(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】調湿素子
(51)【国際特許分類】
B01D 53/28 20060101AFI20221107BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20221107BHJP
F24F 3/147 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
B01D53/28
B01J20/22 A
F24F3/147
(21)【出願番号】P 2018064015
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】植田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】桜井 沙織
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-015369(JP,A)
【文献】特表2015-529258(JP,A)
【文献】特表2017-508121(JP,A)
【文献】特開2005-134097(JP,A)
【文献】特開2003-062424(JP,A)
【文献】特開2011-075179(JP,A)
【文献】特開2005-095883(JP,A)
【文献】特表2010-512991(JP,A)
【文献】特表2013-511385(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0084541(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/26-28
B01J 20/22-28、34
C07C 63/26-28
F24F 3/14-153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の平板部材が、当該平板部材同士の間の夫々に第1流体が通流する第1流路又は第2流体が通流する第2流路を形成する状態で積層され、
前記平板部材の積層方向に、前記第1流路と前記第2流路とが設定され、
前記第1流路と前記第2流路との間で前記平板部材を介して熱交換可能に構成され、
前記平板部材が、樹脂、紙、ガラス、金属及び、セラミックスの何れか1つの材料、またはこれらから選ばれる2種以上の材料が組み合わされた複合材料により構成され、
前記第1流路の内面及び前記第2流路の内面の何れか一方に、水分を吸脱着する吸湿材として、クロムを金属とする多孔性有機金属錯体MIL-101(Cr)がアクリル系高分子材料及びウレタン系高分子材料により保持される除湿用流路として構成してあり、
前記吸湿材、前記アクリル系高分子材料及び前記ウレタン系高分子材料から成る固形分全体を100質量%として、前記吸湿材を58質量%~80質量%とし、前記ウレタン系高分子材料を1質量%~2質量%とし、残部を前記アクリル系高分子材料としてある調湿素子。
【請求項2】
前記第1流路が前記除湿用流路として、前記第2流路が、前記第1流路の温度を調整する温度調整用流路として構成され、
前記第2流路の流れ方向が、前記第1流路の流れ方向に対して、対向方向又は直交方向とされる請求項1記載の調湿素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の平板部材が、当該平板部材同士の間の夫々に第1流体が通流する第1流路又は第2流体が通流する第2流路を形成する状態で積層され、
前記平板部材の積層方向に、前記第1流路と前記第2流路とが設定され、
前記第1流路と前記第2流路との間で前記平板部材を介して熱交換可能に構成され、
前記第1流路の内面及び前記第2流路の内面の何れか一方に、水分を吸脱着する吸湿材が保持される除湿用流路として構成してある調湿素子に関するとともに、この調湿素子の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者等は、特許文献1においてこの種の調湿素子を提案するとともに、例えば、特許文献2、3において、これら調湿素子を使用する技術を提案している。
