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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】制振ダンパー及び制振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20221107BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20221107BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
F16F15/02 K
F16F15/02 C
F16F15/023 A
E04H9/02 351
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018156588
(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2020020466
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2018137607
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593063161
【氏名又は名称】株式会社NTTファシリティーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 明徳
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真司
(72)【発明者】
【氏名】林 政輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幹夫
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-249870(JP,A)
【文献】特開2014-122509(JP,A)
【文献】特開2004-270822(JP,A)
【文献】特開平07-324518(JP,A)
【文献】特開平09-256677(JP,A)
【文献】特開昭62-151638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00- 9/16
F16F 9/00- 9/58
15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象物の振動を伝達する伝達部材の直線運動を回転運動に変換する第1ギア部と、
前記第1ギア部と同軸に設けられていて振動を減衰させる第1ロータリーダンパーと、
前記第1ギア部及び第1ロータリーダンパーを同軸に支持して一体回転させる第1軸部材を備えた第1制振ダンパーと、
前記制振対象物の振動を伝達する前記伝達部材の直線運動を回転運動に変換する第2ギア部と、
前記第2ギア部と同軸に設けられていて振動を減衰させる第2ロータリーダンパーと、
前記第2ギア部及び第2ロータリーダンパーを同軸に支持して一体回転させる第2軸部材を備えた第2制振ダンパーと、
を備え、
前記第1制振ダンパーの減衰特性と前記第2制振ダンパーの減衰特性とを組み合わせて減衰特性を調整可能にした
ことを特徴とする制振ダンパー。
【請求項2】
制振対象物の振動を伝達する伝達部材の直線運動を回転運動に変換する第1仲介ギア部と、
前記第1仲介ギア部に噛合する第1ギア部と、
前記第1ギア部と同軸に設けられていて振動を減衰させる第1ロータリーダンパーと、
前記第1ギア部及び第1ロータリーダンパーを同軸に支持して一体回転させる第1軸部材を備えた第1制振ダンパーと、
前記制振対象物の振動を伝達する前記伝達部材の直線運動を回転運動に変換する第2仲介ギア部と、
前記第2仲介ギア部に噛合する第2ギア部と、
前記第2ギア部と同軸に設けられていて振動を減衰させる第2ロータリーダンパーと、
前記第2ギア部及び第2ロータリーダンパーを同軸に支持して一体回転させる第2軸部材を備えた第2制振ダンパーと、
を備え、
前記第1制振ダンパーの減衰特性と前記第2制振ダンパーの減衰特性とを組み合わせて減衰特性を調整可能にして、
前記第1仲介ギア部は、前記伝達部材に設けた歯部に噛合する小径の歯部と前記第1ギア部に噛合する大径の歯部とが同軸に一体回転可能に設けられている
ことを特徴とする制振ダンパー。
【請求項3】
前記第1軸部材には、前記第1ギア部と前記第1ロータリーダンパーの間、または前記第1ロータリーダンパーに対して前記第1ギア部と反対側に第一回転体が取り付けられ、前記第一回転体は前記第1軸部材によって前記第1ギア部と同軸に支持されて一体回転する請求項1または2に記載された制振ダンパー。
【請求項4】
前記第1軸部材には、前記第1軸部材と同軸に設けられた軸固定部と、前記軸固定部に設けられていて前記第1軸部材から径方向外側に延びる支持部と、前記支持部に設けられた重り部と、を有する振り子状の第二回転体が設けられた請求項1または2に記載された制振ダンパー。
【請求項5】
前記第二回転体は、前記第1ギア部と前記第1ロータリーダンパーの間、または前記第1ロータリーダンパーに対して前記第1ギア部と反対側に設けられた請求項4に記載された制振ダンパー。
【請求項6】
前記第二回転体は、前記軸固定部の対向する位置に前記支持部及び前記重り部がそれぞれ径方向外側に設けられている請求項4または5に記載された制振ダンパー。
【請求項7】
前記第1軸部材が水平方向に配設され、少なくとも前記第1ギア部及び前記第1ロータリーダンパーが縦置きされている請求項1から6のいずれか1項に記載された制振ダンパー。
【請求項8】
前記第一回転体は前記第1ロータリーダンパーの外側に設置されていて、取り外し可能、追加可能または交換可能とした請求項3に記載された制振ダンパー。
【請求項9】
