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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】締結構造および産業機械
(51)【国際特許分類】
   F16B 5/02 20060101AFI20221107BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
F16B5/02 E
F16H1/32 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018149781
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020024026
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】王 宏猷
(72)【発明者】
【氏名】中村 江児
(72)【発明者】
【氏名】増田 智彦
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 正貴
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-105752(JP,A)
【文献】特開2014-020472(JP,A)
【文献】特開2007-285406(JP,A)
【文献】特開平10-122988(JP,A)
【文献】特開2003-343523(JP,A)
【文献】実開昭62-98845(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/00- 5/12
23/00-43/02
F16H 1/28- 1/48
48/00-48/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトと、
前記ボルトに貫通された貫通孔と、
ビッカース硬度が300Hv以上であり前記ボルトを受ける座面部と、
前記貫通孔を貫通した前記ボルトが固定される支持部と、を備える締結構造であって、
前記ボルトの呼び径をd〔mm〕とし前記貫通孔の深さをL〔mm〕として、前記ボルトの緩み開始角度は、0.02×L/d〔°〕以上である、締結構造。
【請求項2】
前記ボルトの呼び径をd〔mm〕とし前記貫通孔の深さをL〔mm〕として、前記ボルトの前記緩み開始角度は、0.06×L/d〔°〕以下である、請求項1に記載の締結構造。
【請求項3】
前記ボルトの呼び径をd〔mm〕とし前記貫通孔の深さをL〔mm〕として、前記ボルトの前記緩み開始角度は、0.03×L/d〔°〕以上である、請求項1又は2に記載の締結構造。
【請求項4】
前記座面部及び前記支持部の一方が、減速機である、請求項1~3のいずれか一項に記載の締結構造。
【請求項5】
前記座面部及び前記支持部の一方が、減速機のキャリアの第1部分であって、
前記座面部及び前記支持部の他方が、減速機のキャリアの第2部分である、請求項1~3のいずれか一項に記載の締結構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の締結構造を備える、産業機械。
【請求項7】
ボルトと、
300Hv以上のビッカース硬度を有し前記ボルトの頭部を受ける座面部と、
前記ボルトに貫通された貫通孔と、
前記貫通孔を貫通した前記ボルトが固定される支持部と、を備える締結構造であって、
前記ボルトの呼び径をd〔mm〕とし前記貫通孔の深さをL〔mm〕として、前記ボルトの緩み開始角度は、0.02×L/d〔°〕以上である、締結構造。
【請求項8】
ボルトと、
300Hv以上のビッカース硬度を有し前記ボルトの頭部を受ける座面部と、
前記ボルトが固定される支持部と、を備える締結構造であって、
前記ボルトの呼び径をd〔mm〕とし前記座面部と前記支持部との間に位置する貫通孔の深さをL〔mm〕として、前記ボルトの緩み開始角度は、0.02×L/d〔°〕以上である、締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトを用いた締結構造、及び、この締結構造を含む産業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトを用いた締結が、広く種々の分野で実施されている。一例として、偏心揺動型等の減速機(特許文献1)は、当該減速機から回転を出力される部材と、ボルトを用いて締結される。減速機の出力は、高速駆動の要求から増大を続け、これにともなって、締結に用いられるボルトの数量も増加してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-65301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、減速機には小型化の要望もあり、設置可能なボルト数量には限界がある。その一方で、各ボルトの締め付け力を増大させると、減速機が変形する。このような変形は、締結構造自体に緩みや遊びを生じ、最終的に締結構造の破損に至ることもある。
