(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】中空粒子及び化粧料
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20221107BHJP
A61K 8/11 20060101ALI20221107BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20221107BHJP
A61Q 1/12 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
A61K8/11
A61K8/25
A61Q1/12
(21)【出願番号】P 2019522190
(86)(22)【出願日】2018-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2018020149
(87)【国際公開番号】W WO2018221406
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2017108323
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 慧
(72)【発明者】
【氏名】榎本 直幸
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 郁子
(72)【発明者】
【氏名】末光 建一
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-256098(JP,A)
【文献】特開2013-231010(JP,A)
【文献】特開平04-009319(JP,A)
【文献】特開2012-140286(JP,A)
【文献】国際公開第2015/050243(WO,A1)
【文献】特開2013-082599(JP,A)
【文献】国際公開第2016/164987(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
A61K 8/11
A61K 8/25
A61Q 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(d
1)が1~20μmの範囲にあり、シリカを含む外殻の内部に空洞を有するバルーン構造の中空粒子であって、該粒子の真比重が0.3~3.0g/cm
3、BET法で求めた単位体積あたりの比表面積が0.5m
2/cm
3以上60m
2/cm
3未満であり、粒子表面に高さ3~100nmの球冠状の凸部を有
し、前記凸部が前記外殻中に存在する平均粒子径(d
2
)6nm~200nmの無機酸化物微粒子で構成されたことを特徴とする中空粒子。
【請求項2】
前記凸部が、1μm
2当たり5個以上存在することを特徴とする請求項1に記載の中空粒子。
【請求項3】
前記外殻の真比重は2.2g/cm
3以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の中空粒子。
【請求項4】
屈折率1.46の分散液中における該中空粒子のHazeが50%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の中空粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の中空粒子が配合された化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックビーズ特有のソフトな感触特性を有する中空粒子、及びこれを含む化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、石油由来の合成高分子(プラスチック)は、さまざまな産業で利用され、現代の便利な生活を支えている。合成高分子の多くは、長期安定性を求めて開発されている。そのため、自然環境中で分解されず、様々な環境問題を引き起こしている。例えば、水環境中に流出したプラスチック製品が長い期間蓄積され、海洋や湖沼の生態系に大きな害を与えるという問題が発生している。また、近年、マイクロプラスチックと呼ばれる長さが5mm以下からナノレベルまでの微細なプラスチックが大きな問題となっている。マイクロプラスチックに該当するものとして、化粧用品などに含まれる微粒子、加工前のプラスチック樹脂の小さな塊、大きな製品が海中で浮遊するうちに微細化した物、などが挙げられている。
【0003】
