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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】炎検出装置
(51)【国際特許分類】
   G08B 17/12 20060101AFI20221107BHJP
   G01J 1/42 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
G08B17/12 A
G01J1/42 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021093398
(22)【出願日】2021-06-03
(62)【分割の表示】P 2020089971の分割
【原出願日】2015-01-10
(65)【公開番号】P2021144737
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】松熊 秀成
【審査官】山岸 登
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-078899(JP,A)
【文献】特開2001-356047(JP,A)
【文献】特開2006-275772(JP,A)
【文献】特開2003-217047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J1/00-1/60
11/00
G08B17/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視領域の、それぞれ異なる所定波長帯の放射線エネルギーを観測した受光信号を出力する複数の受光ユニットと、
前記各受光ユニットで略同時期に観測して出力した所定期間分の各受光信号から求めたそれぞれの信号振幅の、前記各受光信号間の相互の相関を燃焼炎の有無判断の第1の要素とする判断部と、
を備え、
前記判断部は、前記第1の要素として、前記所定期間分の前記各受光信号をそれぞれ複数の時間区間に対応する複数の分割区間に分割し、当該所定期間内の複数の前記分割区間のうち基準となる分割区間についての前記信号振幅の積分値の、前記各受光信号間の相互の比に対する、他の全ての分割区間についての前記信号振幅の積分値の比が所定の炎判定閾範囲内となるか否かに基づいて燃焼炎の有無を判断することを特徴とする炎検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の炎検出装置に於いて、前記判断部は、燃焼炎の有無判断の第2の要素として、前記所定期間分の各受光信号のうち少なくとも1つの受光信号に基づいて燃焼炎の有無を判断し、前記第2の要素により燃焼炎有りと判断した場合に、前記第1の要素による燃焼炎の有無判断を実行することを特徴とする炎検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の炎検出装置に於いて、前記判断部は、前記第2の要素として、前記少なくとも1つの受光信号の信号振幅が所定の閾値以上の場合、燃焼炎有りと判断することを特徴とする炎検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有炎燃焼に伴う光の放射を検出して、炎の有無を判定する炎検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有炎燃焼により発生する放射線エネルギーを検出して、炎の有無を検出する炎検出装置にあっては、炎と炎以外の赤外線放射体との識別を行うため、有炎燃焼時に発生するCO2の共鳴放射による波長帯を含む複数の波長帯における放射線強度を検出して、それら複数の波長帯における検出値の相対比により炎の有無を検出する2波長式、3波長式等の炎検出装置や炎検出方法がよく知られている。
【0003】
ここで、従来技術における2波長式、及び、3波長式の炎検出装置について、簡単に説明する。
【0004】
図14は、燃焼炎と、その他の代表的な放射体の赤外波長域における放射線スペクトルを示す概念図であり、横軸は放射線の波長、縦軸は放射線の相対強度を示す。
【0005】
図14に示すように、燃焼炎のスペクトル特性100においては、CO2の共鳴放射により4.5μm付近の波長帯に放射線相対強度のピークがあり、また、このピーク波長の近傍に存在する特徴的な波長としては、例えば、長波長側の5.1μm付近に、放射線相対強度が低い波長帯が存在する。
【0006】
なお、理論上は4.3μm帯にCO2の共鳴放射による放射強度のピークがあることが知られている。しかしながら、実際に燃焼炎を観測した場合にあっては、4.4~4.5μm付近に放射強度のピークが現れることが経験的に示されている。したがって、以下では、特に断らない限り、CO2共鳴放射帯とは、4.4~4.5μm帯を指すものとする。
【0007】
そして、2波長式の炎検出装置にあっては例えば、4.4~4.5μm付近の波長帯と、5.1μm付近の波長帯における各々の放射線エネルギーを狭帯域の光学波長バンドパスフィルタにより選択透過(通過)させて、受光センサにより該放射線エネルギーを検出し、これを光電変換したうえで増幅等所定の加工を施してエネルギー量に対応する電気信号(以下、「受光信号」という)とし、上記各々の波長帯の受光信号レベルの相対比をとり、所定の閾値と比較することにより炎の有無を判定する。
【0008】
これにより、炎以外の赤外線放射体、例えば、スペクトル特性102に示す太陽光(6000°C)等の高温放射体や、スペクトル特性104に示す300°C程度の比較的低温の放射体、スペクトル特性106に示す人体などの低温放射体等と炎との識別が可能となる。
【0009】
また、例えば、上述した2波長に加え、CO2の共鳴放射帯である4.4~4.5μm帯に対し短波長側の、例えば、3.8μm付近の波長帯における放射線エネルギーを2波長式と同様の手法で検出し、これらの3波長帯における各受光信号の相対比によって炎の有無を判定する3波長式の炎検出装置も知られており炎と炎以外の赤外線放射体との識別性能をさらに向上させている。
【0010】
このような炎検出装置をトンネルに設置して道路トンネル内での車両炎を監視する場合、炎検出装置を左右の両方向に検出エリアを持ち、トンネルの長手方向に沿って、隣接して配置される炎検出装置との検出エリアが相互補完的に重なるように、例えば、25m間隔又は50m間隔で連続的に配置している。また、受光素子としては例えば焦電体が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特公昭55-33119号公報
