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特許7170484導電性組成物およびそれを用いた導電体並びに積層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】導電性組成物およびそれを用いた導電体並びに積層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20221107BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20221107BHJP
   C08K 3/16 20060101ALI20221107BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20221107BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20221107BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/08
C08K3/16
H01B1/22 A
H01B1/00 E
H01B5/14 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018185923
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020055918
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】310024066
【氏名又は名称】太陽インキ製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100187207
【弁理士】
【氏名又は名称】末盛 崇明
(72)【発明者】
【氏名】山藤 征矢
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 直之
(72)【発明者】
【氏名】落合 真二
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-248820(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163881(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと銀粉と塩化銀粒子とを含む導電性組成物であって、
前記銀粉が、脂肪酸又はその塩、有機金属、ゼラチンのうち少なくともいずれか1種により表面処理されたものであり、
前記銀粉は、その平均一次粒子径が1.0μm以下で、かつみかけ空隙率が50~95%であり、
導電性組成物中において、前記銀粉および塩化銀粒子の二次粒子の粒度分布における累積95%粒子径(D95粒子径)が、3.0~25.0μmであることを特徴とする、導電性組成物。
【請求項2】
前記銀粉および前記塩化銀粒子の合計量が、導電性組成物全体に対して固形分量で60~95質量%含まれる、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記塩化銀粒子が、前記銀粉および前記塩化銀粒子の合計量に対して70質量%まで含まれてなる、請求項1または2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記塩化銀粒子はその平均一次粒子径が0.1~10μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性組成物を固化させてなることを特徴とする、導電体。
【請求項6】
基材上に、請求項5に記載の導電体の層を設けてなることを特徴とする、積層構造体。
【請求項7】
請求項5に記載の導電体の層または請求項6に記載の積層構造体を備えてなることを特徴とする、電子部品。
【請求項8】
生体電極として使用される、請求項7に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物、および導電性組成物を固化させた導電体、該導電体の層を有する積層構造体、並びに該導電体または積層構造体を備えた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
配線回路等のパターン状の導電体を形成する材料として、従来、有機バインダーに金属粉末を混合したペースト状の導電性組成物が知られている。このような導電性組成物によれば、確かにパターン状に塗布した後に固化させることにより所望の導電体を形成することができる。
【0003】
しかしながら、一般的な導電性組成物では、得られる導電体の硬度が高いために、フレキシブルプリント配線板用途において、導電体の十分な屈曲性が得られず、耐屈曲性に優れた導電体形成に好適な導電性組成物の開発が求められている。特に、近年の成長が著しいウェアラブルデバイス分野においては、耐屈曲性に加えて導電体に伸縮性を付与することが求められている。
【0004】
このような要求に対して、従来、金属粉末を含有させる有機バインダーとしてエラストマーを用い、導電体に屈曲性だけでなく伸縮性を持たせた導電性組成物が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1において提案されているような導電性組成物を用いた場合であっても、伸縮を繰り返したり、導電体をある程度伸ばすと抵抗値が急激に増大したり、場合によっては断線してしまうことがあり、伸縮時の導電性が未だ十分とはいえなかった。
【0005】
