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特許7170430部分放電検出装置、部分放電検出方法、部分放電検出システム及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】部分放電検出装置、部分放電検出方法、部分放電検出システム及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20221107BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018110607
(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公開番号】P2019211447
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇介
(72)【発明者】
【氏名】鷹箸 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-328810(JP,A)
【文献】特開2013-213751(JP,A)
【文献】特開2017-58276(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187481(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/157912(WO,A1)
【文献】特開2001-33511(JP,A)
【文献】特開平3-293908(JP,A)
【文献】特開2001-74802(JP,A)
【文献】特開2008-45977(JP,A)
【文献】特開2015-145847(JP,A)
【文献】特許第6789872(JP,B2)
【文献】特許第6910897(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の部分放電によって生じた電気信号を取得するセンサと、
前記電気信号を所定の周期に分割し、分割された電気信号を構成する複数の周波数帯域成分のうち、所定の条件を満たす2以上の周波数帯域成分を特定し、前記分割された電気信号に含まれるパルス信号であって、前記2以上の周波数帯域成分のうち最も高い周波数帯域成分とそれ以外の周波数帯域成分とにおいてパルス信号成分が存在するものを、分析対象信号として特定するフィルタリング部と、
前記分析対象信号に基づいて部分放電の特徴を表す特徴量を決定する特徴量決定部と、
前記特徴量と予め指定された設定値との比較によって、部分放電の有無を判定する部分放電判定部と、
を備える、部分放電検出装置。
【請求項2】
前記フィルタリング部は、前記複数の周波数帯域成分のうち、予め定められた閾値以上の信号強度を持つ前記2以上の周波数帯域成分を特定する請求項1に記載の部分放電検出装置。
【請求項3】
前記フィルタリング部は、前記電気信号に対してウェーブレット変換を行うことによって得られるウェーブレット係数に基づいて前記分析対象信号を得る請求項1又は2に記載の部分放電検出装置。
【請求項4】
前記所定の条件は、信号強度のピーク値が予め定められた信号強度以上であることであり、
前記特徴量決定部は、前記分析対象信号に係る前記2以上の周波数帯域成分の強度比に基づいて前記特徴量を決定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の部分放電検出装置。
【請求項5】
前記部分放電判定部は、前記特徴量が前記設定値よりも大きい場合、部分放電が発生していると判定する、請求項1から4のいずれか一項に記載の部分放電検出装置。
【請求項6】
前記センサは、前記電気機器の接地線電流を検出する請求項1から5のいずれか一項に記載の部分放電検出装置。
【請求項7】
前記センサは、前記電気機器の接地電位を検出する請求項1から5のいずれか一項に記載の部分放電検出装置。
【請求項8】
前記電気機器の近傍の電磁波を受信し、受信された電磁波に基づく電気信号を生成する第2のセンサと、
前記フィルタリング部によって特定された前記2以上の周波数帯域成分のうち最も高い周波数帯域成分から、前記第2のセンサによって電気信号が生成された時刻に基づいて特定される電気信号を除去する信号除去部と、
をさらに備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の部分放電検出装置。
【請求項9】
電気機器の部分放電によって生じる現象に応じて電気信号を生成する生成ステップと、
前記電気信号を所定の周期に分割し、分割された電気信号を構成する複数の周波数帯域成分のうち、所定の条件を満たす2以上の周波数帯域成分を特定し、前記分割された電気信号に含まれるパルス信号であって、前記2以上の周波数帯域成分のうち最も高い周波数帯域成分とそれ以外の周波数帯域成分とにおいてパルス信号成分が存在するものを、分析対象信号として特定するフィルタリングステップと、
