(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】微多孔膜の製造方法およびそれを用いた微多孔膜
(51)【国際特許分類】
B29C 67/20 20060101AFI20221107BHJP
B29C 48/23 20190101ALI20221107BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20221107BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20221107BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20221107BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20221107BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20221107BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20221107BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20221107BHJP
【FI】
B29C67/20 B
B29C48/23
B32B5/18
B32B7/06
B32B27/30 D
B32B27/32 C
B32B27/32 D
B32B27/36
C08J9/00 A CES
H01M50/409
(21)【出願番号】P 2018094964
(22)【出願日】2018-05-16
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】榊原 譲
(72)【発明者】
【氏名】張 シュン
(72)【発明者】
【氏名】柳田 誠
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真生
(72)【発明者】
【氏名】森 奨平
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-149912(JP,A)
【文献】特開2017-141428(JP,A)
【文献】特開2007-160691(JP,A)
【文献】特開2011-051330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00-44/60、48/00-48/96、
67/20
C08J 9/00-9/42
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
樹脂A及び樹脂Bを共押出しし、樹脂A層及び前記樹脂A層と剥離可能な樹脂B層が積層された原反を得る押出工程と、
前記押出工程の後に、前記樹脂A層と前記樹脂B層を剥離する剥離工程と、
前記押出工程の後に、前記樹脂A層を延伸して開孔し、微多孔膜を形成する延伸工程と
を含
み、
前記樹脂A層が、ポリオレフィンを含み、
前記樹脂B層が、250℃以下で押出可能なポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の何れか又は2種以上から成り、かつ
前記樹脂A層と前記樹脂B層の界面での剥離強度が、0.05g/25mm幅以上1000g/25mm幅以下である、
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項2】
前記剥離工程の後に、前記延伸工程を行う、請求項1に記載の乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項3】
前記押出工程において、前記原反が、前記樹脂A層/前記樹脂B層/前記樹脂A層の順に積層された少なくとも3層で形成される、請求項1
又は2に記載の
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂A層が、ポリオレフィン系樹脂を90質量%以上100質量%以下含む、請求項1~
3の何れか1項に記載の
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂B層が、非ポリオレフィン系樹脂を60質量%以上100質量%以下含む、請求項
4に記載の
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂Aと前記樹脂Bが、非相溶性である、請求項1~
5の何れか1項に記載の
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂Aと前記樹脂Bが、異なる樹脂であり、かつ共押出可能
及び/又は共延伸可能な樹脂であ
って、
前記樹脂Bが、エンプラ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、エチレンとビニルアルコールの共重合体、C2~C12のα-オレフィンと一酸化炭素の共重合体及びその水添物、スチレン系重合体の水添物、スチレンとα-オレフィンとの共重合体及びその水添物、スチレンと脂肪族モノ不飽和脂肪酸との共重合体、アクリル酸及び/又はその誘導体の重合体、スチレンと共役ジエン系不飽和単量体との共重合体及びこれらの水添物から選択される熱可塑性樹脂、ポリケトン、ポリブテン-1、並びにポリメチルペンテン-1の何れか1種以上を含む、請求項1~
6の何れか1項に記載の
