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特許7170576電気化学素子及び電気化学素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】電気化学素子及び電気化学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/16 20060101AFI20221107BHJP
   H01M 50/497 20210101ALI20221107BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20221107BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20221107BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20221107BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20221107BHJP
【FI】
H01M6/16 B
H01M50/497
H01M50/491
H01M50/457
H01M50/417
H01M50/489
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019065451
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020167006
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑村 俊行
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-168473(JP,A)
【文献】特表2008-500708(JP,A)
【文献】特開2001-155707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/00- 6/22
H01M10/00-10/39
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒と前記筒の両端を塞ぐ2つの底とを有する外装体と、
前記筒の内側に接し前記筒の一端側に第1空間を設けて配置されたイオンの吸蔵が可能な筒形の正極と、
前記正極の中空内に設けられ、前記一端側に第2空間を設けて配置された筒形の負極と、
前記正極の中空内と前記負極の外周との間に設けた第1部材と、前記第1部材に接し前記第1空間と前記第2空間とを仕切る、前記第1部材よりもイオン電導特性が低い第2部材とを有するセパレータと、
前記正極、前記負極及び前記セパレータとともに前記外装体に封入される電解液と、
を備えたことを特徴とする電気化学素子。
【請求項2】
前記負極は、前記筒の前記一端に向けて前記正極より短い長さを有し、
前記セパレータは、前記第2部材が前記一端に向かう前記負極の先端から前記一端に向けて延びる
ことを特徴とする請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項3】
前記セパレータは、前記第1部材に前記イオンが通過可能な複数の孔を備え、前記第2部材には前記イオンが通過可能な孔の数が前記第1部材よりも少ないことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気化学素子。
【請求項4】
前記第2部材は、前記第1部材と接し前記イオンの通過を許容する第1層、及び、前記第1層の前記筒に近い側の表面に設けられ前記第1部材よりも低いイオン電導特性を有する第2層を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の電気化学素子。
【請求項5】
前記セパレータの前記第1部材は、ポリエチレン又はポリプロピレンのうちの1つ又はその組み合わせで生成されることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の電気化学素子。
【請求項6】
前記セパレータは、前記第2部材が前記電解液の吸液性が低い素材で生成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気化学素子。
【請求項7】
