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特許7170537グラフェン強化ポリマーマトリックス複合材料のケミカルフリー製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】グラフェン強化ポリマーマトリックス複合材料のケミカルフリー製造
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20221107BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221107BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221107BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221107BHJP
   C08K 5/28 20060101ALI20221107BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20221107BHJP
   C08J 3/215 20060101ALI20221107BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20221107BHJP
   C01B 32/19 20170101ALI20221107BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CER
C08L101/00
C08K3/04
C08K7/02
C08K5/28
C08K9/04
C08J3/215 CEZ
C08J3/20 B
C01B32/19
D01F1/10
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2018529248
(86)(22)【出願日】2016-12-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 US2016065336
(87)【国際公開番号】W WO2017100294
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-11-13
(31)【優先権主張番号】14/757,236
(32)【優先日】2015-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第00790653(US,A)
【文献】特開2011-100616(JP,A)
【文献】特表2015-526264(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103724869(CN,A)
【文献】国際公開第2015/198657(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/165372(WO,A1)
【文献】特開2010-245022(JP,A)
【文献】特表2016-519191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28、99/00、
B29B7/00-11/14、13/00-15/06、B29C31/00-31/10、
37/00-37/04、71/00-71/02、
C08K3/00-13/08、C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を黒鉛材料から直接製造する方法であって、当該方法が:
(a)エネルギー衝突装置の衝突チャンバー中で黒鉛材料の複数の粒子と、固体ポリマー担体材料の複数の粒子とを混合して混合物を形成するステップであって、前記衝突チャンバーが衝突ボールを含まず、前記エネルギー衝突装置が、振動ボールミル、遊星ボールミル、高エネルギーミル、バスケットミル、アジテーターボールミル、クライオボールミル、マイクロボールミル、タンブラーボールミル、連続ボールミル、撹拌ボールミル、加圧ボールミル、フリーザーミル、振動ふるい、ビーズミル、ナノビーズミル、超音波ホモジナイザーミル、遠心分離遊星ミキサー、真空ボールミル、または共鳴音響ミキサーであり、前記固体ポリマー担体材料粒子が、溶媒中に溶解可能または溶融温度よりも高温で溶融可能であるマイクロメートルまたはナノメートルスケールの粒子を含み、前記混合物を形成するステップが、前記ポリマーマトリックス複合物を形成するために前記固体ポリマー担体材料粒子を溶解または溶融させることを含むステップと;
(b)前記黒鉛材料からグラフェンシートを剥離し、前記グラフェンシートを前記固体ポリマー担体材料粒子の表面に移動させて、グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を前記衝突チャンバーの内部で形成するのに十分な時間の間、ある頻度およびある強度で前記エネルギー衝突装置を運転して、前記グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を前記衝突チャンバーから回収するステップと
(c)前記グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子からグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を形成するステップと
を含み、
前記固体ポリマー担体材料粒子が、10nm~10mmの直径または厚さを有し、
前記グラフェンシートが単層グラフェンシートを含む、方法。
【請求項2】
グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を黒鉛材料から直接製造する方法であって、当該方法が:
(a)エネルギー衝突装置の衝突チャンバー中で黒鉛材料の複数の粒子と、固体ポリマー担体材料の複数の粒子とを混合して混合物を形成するステップであって、複数の衝突ボールが前記エネルギー衝突装置の前記衝突チャンバーに加えられ、前記エネルギー衝突装置が、振動ボールミル、遊星ボールミル、高エネルギーミル、バスケットミル、アジテーターボールミル、クライオボールミル、マイクロボールミル、タンブラーボールミル、連続ボールミル、撹拌ボールミル、加圧ボールミル、フリーザーミル、振動ふるい、ビーズミル、ナノビーズミル、超音波ホモジナイザーミル、遠心分離遊星ミキサー、真空ボールミル、または共鳴音響ミキサーであり、前記固体ポリマー担体材料粒子が、溶媒中に溶解可能または溶融温度よりも高温で溶融可能であるマイクロメートルまたはナノメートルスケールの粒子を含み、前記混合物を形成するステップが、前記ポリマーマトリックス複合物を形成するために前記固体ポリマー担体材料粒子を溶解または溶融させることを含むステップと;
(b)前記黒鉛材料からグラフェンシートを剥離し、前記グラフェンシートを前記固体ポリマー担体材料粒子の表面に移動させて、グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を前記衝突チャンバーの内部で形成するのに十分な時間の間、ある頻度およびある強度で前記エネルギー衝突装置を運転して、前記グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子を前記衝突チャンバーから回収するステップと
(c)前記グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子からグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を形成するステップと
を含み、
前記固体ポリマー担体材料粒子が、10nm~10mmの直径または厚さを有し、
前記グラフェンシートが単層グラフェンシートを含む、方法。
【請求項3】
前記グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子から前記衝突ボールを分離するために磁石が使用される、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記固体ポリマー担体材料粒子が、プラスチックまたはゴムのビーズ、ペレット、球、ワイヤ、繊維、フィラメント、ディスク、リボン、またはロッドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記直径または厚さが1μm~100μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記黒鉛材料が、天然黒鉛、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、黒鉛繊維、黒鉛ナノファイバー、フッ化黒鉛、酸化黒鉛、化学修飾黒鉛、剥離黒鉛、剥離し再圧縮した黒鉛、膨張黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、またはそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記黒鉛材料が、前記混合ステップの前に化学処理または酸化処理があらかじめ行われていない非インターカレートおよび非酸化黒鉛材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(c)が、前記ポリマー粒子を溶融させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶融混合物を形成するステップと、前記ポリマー溶融混合物から所望の形状を形成するステップと、前記形状を固化させて前記グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を得るステップとを含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(c)が、前記ポリマー粒子を溶媒中に溶解させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶液混合物を形成するステップと、前記ポリマー溶液混合物から所望の形状を形成するステップと、前記溶媒を除去して前記形状を固化させて前記グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を得るステップとを含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(c)が、前記ポリマー粒子を溶融させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶融混合物を形成するステップと、前記混合物を押出成形してロッド形態またはシート形態にするステップ、前記混合物を紡糸して繊維形態にするステップ、前記混合物を噴霧して粉末形態にするステップ、または前記混合物をキャスティングしてインゴット形態にするステップとを含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(c)が、前記ポリマー粒子を溶媒中に溶解させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶液混合物を形成するステップと、前記溶液混合物を押出成形してロッド形態またはシート形態にするステップ、前記溶液混合物を紡糸して繊維形態にするステップ、前記溶液混合物を噴霧して粉末形態にするステップ、または前記溶液混合物をキャスティングしてインゴット形態にするステップと、前記溶媒を除去するステップとを含む、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマー溶液混合物を噴霧してナノグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物被覆を形成する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップ(c)が、前記グラフェン被覆ポリマー粒子を前記グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物の所望の形状に焼結させるステップを含み、前記焼結ステップが選択的レーザー焼結装置中で行われる、請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記グラフェンシートが、少なくとも80%の単層グラフェン、または10個以下のグラフェン面を有する少なくとも80%の数層グラフェンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記グラフェンシートが、純粋なグラフェン、5重量%未満の酸素含