(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】モニタリング装置及びモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20221107BHJP
B23Q 15/12 20060101ALI20221107BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
G05B19/18 W
B23Q15/12 A
B23Q17/09 A
(21)【出願番号】P 2018212491
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 俊介
(72)【発明者】
【氏名】宮路 匡
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-085395(JP,A)
【文献】特開2018-054587(JP,A)
【文献】特開2012-200848(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0129882(US,A1)
【文献】特許第6199003(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/46
B23Q 15/00 - 15/28
B23Q 17/00 - 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部を有する機械における振動特性及び切削力の少なくとも一方をモニタリングするモニタリング装置であって、
前記回転部の回転速度を制御する回転速度制御手段と、
前記機械に取り付けたセンサと、
前記センサと接続された制御手段と、
を備えており、
前記回転速度制御手段は、前記回転部の回転速度を所定の範囲において変化させ、
前記制御手段は、
前記センサにより、前記回転部を複数の前記回転速度で回転させて切削した際の振動を測定して、前記回転速度毎の
複数の次数の振動測定結果を取得すると共に、
複数の
前記次数に係る切削力成分を仮決めし、前記振動測定結果の各周波数成分を仮決めした前記切削力成分で除することで、前記振動特性に係る伝達関数の各周波数成分を算出し、
前記伝達関数の
各周波数成分から周波数毎に算出された前記伝達関数がとる値の推定値
に対する前記伝達関数の周波数毎の各周波数成分の各誤差について
総合して評価した値である評価値を演算して、当該評価値が所定値以下となるまで前記切削力成分を仮決めし直して、
当該評価値が所定値以下となった場合における、前記切削力成分の比率及び前記伝達関数の各周波数成分の比率の少なくとも一方を、前記機械における前記切削力及び前記振動特性の少なくとも一方の同定に用いる
ことを特徴とするモニタリング装置。
【請求項2】
更に、前記制御手段は、前記回転部におけるトルクの低周波成分及び送り軸の推力の低周波成分の少なくとも何れかと、前記切削力成分の比率及び前記伝達関数の各周波数成分の比率の少なくとも一方と、を用いて、前記機械における前記切削力及び前記振動特性の少なくとも一方を定量的に同定する
ことを特徴とする請求項1に記載のモニタリング装置。
【請求項3】
前記推定値として、各周波数において前記伝達関数の各周波数成分を複数の次数に対して算出し、それらの平均値を採用する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモニタリング装置。
【請求項4】
前記推定値として、一つ以上の振動モードを仮定し、それらのモーダルパラメータを仮定することで、前記モーダルパラメータによって定められる各周波数における前記伝達関数の各周波数成分を採用する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモニタリング装置。
【請求項5】
回転部を有する機械における振動特性及び切削力の少なくとも一方を、コンピュータによりモニタリングするモニタリング方法であって、
前記機械に取り付けたセンサにより、前記回転部を複数の前記回転速度で回転させて切削した際の振動を測定して、前記回転速度毎の
複数の次数の振動測定結果を取得する振動測定ステップと、
複数の
前記次数に係る切削力成分を仮決めし、前記振動測定結果の各周波数成分を仮決めした前記切削力成分で除することで、前記振動特性に係る伝達関数の各周波数成分を算出する伝達関数周波数成分算出ステップと、
前記伝達関数の
各周波数成分から周波数毎に前記伝達関数がとる値の推定値を算出する伝達関数推定値算出ステップと、
算出された前記推定値
に対する前記伝達関数の周波数毎の各周波数成分の各誤差について
総合して評価した値である評価値を算出する評価値算出ステップと、
算出された前記評価値が所定値以下となるまで前記切削力成分を仮決めし直して、当該評価値が所定値以下となった場合における、前記切削力成分の比率及び前記伝達関数の各周波数成分の比率の少なくとも一方を、前記機械における前記切削力及び前記振動特性の少なくとも一方の同定に用いる誤差評価ステップと、
を有することを特徴とするモニタリング方法。
