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  • 特許-酸化物単結晶基板及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】酸化物単結晶基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/20 20060101AFI20221107BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20221107BHJP
   B23K 26/386 20140101ALI20221107BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20221107BHJP
【FI】
C30B29/20
C30B33/02
B23K26/386
B23K26/364
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020553763
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040685
(87)【国際公開番号】W WO2020090473
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2018203718
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楢原 賢英
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-314121(JP,A)
【文献】特開2013-239591(JP,A)
【文献】特開2014-031306(JP,A)
【文献】特開平11-163403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/20
C30B 33/02
B23K 26/386
B23K 26/364
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面に凹部を備え、前記凹部の内壁面から深さ15μm以内の第1領域における、円相当径0.3μm以上の閉気孔の密度が、前記第1領域以外の第2領域における、円相当径0.3μm以上の閉気孔の密度よりも大きい、酸化物単結晶基板。
【請求項2】
前記第1領域において、前記内壁面に沿って前記閉気孔が配列している、請求項1に記載の酸化物単結晶基板。
【請求項3】
サファイア基板である、請求項1または2に記載の酸化物単結晶基板。
【請求項4】
前記内壁面が多結晶である、請求項1~3のいずれかに記載の酸化物単結晶基板。
【請求項5】
主面に凹部を備え、前記凹部の内壁面を含む多結晶領域と、前記多結晶領域以外の単結晶領域とを有し、前記多結晶領域における円相当径0.3μm以上の閉気孔の密度が、前記単結晶領域における円相当径0.3μm以上の閉気孔の密度よりも大きい、酸化物単結晶基板。
【請求項6】
前記多結晶領域において、前記内壁面に沿って前記閉気孔が配列している、請求項5に記載の酸化物単結晶基板。
【請求項7】
サファイア基板である、請求項5または6に記載の酸化物単結晶基板。
【請求項8】
酸化物単結晶基板の主面をレーザ加工して前記主面に凹部を形成するレーザ加工工程と、
前記酸化物単結晶基板を熱処理して、前記レーザ加工の際に前記凹部内に生じた付着物を再結晶化する熱処理工程とを備えた、酸化物単結晶基板の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程の後、前記酸化物単結晶基板をエッチングする工程を、さらに備えた、請求項8に記載の酸化物単結晶基板の製造方法。
【請求項10】
前記酸化物単結晶基板がサファイア基板であって、前記熱処理工程において、真空雰囲気で、1000℃以上サファイアの融点以下の温度で熱処理する、請求項8または9に記載の酸化物単結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、主面に凹部を有する酸化物単結晶基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波素子用基板、半導体素子用基板などの基板として、タンタル酸リチウム(LT)、サファイアなどの酸化物単結晶基板が用いられる。これら基板の主面には、素子分離、電極形成などの目的で、溝状、穴状などの凹部が形成されることがある。
【0003】