前記分析対象信号に基づいて部分放電の特徴を表す特徴量を決定する特徴量決定ステップと、
前記特徴量と予め指定された設定値との比較によって、部分放電の有無を判定する部分放電判定ステップと、
を有する、部分放電検出方法。
【請求項10】
電気機器の部分放電によって生じた電気信号を取得するセンサと、
前記電気信号を所定の周期に分割し、分割された電気信号を構成する複数の周波数帯域成分のうち、所定の条件を満たす2以上の周波数帯域成分を特定し、前記分割された電気信号に含まれるパルス信号であって、前記2以上の周波数帯域成分のうち最も高い周波数帯域成分とそれ以外の周波数帯域成分とにおいてパルス信号成分が存在するものを、分析対象信号として特定するフィルタリング部と、
前記分析対象信号に基づいて部分放電の特徴を表す特徴量を決定する特徴量決定部と、
前記特徴量と予め指定された設定値との比較によって、部分放電の有無を判定する部分放電判定部と、
を備える、部分放電検出システム。
【請求項11】
電気機器の部分放電によって生じた電気信号を取得する取得ステップと、
前記電気信号を所定の周期に分割し、分割された電気信号を構成する複数の周波数帯域成分のうち、所定の条件を満たす2以上の周波数帯域成分を特定し、前記分割された電気信号に含まれるパルス信号であって、前記2以上の周波数帯域成分のうち最も高い周波数帯域成分とそれ以外の周波数帯域成分とにおいてパルス信号成分が存在するものを、分析対象信号として特定するフィルタリングステップと、
前記分析対象信号に基づいて部分放電の特徴を表す特徴量を決定する特徴量決定ステップと、
前記特徴量と予め指定された設定値との比較によって、部分放電の有無を判定する部分放電判定ステップと、
をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、部分放電検出装置、部分放電検出方法、部分放電検出システム及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器は、経年変化によって電気機器表面又は電気機器内部の絶縁体の絶縁性能が劣化する。絶縁性能が劣化すると、劣化箇所で部分放電が発生する。さらに絶縁性能の劣化が進行した場合、絶縁破壊が起きる。絶縁破壊によって、地絡事故等の重大事故が発生する。このため、電気機器の維持・保守において、部分放電を検出することがおこなれている。部分放電検出装置は、部分放電の信号を捉え、信号の大きさ又は発生頻度等から絶縁性能の劣化状況を推定することで部分放電を検出する。
【0003】
従来の部分放電検出装置は、誤診断を防ぐために、部分放電信号であると認識されたパルス信号と商用電源電圧とが同期しているか否かを判定することで、部分放電の検出を行う。しかしながら、部分放電検出装置が、上述の方法で部分放電信号を検出する場合、商用電源に同期したノイズを含む部分放電を正確に検出できない可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-45977号公報
【文献】特開平9-292433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、より精度良く電気機器の部分放電を検出することができる部分放電検出装置、部分放電検出方法、部分放電検出システム及びコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の部分放電検出装置は、センサと、フィルタリング部と、特徴量決定部と、部分放電判定部とを持つ。センサは、電気機器の部分放電によって生じた電気信号を取得する。フィルタリング部は、前記電気信号を所定の周期に分割し、分割された電気信号を構成する複数の周波数帯域成分のうち、所定の条件を満たす2以上の周波数帯域成分を特定する。フィルタリング部は、前記分割された電気信号に含まれるパルス信号であって、前記2以上の周波数帯域成分のうち最も高い周波数帯域成分とそれ以外の周波数帯域成分とにおいてパルス信号成分が存在するものを、分析対象信号として特定する。特徴量決定部は、前記分析対象信号に基づいて部分放電の特徴を表す特徴量を決定する。部分放電判定部は、前記特徴量と予め指定された設定値との比較によって、部分放電の有無を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態の部分放電検出装置の機能構成を表す機能ブロック図。
図2】第1の実施形態の周波数分割の一具体例を示す図。
図3】第1の実施形態の同時刻に発生したパルス信号の一具体例を表す概念図。
図4】第1の実施形態の取得された分析対象の信号の一具体例を表す概念図。
図5】第1の実施形態の部分放電判定の処理の流れの一具体例を示すフローチャート。
図6】第1の実施形態の検知された2種類の放電に対して周波数フィルタリングを行った結果の一具体例を示す図。
図7】第1の実施形態の2種類の周波数帯域の強度比の散布図の一具体例を表す図。
図8】第1の実施形態のグルーピングされた2種類の放電の信号を表す一具体例を表す図。