【請求項6】
更に、前記回転部におけるトルクの低周波成分及び送り軸の推力の低周波成分の少なくとも何れかと、前記切削力成分の比率及び前記伝達関数の各周波数成分の比率の少なくとも一方と、を用いて、前記機械における前記切削力及び前記振動特性の少なくとも一方を定量的に同定する定量同定ステップ
を有することを特徴とする請求項5に記載のモニタリング方法。
【請求項7】
前記推定値として、各周波数において前記伝達関数の各周波数成分を複数の次数に対して算出し、それらの平均値を採用する
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載のモニタリング方法。
【請求項8】
前記推定値として、一つ以上の振動モードを仮定し、それらのモーダルパラメータを仮定することで、前記モーダルパラメータによって定められる各周波数における前記伝達関数の各周波数成分を採用する
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載のモニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械を始めとする機械の振動特性や切削力をモニタリングするモニタリング装置、及びそのモニタリング装置によって実行可能なモニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械による高能率・高精度の切削加工を行うためには、機械構造の振動特性や切削力を考慮して、適切な切削条件を選択する必要がある。振動特性の一つである剛性が不十分であると、びびり振動が発生して仕上げ面性状や工具寿命を悪化させたり、工具あるいは工作物(ワーク)がたわんで寸法精度を悪化させる。一方、切削力は、切削動力に影響を与えるだけでなく、振動特性と同様に振動やたわみの原因となったり、過大な場合には工具欠損の原因となる。
工作機械の振動特性は、例えば特許文献1(特開2014-221510号公報)の[0012]に記載されているように、インパルス応答法等によって実際に測定したものを用いたり、シミュレーションによって求めたり、既存の振動特性から対象の工作機械の振動特性に近いと考えられる振動特性を選択することにより特定されたりする。また、切削力は、動力計により測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
振動特性は、実際に測定するにせよ、あるいはシミュレーションを行うにせよ、若しくは既存の振動特性から類似するものを選択するにせよ、何れにしても専門的な技術や知識を要して手間がかかる。
他方、切削力測定のための動力計は非常に高価であるし、生産設備としての工作機械に取り付けると、その動力計や配線の干渉が生じてしまったり、工作機械の剛性低下が生じてしまったりする。従って、動力計は、生産現場においては殆ど用いられていないのが現状である。
そこで、本開示は、実際の切削時における振動の測定結果を用いることができ、機械構造の振動特性及び切削力について力センサを用いず振動センサのみによって簡便に推定することができるモニタリング装置やモニタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本開示は、モニタリング装置において、回転部を有する機械における振動特性及び切削力の少なくとも一方をモニタリングするモニタリング装置であって、前記回転部の回転速度を制御する回転速度制御手段と、前記機械に取り付けたセンサと、前記センサと接続された制御手段と、を備えており、前記回転速度制御手段は、前記回転部の回転速度を所定の範囲において変化させ、前記制御手段は、前記センサにより、前記回転部を複数の前記回転速度で回転させて切削した際の振動を測定して、前記回転速度毎の複数の次数の振動測定結果を取得すると共に、複数の前記次数に係る切削力成分を仮決めし、前記振動測定結果の各周波数成分を仮決めした前記切削力成分で除することで、前記振動特性に係る伝達関数の各周波数成分を算出し、前記伝達関数の各周波数成分から周波数毎に算出された前記伝達関数がとる値の推定値に対する前記伝達関数の周波数毎の各周波数成分の各誤差について総合して評価した値である評価値を演算して、当該評価値が所定値以下となるまで前記切削力成分を仮決めし直して、当該評価値が所定値以下となった場合における、前記切削力成分の比率及び前記伝達関数の各周波数成分の比率の少なくとも一方を、前記機械における前記切削力及び前記振動特性の少なくとも一方の同定に用いることが望ましい。
