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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】熱間成形被覆鋼製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/28 20060101AFI20221107BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20221107BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20221107BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221107BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20221107BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
C23C2/28
C23C2/12
C23C2/40
C22C38/00 301T
C22C38/60
C22C21/02
C22C38/00 301W
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019546825
(86)(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2018054600
(87)【国際公開番号】W WO2018158166
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】17158419.6
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17158418.8
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ペートルス、コルネリス、ヨーゼフ、ベーンチェス
(72)【発明者】
【氏名】ヒューホ、ファン、スホーンエフェルト
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/104880(WO,A1)
【文献】特表2018-527462(JP,A)
【文献】国際公開第2017/017514(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/28
C23C 2/12
C23C 2/40
C22C 38/00
C22C 38/60
C22C 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間成形鋼製品を製造する方法であって、
前記熱間成形製品が、鋼基材とアルミニウム合金被覆層とを含み、
前記アルミニウム合金被覆層が、表面層と、前記表面層と前記鋼基材との間の拡散層とを含み、
前記表面層が、0~10面積%のτ相を含み、
前記τ相が、存在する場合には、前記表面層中に分散しており、
最も外側の前記表面層がτ相を含まず、
前記方法が、少なくとも以下の工程:
0.4重量%以上4.0重量%以下のSi及び1.0重量%未満のZnを含む溶融アルミニウム合金浴に前記鋼基材を浸漬することにより、アルミニウム合金被覆層を備えた鋼ストリップ又はシートを提供する工程;
前記被覆鋼ストリップ又はシートを切断してブランクを得る工程;
直接又は間接熱間成形工程によって前記ブランクを熱間成形して産物を得る工程であって、前記ブランクを、又は前記間接熱間成形工程の場合には熱間成形鋼製品を、前記鋼のAc1温度を超える温度まで加熱することを含む工程;
得られた産物を冷却して所望の最終ミクロ組織を形成し、前記熱間成形鋼製品を得る工程
を含む方法。
【請求項2】
前記表面層がτ相を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶融アルミニウム合金浴が0.6~4.0重量%のケイ素を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶融アルミニウム合金浴が0.6~1.4重量%のケイ素を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶融アルミニウム合金浴が少なくとも1.6~4.0重量%のケイ素を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルミニウム合金被覆層を備えた前記被覆鋼ストリップ又はシートが、前記熱間成形工程の前に、予備拡散アニーリング工程に供される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルミニウム合金被覆層を備えた前記被覆ストリップ又はシートが、
溶融めっきライン内の前記溶融めっきの直後のストリップとして、
誘導炉内のストリップ、シート又はブランクとして、
予備拡散アニーリング工程に供される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
加熱及び熱間成形の前の、前記被覆鋼ストリップ又はシート上の前記アルミニウム合金被覆層が、前記鋼ストリップの表面から外側に向かって、少なくとも以下の3つの異なる層:
ケイ素が固溶したFeAlからなる金属間化合物層1
ケイ素が固溶したFeAlからなる金属間化合物層2
溶融物の組成を有する外層
を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
加熱及び熱間成形の前の、前記アルミニウム合金被覆層の厚さが10~40μmである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記鋼ストリップの組成が、重量%で、
C:0.01~0.5
P:0.1以下
Nb:0.3以下
Mn:0.4~4.0
S:0.05以下
V:0.5以下
N:0.001~0.030
B:0.08以下
Ca:0.05以下
Si:3.0以下
O:0.008以下
