(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】単結晶成長用坩堝及び単結晶成長方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20221107BHJP
C30B 23/08 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/08 Z
(21)【出願番号】P 2018167062
(22)【出願日】2018-09-06
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】藤川 陽平
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-212207(JP,A)
【文献】特開2009-091173(JP,A)
【文献】特開平11-268990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を収容する内底部と、
前記内底部と対向する結晶設置部と、
前記結晶設置部からの平面視で、前記内底部に収容される前記原料の表面の少なくとも中央領域を覆う析出防止部材と、を備え、
前記析出防止部材は、少なくとも前記結晶設置部側の表面に、メタルカーバイドを含み、
前記中央領域は、前記結晶設置部からの平面視で前記原料の表面の位置における断面の形状と相似し、中心から前記断面の断面積の20面積%の領域であ
り、
前記析出防止部材が前記中央領域を含んで覆う領域は、前記中心から前記原料の表面の位置における坩堝の内径の80%以上である、単結晶成長用坩堝。
【請求項2】
前記析出防止部材の前記結晶設置部側の第1面が、前記内底部に収容される原料表面から20mm以内の領域にある、請求項1に記載の単結晶成長用坩堝。
【請求項3】
前記析出防止部材は、前記内底部に原料を収容した後に、前記原料に設置される部材である、請求項1又は2に記載の単結晶成長用坩堝。
【請求項4】
原料を収容する内底部と、
前記内底部と対向する結晶設置部と、
前記結晶設置部からの平面視で、前記内底部に収容される前記原料の表面の少なくとも中央領域を覆う析出防止部材と、を備え、
前記析出防止部材は、少なくとも前記結晶設置部側の表面に、メタルカーバイドを含み、
前記中央領域は、前記結晶設置部からの平面視で前記原料の表面の位置における断面の形状と相似し、中心から前記断面の断面積の20面積%の領域であ
り、
前記析出防止部材は、前記内底部に原料を収容した後に、前記原料に設置される部材であり、
前記析出防止部材は、前記結晶設置部側の第1面と対向する第2面に、収容される原料表面と前記第2面とを離間させる支持部を備え、
前記第2面と前記原料表面との距離は、15mm以内である、単結晶成長用坩堝。
【請求項5】
前記析出防止部材は、前記内底部に接続されている、請求項1又は2に記載の単結晶成長用坩堝。
【請求項6】
前記析出防止部材は、前記結晶設置部側の表面がメタルカーバイドで被覆されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の単結晶成長用坩堝。
【請求項7】
前記析出防止部材は、メタルカーバイドからなる、請求項1から6のいずれか一項に記載の単結晶成長用坩堝。
【請求項8】
前記メタルカーバイドが、タンタルカーバイドである、請求項1から7のいずれか一項に記載の単結晶成長用坩堝。
【請求項9】
原料を収容する内底部と、前記内底部と対向する結晶設置部と、を備える単結晶成長用坩堝において、
前記内底部に原料を収容する収容工程と、
前記収容工程の後に、前記結晶設置部からの平面視で、前記原料の表面の中央領域を、少なくとも前記結晶設置部側の表面がメタルカーバイドを含む析出防止部材で被覆する被覆工程と、
前記被覆工程の後に、加熱により前記原料を昇華させ、前記結晶設置部に設置された単結晶を成長させる結晶成長工程と、を有し、
前記中央領域は、前記結晶設置部からの平面視で前記原料の表面の位置における断面の形状と相似し、中心から前記断面の断面積の20面積%の領域であ
り、
前記析出防止部材が前記中央領域を含んで覆う領域は、前記中心から前記原料の表面の位置における坩堝の内径の80%以上である、単結晶成長方法。
【請求項10】
前記被覆工程において、前記析出防止部材の前記結晶設置部側の第1面を、前記内底部に収容された原料表面から20mm以内の領域に設置する、請求項9に記載の単結晶成長方法。
【請求項11】
原料を収容する内底部と、前記内底部と対向する結晶設置部と、を備える単結晶成長用坩堝において、
