IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オークマ株式会社の特許一覧

特許7170496工作機械における加工異常診断モデル構築用の加工データへのラベル付与方法及び加工異常診断システム
<>
  • 特許-工作機械における加工異常診断モデル構築用の加工データへのラベル付与方法及び加工異常診断システム 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】工作機械における加工異常診断モデル構築用の加工データへのラベル付与方法及び加工異常診断システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20221107BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
G05B19/18 X
G05B19/4155 V
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018196901
(22)【出願日】2018-10-18
(65)【公開番号】P2020064514
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138327(JP,A)
【文献】特開2018-055611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18
G05B 19/4155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の加工異常診断モデルを機械学習によって構築する際の教師データを作成するためのラベル付与方法であって、
加工中の加工データを収集する加工データ取得ステップと、
前記工作機械の加工状態に応じて異なる操作者の行動情報を取得する操作者行動情報取得ステップと、
前記操作者行動情報取得ステップで取得した行動情報をもとに、その際の加工状態を示すラベルを推定し、前記加工データに加工状態を示すラベルを付与するラベル付与ステップと、
を実行すると共に、
前記ラベル付与ステップでは、
事前に前記ラベルに対応する行動情報を教師として機械学習することで作成した学習済みモデルを用い、
前記工作機械の稼働中に操作者の行動情報を入力として加工状態を推定することで、操作者の行動を基に加工状態を表すラベルを生成、付与することを特徴とする工作機械における加工異常診断モデル構築用の加工データへのラベル付与方法。
【請求項2】
前記行動情報として、前記工作機械の操作履歴、作業状態を記録した動画、作業状態を記録した音声、操作者の生体データのうちの少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項に記載の工作機械における加工異常診断モデル構築用の加工データへのラベル付与方法。
【請求項3】
工作機械の加工異常診断モデルを機械学習によって構築する際の教師データを作成するためのラベル付与方法であって、
加工中の加工データを収集する加工データ取得ステップと、
前記工作機械の加工状態に応じて異なる操作者の行動情報を取得する操作者行動情報取得ステップと、
前記操作者行動情報取得ステップで取得した行動情報をもとに、その際の加工状態を示すラベルを推定し、前記加工データに加工状態を示すラベルを付与するラベル付与ステップと、
を実行すると共に、
前記行動情報として、作業状態を記録した動画、作業状態を記録した音声、操作者の生体データのうちの少なくとも一つを用いることを特徴とする工作機械における加工異常診断モデル構築用の加工データへのラベル付与方法。
【請求項4】
工作機械の加工中の加工データを収集する加工データ取得手段と、
操作者の行動情報を取得する操作者行動情報取得手段と、
前記操作者行動情報取得手段で取得した行動情報をもとに、その際の加工状態を示すラベルを推定し、前記加工データに加工状態を示すラベルを付与するラベル付与手段と、
前記加工データ及び前記ラベルを学習用データとして保持する学習用データ保持手段と、
前記学習用データを教師データとして機械学習を行い、診断モデルを構築する診断モデル学習手段と、
前記加工データから前記診断モデルを用いて加工状態を診断する加工状態診断手段と、
を備えると共に、
前記ラベル付与手段は、
事前に前記ラベルに対応する行動情報を教師として機械学習することで作成した学習済みモデルを用い、
前記工作機械の稼働中に操作者の行動情報を入力として加工状態を推定することで、操作者の行動を基に加工状態を表すラベルを生成、付与することを特徴とする工作機械の加工異常診断システム。
【請求項5】