【文献】特公昭59-34252号公報
【文献】特許第3357330号公報
【文献】特開平3-78899号公報
【文献】特開2001-356047号公報
【文献】特開2010-249769号公報
【文献】特開2003-217047号公報
【文献】特開2001-249047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、従来の炎検出装置にあっては、燃焼炎からのCO2の共鳴放射による4.5μm付近の波長帯とこの波長帯を含まない例えば5.1μm付近の波長帯における放射線エネルギーによる各受光信号レベルの相対比をとり、所定の閾値と比較することにより炎の有無を判定しているが、閾値の設定如何によっては、正確に炎の有無を判断しえない場合が想定され、炎の有無をより正確に判断するためには、異なる波長帯の受光信号レベルの相対比以外の要素を取り入れて炎の有無を判断することが望まれる。
【0013】
本発明は、燃焼炎から放射される放射線エネルギーの複数の波長帯について複数の受光ユニットによる受光出力の時間的変化の同時性に基づいて燃焼炎の有無を確実に判断可能とする炎検出装置を提供することを目的とする。
【0014】
ここで、受光ユニットとは、光学波長フィルタと、受光素子を含む光電変換部を備えた受光センサと、該受光センサからの光電変換信号を必要に応じ適宜例えば増幅等して加工処理し受光信号として出力する電気回路を含む信号検出回路ユニットを指すものとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(炎検出装置)
本発明は、炎検出装置であって、
監視領域の、それぞれ異なる所定波長帯の放射線エネルギーを観測した受光信号を出力する複数の受光ユニットと、
各受光ユニットで略同時期に観測して出力した所定期間分の各受光信号から求めたそれぞれの信号振幅の、各受光信号間の相互の相関を燃焼炎の有無判断の第1の要素とする判断部と、
を備え、
判断部第1の要素として所定期間分の前記各受光信号をそれぞれ複数の時間区間に対応する複数の分割区間に分割し、当該所定期間内の複数分割区間のうち基準となる分割区間について信号振幅の積分値の各受光信号間の相互の比に対する、他の全ての分割区間について信号振幅の積分値の比が所定の炎判定閾範囲内となるか否かに基づいて燃焼炎の有無を判断することを特徴とする。
【0016】
判断部は、燃焼炎の有無判断の第2の要素として、所定期間分の各受光信号のうち少なくとも1つの受光信号レベルに基づいて燃焼炎の有無を判断し第2の要素により燃焼炎有りと判断した場合に、第1の要素による燃焼炎の有無判断を実行する。
【0017】
判断部は、第2の要素として、少なくとも1つの受光信号の信号振幅が所定の閾値以上の場合、燃焼炎有りとに基づいて燃焼炎の有無を判断する。
【発明の効果】
【0018】
(基本的な効果)
本発明は、燃焼炎から放射される放射線エネルギーを観測して燃焼炎の有無を判断し検出する炎検出装置であって、燃焼炎から放射される、それぞれ異なる所定波長帯を観測した受光信号を出力する複数の受光ユニットと、各受光ユニットで略同時期に観測して出力した所定期間分の各受光信号の、相互の相関を燃焼炎の有無判断の1要素とする判断部とを備えるようにしたため、相関が高い場合は燃焼炎から放射される放射線エネルギーの時間的な変化が略一致していることから受光ユニットへ入力された光が炎からの放射による可能性有りとし、この相関を炎有り判断の1要素とすることで、燃焼炎の有無をより確実に判断し検出可能とする。
【0019】
(受光ユニットによる効果)
また、1の受光ユニットは、燃焼炎から放射される、CO2共鳴放射帯域を含む所定波長帯の光を選択透過させる光学波長フィルタと、光学波長フィルタを透過した光を受光素子で受光して光電変換した電気信号に基づく受光信号を出力する1または複数の受光素子とを有する受光センサを備え、他の受光ユニットは、燃焼炎から放射される、CO2共鳴放射帯域を含まない所定波長帯の光を選択透過させる光学波長フィルタと、光学波長フィルタを透過した光を受光素子で受光して光電変換した電気信号に基づく受光信号を出力する1または複数の受光素子とを有する受光センサを備え、更に、受光ユニットの各々は、更に、受光センサからの電気信号から所定周波数帯域の信号成分を選択抽出する周波数選択部と、周波数選択部から出力する信号成分を増幅する増幅部とを備えることで、光電ユニットの各々は、燃焼炎から放射される、概ね4.5μmを中心波長とする帯域波長の放射線エネルギー及びこれとは異なる帯域波長の放射線エネルギーの確実に光電変換して受光信号を出力することを可能とする。
【0020】
また、受光センサ内に複数の受光素子を設けることで、例えば、複数の受光素子の受光特性の相違によるばらつきを、複数の受光素子で光電変換した受光出力の加算により抑制して揃えることを可能とする。
【0021】
(2つの受光ユニット)
また、受光ユニットは、少なくとも2つ設けるようにすることで、判断部によって、2つの受光ユニットで略同時期に観測して出力した異なる波長帯における所定期間分の受光信号の、相互の相関を炎判断の他の1要素とすることを可能とする。
【0022】
(信号振幅の相関による炎判断の効果)
また、判断部は、各受光信号の相互の相関を、所定期間分の各受光信号を複数の時間区間に分割した、各分割区間同士の信号積分値の比の全てが所定の炎判定閾範囲内にある場合、受光ユニットへ入力された光が炎からの放射による可能性有りとし、炎有り判断の1要素とすることで、燃焼炎の有りをより確実に判断し検出することを可能とする。
【0023】
(信号振幅の相関による炎判断詳細の効果)
また、判断部は、複数の受光ユニットから出力された所定期間分の各受光信号E1~Emを1以上の整数nの時間区間に分割した場合、これらn個の分割区間の各々について1の受光信号E1の信号積分値ΣE11~ΣE1nと、同じ時間区間に対応する他の受光信号Emの積分値ΣEm1~ΣEmnの比R1~Rnを、
R1~Rn=ΣE11/ΣEm1~ΣE1n/ΣEmn
