(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】太陽電池素子、および太陽電池素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 51/44 20060101AFI20221107BHJP
H01L 51/46 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 166
H01L31/04 168
(21)【出願番号】P 2021502287
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007566
(87)【国際公開番号】W WO2020175501
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2019033164
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100156177
【氏名又は名称】池見 智治
(74)【代理人】
【識別番号】100130166
【氏名又は名称】田中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】佐野 浩孝
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/098458(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/082338(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0110005(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/42-51/48
H01L 31/02-31/078
H01L 31/18-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に位置している光吸収層と、
該光吸収層と前記第1電極との間に位置している第1キャリア輸送部と、を備え、
該第1キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第1電極に向かう方向に積層している状態にある、第1導電型の第1半導体層と、第1キャリア導入層と、を有し、
該第1キャリア導入層は、前記第1半導体層の前記第1電極側の面に接しており、
前記第1キャリア導入層におけるイオン化ポテンシャルは、前記第1半導体層における電子親和力よりも小さ
く、
前記第1キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第1電極に向かう方向において前記第1半導体層と前記第1キャリア導入層とが繰り返し積層された状態にある、太陽電池素子。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池素子であって、
前記光吸収層と前記第2電極との間に位置している第2キャリア輸送部、をさらに備え、
該第2キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第2電極に向かう方向に積層している状態にある、第2導電型の第2半導体層と、第2キャリア導入層と、を有し、
該第2キャリア導入層は、前記第2半導体層の前記第2電極側の面に接しており、
前記第2キャリア導入層における電子親和力は、前記第2半導体層におけるイオン化ポテンシャルよりも大きい、太陽電池素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の太陽電池素子であって、
前記光吸収層から前記第1電極に向かう方向において、前記第1キャリア輸送部の厚さは、前記光吸収層の前記第1電極側の表面に存在する凹凸の高さよりも大きい、太陽電池素子。
【請求項4】
請求項2に記載の太陽電池素子であって、
前記光吸収層から前記第2電極に向かう方向において、前記第2キャリア輸送部の厚さは、前記光吸収層の前記第2電極側の表面に存在する凹凸の高さよりも大きい、太陽電池素子。
【請求項5】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に位置している光吸収層と、
該光吸収層と前記第1電極との間に位置している第1キャリア輸送部と、
前記光吸収層と前記第2電極との間に位置している第2キャリア輸送部と、を備え、
該第1キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第1電極に向かう方向に積層している状態にある、第1導電型の第1半導体層と、第1キャリア導入層と、を有し、
該第1キャリア導入層は、前記第1半導体層の前記第1電極側の面に接しており、
前記第1キャリア導入層におけるイオン化ポテンシャルは、前記第1半導体層における電子親和力よりも小さ
く、
前記第2キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第2電極に向かう方向に積層している状態にある、第2導電型の第2半導体層と、第2キャリア導入層と、を有し、
該第2キャリア導入層は、前記第2半導体層の前記第2電極側の面に接しており、
前記第2キャリア導入層における電子親和力は、前記第2半導体層におけるイオン化ポテンシャルよりも大きく、
前記第2キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第2電極に向かう方向において前記第2半導体層と前記第2キャリア導入層とが繰り返し積層された状態にある、太陽電池素子。
【請求項6】
請求項5に記載の太陽電池素子であって、
前記光吸収層から前記第2電極に向かう方向において、前記第2キャリア輸送部の厚さは、前記光吸収層の前記第2電極側の表面に存在する凹凸の高さよりも大きい、太陽電池素子。
【請求項7】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に位置している光吸収層と、
該光吸収層と前記第2電極との間に位置している第2キャリア輸送部と、を備え、
該第2キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第2電極に向かう方向に積層している状態にある、第2導電型の第2半導体層と、第2キャリア導入層と、を有し、
該第2キャリア導入層は、前記第2半導体層の前記第2電極側の面に接しており、
前記第2キャリア導入層における電子親和力は、前記第2半導体層におけるイオン化ポテンシャルよりも大き
く、
前記第2キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第2電極に向かう方向において前記第2半導体層と前記第2キャリア導入層とが繰り返し積層された状態にある、太陽電池素子。
【請求項8】
(A)光吸収層上に、第1半導体層と、該第1半導体層における電子親和力よりも小さなイオン化ポテンシャルを有する第1キャリア導入層とを、前記第1半導体層のうちの前記光吸収層とは逆側の面に前記第1キャリア導入層が接するように積層することで、第1キャリア輸送部を形成するステップと、
(B)前記第1キャリア輸送部上に第1電極を形成するステップと、を有
し、
前記ステップ(A)において、前記光吸収層上に前記第1半導体層と前記第1キャリア導入層とを繰り返し積層することで前記第1キャリア輸送部を形成する、太陽電池素子の製造方法。
【請求項9】
請求項
8に記載の太陽電池素子の製造方法であって、
前記ステップ(A)においては、前記光吸収層の厚さ方向において、前記光吸収層のうちの前記第1キャリア輸送部が形成される対象の表面に存在する凹凸の高さよりも、前記第1キャリア輸送部の厚さが大きくなるように、前記第1キャリア輸送部を形成する、太陽電池素子の製造方法。
【請求項10】
請求項
8または請求項9に記載の太陽電池素子の製造方法であって、
前記ステップ(A)において、前記第1半導体層を原料液の塗布および加熱によって形成し、前記第1キャリア導入層を真空プロセスで形成する、太陽電池素子の製造方法。
【請求項11】
請求項
8または請求項9に記載の太陽電池素子の製造方法であって、
前記ステップ(A)において、前記第1半導体層および前記第1キャリア導入層の双方を真空プロセスで形成する、太陽電池素子の製造方法。
【請求項12】
(a)光吸収層上に、第2半導体層と、該第2半導体層におけるイオン化ポテンシャルよりも大きな電子親和力を有する第2キャリア導入層とを、前記第2半導体層のうちの前記光吸収層とは逆側の面に前記第2キャリア導入層が接するように積層することで、第2キャリア輸送部を形成するステップと、
(b)前記第2キャリア輸送部上に第2電極を形成するステップと、を有
し、
前記ステップ(a)において、前記光吸収層上に前記第2半導体層と前記第2キャリア導入層とを繰り返し積層することで前記第2キャリア輸送部を形成する、太陽電池素子の製造方法。
【請求項13】
請求項
12に記載の太陽電池素子の製造方法であって、
前記ステップ(a)においては、前記光吸収層の厚さ方向において、前記光吸収層のうちの前記第2キャリア輸送部が形成される対象の表面に存在する凹凸の高さよりも、前記第2キャリア輸送部の厚さが大きくなるように、前記第2キャリア輸送部を形成する、太陽電池素子の製造方法。
【請求項14】
請求項
12または請求項13に記載の太陽電池素子の製造方法であって、
前記ステップ(a)において、前記第2半導体層を原料液の塗布および加熱によって形成し、前記第2キャリア導入層を真空プロセスで形成する、太陽電池素子の製造方法。
【請求項15】
請求項
12または請求項13に記載の太陽電池素子の製造方法であって、
前記ステップ(a)において、前記第2半導体層および前記第2キャリア導入層の双方を真空プロセスで形成する、太陽電池素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池素子、および太陽電池素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池素子には、例えば、第1電極層、電子輸送層、光吸収層、ホール輸送層および第2電極層が、この記載の順に積層された構造を有するものがある(例えば、特許第5005467号公報の記載を参照)。電子輸送層は、例えば、光吸収層における光電変換で生じた電子を輸送する役割を有する。ホール輸送層は、例えば、光吸収層における光電変換で生じた正孔を輸送する役割を有する。
【発明の概要】
【0003】
太陽電池素子および太陽電池素子の製造方法が開示される。
【0004】
太陽電池素子の一態様は、第1電極と、第2電極と、光吸収層と、第1キャリア輸送部と、を備える。前記光吸収層は、前記第1電極と前記第2電極との間に位置している。前記第1キャリア輸送部は、前記光吸収層と前記第1電極との間に位置している。前記第1キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第1電極に向かう方向に積層している状態にある、第1導電型の第1半導体層と、第1キャリア導入層と、を有する。該第1キャリア導入層は、前記第1半導体層の前記第1電極側の面に接している。前記第1キャリア導入層におけるイオン化ポテンシャルは、前記第1半導体層における電子親和力よりも小さい。前記第1キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第1電極に向かう方向において前記第1半導体層と前記第1キャリア導入層とが繰り返し積層された状態にある。
