(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】免疫原性組成物、SARS-CoV-2ワクチン、及びベクター
(51)【国際特許分類】
A61K 39/215 20060101AFI20221107BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221107BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20221107BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20221107BHJP
A61K 35/766 20150101ALI20221107BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20221107BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20221107BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20221107BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221107BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20221107BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221107BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20221107BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221107BHJP
C12N 15/50 20060101ALI20221107BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20221107BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20221107BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20221107BHJP
C12N 15/863 20060101ALI20221107BHJP
C12N 15/866 20060101ALI20221107BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20221107BHJP
C07K 14/165 20060101ALN20221107BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20221107BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20221107BHJP
【FI】
A61K39/215 ZNA
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/763
A61K35/766
A61K39/00 H
A61K39/39
A61K47/68
A61K48/00
A61P31/14
A61P37/04
C12N7/01
C12N15/13
C12N15/50
C12N15/62 Z
C12N15/86 Z
C12N15/861 Z
C12N15/863 Z
C12N15/866 Z
C12N15/869 Z
C07K14/165
C07K16/00
C07K19/00
(21)【出願番号】P 2021077746
(22)【出願日】2021-04-30
【審査請求日】2021-04-30
(32)【優先日】2020-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521190738
【氏名又は名称】國光生物科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】冷治湘
(72)【発明者】
【氏名】蘇柏栩
(72)【発明者】
【氏名】▲シン▼伯綱
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111088283(CN,A)
【文献】Cellular & Molecular Immunology,2020年03月19日,Vol. 17,pp. 613-620
【文献】pFUSE-hIgG1-Fc2 (InvivoGen)(オンライン)
【文献】BD BaculoGold(TM) Baculovirus Expression System Innovative Solutions for Proteomics (BD Biosciences)(オンライン)
【文献】Frontiers in Microbiology,2020年02月28日,Vol. 11, Article 298,pp. 1-19
【文献】bioRxiv,2020年01月25日,https://doi.org/10.1101/2020.01.24.919183