近年では、洗浄効果を高めるため、洗顔料に数百μm級のプラスチック粒子(例えば、ポリエチレン粒子)が配合されている。プラスチック粒子は、真比重が軽いため下水処理場で除去し難く、河川、海洋、池沼等に流出している。プラスチック粒子は、殺虫剤などの化学物質を吸着し易いため、生物濃縮により人体に影響を与える虞がある。このことは国連環境計画等でも指摘されており、各国、各種業界団体が規制を検討している。
【0004】
このような背景から、有機物を用いない無機酸化物粒子が提案されている。例えば、無機酸化物微粒子の集合体をシリカ層で被覆した、多孔質または無孔質の球状粒子を化粧料のフィラーとして用いると、非常に軽く、ソフトで伸びが良い化粧料が得られることが知られている(例えば、WO2004/006873号公報を参照)。また、化粧料の感触特性を向上させるために、平均粒子径が0.5~30μmの範囲にある表面平滑性の優れた多孔質粒子を用いることが知られている(例えば、特開2009-137806号公報を参照)。
【0005】
さらに、肌への付着性が高く、シャリシャリ感が低い感触特性を有する無機酸化物粒子として、無孔質の外殻の内部に空洞(空隙率が20~95重量%)を有し、空洞が負圧である中空粒子が知られている(例えば、特開2011-256098号公報を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、有機物を用いない無機酸化物粒子では、塗布時のソフトな感触特性を発現することが難しく、プラスチックビーズの代替として満足できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、プラスチックビーズのようなソフトな感触特性を持つ無機酸化物粒子を実現することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、粒子の真比重が塗布時のソフト感を感じさせる因子であること、また、粒子表面に微細な凸部を形成することにより付着力が低下し、適度な流動性が付与されること、を見出した。これにより、プラスチックビーズのようなソフトな感触特性を持つ無機酸化物粒子を実現した。
【0009】
すなわち、本発明の無機酸化物粒子は、外殻の内部に空洞を有する中空粒子であり、外殻表面に3~100nmの凸部を有し、該粒子の真比重が0.3~3.0g/cm3である。この中空粒子の平均粒子径は1~20μmであり、BET法で求めた単位体積あたりの比表面積が0.5以上60m2/cm3未満である。このような粒子によれば、ソフトな感触特性と、肌上で均一に延び広がりやすくなる効果(すなわち、流動性が高い)が得られる。さらに、粒子表面の凸部は、1μm2当たり5個以上の割合で設けられることが好ましく、また、球冠状が好ましい。
【0010】
また、中空粒子の外殻は無孔質であることが好ましい。したがって、真比重は2.2g/cm3以上が好ましい。
【0011】
また、本発明の化粧料は、上述したいずれかの中空粒子が配合されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境問題を引き起こす懸念がなく、さらに、プラスチックビーズのようなソフトな感触特性を持つ粒子が実現できる。そのため、プラスチックビーズの代替として安心して使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の中空粒子は、外殻の内部に空洞を持つバルーン構造である。この粒子の表面には3~100nmの凸部が設けられている。また、粒子の真比重は0.3~3.0g/cm3、BET法で求めた単位体積あたりの比表面積(m2/cm3)は0.5以上60未満である。レーザー回折法で求められる平均粒子径(d1)は1~20μmの範囲にある。このような粒子によれば、ソフトな感触特性と適度な流動性が得られる。平均粒子径(d1)が1μm未満だと、付着性が高くなり、肌の上で均一に延び広がり難くなる(すなわち、流動性が低い)。一方、20μmを超えると、粒子粉体に触った時にざらつきを感じるようになり、ソフト感が低減する。特に、平均粒子径は2~8μmが好ましい。
【0014】
ここで、中空粒子はシリカを含有する無機酸化物粒子である。すなわち、中空粒子の外殻は、シリカ-アルミナ、シリカ-ジルコニア、およびシリカ-チタニアなどの複合酸化物、並びにシリカによって形成されている。化粧料に配合することを考慮すると、中空粒子には非晶質のシリカ粒子が適している。
【0015】