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂Aと前記樹脂Bが、異なる樹脂であり、かつ
共押出可能及び/又は共延伸可能な樹脂であ
って、
前記樹脂Bが、低結晶性又は非晶性の樹脂である、請求項1~
7の何れか1項に記載の
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂B層が、非結晶樹脂から成る、請求項1~
8の何れか1項に記載の
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂B層が、ポリエステル系樹脂を含む、請求項1~
9の何れか1項に記載の
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項11】
前記延伸工程前に、少なくとも1層の前記樹脂A層の厚み及び/又は少なくとも1層の前記樹脂B層の厚みが、1μm以上10μm以下である、請求項1~
10の何れか1項に記載の
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項12】
前記剥離工程後に、前記樹脂B層が再利用される、請求項1~
11の何れか1項に記載の
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項13】
前記微多孔膜が、リチウムイオン2次電池のためのセパレータとして使用される、請求項1~
12の何れか1項に記載の
乾式法の微多孔膜の製造方法。
【請求項14】
延伸して開孔し、微多孔膜を形成する、乾式法の微多孔膜の製造に用いる樹脂原反であって、前記樹脂原反は、互いに異なる樹脂Aと樹脂Bを含
み、樹脂A層と、前記樹脂A層と剥離可能な樹脂B層とが共押出され
、前記樹脂A層が、ポリオレフィンを含み、前記樹脂B層が、250℃以下で押出可能なポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の何れか又は2種以上から成り、前記樹脂A層と前記樹脂B層の界面での剥離強度が、0.05g/25mm幅以上1000g/25mm幅以下である、樹脂原反。
【請求項15】
前記樹脂原反の厚みが、5μm以上30μm以下である、請求項
14に記載の樹脂原反。
【請求項16】
リチウムイオン二次電池のためのセパレータの製造における請求項
14又は
15に記載の樹脂原反の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔膜の製造方法及び微多孔膜に関し、特に、リチウムイオン2次電池のセパレータとして好適に利用できる薄膜のポリオレフィン系樹脂から成る微多孔膜の製造方法、及びそれを用いた微多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン2次電池は、スマートフォン又は携帯用モバイル機器等に普及しており、またハイブリッドカー、電気自動車などの車載用途等においても市場が急激に拡大しており、そこに使用されるセパレータの需要も拡大している。そのセパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミドの微多孔膜、又はそれらに無機フィラー含有塗工液を塗布したもの等が、多く使用されている。セパレータの原料樹脂としては、成型品物性、成型加工性、耐候性等のバランスが良いポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが、良好に使用されている。
【0003】
ポリオレフィン系のセパレータの製造方法としては、大きく2つが挙げられる。
一つは特許文献1等に示されるものであり、湿式法又は相分離法と呼ばれる方法であり、ポリエチレン樹脂等にパラフィン等の可塑剤を押出機内で適切に混合し、Tダイ等で押し出した後、キャスト装置等で冷却する際に、樹脂と可塑剤を相分離させ、その後、可塑剤をその溶媒で抽出し、開孔させる方法である。この方法では、可塑剤の抽出工程前後に1軸または2軸の延伸機で配向を掛けたり、薄膜化させたり、孔形状を整えて所望の性状の微多孔膜を得る。また、この方法では、キャスト等で相分離した可塑剤の部分が抽出後に孔となる。さらに、この方法では、同時または遂次の2軸延伸が容易に利用できるため、強度の等方性に優れた微多孔膜が得られ易い。しかし、この方法では、膜が横方向に延伸されているため、横方向の熱収縮率を持つことが課題とされている。
【0004】
もう一つは、特許文献2等に示される延伸開孔法または乾式法等と呼ばれる方法であり、ポリオレフィン樹脂等を、可塑剤を添加せずに押出し、Tダイ等から出た溶融原反をエアナイフ等で急冷しながら、MD(フィルムの流れ方向、縦方向)にドローダウン比(冷却固化後のフィルムの断面積をダイスの出口の断面積で除した値)が数十~数百である条件下で引張ながら、キャストロール装置等で冷却固化させて延伸前原反を得た後、この延伸前原反を延伸機に導き、常温でのMD延伸と高温でのMD延伸を連続的に行い、開孔させる方法である。この方法は、一般にラメラ開孔とも呼ばれており、ドローダウン比を上記の値程度に取ることで、押し出されたポリオレフィンの分子鎖が、結晶化する際に、ポリオレフィンのラメラがTD(流れ方向に対するフィルムの横方向)に並ぶ構造、さらにその後のMD延伸の際に、これらのラメラ間が開裂し、孔を形成することが知られている。乾式膜は、一般にMD延伸のみが処されているため、TDの収縮は発生しない。その為、TDの収縮を忌避する電池では、乾式膜がセパレータとして有効に利用されている。特許文献2では、同種のポリオレフィンを用いて形成された3層構造を有する積層体等が、乾式法に供される。