前記内底部に原料を収容する収容工程と、
前記収容工程の後に、前記結晶設置部からの平面視で、前記原料の表面の中央領域を、少なくとも前記結晶設置部側の表面がメタルカーバイドを含む析出防止部材で被覆する被覆工程と、
前記被覆工程の後に、加熱により前記原料を昇華させ、前記結晶設置部に設置された単結晶を成長させる結晶成長工程と、を有し、
前記中央領域は、前記結晶設置部からの平面視で前記原料の表面の位置における断面の形状と相似し、中心から前記断面の断面積の20面積%の領域であ
り、
前記被覆工程において、前記析出防止部材の前記結晶設置部側の第1面と対向する第2面を、前記内底部に収容された原料表面と離間して配置し、
前記第2面と前記原料表面との距離を、15mm以内とする、単結晶成長方法。
【請求項12】
原料を収容する内底部と、前記内底部と対向する結晶設置部と、を備える単結晶成長用坩堝において、
前記内底部に原料を収容する収容工程と、
前記収容工程の後に、前記結晶設置部からの平面視で、前記原料の表面の最高温度より15℃以上低くなる領域を、少なくとも前記結晶設置部側の表面がメタルカーバイドを含む析出防止部材で被覆する被覆工程と、
前記被覆工程の後に、加熱により前記原料を昇華させ、前記結晶設置部に設置された単結晶を成長させる結晶成長工程と、を有する、単結晶成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶成長用坩堝及び単結晶成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
半導体等のデバイスには、SiCウェハ上にエピタキシャル膜を形成したSiCエピタキシャルウェハが用いられる。SiCウェハ上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって設けられたエピタキシャル膜が、SiC半導体デバイスの活性領域となる。SiCウェハは、SiCインゴットを加工して得られる。
【0004】
SiCインゴットは、昇華再結晶法(以下、昇華法という)等の方法で作製できる。昇華法は、原料から昇華した原料ガスを種結晶上で再結晶化することで、大きな単結晶を得る方法である。高品質なSiCインゴットを得るために、欠陥や異種多形(ポリタイプの異なる結晶が混在すること)を抑制する方法が求められている。
【0005】
特許文献1には、SiC原料の表面にSi原料を添加することで、結晶成長面における原料ガスのCとSiとの比(C/Si比)を制御し、欠陥や異種多形を抑制する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、結晶成長した単結晶内に異種多形が含まれる場合はあり、異種多形をさらに抑制できる方法が求められていた。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、昇華した原料ガスが、原料表面で再結晶化することを抑制し、結晶成長する単結晶内に異種多形が生じることを抑制できる単結晶成長用坩堝及び単結晶成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、結晶成長後の原料表面に析出物が発生すると、成長した単結晶内に異種多形が発生しやすいことを見出した。析出物は、比較的低温になりやすい中央部で発生し、昇華した原料ガスの一部が原料粉末を核として再結晶化したものと考えられる。そこで、析出物が発生しやすい原料の中央領域を、SiCが吸着生成しにくいメタルカーバイドで覆うことを検討した。その結果、原料ガスの一部が核成長することを抑制し、析出物の発生が抑制され、結晶成長する単結晶内に異種多形が生じることを抑制できることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかる単結晶成長用坩堝は、原料を収容する内底部と、前記内底部と対向する結晶設置部と、前記結晶設置部からの平面視で、前記内底部に収容される前記原料の表面の少なくとも中央領域を覆う析出防止部材と、を備え、前記析出防止部材は、少なくとも前記結晶設置部側の表面に、メタルカーバイドを含み、前記中央領域は、前記結晶設置部からの平面視で前記原料の表面の位置における断面の形状と相似し、中心から前記断面の断面積の20面積%の領域である。
【0011】
(2)上記態様にかかる単結晶成長用坩堝において、前記析出防止部材の前記結晶設置部側の第1面が、前記内底部に収容される原料表面から20mm以内の領域にあってもよい。
【0012】