【文献】Microbiol Resour Announc,Vol. 9, No. 23, article e00520-20,pp. 1-3
【文献】Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 isolate Wuhan-Hu-1, complete genome NCBI Reference Sequence: NC_045512.2,2020年01月17日,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NC_045512.2?report=genbank&log$=seqview
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/215
A61K 35/76
A61K 35/761
A61K 35/763
A61K 35/766
A61K 39/00
A61K 39/39
A61K 47/68
A61K 48/00
A61P 31/14
A61P 37/04
C12N 7/01
C12N 15/13
C12N 15/50
C12N 15/62
C12N 15/86
C12N 15/861
C12N 15/863
C12N 15/866
C12N 15/869
C07K 14/165
C07K 16/00
C07K 19/00
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫原性組成物であって、
前記免疫原性組成物は組み換えタンパク質或いは前記組み換えタンパク質をコードしている核酸分子を含み、
前記組み換えタンパク質は配列番号
1の配列を含み、かつ
前記組み換えタンパク質は少なくとも6アミノ酸長を有しているIgG1 Fcタンパク質フラグメントを含む、ことを特徴とする免疫原性組成物。
【請求項2】
前記組み換えタンパク質は分泌シグナルペプチドと融合していることを特徴とする請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
免疫原性化合物と、補助剤(adjuvants)と、薬学的に許容される担体と、安定剤(stabilisers)または防腐剤(preservatives)と、をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
SARS-CoV-2ワクチンであって、
前記SARS-CoV-2ワクチンは組み換えタンパク質或いは前記組み換えタンパク質をコードしている核酸分子を含み、
前記組み換えタンパク質は配列番号
1の配列を含み、かつ
前記組み換えタンパク質は少なくとも6アミノ酸長を有しているIgG1 Fcタンパク質フラグメントを含む、ことを特徴とするSARS-CoV-2ワクチン。
【請求項5】
前記組み換えタンパク質はSARS-CoV-2のヌクレオカプシドリンタンパク質、SARS-CoV-2のエンベロープタンパク質、及びSARS-CoV-2の膜タンパク質と融合していることを特徴とする請求項
4に記載のSARS-CoV-2ワクチン。
【請求項6】
前記核酸分子によりコードされる組み換えタンパク質はSARS-CoV-2のヌクレオカプシドリンタンパク質、SARS-CoV-2のエンベロープタンパク質、またはSARS-CoV-2の膜タンパク質と融合していることを特徴とする請求項
4に記載のSARS-CoV-2ワクチン。
【請求項7】
免疫原性化合物と、補助剤と、薬学的に許容される担体、安定剤または防腐剤と、をさらに含むことを特徴とする請求項
4に記載のSARS-CoV-2ワクチン。
【請求項8】
ベクターであって、
前記ベクターは組み換えタンパク質をコードしている核酸分子を含み、
前記組み換えタンパク質は配列番号
1の配列を含み、かつ
前記組み換えタンパク質は少なくとも6アミノ酸長を有してい
るIgG1 Fcタンパク質フラグメントを含む、ことを特徴とするベクター。
【請求項9】
前記核酸分子によりコードされる組み換えタンパク質はSARS-CoV-2のヌクレオカプシドリンタンパク質、SARS-CoV-2のエンベロープタンパク質、またはSARS-CoV-2の膜タンパク質と融合していることを特徴とする請求項
8に記載のベクター。
【請求項10】
前記ベクターはバキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アビポックスウイルス、アデノウイルス、アルファウイルス、ラブドウイルス、及びヘルペスウイルスからなるグループから選択されることを特徴とする請求項
8に記載のベクター。
【請求項11】
前記ベクターはバキュロウイルスであることを特徴とする請求項
10に記載のベクター。
【請求項12】
配列番号
6の配列を含む核酸分子を有することを特徴とする免疫原性組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本非仮出願は米国特許法第119条(e)に基づく優先権を主張するものであり、ここに本明細書の一部を構成するものとして2020年5月4日に提出された米国仮出願特許第63/019,442号の全内容を援用する。
【0002】
本願は「Sequence.txt」と題する電子文書に記載の下記「配列リスト」を参照し、ここに本明細書の一部を構成するものとして前記「配列リスト」の全内容を援用する。