前記第二回転体は少なくとも重り部が取り外し可能、追加可能または交換可能とした請求項4,5,6のいずれか1項に記載された制振ダンパー。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載された制振ダンパーが、それぞれ前記伝達部材の直線運動を回転運動に変換するように複数設けられていることを特徴とする制振装置。
【請求項11】
請求項3又は請求項8に記載された制振ダンパーが、それぞれ前記伝達部材の直線運動を回転運動に変換するように複数設けられていて、前記制振ダンパーの少なくとも一部は、前記第1ギア部及び前記第一回転体で構成されている制振装置。
【請求項12】
請求項4又は請求項9に記載された制振ダンパーが、それぞれ前記伝達部材の直線運動を回転運動に変換するように複数設けられていて、前記制振ダンパーの少なくとも一部は、前記第2ギア部及び前記第二回転体で構成されている制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建造物の制振ダンパーとして用いることができて、減衰特性を任意に設定可能な制振ダンパー及び制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な制振ダンパーは、装置の内部に封入されたオイルや粘性体等の抵抗力を利用して減衰力を得る構造になっており、減衰特性の異なる複数種類の制振ダンパーから好適なものを選択して用いる。このような制振ダンパーとして、例えば特許文献1に記載されたものが提案されている。
図15(a)に示す制振装置100では、建造物BLの架構に柱P1、P2と梁Q1、Q2で形成された空間103内の対角線方向に片ブレース101が設置され、この片ブレース101に制振ダンパー102が配設されている。図15(b)に示す制振装置104では、建造物の架構に形成される空間103にY型ブレース105が設置され、その頂部と柱P1を連結する制振ダンパー106が設置されている。
これらの制振装置100,104は、地震等の発生時に制振ダンパー102,106によって減衰力を付与することができる。
【0003】
また、特許文献2に記載の免震装置では、地盤等の支持構造物と建造物等の免震対象物との間に回転慣性免震装置が設置されている。免震対象物の下部には水平面内で往復移動可能なリニアスライダが設置され、支持構造物にはリニアスライダの直線運動を回転運動に変換する回転装置が設置されている。回転装置はリニアスライダの直線運動を回転運動に変換する入力回転体と、その回転を増速させる歯車列からなる歯車装置と、歯車列の回転伝達を受けて回転運動して減衰力を増幅させる回転質量体と、を備えている。これにより、免震対象物と支持構造物との相対変位を抑制している。
この免震装置では、歯車装置における歯車列の数を適宜に設定でき、歯車列を介して回転質量体を増速させて回転することで回転慣性が効果的に増加して振動の減衰を発揮できる。しかも、免震装置を小型化できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-214721号公報
【文献】特開2007-10110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した制振装置や免震装置では、建設予定の建造物に対して予め設計または製造された製品ラインアップから選択することが前提になり、最適な制振装置の選択には限界があった。また、層間速度が小さい場合には振動の減衰効果が得られにくいという問題があった。さらに、減衰性能の向上に伴って制振装置の外形寸法が大きくなり、制振装置の設置スペースを確保するのが困難になるという問題もあった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、ギア部の外径寸法に応じて減衰特性を任意に設定できて建物特性に応じた最適設計が可能になる上に、一層コンパクトな制振ダンパー及び制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による制振ダンパーは、制振対象物の振動を伝達する伝達部材の直線運動を回転運動に変換するギア部と、ギア部と同軸に設けられていて振動を減衰させるロータリーダンパーと、ギア部及びロータリーダンパーを同軸に支持して一体回転させる軸部材と、を備えたことを特徴とする。
本発明に係る制振ダンパーによれば、ギア部とロータリーダンパーを同軸で一体回転させると共に、ギア部の外径に応じてロータリーダンパーの回転数を変化させて減衰特性を任意に設定できるため、大きな制振効果を発揮できる。しかも、ギア部とロータリーダンパーが同軸であるため、制振ダンパーの外形をよりコンパクトにすることができる。
【0008】
本発明による制振ダンパーは、制振対象物の振動を伝達する伝達部材の直線運動を回転運動に変換する仲介ギア部と、仲介ギア部に噛合するギア部と、ギア部と同軸に設けられていて振動を減衰させるロータリーダンパーと、ギア部及びロータリーダンパーを同軸に支持して一体回転させる軸部材と、を備え、仲介ギア部は、伝達部材に設けた歯部に噛合する小径の歯部とギア部に噛合する大径の歯部とが同軸に一体回転可能に設けられていることを特徴とする。
本発明による制振ダンパーにおいて、伝達部材とギア部の間に仲介ギア部を噛合させることで、小径の歯部及び大径の歯部を介してギア部をより高速回転させることができるため、減衰特性の一層大きな増幅効果を得られる。
【0009】
また、軸部材には、ギア部とロータリーダンパーの間、またはロータリーダンパーに対してギア部と反対側に第一回転体が取り付けられ、第一回転体は軸部材によってギア部と同軸に支持されて一体回転することが好ましい。
本発明によれば、重りとなる第一回転体を取り付けることで回転慣性モーメントを付与できるため、第一回転体との組み合わせを選択できて、制振ダンパーの減衰特性を一層、任意に設定することができる。
【0010】
また、軸部材には、該軸部材と同軸に設けられた軸固定部と、軸固定部から径方向外側に延びる支持部と、支持部に設けられた重り部と、を有する振り子状の第二回転体が設けられていることが好ましい。