酸化物単結晶基板に凹部を形成する方法として、レーザ加工による方法が知られている(例えば、特許文献1)。しかし、レーザ加工では、加工領域から飛散した物質が再付着したデブリと呼ばれる付着物や、加工により溶融した物質が再凝固して形成されたドロスと呼ばれる付着物が形成されることがある。これらの付着物は、素子および素子製造工程における不良原因となることがあるため、ないことが望ましい。
【0004】
例えば、特許文献1では、サファイア基板に、レーザ加工穴を形成した後、加工穴の内周を硫酸、リン酸、塩酸等のエッチング液でエッチングしてデブリを除去することが記載されている。ところが、これら付着物と基板とは同種の材質のため、付着物をエッチングしようとすると、基板も過剰にエッチングされるおそれがある。さらに、付着物が選択マスクのように働いて、基板のエッチングむらが生じるおそれがある。
【0005】
その他、各種基板のレーザ加工付着物対策としては、レーザ照射条件の適正化とアシストガスの使用(特許文献2)、保護膜の使用(特許文献3)、研磨による除去(特許文献4)、第2のレーザ光による除去(特許文献5)等が開示されている。しかし、レーザ照射条件の適正化とアシストガスは、効果が不十分であることがあり、保護膜の使用、研磨による除去は、凹部内壁面への付着物には有効ではない。さらに、第2のレーザ光による除去は技術的困難度が高い。
【0006】
レーザ加工により形成された凹部の近傍には、加工の際の局所的な熱履歴による残留応力が発生する。凹部に電極材料、半導体材料などを形成する場合、形成時の熱履歴と、基板と形成材料との熱膨張率差により残留応力が発生する。これらの応力は、基板の破損、凹部からの電極材料、半導体材料の剥がれの原因となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-109368号公報
【文献】特開2004-114075号公報
【文献】特開2010-5629号公報
【文献】特開2012-206196号公報
【文献】特開2007-305646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の、酸化物単結晶基板は、凹部付近の応力を緩和し、基板の破損と凹部に形成される材料の剥がれを低減することを課題とする。本開示の酸化物単結晶基板の製造方法は、デブリなどの付着物を低減した、酸化物単結晶基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の酸化物単結晶基板は、主面に凹部を備え、凹部の内壁面から深さ15μm以内の第1領域における、円相当径0.3μm以上の気孔の密度が、第1領域以外の第2領域における、円相当径0.3μm以上の気孔の密度よりも大きい。
【0010】
本開示の酸化物単結晶基板の製造方法は、酸化物単結晶基板の主面をレーザ加工して主面に凹部を形成する工程と、酸化物単結晶基板を熱処理して、レーザ加工の際に生じた付着物を再結晶化する工程とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示の酸化物単結晶基板によれば、凹部付近の応力を緩和し、基板の破損と凹部に形成される材料の剥がれを低減できる。本開示の酸化物単結晶基板の製造方法によれば、デブリなどの付着物を低減した、酸化物単結晶基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の一実施形態に係る酸化物単結晶基板の概略断面図である。
図2】レーザ加工後の酸化物単結晶基板の断面SEM写真である。
図3】本開示の一実施形態に係る酸化物単結晶基板の断面SEM写真である。
図4】比較例の酸化物単結晶基板の断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<酸化物単結晶基板>
以下、本開示の酸化物単結晶基板について説明する。図1に、本開示の一実施形態に係る酸化物単結晶基板1(以下、単に基板1ともいう)の概略断面図を示す。
【0014】
基板1は、対向する第1主面1aと第2主面1bとを備え、第1主面1aに凹部2を有する。そして、凹部2の内壁面2aから深さ15μm以内の第1領域(凹部近傍領域)3における、円相当径0.3μm以上の気孔の密度が、第1領域3以外の領域である第2領域4における、円相当径0.3μm以上の気孔の密度よりも大きい。言い換えれば、上記の気孔の密度が比較的大きい領域が第1領域3であり、気孔の密度が比較的小さい領域が第2領域4である。
【0015】
第1領域3は、基本的に、凹部2の内壁面2aに沿って存在している。その深さ(内壁面2aからの距離)は、15μm以内であれば、必ずしも一定でなくても構わない。第2領域4は、第1領域3よりも基板1の本体内部側に位置する領域であり、いわゆるバルク領域である。第2領域4では気孔の密度が比較的小さいため、基板1全体の機械的な強度の向上が容易である。