【0003】
〔技術分野〕
本発明は、免疫原性組成物に関し、より詳しくは、コロナウイルスに対する免疫原性組成物に関する。
【0004】
〔背景技術〕
Coronavirus Disease 2019(COVID-19)はSevere Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2(以下、SARS-CoV-2という)に起因する感染症である。SARS-CoV-2の出現はその急速な世界的な感染拡大により深刻な懸念をもたらし、2020年1月30日に世界保健機関(WHO)が国際的な公衆衛生上の緊急事態宣言を発するに至った。このため、COVID-19に対する予防策として効果的なワクチンを開発することが急務となっている。
【0005】
SARS-CoV-2はニドウイルス目コロナウイルス科オルソコロナウイルス亜科のベータコロナウイルス(beta-CoVs)に属する一本鎖プラス鎖RNAウイルスである((2018). Arch. Virol. 163, 2601-2631)。Severe acute respiratory syndrome coronavirus(SARS-CoV)及びMiddle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV)もベータコロナウイルスに属する(N Engl J Med. 2003 May 15; 348(20):1967-76.; N Engl J Med. 2012 Nov 8; 367(19):1814-20.)。特に、SARS-CoV及びSARS-CoV-2ウイルスはウイルスの外膜にあるSタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)と細胞にあるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の相互作用を介して宿主細胞に侵入する。
【0006】
〔課題を解決するための手段〕
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであって、免疫原性組成物を提供することを目的とする。前記免疫原性組成物は組み換えタンパク質或いは前記組み換えタンパク質をコードしている核酸分子を含む。前記組み換えタンパク質は配列番号1、配列番号2、配列番号3と配列番号4、及び配列番号1~4の何れか1つと少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチドによりコードされた任意のポリペプチドからなるグループから選択される配列を含み、少なくとも6アミノ酸長を有しているIgG1 Fcタンパク質フラグメントを含む。
【0007】
また、本発明に係る免疫原性組成物において、前記IgG1 Fcタンパク質フラグメントは12~18の間の範囲のアミノ酸長を有している。
【0008】
また、本発明に係る免疫原性組成物において、前記組み換えタンパク質は分泌シグナルペプチドと融合している。
【0009】
前記免疫原性組成物は、免疫原性化合物と、補助剤(adjuvants)と、薬学的に許容される担体と、安定剤(stabilisers)または防腐剤(preservatives)と、をさらに含む。
【0010】
上述及び他の目的を達成するために、本発明はSARS-CoV-2ワクチンを提供する。前記SARS-CoV-2ワクチンは組み換えタンパク質或いは前記組み換えタンパク質をコードしている核酸分子を含む。前記組み換えタンパク質は配列番号1、配列番号2、配列番号3と配列番号4、及び配列番号1~4の何れか1つと少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチドによりコードされた任意のポリペプチドからなるグループから選択される配列を含み、少なくとも6アミノ酸長を有しているIgG1 Fcタンパク質フラグメントを含む。
【0011】
上述の前記ワクチンは、前記IgG1 Fcタンパク質フラグメントが12~18の間の範囲のアミノ酸長を有している。
【0012】
上述の前記ワクチンは、前記組み換えタンパク質がSARS-CoV-2のヌクレオカプシドリンタンパク質、SARS-CoV-2のエンベロープタンパク質、またはSARS-CoV-2の膜タンパク質と融合している。
【0013】
上述の前記ワクチンは、前記核酸分子によりコードされる組み換えタンパク質はSARS-CoV-2のヌクレオカプシドリンタンパク質、SARS-CoV-2のエンベロープタンパク質、またはSARS-CoV-2の膜タンパク質と融合している。
【0014】
上述の前記ワクチンは免疫原性化合物と、補助剤と、薬学的に許容される担体、安定剤または防腐剤と、をさらに含む。
【0015】
上述及び他の目的を達成するために、本発明はベクターを提供する。前記ベクターは組み換えタンパク質をコードしている核酸分子を含み、前記組み換えタンパク質は配列番号1、配列番号2、配列番号3と配列番号4、及び配列番号1~4の何れか1つと少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチドによりコードされた任意のポリペプチドからなるグループから選択される配列を含み、少なくとも6アミノ酸長を有している前記IgG1 Fcタンパク質フラグメントを含む。