前記行動情報として、前記工作機械の操作履歴、作業状態を記録した動画、作業状態を記録した音声、操作者の生体データのうちの少なくとも一つを用いることを特徴とする請求項に記載の工作機械の加工異常診断システム。
【請求項6】
工作機械の加工中の加工データを収集する加工データ取得手段と、
操作者の行動情報を取得する操作者行動情報取得手段と、
前記操作者行動情報取得手段で取得した行動情報をもとに、その際の加工状態を示すラベルを推定し、前記加工データに加工状態を示すラベルを付与するラベル付与手段と、
前記加工データ及び前記ラベルを学習用データとして保持する学習用データ保持手段と、
前記学習用データを教師データとして機械学習を行い、診断モデルを構築する診断モデル学習手段と、
前記加工データから前記診断モデルを用いて加工状態を診断する加工状態診断手段と、
を備えると共に、
前記行動情報として、作業状態を記録した動画、作業状態を記録した音声、操作者の生体データのうちの少なくとも一つを用いることを特徴とする工作機械の加工異常診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具を装着して被削材を加工する工作機械において加工異常診断モデルを機械学習によって構築する際、教師データを作成するために加工データにラベルを付与する方法と、当該方法を用いた工作機械の加工異常診断システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具で被削材に対して加工を行う際、過負荷や切粉の噛み込み、切刃の摩耗進展などにより、切削工具が折損するなど工具損傷が生じる場合がある。その場合、所望の加工が実現できず再加工に時間を要するだけでなく、製品不良となり損失につながるほか、削り残しが生じることにより機械と被削材が衝突する危険もある。
上記の危険を避けるため、加工異常を検出して機械停止させる技術が提案されている。例えば特許文献1では、正常加工時のモータ負荷波形などを基準波形として記録しておき、加工時の負荷が基準波形から一定以上乖離した際に加工異常と見なす技術が示されている。
このような技術によれば、目的の加工における正常加工時の波形を基準にできるため、任意の加工条件において加工異常を検出することができる。一方、基準波形からの乖離を指標とするため、テスト加工などにより事前に基準波形を取得しなければならず、加工条件が変化した場合は再設定が必要になる。また、基準波形からどれだけ乖離したら異常と判断するか適切なしきい値を決定するのが難しいという課題があった。
【0003】
上記の課題に対し、機械学習を用いて解決を図る技術として特許文献2、3が開示されている。特許文献2では好適なしきい値を設定する技術を、特許文献3では加工条件が変化しても加工異常を検出可能とする技術を提案している。
これらの技術で提案されているように、機械学習技術を用いることで高精度かつ取り扱い容易な異常診断装置を提供することが可能になると期待されるが、これらを実現するには、如何に適切な学習を行えるかが極めて重要となる。特許文献2、3はともに「教師あり学習」技術を用いており、入力データとそれに対応する結果(ラベル)を学習器に与えることで、学習モデルを構築する。「正常」または「異常」というラベルが付与された入力データを学習器に与え、両者を識別できる学習モデルを構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-172102号公報
【文献】特開2017-220111号公報
【文献】特開2018-24055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
適切な学習を行うためには、適切なラベルが付与された入力データを、大量に、かつ多様なバリエーションで準備することが必要となる。機械学習では付与されたラベルを「正解」として学習するため、不正確なラベルが付与されたデータが混入すると学習結果に悪影響を及ぼすため、適切なラベルの付与は極めて重要である。
一般的には、学習モデルの提供者が様々な加工実験を行ってデータ収集及びラベル付与を行い、モデルを学習・評価してユーザーに提供するが、この際、ラベル付与はモデル作成者側の基準で行われることになる。加工において、どこまでを正常と見なしてどこからを異常とするかは求める品質や加工コストなどによって変化するため、実際にはユーザーの正常・異常の判断基準がモデル作成者の基準と異なる場合が多い。
また、多くのユーザーが様々な加工を行っている中、全てのケースに対応できる診断モデルを初期から構築することは非常に困難であり、ユーザーの実現場からデータを収集して学習モデルを育成することが一般的に行われる。その際、工場では多くの工作機械が日夜稼動しているため、大量かつ多様なデータを集めることには適しているが、それらに適切なラベルを付与することが非常に困難となる。ひとつひとつの加工データについて、実際の加工状態やデータの傾向を人間が目視してラベル付けを都度行うのは現実問題として不可能である。操作者が加工異常に気づいた際に所定のボタンを押すなどの手段を設けたとしても、加工異常が発生した際には機械の停止・退避や状況の確認、復旧対応など操作者に余裕が無いことが多く、ラベル付与という緊急性のない余分な作業は実施されない恐れがある。
