(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】液膜維持装置及びセンサ装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20221107BHJP
G01N 29/02 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
G01N27/00 J
G01N29/02 501
(21)【出願番号】P 2019168663
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2021-09-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/フィジカル空間デジタルデータ処理基盤/サブテーマII:超低消費電力IoTデバイス・革新的センサ技術/超高感度センサシステムの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 吉昭
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 達朗
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/149579(WO,A1)
【文献】特開2012-112724(JP,A)
【文献】特開2018-155693(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0112643(US,A1)
【文献】特開2019-074461(JP,A)
【文献】特開2018-155155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - 27/92
G01N 1/00 - 1/44
G01N 29/00 - 29/52
G01N 21/00 - 21/01
G01N 21/17 - 21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ素子上に液体を供給して、液膜を形成する液体供給部と、
前記液膜中の液体を排出する液体排出部とを備え、
前記液体供給部は、前記液膜中の液体の流れを制御する流動制御部をさらに備える液膜維持装置。
【請求項2】
前記センサ素子は、感応膜を備え、
前記液体供給部は、前記センサ素子の前記感応膜上に前記液膜を形成する請求項
1に記載の液膜維持装置。
【請求項3】
前記液体供給部は、液体を収容する第1の容器と、一端が前記第1の容器内に収容された液体に接触し、他端が前記センサ素子上に配置された細管とを備え、前記細管による毛細管現象を利用して、前記センサ素子上に液体を供給する請求項1
又は2に記載の液膜維持装置。
【請求項4】
前記液体排出部は、前記液膜から排出された液体を回収する空間と、一端が前記空間内に配置され、他端が前記センサ素子上に配置された第1部材を備え、前記第1部材によって、前記液膜中の液体を排出する請求項1~
3のいずれか1項に記載の液膜維持装置。
【請求項5】
前記第1部材は、前記液体供給部と、前記センサ素子とを結ぶ線上に配置される請求項
4に記載の液膜維持装置。
【請求項6】
前記液体供給部は、前記センサ素子上への液体の供給流量を調節するポンプをさらに備える請求項1~
5のいずれか1項に記載の液膜維持装置。
【請求項7】
前記ポンプは、前記液体排出部の前記液膜中の液体の排出速度よりも小さい供給流量に設定される請求項
6に記載の液膜維持装置。
【請求項8】
前記流動制御部は、前記液体供給部から供給された液体の拡がりを抑制する請求項1に記載の液膜維持装置。
【請求項9】
前記流動制御部には、前記液体供給部から供給された液体を保持する保水材が配置されている請求項1又は
8に記載の液膜維持装置。
【請求項10】
前記保水材は、前記液体排出部と、前記センサ素子とを結ぶ線上に配置される請求項
9に記載の液膜維持装置。
【請求項11】
前記液体排出部の第1部材は、前記液体供給部に向かって突出する突出部を備える請求項
4~
10のいずれか1項に記載の液膜維持装置。
【請求項12】
センサ素子と、
請求項1~
11のいずれか1項に記載の液膜維持装置と
を備えるセンサ装置。
【請求項13】
前記センサ素子は、前記液体供給部と前記液体排出部との間に配置されている請求項
12に記載のセンサ装置。
【請求項14】
前記センサ素子上には、前記液膜中の液体を保持する保水層が設けられている請求項
12又は
13に記載のセンサ装置。
【請求項15】
気体試料を取り込む第1の流路と、
前記気体試料を前記センサ素子上に導入する第2の流路と、
前記気体試料をセンサ装置の外部に送る第3の流路と
をさらに備え、
前記第1の流路、前記第2の流路、及び前記第3の流路は連通している請求項
12~
14のいずれか1項に記載のセンサ装置。
【請求項16】
前記第1の流路から、前記第2の流路を通過して、前記第3の流路へ向かう気流を発生させる気流発生装置をさらに備える請求項
15に記載のセンサ装置。
【請求項17】
前記液体排出部の第1部材の一部が、前記第3の流路内に配置されている請求項
15又は
16に記載のセンサ装置。
【請求項18】
前記センサ素子は、感応膜と、前記感応膜上に接続された生体物質とを備え、
前記生体物質は、気体試料中の標的物質と結合する請求項
12~
17のいずれか1項に記載のセンサ装置。
【請求項19】
前記感応膜は、グラフェン膜であり、
前記グラフェン膜は、π-π相互作用により生体物質を接続している請求項