【0003】
この種の空調システムの一機能には除湿があり、特許文献1に記載の調湿素子では、吸湿材が配置された流路が除湿用流路とされる。一方、吸湿材を配置しない流路は、除湿用流路の温度を調整する温度調整用流路として使用される。
【0004】
簡単に、これら流路の除湿再生動作時の動作を説明すると、除湿動作時には、除湿対象流体を除湿用流路に流し、対とされる温度調整用流路に除湿用流路(引いては吸湿材)を冷却するための冷却用流体を流す。この動作形態で、比較的高湿状態にある除湿対象流体から吸湿材が吸湿して、除湿を行うことができる。一方、再生動作時には、除湿用流路に備えられる吸湿材は吸湿状態にあるため、この除湿用流路に、比較的高温・低湿度の再生用流体を流すことで、吸湿材から水分を放出させて、吸湿材を再生することができる。従って、この種の調湿素子は、その動作において、除湿再生動作を所定の時間間隔で繰り返す。
【0005】
除湿用流路に備えられる吸湿材としては、従来、シリカゲル、ゼオライト、塩化カルシウム、高分子収着材等が使用されてきた。特許文献2において、発明者らはシリカゲルを吸湿材として使用する場合の吸水材料組成物および吸水性シートの製造方法を提案した。一方、特許文献3は、新たな構成の空調システムを提案するものであるが、この空調システムでは、吸湿材としてポリアクリル酸ナトリウム系吸湿材を使用する例について説明している(段落〔0039〕)。
【0006】
近年、多孔性有機金属錯体MOF(Metal Organic Framework)が高い吸着容量を持つ材料として注目を集めている。中でも、クロムを金属とする多孔性有機金属錯体(以下:MIL-101(Cr),MIL-101と記載する)は、高い吸着容量と、高い水劣化耐性を有する材料である(非特許文献1)。
【0007】
図12に、MIL-101(Cr)と高分子収着剤(具体的にはポリアクリル酸ナトリウムで、同図には単に「収着剤」と記載している)の水蒸気吸着量を示した。同図の横軸は相対湿度である。
MIL-101(Cr)は、相対湿度60%RHで試料乾燥重量当たり水蒸気吸着量が1.0g/gを越える高い吸湿能を持つ材料であり、その水蒸気吸着等温線は特徴的なS字状を示し、40%RH付近までは低い水蒸気吸着量(0.2g/g程度)であるものの、40%RH以上60%RH以下の範囲で急激に水蒸気吸着量を増加させ、1.0g/g以上へ達する。一方、ポリアクリル酸ナトリウムは広い範囲で緩やかな右肩上がりの曲線を描く特徴を有し、水蒸気吸着量もそう高くない。
【0008】
同図において、太破線で、これら材料を吸湿材として働かせる場合の温度、相対湿度を示した。例えば処理空気(除湿対象の空気)30℃、60%RH、再生空気(吸着した水蒸気を再生させるための空気)50℃、20%RH〔30℃、60%RHの空気を50℃まで加温するケースを想定〕で働かせる場合に対応する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-15369号公報
【文献】特開2013-193043号公報
【文献】特開2017-150755号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】T.Zhao,S.K.Henninger et al.,Dalton Trans.,2015,44,16791
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、クロムを金属とする多孔性有機金属錯体MIL-101(Cr)を、吸湿材として使用し、除湿再生動作を行う空調システムに適応する試みは何らなされていない。この場合、除湿再生動作において、どのような切替時間でこれを実行するのが好ましく、さらには、好適な切替時間に対応して、調湿素子のディメンジョン(具体的には、素子の空気が流入または流出する面の高さに相当する距離(以下、「素子高さ」と呼ぶ)、流路の流路長(以下、「素子奥行」と呼ぶ))を、どのように設定すべきかは不明であった。