として求め、最初の時間区間の信号積分値の比R1に対し残りの時間区間の信号積分値の比R2~Rnの全てが所定の炎判定閾範囲内にある場合は、受光ユニットへ入力された光が炎からの放射による可能性有りとし、炎有り判断の1要素とするようにしたため、最初の時間区間の2つの受光信号E1,E2の振幅変化が概ね一致している相関を基準に、残りの時間区間の相関のずれを比較し、相関のずれが少ない場合は燃焼炎の有りを判断し検出することを可能とする。
【0024】
(周波数分布の相関による炎判断の効果)
また、判断部は、各受光信号相互の相関を、所定期間分の各受光信号を複数の時間区間に分割した、所定範囲の周波数の相対レベル分布を求め、各分割区間同士の周波数相対レベル分布の積分値の比の全てが所定の炎判定閾範囲内にある場合、受光ユニットへ入力された光が炎からの放射による可能性有りとし、炎有り判断の1要素とすることで、燃焼炎の有りをより確実に判断し検出することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】炎検出装置の実施形態を示したブロック図
図2図1の炎検出装置に適用される受光ユニットの概略構成を示した説明図
図3図2の受光センサの等価回路を示した回路図
図4】燃焼炎の放射線スペクトルを示した特性図
図5図1の実施形態に適用される光学波長フィルタ及び透光性窓の各波長における透過率を示した特性図
図6】燃焼炎から放射される放射線エネルギーを観測した場合に図1の受光ユニットの各々から出力される受光信号を示した信号波形図
図7】2つの受光信号の振幅変化の相関を判断する図1の判断部の処理動作の手順を示したフローチャート
図8】燃焼炎から放射される放射線エネルギーを観測した場合に図1の受光ユニットの各々から出力される受光信号の周波数分布を示した説明図
図9】2つの受光信号の周波数分布の相関を判断する図1の判断部の処理動作の手順を示したフローチャート
図10】受光ユニットに設けた複数の受光素子からの受光信号を加算する炎検出装置の実施形態を示したブロック図
図11図10の受光センサの等価回路を示した回路図
図12】トンネル内に設置して火災を監視する炎検出装置の他の実施形態を示したブロック図
図13図12の実施形態に適用される光学波長フィルタ及び透光性窓の各波長における透過率を示した特性図
図14】燃焼炎と、その他の代表的な放射体の放射線スペクトルを示した特性図
【発明を実施するための形態】
【0026】
[炎検出装置の概要]
図1は本発明に係る炎検出装置の実施形態を機能構成により示したブロック図、図2図1の炎検出装置に適用される受光ユニットの概略構成を示した説明図、図3図2の受光センサの等価回路を示した回路図、図4は燃焼炎の放射線スペクトルを示した特性図、図5図1の実施形態に適用される光学波長フィルタ及び透光性窓の各波長における透過率を示した特性図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の炎検出装置10は、監視領域に存在する燃焼炎から放射される図4に示すスペクトル特性50をもつ放射線エネルギーを観測するものであり、大別して、燃焼炎からCO2共鳴により放射される、概ね4.5μmを中心波長とする狭帯域波長帯の放射線エネルギーを観測して光電変換による受光信号E1を出力する受光ユニット12aと、燃焼炎からCO2共鳴により放射される概ね4.5μmを含まない例えば概ね2.3μmを中心波長とする狭帯域波長帯の放射線エネルギーを観測して光電変換による受光信号E2を出力する受光ユニット12bと、受光ユニット12a,12bで略同時期に観測して出力した所定期間分の受光信号E1,E2の、相互の相関を燃焼炎の有無判断の1要素とする判断部15とを備える。
【0028】
(受光ユニット構成)
受光ユニット12aは、燃焼炎からCO2共鳴により放射される、概ね4.5μmを中心波長とする狭帯域波長帯を有する放射線エネルギーを電気信号に変換して出力する受光センサ16aと、受光センサ16aから出力される受光信号から、所定の周波数帯域の信号成分のみを通過させる前置フィルタ24aと、前置フィルタ24aを通過した信号成分を初段増幅するプリアンプ26aと、プリアンプ26aからの出力を、後述する炎判断処理に適した信号レベルに増幅して受光信号E1を出力するメインアンプ28aとで構成する。
【0029】
また、受光ユニット12bは、燃焼炎からり放射される、概ね2.3μmを中心波長とする狭帯域波長帯を有する放射線エネルギーを電気信号に変換して出力する受光センサ16bと、受光センサ16bから出力される受光信号から、所定の周波数帯域の信号成分のみを通過させる前置フィルタ24bと、前置フィルタ24bを通過した信号成分を初段増幅するプリアンプ26bと、プリアンプ26bからの出力を、後述する炎判断処理に適した信号レベルに増幅して受光信号E2を出力するメインアンプ28bとで構成する。
【0030】
ここで、受光センサ16a,16bは、サファイアガラス等の赤外線透光性の部材を用いて共用する透光性窓18、光学波長フィルタ20a,20a、及び焦電型の受光素子22a,22bを備えている。
【0031】
受光ユニット12a,12bからアンプ28a,28bを介して出力された受光信号E1、受光信号E2は、判断部15に設けたA/D変換ポート30a,30bによりデジタル受光信号に変換して読み込まれ、後述する炎判断が実行される。以下、各構成について具体的に説明する。
【0032】
(受光センサ16a,16b)
受光ユニット12aに設けた受光センサ16aは、光学波長フィルタ20a、受光素子22a及び共用する透光性窓18で構成する。光学波長フィルタ20aは、図5に示すように、有炎燃焼時に発生するCO2共鳴により放射される概ね4.5μmの波長帯を含む所定帯域の光のみを高い透過率で透過する透過特性54をもつ光学式のバンドパスフィルタであって、例えば、4.5μmを含み且つ、後述する他の波長帯を含まない、所定帯域の光を選択透過する。受光素子22aは焦電体とFETによる光電変換機能を備え、光学波長フィルタ20aを透過した光を受光して電気信号に変換して出力する。
【0033】
具体的には、図2に示すように、受光センサ16aは、基板36aの表面に配置された複数の焦電体25aと基板36aの裏面に配置されたFET27aを備えた受光素子22aと、基板36aを基部38a上に支持するための基板搭載部40aと、基板搭載部40a側の背面側から端子42aが延在して設けられた基部38aと、受光素子22aの前方に狭帯域バンドパスフィルタである光学波長フィルタ20aを備えたカバー部材44aとからなるパッケージ化された構成を有している。
【0034】