Ni:2.0以下
Cr:4.0以下
Ti:0.3以下
Cu:2.0以下
Al:3.0以下
Mo:1.0以下
W:0.5以下
を含み、残部は鉄及び不可避的不純物である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
鋼基材と、0.4重量%以上4.0重量%以下のSi及び1.0重量%未満のZnを含むアルミニウム合金被覆層とを含む熱間成形鋼製品であって、
前記アルミニウム合金被覆層が、表面層と、前記表面層と前記鋼基材との間の拡散層とを含み、
前記表面層が、0~10面積%のτ相を含み、
前記τ相が、前記表面層中に分散しており、
最も外側の前記表面層がτ相を含まない、熱間成形鋼製品。
【請求項12】
前記アルミニウム合金被覆層が0.6~4.0重量%のケイ素を含み、及び/又は、
前記表面層にτ相が存在せず、及び/又は
記τ相の接触率Cτが0.4以下である、請求項11に記載の熱間成形製品。
【請求項13】
前記鋼基材の組成が、重量%で、
C:0.01~0.5
P:0.1以下
Nb:0.3以下
Mn:0.4~4.0
S:0.05以下
V:0.5以下
N:0.001~0.030
B:0.08以下
Ca:0.05以下
Si:3.0以下
O:0.008以下
Ni:2.0以下
Cr:4.0以下
Ti:0.3以下
Cu:2.0以下
Al:3.0以下
Mo:1.0以下
W:0.5以下
を含み、残部は鉄及び不可避的不純物である、請求項11又は12に記載の熱間成形製品。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法により得られる前記熱間成形製品又は請求項12若しくは13に記載の前記熱間成形製品の使用であって、車両の部品としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間プレス成形用のAl-Si合金被覆鋼ストリップ、及び、連続被覆工程においてAl-Si合金被覆鋼ストリップを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
欧州特許0971044(EP0971044)から、熱間プレス成形品(熱間成形品)又はプレス硬化品の製造にアルミニウム-ケイ素被覆鋼ストリップを使用することが知られている。この工程において、鋼ストリップから切り取られたブランクを、鋼がオーステナイトに変態する温度(すなわち、Ac1温度より高い温度)に加熱して、所望の形状に容易に成形することができる。オーステナイトストリップを所望の形状にプレスした後、オーステナイトがマルテンサイト又は他の硬化構造に変態することを可能とする冷却速度で冷却して、高強度の成形品が得られる。欧州特許2377965(EP2377965)には、シート又は22MnB5等の鋼シートにおいて1000MPa以上の強度を達成できることが開示されている。アルミニウム-ケイ素コーティングは、高温にとどまる間及びその後の冷却中に、ストリップを酸化及び脱炭から保護することを目的としている。完成した熱間プレス成形部品は、表面酸化物の除去を必要とせず、部品をさらに処理することができる。現在実際に使用されているアルミニウム-ケイ素コーティングには、約10%のケイ素が含まれている。
【発明の概要】
【0003】
10%のケイ素を含むアルミニウム-ケイ素コーティングの欠点は、熱間成形及び冷却後の最終部品への塗料の接着が不十分であることである。塗料の著しい剥離が頻繁に観察される。
【0004】
本発明のさらなる目的は、熱間成形後に改善された塗料接着性を有するアルミニウム-ケイ素被覆鋼ストリップを提供することである。
【0005】
本発明のさらなる目的は、上記アルミニウム-ケイ素被覆鋼ストリップを製造する方法を提供することである。
【0006】
さらに、本発明の目的は、熱間成形工程に有利な上記の鋼ストリップの使用を提供することである。
【0007】
さらに、本発明の目的は、本発明の鋼ストリップの使用の結果生じる製品を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1Aは、本発明の工程を要約する図であり、図1Bは、被覆層の構成及び発達を説明する図である。
図2図2は、1.6重量%のSiを含むアルミニウム合金コーティングを備えた鋼基材の熱処理中の金属間化合物の異なる層の発達を示す図である。
図3図3は、3.0重量%のSiを含むアルミニウム合金コーティングを備えた鋼基材の熱処理中の金属間化合物の異なる層の発達を示す図である。
図4図4は、925℃で6分間加熱した熱間成形製品において、1.1重量%(サンプルA)及び9.6重量%(サンプルB)のSiを含むアルミニウム合金コーティングを備えた鋼基材の熱処理中の金属間化合物の異なる層の発達を示す図である。
図5図5は、サンプルA及びBの塗料接着性試験の結果を示す図である。
図6図6は、サンプルA及びBの平均アンダークリープ値を示す図である。
図7図7は、900℃で6分間アニーリングした後のサンプルAの拡散の分析結果を示す図である。
図8図8は、サンプルAの異なる熱処理時間に対するFeAl層の形成を示す図である。
図9図9は、アルミニウム被覆層に1.9重量%(図9a)又は9.8重量%(図9b及び9c)のSiを有する熱間成形サンプルの断面を示す図である。
図10図10a~10cは、これらのサンプルの塗料接着性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第一の態様によれば、熱間成形鋼製品を製造する方法であって、
前記熱間成形製品が、鋼基材とアルミニウム合金被覆層とを含み、
前記アルミニウム合金被覆層が、表面層と、前記表面層と前記鋼基材との間の拡散層とを含み、
前記表面層が、0~10面積%のτ相を含み、
前記τ相が、存在する場合には、前記表面層中に分散しており、
前記方法が、少なくとも以下の工程:
0.4重量%以上4.0重量%以下のSiを含む溶融アルミニウム合金浴に前記鋼基材を浸漬することにより、アルミニウム合金被覆層を備えた鋼ストリップ又はシートを提供する工程;
前記被覆鋼ストリップ又はシートを切断してブランクを得る工程;