18に記載のセンサ装置。
【請求項20】
前記センサ素子は、グラフェンFET、カーボンナノチューブFET、イオン感応性、
SPR、又はSAWのいずれかである請求項
12~
19のいずれか1項に記載のセンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液膜維持装置及びセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
匂い等を検出するセンサがある。センサの高精度な検出を可能にする装置が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の実施形態は、高精度な検出を可能にする液膜維持装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
実施形態の液膜維持装置は、センサ素子上に液体を供給して、液膜を形成する液体供給部と、前記液膜中の液体を排出する液体排出部とを備える。
【0005】
実施形態のセンサ装置は、センサ素子と、実施形態の液膜維持装置とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施形態のセンサ装置の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態のセンサ装置の一例を示す平面図である。
【
図3】
図3は、実施形態のセンサ素子の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態のセンサ素子の標的物質の検出の様子を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施形態のセンサ素子の標的物質の検出の別の様子を示す模式図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態のセンサ装置の一例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、第3の実施形態のセンサ装置の一例を示す断面図である。
【
図8】
図8は、第3の実施形態のセンサ装置の一例を示す平面図である。
【
図9】
図9は、第4の実施形態のセンサ装置の一例を示す断面図である。
【
図10】
図10は、第5の実施形態のセンサ装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、図面を参照しながら種々の実施形態について説明する。各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比等は実際と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
以下、実施形態のセンサ装置について説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態のセンサ装置の一例を示す断面図、
図2は、第1の実施形態のセンサ装置の一例を示す平面図である。なお、
図2は、
図1に示す液体供給部11の細管21の他端側の開口22と、液体排出部13の第1部材29のセンサ素子側端部31とを除いて、液膜維持装置7の他の構成を省略してある。
【0009】
図1に示すように、センサ装置1は、センサ素子3a、3b及び3cが配置された基体5と、液膜維持装置7とを備えている。液膜維持装置7は、基体5上に液体を供給して、液膜9を形成する液体供給部11と、液膜9中の液体を排出する液体排出部13とを備えている。センサ素子3a、3b及び3cは、それぞれグラフェン電界効果型トランジスタ(グラフェンFETとも称する)であるが、具体的な構成は後述する。
【0010】
基体5は、例えば、電気的に絶縁性の材料から形成されている。基体5の絶縁性材料は、例えば、アクリル樹脂、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリジメチルシロキサン、フッ素樹脂等の高分子物質、又は酸化シリコン、窒化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機絶縁膜、或いは有機分子の自己組織化膜等である。基体5の表面5aは、親水性(例えば、その表面に接触する液滴が5度未満の接触角を示す)を有する。基体5の大きさは、限定されるものではないが、例えば、1~100mm×1~100mm×1~5mm(幅×長さ×厚さ)である。
【0011】
基体5の外周には、上方に向かって延びる壁部15が設けられている。壁部15は平面視においてセンサ素子3a、3b及び3cの周囲を囲んでいる。ここで、平面視は、基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c側の上方から基体5を見ることをいう。壁部15は、その内側に液膜が形成される領域を規定している。
【0012】
液体供給部11は、基体5の壁部15から隔てて設置された、液体17を収容した第1の容器(ボトル)19を備えている。ボトル19内に収容された液体17には、細管21の一端が接触している。細管21の他端は、センサ素子3a側の基体5の上方に、開口22が基体5の表面5aに向けられ、固定部材23によって固定されている。液体供給部11は、ボトル19内の液体17を、細管21の内部を通して供給し、基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に液膜9を形成する。
【0013】