一端が有底の筒の内側に接し該筒の他端側に第1空間を設けて配置されたイオンの吸蔵が可能な筒形の正極と、前記正極の中空内に設けられ前記他端側に第2空間を設けて配置された筒形の負極との間に、前記正極の中空内と前記負極の外周との間に設けた第1部材と、前記第1部材に接し前記第1空間と前記第2空間とを仕切る、前記第1部材よりもイオン電導特性が低い第2部材とを有するセパレータを配置する配置工程と、
前記筒に電解液を注液する注液工程と、
前記筒の前記他端を塞いで封止する封止工程と
を含むことを特徴とする電気化学素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1部材となるセパレータ材のシートの内、一部のイオン電導特性を低減させて前記第2部材を生成する生成工程をさらに有することを特徴とする請求項7に記載の電気化学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子及び電気化学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子であるリチウム電池は、例えば、二酸化マンガンを正極活物質とし、リチウム金属やリチウム合金(以下、負極リチウムとも言う)を負極活物質とする。正極は、電池缶やラミネートフィルムなどの外装体内に、正極活物質を含むスラリー状の正極材料をシート状の集電体上に塗布して生成される。また、負極は、シート状の集電体上に平板状の負極リチウムが配置されることで生成される。そして、リチウム電池は、セパレータを介して正極と負極とが対向配置された電極体を有する。リチウム電池は、その電極体が非水系の有機電解液とともに外層体内に密閉された構造を有する。
【0003】
セパレータは、電解液を通過させ、リチウムイオンの移動を生じさせることを可能にして、電気的な短絡が起こらないように電極間を分離するような物質で構成される。リチウム電池の放電は、リチウムイオンが電解液中で負極と正極との間を移動することによって行われる。すなわち、放電時には、負極側から電解液中に抜け出したリチウムイオンが正極側に移動して吸収される。放電は、外部接続の抵抗(負荷)を介して行われる。
【0004】
このようなリチウム電池に関して、正極板と負極板とセパレータとを渦巻き状にしたスパイラル型のリチウム電池であって、負極側のリード線接続部近傍のセパレータに穴の開いていない材料を用いる従来技術がある。また、正極の上部に合剤押えリングを設けたリチウム電池の従来技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-307128号公報
【文献】特開2001-273911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、放電時に正極にリチウムイオンが入り込むことで、正極が膨張する。正極が膨張すると、体積が大きくなることから電解液を吸い込む量が増大し、電解液が不足する場合がある。この場合、電解液が不足してリチウム電池の放電容量が低下するおそれがある。
【0007】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、放電容量の低下を軽減する電気化学素子及び電気化学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の開示する電気化学素子及び電気化学素子の製造方法の一つの態様において、外装体は、筒と上記筒の両端を塞ぐ2つの底とを有する。正極は、上記筒の内側に接し上記筒の一端側に第1空間を設けて配置されたイオンの吸蔵が可能な筒形の部材である。負極は、上記正極の中空内に設けられ、上記一端側に第2空間を設けて配置された筒形の部材である。セパレータは、上記正極の中空内と上記負極の外周との間に設けた第1部材と、上記第1部材に接し上記第1空間と上記第2空間とを仕切る、上記第1部材よりもイオン電導特性が低い第2部材とを有する。電解液は、上記正極、上記負極及び上記セパレータとともに上記外装体に封入される。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面では、本発明は、放電容量の低下を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1に係るリチウム電池の概略構成を示す断面図である。
図2図2は、実施例1に係るリチウム電池におけるリチウムイオンの移動を説明するための図である。
図3図3は、実施例1に係るリチウム電池の製造工程のフローチャートである。
図4図4は、実施例1に係るリチウム電池と従来型リチウム電池との比較を説明するための図である。