直接又は間接熱間成形工程によって前記ブランクを熱間成形して産物を得る工程であって、前記ブランクを、又は前記間接熱間成形工程の場合には熱間成形鋼製品を、前記鋼のAc1温度、好ましくはAc3温度を超える温度まで加熱することを含む工程;
得られた産物を冷却して所望の最終ミクロ組織を形成し、前記熱間成形鋼製品を得る工程
を含む方法を提供する。
【0010】
本発明の被覆鋼ストリップは、一方で熱間成形中の酸化に対する良好な保護を提供し、他方で完成部品の優れた塗料接着性を提供する。表面層にτ相が存在する場合には、それは連続した層としてではなく、埋め込まれた島(embedded islands)、すなわち分散物の形態で存在することが重要である。分散物は、2以上の相を含む物質であって、1以上の相(分散相)がマトリックス相に埋め込まれた微細に分割された相領域から構成される物質として定義される。
【0011】
塗料の接着性の改善は、本発明者らが既知のコーティングの接着しにくさの原因であることを見出したτ相の不存在又は制限された存在による成果である。本発明において、組成が以下の範囲、50~70重量%のFe、5~15重量%のSi及び20~35重量%のAlの組成範囲を有するFeSiAl相である場合には、相はτ相であると見なされる。アルミニウム層への鉄の拡散の結果として、ケイ素の溶解度が超過するとき、τ相が形成される。鉄の富化の結果として、ケイ素の溶解度が超過すると、FeSiAl等のτ相が形成される。この形成により、熱間成形工程中のアニーリングの持続時間及びアニーリング温度の高さに制限が課せられる。そのため、第一に鋼ストリップ又はシート上のアルミニウム合金層におけるケイ素含有量の制御、第二にアニーリング温度及び時間によって、τ相の形成を容易に回避又は制限することができる。このことの付加的な利点は、炉内のブランクの所要時間も短縮できることであり、これにより、炉に供する時間を短くすることができ、これは経済的に有利である。所定の被覆層のアニーリング温度及び時間の組み合わせは、簡単な実験に続く通常のミクロ組織観察によって容易に決定される(下記の実施例を参照)。割合は被覆層の断面で測定されるため、τ相の割合は面積%で表されることに留意すべきである。
【0012】
熱間成形には、直接及び間接ホットスタンプの2つのバリエーションがある。直接工程は、加熱及び成形された被覆ブランクから出発する一方で、間接工程は、被覆ブランクから予備成形されたコンポーネントを使用して、その後、加熱及び冷却して、冷却後に所望の特性及びミクロ組織を得る。生産性の観点から、直接工程が好ましい。本発明において、直接及び間接の両方のホットスタンプは、「ブランクを熱間成形して産物を得る」という特徴が直接又は間接の熱間成形であり得る本発明の一部と見なされる。間接熱間成形工程において、その順序は、ブランクを成形して成形産物を得る、炉内で成形産物を鋼がオーステナイトに変態するのに十分な高温に加熱する、成形産物を冷却して所望の最終ミクロ組織の製品を得る、という順序である。一方、直接熱間成形工程において、その順序は、炉内でブランクを鋼がオーステナイトに変態するのに十分な温度まで加熱する、金型内でブランクを熱間成形して熱間成形産物を得る、熱間成形産物を冷却して所望の最終ミクロ組織の製品を得る、という順序である。
【0013】
本発明の一実施形態によれば、表面層にτ相が存在しない。塗料の接着性に対するτ相の存在の影響のため、表面層にτ相が存在しないか、又は少なくとも最も外側の表面層にτ相が存在しないことが好ましい。最も外側の表面層の意味は完全に明確でなければならないが、図1Bにおいて説明する。
【0014】
本発明者らは、鋼基材に0.4重量%以上のケイ素を含むアルミニウム合金被覆層を設けることにより、これが実現されることを見出した。好ましくは、アルミニウム合金被覆層は、0.6重量%以上及び/又は4.0重量%以下のケイ素を含む。
【0015】
本発明のアルミニウム合金被覆層における熱間成形後のτ相の接触率(contiguity)は、好ましくは0.4以下であることが見出された。これは、τ相が、存在する場合には、閉じた層(closed layer)ではなく、分散していることを意味する。τ相の量は10%以下であるため、接触率と量との組み合わせにより、τ相が存在する場合には、τ相が分散して存在することが明らかとなる。τ相が存在しないことが好ましいことに留意すべきであるが、これは、アルミニウム合金中のケイ素含有量が2.5%未満である、熱間成形されたアルミニウム合金被覆鋼ストリップの場合であると考えられる。
【0016】
接触率(C)は、材料のミクロ組織を特徴付けるために使用される特性である。接触率は、複合材料内の複数の相の結び付けられた性質(connected nature)を定量化するものであり、α-βの2相組織において他のα相粒子と共有されるα相(an α phase shared with other α phase particles)の内部表面の割合として定義することができる。一方の相の他方の相中の分布が、完全に分散した組織(α-α接触なし)から完全に凝集した組織(α-α接触のみ)まで変化するにつれて、相の接触率は0~1の間で変化する。界面面積は、ミクロ組織の研磨面上の相界面での交差を数えるという簡単な方法を使用して得ることができ、接触率は以下の式で与えられる。
【0017】
【数1】
【0018】
式中、Cα及びCβは、α及びβ相の接触率であり、ΝL αα及びΝL ββは、それぞれ、単位長さのランダムな線とα/α界面及びβ/β界面との交差数であり、ΝL αβは単位長さのランダムな線とα/β界面との交差数である。接触率Cαが0の場合には、他のα粒子に接触するα粒子は存在しない。接触率Cαが1の場合には、すべてのα粒子は他のα粒子に接触し、これは、β相に埋め込まれたα粒子(α-grains embedded the β-phase)の大きな塊が1つだけ存在することを意味する。
【0019】
表面層中のτ相の接触率Cτは、τ相が存在する場合には、0.4以下であることが好ましい。
【0020】
