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特許7170402接合基板、弾性表面波素子、弾性表面波素子デバイスおよび接合基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】接合基板、弾性表面波素子、弾性表面波素子デバイスおよび接合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20221107BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20221107BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20221107BHJP
   C30B 29/30 20060101ALN20221107BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
C30B33/02
C30B29/30 A
C30B29/30 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018026361
(22)【出願日】2018-02-16
(65)【公開番号】P2019145920
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】栗本 浩平
(72)【発明者】
【氏名】岸田 和人
(72)【発明者】
【氏名】茅野 林造
(72)【発明者】
【氏名】水野 潤
(72)【発明者】
【氏名】垣尾 省司
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-026695(JP,A)
【文献】特開平10-178331(JP,A)
【文献】特開2006-339308(JP,A)
【文献】HAYSHI,Junki et al.,High-Coupling Leaky SAWs on LiTaO3 Thin Plate Bonded to Quartz Substrate,2017 IEEE International Ultrasonics Symposium,米国,IEEE,2017年09月06日,1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
C30B 33/02
C30B 29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶X軸と交差する角度でカットされた水晶基板と、前記水晶基板上に積層された圧電基板とを有し、前記水晶基板のカット角度が、結晶X軸に対し、85~95度の範囲の角度を有し、
前記水晶基板が、結晶Y方向側に弾性表面波伝搬方向が設定され、前記圧電基板が、前記伝搬方向に弾性表面波伝搬方向が設定されており、
前記水晶基板の弾性表面波伝搬方向が、結晶Y軸に対し15~50度の角度を有し、
前記圧電基板が、Xカットニオブ酸リチウムまたはXカットタンタル酸リチウムである接合基板。
【請求項2】
前記圧電基板が、Xカット31°Y伝搬タンタル酸リチウムまたはXカット36°Y伝搬ニオブ酸リチウムである請求項1に記載の接合基板。
【請求項3】
前記圧電基板は、弾性表面波の波長λに対し厚さhが、0.02~0.11λの関係を有する請求項1または2に記載の接合基板。
【請求項4】
前記圧電基板が縦型漏洩弾性表面波を励起するためのものであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の接合基板。
【請求項5】
弾性表面波伝搬減衰量が、弾性表面波の波長λに対し、0.1dB/λ以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の接合基板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の接合基板における圧電基板の主面上に、少なくとも1つの櫛型電極を備えている弾性表面波素子。
【請求項7】
請求項に記載の弾性表面波素子がパッケージに封止されていることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項8】
水晶基板と圧電基板とが接合された接合基板の製造方法であって、