有量を有する酸化グラフェン、フッ化グラフェン、5重量%未満のフッ素を有するフッ化グラフェン、95重量%以上の炭素含有量を有するグラフェン、または化学修飾グラフェンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記衝突チャンバーが、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブ、炭素ナノファイバー、金属ナノワイヤ、金属粒子、セラミック粒子、ガラス粉末、炭素粒子、黒鉛粒子、有機粒子、またはそれらの組合せから選択される改質用フィラーをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマーが、熱可塑性ポリマー、熱硬化性樹脂、ゴムもしくはエラストマー、半貫通網目構造ポリマー、貫通網目構造ポリマー、ワックス、ゴム、マスチック、またはそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記衝突チャンバーが官能化剤をさらに含み、前記エネルギー衝突装置を運転する前記ステップ(b)が、前記グラフェンシートを前記官能化剤で化学官能化する役割を果たす、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記官能化剤が、アルキルもしくはアリールシラン、アルキルもしくはアラルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミン基、スルホネート基(-SOH)、アルデヒド基、キノイダル、フルオロカーボン、またはそれらの組合せから選択される化学官能基を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記官能化剤が、2-アジドエタノール、3-アジドプロパン-1-アミン、4-(2-アジドエトキシ)-4-オキソブタン酸、2-アジドエチル-2-ブロモ-2-メチルプロパノエート、クロロカーボネート、アジドカーボネート、ジクロロカルベン、カルベン、アライン、ニトレン、(R-)-オキシカルボニルニトレン(式中、R=
の基のいずれか1つである)、およびそれらの組合せからなる群から選択されるアジド化合物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記官能化剤が、ヒドロキシル、ペルオキシド、エーテル、ケト、およびアルデヒドからなる群から選択される酸素化基を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記官能化剤が、SOH、COOH、NH、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハライド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’、Si(-OR’-)R’3-y、Si(-O-SiR’-)OR’、R”、Li、AlR’、Hg-X、TlZ、およびMg-X(式中、yは3以下の整数であり、R’は、水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R”は、フルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル、またはシクロアリールであり、Xはハライドであり、Zは、カルボキシレートまたはトリフルオロアセテートである)、およびそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記官能化剤が、アミドアミン、ポリアミド、脂肪族アミン、変性脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、無水物、ケチミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ポリエチレンポリアミン、ポリアミンエポキシ付加体、フェノール系硬化剤、非臭素化硬化剤、非アミン硬化剤、およびそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記官能化剤が、OY、NHY、O=C-OY、P=C-NR’Y、O=C-SY、O=C-Y、-CR’1-OY、N’Y、またはC’Yから選択される官能基を含み、Yが、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原、もしくは酵素基質、酵素阻害剤、もしくは酵素基質の遷移状態アナログの官能基である、またはR’-OH、R’-NR’、R’SH、R’CHO、R’CN、R’X、R’N(R’)X-、R’SiR’、R’Si(-OR’-)R’3-y、R’Si(-O-SiR’-)OR’、R’-R”、R’-N-CO、(CO-)H、(-CO-)H、(-CO)-R’、(CO)-R’、R’(式中、yは3以下の整数であり、wは1を超え200未満の整数であり、R’は、水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R”は、フルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル、またはシクロアリールであり、Xはハライドである)から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記エネルギー衝突装置を運転する前記ステップが、連続エネルギー衝突装置を用いて連続方法で行われる、請求項に記載の方法。
【請求項26】
前記ステップ(c)に続いて、350℃~3000℃の温度で、前記グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を熱処理して、前記ポリマーマトリックスの炭化、または前記ポリマーマトリックスの炭化および黒鉛化を行って、グラフェン強化炭素マトリックス複合物または黒鉛マトリックス複合物を形成するステップが行われる、請求項に記載の方法。
【請求項27】
グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子の材料であって、グラフェンの比率が、グラフェンおよびポリマーを合わせた全重量を基準として0.01重量%~80重量%である材料が製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子の材料が、押出機、成形機、または選択的レーザー焼結装置に供給されて、グラフェン強化ポリマー複合物の部品が製造される、請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される2016年12月10日に出願された米国特許出願第14/757,236号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、グラフェン材料の技術分に関し、特に、環境に優しく費用対効果の高い、グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
単層グラフェンシートは、2次元の六角形格子を占める炭素原子から構成される。多層グラフェンは、2つ以上のグラフェン面から構成されるプレートレットである。個別の単層グラフェンシートおよび多層グラフェンプレートレットは、本明細書では一括してナノグラフェンプレートレット(NGP)またはグラフェン材料と記載される。NGPとしては、純粋なグラフェン(実質的に99%炭素原子)、わずかに酸化されたグラフェン(<5重量%の酸素)、酸化グラフェン(≧5重量%の酸素)、わずかにフッ素化されたグラフェン(<5重量%のフッ素)、フッ化グラフェン(≧5重量%のフッ素)、他のハロゲン化グラフェン、および化学官能化グラフェンが挙げられる。
【0004】
NGPは、一連の独特の物理的、化学的、および機械的性質を有することが分かっている。たとえば、グラフェンは、あらゆる既存の材料の中で最も高い固有強度および最も高い熱伝導率を示すことが分かった。グラフェンの実際の電子デバイス用途(たとえば、トランジスタ中の主要要素としてのSiの代替)は、今後5~10年の間に実現するとは考えられていないが、複合材料中、およびエネルギー貯蔵装置の電極材料中のナノフィラーとしてのその用途は目前に迫っている。加工可能グラフェンシートを大量に利用できることが、グラフェンの複合物用途、エネルギー用途、および別の用途の開発に成功するために重要である。
【0005】
本発明者らの研究グループは、グラフェンを最初に発見した[B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。NGPおよびNGPナノ複合物の製造方法は本発明者らによって最近レビューされている[Bor Z.Jang and A Zhamu,“Processing of Nano Graphene Platelets (NGPs) and NGP Nanocomposites:A Review,”J.Materials Sci.43(2008)5092-5101]。本発明者らの研究によって、以下に概略を示すナノグラフェンプレートレットの確立された製造方法には従わないという点で新規である、単離ナノグラフェンプレートレットのケミカルフリー製造方法が得られた。さらに、この方法は、費用対効果が高く、大幅に少ない環境影響で新規グラフェン材料が得られるという点で有用性が高い。NGPを製造するために4つの主要な従来技術の方法が採用されてきた。これらの利点および欠点を以下に簡潔にまとめている。
【0006】
単離されたグラフェンシートの製造
方法1:酸化黒鉛(GO)プレートレットの化学的形成および還元
第1の方法(図1)は、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)、または実際には酸化黒鉛(GO)を得るために、インターカラントおよび酸化剤(たとえば、それぞれ濃硫酸および硝酸)を用いた天然黒鉛粉末の処理を伴う[William S.Hummers,Jr.,et al.,Preparation of Graphitic Oxide,Journal of the American Chemical Society,1958,p.1339]。インターカレーションまたは酸化の前、黒鉛は約0.335nmのグラフェン面間隔を有する(L=1/2 d002=0.335nm)。インターカレーションおよび酸化処理を行うと、グラフェン間隔は、典型的には0.6nmを超える値まで増加する。これは、この化学的経路中に黒鉛材料に生じる第1の膨張段階である。得られたGICまたはGOは、次に、熱衝撃曝露、または溶液系の超音波支援グラフェン層剥離方法のいずれかを用いることでさらに膨張する(多くの場合で剥離と呼ばれる)。
【0007】
熱衝撃曝露方法では、典型的には依然として互いに相互接続する黒鉛フレークから構成される「黒鉛ワーム」の形態である剥離またはさらに膨張した黒鉛を形成するために、GICまたはGOを高温(典型的には800~1,050℃)に短時間(典型的には15~60秒)曝露して、GICまたはGOを剥離または膨張させる。この熱衝撃手順によって、一部分離した黒鉛フレークまたはグラフェンシートを製造することができるが、通常は、黒鉛フレークの大部分は相互接続されたままである。典型的には、次に、剥離した黒鉛または黒鉛ワームに対して、エアミル粉砕、機械的剪断、または水中の超音波処理を用いたフレーク分離処理が行われる。したがって、方法1は、基本的に、第1の膨張(酸化またはインターカレーション)と、さらなる膨張(または「剥離」)と、分離との3つの異なる手順を伴う。
【0008】
溶液系分離方法では、膨張または剥離したGO粉末を水中または水性アルコール溶液中に分散させ、これに対して超音波処理を行う。これらの方法において、超音波処理は、黒鉛のインターカレーションおよび酸化の後(すなわち第1の膨張の後)、ならびに典型的には得られたGICまたはGOの熱衝撃曝露の後(第2の膨張の後)に使用することに留意することが重要である。あるいは、面間空間内に存在するイオン間の反発力がグラフェン間ファンデルワールス力に打ち勝って、結果としてグラフェン層が分離するように、水中に分散させたGO粉末のイオン交換または長時間の精製手順が行われる。
【0009】
この従来の化学的製造方法に関連したいくつかの大きな問題が存在する:
(1)この方法は、硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムもしくは塩素酸ナトリウムなどのいくつかの望ましくない化学物質を多量に使用する必要がある。
(2)化学処理方法は、典型的には5時間から5日間の長いインターカレーションおよび酸化の時間を必要とする。
