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特許7170720軟質シート上にフィルムを製造するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】軟質シート上にフィルムを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20221107BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H01L21/02 C
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020523984
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2018079796
(87)【国際公開番号】W WO2019086503
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】1760272
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500361216
【氏名又は名称】ソワテク
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノ、ギスレン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マルク、ベトゥー
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-516392(JP,A)
【文献】特開2012-195503(JP,A)
【文献】国際公開第2017/108994(WO,A1)
【文献】特表2019-508924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質シート(20)上にフィルム(12)、特に単結晶を製造するための方法であって、
下記の工程:
ドナー基板(10)を準備する工程、
ドナー基板(10)内に脆化区域(11)を形成し、フィルム(12)の範囲を定める工程、
フィルム(12)表面における成膜により軟質シート(20)を形成する工程、
ドナー基板(10)を脆化区域(11)に沿って分離し、フィルム(12)を軟質シート(20)上に転写する工程
を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項2】
脆化区域(11)の形成が、ドナー基板(10)内へのイオン種の添加により行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
添加されるイオン種が、水素および/またはヘリウムである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ドナー基板(10)の分離が、熱処理により生じる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
フィルム(12)が、半導体材料、圧電材料、磁性材料および機能性酸化物から選択された材料からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
フィルム(12)の厚さが、100nm~10μm、好ましくは100nm~1μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
軟質シート(20)が、金属、ガラスおよびセラミックスから選択された材料からなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
軟質シート(20)が、1~50μmの厚さを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
軟質シート(20)の成膜が、以下の技術:
物理蒸着、化学蒸着、電気化学蒸着、スピンコーティング、ラッカー吹付および噴霧
のうち1つにより実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
軟質シート(20)が、100GPa.μm~10GPa.μmの剛性(R)を有し、該剛性が、式:
【数1】
[式中、Eはシートの材料のヤング率であり、Hはシートの厚さであり、vはポアソン比である。]
により定義される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