以上のように、機械学習を用いて加工異常診断を行う場合、ラベル付与をどのように行うかを解決することが必要である。
【0006】
そこで、本発明は、機械学習を用いた高精度かつ取り扱い容易な加工異常診断を実現するために、加工異常診断モデルの学習に必要となる加工データへのラベル付与を、操作者に新たな負担を負わせることなく効率よく行うことができる工作機械の加工異常診断モデル構築用の加工データへのラベル付与方法と、当該方法を用いた工作機械の加工異常診断システムとを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、工作機械の加工異常診断モデルを機械学習によって構築する際の教師データを作成するためのラベル付与方法であって、
加工中の加工データを収集する加工データ取得ステップと、
操作者の行動情報を取得する操作者行動情報取得ステップと、
前記操作者行動情報取得ステップで取得した行動情報をもとに、その際の加工状態を示すラベルを推定し、前記加工データに加工状態を示すラベルを付与するラベル付与ステップと、を実行すると共に、
前記ラベル付与ステップでは、
事前に前記ラベルに対応する行動情報を教師として機械学習することで作成した学習済みモデルを用い、
前記工作機械の稼働中に操作者の行動情報を入力として加工状態を推定することで、操作者の行動を基に加工状態を表すラベルを生成、付与することを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項の構成において、前記行動情報として、前記工作機械の操作履歴、作業状態を記録した動画、作業状態を記録した音声、操作者の生体データのうちの少なくとも一つを用いることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、工作機械の加工異常診断モデルを機械学習によって構築する際の教師データを作成するためのラベル付与方法であって、
加工中の加工データを収集する加工データ取得ステップと、
前記工作機械の加工状態に応じて異なる操作者の行動情報を取得する操作者行動情報取得ステップと、
前記操作者行動情報取得ステップで取得した行動情報をもとに、その際の加工状態を示すラベルを推定し、前記加工データに加工状態を示すラベルを付与するラベル付与ステップと、
を実行すると共に、
前記行動情報として、作業状態を記録した動画、作業状態を記録した音声、操作者の生体データのうちの少なくとも一つを用いることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、工作機械の加工異常診断システムであって、
工作機械の加工中の加工データを収集する加工データ取得手段と、
操作者の行動情報を取得する操作者行動情報取得手段と、
前記操作者行動情報取得手段で取得した行動情報をもとに、その際の加工状態を示すラベルを推定し、前記加工データに加工状態を示すラベルを付与するラベル付与手段と、
前記加工データ及び前記ラベルを学習用データとして保持する学習用データ保持手段と、
前記学習用データを教師データとして機械学習を行い、診断モデルを構築する診断モデル学習手段と、
前記加工データから前記診断モデルを用いて加工状態を診断する加工状態診断手段と、を備えると共に、
前記ラベル付与手段は、
事前に前記ラベルに対応する行動情報を教師として機械学習することで作成した学習済みモデルを用い、
前記工作機械の稼働中に操作者の行動情報を入力として加工状態を推定することで、操作者の行動を基に加工状態を表すラベルを生成、付与することを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項の構成において、前記行動情報として、前記工作機械の操作履歴、作業状態を記録した動画、作業状態を記録した音声、操作者の生体データのうちの少なくとも一つを用いることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、工作機械の加工異常診断システムであって、
工作機械の加工中の加工データを収集する加工データ取得手段と、
操作者の行動情報を取得する操作者行動情報取得手段と、
前記操作者行動情報取得手段で取得した行動情報をもとに、その際の加工状態を示すラベルを推定し、前記加工データに加工状態を示すラベルを付与するラベル付与手段と、
前記加工データ及び前記ラベルを学習用データとして保持する学習用データ保持手段と、