図9】第2の実施形態の部分放電検出装置の機能構成を表す機能ブロック図。
図10】第2の実施形態の特定されたノイズの一具体例を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の部分放電検出装置、部分放電検出方法、部分放電検出システム及びコンピュータプログラムを、図面を参照して説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の部分放電検出装置100の機能構成を表す機能ブロック図である。部分放電検出装置100は、センサ101及び部分放電判定装置102を備える。部分放電検出装置100は、センサ101によって検出された電気信号に基づいて、電気機器10の部分放電の発生の有無を判定する。
【0010】
センサ101は、金属製の電極を含んで構成される。センサ101は、電気機器10の放電によって生じた電気信号を取得する。電気機器10の放電によって生じた電気信号は、例えば、電磁波、振動又は音等の物理量を表すである。センサ101は、電気機器10に外壁面に設けられる。センサ101は、信号線を介して部分放電判定装置102に接続されている。センサ101は、生成された電気信号を部分放電判定装置102に出力する。図1では、センサ101は1台設けられているが、1台に限定されない。例えば、センサ101は複数設けられてもよい。センサ101は、物理量として電気機器10の接地線電流を検出する。センサ101は、電気機器の接地電位を検出する。
【0011】
部分放電判定装置102は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン又はタブレットコンピュータ等の情報処理装置である。部分放電判定装置102は、センサ101から受け付けた電気信号に基づいて、部分放電の発生の有無を判定する。部分放電判定装置102は、部分放電判定プログラムを実行することによって通信部103、入力部104、表示部105、信号記憶部106及び制御部107を備える装置として機能する。
【0012】
通信部103は、ネットワークインタフェースである。通信部103はネットワークを介して、外部の通信装置と通信する。通信部103は、例えば無線LAN(Local Area Network)、有線LAN、Bluetooth(登録商標)又はLTE(Long Term Evolution)(登録商標)等の通信方式で通信してもよい。外部の通信装置は、例えばパーソナルコンピュータ、サーバ等の情報処理装置であってもよいし、クラウドコンピューティングシステムであってもよい。
【0013】
入力部104は、タッチパネル、マウス及びキーボード等の入力装置を用いて構成される。入力部104は、入力装置を部分放電判定装置102に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、入力部104は、入力装置において入力された入力信号から入力データ(例えば、部分放電判定装置102に対する指示を示す指示情報)を生成し、部分放電判定装置102に入力する。
【0014】
表示部105は、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の出力装置である。表示部105は、出力装置を部分放電判定装置102に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部105は、映像データから映像信号を生成し自身に接続されている映像出力装置に映像信号を出力する。
【0015】
信号記憶部106は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。信号記憶部106は、センサ情報を記憶する。センサ情報は、電気信号が取得された日時と電気信号が表す物理量とを少なくとも含む。なお、部分放電検出装置100が複数のセンサ101を備える場合、センサ情報はセンサ101の識別情報を保持してもよい。識別情報は、センサ101を特定できる情報であればどのような情報であってもよい。
【0016】
制御部107は、部分放電判定装置102の各部の動作を制御する。制御部107は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びRAM(Random Access Memory)を備えた装置により実行される。制御部107は、部分放電判定プログラムを実行することによって、電気信号取得部108、フィルタリング部109、特徴量決定部110及び部分放電判定部111として機能する。
【0017】
電気信号取得部108は、センサ101から受け付けた電気信号を取得する。電気信号取得部108は、電気信号から物理量を取得する。電気信号取得部108は、電気信号が取得された日時とセンサ101によって検知された物理量とを含むセンサ情報を生成する。電気信号取得部108は生成されたセンサ情報を信号記憶部106に記録する。なお、部分放電検出装置100がセンサ101を複数備える場合、電気信号取得部108は、電気信号が取得された日時とセンサ101によって検知された物理量とセンサの識別情報とを含むセンサ情報を生成する。