【0005】
また、特許文献3には、乾式法において共押出により多層セパレータを得る方法が開示されているが、共押出多層セパレータ中の複数の層は一般には互いに剥離し難いように製膜される。
また、特許文献4には湿式法において共押出した多層原反から多層の延伸体を作製し、その後、剥離して微多孔膜を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-036355号公報
【文献】特開平11-123799号公報
【文献】特開2003-297330号公報
【文献】特開2011-51330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
湿式法と乾式法のいずれの方法により得られた微多孔膜も、リチウムイオン電池用セパレータとして利用されている。セパレータ用途の場合は、電池の高容量化(減容化)の観点から微多孔膜が薄膜化する傾向にある。しかし、従来の乾式法により得られるセパレータでは、薄膜化において、重要な問題があった。即ち、乾式法のプロセスでは、MD延伸のみを行い、湿式法に比べて面積倍率又はTD延伸倍率を大きく取り難いため、延伸による薄膜化ができ辛く、その為、セパレータの薄膜化の為には延伸前原反の時点での薄膜化が必要であった。例えば、10μm以下の厚さを有する多層型微多孔膜を得るためには、5μm程度の厚さを有する延伸前原反を得る必要があるが、これは、従来の既存の押出機、ダイス等では溶融膜の横方向の均一性の問題、又は製膜時の破膜の問題があり、生産性良く製造するのが非常に困難であった。
【0008】
上記の事情に鑑みて、本発明は、非常に薄く、横収縮性に優れ、かつ生産性の良い微多孔膜を乾式法により製造する方法およびそれを用いた微多孔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の層構成を有するように複数の樹脂を共押出し、その後に剥離することで薄い微多孔膜を得られることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
以下の工程:
樹脂A及び樹脂Bを共押出しし、樹脂A層及び前記樹脂A層と剥離可能な樹脂B層が積層された原反を得る押出工程と、
前記押出工程の後に、前記樹脂A層と前記樹脂B層を剥離する剥離工程と、
前記押出工程の後に、前記樹脂A層を延伸して開孔し、微多孔膜を形成する延伸工程と
を含む微多孔膜の製造方法。
[2]
前記押出工程において、前記原反が、前記樹脂A層/前記樹脂B層/前記樹脂A層の順に積層された少なくとも3層で形成される、[1]に記載の微多孔膜の製造方法。
[3]
前記樹脂A層と前記樹脂B層の界面での剥離強度が、0.05g/25mm幅以上1000g/25mm幅以下である、[1]又は[2]に記載の微多孔膜の製造方法。
[4]
前記樹脂A層が、ポリオレフィン系樹脂を90質量%以上100質量%以下含む、[1]~[3]の何れか1項に記載の微多孔膜の製造方法。
[5]
前記樹脂B層が、非ポリオレフィン系樹脂を60質量%以上100質量%以下含む、[4]に記載の微多孔膜の製造方法。
[6]
前記樹脂Aと前記樹脂Bが、非相溶性である、[1]~[5]の何れか1項に記載の微多孔膜の製造方法。
[7]
前記樹脂Aと前記樹脂Bが、異なる樹脂であり、かつ共押出可能な樹脂である、[1]~[6]の何れか1項に記載の微多孔膜の製造方法。
[8]
前記樹脂Aと前記樹脂Bが、異なる樹脂であり、かつ共延伸可能な樹脂である、[1]~[7]の何れか1項に記載の微多孔膜の製造方法。
[9]
前記延伸工程の後に、前記剥離工程を行う、[8]に記載の微多孔膜の製造方法。
[10]
前記樹脂B層が、非結晶樹脂から成る、[1]~[9]の何れか1項に記載の微多孔膜の製造方法。
[11]
前記樹脂B層が、ポリエステル系樹脂を含む、[1]~[10]の何れか1項に記載の微多孔膜の製造方法。
[12]
前記樹脂B層が、250℃以下で押出可能なポリエステル系樹脂から成る、[1]~[11]の何れか1項に記載の微多孔膜の製造方法。
[13]
前記延伸工程前に、少なくとも1層の前記樹脂A層の厚み及び/又は少なくとも1層の前記樹脂B層の厚みが、1μm以上10μm以下である、[1]~[12]の何れか1項に記載の微多孔膜の製造方法。
[14]
前記剥離工程後に、前記樹脂B層が再利用される、[1]~[13]の何れか1項に記載の微多孔膜の製造方法。
[15]
前記微多孔膜が、リチウムイオン2次電池のためのセパレータとして使用される、[1]~[14]の何れか1項に記載の微多孔膜の製造方法。
[16]
互いに異なる樹脂Aと樹脂Bを含む樹脂原反であって、樹脂A層と、前記樹脂A層と剥離可能な樹脂B層とが共押出された樹脂原反。
[17]
前記樹脂原反の厚みが、5μm以上30μm以下である、[16]に記載の樹脂原反。
[18]
リチウムイオン二次電池のためのセパレータの製造における[16]又は[17]に記載の樹脂原反の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乾式法により微多孔膜の生産性を向上させることができ、特に、薄膜のリチウムイオン二次電池用セパレータの生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る3層構造を有する延伸前原反の模式断面図であり、