(3)強酸によって、「黒鉛中に入り込むこと」によるこの長いインターカレーションまたは酸化プロセス中に、多量の黒鉛が消費される(黒鉛が二酸化炭素に変換され、これがプロセス中に失われる)。強酸および酸化剤中に浸漬した黒鉛材料の20~50重量%が失われることは珍しくない。
(4)熱剥離は、高温(典型的には800~1,200℃)を必要とし、したがって、非常にエネルギーを消費するプロセスである。
(5)熱で誘発される剥離方法および溶液で誘発される剥離方法の両方は、非常に時間のかかる洗浄および精製のステップを必要とする。たとえば、洗浄して1グラムのGICを回収するために典型的には2.5kgの水が使用され、適切な処理が必要となる多量の廃水が生じる。
(6)熱で誘発される剥離方法および溶液で誘発される剥離方法の両方では、得られる生成物は、酸素含有量を減少させるためのさらなる化学的還元処理を行う必要があるGOプレートレットである。典型的には、還元後でさえも、GOプレートレットの導電率は、純粋なグラフェンの導電よりもはるかに低いままである。さらに、この還元手順は、ヒドラジンなどの毒性化学物質の利用を伴うことが多い。
(7)さらに、排液後にフレーク上に保持されるインターカレーション溶液の量は、黒鉛フレーク100重量部当たり20~150部(pph)の溶液の範囲、より典型的には約50~120pphの範囲となりうる。高温剥離中、フレークによって保持される残存インターカレート(intercalate)種は分解して硫黄化合物および窒素化合物の種々の化学種(たとえば、NOおよびSO)を生成し、これらは望ましくない。流出液は、環境に対して悪影響が生じないようにするために費用のかかる改善手順が必要となる。
【0010】
上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0011】
方法2:純粋なナノグラフェンプレートレットの直接形成
2002年に、本発明者らの研究チームは、ポリマーまたはピッチ前駆体から得られた部分的に炭化または黒鉛化されたポリマー炭素から単層および多層のグラフェンシートを単離することに成功した[B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。Mackら[“Chemical manufacture of nanostructured materials” 米国特許第6,872,330号明細書(2005年3月29日)]は、黒鉛にカリウム溶融物をインターカレートさせるステップと、結果としてKがインターカレートされた黒鉛をアルコールと接触させて、NGPを含む剥離黒鉛を乱暴に生成するステップとを含む方法を開発した。カリウムおよびナトリウムなどの純アルカリ金属は水分に対して非常に敏感であり、爆発の危険が生じるので、この方法は、真空中または非常に乾燥したグローブボックス環境中で注意深く行う必要がある。この方法は、NGPの大量生産には適していない。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0012】
方法3:無機結晶表面上でのナノグラフェンシートのエピタキシャル成長および化学蒸着
基板上の超薄グラフェンシートの小規模製造は、熱分解に基づくエピタキシャル成長およびレーザー脱離イオン化技術によって行うことができる[Walt A.DeHeer,Claire Berger,Phillip N.First,“Patterned thin film graphite devices and method for making same” 米国特許第7,327,000B2号明細書(2003年6月12日)]。わずか1層または数層の原子層を有する黒鉛のエピタキシャル膜は、それらの特有の特性およびデバイス基板としての大きな可能性のため、技術的および化学的に重要である。しかし、これらの方法は、複合材料およびエネルギー貯蔵用途の単離されたグラフェンシートの大量生産には適していない。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0013】
方法4:ボトムアップ方法(小分子からのグラフェンの合成)
Yangら[“Two-dimensional Graphene Nano-ribbons,”J.Am.Chem.Soc.130(2008)4216-17]は、1,4-ジヨード-2,3,5,6-テトラフェニル-ベンゼンと4-ブロモフェニルボロン酸との鈴木-宮浦カップリングから開始する方法を用いて最長12nmの長さのナノグラフェンシートを合成した。結果として得られるヘキサフェニルベンゼン誘導体をさらに誘導体化させ環を縮合させて小さいグラフェンシートを得た。これは、これまでは非常に小さいグラフェンシートが生成されている遅いプロセスである。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0014】
したがって、望ましくない化学物質の量の減少(またはこれらの化学物質全ての除去)、短縮された処理時間、より少ないエネルギー消費、より低いグラフェン酸化度、望ましくない化学種の排液中(たとえば、硫酸)または空気中(たとえば、SOおよびNO)への流出の減少または排除が要求されるグラフェン製造方法が緊急に必要とされている。この方法によって、より純粋(より少ない酸化および損傷)で、より高い導電性で、より大きい/より幅広のグラフェンシートが製造可能となるべきである。これらのグラフェンシートは、強化用ポリマーマトリックス材料中で特に有用である。
【0015】
グラフェンポリマーナノ複合物の用途および重要性
グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物(以下ではグラフェン-ポリマーナノ複合物または単にグラフェンナノ複合物とも記載される)の潜在的な用途は、導電率、熱伝導率、機械的性質、および遮断性の4つの主要な領域の性質の向上を利用している。特殊な用途の例としては、タイヤ、エレクトロニクスのハウジング、EMIシールド、燃料経路、センサー、UV抵抗性ポリマー物品、およびフレキシブル回路が挙げられる。グラフェンナノ複合物によって、自動車車体および航空機機体のパネルの軽量化の大きな可能性が得られる。
【0016】
本明細書では、NGPまたはグラフェンシートは、純粋なグラフェン、酸化グラフェン(GO)、還元酸化グラフェン(RGO)、フッ化グラフェン、および化学官能化グラフェンを意味することができる。グラフェン/ポリマーおよび酸化グラフェン/ポリマーナノ複合物を製造するために、4つの主要な従来技術の方法が採用されてきた。これらの利点および欠点を以下に簡潔にまとめている。
【0017】
方法1:ポリマー/グラフェンナノ複合物を製造するためのその場重合
十分に分散したポリマー/グラフェンおよびポリマー/酸化グラフェンナノ複合物の小規模製造は、図3に示されるようなその場重合によって行うことができる[Lopez-Manchado et al,“Graphene Filled Polymer Nanocomposites”,J.Mater.Chem.Vol.21 Issue 10,pp.3301-3310]。最も一般的な方法では、黒鉛またはグラフェンプレートレット(9)が1種類以上のモノマーの溶液に加えられる。剪断力または超音波エネルギーが加えられ、モノマーの重合が行われる。これによって、ポリマー/グラフェン溶液またはポリマー/黒鉛インターカレーション化合物溶液が形成される。溶媒を除去する、または非溶媒を加えることで、ポリマーで包まれたグラフェンまたはポリマー/黒鉛インターカレーション化合物の固体粒子が得られる。この材料は、溶融配合、プレス加工、または焼結によって加工されて、ポリマー/グラフェンナノ複合物が形成される。同様に、酸化グラフェンは、その場重合によって加工して、ポリマー/酸化グラフェン溶液を形成することができ、これは、還元することでポリマーで包まれたグラフェン溶液を形成することができるし、溶媒除去によってさらに処理することで、ポリマーで包まれた酸化グラフェンを形成することができる。次にこれを溶融配合、または当技術分野において周知の別の方法によって加工して、ポリマー/酸化グラフェン複合物を形成することができる。
【0018】
その場重合によって、非常によく分散したポリマー/グラフェンまたはポリマー/酸化グラフェンナノ複合物が製造される。しかし、この方法は、工業規模での製造へのスケールアップが困難であるという大きな欠点を有する。
1)その場重合中に要求される多くのポリマーは、健康への悪影響、安全性リスク、環境への悪影響、またはこれらのいくつかの組合せを有する。
2)その場重合に要求される溶媒の使用は、製造のスケールアップのためのコストが大きい。工業規模で製造するための溶媒回収設備のために、大きなエネルギーおよび設備のコストが生じる。
3)モノマーとグラフェンまたは酸化グラフェンとの低い相溶性の結果として、低品質の分散体が得られる。
4)酸化グラフェンを使用することで、プロセス化学の問題が生じる。酸化グラフェンは多くのモノマーと共有結合することができ、そのことが望ましい場合がある。しかし、酸化グラフェンの酸素含有量は、プロセス条件、貯蔵条件、および材料供給元に基づいて変動しうる。使用される材料に固有のばらつきは、工業規模の製造の場合に問題となる。
【0019】
上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0020】
方法2:ポリマー/グラフェンナノ複合物を製造するための溶液混合
十分に分散したポリマー/グラフェンおよびポリマー/酸化グラフェンナノ複合物の小規模製造は、図4に示されるような溶液混合によって行うことができる[Lopez-Manchado et al,“Graphene Filled Polymer Nanocomposites”,J.Mater.Chem.Vol.21 Issue 10,pp.3301-3310]。最も一般的な方法では、グラフェンプレートレットの溶媒懸濁液は、剪断、キャビテーション、または超音波エネルギーの印加によって形成される。選択される溶媒は、選択されたポリマーに適切である必要がある。ポリマーが溶媒溶液に加えられ、剪断または超音波によってエネルギーが加えられて、グラフェン/ポリマー溶液が形成される。次に、一般に濾過、蒸発、または組合せによって溶媒が除去されて、ポリマーで包まれたグラフェン粒子が形成される。次に、これらの粒子の溶融配合、プレス加工、または焼結を行うことで、ポリマー/グラフェン複合物が形成される。あるいは、貧溶媒をポリマー/グラフェン溶液に加えて、ポリマーで包まれたグラフェンを沈殿させることができる。この材料は、さらなる処理の前に、濾過、洗浄、および乾燥が必要となり得る。
【0021】
溶液混合技術は、酸化グラフェン(GO)プレートレットを用いてコロイド溶媒懸濁液中で行うこともできる。グラフェンプレートレットの溶媒懸濁液の場合に使用したプロセスと同様のプロセスに従って、ポリマーを加えることでポリマー/酸化グラフェン溶液が形成される。この溶液は、当技術分野において一般に知られている化学的、熱的、光、または電気分解による方法によって還元して、ポリマー/グラフェン溶液を形成することができる。あるいは、ポリマー/酸化グラフェン溶液は、溶媒の除去または貧溶媒の添加によって処理して、ポリマーで包まれた酸化グラフェンを形成することができる。このポリマーで包まれた酸化グラフェンは、還元してポリマーで包まれたグラフェンを形成することができるし、溶融配合または他の方法によって処理してポリマー/酸化グラフェンナノ複合物を形成することもできる。このナノ複合物は、最終製品であってよいし、または一般的に知られている手段によって還元してポリマー/グラフェンナノ複合物を形成することもできる。酸化グラフェンは熱不安定性であるため、ポリマー/酸化グラフェンナノ複合物は、100~150℃未満の処理温度を有するポリマーを用いる場合にのみ形成することができる。
【0022】
溶液混合プロセスは、微細分散したポリマー/グラフェンナノ複合物を形成できるので有利である。多い使用量のグラフェンも容易になる。しかし、このプロセスはいくつかの大きな制限がある:
1)ポリマーの溶解には、ABS/アセトンなどのよく適合したポリマー/溶媒系の場合でさえも、剪断または超音波による大きなエネルギー入力を必要とする。より高コストの粉末ポリマーまたは反応器球(reactor sphere)を使用することで、このプロセスの必要性を減少させることはできるが、なくすことはできない。
2)ポリマーの溶解に必要な多くの溶媒は、健康への悪影響、安全性リスク、環境への悪影響、またはこれらのいくつかの組合せを有する。アセトンに加えて、ポリマーのための一般的な溶媒としては、メチルエチルケトン、ヘキサン、トルエン、およびキシレンが挙げられる。
3)溶液混合に必要な溶媒の使用のため、製造のスケールアップのコストが大きくなる。たとえば、1kgのABSの製造には10kg以上のアセトンを必要としうる。溶液混合によって工業規模で製造するための溶媒回収設備のために、大きなエネルギーおよび設備のコストが生じる。
