(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】溶射装置
(51)【国際特許分類】
C23C 4/12 20160101AFI20221108BHJP
B05B 7/22 20060101ALI20221108BHJP
B05B 13/02 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C23C4/12
B05B7/22
B05B13/02
(21)【出願番号】P 2019207615
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-08-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001812
【氏名又は名称】株式会社サタケ
(72)【発明者】
【氏名】福森 武
(72)【発明者】
【氏名】森田 聖法
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105862046(CN,A)
【文献】特開2019-010501(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108309064(CN,A)
【文献】特開2012-224934(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0115578(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0065337(US,A1)
【文献】特開2013-256715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00
A47J 36/00
B25J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射対象物である炊飯釜を溶射するための溶射装置であって、前記溶射対象物に溶射を行う溶射ガンと、前記溶射ガンを所定位置で固定して支持する支持スタンドと、前記支持スタンドに支持された溶射ガンと前記溶射対象物との間の相対位置関係を変化させつつ、前記溶射対象物を移動可能に固定した多関節ロボットと、前記溶射対象物の監視を行う撮像ユニットと、該撮像ユニットで撮像された画像を分析して前記溶射ガン及び/又は前記多関節ロボットを制御する制御ユニットとを備え、
前記制御ユニットは、前記撮像ユニットにより撮像された画像を分析して前記溶射対象物である炊飯釜の平坦な部分とRが形成された部分とを識別し、前記溶射対象物である炊飯釜の全体の膜厚が均一化するように前記溶射ガン及び/又は前記多関節ロボットを制御
し、
前記多関節ロボットには、溶射対象物である炊飯釜を把持するためのチャック部材が設けられ、前記チャック部材は、前記炊飯釜の開口面外縁のフランジを掴むための複数の把持部と、前記複数の把持部の内側に設けた滑り止め部材と、前記複数の把持部を連絡するために前記炊飯釜の開口面中央で連結した複数の梁部材と、前記多関節ロボットの関節と連結するためのジョイント部とで構成されていることを特徴とする溶射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、業務用炊飯装置で使用される炊飯釜において、経年劣化により使い古した炊飯釜の釜底を溶射するための溶射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶射の準備が短時間で行え、しかも、品質のよい溶射被膜が得られるプラズマジェット溶射装置が知られている(特許文献1参照)。
図5は、特許文献1に記載の従来の溶射装置の概略図である。この溶射装置は、容器121の内部に被溶射物104を固定するマニュピレータ123が設置される。このマニュピレータ123は容器121の外部からの指令により被溶射物104を上・下・左・右・前・後に移動させたり、あるいは回転させたりする機能を有する。そして、被溶射物104と対向して、溶射ガン108等が備えられる。これにより、被溶射物104をマニュピレータ123に固定し、該マニュピレータ123を操作して被溶射物104と溶射ガン108との相対位置を決め、作業者が、覗き窓から監視しながらマニュピレータを操作することにより、設定速度で被溶射物104を回転させたり、あるいは移動させたりしながら溶射し、品質のよい溶射被膜を得るというものである。