【0018】
フィルタリング部109は、取得された電気信号に対して周波数フィルタリングを行うことで高周波のパルス信号が含まれているか否かを判定する。具体的には、フィルタリング部109は、電気信号を所定の周期に分割する。所定の周期は、50Hz又は60Hz等の商用電源周期であってもよい。なお、所定の周期は、商用電源周期に限定されず、商用電源周期の整数倍の周期であってもよいし、どのような周期であってもよい。
【0019】
フィルタリング部109は、周波数分析を行うことで周波数スペクトルを得る。周波数分析は、所定の周期に分割された電気信号に対して、高周波のパルス信号が含まれているか否かを探索する処理である。フィルタリング部109は、公知の手法を用いて周波数分析を行う。公知の手法は、例えばフーリエ変換、短時間フーリエ変換、ウェーブレット変換又は離散ウェーブレット変換であってもよい。離散ウェーブレット変換では、電気信号は高周波成分と低周波成分とに分解される。フィルタリング部109は、離散ウェーブレット変換において、電気信号を高周波成分と低周波成分とに分解する途中で算出されるウェーブレット係数を用いて探索してもよい。なお、離散ウェーブレット変換は、パルス信号の探索性能が良く、計算負荷が小さい。したがって、離散ウェーブレット変換は、高周波パルス信号が含まれているか否かを探索するために有効な手法である。
【0020】
フィルタリング部109は、得られた周波数スペクトルに対して周波数分割を行う。周波数分割は、得られた周波数スペクトルを所定の周波数帯域毎に分割する処理である。所定の周波数帯域は、部分放電によって測定されうる周波数帯域に基づいて予め決定される。部分放電及びノイズの周波数帯域は、測定される場所又は時間に応じて数100kHzから数GHzの間で発生する。なお、部分放電によって測定されうる周波数帯域は、定められた場所(例えば、電気機器10の設置場所)では数100kHzから数GHzの範囲で、狭帯域に発生する。フィルタリング部109は周波数スペクトルを少なくとも3つ以上の周波数帯域に分割する。
【0021】
図2は、第1の実施形態の周波数分割の一具体例を示す図である。図2は、センサ101によって取得された電気信号の周波数スペクトルと所定の周波数帯域に分割された電気信号の周波数帯域とを表すグラフである。図2の横軸は、電気信号の周波数を表す。図2の縦軸は、電気信号の信号強度(例えば、電圧)の値を表す。図2の点線は、センサ101によって取得された電気信号の周波数スペクトルを表す。図2の実線は、フィルタリング部109によって所定の周波数帯域に分割された電気信号の周波数帯を表す。フィルタリング部109は、点線で示された周波数スペクトルを、実線で示された周波数帯域に分割することで、周波数分割を行う。
【0022】
フィルタリング部109は、周波数分割によって得られた各周波数帯域の周波数スペクトルの信号強度のピーク値が、予め決定された閾値以上である周波数スペクトルを特定する。フィルタリング部109は、特定された周波数スペクトルのピーク値を中心周波数とする。
【0023】
フィルタリング部109によって行われる周波数フィルタリングは、アナログフィルタとデジタルフィルタとがある。デジタルフィルタとアナログフィルタとでは、デジタルフィルタのほうが、性能及びコストの面で有効である。デジタルフィルタとして、有限インパルス応答フィルタが用いられる場合、電気信号の位相情報の誤差が小さくなる。位相情報の誤差が小さくなると、波形の歪みが小さくなるため、周波数フィルタリングの処理に望ましい。また、デジタルフィルタとして、離散ウェーブレット変換等の非線形フィルタが用いられてもよい。
【0024】
フィルタリング部109は、所定の条件を満たすパルス信号を特定する。所定の条件とは、特定された周波数スペクトルのうち、周波数成分が最も高いパルス信号と、それ以外の周波数成分のパルス信号とが、同時刻又は所定の差異の範囲内に発生していることである。所定の差異とは、予め決定されていてもよく、分析される電気信号の周波数に基づいて決定されてもよい。なお、部分放電検出装置100は、所定の差異を分析される信号の周波数に基づいて決定することで高精度に部分放電信号を判定できる。具体的には、フィルタリング部109は、分析される電気信号の中心周波数から得られる周期の半分の値を差異としてもよい。例えば、分析される電気信号の周波数が1MHzである場合、周期は1μ秒である。したがって、フィルタリング部109は、時刻の差異は0.5μ秒に決定する。
【0025】