水晶の結晶X軸と85~95度の範囲で交差する角度で前記水晶をカットして水晶基板を用意し、前記水晶基板に結晶Y軸に対し15~50度の角度を有するように弾性表面波伝搬方向を設定し、前記伝搬方向に合わせて弾性表面波伝搬方向が設定され、Xカットニオブ酸リチウムまたはXカットタンタル酸リチウムからなる圧電基板を用意して前記水晶基板に積層して、直接または中間層を介して前記水晶基板と前記圧電基板とを接合する接合基板の製造方法。
【請求項9】
水晶基板の接合面および圧電基板の接合面に、減圧下で紫外線を照射し、照射後に、水晶基板の接合面と圧電基板の接合面とを接触させ、水晶基板と圧電基板とに厚さ方向に加圧をして前記接合面同士を接合することを特徴とする請求項8に記載の接合基板の製造方法。
【請求項10】
前記加圧の際に、所定の温度に加熱をすることを特徴とする請求項9に記載の接合基板の製造方法。
【請求項11】
前記中間層がアモルファス層である請求項8~10のいずれか1項に記載の接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、弾性表面波を利用した接合基板、弾性表面波素子、弾性表面波素子デバイスおよび接合基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの移動体通信機器の進化に伴い弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)デバイスについても高性能化が要求されている。特に高周波化、広帯域化のために高速、高結合のSAWモード及び温度変化による通過帯域の移動を防止する優れた温度特性をもつSAW基板が要請されている。
さらに、漏洩弾性表面波(Leaky SAW: LSAW等とも呼ばれる)、縦型漏洩弾性表面波(Longitudinal-type Leaky SAW: LLSAW等とも呼ばれる)は、優れた位相速度を有しており、SAWデバイスの高周波化に有利な伝搬モードの一つである。しかし、大きな伝搬減衰を有している点で課題がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、ニオブ酸リチウム基板表面付近にプロトン交換層を形成した後に、表層のみに逆プロトン交換層を形成することによって、LLSAWのバルク波放射に起因する損失を減少させようとする技術が提案されている。
【0004】
非特許文献1、非特許文献2にもLLSAWの低損失化の手法として、基板方位、電極膜厚の最適化が試みられている。
【0005】
特許文献2には、SAW伝搬基板と支持基板とを有機薄膜層によって接着したデバイスが記載されている。伝搬基板は例えば厚さ30μmのタンタル酸リチウム基板であり、これを厚さ300μmのガラス基板と厚さ15μmの有機接着剤によって貼り合わせている。
【0006】
特許文献3にもタンタル酸リチウム基板(厚さ:125μm)と石英ガラス基板(厚さ:125μm)とを接着剤で貼り合せたSAWデバイスが記載されている。
【0007】
特許文献4にはタンタル酸リチウム基板と支持基板の接着について有機接着層を薄層化することにより温度特性が改善されると報告されている。
【0008】
しかし、特許文献1~4に示された材料では、伝搬減衰が大きいという問題が十分に解決されていない。
【0009】
本願発明者らは、非特許文献3~5において、水晶基板と、圧電基板との接合において伝搬減衰が低減されることを明らかにしている。
例えば、非特許文献3では、弾性表面波(SAW)デバイスのために、STカット水晶とLiTaO(LT)の直接接合においてアモルファスSiO(α-SiO)中間層を使用して接合している。
非特許文献4では、ATカット水晶にXカット31°Y伝搬タンタル酸リチウム、Xカット36°Y伝搬ニオブ酸リチウムを接合して電気機械結合係数を高めたLLSAWが提案されている。
非特許文献5では、LiTaOまたはLiNbO薄板と水晶基板との接合により縦型リーキー弾性表面波の高結合化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-30829号公報
【文献】特開2001-53579号公報
【文献】特開2006-42008号公報
【文献】特開2011-87079号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】”GHz-band surface acoustic wav e devices using the second leaky mode” , Appl. Phis.,vol. 36,no9B,pp. 6083-6 087,1997.