液体17は、基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に液膜9を形成するための液体供給源である。液体17は、例えば、水、生理水、緩衝液等の水溶性の液体、又はイオン液体である。液体17は、有機溶媒を含んでもよい。
【0014】
細管21は、例えば、高分子、又はガラス等の材料から形成され、細管21の内面は親水性を有する。細管21の内径は、例えば、0.10mm~10.0mmである。細管21は、例えば毛細管現象を利用して、ボトル19内の液体17を基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に送る。細管21による、基体5上への液体の供給流量は、例えば、0.01μL/s~1.0μL/sである。細管21の供給流量は、例えば、細管21の内径を変えることによって調節できる。
【0015】
液体排出部13は、基体5の壁部15に隣接して設置された、液膜9中から排出された液体を回収する排液回収空間25を備えている。排液回収空間25には、排液流路27の一端側開口が形成されている。排液流路27の他端側開口は、センサ素子3c側の基体5の上方に配置されている。排液回収空間25及び排液流路27内には、第1部材29が充填されている。第1部材29のセンサ素子側端部31は、センサ素子3c側の基体5の表面に接触している。センサ素子側端部31は、液膜9に接触する。液体排出部13は、液膜9中の液体を、排液流路27を通して排液回収空間25に移動させる。
【0016】
排液回収空間25は、液膜9から排出された液体を回収する。排液流路27は、液膜9から排出された液体が排液回収空間25へ移動する。排液回収空間25及び排液流路27は、例えば基体5と同じ材料を加工、成形することによって形成されている。
【0017】
第1部材29の材料は、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレン、ポリスチレン、セルロース等の不織布である。セルロースの不織布は、LFIA(Lateral Flow Imuno-Assay)用のセルロースパッドである。第1部材29は、例えば毛細管現象を利用して、液膜9中の液体を、排液流路27を通して排液回収空間25に移動させる。第1部材29による、液膜9中の液体を排出する速度(吸水速度)は、例えば、0.01μL/s~1.0μL/sである。第1部材29の吸水速度は、例えば、第1部材29の断面積を変えることによって調節できる。ここで、第1部材29の断面積は、センサ素子側端部31が基体5の表面に接触している面積をいう。第1部材29の断面積は、例えば、0.10mm2~10mm2である。第1部材29の体積は、例えば、2.0cm3~5.0cm3である。
いくつかの実施形態において、第1部材29は、液体供給部11と、センサ素子3a、3b及び3cとを結ぶ線上に配置される。このように配置された第1部材29によって、液体供給部11により形成される液膜9が、センサ素子3a、3b及び3c上に拡がって形成される。このため、液膜9を媒体として、後述する気体試料49を、センサ素子3a、3b及び3c上に運ぶことができる。
【0018】
第1部材29は、例えば、断面積が0.83mm2である場合、吸水速度は0.10μL/sであり、断面積が1.66mm2である場合、吸水速度は0.30μL/sであり、断面積が3.32mm2である場合、吸水速度は0.40μL/sである。第1部材29の断面積が小さいと、第1部材29の吸水速度を容易に制御できる。排液回収空間25内に充填される第1部材29の体積は、例えば、2.0cm3~5.0cm3である。
【0019】
このような液膜維持装置7は、液体供給部11が、細管21の毛細管現象を利用して、ボトル19内の液体17を、センサ素子3a側の基体5に供給して、液膜9aを形成する。言い換えると、液体供給部11が、センサ素子3aの後述する感応膜35上に液膜9aを形成する。次に、液体供給部11は、ボトル19内の液体17を、センサ素子3a側の基体5にさらに供給して、液体排出部13に向かって略円形に拡がる液膜9bを形成する。次に、液体供給部11は、ボトル19内の液体17を、センサ素子3a側の基体5にさらに供給して、液体排出部13に向かって略円形にさらに拡がる液膜9cを形成する。次に、液体排出部13は、第1部材29のセンサ素子側端部31に接触した液膜9c中の液体を吸収する。吸収された液体は、第1部材29により、排液流路27を通って排液回収空間25に移動する。液体が吸収された液膜9cは、液膜9аに戻る。このため、液膜維持装置7は、基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に、経時的に液体が流動することによって変化する液膜9(
図1及び2に示す液膜9a、9b、及び9c)を形成し、維持することができる。ここで、液膜維持装置7による液膜9の維持は、例えば、液膜維持装置7が液膜9を、液体供給部11側に形成された液膜(例えば、
図1及び2に示す液膜9a)から液体排出部13に拡がって形成された液膜(例えば、
図1及び2に示す液膜9c)までのいずれかの状態にすることをいう。
【0020】
液膜9は、例えば、水、生理水、緩衝液等の水溶性の液体、又はイオン液体である。液膜9は、有機溶媒を含んでいてもよい。液膜9は、例えば1.0μm以上10.0μm以下の厚さを有する。液膜9の厚さは、例えば、基体5又はセンサ素子3a、3b及び3cの表面から液膜9と気体との界面までの最短距離をいう。液膜9は、例えば、後述する標的物質51を受容体47へと運ぶ媒体として働く。
【0021】