【0005】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、締結状態を安定して維持することができる締結構造及びこの締結構造を含む産業機械の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による第1の締結構造は、
ボルトと、
前記ボルトに貫通された貫通孔と、
ビッカース硬度が300Hv以上であり前記ボルトの頭部を受ける座面部と、
前記貫通孔を貫通した前記ボルトが固定される支持部と、を備え、
前記ボルトの呼び径をd〔mm〕とし前記貫通孔の深さをL〔mm〕として、前記ボルトの緩み開始角度は、0.02×L/d〔°〕以上である。
【0007】
本発明による第2の締結構造は、
ボルトと、
300Hv以上のビッカース硬度を有し前記ボルトの頭部を受ける座面部と、
前記ボルトに貫通された貫通孔と、
前記貫通孔を貫通した前記ボルトが固定される支持部と、を備える締結構造であって、
前記ボルトの呼び径をd〔mm〕とし前記貫通孔の深さをL〔mm〕として、前記ボルトの緩み開始角度は、0.02×L/d〔°〕以上である。
【0008】
本発明による第3の締結構造は、
ボルトと、
300Hv以上のビッカース硬度を有し前記ボルトの頭部を受ける座面部と、
前記ボルトが固定される支持部と、を備える締結構造であって、
前記ボルトの呼び径をd〔mm〕とし前記座面部と前記支持部との間に位置する貫通孔の深さをL〔mm〕として、前記ボルトの緩み開始角度は、0.02×L/d〔°〕以上である。
【0009】
本発明による第4の締結構造は、
ボルトと、
前記ボルトに貫通された貫通孔と、300Hv以上のビッカース硬度を有し前記ボルトの頭部を受ける座面部と、を有する第1部材と、
前記貫通孔を貫通した前記ボルトが固定される第2部材と、を備え、
前記ボルトの呼び径をd〔mm〕とし前記貫通孔の深さをL〔mm〕として、前記ボルトの緩み開始角度は、0.02×L/d〔°〕以上である。
【0010】
本発明による第1~第4の締結構造において、前記ボルトの呼び径をd〔mm〕とし前記貫通孔の深さをL〔mm〕として、前記ボルトの前記緩み開始角度は、0.06×L/d〔°〕以下としてもよい。
【0011】
本発明による第1~第4の締結構造において、前記ボルトの呼び径をd〔mm〕とし前記貫通孔の深さをL〔mm〕として、前記ボルトの前記緩み開始角度は、0.03×L/d〔°〕以上としてもよい。
【0012】
本発明による第1~第3の締結構造において、前記座面部及び前記支持部の一方が、減速機であってもよい。本発明による第4の締結構造において、前記第1部材及び前記第2部材の一方が、減速機であってもよい。
【0013】
本発明による第1~第3の締結構造において、
前記座面部及び前記支持部の一方が、減速機のキャリアの第1部分であって、
前記座面部及び前記支持部の他方が、減速機のキャリアの第2部分であってもよい。
本発明による第4の締結構造において、
前記第1部材及び前記第2部材の一方が、減速機のキャリアの第1部分であって、
前記第1部材及び前記第2部材の他方が、減速機のキャリアの第2部分であってもよい。
【0014】
本発明による産業機械は、上述した本発明による締結構造のいずれかを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、締結状態を安定して維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施の形態を説明するための図であって、締結構造の適用対象例としての減速機を示す縦断面図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図3は、締結構造を含む産業機械を示す斜視図である。
図4図4は、締結構造を示す断面図である。