【文献】”LiNbO3の縦波型漏洩弾性表面波の共振器特性-有限要素解 析結合法による解析”信学会基礎・境界ソサイエティ大会,A-195,p.196 ,1996.
【文献】”2016 International Conference on Electronics Packaging( ICEP)”、発行所 The Japan Institute of Electronics Packaging、発行日 平成28年4月20日
【文献】”平成27年度山梨大学工学部電気電子工学科卒業論文発表会要旨 集”、発行所 山梨大学工学部電気電子工学科、発行日 平成28年2月16日
【文献】”平成27年度山梨大学工学部電気電子工学科卒業論文発表会”、 開催日 平成28年2月16日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来、SAWとして漏洩弾性表面波(LSAW)、縦型漏洩弾性表面波(LLSAWとも呼ばれる)が提案されているが、高周波化を図る、より優れた方法として、高速な位相速度を有する縦型リーキーSAW(LLSAW)の利用が注目されている。
従来、LLSAWでは、LiNbO(LN)薄板またはLiTaO(LT)薄板を、ATカット45°X伝搬水晶と接合させることにより、結合係数が単体基板に対し、2-3倍に増加することが明らかにされている。また、温度特性も単体と比べて向上することが報告されている。しかし、接合後の伝搬減衰が大きく、Q値が小さいという課題がある。従来提案されている技術では、伝搬速度の改善は十分ではない。
【0013】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、伝搬減衰の小さい接合基板、弾性表面波素子、弾性表面波素子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の接合基板のうち、第1の形態は、結晶X軸と交差する角度でカットされた水晶基板と、前記水晶基板上に積層された圧電基板とを有し、前記水晶基板のカット角度が、結晶X軸に対し、85~95度の範囲の角度を有し、
前記水晶基板が、結晶Y方向側に弾性表面波伝搬方向が設定され、前記圧電基板が、前記伝搬方向に弾性表面波伝搬方向が設定されており、
前記水晶基板の弾性表面波伝搬方向が、結晶Y軸に対し15~50度の角度を有し、
前記圧電基板が、Xカットニオブ酸リチウムまたはXカットタンタル酸リチウムである
【0019】
他の形態の接合基板の発明は、他の形態の発明において、前記圧電基板が、Xカット31°Y伝搬タンタル酸リチウムまたはXカット36°Y伝搬ニオブ酸リチウムである。
【0020】
他の形態の接合基板の発明は、他の形態の発明において、前記圧電基板は、弾性表面波の波長λに対し、厚さhが、0.02~0.11λの関係を有する。
【0021】
他の形態の接合基板の発明は、他の形態の発明において、前記圧電基板が縦型漏洩弾性表面波を励起するためのものであることを特徴とする。
【0022】
他の形態の接合基板の発明は、他の形態の発明において、弾性表面波伝搬減衰量が、弾性表面波の波長λに対し、0.1dB/λ以下である。
【0023】
本発明の弾性表面波素子のうち、第1の形態は、前記接合基板の発明の形態のいずれかの接合基板における圧電基板の主面上に、少なくとも1つの櫛型電極を備えている。
【0024】
他の形態の弾性表面波素子デバイスの発明は、前記形態の弾性表面波素子がパッケージに封止されていることを特徴とする。
【0025】
本発明の接合基板の製造方法のうち、第1の形態は、水晶基板と圧電基板とが接合された接合基板の製造方法であって、
水晶の結晶X軸と85~95度の範囲で交差する角度で前記水晶をカットして水晶基板を用意し、前記水晶基板に結晶Y軸に対し15~50度の角度を有するように弾性表面波伝搬方向を設定し、前記伝搬方向に合わせて弾性表面波伝搬方向が設定され、Xカットニオブ酸リチウムまたはXカットタンタル酸リチウムからなる圧電基板を用意して前記水晶基板に積層して、直接または中間層を介して前記水晶基板と前記圧電基板とを接合する。
【0026】
他の形態の接合基板の製造方法の発明は、他の形態の発明において、水晶基板の接合面および圧電基板の接合面に、減圧下で紫外線を照射し、照射後に、水晶基板の接合面と圧電基板の接合面とを接触させ、水晶基板と圧電基板とに厚さ方向に加圧をして前記接合面同士を接合することを特徴とする。