前記学習用データを教師データとして機械学習を行い、診断モデルを構築する診断モデル学習手段と、
前記加工データから前記診断モデルを用いて加工状態を診断する加工状態診断手段と、
を備えると共に、
前記行動情報として、作業状態を記録した動画、作業状態を記録した音声、操作者の生体データのうちの少なくとも一つを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、操作者に余分な負担をかけることなく加工データに適切なラベル付与を行うことができ、実現場での加工データを加工異常診断モデルの育成に活用できるようになる。すなわち、「操作者が異常と感じた」際の行動情報に基づいてラベル付けを行うため、高精度に、かつ加工異常に対する個々の許容レベルの差を踏まえたラベル付けが実現できる。
特に機械学習によって「実際に加工が異常であるとき操作者がどのような行動を行っているのか」を学習することで、操作者の行動情報を基に実際の加工状態に対応するラベルをより高精度に生成することができる。さらに、生体データなどの多様な情報に基づいた判断を行うことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】工作機械のブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の加工異常診断装置の一例を示すブロック線図である。工作機械1には、切削工具2、及び被削材3が装着されている。工作機械1に対し、加工異常診断装置10が併設されている。但し、加工異常診断装置10は工作機械1の制御装置(図示しない)に内包されていても構わない。
加工異常診断装置10には、工作機械1の制御情報や各種センサ(図示しない)の測定信号を加工データとして取得する、加工データ取得手段11が設けられている。加工データには、前記測定信号に加え、工作機械1の制御装置が保持する切削工具2の属性情報(工具種類、工具形状、材質など)や被削材3の属性情報(材質、形状など)などが含まれていてもよい。
【0011】
また、加工異常診断装置10は、前記加工データを入力とし、診断モデル保持手段16に保持される加工状態診断用の学習モデルを用いて現在の加工状態を診断する加工状態診断手段17を備える。加工状態診断手段17にて加工状態が「異常」と判定された場合、工作機械1は工具2を退避させて加工を停止する。加工状態診断手段17での診断手法は、先の特許文献2や3などの公知技術を用いることができる。
操作者は、工作機械1に備えられた操作盤(図示しない)を介して機械を操作するので、操作者が機械をどのように扱ったかは前記操作盤の操作履歴から読み解くことができる。操作者行動情報取得手段12は、工作機械1からこの操作履歴を操作者の行動情報として取得する。より詳細な行動情報を要する場合は、別途工作機械1などにカメラやマイクを備え付けることで作業風景や音声を取得したり、操作者に生体センサを装着し、心拍や発汗、呼吸、血圧、加速度、視線、脳波などの生体データを取得したりして行動情報に付加してもよい。これら操作履歴、動画、音声、操作者の生体データは、行動情報として少なくとも1つが採用される。
【0012】
ラベル付与手段13は、操作者行動情報取得手段12から得た操作者の行動情報を入力として(操作者行動情報取得ステップ)、加工データ取得手段11から加工データを取得し(加工データ取得ステップ)、行動判定モデル保持手段14に格納された判定モデルを用いて現在の加工状態について操作者がどのように感じているのか(正常、異常、要注意など)を推定し、加工データに付与するラベル情報を生成する(ラベル付与ステップ)。ここでのラベル付与方法の詳細は後述する。学習用データ保持手段15では、前記加工データとラベル情報とを併せて学習用データとして保持する。
【0013】
上記の加工異常診断装置10を運用する上で、診断モデル保持手段16が保持する加工状態診断モデルを育成、あるいは新規に作成して更新することで、診断性能を随時向上させていくことが望まれる。これを実現するため、診断モデル作成部20が備える診断モデル学習手段21において、前記学習用データ保持手段15から回収した学習用データを教師データとして機械学習を行い、新たな診断モデルを構築して診断モデル保持手段16が保持する診断モデルを更新する。この診断モデル学習手段21と加工異常診断装置10とを合わせて加工異常診断システムが構成される。
よって、診断モデル作成部20は工作機械1に搭載されていてもよいし、工作機械1とは別にしてネットワークを介してフォグやクラウド上にあってもよい。ここでの機械学習についても、特許文献2や3などの公知の技術で行われている学習技術を利用することができる。
【0014】
上記ラベル付与手段13でのラベル付与方法について詳細に説明する。ここでは、ルールベースでの付与と機械学習による付与との例を挙げる。