真比重の好ましい範囲は、粒子の組成により異なる。例えば、組成の99%以上がシリカであれば、その粒子の真比重は0.3~2.1g/cm3が好ましい。シリカの比重が2.2g/cm3なので、2.1g/cm3以下であれば内部に空洞があると見做すことができる。真比重が0.3g/cm3以下の中空粒子は、外殻が薄く、強度が低い。そのため、化粧料に配合する際の機械的シェアにより粒子が破壊されるおそれがある。一方、真比重が2.1g/cm3を超える場合には、十分な空洞が存在していない。そのため、ソフトな感触特性が得られ難い。粒子の真比重は0.5~2.0g/cm3がより好ましく、0.7~1.8g/cm3がさらに好ましい。
【0016】
中空粒子の外殻がシリカ-アルミナで構成され、その組成比(シリカ/アルミナ)が85/15の場合は、計算上の比重は2.5g/cm3となる。このとき、真比重は0.4~2.4g/cm3が好ましい。また、組成比(シリカ/アルミナ)が35/65の場合には、計算上の比重は3.1g/cm3となることから、粒子の真比重は0.5~3.0g/cm3が好ましい。このように、組成から計算される理論上の比重よりも、粒子の真比重が低ければ、内部に空洞があるといえる。
【0017】
また、内部に空洞が存在しているか否かは、以下の式で求められる空隙率から類推できる。「空隙率=(1-真比重/(粒子の組成から算出された理論比重))×100」
ここで、組成の99%以上がシリカであれば、粒子の空隙率は5~86%である。
【0018】
一方、BET法で求めた中空粒子の比表面積が60m2/cm3以上であると、ナノマテリアルの定義に適合してしまい、従来のプラスチックビーズと同様な用途で安心して使用できないおそれがある。
【0019】
また、粒子表面の凸部の大きさが3nm未満では、付着性が高いため、流動性が著しく低下する。一方、100nmを超えると付着性が低すぎて、粒子の転がり性が高まり、その結果、所望のソフト感が得られにくくなる。なお、凸部の高さは、5~60nmが好ましく、更に7~20nmが好ましい。また、大きさ3nm以上の凸部は1μm2当たり5個以上存在することが好ましい。5個以上あれば、均一な摩擦抵抗力を付与することができる。さらに、凸部が球冠状であることが好ましい。球冠状であると摩擦抵抗力を均一に制御することが容易になる。
【0020】
さらに、外殻が無孔質であることが好ましい。すなわち、粒子の組成の99%以上がシリカである場合、外殻の真比重は2.2g/cm3が好ましい。外殻の真比重が2.2g/cm3未満では、外殻の機械的強度が低下し、化粧料に配合する際の機械的シェアにより粒子が破壊されることがある。
【0021】
なお、外殻がシリカ-アルミナなどの複合酸化物で構成されている場合には、アルミナの割合が多いほど好ましい真比重値は大きくなる。すなわち、無孔質の外殻では、2.2g/cm3以下の真比重は好ましくない。
【0022】
また、中空粒子を屈折率1.46の分散液に入れてHazeを測定した場合、Hazeが50%以上となることが適している。肌から分泌される皮脂の屈折率は、1.46付近なので、中空粒子を肌へ塗布した後で皮脂に濡れた場合にも、適度な光拡散性が損なわれない。
【0023】
さらに、中空粒子の赤外線吸収スペクトルを測定した場合、3730~3750cm-1における最大吸光度(I1)と、1160~1260cm-1における最大吸光度(I2)との比(I1/I2)は0.05以下が適している。粒子表面のシラノール基(Si-OH)が減少すると3730~3750cm-1における赤外線吸光度は小さくなる。一方、Si-O-Siに帰属する1160~1260cm-1における赤外線吸光度は大きくなる。シラノール基は水と結合するため、シラノール基が少ないほど親水性が低い。すなわち、吸光度比(I1/I2)が小さいほど粒子の表面は親水性が低いと言える。親水性が低い粒子は、肌への付着力が低くなるため、肌への塗布時にソフトな感触特性を発現することができる。なお、吸光度比を小さくするためには、シラン化合物等による表面処理、または、高温焼成等でシラノール基を潰すことなどにより、表面を疎水化すればよい。
【0024】
<中空粒子の製造方法>
次に、本発明の中空粒子の製造方法について説明する。
【0025】
(工程A)
はじめに、球状の無機酸化物微粒子が水に分散されたゾルを用意する。ゾルには、無機酸化物微粒子が固形分換算で1~30重量%含まれることが望ましい。ここで、無機酸化物微粒子は、成分にシリカを含有する微粒子であり、シリカ-アルミナ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニアなどの複合酸化物の微粒子、およびシリカ微粒子が例示できる。化粧料に配合することを考慮すると、非晶質のシリカ微粒子が好適である。なお、微粒子の組成の違いによって製造条件を変更する必要はない。
【0026】
この無機酸化物ゾルにシリカ濃度1~50重量%の珪酸液を加えて、スラリーを調製する。このとき、ゾルの無機酸化物成分(I)と珪酸液のシリカ成分(II)の固形分重量比(I/II)が、0.05~1の範囲になるように無機酸化物ゾルと珪酸液を混合する。