太陽電池素子の一態様は、第1電極と、第2電極と、光吸収層と、第1キャリア輸送部と、第2キャリア輸送部と、を備える。前記光吸収層は、前記第1電極と前記第2電極との間に位置している。前記第1キャリア輸送部は、前記光吸収層と前記第1電極との間に位置している。前記第2キャリア輸送部は、前記光吸収層と前記第2電極との間に位置している。前記第1キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第1電極に向かう方向に積層している状態にある、第1導電型の第1半導体層と、第1キャリア導入層と、を有する。該第1キャリア導入層は、前記第1半導体層の前記第1電極側の面に接している。前記第1キャリア導入層におけるイオン化ポテンシャルは、前記第1半導体層における電子親和力よりも小さい。前記第2キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第2電極に向かう方向に積層している状態にある、第2導電型の第2半導体層と、第2キャリア導入層と、を有する。該第2キャリア導入層は、前記第2半導体層の前記第2電極側の面に接している。前記第2キャリア導入層における電子親和力は、前記第2半導体層におけるイオン化ポテンシャルよりも大きい。前記第2キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第2電極に向かう方向において前記第2半導体層と前記第2キャリア導入層とが繰り返し積層された状態にある。
【0005】
太陽電池素子の他の一態様は、第1電極と、第2電極と、光吸収層と、第2キャリア輸送部と、を備える。前記光吸収層は、前記第1電極と前記第2電極との間に位置している。前記第2キャリア輸送部は、前記光吸収層と前記第2電極との間に位置している。前記第2キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第2電極に向かう方向に積層している状態にある、第2導電型の第2半導体層と、第2キャリア導入層と、を有する。該第2キャリア導入層は、前記第2半導体層の前記第2電極側の面に接している。前記第2キャリア導入層における電子親和力は、前記第2半導体層におけるイオン化ポテンシャルよりも大きい。前記第2キャリア輸送部は、前記光吸収層から前記第2電極に向かう方向において前記第2半導体層と前記第2キャリア導入層とが繰り返し積層された状態にある。
【0006】
太陽電池素子の製造方法の一態様は、ステップ(A)と、ステップ(B)と、を有する。前記ステップ(A)において、光吸収層上に、第1半導体層と、該第1半導体層における電子親和力よりも小さなイオン化ポテンシャルを有する第1キャリア導入層とを、前記第1半導体層のうちの前記光吸収層とは逆側の面に前記第1キャリア導入層が接するように積層することで、第1キャリア輸送部を形成する。前記ステップ(B)において、前記第1キャリア輸送部上に第1電極を形成する。前記ステップ(A)において、前記光吸収層上に前記第1半導体層と前記第1キャリア導入層とを繰り返し積層することで前記第1キャリア輸送部を形成する。
【0007】
太陽電池素子の製造方法の他の一態様は、ステップ(a)と、ステップ(b)と、を有する。前記ステップ(a)において、光吸収層上に、第2半導体層と、該第2半導体層におけるイオン化ポテンシャルよりも大きな電子親和力を有する第2キャリア導入層とを、前記第2半導体層のうちの前記光吸収層とは逆側の面に前記第2キャリア導入層が接するように積層することで、第2キャリア輸送部を形成する。前記ステップ(b)において、前記第2キャリア輸送部上に第2電極を形成する。前記ステップ(a)において、前記光吸収層上に前記第2半導体層と前記第2キャリア導入層とを繰り返し積層することで前記第2キャリア輸送部を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る太陽電池素子の断面構成の一例を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、第1キャリア導入層、第1半導体層、光吸収層、第2
半導体層および第2キャリア導入層の間におけるエネルギー準位の関係の一例を示すエネルギーバンド図である。
【
図3】
図3は、第1キャリア導入層、第1半導体層、光吸収層、第2
半導体層および第2キャリア導入層の間におけるイオン化ポテンシャルと電子親和力との関係の一例を示す図である。
【
図4】
図4(a)は、第2半導体層と第2キャリア導入層とが接触していない場合における第2半導体層および第2キャリア導入層のそれぞれについてのエネルギーバンドの一例を示す図である。
図4(b)は、第2半導体層と第2キャリア導入層との接合界面およびその近傍におけるエネルギーバンドの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る太陽電池素子の製造方法についてのフローの一例を示す流れ図である。
【
図6】
図6(a)は、光吸収層が形成された状態における光吸収層の断面構成の一部の一例を示す図である。
図6(b)は、光吸収層上に半導体層が形成された状態における積層構造の断面構成の一部の一例を示す図である。
図6(c)は、半導体層上にキャリア導入層が形成された状態における積層構造の断面構成の一部の一例を示す図である。
図6(d)は、キャリア導入層上に電極が形成された状態における積層構造の断面構成の一部の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る太陽電池素子の断面構成の一例を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係る太陽電池素子の断面構成の一例を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係る太陽電池素子の製造方法についてのフローの一例を示す流れ図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態に係る太陽電池素子の断面構成の他の一例を模式的に示す図である。
【
図11】
図11(a)は、第4実施形態に係る太陽電池素子の断面構成の一例を模式的に示す図である。
図11(b)は、第4実施形態に係る太陽電池素子の断面構成の他の一例を模式的に示す図である。
【
図12】
図12(a)は、第5実施形態に係る太陽電池素子の断面構成の一例を模式的に示す図である。
図12(b)は、第5実施形態に係る太陽電池素子の断面構成の他の一例を模式的に示す図である。
【
図13】
図13は、第6実施形態に係る太陽電池素子の断面構成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
太陽電池素子には、例えば、第1電極層、電子輸送層、光吸収層、ホール輸送層および第2電極層が、この記載の順に積層された構造を有するものがある。電子輸送層は、例えば、光吸収層における光電変換で生じた電子を輸送する役割と、光吸収層における光電変換で生じた正孔をブロックする役割と、を有する。ホール輸送層は、例えば、光吸収層における光電変換で生じた正孔を輸送する役割と、光吸収層における光電変換で生じた電子をブロックする役割と、を有する。
【0010】
ここで、例えば、電子輸送層およびホール輸送層のそれぞれを形成する際には、母材としての半導体材料に対して不純物元素を添加するドーピングを行う。このドーピングを行うプロセスには、例えば、液相の状態で母材としての半導体材料と不純物元素とを混合するプロセス(液相プロセスともいう)または気相の状態で母材としての半導体材料と不純物元素とを混合するプロセス(気相プロセスともいう)が適用される。液相プロセスには、例えば、半導体材料と不純物元素とが混合された液体を基板上に塗布して、基板上に不純物元素が混合された半導体層を形成する成膜法が適用される。気相プロセスには、例えば、蒸着またはスパッタリングなどの手法で母材としての半導体材料と不純物元素とを同時に飛ばして、基板上に母材としての半導体材料に不純物元素が混合された半導体層を形成する成膜法が適用される。
【0011】
ところで、例えば、p型の有機の半導体材料などについては、有機の半導体材料が気化される前に高分子の主鎖が切れてしまう不具合が生じ得ることが想定され、気相プロセスを用いた半導体層の成膜が適用しにくい場合がある。また、例えば、p型の有機の半導体材料などについては、液相プロセスにおいて、母材としての半導体材料と不純物元素とを均一に混合させることが難しい場合がある。
【0012】
また、例えば、無機の半導体材料などについては、気相プロセスを用いて半導体層を形成することが可能であれば、半導体層において母材としての半導体材料と不純物元素とを比較的均一に混合させることが可能である。そして、ここで、例えば、電極と半導体層との接触抵抗および界面抵抗を低下させるためには、半導体層の全体に対して高濃度で不純物元素のドーピングを行うことが考えられる。
【0013】
しかしながら、例えば、半導体層において不純物元素が高濃度で存在していれば、移動度の低下による抵抗損失、および高濃度の不純物元素がキャリアの移動に対するトラップとなることで生じるキャリアの再結合による損失(再結合損失ともいう)が増加し得る。
【0014】
このため、例えば、太陽電池素子については、光電変換効率を向上させる点で改善の余地がある。
【0015】
そこで、本開示の発明者らは、太陽電池素子について、光電変換効率を向上させることができる技術を創出した。
【0016】
これについて、以下、各種実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図面においては同様な構成および機能を有する部分に同じ符号が付されており、下記説明では重複説明が省略される。図面は模式的に示されたものである。
図1、
図6(a)から
図8および
図10から
図13には、右手系のXYZ座標系が付されている。このXYZ座標系では、太陽電池装置10の第1面10fの法線方向が+Z方向とされ、第1面10fに沿った一方向が+X方向とされ、第1面10fに沿った方向であって、+X方向と+Z方向との両方に直交する方向が+Y方向とされている。
【0017】
<1.第1実施形態>
第1実施形態に係る太陽電池装置10について、
図1から
図4(b)を参照しつつ説明する。
【0018】
図1で示されるように、太陽電池装置10は、主に光が入射する受光面(第1面ともいう)10fと、この第1面10fの逆側に位置している第2面10bと、を有する。第1実施形態では、第1面10fが、第1方向としての+Z方向を向いている。第2面10bが、第2方向としての-Z方向を向いている。+Z方向は、例えば、南中している太陽に向かう方向に設定される。
【0019】
図1で示されるように、太陽電池装置10は、例えば、基材1と、太陽電池素子20と、を有する。
【0020】
<1-1.太陽電池素子>
太陽電池素子20は、基材1上に位置している。太陽電池素子20は、例えば、第1電極21と、第1キャリア輸送部22と、光吸収層23と、第2キャリア輸送部24と、第2電極25と、を備えている。第1実施形態では、基材1上に、第1電極21と、第1キャリア輸送部22と、光吸収層23と、第2キャリア輸送部24と、第2電極25と、がこの記載の順に積層されている状態にある。換言すれば、第2方向としての-Z方向において、第1電極21と、第1キャリア輸送部22と、光吸収層23と、第2キャリア輸送部24と、第2電極25と、がこの記載の順に積層されている状態にある。
【0021】
<1-1-1.基材>
基材1は、例えば、透光性を有する絶縁性の基板である。この基材1は、例えば、特定波長域の光に対する透光性を有する。特定波長域は、例えば、光吸収層23が吸収して光電変換を生じ得る光の波長域を含む。これにより、例えば、第1面10fに照射される光が、光吸収層23に向けて基材1を透過し得る。ここで、例えば、特定波長域に、太陽光を構成する照射強度の高い光の波長が含まれていれば、太陽電池素子20における発電量が増加し得る。基材1の材料には、例えば、ガラス、アクリルまたはポリカーボネートなどが適用される。基材1の形状としては、例えば、平板状、シート状またはフィルム状などが採用される。基材1の厚さは、例えば、0.01ミリメートル(mm)から5mm程度とされる。
【0022】
<1-1-2.第1電極>
