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特許7170804全血中の被検査物濃度を測定する方法及び装置
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  • 特許-全血中の被検査物濃度を測定する方法及び装置 図1
  • 特許-全血中の被検査物濃度を測定する方法及び装置 図2A
  • 特許-全血中の被検査物濃度を測定する方法及び装置 図2B
  • 特許-全血中の被検査物濃度を測定する方法及び装置 図3A
  • 特許-全血中の被検査物濃度を測定する方法及び装置 図3B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】全血中の被検査物濃度を測定する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20221107BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20221107BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
G01N33/48 H
G01N21/17 Z
G01N33/50 L
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021144966
(22)【出願日】2021-09-06
(62)【分割の表示】P 2019569461の分割
【原出願日】2018-06-07
(65)【公開番号】P2022020613
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】62/520,087
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507269175
【氏名又は名称】シーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティックス・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】SIEMENS HEALTHCARE DIAGNOSTICS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】特許業務法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ドゥバイ,サティシュ クマール
(72)【発明者】
【氏名】ラル,アシシュ クマール
(72)【発明者】
【氏名】プラブ,ヴィシャール マンジャナス
(72)【発明者】
【氏名】レッデン,デビッド
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-164372(JP,A)
【文献】国際公開第2016/193066(WO,A1)
【文献】特表平09-511065(JP,A)
【文献】特表2004-505291(JP,A)
【文献】国際公開第2017/200907(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
G01N 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全血試料中の被検査物の濃度を測定する方法であって、
外面(307)及び内面を含むマイクロ流体チャンネル(309)を通して前記全血試料を流し、前記マイクロ流体チャンネル(309)の内部に光ファイバ(301)が使用されており、全血が前記マイクロ流体チャンネル(309)を流れる際に前記全血が前記光ファイバ(301)を取り囲み、前記光ファイバ(301)が前記マイクロ流体チャンネル(309)の前記内面に接触しないように前記光ファイバ(301)は前記マイクロ流体チャンネル(309)の中心軸と平行に配置されており、
フォーレウス効果を用いて前記光ファイバ(301)の周囲の遊離血漿層(302)と、前記マイクロ流体チャンネル(309)の前記外面(307)に沿って形成された遊離血漿層(308)とを、また、前記遊離血漿層(302)及び前記遊離血漿層(308)の間に赤血球の層(306)を、形成し、
前記血漿層(302)に光(303)を照射し、
前記血漿層(302)から反射された反射(305)を捕捉し、
前記被検査物の濃度を決定するために前記反射光(305)を分析する、
方法。
【請求項2】
前記全血試料が前記マイクロ流体チャンネル(309)を通って流れるとき、血球が前記マイクロ流体チャンネル(309)の中央に移動し、それによって前記マイクロ流体チャンネル(309)の内表面に血漿層(302)を形成する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記血漿層(302)から光を反射させるのに十分な角度で前記血漿層(302)に光が照射される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
さらに、前記反射光(304)は前記血漿層(302)に戻るように方向転換される、請求項記載の方法。
【請求項5】
前記光ファイバ(301)の内面に光(303)が照射され、それによって照射された光が複数回反射する、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記反射光(305)が分光光度計を用いて捕捉される、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記被検査物がヘモグロビンである、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2017年6月15日に提出された米国仮出願第62/520,087号に対する優先権を主張するものであり、本明細書中で、その全体を参照として援用する。