(3)上記態様にかかる単結晶成長用坩堝において、前記析出防止部材は、前記内底部に原料を収容した後に、前記原料に設置される部材であってもよい。
【0013】
(4)上記態様にかかる単結晶成長用坩堝において、前記析出防止部材は、前記結晶設置部側の第1面と対向する第2面に、収容される原料表面と前記第2面とを離間させる支持部を備えてもよい。
【0014】
(5)上記態様にかかる単結晶成長用坩堝において、前記析出防止部材は、前記内底部に接続されていてもよい。
【0015】
(6)上記態様にかかる単結晶成長用坩堝において、前記析出防止部材は、前記結晶設置部側の表面がメタルカーバイドで被覆されていてもよい。
【0016】
(7)上記態様にかかる単結晶成長用坩堝において、前記析出防止部材は、メタルカーバイドからなってもよい。
【0017】
(8)上記態様にかかる単結晶成長用坩堝において、前記メタルカーバイドが、タンタルカーバイドであってもよい。
【0018】
(9)第2の態様にかかる単結晶成長方法は、原料を収容する内底部と、前記内底部と対向する結晶設置部と、を備える単結晶成長用坩堝において、前記内底部に原料を収容する収容工程と、前記収容工程の後に、前記結晶設置部からの平面視で、前記原料の表面の中央領域を、少なくとも前記結晶設置部側の表面がメタルカーバイドを含む析出防止部材で被覆する被覆工程と、前記被覆工程の後に、加熱により前記原料を昇華させ、前記結晶設置部に設置された単結晶を成長させる結晶成長工程と、を有し、前記中央領域は、前記結晶設置部からの平面視で前記原料の表面の位置における断面の形状と相似し、中心から前記断面の断面積の20面積%の領域である。
【0019】
(10)上記態様にかかる単結晶成長方法の前記被覆工程において、前記析出防止部材の前記結晶設置部側の第1面を、前記内底部に収容された原料表面から20mm以内の領域に設置してもよい。
【0020】
(11)上記態様にかかる単結晶成長装置の前記被覆工程において、前記析出防止部材の前記結晶設置部側の第1面と対向する第2面を、前記内底部に収容された原料表面と離間して配置してもよい。
【0021】
(12)第3の態様にかかる単結晶成長方法は、原料を収容する内底部と、前記内底部と対向する結晶設置部と、を備える単結晶成長用坩堝において、前記内底部に原料を収容する収容工程と、前記収容工程の後に、前記結晶設置部からの平面視で、前記原料の表面の最高温度より15℃以上低くなる領域を、少なくとも前記結晶設置部側の表面がメタルカーバイドを含む析出防止部材で被覆する被覆工程と、前記被覆工程の後に、加熱により前記原料を昇華させ、前記結晶設置部に設置された単結晶を成長させる結晶成長工程と、を有する。
【発明の効果】
【0022】
上記態様にかかる単結晶成長用坩堝及び単結晶成長方法によれば、昇華した原料ガスが、原料表面で再結晶化することを抑制し、結晶成長する単結晶内に異種多形が生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態にかかる単結晶成長装置の断面模式図である。
【
図2】第2実施形態にかかる単結晶成長装置の断面模式図である。
【
図3】第3実施形態にかかる単結晶成長装置の断面模式図である。
【
図4】第4実施形態にかかる単結晶成長装置の断面模式図である。
【
図5】第5実施形態にかかる単結晶成長装置の断面模式図である。
【
図6】実施例1の条件で単結晶を成長後の析出防止部材の表面の写真である。
【
図7】比較例1の条件で単結晶を成長後の原料表面の写真である。
【
図8】比較例1の条件で単結晶を析出した後の中央領域における原料表面近傍の断面写真である。
【
図9】比較例2の条件で単結晶を成長後の原料表面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
「単結晶成長用坩堝」
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかる単結晶成長用装置100の断面模式図である。
図1に示す単結晶成長装置100は、坩堝(単結晶成長用坩堝)10と加熱手段30とを有する。
図1では、理解を容易にするために、坩堝10の内部構造を同時に図示している。
【0026】
坩堝10は、内部空間を取り囲む容器である。坩堝10は、内底部11と、内底部11と対向する結晶設置部12と、を備える。内底部11には、原料Mが収容される。結晶設置部12には、種結晶1が設置される。例えば結晶設置部12は、原料M側から見て中央の位置に、円柱状に原料Mに向かって突出している。結晶設置部12には、黒鉛等の炭素材料を用いることができる。
【0027】