【0016】
基板1は、弾性表面波素子用基板、半導体素子用基板などに用いられる。凹部2には、素子化工程で、半導体材料、電極材料などが形成される場合がある。つまり、凹部2は、基板1に弾性表面波素子または半導体素子としての機能を付加する機能を有している。
【0017】
第1領域3の気孔は、凹部2付近の応力を緩和する。第1領域3は、気孔の密度が比較的大きいので、このような応力の緩和が容易である。これにより、凹部2を起点とした基板1の破損が生じにくくなる。凹部2に形成される電極材料、半導体材料などの剥がれを低減することもできる。気孔の円相当径は、基板1の断面SEM(走査型電子顕微鏡)画像から、画像解析ソフト(例えば、旭化成エンジニアリング(株)製「A像くん」)を用いて求めることができる。個々の気孔は、図を見やすくするために図示を省略している。
【0018】
凹部2の内壁面2aおよびその近傍は多結晶であるとよい。言い換えると、基板1は、内壁面2aを含む多結晶領域と、多結晶領域以外の単結晶領域とを有しているとよい。多結晶領域と単結晶領域とは、同じ材質(例えば、アルミナ)からなる。多結晶領域の範囲は、例えば内壁面から15μm程度である。多結晶領域の範囲と第1領域3とは一致している必要はないが、少なくとも第1領域内3に多結晶領域が含まれている。多結晶領域における円相当径0.3μm以上の気孔の密度は、単結晶領域における円相当径0.3μm以上の気孔の密度よりも大きい。
【0019】
多結晶には結晶粒界がある。内壁面2aに結晶粒界があると、結晶粒界の両側で段差が形成される。内壁面2aに電極材料、半導体材料などを形成する場合、内壁面2aに段差があることで、アンカー効果により電極材料、半導体材料などの密着力が向上し、剥がれを低減することができる。結晶粒界は、転位の進展を阻害するので、転位の進展による材料の塑性変形や破損を生じにくくする効果もある(いわゆる、粒界強化)。
【0020】
多結晶は、熱膨張率などの諸物性が等方的である。内壁面2a(第1領域3)が多結晶であれば、基板1の熱膨張率と凹部2内に形成された材料の熱膨張率に差があっても、温度変化と熱膨張率差によって生じる応力(熱応力)の分布が等方的であり、凹部2付近の変形(熱変形)も等方的であり、基板1の変形、凹部2内に形成された材料の剥がれが生じにくい。
【0021】
基板1としては、タンタル酸リチウム単結晶、ニオブ酸リチウム単結晶、サファイア(アルミナ単結晶)、酸化ガリウム単結晶、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)単結晶などの圧電性材料基板、半導体素子用基板などが用いられる。以下、本実施形態では、基板1として、サファイア基板1を例として記載する。基板1の形状およびサイズは限定されず、例えば直径2インチ~8インチ(約50mm~約200mm)の円板状を有しており、厚みは、例えば50μm~1mmである。
【0022】
凹部2は、溝状、穴状などの形状を有する。溝とは、上面視で幅を有し、長さ方向に直線上または曲線状に延伸する形状で、幅に対して長さが比較的大きい凹部2をいう。穴とは、上面視で、最小径(最小幅)に対する最大径(最大幅)の比が比較的小さい円状、多角形状などの形状の凹部2をいう。凹部2は、第1主面1aから第2主面1bまで貫通するものであってもよいし、第2主面1bに至らずに非貫通であってもよい。凹部2の幅(径)は例えば、20μm~300μmである。
【0023】
気孔は、閉気孔であり、内壁面2aに沿って配列していてもよく、不規則に位置していてもよい。気孔が内壁面2aに沿って配列している場合には、内壁面2aに沿って偏りなく応力を効果的に緩和することができる。気孔は、一つの凹部2に対し、上面視で特定の方向に偏って分布していてもよい。つまり、穴状の凹部2の環状の内壁面2aの特定の方向や、溝状の凹部2の対向する内壁面2aの一方の側に偏って分布していてもよい。これにより、基板1の面内で、特定方向の応力の緩和をしたり、特定の方向の熱伝導率を制御したりできる。気孔は、例えば凹部2の深さ方向の断面において、円形でもよく不定形状でもよい。気孔の内壁は凹凸が小さく平滑である。
【0024】
<酸化物単結晶基板の製造方法>
本開示の一実施形態に係る酸化物単結晶基板の製造方法として、サファイア基板1を例として以下に記載する。まず、所定の結晶方位(例えばc面)の第1主面1aと第2主面1bとを有する基板1を準備する。基板1は、チョクラルスキー(CZ)法などの公知の製造方法により育成されたサファイアインゴットを、基板1の形状に合わせて外形加工し、マルチワイヤーソー等を用いてスライス加工することによって作製できる。