軟質シート(20)の形成の前に、フィルム(12)表面における成膜により中間層(21)を形成することを含んでなる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
中間層(21)が、フィルム(12)に対する軟質シート(20)の接着を増強するように構成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
中間層がフィルム(12)と電気的接触を形成する、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
ドナー基板の分離の後に、転写されたフィルム(12)の、支持体(20)とは反対側の面に付加的フィルム(13)を成膜することをさらに含んでなる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
分離終了時のドナー基板の残部(10’)が、新しいフィルム(12)の製造のためにリサイクルされる、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ドナー基板が、脆化区域(11)の形成の前に得られた非平坦面を有し、かつ、リサイクル前に、ドナー基板の残部が、実質的にゼロであるか、または、残部(10’)のトポロジーに応じた材料の除去を含む、その表面の再生操作を受ける、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ドナー基板が、ウエハー(1000)の表面に配置された複数のパッド(1001)を含んでなり、各パッド(1001)が、転写すべき個々のフィルム(1012)の範囲を定める脆化区域(1011)を含んでなり、かつ、軟質シート(20)がパッド(1001)の全体の表面に成膜される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質シート上にフィルム、特に単結晶を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟質シート上でのフィルム、特に単結晶の形成は容易なことではない。
【0003】
実際に、対象とする軟質シートは、一般に、良好な結晶品質のフィルムの成長に適したシード表面を備えていない。
【0004】
さらに、軟質シート上にフィルムを接合させる技術も、被接触表面が、直接接合が可能な程度に十分に平滑でない可能性があるため、実施が困難である。他方、シートの柔軟性は、フィルムに対する良好な適用を困難とする。
【0005】
さらに、多くの接着剤は、塗布に関して剛性が大きすぎることから好適とはいえない。これらの接着剤はまた、単結晶フィルムを成形するために必要とされ得る熱処理と適合しないことから不適である可能性もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明の1つの目的は、受容シートに対して転写される層の良好な機械的強度を確保しつつ軟質シート上に薄膜フィルム、特に単結晶を製造するための方法を考案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このために、本発明は、軟質シート上にフィルム、特に単結晶を製造するための方法であって、
下記の工程:
ドナー基板を準備する工程、
ドナー基板内に脆化区域を形成し、フィルムの範囲を定める(delimit)工程、
フィルム表面における成膜により軟質シートを形成する工程、
ドナー基板を脆化区域に沿って分離し(detach)、フィルムを軟質シート上に転写する(transfer)工程
を含んでなることを特徴とする方法を提供する。
【0008】
「軟質」とは、本文脈において、外部機械応力の負荷時に弾性変形を可能とする十分に低い剛性を意味するものと理解される。一般に、目的とする負荷には、該剛性は10GPa.μm以下である。
【0009】
対象となる物体は、例えば、チップカードまたは貼付された人体の部分の動きに追随しなければならない貼付剤のように、劣化なく変形できる、または変形可能でなければならないことから、目的とする適用に応じて、ある特定の柔軟性が求められる場合がある。また、対象となる物体は、例えば、ボトル、円筒状容器、風防など、固定されているが曲線の幾何学を有する表面に恒久的様式での適用が意図されるので、特定の柔軟性が求められる場合がある。
【0010】
一実施形態によれば、脆化区域の形成は、ドナー基板内へのイオン種の添加(implantation)により行われる。
【0011】
添加されるイオン種は、有利には、水素および/またはヘリウムである。
【0012】
一実施形態によれば、ドナー基板の分離は、熱処理により生じる。