鋼ストリップ又はシート上に設けられたアルミニウム合金層は、アルミニウム、ケイ素及び鉄の合金、及びそれらの金属間化合物を含む。これは、合金層が、アルミニウム、ケイ素及び鉄の合金、及びそれらの金属間化合物で実質的に構成されるが、鉄等の他の意図される成分及び不可避的不純物等の意図されない成分が合金層に存在することもあることを意味する。これらの意図されない成分は、僅かな量の不可避的不純物であり、マンガン及びクロム等の元素も含まれる。これらは、溶融めっき設備内において溶融物を通過する鋼ストリップ又はシートから、これらの元素が溶解した結果である。この溶解工程は避けられず、これらの溶解した元素の存在は不可避である。これらの元素が、鋼ストリップ又はシートの上に沈着(deposited)したアルミニウム合金被覆層にも最終的に含まれることは明らかである。
【0021】
いくつかの元素は、特定の理由で溶融物に添加されることが知られていることに留意すべきである。すなわち、Ti、B、Sr、Ce、La及びCaは、粒子径を制御したり、アルミニウム-ケイ素共晶を調整したりするために使用される元素である。Mg及びZnは、最終的な熱間成形製品の耐食性を改善するために、浴に添加することができる。その結果、これらの元素も、アルミニウム合金被覆層に最終的に含まれる可能性がある。好ましくは、溶融アルミニウム合金浴中のZn含有量及び/又はMg含有量は、トップドロス(top dross)を防止するために1.0重量%未満である。Mn、Cr、Ni及びFe等の元素も、浴を通過する鋼ストリップから、これらの元素が溶解する結果として、溶融アルミニウム合金浴に存在する可能性が高く、したがって、アルミニウム合金被覆層に最終的に含まれる可能性がある。溶融アルミニウム合金浴中の鉄の飽和レベルは、典型的には2~3重量%である。したがって、本発明の方法において、アルミニウム合金被覆層は、典型的には、マンガン、クロム及び鉄等の、鋼基材からの溶解元素を、溶融アルミニウム合金浴中におけるこれらの元素の飽和レベルまで含む。
【0022】
鋼ストリップ又はシートは、熱間成形に適した厚さ及び組成を有する熱間圧延鋼ストリップ又はシート、あるいは熱間成形に適した厚さ及び組成を有する冷間圧延鋼ストリップ又はシートであってもよいことに留意すべきである。冷間圧延鋼ストリップ又はシートは、溶融めっき前に、硬質ミクロ組織、回復したミクロ組織、又は再結晶化したミクロ組織を有していてもよい。
【0023】
本発明者らは、本発明の熱間成形方法が、熱間成形製品の冷却後に改善された特性をもたらす任意の鋼種において使用できることを見出した。これらの例は、臨界冷却速度を超える冷却速度でオーステナイトの範囲から冷却した後にマルテンサイトのミクロ組織をもたらす鋼である。ただし、冷却後のミクロ組織は、マルテンサイト及びベイナイトの混合物、マルテンサイト、残留オーステナイト及びベイナイトの混合物、フェライト及びマルテンサイトの混合物、マルテンサイト、フェライト及びベイナイトの混合物、マルテンサイト、残留オーステナイト、フェライト及びベイナイトの混合物、又はフェライト及び非常に細かいパーライトさえも含むこともあり得る。
【0024】
本発明の一実施形態において、鋼ストリップは、重量%で、
C:0.01~0.5
P:0.1以下
Nb:0.3以下
Mn:0.4~4.0
S:0.05以下
V:0.5以下
N:0.001~0.030
B:0.08以下
Ca:0.05以下
Si:3.0以下
O:0.008以下
Ni:2.0以下
Cr:4.0以下
Ti:0.3以下
Cu:2.0以下
Al:3.0以下
Mo:1.0以下
W:0.5以下
を含み、残部は鉄及び不可避的不純物である組成を有する。これらの鋼は、熱間成形工程後に非常に良好な機械的特性を有する一方で、Ac1又はAc3温度を超える熱間成形中は成形が非常に容易である。好ましくは、窒素含有量は0.010%以下である。1種以上の任意の元素は存在しない、すなわち、その元素の量は0重量%であってもよいし、その元素は不可避的不純物として存在してもよいことに留意すべきである。
【0025】
好ましい実施形態において、鋼ストリップの炭素含有量は、0.10%以上及び/又は0.25%以下である。好ましい実施形態において、マンガン含有量は1.0%以上及び/又は2.4%以下である。好ましくは、ケイ素含有量は0.4重量%以下である。好ましくは、クロム含有量は1.0重量%以下である。好ましくは、アルミニウム含有量は1.5重量%以下である。好ましくは、リン含有量は0.02重量%以下である。好ましくは、硫黄含有量は0.005重量%以下である。好ましくは、ホウ素含有量は50ppm以下である。好ましくは、モリブデン含有量は0.5重量%以下である。好ましくは、ニオブ含有量は0.3重量%以下である。好ましくは、バナジウム含有量は0.5重量%以下である。好ましくは、ニッケル、銅及びカルシウムはそれぞれ0.05重量%未満である。好ましくは、タングステンは0.02重量%以下である。これらの好ましい範囲は、上記に個別に又は組み合わせて開示された鋼ストリップの組成と組み合わせて使用することができる。
【0026】
好ましい実施形態において、鋼ストリップは、重量で、
C:0.10~0.25
P:0.02以下
Nb:0.3以下
Mn:1.0~2.4
S:0.005以下
V:0.5以下
N:0.03以下
B:0.005以下
Ca:0.05以下
Si:0.4以下
O:0.008以下
Ni:0.05以下
Cr:1.0以下
Ti:0.3以下
Cu:0.05以下
Al:1.5以下
Mo:0.5以下
W:0.02以下
を含み、残部は鉄及び不可避的不純物である組成を有する。好ましくは、窒素含有量は0.010%以下である。
【0027】
熱間成形に適した典型的な鋼種を表Aに示す。
【0028】
【表1】
【0029】
本発明の一実施形態において、表面層にτ相が存在しない。本発明者らは、表面層にτ相が存在しない場合には、製品への塗料接着性が、約10%のケイ素を含む既知のアルミニウム-ケイ素コーティングを備えた既知の製品よりも優れていることを見出した。組成の局所的な変動が表面層におけるτ相の偶発的な形成につながる可能性があること、及び、このことが塗料の接着性の急激な低下に直結しないことに留意すべきであるが、理想的な場合は、表面層にτ相が存在しない場合であることに留意することが間違いなく重要である。