【0027】
珪酸液として、珪酸塩水溶液を陽イオン交換樹脂で処理して脱アルカリ(Naイオンの除去など)したものを使用できる。珪酸塩には、珪酸ナトリウム(水ガラス)や珪酸カリウム等のアルカリ金属珪酸塩、第4級アンモニウムシリケート等の有機塩基の珪酸塩などがある。
【0028】
(工程B)
工程Aで得られたスラリーを用いて、従来公知の噴霧乾燥方法で造粒する。例えば、スプレードライヤーによる噴霧乾燥法では、噴霧液(スラリー)を熱風気流中に1~3リットル/時の速度で噴霧する。これによって中空粒子が得られる。このとき、熱風の温度は、入口温度で70~600℃、出口温度で40~300℃の範囲が好ましい。入口温度が70℃未満だと、固形分の乾燥が不充分となる。また600℃を超えると、粒子形状が歪むおそれがある。また、出口温度が40℃未満であると、固形分の乾燥度合いが悪く、粒子が装置内に付着しやすい。必要に応じて、得られた粒子を、洗浄、乾燥、焼成してもよい。
【0029】
このような工程により、外殻の内部に空洞が形成されたバルーン構造を持つ粒子(すなわち、中空粒子)が得られる。さらに、この中空粒子は表面に3~100nmの凸部を有し、中空粒子の真比重が0.3~3.0g/cm3である。ここで、外殻はスラリーに含まれる珪酸成分により構成され、外殻に形成された凸部は無機酸化物微粒子で構成されると考えられる。そのため、無機酸化物微粒子の平均粒子径(d2)は、6nm~200nmが好ましい。平均粒子径が200nmを超えると粒子表面の凸部が大きすぎて、所望の感触特性が得られなくなる。一方、平均粒子径が6nm未満の無機酸化物微粒子は安定性が低く、工業的な側面で好ましくない。平均粒子径は10~120nmがより好ましく、特に14~90nmが好ましい。さらに、無機酸化物微粒子の粒子径変動係数(CV)は10%以内が好ましい。
【0030】
無機酸化物微粒子として上述の組成の微粒子を用いるとともに、珪酸液にアルミナ、ジルコニア、チタニアなどの金属成分を含ませてもよい。すなわち、無機酸化物ゾルの組成と珪酸液の組成を調整することにより、いろいろな組成の中空粒子が得られる。例えば、外殻と凸部がシリカで構成された粒子や、外殻と凸部がシリカ-アルミナで構成された粒子、外殻と凸部が異なるシリカ系材料で構成された粒子を容易に得ることができる。
【0031】
なお、植物由来の原料から生成されたシリカ成分を用いて中空粒子を構成することが持続可能な社会の実現の観点で好ましい。また、欧米などの海外では環境との調和、安全性への拘りの観点でオーガニック化粧料のニーズが高まっている。ISO16128-1(Guidelines on technical definitions and criteria for natural And organic cosmetic ingredients and products Part1:Definitions for ingredients)ではその原料が定義されている。シリカ源として多用されている珪砂はミネラル成分の分類であるが、植物由来のシリカ成分であれば自然由来成分として分類されることから、当該ニーズに対応することができる。
【0032】
植物由来のシリカ成分は、イネ科植物に多く含まれており、米の籾殻やその稲穂から抽出することができる。例えば、特開平7-196312号公報に開示された焼成法や特開2002-265257号公報に開示された加圧熱水法などにより、高純度なシリカが得られることが知られている。このようにして得られた植物由来のシリカ成分を水酸化ナトリウムで溶解して珪酸ナトリウムを調製し、その後、常法に従って、シリカ系粒子を調製することができる。
【0033】
<化粧料>
本発明の中空粒子を化粧料に用いると、従来のシリカ粒子等の無機粒子と異なり、転がり感、転がり感の持続性、及び均一な延び広がり性だけでなく、プラスチックビーズ特有のソフト感としっとり感という、化粧料の感触改良材に求められる代表的な感触特性が得られる。
【実施例】
【0034】
以下、無機酸化物ゾルとしてシリカゾルを用いた実施例を具体的に説明する。
【0035】
[実施例1]
平均粒子径11nmのシリカ微粒子が水に分散されたゾル(市販品:日揮触媒化成(株)製;Cataloid SI-30、シリカ濃度30重量%)を陽イオン交換し、pHを2.0に調整した。これにより、固形分濃度30重量%のシリカゾルが無機酸化物ゾルとして得られた。このシリカゾルにはシリカ微粒子が無機酸化物微粒子として含まれている。
【0036】