【0012】
本発明の主たる課題は、除湿再生動作を伴って使用される調湿素子として、その調湿能力を高く維持できる調湿素子を得るとともに、その使用方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1特徴構成は、
複数の平板部材が、当該平板部材同士の間の夫々に第1流体が通流する第1流路又は第2流体が通流する第2流路を形成する状態で積層され、
前記平板部材の積層方向に、前記第1流路と前記第2流路とが設定され、
前記第1流路と前記第2流路との間で前記平板部材を介して熱交換可能に構成され、
前記平板部材が、樹脂、紙、ガラス、金属及び、セラミックスの何れか1つの材料、またはこれらから選ばれる2種以上の材料が組み合わされた複合材料により構成され、
前記第1流路の内面及び前記第2流路の内面の何れか一方に、水分を吸脱着する吸湿材として、クロムを金属とする多孔性有機金属錯体MIL-101(Cr)がアクリル系高分子材料及びウレタン系高分子材料により保持される除湿用流路として構成してあり、
前記吸湿材、前記アクリル系高分子材料及び前記ウレタン系高分子材料から成る固形分全体を100質量%として、前記吸湿材を58質量%~80質量%とし、前記ウレタン系高分子材料を1質量%~2質量%とし、残部を前記アクリル系高分子材料としてある点にある。
【0014】
本特徴構成によれば、吸湿材としてクロムを金属とする多孔性有機金属錯体MIL-101(Cr)を第1流路もしくは第2流路に保持させることで、この吸湿材を流路を構成する材料の表面に保持して、その吸湿能を発揮させることができる。
即ち、この吸湿材を内部に保持した流路に除湿対象流体である例えば高湿の空気を流して除湿を行いながら、除湿の完了後に高温の空気を流して吸湿材の再生を行うことができる。ここで、平板部材への吸湿材の保持にはバインダーとしてアクリル系高分子材料を使用し、増粘剤としてウレタン系高分子材料を使用する。この場合に固形分全体を100質量%として、前記吸湿材を58質量%~80質量%とし、前記ウレタン系高分子材料を1質量%~2質量%とし、残部を前記アクリル系高分子材料とすることで保持可能となる。
【0016】
後に、本発明に関して、発明者等が行った検討の結果を説明するが、MIL-101を吸湿材とすると、ポリアクリル酸ナトリウムを吸湿材とする場合に対して、除湿再生切替動作における切替時間を長くしても(例えば、60秒から120秒の時間としても)、前者の場合はその除湿量がほとんど低下しない。一方、後者の場合は大きく低下する(
図4、
図9参照)。
【0017】
この種の切替には、調湿素子の上流側もしくは下流側、或いはそれらの両方に備えられる流路切替機構(ダンパー)による流路の切替操作が必要となるが、この種の流路切替機構の動作及びその寿命を考慮すると、切替時間が長く採れることが好ましい。
このような観点から、吸湿材の選択を考えた場合、MIL-101を吸湿材とする場合は、切替時間の増加に伴って減少する除湿量の変化特性について、その除湿量が当該極大値と極大値から除湿量が10%低下した下限除湿量より高い切替時間を選択可能であるが、ポリアクリル酸ナトリウムを吸湿材とする場合、このような切替時間範囲は極端に制限され、事実上、実用的とはならない。
【0019】
上記のように、本発明に係る調湿素子は、比較的長く切替時間を採ってもその除湿量が大きく低下することはないが、このような使用形態にあって、その素子高さと除湿量との関係は、MIL-101を吸湿材とする場合はポリアクリル酸ナトリウムを吸湿材とする場合に比較して、6~8割程度、素子高さを小さくできるとともに、このように素子高さを選択しても、前記素子高さの増加に伴って増加して飽和する除湿量の変化特性について、前記除湿量の極大値に対して、当該極大値と極大値から除湿量が10%低下した下限除湿量との間に収めることができる(
図5、
図10参照)。よって、調湿素子の高さを低くした形態で、所望の除湿能を維持できる。
【0021】