また、本開示は、モニタリング方法において、回転部を有する機械における振動特性及び切削力の少なくとも一方を、コンピュータによりモニタリングするモニタリング方法であって、前記機械に取り付けたセンサにより、前記回転部を複数の前記回転速度で回転させて切削した際の振動を測定して、前記回転速度毎の複数の次数の振動測定結果を取得する振動測定ステップと、複数の前記次数に係る切削力成分を仮決めし、前記振動測定結果の各周波数成分を仮決めした前記切削力成分で除することで、前記振動特性に係る伝達関数の各周波数成分を算出する伝達関数周波数成分算出ステップと、前記伝達関数の各周波数成分から周波数毎に前記伝達関数がとる値の推定値を算出する伝達関数推定値算出ステップと、算出された前記推定値に対する前記伝達関数の周波数毎の各周波数成分の各誤差について総合して評価した値である評価値を算出する評価値算出ステップと、算出された前記評価値が所定値以下となるまで前記切削力成分を仮決めし直して、当該評価値が所定値以下となった場合における、前記切削力成分の比率及び前記伝達関数の各周波数成分の比率の少なくとも一方を、前記機械における前記切削力及び前記振動特性の少なくとも一方の同定に用いる誤差評価ステップと、を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、実際の切削時における振動の測定結果を用いることができ、機械構造の振動特性及び切削力について力センサを用いず振動センサのみによって簡便に推定することができるモニタリング装置やモニタリング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係るモニタリング装置が装着された工作機械(エンドミル加工可能な立形のNCフライス盤)の模式図である。
【
図2】加振力と振動の関係を表すブロック線図である。
【
図3】
図1のモニタリング装置の動作例(モニタリング方法)に係るフローチャートである。
【
図4】主軸の回転速度の範囲における振動変位の、1次から10次までの高調波成分に亘る周波数解析結果に係るグラフである。
【
図5】仮決めした切削力と測定された振動変位から算出したコンプライアンス伝達関数に係るグラフであって、その推定値からの誤差の評価値が所定値以下となっておらずコンプライアンス伝達関数のばらつきが大きいとされる場合のグラフであり、上部が実部、下部が虚部についてのグラフである。
【
図7】ある周波数(750Hz)における複素平面上でのコンプライアンス伝達関数のグラフである。
【
図8】コンプライアンス伝達関数のばらつきが小さいと判定された時の次数毎の切削力成分の比率のグラフである。
【
図9】コンプライアンス伝達関数のばらつきが小さいと判定された時のコンプライアンス伝達関数成分の比率を縦軸とし、周波数を横軸としたグラフである。
【
図10】推定された切削力の例に係るグラフである。
【
図11】変更例によって同定したコンプライアンス伝達関数成分の比率であって、実部虚部により表現されたものに係るグラフである。
【
図12】変更例によって同定したコンプライアンス伝達関数成分の比率であって、振幅位相により表現されたものに係るグラフである。
【
図13】変更例によって同定した次数毎の切削力成分の比率に係るグラフである。
【
図14】変更例によって同定した切削力の各次数成分から、逆フーリエ変換を用いて推定した工具回転角度に対する切削力波形に係るグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施の形態や動作例を、適宜図面に基づいて説明する。尚、本発明は、下記の実施の形態や動作例に限定されない。
【0009】
≪全体構成等≫
図1は、本発明に係るモニタリング装置1が装着された機械の一例としての工作機械(エンドミル加工可能な立形のNCフライス盤J)の模式図である。
NCフライス盤Jは、エンドミルVが装着された主軸P(回転部)と、主軸Pを回転可能に支持する主軸頭Hと、主軸頭Hを支持するコラムCと、ワークWを載置可能であるワーク台Q及びテーブルTと、を備える。
エンドミルVは、その中心軸が鉛直方向(Z軸方向)に沿うように装着される。
ワーク台Tは、それぞれZ軸方向に直交し、また互いに直交するX軸方向,Y軸方向におけるワークWの送りを行うワーク送り機構Dを備えている。
尚、ここでは説明を分かり易くするため、ワーク台Qは1方向(Y軸方向)に振動し易いものとする。
また、モニタリング装置1の構成には不要であるが、説明の便宜上、ワーク台QとテーブルTの間に動力計Oが設置されていることとする。
【0010】
モニタリング装置1は、ワーク台Q(加工点の隣接部,ワーク側)に取り付けられた加速度センサ2と、加速度センサ2と電気的に接続され、各種の演算や指令が可能である制御装置4(制御手段,コンピュータ)と、を備える。
加速度センサ2は、ワーク台Qの加速度を計測可能であり、ここでは少なくともY軸方向の振動を計測できるものとする。尚、加速度センサ2に代えて、あるいはこれと共に、音圧を測定するマイクロフォン、変位センサ、速度センサ、あるいは主軸Pを回転するモータ(図示略)や各送り機構を駆動するモータ(図示略)の電流値(トルク)及び回転位置(速度でも良く、指令値との偏差でも良い)等のうちの少なくとも何れかが用いられても良い。
制御装置4は、主軸Pの回転速度を制御する回転速度制御手段を兼ねている。また、制御装置4は、ワーク送り機構DにおけるワークWの送り量等を制御する送り制御手段を兼ねている。尚、回転速度制御手段や送り制御手段と制御装置4のうちの少なくとも何れか1つは、互いに電気的に接続された状態で別個に構成されても良い。
【0011】
≪振動特性や切削力のモニタリング等≫
図2は、加振力と振動の関係を表すブロック線図である。