図3は、第1の実施形態の同時刻に発生たパルス信号の一具体例を表す概念図である。図3(a)は、特定された周波数スペクトルのうち、最も高い周波数成分の信号を表す。図3(b)は、特定された周波数スペクトルのうち、最も高い周波数成分以外の信号を表す。フィルタリング部109は、図3(a)及び図3(b)に表されるパルス信号のうち、同時刻又は所定の差異の範囲内に発生している電気信号を特定する。図3によると、図3(a)の領域200aのパルス信号と図3(b)の領域200bのパルス信号とが、同時刻に発生しているパルス信号であることがわかる。図3の場合、フィルタリング部109は、領域200bのパルス信号を分析対象の信号として取得する。図3(c)は、取得された領域200bのパルス信号を表した図である。フィルタリング部109は、同様の手法を繰り返すことで分析対象ののパルス信号を複数取得する。このように、フィルタリング部109は、分析対象ののパルス信号を取得することでより高精度に部分放電の検出を行うことができる。
【0026】
特徴量決定部110は、取得された複数の分析対象の信号に基づいて、特徴量を算出する。図4は、第1の実施形態の取得された分析対象の信号の一具体例を表す概念図である。図4では、部分放電として絶縁物内部放電及びコロナ放電によって発生するのパルス信号の分布が表される。図4(a)は、部分放電として絶縁物内部放電によって発生したのパルス信号の分布が表された場合の図である。図4(b)は、部分放電としてコロナ放電によって発生した信号の分布が表された場合の図である。特徴量は、例えば、半周期毎の最大の信号強度(例えば、最大センサ電圧)、平均センサ電圧、最低位相、最大位相、平均位相、分布の形状を表す歪度、尖度、半周期間のそれらの差、パルス発生頻度、パルス信号の強度比等であるが、これらに限定されない。なお、特徴量は電気機器10毎に設定されてもよい。特徴量決定部110は、公知の手法を用いて、特徴量を算出する。
【0027】
部分放電判定部111は、電気機器10の部分放電の有無を判定する。部分放電判定部111は、算出された特徴量が所定の条件を満たす場合、部分放電“あり”と判定する。所定の条件とは、例えば、算出された特徴量と予め指定された特徴量とを比較して、予め指定された設定値を満たすことであってもよいし、算出された特徴量が予め指定された設定値よりも大きいことであってもよいし、予め指定された設定値が算出された特徴量よりも大きいことであってもよい。所定の条件とは、あらかじめ定められた条件であればどのような条件であってもよい。部分放電判定部111は、算出された特徴量が所定の条件を満たさない場合、部分放電“なし”と判定する。
【0028】
図5は、第1の実施形態の部分放電判定の処理の流れの一具体例を示すフローチャートである。電気信号取得部108は、センサ101から受け付けた電気信号を取得する(ステップS101)。フィルタリング部109は、取得された電気信号を商用電源周期に分割する(ステップS102)。フィルタリング部109は、周波数分析を行うことで周波数スペクトルを取得する(ステップS103)。なお、周波数分析には、フーリエ変換、短時間フーリエ変換、ウェーブレット変換又は離散ウェーブレット変換等の公知の手法が用いられてもよい。フィルタリング部109は、取得された周波数スペクトルに対して周波数分割を行う(ステップS104)。フィルタリング部109は周波数スペクトルを少なくとも3つ以上の周波数帯域に分割する。
【0029】
フィルタリング部109は、周波数分割によって得られた各周波数帯域の周波数スペクトルの信号強度のピーク値が、予め決定された閾値以上である周波数スペクトルを特定する。フィルタリング部109は、特定された周波数スペクトルのピーク値を中心周波数とする(ステップS105)。フィルタリング部109は、特定された周波数スペクトルのうち、周波数成分が最も高いパルス信号と、それ以外の周波数成分のパルス信号とが、同時刻又は所定の差異の範囲内に発生しているパルス信号を特定する(ステップS106)。
【0030】
特徴量決定部110は、特定されたパルス信号に基づいて、特徴量を算出する(ステップS107)。部分放電判定部111は、算出された特徴量があらかじめ定められた設定値よりも大きいか否か判定する(ステップS108)。算出された特徴量があらかじめ定められた設定値よりも大きい場合(ステップS108:YES)、部分放電判定部111は、部分放電“あり”と判定する(ステップS109)。算出された特徴量があらかじめ定められた設定値以下の場合(ステップS108:NO)、部分放電判定部111は、部分放電“なし”と判定する(ステップS110)。
【0031】
図6は、第1の実施形態の検知された2種類の放電に対して周波数フィルタリングを行った結果の一具体例を示す図である。図6(a)は、センサ101によって検知された2種類の放電から生成されたパルス信号を表す図である。図6(a)からは、部分放電検出装置100のユーザは、2種類の放電から生成されたパルス信号を明確に識別できない。図6(b)~図6(d)は、フィルタリング部109によって周波数フィルタリングが行われた結果を表す図である。図6(b)は、センサ101によって検知された信号に対して1MHzで周波数フィルタリングされた結果を表す。図6(c)は、センサ101によって検知された信号に対して12MHzで周波数フィルタリングされた結果を表す。図6(d)は、センサ101によって検知された信号に対して40MHzで周波数フィルタリングされた結果を表す。図6(b)~図6(d)からは、部分放電検出装置100のユーザは、位相が270度~330度近傍のパルス信号について2種類の放電から生成されたパルス信号を明確に識別することが難しいことがわかる。なお、ユーザは、部分放電検出装置100を用いて電気機器10の部分放電の有無を判定するサービスマン等であってもよい。