4)たとえばポリイミドおよびPEEKなどの一部のポリマーは、周知の溶媒に対して溶解性が低い、または不溶性となる。さらに、溶媒は、グラフェンまたは酸化グラフェンが溶媒中に分散できるように選択する必要がある。溶媒とグラフェンまたは酸化グラフェンとの適合性が低いと、低品質の分散体が得られる。
【0023】
溶液混合されたポリマーから溶媒を除去する別の方法は、噴霧乾燥およびフィルムキャスティングである。または、ポリマー/グラフェン混合物は、最終的にコーティングされる表面上に直接噴霧することができる。これらの方法のすべては、溶媒のコスト、溶媒の安全性、およびコストのかかる溶媒の回収の欠点を有する。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0024】
方法3:ポリマー/グラフェンナノ複合物を製造するための乾式ブレンド
十分に分散したポリマー/グラフェンおよびポリマー/酸化グラフェンナノ複合物の小規模製造は、図5に示されるように乾式ブレンドによって行うことができる[Lopez-Manchado et al,“Graphene Filled Polymer Nanocomposites”,J.Mater.Chem.Vol.21 Issue 10,pp.3301-3310]。最も一般的な方法では、ポリマーペレットを入れた混合装置にグラフェンプレートレットが加えられる。グラフェンのポリマーペレットに対する付着を促進するために添加剤を含むことができる。混合装置の作業の後、グラフェンでゆるくコーティングされたポリマーペレットは溶融配合機中に供給されて、ポリマー/グラフェンナノ複合物が形成される。あるいは、酸化グラフェンをポリマーペレット上に噴霧して、GOがコーティングされたポリマーペレットを形成することができる。これらは低温で溶融配合して、ポリマー/酸化グラフェンナノ複合物を形成することができる。あるいは、これらは、いくつかの方法の中の1つによって還元し、次に溶融配合して、ポリマー/グラフェンナノ複合物を形成することができる。
【0025】
乾式ブレンドの後の溶融配合は、ポリマー/グラフェン複合物を形成するために一般に使用される最も規模の変更が可能な方法である。溶媒およびモノマーは不要であり、健康、安全性、および環境のリスクが軽減される。しかし、この方法は、工業規模へのスケールアップに影響するいくつかの大きな欠点を有する。
1)投入材料のコスト:グラフェンおよびポリマーの両方の原材料のコストは大きな欠点である。分散体の品質は、ポリマーペレットの粒度に大きく影響される。市販のポリマーペレットは、一般に直径2~3mmおよび長さ2~5mmの略円筒形である。従来のポリマーペレットでは、実現可能な最大使用量は、約5%のナノグラフェンプレートレットである。高表面積の反応器粉末または粉砕ポリマー粉末を使用することで、分散体の利用可能な表面積を増加させることができるが、これによって、投入材料のコストが大幅に増加する。
2)グラフェン使用量の不確実性:グラフェン粉末はポリマー担体にゆるく付着しているので、溶融配合に移行する間に未知の量の材料が失われうる。この結果として、グラフェンの実際の使用量が不確実となり、不必要な粉塵曝露に作業者がさらされる。
3)最大グラフェン使用量の制限:固体の混合は、静電力によって、または付着力の補助によってポリマー表面にゆるく付着できる材料の量に制限される。これは、厚さ約10nmのナノグラフェンプレートレットの場合は約50%、高表面積の数層グラフェンの場合は約2パーセントに制限される。最大使用量の制限を回避する方法の1つは、溶融配合し、ペレット化し、グラフェンを再度コーティングし、続いてさらに溶融配合することである。溶融配合の繰り返しは、ポリマーマトリックスが熱的および機械的に劣化するので望ましくない。
【0026】
上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0027】
方法4:ポリマー/グラフェンナノ複合物を製造するための固体剪断粉砕
十分に分散したポリマー/グラフェンおよびポリマー/酸化グラフェンナノ複合物の小規模製造は、固体剪断粉砕(SSSP)によって行うことができる[Torkelsonら、“Polymer-graphite nanocomposites via solid state shear pulverization” 米国特許第8,303,876号明細書(2012年11月6日)]。最も一般的な方法では、黒鉛材料がポリマーペレットと混合され、溶融配合装置に加えられる。黒鉛をグラフェンに分解しポリマーマトリックス中に分散させるために、粉砕、混練、および混合の要素が使用される。この方法は、工業規模へのスケールアップに影響するいくつかの大きな課題を有する。
1)ポリマーマトリックスの熱劣化および熱履歴:強力、高温、または長時間のポリマーの溶融配合によって機械的強度が低下することは当業者によく知られている。十分に分散したグラフェンを形成するためのSSSPは、機械的性質を低下させ、より温度ではポリマーマトリックスの変色を誘発すると考えられる。
2)溶融配合装置の摩耗:黒鉛の混練、混合、および粉砕のために溶融配合機を使用すると、スクリューエレメントの激しい摩耗が生じると考えられる。スクリューエレメントの交換によって、装置の中断時間が生じ、大きな費用がかかる。スクリューエレメントが摩耗するので、プロセスは経時により変化することがあり、分散体の品質の望ましくない低下が生じることがある。
3)エネルギーおよび水の使用:SSSPは、グラフェンを形成するための黒鉛の剥離によって生じる熱を散逸させるために冷却が必要である。
4)粒度の制限:SSSPによって処理するために、黒鉛を特定の粒度未満に減少させる必要がある。これは大きなコストおよびエネルギーを必要とするプロセスである。
【0028】
上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【発明の概要】
【0029】
本発明は、非常に単純で、迅速で、規模の変更が可能であり、環境に優しく、費用対効果の高い、グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物の製造方法を提供する。この方法は、前述の要求に適合している。この方法は、黒鉛材料または炭質材料(グラフェン源材料)から単層または数層グラフェンシートを直接製造するステップと、これらのグラフェンシートをポリマー粒子(本明細書において固体担体材料粒子と記載される)の表面上に移動させて、グラフェン被覆固体ポリマー粒子またはグラフェン埋め込み固体ポリマー粒子を形成するステップとを含む。次にグラフェン被覆ポリマー粒子は、たとえば、溶融させ次に固化させること、溶媒中に溶解させ次に溶媒を除去すること、焼結などによって、所望の形状の複合材料に圧密化される。
【0030】
グラフェン被覆固体ポリマー粒子またはグラフェン埋め込み固体ポリマー粒子は、独立した製品として販売することができる。これらのグラフェン被覆粒子またはグラフェン埋め込み粒子において、グラフェンの比率は、グラフェンおよびポリマーを合わせた全重量を基準として0.01重量%~80重量%である。この製品は、フィラーがポリマーマトリックス中に分散され、その混合物がペレット形態にされる従来のマスターバッチの代わりに使用することができる。このマスターバッチは、たとえば実質的にあらゆる比率でポリマーと混合してブレンドを形成し、次に押出成形または射出成形を行うことができる。従来方法を使用することによって、ポリマーマトリックス中に25%を超えるグラフェンを分散させることは困難であったことに留意されたい。
【0031】
ポリマー粒子は、熱可塑性(たとえばPE、PP、ナイロン、ABS、エンジニアリングプラスチックなど)、熱硬化性(たとえば熱、UV光、放射線、電子ビーム、硬化剤などによって硬化可能)、ゴム、半貫通網目構造ポリマー、貫通網目構造ポリマー、またはそれらの組合せから選択することができる。
【0032】
好ましい一実施形態では、この方法は、黒鉛材料と、ポリマー系固体担体材料の粒子と、任意選択で衝突ボールとの混合物の、ボールミルまたは同様のエネルギー衝突装置による機械的撹拌を、グラフェン層(六角形に配列した炭素原子の面)を供給源の黒鉛材料から剥離するのに十分な時間の長さで行うステップと、これらの剥離したグラフェン層を固体ポリマー担体材料粒子の表面上にコーティングするステップとを含む。衝突ボールが存在すると、グラフェンシートを供給源の黒鉛粒子から剥離して、衝突ボールの表面上に一時的に堆積することができる。続いて、これらのグラフェンシートで被覆された衝突ボールが、固体担体粒子上に衝突すると、グラフェンシートは担体粒子の表面に移動して、グラフェンで被覆されたポリマー粒子が形成される。ある実施形態では、グラフェンシートは、担体粒子中に埋め込まれる場合がある。続いて、グラフェン被覆ポリマー粒子から、グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物が形成される。
【0033】
ある実施形態では、固体ポリマー担体が十分に硬質および剛性ではない場合、複数の衝突ボールまたは媒体がエネルギー衝突装置の衝突チャンバーに加えられる。好ましい一実施形態では、グラフェン被覆ポリマー粒子からグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を形成するステップの前に、グラフェン被覆ポリマー粒子から衝突ボールまたは媒体を分離するために磁石が使用される。
【0034】
好ましくは、出発物質(グラフェン源材料としての黒鉛または炭質材料)は、あらかじめインターカレーションおよび化学酸化が行われていない。この出発物質は、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)および酸化黒鉛(GO)ではない。好ましくは、供給源の黒鉛材料は、天然黒鉛、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、黒鉛繊維、黒鉛ナノファイバー、酸化黒鉛、フッ化黒鉛、化学修飾黒鉛、剥離黒鉛、鉱脈黒鉛、またはそれらの組合せから選択される。
【0035】
ある実施形態では、エネルギー衝突装置の衝突チャンバーは、保護流体、たとえば不活性ガス、非反応性液体、水などをさらに含む。
【0036】
この方法は、低コストであり、非常に拡張性が高い。2時間未満のプロセス時間(多くの場合は20分未満)で、グラフェンシートは黒鉛粒子から剥離されて、ポリマー粒子に表面上に再堆積される。この結果得られるグラフェン被覆ポリマー粒子は、グラフェン強化ポリマー複合物部品を直接製造するために、押出機または射出成形材料中に供給することができる。20分~2時間の時間で、グラフェン-ポリマーナノ複合物成分を供給源の黒鉛材料から直接製造することができた。ほとんどの周知の方法を使用することによる黒鉛からのグラフェンシートの製造は、インターカレーションおよび酸化だけで4~120時間を要し、繰り返される洗浄および乾燥、さらに引き続く熱剥離の時間が加算されるという見解を考慮すると、この方法は驚くほど迅速で単純である。さらに、ポリマーマトリックス中のグラフェンシートの分散は、非常に困難な作業としても知られている。本発明は、グラフェンの製造と、グラフェン-ポリマーの混合(グラフェンの分散)と、複合物の加工とを1つの作業で行う。
【0037】
本発明の好ましい一実施形態は、黒鉛材料および担体材料をボールミルなどのエネルギー衝突装置中で直接混合するステップと、混合物に対して十分長い処理時間をかけることで、供給源の黒鉛材料からグラフェン層を剥離し、これらのグラフェン層を直ちに担体材料表面に移動させるステップとの方法である。これらのグラフェンシートは典型的には単層または数層グラフェンシート(典型的には<5層であり;ほとんどは単層グラフェン)である。このステップの後、グラフェン被覆ポリマー粒子は、広範囲の複合物加工技術を用いて複合物の形状に成形される。
【0038】
たとえば、複合物を形成するこのステップは、ポリマー粒子を溶融させて、ポリマー溶融物とその中に分散したグラフェンシートとの混合物を形成するステップと、ポリマー溶融物-グラフェン混合物から所望の形状を形成するステップと、その形状を固化させてグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を得るステップとを含むことができる。ある実施形態では、この方法は、ポリマー粒子を溶融させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶融混合物を形成するステップと、続いて、混合物を押出成形してロッド形態もしくはシート形態にするステップ、混合物を紡糸して繊維形態にするステップ、混合物を噴霧して粉末形態にするステップ、または混合物をキャスティングしてインゴット形態にするステップとを含む。