上記のように、本発明に係る調湿素子は、比較的長く切替時間を採ってもその除湿量が大きく低下することはないが、このような使用形態にあって、その素子奥行と除湿量との関係は、MIL-101を吸湿材とする場合はポリアクリル酸ナトリウムを吸湿材とする場合に比較して、素子奥行が短い範囲で、その除湿能を維持できる。
そこで、素子奥行の増加に伴って増加して飽和する除湿量の変化特性について、
前記除湿量の極大値に対して、当該極大値と極大値から除湿量が10%低下した下限除湿量との間に収める(
図6、
図11参照)。よって、調湿素子の奥行を低下した状態で、所望の除湿能を維持できる。
【0022】
本発明の第2特徴構成は、
前記第1流路が前記除湿用流路として、前記第2流路が、前記第1流路の温度を調整する温度調整用流路として構成され、
前記第2流路の流れ方向が、前記第1流路の流れ方向に対して、対向方向又は直交方向とされる点にある。
【0023】
本特徴構成により、除湿用流路を流れる流体である除湿対象流体及び吸湿材としてのMIL-101の温度を、良好な吸湿能を発揮できる温度に調整して、その能力を十分発揮させることができる。
また、流れ方向を対向方向或いは直交方向とすることにより、比較的簡単な形状で調湿素子を構築でき、さらに両流路間で必要となる熱交換を良好に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3】第1実施形態に係る調湿素子の除湿再生切替動作の説明図
【
図4】第1実施形態に係る調湿素子の切替時間と除湿量の関係を示す図
【
図5】第1実施形態に係る調湿素子の素子高さと除湿量の関係を示す図
【
図6】第1実施形態に係る調湿素子の素子奥行と除湿量の関係を示す図
【
図8】第2実施形態に係る調湿素子の除湿再生切替動作の説明図
【
図9】第2実施形態に係る調湿素子の切替時間と除湿量の関係を示す図
【
図10】第2実施形態に係る調湿素子の素子高さと除湿量の関係を示す図
【
図11】第2実施形態に係る調湿素子の素子奥行と除湿量の関係を示す図
【
図12】MIL-101(Cr)と高分子収着剤の水蒸気吸着量を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る調湿素子Eの実施形態を図面に基づいて説明する。
実施形態として、第1実施形態及び第2実施形態について説明するが、両者間の差は、調湿素子Eを成す第1流路20aと第2流路20bとの形成方向の差である。第1実施形態では
図1からも判明するように流路20の形成方向関係は並行とされ、第2実施形態では
図6からも判明するように直交とされている。そこで、以下の説明では、第1実施形態を主に、調湿素子Eの構造について主に説明する。
【0026】
第1実施形態
図1及び
図2に示すように、調湿素子Eは、複数の平板部材1が、平板部材1同士の間に流体が通流する流路20を形成する状態で積層されている。
積層された複数の平板部材1は、流体の通流方向に長く形成された概略方形の平板材とされ、隣接する一対の平板部材1の間に、流体の通流方向(
図1に示すDL方向)に長い流路20を形成する。また、積層方向(
図1に示すDH方向)において隣接する一対の平板部材1の外周縁部同士を接続する側壁板2が設けられ、上下面が平板部材1により構成され、側面が側壁板2により構成された複数の流路20が形成されている。
これまでの説明で、「素子奥行」としたのは、この流路20のDL方向での流路長Lであり、「素子高さ」としたのは、素子の空気が流入または流出する面のDH方向の素子高さHである。
【0027】
つまり、調湿素子Eは、複数の平板部材1が、平板部材1同士の間の夫々に第1流体が通流する第1流路20a又は第2流体が通流する第2流路20bを形成する状態で積層され、平板部材1の積層方向DHにおいて、第1流路20aと第2流路20bが交互に配設されており、第1流路20aと第2流路20bとの間で平板部材1を介して熱交換可能に構成されている。
【0028】