センサ素子3a、3b及び3cは、それぞれグラフェンFETであり、同様の構造を有するため、以下ではセンサ素子3aを代表して説明する。
図3に示すように、センサ素子3aは、基板33を備えている。基板33の表面33a上には、感応膜35と、感応膜35の一端に接続されたソース電極37と、感応膜35の他端に接続されたドレイン電極39が設けられている。ソース電極37とドレイン電極39との間、及び感応膜35の表面35aには、第1の絶縁体層41を介してゲート電極43が設けられている。基板33の表面33a上には、第2の絶縁体層45が設けられている。感応膜35の表面35aには、受容体47が接続されている。受容体47は、液膜9に接触するか、又は浸漬する。
【0022】
基板33は、例えば、矩形の板状である。基板33は、例えば、シリコン、ガラス、セラミックス、高分子材料又は金属等から形成されている。基板33の大きさは、限定されるものではないが、例えば、1~10mm×1~10mm×0.1~0.5mm(幅×長さ×厚さ)である。
【0023】
感応膜35は、そこに接続している物質の構造や電荷の状態などが変化した時に物性が変化する膜である。感応膜35は、例えば、電気抵抗が変化する物質から形成されている。感応膜35は、炭素原子1個分の厚さを有する単層のグラフェン膜である。グラフェン膜は、複数層で設けられてもよい。感応膜35の大きさは、限定されるものではないが、例えば、1~500μm×1~500μm(幅×長さ)とすることができる。実用的には10~100μm×10~100μmであれば製造が容易である。
【0024】
感応膜35は、例えば、高分子、ケイ素(Si)、シリサイド等の導体の膜若しくはそのナノワイヤ、或いはグラフェン、カーボンナノチューブ、二硫化モリブデン(MoS2)若しくは二セレン化タングステン(WSe2)等の材料等から形成されていてもよい。
【0025】
ソース電極37、ドレイン電極39、及びゲート電極43は、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、クロム(Cr)又はアルミニウム(Al)等の金属、或いは、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムスズ(ITO)、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛の酸化物半導体)、導電性高分子等の導電性物質から形成されている。
【0026】
ソース電極37、ドレイン電極39、及びゲート電極43は、電源(図示せず)と電気的に接続している。ソース電極37及びドレイン電極39は、例えば、一定のゲート電圧下、電源から電圧(ソース・ドレイン電圧(Vsd))が印加されると、ソース電極37から感応膜35を介してドレイン電極39に電流(ソース・ドレイン電流(Isd))が流れる。この時、グラフェン膜である感応膜35は、ソース電極37及びドレイン電極39に対してチャネルとして機能する。ゲート電極43は、ゲート電圧を変化させてソース・ドレイン電流を変化させる。
【0027】
第1の絶縁体層41は、例えば、シリコン、ガリウム、アルミニウム及びインジウムの酸化物、窒化物、又は酸窒化物、或いは高分子材料、有機分子の自己組織化膜等の電気的に絶縁性の材料から形成されている。第1の絶縁体層41の厚さは、絶縁性を損なわない範囲で出来る限り薄い方がよく、例えば数nm程度とすることが好ましい。このような薄膜は、例えばALD(Atomic Layer Deposition)法によって形成することが可能である。
第2の絶縁体層45は、例えば、上述した基体5と同じ材料から形成されている。
【0028】
受容体47は、例えば、生体物質である。受容体47には、例えば、嗅覚受容体の断片を用いることができる。受容体47は、気体試料49中の標的物質51と結合する部位の配列を含む嗅覚受容体の断片である。例えば、そのような配列は、嗅覚受容体の細胞外に位置するリガンド結合部位を含む。受容体47は、例えば、嗅覚受容体のデータベースからそのリガンド結合部位のアミノ酸配列を得て、そのアミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成することによって製造できる。受容体47は標的物質51と結合するものであればよく、例えば、リガンド結合部位の配列を部分的に改変したものであってもよく、新たな配列を付加したものであってもよい。受容体47は、例えば、嗅覚受容体として、動物の嗅覚受容体を用いることができる。動物は、例えば、脊椎動物又は昆虫等である。例えば、ヒト、ハエ、マウス、線虫等の嗅覚受容体を用いることができる。
【0029】
受容体47は、標的物質51と結合するものであればよく、例えば、抗体や核酸アプタマであってもよく、分子インプリントのような人工物であってもよい。受容体47が、分子インプリントのような人工物である場合、当該受容体47は、乾燥によって変性又は損傷し難い。
【0030】
受容体47は、例えば、受容体47及び/又は感応膜35に修飾基を付加し、両者を化学合成により結合することによって、感応膜35に接続することができる。また、受容体47は、感応膜35の表面35a上に配置することによっても感応膜35に接続することができる。さらに、受容体47は、π-π相互作用により、グラフェン膜のような感応膜35に接続することができる。
【0031】
なお、感応膜35の表面35aには、受容体47に加えて、ブロッキング剤(図示せず)が、表面35a上を覆うように配置されていてもよい。ブロッキング剤は、例えば、タンパク質、有機分子、脂質膜、ペプチド、核酸等を用いることができる。このようなブロッキング剤を備えることにより、標的物質51とは異なる物質(例えば、夾雑物53)が感応膜35の表面に結合することを防止することができる。