本発明によれば、回転慣性モーメント(等価質量)は質量に比例し、回転半径の2乗に比例することから、第二回転体において軸固定部から支持部を介して重りまでの回転半径を大きくすることで小さな重り(質量)で大きな抵抗力を得ることができる。
【0011】
また、第二回転体は、ギア部とロータリーダンパーの間、またはロータリーダンパーに対してギア部と反対側に設けられていてもよい。
第二回転体は、ロータリーダンパーのギア部側とギア部の反対側とのいずれかの位置を選択して取り付けできる。
【0012】
また、第二回転体は、軸固定部の対向する位置に支持部と重り部がそれぞれ径方向外側に設けられていてもよい。
この場合、位置が下がる方向に旋回する重り部は重力によって回転慣性モーメントを増幅する方向に働く。これに対向して設けられた重り部は位置が上がる方向に旋回し回転慣性モーメントを減縮させる方向に働くため、重力の影響を相殺させることができる。
【0013】
また、軸部材が水平方向に配設され、少なくともギア部及びロータリーダンパーが縦置きされていることが好ましい。
制振ダンパーを縦置きすることによって平面的な設置スペースが小さくて済むため、建造物等の制振対象物において設置位置の制約が小さい。
【0014】
また、第一回転体はロータリーダンパーの外側に設置されていて、取り外し可能、追加可能または交換可能としてもよい。
制振ダンパーの第一回転体をロータリーダンパーの外側に設置したことにより、第一回転体を取り外し、追加、または質量の異なるものに交換することができ、用途変更等に伴い制振対象物の振動性状が変化した場合においても、最適な減衰特性に調整して対応可能である。
【0015】
また、第二回転体は取り外し可能、追加可能または交換可能としてもよい。
制振ダンパーの第二回転体は軸部材に固定した軸固定部の径方向外側に支持部を介して重りを設けたため、重りを質量の異なるものに交換することで、用途変更等に伴い制振対象物の振動性状が変化した場合においても、最適な減衰特性に調整して対応可能である。
【0016】
本発明による制振装置は、上述したいずれかの制振ダンパーが、それぞれ伝達部材の直線運動を回転運動に変換するように複数設けられていることを特徴とする。
複数の制振ダンパーを配設することで、ロータリーダンパーは1種類のみで広範囲かつ連続的に減衰特性を設定できる。
【0017】
また、複数の制振ダンパーの少なくとも一部は、ギア部及びロータリーダンパーで構成されていてもよい。
一部の制振ダンパーをギア部及びロータリーダンパーで構成することで、要求される減衰特性に対応するように制振装置の減衰特性を調整できる。
【0018】
また、複数の制振ダンパーの少なくとも一部は、ギア部及び第一回転体または第二回転体で構成されていてもよい。
この場合も、要求される減衰特性に対応するように制振装置の減衰特性を調整できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明による制振ダンパー及び制振装置によれば、ギア部とロータリーダンパーを同軸で一体回転させると共に、ギア部の外径に応じてロータリーダンパーによって任意の減衰特性を設定できる。しかも、ギア部とロータリーダンパーが同軸で一体であるため、制振ダンパー及び制振装置の外形をよりコンパクトにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一実施形態による制振装置を建造物の架構に取り付けた状態の要部説明図である。
図2図1に示す制振装置の要部構成を示す正面図である。
図3図2に示す制振装置のA-A線断面図である。
図4】第二実施形態による制振装置の要部構成を示す正面図である。
図5図4に示す制振装置のB-B線断面図である。
図6】第二実施形態の変形例による制振装置の要部構成を示す正面図である。
図7】実施例1による制振ダンパーの抵抗力を示すグラフであり、(a)はロータリーダンパーの層間速度と抵抗力の関係を示す図、(b)は層間変位と抵抗力の関係を示す図、(c)は経時的な抵抗力の変化を示す図である。
図8】(a)、(b)、(c)は、実施例2による制振装置の制振ダンパーの抵抗力を示す図7と同様な図である。
図9】(a)、(b)、(c)は、実施例3による制振装置の制振ダンパーの抵抗力を示す図7と同様な図である。
図10】第三実施形態による制振装置の要部構成を示す正面図である。
図11図10に示す制振装置のC-C線断面図である。
図12】第三実施形態の変形例による制振装置の断面図である。
図13】第四実施形態による制振装置の断面図である。
図14図13に示す制振装置における回転体のD-D線断面図である。
図15】(a)、(b)は従来の制振装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の各実施形態による制振ダンパー及び制振装置について添付図面により説明する。
図1から図3は第一実施形態による制振装置1を示すものである。図1に示す制振装置1は、例えば鉄筋コンクリート造の建造物BLの例えば下層部の架構に取り付けられている。なお、制振装置1の設置箇所は低層部に限らず高層部等、任意の層に設置してもよい。制振装置1は、建造物BLの架構の相対変位可能な二層間に配設されている。この建造物BLは、例えば1フロアの左右の柱P1及び柱P2と上下の梁Q1及び梁Q2とで仕切られた空間4を上下左右に多数有している。空間4において、柱P1及び柱P2の中間には中間柱P3が設置され、空間4が2つの空間4A、4Bに仕切られている。
【0022】
例えば空間4Aにおける対向する柱P1、中間柱P3の各上端部(上端角部)からY型ブレース6Aが垂下され、その下側頂部に建造物BLの振動を伝達する伝達部材としてラック部材10が設置されている。また、空間4Aには、対向する柱P1、中柱P3の各下端部(下端角部)から上方に延びるY型ブレース6Bが設けられ、このY型ブレース6Bの頂部に制振装置1が支持されている。