【0025】
次に、第1主面1aに溝、穴などの凹部2をレーザ加工により形成する。サファイアの加工に用いるレーザは、例えば、ファイバーレーザーを用いることができる。照射条件は例えば、パワー10~100W、周波数1K~100KHzである。レーザ加工後の内壁面2aには、多数のデブリが付着している。デブリは、レーザ加工時に飛散した基板1の成分が再付着したものであり、複数の空隙等が存在している。レーザ加工によって内壁面2aおよび内壁面2aを含む領域は多結晶領域となる。
【0026】
次に、基板1を基板1の融点以下の温度で熱処理することにより、再結晶化させる。本明細書で、再結晶化とは、基板1が溶解することなく、付着物が、焼結(固相焼結または液相焼結)または溶解・凝固により基板1と一体化することをいう。再結晶化した基板1の成分によって上記の空隙などが囲まれて気孔になる。基板1がサファイアの場合、1000℃以上、特に好ましくは1500℃以上、サファイアの融点(約2050℃)以下の温度で、30分以上熱処理するとよい。特に真空雰囲気で熱処理すると、気孔が内壁面2aの表層付近に配列しやすくなる。本明細書において「真空」とは1kPa以下とする。
【0027】
多結晶領域は、熱処理による再結晶化の進展により、結晶粒の拡大と結晶粒内の原子の再配列が進展し、究極的には単結晶化する。したがって、多結晶領域が所望の深さおよび結晶粒径となるように、熱処理条件を適宜決定するとよい。多結晶領域が単結晶となって消滅するまで熱処理してもよい。
【0028】
基板1がサファイア以外の材料である場合も、上記のように、その材料の融点以下であって、その材料の再結晶化が生じる温度以上の範囲で加熱を行えばよい。
【0029】
本開示の一実施形態に係る製造方法によれば、レーザ加工の際に生じるデブリなどの付着物が再結晶化しているので、素子、および素子製造工程における不良原因となる付着物が低減する。エッチングによる付着物除去と比べ、基板1および凹部2の加工精度が高い。他の公知技術と比べ、比較的容易に実施でき、また付着物除去効果も大きい。第1領域(凹部近傍領域)3に、円相当径0.3μm以上の気孔を形成できるので、凹部2付近の応力を緩和することができる。レーザ加工時に、特定の方向から空気、不活性ガスなどのガスを吹きつけることで、デブリ、および空隙等を偏って分布させた状態で、再結晶化させてもよい。これにより、凹部2の周囲に偏った分布を有して気孔を形成することができる。
【実施例
【0030】
以下、本開示の実施例について説明する。まず、直径75mm、厚み1mmの円板状のサファイア基板1を複数枚用意した。次に、この基板1に、レーザ加工により、非貫通穴となる直径200μmの凹部2を複数形成した。図2に、レーザ加工後の基板1の断面SEM写真を示す。図2から、レーザ加工後の内壁面2aには、多数のデブリが付着していることがわかる。
【0031】
次に、基板1を、真空雰囲気で約1500℃、約30分熱処理を行った。図3に、熱処理後の基板1の断面SEM写真を示す。図3から、熱処理によりデブリが再結晶化して基板1と一体化していること、デブリが再結晶化しているので、エッチングむらが生じにくいことがわかる。
【0032】
比較例として、レーザ加工後、熱処理を行わずに、70%の硫酸を用いて、130℃、15分のエッチングを行った。図4に、熱処理を行わずにエッチングした後の基板1の断面SEM写真を示す。図4では、エッチングによってデブリが除去されている一方、デブリが選択マスクのような役割を果たしている。デブリの有無によって、加工領域のエッチングが選択的に進行し、内壁面2aに凹凸(エッチングむら)が生じた。つまり、凹部2の加工精度(真円度)が悪化した。
【0033】
本発明は以上の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形は可能である。例えば、凹部2が第2主面1bにもあってもよく、第1主面1aおよび第2主面1bの少なくとも一方の主面に複数あってもよい。複数の凹部2は、平面視において、互いに同じ形状でもよく、互いに異なる形状でもよい。凹部2は、その少なくとも一部が第1主面1aから第2主面1bにかけて貫通しているものでもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 酸化物単結晶基板(基板、サファイア基板)
1a 第1主面
1b 第2主面
2 凹部
2a 内壁面
3 第1領域(凹部近傍領域)
4 第2領域(バルク領域)
図1
図2
図3
図4