【0030】
本発明の一実施形態において、最も外側の表面層にτ相が存在しない。本発明者らは、製品への良好な塗料接着性を得るために、表面層にτ相が存在しないことが重要であることを見出した。組成の局所的な変動が最も外側の表面層におけるτ相の偶発的な形成につながる可能性があること、及び、このことが塗料の接着性の急激な低下に直結しないことに留意すべきであるが、理想的な場合は、表面層にτ相が存在しない場合であることに留意することが、間違いなく重要である。
【0031】
本発明の一実施形態において、アルミニウム合金被覆層は、0.6~4.0重量%のケイ素を含み、残部は、アルミニウム並びに溶融めっき工程に対応する不可避的元素及び不純物である。ケイ素含有量をこれらの値に制限することにより、表面層及び/又は最も外側の表面層でのτ相の形成が達成可能である。溶融めっきアルミニウム合金被覆層のケイ素含有量と、この合金層のアニーリング温度及び時間との組み合わせは、簡単な実験に続く通常のミクロ組織観察によって容易に決定される(下記の実施例を参照)。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、アルミニウム合金被覆層は、0.6~1.4重量%のケイ素を含む。これらの層において、熱間成形の後にτ相は形成されない。この実施形態は、典型的には20μmを超える厚い被覆層に特に適している。
【0033】
本発明の好ましい実施形態において、アルミニウム合金被覆層は、少なくとも1.6~4.0重量%、好ましくは少なくとも1.8重量%のケイ素を含む。アルミニウム合金被覆層は、好ましくは約2.9重量%以下、さらに好ましくは2.7重量%以下のケイ素を含み、さらに一層好ましい最大値は2.5重量%である。より高いケイ素含有量において、熱間成形後の表面層又は最も外側の表面層におけるτ相の形成リスクが多少増加するが、アニーリング温度及び時間を制御することにより、これを容易に防止又は軽減することができる。アルミニウム合金被覆層中のケイ素含有量が1.6~2.9重量%、又は上記に記載した好ましい範囲のいずれか1つであることにより、安定した処理条件が得られる。この実施形態は、典型的には20μm以下のより薄い被覆層に特に適している。
【0034】
本発明の一実施形態において、溶融めっきされた鋼ストリップ又はシートは、被覆後に、予備拡散処理(pre-diffusion treatment)、すなわち予備拡散アニーリング工程に供される。これにより、アルミニウム合金被覆層への鉄の拡散が予め起こり、アルミニウム合金被覆層が、鉄-アルミニウムの金属間化合物の上層を備えるとともにケイ素が固溶した鉄-アルミニウム合金を本質的に含む、完全に合金化されたAl-Fe-Si被覆層に変換されているという意味において、熱間成形工程が短縮される。予備拡散処理は、より制御された環境、例えば、別々の連続アニーリングラインにおいて、又は溶融めっき工程の直後に直列するアニーリングセクションにおいて、又はホットスタンプ工程の前に加熱炉に連続する別々の加熱工程において行うことができるため、製品の一貫性も改善することができる。これにより、本発明のコーティングの拡散アニーリングは非常に高速であるため、熱間成形の前にブランクをアニーリングするために放射炉ではなく誘導炉を使用することができる。コーティングが予備拡散されない場合、コーティングの外層は、依然として溶融アルミニウム浴の組成を保持しており、誘導加熱を使用すると、外層が溶けて、拡散場(diffusion field)と相互作用して、コーティングのずれ又は波打った表面の原因となる可能性がある。
【0035】
また、予備拡散されて完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素で被覆された鋼ストリップの反射率ははるかに低く、これが、放射炉が使用される場合には、ブランクがより速く加熱される理由であり、したがって、再加熱炉の数及びサイズを減少させるとともに、ロールのビルドアップによる製品の損傷及び機器の汚染を減少させる可能性がある。表面のFeAl相は色が濃く、これにより、放射炉での反射率が低くなり、熱の吸収が大きくなる。
【0036】
さらに、誘導加熱及び赤外線加熱等の他の加熱手段が、非常に高速の加熱に使用することができる。これらの加熱手段は、単独の状況で、又は短い放射炉の前の高速加熱工程として使用することができる。
【0037】
一実施形態において、アルミニウム合金被覆層を備えた被覆ストリップ又はシートは、
連続アニーリングによる溶融めっきライン内の溶融めっき直後のストリップとして、
連続アニーリングライン内のストリップであって、周囲温度まで冷却された後のストリップとして、
必要に応じて放射及び/又は対流式加熱炉と組み合わせられた誘導炉内のストリップ、シート又はブランクとして、
予備拡散アニーリング工程に供される。
【0038】
本発明の一実施形態において、溶融めっき及び冷却後の被覆鋼ストリップ又はシート上のアルミニウム合金被覆層は、鋼基材から外側に向かって少なくとも以下の3つの異なる層:
Siが固溶したFeAl相(Fe2Al5 phase with Si in solid solution)からなる金属間化合物層1;
Siが固溶したFeAl相(FeAl3 phase with Si in solid solution)からなる金属間化合物層2;
溶融アルミニウム合金浴の組成を有する(すなわち、前述のストリップからの不純物及び溶解元素の不可避的存在を含む)アルミニウム合金が固化した、外層
を含む。理想的には、金属間化合物層は上記の化合物のみからなるが、僅かな量のその他の成分に加えて、不可避的不純物及び中間化合物が存在してもよい。より高いケイ素含有量における分散τ相は、そのような不可避的化合物の1つであろう。しかしながら、これらの僅かな量は、被覆鋼基材の特性に悪影響を及ぼさないことが見出されている。
【0039】