【0039】
あるいは、複合物形成ステップは、ポリマー粒子を溶媒中に溶解させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶液混合物を形成するステップと、ポリマー溶液混合物から所望の形状を形成するステップと、溶媒を除去して上記形状を固化させてグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を得るステップとを含むことができる。ある実施形態では、この方法は、ポリマー粒子を溶媒中に溶解させて、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶液混合物を形成するステップと、溶液混合物を押出成形してロッド形態もしくはシート形態にするステップ、溶液混合物を紡糸して繊維形態にするステップ、溶液混合物を噴霧して粉末形態にするステップ、または溶液混合物をキャスティングしてインゴット形態にするステップと、次に溶媒を除去するステップとを含む。
【0040】
望ましい一実施形態では、ポリマー溶液混合物を噴霧することで、ナノグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物コーティングまたは塗料組成物が形成される。
【0041】
一実施形態では、複合物を形成するステップは、グラフェン被覆ポリマー粒子をグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物の所望の形状に焼結させるステップを含む。
【0042】
グラフェン製造ステップ自体(黒鉛粒子からグラフェンシートを直接剥離し、グラフェンシートをポリマー粒子表面に直ちにまたは同時に移動させるステップ)は、従来の研究者および製造者が工業的な量でグラフェンを形成するためにより複雑で時間がかかり費用のかかる方法に集中していたことを考慮すると、非常に驚くべきことであることに留意されたい。言い換えると、大量のグラフェンプレートレットを製造するために化学的インターカレーションおよび酸化が必要であると考えられてきた。本発明はこの予想に多くの方法で挑んでいる:
(1)化学的インターカレーションおよび酸化(グラフェン間の空間の膨張、グラフェン面のさらなる膨張または剥離、ならびに剥離したグラフェンシートの完全な分離が必要)とは異なり、本発明の方法は、原材料の黒鉛材料からグラフェンシートを直接除去し、これらのグラフェンシートを担体材料粒子の表面に移動させる。望ましくない化学物質(たとえば硫酸および硝酸)は使用されない。
(2)酸化およびインターカレーションとは異なり、純粋なグラフェンシートを担体材料上に移動させることができる。シートの酸化による損傷がないことで、より高い導電率および熱伝導率を有するグラフェン含有製品を製造することができる。
(3)ボトムアップ製造方法とは異なり、本発明の方法を用いて大型連続プレートレットを製造することができる。
(4)一般的な製造方法とは逆に、グラフェンコーティングを形成するために強酸および酸化剤は不要である。
(5)一般的な製造方法とは逆に、多量の水を必要とする製造プロセスは不要である。
【0043】
担体材料は、ポリマーペレット、フィラメント、繊維、粉末、反応器球の形態、またはその他の形態であってよい。
【0044】
エネルギー衝突装置は、ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、高エネルギーミル、バスケットミル、アジテーターボールミル、連続ボールミル、撹拌ボールミル、加圧ボールミル、真空ボールミル、フリーザー(SPEX)ミル、振動ふるい、超音波ホモジナイザーミル、共鳴音響ミキサー、またはシェーカーテーブルから選択することができる。
【0045】
本発明による方法によって、単層グラフェンシートを製造し分散させることができる。多くの例では、製造されるグラフェン材料は少なくとも80%の単層グラフェンシートを含む。製造されるグラフェンは、純粋なグラフェン、5重量%未満の酸素含有量を有する酸化グラフェン、5重量%未満のフッ素を有するフッ化グラフェン、95重量%以上の炭素含有量を有するグラフェン、または官能化グラフェンを含むことができる。
【0046】
ある実施形態では、衝突チャンバーは、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、金属ナノワイヤ、金属粒子、セラミック粒子、ガラス粉末、炭素粒子、黒鉛粒子、有機粒子、またはそれらの組合せから選択される改質用フィラーをさらに含む。改質用フィラーは、得られる複合物の化学的、機械的、および物理的(電気的、熱的、光学的、および/または磁気的)性質を改善することができる。たとえば、改質用フィラーは強磁性または常磁性である。
【0047】
本発明による方法の別の驚くべき非常に有利な特徴は、グラフェンシートの製造および化学官能化を同じ衝突チャンバー中で同時に行うことができるという見解である。衝突によって誘発され担体粒子が受ける運動エネルギーは、担体粒子表面上を被覆するグラフェンシートのエッジおよび表面を化学的に活性化させるのに十分なエネルギーおよび強度を有し;たとえば高活性部位またはフリーラジカルが形成される)。所望の化学官能基(たとえば-NH、Br-など)を含む選択された化学種(官能化剤)を衝突チャンバー中に分散させれば、所望の官能基をグラフェンのエッジおよび/または表面に付与することができる。反応性部位または活性ラジカルが形成されるとすぐにその場で化学官能化反応が起こりうる。グラフェンシートとポリマーマトリックスとの間の界面結合を強める目的で、異なるポリマーマトリックス材料中では異なる官能基が望まれる。たとえば、-NH基はエポキシ樹脂およびポリイミドマトリックス中に望ましく、-COOH基または-OH基はポリビニルアルコール中で有用である。
【0048】
したがって、ある実施形態では、エネルギー衝突装置を操作するステップ(b)は、同じ衝突装置中で、製造されたグラフェンシートを官能化剤で化学官能化する役割を果たす。
【0049】
ある実施形態では、官能化剤は、アルキルもしくはアリールシラン、アルキルもしくはアラルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミン基、スルホネート基(-SOH)、アルデヒド基、キノイダル、フルオロカーボン、またはそれらの組合せから選択される化学官能基を含む。
【0050】
あるいは、官能化剤は、2-アジドエタノール、3-アジドプロパン-1-アミン、4-(2-アジドエトキシ)-4-オキソブタン酸、2-アジドエチル-2-ブロモ-2-メチルプロパノエート、クロロカーボネート、アジドカーボネート、ジクロロカルベン、カルベン、アライン、ニトレン、(R-)-オキシカルボニルニトレン(式中、R=
の基のいずれか1つである)、およびそれらの組合せからなる群から選択されるアジド化合物を含む。
【0051】
ある実施形態では、官能化剤は、ヒドロキシル、ペルオキシド、エーテル、ケト、およびアルデヒドからなる群から選択される酸素化基を含む。ある実施形態では、官能化剤は、SOH、COOH、NH、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハライド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’、Si(-OR’-)R’-y、Si(-O-SiR’-)OR’、R”、Li、AlR’、Hg-X、TlZ、およびMg-X(式中、yは3以下の整数であり、R’は、水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R”は、フルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル、またはシクロアリールであり、Xはハライドであり、Zは、カルボキシレートまたはトリフルオロアセテートである)、およびそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含む。
【0052】
官能化剤は、アミドアミン、ポリアミド、脂肪族アミン、変性脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、無水物、ケチミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ポリエチレンポリアミン、ポリアミンエポキシ付加体、フェノール系硬化剤、非臭素化硬化剤、非アミン硬化剤、およびそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含むことができる。
【0053】
ある実施形態では、官能化剤は、OY、NHY、O=C-OY、P=C-NR’Y、O=C-SY、O=C-Y、-CR’1-OY、N’Y、またはC’Yから選択される官能基を含み、Yは、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原、もしくは酵素基質、酵素阻害剤、もしくは酵素基質の遷移状態アナログの官能基である、またはR’-OH、R’-NR’、R’SH、R’CHO、R’CN、R’X、R’N(R’)、R’SiR’、R’Si(-OR’-)R’3-y、R’Si(-O-SiR’-)OR’、R’-R”、R’-N-CO、(CO-)H、(-CO-)H、(-CO)-R’、(CO)-R’、R’から選択され、wは1を超え200未満の整数である。
【0054】
エネルギー衝突装置の操作手順は、連続エネルギー衝突装置を用いて連続方法で行うことができる。このプロセスは自動化することができる。
【0055】
複合物の形成ステップに続いて、350℃~3000℃の温度で、グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を熱処理して、ポリマーマトリックスの炭化、またはポリマーマトリックスの炭化および黒鉛化を行って、グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物をグラフェン強化炭素マトリックス複合物または黒鉛マトリックス複合物に変換することができる。
【0056】
本発明は、グラフェン被覆粒子またはグラフェン埋め込み粒子からの複合物部品の形成を行っていない、または行う前の、本発明の方法によって製造されたグラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子の材料も提供する。この材料中、グラフェンの比率は、グラフェンおよびポリマーを合わせた全重量を基準として0.01重量%~80重量%(より典型的には0.1%~70%、さらにより典型的には1%~60%)である。グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子の材料は、グラフェン強化ポリマー複合物部品を製造するために、押出機、成形機、または選択的レーザー焼結装置に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】時間のかかる化学的酸化/インターカレーション、洗浄、および高温剥離手順を伴う、高酸化NGPの最も一般に使用される従来技術の製造方法を示すフローチャートである。
図2】エネルギー衝突装置によるグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物の本発明による製造方法を示すフローチャートである。
図3】ポリマー/グラフェンおよびポリマー/酸化グラフェン複合物を製造するための一般に使用される従来技術のその場重合方法を示すフローチャートである。
図4】ポリマー/グラフェンおよびポリマー/酸化グラフェン複合物を製造するための、一般に使用される従来技術の溶液混合方法を示すフローチャートである。
図5】ポリマー/グラフェンおよびポリマー/酸化グラフェン複合物を製造するための、一般に使用される従来技術の溶融配合方法を示すフローチャートである。
図6】エネルギー衝突装置によるグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物の本発明による製造方法を示す図である。
図7】連続ボールミルによるグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物の本発明による製造方法を示す図である。
図8A】従来のHummerの経路によって製造されたグラフェンシートの透過型電子顕微鏡写真である(はるかに小さいグラフェンシートであるが、同等な厚さである)。
図8B】本発明による衝突エネルギー方法によって製造されたグラフェンシートの透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
