(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】手術用材料
(51)【国際特許分類】
A61F 13/00 20060101AFI20221107BHJP
A61F 13/36 20060101ALI20221107BHJP
A61F 13/44 20060101ALI20221107BHJP
A61L 31/18 20060101ALI20221107BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20221107BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
A61F13/00 301S
A61F13/00 301A
A61F13/36
A61F13/44
A61L31/18
A61L31/12
A61L31/04
(21)【出願番号】P 2020185846
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2020-11-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593148804
【氏名又は名称】川本産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内海 博明
(72)【発明者】
【氏名】中尾 有里
【審査官】原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-094257(JP,A)
【文献】特開2018-015359(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084146(WO,A1)
【文献】特開2013-043066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/00
A61F 13/36
A61F 13/44
A61L 31/18
A61L 31/12
A61L 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に縫い付けられている上糸および下糸と、
前記上糸または前記下糸により形成されている複数のステッチの下を通過しており、電磁波により存在が確認される第1の長尺部材と、を有しており、
前記第1の長尺部材の長手軸方向の両端部が前記基材に固着されていることを特徴とする手術用材料。
【請求項2】
電磁波により存在が確認される第2の長尺部材がさらに設けられ、
前記複数のステッチは、第1のステッチと第2のステッチを含むものであり、
前記第1の長尺部材は、前記第1のステッチの一方側から他方側、および前記第2のステッチの他方側から一方側に向かって通過し、
前記第2の長尺部材は、前記第1のステッチの他方側から一方側、および前記第2のステッチの一方側から他方側に向かって通過している請求項
1に記載の手術用材料。
【請求項3】
電磁波により存在が確認される第2の長尺部材がさらに設けられ、
前記第1の長尺部材は、前記上糸により形成されている複数のステッチの下を通過しており、
前記第2の長尺部材は、前記下糸により形成されている複数のステッチの下を通過している請求項
1に記載の手術用材料。
【請求項4】
前記第1の長尺部材は、X線非透過性物質を含む造影糸である請求項1~
3のいずれか一項に記載の手術用材料。
【請求項5】
前記第1の長尺部材は、長尺な本体と、前記本体に取り付けられているRFタグと、を有するRFID糸である請求項1~
3のいずれか一項に記載の手術用材料。
【請求項6】
前記基材は、織物または編物と、不織布との積層体である請求項1~
5のいずれか一項に記載の手術用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に外科手術で用いられる手術用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術では、出血の抑制、液の吸収、擦過傷、乾燥または汚染からの器官の保護、臓器の隔離や吊り下げ等の目的で多数のガーゼが使用される。これらのガーゼが体内に残ると、身体の不調を引き起こすだけなく、手術対象の臓器およびこれに隣接する臓器に悪影響を及ぼすことがある。また、ガーゼの遺残部位によっては予測不能な長期的障害や感染症を引き起こしたり、免疫不全の遠因となることもある。そこで、体内へのガーゼの遺残の有無を確認するために、ガーゼにはX線造影糸がしばしば取り付けられる。手術終盤の手術部位を閉じる前にX線造影(レントゲン撮影)を行い、映し出された造影糸を手がかりにガーゼの残留の有無を確認することができる。