一方、心電測定等に使用される生体電極のように、直接生体に接触させて使用されるデバイスに好適な導電性組成物の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/005204号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、伸縮の繰り返しや伸張を大きくした場合であっても、電気抵抗の安定性に優れた導電体を得ることができる、生体電極のようなデバイス用途に適した導電性組成物を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、このような導電性組成物を固化させた導電体、該導電体の層を有する積層構造体、並びに該導電体または積層構造体を備えた電子部品、とりわけ生体電極のようなデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
さて、本発明者らは、エラストマーに配合する導電性金属粉として、表面処理が施された特定の平均一次粒子径を有する銀粉を用い、組成物中で特定の凝集状態とすることにより、伸縮を繰り返した場合や、例えば400%以上に大きく伸張した場合であっても、電気抵抗の安定性に優れた導電体を得ることができる導電性組成物を実現できるとの知見を得たため、先に、伸縮の繰り返しや伸張を大きくした場合であっても、電気抵抗の安定性に優れた導電体を得ることができる導電性組成物について提案した(国際出願番号:PCT/JP2018/022909)。
【0010】
本発明者らは、さらに、上記したような直接生体に接触させて使用されるデバイスに好適な導電性組成物について鋭意研究したところ、上記の構成を有する銀粉を用いれば、生体用に適した塩化銀粒子と組合せてエラストマーに配合しても、その導電性組成物からなる導電体は、伸縮を繰り返した場合や、例えば400%以上に大きく伸張した場合であっても、電気抵抗の安定性に優れた生体電極等のデバイス用途として実現できるとの知見を得た。本発明は係る知見に基づくものである。
【0011】
すなわち、本発明の導電性組成物は、エラストマーと銀粉と塩化銀粒子とを含む導電性組成物であって、
前記銀粉が表面処理されたものであり、
前記銀粉は、その平均一次粒子径が1.0μm以下で、かつみかけ空隙率が50~95%であり、
導電性組成物中において、前記銀粉および前記塩化銀粒子の二次粒子の粒度分布における累積95%粒子径(D95粒子径)が、3.0~25.0μmであることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の実施態様においては、前記銀粉および前記塩化銀粒子の合計量が、導電性組成物全体に対して固形分量で60~95質量%含まれることが好ましい。
【0013】
また、本発明の別の実施態様による導電体は、前記塩化銀粒子が、前記銀粉および前記塩化銀粒子の合計量に対して70質量%まで含まれていてもよい。
【0014】
また、本発明の別の実施態様による導電体は、前記塩化銀粒子はその平均一次粒子径が0.1~10μmであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の別の実施態様による導電体は、上記導電性組成物を固化させたものである。
【0016】
また、本発明の別の実施態様による積層構造体は、基材上に上記導電体の層を有するものである。
【0017】
また、本発明の別の実施態様による電子部品は、上記導電体の層または上記積層構造体を備えたものである。
【0018】
また、本発明の実施態様においては、上記電子部品が生体電極として使用されるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の導電性組成物によれば、銀粉と塩化銀粒子とをエラストマーに配合した組成物において、該銀粉として、表面処理が施された特定の平均一次粒子径を有する銀粉を、組成物中で特定の凝集状態とすることにより、伸縮を繰り返した場合や、例えば400%以上に大きく伸張した場合であっても、電気抵抗の安定性に優れた導電体、とりわけ生体電極に好適な導電体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の導電性組成物は、エラストマーと銀粉と塩化銀粒子とを含むものであり、エラストマーに特定の銀粉と塩化銀粒子とを配合することにより、屈曲した場合に限らず伸縮した場合や大きく伸張した場合であっても電気抵抗の安定性に優れる導電体を得ることができる。その結果、本発明の導電性組成物は、このような特性を利用して、体外デバイス、体表デバイス、電子皮膚デバイス、体内デバイス等のウェアラブルデバイス用の生体電極として好適に用いることができる。以下、本発明の導電性組成物が含有する各成分について詳述する。
【0021】
<銀粉>
本発明の導電性組成物を構成する銀粉は、表面処理されたものであり、その平均一次粒子径が1.0μm以下、好ましくは0.1~1.0μmであり、みかけ空隙率が50~95%、好ましくは60~95%のものを使用する。このような銀粉を用いて、組成物中での銀粉の二次粒子の粒度分布が後記するような範囲となるような凝集状態とすることにより、伸縮の繰り返しや伸張を大きくした場合であっても、電気抵抗の安定性を維持することができる。なお、本発明において、銀粉の平均一次粒子径とは、粉体状態にある銀粉を走査型電子顕微鏡にて10,000倍の倍率で観察し、ランダムに10個の一次粒子を抽出し、その粒子径を測定した際のそれらの粒子径の平均値を意味する。また、銀粉のみかけ空隙率は、銀粉の一次粒子が連結して適度な空隙が存在する凝集構造(二次粒子)の状態を表す指標となるものであり、以下のようにして測定することができる。
すなわち、
銀の密度をρ(g/cm)とし、
質量M(g)の銀粉に、1kg重の荷重をかけたときの銀粉体積をV(cm)とした場合に、みかけ密度ρ(g/cm)は、
ρ=M/V
と定義され、みかけ密度から、下記式によりみかけ空隙率(P)を算出することができる。
P=(1-ρ/ρ)×100
なお、銀の密度ρは10.49g/cmであり、1kg重荷重時の銀粉体積Vは、荷重を付加してから1時間経過した後の銀粉体積とする。
【0022】