【0002】
本開示は、全血の分析技術分野に関し、具体的には、全血中の検査物の濃度を決定する技術分野に関する。
【背景技術】
【0003】
溶血とは、赤血球が全血中で破裂し、その内容物を血漿中に放出する現象である。この状態は、免疫反応、感染症、投薬など様々な理由で起こることがある。溶血は、個々の体内で起こることもあれば、血液が体外に抜き出された後に起こることもある。溶血の主な原因は、個々の体からの血液試料の採取を含む血液試料の取扱いの分析前段階にある。その結果、鎌状赤血球貧血などの溶血状態を呈することがある。溶血時には、血漿中に血液細胞の内容物が流出するため、血漿の組成が変化する。血液血漿の組成が一定の閾値を超えて変化した場合は、血液試料に溶血の標識が付される。血漿の組成がより高い閾値を超えて変化した場合、血液試料はさらなる使用ができなくなる可能性があるため、除去しなければならない。従って、本発明の目的は、全血試料中の被検査物、特に、細胞外ヘモグロビンの濃度を測定する方法を提供することである。
【発明の概要】
【0004】
全血試料中の被検査物の濃度を測定する方法を開示する。本発明の一態様において、本方法は、全血試料中に血漿層を生成することを含む。この方法はまた、血漿層を光に曝すことを含む。さらに、この方法は、血漿層から反射された光を捕捉することを含む。またさらに、この方法は、被検査物の濃度を決定するために反射光を分析することも含む。
【0005】
別の態様において、全血試料中の被検査物の濃度を決定するための装置は、全血を運搬するように構成されたチャンネルと、チャンネル上に光を照射するように構成された光源と、測定装置とを備える。測定装置は、チャンネルの表面から反射した光を捕捉するように構成されている。さらに、測定装置は、反射光の波長の変化を計算するように構成され、ここで、反射光の波長の変化は、全血中の被検査物の濃度に比例する。
【0006】
本発明の概要は、簡略化された形で概念の選択を始めるために、以下の説明でさらに詳しく述べる。それは、クレームに係わる主題の特徴又は本質的な特徴を特定することを意図したものではない。さらに、クレームに係わる主題は、本開示のいずれかの部分で言及した何らかの又は全ての課題を解決する実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明は、添付図面に示した図示の実施形態を参照して、以下にさらに詳しく説明する。
【0008】
図1図1は、全血中の披検査物の濃度を決定する例示的方法のフローチャートを示す。
【0009】
図2A図2Aは、血漿中の被検査物の濃度の決定に使用できる例示的装置の側面図を示す。
【0010】
図2B図2Bは、血漿中の被検査物の濃度の決定に使用できる例示的装置の垂直断面図を示す。
【0011】
図3A図3Aは、血漿中の被検査物の濃度の決定に使用できる例示的装置の別の実施形態の側面図を示す。
【0012】
図3B図3Bは、血漿中の被検査物の濃度の決定に使用できる、例示的装置の断面図の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための実施形態を詳細に説明する。各種実施形態は、図面を参照して説明する。ここでは、同一の参照符号は、明細書全体にわたって同一要素を示す。以下の説明では、説明の目的で、1つ以上の実施形態を完全に理解するために、多くの具体的な詳細を説明する。上記の実施形態は、これらの具体的な詳細な説明なしに実施することができることは明白であろう。他の例では、本開示の実施形態を不必要に不明瞭にすることを避けるために、周知の材料又は方法を詳細に説明していない。本開示は、種々の変更を加えても、別の形態であってもよい。その特定の実施形態の例を、図面に示し本明細書で詳細に説明する。しかしながら、本開示を開示された特定の形態に限定する意図はないことを理解すべである。それどころか、本開示は、本開示の精神及び範囲内に含まれる全ての変更例、均等物、及び代替物を包含する。
【0014】
全血中の溶血の光学的検出は、血液細胞、特に、赤血球(RBC)から激しい妨害のために困難な場合がある。溶血を検出するために血漿を全血から分離するには時間がかかり骨が折れる。従って、全血からの血漿の分離を必要としない溶血を検出できる方法が必要であり、これはより迅速かつ費用効率がよい。
【0015】
図1は、全血中に存在する被検査物の濃度を決定する例示的方法100の実施形態のフローチャートを示す。この方法100は、全血試料中に血漿層を生成するステップ101を含む。全血試料中の血漿層は、試料を流体チャンネル、例えば、マイクロ流体チャンネルを通過させることによって生成できる。流体チャンネルは、例えば、ガラスのような透明媒体で形成してもよく、外表面及び内表面を含む。全血が直径の小さいチャンネルを流れると、赤血球はチャンネルの中心に移動し、そうすることでチャンネルの壁に血漿層が形成される。この現象は「フォーレウス(Fahraeus effect)効果」と呼ばれている。フ
ォーレウス効果により、血液が流れるチャンネルの直径が小さくなると、赤血球の平均濃度が低下する。溶血時、赤血球は破裂し、ヘモグロビンなどの被検査物を含む赤血球の内容物が血漿中に漏出する。
【0016】
フォーレウス効果を利用することにより、赤血球の濃度をマイクロ流体チャンネルの壁に沿って減少させることができる。従って、マイクロ流体チャンネルの壁に沿って生成される血漿層は赤血球が存在しない。従って、血漿層中のヘモグロビンなどの被検査物の濃度は、血球の妨害なしに効果的に決定することができる。
【0017】