制振装置1は、空間4A内で上下に設置されたY型ブレース6A、6Bによって揺動可能に支持されている。そのため、空間4における他方の空間4Bの領域の自由度が大きく、任意の用途に利用可能である。
【0023】
次に、図2及び図3によって、制振装置1について説明する。
例えば空間4Aにおいて、Y型ブレース6Aの2本のブレース部材6aの先端部にラック部材10が連結されている。建造物BLが地震等で振動した場合、その横揺れに応じてY型ブレース6Aの2本のブレース部材6aが揺動し、ラック部材10がその長手方向に沿って水平方向に往復運動する。ラック部材10にはその長手方向に沿って歯部が配列形成されている。
【0024】
ラック部材10の上下位置には、それぞれ2個の制振ダンパー12が対向して設置されている。制振ダンパー12はラック部材10に直交する方向に対向して2個配設され、この2個の制振ダンパー12が同軸で固定されて、減衰部13を構成している。図2では、減衰部13はラック部材10を挟んで2基ずつ2組設置されている。後述する他の実施形態や変形例等でも同様とする。
【0025】
減衰部13は、図3に示すように、ラック部材10に直交する方向に軸部材14が配設され、軸部材14の長手方向中央部にラック部材10の歯部に噛合するギア部としてピニオンギア16が固定されている。ピニオンギア16の両側には円盤形状のロータリーダンパー17が設置され、更にその両側の外側には重りとして円盤形状の回転体18がそれぞれ設置されている。なお、回転体18はピニオンギア16とロータリーダンパー17の間に設置してもよい。
ピニオンギア16は略円盤状であり、その外周に形成した歯部はラック部材10の歯部に噛合している。
【0026】
なお、軸部材14の両端部には積層されたピニオンギア16、ロータリーダンパー17、回転体18を固定して一体回転させるための固定具19が装着されている。固定具19として、例えばナットを用い、軸部材14の両端部にはナットを噛合させる雄ねじ部を設けるとよい。
また、減衰部13において、固定具19を軸部材14から取り外すことで、回転体18を取り外して異なる質量のものに交換したり、複数個に追加したり、取り外したりすることができる。
【0027】
各制振ダンパー12の減衰力は、各制振ダンパー12のピニオンギア16の外径(及び歯数)、そして回転体18の重量の変化によって増減させることができる。例えば、ピニオンギア16の外径の変化によってロータリーダンパー17の回転数を変化させることができる。また、回転体18の重りの質量によって回転慣性モーメントを変化させることができる。そのため、制振ダンパー12の減衰特性は、ピニオンギア16の外径と回転体18の重りの組み合わせによって任意に設定できる。
【0028】
ピニオンギア16とロータリーダンパー17と回転体18はその中心を軸部材14が貫通して固定されており、一体回転する。ロータリーダンパー17はその内部空間にオイルや粘性体が封入されており、例えば軸部材14に連結されていて回転運動する不図示のワークにオイルや粘性体の抵抗によって制動をかけることにより、オイルや粘性体の粘性抵抗で回転運動に制動を作用させる。
ロータリーダンパー17は外径が一定の円盤状に形成されていて交換可能ではない。ロータリーダンパー17は回転によって所定の減衰特性を発揮でき、減衰力はその回転速度に依存する。図3では、ロータリーダンパー17はピニオンギア16よりも大径に形成されている。
【0029】
回転体18はスチール等の金属からなる重りであり、図3では、ロータリーダンパー17より大径に形成されている。回転体18は、ピニオンギア16やロータリーダンパー17より回転慣性が大きく設定されている。
各制振ダンパー12において、振動に対する減衰力(抵抗力)を大きくするには、ピニオンギア16の外径(歯数)を小さくすることと、回転体18の質量を大きくすることの一方または両方を行う。また、振動に対する減衰力を小さくするには、ピニオンギア16の外径を大きくすることと、回転体18の質量を小さくすることの一方または両方を行う。
【0030】
本実施形態における減衰部13において、1本の軸部材14で連結される2個の制振ダンパー12はピニオンギア16を共用しており、その両側にロータリーダンパー17と回転体18がそれぞれ固定されている。また、図3において、ラック部材10の上下に設置された2組の減衰部13は、各ピニオンギア16がラック部材10の歯部とそれぞれ上下位置で噛合している。
また、図2及び図3において、以下の説明では、4組の減衰部13は、便宜上、減衰部13A、13B,13C、13Dということがある。また、各減衰部13A、13B,13C、13Dの各制振ダンパー12におけるピニオンギア16、ロータリーダンパー17、回転体18も、便宜上、符号16a、16b、16c、16d、17a、17b、17c、17d、18a、18b、18c、18dとすることがある。本実施形態では、ラック部材10を挟んで複数、例えば4組の減衰部13が上下に配列されている。
【0031】
図2及び図3において、ラック部材10を挟んで対向配置された減衰部13A、13Bのピニオンギア16a、16bは比較的大径に設定され、減衰部13C、13Dのピニオンギア16c、16dは比較的小径に設定されている。そのため、ラック部材10は、ピニオンギア16a、16bに噛合する領域では比較的小径の第一ラック部10aを有し、ピニオンギア16c、16dに噛合する領域では比較的大径の第二ラック部10bを有するように同軸に形成されている。ラック部材10は例えば断面矩形に形成され、その側面に歯部が形成されている。
【0032】
また、各減衰部13のロータリーダンパー17はその外側に例えば略四角形状の支持枠部23が設置されている。この支持枠部23内に各ロータリーダンパー17が保持され、回転体18は外側に保持されている。また、空間4Aの下部に設けたY型ブレース6Bの各ブレース部材6bは支持枠部23に連結することで、制振装置1を支持している。上部のY型ブレース6Aの各ブレース部材6aにはラック部材10が連結され、建造物BLの振動に応じて直線的に往復運動させている。