一般的なエンドミル加工プロセスでは、断続切削による切削力変動が加振力Fとなり、機械構造の振動特性Gとの積が切削加工中に発生する振動X(変位,速度,加速度等)となる。尚、加振力F,振動特性G,振動Xは、複素数として振幅と位相を表しても良く、実数として振幅のみを表しても良い。加えて、「切削力」には切削トルクが含まれても良いし、「振動」には電流値の変動や回転位置の変動等が含まれても良い。
【0012】
換言すれば、切削加工中に発生する振動の各周波数成分は、入力される切削力の当該周波数成分と、振動特性の1つである伝達関数(コンプライアンス,モビリティ,イナータンス等)の当該周波数成分の積となる。尚、伝達関数は、切削力に代えて切削トルクを入力としても良いし、変位,速度,加速度に代えてモータの電流値や回転位置等の変動を出力としても良い。
このことに基づき、モニタリング装置1は、以下のようにして、加速度センサ2で測定した切削時の振動の測定結果から、振動特性(コンプライアンス)や切削力を推定する。
始めに、モニタリング装置1は、制御装置4を介して主軸Pを複数の回転速度条件で駆動し、ワークの加工(例えばエンドミル加工)を行う。回転速度条件は、加工が開始して終了する毎に変化させても良いし、1回の加工開始から終了までの間あるいはその一部期間に変化させても良い。ここで、刃毎の送り量及び切取り厚さが変わらないようにするために、例えば回転数を2倍にした場合には、送り速度も2倍にする。また、かような加工における、主軸Pの各回転速度に係る基本波の振動振幅を、加速度センサ2で測定した振動の時間変化の周波数分析(例えばフーリエ変換)により抽出してプロットする。尚、当該プロットは、NCフライス盤Jの振動の特徴を把握するために行われており、実際のモニタリング時においては不要である。
ここで、切削力の大きさは切取り厚さに依存するも、工具の回転速度の影響が小さいと考えられることから、回転速度に対する振動振幅のプロット結果は、同じ大きさの入力に対する周波数毎の出力に概ね等しく、周波数に対するコンプライアンスのプロット形状と概ね同じ形状になる。更に、基本波の振動振幅に加え、高次高調波の振動振幅も用いることで、より少ない主軸Pの回転速度条件で周波数に対するコンプライアンス特性を密に推定・プロットすることができる。
【0013】
しかし、高調波の振動振幅を用いる場合、その次数毎に入力される切削力の大きさが異なるため、そのままでは直接コンプライアンス特性をプロットすることができない。
そこで、モニタリング装置1は、振動測定結果から切削力の高調波に係る次数毎の比率を別途分離して推定する。
即ち、モニタリング装置1は、ある周波数に対して、次数の異なる高調波が当該周波数となるように2種類あるいはそれ以上の種類の主軸Pの回転速度条件を選択する。これら同一の周波数で得られる振動の大きさの比率は、入力された切削力の高調波に係る次数毎の比率そのものである。このことは、次数が異なっても、周波数が等しいため、入力を増幅するコンプライアンスの大きさが等しいことに基づく。尚、上記振動の大きさは、当該周波数で得られたものに代えて、近い周波数で得られたものから内挿等によって推定されたものであっても良い。
例えば、2枚刃のエンドミルVを装置し、制御装置4を介して主軸Pを3750min-1(回転/分)と5000min-1の2条件で回転させ加工した際の振動を加速度センサ2から取得すると、3750min-1の4次高調波と5000min-1の3次高調波の周波数が等しく500Hz(ヘルツ)となる。
尚、切削力に対する切削速度の影響は小さいことが知られており、主軸Pの回転速度が変わっても、送り速度が同じ比率で変化していれば、回転位置に対する切削力変化は同じであるとみなして良い。即ち、近似的に、回転周波数の整数倍の切削力成分は不変であるとみなして良い。
【0014】
従って、モニタリング装置1は、2種類の回転速度条件における振動振幅を比較することで、上述の例において切削力の3次高調波と4次高調波の比率を求めることができ、他の場合でも同様に切削力の比率を求めることができる。また、制御装置4は、複数の主軸Pの回転速度条件で同様のステップを行えば、切削力の高調波に係る次数毎の比率を求めることができ、高次高調波の振動振幅を用いて、より少ない主軸Pの回転速度条件の変化で、周波数に対するコンプライアンス特性を密に推定・プロットし、振動特性をモニタリングすることができる。
更に、
図2に示されるように、入力される切削力、振動特性、出力される振動の間には一定の関係があるため、モニタリング装置1は、振動特性が同定された後は、異なる加工条件、異なる被削材(ワーク)、びびり振動が発生した条件等において、回転速度を変化させることなく切削力を推定してモニタリングすることも可能である。尚、振動特性が同定されるまでは、同じ加工条件で回転速度のみが変化され、即ち回転速度と共に送り速度が変化され、軸方向と半径方向の切り込み,刃毎の送り量及び切り取り厚さが一定に保たれる。また、加速度センサ2がワーク側に設けられているため、ワークの大きさあるいは材質等が変更されると振動特性が変化することから、所定以上の大きさに係るワークの変化があった場合には、振動特性は同定し直されることが望ましい。