図1(b)は、本発明の別の実施の形態に係る5層構造を有する延伸前原反の模式断面図であり、
図1(c)は、本発明のさらに別の実施の形態に係る5層構造を有する延伸前原反の模式断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る方法のフローを模式的に示す微多孔膜の製造ラインの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書で説明される物性値又は評価値は、特に言及されない限り、実施例に記載される方法に従って測定又は算出されるものである。
また、本明細書では、特定の成分を主成分として含むことは、全成分の総質量を基準として、50質量%を超える割合で含むことをいう。
【0013】
<微多孔膜の製造方法>
本発明の一態様は、微多孔膜の製造方法であり、樹脂A及び樹脂Bを共押出しし、樹脂A層及び樹脂A層と剥離可能な樹脂B層が積層された原反を得る押出工程を含み、押出工程の後に、樹脂A層と樹脂B層を剥離する剥離工程と、樹脂A層を延伸して開孔し、多孔膜を形成する延伸工程とを行う。剥離工程と延伸工程は、押出工程の後に行われる限り、いずれかを先行してよい。
押出工程により得られる原反は、延伸開孔工程に供されるので、延伸前原反又は樹脂原反とも呼ばれる。
【0014】
<樹脂原反>
本発明の別の態様は、互いに異なる樹脂Aと樹脂Bを含み、かつ樹脂A層と、樹脂A層と剥離可能な樹脂B層とが共押出された樹脂原反である。樹脂原反を延伸工程及び剥離工程に供することにより、微多孔薄膜の生産性を向上させることができる。樹脂原反の厚みは、その用途、後処理などの観点から、5μm以上、6μm以上、8μm以上、10μm以上、12μm以上、又は14μm以上であることが好ましく、その上限値は30μm以下であることが好ましい。樹脂原反は樹脂A及び樹脂Bの共押出により形成可能である。
【0015】
<樹脂A層>
樹脂A層は、目的層である微多孔膜となる層である。樹脂A層に用いられる樹脂Aは、特に限定はされないが、ポリエチレン、ポリプロプレン、ポリメチルペンテン-1などのポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン;ポリアミド;これらの単体又は混合物が良好に用いられる。ポリエチレンとしては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高圧法低密度ポリエチレン、又はこれらの混合物等が挙げられる。また、樹脂Aとして、メタロセン触媒を利用して得られた分子量分布の狭いポリエチレン、多段重合により得られたHDPE等を使用してよい。
【0016】
ポリエチレンのMFR(メルトフローレート、JISK7210に従って温度190℃及び荷重2.16kgfの条件下で測定される)は、好ましくは0.01~5、より好ましくは0.05~3、さらに好ましくは0.2~1、よりさらに好ましくは0.4~0.8の範囲内である。
ポリプロピレンとしては、ホモのポリプロピレン、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、又はそれらの混合品を使用してよく、結晶性の高いポリプロピレンが、好適に用いられる。ポリプロピレンのMFR(メルトフローレート、JISK7210に従って温度230℃及び2.16kgf荷重の条件下で測定される)は、好ましくは0.1~5、より好ましくは0.2~1の範囲内である。
【0017】
樹脂A層からポリオレフィン系微多孔膜を得るという観点から、樹脂A層は、上記で説明されたポリオレフィン系樹脂を好ましくは90質量%以上100質量%以下、より好ましくは92質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは94質量%以上100質量%以下含む。
【0018】
<樹脂B層>
樹脂A層と剥離可能な樹脂B層は、樹脂A層の製造の為に用いられる層である。本発明でいう剥離可能な状態とは、樹脂A層と樹脂B層の間の剥離強度が、1000g/25mm幅以下であることを意味する。更に、剥離強度は0.05g/25mm幅以上であることが好ましい。この剥離強度とは、剥離工程前の原反、例えばA層/B層の原反をMD150mm×TD25mmに切り出し、その一端をセロテープ(登録商標)等で剥離させ、引張試験機にてMD方向に引張速度250mm/分でT型剥離させたときの剥離強度である。
樹脂A層と樹脂B層の間の剥離強度が1000g/25mm幅を超えると、剥離の際にA層及び/又はB層が破れ易い。剥離強度は、好ましくは500g/25mm幅以下、より好ましくは100g/25mm幅以下、更に好ましくは60g/25mm幅以下、より更に好ましくは20g/25mm幅以下、最も好ましくは10g/25mm幅以下である。剥離強度が10g/25mm幅以下であれば、高速での剥離がより容易となり、原反又は膜が破れずに、良好にA層とB層の剥離が達成されることができる。また剥離強度は0.05g/25mm幅以上であることが好ましく、この数値以上であると、剥離工程の以前に不用意に剥離してしまうことを防げる。
【0019】
押出工程において樹脂B層と樹脂A層を共押出することで、単一層では成形が困難なA層の薄膜を備える延伸前原反が、容易に得られる。したがって、樹脂B層は、最終的に微多孔膜製品となるA層との共押出法によって製造され、かつA層を製造する工程のいずれかで剥離が可能な層である。
【0020】