上記したみかけ空隙率Pは、本発明において、エラストマーと混合する前の銀粉の一次粒子どうしの凝集状態を表す指標となる。銀粉に対して一定荷重をかけると充填された銀粉の圧縮が進む。このとき、銀粉が凝集状態ではなく一次粒子どうしが分離している状態の場合は、圧縮後のみかけ空隙率は小さくなる。一方、銀粉が凝集状態を形成している場合は、凝集内部の空隙のため、みかけ空隙率は大きくなる。これにより、銀粉の一次粒子どうしの凝集状態をみかけ空隙率として評価することができる。
【0023】
また、本発明において、銀粉の一次粒子の形状は、略球状であることが好ましく、略球状の一次粒子が三次元かつランダムに連結した二次粒子の形態で導電性組成物中に存在することで、上記したように、導電性組成物の固化物が大きく伸張した際にも一次粒子どうしの接点を減少することなく銀粉が導電性組成物の固化物中のエラストマーの伸張変形に追随できる。
【0024】
なお、銀粉の一次粒子の形状は、略球状であるものに限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で略球状以外の形状の銀粉が含まれていてもよいことは言うまでもない。
【0025】
平均一次粒子径およびみかけ空隙率が上記範囲にあるような銀粉は、市販されているものを使用することができ、また、市販されている銀粉を、分級機等を用いて特定の平均一次粒子径およびみかけ空隙率を有する銀粉に分級することで得てもよい。
【0026】
本発明において使用する銀粉(すなわち、導電性組成物として調製される前の銀粉)は、その平均二次粒子径が5.0~40.0μmであることが好ましく、より好ましくは10.0超~40.0μmであり、さらに好ましくは15.0超~40.0μmである。平均二次粒子径が上記範囲にあることで、銀粉を組成物中に分散させた際に、後記するような特定範囲の粒子径に調整し易くなる。なお、導電性組成物として調製される前の銀粉の平均二次粒子径とは、粉体状態にある銀粉をレーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定した粒子径の平均値(D50)を意味する。
【0027】
また、本発明において使用する銀粉(導電性組成物として調製される前の銀粉)は、JIS K 6217-4(2017)に準拠して測定されたDBP吸油量が30~200ml/100gであることが好ましい。銀粉のDBP吸油量とは、JIS K 6217-4に準拠して、100gの銀粉に吸収されるフタル酸ジブチルの量を測定した値を意味し、本発明においては、銀粉の一次粒子の連結度合いや凝集の程度を示す指標としている。DBP吸油量が上記範囲にある銀粉を使用することで、銀粉を組成物中に分散させた際に、後記するような特定範囲の粒子径に調整し易くなる。
【0028】
本発明の導電性組成物は、上記した銀粉および塩化銀粒子を用いてエラストマー中に分散させたものであり、導電性組成物中において銀粉および塩化銀粒子の二次粒子の粒度分布における累積95%粒子径(D95粒子径)が、3.0~25.0μmの範囲としたものである。本発明は、後述するような表面処理された特定の平均一次粒子径を有する銀粉であって、かつ特定の凝集状態(即ち、特定のみかけ空隙率)にあり、好ましくは特定のDBP吸油量を有する銀粉を、塩化銀粒子と併せてエラストマーに配合し分散させて組成物とした際に、組成物中での銀粉および塩化銀粒子の凝集状態を制御する(即ち、二次粒子の粒度分布における累積95%粒子径を特定の範囲とする)ことにより、導電性組成物を固化させた硬化物の導電性を改善したものであり、伸縮の繰り返しや伸張を大きくした場合であっても、電気抵抗の安定性に優れた導電体とすることができる。
【0029】
本発明の導電性組成物を構成する銀粉は、エラストマーと混合ないし混練した際にも、複数の一次粒子が三次元かつランダムに連結した一定の凝集状態を維持しながら、導電性組成物中に分散すると考えられる。即ち、特定のみかけ空隙率を有する銀粉をエラストマーに混合ないし混練すると、銀粉の一次粒子の凝集した二次粒子のうち、粒子径の大きい二次粒子は崩壊してある程度小さくなる。その際の二次粒子の粒度分布における累積95%粒子径が3.0~25.0μmとなるように調整することにより、銀粉の二次粒子にみかけ上の空隙が適度に残存し、その空隙にエラストマーが入り込むため、本発明特有の効果を発揮し得るものと考えられる。
【0030】
この本発明特有の効果が奏される詳細なメカニズムは明らかではないが、以下のように考えられる。即ち、後述するような表面処理された平均一次粒子径が1.0μm以下である銀粉であって、かつみかけ空隙率が50~95%であり、好ましくはDBP吸油量が上記した範囲にある銀粉を、塩化銀粒子と併せてエラストマーに配合し分散させて組成物を調製する際に、適度に銀粉の凝集を崩壊させて、D95粒子径が3.0~25.0μmとなるように組成物を撹拌ないし混練することにより、銀粉の二次粒子は、みかけ上の空隙が適度に存在し、かかる空隙にエラストマーが十分に入り込むことから、導電性組成物の固化物が大きく伸張した際にも一次粒子どうしの接点が減少することなく、銀粉がエラストマーの伸張変形に追随できるものと考えられる。
【0031】
導電性組成物中における銀粉および塩化銀粒子の二次粒子の粒度分布における累積95%粒子径(D95粒子径)は、銀粉および塩化銀粒子とエラストマーとを混合ないし混練して得られた導電性組成物をレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定することができる。具体的には、測定溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用い、導電性組成物を3000質量%となるように測定溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)で希釈し、スパチュラなどで銀粉の二次粒子が崩壊しないよう適度に撹拌した後速やかに、測定範囲0.020μm~1000.00μmで、粒子の屈折率を1.33、溶媒の屈折率を1.40として、粒度分布を測定し、当該粒度分布の累積95%の粒子径として算出された値をD95粒子径として定義する。
【0032】