【0003】
ガーゼからのX線造影糸の抜け落ちを抑制するための種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、縦糸と横糸を平織りし、横糸の折り返し端付近の耳部の縦糸群を密織りしたガーゼにおいて、耳部の密織り縦糸群にX線造影糸を縦糸として混入させたガーゼが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているX線造影糸のような長尺部材の取り付け方法はガーゼの遺残防止の観点で未だ改善の余地があった。そこで本発明は、長尺部材が抜け落ちにくい手術用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成し得た本発明の手術用材料の一実施態様は、基材と、基材に縫い付けられている上糸および下糸と、上糸または下糸により形成されている複数のステッチの下を通過しており、電磁波により存在が確認される第1の長尺部材と、を有する点に要旨を有する。上記手術用材料によれば、上糸または下糸により形成されている複数のステッチの下を第1の長尺部材が通過しているため、第1の長尺部材が上糸または下糸に密着しやすくなり、手術用材料からの長尺部材の抜け落ちを抑制することができる。その結果、電磁波を用いて手術用材料の有無を確認しやすくなり、手術用材料の体内への遺残を防ぐことができる。
【0007】
上記手術用材料に電磁波により存在が確認される第2の長尺部材がさらに設けられ、複数のステッチは、第1のステッチと第2のステッチを含むものであり、第1の長尺部材は、第1のステッチの一方側から他方側、および第2のステッチの他方側から一方側に向かって通過し、第2の長尺部材は、第1のステッチの他方側から一方側、および第2のステッチの一方側から他方側に向かって通過していることが好ましい。これにより、第1の長尺部材と第2の長尺部材が互いに交差するように配される。したがって、上糸または下糸と第1および第2の長尺部材の間に働く摩擦力を大きくすることができるため、手術用材料からの抜け落ちを抑制することができる。
【0008】
上記手術用材料に電磁波により存在が確認される第2の長尺部材がさらに設けられ、第1の長尺部材は、上糸により形成されている複数のステッチの下を通過しており、第2の長尺部材は、下糸により形成されている複数のステッチの下を通過していることが好ましい。このように第1の長尺部材と第2の長尺部材を設けることによっても手術用材料の有無を確認しやすくなる。
【0009】
上記手術用材料において、第1の長尺部材はX線非透過性物質を含む造影糸であることが好ましい。これにより、X線透視下で手術用材料の有無を確認することができる。
【0010】
上記手術用材料において、第1の長尺部材は、長尺な本体と、本体に取り付けられているRFタグと、を有するRFID糸であることが好ましい。第1の長尺部材がRFタグを有することにより、電波や電磁界による無線通信で手術用材料の存在を確認することができる。
【0011】
上記手術用材料において第1の長尺部材の長手軸方向の両端部が基材に固着されていることが好ましい。これにより手術用材料からの第1の長尺部材の抜け落ちをより一層抑制することができる。
【0012】
上記手術用材料において、基材は、織物または編物と、不織布との積層体であることが好ましい。このように複数の種類の生地を組み合わせて積層することで基材の機能性を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
上記手術用材料によれば、第1の長尺部材が上糸または下糸に密着しやすくなるため、手術用材料からの長尺部材の抜け落ちを抑制することができる。また、電磁波を用いて手術用材料の有無を確認しやすくなり、手術用材料の体内への遺残を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る手術用材料の平面図を表す。
【
図3】
図1に示した手術用材料の部分断面側面図を表す。
【
図4】
図1に示した手術用材料の変形例を示す平面図を表す。
【
図5】
図4に示した手術用材料の部分断面側面図を表す。
【
図6】
図5に示した手術用材料の変形例を示す部分断面側面図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る手術用材料に関して、図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明はもとより図示例に限定される訳ではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0016】