第1電極21は、基材1上に位置している。第1電極21は、例えば、光吸収層23における光の照射に応じた光電変換で生じたキャリアを集めることができる。第1実施形態では、第1電極21は、例えば、キャリアとしての電子を集める電極(負電極ともいう)としての役割を果たすことができる。第1電極21は、例えば、透光性を有する。第1電極21が、基材1と同様に、特定波長域の光に対する透光性を有していれば、特定波長域の光が基材1と第1電極21とを透過して第1キャリア輸送部22に入射し得る。第1電極21の材料には、例えば、特定波長域の光に対して透光性を有する透明導電性酸化物(TCO)が適用される。TCOは、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、二酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(IV)(SnO2)または酸化亜鉛(ZnO)などを含む。第1電極21には、例えば、厚さが小さな薄膜状または層状の電極(第1電極層ともいう)などが適用される。第1電極21の厚さは、例えば、10(ナノメートル)nmから1000nm程度とされる。ここで、例えば、後述する第2電極25が透光性を有する場合には、第1電極21が透光性を有していなくてもよい。透光性を有していない第1電極21の材料としては、例えば、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、チタン(Ti)、インジウム(In)またはスズ(Sn)などの導電性に優れた金属が適用され得る。
【0023】
<1-1-3.第1キャリア輸送部>
第1キャリア輸送部22は、第1電極21と光吸収層23との間に位置している。第1キャリア輸送部22は、例えば、光吸収層23における光の照射に応じた光電変換で生じたキャリアとしての電子を収集して第1電極21に出力することができる。換言すれば、第1キャリア輸送部22は、キャリア(電子)を輸送するための部分(電子輸送部ともいう)である。第1キャリア輸送部22は、例えば、光吸収層23側からのホール(正孔)の侵入をブロックする機能も有する。
【0024】
第1キャリア輸送部22は、例えば、第1導電型を有する第1半導体層22tと、第1キャリア導入層22iと、を有する。第1実施形態では、第1導電型は、n型である。また、例えば、光吸収層23の第1電極21側の面上において、第1半導体層22tと、第1キャリア導入層22iと、がこの記載の順に積層している状態にある。換言すれば、例えば、光吸収層23から第1電極21に向かう第1方向としての+Z方向において、第1半導体層22tと、第1キャリア導入層22iと、がこの記載の順に積層している状態にある。
【0025】
第1半導体層22tは、例えば、第1電極21と光吸収層23との間に位置している。第1実施形態では、第1半導体層22tは、光吸収層23に接している。具体的には、例えば、第1半導体層22tは、光吸収層23のうちの第1電極21側の面に接している。第1半導体層22tには、例えば、透明な無機材料の半導体の層が適用される。この無機材料は、例えば、TiO2、SnO2、ZnOまたは酸化インジウム(In2O3)などを含む。第1半導体層22tは、例えば、第1キャリア導入層22iによってキャリア(電子)が導入された状態にある。この第1半導体層22tは、例えば、主成分としての無機材料の半導体に、キャリア(電子)を導入するための元素(ドーパントともいう)を含んでいてもよい。ここで、II族金属の酸化物(ZnOなど)に対するドーパントには、例えば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)およびインジウム(In)などのうちの1種以上のIII族元素が適用され得る。III族金属の酸化物(In2O3など)に対するドーパントには、例えば、チタン(Ti)およびスズ(Sn)などのうちの1種以上のIV族元素が適用され得る。IV族金属の酸化物(TiO2、SnO2など)に対するドーパントには、例えば、ニオブ(Nb)およびアンチモン(Sb)などのうちの1種以上のV族元素が適用され得る。主成分は、含有成分のうち含有される比率(含有率ともいう)が最も大きい(高い)成分を意味する。
【0026】
第1キャリア導入層22iは、例えば、第1半導体層22tに接している。第1実施形態では、例えば、第1キャリア導入層22iは、第1半導体層22tの第1電極21側の面に接している。また、例えば、第1キャリア導入層22iは、第1電極21に接している。換言すれば、基材1上に、第1電極21、第1キャリア導入層22iおよび第1半導体層22t、がこの記載の順に積層された状態にある。さらに換言すれば、第2方向としての-Z方向において、第1電極21、第1キャリア導入層22iおよび第1半導体層22tがこの記載の順に積層している状態にある。
【0027】
この第1キャリア導入層22iは、例えば、第1半導体層22tにおける電子親和力よりも小さなイオン化ポテンシャルを有する。これにより、第1キャリア導入層22iは、第1半導体層22tにキャリアとしての電子を導入する層(電子導入層ともいう)としての役割を果たすことができる。このため、例えば、第1半導体層22tにおける不純物元素の濃度を高めなくても、第1半導体層22tに接している第1キャリア導入層22iによって、第1半導体層22tに電子が導入されて、第1半導体層22tにおける電子の密度(キャリア密度ともいう)が高まり得る。その結果、例えば、第1半導体層22tにおける抵抗損失および再結合損失が増加しにくい。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を向上させることができる。また、例えば、第1キャリア導入層22iが半導体層である場合には、第1キャリア導入層22iでは、第1半導体層22tに電子を導入した結果、キャリアとしての正孔の密度が増加し、抵抗損失が生じにくくなる。これにより、例えば、第1キャリア輸送部22と第1電極21との界面における電気抵抗が生じにくい。
【0028】
第1キャリア導入層22iの材料には、例えば、炭酸セシウム(Cs2CO3)、フッ化リチウム(LiF)またはカルシウム(Ca)が適用され得る。
【0029】
ここで、例えば、
図2で示されるように、第1キャリア導入層22iの材料が、半導体などの禁制帯B22iを有する材料である場合を想定する。この場合には、例えば、第1キャリア導入層22iにおける禁制帯B22iと価電子帯との境界のエネルギー準位E2ivが、第1半導体層22tにおける禁制帯B22tと伝導帯との境界のエネルギー準位E2tcよりも高ければ、第1キャリア導入層22iから第1半導体層22tに電子が導入される。ここでは、例えば、第1キャリア導入層22iから第1半導体層22tに電子が導入されれば、第1キャリア導入層22iには正孔が生じる。エネルギー準位E2ivは、第1キャリア導入層22iにおける価電子帯のエネルギー準位の上端(VBM(Valence Band Maximum)またはHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)準位)に相当する。エネルギー準位E2tcは、第1半導体層22tにおける伝導帯のエネルギー準位の下端(CB
M(Conduction Band minimum)またはLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位)に相当する。ここでは、真空準位と、第1キャリア導入層22iにおける価電子帯のエネルギー準位の上端(VBMまたはHOMO準位)との差が、第1キャリア導入層22iのイオン化ポテンシャルに相当する。真空準位と、第1半導体層22tにおける伝導帯のエネルギー準位の下端(CB
MまたはLUMO準位)との差が、第1半導体層22tの電子親和力に相当する。ここでは、例えば、第1半導体層22tのCB
MまたはLUMO準位が-3.7eVから-4.2eV程度に設定され、第1キャリア導入層22iには、VBMまたはHOMO準位が約-3.0eVである炭酸セシウム(Cs
2CO
3)が適用される。
【0030】
また、ここで、例えば、
図3で示されるように、第1キャリア導入層22iの材料が、金属などの禁制帯B22iを有していない導電性を有する材料である場合を想定する。この場合には、例えば、第1キャリア導入層22iのフェルミ準位E2ifが、第1半導体層22tにおける禁制帯B22tと伝導帯との境界のエネルギー準位E2tcよりも高ければ、第1キャリア導入層22iから第1半導体層22tに電子が導入され得る。ここでは、第1キャリア導入層22iから第1半導体層22tに電子が導入されれば、第1キャリア導入層22iには正孔が生じ得る。真空準位と第1キャリア導入層22iのフェルミ準位E2ifとの差は、第1キャリア導入層22iのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力に相当する。
【0031】
ここで、例えば、第1キャリア導入層22iが、1nmから5nm程度の厚さを有する薄膜であれば、光吸収層23から第1電極21に向けた電子の移動に対する電気抵抗が増加しにくい。また、例えば、第1半導体層22tが、第1半導体層22tを構成する半導体の材料におけるデバイ長λD以下の厚さを有していれば、第1キャリア導入層22iによって第1半導体層22tの厚さ方向の全域にキャリア(電子)が導入され得る。このデバイ長λDは、半導体の材料において電場が広がる範囲を示すものである。このデバイ長λDは、例えば、比誘電率をε、ボルツマン定数をKB、温度をT、キャリア密度をn、電気素量をeとした場合に、次の式(1)で示される。
【0032】
λD=√(εKBT/ne2) ・・・(1)。
【0033】
ここで、例えば、仮に、比誘電率εを1から100とし、キャリア密度nを1×1016cm-3から1×1018cm-3程度とし、温度Tを常温である300ケルビン(K)とすれば、デバイ長λDは、1nmから100nm程度と算出される。この場合には、第1半導体層22tの厚さは、例えば、1nmから100nm程度とされる。ここでは、キャリア密度nは、第1半導体層22tの元素欠損および不純物元素に起因するキャリア(電子)の密度と、第1キャリア導入層22iによって第1半導体層22tに導入されたキャリア(電子)の密度と、を含む。例えば、第1半導体層22tの材料が有機材料であれば、キャリア密度nは、第1キャリア導入層22iによって第1半導体層22tに導入されたキャリア(電子)の密度である。また、ここでは、例えば、第1キャリア導入層22iから第1半導体層22tへのキャリア(電子)の移動に伴い、電荷分布に起因するクーロンポテンシャルが生じる。このクーロンポテンシャルは、第1キャリア導入層22iから第1半導体層22tへのさらなるキャリア(電子)の移動を妨げる。このため、第1半導体層22tにおける実際のキャリア密度nは、例えば、第1半導体層22tの電子親和力と第1キャリア導入層22iのイオン化ポテンシャルとの差と、上記のクーロンポテンシャルと、のバランスに応じて決定され得る。
【0034】
また、第1実施形態では、上述したように、第1キャリア輸送部22は、例えば、第2方向としての-Z方向において第1キャリア導入層22iと第1半導体層22tとが1回積層されたシンプルな構造を有する。このため、例えば、太陽電池素子20を容易に製造することができる。また、例えば、第1キャリア導入層22iと第1半導体層22tとの接触抵抗が増加しにくい。その結果、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を容易に向上させることができる。
【0035】
<1-1-4.光吸収層>
光吸収層23は、第1電極21と第2電極25との間に位置している。第1実施形態では、光吸収層23は、第1キャリア輸送部22上に位置している。換言すれば、光吸収層23は、第1電極21上に、第1半導体層22tを含む第1キャリア輸送部22を介して位置している。
【0036】
光吸収層23は、例えば、基材1、第1電極21および第1キャリア輸送部22を透過した光を吸収することができる。第1実施形態では、光吸収層23には、例えば、真性半導体(i型半導体ともいう)が適用される。i型半導体には、例えば、ペロブスカイト構造を有する半導体(ペロブスカイト半導体ともいう)が適用される。ペロブスカイト半導体として、例えば、AイオンとBイオンとXイオンとが結合したABX3の組成を有するハロゲン化ペロブスカイト半導体が適用される。ここで、Aイオンには、例えば、メチルアンモニウムイオン(MA+)、ホルムアミジニウムイオン(FA+)およびグアジニウムイオン(GA+)などのうちの1種以上の有機イオン、あるいはセシウムイオン(Cs+)、ルビジウムイオン(Rb+)およびカリウムイオン(K+)などのうちの1種以上の無機イオンが適用される。また、Aイオンは、例えば、1種以上の有機カチオンのみを含んでいてもよいし、1種以上の無機イオンのみを含んでいてもよいし、あるいは1種以上の有機カチオンと1種以上の無機イオンとをこれらが混合された状態で含んでいてもよい。また、有機カチオンには、例えば、アミン基を有する有機カチオンが適用されてもよい。アミン基を有するペロブスカイト構造を有する半導体が採用されれば、光吸収層23における光電変換効率が上昇し得る。これにより、太陽電池素子20における光電変換効率が向上し得る。Bイオンには、例えば、鉛イオン(Pb2+)および錫イオン(Sn2+)などのうちの1種以上の14族(IV-A族)の元素の金属イオンが適用される。Xイオンには、例えば、ヨウ素イオン(I-)、臭素イオン(Br-)および塩素イオン(Cl-)などのうちの1種以上のハロゲン化物イオンが適用される。