また、受光素子22aの等価回路は、図3に示すように、FET27aのゲートから例えば焦電体25と高抵抗29の並列回路を介してゲート端子Gに接続し、またFET27のドレインとソースをそれぞれドレイン端子Dとソース端子Sに接続している。
【0035】
一方、受光センサ16bは、光学波長フィルタ20b、受光素子22b及び共用する透光性窓18で構成する。光学波長フィルタ20bは、図5に示すように、燃焼炎から放射される概ね2.3μmの波長帯を含む所定帯域の光のみを高い透過率で透過する透過特性58をもつ光学式のバンドパスフィルタであって、例えば、2.3μmを含み、CO2共鳴により放射される概ね4.5μmの波長帯の波長帯を含まない、所定帯域の光を選択透過する。受光素子22bは焦電体とFETによる光電変換機能を備え、光学波長フィルタ20bを透過した光を受光して電気信号に変換して出力する。
【0036】
具体的には、図2に示すように、受光センサ16bは、基板36bの表面に配置された複数の焦電体25bと基板36bの裏面に配置されたFET27bを備えた受光素子22bと、基板36bを基部38b上に支持するための基板搭載部40bと、基板搭載部40b側の背面側から端子42bが延在して設けられた基部38bと、受光素子22bの前方に狭帯域バンドパスフィルタである光学波長フィルタ20bを備えたカバー部材44bとからなるパッケージ化された構成を有している。また、受光素子22bの等価回路は、図3に示す受光素子22aと同様である。
【0037】
また、受光センサ16a,16bは、本体カバー46内に設けられた共通の取り付け部材48上に、互いに近接して所定の配列で配置されている。
【0038】
ここで、光学波長フィルタ20a、20bは、例えば、シリコン、ゲルマニウム、サファイア等の基板上に、公知の方法でそれぞれ形成することができる。
【0039】
(透光性窓18)
透光性窓18は、受光センサ16a、16bが収納された本体カバー46の監視エリア側に相当する上面側であって、受光センサ16a、16bの前面側に設けた所定の開口部に配置し、例えば、サファイアガラス等の赤外線透光性の部材により形成している。このため受光素子22a、22bは、各々の受光限界視野が透光性窓18の縁辺部で規制されることにより、略同一の拡がり角度を有する検知エリアが設定される。
【0040】
ここで、透光性窓48を構成するサファイアガラスは、図5に示すように、概ね7.0μm付近以下の波長帯の放射線を良好に透過するショートウェーブパス特性52、換言すれば、概ね7.0μm付近より長波長の放射線を遮断するロングウェーブカット特性を有するフィルタ部材として機能する。また、本実施形態にあっては、透光性窓18は共用部材として、受光センサ16a,16bに含まれるものとして説明する。
【0041】
(受光センサ16a,16この波長透過特性)
図5は、図1の実施形態に適用される光学波長フィルタ及び透光性窓の各波長における透過率を示した特性図である。
【0042】
図1の透光性窓18であるサファイアガラスにより、概ね7.0μm付近以下の放射線が良好に透過するショートウェーブパス特性52と、光学波長フィルタ20aを構成する、概ね4.5μm付近を中心波長とするバンドパスフィルタの、当該中心波長近傍の波長帯の放射線エネルギーを高い透過率で透過する透過率特性54との組合せにより、概ね4.5μmの波長帯の放射線エネルギーを高い透過率で透過する透過特性56をもつ狭帯域バンドパスフィルタを構成する。
【0043】
また、透光性窓18であるサファイアガラスにより、概ね7.0μm付近以下の放射線が良好に透過するショートウェーブパス特性52と、光学波長フィルタ20aを構成する、概ね2.3μm付近を中心波長とするバンドパスフィルタの、当該中心波長近傍の波長帯の放射線エネルギーを高い透過率で透過する透過率特性58との組合せにより、概ね2.3μmの波長帯の放射線エネルギーを高い透過率で透過する透過特性60をもつ狭帯域バンドパスフィルタを構成する。
【0044】
(前置フィルタ24a、24b)
前置フィルタ24a、24bは、周波数選択部として機能し、受光センサ16a,16bの受光素子22a、22bの各々から出力される受光信号から、炎判断処理に用いられる特定の周波数帯域の信号成分のみを通過させる例えばアクティブフィルタであり、後段のプリアンプ26a、26bに特定の周波数帯域の信号成分を含む受光信号を出力する。
【0045】
(プリアンプ26a、26bとメインアンプ28a、28b)
プリアンプ26a、26bは、前置フィルタ24a、24bを介して入力される受光信号を所定の増幅率で初段増幅し、メインアンプ28a,28bは、プリアンプ26a、26bからの各受光信号を、後述する炎判断処理に適した信号レベルに増幅し、受光信号E1,E2として出力する。
【0046】
(A/D変換ポート30a,30b)
A/D変換ポート30a、30bは判断部15の入力ポートとして設けたA/D変換器であり、受光信号(アナログ受光信号)E1,E2を判断部15のデジタル処理に適したデジタル信号に変換して読み込む。
【0047】
(判断部15)
判断部15は、ハードウェアとして、CPU、メモリ、A/D変換ポート30a,30bを含む各種の入出力ポート等を備えたマイクロプロセッサユニット(MPU)等で構成する。また、判断部15は、CPUによるプログラムの実行により炎判断の制御機能を実現する。
【0048】
判断部15は、受光ユニット12a,12bで略同時期に観測して出力した所定期間分の受光信号E1,E2の、相互の相関を燃焼炎の有無判断の1要素とする制御を行う。
【0049】
即ち、判断部15は、受光ユニット12a,12bで略同時期に観測して出力した所定期間分の受光信号E1,E2の、相互の相関を求め、相互の相関が所定基準を充足する場合は、受光ユニット12a,12bへ入力された光が炎からの放射による可能性有りとし、炎有りの1要素として、炎の有無を判断し検出する制御を行う。
【0050】
(受光信号E1,E2の、相互の相関による炎判断)
判断部15による受光ユニット12a,12bで略同時期に観測して出力した所定期間分の受光信号E1,E2の、相互の相関を求めて行う炎判断の詳細を説明すると次のようになる。
【0051】
図6は燃焼炎から放射される放射線エネルギーを観測した場合に図1の受光ユニット12aから出力される4.5μmを中心波長とする狭帯域波長帯の放射線エネルギーによる受光信号E1と、受光ユニット12bから出力される2.3μmを中心波長とする狭帯域波長帯の放射線エネルギーによる受光信号E2を示しており、受光信号E1に対し受光信号E2はレベルの低い相似した波形となっている。