本発明に係る手術用材料は、医療用であって、腹腔鏡下術等の外科手術に使用されるものである。手術用材料は、体内で用いられてもよく体外で用いられてもよい。手術用材料は、血液等の体液の吸収や拭き取り、臓器の隔離、圧排または吊り下げ、その他臓器の支持のために用いることができる。手術用材料は、液体吸収性手術用材料であってもよい。
【0017】
本発明の手術用材料の一実施態様は、基材と、基材に縫い付けられている上糸および下糸と、上糸または下糸により形成されている複数のステッチの下を通過しており、電磁波により存在が確認される第1の長尺部材と、を有する点に要旨を有する。上記手術用材料によれば、上糸または下糸により形成されている複数のステッチの下を第1の長尺部材が通過しているため、第1の長尺部材が上糸または下糸に密着しやすくなり、手術用材料からの長尺部材の抜け落ちを抑制することができる。その結果、電磁波を用いて手術用材料の有無を確認しやすくなり、手術用材料の体内への遺残を防ぐことができる。
【0018】
図1~
図3を参照しながら手術用材料の構成について説明する。
図1~
図3は、本発明の一実施形態に係る手術用材料の平面図、底面図、部分断面側面図を表す。本発明の一実施形態に係る手術用材料1は、基材2、上糸11、下糸12、第1の長尺部材31を有している。
【0019】
手術用材料1は基材2を有している。基材2は手術用材料1の本体を構成する部分である。基材2によって血液等の体液の吸収や拭き取り、臓器の隔離、圧排または吊り下げ、その他臓器の支持を行うことができる。基材2は医療用であればよい。基材2は開腹手術で用いられてもよく、腹腔鏡や胸腔鏡等の内視鏡下手術で用いられてもよい。基材2は吸液性を有している吸収材であってもよく、撥液性を有していてもよい。基材2としては布状体、パッド、スポンジ、圧排体(エンドラクター)、綿球を挙げることができる。布状体には、ガーゼやドレープを含むことができる。
【0020】
基材2の平面視での形状は特に限定されず、例えば円形、長円形、多角形、またはこれらを組み合わせた形状であってもよい。
【0021】
図1~
図3では基材2が医療用の布状体である例を示している。基材2としての布状体は第1面3と第2面4を有している。第1面3が布状体の表面を構成し、第2面4が布状体の裏面を構成してもよい。
【0022】
基材2が布状体である場合、布状体は一または複数の生地から構成されていてもよい。生地は一般に医療用として用いられるものであれば特に限定されず、例えば、織布、編布、不織布等の布地、樹脂が積層されている布地、樹脂フィルム、これらを組み合わせた材料等を用いることができる。
【0023】
織布の織組織は特に限定されないが、例えば平織、綾織、斜文織、朱子織などの組織を用いることができる。編布の編組織も特に限定はされないが、例えば、丸編み、緯編み、経編み、ネット編みなどの組織を用いることができる。
【0024】
不織布としては、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、レジンボンド不織布、サーマルボンド不織布などが挙げられる。
【0025】
生地を構成する繊維としては、例えば、綿等の天然繊維、ポリエステル・ポリエチレン・ポリアミド・ポリウレタン等の合成繊維、キュプラ・レーヨン等の再生繊維が挙げられる。
【0026】
基材2は、複数枚の生地が積層されているものであってもよく、1枚の生地が折り畳まれて形成されていてもよい。生地の積層枚数は特に限定されず、3層以上、あるいは4層以上であってもよく、6層以下あるいは5層以下であってもよい。
【0027】
生地同士は、縫合、接着剤による接着、熱融着、超音波融着、鋲止め、またはこれらの組み合わせにより接合することができる。
【0028】
基材2は織物または編物と、不織布との積層体であることが好ましい。不織布は発塵性が少なく、柔軟性、可鍛性および吸液性が良好である。また、織物または編物は高い強度を有しており吸液性も良好である。このように複数の種類の生地を組み合わせて積層することで基材2の機能性を高めることができる。
図3では基材2が第1の不織布6と第2の不織布7の間に織物8が配されている積層体5である例を示している。
【0029】
手術中に基材2を認識しやすくするために、基材2は、白色の生地の全体を着色するか、または色付きの素材で構成したものであってもよい。
【0030】