図5図5は、図4の締結構造に含まれる減速機を示す平面図である。
図6図6は、緩み開始角度を説明するための図であって、ボルトを緩める際におけるトルクとボルトの回転角度との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施の形態について説明する。図1図6は、締結構造の一実施の形態を説明するための図である。以下においては、本実施の形態に係る締結構造を、一例として、減速機、とりわけ偏心揺動型の減速機に適用した例について説明する。ただし、以下に説明する例に限られず、本実施の形態に係る締結構造を、ボルトを用いて締結された種々の締結製品に適用することが可能である。
【0018】
まず、図1及び図2を参照して、偏心揺動型減速機10の全体的な構成について説明する。減速機10は、ケース20とキャリア30とクランクシャフト40と二個の外歯歯車50a,50bとを有している。ケース20は、内歯25を有している。クランクシャフト40は、キャリア30に支持されて、二個の外歯歯車50a,50bを駆動する。この減速機10では、外歯歯車50a,50bの外歯55が内歯25と噛み合うことにより、キャリア30は、回転軸線RAを中心としてケース20に対して相対回転する。以下において、回転軸線RAと平行な方向を軸方向DAとし、回転軸線RAと直交する方向を径方向DRとする。軸方向DA及び径方向DRは、回転軸線RAを中心とする円周方向DCと直交している。
【0019】
ケース20は、略円筒状のケース本体21と、ケース本体21の内面に保持された内歯ピン24と、を有している。ケース本体21には、円周方向DCに沿って配列されたピン溝が形成されている、ピン溝は、軸方向DAに延び、円柱状の内歯ピン24を収容保持している。内歯ピン24は、軸方向DAに延び、内歯25を形成している。
【0020】
キャリア30は、一対の軸受12を介して回転軸線RAを中心として回転可能となるようケース20によって保持されている。キャリア30は、ボルト(第2ボルト)B2によって互いに固定されたキャリアベース部(「第1部分」とも呼ぶ)31及びプレート部(「第2部分」とも呼ぶ)32を有している。ボルトB2の中心軸線は、軸方向DAと平行となっている。キャリアベース部31は、円板上のベースプレート部31aと、ベースプレート部31aから突出した複数の柱部31bと、を有している。図示された例において、ベースプレート部31a及び複数の柱部31bは、一体的に形成されている。図2に示すように、複数の柱部31bは、回転軸線RAを中心とした円周方向DCに等間隔を開けて設けられている。図示された例において、三つの柱部31bが設けられている。柱部31bの先端面には、ボルトB2と噛み合う螺子穴(第2螺子穴)SH2が形成されている。また、プレート部32には、ボルトB2が噛み合うことなく貫通した貫通孔(第2貫通孔)TH2が形成されている。ボルトB2と貫通孔TH2との間には隙間があいている。
【0021】
キャリア30のキャリアベース部31及びプレート部32には、それぞれ、回転軸線RA上に位置する中央孔34が形成されている。また、キャリア30には、キャリアベース部31及びプレート部32を貫通する貫通孔35が形成されている。複数の貫通孔35が、回転軸線RAを中心とした円周方向DCに等間隔をあけて、キャリアベース部31及びプレート部32にそれぞれ設けられている。図示された例において、キャリアベース部31及びプレート部32に三つの貫通孔35が設けられている。
【0022】
キャリアベース部31及びプレート部32に形成された貫通孔35内に、軸受13a,13bが設けられている。軸方向に設けられた一対の軸受13a,13bによって、クランクシャフト40がキャリア30に対して回転可能に保持されている。なお、クランクシャフト40の回転軸線RACは、軸方向DAと平行になっている。クランクシャフト40は、軸方向DAに配列された二個の偏心体41a,41bと、入力歯車42と、を有している。各偏心体41a,41bは、円板状または円柱状の外形状を有している。二個の偏心体41a,41bの中心軸線CAa,CAbは、クランクシャフト40の回転軸線RACを中心として対称的に偏心されている。
【0023】
二個の外歯歯車50a,50bは、キャリア30のキャリアベース部31のベースプレート部31aとプレート部32との間に形成されたスペース内に配置されている。二個の外歯歯車50a,50bは、軸方向DAに配列されている。図2に示すように、各外歯歯車50a,50bには、中央に位置する中央孔51が形成されている。外歯歯車50a,50bは、中央孔51を中心とした外周縁に沿って配列された外歯55を有している。外歯55の歯数は、ケース20の内歯25の歯数よりも少ない(一例として、一つだけ少ない)。また、外歯歯車50a,50bの外径は、ケース20の内径よりも若干小さくなっている。