樹脂B層に用いられる樹脂Bは、樹脂A層を形成する樹脂Aの組成に応じて、適宜調整されるものである。樹脂A層と樹脂B層の剥離性の観点から、樹脂A層がポリオレフィン系樹脂を90質量%以上100質量%以下含む場合には、樹脂B層は、非ポリオレフィン系樹脂を好ましくは60質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上100質量%以下含む。
【0021】
例えば、A層にポリプロピレン樹脂を用いる場合は、B層としてポリエチレンを用いてもよい。好ましい樹脂Bは、ポリエステル、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン等であり、これらを樹脂Bとして用いると、樹脂A層から樹脂B層を簡単に剥離させることができる。特に、樹脂Bが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレングリコールの一部をシクロヘキサンジメタノールで置換したポリエチレンテレフタレート(PETG)等のポリエステル系樹脂であると、最終的に微多孔膜製品となるA層の平面性もよく、B層の薄膜化も可能である。
また、樹脂Aが結晶性であるときには、樹脂Bは、好ましくは非晶性ポリマーであり、より好ましくは密度が980kg/m3以上1400kg/m3以下である非晶性ポリマーである。非晶性ポリマーとしては、例えばPETGなどの非晶性PETが挙げられる。
【0022】
樹脂Bの選定には、剥離性のほかに、樹脂Aとの非相溶性、樹脂A層との共押出性又は共延伸性も考慮することが好ましく、その為に、樹脂Bとしては、結晶性が低く、かつ成形温度がポリエチレン又はポリプロピレンに近い樹脂がより好ましく、例えば、低結晶性又は非晶性のポリエステル又はポリアミドが用いられる。さらに好ましくは、樹脂B層は、ポリエステル系樹脂を含み、よりさらに好ましくは250℃以下で押出可能なポリエステル系樹脂から成る。本明細書では、「250℃以下で押出可能な樹脂」とは、東洋精機社製キャピラリーレオメーターを用いて250℃及びせん断速度100(1/秒)で測定した樹脂の溶融粘度が50000POISE未満かつ5000POISE以上であることを意味する。
本発明の一実施の形態では、共押出の観点から、樹脂Bの溶融粘度が、好ましくは30000POISE未満かつ8000POISE以上である。なお、せん断速度は、100(1/秒)前後の2点以上の複数点、例えば50(1/秒)と500(1/秒)を測定し、内挿入して求めてよい。
樹脂Bは、その他にも、例えば、ポリフェニレンエーテル等のエンプラ樹脂;ナイロン6、ナイロン6-12、アラミド樹脂等のポリアミド樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂;エチレンとビニルアルコールの共重合体、C2~C12のα-オレフィンと一酸化炭素の共重合体及びその水添物;スチレン系重合体の水添物;スチレンとα-オレフィンとの共重合体及びその水添物;スチレンと脂肪族モノ不飽和脂肪酸との共重合体;アクリル酸及び/又はその誘導体の重合体;スチレンと共役ジエン系不飽和単量体との共重合体及びこれらの水添物から選択される熱可塑性樹脂、ポリケトン等、更にポリブテン-1、ポリメチルペンテン-1等でもよい。
【0023】
樹脂B層には、剥離性を助長する助剤として、グリセリンエステル、又は脂肪酸アミドを添加してもよいし、剥離時の帯電防止のために帯電防止剤を混合してもよい。また、樹脂B層に、その剛性又は強度等の向上を目的として、タルク、シリカ、炭酸カルシウム等の無機粒子を混合して、樹脂B層を薄膜化することもできる。
押出成形後、延伸前のB層の厚みは、特に限定はされないが、生産コストの観点からは、できる限り薄い方が好ましく、1μm以上10μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上8μm以下、より更に好ましくは5μm以下、最も好ましくは2.5μm以下である。樹脂Bとして前述のポリエステル系の樹脂を使用すると、樹脂B層の薄膜化が可能となり、特に好ましい。
【0024】
<樹脂A及びB以外の成分>
また、樹脂A層及び/又は樹脂B層は、既知の酸化防止剤を含んでよい。
酸化防止剤としては、例えば、「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、「BHT」(いずれも商標、チバスペシャリティーケミカルズ社製)等のフェノール系酸化防止剤、リン系若しくはイオウ系の二次酸化防止剤、又はヒンダードアミン系の耐候剤等が挙げられ、これらを単独で用いるか、又は複数を混合することができる。
原反又は微多孔膜の強度、光学性及び異物除去性の観点からは、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤の組合せが好ましい。具体的には、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチルヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチルヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンホスファイト、6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキシホスフェピン等である。
