(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】SiC単結晶の評価方法、及び品質検査方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20221107BHJP
【FI】
C30B29/36 A
(21)【出願番号】P 2018152393
(22)【出願日】2018-08-13
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】藤川 陽平
(72)【発明者】
【氏名】鷹羽 秀隆
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/035095(WO,A1)
【文献】特開2018-104220(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131449(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視中央を通る第1の方向に沿って、原子配列面の湾曲量を測定する工程と、
前記原子配列面の湾曲量から基底面転位(BPD)密度を概算する工程と、
前記第1の方向と直交する第2の方向における原子配列面の湾曲量を測定する工程と、
前記第2の方向における原子配列面の湾曲量から基底面転位(BPD)密度を概算する工程と、
を有するSiC単結晶の評価方法。
【請求項2】
基底面転位(BPD)密度が10000cm
-2以下のSiC単結晶に対して評価を行う、請求項1に記載のSiC単結晶の評価方法。
【請求項3】
平面視中央を通り、中央に対して対称な六方向に沿って原子配列面の湾曲量を測定する工程と、
測定された前記六方向のそれぞれに沿う面のそれぞれにおける前記原子配列面の湾曲量から基底面転位(BPD)密度を概算する工程と、を有するSiC単結晶の評価方法。
【請求項4】
SiC単結晶からなるSiCインゴットを複数ロット作製する工程と、
請求項1~3のいずれか一項に記載のSiC単結晶の評価方法を用いて、ロットごとのSiCインゴットの基底面転位(BPD)密度を評価する工程と、を有する品質検査方法。
【請求項5】
SiC単結晶からなるSiCインゴットを作製する工程と、
前記SiCインゴットを前記SiCインゴットの成長方向と交差する方向に切断し、複数の切断体を作製する工程と、
請求項1~3のいずれか一項に記載のSiC単結晶の評価方法を用いて、切断体ごとの基底面転位(BPD)密度を評価する工程と、を有する品質検査方法。
【請求項6】
SiC単結晶からなるSiCウェハを作製する工程と、
請求項1又は2に記載のSiC単結晶の評価方法を用いて、前記第1の方向に沿った複数の測定箇所ごとにおける基底面転位(BPD)密度を評価する工程と、を有する品質検査方法。
【請求項7】
SiC単結晶からなるSiCウェハを作製する工程と、
請求項3に記載のSiC単結晶の評価方法を用いて、第1の方向に沿った複数の測定箇所ごとにおける基底面転位(BPD)密度を評価する工程と、を有する品質検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶の評価方法、及び品質検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
半導体等のデバイスには、SiCウェハ上にエピタキシャル膜を形成したSiCエピタキシャルウェハが用いられる。SiCウェハ上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって設けられたエピタキシャル膜が、SiC半導体デバイスの活性領域となる。
【0004】
そのため、割れ等の破損が無く、欠陥の少ない、高品質なSiCウェハが求められている。なお、本明細書において、SiCエピタキシャルウェハはエピタキシャル膜を形成後のウェハを意味し、SiCウェハはエピタキシャル膜を形成前のウェハを意味する。
【0005】
SiCウェハのキラー欠陥の一つとして、基底面転位(BPD)がある。SiCウェハのBPDの一部はSiCエピタキシャルウェハにも引き継がれ、デバイスの順方向に電流を流した際の順方向特性の低下の要因となる。BPDは、基底面において生じるすべりが発生の原因の一つであると考えられている欠陥である。
【0006】