【0027】
他の形態の接合基板の製造方法の発明は、他の形態の発明において、前記加圧の際に、所定の温度に加熱をすることを特徴とする。
【0028】
他の形態の接合基板の製造方法の発明は、他の形態の発明において、前記中間層がアモルファス層である。
【0029】
以下に、本発明で規定する条件等について説明する。
水晶基板のカット角度:結晶X軸に対し、85~95度の角度
弾性表面波の伝搬における伝搬減衰率を小さくするために水晶基板のカット角度を定める。上記範囲を外れると、伝搬減衰率が増加するため、上記角度範囲を望ましいものとする。
【0030】
水晶基板の弾性表面波伝搬方向:結晶Y軸に対し15~50度の角度
水晶基板の伝搬方向を適切に定めることで、弾性表面波の伝搬減衰を小さくすることができ、結晶Y軸に対し15~50度の角度内とするのが望ましい。上記範囲を外れると、伝搬減衰率が増加する。
【0031】
圧電基板厚さ:弾性表面波の波長λに対し厚さhが、0.02~0.11λ
圧電基板の厚さを適正に定めることで、伝搬減衰を小さくすることができる。厚さが上記規定を外れると、伝搬減衰が増加するため、上記厚さの範囲が望ましい。
【0032】
弾性表面波伝搬減衰量:弾性表面波の波長λに対し、0.1dB/λ以下
伝搬減衰が上記規定を満たすことにより、実用域において有用な使用が可能になる。
【発明の効果】
【0033】
この発明によれば、弾性表面波の伝搬減衰を小さくして伝搬させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態の接合基板の接合状態を示す概略図である。
図2】同じく接合基板および弾性表面波素子を示す概略図である。
図3】他の実施形態における、接合基板および弾性表面波素子を示す概略図である。
図4】本発明の一実施形態における接合基板の製造に用いられる接合処理装置を示す概略図である。
図5】同じく、水晶基板と圧電基板の接合形態を説明する図である。
図6】同じく、弾性表面波デバイスを示す概略図である。
図7】実施例の比較例である関連技術と発明例の位相速度の比較結果を示すグラフである。
図8】実施例の比較例である関連技術における、圧電基板であるLTの厚さと、伝搬減衰量および結合係数との関係を示すグラフである。
図9】実施例の発明例における、圧電基板であるLTの厚さと、伝搬減衰量および結合係数との関係を示すグラフである。
図10】実施例の比較例である関連技術において、圧電基板であるLNの厚さと、伝搬減衰量および結合係数との関係を示すグラフである。
図11】実施例の発明例において、圧電基板であるLNの厚さと、伝搬減衰量および結合係数との関係を示すグラフである。
図12】実施例において、圧電基板としてLTを用い、水晶基板のカット角度を変えた際の伝搬減衰量の関係を示すグラフである。
図13】実施例において、圧電基板としてLNを用い、水晶基板のカット角度を変えた際の伝搬減衰量の関係を示すグラフである。
図14】実施例において、圧電基板としてLTを用い、水晶基板における伝搬方向を変えた際の伝搬減衰量の関係を示すグラフである。
図15】実施例において、圧電基板としてLNを用い、水晶基板における伝搬方向を変えた際の伝搬減衰量の関係を示すグラフである。
図16】実施例において、圧電基板としてLTを用いた関連技術と発明例で、圧電基板厚さとTCFとの関係を示すグラフである。
図17】実施例において、圧電基板としてLNを用いた関連技術と発明例で、圧電基板厚さとTCFとの関係を示すグラフである。
図18】実施例の発明例において、FEMのアドミタンス特性の解析結果を示す図である。
図19】実施例の発明例において、伝搬方向とパワーフロー角との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本発明の一実施形態の接合基板および弾性表面波素子について添付図面に基づいて説明する。
接合基板5は、水晶基板2と圧電基板3とが、接合界面4を介して共有結合によって接合されている。接合界面4は、共有結合によって結合されているのが望ましい。
水晶基板2は、好適には150~500μmの厚さを有し、圧電基板3は、好適には弾性表面波の波長に対し、0.02~1.1波長に相当する厚さを有している。なお、本発明としては、圧電基板の厚さは、弾性表面波の波長に対し、0.05~0.1波長がさらに望ましく、さらに0.07~0.08波長が一層望ましい。
【0036】