【0003】
ところで、業務用の炊飯装置は、近年、熱源として熱効率の高い電磁誘導加熱方式(IH:Induction Heating)が採用されてきている。したがって、炊飯釜を形成する鋼板の材質として、例えば、以下のものを使用している。内側をテフロン(登録商標)加工したアルミ鋳物(Al)の母材外側に、ニッケルクロム(Ni-Cr)、鉄(Fe)、及びアルミ合金(Al-Si)の層を溶射により被覆して形成する。そして、この溶射により形成した被膜層が電磁誘導加熱の発熱体として使用されることになる。したがって、炊飯釜の経年使用によって、溶射被膜が剥がれたり、溶射被膜にクラックが発生したりして、溶射被膜が劣化すると、電磁誘導加熱の不良が起こって炊飯ムラが生じることとなる。このため、この溶射被膜の剥がれやクラックの発生を早期に発見して、溶射をやり直して炊飯釜の再生を行うようにするとよい。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載した溶射装置にあっては、炊飯釜の側面部分と、釜底部分と、側面部分から釜底部分に至るR部分とを溶射する際に不都合が生じていた。つまり、側面部分と釜底部分とを分けて溶射を施工したとしても、R部分には溶射被膜が被ってしまい、本来あまり厚く溶射したくないR部分が厚肉となり、不良被膜(膜厚ムラ)を形成してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点にかんがみ、炊飯釜の側面部分、釜底部分及びR部分の膜厚を均一にすることのできる溶射装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、溶射対象物である炊飯釜を溶射するための溶射装置であって、前記溶射対象物に溶射を行う溶射ガンと、前記溶射ガンを所定位置で固定して支持する支持スタンドと、前記支持スタンドに支持された溶射ガンと前記溶射対象物との間の相対位置関係を変化させつつ、前記溶射対象物を移動可能に固定した多関節ロボットと、前記溶射対象物の監視を行う撮像ユニットと、該撮像ユニットで撮像された画像を分析して前記溶射ガン及び/又は前記多関節ロボットを制御する制御ユニットとを備え、前記制御ユニットは、前記撮像ユニットにより撮像された画像を分析して前記溶射対象物である炊飯釜の平坦な部分とRが形成された部分とを識別し、前記溶射対象物である炊飯釜の全体の膜厚が均一化するように前記溶射ガン及び/又は前記多関節ロボットを制御し、
前記多関節ロボットには、溶射対象物である炊飯釜を把持するためのチャック部材が設けられ、前記チャック部材は、前記炊飯釜の開口面外縁のフランジを掴むための複数の把持部と、前記複数の把持部の内側に設けた滑り止め部材と、前記複数の把持部を連絡するために前記炊飯釜の開口面中央で連結した複数の梁部材と、前記多関節ロボットの関節と連結するためのジョイント部とで構成する、という技術的手段を講じた。
【0011】
【発明の効果】
【0012】
本発明では、溶射対象物である炊飯釜を溶射するための溶射装置であって、前記溶射対象物に溶射を行う溶射ガンと、前記溶射ガンを所定位置で固定して支持する支持スタンドと、前記支持スタンドに支持された溶射ガンと前記溶射対象物との間の相対位置関係を変化させつつ、前記溶射対象物を移動可能に固定した多関節ロボットと、前記溶射対象物の監視を行う撮像ユニットと、該撮像ユニットで撮像された画像を分析して前記溶射ガン及び/又は前記多関節ロボットを制御する制御ユニットとを備え、前記制御ユニットは、前記撮像ユニットにより撮像された画像を分析して前記溶射対象物である炊飯釜の平坦な部分とRが形成された部分とを識別し、前記溶射対象物である炊飯釜の全体の膜厚が均一化するように前記溶射ガン及び/又は前記多関節ロボットを制御し、前記多関節ロボットに、溶射対象物である炊飯釜を把持するためのチャック部材を設けたので、溶射の膜厚を厚くしたくない部分(例えばR部)があったとしても、溶射ガンとの相対位置関係をリアルタイムに変化させて溶射を行うことができるようになり、溶射対象物の全体(炊飯釜の側面部分、釜底部分及びR部分の全体)の膜厚を均一化して、品質を安定させることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態における溶射装置を示す模式図である。