酸化防止剤の添加量は、微多孔膜の用途に応じて調整されることができ、一般に、各層の質量を基準として、100PPM~1質量%の範囲内である。フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用する場合には、フェノール系/リン系の比は、好ましくは1/3~3/1である。
【0025】
また、樹脂A層及び/又は樹脂B層は、本発明の課題を解決できる程度であれば、層を改質するための添加剤を含んでよい。添加剤は、例えば、グリセリンエステル等の防曇材;エルカ酸、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸アミドに代表されるスリップ材;帯電防止剤;シリカ、アルミナ等の無機フィラー;流動パラフィン;及び潤滑油、又は内部潤滑剤としてステアリン酸カルシウム等である。
【0026】
帯電防止剤としては、アルキルジエタノールアミン、ヒドロキシアルキルエタノールアミン等のアミン類;ステアリルジエタノールアミンモノ脂肪酸エステル等のアミンエステル類;ラウリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド等のアルキローアミド類;グリセリン、ジグリセリン等のモノ脂肪酸エステル類;アルキルベンゼンスルホン酸等のアニオン系帯電防止剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類等が挙げられ、これらは単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。帯電防止剤の配合量は、各層を形成する全樹脂固形分に対して、好ましくは500ppm~10,000ppmである。
【0027】
無機フィラーとしては、例えば、アルミナ(例えば、α-アルミナ等)、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維等が挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。無機フィラーの配合量は、各層を形成する全樹脂固形分に対して、好ましくは100ppm~10,000ppmである。
【0028】
また、内部潤滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム又はそれらの水和物、例えば、12-ヒドロキシステアリン酸ナトリウム等を使用してよい。その場合には、内部潤滑剤の好ましい含有量は、各層を形成する全樹脂固形分を基準として、50ppm以上5000ppmの範囲内である。
【0029】
<押出工程>
押出工程では、樹脂A及び樹脂Bを共押出しし、樹脂A層及び樹脂A層と剥離可能な樹脂B層が積層された原反を得る。
「共押出」とは、複数の押出機を使って同時に複数の樹脂を押し出して、積層することを意味し、例えば1台の押出機にA層の原料である樹脂Aを供給し、もう1台の押出機にB層の原料である樹脂Bを供給し、一般の共押出法により、一つの共押出ダイスに導き、製膜してよい。この場合、得られる原反の層構成は、樹脂A層/樹脂B層/樹脂A層、又は樹脂A層/樹脂B層/樹脂A層/樹脂B層/樹脂A層などを取ることができるが、目的層である微多孔膜となる樹脂A層を多く生産する意図、又は樹脂A層の薄膜化の意図等を鑑み適宜選べばよい。
押出工程は、Tダイ法又はインフレーション法のいずれにより行われてもよい。共押出ダイスから押し出された複数の樹脂は、キャスト成形されて、原反を形成する。
【0030】
図1は、延伸前原反の模式的な断面図を示す。
1つの実施の形態では、延伸前原反は、目的層(A1)/剥離層(B)/目的層(A2)の3層構造を有し、A1とA2は基本的に同一の微多孔膜となる層であるが、区別の為に便宜上A1、A2と記している(
図1(a))。また、A1とA2は、樹脂Aで形成された樹脂A層である限り、相違することができる。
別の実施の形態では、延伸前原反は、目的層(A1)/剥離層(B1)/目的層(A2)/剥離層(B2)/目的層(A3)の5層構造を有する(
図1(b))。
さらに別の実施の形態では、延伸前原反は、目的層(A1)/剥離層(B1)/別の微多孔膜になる層(C)/剥離層(B2)/目的層(A2)の5層構造を有する(
図1(c))。B1とB2は、剥離される層であるという目的で使用される限り、同一であるか、又は相違することができる。別の微多孔膜になる層(C)は、目的層(A1,A2,A3)に由来する微多孔膜とは異なる微多孔膜を形成する層を示し、例えば、樹脂A層がポリプロピレンであるならば、C層はポリエチレン等に由来する層である。剥離層(B、B1,B2)は、微多孔膜を形成しない層でよく、PET等が有効に用いられる。
【0031】
延伸前原反において、少なくとも1つの樹脂A層の厚みは、好ましくは0μm超10μm以下、より好ましくは、1μm以上10μm以下である。本発明の方法であれば1μmの原反も可能である。樹脂B層の厚みは、延伸前原反の製膜安定性を考慮して決めればよく、少なくとも1つの樹脂B層の厚みは、好ましくは1μm以上10μm以下である。例えばポリプロピレンを主体とするA層を作る際に、PETを主体としたB層を用いる場合は、延伸前のB層の厚みを1~20μm程度に調整することができ、A層の厚みも1μm~20μm程度の厚みで選ぶことができる。延伸前原反におけるA層/B層/A層の厚み比は、例えば10/5/10μm、5/5/5μm、3/5/3μm、1/5/1μm等のように所定の比を採ることができる。これにより従来の単層法では薄すぎて製膜安定性の悪い薄膜の樹脂A層を安定に生産することができる。各層の厚みが1μm以上であれば、生産時のハンドリング等で破膜せずに良好に原反を生産できる。