即ち、複数種類の回転速度条件における複数の次数の振動測定結果を用いることで、切削力の各次数の成分の比率、及びコンプライアンス伝達関数の各周波数成分の比率を同定し、振動特性や切削力をモニタリングすることができる。
尚、一般に、工作機械において、ワークより工具の方が小さく且つ切削点に近く、またワークの切削による形状変化が比較的に大きいため、加速度センサ2は、工具側の非回転部(主軸頭HあるいはコラムC)に取り付けられることが望ましい。この場合、工具の変化があった場合には、振動特性は同定し直されることが望ましい。
【0015】
≪モニタリングの具体例ないし検証等≫
NCフライス盤Jにおける、Y軸方向の振動や切削力のモニタリングの具体例やその検証について、
図3等に基づき説明する。尚、以下の説明では、処理のステップを適宜Sと略記する。
【0016】
ここでは、真鍮製のワークWを、コバルト高速度鋼製で直径20mm(ミリメートル),ねじれ角30°(deg)、溝数2のエンドミルVで切削する場合を例に説明する。
尚、切削条件は、次の通りとする。主軸Pの回転速度(回転数)は500min-1以上7500min-1以下、切削速度は31m/min(メートル毎分)以上471m/min以下、ワーク送り機構Dの送り量は刃毎に0.1mm、アキシャル(Z軸)方向の切込みは1mm、半径(Y軸)方向の切込みは5mm、切削方式はダウンカット、切削油は不使用である。
また、切削力がなるべく高次高調波まで入力されるように、半径方向の切込みは、エンドミルVの直径に対して比較的小さめに設定する。更に、びびり振動の発生をなるべく避けるため、アキシャル方向の切込みも、比較的に小さく設定する。
【0017】
始めに、モニタリング装置1は、制御装置4を介して、主軸Pを複数の回転速度条件で回転させ、ワークWを切削し、加速度センサ2により、複数の次数の振動を測定する(S1,振動測定ステップ)。ここでは、1次から10次までの次数の変位(振動)を測定する。参考のため、
図4に、上述の主軸Pの回転速度の範囲における変位(Displacement,μm,マイクロメートル)の、1次から10次までの高調波成分に亘る周波数解析結果を示す。
図4において、互いに同じ次数のプロットには、「●」と「●」あるいは「○」と「○」等といったように、同じ形状と塗り潰しの組合せを与えて表記している。即ち、
図4中で「●」と「○」は周波数が同じであっても異なる次数で測定がなされた結果である。
図4において、ワーク台Qの変位は、高調波の次数毎に段階的に変化していることを確認できる。尚、測定対象とする次数の上限は10次に限らず、9次以下あるいは11次以上とする等、適宜変更可能である。下限についても、同様に1次には限られない。
【0018】
次に、モニタリング装置1は、複数の回転速度条件に対する複数の次数の振動測定結果に基づき、切削力の次数毎の比率を仮決めし、各周波数に対する切削力成分を求める。更に、各周波数成分について変位(振動)成分をそれらの切削力成分で除することで、コンプライアンス伝達関数の各周波数成分を算出する(S2,伝達関数周波数成分算出ステップ)。
具体的には、仮決めした切削力の次数毎の比率から算出される各次数に対する切削力成分をFk,各次数に対する変位(振動)成分をXj,k、これらから算出されるコンプライアンス伝達関数の各次数成分をGj,k(μm/N,マイクロメートル毎ニュートン)とすると、これらは次の[数1]の関係を有する。尚、これらの値は全て複素数である。
また、jは複数の回転速度条件に対して小さい順に付番した番号であり、kは次数を表す。
【0019】
【0020】
ここで、モニタリング装置1は、
図5(上部が実部(Real part),下部が虚部(Imag. part))で示されるような、G
j,kにおける周波数に応じた分布を把握し、適宜内挿点を追加することで、内挿点を含めたコンプライアンス伝達関数G
l,kを求める。尚、lは、周波数に対して小さい順に付番した番号であり、G
l,kはコンプライアンス伝達関数の各周波数成分を表すこととなる。
図6は、
図5におけるG
l,kの実部の一部を拡大した図である。
図6において黒塗り潰しのプロットがG
j,kを表し、プロット形状(六芒星,左向き三角形,菱形,右向き三角形,五芒星)の違いが次数kの相違を表す。これら黒塗りのプロットに対し、モニタリング装置1は、同一形状(同一次数)間を例えば直線(
図6では破線で表示)で結び、その線上に他の次数の黒塗りプロットが存在する周波数の箇所に、内挿点を追加する。内挿点は、
図6では、次数に対応した形状の白抜きのプロットで示している。このように、モニタリング装置1は、算出された内挿点を含めたコンプライアンス伝達関数G
l,kを把握する。尚、内挿点の追加の一部または全部は、省略しても良い。また、内挿点は、隣接するプロット同士間を直線補間する以外の方法によって決定しても良い。
【0021】
続いて、モニタリング装置1は、算出されたコンプライアンス伝達関数Gl,kはばらつきが所定閾値より小さい関数であるか否かについて、次のように評価することで、NCフライス盤Jの切削力や振動特性に関する値を同定する。