【
図2】本実施形態における溶射対象物としての炊飯釜をチャック部材に把持する様子を示す概略斜視図である。
【
図3】本実施形態における溶射手順を示す概略図(a)及び(b)である。
【
図4】本実施形態における溶射手順を示す概略図(c)及び(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る溶射装置の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態における溶射装置1を示す模式図である。
図1に示すように、溶射装置1は、溶射対象物(使い古した炊飯釜)2の外側面に溶射を行う溶射ガン3と、溶射ガン3を所定位置で固定して支持する支持スタンド4と、この支持スタンド4に支持された溶射ガン3と溶射対象物2との間の相対位置関係を変化させつつ、溶射対象物2を移動可能に固定した多関節ロボット5と、を備えて構成される。このほか、前記溶射装置1は、静止画像又はビデオ画像などを取得するカメラなどで溶射対象物2
の監視を行う撮像ユニット6と、マイクロプロセッサやメモリなどを含む制御ユニット7を備えていることが望ましい。
【0016】
制御ユニット7は、撮像ユニット6により撮像された溶射対象物2の画像を分析する画像分析部8と、多関節ロボット5の動作及び溶射ガン3の溶射速度などを制御する制御部9とを含んでいる。画像分析部8は、溶射対象物2の平坦な部分とRが形成された部分とを識別したり、溶射対象物2の溶射対象物2の溶射が施工された部分と未施工の部分とを識別したり、溶射対象物2に形成された溶射のコーティング層の膜厚を計測したりすることができる。なお、これらの識別や計測は、周知の画像解析手法を用いることができるので、ここでは説明を省略する。
【0017】
多関節ロボット5は、ベース部10と、旋回部11と、複数の関節12から15と、この複数の関節12から15に連結された複数のリンク部材16から19とを有しており、上述の溶射対象物(使い古した炊飯釜)2が関節15先端にチャック部材20を介して取り付けられている。チャック部材20は溶射対象物2が落下しないよう強固に取り付けられている(例えば、炊飯釜2の鍔状フランジを把持して強固に固定する)。前記多関節ロボット5は、制御ユニット7の制御部9に接続されており、制御部9からの命令に応じて各関節12から15周りにリンク部材16から19が回転するようになっている。したがって、制御部9は、多関節ロボット5に送信する命令を適切に組み合わせることにより、関節15先端のチャック部材20に取り付けられた溶射対象物(炊飯釜)2を任意の姿勢で任意の位置に移動することができる。
【0018】
溶射ガン3を支持する支持スタンド4は、ベース部21に立設した支持脚22、この支持脚22の上端に設けられた角度調節機構23からなり、溶射ガン3が角度調節機構23に取り付けられることで、所定位置、所定角度に固定されることとなる。前記溶射ガン3は、制御ユニット7の制御部9に接続されており、制御部9からの命令に応じて、単位時間当たりの溶射量を調節することができ、ひいては溶射対象物2の面積に応じて調節することで溶射速度の制御ができることとなる。
【0019】
このように、本実施形態では、所定位置で固定状に設けた溶射ガン3と、溶射対象物2を移動可能に固定した多関節ロボット5により、溶射対象物2を任意に移動させることができ、溶射ガン3と溶射対象物2との間の相対位置関係をリアルタイムに変化させながら、溶射を行うことができる。したがって、溶射対象物2が使い古した炊飯釜である場合、側面部分と釜底部分とを分けて溶射を施工する際、側面部分と釜底部分との境界となるR部分について、溶射ガン3に対向するように適切な姿勢で適切な位置に炊飯釜2を移動させることにより、従来の溶射装置では困難であったR部分の不良被膜(膜厚ムラ)をなくすことができる。
【0020】
また、溶射装置1に、静止画像又はビデオ画像などを取得し溶射対象物2の監視を行う撮像ユニット6と、マイクロプロセッサやメモリなどを含む制御ユニット7とを備えた実施形態では、溶射対象物2の平坦な部分とRが形成された部分とを識別したり、溶射対象物2の溶射対象物2の溶射が施工された部分と未施工の部分とを識別したり、溶射対象物2に形成された溶射のコーティング層の膜厚を計測したりして、溶射状態について人間の目視による監視から撮像ユニット6による監視に代えることができ、溶射施工を自動化することができる。