加熱手段30は、坩堝10の外周を覆っている。加熱手段30として例えばコイルを用いることができる。コイルの内部に電流を通電すると、坩堝10に誘導電流が生じ、原料Mが加熱される。
【0028】
坩堝10は、内部に析出防止部材13を有する。
図1に示す析出防止部材13は、内底部11に原料を収容した後に、原料Mの上に設置される部材である。
図1に示す析出防止部材13は、メタルカーバイドからなる板状部材である。メタルカーバイトは、例えば、タンタルカーバイド(TaC)、タングステンカーバイド(WC)、ニオブカーバイド(NbC)、モリブデンカーバイド(MoC)、ハフニウムカーバイド(HfC)等の遷移金属炭化物である。これらの材料は耐熱性に優れる。またこれらの材料は、SiCが吸着生成しにくい材料であり、再結晶化を起こしにくい。
【0029】
析出防止部材13は、結晶設置部12からの平面視で、内底部11の中央領域を被覆している。内底部11に原料Mが収容された状態では、析出防止部材13は原料Mの中央領域を被覆している。
【0030】
中央領域は、結晶設置部12からの平面視で原料Mの表面Maの位置における断面の形状と相似し、中心から原料Mの表面Maの位置における断面の断面積の20面積%の領域である。ここで断面の形状とは、坩堝10の内周面の断面形状である。坩堝10の内径が高さ方向で大きく変動せず、原料Mの表面Maの位置における断面を特定できない場合は、断面は内底部に置き換えられる。
【0031】
析出防止部材13は、サイズが大きいほど析出防止効果が大きくなる。一方で析出防止部材13のサイズが大きいと、昇華ガスが種結晶側へ出る流れを阻害するおそれがある。使用する析出防止部材13のサイズは適切に選択することが好ましい。原料表面Maにおいて、原料表面内最高温度よりも20℃以上低い領域ができると原料表面Maに析出物を生じやすくなる。析出防止部材13は、原料表面内最高温度より15℃以上低くなる領域を覆っている状態が望ましい。
【0032】
析出防止部材13は、中央領域より広い範囲を覆っていてもよい。例えば、析出防止部材13は、中心から原料Mの表面Maの位置における坩堝10の内径の50%以上の領域を覆っていてもよく、中心から原料Mの表面Maの位置における坩堝10の内径の80%以上の領域を覆っていてもよい。
【0033】
図1に示す析出防止部材13の結晶設置部12側の第1面13aは、原料Mの原料表面Maと同じ高さ位置にある。第1面13aは必ずしも原料表面Maと一致している必要はなく、原料表面Maから20mm以内の領域にあることが好ましい。第1面13aは原料表面Maより上方(結晶設置部12側)に位置してもよいし、下方(内底部11側)に位置してもよい。
【0034】
第1実施形態にかかる単結晶成長用坩堝100によれば、昇華した原料ガスが、原料表面Maで再結晶化することを抑制でき、結晶成長する単結晶内に異種多形が生じることを抑制できる。
【0035】
坩堝10は加熱手段30により外側から加熱され、坩堝10の中央領域の温度は外側より低い。坩堝10内に収容された原料Mの昇華は坩堝10の外周領域で主に生じる。外周領域とは、坩堝10の内部で中央領域より外側の領域を意味する。析出防止部材13がない場合、外周領域で昇華した原料ガスの一部は、中央領域に位置する原料粒子を核に結晶成長する。原料粒子を核に再結晶化したものが、結晶成長後の原料表面に析出物として残存する。安定的に単結晶成長させるためには、成長空間内の昇華ガスのC/Si比を安定させる必要がある。原料面の析出現象はこのC/Si比を不安定化させ、異種多形発生の原因になると考えられる。
【0036】
これに対し、析出防止部材13が原料Mの中央領域を被覆すると、析出物の発生が抑制される。
図1に示す析出防止部材13は板状部材であり、昇華ガスが中央領域に至ったとしても再結晶化する核が存在しない。また析出防止部材13は、SiCが吸着生成しにくいメタルカーバイドからなる。そのため、昇華した原料ガスが析出防止部材13上で再結晶化することも抑制される。つまり、第1実施形態にかかる単結晶成長用坩堝100は、析出物の発生を抑制し、結晶成長する単結晶内に異種多形が生じることを抑制する。
【0037】
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態にかかる単結晶成長用装置101の断面模式図である。
図2に示す単結晶成長用装置101は、析出防止部材14の構造が
図1に示す単結晶成長用装置100と異なる。その他の構成は同一であり、説明を省く。
【0038】