SiC単結晶におけるBPD密度を評価する方法の一つとして、KOHエッチングを用いたエッチピット分析法が知られている(特許文献1)。エッチピット分析法は、SiC単結晶をKOHエッチングすることでエッチピットを形成し、その形状から転位を判別する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のエッチピット分析法を行ったSiC単結晶は、デバイスに用いることができない。すなわち、エッチピット分析法は破壊検査であり、デバイスに使用するSiC単結晶そのものを検査することができない。そのため、非破壊で検査できる方法が求められている。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、デバイスに使用するSiC単結晶そのものを評価できるSiC単結晶の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、SiC単結晶の原子配列面(格子面)の湾曲量と、基底面転位(BPD)密度との間に、相関関係があることを見出した。そのため、SiC単結晶の原子配列面(格子面)の湾曲量を評価することで、基底面転位(BPD)密度の概算を行うことができることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)第1の態様にかかるSiC単結晶の評価方法は、平面視中央を通る第1の方向に沿って、原子配列面の湾曲量を測定する工程と、前記原子配列面の湾曲量から基底面転位(BPD)密度を概算する工程と、を有する。
【0012】
(2)上記態様にかかるSiC単結晶の評価方法は、基底面転位(BPD)密度が10000cm-2以下のSiC単結晶に対して行ってもよい。
【0013】
(3)上記態様にかかるSiC単結晶の評価方法は、前記第1の方向と直交する第2の方向における原子配列面の湾曲量を測定する工程と、前記第2の方向における原子配列面の湾曲量から基底面転位(BPD)密度を概算する工程と、をさらに有してもよい。
【0014】
(4)第2の態様にかかる品質検査方法は、SiC単結晶からなるSiCインゴットを複数ロット作製する工程と、上記態様にかかるSiC単結晶の評価方法を用いて、ロットごとのSiCインゴットの基底面転位(BPD)密度を評価する工程と、を有する。
【0015】
(5)第3の態様にかかる品質検査方法は、SiC単結晶からなるSiCインゴットを作製する工程と、前記SiCインゴットを前記SiCインゴットの成長方向と交差する方向に切断し、複数の切断体を作製する工程と、上記態様にかかるSiC単結晶の評価方法を用いて、切断体ごとの基底面転位(BPD)密度を評価する工程と、を有する。
【0016】
(6)第4の態様にかかる品質検査方法は、SiC単結晶からなるSiCウェハを作製する工程と、上記態様にかかるSiC単結晶の評価方法を用いて、前記第1の方向に沿った複数の測定箇所ごとにおける基底面転位(BPD)密度を評価する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
上記態様にかかるSiC単結晶の評価方法を用いると、デバイスに使用するSiC単結晶そのものを評価できる。またデバイスに使用するSiC単結晶の全数検査も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】SiC単結晶を平面視中心を通る第1の方向に延在する直線に沿って切断した切断面の模式図である。
【
図2】SiC単結晶の原子配列面の一例を模式的に示した図である。
【
図3】SiC単結晶の原子配列面の別の例を模式的に示した図である。
【
図4】原子配列面の湾曲量の測定方法を具体的に説明するための図である。
【
図5】原子配列面の湾曲量の測定方法を具体的に説明するための図である。
【
図6】原子配列面の湾曲量の測定方法を具体的に説明するための図である。
【
図7】原子配列面の湾曲量の測定方法を具体的に説明するための図である。
【
図8】複数のXRDの測定点から原子配列面の曲率半径を求めた例を示す。
【
図9】原子配列面の湾曲量の測定方法の別の例を具体的に説明するための図である。
【
図10】原子配列面の湾曲量の測定方法の別の例を具体的に説明するための図である。
【
図11】同一の条件で作製したSiCインゴットをその積層方向に4分割した各切断体の原子配列面とBPD密度との関係を示す。
【
図12】異なるSiCインゴットの原子配列面の曲率半径とBPD密度との関係を示す。