水晶基板2は、例えば、水熱合成法で結晶成長させた水晶を、結晶X軸と交差する角度で切り出したものを用いる。この角度としては、結晶X軸に対し、85~95°が好適である。さらに好適には、カット角度の下限を88度、カット角度の上限を92度とするのが一層望ましい。最適値は、結晶X軸に対し90°である
水晶基板2は、弾性表面波伝搬方向を結晶Y軸方向側に設定して、用意される。この実施形態では、弾性表面波伝搬方向2Dを好適には結晶Y軸に対し、15~50度の角度に設定する。最適値は、35°Y方向である。
【0037】
圧電基板3には、適宜の材料を用いることができるが、好適には、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムにより構成することができる。好適には、Xカットの圧電基板を用いることができる。ただし、本発明としては、圧電基板3のカット角度が特定の角度のものに限定されるものではない。
また、圧電基板3は、弾性表面波伝搬方向3Dを水晶基板2における伝搬方向に合わせたものに設定される。
【0038】
図1に示すように、水晶基板2と圧電基板3の接合に際しては、水晶基板2の伝搬方向2Dと、圧電基板3の伝搬方向3Dとは、同じ方向にして両者を接合する。
接合基板5には、図2に示すように、櫛形電極10を設けることで弾性表面波素子1が得られる。
【0039】
また、水晶基板2と圧電基板3との間には、図3に示すように、アモルファス層6を介在させた弾性表面波素子1Aとすることができる。なお、上記実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態においても、水晶基板2と、圧電基板3とは、弾性表面波伝搬方向が同一の方向となる状態にして接合されている。
【0040】
この実施形態で、アモルファス層6を介在させる場合、アモルファス層6と水晶基板2との間に接合界面が存在し、アモルファス層6の他面側でアモルファス層6と圧電基板3との間に接合界面が存在する。アモルファス層6の材質は本発明としては特に限定されないが、SiOやAlなどを用いることができる。また、アモルファス層の厚さは、100nm以下とするのが望ましい。
なお、アモルファス層6の形成では、水晶基板2または圧電基板3の表面に薄膜を形成するようにしてアモルファス層6を形成することができる。また、水晶基板2表面と圧電基板3表面の双方にアモルファス層を形成して接合するものとしてもよい。
アモルファス層は、既知の方法により形成することができ、化学的蒸着や、スパッタリング等の物理的蒸着を利用することができる。
【0041】
次に、接合基板および弾性表面波素子の製造について図4を参照して説明する。
所定材料の水晶基板と圧電素子を用意する。水晶基板は、水晶の結晶X軸と交差する角度で水晶をカットして用意される。角度としては、結晶X軸に対し、85~95°が選択される。
【0042】
なお、接合面にアモルファス層を形成する場合は、形成の対象とする水晶基板と圧電素子の一方または両方に対し、接合面側に成膜処理を行う。成膜処理の方法としては特に限定されるものではなく、真空蒸着法、スパッタ法などの薄膜形成技術を用いることができる。例えば、Electron Cyclotron Resonanceプラズマ成膜にて接合面に100nm以下のアモルファス層を形成することができる。このアモルファス膜は膜密度が非常に高く形成できることから接合表面の活性化度合いが大であり、より多くのOH基が発生する。
【0043】
水晶基板は、水晶基板の弾性表面波伝搬方向を、好適には、結晶Y方向に対し、15~50度の角度を有するように設定し、圧電基板では、弾性表面波伝搬方向を水晶基板の伝搬方向に一致させて密閉構造の処理装置20内に設置する。図では、簡略のため、水晶基板2のみを記載している。
処理装置20では、真空ポンプ21が接続され、処理装置20内を例えば10Pa以下に減圧する。処理装置20内には、放電ガスを導入し、処理装置20内で放電装置22によって放電を行って紫外線を発生させる。放電は、高周波電圧を印加する方法を使用するなどにより行うことができる。
水晶基板2と圧電基板3とは、紫外線が照射可能な状態で設置しており、接合面に紫外線を照射して活性化を図る。なお、水晶基板2と圧電基板3の一方または両方にアモルファス層が形成されている場合は、アモルファス層の表面を接合面として紫外線照射を行う。
【0044】