【0032】
<剥離工程>
剥離工程では、原反を複数の樹脂層に分割する。剥離工程は、少なくとも1つの巻出機と、少なくとも2つの巻取機とを備える剥離装置、例えば、剥離スリッタを用いて行なわれることができる。剥離工程により、1回の押出工程により得られた原反から複数の微多孔膜を同時に取得できるため、微多孔膜の生産性を向上させることができる。
【0033】
一つの実施の形態では、原反から樹脂A層と樹脂B層を剥離する。A1/B/A2の三層構造(
図1(a))を有する原反は、原反は剥離工程により2つの目的層(樹脂A層)と1つの剥離層(樹脂B層)に分割される。A1/B1/A2/B2/A3の五層構造(
図1(b))を有する原反は、剥離工程により3つの目的層(樹脂A層)と2つの剥離層(樹脂B層)に分割される。A1/B1/C/B2/A2の五層構造(
図1(c))を有する原反は、剥離工程により2つの目的層(樹脂A層)と2つの剥離層(樹脂B層)と1つの別の層(C)に分割される。
また別の実施形態では、A/B/Aの三層構造の原反を一旦、単層のA層とB/A層の二層原反に剥離した後、二層原反をB層とA層に剥離してもよい。
【0034】
<延伸工程>
延伸工程では、目的層である樹脂A層を延伸し、開孔して、微多孔膜を形成する。剥離工程後の樹脂A層又は剥離工程前の原反を延伸工程に供して、樹脂A層を延伸してよい。また、剥離工程により単離された樹脂A層を複数積層して、得られた樹脂A積層体を延伸工程に供することもできる。延伸工程は、熱処理装置と延伸装置により行われることができる。
【0035】
延伸条件としては、1軸延伸(MD延伸)を採用してよい。また、延伸温度については、目的層(樹脂A層)の成形特性、形成される空隙の態様等に応じて適宜設定し得る。このような延伸処理により、目的層(樹脂A)に空隙が設けられる。空隙が設けられる機構(方法)としては、例えば、ラメラ結晶界面での開孔法を挙げることができる。
【0036】
結晶界面での開孔法は、例えば、単数若しくは複数の樹脂A層、又は樹脂A層を含む原反を、樹脂Aの結晶融点より5~50℃低い範囲の温度でアニールし、-20~70℃の範囲の温度で1.1~2倍で一軸冷延伸した後、樹脂Aの結晶融点より5~50℃低い範囲の温度で1.5~5倍で一軸熱延伸して、微多孔膜を得る(すなわち、膜に空隙を設ける)方法が挙げられる。1軸延伸された微多孔膜は、TD方向の収縮率が極めて低く設定可能である。
【0037】
<押出工程、剥離工程及び延伸工程の順序>
図2は、本発明の微多孔膜の製造方法のフローを模式的に示す製造ラインの一例であり、A1/B/A2の3層構造を有する延伸前原反から微多孔膜を製造する。
図2に示されるとおり、2台の押出機(1A,1B)より其々A層、B層の原料である樹脂A及びBを押出しし、キャスト成形によって原反を成型した後に、(i)剥離工程によって原反から3層を剥離し、所望により複数の樹脂A1層又はA2層をラミネートし、樹脂A層を延伸することにより微多孔膜を形成するか、又は(ii)2つの樹脂A層を含む原反を延伸してから、原反を3層に分割して、A1層及びA2層に由来する2つの微多孔膜を形成してよい。
剥離工程と延伸工程の間にラミネート工程を行う場合には、
図2のルート(i)に示されるように樹脂A1層又はA2層に由来する単層膜を複数積層するか、又は
図2には示されていないが、樹脂A1層又はA2層に由来する単層膜を少なくとも1つと、その他の層(例えば、
図1に示されるB層又はC層など)とを積層してよい。
【0038】
樹脂B層は、最終的に微多孔膜製品となる樹脂A層との共押出法によって製造され、かつ樹脂A層を使用又は製造する工程のいずれかで剥離される層である。樹脂B層の目的を考慮すると、一般の乾式法、即ち延伸前原反を押出成型した後に、延伸機等で延伸開孔させる方法では、共押出成形して巻き取った延伸前原反の状態で剥離工程を行い、その後に延伸工程を行うことが好ましい。これにより延伸開孔させる条件を樹脂A層に適したものに調整し易くなる。代替的には、延伸工程時の延伸性を補強するために、剥離工程を延伸工程後に行うことができる。
【0039】
剥離工程後に、樹脂B層である剥離層(B,B1,B2)は、回収されるか、又は連続的に再利用されることができる。例えば、剥離工程後の樹脂B層を、積層、圧縮、溶融、混錬などの処理によりペレット化して、得られた樹脂B含有ペレットを押出工程において再利用することができる。
【0040】
樹脂A層である目的層(A1,A2,A3)の延伸工程により形成された微多孔膜は、複数が積層されて追加の延伸工程に供されることができ、又は別の微多孔膜(例えば、
図1(c)における層Cに由来する微多孔膜)若しくは樹脂層と積層されて新たな積層体を形成することができる。
【0041】
<微多孔膜>
上記で説明された微多孔膜の製造方法により製造された微多孔膜が、本発明の一態様である。
本発明の製造方法で生産される微多孔膜の厚さは、取り扱いの観点から、1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上20μm以下であることがより好ましく、4μm~10μmであることがさらに好ましい。
【0042】
微多孔膜の気孔率は、強度と透過性のバランスを取るという観点から、好ましくは10%以上80%以下、より好ましくは20%以上65%以下である。