一方、JIS3号水硝子を純水で希釈した後、陽イオン交換して、シリカ濃度4.5重量%の珪酸液を調製した。この珪酸液2000gに前述の無機酸化物ゾル75gを加えた。このとき、無機酸化物ゾルのシリカ成分(I)と珪酸液のシリカ成分(II)の固形分重量比(I/II)は「22.5/90」すなわち「20/80」である。これにより、無機酸化物ゾル濃度1.1重量%、水硝子由来のシリカ濃度4.3重量%、固形分濃度5.4重量%の分散スラリーが得られた。
【0037】
この分散スラリーを噴霧液として、スプレードライヤー(NIRO社製、NIRO-ATMIZER)により噴霧乾燥する。すなわち、入口温度200℃、出口温度50~55℃に設定した乾燥気流中に、2流体ノズルの一方からスラリーを2L/時の流量で、他方のノズルから0.15MPaの圧力で気体を供給して噴霧乾燥し、乾燥粉体を得た。
【0038】
この乾燥粉体を600℃で4時間焼成した。その後、乾式篩処理を行い、中空粒子の粉体を得た。この粉体の物性を表2に示す。また、粒子の調製条件を表1に示す。表中の各測定値は以下の方法で測定された。
【0039】
(1)平均粒子径(d1)、(d2)、および粒子径変動係数(CV)
それぞれの粒子の粒度分布をレーザー回折法により測定した。この粒度分布に基づいて中空粒子の平均粒子径(d1)、無機酸化物微粒子の平均粒子径(d2)と粒子径変動係数(CV)を求めた。このとき、粒度分布から得られたメジアン値を平均粒子径とした。なお、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950v2(株式会社堀場製作所製)を用いて粒度分布を測定した。
【0040】
(2)粒子の真比重
中空粒子の粉体を磁性ルツボ(B-2型)に約30ml採取し、300℃で1時間乾燥後、デシケーターに入れて室温まで冷却する。次に、サンプルを15ml採取し、全自動ピクノメーター(QUANTACHROME社製:Ultrapyc1200e)を用いて真比重を測定した。
【0041】
(3)外殻の真比重
中空粒子の粉体をメノウ乳鉢に入れ、乳棒を用いて粉砕し、得られた粉砕物の真比重を測定した。粉砕により、中空粒子が崩壊して、内部の空洞がなくなっている。そのため、粉砕物の真比重を外殻の真比重とした。
【0042】
(4)比表面積
中空粒子の粉体を磁性ルツボ(B-2型)に約30ml採取し、300℃で1時間乾燥させた後、デシケーターに入れて室温まで冷却した。次に、試料を1.0g取り、全自動表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製、マルチソーブ12型)を用いて、BET法で比表面積(m2/g)を測定した。そして、シリカの比重を2.2g/cm3として単位体積当たりの比表面積に換算した。
【0043】
(5)細孔容積
中空粒子の粉体10gをルツボに取り、105℃で1時間乾燥させた後、デシケーターに入れて室温まで冷却した。次いで、よく洗浄したセルに試料1.0gを入れ、窒素吸着装置を用いて窒素を吸着させ、以下の式から細孔容積を算出した。
【0044】
細孔容積(ml/g)=(0.001567×(V-Vc)/W)
上式で、Vは圧力735mmHgにおける標準状態の吸着量(ml)、Vcは圧力735mmHgにおけるセルブランクの容量(ml)、Wは試料の質量(g)を表す。また、窒素ガスと液体窒素の密度の比は0.001567とする。
【0045】
(6)凸部の大きさ
中空粒子の粉体0.1gをエポキシ樹脂約1g(BUEHLHER製EPO-KWICK)に均一に混合して常温で硬化させた後、FIB加工装置(日立製作所製、FB-2100)を用いて、20μmエリアの断面加工を行い、厚み100~200nmの切片の試料を作製した。次いで、透過型電子顕微鏡(日立製作所製、HF-2200)を用いて、この試料を加速電圧200kVの条件下で、倍率100000倍のTEM写真を撮影した。さらに、任意のTEM写真10枚について、粒子表面の外接円と内接円の差を計測し、その平均値を中空粒子表面の凸部の大きさとした。
【0046】
(7)中空粒子の凸部の形状、数
走査型電子顕微鏡を用いて撮影したSEM写真を観察し、中空粒子の凸部の数を評価した。無作為に選択した粒子100~200個のSEM画像を解析して凸部の形状が球冠状かどうかを確認した。また、5nm以上の大きさの凸部をカウントし、1μm2の投影部に5個以上形成されているかどうかを確認した。
【0047】
(8)分散液(屈折率1.46)中でのHaze
蒸留水9.0gとグリセリン(関東化学(株)製、特級)91.0gを混合し、屈折率1.46のグリセリン水溶液を調製した。このグリセリン水溶液7.0gに中空粒子の粉体3.0gを加え、超音波を30分間照射((株)エスエヌディ製US-2KS)して分散した。得られた分散液のHazeを色彩・濁度同時測定器(日本電色(株)製300A)を用いて測定し、中空粒子のHazeとした。