【
図13】SiCウェハの一例を平面視した図である。
【
図14】SiCウェハの測定箇所ごとの原子配列面の曲率半径とBPD密度との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
「SiC単結晶の評価方法」
本実施形態にかかるSiC単結晶の評価方法は、平面視中央を通る第1の方向に沿って、原子配列面の湾曲量を測定する工程と、原子配列面の湾曲量から基底面転位(BPD)密度を概算する工程と、を有する。
【0021】
<原子配列面の湾曲量の測定>
図1は、SiC単結晶を平面視中心を通る第1の方向に延在する直線に沿って切断した切断面の模式図である。第1の方向は、原子配列面の湾曲量とBPD密度との相関関係を事前に調べた方向であれば、任意の方向を設定できる。
図1では、第1の方向を[1-100]としている。
図1において上側は[000-1]方向、すなわち<0001>方向に垂直に切断をした時にカーボン面(C面、(000-1)面)が現れる方向である。以下、第1の方向を[1-100]とした場合を例に説明する。
【0022】
ここで結晶方位及び面は、ミラー指数として以下の括弧を用いて表記される。()と{}は面を表す時に用いられる。()は特定の面を表現する際に用いられ、{}は結晶の対称性による等価な面の総称(集合面)を表現する際に用いられる。一方で、<>と[]は方向を表す特に用いられる。[]は特定の方向を表現する際に用いられ、<>は結晶の対称性による等価な方向を表現する際に用いられる。
【0023】
図1に示すように、SiC単結晶1は、複数の原子Aが整列してなる単結晶である。そのため
図1に示すように、SiC単結晶の切断面をミクロに見ると、複数の原子Aが配列した原子配列面2が形成されている。切断面における原子配列面2は、切断面に沿って配列する原子Aを繋いで得られる切断方向と略平行な方向に延在する線として表記される。
【0024】
切断面における原子配列面2の形状は、SiC単結晶1の最表面の形状によらず、凸形状、凹形状となっている場合がある。また原子配列面2の形状は切断方向によって異なっている場合がある。原子配列面2の形状としては、例えば
図2に示すように中心に向かって窪んだ凹形状、
図3に示すように所定の切断面では凹形状、異なる切断面では凸形状のポテトチップス型(鞍型)の形状等がある。
【0025】
原子配列面2の形状はX線回折(XRD)により測定できる。測定する面は測定する方向に応じて決定される。測定方向を[hkil]とすると、測定面は(mh mk mi n)の関係を満たす必要がある。ここで、mは0以上の整数であり、nは自然数である。例えば、[11-20]方向に測定する場合は、m=0、n=4として(0004)面、m=2、n=16として(22-416)面等が選択される。一方で、[11-20]方向に測定する場合は、m=0、n=4として(0004)面、m=3、n=16として(3-3016)面等が選択される。すなわち測定面は、測定方向によって異なる面であってもよく、原子配列面は必ずしも同じ面とはならなくてもよい。上記関係を満たすことで、結晶成長時に及ぼす影響の少ないa面又はm面方向の格子湾曲をc面方向の格子湾曲と誤認することを防ぐことができる。また測定はC面、Si面のいずれの面を選択してもよいが、一つのサンプルにおいて測定方向は変更しない。
【0026】
X線回折データは、所定の方向に沿って中心、端部、中心と端部との中点の5点において取得する。原子配列面2が湾曲している場合、X線の反射方向が変わるため、中心とそれ以外の部分とで出力されるX線回折像のピークのω角の位置が変動する。この回折ピークの位置変動から原子配列面2の湾曲方向を求めることができる。また回折ピークの位置変動から原子配列面2の曲率半径も求めることができ、原子配列面2の湾曲量も求めることができる。
【0027】
(原子配列面の湾曲量の測定方法(方法1)の具体的な説明)
SiC単結晶をスライスした試料(以下、ウェハ20と言う)の外周端部分のXRDの測定値から原子配列面の湾曲方向及び湾曲量を測定する方法について具体的に説明する。
【0028】
図4に平面視中心を通り原子配列面の測定の方向、例えば[1-100]方向に沿って切断した切断面を模式的に示す。ウェハ20の半径をrとすると、断面の横方向の長さは2rとなる。また
図4にウェハ20における原子配列面22の形状も図示している。