【0024】
また、各外歯歯車50a,50bには、中央孔51を中心とした円周方向にそって等間隔あけて設けられた偏心体挿通孔52a,52bが形成されている。偏心体挿通孔52a,52bには、軸受13c,13dがそれぞれ配置されている。この軸受13c,13dによって、クランクシャフト40の偏心体41a,41bが保持されている。
【0025】
さらに、各外歯歯車50a,50bには、中央孔51を中心とした円周方向DCに沿って等間隔あけて設けられた柱部挿通孔53a,53bが形成されている。各外歯歯車50a,50bにおいて、柱部挿通孔53a,53b及び偏心体挿通孔52a,52bは、中央孔51を中心とした円周方向に沿って交互に配置されている。キャリアベース部31の各柱部31bが、外歯歯車50a,50bの対応する柱部挿通孔53a,53bを貫通している。
【0026】
以上の構成を有した減速機10では、モータ等の駆動装置60からのトルクが入力歯車42に伝達される。図示された例において、駆動装置60の入力軸61がキャリア30の中央孔34及び外歯歯車50a,50bの中央孔51に挿入され、入力歯車42に噛み合っている。入力軸61は、回転軸線RAを中心として回転する。駆動装置60から入力歯車42に回転が伝達されると、クランクシャフト40が、回転軸線RACを中心として回転する。このとき第1及び第2偏心体41a,41bは、偏心回転する。また、各外歯歯車50a,50bは、第1及び第2偏心体41a,41bの偏心回転にともなって揺動する。より厳密には、各外歯歯車50a,50bは、キャリア30に対して、回転軸線RAを中心とした円周経路を並進動作する。さらに、外歯歯車50a,50bの揺動時、外歯歯車50a,50bの外歯55がケース20の内歯25と噛み合う。そして、外歯55の歯数が内歯25の歯数よりも少ないので、外歯歯車50a,50bは、ケース20に対して揺動回転する。つまり、外歯歯車50a,50bは、回転軸線RAを中心として公転しながら、さらに自身の中心軸線を中心として自転する。この結果、クランクシャフト40を介して外歯歯車50a,50bを支持するキャリア30も、その中心軸線を回転軸線RAとして、ケース20に対して回転する。このようにして、駆動装置60の入力軸61から入力された回転が、減速されて、20とキャリア30との相対回転として出力される。
【0027】
以上に説明した減速機10は、例えば産業機械IMに組み込まれて使用される。より具体的には、ロボットの旋回胴や腕関節等の旋回部、各種工作機械の旋回部等に、駆動装置とともに減速機10が使用され得る。図3に示された具体例として、ロボット6のベース6Xにケース20を固定し、ロボット6の旋回胴6Yにキャリア30を接続することにより、ベース6Xに対して旋回胴6Yを高トルクで回転させ且つ当該旋回胴6Yの回転を高精度に制御することができる。
【0028】
ここで、図4は、図3に示された産業機械IMにおける減速機10のベース6X及び旋回胴6Yへの接続部を示している。なお、図4は、減速機10のベース6X及び旋回胴6Yへの接続部を構成する部分のみを示しており、例えば外歯歯車50a,50bやクランクシャフト40等の図示を省略している。図5は、回転軸線RAに沿った方向から図4の減速機10を示す平面図である。図5に示す例では、キャリア30のキャリアベース部31の側から減速機10を示している。なお、図示や理解等の便宜から、図4及び図5に示された減速機10のケース20及びキャリア30は、減速機10の全体構成および動作を説明することを目的として参照した図1及び図2に示された例と、部分的に異なる形状及び寸法を有しているが、同様の動作および機能を有している。
【0029】
まず、減速機10とベース6Xとの接続部について説明する。図4に示すように、ケース20のケース本体21は、径方向DRにおいて回転軸線RAから離間する側となる外側に突出したフランジ部22を有している。図5に示すように、フランジ部22は、環状に形成されている。フランジ部22には、複数の貫通孔(第1貫通孔)TH1が形成されている。複数の貫通孔TH1は、周方向DCに沿って等間隔に配置されている。一方、ロボット6のベース6Xには、図4に示すように、各貫通孔TH1に対面する位置に、螺子穴(第1螺子穴)SH1が形成されている。そして、ボルト(第1ボルト)B1が、減速機10の対応する貫通孔TH1を噛み合うことなく通過して、ベース6Xの対応する螺子穴SH1に噛み合っている。このように、複数のボルトB1を用いて、減速機10とベース6Xが結合されている。ボルトB1の中心軸線は、軸方向DAと平行になっている。また、ボルトB1と貫通孔TH1との間には隙間があいている。