【0032】
図7は、第1の実施形態の2種類の周波数帯域の強度比の散布図の一具体例を表す図である。図7(a)は、11MHzでフィルタリングされた信号と1MHzでフィルタリングされた信号とのセンサ電圧の値の強度比を表す図である。図7(a)の縦軸は11MHzでフィルタリングされた信号のセンサ電圧の値を表す。図7(a)の横軸は1MHzでフィルタリングされた信号のセンサ電圧を表す。
【0033】
図7(b)は、40MHzでフィルタリングされた信号と1MHzでフィルタリングされた信号とのセンサ電圧の値の強度比を表す図である。図7(b)の縦軸は40MHzでフィルタリングされた信号のセンサ電圧の値を表す。図7(b)の横軸は1MHzでフィルタリングされた信号のセンサ電圧の値を表す。図7(a)及び図7(b)によると、取得された信号には、相関関係の異なる2つの信号が含まれていることがわかる。
【0034】
特徴量決定部110は、図7に表される各信号をグルーピングする。グルーピングする手法は、K-Means法、Mean-shift法又はDBSCAN法等の公知の手法が用いられてよい。グルーピングする手法は、公知の手法であればどのような手法が用いられてもよい。
【0035】
図8は、第1の実施形態のグルーピングされた2種類の放電の信号を表す一具体例を表す図である。図8は、図6(a)に表される信号をグルーピングした図である。図8によると、図6(a)には、2種類の放電の信号が含まれることがわかる。なお、図8に表される散布図の特徴によって、ユーザはどのような放電が含まれているか特定することができる。
【0036】
このように構成された部分放電検出装置100では、。センサ101は、電気機器10の放電によって生じる現象に応じて電気信号を生成する。部分放電は、電気機器の絶縁体の絶縁性能の低下によって発生する。フィルタリング部109が、電気信号を商用電源に分割して周波数スペクトルを得る。フィルタリング部109は、周波数スペクトルから所定の条件を満たす周波数帯域を特定する。部分放電判定部111は、周波数帯域に含まれるパルス信号のうち、所定の条件を満たすパルス信号に基づいて決定された部分放電の特徴を表す特徴量に基づいて部分放電の有無を判定する。このため、部分放電検出装置100は、電源に同期したノイズを含む部分放電を検出した場合であっても、部分放電の有無を検出することができる。また、複数種類の部分放電が検出された場合であっても、部分放電の特徴を表す特徴量に基づいて、どのような部分放電が生じているのか特定することができる。したがって、部分放電検出装置100は。より精度よく部分放電の有無を検出することが可能になる。
【0037】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態における部分放電検出装置100aについて説明する。第1の実施形態における部分放電検出装置100では、100M以上の周波数のノイズが生じた場合、ノイズを放電信号と誤って検出する場合があった。そこで、第2の実施形態における部分放電検出装置100aは、ノイズを検出するためのセンサ101aを備える。ノイズを検出するためのセンサ101aは、電気機器10の外部に設けられる。センサ101aは、ノイズを検出する。部分放電検出装置100aは、検出されたノイズを除去することで誤検出を防ぐ。
【0038】
図9は、第2の実施形態の部分放電検出装置100aの機能構成を表す機能ブロック図である。第2の実施形態における部分放電検出装置100aは、部分放電判定装置102の代わりに部分放電判定装置102aを備え、センサ101a及びセンサ101bをさらに備える点で第1の実施形態とは異なるが、それ以外の構成は同じである。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0039】
センサ101aは、金属製の電極を含んで構成される。センサ101aは、電気機器10の放電によって生じる現象に応じて電気信号を生成する。センサ101aは、電気機器10の近傍に設けられる。センサ101aは、信号線を介して部分放電判定装置102aに接続されている。センサ101aは、生成された電気信号を部分放電判定装置102aに出力する。図9では、センサ101aは1台設けられているが、1台に限定されない。例えば、センサ101aは複数設けられてもよい。
【0040】
センサ101bは、金属製の電極を含んで構成される。センサ101bは、電気機器10の放電によって生じる現象に応じて電気信号を生成する。センサ101bは、電気機器10の内壁面に設けられる。センサ101bは、信号線を介して部分放電判定装置102aに接続されている。センサ101bは、生成された電気信号を部分放電判定装置102aに出力する。図9では、センサ101bは1台設けられているが、1台に限定されない。例えば、センサ101bは複数設けられてもよい。