まず、コンプライアンス伝達関数の各周波数における推定値Gl,estを算出する(S3,伝達関数推定値算出ステップ)。ここでは、推定値Gl,estとして、次の[数2]に示されるような、コンプライアンス伝達関数の各周波数における平均値を算出する。
【0022】
【0023】
ここで、sl及びelはl番目の周波数においてコンプライアンス伝達関数Gl,kが存在する次数の下限及び上限を表す。
【0024】
次に、モニタリング装置1は、[数3]の評価関数E
l,kを用いて[数4]で示すようにコンプライアンス伝達関数G
l,kの推定値からの誤差の評価値Eを算出する(S4,評価値算出ステップ)。
ここで、bはコンプライアンス伝達関数の周波数成分の数(lの上限)を示している。
尚、G
l,kないしG
l,estは何れも複素数であり、
図7に示すように、ある周波数(
図6の750Hz)の値について複素平面上で考えると、[数3]の評価関数E
l,kは、コンプライアンス伝達関数の各周波数成分G
l,kと推定値G
l,estとの間の距離を意味する。
【0025】
【0026】
モニタリング装置1は、推定値からの誤差の評価値Eが所定値以下となったか否かを判定し(S5,誤差評価ステップ)、推定値からの誤差の評価値Eが所定範囲外となった(推定値からの誤差の評価値Eが所定値を超えた)場合(
図4,5)、コンプライアンス伝達関数G
l,kのばらつきが大きいと判断する(S5でNO)。この場合、推定値からの誤差の評価値Eの大きさ等に基づいて、切削力の次数毎の比率を仮決めし直し、コンプライアンス伝達関数G
l,kのばらつきが所定閾値より小さいと判定されるまでS2,S3,S4のステップを繰り返す。
【0027】
かように推定値からの誤差の評価値Eが小さくなるように、各次数の切削力成分を修正すれば、モニタリング装置1は、正しい切削力成分の比率とコンプライアンス伝達関数成分の比率を同定することができる。
推定値からの誤差の評価値Eが所定値以下となり、コンプライアンス伝達関数G
l,kのばらつきが小さいと判定された時(S5でYES)、次数毎の切削力成分の比率の絶対値(Ratio of cutting force harmonics,|F
n/F
1|)は
図8のように同定され、各周波数に対するコンプライアンス伝達関数の比率の絶対値(Magnification,|G/G
1|)として
図9が得られる。ここでG
1はl=1,k=1の時のG
l,kとして表示している。また、これらの図においてプロットされた各点の形状は、
図4と同様である。
【0028】
更に、モニタリング装置1は、主軸Pを回転するモータや各送り機構を駆動するモータの例えば電流値情報を利用して、切削力成分やコンプライアンス伝達関数成分の定量的な同定を行う(S6,定量同定ステップ)。尚、S6は省略しても良い。
測定する振動と同じY軸方向の切削力成分を定量化するため、例えばY軸方向の送り機構を駆動するモータ電流からその推力を比較的容易に推定可能であり、推定された推力の加工開始前後の差分として切削力が推定可能である。但し、モータ電流による推力推定は、一般に周波数特性が良好でないことが多く、低周波の成分においてより正確に推定可能な傾向がある。
そこで、モニタリング装置1は、低次の成分のみを利用して、切削力の定量化を行うことが好ましい。
図4,8,9の例では、加速度センサ2による測定結果を変位に換算した値を使用しており、直流成分(積分定数)に関わる情報が欠落している。加速度センサ2の代わりに変位センサを利用する場合、直流成分の情報を利用できるため、モニタリング装置1は、推力の平均値(直流成分)を利用して、Y方向の切削力の次数成分を定量化し、その結果からコンプライアンス伝達関数も単位切削力に対する振動の値(図では変位[μm])として求めることができる。
また、モニタリング装置1は、同定された切削力の各次数成分から、逆フーリエ変換によって、
図10に示すように、主軸Pの回転角度(Rotation angle,deg)に対する切削力(Cutting force,N)を推定することもできる。加えて、モニタリング装置1は、
図10の横軸にあたる回転角度(Rotation angle,deg)を回転角速度で除することで、時間に対する切削力として表現することもできる。
【0029】
加えて、モニタリング装置1は、エンドミルVの形状や、半径方向の切込み、軸方向の切込みといった詳細な加工条件について、作業者による入力やCAMからの情報を取得し、切削力シミュレーションと組み合わせることで、より正確に上述の同定を行うことができる。
例えば、振動測定で直流成分の情報が欠落していても、これを補うことができる。あるいは、主軸Pの回転トルクを例えばモータ電流から推定し、更にトルクの平均値(直流成分)から切削点でのX,Y方向の力を推定することで、X,Y方向の切削力の各次数成分と、コンプライアンス伝達関数の各周波数成分とを定量的に求めることが可能である。
図10において、「Estimated」は、上述のように詳細な加工条件と切削力シミュレーションを組み合わせ、振動測定で欠落している直流成分の情報を補い、モータ電流から推定した主軸Pの回転トルクの平均値(直流成分)からY方向の切削力成分を定量化することで、推定された切削力を示す。推定された切削力は、「Measured」で示される動力計Oにより測定された切削力と良く一致している。