【0048】
(9)SiO2定量値
中空粒子の粉体0.2gを白金皿で精秤し、硫酸10mlと弗化水素酸10mlを加えて、砂浴上で硫酸の白煙が出るまで加熱した。冷却後、水約50mlを加えて加温溶解した。冷却後、水200mlに希釈しこれを試験溶液とした。この試験溶液について誘導結合プラズマ発光分光分析装置(島津製作所(株)製、ICPS-8100、解析ソフトウェアICPS-8000)を使用し、中空粒子の組成率を求めた。
【0049】
(10)吸光度比
中空粒子の赤外吸収スペクトルを、FT-IR6300(日本分光社製)を用いて測定し、波数(cm-1)とクベルカムンク式で計算した吸光度との関係を示すグラフを作成した。得られたグラフから、3730~3750cm-1における最大吸光度(I1)と1160~1260cm-1における最大吸光度(I2)を読み取り、吸光度比(I1/ I2)を算出した。
【0050】
【0051】
【0052】
[実施例2]
実施例1で、シリカゾル(SI-30)の代わりに、SS-160(日揮触媒化成(株)製、平均粒子径160nm)を使用し、固形分濃度16重量%の無機酸化物ゾルを調製した。このゾルと実施例1の珪酸液を表1に示した固形分重量比になるように加え、分散スラリーを得た。この分散スラリーを用いて、実施例1と同様に中空粒子の粉体を調製し、測定した。
【0053】
[実施例3]
本実施例では、2流体ノズルの気体供給圧力を0.3MPaとした。これ以外は実施例1と同様に、中空粒子の粉体を調製し、測定した。
【0054】
[実施例4]
本実施例では、2流体ノズルの気体供給圧力を0.6MPaとした。これ以外は実施例1と同様に、中空粒子の粉体を調製し、測定した。
【0055】
[実施例5]
本実施例では、JIS3号水硝子を陽イオン交換せずに珪酸液(II)として使用し、噴霧乾燥時の入口温度を380℃とした。これ以外は実施例1と同様に乾燥粉体を調製した。得られた乾燥粉体100gを、硫酸水溶液(25%)中に懸濁し、中和した。中和して得られたスラリーをブフナー漏斗(関谷理化硝子器械(株)製3.2L)を用いて定量濾紙(アドバンテック東洋(株)製No.2)で濾過した。その後、純水で繰り返し洗浄し、ケーキ状物質を得た。このケーキ状物質を乾燥(120℃、16時間)させ、乾燥粉体αを得た。その後、1000℃で3時間焼成し、乾式篩処理を行って粉体を得た。この粉体を実施例1と同様に測定した。
【0056】
[実施例6]
本実施例では、分散スラリー内の無機酸化物ゾルのシリカ成分(I)と珪酸液のシリカ成分(II)の固形分重量比(I/II)を50/50に変更した。これ以外は実施例1と同様に、中空粒子の粉体を調製し、測定した。
【0057】
[実施例7]
実施例1で、シリカゾル(SI-30)の代わりに、SI-80P(日揮触媒化成(株)製、平均粒子径80nm)を使用して無機酸化物ゾルを調製した。このゾルと実施例1の珪酸液を表1に示した固形分重量比になるように加えた。これにより得られた分散スラリーを用いて、実施例1と同様に中空粒子の粉体を調製し、測定した。
【0058】
[実施例8]
本実施例では、焼成条件を1000℃、3時間とした。これ以外は実施例1と同様に、中空粒子の粉体を調製し、測定した。
【0059】
[実施例9]
実施例1で、シリカゾル(SI-30)の代わりに、USBB-120(日揮触媒化成(株)製、平均粒子径5nm、組成:シリカ/アルミナ=70/30)を使用し、固形分濃度23重量%の無機酸化物ゾルを調製した。このゾルと実施例1の珪酸液を表1に示した固形分重量比になるように加えた。これにより得られた分散スラリーを用いて、実施例1と同様に中空粒子の粉体を調製し、測定した。
【0060】
[比較例1]
実施例1で、シリカゾル(SI-30)の代わりに、SI-550(日揮触媒化成(株)製、平均粒子径5nm)を使用し、固形分濃度10重量%の無機酸化物ゾルを調製した。このゾルと実施例1の珪酸液を表1に示した固形分重量比になるように加えた。これにより得られた分散スラリーを用いて、実施例1と同様に粒子の粉体を調製し、測定した。
【0061】
[比較例2]
分散スラリー内の無機酸化物ゾルのシリカ成分(I)と珪酸液のシリカ成分(II)の固形分重量比(I/II)が95/5になるように混合した。これ以外は実施例1と同様に、粒子の粉体を調製し、測定した。
【0062】
[比較例3]
本比較例では、分散スラリー内の無機酸化物ゾルのシリカ成分(I)と珪酸液のシリカ成分(II)の固形分重量比(I/II)が50/50になるように混合した。さらに、2流体ノズルの気体供給圧力を0.05MPa、噴霧速度を4L/時とした。これ以外は実施例1と同様に、粒子の粉体を調製し、測定した。