基材2は緑色に着色されていることが好ましい。基材2が血液を吸収しても、白色光で照射してカメラで撮影したときに基材2と体組織との色の差を大きくすることができる。また、白色光を照射したときにハレーションの発生を低減することが可能であり、手術中に基材2を認識しやすくなる。少なくとも基材2の表面が緑色に着色されていることが好ましく、基材2の全体が緑色に着色されていてもよい。
【0031】
基材2には青色系の染料が付着していることが好ましい。これにより、基材2が青色または緑色に着色されやすくなる。その結果、白色光で照射してカメラで撮影したときに基材2と体組織との色の差を大きくすることができる。また、白色光を照射したときにハレーションの発生を低減することが可能であり、手術中に基材を認識しやすくなる。
【0032】
基材2には黄色系の染料が付着していてもよい。これにより基材2が緑色または黄色に着色されやすくなり、手術中に基材を認識しやすくなる。
【0033】
染料としては、藍、リアック、レマゾール、スレン等を用いることができる。また、染料以外の着色料を用いてもよい。
【0034】
手術用材料1は上糸11と下糸12を有している。
図3では上糸11と下糸12は互いに絡み合っている。上糸11または下糸12により、基材2の表面に複数のステッチ20が形成されている。上糸11および下糸12によって、後述する第1の長尺部材31が基材に固定される。
【0035】
本明細書においてステッチとは、上糸または下糸が基材から外に出て再び基材内に入ることで形成される一つの縫い目の単位を示す。
図1では上糸11によって15個のステッチ20が形成されている。また、
図2でも下糸12によって15個のステッチ20が形成されている。本明細書ではステッチ20を連続的に施したものをシームと称することがある。
図1~
図2では上糸11および下糸12により複数のステッチ20が形成されて基材2上でシーム25が直線状に延在している。
【0036】
上糸11および下糸12は、医療用として使用可能な糸であり、モノフィラメントであっても、マルチフィラメントであってもよい。上糸11および下糸12は、基材2を構成する繊維と同様の繊維から構成することができる。上糸11および下糸12はそれぞれ同じ種類の糸であってもよく、互いに異なる種類の糸であってもよい。
【0037】
図1に示すように基材2が長手方向xと短手方向yを有している場合、基材2の長手方向xに沿ってシーム25が延在していることが好ましい。このように上糸11および下糸12を設けることで、第1の長尺部材31を基材2の広範囲に配置しやすくなる。また、第1の長尺部材31のうち上糸11または下糸12に絡まっている部分を長く確保しやすくなるため、手術用材料1からの第1の長尺部材31の抜け落ちを抑制することができる。なお、基材2が長手方向xと短手方向yを有している場合、基材2の短手方向yに沿ってシーム25が延在していてもよい。
【0038】
第1の長尺部材31は、電磁波により存在が確認されるものである。手術用材料1に第1の長尺部材31が取り付けられていることにより、電磁波を用いて手術用材料1の有無を確認することができる。手術用材料1を体内で使用した後にも電磁波を用いて存在を確認することで手術用材料1の体内への遺残を防ぐことができる。
【0039】
第1の長尺部材31は、電磁波を吸収または散乱させるものであってもよい。また、第1の長尺部材31は、電磁波の受信または発信の少なくともいずれかを行う部分を含んでいてもよい。電磁波の種類は特に限定されないが、X線、電波、赤外線等を用いることができる。
【0040】
第1の長尺部材31は、長手軸方向に第1端と第2端を有している。第1の長尺部材31は中実状であってもよく、中空状であってもよい。第1の長尺部材31は、第1端から第2端まで単一の部材から構成されていてもよく、長手軸方向において互いに連結された複数の部材から構成されてもよい。
【0041】
第1の長尺部材31の長手軸方向に垂直な断面の形状は、円形状、長円形状、多角形状、またはこれらの組み合わせであってもよい。第1の長尺部材31は、線状や帯状に形成されていてもよい。第1の長尺部材31は、テープ状に形成されていてもよい。なお、長円形状には楕円形状、卵形状、角丸長方形状が含まれるものとする。以降の説明においても同様である。
【0042】
第1の長尺部材31の外径は、上糸11の外径および下糸12の外径よりも大きいことが好ましい。これにより、手術用材料1の有無を確認しやすくなり、手術用材料1の体内への遺残を防ぎやすくなる。
【0043】