被覆鋼ストリップを製造する好ましい方法は、適切に調製された冷間圧延ストリップを、0.4%以上、好ましくは0.6%以上及び/又は4.0%以下のケイ素を含み、その融解温度と750℃との間の温度、好ましくは660℃以上及び/又は好ましくは700℃以下の温度に保持された溶融アルミニウム合金浴に、浸漬することである。溶融物中のストリップの滞留時間は、好ましくは2秒以上であり、好ましくは10秒以下である。滞留時間と、液体の軌道(liquid trajectory)の長さと、ライン速度との間には、直接的な関連性がある。液体の軌道の長さは典型的には約6mであり、これは2~10秒の滞留時間に対して180~36m/minのライン速度に対応する。浴中のストリップ進入温度は、550~750℃、好ましくは630℃以上、さらに好ましくは660℃以上及び/又は好ましくは700℃以下である。好ましくは、ストリップ進入温度は、浴の加熱又は冷却を回避するために溶融物の温度とほぼ同じである。
【0040】
本発明の一実施形態において、加熱及び熱間成形前の合金層(すなわち、「被覆時の」層)の厚さは、10~40μmである。したがって、この工程により、加熱及び熱間成形の前、及び必要に応じて行われる予備拡散アニーリングの前の、10~40μmの厚さのアルミニウム合金被覆層が得られる。
【0041】
本発明の一実施形態において、加熱及び熱間成形の前、及び必要に応じて行われる予備拡散アニーリングの前の合金層の厚さは、12μm以上及び/又は30μm以下である。
【0042】
本発明の一実施形態において、加熱及び熱間成形の前、及び必要に応じて行われる予備拡散アニーリングの前の合金層の厚さは、13μm以上及び/又は25μm以下、好ましくは20μm以下である。
【0043】
第2の態様によれば、本発明は、本発明の方法に従って製造される熱間成形鋼製品、例えば、これに限定されるわけではないが、
鋼基材とアルミニウム合金被覆層とを含む熱間成形鋼製品であって、
前記アルミニウム合金被覆層が、表面層と、前記表面層と前記鋼基材との間の拡散層とを含み、
前記表面層が、0~10面積%のτ相を含み、
前記τ相が、前記表面層中に分散している、熱間成形鋼製品にも関する。
【0044】
本発明は、上記の熱間成形製品であって、
1.アルミニウム合金被覆層が、0.4重量%以上のケイ素を含み、及び/又は、
2.アルミニウム合金被膜層の表面層に、τ相が存在せず、及び/又は、
3.アルミニウム合金被膜層の最も外側の表面層に、τ相が存在しない、熱間成形製品にも関する。
【0045】
したがって、これらの3つの条件のいずれか1つが満たされてもよいし、いずれか2つの条件の組み合わせが満たされてもよいし、これらのすべてが満たされてもよい。
【0046】
好ましくは、表面層にτ相が存在する場合には、表面層のτ相の接触率Cτは0.4以下である。
【0047】
本発明者らは、鋼基材に0.4重量%以上のケイ素を含むアルミニウム合金被覆層を設けることにより、これが得られることを見出した。好ましくは、アルミニウム合金被覆層は、0.6重量%以上及び/又は4.0重量%以下のケイ素を含む。
【0048】
本発明の好ましい実施形態において、アルミニウム合金被覆層は、0.6~1.4重量%のケイ素を含む。これらの層において、熱間成形の後にτ相は形成されない。この実施形態は、典型的には20μmを超える厚い被覆層に特に適している。
【0049】
本発明の好ましい実施形態において、アルミニウム合金被覆層は、少なくとも1.6~4.0重量%、好ましくは1.8重量%以上のケイ素を含む。アルミニウム合金被覆層は、好ましくは約2.9重量%以下、さらに好ましくは2.7重量%以下のSiを含み、さらに一層好ましい最大値は2.5重量%である。より高いケイ素含有量において、熱間成形後の表面層又は最も外側の表面層におけるτ相の形成リスクが多少増加するが、熱間成形工程中のアニーリング温度及び時間を制御することにより、これを容易に防止又は軽減することができる。アルミニウム合金被覆層中のケイ素含有量が1.6~2.9重量%、又は上記に記載した好ましい範囲のいずれか1つであることにより、安定した処理条件が得られる。この実施形態は、典型的には20μm以下のより薄い被覆層に特に適している。
【0050】
以下、非限定的な例により本発明をさらに説明する。
【0051】
図1Aにおいて、本発明による工程が要約される。鋼ストリップは、必要に応じて洗浄セクションに通され、薄片(scale)、油残留物等の先行する工程の不要な残余物が除去される。その後、洗浄したストリップは、必要に応じてアニーリングセクションに進む。これは、熱間圧延ストリップの場合には、ストリップを加熱して溶融めっき(いわゆるheat-to-coatサイクル)を可能にするためだけに使用でき、冷間圧延ストリップの場合には、回復又は再結晶アニーリングのために使用することができる。アニーリングの後、ストリップは、溶融めっき工程に進み、そこでは、本発明のアルミニウム合金被覆層が設けられる。溶融めっき工程と、その後に必要に応じて行われる予備拡散アニーリング工程との間に配置された、アルミニウム合金被覆層の厚さを制御するための厚さ制御手段が示されている。必要に応じて行われる予備拡散アニーリング工程において、アルミニウム合金被覆層が、完全に合金化されたアルミニウム-鉄-ケイ素層に変換される。予備拡散アニーリング処理が行われない場合には、巻き取り時のアルミニウム合金被覆層の合金化条件は、厚さ制御手段を通過した直後のアルミニウム合金被覆層とほぼ同じである。必要に応じて予備拡散されているかどうかに関係なく、被覆ストリップは、巻き取り前に後処理(例えば、必要に応じて行われる調質圧延又は張力レベリング等)に供される。厚さ制御手段の通過後の被覆ストリップの冷却は、通常2つの工程で行われる。厚さ制御手段の通過直後の冷却は、アルミニウム合金被覆層の回転圧延への接着又は損傷を防止することを目的としており、通常、約10~30℃/sの冷却速度で空冷又はミスト冷却によって行われ、さらにラインにおいて、アルミニウム合金被覆層を備えたストリップは、通常は水中での急冷により、急速に冷却される。冷却の影響は、主に熱によるものであり、ライン及びアルミニウム合金被覆層の損傷を防止して、鋼基材の特性に対する冷却の影響は無視できることに留意すべきである。その後、図1Aに従って製造された(すなわち、被覆時の又は予備拡散された)ストリップ又はシートを、本発明の熱間成形工程において使用することができる。