【0016】
上述の前記ベクターは、前記核酸分子によりコードされる組み換えタンパク質はSARS-CoV-2のヌクレオカプシドリンタンパク質、SARS-CoV-2のエンベロープタンパク質、またはSARS-CoV-2の膜タンパク質と融合している。
【0017】
上述の前記ベクターは、前記ベクターはバキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アビポックスウイルス、アデノウイルス、アルファウイルス、ラブドウイルス、及びヘルペスウイルスからなるグループから選択される。
【0018】
上述の前記ベクターは、バキュロウイルスである。
【0019】
上述及び他の目的を達成するために、本発明は配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9からなるグループから選択される配列を含む核酸分子を含む免疫原性組成物を提供する。なお、上述の免疫原性組成物、ワクチン、及びベクターはSARS-CoV-2 ウイルスに対する中和抗体を誘導し、coronavirus disease 2019(COVID-19)に対して使用する。
【0020】
〔図面の簡単な説明〕
〔
図1〕RBD-Fcのアミノ酸配列を図示する(配列番号1)。
〔
図2〕S2△TM-Fcのアミノ酸配列を図示する(配列番号2)。
〔
図3〕S1-Fcのアミノ酸配列を図示する(配列番号3)。
〔
図4〕S△TM-Fcのアミノ酸配列を図示する(配列番号4)。
〔
図5〕分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列を図示する(配列番号5)。
〔
図6〕RBD-Fc、S2△TM-Fc、S1-Fc、及びS△TM-FcのDNAゲル電気泳動画像を示す。
〔
図7〕ウイルスに感染した細胞の増殖傾向を示す。
〔
図8〕ウエスタンブロット画像における感染後3日目、4日目、及び5日目のワクチン候補の発現レベルを示し、(A)はRBD-Fcを示し、(B)はS2△TM-Fcを示し、(C)はS1-Fcを示し、(D)はS△TM-Fcを示す。
〔
図9〕精製ワクチン候補のSDS-PEGE(左)及びウエスタンブロット(右)画像を示し、矢印は発現したタンパク質の予想される位置を示し、(A)はRBD-Fcを示し、(B)はS2△TM-Fcを示し、(C)はS1-Fcを示し、(D)はS△TM-Fcを示し、(S)は液体試料を示し、(FT)はフロースルー液体を示し、(W)は洗液を示し、(E)は溶出液を示す。
〔
図10〕免疫化したマウスから採取した血液の血清中の中和抗体(NT)価を示す。
〔
図11〕SARS-CoV-2ウイルスに対し免疫化したマウスから採取した抗血清のプラーク減少中和試験(PRNT)の結果を示す。
〔
図12〕ヌクレオカプシドリンタンパク質(配列番号10)、エンベロープタンパク質(配列番号11)、及びSARS-CoV-2の膜タンパク質(配列番号12)のアミノ酸配列を図示する。
〔
図13〕RBD-FcのDNA配列を図示する(配列番号6)。
〔
図14〕S2△TM-FcのDNA配列を図示する(配列番号7)。
〔
図15〕S1-FcのDNA配列を図示する(配列番号8)。
〔
図16〕S△TM-FcのDNA配列を図示する(配列番号9)。
【0021】
〔発明を実施するための形態〕
本発明の目的、特徴、及び効果についての理解を促すため、添付図面を参照しつつ本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0022】
<ワクチン候補の発現>
まず、4つのワクチン候補のDNA配列は組み換えタンパク質RBD-Fc、S2△TM-Fc、S1-Fc、及びS△TM-Fcをコードするように設計されている。
図13はRBD-FcのDNA配列を図示する。
図14はS2△TM-FcのDNA配列を図示する。
図15はS1-FcのDNA配列を図示する。
図16はS△TM-FcのDNA配列を図示する。
【0023】
前記ワクチン候補はSARS-CoV-2スパイクタンパク質のアミノ酸配列に基づいて設計されている(アクセッション番号: NC_045512)。ここでは、RBD-FcはヒトIgG1定常重鎖2及び定常重鎖3(Fcタンパク質)と融合しているSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメインを示し、RBD-Fcのアミノ酸配列は
図1に示す。S2△TM-Fcは膜貫通型タンパク質を除去しFcタンパク質と融合しているSARS-CoV-2のスパイクタンパク質のS2サブユニットを示し、S2△TM-Fcのアミノ酸配列は
図2に示す。S1-FcはFcタンパク質と融合しているSARS-CoV-2のスパイクタンパク質のS1サブユニットを示し、S1-Fcのアミノ酸配列は
図3に示す。S△TM-Fcは膜貫通型タンパク質を除去しFcタンパク質と融合しているSARS-CoV-2のスパイクタンパク質を示し、S△TM-Fcのアミノ酸配列は
図4に示す。ワクチンを製造するために、前記ワクチン候補の全構造が分泌シグナルペプチドと融合し、前記分泌シグナルペプチドは前記組み換えタンパク質のN-末端に存在し、Fc配列は前記組み換えタンパク質のC-末端に存在している。分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列は