【0052】
また、図6に示す受信信号E1,E2の信号波形は、判断部15に設けたA/D変換ポート30a,30bで、各受光信号E1,E2を例えば64Hzでサンプリングしてデジタル受光信号に変換し、1回の相関演算の対象として所定期間T=2秒の受光信号E1,E2をバッファメモリに一時的に記憶した状態を、アナログ波形として示している。
【0053】
判断部15は、所定期間T=2秒を、例えば500ミリ秒の4つの時間区間T1,T2,T3,T4に分割し、受光信号E1,E2の中点となる基準電位からのプラス及びマイナス側の振幅との差分の絶対値となる積分値として、受光信号E1について、各時間区間T1~T4の積分値ΣE11,ΣE12,ΣE13,ΣE14を求め、また、受光信号E2について、各時間区間T1~T4の積分値ΣE21,ΣE22,ΣE23,ΣE24を求める。
【0054】
次いで、判断部15は、同じ時間区間T1~T4同士の各々について、受光信号E1の信号積分値ΣE11,ΣE12,ΣE13,ΣE14と、受光信号E2の積分値ΣE21ΣE22,ΣE23,ΣE24の比R1,R2,R3,R4を、
R1=ΣE11/ΣE21 式(1)
R2=ΣE12/ΣE22 式(2)
R3=ΣE13/ΣE23 式(3)
R4=ΣE14/ΣE24 式(4)
として求め、これを受光信号E1,E2の、相互の相関とする。
【0055】
受光信号E1,E2の相互の相関を判断するため、判断部15は、最初の時間区間T1の積分値の比R1に基づき、下限閾値TH1と上限閾値TH2を持つ炎判定閾範囲を設定する。
【0056】
判断部15は、下限閾値TH1及び上限閾値TH2を、最初の時間区間T1の比R1に対し例えば±10%の上限と下限の閾値TH1、TH2を、TH1=0.9・R1、TH2=1.1・R1として炎判定閾範囲を設定する。これを一般的に表現すると、最初の区間T1の信号積分値の比R1に、1未満の所定の定数αを乗じて下限閾値TH1(=α・R1)を設定すると共に、1を超える所定の定数βを乗じて上限閾値TH2(=β・R1)を設定することを意味し、係数α,βの値は必要に応じて適宜の値が設定可能である。
【0057】
このように下限閾値TH1と上限閾値TH2を持つ炎判定閾範囲を設定した場合、判断部15は、次の条件の成立の有無を判定する。
0.9R1≦R2≦1.1R1 式(5)
0.9R1≦R3≦1.1R1 式(6)
0.9R1≦R4≦1.1R1 式(7)
【0058】
判断部15は、前記式(5)~(7)の全ての条件の成立を判定した場合、即ち、最初の時間区間T1の信号積分値の比R1に対し、残りの時間区間T2~T4の全ての信号積分値の比R2~R4が所定の炎判定閾範囲内にある場合、受光信号E1,E2の振幅波形が概ね相似し、受光ユニット12a,12bは共に燃焼炎からの放射線エネルギーをそれぞれ異なる波長帯で観測していると推定できることから、この場合に、炎有りの判断の1要素とし、例えば燃焼炎からCO2共鳴により放射される4.5μmを中心波長とする狭帯域波長帯の放射線エネルギーによる十分な振幅レベルを持つ受光信号E1に基づく炎判断を許容する。
【0059】
この場合の受光信号E1による炎判断として、判断部15は、例えば受光信号E1から高速フーリエ変換(FFT)等の演算方法により周波数分布を求め、炎固有のゆらぎ周波数を含む例えば8Hz以下の周波数分布の積分値を求め、この積分値が所定の閾値以上の場合に、炎の可能性ありと判断し、更に他の炎判断の要素を考慮して炎と判断する処理を行う。
【0060】
また、判断部15は、前記式(5)~(7)の少なくとも何れか1つの条件の不成立を判定した場合、即ち、最初の時間区間T1の信号積分値の比R1に対し残りの時間区間T2~T4の信号積分値の比R2~R4の少なくとも1つが所定の炎判定閾範囲を外れた場合は、燃焼炎以外からの放射線エネルギーによる受光信号E1,E2と推定できるので、炎有りの1要素とせず、受光信号E1に基づく炎判断を抑止する。
【0061】
(一般化した相互の相関の判断)
ここで、所定期間Tを分割する区間数iをi=1~nと一般化し、また受光信号をE1~Emと一般化すると、判断部15は、所定期間Tを、区間T1~Tnに分割し、受光信号E1,Emの中点となる基準電位に対する差分の絶対値を積算した値(振幅積分値)として、受光信号E1について、各時間区間T1~Tnの積分値ΣE11~ΣE1nを求め、また、受光信号Emについて、各時間区間T1~Tnの積分値ΣEm1~ΣEmnを求め、更に、両者の比R1~Rnを、
R1~Rn=ΣE11/ΣEm1~ΣE1n/ΣEmn
として求め、これを受光信号E1,Emの、相互の相関とする。
【0062】
次いで、前述と同様にして下限閾値TH1と上限閾値TH2を設定した場合、判断部15は、次の炎判定閾範囲内となる条件の成立の有無を判定する。
0.9R1≦R2≦1.1R1~0.9R1≦Rn≦1.1R1
この炎判定閾範囲内となる条件の成立を判定した場合、受光信号E1,E2の振幅波形が概ね相似し、受光ユニット12a,12bは燃焼炎からの放射線エネルギーを観測していると推定できることから、炎有りの判断の1要素とし、受光信号E1に基づく炎判断を許容する。
【0063】
一方、判断部15は、炎判定閾範囲外となる少なくとも何れか1つの条件の不成立を判定した場合は、燃焼炎以外からの放射線エネルギーによる受光信号E1,E2と推定できるので、炎有りの1要素とせず、受光信号E1に基づく炎判断を抑止する。
【0064】
(炎判断の処理動作)
図7は2つの受光信号の振幅変化の相関を判断する図1の判断部の処理動作の手順を示したフローチャートである。
【0065】
(ステップS1)
まず、判断部15は、受光ユニット12a,12bから出力する受光信号E1,E2を、所定サンプリング周期でA/D変換ポート30a、30bを介して所定時間T、例えばT=2秒に亘り取り込み、バッファメモリに一時的に記憶する。
【0066】
(ステップS2)
次いで、判断部15は、ステップS1で取り込んだ所定期間Tの受光信号E1,E2を4つの時間区間T1,T2,T3,T4に分割し、各分割区間T1~T4の受光信号E1の信号振幅の積分値ΣE11,ΣE12,ΣE13,ΣE14と、受光信号E2の積分値ΣE21,ΣE22,ΣE23,ΣE24を算出する。
【0067】
なお、ステップS2以降の処理は、判断部15がA/D変換ポート30aから取り込んでいる受光信号E1の信号レベルが所定の閾値以上となった場合に実行することが望ましい。