図2に示す析出防止部材14は、内底部11に原料を収容した後に、原料Mの上に設置される部材である。析出防止部材14は、結晶設置部12からの平面視で、内底部11の中央領域を被覆している。内底部11に原料Mが収容された状態では、析出防止部材14は原料Mの中央領域を被覆している。析出防止部材14は、中央領域より広い範囲を覆っていてもよい。
【0039】
図2に示す析出防止部材14の結晶設置部12側の第1面14aは、原料Mの原料表面Maと同じ高さ位置にある。第1面14aは必ずしも原料表面Maと一致している必要はなく、原料表面Maから20mm以内の領域にあることが好ましい。
【0040】
図2に示す析出防止部材14は、基材14Aと表面層14Bとを備える。表面層14Bは、少なくとも基材14Aの結晶設置部12側の表面を被覆する。
【0041】
基材14Aは、単結晶成長温度に対する耐熱性を有するものであれば特に問わない。例えば、黒鉛等を用いることができる。表面層14Bは、メタルカーバイドからなる。表面層14Bは、基材14Aの表面に形成されたコーティング膜でもよいし、基材14Aの表面にメタルカーバイド粉末を載置したものでもよい。メタルカーバイドは、第1実施形態と同様のものを用いることができる。
【0042】
表面層14Bにより少なくとも析出防止部材14の結晶設置部12側の第1面14aは、メタルカーバイドにより形成される。析出防止部材14の第1面14aと対向する第2面14bにおいて、析出物は析出しない。そのため、第1面14aがメタルカーバイドであれば、昇華した原料ガスが析出防止部材14上で再結晶化することを抑制できる。つまり、第2実施形態にかかる単結晶成長用装置101は、析出物の発生を抑制し、結晶成長する単結晶内に異種多形が生じることを抑制する。
【0043】
大サイズのメタルカーバイドの板状部材を作製することが難しい。例えば基材14Aに黒鉛を用いると、大サイズ化が容易になる。またメタルカーバイドは高価であるが、表面層14Bだけであればコストを抑えることもできる。
【0044】
(第3実施形態)
図3は、第3実施形態にかかる単結晶成長用装置102の断面模式図である。
図3に示す単結晶成長用装置102は、析出防止部材15の構造が
図1に示す単結晶成長用装置100と異なる。その他の構成は同一であり、説明を省く。
【0045】
図3に示す析出防止部材15は、内底部11に原料を収容した後に、原料Mの上に設置される部材である。析出防止部材15は、結晶設置部12からの平面視で、内底部11の中央領域を被覆している。内底部11に原料Mが収容された状態では、析出防止部材15は原料Mの中央領域を被覆している。析出防止部材15は、中央領域より広い範囲を覆っていてもよい。
【0046】
図3に示す析出防止部材15の結晶設置部12側の第1面15aは、原料Mの原料表面Maと同じ高さ位置にある。第1面15aは必ずしも原料表面Maと一致している必要はなく、原料表面Maから20mm以内の領域にあることが好ましい。
【0047】
図3に示す析出防止部材15は、基材15Aと表面層15Bとを備える。表面層15Bは、少なくとも基材15Aの結晶設置部12側の表面を被覆する。析出防止部材15は、
図2に示す析出防止部材14と比較して、基材14A、15Aの形状のみが異なる。第1面15aがメタルカーバイドからなるため、昇華した原料ガスが析出防止部材14上で再結晶化することを抑制できる。
【0048】
基材15Aの内底部11側の下面15Abは、内底部11に向かって縮径する錐形状である。下面15Abが外周領域に向かって広がる傾斜面の場合、析出防止部材15の下方に位置する原料Mから昇華した原料ガスを原料Mが露出する坩堝10の外側に誘導できる。昇華した原料ガスの滞留を防ぐことで、析出防止部材15の下方で原料が焼結してしまうことを抑制できる。
【0049】
(第4実施形態)
図4は、第4実施形態にかかる単結晶成長用装置103の断面模式図である。
図4に示す単結晶成長用装置103は、析出防止部材16の構造が
図1に示す単結晶成長用装置100と異なる。その他の構成は同一であり、説明を省く。
【0050】
図4に示す析出防止部材16は、内底部11に原料を収容した後に、原料Mの上に設置される部材である。析出防止部材16は、結晶設置部12からの平面視で、内底部11の中央領域を被覆している。内底部11に原料Mが収容された状態では、析出防止部材16は原料Mの中央領域を被覆している。析出防止部材16は、中央領域より広い範囲を覆っていてもよい。
【0051】
図4に示す析出防止部材16は、基材16Aと表面層16Bと支持部16Cとを備える。表面層16Bは、少なくとも基材16Aの結晶設置部12側の表面を被覆する。析出防止部材16は、支持部16Cを備える点で、