しかし、本発明では、上述した構成に代えて、上部のY型ブレース6Aの各ブレース部材6aで支持枠部23を吊り下げ支持し、下部のY型ブレース6Bの各ブレース部材6bにラック部材10を連結して往復運動させてもよい。制振装置1の位置を階高の中央付近とすることで、これより高い位置や低い位置にする場合よりも、ブレース部材6a、6bの応力を小さくできるが、制振装置1の位置や支持方法は上述のものによらなくてもよい。
【0033】
なお、制振装置1の各減衰部13において、図2及び図3では、ピニオンギア16を挟んで軸部材14の両側にロータリーダンパー17及び回転体18が対向して配設されている。各減衰部13におけるピニオンギア16の外径の大きさや回転体18の質量等はそれぞれ相違していてもよい。ピニオンギア16は制振ダンパー12毎に適宜の外径のものを設置することもできる。
本実施形態による制振ダンパー12において、ロータリーダンパー17は交換可能ではないが、回転体18は質量の異なるものに交換可能である。また、各減衰部13において、回転体18の一方または両方を異なるものに交換することによって、制振装置1の減衰特性を増減調整することができる。しかも、制振装置1は外形寸法を従来よりもコンパクトにすることができる。
【0034】
次に地震や強風等で生じる振動に対して、制振対象物である建造物BLの振動減衰方法について説明する。
地震発生時に地盤等の支持構造物が水平方向に振動すると、支持構造物に支持された建造物BLが応答して水平方向に振動する。建造物BLが地震等で振動して変形すると、架構の各空間4の上層と下層とに水平方向の層間変位が生じる。即ち、建造物BLの振動により、空間4A内の上層と下層に設置されたY型ブレース6A、6Bがそれぞれ往復運動する。空間4Aの下層に支持されたY型ブレース6Bが往復運動することでブレース部材6bを介して、縦置きされた制振装置1が水平方向に振動する。また、空間4Aの上層に支持されたY型ブレース6Aが往復運動することで一対のブレース部材6aで支持されたラック部材10が制振装置1と異なる位相で水平方向に往復運動する。
【0035】
ラック部材10が直線方向に往復運動すると、ラック部材10の歯部に噛合する各減衰部13A、13B、13C、13Dの制振ダンパー12のピニオンギア16a、16b、16c、16dに伝達されてそれぞれ回転運動に変換される。この場合、減衰部13A、13Bでは、ピニオンギア16a、16bが比較的大径であるため回転速度が小さく、ロータリーダンパー17a、17bの内部に収納されたオイルや粘性体によって受ける抵抗は小さい。また、重りである回転体18a、18bもその回転速度が小さいため、その反力は小さい。
【0036】
一方、減衰部13C、13Dでは、ピニオンギア16c、16dが比較的小径であるため回転速度が大きく、ロータリーダンパー17c、17dの内部に収納されたオイルや粘性体によって受ける抵抗が大きい。また、重りである回転体18c、18dもその回転速度が大きいため、その反力は大きい。
【0037】
このように、ラック部材10の歯部に噛合する各減衰部13A~13Dの各ピニオンギア16a~16dを外径の異なるものに設定することによって直線運動から変換された回転運動の回転速度を増減調整することができる。この場合、ロータリーダンパー17a~17dの回転によるオイルや粘性体の抵抗の大きさは回転速度で制御される。
回転体18の質量の調整に際し、回転体18は縦置きされた制振装置1の支持枠部23の外側に設置されているため、軸部材14の固定具19を外して回転体18を取り外し、異なる質量の回転体18を装着することができる。また、回転体18の追加や撤去も行える。
【0038】
建造物BLの用途変更等で振動性状が変化し、必要な減衰力が増大した場合には、回転体18の等価質量または慣性モーメントを大きくする。そのためには、例えば回転体18の質量や密度、形状や質量バランスを調整する。
【0039】
上述したように、本実施形態による制振装置1は、建造物BLの振動性状と必要な減衰力の大きさに応じて、制振ダンパー12の数、ピニオンギア16の外径寸法、回転体18を適宜調整し、減衰特性を任意に設定することができる。
また、回転体18を質量の異なるものに交換して装着することで、回転体18の反力を任意に増減調整することができる。したがって、建造物BLの用途変更や経年劣化等により振動性状が変化した場合でも、回転体18を追加したり交換したりすることで最適な減衰特性を得られる。そのため、制振装置1は建造物BLの特性に応じて最適な設計が可能になる。
【0040】
また、制振装置1はその構成が従来のものと比較してコンパクトであるため専有スペースが小さくて済み、建造物BLの有効面積や開口部への影響が小さく、制振装置1の設置位置の制約が小さい。そのため、建造物BLの全体計画との整合を図りつつ効率的に耐震性能を確保できる。
また、制振装置1は建造物BLにおける空間4A内に縦置きで取り付けるため、横置きと比較して一層専有スペースが小さくて済む。しかも、制振ダンパー12の回転体18を軸部材14の外側に設置するため、異なる質量のものへの交換、追加や撤去が容易である。
また、制振装置1は、建造物BLの柱P1,P2と梁Q1,Q2で仕切られた空間4よりも狭い柱P1と中間柱P3で仕切られた小さな空間4Aに設置できるため、図15(a)、(b)に示す従来技術と比較して、残りの空間4Bを有効に利用できる。
【0041】
なお、本発明は上述した第一実施形態による制振装置1及び制振ダンパー12に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等が可能であり、これらはいずれも本発明に含まれる。以下に、本発明の他の実施形態や変形例等について説明するが、上述した実施形態と同一または同様な部分や部材には同一の符号を用いて説明を省略する。
【0042】
次に、本発明の第二実施形態による制振装置20について、図4及び図5により説明する。