ステップ102で、生成された血漿層を光に曝す。血漿層は、全内部反射臨界角より大きい角度で400~750nmの範囲の波長の光で照射される。全内部反射臨界角は、光が界面から全反射する入射角である。入射光はマイクロ流体チャンネルの媒体を通過し、チャンネルの壁で生成した血漿層と相互作用する。一実施形態では、マイクロ流体チャンネルと共に、マイクロ流体チャンネルの表面ではなく血漿層から光が確実に反射されるように、屈折率整合剤を使用することができる。屈折率整合剤の例としては、流体や固体が挙げられる。また、屈折率整合剤の例としては、パラフィン、グリセリン、及び糖溶液が挙げられるが、これらに限定されない。またさらに、屈折率整合剤の例としては、ガラスが挙げられるが、これに限定されない。代替実施形態では、マイクロ流体チャンネルを別のガラス片に貼り付けることもできる。マイクロ流体チャンネルとガラス片との間に使用する接着剤の屈折率は、ガラスの屈折率と同じでなければならない。その代わりに、マイクロ流体チャンネルは、最新技術で周知の技術を用いて、ガラス表面上にエッチングしてもよい。
【0018】
図2Aに示すように、照射された光は血漿層によって複数回反射されることがある。図2Aは、血漿中の被検査物の濃度を決定するのに使用できる例示的装置200の側面図を示す。この装置は、マイクロ流体装置などの流体装置である。実施形態では、チャンネル209が透明材料208の第1層上にエッチングされる。チャンネル209は、例えば、マイクロ流体チャンネルでよい。透明材料208の第1層は、外側表面202と内側表面203とを有する。マイクロ流体チャンネル209は、透明材料208の内面203によって規定される。透明材料207の第2層が透明材料208の第1層上に配置される。透明材料207、208の層は、例えば、ガラスのような、屈折率整合剤で作ることができる。マイクロ流体チャンネル209は全血試料を含む。フォーレウス効果により、赤血球206はマイクロ流体チャンネル209の中心に移動し、それによってマイクロ流体チャンネル209の内表面203に沿って遊離血漿層204を生成する。図2Bは、例示的装置200の垂直断面図を示す。赤血球206は、フォーレウス効果によりマイクロ流体チャンネル209の中心に集まる。赤血球の周囲には、血漿204層が生成される。照射光201はガラス表面に入射し、マイクロ流体チャンネル209の内面203で血漿層204と相互作用する。マイクロ流体チャンネル209の内面203に衝突すると、光はマイクロ流体チャンネル209の内面と外面の間で複数回反射することができる。全反射の臨界角は空気‐ガラス界面とガラス‐血漿界面で異なっている。図2A及び2Bで選択した入射角は、複数の反射を確実にするために、空気-ガラス界面及びガラス-血漿界面の臨界角よりも大きい。ステップ103では、反射光205が捕捉される。反射光205は、分光光度計を用いて補足することができる。ステップ104では、捕捉された反射光205を分析して、波長の変化を検出する。反射光205の波長は、分離した血漿層204内の被検査物の濃度に応じて変化するかもしれない。ステップ105では、反射光205の波長に基づいて被検査物の濃度を決定する。
【0019】
図3Aは、血漿中の被検査物の濃度の決定に使用することができる例示的装置300の別の実施形態の側面図を示す。この実施形態では、装置300は、チャンネル309内にある光ファイバ301を有する。チャンネル309は、マイクロ流体チャンネルであってもよい。例示的実施形態では、光ファイバ301は、チャンネル309の中央又は中央の方又はチャンネル309の内部表面に隣接していてもよい。全血試料は、マイクロ流体チャンネル309を一定の流速で流れる。全血がマイクロ流体チャンネル309を流れる速度は、フォーレウス効果が効果的に発揮され得る範囲内にあってもよい。光ファイバ301は、ガラス又はプラスチックの薄く透明な繊維であってもよく、クラッディングは存在しない。図3Bは、光ファイバ301が中央にあるチャンネル309を有する、装置300の垂直断面図を示す。チャンネル309は、装置300の外面307によって規定される。光ファイバ301は、マイクロ流体チャンネル309の中心軸と平行に配置される。マイクロ流体チャンネル309の中心軸は、マイクロ流体チャンネル309内の全血の流路と平行である。一実施形態では、光ファイバ301がマイクロ流体チャンネル309の内面に接触しないように、光ファイバ301と中心軸に平行に配置してもよい。マイクロ流体チャンネル309の内部に光ファイバ301が配置されるため、光ファイバ301の周囲に、フォーレウス効果により遊離血漿302層が生成される。フォーレウス効果により、マイクロ流体チャンネル309の壁に沿って血漿308の追加層を形成してもよい。遊離血漿層302と308の間には、赤血球306の層が形成される。図3A及び3Bに示す実施形態において、この赤血球層306は、光ファイバに沿って延び、その周囲を取り囲んでいる。代替実施形態では、光ファイバ301は、マイクロ流体チャンネル309の内面と接触して配置してもよい。光303が光ファイバ301内に照射されると、光303は血漿の分離層と相互作用し反射される。光ファイバ301内では、光303は光ファイバ301の表面間で複数回304反射してもよい。照射光303の多重反射304現象により、信号増幅を可能にするために、全血試料中に存在する被検査物の濃度の正確な決定を可能にする。そのため、反射光305はさらに分光光度計により捕捉され、反射光305の波長の変化が検出される。反射光305の波長に基づいて、全血試料中の被検査物の濃度が決定される。ここで、被検査物の濃度は反射光305の波長に比例する。
【0020】
この方法100は、マイクロ流体環境における全血試料中の溶血の測定を可能にする。従って、試料量の要件は少ない。さらに、被検査物の濃度の決定に追加試薬が必要ないので、この方法は費用対効果が高い。また、全血試料は、いったん被検査物の濃度の決定工程が完了すれば、さらなる分析又は後処理のために回収してもよい。

図1
図2A
図2B
図3A
図3B