各流路20の形状維持であるが、平板部材1間には波板部材5をそれぞれ配置している。即ち、第1流路20aには第1波板部材5aが、第2流路20bには第2波板部材5bが配設されている。
これら第1波板部材5a及び第2波板部材5bを形成している波形の山の頂点部分及び波形の谷の底部分は、上下2枚の平板部材1のそれぞれに対して接触している或いは接着されている。つまり、第1波板部材5a及び第2波板部材5bは上下2枚の平板部材1の間の間隔を一定に保つためのスペーサとして機能し、第1流路20a及び第2流路20bの変形等を防止する。また、第1波板部材5a及び第2波板部材5bを介して、第1流路20a及び第2流路20bの内部で熱を伝達する。
【0029】
この調湿素子Eを除湿に使用するときは、その除湿動作において、
図3(a)に示すように、第1流体(後述する処理空気TA)と第2流体(冷却空気CA)とが平板部材1を介して対向流を成す状態で流通され、第1流路20aと第2流路20bとの間で熱交換する。その再生動作においては、
図3(b)に示すように、第1流体(後述する再生空気RA)のみが流される。
【0030】
図2に示すように、複数の平板部材1の第1流路20aに面する第1面1aには、第1流路20aを通流する第1流体に含まれる水分を吸脱着する吸湿材6が保持されている。さらに、第1流路20aに設けられた第1波板部材5aの表面、つまり、第1波板部材5aの上面側及び下面側にも吸湿材6が保持されている。この構成を採用することで、波板状の第1波板部材5aの表面積が大きいので、第1波板部材5aの表面が保持可能な吸湿材6の量を増加させることができる。
【0031】
一方、複数の平板部材1の第2流路20bに面する第2面1bには、吸湿材6が保持されていない。この第2流路20bには、第2波板部材5bが設けられているが、この第2波板部材5bの上面側及び下面側に関しても吸湿材6は保持されていない。結果、この第2波板部材5bは調湿素子Eにおいて、その形状保持と伝熱の機能を果たす。
【0032】
本発明において、吸湿材6として、Crを金属とする多孔性有機金属錯体MIL-101(Cr)を使用する。使用に際しては、例えば、MIL-101(Cr)を、バインダーとして働くアクリル系高分子材料であるポリアクリル系ポリマーとを混合した混合液を、第1流路20aの内面(これで説明した第1流路20aの第1面1a及び第1波板部材 5aの表面)に塗布するとともに、乾燥処理して、第1流路20aの内面に保持する。ここで、塗布の対象とする混合液には、わずかに増粘剤としてウレタン系高分子材料を含ませておく。
吸湿材6としてのMIL-101(Cr)、バインダーとしてのアクリル系高分子材料、増粘剤としてのウレタン系高分子材料の割合は、これら固形分全体を100質量%として、MIL-101(Cr)を58質量%~80質量%とし、ウレタン系高分子材料を1質量%~2質量%とし、残部をアクリル系高分子材料とすることができる。
【0033】
平板部材1及び波板部材5及び側壁板2は、極性が上記バインダー又は吸湿材6に近く、耐熱性を有する樹脂材料であることが好ましい。吸湿材6を平板部材1及び波板部材5(第1波板部材5a)に対してバインダーを用いて保持させる場合に、それら三者の接着性が良好になるからである。例えば、そのような材料として、ポリエチレンテレフタレー ト(PET)が最も好ましいことを、発明者等は見出した。
ただし、この使用例はあくまでも、吸湿材6として、Crを金属とする多孔性有機金属錯体MIL-101(Cr)を使用する場合の一例に過ぎず、上記のようにバインダーを使用し、MIL-101(Cr)を、調湿素子Eの所定箇所に保持してもよい。一方、平板部材1の構成材料としては、樹脂、金属、紙、ガラス、及びセラミックスを採用できる。
【0034】
以上が、本発明に係る調湿素子の概略構造の説明であるが、
図3を参考にして、本発明に係る調湿素子を使用して除湿動作、再生動作を行う場合の切替動作に関して説明する。