このように、本発明の導電性組成物によれば、D95粒子径が上記範囲になるように表面処理された銀粉が導電性組成物中に分散されているので、かかる導電性組成物からなる固化物が伸縮の繰り返しや大きく伸張した場合であっても、電気抵抗の安定性に優れた導電体を得ることができるものと考えられる。
【0033】
通常の銀粉ではエラストマー中に分散させると、導電性組成物中の銀粉の凝集状態が崩壊しすぎるので、かかる導電性組成物の固化物が大きく伸張した際には、この伸張変形によって銀粉の一次粒子どうしの接点は減少してしまう。この点、上述したような本発明の特徴的構成によれば、導電性組成物中の銀粉の二次粒子には、みかけ上の空隙が適度に存在し、かかる空隙にエラストマーが十分に入り込むので、このような導電性組成物からなる固化物が大きく伸張した際にも一次粒子どうしの接点を減少することなく銀粉がエラストマーの伸張変形に追随できるものと考えられる。
【0034】
本発明の導電性組成物中において、銀粉が上記のような形態で存在するためには、銀粉が表面処理によってエラストマーと親和性が高く、かつ銀粉の一次粒子が互いに連結し空隙が適度に存在する凝集構造(二次粒子)を有している必要がある。
【0035】
そのため、本発明においては、上述したDBP吸油量および銀粉とエラストマーとの親和性を調整するため、表面処理された銀粉を使用する。この銀粉の表面処理としては、分散液を含む溶液中に銀粉を投入して撹拌する湿式法や、銀粉を撹拌しながら分散液を含む溶液噴霧する乾式法などの方法が挙げられる。さらに、界面活性剤を併用して表面処理をしてもよい。
【0036】
このような表面処理に使用する分散剤としては、例えば、脂肪酸、有機金属、ゼラチン等の保護コロイドを用いることができるが、不純物混入のおそれや疎水基との吸着性の向上を考慮すると、脂肪酸またはその塩であることが好ましい。また、この分散剤としては、脂肪酸またはその塩を界面活性剤でエマルション化したものを用いてもよい。好ましい分散剤としては、炭素原子数6~24の脂肪酸であり、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸等をより好ましく使用することができる。これらの脂肪酸は、導電性組成物を用いた配線層や電極への悪影響が少ないと考えられる。上記した脂肪酸は、単独で使用してもよくまた複数を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
以上説明したような銀粉は後記するエラストマーおよび必要に応じて溶剤を配合、撹拌ないし混練することにより、銀粉および塩化銀粒子の二次粒子のD95粒子径が3.0~25.0μmの範囲になるように調整する。例えば、ディゾルバーやバタフライミキサー等の撹拌機やロールミルやビーズミル等の混練機を用いて撹拌ないし混練を行うことができるが、その際の撹拌機および/または混練機の回転速度、撹拌羽や混練装置の形状、撹拌ないし混練時間、撹拌ないし混練時の温度、ビーズ充填率やロール間隔など、種々の条件により調整することができる。
【0038】
<塩化銀粒子>
本発明による導電性組成物は、上記した銀粉に加えて塩化銀粒子を含む。銀粉と塩化銀粒子とを併用することにより、生体適合性に優れた電極材料とすることができる。
【0039】
塩化銀粒子としては、特に制限なく使用することができるが、平均一次粒子径が0.1~10μmであり、かつみかけ空隙率が50~95%であるものを使用することが好ましい。なお、平均一次粒子径とは、粉体状態にある塩化銀粒子を走査型電子顕微鏡にて10,000倍の倍率で観察し、ランダムに10個の一次粒子を抽出し、その粒子径を測定した際のそれらの粒子径の平均値を意味する。
【0040】
本発明における導電性組成中の銀粉および塩化銀粒子の配合量は、銀粉と塩化銀粒子の合計量が導電性組成物に含まれる全固形分量を基準として60~95質量%であることが好ましい。銀粉および塩化銀粒子の配合量が上記の範囲であると、より一層低い抵抗値の導電体を容易に得ることができる。また、導電性組成中の塩化銀粒子の配合量は、銀粉と塩化銀粒子の合計量を基準として70質量%以下であることが好ましく、より好ましい範囲は50質量%以下である。塩化銀粒子の配合量が上記した範囲で銀粉と併用されることにより、生体適合性の高い導電体としつつ、伸縮の繰り返しや伸長を大きくした場合の電気抵抗の安定性をより一層向上させることができる。なお、本発明の導電性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、銀粉および塩化銀粒子以外のカーボン等の他の導電粉を併用してもよい。
【0041】
<エラストマー>
本発明による導電性組成物に含まれるエラストマーは、室温においてゴム弾性を有する材料であれば特に制限なく使用することができ、例えばゴム、熱可塑性エラストマー、官能基含有エラストマー、ブロック共重合体等を好適に使用することができる。
【0042】
ゴムとしては、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴムの何れでもよく、公知慣用のものを単独または二種以上を混合して用いることができる。
【0043】
また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマー、シリコーン系エラストマーなどが挙げられ、単独または二種以上を混合して用いることができる。
【0044】
官能基含有エラストマーとしては、伸縮性の観点から、ウレタン系、オレフィン系が好ましく、耐溶剤性の観点から、(メタ)アクリロイル基や酸無水物基、カルボキシル基、エポキシ基などの官能基を有するものが好ましい。
【0045】
ブロック共重合体としては、ハードセグメントとソフトセグメントとのブロック共重合体であれば用いることができ、単独または二種以上を混合して用いることができる。
【0046】
上述したエラストマーのなかでも、ブロック共重合体は、結晶性が低く分子間力が弱いため、他のゴムと比較してガラス転移点(以下、Tgと略す。)が低く、銀粉と混合した場合には柔軟で伸びがよく、好ましい。そのため、ブロック共重合体はウェアラブルデバイス用の導電体の形成に好適である。特に、Tgが150℃未満のハードセグメントと、Tgが0℃未満のソフトセグメントとのブロック共重合体がより好適である。なお、ガラス転移点Tgは示差走査熱量測定(DSC)により測定される。