炭素材料は、実質的に非晶質の構造(ガラス状炭素)、高度に組織化された結晶(黒鉛)、または種々の比率およびサイズの黒鉛微結晶および欠陥が非晶質マトリックス中に分散することを特徴とするあらゆる種類の中間構造を想定することができる。典型的には、黒鉛微結晶は、底面に対して垂直の方向であるc軸方向でファンデルワールス力によって互いに結合する多数のグラフェンシートまたは底面から構成される。これらの黒鉛微結晶は、典型的にはミクロンサイズまたはナノメートルサイズである。これらの黒鉛微結晶は、黒鉛フレーク、炭素/黒鉛繊維セグメント、炭素/黒鉛ウィスカー、または炭素/黒鉛ナノファイバーであってよい黒鉛粒子中の結晶の欠陥または非晶質相の中に分散している、またはそれらと連結している。
【0059】
本発明の好ましい特定の一実施形態は、ナノグラフェンプレートレット(NGP)材料およびそのポリマーマトリックス複合物の製造方法である。NGPは、グラフェン面(炭素原子の六角形格子)の1つのシート、または互いに積層し結合したグラフェン面の複数のシート(典型的には、平均で、多層プレートレット1つ当たり5つ未満のシート)から実質的に構成される。グラフェンシートまたは底面とも呼ばれる各グラフェン面は、炭素原子の2次元六角形構造を含む。各プレートレットは、黒鉛面に平行な長さおよび幅、ならびに黒鉛面と直交する厚さを有する。定義により、NGPの厚さは100ナノメートル(nm)以下であり、単一シートのNGPは0.34nmの薄さである。しかし、本発明の方法により製造されたNGPは、大部分が単層グラフェンであり、一部が数層グラフェンシート(<5層)である。NGPの長さおよび幅は、典型的には200nm~20μmの間であるが、供給源の黒鉛材料粒子のサイズによってより大きいまたはより小さい場合もある。
【0060】
本発明は、複合物のマトリックスとなることが意図される所望のポリマーの粒子に迅速に移動する、グラフェンシートの従来の製造方法に関連する実質的にすべての欠点が回避される非常に単純で、迅速で、規模の変更が可能であり、環境に優しく、費用対効果の高い方法を提供する。図2に概略的に示されるように、この方法の好ましい一実施形態は、供給源の黒鉛材料粒子および固体ポリマー担体材料の粒子(および、希望される場合に、任意選択の衝突ボール)を衝突チャンバー中に入れるステップを含む。投入後、得られた混合物は、直ちに衝突エネルギーに曝露され、これはたとえば、担体粒子(および任意選択の衝突ボール)の黒鉛粒子への衝突を可能とするためにチャンバーを回転させることによって行われる。これらの繰り返される衝突事象(高頻度および高強度で生じる)の作用によって、黒鉛材料粒子の表面からグラフェンシートが剥離し、これらのグラフェンシートがポリマー担体粒子の表面(衝突ボールが存在しない場合)まで直接移動して、グラフェン被覆ポリマー粒子が形成される。グラフェンプレートレットの一部は、ポリマー粒子中に埋め込まれる場合もある。これは「直接移動」プロセスである。
【0061】
あるいは、衝突ボール(たとえばステンレス鋼またはジルコニアのビーズ)を含む衝突チャンバー中では、グラフェンシートは、衝突ボールによっても剥離され、最初に衝突ボールの表面に一時的に移動する。グラフェンで被覆された衝突ボールがポリマー担体材料粒子に衝突すると、グラフェンシートはポリマー担体材料粒子の表面に移動して、グラフェン被覆ポリマー粒子が形成される。これは「間接移動」プロセスである。
【0062】
2時間未満で、供給源の黒鉛粒子を構成するグラフェンシートのほとんどが剥離して、主として単層グラフェンおよび数層グラフェン(ほとんどが5層未満)が形成される。直接または間接移動プロセス(担体材料粒子上へのグラフェンシートの被覆)の後、衝突ボール(存在する場合)または残留黒鉛粒子(存在する場合)は、多岐にわたる方法を用いてグラフェン被覆ポリマー粒子から分離される。グラフェン被覆ポリマー粒子の衝突ボールおよび残留黒鉛粒子(存在する場合)からの分離または分級は、それらの重量または密度、粒度、磁気的性質の差に基づいて容易に行うことができる。結果として得られるグラフェン被覆ポリマー粒子は、すでに「複合物」またはすでに2成分材料であり;すなわちこれらは、すでに「混合されている」。この2成分材料は、次に熱処理または溶液処理によって、複合材料の形状にされる。
【0063】
言い換えると、グラフェンシートの製造およびグラフェンシートとポリマーマトリックスとの混合は、1つの操作で実質的に同時に行われる。これは、グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物の従来の製造における最初にグラフェンシートを製造し、続いてグラフェンシートをポリマーマトリックスと混合する従来方法とは全く対照的である。
【0064】
この従来方法では、図1中に示されるように、グラフェンシートまたはプレートレットのみを製造するための従来技術の化学的方法は、典型的には、濃硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムまたは過塩素酸ナトリウムなどの酸化剤の混合物中に黒鉛粉末を浸漬し、化学的インターカレーション/酸化反応を終了させるために典型的には5~120時間を要する反応性材料を形成することを含む。反応が終了すると、得られたスラリーは、水によるすすぎおよび洗浄のステップが繰り返され、次に水を除去するための乾燥処理が行われる。得られた乾燥粉末は、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)または酸化黒鉛(GO)と呼ばれるものであり、次に熱衝撃処理が行われる。これは、典型的には800~1100℃(より典型的には950~1050℃)の温度にあらかじめ設定された炉の中にGICを入れることによって行うことができる。この結果得られる生成物は、典型的には高酸化グラフェン(すなわち高酸素含有量の酸化グラフェン)であり、還元酸化グラフェン(RGO)を得るためにはこれを化学的または熱的に還元する必要がある。RGOは、高欠陥集団を含むことが分かっており、したがって純粋なグラフェンほど導電性ではない。本発明者らは、純粋なグラフェンペーパー(本明細書に記載のように作製される、純粋なグラフェンシートの真空支援濾過によって作製した)は1,500~4,500S/cmの範囲内の導電率値を示すことを確認している。対照的に、同じ製紙手順によって作製されたRGOペーパーは、典型的には100~1,000S/cmの範囲内の導電率値を示す。
【0065】
グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物の従来の製造方法では、背景の項で前述したポリマー/グラフェンナノ複合物を製造するための4つの技術:(1)その場重合;(2)溶液混合;(3)乾式ブレンド;および(4)固体剪断粉砕の中の1つにより、製造されたグラフェンシートをポリマーマトリックスと混合して複合物を形成する必要がある。
【0066】
たとえば、図3は、ポリマー/グラフェンおよびポリマー/酸化グラフェン複合物を製造するための一般に使用される従来技術のその場重合方法を示すフローチャートを示している。ほとんどの一般的な方法では、あらかじめ作製したグラフェンシートまたはプレートレットをモノマー溶液に加える。剪断混合または超音波によってエネルギーを加えて、グラフェンプレートレットまたはシートをモノマー溶液中に分散させる。モノマーをグラフェンプレートレットとその場で重合させて、グラフェンで包まれたポリマープレートレットの溶液を形成する。次に、溶媒を除去する、または非溶媒を加えることによって材料を沈殿させて、グラフェンで包まれたポリマーを形成し、これをさらに処理することができる。出発物質として酸化グラフェンの懸濁液を用いて、同じその場プロセスを行うことができる。酸化グラフェンプロセスを用いる場合、いずれかのプロセスステップで還元を行うことができる。周知の還元方法としては、化学的還元、熱還元、光エネルギー還元、および電解還元が挙げられる。酸化グラフェンプロセスの最終結果は、ポリマー/酸化グラフェンナノ複合物、または部分的もしくは完全に還元したポリマー/グラフェンナノ複合物である。グラフェンと酸化グラフェンとの混合物も可能性のある出発物質である。
【0067】
その場重合の欠点は、明らかであり、溶媒の使用および回収;溶媒の危険性;モノマー、ポリマー、およびグラフェンのための共溶媒の特定;ならびに(酸化グラフェンの場合の)酸化グラフェンの還元時にポリマーが損傷する可能性である。
【0068】
図4に、一般に使用される従来技術の溶液混合方法が示されている。最も一般的な方法では、あらかじめ作製したグラフェンプレートレットをポリマー/溶媒溶液に加える。剪断または超音波によってエネルギーを加えて、グラフェンシートを完全に分散させ、ポリマーを溶解させ、次に溶媒除去プロセスを行う。溶媒除去方法の1つは、沈殿を誘発するために非溶媒を加えることを含む。生成物のポリマーで包まれたグラフェンプレートレットは次にさらに処理される。類似の方法では、出発物質として酸化グラフェンを使用することができる。そのプロセスステップは、希望する場合に、酸化グラフェンのグラフェン(還元酸化グラフェン、RGO)への還元を含むように修正することができる。グラフェンと酸化グラフェンとの混合物も可能性のある出発物質である。
【0069】
図5は、一般に使用される従来技術の溶融配合方法を示している。最も一般的な方法では、あらかじめ作製したグラフェンプレートレットを混合装置に加えて、ポリマーペレットとブレンドする。このグラフェン-ポリマー混合物を次に溶融配合(たとえば押出機中)して、ポリマー/グラフェンナノ複合物を形成する。あるいは、酸化グラフェンをポリマーペレットと混合し、続いて溶融配合することができる。
【0070】
これらすべての従来技術のグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物の製造方法では、独立したプロセスとして最初にグラフェンシートの剥離および分離を行う必要がある。これは次に、ポリマーまたはモノマーとのブレンドまたは混合プロセスが行われる。この結果得られる混合物から、次に溶融-固化または溶媒溶解-溶媒除去によって複合物形状が形成される。
【0071】
対照的に、本発明による衝突方法は、1つの作業でのグラフェン製造と、官能化(希望する場合)と、グラフェン-ポリマー混合との組合せを伴う。この迅速で環境に優しい方法では、顕著な化学物質の使用が回避されるだけでなく、従来技術の方法によって製造されるような熱還元酸化グラフェンとは対照的に、より高品質の強化材料である純粋なグラフェンが製造される。純粋なグラフェンによって、より高い導電率および熱伝導率を有する複合物の形成が可能となる。
【0072】
機構は依然として完全には理解されていないが、本発明のこの画期的な方法では、グラフェン面の膨張、インターカラントの侵入、剥離、およびグラフェンシートの分離の必要な機能が実質的に排除され、その代わりに完全に機械的な剥離プロセスが使用されると思われる。この方法全体は、4時間未満(典型的には10分~2時間)で行うことができ、化学物質を加えずに行うことができる。このことは、最先端の科学者および技術者または当技術分野の熟練者にとってさえも、非常に驚異的で衝撃的で驚くべきことである。
【0073】
本発明の研究の別の驚くべき結果の1つは、粒度の減少および前処理を行うことなく、多種多様な炭素質材料および黒鉛材料を直接処理できることを確認したことである。この材料は、天然黒鉛、合成黒鉛、高配向熱分解黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、黒鉛繊維、黒鉛ナノファイバー、酸化黒鉛、フッ化黒鉛、化学修飾黒鉛、剥離黒鉛、またはそれらの組合せから選択することができる。対照的に、従来技術の酸化グラフェンの化学的製造および還元に使用される黒鉛材料は75um以下の平均粒度までサイズを減少させる必要がある。この方法は、サイズ減少装置(たとえばハンマーミルまたはスクリーニングミル)、エネルギー入力、およびダスト軽減が必要である。対照的に、エネルギー衝突装置の方法は、ほとんどあらゆるサイズの黒鉛材料を使用することができる。数mmまたはcm以上のサイズの出発物質が首尾良く形処理されて、グラフェン被覆ポリマー粒子またはグラフェン埋め込みポリマー粒子が形成されている。唯一のサイズの制限はエネルギー衝突装置のチャンバー容量であるが、このチャンバーは非常に大きい(工業規模の)場合がある。
【0074】
本発明による方法によって、ポリマーマトリックス中に十分に分散した単層グラフェンシートの製造が可能である。多くの例では、製造されるグラフェン材料は、少なくとも80%の単層グラフェンシートを含む。製造されるグラフェンは、純粋なグラフェン、5重量%未満の酸素含有量の酸化グラフェン、フッ化グラフェン、5重量%未満のフッ素を有する酸化グラフェン、95重量%以上の炭素含有量のグラフェン、または官能化グラフェンを含むことができる。