本実施形態による制振装置20では、2個の制振ダンパー21を対向させて軸部材14に固定した減衰部22が、Y型ブレース6Aの2本のブレース部材6aの間に連結されたラック部材10を挟んでその上下に4組設置されている。4組の減衰部22は、図4及び図5において、便宜上、減衰部22A、22B,22C、22Dとする。また各減衰部22の制振ダンパー21におけるピニオンギア16、ロータリーダンパー17、回転体18は、便宜上、符号16a~16d、17a~17d、18a~18dで示す。
【0043】
制振装置20において、上下に配設された減衰部22Aと減衰部22Bの間、減衰部22Cと減衰部22Dの間にはそれぞれ仲介ギア部24(24A、24B)が設置されている。仲介ギア部24は制振ダンパー21に含まれている。ラック部材10と各ピニオンギア16a、16b、16c、16dは仲介ギア部24A、24Bを介して噛合しており、ラック部材10の直線運動を回転運動に切り換えている。なお、本実施形態では、ラック部材10は長手方向に同一外径で例えば断面矩形に形成されている。
【0044】
仲介ギア部24A、24Bは、それぞれラック部材10の歯部に噛合する小径のピニオン部25(小径の歯部)とピニオンギア16a、16bに噛合する大径のギア部26(大径の歯部)とが同軸で一体に形成されている。これにより、仲介ギア部24A,24Bはピニオンギアとしての機能を有している。仲介ギア部24A、24Bを介在させることで、ピニオンギア16をラック部材10に直接噛合させるよりも高速で回転させることができる。そのため、見かけ上、ピニオンギア16が小さくなったような効果を有する。
【0045】
本第二実施形態による制振装置20によれば、上述した作用効果に加えて、第一実施形態の制振装置1より小振幅で大きな減衰力を得ることができ、比較的剛性が高い建造物においても制振効果を発揮することができる。
【0046】
なお、上述した第二実施形態による制振装置20では、上下方向に対向する減衰部22A、22Bの間、減衰部22C,22Dの間にそれぞれ仲介ギア部24A、24Bを配設したが、本発明はこのような構成に限定されない。例えば、図6に示す変形例による制振装置20では、1枚の仲介ギア部24の大径のギア部26によって、4組の減衰部22A、22B,22C,22Dの各ピニオンギア16a、16b、16c、16dに噛合するように構成している。この場合、ラック部材10に噛合する小径のピニオン部25は高負荷がかかるため高強度にする必要があるが、仲介ギア部24の数を削減できるのでコストを低減できる上によりコンパクト化できる。
【0047】
また、上述した各実施形態や変形例において、各減衰部13、22ではピニオンギア16を共用してその両側にロータリーダンパー17と回転体18を対向させて配列した制振ダンパー12、21を設け、軸部材14で同軸に一体回転可能に固定した。しかしながら、各制振ダンパー12、21に用いるピニオンギア16は共用ではなく、個別に設けてそれぞれをラック部材10に噛合させてもよい。
【0048】
また、ロータリーダンパー17は回転速度に限界があり、限界速度の範囲内で回転させる必要がある。これに対し、回転体18は高速回転することが可能であり、ピニオンギア16の外径寸法を可能な限り小径にして高速回転させることで大きな反力を得ることができる。制振ダンパー12、21は軸部材14を中心に一体回転するため、ロータリーダンパー17と回転体18の特性を生かして回転速度を制御し、建造物BLに最適な減衰特性を設定する必要がある。
【0049】
次に、各実施形態による制振装置1、20の減衰特性の設定例について説明する。
建造物BLの空間4Aにおける層間応答として、振幅±A(mm)、周期T=0.5(sec)の正弦波を想定すると、次の式が成り立つ。
角速度ω = 2π/T
層間変位Dis=A・sin(ωt) (mm)
層間速度Vel = Aω・cos(ωt) (mm/sec)
層間加速度Acc=Aω・sin(ωt) (mm/sec)
各制振ダンパー12、21の回転速度V=60Vel/2πp (回転/min)
但し、層間速度の単位換算:60Vel (mm/min)
ピニオンギア16の周長:2πp (mm)
pはピニオンギア16の半径。
【0050】
各制振ダンパー12、21のロータリーダンパー17の減衰力
=T/(p/1000) (N)
但し、ロータリーダンパー17のトルク値T=CVα (N・m)
Cは減衰係数、αは定数。
各制振ダンパー12、21の回転体18の反力
=m・(Acc/1000) (N)
但し、回転体18の質量:m (kg)
回転体18の半径:r (mm)
慣性モーメントI=mr/2 (kg・mm) 但し、円柱体の場合
等価質量m=I/p = m・(r/p)/2 (kg)
【0051】
従って、次の計算結果が得られる。
各制振ダンパー12、21の抵抗力F=F+F (N)
制振装置1の抵抗力Fall = ΣF
但し、n=1,2,3,4・・・ であり、制振ダンパー12、21の数量を示す。
【0052】
次に、上述した各実施形態による制振装置1,20の実施例について減衰特性の試算を行った。これについて図7図9及び表1~3に基づいて説明する。但し、各制振ダンパー12について、各減衰部13A、13B、13C、13Dに対応させて12A1、12A2、12B1、12B2、12C1、12C2、12D1、12D2とした。
【0053】
(実施例1)
先ず、表1は第一実施形態による制振装置1を示すものであり、減衰部13A、減衰部13B、減衰部13C、減衰部13Dにおいて抵抗力を最大限高めた事例である。
4基の減衰部13を各減衰部13A、13B、13C、13Dとして、それぞれにピニオンギア16とロータリーダンパー17と回転体18を設置した。この場合の各回転体18の等価質量はいずれも325kgであり、振装置1の抵抗力Fallは上記の式により求められる。
【0054】
【表1】
【0055】