本明細書では、除湿の対象とする流体(例えば、高湿の処理空気TA)を「除湿用流体」と呼び、この流体が流れる流路を「除湿用流路」と呼ぶ。除湿用流路は、吸湿材6が保持されている側の流路(第1流路20a)となる。この除湿用流路(具体的には、この流路を流れる除湿対象流体及びその流体から吸湿する吸湿材6)を冷却する流体(例えば、比較的低温の冷却空気CA)を「冷却用流体」と呼び、この流体が流れる流路を「温度調整用流路」と呼ぶ。この流路は第2流路20bであり、温度調整は具体的には冷却となる。
さらに、再生動作において、除湿用流路20aを流れる流体であって、吸湿状態にある吸湿材6から水分を放出させ、吸湿材6を再生(吸湿可能な状態の再生)する流体を「再生用流体」と呼ぶ。再生用流体(例えば、比較的高温の再生空気RA)は、その機能上、当然に除湿用流路20aを、除湿動作時とは異なったタイミングで流通される。
【0035】
図3(a)に、除湿動作時の各流路に流す流体を示した。流体が空気である場合、この除湿動作時には、除湿用流路(第1流路20a)に除湿対象流体である処理空気TAを、温度調整用流路(第2流路20b)に冷却用流体である冷却空気CAを流す。図示する例では、両流体の流れ方向の関係は対向流としている。このようにして、除湿対象流体から吸湿材6が湿度を吸湿する。
【0036】
図3(b)に、再生動作時の各流路に流す流体を示した。この動作は、上記の除湿動作を終えた後、行う動作である。流体が空気である場合、この再生動作時には、除湿用流路(第1流路20a)に再生用流体である再生空気RAを流す。温度調整用流路(第2流路20b)に関しては特に何もしない。このようにして、吸湿材6から水分を再生流体側に放出させて、吸湿材6は吸湿可能な状態に再生される。
本発明に係る調湿素子Eは、除湿動作、再生動作を所定の時間間隔で切替る(
図3には「t秒おきに切替」と記載)。
【0037】
第2実施形態
この実施形態の調湿素子Eの全体構成を
図7に、その除湿再生切替動作を
図8に示した。第1実施形態の
図1及び
図3に対応させたものである。
図7からも判明するように、第1流路20aと第2流路20bの形成方向は直交とされている。従って、側壁2は、第1流路20aに対する側壁板2aと、第2流路20bに対する側壁2bと個別に形成される。除湿再生切替動作を実行する場合の流体及び流路の選択切替は、この第2実施形態でも同様である。
【0038】
図8(a)に、除湿動作時の各流路に流す流体を示した。流体が空気である場合、この除湿動作時には、除湿用流路(第1流路20a)に除湿対象流体である処理空気TAを、温度調整用流路(第2流路20b)に冷却用流体である冷却空気CAを流す。図示する例では、両流体の流れ方向の関係は対向流としている。このようにして、除湿対象流体から吸湿材6が湿度を吸湿する。
【0039】
図8(b)に、再生動作時の各流路に流す流体を示した。この動作は、上記の除湿動作を終えた後、行う動作である。流体が空気である場合、この再生動作時には、除湿用流路(第1流路20a)に再生用流体である再生空気RAを流す。温度調整用流路(この例では、第2流路20b)に関しては特に何もしない。このようにして、吸湿材6から水分を再生流体側に放出させて、吸湿材6は吸湿可能な状態に再生される。
除湿動作、再生動作を所定の時間間隔で繰り返す(
図8には「t秒おきに切替」と記載)。
【0040】
これまで説明してきたように、この調湿素子Eは、その動作形態として、除湿動作とその後の再生動作とを伴った除湿再生切替を、その基本とする。
従って、本発明の調湿素子Eの構造及びその使用方法を検討する場合、この切替動作をどのような時間間隔で行うかが必要となる。
【0041】
検討に際しては、以下の条件の下、吸湿材6として、本発明で採用するクロムを金属とする多孔性有機金属錯体MIL-101と高分子収着剤(ポリアクリル酸ナトリウム)を比較検討した。
【0042】
<検討手法>