【0032】
標的物質51は、気体中に含まれ、動物の嗅覚受容体のリガンドとなり得る物質である。標的物質51は、例えば、匂い物質又はフェロモン物質のような揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compound)である。標的物質51は、例えば、アルコール類、エステル類、アルデヒド類、ケトン類等であるがこれらに限定されるものではない。このような標的物質51の多くは、水への溶解性が低い物質である。水への溶解性が低い標的物質51は、例えば、0.1mgの標的物質51を溶かすのに1μl以上の液膜9が必要な物質である。
【0033】
気体試料49は、例えば、標的物質51が含まれ得る分析されるべき気体である。気体試料49は、例えば、大気、呼気、又は生体や物体等の分析対象から発生し得る他の気体、或いは当該分析対象の周辺の空気等である。気体試料49は、夾雑物53を含み得る。
【0034】
このようなセンサ素子3a、3b及び3cによる標的物質の検出は、例えば、以下の工程を含む。(S1)実施形態のセンサ装置を用意すること、(S2)気体試料を液膜又は受容体に接触させること、(S3)感応膜の物性の変化を検出すること、及び(S4)検出の結果から、気体試料中の標的物質の有無又は量を決定すること。
以下、上記各工程を行うことによって標的物質を検出する原理について説明する。
【0035】
工程(S2)において、気体試料49を液膜9又は受容体47に接触させる。この時のセンサ素子3の様子を
図4及び
図5に示す。
図4は、受容体47上に液膜9が存在している場合の状態を示す。言い換えると、
図4は、液膜9aの下方にあるセンサ素子3a、液膜9bの下方にあるセンサ素子3b、又は液膜9cの下方にあるセンサ素子3cを示す。また、
図5は、受容体47上に液膜9が存在していない場合の状態を示す。言い換えると、
図5は、液膜9が液膜9aの状態にあるときのセンサ素子3b、3c、又は液膜9が液膜9bの状態にあるときのセンサ素子3cを示す。
図4において、気体試料49の液膜9への接触によって標的物質51が液膜9に入り込み(
図4の(a)、(b))、受容体47に結合する(
図4の(c))。一方、夾雑物53は、受容体47に結合しない(
図4の(d))。標的物質51と受容体47との結合(
図4の(c))によって感応膜35の物性が変化する。
また、
図5において、気体試料49の標的物質51は、受容体47に直接到達して結合する(
図5の(e))。夾雑物53は、受容体47に結合しない(
図5の(d))。ここで物性とは、例えば、感応膜の電気抵抗等である。
【0036】
工程(S3)において、物性の変化を電気的信号の変化として検出する。電気的信号は、例えば、電流値、電位値、電気容量値又はインピーダンス値等である。電気信号の変化とは、例えば、電気的信号の増加、減少、消失、又は特定時間内での積算値の変化等である。上述したグラフェンFETを用いる場合、物性の変化は、例えば、ゲート電圧及びドレイン電圧として一定電圧を印加した際の、ソース・ドレイン間電流値の変化として検出できる。或いは、ソース・ドレイン間電流値を一定に維持している際の、ゲート電圧値の変化として検出してもよい。電気信号の変化の情報は、例えば、電気的に接続されたデータ処理部などに送られ、記憶され、処理される。
【0037】
工程(S4)において、検出の結果から気体試料49中の標的物質51の有無又は量を決定する。例えば、電気的信号の変化が生じた場合に気体試料49に標的物質51が存在すると判断し、変化が起きない場合に標的物質51が存在しないと判断してもよい。また、電気的信号が予め設定された閾値よりも大きく変化した場合に標的物質51が存在すると判断し、変化が閾値よりも小さい場合に標的物質51が存在しないと判断してもよい。そのような閾値は、例えば、標的物質が含まれていることが知られている気体試料をセンサ素子の分析に供して電気的信号の変化値を得ることなどによって得ることができる。或いは、変化量によって標的物質の量を決定してもよい。その場合、濃度既知の標的物質を用いて、標的物質の濃度に対する変化量の検量線を作成し、それと照らし合わせることによって標的物質の量を決定してもよい。
【0038】
以上に説明した工程により、センサ素子3a、3b及び3cは、気体試料中の標的物質を検出することができる。
【0039】
標的物質の検出方法は、各工程を自動的に行う装置によって行われてもよい。そのような装置は、例えば、センサ装置1と、感応膜35の物性の変化を電気的信号の変化に変換する検出部と、検出部から得られた電気的信号の情報を格納し、処理するデータ処理部と、これらの各部の操作を制御する制御部とを含む。上記工程(S2)~(S4)の操作は、装置の操作者の入力により実行されてもよいし、制御部に含まれるプログラムによって実行されてもよい。
【0040】
このようなセンサ素子3a、3b及び3cは、それぞれグラフェンFETに限られない。センサ素子3a、3b及び3cは、受容体47のような生体物質、抗体、核酸アプタマ、分子インプリントのような人工物を用いる場合であれば、例えば、他の電荷検出素子、表面プラズモン共鳴素子(SPR)、表面弾性波(SAW)素子、圧電薄膜共振(FBAR)素子、水晶振動子マイクロバランス(QCM)素子、又はMEMSカンチレーバー素子等のセンサ素子とすることができる。
【0041】