【0013】
特に有利な様式では、フィルムは、半導体材料、圧電材料、磁性材料および機能性酸化物から選択される材料からなる。
【0014】
フィルムの厚さは、一般に、100nm~10μm、好ましくは100nm~1μmである。
【0015】
有利には、軟質シートは、金属、ガラスおよびセラミックスから選択される材料からなる。
【0016】
軟質シートの厚さは一般に、1~50μmである。
【0017】
軟質シートの成膜は、以下の技術:
物理蒸着、化学蒸着、電気化学蒸着、スピンコーティング、ラッカー吹付および噴霧
のうち1つにより実施され得る。
【0018】
好ましくは、軟質シートは、100GPa.μm~10GPa.μmの剛性Rを有し、該剛性は式:
【0019】
【数1】
【0020】
により定義され、
式中、Eはシートの材料のヤング率であり、Hはシートの厚さであり、vはポアソン比である。
【0021】
本発明の方法は、軟質シートの形成の前に、フィルム表面における成膜により中間層を形成することを含んでなり得る。
【0022】
一実施形態によれば、中間層は、フィルムに対する軟質シートの接着を増強するように構成され得る。
【0023】
場合により、中間層は、フィルムと電気的接触を形成し得る。
【0024】
さらに、本発明の方法は、ドナー基板の分離の後に、転写されたフィルムの、支持体とは反対側の面に付加的フィルムを成膜することをさらに含んでなり得る。
【0025】
有利には、分離終了時のドナー基板の残部は、新しいフィルムの製造(implementation)のためにリサイクルされる。
【0026】
ドナー基板が脆化区域の形成の前に得られた非平坦面を有する場合、リサイクル前に、ドナー基板の残部は、実質的にゼロであるか、または、該残部のトポロジーに応じた材料の除去を含む、その表面の再生操作を受ける。
【0027】
一実施形態によれば、ドナー基板は、ウエハーの表面に配置された複数のパッドを含んでなり、各パッドは、転写すべき個々のフィルムの範囲を定める脆化区域を含んでなり、軟質シートは、パッドの表面に成膜される。
【0028】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1A図1Aは、ドナー基板の概略断面図である。
図1B図1Bは、図1Aのドナー基板内の脆化区域の形成を概略的に示す。
図1C図1Cは、図1Bのドナー基板上での軟質受容シートの成膜を概略的に示す。
図1D図1Dは、ドナー基板が脆化区域に沿って分離することにより得られる構造を概略的に示す。
図1E図1Eは、分離終了時の転写フィルム上での付加的フィルムの成膜を示す。
図2A図2Aは、ドナー基板内の脆化区域の形成を概略的に示す。
図2B図2Bは、図2Aのドナー基板上での中間層の成膜を概略的に示す。
図2C図2Cは、図2Bの中間層上での軟質受容シートの成膜を概略的に示す。
図2D図2Dは、ドナー基板が脆化区域に沿って分離することにより得られる構造を概略的に示す。
図3A図3Aは、曲面を有するドナー基板を概略的に示す。
図3B図3Bは、図3Aのドナー基板の表面における酸化物層の形成を示す。
図3C図3Cは、図3Bの基板内の脆化区域の形成を示す。
図3D図3Dは、図3Cのドナー基板上での軟質シートの成膜を概略的に示す。
図3E図3Eは、ドナー基板が脆化区域に沿って分離することにより得られる構造を概略的に示す。
図4A-4D】図4A~4Dは、転写するためのフィルムの表面の非平坦トポロジーの形成を含む、本発明の別の実施形態による方法の工程を概略的に示す。
図5A-5C】図5A~5Cは、本発明の別の実施形態による方法の工程を概略的に示す。
【0030】
図面を見やすくするために、異なる要素は必ずしも尺度に応じて表されていない。ある図面からそれ以降に見られる参照記号は同じ要素を表す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
概して、本発明は、薄膜フィルムの範囲を定めるために予め脆化されたドナー基板上での成膜による軟質シートの形成を提供する。次に、薄膜フィルムは、ドナー基板の分離により軟質シート上に転写される。このシートは、単一の材料またはドナー基板上に連続的に成膜された少なくとも2種類の異なる材料の積層からなり得る。
【0032】
図1Aは、薄膜フィルムを形成しようとする材料からなる少なくとも1つの表層部分からなるドナー基板10を示す。ドナー基板は一体の基板の形態で表されるが、これは異なる材料の積層体の形態であってもよく、その表層は薄膜フィルムを形成しようとする材料からなる。特に、この薄膜フィルムは、エピタキシーにより生成されるこの積層体の一層に相当し得る。