【0030】
尚、モニタリング装置1は、S4において、全てのコンプライアンス伝達関数Gl,kを平等に用いた[数3]に代えて、次の[数5]を用いても良い。
[数3]では、機械系の共振周波数付近でのコンプライアンス伝達関数Gl,kが比較的大きな誤差を持ち易いことを鑑み、[数5]では、共振周波数付近でのコンプライアンス伝達関数Gl,kについてその影響が小さくなるように重み付けが施されている。即ち、評価関数El,kを、共振周波数付近で大きくなるコンプライアンス伝達関数の推定値の絶対値で除することで、共振周波数付近での誤差の影響を小さくする。
その他、コンプライアンス伝達関数の絶対値や位相の変化の傾向から共振周波数を予想し、その予想共振周波数を用いて重み付けを行うことも可能である。
【0031】
【0032】
また、モニタリング装置1は、S3において、コンプライアンス伝達関数の各周波数における推定値Gl,estを算出する[数2]に代えて、次の[数6]を用いても良い。
[数6]では、一つ以上の振動モードを仮定し、それらのモーダルパラメータを仮定することで、モーダルパラメータによってコンプライアンス伝達関数の推定値Gl,estを定めている。
[数6]において、mは振動モードに付番した番号、cは仮定した振動モードの数、Mmは等価質量、Cmが等価減衰係数、Kmは等価バネ定数である。尚、[数6]において、レジデュー(残余)が考慮されても良い。
かように振動モードが仮定される場合、モニタリング装置1は、各次数の切削力成分と共にモーダルパラメータについても修正を行うことで、コンプライアンス伝達関数の推定値からの誤差の評価値を小さくしていっても良い。
【0033】
【0034】
図11は、モニタリング装置1が[数2],[数5],[数4]を用いて同定した各周波数におけるコンプライアンス伝達関数の比率を、実部・虚部に分けて表現した図であり、
図12は、振幅(Amplitude)・位相(Phase)に分けて表現した図である。また、
図13は、モニタリング装置1が同定した、次数(Harmonic order)毎の切削力成分の比率を示した図である。更に、
図14は、モニタリング装置1が、同定した切削力の各次数成分から、逆フーリエ変換を用いて推定した工具回転角度に対する切削力波形を示した図である。
尚、ここで同定した結果は、l=1,k=1時のG
l,kに対する比率であり、各図における縦軸の値は相対的なものである。無論、更にS6を実行し、切削力成分やコンプライアンス伝達関数成分の定量的な同定を行っても良い。
【0035】
≪効果等≫
かように、モニタリング装置1は、主軸Pを有するNCフライス盤Jにおける振動特性及び切削力の少なくとも一方をモニタリングするものであり、主軸Pの回転速度を制御する回転速度制御手段(制御装置4)と、NCフライス盤Jに取り付けた加速度センサ2と、加速度センサ2と接続された制御装置4と、を備えており、回転速度制御手段は、主軸Pの回転速度を所定の範囲において変化させ、モニタリング装置1は、加速度センサ2により、主軸Pを複数の回転速度条件で回転させて切削した際の振動を測定して、回転速度毎の振動測定結果を取得すると共に、複数の次数に係る切削力成分を仮決めし、振動測定結果である振動変位の各周波数成分を仮決めした切削力成分で除することで、振動特性に係るコンプライアンス伝達関数Gl,kの各周波数成分を算出し、算出されたコンプライアンス伝達関数Gl,kの推定値からの誤差についての評価値である誤差Eを演算して、誤差Eが所定値以下となるまで切削力成分を仮決めし直して、誤差Eが所定値以下となった場合における、切削力成分の比率Fn/F1及びコンプライアンス伝達関数Gl,kの各周波数成分の比率G/G1の少なくとも一方を、NCフライス盤Jにおける切削力及び振動特性の少なくとも一方の同定に用いることを特徴とする。
よって、モニタリング装置1では、NCフライス盤Jの振動特性や切削力を簡便に推定することが可能である。また、推定された振動特性を用いれば、びびり等の振動についてより適切に軽減ないし回避して、より高能率な加工が可能となる。
例えば、更にモニタ等の表示手段が設けられるようにして、モニタリング装置1は、びびり振動が生じた場合に、その周波数と共振周波数との大小を比較し、それによってびびり振動の原因やその対策を推定して、当該表示手段に表示させることができる。また、モニタリング装置1は、その表示に変えて、あるいはその表示と共に、制御装置4を介して主軸Pの回転速度条件の変更等の振動抑制対策を自動的に行うことができる。
また、モニタリング装置1は、NCフライス盤Jに加速度センサ2を導入するだけで切削力を監視することができ、工具の摩耗状態や偏心、欠損等を間接的に監視することができる。
更に、モニタリング装置1は、表示手段が用いられる場合には、作業者に対してワークWや工具(エンドミルV)、治具等の機械構造の振動抑制を見える化することができ、加工中のデータを記憶手段に蓄積すれば、加工診断や各種改善へと活かすこともできる。
【0036】