【0052】
図1Bにおいて、表面層及び拡散層が明確に同定された状態で、熱間成形工程後の層構造の拡大図が示される。また、鋼基材と「被覆時の」アルミニウム合金被覆層(d)との間の元の界面及び熱間成形工程におけるアニーリング後の厚さの増加(d)もはっきりと見える。拡散層は鋼基材の中へと成長しているため、d<dである。表面層の層構造は示されていない。これは、アニーリング温度、アニーリング時間、及びアルミニウム合金被覆層の組成に依存するためである。最も外側の表面層の定義が模式的に示される。
【実施例
【0053】
表1に示す組成を有する鋼基材から、熱間成形被覆鋼製品を製造した。
【0054】
【表2】
【0055】
アルミニウム合金被覆層は、溶融アルミニウム合金浴に基材を浸漬すること(別名、溶融めっき(hot-dipping or hot-dip coating))によって鋼基材に設けられ、浴のケイ素含有量、従ってアルミニウム合金被覆層のケイ素含有量は、それぞれ1.1及び9.6重量%であった。浴の温度は700℃であり、浸漬時間は3秒であり、アルミニウム合金被覆層の厚さは30μmであった。
【0056】
被覆を施した後、鋼シートを放射炉において温度925℃で6分間加熱した。加熱の終わりに、ブランクを10秒未満でプレスに搬送し、続いてスタンプ及び急冷を行った。ホットスタンプ後、鋼を厚さ40~50μmのアルミニウム合金被覆層で被覆した。アルミニウム合金被覆層の厚さの増加は、表面層で起こる拡散及び合金化工程、並びに表面層と鋼基材との間の拡散層の形成によって引き起こされる。この拡散層は、アルミニウムの鋼基材への拡散により形成され、それにより、鋼基材がこれ以上局所的にオーステナイトに変態せず、ホットスタンプ中にフェライトをそのまま維持し、この延性層が、鋼基材に到達する表面亀裂を防止するレベルまでアルミニウムによって鋼基材を強化する。図4に示すように、1.1%のSi層を含む被覆鋼のコーティング(サンプルA)は3つの層からなり、一方で、9.6%のSiを含む被覆鋼のコーティング(サンプルB)において、4つの層を区別することができる。サンプルBにおいて、アルミニウム合金被覆層におけるτ相の連続した層(図4において3で示されている)の存在に加えて、表面上にかなりの量の同一の相が確認することができる。
【0057】
エネルギー分散型X線分析(EDX又はEDS)は、サンプルの元素分析又は化学的特性評価に使用される分析手法である。それは、X線の励起源とサンプルの相互作用に依存する。その特性評価能力は、主に、各元素が固有の原子構造を持ち、その電磁波の放出スペクトルにおいて、固有な一群のピークを生じる[2](分光法の主要原理)という基本原理に起因する。サンプルからの特性X線、すなわち、一群のX線の放出を誘導するために、試験するサンプルに焦点を合わせる。静止時には、サンプル内の原子は、離散的なエネルギー準位にある、すなわち、原子核に束縛された電子殻にある基底状態の(すなわち、励起されていない)電子を含む。入射ビームは、内殻で電子を励起し、内殻から電子を放出する一方で、電子が存在した場所に電子の空孔ができることがある。その後、外側の高エネルギー殻からの電子が空孔を埋め、高エネルギー殻と低エネルギー殻とのエネルギーの差がX線の形態で放出される。サンプルから放出されるX線の数とエネルギーは、エネルギー分散型分光計で測定することができる。X線のエネルギーは、2つの殻の間のエネルギーの差及び放出する元素の原子構造に特有であるため、EDSはサンプルの元素組成の測定を可能にする(https://en.wikipedia.org/wiki/Energy-dispersive_X-ray_spectroscopy)。
【0058】
副次的な層(sub layer)のエネルギー分散型X線分析(EDX又はEDS)により、サンプルAの以下の組織:
層1:拡散層;
層2:FeAl(Fe 46~52重量%、Al 44~50重量%及びSi 3重量%未満);
層3:FeAl(Fe 40~47重量%、Al 51~58重量%及びSi 3重量%未満)
が明らかになった。
【0059】
サンプルBの4層構造における、同定された相は、
層1:拡散層;
層2:FeAl
層3:τ相(FeSiAl);
層4:FeAl
であった。
【0060】
これらの層構造は、アニーリング時間に依存することに留意すべきである。時間を延長したアニーリングの後、サンプルBの層2の組成は、FeAlになる可能性がある。
【0061】
さらに、両方の層に、低濃度のCr及びMnが含まれる。Al-1.1重量%のSi合金で被覆された鋼の断面上におけるEPMAによるライン走査によって、Cr及びMnが基材から層に拡散していることが明らかとなった。コーティングに見られる濃度は、基材における濃度の約50%である。900℃で6分間の熱処理の実施例を図7に示す。金属間化合物層1は非常に薄く、短いアニーリング時間及び/又は低いアニーリング温度ではほとんど存在しない場合もある(図8を参照)。
【0062】
熱間成形パネルに、以下の工程でEコートを施した。
【0063】
【表3】
【0064】
サンプルA及びBの4枚のシートにおけるEコート接着性を、パネルを50℃の脱イオン水に10日間浸漬することによって試験した。温水浴からパネルを取り出した後、NEN-EN-ISO 2409(2007年6月)に従って、シートごとにクロスハッチパターン(cross hatch pattern)を作製した。前述の規格に記載のテープ剥離試験により、クロスカットエリア(cross-cut area)における塗料の接着性を試験した。試験結果を、この規格の表1に従って格付けした。
【0065】
サンプルAの4枚のシートは、優れた塗料接着性を示す。カットの端(edges of cuts)は完全に無傷で、格子の正方形はどれも剥離していない(図5)。したがって、接着性能は0と格付けされる。サンプルBの4枚のシートは、塗料の接着性が不十分であった。格付けは2~4の間で変化し、15~65%のクロスカットエリアが剥離していることを意味する。
【0066】