図5に示す。しかしながら、他の実施形態では分泌シグナルペプチドは必要ではない。
【0024】
次に、上述の4つのワクチン候補のDNA配列がpFastBac 1ベクターにそれぞれ複製される。他の実施形態では、前記ベクターはワクシニアウイルス、アビポックスウイルス、アデノウイルス、アルファウイルス、ラブドウイルス、ヘルペスウイルス、或いは適合する他の既知のベクターシステムから選択してもよい。
【0025】
上述の4つのワクチン候補のDNA配列を含む組み換えバクミドDNAを生成するために、上述ワクチン候補のDNA配列をそれぞれ含む4つ前記pFastBac 1ベクターを大腸菌株DH10Bacに形質転換する。前記組み換えバクミドDNAはPCR解析によって識別される。
図6に示されるように、「M」は分子量マーカーを示し、数字の「1」、「2」、及び「3」は上述の組み換えバクミドDNAを取得した大腸菌コロニーのシリアル番号を示し、RBD-Fc、S2△TM-Fc、S1-Fc、及びS△TM-Fcの論理的な組み換えバクミドDNAのサイズはそれぞれ3,809bps、4,700bps、5,159bps、及び6,743bpsである。前記論理的な組み換えバクミドDNAのサイズに対応するRBD-Fc、S2△TM-Fc、S1-Fc、及びS△TM-Fcの決定した組み換えバクミドDNAのサイズはそれぞれ3,900bps、4,800bps、5,200bps、及び6,800bpsである。上述の前記組み換えバクミドDNA形質転換及びPCR解析はBac-to-Bac
TMバキュロウイルス発現システムユーザーガイドに従って実施している。
【0026】
次いで、バキュロウイルスを製造するために、上述の4つのワクチン候補のDNA配列を全て含む前記組み換えバクミドDNAをツマジロクサヨトウ細胞(sf9細胞)にそれぞれ形質移入する。前記バキュロウイルスはDNA配列により識別する。上述の前記組み換えバクミドDNAの形質移入はBac-to-BacTMバキュロウイルス発現システムユーザーガイドに従って実施している。
【0027】
最後に、sf9細胞にそれぞれ感染多重度(MOI)0.1、0.001、及び0.0001で上述の4つのワクチン候補のDNA配列を含むバキュロウイルスを5日間感染させ、ウイルスに感染した細胞の増殖傾向は
図7に示す。感染後3日目、4日目、及び5日目時点で、ワクチン候補の発現レベルを確認するために被感染sf9細胞を収集し、被感染sf9細胞内で合成されたタンパク質をウエスタンブロットにより検出し、その結果を
図8に示す。タンパク質スタンダードの位置及びキロダルトン(kda)で示すそれらのサイズによれば、55kda(A: RBD-Fc)、110kda(B: S2△TM-Fc)、130kda(C: S1-Fc)、及び170kda(D: S△TM-Fc)の組み換えタンパク質部分が前記細胞中で合成された主要タンパク質であることを示す。上述のウエスタンブロットは「ポリアクリルアミドゲルの電気泳動及び検出ガイド(Bio-Rad)」を参照して実施している。
【0028】
<ワクチン候補の製造>
sf9細胞を調製し、sf9細胞は27℃の細胞濃度3.5~5×106cells/mLでタンパク質フリー昆虫細胞培地(Lonza Ltd)で増殖する。4つのワクチン候補を製造するために、上述の4つのワクチン候補のDNA配列を含むsf9細胞を感染多重度(MOI)0.1~0.001で前記バキュロウイルス発現ベクターに感染させる。sf9細胞の感染中に、前記バキュロウイルスポリヘドリンプロモーターの転写制御下で前記ワクチン候補が製造される。感染から72~96時間後に6,000 x gで15分間遠心分離を行ってsf9細胞を獲得する。sf9細胞の上清(supernatant)は4°Cで保管する。
【0029】
<ワクチン候補RBD-Fcの精製>
本実施形態では、非変性でヒト用コロナウイルスワクチンの成分として適合するRBD-Fcの精製はタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーにより実施する。前記組み換えバキュロウイルスに被感染sf9細胞からRBD-Fcを精製するために、下記工程を用いている。
【0030】
上述の「ワクチン候補の発現」工程でRBD-Fcを含む被感染sf9細胞の2Lの培養液を調製し、感染させる前記sf9細胞の初期細胞濃度は1.0 x 106cells/mLであり、次いで前記sf9細胞の被感染細胞濃度が4.0 x 106cells/mL(生存率40-60%、MOI=0.1)に達するまで前記sf9細胞を3日間感染させる。被感染sf9細胞の培養液を9000 x gで20分間遠心分離を行って上清を獲得し、前記上清をフィルター(孔径0.22μm)で濾過して液体試料を獲得する。
【0031】
20mLのタンパク質Aレジン(Eshmuno A、Merck Millipore)を充填したファルマシアXK 16/40カラムを調製し、AKTA Pureクロマトグラフィーシステムにマウントする。上述の液体試料は流量20mL/minute(PreC: 0.30Mpa)で前記カラムに適用し、フロースルー液体を収集する。前記液体試料を前記カラムに充填した後、280nmの洗液のUV吸収がベースラインに戻るまで前記カラムをPBS(pH7.3)によりさらに洗浄する。前記カラムを通過した前記洗液を収集する。前記カラムを洗浄した後、溶出液としてクエン酸溶液(0.3M)を前記カラムに充填し、タンパク質Aと結合するRBD-Fcを含む溶出液を獲得する。