【0030】
次に、キャリア30と旋回胴6Yとの接続部について説明する。図5に示すように、キャリア30の旋回胴6Yを向く面には、複数の螺子穴(第3螺子穴)SH3が形成されている。図5に示された例において、周方向DCに隣り合う二つのクランクシャフト40用の貫通孔35の間となる三つの領域のそれぞれに、六つの螺子穴SH3が形成されている。一方、ロボット6の旋回胴6Yには、図4に示すように、各螺子穴SH1に対面する位置に、貫通孔(第3貫通孔)TH3が形成されている。そして、ボルト(第3ボルト)B3が、旋回胴6Yの対応する貫通孔TH3を通過して、減速機10の対応する螺子穴SH3に噛み合っている。このように、複数のボルトB3を用いて、減速機10と旋回胴6Yが結合されている。ボルトB3の中心軸線は、軸方向DAと平行になっている。また、ボルトB3と貫通孔TH3との間には隙間があいている。
【0031】
ところで、従来技術の欄でも言及したように、例えば高速駆動の要求から、減速機10の高出力化が進んでいる。減速機10からの出力が大きい場合、減速機10と旋回胴6Yとの結合および減速機10と旋回胴6Yとの結合をより堅固とする必要がある。その一方で、減速機10には小型化の要望もあり、図4図5に示すように、配置スペースの観点からボルト数量を増加させることが難しいこともある。また、各ボルトによる締め付け力を増した場合には、ボルトの座面を形成する座面部が陥没等の変形を来してしまう。陥没等の変形が生じると、ボルトの締め付け力は簡単に緩んでしまう。
【0032】
一方、本実施の形態では、ボルトを用いた締結構造FSの締結状態を安定して維持するための工夫がなされている。具体的な構成として、ボルトと、ボルトに貫通された貫通孔を有した第1部材M1と、貫通孔を貫通したボルトが噛み合う螺子穴を有した第2部材M2と、を有した締結構造FSにおいて、まず、第1部材M1のボルトの頭部HPを受ける座面部でのビッカース硬度が300Hv以上となっている。加えて、ボルトの緩み開始角度を、「0.02×L/d」〔°〕以上としている。ここで、緩み開始角度を特定するために用いられる「L」は、貫通孔の深さ〔mm〕のことであり、「d」はボルトの呼び径〔mm〕のことである。また、第2部材M2は、ボルトが固定されるようになる支持部を構成する。
【0033】
図4及び図5に示された例において、第1の締結構造FSが、減速機10、とりわけケース20のフランジ部22を第1部材M1として、ロボット6のベース6Xを第2部材M2として、構成されている。この第1の締結構造FSにおいて、ケース本体21のフランジ部22の表面のうちの、各貫通孔TH1の周囲となる領域が、ボルトB1の頭部HPによって加圧される座面部SS1を形成している。そして、座面部SS1でのビッカース硬度が300Hv以上となっている。さらに、このボルトB1の緩み開始角度が「0.02×L/d」〔°〕以上となっている。また、第1の締結構造FSにおいて、ベース6Xが支持部SP1を構成している。
【0034】
また、図4及び図5に示された例において、第2の締結構造FSが、キャリア30のプレート部(第2部分)32を第1部材M1として、キャリア30のキャリアベース部(第1部分)31、とりわけキャリアベース部31の柱部31bを第2部材M2として、構成されている。この第2の締結構造FSにおいて、プレート部32の表面のうちの、各貫通孔TH2に対面して形成された凹部RPの底面が、ボルトB2の頭部によって加圧される座面部SS2を形成している。この凹部RPは、ボルトB2の頭部を収容する収容部を形成している。そして、座面部SS2でのビッカース硬度が300Hv以上となっている。さらに、ボルトB2の緩み開始角度が「0.02×L/d」〔°〕以上となっている。また、第2の締結構造FSにおいて、キャリアベース部31が支持部SP2を構成している。
【0035】