【0068】
(ステップS3)
次いで、判断部15は、ステップS2で算出した受光信号E1,E2の各分割区間T1~T4の積分値の比R1,R2,R3,R4を前記式(1)~(4)により算出する。
【0069】
(ステップS4)
次いで、判断部15は、最初の時間区間T1の積分値の比R1に基づき、下限閾値TH1と上限閾値TH2を、例えばTH1=0.9・R1、TH2=1.1・R1とした炎判定閾範囲を設定する。
【0070】
(ステップS5)
次いで、判断部15は、ステップS3で算出した受光信号E1,E2の最初の時間区間T1に続く残りの時間区間T2~T4の積分値の比R2,R3,R4が前記式(5)~(7)により下限閾値TH1と上限閾値TH2を持つ炎判定閾範囲内か否か判定する。
【0071】
(ステップS6、S7)
次いで、判断部15は、ステップS6で前記式(5)~(7)の全ての条件が成立することで、時間区間T2~T4の積分値の比R2,R3,R4が全て炎判定閾範囲内にあることを判定した場合に、受光信号E1,E2の振幅波形が概ね相似して燃焼炎からの放射線エネルギーによる受光信号であると推定して、炎判断の1要素と判断し、ステップS7に進んで受光信号E1に基づく炎判断を許容する。
【0072】
(ステップS6、S8)
一方、判断部15は、ステップS6で前記式(5)~(7)の少なくとも何れか1つの条件の不成立を判定した場合、即ち、TH1=0.9・R1、TH2=1.1・R1とした炎判定閾範囲外にあることを判定した場合、受光ユニット12a,12bからの受光信号E1,E2は燃焼炎からの放射線エネルギーによるものではないと推定し、ステップS8に進んで、受光信号E1に基づく炎判断を抑止する。
【0073】
[受光信号E1,E2の周波数分布の、相互の相関による判断]
(判断部15の概要)
図1に示した判断部15の他の実施形態として、受光信号E1,E2の周波数分布から相互の相関を求めて炎判断を行うことができる。
【0074】
この場合、判断部15は、受光ユニット12a,12bから出力された受光信号E1,E2の相互の相関を、所定期間分の各受光信号を複数の時間区間に分割して、各分割区間の受光信号から所定範囲の周波数の相対レベル分布(周波数分布)を求め、各分割区間同士の周波数の相対レベル分布の積分値の比が全て所定の炎判定閾範囲内にある場合、受光ユニット12a,12bへ入力された光が炎からの放射による可能性有りとし、炎有り判断の1要素として、炎の有無を判断し検出する制御を行う。
【0075】
(判断部の周波数分布の相互相関に基づく炎判断)
図8は、燃焼炎から放射される放射線エネルギーを観測した場合に図1の受光ユニット12a,12bの各々から出力される受光信号E1,E2の周波数分布を示した説明図である。
【0076】
図8に示すように、燃焼炎から放射される放射線エネルギーを周波数軸で観測すると、概ね8Hzよりも低周波側に高い出力レベルを示す周波数特性が得られることから、実質的な炎のちらつき周波数が8Hzまでの周波数帯域に存在し、8Hzを超える例えば16Hzまでの高周波側は低いレベルを示す。このため、受光信号E1,E2の周波数分布の相互の相関は、例えば8Hzまでの範囲となる低周波側の周波数分布の相関を判断すれば良い。
【0077】
まず、判断部15は、受光ユニット12a,12bから出力された所定期間T=2秒の受光信号E1,E2をA/D変換してバッファメモリに記憶し、例えば500ミリ秒の4つの時間区間T1,T2,T3,T4に分割し、各時間区間T1~T4の受光信号E1,E2をそれぞれ高速フーリエ変換(FFT)して、各時間区間での周波数の相対レベル分布を求める。
【0078】
続いて、判断部15は、受光信号E1の各区間T1~T4の周波数の相対レベル分布の積分値Σf11,Σf12,Σf13,Σf14を求め、また、受光信号E2についても、各区間T1~T4の周波数の相対レベル分布の積分値Σf21,Σf22,Σf23,Σf24を求める。
【0079】
次いで、判断部15は、同じ時間区間T1~T4の各々について、受光信号E1の周波数分布の積分値Σf11,Σf12,Σf13,Σf14と、受光信号E2の周波数分布の積分値Σf21Σf22,Σf23,Σf24との比Rf1,Rf2,Rf3,Rf4を、
Rf1=Σf11/Σf21 式(8)
Rf2=Σf12/Σf22 式(9)
Rf3=Σf13/Σf23 式(10)
Rf4=Σf14/Σf24 式(11)
として求め、これを受光信号E1,E2の、周波数分布の相互の相関とする。
【0080】
受光信号E1,E2の周波数の相対レベル分布の相互の相関を判断するため、判断部15は、最初の時間区間T1の積分値の比Rf1に基づき、下限閾値TH1と上限閾値TH2を持つ炎判定閾範囲を設定する。
【0081】
判断部15は、下限閾値THf1及び上限閾値THf2を、最初の時間区間T1の比Rf1に対し例えば±10%の炎判定閾範囲とし、THf1=0.9・Rf1、THf2=1.1・Rf1に設定する。
【0082】
このように下限閾値TH1と上限閾値TH2を持つ炎判定閾範囲を設定した場合、判断部15は、次の条件の成立の有無を判定する。
0.9Rf1≦Rf2≦1.1Rf1 式(12)
0.9Rf1≦Rf3≦1.1Rf1 式(13)
0.9Rf1≦Rf4≦1.1Rf1 式(14)
【0083】
判断部15は、前記式(12)~(14)の全ての条件の成立を判定した場合、即ち、最初の時間区間T1の周波数の相対レベル分布の積分値の比Rf1に対し、残りの時間区間T2~T4の全ての周波数の相対レベル分布の積分値の比Rf2~Rf4が所定の炎判定閾範囲内にある場合、受光信号E1,E2の周波数分布が概ね相似し、受光ユニット12a,12bは共に燃焼炎からの放射線エネルギーによる受光信号E1,E2を出力していると推定でき、炎有りの判断の1要素とし、例えば受光信号E1に基づく炎判断を許容する。
【0084】
また、判断部15は、前記式(12)~(14)の少なくとも何れか1つの条件の不成立を判定した場合、即ち、最初の時間区間T1の周波数分布の積分値の比Rf1に対し残りの時間区間T2~T4の周波数の相対レベル分布の積分値の比Rf2~Rf4の少なくとも1つが所定の炎判定閾範囲を外れた場合は、受光ユニット12a,12bは燃焼炎以外からの放射線エネルギーによる受光信号E1,E2を出力していると推定でき、炎有りの1要素とせず、受光信号E1に基づく炎判断を抑止する。
【0085】
(周波数分布の相関に基づく炎判断の処理動作)