図4に示すように、ウェハ20自体の形状は平坦であるが、原子配列面22は湾曲している場合がある。
図4に示す原子配列面22は左右対称であり、凹型に湾曲している。この対称性は、SiC単結晶(インゴット)の製造条件が通常中心に対して対称性があることに起因する。なお、この対称性とは、完全対称である必要はなく、製造条件の揺らぎ等に起因したブレを容認する近似としての対称性を意味する。
【0029】
次いで、
図5に示すように、XRDをウェハ20の両外周端部に対して行い、測定した2点間のX線回折ピーク角度の差Δθを求める。このΔθが測定した2点の原子配列面22の傾きの差になっている。X線回折測定に用いる回折面は、上述のように切断面にあわせて適切な面を選択する。
【0030】
次に、
図6に示すように、得られたΔθから湾曲した原子配列面22の曲率半径を求める。
図6には、ウェハ20の原子配列面22の曲面が円の一部であると仮定して、測定した2箇所の原子配列面に接する円Cを示している。
図6から幾何学的に、接点を両端とする円弧を含む扇型の中心角φは、測定したX線回折ピーク角度の差Δθと等しくなる。原子配列面22の曲率半径は、当該円弧の半径Rに対応する。円弧の半径Rは以下の関係式で求められる。
【0031】
【0032】
そして、この円弧の半径Rとウェハ20の半径rとから、原子配列面22の湾曲量dが求められる。
図7に示すように、原子配列面22の湾曲量dは、円弧の半径から、円弧の中心からウェハ20に下した垂線の距離を引いたものに対応する。円弧の中心からウェハ20に下した垂線の距離は、三平方の定理から算出され、以下の式が成り立つ。なお、本明細書では曲率半径が正(凹面)の場合の湾曲量dを正の値とし、負(凸面)の場合の湾曲量dを負の値と定義する。
【0033】
【0034】
上述のように、XRDのウェハ20の両外側端部の測定値だけからRを測定することもできる。一方で、この方法を用いると、測定箇所に局所的な歪等が存在した場合において、形状を見誤る可能性もある。その為、複数箇所でX線回折ピーク角度の測定を行って、単位長さ辺りの曲率を以下の式から換算する。
【0035】
【0036】
図8に、複数のXRDの測定点から原子配列面の曲率半径を求めた例を示す。
図8の横軸はウェハ中心からの相対位置であり、縦軸はウェハ中心回折ピーク角に対する各測定点の相対的な回折ピーク角度を示す。
図8は、ウェハの[1-100]方向を測定し、測定面を(3-3016)とした例である。測定箇所は5カ所で行った。5点はほぼ直線に並んでおり、この傾きから、dθ/dr=8.69×10
-4deg/mmが求められる。この結果を上式に適用することでR=66mの凹面であることが計算できる。そして、このRとウェハの半径r(75mm)から、原子配列面の湾曲量dが42.6μmと求まる。
【0037】
ここまで原子配列面の形状が凹面である例で説明したが、凸面の場合も同様に求められる。凸面の場合は、Rはマイナスとして算出される。
【0038】
(原子配列面の湾曲量の別の測定方法(方法2)の説明)
原子配列面の湾曲量は、別の方法で求めてもよい。
図9に平面視中心を通り原子配列面の測定の方向、例えば[1-100]方向に沿って切断した切断面を模式的に示す。
図9では、原子配列面22の形状が凹状に湾曲している場合を例に説明する。
【0039】
図9に示すように、ウェハ20の中心とウェハ20の中心から距離xだけ離れた場所の2箇所で、X線回折の回折ピークを測定する。インゴットの製造条件の対称性からウェハ20の形状は、近似として左右対称とすることができ、原子配列面22はウェハ20の中央部で平坦になると仮定できる。そのため、
図10に示すように測定した2点における原子配列面22の傾きの差をΔθとすると、原子配列面22の相対的な位置yは以下の式で表記できる。
【0040】
【0041】
中心からの距離xの位置を変えて複数箇所の測定をすることで、それぞれの点でウェハ中心と測定点とにおける原子配列面22の相対的な原子位置を求めることができる。
この方法は、それぞれの測定箇所で原子配列面における原子の相対位置が求められる。そのため、局所的な原子配列面の湾曲量を求めることができる。また、ウェハ20全体における原子配列面22の相対的な原子位置をグラフとして示すことができ、原子配列面22のならびを感覚的に把握するために有益である。
【0042】