第1の長尺部材31の外径は、上糸11または下糸12の外径の2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましく、5倍以上であってもよい。また、第1の長尺部材31の外径は、上糸11または下糸12の外径の1000倍以下または100倍以下であることも許容される。
【0044】
第1の長尺部材31は、X線非透過性物質を含む造影糸であってもよい。これにより、X線透視下で手術用材料1の有無を確認することができる。
【0045】
造影糸は、X線非透過性物質を含む合成樹脂繊維から構成することができる。そのような合成樹脂繊維は、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、シリコーン、レーヨン等の合成樹脂にX線非透過性物質を練り込むことで形成することができる。X線非透過性物質としては、例えば硫酸バリウム、硫酸銀、酸化チタン、シリコン等を用いることができる。
【0046】
造影糸は、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよい。
【0047】
第1の長尺部材31は、長尺な本体と、本体に取り付けられているRFタグと、を有するRFID糸であってもよい。第1の長尺部材31がRFタグを有することにより、電波や電磁界による無線通信で手術用材料1の存在を確認することができる。またRFタグが有している識別情報等の電子情報を読み取ることもできる。
【0048】
長尺な本体は、その長手軸方向に第1端と第2端を有している。本体は中実状であってもよく、中空状であってもよい。本体は、第1端から第2端まで単一の部材から構成されていてもよく、長手軸方向において互いに連結された複数の部材から構成されてもよい。
【0049】
本体の長手軸方向に垂直な断面の形状は、円形状、長円形状、多角形状、またはこれらの組み合わせであってもよい。本体は、線状や帯状に形成されていてもよい。本体はテープ状に形成されていてもよい。
【0050】
本体を構成する材料としては、基材2を構成する材料として挙げたものを用いることができる。
【0051】
RFタグとしては、メモリを有するICチップと、ICチップに接続されているアンテナとを有しているものが挙げられる。外部の感知装置、例えばタグリーダーを用いることにより、RFタグのメモリに格納されている識別情報等の電子情報を非接触で読み取ることができる。RFタグはリーダーから発せられた電波を受信するパッシブ型であってもよい。RFタグが電池などのエネルギー源を備えている場合、自ら電波を発信するアクティブ型であってもよい。RFタグは、パッシブ型とアクティブ型の両方の機能を備えたセミアクティブ型であってもよい。RFタグは、本体に1つのみ取り付けられていてもよく、複数取り付けられていてもよい。
【0052】
第1の長尺部材31は、上糸11または下糸12により形成されている複数のステッチ20の下を通過しているものである。例えば
図3では、上糸11が基材2の第1面3に複数のステッチ20を形成するとともに、下糸12が基材2の第2面4に複数のステッチ20を形成している。
図1および
図3に示すように第1の長尺部材31が上糸11により形成されている複数のステッチ20の下を通過している。換言すれば、第1の長尺部材31がステッチ20の下をくぐるように配置されている。このように第1の長尺部材31を配置することにより、第1の長尺部材31が上糸11または下糸12に密着しやすくなるため、手術用材料1からの第1の長尺部材31の抜け落ちを抑制することができる。その結果、電磁波を用いて手術用材料1の有無を確認しやすくなり、手術用材料1の体内への遺残を防ぐことができる。
【0053】
上糸11または下糸12によって形成されている複数のステッチ20は第1のステッチ21と第2のステッチ22を含んでいてもよい。例えば
図1および
図3から理解できるように、第1の長尺部材31が第1のステッチ21の一方側から他方側、および第2のステッチ22の他方側から一方側に向かって通過している。第1の長尺部材31は、上糸11により形成されているシーム25の延在方向に対して蛇行するようにステッチ20の下を通過しているともいえる。ここでステッチ20の一方側と他方側とは、ステッチ20の長手方向pと垂直な方向qにおける一方側と他方側を意味する。方向qは基材2の表面に対して平行な方向である。このように第1の長尺部材31を配置することで手術用材料1からの抜け落ちを抑制することができる。
【0054】
図示していないが、第1の長尺部材31が第1のステッチ21の一方側から他方側、および第2のステッチ22の一方側から他方側に向かって通過していてもよい。これにより、第1の長尺部材31が上糸11または下糸12に巻き付くように配置される。このように第1の長尺部材31を配置することによっても手術用材料1からの抜け落ちを抑制することができる。