また、同様の観点から、微多孔膜の透気度が、好ましくは10sec/100ml以上5000sec/100ml以下、さらに好ましくは50sec/100ml以上1000sec/100ml以下、よりさらに好ましくは140sec/100以上900sec/100以下である。
【0043】
<蓄電デバイス用セパレータ>
上記で説明された微多孔膜の製造方法により製造された微多孔膜のリチウムイオン二次電池用セパレータとしての使用が、本発明の一態様である。本明細書でいうセパレータとは、蓄電デバイス用セパレータにおいて複数の電極の間に配置され、かつイオン透過性及び必要に応じてシャットダウン特性を有する部材をいう。
【実施例】
【0044】
[物性値の測定方法、評価方法]
(I)各層の厚み、及び合計厚み(μm)
走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製 S4100)による断面観察により、単層の厚み又は積層原反の厚みを測定した。必要に応じて、個別に測定された複数の層厚を合計した。
【0045】
(II)微多孔膜の気孔率(%)
100mm四方の微多孔膜のサンプルの質量から目付けW(g/cm2)及び微多孔膜を構成する成分(樹脂及び添加剤)の平均密度ρ(g/cm3)を算出し、微多孔膜の厚みd(cm)から下記式にて気孔率を計算した。
全層気孔率(%)=(100-W/(d×ρ))×100
【0046】
(III)微多孔膜の透気度(秒/100ml)
JIS P-8117に準拠し、ガーレー式透気度計「G-B2」(東洋精機製作所(株)製、商標)で微多孔膜の透気度を測定した。
なお、下記表中の透気度の値は、合計厚みを基準とした比例計算により算出した20μm換算の透気度である。
【0047】
(IV)突刺強度(g)
ハンディー圧縮試験器「KES-G5」(カトーテック製、商標)を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、及び突刺速度2mm/secの条件下で突刺試験を行うことにより微多孔膜の突刺強度を求めた。
なお、下記表中の突刺強度の値は、合計厚みを基準とした比例計算により算出した20μm換算の突刺強度である。
【0048】
(V)微多孔膜の孔径
走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製 S4100)による微多孔膜の撮影と表面写真の観察により、孔の横方向のサイズを測定し、孔径とした。孔径は0.01μm~0.1μmの範囲内であれば微多孔膜として「〇(合格)」判定とした。
【0049】
(VI)剥離強度(g/25mm)
島津製作所製AG-IS引張試験機を用いて雰囲気温度23±2℃、湿度40±2%の状況下で剥離強度を測定した。サンプルをMD150mm×TD25mmに切り出し、その一端をセロテープ(登録商標)等で剥離させ、引張試験機でMD方向に引張速度250mm/分でT型剥離させたときの剥離強度を測定した。なお、剥離強度測定の際に試験片が破れたものは不合格品と見なす。
【0050】
(VII)剥離性
長さ1000m及び幅1mの延伸前原反を3つ用意して、それぞれ巻取速度40m/分で剥離スリッタに供給した。原反の剥離を観察し、下記基準に従って剥離性を評価した。
〇(良好):3つの原反が破れずに剥離できる。
×(不良):少なくとも1つの原反が剥離中に破れる。
【0051】
(VIII)MFR(メルトフローレート)
JISK7210に従って樹脂のMFRを測定した。ポリエチレンはコードD(190℃ 2.16kgf荷重)、ポリプロピレンはコードM(230℃ 2.16kgf荷重)に従って測定した。
【0052】
[使用樹脂]
使用した樹脂の種類及び物性を下記表1に示す。
【0053】
【0054】
[実施例1]
表1に示すPP1を樹脂Aとして、PET1を樹脂Bとして用いた3層構造を有する延伸前原反から、延伸法によって、A1層とA2層に由来する2枚の微多孔膜を得る例を示す。PP1を240℃に設定した押出機に供給し、PET1を240℃に設定した押出機に供給し、其々の押出機から押出される溶融ポリマーをA1/B/A2の3層構造となるTダイスに導入し、ダイスから押し出される溶融原反を冷風にて冷却しながらキャストロールに導き、25μmの延伸前3層原反を得た。さらに、この原反を剥離スリッタで剥離し、単独のA1層、A2層を得た。この2枚の樹脂A層を120℃でアニールした後、MDに室温で1.5倍に延伸し、次にMDの張力を緩和せずに120℃で2倍延伸し、その後に巻取り、2枚の微多孔膜を得た。冷延伸の段階で、膜は白化し始め、開孔を示唆している。延伸前原反および微多孔膜の性状、樹脂A層/樹脂B層間の剥離強度等を表2に示す。表2に示すように、7μmの微多孔膜が安定に、2枚同時に得られた。
【0055】
【0056】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で、表3に示すように安定なPP1の厚み3μmの微多孔膜を得た。
【表3】
【0057】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で、表4に示すように安定なPE1の厚み4μmの微多孔膜を得た。
【表4】
【0058】
[比較例1]
PE1又はPP1の単層押出により得られた原反から厚み4μmのPP微多孔膜を製膜しようとしたが、キャスト冷却の際に、破膜が多発し、製膜できなかった。
【符号の説明】
【0059】
A1,A2,A3 目的層
B,B1,B2 剥離層
C 別の微多孔膜になる層
1A,1B 押出機
2 共押出ダイス
3 キャスト成形機
4 熱処理装置
5 延伸(冷延伸/熱延伸)装置