0043】
[実施例2]
ヘプタモリブデン酸アンモニウム100質量部を60℃に加温した純水380質量部に完全溶解させた(母液1)。次に、硝酸カリウム0.17質量部を純水1.6質量部に溶解させて、母液1に加えた。次に、硝酸第二鉄37質量部、硝酸コバルト90質量部及び硝酸ニッケル33質量部を60℃に加温した純水85質量部に溶解させ、母液1に加えた。続いて硝酸ビスマス16質量部を60℃に加温した純水17質量部に硝酸(60質量%)4.1質量部を加えて調製した硝酸水溶液に溶解させ母液1に加えた。この母液1をスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥粉体を440℃、4時間の条件で予備焼成した。こうして得られた予備焼成粉体(仕込み原料から計算される原子比はMo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:0.70:2.0:6.5:2.4:0.10)に対して5質量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして33質量%グリセリン溶液を用いて、不活性の担体に担持率が50質量%となるように球状に担持成形した。こうして得られた粒径5.3mmの球状成形品について、550℃、4時間の条件で本焼成を行い、それぞれのX線回折角度(2θ)の測定を行った。
また、上記550℃での本焼成を行わず、540℃で4時間の本焼成を行ったものも準備し、X線回折角度(2θ)の測定を行った。
【0044】
[比較例1]
ヘプタモリブデン酸アンモニウム100質量部を60℃に加温した純水380質量部に完全溶解させた(母液1)。次に、硝酸セシウム0.37質量部を純水1.6質量部に溶解させて、母液1に加えた。次に、硝酸第二鉄37質量部、硝酸コバルト90質量部及び硝酸ニッケル33質量部を60℃に加温した純水85質量部に溶解させ、母液1に加えた。続いて硝酸ビスマス21質量部を60℃に加温した純水23質量部に硝酸(60質量%)5.4質量部を加えて調製した硝酸水溶液に溶解させ母液1に加えた。この母液1をスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥粉体を440℃、4時間の条件で予備焼成した。こうして得られた予備焼成粉体(仕込み原料から計算される原子比はMo:Bi:Fe:Co:Ni:Cs=12:0.93:2.0:6.5:2.4:0.040)に対して5質量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして33質量%グリセリン溶液を用いて、不活性の担体に担持率が50質量%となるように球状に担持成形した。こうして得られた粒径4.7mmの球状成形品について、550℃、4時間の条件で本焼成を行い、それぞれのX線回折角度(2θ)の測定を行った。
また、上記550℃での本焼成を行わず、540℃で4時間の本焼成を行ったものも準備し、X線回折角度(2θ)の測定を行った。
【0045】
[比較例2]
ヘプタモリブデン酸アンモニウム100質量部を60℃に加温した純水380質量部に完全溶解させた(母液1)。次に、硝酸カリウム0.44質量部を純水3.9質量部に溶解させて、母液1に加えた。次に、硝酸第二鉄33質量部、硝酸コバルト71質量部及び硝酸ニッケル38質量部を60℃に加温した純水76質量部に溶解させ、母液1に加えた。続いて硝酸ビスマス38質量部を60℃に加温した純水41質量部に硝酸(60質量%)9.7質量部を加えて調製した硝酸水溶液に溶解させ母液1に加えた。この母液1をスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥粉体を440℃、4時間の条件で予備焼成した。こうして得られた予備焼成粉体(仕込み原料から計算される原子比はMo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.7:1.8:5.2:2.8:0.095)に対して5質量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして33質量%グリセリン溶液を用いて、不活性の担体に担持率が50質量%となるように球状に担持成形した。こうして得られた粒径5.3mmの球状成形品について、550℃、4時間の条件で本焼成を行い、それぞれのX線回折角度(2θ)の測定を行った。
また、上記550℃での本焼成を行わず、540℃で4時間の本焼成を行ったものも準備し、X線回折角度(2θ)の測定を行った。
【0046】
上記実施例および比較例で得られた触媒を用いて、以下の方法によりプロピレンの酸化反応を実施し、原料転化率および有効収率を求めた。各触媒68mlを内径28.4mmステンレス鋼反応管に充填し、ガス体積比率がプロピレン:酸素:水蒸気=1.0:1.7:3.0の混合ガスをプロピレン空間速度71hr-1で導入し、プロピレンの酸化反応を実施した。反応浴温度315℃にて反応開始から20時間以上のエージング反応後、反応管出口ガスの分析より、表1に示す原料転化率および有効収率を求めた。
【0047】
【0048】
上記実施例および比較例で得られた触媒のX線回折角度2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度の比と(J-L)/10の値を表2に示す。
なお、2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度の比は2θ=28.4±0.15°の範囲内の最大ピーク強度を2θ=26.5°±0.3°の強度で除し、100を乗じて得た値である。
【0049】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の触媒を使用することにより、不飽和アルデヒド化合物、不飽和カルボン酸化合物、を酸化的に製造する場合に、低い反応浴温度で高い収率を得ることが可能である。