【0047】
このようなブロック共重合体におけるハードセグメントとソフトセグメントとの比率は20:80~50:50の範囲であることが好ましい。この範囲内にあれば、導電性組成物を固化した導電体の伸長時に断線が生じにくくなるため好ましい。より好ましくは、25:75~40:60である。
【0048】
ここで、ブロック共重合体におけるハードセグメントとしては、メチル(メタ)アクリレート単位やスチレン単位などが挙げられる。また、ソフトセグメント単位としては、n-ブチルアクリレートやブタジエン単位などが挙げられる。ブロック共重合体は、ポリメチル(メタ)アクリレート/ポリn-ブチル(メタ)アクリレート/ポリメチル(メタ)アクリレートのトリブロック共重合体であることが好ましい。ブロック共重合体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本願明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートを総称する用語であり、他の類似の表現についても同様である。
【0049】
ブロック共重合体は、市販品であってよい。市販品の例は、アルケマ社製のリビング重合を用いて製造されるアクリル系トリブロックコポリマーである。具体的には、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリメチルメタアクリレートに代表されるSBMタイプ、ポリメチルメタアクリレート-ポリブチルアクリレート-ポリメチルメタアクリレートに代表されるMAMタイプ、およびカルボン酸変性処理または親水基変性処理されたMAM NタイプまたはMAM Aタイプを使用することができる。SBMタイプの例は、E41、E40、E21およびE20である。MAMタイプの例は、M51、M52、M53およびM22である。MAM Nタイプの例は、52Nおよび22Nである。MAM Aタイプの例は、SM4032XM10である。市販品の別の例は、クラレ社製のクラリティである。このクラリティは、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸ブチルから誘導されるブロック共重合体である。
【0050】
上記のような(メタ)アクリレートポリマーブロックを含むブロック共重合体は、例えば、特表2007-516326号公報または特表2005-515281号公報に記載される方法により得ることができる。
【0051】
ブロック共重合体の重量平均分子量は、好ましくは20,000~400,000であり、より好ましくは50,000~300,000である。重量平均分子量が20,000以上であることで、目的とする強靭性および柔軟性の効果が得られ、導電性組成物をフィルム状に成形乾燥したときや基板に塗布して乾燥したときに優れたタック性が得られる。また、重量平均分子量が400,000以下であることで、導電性組成物が良好な粘度を有し、より高い印刷性および加工性を達成できる。また、重量平均分子量が50,000以上である場合には、外部からの衝撃に対する緩和性において優れた効果が得られる。
【0052】
ブロック共重合体の、国際標準化機構の国際規格ISO 37の測定方法による引っ張り破断伸び率は、好ましくは100~600%である。引っ張り破断伸び率が100~600%だと、導電体の伸縮性および電気抵抗の安定性により優れる。より好ましくは300~600%である。
引っ張り破断伸び率(%)=(破断点伸び(mm)-初期寸法mm)/(初期寸法mm)×100
【0053】
上記したエラストマーのうちゴムや官能基含有エラストマーには、通常、硫黄系加硫剤や非硫黄系加硫剤などが用いられる。本発明のような銀粉とエラストマーを含む導電性組成物では、エラストマー中の加硫剤に含まれる硫黄により、配線中の銀粉が酸化や硫化によって腐食する恐れがあり、かかる観点からは、本発明においては硫黄系加硫剤を含まないことが好ましい。
【0054】
本発明の導電性組成物は、導電性に悪影響を及ぼさない範囲内で(本発明特有の効果を損なわない範囲内で)若干量の硫黄化合物を配合してもよい。
【0055】
また、エラストマーには、軟化剤、可塑剤等の公知の添加剤が含まれていてもよい。軟化剤としては、鉱物油系軟化剤と植物油系軟化剤が挙げられ、例えば、鉱物油系軟化剤として、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどの各種オイルである。植物油系軟化剤としては、ひまし油、錦実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、パイン油、トール油等が挙げられ、これら軟化剤はは、単独あるいは二種以上を併用してもよい。軟化剤の添加量により、所望のゴム弾性や伸張性を調整することができる。
【0056】
以上説明したようなエラストマーは、導電性組成物中に含まれる全固形分量を基準として、それぞれ5~40質量%の割合で配合することが好ましく、14~28質量%であることがより好ましい。特に、上記したようなブロック共重合体を含有する場合には、他のエラストマーを含めた全エラストマーに対して、これらブロック共重合体の配合量が85~100質量%であることが好ましい。配合量が上記範囲内にあると、形成された塗膜の伸縮性がより良好となる。
なお、本発明の導電性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、エラストマー以外の熱可塑性樹脂等の他の有機バインダーを併用してもよい。
【0057】
本発明の導電性組成物は、組成物の調整のため、または基板に塗布するための粘度調整のため、有機溶剤を使用することができる。
【0058】