【0041】
部分放電判定装置102aは、パーソナルコンピュータ、スマートフォン又はタブレットコンピュータ等の情報処理装置である。部分放電判定装置102aは、センサ101、センサ101a及びセンサ101bから受け付けた電気信号に基づいて、部分放電の発生の有無を判定する。部分放電判定装置102aは、部分放電判定プログラムを実行することによって通信部103、入力部104、表示部105、信号記憶部106及び制御部107aを備える装置として機能する。
【0042】
制御部107aは、部分放電判定装置102aの各部の動作を制御する。制御部107aは、例えばCPU等のプロセッサ及びRAMを備えた装置により実行される。制御部107aは、部分放電判定プログラムを実行することによって、電気信号取得部108、フィルタリング部109、特徴量決定部110、部分放電判定部111及び信号除去部112として機能する。
【0043】
信号除去部112は、フィルタリング部109によって特定された複数の周波数帯域のうち、最も高い周波数帯域の電気信号から、所定の条件を満たす電気信号を除去する。所定の条件とは、センサ101aによって電気信号が生成された時刻から、所定の範囲内の時刻に生成された電気信号であることである。所定の範囲内の時刻とは、例えば、センサ101aによって電気信号が生成された時刻と同じ時刻であってもよいし、センサ101aによって電気信号が生成された時刻から予め指定された範囲内の時間であってもよい。
【0044】
図10は、第2の実施形態の除去される電気信号の一具体例を表す図である。図10(a)は、センサ101によって生成された電気信号を表す図である。図10(b)は、センサ101aによって生成された電気信号を表す図である。信号除去部112は、図10(a)及び図10(b)に基づいて、センサ101とセンサ101aとで所定の条件を満たすパルス信号を探索する。所定の条件とは、例えば、センサ101aによって電気信号が生成された時刻と同じ時刻であることであってもよい。信号除去部112は、領域301及び領域302に含まれるパルス信号を同時刻に発生したパルス信号として特定する。領域303は、特定されたパルス信号を表す。特定されたパルス信号は、電気機器の外壁面及び電気機器の近傍に設置されたセンサによって検知されている。このため、特定されたパルス信号は、外部の電磁波の影響を受けたノイズ信号であることがわかる。信号除去部112は、特定されたパルス信号を、フィルタリング部109によって特定された複数の周波数帯域のうち、最も高い周波数帯域の電気信号から除去する。
【0045】
このように構成された部分放電検出装置100では、センサ101aが電気機器の近傍の電磁波を検知し、電気信号を生成する。信号除去部112が、フィルタリング部109によって特定された複数の周波数帯域のうち、最も高い周波数帯域の電気信号から、所定の条件を満たす電気信号を除去する。所定の条件とは、センサ101aによって電気信号が生成された時刻から、所定の範囲内の時刻に生成された電気信号である。外部の電磁波の影響を受けたノイズ信号は、センサ101及びセンサ101aによって検知されるため、上述の電気信号を除去することによって、外部の電磁波の影響を除去した電気信号を得ることができる。したがって、部分放電検出装置100aは。より精度よく部分放電の有無を検出することが可能になる。
【0046】
本実施形態では、部分放電検出装置100は、一台の装置であるとして説明したが、複数の装置として構成されてもよい。部分放電検出装置100は、クラウドコンピューティングシステムによって構成されてもよい。
【0047】
上記各実施形態では、電気信号取得部108、フィルタリング部109、特徴量決定部110、部分放電判定部111及び信号除去部112はソフトウェア機能部であるものとしたが、LSI等のハードウェア機能部であってもよい。
【0048】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、センサ101、フィルタリング部109、特徴量決定部110及び部分放電判定部111を持つことにより、より精度よく部分放電の有無を検出することができる。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
10…電気機器、100…部分放電検出装置、101…センサ、102…部分放電判定装置、103…通信部、104…入力部、105…表示部、106…信号記憶部、107…制御部、108…電気信号取得部、109…フィルタリング部、110…特徴量決定部、111…部分放電判定部、100a…部分放電検出装置、101a…センサ、101b…センサ、102a…部分放電判定装置、107a…制御部、112…信号除去部
図1
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図10