【0032】
不純タンパク質が前記カラムを通過して溶出液に流れ込むため、RBD-Fcを含む前記溶出液が約5倍カラム容量の100mMのクエン酸(pH3.0)により前記タンパク質Aレジンカラムから再度溶出し、溶出剤は1Mトリス塩酸緩衝液(pH9.0)により中和される。前記液体試料、前記フロースルー液体、前記洗液、及び前記溶出液はSDS-PAGEにより下記のように解析される。前記液体試料、前記フロースルー液体、前記洗液、及び前記溶出液中のタンパク質は、2%のドデシル硫酸ナトリウム及び5%のβ-メルカプトエタノールを含有する沸騰した水槽に10分間入れることで破壊され、その後SDS-PAGE(0.1%のSDSを含有する10%のポリアクリルアミドゲル)により解析され、最後にクマシーブルーにより染色される。前記SDS-PAGE解析は「ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び検出ガイド(Bio-Rad)」を参照して実施している。
【0033】
S1-Fc及びS△TM-FcのS2△TM-Fcの精製はRBD-Fcの精製と同じ工程で実施している。
【0034】
4つのワクチン候補の精製結果は
図9に示す。精製ワクチン候補は上述の工程を経て獲得する。
【0035】
他の実施形態においては、既知のタンパク質精製技術が上述のワクチン候補の精製に用いられている。
【0036】
SARS-CoV-2ウイルスに対して免疫化したマウスから採取した前記抗血清のプラーク減少中和試験(PRNT)を行う。
【0037】
まず、12のグループのC57BL/6マウス(7週齢、メス、体重18~22g)を用意し、各グループは10匹のマウスを含み、5つのグループのマウスは50μlのPBS中の20μgのワクチン候補を筋肉注射することで3回免疫化する。5つのグループのマウスは補助剤として水酸化アルミニウムを含む50μlのPBS中の20μgのワクチン候補を筋肉注射することで3回免疫化する。1つのグループのマウスには水酸化アルミニウムを含む50μlのPBSを筋肉注射する。1つのグループのマウスには50μlのPBSのみを3回筋肉注射する。免疫化条件は下記表1に示す。
【0038】
【0039】
次に、免疫化を行う際に、中和抗体価を検出するためにグループ1、6、及び7のマウスから血液サンプルを採取する。結果は
図10に示すように、RBD-Fc及び補助剤を投与されたグループ7のマウスの中和抗体価が最も高かった。
【0040】
最後に、ベロE6細胞単層の12のグループを実験群として24-ウェルプレートの12のウェルに事前に播種する。3回免疫化した上述のマウスから取得した0.1mLの12の試験血清(5120倍に希釈)を100PFU/0.1mLのSARS-CoV-2ウイルス(Sui-Yuan Chang教授提供、Department of Clinical Laboratory Sciences and Medical Biotechnology、College of Medicine、National Taiwan University)と別々に混合し、37℃で60分間共培養する。次いで、SARS-CoV-2及び試験血清の12の混合物を12の実験群にそれぞれ追加する。ここでは、各アッセイにおいて陽性対照群として細胞単層の感染性を保証するために、2つの陽性対照ウェル(上述の血清を含まない100PFUのSARS-CoV-2ウイルスと共にベロE6細胞が37℃で60分間共培養される)を確立する。その後、12の実験群及び2つの陽性対照群の媒体を取り除き、12の実験群及び2つの陽性対照群に重層培地を追加する。実験群及び陽性対照群がある24-ウェルプレートを5%のCO2中で37°Cで6日間培養し、6日目にプラークの量を計測する。プラーク減少中和試験の結果は
図11に示すように、Fcタンパク質と融合しているRBDドメインを含む前記実験群(グループ1、3~5、7、及び9~10)がSARS-CoV-2ウイルスに対する中和抗体を効果的に誘導可能であり、Fcタンパク質と融合しているRBDドメイン及び補助剤を含む前記実験群の効力が比較的高く、Fcタンパク質と融合しているS2△TM-Fc及び補助剤の組み合わせもSARS-CoV-2ウイルスに対する中和抗体を誘導することが分かる。
【0041】
さらには、SARS-CoV-2に用いられるSARS-CoV-2組み換えタンパク質フラグメントは少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%がRBD、S1タンパク質、S2タンパク質、或いはスパイクタンパク質と一致するように設計されている。SARS-CoV-2に用いられるFcタンパク質フラグメントは少なくとも6アミノ酸長を有し、好ましくは12~18の間の範囲のアミノ酸長を有するように設計されている。Fcタンパク質フラグメントの長さは6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、または18アミノ酸長でもよい。
【0042】