紫外線照射を行った、水晶基板2と圧電基板3とは、水晶基板2の弾性表面波伝搬方向と、圧電基板3の弾性表面波伝搬方向とを一致した状態にして接合面を接触させ、常温または200℃以内温度に加熱し、両者間に圧力を加えて接合を行う。圧力としては10Paを付加することができ、処理時間は5分~4時間程度とすることができる。ただし、本発明としては圧力や処理時間が特に限定されるものではない。
上記処理によって、水晶基板2と圧電基板3とは接合界面において確実に共有結合で接合されている。
【0045】
図5は、水晶基板2と圧電基板3における接合面の状態を示すものである。
A図では、紫外線照射により接合面が活性化してOH基が表面に形成された状態を示している。B図では、基板同士を接触させ、加圧・昇温をして接合を行っている状態を示している。接合に際しては、OH基が作用して基板同士が共有結合される。余分なHOは加熱時に外部に排除される。
上記工程により接合基板が得られる。接合基板に対しては、圧電基板3の主面上に、図3に示すように櫛形電極10をパターン形成する。櫛形電極10の形成方法は特に限定されず、適宜の方法を用いることができる。また、櫛形電極10の形状も適宜の形状を採択することができる。上記工程により弾性表面波素子1が得られる。弾性表面波は、圧電基板3で設定された伝搬方向に沿ったものとなる。
弾性表面波素子1は、図6に示すようにパッケージング31内に設置して図示しない電極に接続し、蓋32で封止して弾性表面波デバイス30として提供することができる。
【実施例1】
【0046】
以下に、本発明の実施例について説明する。
上記実施形態に基づいて接合基板が得られ、圧電基板の主面上にはLLSAWのSAW共振器を設けた。
この例では、圧電基板として面方位がXカット31°Y伝搬タンタル酸リチウム(LT)およびXカット36°Y伝搬ニオブ酸リチウム(LN)を用いた。また、水晶基板は水熱合成法で、結晶育成されたものについて厚み250μm、Xカット32°Y伝搬またはXカット35°Y伝搬のものを用いた。また、比較例では、ATカット45°X伝搬の水晶基板を用いた。
【0047】
接合したサンプルについて研磨にて圧電基板側を薄くした。水晶基板と圧電基板とを接合した後に、圧電基板を薄くした供試材について、LLSAWの位相速度と電気機械結合係数、周波数温度特性について理論解析により計算した。なお、計算に際しては、日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会・編「弾性波デバイス技術」に記載されているKushibikiらの水晶定数(p.83)、Kushibikiらのニオブ酸リチウム(以下LNとする)定数、タンタル酸リチウム(以下LTとする)定数(p.377)を用いた。
伝搬減衰をもつLLSAWの解析は、Yamanouchiらの方法に基づき、層構造に対する解析はFarnellとAdlerの方法を用いた。これらの解析では、弾性波動方程式と電荷保存式を境界条件の下で数値的に解くことにより、層構造上を伝搬するLLSAWの位相速度と伝搬減衰を解析している。
自由表面(Free)の位相速度vfと、薄板の表面を電気的に短絡した場合(Metallized)の位相速度vmを求め、K=2×(vf-vm)/vfよりKを求めた。また、伝搬方向の線膨張係数を水晶支持基板のものと仮定し、短絡表面の周波数温度係数(Temperature Coefficient of Frequency
: TCF)を計算した。
【0048】
圧電基板としてXカット31°Y伝搬のLTを想定し、水晶基板として発明例では、Xカット32°Y伝搬のものを想定し、比較例では、ATカット45°X伝搬のものを想定した。
弾性表面波λで規格化した圧電基板の厚さh/λと、位相速度との関係を、理論解析により求め、その結果を図7に示した。発明例の位相速度は、比較例と同等であり、位相速度6000m/秒以上の特性を満たしていた。
【0049】
次に、理論解析によって、Xカット31°Y伝搬LTの圧電基板と、Xカット36°Y伝搬LNの圧電基板を想定し、水晶基板として発明例では、Xカット32°Y伝搬のものを想定し、比較例では、ATカット45°X伝搬のものを想定し、弾性表面波の波長λで規格化した圧電基板のh/λに対する伝搬速度および結合係数Kを求めた。
【0050】
Xカット31°Y伝搬LTの圧電基板と、ATカット45°X伝搬の水晶基板とを想定した比較例である関連技術(以下単に関連技術という)について解析結果を図8に示した。圧電基板の厚さに拘わらず、伝搬減衰が大きいことが示されている。