【0037】
図2および
図3で示されるように、例えば、光吸収層23の禁制帯B23と価電子帯との境界のエネルギー準位であるVBMまたはHOMO準位は、第1半導体層22tのVBMまたはHOMO準位以上である。また、例えば、光吸収層23の禁制帯B23と伝導帯との境界のエネルギー準位であるCB
MまたはLUMO準位は、第1半導体層22tのCB
MまたはLUMO準位以上である。
【0038】
光吸収層23の厚さは、例えば、100nmから2000nm程度とされる。換言すれば、光吸収層23の厚さは、例えば、第1半導体層22tの厚さよりも大きく、第2半導体層24tの厚さよりも大きい。これにより、光吸収層23は、例えば、基材1、第1電極21および第1キャリア輸送部22を透過した光を十分に吸収することができる。
【0039】
<1-1-5.第2キャリア輸送部>
第2キャリア輸送部24は、光吸収層23と第2電極25との間に位置している。第1実施形態では、第2キャリア輸送部24は、例えば、光吸収層23に対する光の照射に応じた光電変換で生じたキャリアとしての正孔を収集して第2電極25に出力することができる。換言すれば、第2キャリア輸送部24は、キャリア(正孔)を輸送するための部分(正孔輸送部ともいう)である。第2キャリア輸送部24は、例えば、光吸収層23側からの電子の侵入をブロックする機能も有する。
【0040】
第2キャリア輸送部24は、例えば、第2導電型を有する第2半導体層24tと、第2キャリア導入層24iと、を有する。第1実施形態では、第2導電型は、p型である。また、例えば、光吸収層23のうちの第2電極25側の面上において、第2半導体層24tと、第2キャリア導入層24iと、がこの記載の順に積層している状態にある。換言すれば、例えば、光吸収層23から第2電極25に向かう第2方向としての-Z方向において、第2半導体層24tと、第2キャリア導入層24iと、がこの記載の順に積層している状態にある。さらに換言すれば、第2キャリア導入層24iは、例えば、第2半導体層24tのうちの第2電極25側の面に接している。
【0041】
第2半導体層24tは、例えば、光吸収層23と第2電極25との間に位置している。第1実施形態では、第2半導体層24tは、光吸収層23のうちの第2電極25側の面に接している。第2半導体層24tには、例えば、有機材料の半導体の層が適用される。この有機材料は、例えば、spiro-OMeTAD、ポリ3-ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリトリアリルアミン(PTAA)またはPoly-TPDなどを含む。第2半導体層24tは、例えば、第2キャリア導入層24iによってキャリア(正孔)が導入された状態にある。第2半導体層24tは、例えば、光吸収層23上に原料液が塗布された後に、塗布後の原料液に乾燥およびアニールが施されることで生成され得る。
【0042】
第2キャリア導入層24iは、例えば、第2半導体層24tに接している。第1実施形態では、例えば、第2キャリア導入層24iは、第2電極25に接している。換言すれば、第2電極25上に、第2キャリア導入層24iおよび第2半導体層24t、がこの記載の順に積層された状態にある。換言すれば、第1方向としての+Z方向において、第2キャリア導入層24iと、第2半導体層24tと、がこの記載の順に積層している状態にある。
【0043】
この第2キャリア導入層24iは、例えば、第2半導体層24tにおけるイオン化ポテンシャルよりも大きな電子親和力を有する。これにより、第2キャリア導入層24iは、例えば、第2半導体層24tにキャリアとしての正孔を導入する層(正孔導入層ともいう)としての役割を果たすことができる。このため、例えば、第2半導体層24tにおける不純物元素の濃度を高めなくても、第2半導体層24tに接している第2キャリア導入層24iによって、第2半導体層24tに正孔が導入されて、第2半導体層24tにおける正孔の密度(キャリア密度ともいう)が高まり得る。その結果、例えば、第2半導体層24tにおける抵抗損失および再結合損失が増加しにくい。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を向上させることができる。また、例えば、第2キャリア導入層24iが半導体層である場合には、第2キャリア導入層24iでは、第2半導体層24tから電子が移動してくるため、キャリア(電子)の密度が増加し、抵抗損失が生じにくくなる。これにより、例えば、第2キャリア輸送部24と第2電極25との界面における電気抵抗も生じにくい。
【0044】
第2キャリア導入層24iの材料には、例えば、酸化モリブデン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)または酸化バナジウム(V2O5)などの金属酸化物、あるいは酸化ルテニウム(RuO2)または塩化鉄(FeCl3)などのその他の材料が適用される。
【0045】
ここで、例えば、
図2で示されるように、第2キャリア導入層24iの材料が、半導体などの禁制帯B24iを有する材料である場合を想定する。この場合には、例えば、第2キャリア導入層24iにおける禁制帯B24iと伝導帯との境界のエネルギー準位E4icが、第2半導体層24tにおける禁制帯B24tと価電子帯との境界のエネルギー準位E4tvよりも低ければ、第2半導体層24tから第2キャリア導入層24iに電子が移動する。これにより、例えば、第2キャリア導入層24iによって第2半導体層24tに正孔が導入される。エネルギー準位E4tvは、第2半導体層24tにおける価電子帯のエネルギー準位の上端(VBMまたはHOMO準位)に相当する。エネルギー準位E4icは、第2キャリア導入層24iにおける伝導帯のエネルギー準位の下端(CB
MまたはLUMO準位)に相当する。ここでは、真空準位と、第2キャリア導入層24iにおける伝導帯のエネルギー準位の下端(CB
MまたはLUMO準位)との差が、第2キャリア導入層24iの電子親和力に相当する。また、ここでは、真空準位と、第2半導体層24tにおける価電子帯のエネルギー準位の上端(VBMまたはHOMO準位)との差が、第2半導体層24tのイオン化ポテンシャルに相当する。ここでは、例えば、第2半導体層24tのVBMまたはHOMO準位が-5.0eVから-5.5eV程度に設定され、第2キャリア導入層24iに、CB
MまたはLUMO準位が約-6.7eVであるMoO
3が適用される。
【0046】
また、ここで、例えば、
図3で示されるように、第2キャリア導入層24iの材料が、金属などの禁制帯B24iを有していない導電性を有する材料である場合を想定する。この場合には、例えば、第2キャリア導入層24iのフェルミ準位E4ifが、第2半導体層24tの禁制帯B24tと価電子帯との境界のエネルギー準位(VBMまたはHOMO準位)E4tvよりも低ければ、第2半導体層24tから第2キャリア導入層24iに電子が移動する。ここでは、第2半導体層24tから第2キャリア導入層24iに電子が移動すれば、第2半導体層24tには正孔が生じ得る。真空準位と第2キャリア導入層24iのフェルミ準位E4ifとの差は、第2キャリア導入層24iのイオン化ポテンシャルおよび電子親和力に相当する。
【0047】
ここで、例えば、第2キャリア導入層24iが、1nmから5nm程度の厚さを有する薄膜であれば、光吸収層23から第2電極25に向けた正孔の移動に対する電気抵抗が増加しにくい。また、例えば、第2半導体層24tが、第2半導体層24tを構成する半導体の材料におけるデバイ長λD以下の厚さを有していれば、第2キャリア導入層24iによって第2半導体層24tの厚さ方向の全域にキャリア(正孔)が導入され得る。このデバイ長λDは、上述した式(1)で示される。
【0048】
ここで、例えば、仮に、比誘電率εを1から100とし、キャリア密度nを1×1016cm-3から1×1018cm-3程度とし、温度Tを常温である300ケルビン(K)とすれば、デバイ長λDは、1nmから100nm程度と算出される。この場合には、第2半導体層24tの厚さは、例えば、1nmから100nm程度とされる。ここでは、例えば、第2半導体層24tの材料が有機材料であれば、キャリア密度nは、第2キャリア導入層24iによって第2半導体層24tに導入されたキャリア(正孔)の密度である。例えば、第2半導体層24tの材料が無機材料であれば、キャリア密度nは、第2半導体層24tの元素欠損および不純物元素に起因するキャリア(正孔)の密度と、第2キャリア導入層24iによって第2半導体層24tに導入されたキャリア(正孔)の密度と、を含む。また、ここでは、例えば、第2キャリア導入層24iによる第2半導体層24tへのキャリア(正孔)の導入に伴い、電荷分布に起因するクーロンポテンシャルが生じる。このクーロンポテンシャルは、第2キャリア導入層24iによる第2半導体層24tへのさらなるキャリア(正孔)の導入を妨げる。このため、第2半導体層24tにおける実際のキャリア密度nは、例えば、第2半導体層24tのイオン化ポテンシャルと第2キャリア導入層24iの電子親和力との差と、上記のクーロンポテンシャルと、のバランスに応じて決定され得る。
【0049】
また、第1実施形態では、上述したように、第2キャリア輸送部24は、例えば、第2方向としての-Z方向において、第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとが1回積層されたシンプルな構造を有する。このため、例えば、太陽電池素子20を容易に製造することができる。また、例えば、第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとの接触抵抗が増加しにくい。その結果、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を容易に向上させることができる。
【0050】
<1-1-6.第2電極>
第2電極25は、第2キャリア輸送部24の上に位置している。第1実施形態では、例えば、第2電極25は、第2キャリア輸送部24のうちの第2キャリア導入層24iに接している。この第2電極25は、光吸収層23における光の照射に応じた光電変換で生じたキャリアとしての正孔を集めることができる電極(正電極ともいう)としての役割を果たすことができる。ここで、第2電極25の材料には、例えば、金(Au)などの導電性に優れた金属またはTCOが適用される。TCOは、例えば、ITO、FTOまたはZnOなどを含む。第2電極25には、例えば、厚さが小さな薄膜状または層状の電極(第2電極層ともいう)などが適用される。第2電極25の厚さは、例えば、10nmから1000nm程度とされる。ここで、例えば、第2電極25の材料にTCOが適用される場合には、第2電極25は、特定波長域の光に対する透光性を有する。このとき、例えば、第2面10bに照射される光が、第2電極25を光吸収層23に向けて透過し得る。これにより、太陽電池素子20は、第1面10fだけでなく第2面10bも含めた両面が受光面となり得る。
【0051】
第1電極21および第2電極25のそれぞれには、例えば、リード線などの配線19が電気的に接続される。具体的には、例えば、第1電極21に第1配線19aが電気的に接続され、第2電極25に第2配線19bが接続される。各配線19は、例えば、半田付けなどによって、第1電極21および第2電極25のそれぞれに接合され得る。太陽電池素子20では、例えば、第1配線19aおよび第2配線19bによって、光電変換で得られる出力が取り出され得る。
【0052】
<1-1-7.キャリア輸送部におけるキャリアの移動>