他方、モニタリング方法は、主軸Pを有するNCフライス盤Jにおける振動特性及び切削力の少なくとも一方を、コンピュータによりモニタリングする方法であって、NCフライス盤Jに取り付けた加速度センサ2により、主軸Pを複数の回転速度条件で回転させて切削した際の振動を測定して、回転速度毎の振動測定結果を取得する振動測定ステップS1と、複数の次数に係る切削力成分を仮決めし、振動測定結果としての振動変位の各周波数成分を仮決めした切削力成分で除することで、振動特性に係るコンプライアンス伝達関数Gl,kの各周波数成分を算出する伝達関数周波数成分算出ステップS2と、算出したコンプライアンス伝達関数Gl,kの推定値を算出する伝達関数推定値算出ステップS3と、算出された推定値からの誤差についての評価値である誤差Eを算出する評価値算出ステップS4と、算出された誤差Eが所定値以下となるまで切削力成分を仮決めし直して、誤差Eが所定値以下となった場合における、切削力成分の比率Fn/F1及びコンプライアンス伝達関数Gl,kの各周波数成分の比率G/G1の少なくとも一方を、NCフライス盤Jにおける切削力及び振動特性の少なくとも一方の同定に用いる誤差評価ステップS5と、を有している。
よって、モニタリング方法では、モニタリング装置1と同様に、NCフライス盤Jの振動特性や切削力を簡便に推定することが可能である。また、推定された振動特性を用いれば、びびり等の振動についてより適切に軽減ないし回避して、より高能率な加工が可能となる。
尚、本発明に係るモニタリング装置1及びモニタリング方法において、「機械」及び「工作機械」には、工具、ツールホルダ、工作物(ワーク)、及び治具の少なくとも何れかが適宜含まれるものとする。
【0037】
また、モニタリング装置1は、主軸Pを回転するモータや各送り軸を駆動するモータの電流値の平均値と、切削力成分の比率Fn/F1及びコンプライアンス伝達関数の各周波数成分の比率G/G1の少なくとも一方と、を用いて、NCフライス盤Jにおける切削力及び振動特性の少なくとも一方を定量的に同定して、定量同定ステップS6を実行する。よって、モニタリング装置1ないしモニタリング方法によって、切削力及び振動特性が定量化される。
更に、モニタリング装置1は、推定値として、各周波数においてコンプライアンス伝達関数の各周波数成分を複数の次数に対して算出し、それらの平均値を採用する。あるいは、モニタリング装置1は、推定値として、一つ以上の振動モードを仮定し、それらのモーダルパラメータを仮定することで、モーダルパラメータによって定められる各周波数におけるコンプライアンス伝達関数の各周波数成分を採用する。よって、モニタリング装置1ないしモニタリング方法では、コンプライアンス伝達関数Gl,kの推定値からの誤差が、正確且つ簡易に判断される。
【0038】
≪変更例等≫
尚、モニタリング装置1やモニタリング方法は、上述の変更例の他、以下で説明する変更例を適宜有する。
工作機械は、回転に同期して切削力(切取り厚さまたは切削幅)が変化するのであれば、NCフライス盤のみならず、フライス盤や、旋盤ないしNC旋盤等であっても良い。旋盤系の場合、回転部は工具ではなくワークを回転するものとなり、加工条件としてはワーク形状が適宜考慮される。工作機械による加工の種類は、エンドミルによる切削に限られず、他の切削工具を用いた切削であっても良い。あるいは、旋盤において、ワークにキー溝があっても良い。
各種の情報を表示可能な表示手段や、その表示手段を有しあるいは有さない操作盤が追加されたり、制御手段が工作機械と別体とされたり、制御手段が主軸やセンサ等において個別に分散して設けられたりする等、各種の工程や部材ないし部分の構成要素,順序,形状,配置,個数,有無,材質,形式等は、適宜変更されても良い。
また、同定する振動特性は、コンプライアンス伝達関数に限らず、測定される振動も、変位に限定されるものではない。速度や加速度等にも適宜変更可能であり、併せて振動特性を示す伝達関数も変更可能である。更に、[数3]~[数5]を用いて評価される推定値からの誤差の評価値Eは、値が小さくなるほどばらつきが小さいと判定される演算式であるが、例えば逆数をとる、あるいは符号を反転させる等して、値が大きくなるほどばらつきが小さいと判定される演算式に適宜改めることも可能である。
加えて、振動特性は、回転座標系に従っていても良い。例えば、主軸によって回転する部分に取り付けられたエンコーダ等のセンサより測定された振動の情報が用いられ、前記回転する部分の振動特性が同定される。更に具体的な例として、振動としてモータの電流(トルク)を用い、切削力として切削トルクを同定する場合、振動特性としては工具刃先に加わる切削トルクを入力とし、主軸モータに生じる電流を出力とする伝達関数(主軸回転部のねじり振動特性)が同時に同定される。
【符号の説明】
【0039】
1・・モニタリング装置、2・・加速度センサ(センサ)、4・・制御装置(制御手段,回転速度制御手段)、C・・コラム、D・・ワーク送り機構、H・・主軸頭、J・・NCフライス盤(工作機械)、O・・動力計、P・・主軸(回転部)、Q・・ワーク台、S1・・振動測定ステップ、S2・・伝達関数周波数成分算出ステップ、S3・・伝達関数推定値算出ステップ、S4・・評価値算出ステップ、S5・・誤差評価ステップ、S6・・定量同定ステップ、T・・テーブル、V・・エンドミル、W・・ワーク。