検討は、下記試算共通条件の下、各吸湿材6の物性を下記表1に示すものとして数値計算によった。この数値計算においては、調湿素子E全体を一方向20分割以上のメッシュに切り分け、各メッシュ(処理空気TA/再生空気RAが通流する除湿用流路20a、冷却空気CAが通流する温度調整用流路20b、およびそれを区分する波板部材5〔波板部材5の処理空気TA/再生空気RA側には吸湿材6を所定量担持〕で構成される)毎の水蒸気移動および熱移動の計算をメッシュ間の統合を図りながら行うことで、調湿素子E全体で得られる除湿量を計算した。ただしこの数値計算では、簡単のため、波板部材5の無い状態を仮定して計算を行った。即ち、吸湿材が保持されるのは、第1面1aのみとなり、また、伝熱に寄与するのは平板部材1のみとなる。
【0043】
<試算共通条件>
以下の条件記載において、「基本」は特に記載のない限り、この条件に従ったことを意味する。
調湿素子基本寸法 :幅W×奥行L×高さH=200×200×200mm
積層ピッチ :2.5mm
吸湿材塗布厚み :0.020mm
波板部材厚さ :0.050mm
波板部材密度 :2.688g/cm3
波板部材比熱 :0.905kJ/(kg・K)
波板部材熱伝導率 :237W/(m・K)
基本処理空気風量 :40m3/h
基本冷却空気風量 :80m3/h
基本再生空気風量 :40m3/h
処理空気温湿度 :30℃、16.0 g/kg (60% RH)
冷却空気温度 :30℃
再生空気温湿度 :50℃、10.5 g/kg
(夏季屋内空気27℃、47% RHの加温を想定)
空気プラントル数 :0.71
空気動粘性係数 :1.58×10-5m2/s
空気拡散係数 :2.19×10-5m2/s
【0044】
<吸湿材条件>
検討対象とした吸湿材6である、クロムを金属とする多孔性有機金属錯体MIL-101及び高分子収着剤であるポリアクリル酸ナトリウムの物性は、以下の表1に示す数値とし、数値計算用の水蒸気吸着等温線には、
図12に示した水蒸気吸着等温線のX軸、Y軸を逆転することによって得られるグラフを5次式でフィッティングして使用した。
【0045】
【0046】
検討結果
第1実施形態の検討結果を、
図4、
図5、
図6に示し、対応する第2実施形態の検討結果を
図9、
図10、
図11に示した。これらの図面及び
図12で、調湿素子Eに備える吸湿材6は、Crを金属とする多孔性有機金属錯体MIL-101(Cr)を「MIL-101」と、高分子収着剤(ポリアクリル酸ナトリウム)を単に「収着剤」と記載している。
【0047】
第1実施形態
図1に示す調湿素子Eにおいて、
図3に示すように、処理空気TAと冷却空気CAとを対向流として流通させ除湿動作を行った後、再生空気RAにより再生動作を行うケースの結果である。
【0048】
切替時間
図4に、切替時間と除湿量の関係を示した。いずれの吸湿材6も切替時間が短いほど除湿量が大きく、常にMIL-101のほうが大きい。MIL-101では、切替時間が長くても除湿量が落ちにくいのに比べ、高分子収着剤では、急速に低下する。冷却効果により、MIL-101が有効にはたらく湿度となっている領域が増えているためと推察できる。さらに、このような傾向から、従来提案されてきた高分子収着剤では、切替時間を短く採る必要があり、例えば120秒といった切替時間の選択をした場合、十分能力を発揮できないことが判る。
【0049】
素子高さ
図5に、切替時間を60~300秒とした場合の素子高さと除湿量の関係を示した。
各切替時間毎に見てみると、検討対象とした吸湿材6間で同じ除湿量を得る場合、MIL-101を採用することにより6~8割程度、素子高さを小さくできることが分かる。このように小型化の効果が大きいのは、冷却空気CAの存在により処理空気TAの温度が低く保たれ、MIL-101が有効にはたらく湿度となっている領域が相対的に増えているためと発明者は考察している。
【0050】
図6に、切替時間を120秒とした場合の素子奥行Lと除湿量の関係を示した。素子奥行L=200mm以下の領域では、検討対象とした吸湿材6間で同じ除湿量を得る場合、MIL-101を採用することにより7~8割程度の小型化が可能である。なお、素子奥行Lが大きいところで除湿量が減少するのは、奥行方向上流では除湿され、下流でやや加湿されてしまっていることが影響していると考えられる。素子奥行を必要以上に長くすることは好ましくない。ただし、この場合も、MIL-101のほうが低下の度合いは低い。