このような有機溶剤としては、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、エステル類、アルコール類、脂肪族炭化水素、石油系溶剤などが挙げることができる。より具体的には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールブチルエーテルアセテートなどのエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤などである。このような有機溶剤は、単独でまたは2種以上の混合物として用いられる。この中でも、塗布性の観点より、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが好ましい。
【0059】
本発明の導電性組成物は、熱硬化成分をさらに含んでよい。熱硬化成分の例は、硬化反応による分子量増加、架橋形成によりフィルム形成可能なポリエステル樹脂(ウレタン変性体、エポキシ変性体、アクリル変性体等)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビニル系樹脂およびシリコーン樹脂である。
【0060】
本発明の導電性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。例えば、カップリング剤、光重合開始剤等の添加剤を含んでいてよい。
【0061】
本発明の導電性組成物は、例えば、溶剤に溶解したエラストマーと上記した銀粉および塩化銀粒子とを混練することで製造することができる。混練方法としては、例えばロールミルといった撹拌混合装置を使用する方法が挙げられる。具体的には、エラストマーを有機溶剤に溶解した固形分50質量%の樹脂溶液を調製し、この樹脂溶液に銀粉および塩化銀粒子を配合し、攪拌機にて予備撹拌混合した後、3本ロールミルにて混練することで、導電性組成物を得ることができる。使用するエラストマーの種類や有機溶剤の配合割合によって、液状の導電性組成物としたり、ペースト状(半固形状)の導電性組成物とすることができる。
【0062】
また、本発明の導電性組成物の製造方法は上記した方法に限られず、溶剤に溶解したエラストマーに、銀粉および塩化銀粒子を別々に添加し混練した2種の組成物を調製しておき、両者を混合して導電性組成物を製造してもよいし、また、先に溶剤に溶解したエラストマーと銀粉とを混練して組成物を調製しておき、その組成物に塩化銀粒子を添加して混練したり、あるいは先に溶剤に溶解したエラストマーと塩化銀粒子とを混練して組成物を調製しておき、その組成物に銀粉を添加して混練して導電性組成物を製造してもよい。なお、いずれの製造方法を採用しても、導電性組成物中において、銀粉の二次粒子の粒度分布における累積95%粒子径(D95粒子径)が3.0~25.0μmの範囲内となるように混練を行う必要がある。
【0063】
本発明の導電性組成物は、所望の物性に影響を与えない範囲において、抗炎症剤、抗酸化剤、血行促進剤、抗菌剤、温感剤、創傷治癒促進剤、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤等、生体電極として使用する際に配合される公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0064】
本発明において、上述したような導電性組成物は、例えば基材上にパターン塗布し、熱処理を行うことで、導電体を形成することができる。この熱処理としては、乾燥処理や熱硬化処理などが挙げられる。
【0065】
このように、本発明の導電性組成物によれば、伸縮性および電気抵抗の安定性に優れた導電体を得ることができる。また、上記のような銀粉および塩化銀粒子を用いることによって、塗布適性も向上する。
【0066】
<導電体の層およびその用途>
上述した導電性組成物は、固化させて導電体とすることができる。例えば、導電性組成物からなる塗布膜を形成し、乾燥、固化させることにより導電体の層とすることができる。導電性組成物の固化は、導電性組成物を乾燥または熱処理することで行われる。熱処理の例は、熱風乾燥または熱硬化である。熱処理に先立ち、成形を行ってもよい。例えば、導電体の層は、基材上に上記の導電性組成物を所望の形状となるように塗布した後、固化させることにより導電体の層を得ることができる。導電体の層は、使用される用途に応じた種々の形状であってよい。例えば、導体回路および配線などに好適に適用できる。
【0067】
導体回路を製造する場合、上記の導電性組成物を基材上に印刷または塗布して塗膜パターンを形成するパターン形成工程と、パターニングされた塗膜を固化させる工程とを含む。塗膜パターンの形成には、マスキング法またはレジストを用いる方法等を使用できる。
【0068】
パターン形成工程としては、印刷方法およびディスペンス方法が挙げられる。印刷方法としては、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷等が挙げられ、微細な回路を形成する場合、スクリーン印刷が好ましい。また、大面積の塗布方法としては、グラビア印刷およびオフセット印刷が適している。ディスペンス方法とは、導電性組成物の塗布量をコントロールしてニードルから押し出しパターンを形成する方法であり、アース配線等の部分的なパターン形成や凹凸のある部分へのパターン形成に適している。
【0069】
導電性組成物を塗布する基材としては、電気絶縁性のものであれば特に制限なく使用することができ、紙-フェノール樹脂、紙-エポキシ樹脂、ガラス布-エポキシ樹脂、ガラス-ポリイミド、ガラス布/不織布-エポキシ樹脂、ガラス布/紙-エポキシ樹脂、合成繊維-エポキシ樹脂、フッ素樹脂・ポリエチレン・ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド・シアネートエステル等の複合材を用いた全てのグレード(FR-4等)の銅張積層板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドなどのプラスチックからなるシートまたはフィルム、ウレタン、シリコンゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴムなどの架橋ゴムからなるシートまたはフィルム、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、スチレン系ブロックコポリマー系などの熱可塑性エラストマーからなるシートまたはフィルムなどが挙げられる。これらの中でも、屈曲性がある材料だけでなく、伸縮性を有する材料(例えばゴムや熱可塑性エラストマー)を基材として用いることにより、後記するような用途に導電体を適用できるようになる。伸縮性を有する材料としては、上記したエラストマー成分と同様のものを使用することができる。