図5図5は、実施例2に係るリチウム電池の概略構成を示す断面図である。
図6図6は、実施例3に係るリチウム電池の概略構成を示す断面図である。
図7図7は、実施例4に係るリチウム電池の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本願の開示する電気化学素子及び電気化学素子の製造方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する電気化学素子及び電気化学素子の製造方法が限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
図1は、実施例1に係るリチウム電池の概略構成を示す断面図である。図1に示されるように、本実施例に係る電気化学素子であるリチウム電池10は、ボビン型の乾電池であり、一次電池である。リチウム電池10は、外径Φ14mmであり、高さ25mmである。リチウム電池10は、外装に正極缶11を有する。
【0013】
正極缶11は、例えばSUS304などのステンレス鋼材をプレス加工することで製造されたプレス加工品である。正極缶11は、開口部、胴部及び底部を有する有底円筒形に形成される。正極缶11の底部の中央に正極端子18が突設されている。正極缶11のビッカース硬度Hvは、300~400程度である。以下の説明では、正極缶11の開口が開く方向を上方向とし、開口から底部に向かう方向を下方向とする。正極缶11の内部に、円筒形の正極合剤12が装填される。
【0014】
正極合剤12は、例えば、熱処理済みマンガン、導電性黒鉛、及びバインダとしての粉末フッ素樹脂であるPTFE(polytetrafluoroethylene)を混合した正極合剤粉を円筒形にプレス成形することで作製される。正極合剤12の材料としては、例えば、二酸化マンガン、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム又はリン酸鉄リチウムなどを用いることができる。正極合剤12は、リチウムイオンを吸収して蓄積する。
【0015】
正極合剤12の外周は、正極缶11の内周に接するように配設される。そして、正極合剤12は、金属製の負極端子20、金属製の封口板21、樹脂製の封止ガスケット22及びワッシャ23を有する封口体により封口された正極缶11における封口板21との間に空間A1を有する。空間A1は、「第1空間」の一例にあたる。
【0016】
本実施例では、正極合剤12の組成は、熱処理済みマンガンが90wt%であり、導電性黒鉛が8wt%であり、PTFEが2wt%である。また、本実施例における正極合剤12の厚さは、4.2mmである。この正極合剤12の内部に、セパレータ13及びリチウム負極15が配置される。
【0017】
リチウム負極15は、リチウム金属の金属板を円筒形にロール加工(曲げ加工)して作製される。リチウム負極15の材料としては、例えば、リチウム金属、リチウムアルミ合金、黒鉛及びチタン酸リチウムを用いることができる。
【0018】
リチウム負極15の外周は、セパレータ13を介して正極合剤12の内周に対向するように配置される。また、リチウム負極15は、封口された正極缶11における金属製の負極端子20、金属製の封口板21、樹脂製の封止ガスケット22及びワッシャ23を有する封口体との間に空間A2を有する。空間A2は、「第2空間」の一例にあたる。空間A2は、正極缶11の両端の円の中心を貫通する軸方向に開口部からの距離が空間A1よりも長い。すなわち、リチウム負極15の上端は、正極合剤12の上端よりも低い位置にある。
【0019】
また、リチウム負極15の内周には、負極集電体17が設けられる。負極集電体17は、リチウム負極15の上端から突出し、負極端子20に溶接により接続される。
【0020】
セパレータ13は、樹脂を材料とした膜状の部材である。例えば、セパレータ13は、ポリプロピレン製のフィルムを延伸することで生成される。本実施例では、セパレータ13の厚み、すなわち、図1においてセパレータ13の水平方向の大きさdは、0.175mmである。セパレータ13としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンの不織布やガーレー値7.0以上であり空孔率55%の単層微細孔ポリプロピレンなどを用いることができる。ここで、ガーレー値とは、12.2インチの水圧下で10ccの空気が当該等製品1インチ四方を通過するのに要する秒数をいう。
【0021】