Xカット31°Y伝搬LTの圧電基板と、Xカット32°Y伝搬の水晶基板とを想定した発明例を図9に示した。
本発明例では、h/λが0.06付近において、伝搬減衰の最小値が0.0005dB/λの値となり、伝搬減衰が非常に抑えられた結果が得られた。また、h/λが0.02~0.11の間において伝搬減衰が良好に抑えられている。また、圧電基板の厚さを、下限で0.04 、上限で0.08とすることにより伝搬減衰量を0.01以下にすることができ、同じく、下限で0.05 、上限で0.07とすることにより伝搬減衰量を0.005以下にすることができ一層望ましい。
本発明の結合係数は、5%であり、関連技術と同等であった。
【0051】
次に、Xカット36°Y伝搬LNの圧電基板と、ATカット45°X伝搬の水晶基板とを想定した関連技術について、解析結果を図10に示した。圧電基板の厚さによって伝搬減衰量に極小値を示すものの、極小値においても伝搬減衰が大きい結果が得られた。
Xカット36°Y伝搬LNの圧電基板と、Xカット35°Y伝搬の水晶基板とを想定した発明例の解析結果を図11に示した。
本発明例では、h/λが0.07付近において、伝搬減衰の最小値が0.0002dB/λの値となり、伝搬減衰が十分に抑えられた結果が得られた。また、h/λが0.02~0.11の間において伝搬減衰が良好に抑えられている。また、圧電基板の厚さを、下限で0.05 、上限で0.09とすることにより伝搬減衰量を0.02dB以下にすることができ、同じく、下限で0.06 、上限で0.08とすることにより伝搬減衰量を0.005dB/λ以下にすることができ一層望ましい。
本発明の結合係数は、5%であり、関連技術と同等であった。
【0052】
次に、本発明例において、水晶基板のカット角度による伝搬減衰の影響を理論解析により求めた。
圧電基板をXカット31°Y伝搬のLTと、32°Y伝搬の水晶基板とを接合した接合基板について、理論解析により、圧電基板の厚さをh/λ(0.05、0.07、0.10)で変え、さらに水素基板のカット角度をX軸に対し60~120°の範囲で変えて伝搬減衰量を求めた。その結果を図12に示した。短絡表面は、電極ありを示している。
伝搬減衰は、圧電基板の厚さに拘わらず、角度90°、すなわちXカットにおいて極小値である0.003dB/λを示した。また、カット角度を90°から変更した場合でも、85°~95°の間では、伝搬減衰量は0.02以下となり、良好な伝搬減衰抑制の効果が得られた。また、カット角度は、下限を88°、上限を92°とすることにより伝搬減衰量を0.004以下にすることができ、一層望ましい。
【0053】
次に、圧電基板をXカット36°Y伝搬のLNを想定して同様に、水晶基板のカット角度による伝搬減衰の影響を理論解析により調べ、その結果を図13に示した。
伝搬減衰は、圧電基板の厚さに拘わらず、角度90°、すなわちXカットにおいて極小値である0.002dB/λを示した。また、カット角度を90°から変更した場合でも、85°~95°の間では、伝搬減衰量は0.02以下となり、良好な伝搬減衰抑制の効果が得られた。また、カット角度は、下限を88°、上限を92°とすることにより伝搬減衰量を0.003以下にすることができ、一層望ましい。
【0054】
次に、本発明例において水晶の伝搬方向に対する伝搬減衰の影響を調査した。
圧電基板としてXカット31°Y伝搬のLTと、Xカット36°Y伝搬のLNを想定し、理論解析によって水晶の伝搬方向を変化させて伝搬減衰量を求めた。
Xカット31°Y伝搬のLTの圧電基板を用いた場合の解析結果を図14に示した。
伝搬減衰量は、水晶の伝搬方向を32°Y方向とした場合に極小値を示している。
水晶基板における伝搬方向は、伝搬方向32°を境にして伝搬方向の角度が変化する両側で伝搬減衰量が大きくなっている。X31Y-LT単体と比べて、その値以下またはその差が小さい範囲では、減衰が小さいといえる。この観点で、伝搬方向は、15°~50°の範囲が望ましい。さらに、その角度は、下限を27°、上限を37°とするのが一層望ましく、X31Y-LT単体以下の減衰量となっている。
【0055】
次に、Xカット36°Y伝搬のLNの圧電基板を想定した場合の解析結果を図15に示した。
伝搬減衰量は、水晶の伝搬方向を35°Y方向とした場合に極小値を示している。
水晶基板における伝搬方向は、35°を境にして角度が変化する0°~65°付近の両側では伝搬減衰量が大きくなっている。X36Y-LN単体と比べて、伝搬方向の角度に拘わらず伝搬減衰量はX36Y-LN単体のものより小さくなっているが、伝搬方向を15°~50°の範囲とすることにより減衰量は大幅に小さくなっている。さらに、その角度は、下限を30°、上限を40°とするのが一層望ましい。