【0051】
第2実施形態
図7に示す調湿素子Eにおいて、
図8に示すように、処理空気TAと冷却空気CAとを直交流として流通させ除湿動作を行った後、再生空気RAにより再生動作を行うケースの結果である。
【0052】
切替時間
図9に、切替時間と除湿量の関係を示した。いずれの吸湿材も切替時間が短いほど除湿量が大きく、常にMIL-101のほうが大きい。MIL-101では、切替時間が長くても除湿量が落ちにくい。冷却効果により、MIL-101が有効にはたらく湿度となっている領域が増えているためと推察できる。
【0053】
素子高さ
図10に、切替時間を60~300秒とした場合の素子高さと除湿量の関係を示した。
各切替時間毎に見てみると、検討対象とした吸湿材間で同じ除湿量を得る場合、MIL-101を採用することにより6~8割程度、素子高さを小さくできることが分かる。このように小型化の効果が大きいのは、冷却空気CAの存在により処理空気TAの温度が低く保たれるため、MIL-101が有効にはたらく湿度となっている領域が相対的に増えていると発明者は考察している。
第1実施形態との比較では、全体的に大きな除湿量を得られた。
【0054】
図11に、切替時間を60秒とした場合の素子奥行Lと除湿量の関係を示した。素子奥行L=200mm以下の領域では、検討対象とした吸湿材間で同じ除湿量を得る場合、MIL-101を採用することにより2~6割程度の小型化が可能である。なお、素子奥行Lが大きいところで除湿量の減少の度合いは、第1実施形態の場合と比較して小さい。
【0055】
切替時間に関して、切替時間の増加に伴って減少する除湿量の変化特性について、除湿量の極大値に対して、当該極大値と極大値から除湿量が10%低下した下限除湿量との間となる切替時間に、当該切替時間を設定して高い除湿能を確保できる。
【0056】
素子高さに関して、この素子高さの増加に伴って増加して飽和する除湿量の変化特性について、除湿量の極大値に対して、当該極大値と極大値から除湿量が10%低下した下限除湿量との間となる前記素子高さに、前記除湿用流路の素子高さを設定して高い除湿能を確保できる。
【0057】
また、素子奥行に関して、この素子奥行である流路奥行の増加に伴って増加して飽和する除湿量の変化特性について、除湿量の極大値に対して、当該極大値と極大値から除湿量が10%低下した下限除湿量との間となる流路奥行に、除湿用流路の奥行が設定して高い除湿能を確保できる。
【0058】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、平板部材1の構成材料としては、簡単に、樹脂、金属、紙、ガラス、及びセラミックスを挙げて説明したが、樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンナフタレート、アクリルを採用できる。一方、金属としては、アルミニウム、銅も好ましい。
さらに、これら材料を単独で使用するのではなく、これらから選ばれる2種以上の材料が組み合わされた複合材料としてもよい。この場合、異なった材料(例えば樹脂と金属)の層を重ねて、吸湿材の保持を樹脂側で行い、伝熱性能を金属側で確保するようにもできる。
【0059】
(2)上記の実施形態では、調湿素子が、その上面視で方形に形成されている実施形態を示したが、例えば空調システムの構成等の理由から外形形状は任意である。
さらに、流体の流入、流出箇所の構造、方向は任意に選択できる。
【0060】
(3)上記の実施形態では、第2流路が調湿素子の外壁に沿って設けられている例を示したが、外壁に沿って第1流路が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 平板部材
1a 第1面
1b 第2面
5 波板部材
6 吸湿材
20 流体流路
20a 第1流路(除湿用流路)
20b 第2流路(温度調整用流路)
E 調湿素子
CA 冷却空気(温度調整用流体)
RA 再生空気(再生用流体)
TA 処理空気(除湿対象流体)