図12はヌクレオカプシドリンタンパク質、エンベロープタンパク質、及びSARS-CoV-2の膜タンパク質のアミノ酸配列を図示する。COVID-19ワクチンの使用に関し、ヌクレオカプシドリンタンパク質、エンベロープタンパク質、またはSARS-CoV-2の膜タンパク質はCOVID-19ワクチンの一部として設計可能であり、即ち、ヌクレオカプシドリンタンパク質、エンベロープタンパク質、及びSARS-CoV-2の膜タンパク質は上述のワクチン候補と融合可能である。
【0043】
ここで用いる2つのアミノ酸配列の「パーセント相同性」は、1990年発行の米国科学アカデミー紀要 87:2264-2268においてKarlin及びAltschul氏により記載され、並びに修正されたものが1993年発行の米国科学アカデミー紀要 90:5873-5877においてKarlin及びAltschul氏により記載されているアルゴリズムを用いて決定している。このアルゴリズムは1990年発行のJ. Mol. Biol. 215:403-410においてAltschul氏等によりNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれ、XBLASTプログラムと共にスコア = 50、語長 = 3でBLASTタンパク質検索を実行し、参照ポリペプチドとの相同性を有するアミノ酸配列を獲得する。比較目的でギャップありアライメントを獲得するため、1997年発行のNucleic Acids Res. 25:3389-3402においてAltschul氏等により記載されたギャップありBLASTを用いている。前記BLAST及びギャップありBLASTプログラムを用いる場合、各プログラムのデフォルトパラメーター(例えば、XBLAST及びNBLAST)を使用する。詳しくはwww.ncbi.nlm.nih.govを参照する。
【0044】
上述のように、Fcタンパク質と融合しているSARS-CoV-2組み換えタンパク質はSARS-CoV-2ウイルスに対する中和抗体を誘導し、coronavirus disease 2019(COVID-19)に対するワクチンとして使用可能である。
【0045】
本発明の特定の実施形態について説明したが、本分野で通常知識を有する者ならば、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲において様々な改修及び変化を実施可能である。
【0046】
本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施することができる。そのため、上述の実施形態は任意の点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。更に、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0047】
〔符号の説明〕
なし
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】RBD-Fcのアミノ酸配列を図示する(配列番号1)。
【
図2】S2△TM-Fcのアミノ酸配列を図示する(配列番号2)。
【
図3】S1-Fcのアミノ酸配列を図示する(配列番号3)。
【
図4】S△TM-Fcのアミノ酸配列を図示する(配列番号4)。
【
図5】分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列を図示する(配列番号5)。
【
図6】RBD-Fc、S2△TM-Fc、S1-Fc、及びS△TM-FcのDNAゲル電気泳動画像を示す。
【
図8】ウエスタンブロット画像における感染後3日目、4日目、及び5日目のワクチン候補の発現レベルを示し、(A)はRBD-Fcを示し、(B)はS2△TM-Fcを示し、(C)はS1-Fcを示し、(D)はS△TM-Fcを示す。
【
図9】精製ワクチン候補のSDS-PEGE(左)及びウエスタンブロット(右)画像を示し、矢印は発現したタンパク質の予想される位置を示し、(A)はRBD-Fcを示し、(B)はS2△TM-Fcを示し、(C)はS1-Fcを示し、(D)はS△TM-Fcを示し、(S)は液体試料を示し、(FT)はフロースルー液体を示し、(W)は洗液を示し、(E)は溶出液を示す。
【
図10】免疫化したマウスから採取した血液の血清中の中和抗体(NT)価を示す。
【
図11】SARS-CoV-2ウイルスに対し免疫化したマウスから採取した抗血清のプラーク減少中和試験(PRNT)の結果を示す。
【
図12】ヌクレオカプシドリンタンパク質(配列番号10)、エンベロープタンパク質(配列番号11)、及びSARS-CoV-2の膜タンパク質(配列番号12)のアミノ酸配列を図示する。
【
図13-1】RBD-FcのDNA配列を図示する(配列番号6)。
【
図13-2】RBD-FcのDNA配列を図示する(配列番号6)。
【
図14-1】S2△TM-FcのDNA配列を図示する(配列番号7)。
【
図14-2】S2△TM-FcのDNA配列を図示する(配列番号7)。
【
図15-1】S1-FcのDNA配列を図示する(配列番号8)。
【
図15-2】S1-FcのDNA配列を図示する(配列番号8)。
【
図16-1】S△TM-FcのDNA配列を図示する(配列番号9)。
【
図16-2】S△TM-FcのDNA配列を図示する(配列番号9)。
【
図16-3】S△TM-FcのDNA配列を図示する(配列番号9)。
【配列表】