図2に示す析出防止部材14と異なる。析出防止部材16は、第1面16aがメタルカーバイドからなるため、昇華した原料ガスが析出防止部材16上で再結晶化することを抑制できる。
【0052】
支持部16Cは、析出防止部材16の第1面16aと対向する第2面16bに設けられている。支持部16Cは、原料表面Maと第2面16bとを離間させる。原料表面Maと第2面16bとの間に空間を設けることで、昇華した原料ガスの滞留を防ぎ、析出防止部材16の下方で原料が焼結してしまうことを抑制できる。
【0053】
析出防止部材16の結晶設置部12側の第1面16aは、原料表面Maから20mm以内の領域にあることが好ましい。原料表面Maと第2面16bとの間に空間が広くなると、昇華した原料ガスの一部がこの空間に入り込み、坩堝10の中央部における析出物の原因となりうる。第2面16bと原料表面Maとの距離は、15mm以内であることが好ましい。
【0054】
(第5実施形態)
図5は、第5実施形態にかかる単結晶成長用装置104の断面模式図である。
図5に示す単結晶成長用装置104は、析出防止部材17の構造が
図1に示す単結晶成長用装置100と異なる。その他の構成は同一であり、説明を省く。
【0055】
図5に示す析出防止部材17は、内底部11に接続されている。析出防止部材17は内底部11と一体化していてもよい。
【0056】
析出防止部材17は、結晶設置部12からの平面視で、内底部11の中央領域と重畳している。析出防止部材17は、中央領域より広い範囲と重畳していてもよい。
【0057】
図5に示す析出防止部材17は、支持体17Aと表面層17Bとを備える。表面層17Bは、少なくとも支持体17Aの結晶設置部12側の表面を被覆する。析出防止部材17は、支持体17Aが内底部11に接続されている点で、
図2に示す析出防止部材14と異なる。析出防止部材17は、第1面17aがメタルカーバイドからなるため、昇華した原料ガスが析出防止部材17上で再結晶化することを抑制できる。
【0058】
図5に示す析出防止部材17の結晶設置部12側の第1面17aは、原料Mの原料表面Maと同じ高さ位置にある。第1面17aは必ずしも原料表面Maと一致している必要はなく、原料表面Maから20mm以内の領域にあることが好ましい。
【0059】
析出防止部材17が内底部11と接続されているため、原料Mは析出防止部材17と坩堝10の内面との間に収容される。
図1~
図4に示す析出防止部材13、14、15、16の下方に位置する原料は、析出防止部材13、14、15、16により昇華が阻害されている。析出防止部材17と内底部11とを接続すると、昇華しにくい部分に原料Mが収容されず、原料Mを節約できる。
【0060】
「単結晶成長方法」
(第6実施形態)
第6実施形態にかかる単結晶成長方法は、第1実施形態から第4実施形態にかかる単結晶成長用装置100、101、102、103を用いた単結晶成長方法である。第6実施形態にかかる単結晶成長方法は、内底部11に原料Mを収容する収容工程と、収容工程の後に、結晶設置部12からの平面視で、原料Mの原料表面Maの直径の中央領域を、少なくとも結晶設置部12側の表面がメタルカーバイドを含む析出防止部材13、14、15、16で被覆する被覆工程と、被覆工程の後に、加熱により原料Mを昇華させ、結晶設置部12に設置された単結晶を成長させる結晶成長工程と、を有する。
【0061】
まず収容工程では原料Mを内底部11に収容する。例えば、SiCの粉末原料を内底部11に充填する。原料Mの原料表面Maは、結晶設置部12に対する対称性を高めるために、平坦にならすことが好ましい。
【0062】
次いで、被覆工程で、析出防止部材13、14、15、16を原料M上に設置する。析出防止部材13、14、15、16は、中央領域を覆うように設置する。析出防止部材13、14、15、16は、中心から原料Mの表面Maの位置における坩堝10の内径の50%以上の領域を覆うように設置してもよく、中心から原料Mの表面Maの位置における坩堝10の内径の80%以上の領域を覆うように設置してもよい。また析出防止部材13、14、15、16は、原料表面内最高温度より15℃以上低くなる領域を覆っている状態が望ましい。
【0063】
また被覆工程では、析出防止部材13、14、15、16の結晶設置部12側の第1面13a、14a、15a、16aが、原料表面Maから20mm以内の領域に来るように設置することが好ましい。また第4実施形態にかかる析出防止部材16を用いる場合は、析出防止部材16の第2面16bと原料表面Maとを離間して配置することが好ましい。