ここで、本実施例では、正極合剤12の厚みとセパレータ13との厚みとの比は、17~25である。例えば、セパレータ13の厚みは0.020mm~0.2mmとすることができ、正極合剤12の厚みは3.0mm~7.5mmとすることができる。
【0022】
セパレータ13は、リチウム負極15に巻きつけられる。すなわち、セパレータ13は、正極合剤12とリチウム負極15とに挟まれるように配置される。内周側に負極集電体17が設けられたリチウム負極15にセパレータ13を巻きつけた部材が負極ユニットである。
【0023】
絶縁テープ14は、セパレータ13と比較して低いイオン電導特性を有する部材もしくは調和電解液(図示せず)の吸液性が低い材質の部材であり、リチウムイオンの透過が困難な部材である。ここで、調和電解液の吸液性とは、単位体積当たりの調和電解液の吸収量を指す。本実施例では、10mm2のセパレータ13及びセパレータ14を、調和電解液に10秒間浸した場合の、セパレータ13の吸液性が0.7mg/mmであるのに対して、絶縁テープ14の吸液性は、0.2mg/mmである。
【0024】
絶縁テープ14は、例えば、電気絶縁用ポリエステルを素材とするテープである。絶縁テープ14は、リチウムイオンが通過可能な孔を有さない。ここで、絶縁テープ14は、リチウムイオンが通過可能な孔を有さないもしくはセパレータ13の孔よりも少ない、又は、セパレータ13よりもリチウムイオンを通しにくいなどの低いイオン電導特性を有する材質であれば他の素材を用いてもよい。絶縁テープ14の材料としては、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン又はポリプロピレン等の電気絶縁性材料を用いることができる。
【0025】
絶縁テープ14は、セパレータ13の外周において、リチウム負極15と正極合剤12とに対向しない領域であり、リチウム負極15の上端よりも上側の領域に設置される。これにより、正極合剤12のリチウム負極15の上端より上方にある部分及び正極合剤12の上部の空間A1と、リチウム負極15の上部の空間A2とが絶縁テープ14により分離され、その間のリチウムイオンの移動が抑制される。すなわち、絶縁テープ14及びセパレータ13の絶縁テープ14が配置された部分により、空間A1及びA2が仕切られる。
【0026】
本実施例では、セパレータ13に絶縁テープ14を配設した部材が、「リチウム電池10のセパレータ」にあたる。そして、絶縁テープ14及びセパレータ13の絶縁テープ14にあたる部分が、「第2部材」の一例にあたる。この部分におけるセパレータ13が「第1層」の一例にあたり、絶縁テープ14が「第2層」の一例にあたる。また、セパレータ13の絶縁テープ14が配置されていない領域が、「第1部材」の一例にあたる。
【0027】
また、正極缶11の内部には、図示されない調和電解液が注液される。調和電解液は、例えば、過塩素酸リチウムを溶質とし、プロピレンカーボネート(PC:Propylene Carbonate)及び1,2-ジメトキシタエン(DME:Dimethoxyethane)を溶媒とした溶液からなる。
【0028】
正極缶11の開口部は、金属製の負極端子20、金属製の封口板21、樹脂製の封止ガスケット22及びワッシャ23を有する封口体によって封口される。封口板21は、中央に開口を有する円盤状で、円盤の外周部分が正極缶11の開口が開く向きに向かって屈曲する。封口板21の開口には負極端子20とワッシャ23とが封止ガスケット22を介してかしめられている。さらに、封口板21の外周端と正極缶11の開口端とが溶接される。これにより、正極缶11の開口が封口体により封口され、正極缶11が密封される。正極缶11に封口体を接続した部材が、「外装体」の一例にあたる。
【0029】
ここで、図2を参照して、リチウムイオンの移動について説明する。図2は、実施例1に係るリチウム電池におけるリチウムイオンの移動を説明するための図である。
【0030】
リチウム負極15から調和電解液に抜け出したリチウムイオンは、セパレータ13に移動しセパレータ13の全体に行きわたる。セパレータ13のリチウム負極15と正極合剤12とが対向する領域は、リチウムイオンが正極合剤12に移動可能である。そこで、例えば図2の矢印Pで示される方向において、セパレータ13のリチウム負極15と正極合剤12とが対向する領域では、リチウム負極15から正極合剤12へのリチウムイオンの移動が発生する。
【0031】