第1の実施形態のセンサ装置1は、液膜維持装置7を備えるため、当該装置7により、基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に、経時的に液体が流動することによって変化する液膜9(
図1及び2に示す液膜9a、9b、及び9c)が形成、維持される。液膜9aの下方に配置されているセンサ素子3aは、受容体47の乾燥に起因する、標的物質51の検出性能の低下を抑制又は防止できるため、標的物質51を高精度に検出できる。このようなセンサ素子3aは、水溶性の標的物質51を検出し易い。ここで、水溶性の標的物質51は、例えば、1.0mgの標的物質51を溶かすのに1μl以下の液膜9が必要な物質である。また、液膜9b、9cの下方に配置されているセンサ素子3b、3cは、標的物質51が液膜9を通ることなく直接に到達し易いため、標的物質51を迅速に検出でき、標的物質51が低濃度であっても、標的物質51を高精度に検出できる。また、センサ素子3b、3cは、上述したような水への溶解性が低い標的物質51を検出できる。
【0042】
従って、第1の実施形態の液膜維持装置は、センサ素子による標的物質の高精度な検出を可能にする。また、第1の実施形態のセンサ装置は、このような液膜維持装置を備えるため、標的物質を高精度に検出することができる。
【0043】
また、第1の実施形態の液膜維持装置は、新たな液膜を繰り返し形成、維持することができるため、センサ素子による標的物質の繰り返しの検出を可能にする。また、第1の実施形態のセンサ装置は、このような液膜維持装置を備えるため、標的物質を繰り返し検出することができる。
【0044】
さらに、第1の実施形態のセンサ装置は、標的物質と結合する受容体を有するセンサ素子を備えるため、夾雑物が検出されるのを防ぐことができる。従って、気体試料中に含まれる物質の組成が異なる条件においても、夾雑物の影響を受けることなく標的物質を検出することができる。
【0045】
以下、
図6~
図10を参照して、別の実施形態のセンサ装置について説明する。なお、
図6~
図10において、
図1と同様な部材は同符号を付して説明を省略する。
【0046】
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態のセンサ装置の一例を示す断面図である。
図6に示すセンサ装置1は、ポンプ55を備えていることを除いて
図1に示すセンサ装置と同様な構造を有する。
【0047】
第2の実施形態の液膜維持装置7の液体供給部11は、ポンプ55をさらに備える。ポンプ55は、細管21に取り付けられ、ボトル19内の液体17を基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に任意の供給流量で供給できる。ポンプ55は、例えば、0.01μL/s~1.0μL/sの供給流量に設定できる。ポンプ55は、液体排出部13による液膜中の液体の排出速度、すなわち液体排出部13の第1部材29の吸水速度よりも小さい供給流量に設定することによって、過剰な供給による液体の漏れを防止できる。
【0048】
第2の実施形態のセンサ装置1は、ポンプ55を有する液膜維持装置7を備えるため、当該装置7により、基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に、経時的に一定周期で液体が流動することによって変化する液膜9が形成、維持される。このため、液膜9b又9cの下方に配置されているセンサ素子3b、3cは、液膜9が上方を通過することにより発生し得るノイズが一定周期で出現することによって、受容体47が標的物質51を検出したのかどうかを判定し易くなり、標的物質51をさらに高精度に検出できる。
【0049】
また、ポンプ55を有する液膜維持装置7は、供給流量を小さく設定することによって、長時間の測定を可能にする。また、このような液膜維持装置7は、供給流量を小さく設定することによって、液体17の収容量及び液体排出部13の第1部材29の充填量を低減させることもできる。
【0050】
従って、第2の実施形態の液膜維持装置は、第1の実施形態の液膜維持装置と同様な作用、効果を奏するとともに、センサ素子によるさらに高精度な検出、及び長時間の検出を可能にし、センサ装置の小型化にも寄与する。また、第2の実施形態のセンサ装置は、第1の実施形態のセンサ装置と同様な作用、効果を奏するとともに、このような液膜維持装置を備えるため、標的物質を高精度に、長時間検出でき、小型化できる。
【0051】
(第3の実施形態)
図7は、第3の実施形態のセンサ装置の一例を示す断面図、
図8は、第3の実施形態のセンサ装置の一例を示す平面図である。なお、
図8は、
図7に示す液体供給部11の細管21の他端側の開口22、流動制御部57、及び保水材59と、液体排出部13の第1部材29のセンサ素子側端部31、及び突出部61とを除いて、液膜維持装置7の他の構成を省略してある。
【0052】
第3の実施形態の液膜維持装置7の液体供給部11は、細管21の開口22に連通する流動制御部57と、流動制御部57内に配置された保水材59とをさらに備える。また、第3の実施形態の液膜維持装置7の液体排出部13は、第1部材29のセンサ素子側端部31が液体供給部11に向かって突出する突出部61をさらに備える。
【0053】
流動制御部57は、細管21の開口22に連通するように取り付けられ、平面視において液体排出部13側に開口するコの字形状を有する。流動制御部57は、例えば、上述した基体5と同じ材料から形成されてもよい。流動制御部57の大きさは、限定されるものではないが、例えば、1~10mm×1~10mm×1~10mm(幅×長さ×高さ)である。流動制御部57の表面は、例えば、親水性を有する。流動制御部57は、ボトル19から、基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に供給された液体17を、液体排出部13に向けて流し、第1の実施形態の液膜維持装置7と比較して、液膜9の拡がりを抑制した液膜9(9d、9e、9f)を形成し、液体の流れを制御する。