【0033】
有利には、薄膜フィルムを形成しようとする材料は、半導体材料(例えば、ケイ素、炭化ケイ素、ゲルマニウム、III-V化合物(例えば、AsGa、InP、GaN)、II-IV化合物(例えば、CdTe、ZnO)、圧電材料(例えば、LiNbO、LiTaO、PZT、PMN-PT)、磁性材料および機能性酸化物(例えば、ZrO、YSZ:イットリウム安定化ZrO、SrTiO、GaO)から選択される。これらの例に限定されない。
【0034】
好ましくは、薄膜フィルムを形成することが意図される材料は、単結晶である。これは多結晶であってもよく、この場合には、例えば、結晶粒の特定の密度および大きさ、ならびに/または優先的結晶配向、および/もしくは最適な粗さを得るために、その形成条件を最適化することに重点が置かれることが多い。
【0035】
図1Bに関して、転写しようとする表層フィルム12の範囲を定める脆化区域11がドナー基板10内に形成される。
【0036】
転写されるフィルムの厚さは、ドナー基板10内の脆化区域11の深さによって規定される。有利には、この深さは、100nm~10μm、優先的には100nm~1μmである。
【0037】
ドナー基板10内の脆化区域12の形成は、イオン種の添加によって行われ得る(図1Bの矢印により模式的に示される)。有利には、添加種は、水素イオンおよび/またはヘリウムイオンである。添加エネルギーは、添加区域11の深さを規定することを可能とする。好適な処理の適用後にフィルム12の分離を可能とするために添加量が選択される。添加量は、添加工程において気泡の形成を招かないように十分に低く選択する。イオン種、エネルギーおよび添加量は、ドナー基板10の材料に応じて選択される。これらの条件は、多くの刊行物の主題であり、当業者に知られている。
【0038】
図1Cに関して、軟質シート20は、フィルム12の表面に形成され、この段階では、フィルム12はまだドナー基板10の一部をなしている。
【0039】
接合技術とは対照的に、軟質シートは既存のものではなく、ドナー基板上で直接形成される。フィルムの形成のためには次の成膜技術が実施可能である:物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)、電着または電気成形(電気めっきまたは電気化学蒸着(ECD))による成膜、スピンコーティング、ラッカー吹付および噴霧。これらの技術はそれ自体公知であり、ここでさらに詳しく説明しないが、当業者ならば最適な技術を軟質シートの材料に応じて選択することができる。ドナー基板の早期分離が始まらないように、比較的低温での成膜技術が好ましい。
【0040】
軟質シートは、有利には、金属(例えば、Ni、Cu、Cr、Ag、Fe、Co、Zn、Al、Mo、Wおよびそれらの合金)、ガラスおよびセラミックス(例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、多結晶AlN、多結晶ケイ素、多結晶SiC)から選択される材料からなる。これらの例に限定されない。
【0041】
軟質シートの厚さは一般に、1~50μmである。
【0042】
シートの剛性は、目的とする適用に対してシートの柔軟性を確保するために十分に低く、第一にフィルム12のシート20上への転写を可能とし、かつ、気泡を形成せずにそれを行うために十分に高いものでなければならない。
【0043】
剛性Rは、式:
【0044】
【数2】
【0045】
により見積もることができ、式中、Eはシートの材料のヤング率であり、Hはシートの厚さであり、vはポアソン比である。
【0046】
柔軟性を確保するために十分に低い剛性とは、10GPa.μm以下の剛性を意味すると理解される。目安として、43μmのケイ素層の剛性は10GPa.μm前後であり、92μmのケイ素層の剛性は10GPa.μm前後であることに留意されたい。
【0047】
転写中に気泡の形成を避けるために十分に高い剛性は、100GPa.μm以上の剛性を意味すると理解される。
【0048】
さらに、ドナー基板上へのシートの接着がこのフィルム転写法の際にシートの分離を避けるに十分なものであることを保証するために注意を要する。この接着は、シートの成膜前にドナー基板上に接着層を成膜することによって改善され得る。例えば、接着層は、下記の材料のうち1つから作製され得る:Ti、Cr、Pt、Ta、TiW、Si、TiN、CrCu。
【0049】