前述したように、ルールベースでの付与例として、「加工プログラムの途中に軸送りを停止し」「その後ドアを開け」「さらに工具交換を実施」した場合は「異常」ラベルを付与する。同様に、「ドアを開け」た後に「加工プログラムをリスタート」した場合は「要注意」ラベルを付与する。ルールベースでの付与の場合、行動判定モデル保持手段14に前記ルールが保持される。
機械学習を用いた場合、より柔軟なラベル付与が可能となる。NC装置の状態、操作者の操作履歴、さらには作業状態を記録した動画や音声等の行動情報を入力とし、実際の加工結果をラベルとして教師データを作成し、診断モデルを学習することで、操作者の行動情報から加工結果を推定する診断モデルを構築できる。例えば「加工異常」ラベルに対応する操作履歴に含まれる「オーバーライドスイッチの急激な操作」や「切削送り中の一時停止ボタン押下」などと関連づけて学習されることが期待できる。メーカー側で様々な加工データを収集する過程で、加工異常が発生した際の操作者の行動情報を基に学習させることで、上記の学習を実現できる。機械学習を用いたラベル付与の場合、行動判定モデル保持手段14に、行動判定用の学習済みモデルが保持される。
【0015】
さらに、生体データを用いることでより詳細なラベル付けが可能になる場合がある。例えば、心拍などに多少の変化が見られた程度であれば軽微な異常、心拍の急上昇とともに加速度が急激に変化し、その後心拍が高いまま発汗が見られる場合は重篤な異常、などといった分類が考えられる。また、生体データに変化が現れた時点で加工状態が変化しはじめている、など時系列上で細かくラベルを切り替えても良い。
【0016】
このように、上記形態のラベル付与方法及び加工異常診断システムによれば、加工中の加工データを収集すると共に、操作者の行動情報を取得し、取得した行動情報をもとにその際の加工状態を示すラベルを推定し、収集した加工データに加工状態を示すラベルを付与するので、操作者に余分な負担をかけることなく加工データに適切なラベル付与を行うことができ、実現場での加工データを加工異常診断モデルの育成に活用できるようになる。すなわち、「操作者が異常と感じた」際の行動情報に基づいてラベル付けを行うため、高精度に、かつ加工異常に対する個々の許容レベルの差を踏まえたラベル付けが実現できる。
前述したように、製品加工時に異常が生じると製品不良となり損失につながるほか、削り残しが生じることにより機械と被削材が衝突する危険もある。異常による損失の拡大を避けるため、操作者が異常を感じると、機械を停止し状態を確認することが一般的である。より具体的には、(1)機械を停止・退避し、(2)工具や被削材の状態を確認し、(3)問題があれば工具や被削材を交換し、問題が無ければ加工を再開する。つまり、どの程度からを異常と見なすかは操作者の感覚や求める品質によって差があるが、異常と見なしたときに操作者が行う行動には共通点がある。
そこで、本発明では、例えば「加工プログラムの途中に軸送りを停止し」「その後ドアを開け」「さらに工具交換を実施」した場合は「異常」ラベルを付与するといったルールを設定することで、操作者の行動に基づいた加工データへのラベル付与を実現することができる。
【0017】
ところで、共通点といっても、実際の操作のバリエーションは多様である。「機械を停止する」という動作だけでも「非常停止」「一時停止」「軸送りのオーバーライドをゼロにする」などがあり、機械の退避や状態確認のために軸動作を行うにあたっても、機械のどの軸を動かすかは機械構成によって異なるし、加工室ドアを開く操作が入るなど様々である。
そこで、特にここでは、機械学習によって「実際に加工が異常であるとき操作者がどのような行動を行っているのか」を学習することで、操作者の行動情報を基に実際の加工状態に対応するラベルをより高精度に生成することができる。さらに、生体データなどの多様な情報に基づいた判断を行うことも可能となる。
なお、操作者が一旦異常を疑ったとしても、実際に確認してみると特に問題が見当たらない、ということがある。その場合、状況によってはそのまま加工を再開することがあるが、このようなケースでは、真に正常なのか、操作者が異常を見逃したのかは不明である。したがって、「一旦加工を停止したがそのまま再開」といった操作がなされた場合、「状態不明」あるいは「要注意」などのラベルを付与し、その後の学習に利用することもできる。
【符号の説明】
【0018】
1・・工作機械、2・・切削工具、3・・被削材、10・・加工異常診断装置、11・・加工データ取得手段、12・・操作者行動情報取得手段、13・・ラベル付与手段、14・・行動判定モデル保持手段、15・・学習用データ保持手段、16・・診断モデル保持手段、17・・加工状態診断手段、20・・診断モデル作成部、21・・診断モデル学習手段。
図1