【0055】
図1~
図3に示すように、基材2は少なくとも第1面3と第2面4を有しており、第1の長尺部材31は基材2の第1面3上に配置されており、基材2の第2面4上には配置されていなくてもよい。また、第1の長尺部材31は基材2の第1面3上に配置されており、第1面3以外の面上には配置されていなくてもよい。これにより基材2に第1の長尺部材31を取り付けやすくなる。
【0056】
第1の長尺部材31は上糸11により形成されている複数のステッチ20の下のみを通過するか、または下糸12により形成されている複数のステッチ20の下のみを通過することが好ましい。つまり、上糸11によって形成されているステッチ20の下を通過している第1の長尺部材31は、下糸12によって形成されているステッチ20の下を通過していないことが好ましい。また、下糸12によって形成されているステッチ20の下を通過している第1の長尺部材31は、上糸11によって形成されているステッチ20の下を通過していないことが好ましい。これにより、基材2への第1の長尺部材31の取り付けが行いやすくなる。
図1では、第1の長尺部材31は上糸11により形成されている複数のステッチ20の下のみを通過している。
【0057】
複数のステッチ20が第1のステッチ21と第2のステッチ22を含むものである場合、
図3に示すように第1のステッチ21と第2のステッチ22が隣り合って並んでいることが好ましい。これにより第1の長尺部材31が隣り合っているステッチ20を通過するため、第1の長尺部材31を密に配置することができる。その結果、手術用材料1からの第1の長尺部材31の抜け落ちを抑制できる。
【0058】
図示していないが、第1のステッチ21と第2のステッチ22の間に少なくとも1つの第3のステッチが配されており、第1の長尺部材31は第3のステッチの下を通過しないものであってもよい。このように第1の長尺部材31が飛び飛びのステッチを通過することでも手術用材料1からの抜け落ちを抑制することができる。
【0059】
図3に示すように、第1のステッチ21と第2のステッチ22の離隔距離20Aが、第1のステッチ21の長さ21Aおよび第2のステッチ22の長さ22Aよりも短いことが好ましい。これにより上糸11または下糸12と第1の長尺部材31を広範囲で接触させやすくなり、これらの糸の間に働く摩擦力を大きくすることができるため、長尺部材の抜け落ちを抑制することができる。ここで第1のステッチ21および第2のステッチ22の長さとは、各ステッチ20が基材2から外に出てから再び基材2内に入るまでの各ステッチ20の長手方向の長さを意味する。
【0060】
図1に示すように、第1の長尺部材31の長手軸方向の両端部31Aが基材2に固着されていることが好ましい。これにより、手術用材料1からの第1の長尺部材31の抜け落ちをより一層抑制することができる。
【0061】
第1の長尺部材31の長手軸方向の両端部31Aを基材2に固着する方法は特に限定されないが、例えば、超音波融着や熱融着を用いることができる。
【0062】
図4は
図1に示した手術用材料1の変形例を示す平面図を表し、
図5は
図4に示した手術用材料1の部分断面側面図を表す。
図4~
図5に示すように、電磁波により存在が確認される第2の長尺部材32がさらに設けられていてもよい。その場合、複数のステッチ20は第1のステッチ21と第2のステッチ22を含むものであり、第1の長尺部材31は第1のステッチ21の一方側から他方側、および第2のステッチ22の他方側から一方側に向かって通過し、第2の長尺部材32は第1のステッチ21の他方側から一方側、および第2のステッチ22の一方側から他方側に向かって通過していることが好ましい。これにより、第1の長尺部材31と第2の長尺部材32が互いに交差するように配される。したがって、上糸11または下糸12と第1および第2の長尺部材31,32の間に働く摩擦力を大きくすることができるため、手術用材料1からの抜け落ちを抑制することができる。
【0063】
その他、第2の長尺部材32の構造、形状、構成材料等については、第1の長尺部材31の説明を参照することができる。
【0064】