より一般的には、軟質シートの成膜の前にフィルム12上に少なくとも1つの中間層が成膜されてよい。また、中間層は、特に、積層体であってもよい。潜在的接着機能の他、このような中間層または積層体は、特に、シート20の成膜中にフィルム12への化学種の拡散を避ける機能、および/またはフィルム12上に電気的接触を形成する機能、および/または光学指数ジャンプを形成する機能、および/またはブラッグミラーなどの反射層を形成する機能、および/またはそうでなれば音響インピーダンスの不連続性を最小化する機能を持ち得る。当然のことながら、当業者ならば、この中間層または積層体の機械的、電気的、光学的、熱的、音響的または化学的機能に応じて好適な材料およびそれらの厚さを選択することができる。
【0050】
中間層の厚さは、この層または積層体の剛性がシートの柔軟性に悪影響を及ぼさないように十分に低いままとする。
【0051】
シートとフィルムの熱膨張係数間に重大な差(一般に5×10-6-1より大きい差)が存在する場合には、シートの材料は、転写されるフィルムが転写法の際に損傷(例えば、亀裂型の)を受けないために十分な延性を示すように選択される。十分な延性とは、シートの弾性限界がフィルムの弾性限界とシートとフィルム間の厚さの比との積より小さいことを意味すると理解される。
【0052】
図1Dに関して、次に、ドナー基板10を脆化区域11から分離し、フィルム12を軟質シート20上に転写する。この分離の終了時に、ドナー基板の残部10’は残存し、もう一度使用するためにリサイクルされる可能性がある。
【0053】
この分離は、ドナー基板10上のシート20の積層体の処理により生じる。該処理は、例えば、熱的、機械的またはこれらの2種の処理の組合せであり得る。この種の処理は、特にSmart Cut(商標)法に関して周知であり、従って、ここでは詳細に説明しない。熱処理の場合、この処理のサーマルバジェットは一般に、軟質シートの成膜のサーマルバジェットよりも大きい。
【0054】
フィルム12は、付加的フィルム13の成膜のシードとして役立つ可能性がある(図1E参照)。
【0055】
軟質シート20およびフィルム12(および存在し得る付加的フィルム)から形成される構造は、特にマイクロエレクトロニクス、光通信学または光学において適用を有する装置を形成するために使用され得る。このような構造はまた、センサーもしくは変換器、または燃料電池の膜の製造に関わり得る。
【0056】
以下に本発明による方法の適用のいくつかの(非限定)例を説明する。
【実施例
【0057】
実施例1:銅シート上でのニオブ酸リチウムフィルムの形成
ニオブ酸リチウムは、高温までその圧電を保持することで顕著な圧電/焦電材料である。他の多くの材料が100~250℃程度の温度範囲ではそれらの特性を失うところ、ニオブ酸リチウムのキュリー温度は1140℃前後である。従って、ニオブ酸リチウムは、これらの温度範囲で圧電性および/または焦電性を用いるシステムについて注目される材料である。
【0058】
例えば、それらのシステムは、250℃を超える温度範囲の有害環境で作動する機械システムの振動およびその他の変形のエネルギーの回収によりエネルギーを回収するためのシステムであり得る。それらのシステムはまた、機械的変形、温度の測定に、または高周波の発信/受信によるデータの交換に専用の圧電または焦電センサーでもあり得る。
【0059】
そのためには、ニオブ酸リチウムフィルムは、十分容易に変形することができなければならない。この材料は単結晶であり、かつ、インゴットを引き出した後に数百μmの厚さのバルクウエハーに切断することによって生産する場合に良好な品質である。薄膜フィルムでは、それが蒸着により生産される場合には、一般には多結晶、よくても準単結晶であるが、欠陥が著しい。軟質シート上で良好な品質のニオブ酸リチウムの薄膜フィルムを得ることができれば、ポータブルまたはウェアラブルセンサー(例えば、テキスタイルへの組み込み)、および「モノのインターネット(Internet of Things)」(IoT)などの応用分野に取り組みことが可能となる。これらの例に限定されない。
【0060】
ヘリウムイオンは、脆化区域11を形成し、薄膜LiNbOフィルム12の範囲を定めるために、ニオブ酸リチウム基板10に添加される(図2A参照)。フィルム12の厚さは、1μm程度である。
【0061】
Cr/Cu合金からなる接着層21は、PVD技術によってフィルム12上で成膜される(図2B参照)。次に、電気化学蒸着技術によって、接着層上に銅シート20が成膜される(図2C参照)。該シートの厚さは、20μm程度である。
【0062】
次に、ドナー基板10を脆化区域11に沿って分離させるために300℃の温度でアニーリングが施される(図2D参照)。
【0063】
実施例2:ニッケルシート上でのイットリウム安定化ジルコニアフィルムの形成