被覆製品が自動車メーカーの要件を満たしているかどうかを判断する典型的な試験は、スクライブアンダークリープ試験(scribe undercreep test)である。このテストでは、意図的に作製されたスクライブにおける腐食性クリープバックによるEコートの接着性の損失を測定する。これらの試験結果は、使用中の表面腐食の指標と見なされる。この試験に使用したEコートされたシートは、上記の工程に従って作製された。スクライブを、Eコート及び金属被覆を通ってちょうど基材に接して、シート上に作製した。パネルごとに2種類のスクライブを作製し、1つはSikkens社製の用具を使用し、もう1つはvan Laar社製のナイフを使用した。VDA233-102加速腐食試験によって、腐食キャビネット内でシートを試験した。スクライブラインからの腐食性クリープバックを、10週間の試験後に評価した。平均クリープバック幅を、スクライブ長70mmにわたって測定した。測定用具として、長さ70mm、幅が1~15mmまで0.5mm間隔で変化する長方形の透明な型板を使用した。剥離領域と最も一致する領域である型板の幅を、平均クリープバック幅とした。サンプルA及びBの4枚のシートにスクライブ及び試験を行った。結果は、Bと比較してAのアンダークリープ抵抗性の大幅な改善を示した。Aの3~4mmの範囲でアンダークリープを測定し、7~10.5mmの間にBの値は見られた。
【0067】
別の実施例において、アルミニウム被覆層を、冷間圧延された1.5mmの硬質鋼基材に溶融めっきによって設け、この際、コーティング浴のケイ素含有量を、それぞれ1.9重量%及び9.8重量%とした。以下の表に示すように、コーティング浴の温度は690℃、浸漬時間は5秒、得られた層の厚さは15~25μmに調整した。
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
被覆を施した後、コーティングの厚さ及びSi濃度に応じて、温度925℃の放射炉で鋼シートを3.5~6分間加熱した。加熱の終わりに、ブランクを10秒未満でプレスに移行し、続いてスタンプ及び急冷を行った。ホットスタンプ後、金属被覆層を測定すると、20~50μmの間であった。
【0071】
スタンプの後、1.9%のSi層を含む被覆鋼のコーティングには、全くFeSiAl(τ相)が存在しない一方で、9.8%のSiを含む被覆鋼の表面層におけるFeSiAl(τ相)の面積の割合は、>10%である。さらに、1.9%のSiコーティングにおけるτ相の接触率(Cτ)は0であり、9.8%のSiコーティングにおけるCτは1であり、これは好ましい最大値0.4をはるかに超えている。コーティングのミクロ組織の違いを示す断面画像を図9a~cに示す。
【0072】
熱間成形されたパネル上に、同じ工程を経ることによりEコートを施して、上記と同じ方法で試験した。シリーズ1の3枚のシートは、非常に良好な塗料接着性を示す。カットの端は大部分が無傷であり、ごくわずかな剥離が観察された(図10a)。したがって、接着性能を1と評価する。シリーズ2のシートは、塗料の接着性が不十分である。評価は2~3で、15~35%のクロスカットエリアが剥離していることを意味する(図10b)。シリーズ3のシートは同様の性能を示し、2~3と評価される(図10c)。
【0073】
本発明を、以下の非限定的な図によってさらに説明する。
【0074】
図1Aにおいて、本発明の工程を要約し、上記で詳細に説明し、図1Bにおいて、被覆層の構成(build-up)及び発達(development)を説明する。
【0075】
図2は、1.6重量%のSiを含むアルミニウム合金コーティングを備えた鋼基材の熱処理中の金属間化合物の異なる層の発達を示す。図Aは、浸漬直後に形成された層を備えた被覆時の層及び浴の組成を有する上層を示し、Bは、サンプルが700℃に達した時点における再加熱中の発達を示し、Cは、900℃で5分間アニーリングした後の状態を示す。サンプルCにおいて、拡散領域がはっきりと見えるようになり、浴の組成を有する上層が完全に消失している(EDS:加速電圧(EHT)15keV、作動距離(wd:working distance)6.0、6.2及び5.9mm)。
【0076】
図3は、3.0重量%のSiを含むアルミニウム合金コーティングを備えた鋼基材の熱処理中の金属間化合物の異なる層の発達を示す(EHTは15keV、wdはそれぞれ6.6、6.5及び6.2mm)。図Aは、浸漬直後に形成された層を含む被覆時の層及び浴の組成を有する上層を示し、Bは、サンプルが850℃に達した時点における再加熱中の発達を示し、Cは、900℃で7分間アニーリングした後の状態を示す。サンプルCにおいて、拡散領域がはっきりと見えるようになり、浴の組成を持つ上層が完全に消失している。また、FeAl層中に分散されており、連続した層を形成していない、ある程度(Cτ≦0.4)のτ相(FeSiAl)が見られる。
【0077】
図4は、925℃で6分間加熱した熱間成形製品において、1.1重量%(サンプルA)及び9.6重量%(サンプルB)のSiを含むアルミニウム合金コーティングを備えた鋼基材の熱処理中の金属間化合物の異なる層の発達を示す(EHTは15keV、wdは7.3及び6.1mm)。サンプルBの連続したτ相(FeSiAl)層がはっきりと見られ、サンプルAのそれらの顕著な欠如がはっきりと見られる。
【0078】
図5は、上記で説明したサンプルA及びBの塗料接着性試験の結果を示す。図6は、サンプルA及びBの平均アンダークリープ値を示す。
【0079】
図7は、900℃で6分間アニーリングした後のサンプルAの拡散の分析結果を示す。
【0080】
図8(EHT15keV、wd7.4及び7.3mm)は、サンプルAの異なる熱処理時間に対するFeAl層の発生を示す。925℃で3.5分後に、FeAl層が現れ始め、6分後にはこの化合物の層が存在する。また、注目に値するのは、6分後のサンプルにおける拡散層の亀裂防止能である。
【0081】
図9は、アルミニウム被覆層に1.9重量%(図9a)又は9.8重量%(図9b及び9c)のSiを含む熱間成形サンプルの断面を示す。図10a~10cは、これらのサンプルの塗料接着性能を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図9c
図10a
図10b
図10c