【0063】
[比較例4]
本比較例では、分散スラリー内の無機酸化物ゾルのシリカ成分(I)と珪酸液のシリカ成分(II)の固形分重量比(I/II)が1/99になるように混合した。これ以外は実施例1と同様に、粒子の粉体を調製し、測定した。
【0064】
[比較例5]
本比較例では、シリカゾルを用いずに珪酸液だけで分散スラリーを調製した。これ以外は実施例1と同様に、粒子の粉体を調製し、測定した。
【0065】
<化粧料への適用>
各実施例と比較例により得られた粒子の粉体について、20名の専門パネラーによる官能テストを行い、さらさら感、しっとり感、転がり感、均一な延び広がり性、肌への付着性、転がり感の持続性、およびソフト感の7つの評価項目(感触特性)に関して聞き取り調査を行った。その結果を以下の評価点基準(a)に基づき評価した。さらに、各人がつけた評価点を合計し、以下の評価基準(b)に基づき粒子の感触を評価した。
評価点基準(a)
5点:非常に優れている
4点:優れている
3点:普通
2点:劣る
1点:非常に劣る
評価基準(b)
◎:合計点が80点以上
○:合計点が60点以上80点未満
△:合計点が40点以上60点未満
▲:合計点が20点以上40点未満
×:合計点が20点未満
その結果を表3に示す。表から解るように、各実施例の粉体は、化粧料の感触改良材として極めて優れているが、比較例の粉体は、感触改良材として適していない。
【0066】
【0067】
[パウダーファンデーションの使用感]
表4に示す配合比率(重量%)で、各実施例(または比較例)の粒子の粉体と、他の成分(2)~(9)をミキサーに入れて撹拌し、均一に混合させた。次に、化粧料成分(10)~(12)をこのミキサーに入れて撹拌し、さらに均一に混合させた。得られたケーキ状物質を解砕処理した後、その中から約12gを取り出し、46mm×54mm×4mmの角金皿に入れてプレス成型した。この様にして得られたパウダーファンデーションについて、20名の専門パネラーによる官能テストを行い、(i)肌への塗布中の均一な延び、しっとり感、滑らかさ、および(ii)肌に塗布後の化粧膜の均一性、しっとり感、やわらかさの6つの評価項目に関して聞き取り調査を行った。その結果を前述の評価点基準(a)に基づき評価する。また、各人がつけた評価点を合計し、前述の評価基準(b)に基づきファンデーションの使用感を評価した。結果を表5に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
実施例1,2,5による化粧料A~Cは、その使用感が、塗布中でも塗布後でも、非常に優れていることが分かった。しかし、比較例1,2,4の化粧料a~cは、その使用感がよくないことが分かった。
【0071】
なお、上述の各実施例により得られた中空粒子は、以下に例示する各種化粧料成分に配合して用いられる。
【0072】
油脂類としてオリーブ油、ナタネ油、牛脂。ロウ類としてホホバ油、カルナバロウ、キャンデリラロウ、ミツロウ。炭化水素類としてパラフィン、スクワラン、合成及び植物性スクワラン、α-オレフィンオリゴマー、マイクロクリスタリンワックス、ペンタン、ヘキサン。脂肪酸類としてステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、α-ヒドロキシ酸。アルコール類としてイソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、ラウリルアルコール、エタノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール。エステル類としてアルキルグリセリルエーテル類、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、ラウリル酸セチル、オレイン酸デシル。多価アルコール類としてエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン。糖類としてソルビトール、ブドウ糖、ショ糖、トレハロース。シリコーン油として、メチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルシリコーン油、各種変性シリコーン油、環状ジメチルシリコン油。シリコーン系および/または他の有機化合物にて架橋させたシリコーンゲル。ノニオン系、カチオン系、アニオン系の各種界面活性剤。パーフルオロポリエーテル等のフッ素油。