【0021】
図2は、本実施形態における溶射対象物としての炊飯釜2をチャック部材20に把持する様子を示す概略斜視図である。炊飯釜2は、その外縁が円形を呈している。したがって、チャック部材20は炊飯釜2が滑って落下することがないように炊飯釜2の開口面外縁のフランジ2aを掴むよう四方に複数の把持部30…を設け、さらに、該複数の把持部30…の内側にウレタンゴムなどの滑り止め部材を設けるのがよい。そして、複数の把持部30…は複数の梁部材31…により開口面中央で連結され、開口面中央では多関節ロボット5の関節15と連結するためのジョイント32,33が設けられる。前記チャック部材の把持部30は、エア圧によりチャックする機構としてもよいし、万力などの機械的な締め付け具による機構としてもよい。
【0022】
図3及び
図4は、本実施形態における溶射手順を示す概略図である。
図3(a)は初期位置を示すものである。すなわち、テーブル50上に載置された炊飯釜2にチャック部材20を取り付け、ジョイント32,33などを介して多関節ロボット5の関節15に炊飯釜2を取り付けた状態を示す。関節15は一方向にエンドレスに回転するようになっている。回転数として、例えば、60回転/分に設定しておくとよい。
【0023】
図3(b)は炊飯釜2の側面部分2bの溶射位置を示すものである。関節15を回転させるとともに、固定した溶射ガン3から噴射して溶射を行う。このとき、多関節ロボット5を図面右方向に若干移動させながら溶射を行うと、側面部分2b全体の膜厚ムラのない均一な溶射が可能となる。
【0024】
図4(c)は炊飯釜2のR部分2cの溶射位置を示すものである。多関節ロボット5の関節12から15及びリンク部材16から19により、炊飯釜2のR部分2cを溶射する際に溶射ガン3との相対位置関係をリアルタイムに変化させて溶射を行うことができる。
【0025】
図4(d)は炊飯釜2の底面部分2dの溶射位置を示すものである。底面部分2dを溶射する場合も、多関節ロボット5により溶射ガン3との相対位置関係をリアルタイムに変化させて溶射を行うことができる。このとき、多関節ロボット5を図面右方向に若干移動させながら溶射を行い、溶射位置が底面部分2dの中心付近に至れば、溶射の施工が終了することとなる。
【0026】
上記の側面部分2b、R部分2c及び底面部分2dの一連の連続した溶射を施すことにより、溶射の膜厚を厚くしたくないR部分2cがあったとしても、溶射ガン3との相対位置関係をリアルタイムに変化させて溶射を行うことで、溶射対象物の全体(炊飯釜2の側面部分2b、釜底部分2d及びR部分2cのすべて)の膜厚を均一化して、品質を安定させることができるようになった。
【0027】
なお、溶射の際に、撮像ユニット6により、静止画像又はビデオ画像などを取得し溶射
対象物2の監視を行うと、溶射対象物2の平坦な部分とRが形成された部分とを識別したり、溶射対象物2の溶射対象物2の溶射が施工された部分と未施工の部分とを識別したり、溶射対象物2に形成された溶射のコーティング層の膜厚を計測したりして、溶射施工を自動化することができる。
【0028】
これに限らず、多関節ロボット5の動きを炊飯釜2の表面に沿うよう、10mmとか20mm間隔でティーチングしながら、溶射する場所を記憶させておき、溶射ガン2との相対的な動く速度を制御したり、溶射時間を制御したりすることでも、溶射施工を自動化することができる。
【0029】
また、溶射ガン3または多関節ロボット5側には、エアを噴き出すユニット治具を取り付け、溶射時に発生するヒューム(高温で蒸発した金属蒸気が凝集してできた微粒子)を吹き飛ばすようにしてもよい。
【0030】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物が含まれる。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 溶射装置
2 溶射対象物(炊飯釜)
3 溶射ガン
4 支持スタンド
5 多関節ロボット
6 撮像ユニット
7 制御ユニット
8 画像分析部
9 制御部
10 ベース部
11 旋回部
12 関節
13 関節
14 関節
15 関節
16 リンク部材
17 リンク部材
18 リンク部材
19 リンク部材
20 チャック部材
21 ベース部
22 支持脚
23 角度調節機構
30 把持部
31 梁部材
32 ジョイント
33 ジョイント
50 テーブル