これに対して、セパレータ13のリチウム負極15の上端より上の領域には、絶縁テープ14が貼られている。これにより、例えば図2の矢印Qで示される方向において、放電時にリチウムイオンが正極合剤12に入り込む方向が絶縁テープ14により制限され、リチウム負極15の上端よりも上の位置におけるセパレータ13から正極合剤12へのリチウムイオンの移動Qが抑制される。
【0032】
正極合剤12は、リチウムイオンが入り込むことで上部の空間A1に向けて膨張する。例えば、絶縁テープ14が配置されていない従来型リチウム電池では、正極合剤12の膨張した部分にリチウムイオンがさらに入り込むことで、正極合剤12は上部の空間A1に向けてより大きく膨張する。このように正極合剤12が膨張することにより、調和電解液の吸収量が増加して、吸収されずに残る調和電解液の量が少なくなる。例えば、本実施例では、セパレータ13の厚みと正極合剤12の厚みの比は、0.04であり、正極合剤12はセパレータ13などに比べて非常に厚い。正極合剤12の膨張による嵩の増大量はリチウム電池10全体で見たときに大きい割合を占めるので、正極合剤12の膨張を抑えることは調和電解液の減少を軽減するために大きな役割を果たすといえる。
【0033】
本実施例に係るリチウム電池10は、上述したようにリチウム負極15の上端よりも上の位置での正極合剤12へのリチウムイオンの移動が抑制されるため、正極合剤12の膨張した部分へのリチウムイオンの進入を抑止できる。したがって、正極合剤12の上部の空間A1に向けての膨張を低減することができ、正極合剤12の膨張による調和電解液の減少を抑制することができる。
【0034】
また、正極合剤12においてリチウム負極15と対向しない部分は、電池としての機能が低い。そのため、その部分におけるリチウムイオンの移動を抑制しても、リチウムイオン電池10の機能への影響は少ない。すなわち、正極合剤12においてリチウム負極15と対向しない領域に絶縁テープ14を配置したリチウム電池10は、電池としての機能の低下を抑えつつ、調和電解液の減少を抑制することでリチウム電池10の放電容量の低下を軽減することができる。
【0035】
次に、図3を参照して、本実施例におけるリチウム電池10の製造方法を説明する。図3は、実施例1に係るリチウム電池の製造工程のフローチャートである。
【0036】
まず、正極合剤12、リチウム負極15、調和電解液、負極端子20を予め作製して準備する。また、封口板21の開口に負極端子20とワッシャ23とが封止ガスケット22を介してかしめられた封口体を用意する。
【0037】
セパレータ13は、ポリエチレン又はポリプロピレンなどから選択される1つ又はその組み合わせを材料として生成されたフィルムを延伸することで薄い膜状のシートとして生成される(ステップS1)。
【0038】
次に、生成したセパレータ13において、リチウム電池10が完成した状態でのリチウム負極15の上端よりも上の部分にあたる領域に、電気絶縁用のポリエステルを材質とする絶縁テープ14を貼り付ける(ステップS2)。
【0039】
また、板状のステンレス鋼材を用意し、段階的に深絞りを行う多段絞り加工によって有底円筒形の正極缶11を製造する(ステップS3)。
【0040】
その後、円筒形に成形された正極合剤12を有底円筒形の正極缶11の内側に挿入し加圧成形して、正極缶11内に正極合剤12を配置する(ステップS4)。さらに、正極合剤12が配設された正極缶11の中に、調和電解液を1.40g注液する。
【0041】
また、リチウム負極15の内側に負極集電体17を圧着する。次に、負極集電体17のリチウム負極15に接続された側とは逆の先端部に封口体の負極端子20を溶接する。さらに、絶縁テープ14が接着されたセパレータ13をリチウム負極15に巻きつけて負極ユニットを作製する(ステップS5)。この時、セパレータ13に貼り付けられた絶縁テープ14の軸方向の下側端部がリチウム負極15の上端面と同じ高さに位置するように、セパレータ13を巻きつける。
【0042】
次に、負極ユニットを正極合剤12の中空部分に挿入して嵌合させて正極缶11の内部に配置する(ステップS6)。この時、リチウム負極15の上端面が、正極合剤12の上端面よりも下側に位置するように負極ユニットを配置する。
【0043】
さらに、封口体における封口板21の外周端と正極缶11の開口端とをレーザー溶接して封止する(ステップS7)。
【0044】
ここで、図4を参照して、本実施例に係るリチウム電池10と従来型リチウム電池との放電容量を比較する。図4は、実施例1に係るリチウム電池と比較例のリチウム電池との比較を説明するための図である。図4は、2.7Ω放電容量の比較を表す。図4の縦軸は電圧を表し、横軸は放電時間を表す。