【0075】
本発明による方法は、GICの製造を伴わず、したがって、高い剥離温度(たとえば800~1,100℃)におけるGICの剥離は不要である。これは環境保護の観点から別の大きな利点となる。従来技術の方法は、グラフェン間の空間中に意図的に使用された硫酸および硝酸を含む乾燥GICの作製が必要であり、したがって、高度に規制される環境危険要因である揮発性ガス(たとえばNOおよびSO)を生成するHSOおよびHNOの分解を必然的に伴う。本発明による方法は、HSOおよびHNOを分解させる必要性が全くなく、したがって、環境に優しい。本発明の組み合わされた黒鉛の膨張/剥離/分離プロセス中に望ましくないガスが環境中に放出されない。
【0076】
本発明の好ましい一実施形態は、図2に示されるような衝突ボールまたは媒体の衝突チャンバーへの混入である。衝突媒体は、金属、ガラス、セラミック、または有機材料のボールを含むことができる。衝突媒体のサイズは、1mm~20mmの範囲内であってよいし、より大きいまたはより小さい場合もある。衝突媒体の形状は、球形、針状、円筒形、円錐、角錐、直線状、または他の形状であってよい。複数の形状およびサイズの組合せを選択することができる。サイズ分布は、単一モードガウス分布、2モード、または3モードであってよい。
【0077】
この方法の別の好ましい一実施形態は、グラフェン被覆粒子またはグラフェン埋め込み粒子を溶融配合して、グラフェン/ポリマーナノ複合物を形成することである。溶融ポリマー-グラフェン(ポリマーマトリックス中に分散させたグラフェンシート)を押出成形して、ナノ複合物ポリマーペレット、シート、ロッド、または繊維を形成することができる。独特の用途として、グラフェンシートを中に分散させた溶融ポリマーを押出成形して、付加製造(たとえば溶融堆積モデリングまたはFDM)用の連続フィラメントを形成することができる。溶融ポリマーから所望の形状を直接形成し、固化させてグラフェン強化ポリマーマトリックスナノ複合物にすることもできる。
【0078】
本発明の別の一実施形態では、被覆ポリマー粒子を溶融させ、紡糸して繊維形態にする、噴霧して粉末形態にする、またはキャスティングしてインゴットにする。この方法の別の好ましい一実施形態は、加熱して最低限の剪断を加えながら被覆されたペレットにプレスする、または混合して所望の形状を形成し、これを次に固化させてグラフェン-ポリマー複合物にする。
【0079】
この方法の別の好ましい一実施形態では、被覆されたペレットを焼結して、所望の形状を直接形成する。この焼結は、空隙の形成を軽減するために加圧して行うことができる。選択的レーザー焼結装置中でニアネットシェイプ物品を形成するために、被覆ポリマー粒子のレーザー焼結を使用することができる。
【0080】
従来技術と比較した場合の本発明の大きな利点の1つは、担体材料の選択の自由度である。この方法を用いて多種多様のポリマーを、ペレット、粉末、連続フィラメント、および金型/工具の形状による種々の形状を含む種々の形状因子の複合物に加工することができる。
【0081】
望ましい一実施形態では、本発明による方法は、自動化された方法および/または連続方法で行われる。たとえば、図6および図7に示されるように、黒鉛粒子1および固体担体粒子2(および任意選択の衝突ボール)の混合物が、コンベヤベルト3によって送給され、連続ボールミル4中に供給される。ボールミル粉砕によってグラフェン被覆固体担体粒子が形成された後、生成混合物(ある程度の残留黒鉛粒子および任意選択の衝突ボールも場合により含む)はボールミル装置4からスクリーニング装置(たとえば回転ドラム5)中に放出されて、グラフェン被覆固体担体粒子が、残留黒鉛粒子(存在する場合)および衝突ボール(存在する場合)から分離される。この分離作業は、衝突ボールが強磁性(たとえばFe、Co、Ni、またはMnを主成分とする金属のボール)の場合は、磁気分離器6を役立てることができる。グラフェン被覆担体粒子は、粉末分級機、サイクロン、および/または静電分離器に送給することができる。粒子は、溶融配合7、プレス加工8、または粉砕/ペレット化装置9によってさらに処理することができる。これらの手順は完全に自動化することができる。本発明の方法は、生産材料の特性決定および分級、ならびに処理が不十分な材料の連続エネルギー衝突装置中への再循環を含むことができる。本発明の方法は、材料の性質および処理量を最適化するために、連続エネルギー衝突装置中への投入材料の重量監視を含むことができる。
【0082】
本発明の別の好ましい一実施形態は、グラフェンシートが中に分散したポリマー溶液混合物を形成するための溶媒中のポリマーの溶解である。この溶液は、次に、たとえば金型中への押出成形によって、所望の形状を形成した。次に溶媒を除去して、グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物を形成する。この方法の別の好ましい一実施形態は、被覆ポリマーペレットを溶解させ、それらを表面に噴霧して、グラフェン/ポリマーナノ複合物の被覆を形成することである。
【0083】
従来技術と比較した場合の本発明の大きな利点の1つは、ポリマー担体材料の選択の自由度である。グラフェン/ポリマーナノ複合物を製造するための固体担体材料として、実質的にあらゆるポリマーを使用することができる。ペレット化および他の溶融処理を行わずに、粉砕した再生プラスチックを使用することができる。これによって、ポリマーに生じる熱劣化が軽減され、より改善された機械的性質が可能となる。
【0084】
化学官能化
担体固体粒子表面に移動したグラフェンシートは、黒鉛結晶のエッジ面に対応する大きな表面比率を有する。エッジ面における炭素原子は反応性であり、炭素の原子価を満たすためにある程度のヘテロ原子または基を含む必要がある。固体担体粒子に移動させることで形成されるグラフェンナノプレートレットのエッジまたは表面にもともと存在する多くの種類の官能基(たとえばヒドロキシルおよびカルボン酸)が存在する。衝突によって誘発されて担体粒子が受ける運動エネルギーは、担体粒子表面上を被覆するグラフェンシートのエッジ、さらには表面を化学的に活性化させる(たとえば高活性部位またはフリーラジカルを形成する)のに十分なエネルギーおよび強度を有する。所望の化学官能基(たとえば-NH、Br-など)を含む特定の化学種を衝突チャンバー中に混入すると、これらの官能基をグラフェンのエッジおよび/または表面に付与することができる。言い換えると、グラフェンシートの製造および化学官能化は、衝突チャンバー中に適切な化合物を混入することによって同時に行うことができる。要約すると、他の方法に対する本発明の大きな利点の1つは、製造と表面化学の改質とを同時に行うことが簡単なことである。
【0085】
この方法によって得られるグラフェンプレートレットは、衝突チャンバー中に種々の化学種を混入することで官能化することができる。後述の化学種の各グループの中で、本発明者らは、官能化の研究のために2または3の化学種を選択した。
【0086】
化学物質の好ましいグループの1つでは、結果として得られる官能化NGPは、式:[NGP]-Rで大まかに表すことができ、式中、mは異なる官能基の種類の数(典型的には1~5の間)であり、Rは、SOH、COOH、NH、OH、R’CHOH、CHO、CN、COCl、ハライド、COSH、SH、COOR’、SR’、SiR’、Si(-OR’-)R’-y、Si(-O-SiR’-)OR’、R”、Li、AlR’、Hg-X、TlZおよびMg-Xから選択され;yは3以下の整数であり、R’は、水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアラルキル、シクロアリール、またはポリ(アルキルエーテル)であり、R”は、フルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル、またはシクロアリールであり、Xはハライドであり、Zはカルボキシレートまたはトリフルオロアセテートである。
【0087】
エポキシ樹脂中の有効な強化フィラーとなるNGPの場合、官能基-NHが特に興味深い。たとえば、エポキシ樹脂の一般に使用される硬化剤の1つは、3つの-NH基を有するジエチレントリアミン(DETA)である。DETAが衝突チャンバー中に含まれる場合、その3つの-NH基の中の1つがグラフェンシートのエッジまたは表面に結合することができ、残りの2つの未反応-NH基はエポキシ樹脂との反応に利用することができる。このような配置によって、NGP(グラフェンシート)と複合物のマトリックスとの間に良好な界面結合が形成される。
【0088】
他の有用な化学官能基または反応性分子は、アミドアミン、ポリアミド、脂肪族アミン、変性脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、無水物、ケチミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ヘキサメチレンテトラミン、ポリエチレンポリアミン、ポリアミンエポキシ付加体、フェノール系硬化剤、非臭素化硬化剤、非アミン硬化剤、およびそれらの組合せからなる群から選択することができる。これらの官能基は、多官能性であり、少なくとも2つの末端から少なくとも2つの化学種と反応可能である。最も重要なことには、これらは、その末端の1つを用いて、グラフェンのエッジまたは表面に結合可能であり、エポキシ硬化段階中に、1つまたは2つの他の末端でエポキシドまたはエポキシ樹脂材料と反応可能である。
【0089】
あるいは、官能化剤は、2-アジドエタノール、3-アジドプロパン-1-アミン、4-(2-アジドエトキシ)-4-オキソブタン酸、2-アジドエチル-2-ブロモ-2-メチルプロパノエート、クロロカーボネート、アジドカーボネート、ジクロロカルベン、カルベン、アライン、ニトレン、(R-)-オキシカルボニルニトレン(式中、R=
の基のいずれか1つである)、およびそれらの組合せからなる群から選択されるアジド化合物を含む。
【0090】
上記の[NGP]-Rはさらに官能化することができる。これは、-R基グラフェンシートに結合させた後に衝突チャンバーの蓋を開け、次に新しい官能化剤を衝突チャンバーに加え、衝突操作を再開することによって行うことができる。この結果得られるグラフェンシートまたはプレートレットは、式:[NGP]-A(式中、Aは、OY、NHY、O=C-OY、P=C-NR’Y、O=C-SY、O=C-Y、-CR’1-OY、N’Y、またはC’Yから選択され、Yは、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原、もしくは酵素基質、酵素阻害剤、もしくは酵素基質の遷移状態アナログの適切な官能基である、またはR’-OH、R’-NR’、R’SH、R’CHO、R’CN、R’X、R’N(R’)、R’SiR’、R’Si(-OR’-)R’3-y、R’Si(-O-SiR’-)OR’、R’-R”、R’-N-CO、(CO-)H、(-CO-)H、(-CO)-R’、(CO)-R’、R’から選択され、wは1を超え200未満の整数である)の組成を含む。
【0091】
NGPは、式:[NGP]-[R’-A](式中、m、R’、およびAは前述の定義の通りである)で表される組成物が生成されるように官能化することもできる。本発明の組成物は、ある種の環状化合物が上に吸着するNGPも含む。これらは、式:[NGP]-[X-R(式中、aは0または10未満の数であり、Xは、多環式芳香族、複素多環式芳香族、または金属複素多環式芳香族部分であり、Rは前述の定義の通りである)の物質の組成物を含む。好ましい環状化合物は平面状である。吸着のためのより好ましい環状化合物はポルフィリンおよびフタロシアニンである。吸着した環状化合物は官能化することができる。このような組成物は、式、[NGP]-[X-A(式中、m、a、X、およびAは前述の定義の通りである)の化合物を含む。
【0092】
本発明の官能化NGPは、スルホン化、脱酸素したプレートレット表面への求電子付加、またはメタル化によって調製することができる。黒鉛プレートレットは、官能化剤を接触させる前に処理することができる。このような処理としては、溶媒中へのプレートレットの分散を挙げることができる。ある場合では、次にプレートレットを濾過し、乾燥させた後に接触させることができる。官能基の特定の有用な種類の1つは、カルボン酸部分であり、これは、NGPが前述の酸インターカレーション経路から調製される場合に、NGP表面上にもともと存在する。カルボン酸官能化が必要な場合、NGPは、クロレート、硝酸、または過硫酸アンモニウム酸化を行うことができる。
【0093】