アラビアガム、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、ゼラチン、アルギン酸、グアーガム、アルブミン、プルラン、カルボキシビニルポリマー、セルロース及びその誘導体、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール等の各種高分子。動植物抽出物。アミノ酸及びペプチド類。ビタミン類。パラメトキシケイ皮酸オクチル等のケイ皮酸系、サリチル酸系、安息香酸エステル系、ウロカニン酸系、ベンゾフェノン系等の紫外線防御剤。殺菌・防腐剤。酸化防止剤。変性又は未変性の粘土鉱物。酢酸ブチル、アセトン、トルエン等の溶剤。各種有機顔染料。水。香料。各種粒子径、粒子径分布および形状を有する酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベンガラ、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、シリカ、マイカ、タルク、セリサイト、窒化ホウ素、硫酸バリウム、パール光沢を有する雲母チタン、およびそれらの複合物。ここで、酸化チタンや酸化亜鉛等の無機化合物には、その表面に予めシリコーン処理、フッ素処理、金属石鹸処理などを施してもよい。
【0073】
また、ポリアクリル酸メチル、ナイロン、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ポリエチレン、ポリエステル、ポリウレタンなどの樹脂粒子を含んでいてもよい。さらに、美白効果を有する成分として、アルブチン、コウジ酸、ビタミンC、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム、ジ-パルミチン酸アスコルビル、アスコルビン酸グルコシド、その他のアスコルビン酸誘導体、プラセンタエキス、イオウ、油溶性甘草エキス、クワエキス等の植物抽出液、リノール酸、リノレイン酸、乳酸、トラネキサム酸などを含ませてもよい。
【0074】
また、肌荒れ改善効果を有する成分として、ビタミンC、カロチノイド、フラボノイド、タンニン、カフェー酸誘導体、リグナン、サポニン、レチノイン酸及びレチノイン酸構造類縁体、N-アセチルグルコサミン、α-ヒドロキシ酸等の抗老化効果を有する有効成分、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール類、混合異性化糖、トレハロース、プルラン等の糖類、ヒアルロン酸ナトリウム、コラーゲン、エラスチン、キチン・キトサン、コンドロイチン硫酸ナトリウム等の生体高分子類、アミノ酸、ベタイン、セラミド、スフィンゴ脂質、セラミド、コレステロール及びその誘導体、ε-アミノカプロン酸、グリチルリチン酸、各種ビタミン類などを含ませてもよい。
【0075】
さらに、医薬部外品原料規格2006(発行:株式会社薬事日報社、平成18年6月16日)や、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook(発行:The Cosmetic, Toiletry, and Fragrance Association、Eleventh Edition2006)等に収載されている化粧料成分を配合してもよい。
【0076】
このような化粧料は、従来公知の一般的な方法で製造することができる。化粧料は、粉末状、ケーキ状、ペンシル状、スティック状、クリーム状、ジェル状、ムース状、液状、クリーム状などの各種形態で使用される。具体的には、洗浄用化粧料(石鹸、クレンジングフォーム、メーク落とし用クリーム等)、スキンケア化粧料(保湿・肌荒れ防止、アクネ、角質ケア、マッサージ、しわ・たるみ対応、くすみ・くま対応、紫外線ケア、美白、抗酸化ケア用等の化粧料)、ベースメークアップ化粧料(パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、クリームファンデーション、ムースファンデーション、プレスドパウダー、化粧下地)、ポイントメークアップ化粧料(アイシャドウ、アイブロー、アイライナー、マスカラ、口紅)、ヘアケア化粧料(育毛用、フケ防止、かゆみ防止、洗浄用、コンディショニング・整髪、パーマネント・ウエーブ用、ヘアカラー・ヘアブリーチ用化粧料)、ボディーケア化粧料(洗浄用、日焼け防止、手荒れ防止、スリミング用、血行改善用、かゆみ抑制、体臭防止、制汗、体毛ケア、リペラント用、ボディパウダー等の化粧料)、フレグランス化粧料(香水、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロン、シャワーコロン、練り香水、ボディーローション、バスオイル)、オーラルケア製品(歯磨き粉、マウスウォッシュ剤)などが挙げられる。