第1キャリア輸送部22および第2キャリア輸送部24におけるキャリアの移動について、第2キャリア輸送部24を例に挙げて説明する。
【0053】
まず、仮に、第2半導体層24tと、第2キャリア導入層24iと、が接合していない状態にある場合を想定する。この場合には、例えば、
図4(a)で示されるように、第2半導体層24tは、禁制帯B24tと価電子帯との境界24tvのエネルギー準位E4tvと、禁制帯B24tと伝導帯との境界24tcのエネルギー準位E4tcと、フェルミ準位E4tfと、を有する。また、第2キャリア導入層24iは、禁制帯B24iと価電子帯との境界24ivのエネルギー準位E4ivと、禁制帯B24iと伝導帯との境界24icのエネルギー準位E4icと、フェルミ準位E4ifと、を有する。
【0054】
ここで、第1実施形態のように、第2半導体層24tと、第2キャリア導入層24iと、が接合している状態にある場合を想定する。この場合には、第2半導体層24tの正孔と第2キャリア導入層24iの電子とが交換される。これにより、例えば、
図4(b)で示されるように、第2半導体層24tでは、第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとが接合している界面(接合界面ともいう)Bo24に近づく程、価電子帯にキャリアとしての正孔1Hがより多く導入されている状態となる。このため、第2半導体層24tでは、接合界面Bo24に近づく程、エネルギーバンドが正の方向に曲がっている状態となる。これに対して、第2キャリア導入層24iでは、接合界面Bo24に近づく程、伝導帯に電子1Eがより多く導入されている状態となる。このため、第2キャリア導入層24iでは、接合界面Bo24に近づく程、エネルギーバンドが負の方向に曲がっている状態となる。
図4(b)には、接合界面Bo24の近傍における第2キャリア輸送部24のフェルミ準位E24fが示されている。この状態で、例えば、光吸収層23における光の照射に応じた光電変換によって光吸収層23から第2半導体層24tにキャリアとしての正孔1Hが輸送されると、第2半導体層24tから第2キャリア導入層24iに正孔1Hが輸送される。このとき、第2キャリア導入層24iでは、正孔1Hが第2電極25に向けて隣の電子と順に入れ替わるように移動する。この正孔1Hは、第2電極25において、第1電極21側から外部の配線を介して流れてきた自由電子と結合する。このような正孔1Hの動作により、第2キャリア輸送部24は、光吸収層23から第2電極25に向けてキャリアとしての正孔1Hを輸送することができる。
【0055】
第1キャリア輸送部22は、第2キャリア輸送部24に対してキャリアの極性の正負が入れ替わるものの、第2キャリア輸送部24と同様にして、キャリア(電子)を輸送することができる。
【0056】
<1-2.太陽電池素子の製造方法>
例えば、
図5で示されるように、ステップS1からステップS5の処理を、この記載の順に行うことで、第1実施形態に係る太陽電池素子20を製造することができる。
【0057】
ステップS1では、基材1上に第1電極21を形成する。ここでは、例えば、スパッタリングなどの真空プロセスによって、基材1上に第1電極21の材料を堆積させることで、基材1上に第1電極21を形成することができる。第1電極21の材料には、例えば、ITO、FTO、TiO2、SnO2またはZnOなどのTCO、あるいは銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、チタン(Ti)、インジウム(In)またはスズ(Sn)などの金属が適用される。
【0058】
ステップS2では、第1電極21上に第1キャリア輸送部22を形成する。ここでは、ステップS2aおよびステップS2bの処理を、この記載の順に行うことで、第1電極21上に第1キャリア輸送部22を形成することができる。
【0059】
ステップS2aでは、第1電極21上に第1キャリア導入層22iを形成する。ここでは、例えば、蒸着などの真空プロセスによって、第1キャリア導入層22iの材料を第1電極21上に堆積させることで、第1電極21上に第1キャリア導入層22iを形成することができる。第1キャリア導入層22iの材料には、例えば、Cs2CO3、LiFまたはCaが適用される。
【0060】
ステップS2bでは、第1キャリア導入層22i上に第1半導体層22tを形成する。これにより、第1キャリア導入層22iの第1電極21とは逆側の面に第1半導体層22tが接するように、第1電極21上に、第1キャリア導入層22iと、第1半導体層22tと、をこの記載の順に積層させることで、第1キャリア輸送部22を形成することができる。ここでは、例えば、第1半導体層22tが、第1キャリア導入層22iにおけるイオン化ポテンシャルよりも大きな電子親和力を有するように、第1半導体層22tの材料を採用する。これにより、例えば、第1半導体層22tにおける不純物元素の濃度を高めなくても、第1半導体層22tに接している第1キャリア導入層22iによって第1半導体層22tに電子が導入される。このため、例えば、第1半導体層22tにおける電子の密度(キャリア密度ともいう)を高めることができる。その結果、例えば、第1半導体層22tにおける抵抗損失および再結合損失が増加しにくい。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を向上させることができる。
【0061】
ところで、ここでは、例えば、スパッタリングなどの真空プロセスによって、基材1上の第1キャリア導入層22i上に第1半導体層22tの材料を堆積させることで、基材1上の第1キャリア導入層22i上に第1半導体層22tを形成することができる。第1半導体層22tの材料には、例えば、TiO2、SnO2、ZnOまたはIn2O3などの金属酸化物が適用される。ここで、例えば、金属塩化物または金属イソプロポキシドなどの原料を極性溶液に溶解させることで調製した原料液を第1キャリア導入層22i上に塗布し、原料を加水分解させて金属酸化物を生成することで、第1キャリア導入層22i上に第1半導体層22tを形成してもよい。金属塩化物は、例えば、塩化チタン、塩化スズ、塩化亜鉛または塩化インジウムなどを含む。金属イソプロポキシドは、例えば、チタンイソプロポキシド、スズイソプロポキシド、亜鉛イソプロポキシドまたはインジウムイソプロポキシドなどを含む。具体的には、例えば、4塩化チタン水溶液をスピンコートなどで第1キャリア導入層22i上に塗布して乾燥させる。その後、例えば、ホットプレートにおける約150℃の加熱によって4塩化チタンを加水分解させることで、第1キャリア導入層22i上にTiO2の第1半導体層22tを形成することができる。
【0062】
また、ここでは、例えば、第1半導体層22tの材料に、有機材料が適用されてもよい。この有機材料には、例えば、PCBM([6,6]-Phenyl-C
61
-butyric acid methyl ester)などのフラーレン誘導体を適用してもよい。この場合には、例えば、1ミリリットル(1ml)の原料液の中に5ミリグラム(mg)から20mg程度のフラーレン誘導体が含まれるように、フラーレン誘導体をクロロベンゼン溶媒に溶解させることで調製した原料液を用いる。換言すれば、例えば、溶媒がクロロベンゼンであり、フラーレン誘導体の濃度が5mg/mlから20mg/ml程度である原料液を用いる。そして、第1キャリア導入層22i上に塗布した原料液に乾燥およびアニールを施すことで、第1キャリア導入層22i上にPCBMの第1半導体層22tを形成してもよい。また、第1半導体層22tの材料に適用される有機材料については、例えば、官能基を変更して、有機溶媒に対する溶解性および物性を変えてもよい。
【0063】
ステップS3では、第1キャリア輸送部22上に光吸収層23を形成する。ここでは、光吸収層23は、例えば、第1キャリア輸送部22上に原料液を塗布し、塗布後の原料液にアニールを施すことで、形成され得る。原料液は、例えば、光吸収層23の原料であるハロゲン化アルキルアミンとハロゲン化鉛もしくはハロゲン化錫とが溶媒に溶かされることで生成され得る。この場合、光吸収層23は、結晶性を有するハロゲン化ペロブスカイト半導体の薄膜によって構成され得る。
【0064】
ステップS4では、光吸収層23上に第2キャリア輸送部24を形成する。ここでは、ステップS4aおよびステップS4bの処理を、この記載の順に行うことで、光吸収層23上に第2キャリア輸送部24を形成することができる。
【0065】
ステップS4aでは、光吸収層23上に第2半導体層24tを形成する。第1実施形態では、例えば、光吸収層23に接するように第2半導体層24tを形成する。ここでは、例えば、光吸収層23上に原料液を塗布し、この原料液に乾燥およびアニールを施すことで、光吸収層23上に第2半導体層24tを形成することができる。第2半導体層24tの材料には、例えば、spiro-OMeTAD、P3HT、PTAAまたはPoly-TPDなどの有機の半導体材料が適用され得る。ここで、例えば、1mlの原料液の中に10mgから85mg程度のspiro-OMeTADが含まれるように、spiro-OMeTADをクロロベンゼンに溶解させることで原料液を調製することができる。換言すれば、例えば、溶媒がクロロベンゼンであり、spiro-OMeTADの濃度が10mg/mlから85mg/ml程度である原料液を用いる。また、例えば、1mlの原料液の中に5mgから20mg程度のP3HTが含まれるように、P3HTをジクロロベンゼンに溶解させることで原料液を調製してもよい。換言すれば、例えば、溶媒がジクロロベンゼンであり、P3HTの濃度が5mg/mlから20mg/ml程度である原料液を用いてもよい。また、例えば、1mlの原料液の中に5mgから20mg程度のPTAAが含まれるように、PTAAをトルエンに溶解させることで原料液を調製してもよい。換言すれば、例えば、溶媒がトルエンであり、PTAAの濃度が5mg/mlから20mg/mlである原料液を用いてもよい。また、例えば、1mlの原料液の中に5mgから20mg程度のPoly-TPDが含まれるように、Poly-TPDをクロロベンゼンに溶解させることで原料液を調製してもよい。換言すれば、例えば、溶媒がクロロベンゼンであり、Poly-TPDの濃度が5mg/mlから20mg/mlである原料液を用いてもよい。
【0066】
ステップS4bでは、第2半導体層24t上に第2キャリア導入層24iを形成する。第1実施形態では、例えば、第2半導体層24tのうちの光吸収層23とは逆側の面に接するように第2キャリア導入層24iを形成する。これにより、第2半導体層24tのうちの光吸収層23とは逆側の面に第2キャリア導入層24iが接するように、光吸収層23上に、第2半導体層24tと、第2キャリア導入層24iと、をこの記載の順に積層することで、第2キャリア輸送部24を形成することができる。ここでは、例えば、第2キャリア導入層24iが、第2半導体層24tにおけるイオン化ポテンシャルよりも大きな電子親和力を有するように、第2キャリア導入層24iの材料を採用する。これにより、例えば、第2半導体層24tにおける不純物元素の濃度を高めなくても、第2半導体層24tに接している第2キャリア導入層24iによって第2半導体層24tに正孔が導入される。このため、例えば、第2半導体層24tにおける正孔の密度(キャリア密度ともいう)を高めることができる。その結果、例えば、第2半導体層24tにおける抵抗損失および再結合損失が増加しにくい。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を向上させることができる。
【0067】
ところで、ここでは、例えば、蒸着などの真空プロセスによって、第2半導体層24t上に第2キャリア導入層24iの材料を堆積させることで、第2半導体層24t上に第2キャリア導入層24iを形成することができる。ここでは、第2キャリア導入層24iの材料には、例えば、MoO3、WO3またはV2O5などの金属酸化物、あるいはRuO2またはFeCl3などのその他の材料が適用される。
【0068】