図9は2つの受光信号の周波数分布の相関を判断する図1の判断部の処理動作の手順を示したフローチャートである。
【0086】
(ステップS11)
まず、判断部15は、受光ユニット12a,12bから出力する受光信号E1,E2を、所定サンプリング周期でA/D変換ポート30a、30bを介して所定時間T、例えばT=2秒に亘り取り込み、バッファメモリに一時的に記憶する。
【0087】
(ステップS12)
次いで、判断部15は、ステップS11で取り込んだ所定期間Tの受光信号E1,E2を4区間T1,T2,T3,T4に分割し、各区間T1~T4の受光信号E1を高速フーリエ変換して8Hz以下の周波数範囲における相対レベル分布の積分値Σf11,Σf12,Σf13,Σf14と、受光信号E2について、高速フーリエ変換して8Hz以下の周波数範囲における相対レベルの積積分値Σf21,Σf22,Σf23,Σf24を算出する。
【0088】
なお、ステップS12以降の処理は、判断部15がA/D変換ポート30aから取り込んでいる受光信号E1の信号レベルが所定の閾値以上となった場合に実行することが望ましい。
【0089】
(ステップS13)
次いで、判断部15は、ステップS12で算出した受光信号E1,E2の各区間T1~T4の周波数の相対レベル分布の積分値の比Rf1,Rf2,Rf3,Rf4を前記式(8)~(11)により算出する。
【0090】
(ステップS14)
次いで、判断部15は、最初の区間T1の周波数の相対レベル分布の積分値の比Rf1に基づき、下限閾値THf1と上限閾値THf2を、例えばTHf1=0.9・Rf1、THf2=1.1・Rf1に設定する。
【0091】
(ステップS15)
次いで、判断部15は、ステップS13で算出した受光信号E1,E2の最初の区間T1に続く残り区間T2~T4の周波数の相対レベル分布の積分値の比Rf2,Rf3,Rf4を前記式(12)~(14)により下限閾値TH1と上限閾値TH2を持つ炎判定閾範囲内となるか否か判定する。
【0092】
(ステップS16、S17)
次いで、判断部15は、ステップS16で前記式(12)~(14)の全ての条件が成立することで炎判定閾範囲内にあることを判定した場合、受光信号E1,E2の周波数分布か概ね相似し、受光ユニット12a,12bは燃焼炎からの放射線エネルギーによる受光信号E1,E2を出力している推定し、炎判断の1要素と判定し、ステップS17に進んで、受光信号E1に基づく炎判断を許容する。
【0093】
(ステップS16、S18)
一方、判断部15は、ステップS16で前記式(12)~(14)の少なくとも何れか1つの条件の不成立を判定した場合、即ち、THf1=0.9・Rf1、THf2=1.1・Rf1とした炎判定閾範囲外にあることを判定した場合、受光ユニット12a,12bは燃焼炎以外の放射線エネルギーによる受光信号E1,E2を出力していると推定し、ステップS18に進んで、受光信号E1炎判断を抑止する。
【0094】
[複数の受光素子を備えた受光ユニットの実施形態]
図10は受光ユニットに設けた複数の受光素子からの受光信号を加算する炎検出装置の他の実施形態による機能構成を示したブロック図である。
【0095】
図10に示すように、本実施形態の受光ユニット12a,12bに設けた受光センサ16a,16bは、4つの受光素子22a,22bを各々備えている。受光素子22a,22bは、図2に示したカバー部材44a,44bの内部に配置した基板36a,36bの表側に例えば4個の焦電体25a,25bを配置し、図11の受光センサ16aの等価回路に示すように、焦電体25a、高抵抗29及びFET27aで構成した4つの受光素子22aを設け、各FET27aのドレインとゲートをそれぞれドレイン端子Dとゲート端子Gに共通接続し、各FET27aのソースはソース端子S1~S4に個別に接続している。
【0096】
再び図10を参照するに、4つの受光素子22a,22bの出力は4つの前置フィルタ24a,24bを通過した後に、電流出力となる4つの受光信号を加算(電流加算)してプリアンプ26a,26bに入力している。
【0097】
ここで、4つの受光素子22aからの受光出力は、4つの前置フィルタ24aを通過した後に受光電流を加算してプリアンプ26aに入力していることから、ランダムなノイズ成分については電流加算による増加はほとんどなく、燃焼炎からCO2共鳴により放射される、概ね4.5μmを中心波長とする狭帯域波長帯の放射線エネルギーを光電変換した信号成分の電流加算となり、S/N比を低下させることなく、1つの受光素子による受光出力の概ね4倍に相当する受光電流としての受光信号を生成可能とする。
【0098】
この点は、4つの受光素子22bからの出力についても同様であり、4つの前置フィルタ24bを通過した後に受光電流を加算してプリアンプ26bに入力していることから、ランダムなノイズ成分については電流加算による増加はほとんどなく、燃焼炎から放射される、概ね2.3μmを中心波長とする狭帯域波長帯の放射線エネルギーを光電変換した信号成分の電流加算となり、S/N比を低下させることなく、1つの受光素子による受光出力の概ね4倍に相当する受光電流としての受光信号を生成可能とする。
【0099】
このように光学ユニット12a,12bは、受光する燃焼炎から放射された放射線エネルギーが微弱であっても、4つの受光素子22a,22bで光電変換した受光信号を加算することで、受光ユニット12a,12はS/N比を低下することなく十分なレベルをもつ受光信号E1,E2を出力可能となり、炎検出エリアを大幅に拡大可能とする。
【0100】
なお、プリアンプ26a,26bから判断部15までの構成及び機能は、図1の実施形態の場合と同様になることから、その説明を省略する。
【0101】
また、受光センサ16a,16bに設ける受光素子22a,22bの数は必要に応じて適宜に定めることができる。また、受光センサ16a,16bに設ける受光素子22a,22bの数は同数としても良いし、その数を異ならせるようにしても良い。
【0102】
[トンネル用炎検出装置]
次に、図1の実施形態に示した炎検出装置の構成を、トンネル用の炎検出装置に適用した場合の実施形態について説明する。
【0103】
図12はトンネル内に設置して炎を監視する炎検出装置の他の実施形態を示したブロック図である。
【0104】
(受光ユニット12a,12b)