【0070】
本発明による導電体の層は、上記したように伸縮の繰り返しや伸ばした場合であっても、電気抵抗の安定性に優れているため、導体回路および配線以外にも、体外デバイス、体表デバイス、電子皮膚デバイス、体内デバイス等のウェアラブルデバイス用の導電体の形成、とりわけ生体電極に好適に用いることができる。また、導電体の層をフレキシブルプリント基板の電極に適用することもできる。さらに、本発明の導電性組成物は、アクチュエーター電極等の導電体の層を形成するのにも適している。また、従来は伸縮性や電気抵抗の安定性が足りずに実現が困難であったデザインの導電体の形成にも適している。例えば、以下のようなものが挙げられる。
【0071】
<ウェアラブル生体センサー>
人間を含めた動植物から発生する活動電位/生体情報を取得/伝達する為に身に着けるウェアラブル生体センサー用配線材料として、本発明の導電体を適用することができる。センサーの装着箇所は、人間を含めた動植物の表層組織に密着ないしは近接する場所であることが必須となるが、表層組織は伸び縮みが発生する。従来の硬質基板やフレキシブル基板では、伸び縮みする装着箇所への追従性が無く、センサーの装着箇所も限定的となり、結果として得られる生体情報も限られていた。本発明の導電体によれば、人間を含めた動植物の表層組織にもセンサー用配線材料を適用できるため、伸び縮みが発生する箇所にも装着可能なウェアラブル生体センサーとすることができる。
【0072】
ウェアラブル生体センサーに使う配線は、スクリーン印刷或いはディスペンス工法によって配線形成が可能であることから、信号配線の微細化も可能となり、センサーデバイスの小型化に寄与すると考えられる。
【0073】
<スマートテキスタイル用配線材料>
近年、布帛生地をセンサーとして用いるいわゆる「スマートテキスタイル」という分野広がりを見せつつある。本発明の導電体を用いて伸縮性があり熱圧着等が可能な基材上に配線形成を行なった配線板ないしセンサーは、伸縮時での電気抵抗の安定性に優れているため、伸縮性を持つ布帛生地の表面に貼りつけることで、エレクトロニクス・デバイスの機能を持った布帛生地、すなわちスマートテキスタイルの開発が可能となる。スマートテキスタイルとしては、感圧センサーやタッチセンサー、アンテナ配線等の機能を布帛生地に付与することができる。
【0074】
<3D造形成形品用配線>
従来のFIM(フィルム・インサート・モールド成型)工法による電子機器の筐体等向けのプラスチック成型品では、ポリカーボネート等のプラスチックフィルムをベース基材とし、意匠印刷の後、熱プレス加工したものが採用されている。本発明の導電体を伸縮性の基材上に設けた積層構造体からなる導体配線は伸長時の断線が無く、抵抗値変化が抑制されている特性を持つため、プラスチック成型品の意匠印刷時に導体配線を形成し、その後の熱プレス(部分的に伸びが発生)による成型加工を行なうことで3D形状の配線を内蔵したエレクトロニクス・デバイスを実現することができる。
【0075】
また、上記したようなエラストマー等のような伸縮性の基材を用いて熱プレス加工を行なうことで、柔らかい筐体内に柔らかい配線を備えた伸縮変形可能なエレクトロニクス・デバイスを実現することができる。感圧センサーやタッチセンサー、またはアンテナ配線用等として好適に利用することができる。
【0076】
<伸縮変形可能な配線シートないし配線基板>
本発明の導電体の層を伸縮性の基材上に設けた積層構造体からなる導体配線は、伸縮変形可能な配線板シートとして利用することができる。例えば、このような導体配線を成型加工品などの立体的形状を持つ対象物の表面へ、配線の断線を発生させること無く、伸張ないし変形させながら対象物に貼りつけることが可能となる。したがって、本発明の導電体の層を伸縮性の基材上に設けた積層構造体は、感圧センサーやタッチセンサー、またはアンテナ配線用として好適に利用することができる。
【0077】
<フレキシブル配線シートないし配線基板>
従来の導電性ペーストを使ったフレキシブル配線シートないし配線基板では、爪折りという極端な折り曲げを行なった際、配線の断線が発生するという事象が発生する。この点本発明の導電体を使用した場合、伸び特性を持たせた導電材料であることから、これまでの導電ペーストでは対応仕切れなかった領域の折り曲げ性にも対応することができ、爪折り時でも、配線の断線は発生しないフレキシブル配線シートないし配線基板を実現することができる。
【実施例
【0078】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0079】
<銀粉および塩化銀粒子の準備>
導電性組成物を調製するための銀粉として、以下の3種の銀粉を準備した。
銀粉A:平均一次粒子径0.3μm、みかけ空隙率が92%の銀粉であって、リノレン酸で表面処理が施されたもの。
銀粉B:平均一次粒子径0.5μm、みかけ空隙率が63%の銀粉であって、リノレン酸で表面処理が施されたもの。
銀粉C:平均一次粒子径1.3μm、みかけ空隙率が44%の銀粉であって、リノレン酸で表面処理が施されたもの。
塩化銀粒子A:平均一次粒子径3.8μm、みかけ空隙率が57%の塩化銀粒子。
【0080】
なお、銀粉および塩化銀粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-6360L)を用いて10,000倍にて銀粉を観察し、ランダムに抽出した10個の銀粉粒子の粒子径を測定し、その平均値とした。