ここでは、測定対象をウェハ20の場合を例に説明した。測定対象がSiCインゴットやSiCインゴットから切断された切断体の場合も、同様に原子配列面の湾曲量を求めることができる。
【0043】
<原子配列面の湾曲量からBPD密度の概算>
次いで、測定した原子配列面の湾曲量からBPD密度を概算する。
図11は、作製したSiCインゴットをその積層方向に4分割した各切断体の原子配列面とBPD密度との関係を示す。以下の表1は、測定位置と、原子配列面の曲率半径と、BPD密度との関係を示す。なお、測定位置は、種結晶からのSiCインゴットの成長量を意味し、種結晶と成長領域との界面からの距離を意味する。
【0044】
【0045】
図11に示すように、原子配列面の曲率半径とBPD密度とは対応関係を有する。原子配列面の曲率半径が大きい(原子配列面の湾曲量が小さい)ほど、BPD密度は少なくなる傾向にある。内部に応力が残留した結晶は、結晶面のすべりを誘起させ、BPDの発生と共に原子配列面2を湾曲させると考えられる。あるいは、逆に、湾曲量が大きい原子配列面2が、ひずみを有し、BPDの原因となることも考えられる。いずれの場合においても、原子配列面の湾曲が大きいほどBPD密度が大きくなる。
【0046】
この原子配列面の曲率半径とBPD密度との対応関係から、測定試料のBPD密度を概算することができる。原子配列面の曲率半径とBPD密度との対応関係は、同一条件で作製した別の試料における測定結果から検量線を作成することで、事前に入手できる。原子配列面の湾曲量は、測定方向によっても異なる場合(
図2、
図3参照)がある。そのため検量線を作成する試料の測定方向と、測定試料の測定方向(第1の方向)とは一致させることが好ましい。
【0047】
上述のように、本実施形態にかかるSiC単結晶の評価方法によれば、デバイスに使用するSiC単結晶そのものを、非破壊で評価できる。品質評価において現物評価とサンプリング評価では、現物評価の方が信頼性は高い。そのため、本実施形態にかかるSiC単結晶の評価方法を用いることで、顧客に対してより信頼性の高い評価を提示することができる。また試料の全数検査を行うことも可能となる。
【0048】
また本実施形態にかかるSiC単結晶の評価方法に用いる評価試料(SiC単結晶)のBPD密度は、10000cm-2以下であることが好ましく、5000cm-2以下であることがより好ましい。BPDは、原子配列面の湾曲以外にも様々な要因で発生する。そのため、BPD密度が大きいSiC単結晶は、原子配列面の湾曲以外の要因で発生したBPDを含む場合がある。このようなBPDを含むと、原子配列面の曲率半径とBPD密度との対応関係が乱れ、検量線に対する精度が低下する。BPD密度が10000cm-2以下の試料であれば、原子配列面の曲率半径とBPD密度との間に、明確な対応関係を確認できる。
【0049】
また本実施形態にかかるSiC単結晶の評価方法は、第1の方向と直交する第2の方向における原子配列面の湾曲量を測定する工程と、第2の方向における原子配列面の湾曲量から基底面転位(BPD)密度を概算する工程と、をさらに有してもよい。
【0050】
第1の方向の結果からBPD密度を概算することは、上述のように可能である。一方で、原子配列面の湾曲量は、測定方向によっても異なる場合(
図2、
図3参照)がある。そのため、複数の方向における原子配列面の湾曲量を求め、それぞれの方向から概算されるBPD密度を求めることで、BPD密度の概算の精度をより高めることができる。
【0051】
また二方向に限られず、より複数の方向で測定してもよい。SiC単結晶1の結晶構造は六方晶である。そのため、中心に対して対称な六方向に沿って原子配列面の湾曲量を測定すると、より高い精度でBPD密度を概算できる。
【0052】
「品質検査方法」
本実施形態にかかる品質検査方法は、上述のSiC単結晶の評価方法を用いる。SiC単結晶の品質検査は、SiCインゴットのロットごと、一つのSiCインゴット内の場所ごと、SiCウェハの複数の場所ごとのそれぞれで行うことができる。
【0053】
<ロット評価>
ロットごとの評価を行う際の品質検査方法は、SiC単結晶からなるSiCインゴットを複数ロット作製する工程と、上記のSiC単結晶の評価方法を用いて、ロットごとのSiCインゴットの基底面転位(BPD)密度を評価する工程と、を有する。
【0054】