正弦波加振時における実施例1のロータリーダンパー17の減衰力F、回転体18の反力F、制振装置1の抵抗力Fallは、図7(a)、(b)に示される。更にロータリーダンパー17の減衰力F、回転体18の反力F、制振装置1の抵抗力Fallの経時変化が図7(c)に示される。同図に示すように、ロータリーダンパー17の減衰力Fに回転体18の反力Fを付加した制振装置1の抵抗力Fallが得られる。
【0056】
(実施例2)
表2は第一実施形態による制振装置1を示すものであり、ピニオンギア16の外径(歯数数)の調整により最適な減衰特性に調整した事例である。
4個の制振ダンパー12A1、12A2、12B1、12B2はそれぞれにピニオンギア16とロータリーダンパー17と回転体18を設置した。これらの各回転体18の等価質量はいずれも325kgである。これに対し、他の4個の制振ダンパー12C1、12C2、12D1、12D2ではロータリーダンパー17は設置しないで、ピニオンギア16と回転体18のみを設置した。さらに、ピニオンギア16の半径を60mmと80mmに拡径させることで、等価質量は55kgと15kgとした。
【0057】
【表2】
【0058】
正弦波加振時における実施例2のロータリーダンパー17の減衰力F、回転体18の反力F、制振装置1の抵抗力Fallは、図8(a)、(b)に示される。更にロータリーダンパー17の減衰力F、回転体18の反力F、制振装置1の抵抗力Fallの経時変化が図8(c)に示される。同図に示すように、ロータリーダンパー17の数、各ピニオンギア16の外径寸法、回転体18の等価質量を調整することで、最適な減衰特性が得られる。
【0059】
(実施例3)
表3は第二実施形態による制振装置20を示すものである。ラック部材10とピニオンギア16との間に、ラック部材10の直線運動を回転運動に変換する仲介ギア部24(24A,24B)を備えている。なお、表3において、ピニオン半径欄のかっこ内の数値は仲介ギア部24を設置した効果を考慮した見かけのギア外径である。ここでは、仲介ギア部24のギア部26(大径の歯部)とピニオン部25(小径の歯部)の外径比を3としており、各減衰部22A~22Dにおける見かけのギア外径は1/3になっている。
4基の減衰部22A~22Dはそれぞれにピニオンギア16とロータリーダンパー17と回転体18を設置した。4個の制振ダンパー12A1~12B2は各回転体18の等価質量がいずれも1200kgである。これに対し、制振ダンパー12C1~12D2ではピニオンギア16c、16dの外径を段階的に拡径させることで、等価質量は300kgと130kgとした。
【0060】
【表3】
【0061】
正弦波加振時における実施例3のロータリーダンパー17の減衰力F、回転体18の反力F、制振装置1の抵抗力Fallは、図9(a)、(b)に示される。更にロータリーダンパー17の減衰力F、回転体18の反力F、そして、制振装置1の抵抗力Fallの経時変化が図9(c)に示される。同図に示すように、仲介ギア部24を用いることで制振装置20の抵抗力を大幅に増幅できる。
【0062】
上述した各実施例1、2、3に示すように、各制振装置1、20において、ロータリーダンパー17の数、ピニオンギア16や仲介ギア部24の外径寸法、回転体18の等価質量を調整することで、減衰特性を任意に設定できる(図7図8図9の各(a)、(b)参照)。
【0063】
次に本発明の第三実施形態による制振装置30及び制振ダンパー31について、図10及び図11により説明する。
本第三実施形態による制振装置30では、各制振ダンパー31において円板状の回転体18に代えて振り子状の回転体32を設置した。この回転体32は、ロータリーダンパー17の外側で軸部材14と同軸に固定された例えば略円板状の軸固定部33と、軸固定部33の外周面に連結されていて径方向外側に延びる例えば棒状の支持部34と、支持部34の先端に取り付けられた重り部35とで構成されている。制振ダンパー31が軸部材14を中心に回転する際に、回転体32は軸部材14を中心に振り子状に揺動して往復運動可能となる。
重り部35は例えば円板状に形成されていて、支持部34に対して異なる質量のものに交換可能とされている。また、回転体32がロータリーダンパー17の外側に設置された場合には、回転体32全体を支持部34の長さの異なるものや異なる質量の重り部35に交換可能としてもよい。
【0064】
図10及び図11に示すように、制振装置30の上部の各減衰部13A、13Cの各制振ダンパー31には上方に延びる回転体32が設置され、下部の各減衰部13B、13Dの各制振ダンパー31には下方に延びる回転体32が設置されている。上下の各回転体32は例えば180度対向する位置に設置されている。これによって、上下の各減衰部13A,13B、13C、13Dにおいて重り部35同士が互いに干渉することを回避している。
【0065】
本実施形態による制振装置30では、例えば地震発生時に建造物BLが振動するとY型ブレース6A,6Bが水平方向に往復運動する。これによってラック部材10が水平方向に往復運動すると、各減衰部13の制振ダンパー31のピニオンギア16に伝達されてそれぞれ回転運動に変換される。すると、ピニオンギア16と一体に軸部材14を介してロータリーダンパー17、回転体32の軸固定部33が一体回転する。軸固定部33の回転によって支持部34を介して重り部35が軸部材14を中心に振り子状に往復運動する。
回転体32の回転慣性モーメント(等価質量)は質量に比例し、回転半径の2乗に比例することから、軸固定部33から重り部35までの回転半径を大きくすることで、小さな質量の重り部35によって大きな抵抗力を得ることができる。
【0066】
一方、地震時における建造物BLの層間変形角は1/100程度以下になるように設計されている場合が多く、例えば階高が3000mmで最大層間変形角が1/100の場合の最大層間変位は±30mmとなる。ピニオンギア16が半径60mmの場合、回転体32の回転角は、360°×(±30mm)/(120×π)=±28.7°になり、この角度範囲において、回転体32は各減衰部13の上方または下方または横方向に配設されて揺動し、往復運動する。
【0067】