イットリウム安定化ジルコニアは一般に多結晶セラミックの形態であり、まれではあるが、単結晶基板の形態でもある。
【0064】
この材料の1つの用途は、イオン伝導特性に基づくものである。従って、この材料は、SOFC(固体酸化物形燃料電池)システムにおいて電解質の役割を果たすために固相膜として機能する。このようなシステムでは、それらが小型化されなければならない場合(従って、これはマイクロSOFCとして知られる)、一方では、一般に数μmより小さい厚さの薄膜に向けて、他方では単結晶に向けて発展させることに着目される。このようなシステムは高温(一般に、550~700℃)で作動し、強い熱機械的負荷を受ける。膜の耐性を高くするためには、やや変形の可能性を与えることが有利である。
【0065】
単結晶YSZ基板10が供給される。
【0066】
脆化区域11を形成し、薄膜YSZフィルム12の範囲を定めるために、基板10に水素イオンが添加される(図2A参照)。フィルム12の厚さは、1μm程度である。
【0067】
Cr/Cu合金からなる接着層21は、PVD技術によってフィルム12上で成膜される(図2B参照)。次に、電気化学蒸着技術によって、接着層上にニッケルシート20が成膜される(図2C参照)。該シートの厚さは、20μm程度である。
【0068】
次に、ドナー基板10を脆化区域11に沿って分離させるために300℃の温度でアニーリングが施される(図2D参照)。
【0069】
実施例3:曲面ガラスシート上での単結晶ケイ素フィルムの形成
スクリーンまたはその他の光学部品(レンズ、ミラーなど)の生産分野では、非平坦または曲面部品の生産は、ケイ素などの単結晶材料の薄膜フィルムの使用を困難とする。本実施例は、ある特定の曲率を有するガラスシート上に薄膜ケイ素フィルムを得られるようにすることを目的とする。このケイ素フィルムは、例えば、高精細度超コンパクト曲面スクリーンを生産するための高性能トランジスタを生産するために役立ち得る。
【0070】
バルク単結晶ケイ素基板10が供給される。
【0071】
従おうとする曲面形状は、このケイ素基板へのエッチングによって生成される。図3Aの場合、選択される形状は、エッジ上により突出した隆起を有する凹形である。放物線、楕円、波形などの他のいずれの輪廓も可能である。この形状は機械加工によるエッチングで生成され得る。当業者ならば、所望の形状および寸法に最も適合したエッチング技術をどのように採用すればいいかを知っている。
【0072】
厚さ0.2μmのSiO層14を生じるように基板10に熱酸化を施す(図3B参照)。次に、脆化区域11を形成し、単結晶ケイ素の薄膜フィルム12の範囲を定めるために、水素イオンが基板10に添加される(図3C参照)。フィルム12の厚さは、0.5μm程度である。
【0073】
シリカ製、言い換えればガラス製のシート20は、脆化区域に沿って早期分離が起こらないように、低温、一般に、200℃未満での成膜技術によってフィルム12上に成膜される(図3D参照)。該シートの厚さは、20μm程度である。当業者ならば、これらの条件において、特に温度および所望の最終厚さに関して最適な成膜技術をどのように選択すればいいかを知っている。
【0074】
次に、ドナー基板10を脆化区域11に沿って分離させるために、500℃の温度でアニーリングが施される(図3E参照)。
【0075】
実施例4
実施例4は、例えば高周波(RF)フィルターなどの音波構造を目的とする。ある特定の構造において、考慮する基板およびまたは層の後面で寄生波の反射を避けることが求められる。1つの手段は、特に任意のテクスチャー処理または他のタイプの粗さを導入することによって幾何学的に不完全な界面および後面を作製することからなる。例えばLiTaOなどの単結晶材料のある種の薄膜フィルムの使用が想定される場合には、この制約を満たすのは困難であるかまたは不可能ですらあり、これは付加的な中間層の複合積層体の導入に頼ることなくそうである。実施例4はこのような目的を狙いとする。
【0076】
バルク単結晶LiTaO基板10が供給される。
【0077】
脆化区域11を形成し、単結晶LiTaOの薄膜フィルム12の範囲を定めるために、水素イオンが表面10aから基板10に添加される(図4A参照)。フィルム12の厚さは、1.5μm程度である。
【0078】
表面10aのテクスチャー処理は、フォトリソエッチングによって作出される(図4B参照)。本実施例では、この添加は、テクスチャー処理工程の前に行うが、後に行うこともできる。
【0079】