また、各銀粉および塩化銀粒子のみかけ空隙率Pは以下のようにして算出した。すなわち、銀粉または塩化銀粒子を円筒状の容器に充填し、容器を数回振動させて銀粉または塩化銀粒子の上面が一定の高さになるまで銀粉または塩化銀粒子を補充し、容器に充填された銀粉または塩化銀粒子の量をM(g)とし、容器内径にあわせた外径を有する円柱を用いて銀粉または塩化銀粒子の上面に1kg重の荷重をかけ、1時間放置した後の銀粉または塩化銀粒子の体積(円筒状容器の底面積と、容器底から銀粉または塩化銀粒子の上面までの高さの積)をV(cm)として、ρ=M/Vで定義されるみかけ密度ρ(g/cm)を算出し、銀の真密度ρ(10.49g/cm)または塩化銀の真密度ρ(5.56g/cm)を用いて、下記式:
P=(1-ρ/ρ)×100
で表される銀粉または塩化銀粒子のみかけ空隙率P(%)を算出した。
【0081】
<導電性組成物の調製>
導電性組成物を調製するためのエラストマーとして、以下の2種を準備した。
・エラストマーA(クラレ株式会社製、LA2330)
・エラストマーB(クラレ株式会社製、LA2250)
・ポリエステルC(東洋紡株式会社製、バイロン290)
上記したエラストマーAおよびBについては、エラストマーをジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートに溶解させて、固形分50質量%となるように樹脂溶液を調製した。また、ポリエステルCについては、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートに溶解させて、固形分30質量%となるように樹脂溶液を調製した。
【0082】
上記した銀粉および塩化銀粒子とエラストマーまたはポリエステルの樹脂溶液とを、下記表1に示した組成に従って配合し、攪拌機にて予備撹拌混合した後、3本ロールミル(EXAKT社製、EXAKT50)を用いて、3本ロールミルの混練回数、回転速度、ロール間隔等の条件を変えて混練することで、実施形態に係る導電性組成物を得た。なお、表1中、エラストマーまたはポリエステル、銀粉および塩化銀粒子の配合量の数値は質量部を表す。
【0083】
得られた導電性組成物中に含まれる銀粉および塩化銀粒子の二次粒子D95粒子径を測定した。D95粒子径は以下のようにして行った。先ず、導電性組成物を3000質量%のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈して溶液を調製した。当該溶液を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、TM3000)を用いて、粒子の屈折率を1.33、溶媒の屈折率を1.40として、0.020μm~1000.00μmの測定範囲で、粒度分布の測定を行い、当該粒度分布から、累積95%の粒子径を求め、D95粒子径とした。
【0084】
<導電性組成物の評価>
(1)比抵抗の測定
各導電性組成物を、基材にスクリーン印刷で塗布し、80℃で30分間熱処理して導電体を得た。基材としては、PETフィルムを使用した。得られた導電体の両端の抵抗値を4端子法で測定し、さらに線幅、線長および厚さを測定し、比抵抗(体積抵抗率)を求めた。結果を表1に示す。
【0085】
(2)30%伸縮試験での断線の有無
各導電性組成物を、基材にスクリーン印刷で塗布し、80℃で30分間熱処理して、線幅1mm、厚さ20μm、長さ40mmの導電体を基材上に形成した。基材としては、ウレタンフィルム(武田産業株式会社製、TG88-I、厚さ70μm)を使用した。2.5%の伸縮状態(撓みが無い状態)から30%の伸縮を250秒かけて100往復繰り返し、断線の有無を評価した。
【0086】
(3)50%伸縮試験での断線の有無
各導電性組成物を、基材にスクリーン印刷で塗布し、80℃で30分間熱処理して、線幅1mm、厚さ20μm、長さ40mmの導電体を基材上に形成した。基材としては、ウレタンフィルム(武田産業株式会社製、TG88-I、厚さ70μm)を使用した。0%の非伸縮状態から50%の伸縮を700秒かけて100往復繰り返し、断線の有無を評価した。
【0087】
伸張時の導電性の評価として、50%伸縮試験において断線がなかったものを◎、30%伸縮試験において断線がなかったものを○、30%伸縮試験において断線したものを×とした。評価結果は下記表1に示されるとおりであった。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示す結果から明らかなように、平均一次粒径が1.0μm以下、みかけ空隙率が50~95%である銀粉と塩化銀粒子とエラストマーとを用いて、銀粉および塩化銀粒子のD95粒子径が3.0~25μmとなるように撹拌ないし混練した導電性組成物(実施例1~9)は、伸縮の繰り返しや伸ばした場合であっても、電気抵抗の安定性に優れ、断線のない導電体を得ることができることが分かる。
【0090】
一方、平均一次粒径が1.0μm以下、みかけ空隙率が50~95%である銀粉と塩化銀粒子とエラストマーとを用いた場合であっても、銀粉および塩化銀粒子のD95粒子径が3.0~25μmの範囲にない導電性組成物(比較例1)は、初期の導電性は良好であるものの、伸縮の繰り返しや伸ばした場合に、導電性が急激に低下してしまうことが分かる。
また、平均一次粒径が1.0μm以下、みかけ空隙率が50~95%の範囲にない銀粉を用いた場合(比較例2、比較例3および比較例5)は、初期の導電性も不十分であり、伸縮の繰り返しや伸ばした場合も導電性が急激に低下してしまうことが分かる。
さらに、エラストマーに代えてポリエステルを使用した導電性組成物(比較例4)は、平均一次粒径が1.0μm以下、みかけ空隙率が50~95%である銀粉と塩化銀粒子とエラストマーとを用い、銀粉および塩化銀粒子のD95粒子径が3.0~25μmの範囲となるように混練しても、初期の導電性は良好であるものの、伸縮の繰り返しや伸ばした場合に、導電性が急激に低下してしまうことが分かる。