カルボン酸官能化黒鉛プレートレットは、別の種類の官能化NGPを調製するための出発点として機能できるので、特に有用である。たとえば、アルコールまたはアミドは、酸と容易に結合して安定なエステルまたはアミドを得ることができる。アルコールまたはアミンが二官能性または多官能性分子の一部である場合、O-またはNH-を介した結合によって別の官能基がペンダント基として残る。これらの反応は、当技術分野において周知のようなカルボン酸のアルコールまたはアミンによるエステル化またはアミノ化のために開発されたいずれかの方法を用いて行うことができる。これらの方法の例は、G.W.Anderson,et al.,J.Amer.Chem.Soc.96,1839(1965)に見ることができ、その全体が参照により本明細書に援用される。プレートレットを硝酸および硫酸で処理してニトロ化プレートレットを得て、次にそのニトロ化形態を亜ジチオン酸ナトリウムなどの還元剤で化学的に還元して、アミノ官能化プレートレットを得ることによって、アミノ基を黒鉛プレートレット上に直接導入することができる。
【0094】
以下の実施例は、本発明の実施の最良の形態を提供する役割を果たすものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例
【0095】
実施例1:ポリプロピレン粉末系担体を介したフレーク黒鉛からのNGP(グラフェンシート)
実験において、1kgのポリプロピレン(PP)ペレット、50グラムの50メッシュのフレーク黒鉛(平均粒度0.18mm;Asbury Carbons、Asbury NJ)、および250グラムの磁性ステンレス鋼ピン(Raytech Industries、Middletown CT)を高エネルギーボールミル容器中に入れた。このボールミルを300rpmで4時間運転した。容器の蓋を取り外し、磁石を用いてステンレス鋼ピンを除去した。ポリマー担体材料が暗色の炭素層で覆われたことが分かった。担体材料を50メッシュのふるいの上に置き、少量の未処理のフレーク黒鉛を除去した。得られた被覆担体材料の試料を、次に、600℃の通気炉中のるつぼ中に入れた。冷却後、炉を開けると、単離されたグラフェンシート粉末でるつぼが満たされていることが分かった。残りの被覆担体材料は、次に溶融配合し、ペレット化し、射出成形して、引張試験棒を作製した。
【0096】
別の実験において、同じバッチのPPペレットおよびフレーク黒鉛粒子(衝突用鋼粒子は含まない)を同じ高エネルギーボールミル容器中に入れ、ボールミルを同じ条件下で同じ時間運転した。それらの結果を、衝突ボールを使用した運転で得られたものと比較した。
【0097】
ポリプロピレン(PP)は本明細書において一例として使用されるが、グラフェン強化ポリマーマトリックス複合物の担体材料はPPに限定されない。ポリマーを粒子形態にできるのであれば、あらゆるポリマー(熱可塑性、熱硬化性、ゴム、ワックス、マスチック、ゴム、有機樹脂など)であってよい。未硬化または部分硬化の熱硬化性樹脂(エポキシドおよびイミド系オリゴマーまたはゴムなど)は、室温またはより低温(たとえば極低温)で粒子形態にすることが可能なことに留意されたい。
【0098】
実施例2:ABSポリマーを介した膨張黒鉛(厚さ>100nm)からのNGP
実験において、固体担体材料粒子としての100グラムのABSペレットを、16オンスのプラスチック容器中に5グラムの膨張黒鉛とともに入れた。この容器を音響混合装置(Resodyn Acoustic mixer)中に入れ、30分間処理を行った。処理後、担体材料が炭素の薄層で覆われたことが分かった。担体材料の少量の試料をアセトン中に入れ、ABSの溶解を促進するために超音波エネルギーを加えた。適切なフィルターを用いて溶液を濾過し、追加のアセトンで4回洗浄した。洗浄後、濾液を60℃に設定した真空オーブン中で2時間乾燥させた。この試料を光学顕微鏡法で調べると、グラフェンであることが分かった。残りのペレットを押出成形して、溶融フィラメント製造に使用される1.75mmのフィラメントを作製した。
【0099】
実施例3:PLAを介したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)からの官能化グラフェン
一例では、100グラムのPLAペレット(担体材料)および2グラムのMCMB(China Steel Chemical Co.,Taiwan)を、磁性ステンレス鋼インパクター粒子も含む振動ボールミル中に入れ、2時間処理を行った。続いて、DETAを加え、材料混合物をさらに2時間処理した。処理の完了後、次に振動ミルを開くと、担体材料がグラフェンの暗色の被覆で覆われていることが分かった。磁石を用いて磁性鋼粒子を除去した。続いて、担体材料を粉砕し、選択的レーザー焼結装置を用いて焼結させた。
【0100】
別の実験では、以下の官能基を含有する化学種を、生成されたグラフェンシートに導入した:アミノ酸、スルホネート基(-SOH)、2-アジドエタノール、カプロラクタム、およびアルデヒド基。一般に、これらの官能基によって、結果として得られるグラフェンシートと、エポキシ、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、およびビニルエステルのマトリックス材料との間に大幅に改善された界面結合が形成され、より強いポリマーマトリックス複合物が形成されることが分かった。短梁(short beam)剪断試験と、走査型電子顕微鏡法(SEM)による破断面検査との組合せを用いることによって、界面結合強度を半定量的に測定した。非官能化グラフェンシートは、残留マトリックス樹脂がグラフェンシート表面に結合せずに破面から突出する傾向にある。対照的に、官能化グラフェンシートを含む複合物試料の破面は、裸のグラフェンシートが全く見られず;グラフェンシートであると思われるものは、樹脂マトリックス中に完全に埋め込まれていた。
【0101】
実施例4:フリーザーミルを介したABS複合物
実験の1つにおいて、10グラムのABSペレットをSPEXミルの試料ホルダー(SPEX Sample Prep、Metuchen,NJ)中に、黒鉛化ポリイミドから得られる0.25グラムのHOPGおよび磁性ステンレス鋼インパクターとともに入れた。このプロセスは、完成品上への水の凝縮を軽減するために1%「乾燥室」中で行った。SPEXミルを10分間運転した。運転後、試料ホルダーの内容物をアセトン浴に移した。超音波ホーンを15分間運転してABS担体を溶解させた。得られた溶液を金属基材上に噴霧して、グラフェン/ポリマー複合物被覆を形成した。
【0102】
実施例5:ポリエチレン(PE)およびナイロン6/6ビーズならびにセラミック衝突ボールまたはガラスビーズを介した天然黒鉛粒子からのNGP
実験において、0.5kgのPEもしくはナイロンビーズ(固体担体材料として)、50グラムの天然黒鉛(グラフェンシート源)、および250グラムのジルコニア粉末(衝突ボール)を遊星ボールミルの容器中に入れた。このボールミルを300rpmで4時間運転した。容器の蓋を取り外し、ジルコニアビーズ(グラフェン被覆PEビーズとは異なるサイズおよび重量)を振動スクリーンによって除去した。ポリマー担体材料が暗色のグラフェン層で覆われていることが分かった。担体材料を50メッシュのふるいの上に置き、少量の未処理のフレーク黒鉛を除去した。次に被覆担体材料の試料を600℃の通気炉中のるつぼ中に入れた。冷却後、炉を開けると、図8(B)に示されるような単離されたグラフェンシート粉末(>95%単層グラフェン)でるつぼが満たされているのが分かった。残りのグラフェン被覆PEまたはナイロンビーズを別々の溶融配合し、射出成形して、曲げ試験棒および導電率測定用ディスクを作製した。別の実験において、衝突ボールとしてガラスビーズを使用し、他のボールミル粉砕運転条件は同じままであった。
【0103】
比較例1:Hummerの方法によるグラフェンおよびポリマー複合物
酸化黒鉛は、Hummersの方法[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]による硫酸、硝酸塩、および過マンガン酸塩を用いた黒鉛フレークの酸化によって調製される。反応終了後、得られた混合物を脱イオン水中に注ぎ、濾過した。大部分の硫酸イオンを除去するため、得られた酸化黒鉛をHClの5%溶液中で繰り返し洗浄した。次に、濾液のpHが中性となるまで、試料を脱イオン水で繰り返し洗浄した。得られたスラリーを噴霧乾燥し、真空オーブン中60℃で24時間保管した。結果として得られる層状酸化黒鉛の層間隔をDebey-ScherrerのX線技術によって測定すると約0.73nm(7.3A)であった。次にこの材料の試料を、剥離のために、650℃にあらかじめ設定した炉に4分間入れ、1200℃の不活性雰囲気の炉中で4時間加熱して、図8(A)に示されるような数層還元酸化グラフェン(RGO)から構成される低密度粉末を形成した。窒素吸着BETによって表面積を測定した。
【0104】
次に、この材料を、剥離のために、650℃にあらかじめ設定した炉に4分間入れ、1200℃の不活性雰囲気の炉中で4時間加熱して、数層還元酸化グラフェンから構成される低密度粉末を形成した。次に、この粉末を1%~25%の使用量でABS、PE、PP、およびナイロンのペレットとそれぞれ乾式混合し、25mmの二軸スクリュー押出機を用いて配合した。
【0105】
実施例6:試験結果のまとめ
ポリマーマトリックス複合物と、オールミリング(all-milling)後に回収したマトリックスを有さない分離されたグラフェンシートとの両方の構造および性質を測定するために、走査型電子顕微鏡法(SEM)、透過型電子顕微鏡法(TEM)、ラマン分光法、曲げ強度試験(曲げ強度および弾性率測定のための長梁(long beam)試験と、層間または界面結合の評価のための短梁剪断試験との両方)、比表面積(SSA)を求めるためのBET試験、導電率(4点プローブ)試験、および熱伝導率(レーザーフラッシュ)試験を行った。以下は、より顕著な結果の一部のまとめである:
1)一般に、衝突ボールを加えることは、黒鉛粒子からのグラフェンシートの剥離過程の促進に役立つ。しかし、この選択肢は、グラフェン被覆ポリマー粒子の作製後にこれらの衝突ボールの分離が必要である。
2)衝突粒子(セラミック、ガラス、金属ボールなど)が使用されない場合、より硬質のポリマー粒子(たとえばPE、PP、ナイロン、ABS、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレンなど、およびそれらのフィラーで強化された種類のもの)は、軟質ポリマー粒子(たとえばゴム、PVC、ポリビニルアルコール、ラテックスの粒子)と比較すると、黒鉛粒子からグラフェンシートを剥離する能力が高い。
3)外部から加えられる衝突ボールがない場合、より軟質のポリマー粒子によって0.01重量%~5重量%のグラフェン(ほとんどが単層グラフェンシート)を有するグラフェン被覆粒子またはグラフェン埋め込み粒子が得られる傾向にあり、より硬質のポリマーボールによって、0.1重量%~30重量%のグラフェン(ほとんどが単層および数層グラフェンシート)を有するグラフェン被覆粒子が得られる傾向にある。
4)外部から加えられる衝突ボールを有する場合、すべてのポリマーボールは0.01重量%~約80重量%のグラフェンシート(ほとんどが数層グラフェン、30重量%を超える場合<10層)を支持することができる。
5)本発明による方法によって製造されたグラフェン強化ポリマーマトリックス複合物(グラフェン/ポリマーナノ複合物)は、典型的には、一般的な従来技術方法によって製造されたそれらの相当物と比較すると、はるかに高い曲げ強度を示す。破断面のSEM検査によって、本発明によるグラフェン/ポリマーナノ複合物中でグラフェンがはるかにより均一に分散していることが分かる。ナノフィラーの凝集は、複合材料中の亀裂発生源となりうる。
6)本発明による方法によって製造されたグラフェン/ポリマーナノ複合物は、はるかに低い浸透閾値も有する。浸透閾値は、他の非伝導性ポリマーマトリックス中に電子伝導経路の網目構造を形成可能な伝導性フィラーの臨界体積分率または重量分率である。これは典型的には、導電率対フィラー分率曲線における1~5桁での大きさの急上昇を特徴とする。たとえば、本発明によるグラフェン/ABSナノ複合物は、0.3%の低い浸透閾値を示すことができるが、同じ種類の複合物は、その浸透閾値を実現するために約2.5重量%のグラフェンシートを必要とする
7)化学官能化グラフェンシートを含むグラフェン/ポリマーナノ複合物は、非官能化グラフェンシートを含む複合物と比較すると、はるかに高い短梁剪断強度を示す。これは、グラフェン製造/官能化を組み合わせた本発明による方法の驚くべき有効性を示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8(A)】
図8(B)】