保水材59は、液体供給部11から供給された液体を保持する。保水材59は、例えば、上述した第1部材29と同じ材料から形成されている。
いくつかの実施形態において、保水材59は、液体排出部13と、センサ素子3a、3b及び3cとを結ぶ線上に配置される。このように配置された保水材59によって、液体供給部11により形成される液膜9が、センサ素子3a、3b及び3c上に拡がって形成される。このため、液膜9を媒体として、後述する気体試料49を、センサ素子3a、3b及び3c上に運ぶことができる。
【0054】
第3の実施形態のセンサ装置1は、流動制御部57、保水材59、及び突出部61を有する液膜維持装置7を備えるため、当該装置7により、基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に、拡がりを抑制して変化する液膜9(9d、9e、9f)が形成、維持される。このため、このような液膜維持装置7は、液体17の収容量及び液体排出部13の第1部材29の充填量を低減させることができる。
【0055】
流動制御部57を備える液体供給部11は、ボトル19から、基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に供給された液体17が、液体供給部11の開口22付近で滞留することを抑制又は防止する。また、保水材59を備える液体供給部11は、ボトル19から、基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に供給された液体17が、液体供給部11の開口22付近で滞留することをさらに抑制又は防止する。このため、このような液膜維持装置7は、標的物質51が、センサ素子3a、3b及び3上を通過せずに、液体供給部11の開口22付近で滞留して、センサ素子3a、3b及び3cによる標的物質51の未検出を抑制又は防止することによって、標的物質51のさらなる高精度な検出を可能にする。
【0056】
従って、第3の実施形態の液膜維持装置は、第1の実施形態の液膜維持装置と同様な作用、効果を奏するとともに、センサ素子によるさらに高精度な検出、及び長時間の検出を可能にする。また、第3の実施形態のセンサ装置は、第1の実施形態のセンサ装置と同様な作用、効果を奏するとともに、このような液膜維持装置を備えるため、標的物質を高精度に、長時間検出できる。
【0057】
(第4の実施形態)
図9は、第4の実施形態のセンサ装置の一例を示す断面図である。
図9に示すセンサ装置1は、基体5の表面5aの一部とセンサ素子3b上に保水層63が設けられていることを除いて、
図1に示すセンサ装置と同様な構造を有する。
【0058】
第4の実施形態の保水層63は、基体5の表面5aの一部と、センサ素子3bの表面を覆っている。保水層63の厚さは、例えば、1.0μm~100μmである。保水層63は、保水層63の下方にある基体5の表面5aと、センサ素子3bを常に濡らした状態にすることができる。保水層63は、基体5の表面5aの一部を覆っていてもよく、全体を覆っていてもよい。
【0059】
第4の実施形態のセンサ装置1は、保水層63を備えるため、当該保水層63により、基体5の表面5a、及び/又はセンサ素子3a、3b及び3c上の任意の位置を、常に濡れた状態にすることができる。このため、保水層63の下方に配置されているセンサ素子3bは、受容体47の乾燥に起因する、標的物質51の検出性能の低下が抑制又は防止されるため、標的物質51を高精度に検出できる。
【0060】
従って、第4の実施形態のセンサ装置は、第1の実施形態のセンサ装置と同様な作用、効果を奏するとともに、このような保水層63を備えるため、標的物質をさらに高精度に検出することができる。
【0061】
(第5の実施形態)
図10は、第4の実施形態のセンサ装置の一例を示す断面図である。
図10に示すセンサ装置1は、ポンプ55が設けられていること、基体5上に第1の流路65、第2の流路67、及び第3の流路69を規定するカバー材71が設けられていること、第1の流路65の吸気口73にフィルタ75が設けられていること、第3の流路69の排気口77に気流発生装置79が設けられていること、及び液体排出部13の第1部材29の一部が第3の流路69において配置していることを除いて
図1に示すセンサ装置と同様な構造を有する。
【0062】
図10に示すように、センサ装置1の上方に離間して配置されたカバー材71によって、第1の流路65、第2の流路67、及び第3の流路69が規定されている。第1の流路65の吸気口73には、フィルタ75が設けられている。第3の流路69の排気口77には、気流発生装置79が設けられている。第3の流路69内において、液体排出部13の第1部材29の一部が配置されている。
【0063】
第1の流路65、第2の流路67、及び第3の流路69は連通している。第1の流路65は、気体試料49を取り込む流路であり、第2の流路67は、取り込まれた気体試料49を基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に導入する流路であり、第3の流路69は、取り込まれなかった気体試料49をセンサ装置1の外部に送る流路である。カバー材71は、例えば、上述した基体5と同じ材料から形成されている。フィルタ75は、流路内への塵やほこりの侵入を防止している。