【0064】
原料Mと対向する位置の結晶設置部12に種結晶1を設置する。種結晶1の設置は、原料Mを収容する前でも収容後でもよい。種結晶1及び原料Mを収容後に、坩堝10を密閉する。
【0065】
次いで、結晶成長工程では、加熱手段30に通電する。加熱手段30が発熱し、加熱手段30からの輻射を受けて、容器10が発熱する。容器10により加熱された原料Mは昇華し、種結晶1の表面で再結晶化し、種結晶1が結晶成長する。
【0066】
容器10の中央領域の温度は、外周領域より低い。昇華した原料ガスの一部は、容器10の中央領域で再結晶化しやすい。第6実施形態にかかる単結晶成長方法は、原料Mの中央領域に析出防止部材13、14、15、16を設置することで、再結晶化の起点となる原料粒子が原料ガスに対して露出することを防止している。また析出防止部材13、14、15、16の第1面13a、14a、15a、16aは、メタルカーバイトからなり、SiCを吸着しにくい。したがって、昇華した原料ガスが析出防止部材13、14、15、16上で再結晶化し析出物となることが抑制されている。析出物の発生を抑制することで、結晶成長する単結晶内における異種多形の発生を抑制できる。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施の形態の一例について詳述したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、第1実施形態から第5実施形態にかかる単結晶成長用坩堝における各構成を組み合わせてもよく、第1実施形態から第5実施形態にかかる単結晶成長用坩堝と第6実施形態にかかる単結晶成長方法とを組み合わせてもよい。
【実施例】
【0068】
「実施例1」
まず内部に円柱状の内部空間が設けられた結晶成長用坩堝を準備した。そして、結晶成長用坩堝の内底部に原料として粉末状態のSiC粉末原料を充填した。次いで、充填したSiC粉末原料上に、第4実施形態にかかる析出防止部材16(
図4参照)を設置した。析出防止部材16は、基材16A及び支持部16Cが黒鉛からなり、表面層16Bとしてタンタルカーバイドを被覆した。析出防止部材16の第1面16aと原料表面Maとの距離は10mmであり、第2面16bと原料表面Maとの間に高さ5mmの空間を形成した。
【0069】
そして結晶設置部に4H-SiCの種結晶を設置して、6インチのSiCインゴットを結晶成長させた。作製されたSiCインゴットは、全て4H-SiCであり、異種多形を含まなかった。また
図6は、実施例1の条件で単結晶を成長後の析出防止部材16の表面の写真である。
図6に示すように、析出防止部材16上に析出物は確認されなかった。
【0070】
「比較例1」
比較例1では、析出防止部材16を用いなかった点が実施例1と異なる。すなわち、原料表面を被覆せずに、SiCインゴットを結晶成長させた。その他の条件は、実施例1と同様にして単結晶の結晶成長を行った。
【0071】
作製されたSiCインゴットは、4H-SiCの中に6H-SiCおよび菱面体晶の15R-SiCの異種多形が含まれていた。また
図7は、比較例1の条件で単結晶を成長後の原料表面の写真である。
図7に示すように、原料表面に多数の析出物が確認された。また
図8は、比較例1の条件で単結晶を析出した後の中央領域における原料表面近傍の断面写真である。
図8に示すように、原料中央領域では、原料の再結晶化が生じていることが確認できる。
【0072】
「比較例2」
比較例2では、析出防止部材16の表面層16Bを設けなかった点が実施例1と異なる。すなわち、比較例2では黒鉛からなる析出防止部材を原料の中央領域に設置した。その他の条件は、実施例1と同様にして単結晶の結晶成長を行った。
【0073】
作製されたSiCインゴットは、4H-SiCの中に菱面体晶の15R-SiCの異種多形が含まれていた。
図11は、比較例2の条件で単結晶を成長後の原料表面の写真である。
図9に示すように、原料表面に析出物が確認された。すなわち、SiCと反応する黒鉛等では、析出物を十分に抑制する効果は得られなかった。
【符号の説明】
【0074】
1 種結晶
10 容器
11 内底部
12 結晶設置部
13、14、15、16、17 析出防止部材
14A、15A、16A 基材
17A 支持体
14B、15B、16B、17B 表面層
16C 支持部
13a、14a、15a、16a、17a 第1面
14b、16b 第2面
15Ab 下面
18 メタルカーバイド粉末
18a 表面
19 仕切り板
30 加熱手段
100、101、102、103 単結晶成長用装置
M 原料
Ma 原料表面