【0045】
図4におけるグラフ101は、実施例1に係るリチウム電池10の放電容量を示すグラフである。また、グラフ102は、絶縁テープ14が設けられていないことを除き、実施例1に係るリチウム電池と同様の構成を有する第1比較例のリチウム電池の放電容量を示すグラフである。また、グラフ103は、絶縁テープ14を配置する位置を、正極合剤12とリチウム負極15とが対向する領域の一部に変更したことを除き実施例1に係るリチウム電池と同様の構成を有する、第2比較例のリチウム電池の放電容量を示すグラフである。
【0046】
グラフ101及び102を比較して分かるように、実施例1に係るリチウム電池10は、第1比較例のリチウム電池に比べて放電容量が大きい。すなわち、実施例1に係るリチウム電池10は、正極合剤12の膨張を改善でき、放電容量の低下を軽減する効果がある。
【0047】
また、第2比較例のリチウム電池は、グラフ103に示されるように、実施例1に係るリチウム電池10に比べて放電容量が下がる。これは、第2比較例のリチウム電池では、リチウムイオンの利用率が減少したためと考えられる。このことから、実施例1に係るリチウム電池10は、絶縁テープ14を正極合剤12がリチウム負極15と対向しない領域に配置することで、利用率を維持しつつ放電容量の低下を軽減することができることが分かる。
【0048】
以上に説明したように、本実施例に係る電気化学素子であるリチウム電池は、セパレータのリチウム負極と正極合剤とが対向しない領域に絶縁テープが貼られる。これにより、放電時にリチウムイオンが正極合剤に入り込む方向が制限され、リチウム負極に対向しない位置での正極合剤へのリチウムイオンの進入が抑制される。リチウム負極に対向しない位置での正極合剤へのリチウムイオンの進入が抑制されることで、正極合剤の膨張が抑えられ、正極合剤による調和電解液の吸収量を低減でき、電解液不足を抑制することができる。そして、電解液不足が抑制されることで、放電容量の低下を抑えることができる。さらに、リチウム負極と正極合剤とが対向する領域以外に絶縁テープを配置することで、電荷移動抵抗の上昇を回避することができる。
【実施例2】
【0049】
図5は、実施例2に係るリチウム電池の概略構成を示す断面図である。本実施例に係るリチウム電池10は、セパレータ13のリチウム負極15の上端より上にあたる部分がそれ以外の部分よりもイオン導電性が低い又は調和電解液の吸液性が低い材料で形成されることが実施例1と異なる。以下の説明では、実施例1と同様の各部については説明を省略する。
【0050】
本実施例に係るセパレータ13は、リチウム負極15の上端より下の部材131が、イオン導電性が高い又は吸液性が高い材料で生成される。例えば、部材131は、ポリエチレン又はポリプロピレンなどの不織布や単層微細孔ポリプロピレンを用いて生成される。
【0051】
一方、セパレータ13は、リチウム負極15の上端より上の部材132が、部材131に比べてイオン電導性が低い又は吸液性が低い材料で生成される。部材132は、空間A1及びA2を仕切る。この部材132が、「第2部材」の一例にあたる。
【0052】
この場合、放電時にリチウム負極15から調和電解液に抜け出したリチウムイオンがセパレータ13の吸液性が高い部材131に入り込む。そして、部材131に入り込んだリチウムイオンは、セパレータ13の全体に広がる。
【0053】
ただし、部材132は、吸液性が低い。そのため、部材131から広がってきたリチウムイオンは、部材132への進入を阻害される。これにより、部材132にリチウムイオンが入り込まないため、リチウムイオンは、セパレータ13の部材132を経由して正極合剤12に侵入することが困難となる。
【0054】
ここで、本実施例では、リチウムイオンの通過を許容しない素材でセパレータ13の部材132を生成することでリチウムイオンの通過を抑制したが、これ以外の方法でリチウムイオンの移動を抑制してもよい。例えば、貫通孔を有しリチウムイオンの通過を許容する素材で生成されたセパレータ13のリチウム負極15の上端より上にあたる領域を加熱して貫通孔を潰してリチウムイオンの通過を抑制してもよい。
【0055】
以上に説明したように、本実施例に係るリチウム電池のセパレータは、リチウム負極の上端より上の領域の部材が他の領域の部材よりもイオン導電性が低い又は吸液性の低い材料で生成される。これにより、リチウム負極の上端より上の領域から正極合剤にリチウムイオンが流れ込むことを防止することができ、正極合剤の膨張を低減して電解液不足を回避することができる。そして、電解液不足を回避することで、リチウム電池の放電容量の低下を軽減することができる。