ここでは、例えば、原料液の塗布および加熱を行うプロセスで、第2半導体層24t上に第2キャリア導入層24iを形成してもよい。このプロセスには、例えば、金属塩化物または金属イソプロポキシドなどの原料を極性溶液に溶解させることで調製した原料液を、第2半導体層24t上に塗布し、原料を加水分解させて金属酸化物を生成するプロセスが適用される。ここで、金属塩化物は、例えば、塩化モリブデン、塩化タングステンまたは塩化バナジウムなどを含む。金属イソプロポキシドは、例えば、モリブデンイソプロポキシド、タングステンイソプロポキシドまたはバナジウムイソプロポキシドなどを含む。第2半導体層24t上に対する原料液の塗布は、例えば、スピンコートなどで実現され得る。原料の加水分解は、例えば、ホットプレートによる約150℃の加熱などで実現され得る。
【0069】
ステップS5では、第2キャリア輸送部24上に第2電極25を形成する。例えば、第2キャリア導入層24iのうちの光吸収層23とは逆側の面に接するように第2電極25を形成する。ここでは、例えば、スパッタリングなどの真空プロセスによって、第2キャリア導入層24i上に第2電極25の材料を堆積させることで、第2キャリア輸送部24上に第2電極25を形成することができる。第2電極25の材料には、例えば、Auなどの導電性に優れた金属あるいはITO、FTOまたはZnOなどのTCOが適用される。
【0070】
上述したように、第1実施形態では、例えば、第2方向としての-Z方向において第1キャリア導入層22iと第1半導体層22tとを1回積層させることで、シンプルな第1キャリア輸送部22を形成する。これにより、例えば、太陽電池素子20を容易に製造することができる。また、例えば、第1キャリア導入層22iと第1半導体層22tとの界面が少ないため、第1キャリア導入層22iと第1半導体層22tとの接触抵抗が増加しにくい。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を容易に向上させることができる。また、例えば、第2方向としての-Z方向において第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとを1回積層させることで、シンプルな第2キャリア輸送部24を形成する。これにより、例えば、太陽電池素子20を容易に製造することができる。また、例えば、第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとの界面が少ないため、第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとの接触抵抗が増加しにくい。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を容易に向上させることができる。
【0071】
ところで、第1実施形態では、例えば、相互に異なる成膜プロセスで第1キャリア導入層22iと第1半導体層22tとを順に形成することで、第1キャリア輸送部22を形成することができる。また、例えば、相互に異なる成膜プロセスで第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとを順に形成することで、第2キャリア輸送部24を形成することができる。このため、例えば、第1キャリア輸送部22を形成する際に、相互に適した成膜プロセスが相互に異なる第1キャリア導入層22iと第1半導体層22tとをこの記載の順に積層させることができる。また、例えば、第2キャリア輸送部24を形成する際に、相互に適した成膜プロセスが異なる第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとをこの記載の順に積層させることもできる。ここで、相互に異なる成膜プロセスの組み合わせは、例えば、スパッタリングと蒸着との組み合わせ、あるいは原料液の塗布および加熱を行うプロセスとスパッタリングまたは蒸着との組み合わせ、などを含む。例えば、spiro-OMeTAD、P3HT、PTAAおよびPoly-TPDなどの有機材料の成膜には、有機材料の主鎖が切れる可能性のある蒸着などの真空プロセスよりも、原料液の塗布および加熱を行うプロセスの方がより適している場合が想定される。
【0072】
ここで、例えば、
図6(a)で示されるように、光吸収層23の形成条件によっては、光吸収層23の表面上に多数の凹部R0と多数の凸部P0とを含む凹凸23fが形成される場合がある。換言すれば、例えば、光吸収層23のうちの第2キャリア輸送部24が形成される対象の第2方向としての-Z方向を向いた表面に凹凸23fが存在している場合がある。このような場合には、例えば、ステップS4のうち、ステップS4aにおいて、第2半導体層24tを原料液の塗布および加熱によって形成し、ステップS4bにおいて、第2キャリア導入層24iを真空プロセスで形成することが考えられる。このような構成が採用されれば、例えば、
図6(b)で示されるように、光吸収層23の凹凸23fを第2半導体層24tで埋めることができる。その後、例えば、
図6(c)で示されるように、第2半導体層24t上に第2キャリア導入層24iを形成して、
図6(d)で示されるように、第2キャリア導入層24i上に第2電極25を形成することができる。ここで、例えば、ステップS4bにおいて、第2キャリア導入層24iを原料液の塗布および加熱によって形成してもよい。ここでは、例えば、
図6(b)および
図6(c)で示されるように、凹凸23fは第2半導体層24tのみで埋められていてもよいし、第2半導体層24tと第2半導体層24t上に形成された第2キャリア導入層24iとで埋められてもよい。換言すれば、例えば、光吸収層23から第2電極25に向かう第2方向としての-Z方向において、凹凸23fの高さよりも、第2半導体層24tの厚さを大きくしてもよいし、凹凸23fの高さよりも、第2半導体層24tの厚さと第2キャリア導入層24iの厚さとを合計した厚さを大きくしてもよい。さらに、換言すれば、ステップS4においては、例えば、光吸収層23の厚さの方向(厚さ方向ともいう)としての-Z方向において、光吸収層23のうちの第2キャリア輸送部24が形成される対象の表面(被形成表面ともいう)に存在する凹凸23fの高さよりも、第2キャリア輸送部24の厚さが大きくなるように、第2キャリア輸送部24を形成してもよい。被形成表面としては、例えば、光吸収層23の第2方向としての-Z方向を向いた表面が採用される。これにより、例えば、太陽電池素子20では、光吸収層23から第2電極25に向かう第2方向としての-Z方向において、第2キャリア輸送部24の厚さが、光吸収層23の第2電極25側の表面に存在する凹凸23fの高さよりも大きい状態となる。ここで、例えば、光吸収層23のうちの第2キャリア輸送部24側の面に多数の凹部R0と多数の凸部P0とが存在している場合を想定する。この場合には、光吸収層23の厚さ方向としての-Z方向における凹凸23fの高さには、例えば、多数の凹部R0のうちの最も第1電極21の近くに位置している底部と、多数の凸部P0のうちの最も第1電極21から遠くに離れて位置している頂部と、の光吸収層23の厚さ方向としての-Z方向における距離が適用される。
【0073】
ここでは、例えば、光吸収層23の表面に凹凸23fが存在していても、この凹凸23fを第2半導体層24tで埋めることで、光吸収層23と第2電極25とが直接接触しにくく、光吸収層23のより広い面上に第2キャリア輸送部24を形成することができる。その結果、例えば、光吸収層23と第2電極25との間におけるリーク電流の発生を低減することが可能であり、光吸収層23における光電変換で得られたキャリア(正孔)を第2電極25まで効率良く輸送することができる。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を向上させることができる。
【0074】
また、例えば、ステップS4において、ステップS4aにおける第2半導体層24tの形成およびステップS4bにおける第2キャリア導入層24iの形成の双方を真空プロセスで実行してもよい。具体的には、例えば、ステップS4aにおける第2半導体層24tの形成およびステップS4bにおける第2キャリア導入層24iの形成の双方を、蒸着またはスパッタリングなどの同一種類の真空プロセスで行ってもよい。このような構成が採用されれば、例えば、同一の成膜装置で連続的に第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとを形成することができる。これにより、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を容易に向上させることができる。さらに、例えば、第2半導体層24tおよび第2キャリア導入層24iに加えて第2電極25まで蒸着などの同一種類の真空プロセスで形成してもよい。この場合には、例えば、同一の成膜装置で連続的に第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iと第2電極25とを形成することができる。これにより、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を容易に向上させることができる。
【0075】
<1-3.第1実施形態のまとめ>
第1実施形態に係る太陽電池素子20では、例えば、第1半導体層22tにおける不純物元素の濃度を高めなくても、第1半導体層22tに接するように、第1半導体層22tの電子親和力よりも小さなイオン化ポテンシャルを有する第1キャリア導入層22iを存在させている。これにより、例えば、第1半導体層22tにキャリア(電子)を導入して、第1半導体層22tにおける電子のキャリア密度を高めることができる。その結果、例えば、第1半導体層22tにおける抵抗損失および再結合損失が増加しにくい。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を向上させることができる。
【0076】
また、例えば、第2半導体層24tにおける不純物元素の濃度を高めなくても、第2半導体層24tに接するように、第2半導体層24tのイオン化ポテンシャルよりも大きな電子親和力を有する第2キャリア導入層24iを存在させている。これにより、例えば、第2半導体層24tにキャリア(正孔)を導入して、第2半導体層24tにおける正孔のキャリア密度を高めることができる。その結果、例えば、第2半導体層24tにおける抵抗損失および再結合損失が増加しにくい。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を向上させることができる。
【0077】
<2.他の実施形態>
本開示は上述の第1実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更および改良などが可能である。
【0078】
<2-1.第2実施形態>
上記第1実施形態において、第1キャリア輸送部22は、例えば、
図7で示されるように、光吸収層23から第1電極21に向かう第1方向としての+Z方向において、第1半導体層22tと第1キャリア導入層22iとが繰り返し積層された状態にあってもよい。このような構成を有する第1キャリア輸送部22は、例えば、上記ステップS2で、第1電極21上において、ステップS2aにおける第1キャリア導入層22iの形成と、ステップS2bにおける第1半導体層22tの形成と、を繰り返すことで形成され得る。また、第2キャリア輸送部24は、例えば、
図7で示されるように、光吸収層23から第2電極25に向かう第2方向としての-Z方向において、第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとが繰り返し積層された状態にあってもよい。このような構成を有する第2キャリア輸送部24は、例えば、上記ステップS4で、光吸収層23上に、ステップS4aで形成される第2半導体層24tと、ステップS4bで形成される第2キャリア導入層24iと、を繰り返し積層することで形成され得る。
【0079】