手術用材料1に第1の長尺部材31と第2の長尺部材32が設けられる場合、第1の長尺部材31と第2の長尺部材32の種類はそれぞれ同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。例えば、第1の長尺部材31が造影糸であり、第2の長尺部材32がRFID糸であってもよい。また、第1の長尺部材31がRFID糸であり、第2の長尺部材32が造影糸であってもよい。第1の長尺部材31と第2の長尺部材32の両方が造影糸であってもよい。また、第1の長尺部材31と第2の長尺部材32の両方がRFID糸であってもよい。第1の長尺部材31と第2の長尺部材32がいずれも造影糸である場合、手術用材料1に配置したときにX線透視下で手術用材料1の視認性を向上させることができる。第1の長尺部材31と第2の長尺部材32がいずれもRFID糸である場合、第1の長尺部材31と第2の長尺部材32のいずれか一方に取り付けられているRFタグに不具合があっても、残りの他方によって手術用材料1の有無を確認することができる。
【0065】
図5に示すように、基材2は少なくとも第1面3と第2面4を有しており、第1の長尺部材31と第2の長尺部材32が基材2の第1面3上に配置されており、第1の長尺部材31と第2の長尺部材32が基材2の第2面4上には配置されていなくてもよい。
【0066】
図4に示すように、第1の長尺部材31の長手軸方向の両端部31Aと第2の長尺部材32の長手軸方向の両端部32Aが基材2に固着されていることが好ましい。このように第1の長尺部材31と第2の長尺部材32を基材2に固着することで、手術用材料1からの長尺部材の抜け落ちをより一層抑制することができる。
【0067】
図6は
図5に示した手術用材料1の部分断面側面図の変形例を表す。
図6に示すように、手術用材料1に電磁波により存在が確認される第2の長尺部材32がさらに設けられる場合、第1の長尺部材31は、上糸11により形成されている複数のステッチ201の下を通過しており、第2の長尺部材32は、下糸12により形成されている複数のステッチ202の下を通過していてもよい。このように第1の長尺部材31と第2の長尺部材32を設けることによっても手術用材料1の有無を確認しやすくなる。
【0068】
図6に示すように、基材2は少なくとも第1面3と第2面4を有しており、第1の長尺部材31が基材2の第1面3上に配置されており、第2の長尺部材32が基材2の第2面4上に配置されていてもよい。
【0069】
図示していないが、手術用材料1にはさらに第3の長尺部材が設けられていてもよい。例えば、第1の長尺部材31と第2の長尺部材32が上糸11により形成されている複数のステッチ20の下を通過しており、第3の長尺部材が下糸12により形成されている複数のステッチ20の下を通過していてもよい。基材2が少なくとも第1面3と第2面4を有している場合、第1の長尺部材31と第2の長尺部材32が第1面3上に配置されており、第3の長尺部材が第2面4上に配置されていてもよい。このように第3の長尺部材をさらに設けることにより、手術用材料1の存在を見落としにくくなる。
【0070】
図示していないが、手術用材料1にはさらに第4の長尺部材が設けられていてもよい。例えば、第1の長尺部材31と第2の長尺部材32が上糸11により形成されている複数のステッチ20の下を通過しており、第3の長尺部材と第4の長尺部材が下糸12により形成されている複数のステッチ20の下を通過していてもよい。その場合、下糸12により形成されている複数のステッチ20が第3のステッチと第4のステッチを含むものである場合、第3の長尺部材は第3のステッチの一方側から他方側、および第4のステッチの他方側から一方側に向かって通過し、第4の長尺部材は第3のステッチの他方側から一方側、および第4のステッチの一方側から他方側に向かって通過していてもよい。このように第4の長尺部材をさらに設けることにより、手術用材料1の存在をより一層見落としにくくなる。
【0071】
第3の長尺部材および第4の長尺部材の構造、形状、構成材料等については、第1の長尺部材31の説明を参照することができる。
【0072】
図示していないが、上糸11と下糸12の少なくともいずれか一方が、電磁波により存在が確認される長尺部材であってもよい。上糸11と下糸12のいずれか一方がミシン糸であり、上糸11と下糸12のいずれか他方が造影糸またはRFID糸であってもよい。例えば、上糸11がミシン糸であり、下糸12が造影糸であり、第1の長尺部材31がRFID糸であってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1:手術用材料
2:基材
3:第1面
4:第2面
5:積層体
6:第1の不織布
7:第2の不織布
8:織物
11:上糸
12:下糸
20、201、202:ステッチ
21:第1のステッチ
22:第2のステッチ
25:シーム
31:第1の長尺部材
32:第2の長尺部材