【0064】
第3の流路69内において、配置している液体排出部13の第1部材29は、例えば、0.83mm2×280mm(断面積×長さ)の短冊形状を有している。このような第1部材29は、例えば、第3の流路69内において折り曲げられて配置されている。第1部材29は、第3流路内に吸収液膜中の液体を蒸発して乾燥することによって、液体排出部13の第1部材29の充填量を低減させることができる。
【0065】
気流発生装置79は、例えばファンである。気流発生装置79は、第1の流路65から、第2の流路67を通って、第3の流路69に向かう気流を発生させる。この気流によって気体試料49を第1の流路65内に取り込むことができる。また、この気流によって、第3の流路69内において、配置されている第1部材29を乾燥させることができる。気流発生装置79は、第1の流路65の吸気口73に設けられてもよい。
【0066】
第5の実施形態のセンサ装置1は、上述した構成を備えるため、基体5に配置されたセンサ素子3a、3b及び3c上に気体試料49を効率的に導入することができる。このため、センサ装置1に導入される気体試料49が低濃度であっても、センサ素子3a、3b及び3cによって検出できるため、標的物質51を高精度に検出できる。
【0067】
従って、第5の実施形態のセンサ装置は、第2の実施形態のセンサ装置と同様な作用、効果を奏するとともに、上述した構成を備えるため、標的物質をさらに高精度に検出することができる。
【0068】
本発明のいつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の種々の形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
センサ素子上に液体を供給して、液膜を形成する液体供給部と、
前記液膜中の液体を排出する液体排出部と
を備える液膜維持装置。
[2]
前記センサ素子は、感応膜を備え、
前記液体供給部は、前記センサ素子の前記感応膜上に前記液膜を形成する[1]に記載の液膜維持装置。
[3]
前記液体供給部は、液体を収容する第1の容器と、一端が前記第1の容器内に収容された液体に接触し、他端が前記センサ素子上に配置された細管とを備え、前記細管による毛細管現象を利用して、前記センサ素子上に液体を供給する[1]又は[2]に記載の液膜維持装置。
[4]
前記液体排出部は、前記液膜から排出された液体を回収する空間と、一端が前記空間内に配置され、他端が前記センサ素子上に配置された第1部材を備え、前記第1部材によって、前記液膜中の液体を排出する[1]~[3]のいずれか1項に記載の液膜維持装置。
[5]
前記第1部材は、前記液体供給部と、前記センサ素子とを結ぶ線上に配置される[4]に記載の液膜維持装置。
[6]
前記液体供給部は、前記センサ素子上への液体の供給流量を調節するポンプをさらに備える[1]~[5]のいずれか1項に記載の液膜維持装置。
[7]
前記ポンプは、前記液体排出部の前記液膜中の液体の排出速度よりも小さい供給流量に設定される[6]に記載の液膜維持装置。
[8]
前記液体供給部は、前記液膜中の液体の流れを制御する流動制御部をさらに備える[1]~[7]のいずれか1項に記載の液膜維持装置。
[9]
前記流動制御部は、前記液体供給部から供給された液体の拡がりを抑制する[8]に記載の液膜維持装置。
[10]
前記流動制御部には、前記液体供給部から供給された液体を保持する保水材が配置されている[8]又は[9]に記載の液膜維持装置。
[11]
前記保水材は、前記液体排出部と、前記センサ素子とを結ぶ線上に配置される[10]に記載の液膜維持装置。
[12]
前記液体排出部の第1部材は、前記液体供給部に向かって突出する突出部を備える[4]~[11]のいずれか1項に記載の液膜維持装置。
[13]
センサ素子と、
[1]~[12]のいずれか1項に記載の液膜維持装置と
を備えるセンサ装置。
[14]
前記センサ素子は、前記液体供給部と前記液体排出部との間に配置されている[13]に記載のセンサ装置。
[15]
前記センサ素子上には、前記液膜中の液体を保持する保水層が設けられている[13]又は[14]に記載のセンサ装置。
[16]
気体試料を取り込む第1の流路と、
前記気体試料を前記センサ素子上に導入する第2の流路と、
前記気体試料をセンサ装置の外部に送る第3の流路と
をさらに備え、
前記第1の流路、前記第2の流路、及び前記第3の流路は連通している[13]~[15]のいずれか1項に記載のセンサ装置。
[17]
前記第1の流路から、前記第2の流路を通過して、前記第3の流路へ向かう気流を発生させる気流発生装置をさらに備える[16]に記載のセンサ装置。
[18]
前記液体排出部の第1部材の一部が、前記第3の流路内に配置されている[16]又は[17]に記載のセンサ装置。
[19]
前記センサ素子は、感応膜と、前記感応膜上に接続された生体物質とを備え、
前記生体物質は、気体試料中の標的物質と結合する[13]~[18]のいずれか1項に記載のセンサ装置。
[20]
前記感応膜は、グラフェン膜であり、
前記グラフェン膜は、π-π相互作用により生体物質を接続している[19]に記載のセンサ装置。
[21]
前記センサ素子は、グラフェンFET、カーボンナノチューブFET、イオン感応性、SPR、又はSAWのいずれかである[13]~[20]のいずれか1項に記載のセンサ装置。
【符号の説明】
【0069】
1…センサ装置
3a、3b、3c…センサ素子
7…液膜維持装置
11…液体供給部
13…液体排出部