ここで、例えば、第2キャリア導入層24iによってキャリア(正孔)を導入することが可能な第2半導体層24tの厚さが小さい場合を想定する。この場合にも、例えば、第2方向としての-Z方向において第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとが複数回積層されている第2キャリア輸送部24が採用されれば、第2キャリア輸送部24の厚さを増加させることができる。これにより、例えば、光吸収層23の表面に凹凸23fが存在していても、この凹凸を第2キャリア輸送部24で埋めることができる。その結果、例えば、光吸収層23と第2電極25との間におけるリーク電流を生じにくくすることができる。ここで、例えば、第2キャリア輸送部24において、第2方向としての-Z方向において第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとが繰り返し積層される回数には、第2キャリア輸送部24における必要な厚さに応じた2回以上の任意の回数が適用される。ここでも、例えば、ステップS4においては、光吸収層23の厚さ方向としての-Z方向において、光吸収層23のうちの第2キャリア輸送部24が形成される対象の表面(被形成表面)に存在する凹凸23fの高さよりも、第2キャリア輸送部24の厚さが大きくなるように、第2キャリア輸送部24を形成してもよい。被形成表面としては、例えば、光吸収層23の第2方向としての-Z方向を向いた表面が採用される。これにより、例えば、太陽電池素子20では、光吸収層23から第2電極25に向かう第2方向としての-Z方向において、第2キャリア輸送部24の厚さが、光吸収層23の第2電極25側の表面に存在する凹凸23fの高さよりも大きい状態となる。
【0080】
<2-2.第3実施形態>
上記各実施形態において、例えば、基材1上における太陽電池素子20の構造が上下逆であってもよい。この場合には、例えば、第1方向が-Z方向であり、第2方向が+Z方向である。
【0081】
ここでは、例えば、
図8で示されるように、基材1上に、第2電極25と、第2キャリア輸送部24と、光吸収層23と、第1キャリア輸送部22と、第1電極21と、がこの記載の順に積層されている状態にあってもよい。
【0082】
図8の例では、第2電極25は、基材1上に位置している。また、第2キャリア輸送部24は、第2電極25上に位置している。第2キャリア輸送部24は、第2電極25と光吸収層23との間に位置し、第2キャリア導入層24iと、第2導電型(p型)の第2半導体層24tと、を有する。ここでは、第2電極25上において、第2キャリア導入層24iと、第2半導体層24tと、がこの記載の順に積層している状態にある。換言すれば、光吸収層23から第2電極25に向かう第2方向としての+Z方向において、第2半導体層24tと、第2キャリア導入層24iと、がこの記載の順に積層している状態にある。さらに換言すれば、第2電極25は、第2キャリア輸送部24のうちの第2キャリア導入層24iに接しており、第2キャリア導入層24iは、第2半導体層24tのうちの第2電極25側の面に接している。ここで、第2キャリア導入層24iにおける電子親和力は、第2半導体層24tにおけるイオン化ポテンシャルよりも大きい。また、光吸収層23は、第2電極25と第1電極21との間に位置している。ここでは、光吸収層23は、第2キャリア輸送部24上に位置している。光吸収層23のうちの第2電極25側の面は、第2半導体層24tに接している。また、第1キャリア輸送部22は、光吸収層23と第1電極21との間に位置し、第1導電型(n型)の第1半導体層22tと、第1キャリア導入層22iと、を有する。ここでは、光吸収層23上において、第1半導体層22tと、第1キャリア導入層22iと、がこの記載の順に積層している状態にある。換言すれば、光吸収層23から第1電極21に向かう第1方向としての-Z方向において、第1半導体層22tと、第
1キャリア導入層22iと、がこの記載の順に積層している状態にある。さらに換言すれば、光吸収層23は、第1キャリア輸送部22のうちの第1半導体層22tに接しており、第1キャリア導入層22iは、第1半導体層22tのうちの光吸収層23とは逆の第1電極21側の面に接している。ここで、第1キャリア導入層22iにおけるイオン化ポテンシャルは、第1半導体層22tにおける電子親和力よりも小さい。また、第1電極21は、第1キャリア輸送部22上に位置している。
【0083】
上記構成を有する第3実施形態に係る太陽電池素子20は、例えば、基材1上に、第2電極25と、第2キャリア輸送部24と、光吸収層23と、第1キャリア輸送部22と、第1電極21と、をこの記載の順に形成することで実現され得る。具体的には、例えば、
図9で示されるように、ステップST1からステップST5の処理を、この記載の順に行うことで、第3実施形態に係る太陽電池素子20を製造することができる。
【0084】
ステップST1では、基材1上に第2電極25を形成する。ここでは、例えば、スパッタリングなどの真空プロセスによって、基材1上に第2電極25の材料を堆積させることで、基材1上に第2電極25を形成することができる。第2電極25の材料には、例えば、Auなどの導電性に優れた金属あるいはITO、FTOまたはZnOなどのTCOが適用される。
【0085】
ステップST2では、第2電極25上に第2キャリア輸送部24を形成する。ここでは、ステップST2aおよびステップST2bの処理を、この記載の順に行うことで、第2電極25上に第2キャリア輸送部24を形成することができる。
【0086】
ステップST2aでは、第2電極25上に第2キャリア導入層24iを形成する。ここでは、例えば、蒸着などの真空プロセスによって、第2キャリア導入層24iの材料を第2電極25上に堆積させることで、第2電極25上に第2キャリア導入層24iを形成することができる。第2キャリア導入層24iの材料には、例えば、MoO3、WO3またはV2O5などの金属酸化物、あるいはRuO2またはFeCl3などのその他の材料が適用される。ここでは、例えば、原料液の塗布および加熱を行うプロセスで、第2電極25上に第2キャリア導入層24iを形成してもよい。
【0087】
ステップST2bでは、第2キャリア導入層24i上に第2半導体層24tを形成する。ここでは、例えば、第2キャリア導入層24i上に原料液を塗布し、この原料液に乾燥およびアニールを施すことで、第2キャリア導入層24i上に第2半導体層24tを形成することができる。第2半導体層24tの材料には、例えば、spiro-OMeTAD、P3HT、PTAAまたはPoly-TPDなどの有機材料が適用される。これにより、第2電極25上に、第2キャリア導入層24iと、この第2キャリア導入層24iの第2電極25とは逆側の面に接する第2半導体層24tと、が第1方向としての-Z方向に積層している第2キャリア輸送部24を形成することができる。そして、例えば、第2半導体層24tが、第2キャリア導入層24iにおける電子親和力よりも小さなイオン化ポテンシャルを有するように、第2半導体層24tの材料を採用する。これにより、例えば、第2半導体層24tにおける不純物元素の濃度を高めなくても、第2半導体層24tに接している第2キャリア導入層24iによって第2半導体層24tに正孔が導入される。このため、例えば、第2半導体層24tにおける正孔の密度(キャリア密度ともいう)を高めることができる。その結果、例えば、第2半導体層24tにおける抵抗損失および再結合損失が増加しにくい。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を向上させることができる。
【0088】
ステップST3では、第2キャリア輸送部24上に光吸収層23を形成する。ここでは、例えば、光吸収層23は、例えば、第2キャリア輸送部24上に原料液を塗布した後に、塗布後の原料液にアニールを施すことで、形成され得る。原料液は、例えば、光吸収層23の原料であるハロゲン化アルキルアミンとハロゲン化鉛もしくはハロゲン化錫とが溶媒に溶かされることで調製され得る。
【0089】
ステップST4では、光吸収層23上に第1キャリア輸送部22を形成する。ここでは、ステップST4aおよびステップST4bの処理を、この記載の順に行うことで、光吸収層23上に第1キャリア輸送部22を形成することができる。
【0090】
ステップST4aでは、光吸収層23上に第1半導体層22tを形成する。第3実施形態では、例えば、光吸収層23に接するように第1半導体層22tを形成する。ここでは、例えば、スパッタリングなどの真空プロセスによって、光吸収層23上に第1半導体層22tの材料を堆積させることで、光吸収層23上に第1半導体層22tを形成することができる。第1半導体層22tの材料には、例えば、TiO2、SnO2、ZnOまたはIn2O3などの金属酸化物が適用され得る。ここでは、例えば、金属塩化物または金属イソプロポキシドなどの原料を極性溶液に溶解させることで調製した原料液を光吸収層23上に塗布し、原料を加水分解させて金属酸化物を生成することで、光吸収層23上に第1半導体層22tを形成してもよい。また、ここでは、例えば、第1半導体層22tの材料に、有機材料が適用されてもよい。この有機材料には、例えば、PCBMなどのフラーレン誘導体を適用してもよい。この場合には、例えば、フラーレン誘導体としてのPCBMを有機溶媒に溶解させることで調製した原料液を用いる。そして、光吸収層23上に塗布した原料液に乾燥およびアニールを施すことで、光吸収層23上にPCBMの第1半導体層22tを形成してもよい。また、第1半導体層22tの材料に適用される有機材料については、例えば、官能基を変更して、有機溶媒に対する溶解性および物性を変えてもよい。
【0091】
ステップST4bでは、第1半導体層22t上に第1キャリア導入層22iを形成する。第3実施形態では、例えば、第1半導体層22tの光吸収層23とは逆側の面に接するように第1キャリア導入層22iを形成する。ここでは、例えば、蒸着などの真空プロセスによって、第1キャリア導入層22iの材料を第1半導体層22t上に堆積させることで、第1半導体層22t上に第1キャリア導入層22iを形成することができる。第1キャリア導入層22iの材料には、例えば、Cs2CO3、LiFまたはCaが適用される。これにより、光吸収層23上に、第1半導体層22tと、第1キャリア導入層22iと、を積層することで、第1キャリア輸送部22を形成することができる。ここでは、第1キャリア導入層22iを、第1半導体層22tのうちの光吸収層23とは逆側の面に接するように形成する。そして、ここでは、例えば、第1キャリア導入層22iが、第1半導体層22tの電子親和力よりも小さなイオン化ポテンシャルを有するように、第1半導体層22tの材料を採用する。これにより、例えば、第1半導体層22tにおける不純物元素の濃度を高めなくても、第1半導体層22tに接している第1キャリア導入層22iによって第1半導体層22tに電子が導入される。このため、例えば、第1半導体層22tにおける電子の密度(キャリア密度ともいう)を高めることができる。その結果、例えば、第1半導体層22tにおける抵抗損失および再結合損失が増加しにくい。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を向上させることができる。
【0092】
ステップST5では、第1キャリア輸送部22上に第1電極21を形成する。第3実施形態では、例えば、第1キャリア導入層22iのうちの光吸収層23とは逆側の面に接するように第1電極21を形成する。ここでは、例えば、スパッタリングなどの真空プロセスによって、第1キャリア輸送部22上に第1電極21の材料を堆積させることで、第1キャリア輸送部22上に第1電極21を形成することができる。第1電極21の材料には、例えば、ITO、FTO、TiO2、SnO2またはZnOなどのTCO、あるいは銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、チタン(Ti)、インジウム(In)またはスズ(Sn)などの金属が適用され得る。
【0093】
ところで、上述したように、例えば、第1キャリア輸送部22が、第1方向としての-Z方向において第1半導体層22tと第1キャリア導入層22iとが1回積層しているシンプルな構造を有していれば、太陽電池素子20を容易に製造することができる。また、例えば、第1半導体層22tと第1キャリア導入層22iとの接触抵抗が増加しにくい。その結果、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を容易に向上させることができる。
【0094】