【0056】
次に発明例について、圧電基板としてXカット31°Y伝搬のLTと、Xカット36°Y伝搬のLNを想定し、理論解析によって圧電基板の厚さhを弾性表面波の波長λで規格してTCFを求めた。水晶基板には、Xカット35°Y伝搬のものを用いた。
Xカット31°Y伝搬のLTを想定した場合に、圧電基板の厚さと、TCFとの関係を図16に示した。
本発明例では、Metallizedでは、TCFが-15ppm/℃程度であり、関連技術のXカット31°Y-LT/AT45°X-水晶基板と同等の値を示している。
【0057】
Xカット36°Y伝搬のLNを想定した場合の圧電基板の厚さと、TCFとの関係を図17に示した。
本発明例では、Metallizedでは、TCFが-60~-70ppm/℃程度であり、関連技術のXカット36°-LN/ATカット45°X-水晶基板と同等の値を示している。
【0058】
次に、有限要素法(Finite Element Method:FEM)を用いて、LT/水晶接合構造上に形成したIDT型共振子(λ=8.0μm、交叉幅W=25λ)のLSAWの共振特性を解析した。水晶基板には、ATカット45°X伝搬のものと、Xカット32°Y伝搬のものを想定し、圧電基板の厚さを変えたものを想定した。
解析ソフトウェアとしてFemtet(ムラタソフトウェア株式会社製)を用いた。解析モデルとして、支持基板の板厚を10λとし、1周期分のIDTの両側に周期境界条件(無限周期構造)を、底面に完全整合層をそれぞれ仮定した。
【0059】
Xカット31°Y-LT/AT45°X-水晶基板またはXカット32°Y-水晶基板構造のLSAWの解析例を示す。LT板厚は0.15λ、電極Al膜厚は0.09λである。
図18に、解析結果を示す。水晶基板としてATカットのものを用いた場合に比べて、Xカットのものを用いた場合、アドミタンス比が62dBから117dBに増加し、共振Q値が1000から53400に増加し、比帯域幅が2.3%から3.6%に増加した。
【0060】
図19にパワーフロー角を示す。
FreeとMetallizedの差が最も大きくなる伝搬角は、Xカット31°Y-LT/X32°Y-水晶基板では32°、Xカット36°Y-LN/X35°X-水晶基板では35°であり、本発明の伝搬減衰を低くできる伝搬角と一致し、良好な共振特性を有していることを示す。
【0061】
FEMによるアドミタンス特性の解析(無限周期構造)を以下に示す。
・Xカット31°Y-LT単体
比帯域幅(%) アドミスタンス比(dB) 共振Q 反共振Q
2.1 23.6 43.1 302.8
・Xカット31°Y-LT/AT45X-Q(h/λ=0.1)
比帯域幅(%) アドミスタンス比(dB) 共振Q 反共振Q
0.10 66.1 1057 535.8
・Xカット31°Y-LT/X32Y-Q(h/λ=0.07)
比帯域幅(%) アドミスタンス比(dB) 共振Q 反共振Q
0.07 117 53439 4818
【0062】
以上で説明したように、本願発明は、従来、支持基板として優位であるとされたATカット構造の水晶基板に対し、Xカット構造の水晶基板が支持基板としてより優位であることが確認された。
【0063】
以上、本発明について、上記実施形態および実施例に基づいて説明を行ったが、本発明の範囲は上記説明の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは、上記実施形態および実施例について適宜の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、SAW共振器、SAWフィルタ、高機能圧電センサ、SAWデバイスなどに
利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 弾性表面波素子
1A 弾性表面波素子
2 水晶基板
3 圧電基板
4 接合界面
5 接合基板
6 アモルファス層
10 櫛形電極
20 処理装置
21 真空ポンプ
22 放電装置
30 弾性表面波デバイス
31 パッケージング
32 蓋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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