さらに、図4及び図5に示された例において、第3の締結構造FSが、ロボット6の旋回胴6Yを第1部材M1として、減速機10、とりわけ減速機10のキャリア30(より詳しくは、キャリアベース部31のベースプレート部31a)を第2部材M2として、構成されている。この第3の締結構造FSにおいて、旋回胴6Yの表面(内面)のうちの、各貫通孔TH3の周囲となる領域が、ボルトB2の頭部によって加圧される座面部SS3を形成している。そして、座面部SS3でのビッカース硬度が300Hv以上となっている。さらに、ボルトB3の緩み開始角度が「0.02×L/d」〔°〕以上となっている。また、第2の締結構造FSにおいて、キャリアベース部31が支持部SP3を構成している。
【0036】
ここで、ビッカース硬度は、JIS Z 2244に準拠して測定される値であり、Mitutoyo製の硬度試験機810-352を用いて測定される。
【0037】
一方、緩み開始角度とは、ボルトB1~B3を緩めるためのトルクが急激に低下するまでにボルトB1~B3を回転させる角度〔°〕のことを意味している。ボルトを緩める際、一般的に、ボルトに加えるトルクとボルトの回転角度との関係は図6に示すようになる。すなわち、ボルトを一定の回転角度だけ回転させて当該ボルト緩める間、トルクは僅かであるが少しずつ低下する。このときの低下は、概ね連続的となっている。その一方で、ボルトを一定の回転角度だけ回転させると、急激に締め付け力が低下し、ボルトを回転させるためのトルクが急激に低下する。このようにトルクが急激に変化する直前までにボルトを回転させた角度〔°〕を、緩み開始角度と呼ぶ。ボルトの緩み開始角度〔°〕は、ボルトを緩めるために加えたトルクとボルトの回転角度との関係を調べてグラフ化することにより、すなわち図6のグラフを作成することで、特定することができる。
【0038】
なお、本実施の形態において、緩み開始角度〔°〕の最小値は、貫通孔の深さL〔mm〕及びボルトの呼び径d〔mm〕、さらに、ボルトと座面の摩擦係数〔μw〕とボルトの螺子部と支持部の摩擦係数〔μs〕を考慮して決定される。ボルトB1~B3の螺子穴SH1,SH2,SH3内に位置する部分は、当該部分の全長に亘って螺子穴SH1,SH2,SH3と噛み合うことができる。その一方で、ボルトB1~B3の貫通孔TH1,TH2,TH3内に位置する部分は、当該ボルトB1~B3を緩めるためのトルクによって、貫通孔TH1,TH2,TH3に拘束されることなくねじれを生じさせる。そこで、ボルトのうちの貫通孔内に位置する部分でのねじれ角度の影響を省くため、緩み開始角度の最小値を貫通孔の深さL〔mm〕及びボルトの呼び径d〔mm〕を考慮して決定している。
【0039】
座面部SS1,SS2,SS3でのビッカース硬度を300Hv以上とすることにより、より好ましくは400Hv以上とすることにより、さらに好ましくは450Hv以上とすることにより、座面部SS1,SS2,SS3における陥没等の変形を効果的に抑制しながら、高い締め付け力でボルトB1,B2,B3を螺子穴SH1,SH2,SH3に締め付けることが可能となる。なお、座面部SS1,SS2,SS3でのビッカース硬度は、焼き入れの有無や焼き入れ条件の変更によって、調整することができる。
【0040】
なお、座面部SS1,SS2,SS3を有する部品(部材)については、当該部品の全体ではなく、座面部SS1,SS2,SS3を含む部分表面にのみビッカース硬度を300Hv以上とする硬化処理を行うことが好ましい。すなわち、部品の加工性と加工精度を重視して、全面硬化せず、座面部SS1,SS2,SS3のみ硬化を実施することが好ましい。具体的には、座面部SS1,SS2,SS3にレーザ焼入れを実施することにより、座面部SS1,SS2,SS3の硬度を上昇させることができる。部品全体焼入れよりも変形が少なく、部品形状の高精度を維持することができる。部分硬化処理は、レーザ焼入れに限られず、高周波焼入れや、表面に高面圧を加える処理を使用することもできる。
【0041】
また、ボルトの緩み開始角度を「0.02×L/d」〔°〕以上とすることで、より好ましくは「0.03×L/d」〔°〕以上とすることで、さらに好ましくは「0.04×L/d」〔°〕以上とすることで、必要以上にボルトの締め付け力を大きくすることなく、ボルトを用いた第1部材M1及び第2部材M2の締結状態を安定して維持し得ることが確認された。なお、ボルトの緩み開始角度は、ボルトの締め付け力だけでなく、第1部材M1の表面硬度、ボルトと螺子穴の噛み合い長さ、ボルトと第1部材M1との摩擦力、第1部材M1と第2部材M2との摩擦力等を調整することによっても、調整することができる。
【0042】