【実施例3】
【0056】
図6は、実施例3に係るリチウム電池の概略構成を示す断面図である。本実施例に係るリチウム電池10は、正極合剤12の上端面とリチウム負極15の上端面とが同じ高さであることが実施例1と異なる。以下の説明では、実施例1と同様の各部については説明を省略する。
【0057】
図6に示すように、本実施例に係る正極合剤12は、正極缶11の開口部側の端部の面である上端面の軸方向の位置が、リチウム負極15の上端面の軸方向の位置と一致する。
【0058】
セパレータ13に接着された絶縁テープ14は、セパレータ13の正極合剤12及びリチウム負極15の上端面より上の領域に配置される。
【0059】
本実施例に係るリチウム電池10は、放電時にリチウム負極15から調和電解液に抜け出したリチウムイオンがセパレータ13の絶縁テープ14が配置されていない領域を通過して正極合剤12に移動し吸収される。これにより正極合剤12は、空間A1内に膨張して絶縁テープ14と対向する位置まで延びる。この状態で、絶縁テープ14は、正極合剤12の膨張により絶縁テープ14と対向する位置に伸びた部分へのリチウムイオンの移動を抑制する。これにより、正極合剤12の膨張により絶縁テープ14と対向する位置に伸びた部分の膨張が抑制され、リチウム電池10の放電容量の低下を軽減することができる。
【実施例4】
【0060】
図7は、実施例4に係るリチウム電池の概略構成を示す断面図である。本実施例に係るリチウム電池10は、正極合剤12の上端面が、リチウム負極15の上端面よりも低い位置にあることが実施例1と異なる。以下の説明では、実施例1と同様の各部については説明を省略する。
【0061】
図7に示すように、本実施例に係る正極合剤12は、正極缶11の開口部側の端部の面である上端面の軸方向の位置が、リチウム負極15の上端面の軸方向の位置より、開口部から離れた場所にある。すなわち、正極合剤12の上端面が、リチウム負極15の上端面よりも下方に位置する。
【0062】
セパレータ13に接着された絶縁テープ14は、セパレータ13の正極合剤12の上端面より上の領域に配置される。
【0063】
本実施例に係るリチウム電池10は、放電時にリチウム負極15から調和電解液に抜け出したリチウムイオンがセパレータ13の絶縁テープ14が配置されていない領域を通過して正極合剤12に移動し吸収される。これにより正極合剤12は、空間A1内に膨張して絶縁テープ14と対向する位置まで伸びる。この状態で、絶縁テープ14は、正極合剤12の膨張により絶縁テープ14と対向する位置に伸びた部分へのリチウムイオンの移動を抑制する。これにより、正極合剤12の膨張により絶縁テープ14と対向する位置に伸びた部分の膨張が抑制され、リチウム電池10の放電容量の低下を低減することができる。
【0064】
この場合、正極合剤12の絶縁テープ14と対向する位置に伸びた部分は、セパレータ13を介してリチウム負極15に対向する位置にある。そのため、正極合剤12の絶縁テープ14と対向する位置に伸びた部分であっても、電池の機能の向上に寄与するとも考えられる。ただし、リチウム負極15と膨張する前の正極合剤12とのセパレータ13を介して対向する領域によるリチウムイオンの移動による電池の機能が設計時に想定された利用率である。そして、リチウム電池10は、設計時に期待された以上の利用率は得られなくてもよい。そのため、正極合剤12の膨張により新たにリチウム負極15と対向する位置に伸びた部分の電池としての利用は行われなくてもよく、それ以上に調和電解液の不足を抑えることが重要である。そのため、絶縁テープ14は、セパレータ13の正極合剤12の上端面より上の領域に配置されることが好ましい。
【符号の説明】
【0065】
10 リチウム電池
11 正極缶
12 正極合剤
13 セパレータ(第1層)
14 絶縁テープ(第2層)
15 リチウム負極
17 負極集電体
18 正極端子
20 負極端子
21 封口板
22 封止ガスケット
23 ワッシャ
131 イオン電導性又は吸液性が高い材料
132 イオン電導性又は吸液性が低い材料
A1 外装缶と封口板との間の空間
A2 封口体と負極リチウムとの間の空間
P リチウムイオンの移動の方向
Q 絶縁テープによって抑制できるリチウムイオンの移動の方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7