また、上述したように、例えば、第2キャリア輸送部24が、第1方向としての-Z方向において第2キャリア導入層24iと第2半導体層24tとが1回積層しているシンプルな構造を有していれば、太陽電池素子20を容易に製造することができる。また、例えば、第2キャリア導入層24iと第2半導体層24tとの接触抵抗が増加しにくい。その結果、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を容易に向上させることができる。
【0095】
ところで、第3実施形態でも、第1実施形態と同様に、例えば、相互に異なる成膜プロセスで第2キャリア導入層24iと第2半導体層24tとを順に形成することで、第2キャリア輸送部24を形成することができる。また、例えば、相互に異なる成膜プロセスで第1半導体層22tと第1キャリア導入層22iとを順に形成することで、第1キャリア輸送部22を形成することができる。このため、例えば、第2キャリア輸送部24を形成する際に、相互に適した成膜プロセスが異なる第2キャリア導入層24iと第2半導体層24tとをこの記載の順に積層させることができる。また、例えば、第1キャリア輸送部22を形成する際に、相互に適した成膜プロセスが相互に異なる第1半導体層22tと第1キャリア導入層22iとをこの記載の順に積層させることができる。また、ここで、相互に異なる成膜プロセスの組み合わせは、例えば、スパッタリングと蒸着との組み合わせ、あるいは原料液の塗布および加熱を行うプロセスとスパッタリングまたは蒸着との組み合わせ、などを含む。例えば、spiro-OMeTAD、P3HT、PTAAおよびPoly-TPDなどの有機材料の成膜には、有機材料の主鎖が切れる可能性のある蒸着などの真空プロセスよりも、原料液の塗布および加熱を行うプロセスの方がより適している場合が想定される。
【0096】
ここで、例えば、
図6(a)で示されるように、光吸収層23の形成条件などによって、光吸収層23の表面上に多数の凹部R0と多数の凸部P0とを含む凹凸23fが形成される場合を想定する。このような場合には、例えば、ステップST4のうち、ステップST4aにおいて、第1半導体層22tを原料液の塗布および加熱によって形成し、ステップST4bにおいて、第1キャリア導入層22iを真空プロセスで形成することが考えられる。このような構成が採用されれば、例えば、
図6(b)で示されるように、光吸収層23の凹凸23fを第1半導体層22tで埋めることができる。その後、例えば、
図6(c)で示されるように、第1半導体層22t上に第1キャリア導入層22iを形成して、
図6(d)で示されるように、第1キャリア導入層22i上に第1電極21を形成することができる。ここで、例えば、ステップST4bにおいて、第1キャリア導入層22iを原料液の塗布および加熱によって形成してもよい。ここでは、例えば、
図6(b)および
図6(c)で示されるように、凹凸23fは第1半導体層22tのみで埋められていてもよいし、第1半導体層22tと第1半導体層22t上に形成された第1キャリア導入層22iとで埋められてもよい。換言すれば、例えば、光吸収層23から第1電極21に向かう第1方向としての-Z方向において、凹凸23fの高さよりも、第1半導体層22tの厚さを大きくしてもよいし、凹凸23fの高さよりも、第1半導体層22tの厚さと第1キャリア導入層22iの厚さとを合計した厚さを大きくしてもよい。さらに、換言すれば、ステップST4においては、例えば、光吸収層23の厚さ方向としての-Z方向において、光吸収層23のうちの第1キャリア輸送部22が形成される対象の表面(被形成表面)に存在する凹凸23fの高さよりも、第1キャリア輸送部22の厚さが大きくなるように、第1キャリア輸送部22を形成してもよい。被形成表面としては、例えば、光吸収層23の第1方向としての-Z方向を向いた表面が採用される。これにより、例えば、太陽電池素子20では、光吸収層23から第1電極21に向かう第1方向としての-Z方向において、第1キャリア輸送部22の厚さが、光吸収層23の第1電極21側の表面に存在する凹凸23fの高さよりも大きい状態となる。ここで、例えば、光吸収層23のうちの第1キャリア輸送部22側の面に多数の凹部R0と多数の凸部P0とが存在している場合を想定する。この場合には、光吸収層23の厚さ方向としての-Z方向における凹凸23fの高さには、例えば、多数の凹部R0のうちの最も第2電極25の近くに位置している底部と、多数の凸部P0のうちの最も第2電極25の遠くに離れて位置している頂部と、の光吸収層23の厚さ方向としての-Z方向における距離が適用される。
【0097】
ここでは、例えば、光吸収層23の表面に凹凸23fが存在していても、この凹凸23fを第1半導体層22tで埋めることで、光吸収層23と第1電極21とが直接接触しにくく、光吸収層23のより広い面上に第1キャリア輸送部22を形成することができる。その結果、例えば、光吸収層23と第1電極21との間におけるリーク電流の発生を低減することが可能であり、光吸収層23における光電変換で得られたキャリア(電子)を第1電極21まで効率良く輸送することができる。したがって、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を向上させることができる。
【0098】
また、例えば、ステップST4において、ステップST4aにおける第1半導体層22tの形成およびステップST4bにおける第1キャリア導入層22iの形成の双方を真空プロセスで実行してもよい。具体的には、例えば、ステップST4aにおける第1半導体層22tの形成およびステップST4bにおける第1キャリア導入層22iの形成の双方を、蒸着またはスパッタリングなどの同一種類の真空プロセスで実現してもよい。このような構成が採用されれば、例えば、同一の成膜装置で連続的に第1半導体層22tと第1キャリア導入層22iとを形成することができる。これにより、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を容易に向上させることができる。さらに、例えば、第1半導体層22tおよび第1キャリア導入層22iに加えて第1電極21まで蒸着などの同一種類の真空プロセスで形成してもよい。このような構成が採用されれば、例えば、同一の成膜装置で連続的に第1半導体層22tと第1キャリア導入層22iと第1電極21とを形成することができる。これにより、例えば、太陽電池素子20における光電変換効率を容易に向上させることができる。
【0099】
さらに、ここでは、例えば、第2キャリア輸送部24は、例えば、
図10で示されるように、第1方向としての-Z方向において第2キャリア導入層24iと第2半導体層24tとが繰り返し積層された状態にあってもよい。換言すれば、例えば、光吸収層23から第2電極25に向かう第2方向としての+Z方向において第2半導体層24tと第2キャリア導入層24iとが繰り返し積層された状態にあってもよい。このような第2キャリア輸送部24は、例えば、上記ステップST2で、第2電極25上に、ステップST2aで形成される第1キャリア導入層22iと、ステップST2bで形成される第1半導体層22tと、を繰り返し積層することで形成され得る。ここでは、例えば、第2キャリア導入層24iによってキャリア(正孔)を導入することが可能な第2半導体層24tの厚さが小さい場合でも、第1方向としての-Z方向において第2キャリア導入層24iと第2半導体層24tとが複数回積層されている第2キャリア輸送部24が採用されれば、第2キャリア輸送部24の厚さを増加させることができる。
【0100】
また、ここでは、例えば、第1キャリア輸送部22は、例えば、
図10で示されるように、光吸収層23から第1電極21に向かう第1方向としての-Z方向において第1半導体層22tと第1キャリア導入層22iとが繰り返し積層された状態にあってもよい。このような第1キャリア輸送部22は、例えば、上記ステップST4で、光吸収層23上に、ステップST4aで形成される第1半導体層22tと、ステップST4bで形成される第1キャリア導入層22iと、を繰り返し積層することで形成され得る。ここでは、例えば、第1キャリア導入層22iによってキャリア(電子)を導入することが可能な第1半導体層22tの厚さが小さい場合でも、第1方向としての-Z方向において第1半導体層22tと第1キャリア導入層22iとが複数回積層されている第1キャリア輸送部22が採用されれば、第1キャリア輸送部22の厚さを増加させることができる。これにより、例えば、光吸収層23の表面に凹凸23fが存在していても、この凹凸を第1キャリア輸送部22で埋めることができる。その結果、例えば、光吸収層23と第1電極21との間におけるリーク電流を生じにくくすることができる。ここで、例えば、第1キャリア輸送部22において、第1方向としての-Z方向において第1半導体層22tと第1キャリア導入層22iとが繰り返し積層される回数には、第1キャリア輸送部22における必要な厚さに応じた2回以上の任意の回数が適用される。ここでも、例えば、ステップST4においては、光吸収層23の厚さ方向としての-Z方向において、光吸収層23のうちの第1キャリア輸送部22が形成される対象の表面(被形成表面)に存在する凹凸23fの高さよりも、第1キャリア輸送部22の厚さが大きくなるように、第1キャリア輸送部22を形成してもよい。被形成表面としては、例えば、光吸収層23の第1方向としての-Z方向を向いた表面が採用される。これにより、例えば、太陽電池素子20では、光吸収層23から第1電極21に向かう第1方向としての-Z方向において、第1キャリア輸送部22の厚さが、光吸収層23の第1電極21側の表面に存在する凹凸23fの高さよりも大きい状態となる。
【0101】
<2-3.第4実施形態>
上記各実施形態において、例えば、第1キャリア輸送部22が、第1導電型(n型)の半導体層であってもよい。この場合には、例えば、
図11(a)で示されるように、第1キャリア輸送部22が1層の半導体層によって構成される態様が考えられる。
【0102】
また、上記各実施形態において、例えば、第1キャリア輸送部22が削除され、光吸収層23が第1導電型(n型)を有する光吸収層26に変更されてもよい。この場合には、例えば、
図11(b)で示されるように、第1導電型(n型)を有する光吸収層26には、1枚の半導体基板などが適用される。半導体基板には、例えば、第1導電型(n型)を有するシリコン基板などが適用され得る。
【0103】
<2-4.第5実施形態>
上記各実施形態において、例えば、第2キャリア輸送部24が、第2導電型(p型)の半導体層であってもよい。この場合には、例えば、
図12(a)で示されるように、第2キャリア輸送部24が1層の半導体層によって構成される態様が考えられる。
【0104】
また、上記各実施形態において、例えば、第2キャリア輸送部24が削除され、光吸収層23が第2導電型(p型)を有する光吸収層27に変更されてもよい。この場合には、例えば、
図12(b)で示されるように、第2導電型(p型)を有する光吸収層27には、1枚の半導体基板または1層の薄膜状の半導体層などが適用される。半導体基板には、例えば、第2導電型(p型)を有するシリコン基板などが適用され得る。薄膜状の半導体層の材料には、例えば、第2導電型(p型)を有するCIS半導体またはCIGS半導体などのカルコパイライト構造を有する化合物半導体などが適用される。CIS半導体は、銅(Cu)、インジウム(In)およびセレン(Se)を含む化合物半導体である。CIGS半導体は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)およびセレン(Se)を含む化合物半導体である。
【0105】
<2-5.第6実施形態>
上記各実施形態において、例えば、
図13で示されるように、第1キャリア導入層22iが、第1半導体層22tの一面上において、分散している複数の島状の部分を有する態様が採用されてもよい。また、上記各実施形態において、例えば、
図13で示されるように、第2キャリア導入層24iが、第2半導体層24tの一面上において、分散している複数の島状の部分を有する態様が採用されてもよい。
【0106】
上記各実施形態および各種変形例をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0107】
20 太陽電池素子
21 第1電極
22 第1キャリア輸送部
22i 第1キャリア導入層
22t 第1半導体層
23,26,27 光吸収層
24 第2キャリア輸送部
24i 第2キャリア導入層
24t 第2半導体層
25 第2電極