また、図10において、水平方向に隣り合う減衰部13のピニオンギア16の半径が等しい場合には、各制振ダンパー31の回転体32は同一の角度範囲に亘って往復運動するため互いに干渉することはない。一方、隣り合う減衰部13のピニオンギア16の半径が異なる場合、隣り合う減衰部13の回転体32の重り部35または支持部34が揺動時に干渉するおそれがある。この場合には、水平方向に隣り合う減衰部13の回転体32同士を軸部材14の長手方向にずらすことで、各回転体32の重り部35同士等が干渉することを回避できる。
なお、回転体32の重り部35を質量の異なるものに交換したり、支持部34を長さの異なるものに交換したり、回転体32の追加や撤去等も容易に行うことができる。また、ピニオンギア16の半径長さによって回転体32の揺動による往復運動の範囲をコントロールできるため、第一実施形態と同様に空間4A内に複数の回転体32を設置可能である。
【0068】
次に、図12は第三実施形態による制振装置30の変形例を示す図である。
本変形例では、減衰部13におけるピニオンギア16とロータリーダンパー17の間に回転体32の軸固定部33を設置した。ピニオンギア16と軸固定部33とロータリーダンパー17は軸部材14によって同軸に固定されている。しかも、軸固定部33の外周面に設けた支持部34の先端部には重り部35が交換可能に固定されている。
本変形例の場合も、上側の減衰部13Aに設けた回転体32の支持部34及び重り部35は上方に設置され、下側の減衰部13Bに設けた回転体32の支持部34及び重り部35は下方に設置されている。
【0069】
次に本発明の第四実施形態による制振装置40と制振ダンパー41について図13及び図14により説明する。
本第四実施形態による制振装置40では、例えば横方向(ラック部材10に沿う方向)に2組の減衰部13A、13C設置した。本第四実施形態では、制振装置40の制振ダンパー41において、回転体42は軸固定部33と支持部34と重り部35からなり、しかも、軸固定部33はピニオンギア16とロータリーダンパー17との間に設置され、軸部材14によって同軸に固定されている。回転体42は軸固定部33を中心に180°対向する位置に支持部34と重り部35がそれぞれ径方向外側に突出して、対称に2組配設されている。本実施形態に示す例では、軸固定部33に対して一方の支持部34と重り部35は上方に設置され、他方の支持部34及び重り部35は下方に設置されている。制振ダンパー41に設けられた2組の回転体42は軸固定部33を共用しているが、軸固定部33を軸部材14に別個に設置してもよい。
【0070】
そのため、地震発生時等に、ラック部材10の水平方向の往復運動によってピニオンギア16が回転運動すると軸固定部33とロータリーダンパー17が軸部材14を中心に揺動して一体に回転運動する。その際、回転体42では、径方向に対向する位置、例えば上下位置において、重り部35が往復回転運動し、上下の重り部35の質量と回転半径に応じた大きな抵抗力を得ることができる。しかも、位置が下がる方向に旋回する重り部35は重力によって回転慣性モーメントを増幅する方向に働く。これに対向して設けられた重り部35は位置が上がる方向に旋回し回転慣性モーメントを減縮させる方向に働くため、重力の影響を相殺させることができる。
しかも、本実施形態による制振装置40では、2組の減衰部13をラック部材10に沿って並列に配列させたため、各2組の回転体42が往復回転運動する際に互いに干渉することを回避できる。なお、回転体42を設けた減衰部13は2組に限定されることなく、互いに干渉しない範囲で適宜の数を配設できる。
【0071】
なお、上述した各実施形態や変形例において、軸部材14は直線状の棒状部材としたが、これに限定されることはなく、任意形状で構成できる。例えば、軸部材14として各制振ダンパー12、21、31、41の各軸部、またはピニオンギア16、ロータリーダンパー17、回転体18、32、42毎の各軸部を互いに連結することで一体回転可能に形成してもよい。
また、支持枠部23は四角形状に形成したが、支持枠部23の形状は任意であり、ピニオンギア16、ロータリーダンパー17、回転体18、32、42を支持できれば良い。また、重りとなる回転体18、18a、18b、18c、18dは第一回転体に含まれ、回転体32、42は第二回転体に含まれる。
【0072】
また、制振装置1、20、30、40の各減衰部13、22において、両側の制振ダンパー12、21、31、41は対向配置する必要はない。例えば片側または両側の制振ダンパー12、21、31、41をピニオンギア16とロータリーダンパー17だけで構成してもよいし、ピニオンギア16と回転体18、32、42だけで構成してもよい。また、減衰部13,22の片側にのみ制振ダンパー12、21、31、41を設けてもよい。また、各制振ダンパー12、21、31、41に用いるピニオンギア16は共用ではなく、個別に設けてそれぞれをラック部材10に噛合させてもよい。
【0073】
また、制振装置1、20、30、40は建造物BLの任意の場所に設置することができ、かつ設置数も適宜選択できる。また、上述の各実施形態や変形例では、制振装置1,20、30、40を縦置きに設置したが、これに代えて横置きに設置してもよく、設置の姿勢は任意に選択できる。
【符号の説明】
【0074】
1、20、30、40 制振装置
6A、6B Y型ブレース
6a、6b ブレース部材
10 ラック部材
12、21、31、41 制振ダンパー
13、13A、13B、13C、13D 減衰部
14 軸部材
16、16a、16b、16c、16d ピニオンギア
17、17a、17b、17c、17d ロータリーダンパー
18、18a、18b、18c、18d、32、42 回転体
22、22A、22B、22C、22D 減衰部
24、24A、24B 仲介ギア部
25 ピニオン部(小径の歯部)
26 ギア部(大径の歯部)
33 軸固定部
34 支持部
35 重り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15