当業者ならば、そのテクスチャーに望ましい形状および寸法に最適な技術をどのように採用すればいいかを知っている。例えば、0.05μm程度の深さで特徴的なミクロンよりやや小さい横寸法のパターンを規定するためにナノインプリントリソグラフィー技術の選択が可能である。別法では、このテクスチャー処理は、陰極スパッタリング効果による粗面化によって得られる。もう1つの別法によれば、好ましくは添加工程の前に行われ、このテクスチャー処理は基板10の表面のサンディングによって得てもよい。
【0080】
シリカ製のシート20は、脆化区域に沿って早期分離が起こらないように低温成膜技術により、一般に100℃未満でフィルム12上に成膜される(図4C参照)。該シートの厚さは、10μm程度である。当業者ならば、これらの条件において、特に温度および所望の最終厚さに関して最適な成膜技術をどのように選択すればいいかを知っている。別法として、シート20は、シリカ製ではなく金属製であってもよい。
【0081】
次に、ドナー基板10を脆化区域11に沿って分離させるために200℃程度の温度でアニーリングが施される(図4D参照)。
【0082】
実施例5:複数のパッドを含んでなるドナー基板の場合
本発明の一つの実施形態によれば、ドナー基板の非平坦トポロジーは、ウエハー1000の表面に配置された複数のパッド1001の形成から得られる(図5A参照)。
【0083】
パッドは有利には、半導体材料、圧電材料、磁性材料および機能性酸化物から選択される材料から形成される。パッドは有利には単結晶である。各パッドは、個々にまたはまとめて接合させることによってウエハー上の所定の位置に置くことができる。
【0084】
パッドは、目的とする適用に応じていずれの適当な大きさおよび形状を有してもよい。パッドは、例えば一種の格子パターンを形成するために、ウエハー上に規則的に配置されてよい。
【0085】
各パッド1001の主表面は、ウエハー1000の主表面に平行である。しかしながら、各パッドの厚さが十分な精度で制御されない限りにおいて、あるパッドと次のパッドに厚さの若干の(例えば、厚さ1または2μm程度の)差が存在することがある。結果として、パッドの全表面から構成される表面は、一般に段階的に高さに差がある(これらの変動の大きさは図5Aでは任意に誇張されている)。よって、これらの段階的な差は、ウエハーの表面の非平坦トポロジーを形成する。
【0086】
一般に、例えば、特許文献FR3041364およびUS6,562,127に記載されるように、パッドは、最終的な支持体上への表層単結晶フィルムの転写のために意図される。このために、脆化区域1011は、例えば、上記のように添加による転写のために個々のフィルム1012の範囲を定めるために、各パッドにおいて、それがウエハー上の所定の位置に配置される前または配置された後に形成される。
【0087】
最終的な支持体上での各パッドの主表面の接合を含む、上述の特許文献に記載されている方法とは異なり、本発明は、ウエハーの表面に配置されたパッドの全てで軟質シート20を成膜することを提案する(図5B参照)。従って、異なるパッドの高さの違いに関連するアセンブリの問題が無くなる。
【0088】
次に、対応するフィルム1012を軟質シート20上へ転写するために、各パッドを脆化区域1011に沿って分離する(図5C参照)。
【0089】
有利には、転写されたフィルムは、軟質シートよりも堅い。その結果、それにより得られたコンポジット構造の使用がそれを恒久的または動的に変形させることを含む場合には、そのシートはパッド間に柔軟な接合部を構成し、これがこれらの変形による応力を、それらをパッドに伝達する代わりに吸収する。
【0090】
考慮する実施形態はいずれも、ドナー基板の分離の終了時に残部10’が残る。
【0091】
ドナー基板のリサイクルが想定される場合、特に、分離の際に損傷を受けていたかもしれないドナー基板の表面を再生する目的で、修繕工程を実施することが可能である。これらの操作は、特に、クリーニング、エッチング、アニーリング、例えば研磨による平滑化および平坦化の工程を含んでなり得る。
【0092】
ドナー基板が、脆化工程の前に作出された特定のトポロジー(曲率、粗さ、テクスチャーなど)を有する場合、ドナー基板の残部は、ドナー基板の最初のトポロジーと同一のトポロジーを有する。各リサイクルの後にそれを体系的に再び形成することを避ける目的で、ドナー基板に最初に作出されたこのトポロジーを保存することがコストの問題で有利であると思われる。この場合、平坦化法は避け、厚さが一致する材料を除去するか、またはさらには、例えば、プラズマエッチングもしくは平滑化アニーリングなど、実質的に材料を除去しない(すなわち、30nm未満)方法が有利である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C