なお、締結構造FSを減速機10に適用する場合、座面部SS1,SS2,SS3でのビッカース硬度を500Hv以下とすることができる。減速機10の使用、とりわけ産業機械IM用の減速機10の使用においては、500Hvを超えるビッカース硬度が必要とされることは稀である。また、締結構造FSの減速機10への適用においては、メンテナンス時等における取り扱いが困難とならないよう、ボルトの緩み開始角度は「0.06×L/d」〔°〕以下となっていることが好ましい。
【0043】
以上に説明してきたように、本実施の形態において、締結構造FSは、ボルトB1,B2,B3と、ボルトB1,B2,B3に貫通された貫通孔TH1,TH2,TH3と、ビッカース硬度が300Hv以上でありボルトB1,B2,B3を受ける座面部SS1,SS2,SS3と、貫通孔TH1,TH2,TH3を貫通したボルトB1,B2,B3が固定される支持部SP1,SP2,SP3と、を有している。より具体的には、締結構造FSは、ボルトB1,B2,B3と、ボルトB1,B2,B3に貫通された貫通孔TH1,TH2,TH3を有しボルトB1,B2,B3を受ける座面部SS1,SS2,SS3でのビッカース硬度が300Hv以上である第1部材M1,10,20,32,6Yと、貫通孔TH1,TH2,TH3を貫通したボルトB1,B2,B3が噛み合う螺子穴SH1,SH2,SH3を有した第2部材M2,6X,31a,10,30と、を有している。ボルトB1,B2,B3の呼び径をd〔mm〕とし貫通孔TH1,TH2,TH3の深さをL〔mm〕として、ボルトB1,B2,B3の緩み開始角度は、0.02×L/d〔°〕以上となっている。このような締結構造FSによれば、座面部SS1,SS2,SS3の硬度を十分に高い値として、座面部SS1,SS2,SS3の変形(例えば陥没)を効果的に回避しながら、十分に大きな緩み開始角度を確保することができる。そして、この緩み開始角度を大きくすることによって、ボルトB1,B2,B3が第2部材M2,6X,31a,10,30の螺子穴SH1,SH2,SH3に噛み合った状態を安定して維持することを可能にできる。
【0044】
上述した一実施の形態の具体例において、第1部材M1及び第2部材M2の一方を、減速機10、とりわけ減速機10のケース20又はキャリア30としている。したがって、ボルトを用いて減速機10と第1部材M1又は第2部材M2とを安定して締結した状態に維持することができる。これにより、減速機10の出力を上昇させて、高トルクを第1部材M1又は第2部材M2に出力することが可能となる。
【0045】
上述した一実施の形態の具体例において、第1部材M1及び第2部材M2の一方を減速機10のキャリア30の第1部分(キャリアベース部)31とし、第1部材M1及び第2部材M2の他方を減速機10のキャリア30の第2部分(プレート部)32としている。ボルトを用いてキャリア30の第1部分31と第2部分32とを安定して締結した状態に維持することができる。したがって、小型の減速機10の出力を上昇させて、高トルクを出力することが可能となる。
【0046】
具体例を参酌して一実施の形態を説明してきたが、具体例が一実施の形態を限定することを意図していない。上述した一実施の形態は、その他の様々な具体例で実施されることが可能であり、その要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、追加を行うことができる。
【0047】
例えば上述した具体例において、螺子穴を有した第2部材M2が、減速機10またはロボット6の構成要素である例を示したが、この例に限られず、第2部材M2をナットとしてもよい。また、ボルトが噛み合う螺子穴は、図示された例のように有底穴であってもよいし、貫通孔であってもよい。
【0048】
また、締結構造FSの適用対象が偏心揺動型の減速機である例を示したが、これに限られない。締結構造FSの適用対象が、サイクロン型減速機であってもよいし、遊星歯車型減速機であってもよい。さらに、締結構造FSの適用対象は、減速機に限られず、種々の歯車伝動装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 減速機
20 ケース
30 キャリア
40 クランクシャフト
50a,50b 外歯歯車
IM 産業機械
FS 締結構造
M1 第1部材
M2 第2部材
TH1,TH2,TH3 貫通孔
SH1,SH2,SH3 螺子穴
SS1,SS2,SS3 座面部
SP1,SP2,SP3 支持部
B1,B2,B3 ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6