図12に示すように、受光ユニット12a,12bは、図1の実施形態と同じであり、燃焼炎からCO2共鳴により放射される、概ね4.5μmを中心波長とする狭帯域波長帯の放射線エネルギーを観測した受光信号E1と概ね2.3μmを中心波長とする狭帯域波長帯の放射線エネルギーを観測した受光信号E2を出力し、それぞれ判断部15に設けたA/D変換ポート30a,30bの各々でデジタル受光信号に変換して取り込んでいる。
【0105】
(受光ユニット12c)
受光ユニット12cは、受光センサ16a,16bとは異なる所定の波長帯を有する放射線エネルギーを電気信号に変換して出力する受光センサ16cを備える。即ち、受光ユニット12cは、概ね5.0μm~7.0μmの波長帯の放射線エネルギーを電気信号に変換した受光信号E3を出力する。
【0106】
また、受光ユニット12cは、受光センサ16cに続いて、受光センサ16cから出力される受光信号から、所定の周波数帯域の信号成分のみを通過させる前置フィルタ24cと、前置フィルタ24cを通過した信号成分を初段増幅するプリアンプ26cと、プリアンプ26cからの出力を増幅するメインアンプ28cとで構成する。受光ユニット12cのメインアンプ28cから出力された受光信号E3は、判断部15のA/D変換ポート30cによりデジタル受光信号に変換して読み込まれ、炎の判断処理に用いられる。
【0107】
(受光センサ16cの構成)
受光センサ16cは、概ね5.0μmを超える所定の波長帯の放射線を良好に透過するカットオンフィルタで構成されるロングパスフィルタである光学波長フィルタ20cと、光学波長フィルタ20cを透過した光を受光して電気信号に変換して出力する図3の等価回路でなる受光素子22cを備え、図2に示したと同様な構造により、パッケージ化された構成を有し、光学ユニット12a,12bの受光センサ16a,16bと共に、本体カバー46内に設けられた共通の取り付け部材48上に、互いに近接して所定の配列で配置している。
【0108】
(透光性窓18)
透光性窓18は、図2に示した受光センサ16a,16bと共に受光センサ16cが収納された本体カバー46の監視エリア側となる前面側に設けられた所定の開口部に配置され、例えば、サファイアガラス等の赤外線透光性の部材により形成され、受光センサ16a,16b、16cの受光素子22a,22b,22cは、各々の受光限界視野が透光性窓18の縁辺部で規制されることにより、略同一の拡がり角度を有する検知エリアが設定される。
【0109】
(受光センサ16a~16cの波長透過特性)
図13は、図12の実施形態に適用される光学波長フィルタ及び透光性窓の各波長における透過率を示した特性図である。
【0110】
図13に示すように、受光センサ16aの透過特性56と受光センサ16bの透過特性60は図5と同じになる。
【0111】
一方、受光センサ16cは、透光性窓18であるサファイアガラスにより、概ね7.0μm付近以下の放射線エネルギーが良好に透過するショートウェーブパス特性52と、光学波長フィルタ20cを構成するロングパスフィルタの、概ね5.0μm付近を超える所定の波長帯の放射線エネルギーを良好に透過するカットオンフィルタ特性を有する透過率特性62との組合せにより、概ね5.0μm~7.0μmの波長帯の放射線エネルギーを高い透過率で透過する透過特性64をもつ広帯域バンドパスフィルタを構成する。
【0112】
(炎判断)
判断部15は、受光ユニット12a,12bから出力される受光信号E1,E2の所定期間の、相互の相関から炎有りの1要素を判断した場合、受光信号E1および受光ユニット12cから出力した受光信号E3を、A/D変換ポート30a,30cを介して所定時間取り込み、受光信号E1,E3毎に信号振幅の時間積分処理を行い、積分値ΣE1,ΣE3を算出する。ここで、積分値ΣE1,ΣE3は、便宜上、炎積分値ΣE1,非炎積分値ΣE3として区別する。
【0113】
次いで、判断部15は、炎積分値ΣE1が、予め設定された基準レベル以下の場合には、炎に相当する受光出力が検出されなかったものと判断し、一方、炎積分値ΣE1が基準レベルを超えた場合には、非炎積分値ΣE3との相対比(ΣE1/ΣE3)を算出し、相対比(ΣE1/ΣE3)が、予め設定された閾値を超えた場合は、炎と判定して炎判断の1要素とし、閾値以下の場合には、例えば、人体や車両等の炎以外の比較的低温の放射線源による受光出力があったものとして、炎判断は抑止して行わない。
【0114】
なお、判断部15は、受光ユニット12a,12bから出力される受光信号E1,E2の所定期間の、相互の相関から炎有りの1要素を判断した場合、図1の実施形態に示したように、A/D変換ポート30aを介して所定時間取り込んだ受光信号E1の高速フーリエ変換による8Hz以下の周波数帯域の周波数分布を他の1要素とし、複数の要素に基づく複合的な炎判断を行うようにしてもよい。
【0115】
[本発明の変形例]
上記の実施形態は、各受光信号の相互の相関を、所定期間分の各受光信号を複数の時間区間に分割した、各分割区間同士の信号積分値の比から燃焼炎の有無を判定しているが、信号積分値の比に限定されず、各受光信号の相関係数等の適宜の値による相互の相関から燃焼炎の有無を判定しても良い。
【0116】
また、上記の実施形態は、トンネル用の炎検出装置として、燃焼炎のCO2共鳴放射帯である4.5μm付近の波長帯と2.3μm付近の波長帯の放射線エネルギーの観測による相関と、及び5.0μm付近の波長帯における放射線エネルギーを観測して炎を判定しているが、4.5μm付近の波長帯と2.3μmの波長帯の放射線エネルギーの観測による相関と、3.8μm付近の波長帯における放射線エネルギーを観測して炎の有無を判定するようにしても良い。
【0117】
また、4.5μm付近の波長帯と2.3μmの波長帯の放射線エネルギーの観測による相関に加え、3.8μm付近の波長帯及び5.0μm付近の波長帯における放射線エネルギーを観測して炎の有無を判定するにようにしても良い。
【0118】
また、本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0119】
10:炎検出装置
12a,12b,12c:受光ユニット
15:判断部
16a,16b,16c:受光センサ
18:透光性窓
20a,20b,20c:光学波長フィルタ
22a,22b,22c:受光素子
24a,24b,24c:前置フィルタ
25a,25b:焦電体
26a,26b,26c:プリアンプ
27a,27b:FET
28a,28b,28c:メインアンプ
30a,30b,30c:A/D変換ポート
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