まずSiCインゴットを複数ロット作製する。各SiCインゴットは公知の方法で作製する。各SiCインゴットの製造条件は大きく変更しないことが好ましい。原子配列面の湾曲量とBPD密度との対応関係を示す検量線は、SiCインゴットの製造条件によっても変わるためである。
【0055】
そして、作製したSiCインゴットのそれぞれの原子配列面の湾曲量を求める。この際、SiCインゴットにおける測定位置及び測定方向は同一とすることが好ましい。また原子配列面の湾曲量を測定する際は、上述の方法1で測定することが好ましい。方法2は、回折条件によっては部分的に測定しにくい位置(特にウェハの一方の端部近く)が生じる場合があり、また結晶性が悪い部分があると誤差を含みやすい。
【0056】
図12は、異なるSiCインゴットの原子配列面の曲率半径とBPD密度との関係を示す。なお、
図12の測定においては、第1の方向を[11-20]とした。
図12に示すように、異なるロットごとの原子配列面の曲率半径の結果を集めても、原子配列面の曲率半径とBPD密度との間に対応関係が確認できる。そのため、ロットごとの測定においても検量線を引くことができる。
【0057】
上述のように、ロットごとの原子配列面の湾曲量を評価することで、ロットごとのSiCインゴットのBPD密度を評価することができる。そのため、同一条件で各ロットを作製しているにも関わらず、極端に原子配列面の湾曲量の異なるロットが発生した場合、製造プロセス等に問題が発生していることを非破壊で判断することができる。また各ロット間におけるBPD密度の推移も把握することができる。
【0058】
<インゴット評価>
一つのSiCインゴット内の場所ごとの評価を行う際の品質検査方法は、SiC単結晶からなるSiCインゴットを作製する工程と、SiCインゴットをSiCインゴットの成長方向と交差する方向に切断し、複数の切断体を作製する工程と、上述のSiC単結晶の評価方法を用いて、切断体ごとの基底面転位(BPD)密度を評価する工程と、を有する。
【0059】
まずSiCインゴットを作製する。SiCインゴットは公知の方法で作製する。次いで、作製したSiCインゴットを複数の切断体に分割する。切断方向は、SiCインゴットの成長方向に対して交差する向きとする。
【0060】
最後に得られたSiCインゴットの切断体ごとに、原子配列面の湾曲量を求める。原子配列面の湾曲量は、上述の方法1で測定することが好ましい。
図11は、切断体ごとの原子配列面の曲率半径とBPD密度との関係を示す。上述のように、
図11に示す原子配列面の曲率半径とBPD密度とは対応関係を有するため、SiCインゴットの成長過程におけるBPD密度の推移を把握することができる。
【0061】
<SiCウェハ評価>
SiCウェハの場所ごとの評価を行う際の品質検査方法は、SiC単結晶からなるSiCウェハを作製する工程と、上述のSiC単結晶の評価方法を用いて、第1の方向に沿った複数の測定箇所ごとにおける基底面転位(BPD)密度を評価する工程と、を有する。
【0062】
SiCウェハは、SiCインゴットを切断して得られる。
図13は、SiCウェハの一例を平面視した図である。SiCウェハを評価する場合は、測定する第1の方向に沿った複数の測定箇所Mpのそれぞれで原子配列面の湾曲量を求める。この場合は、上述の方法2を用いることが好ましい。
図13では、第1の方向を[11-20]とした。
【0063】
原子配列面2の湾曲量を測定するSiCウェハの厚みは、500μm以上であることが好ましい。SiCウェハの厚みが500μm以上であれば、SiCウェハの反りを抑制できる。SiCウェハ自体が反ると、原子配列面2の湾曲量を正確に見積もることが難しくなる。SiCウェハの反り量としては、任意の方向に5μm以下であることが好ましい。ここでSiCウェハの反り量とは、平坦面に試料を載置した際に、試料の平坦面側の載置面から平坦面に向けて下した垂線の距離の最大値を指す。
【0064】
図14は、SiCウェハの測定箇所Mpごとの原子配列面の曲率半径とBPD密度との関係を示す。
図14に示すように、SiCウェハの一領域である所定の測定箇所Mpを測定しても、原子配列面の曲率半径とBPD密度との間には対応関係が確認される。すなわち、ロット評価やインゴット評価のようにSiC単結晶全体の平均値としてのBPD密度だけでなく、ウェハの一領域のBPD密度も概算することができる。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…SiC単結晶、2,22…原子配列面、ウェハ…20、A…原子