(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】意識モジュールの新機能
(51)【国際特許分類】
G06N 3/04 20060101AFI20221108BHJP
G06N 3/08 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
G06N3/04 145
G06N3/08
(21)【出願番号】P 2018083480
(22)【出願日】2018-04-09
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】598150639
【氏名又は名称】武野 純一
(72)【発明者】
【氏名】武野 純一
【審査官】多賀 実
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-350973(JP,A)
【文献】特開2007-265345(JP,A)
【文献】特開2001-160130(JP,A)
【文献】武野 純一,「心をもつロボット 鋼の思考が鏡の中の自分に気づく!」,日刊工業新聞社,2011年11月11日,pp.169-176
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューラルネットワーク技術で作られたOUTとRLなる情報を計算する情報システムである基本意識モジュールSbであって、
(SSU)、a”の情報端子は入力(IN)、bの情報端子は認知表象(RL)、b’の情報端子
Sbは内部または外部に記憶装置Mを設置しているが、Sbは初期学習を実現す
本意識モジュールSbの計算を高速化し、またSbの初期学習を実現する時は、認知過程のための学習のみで行動過程の学習が同時に実現するため、
Sbの初期学習を実現する時の開発コストが低減する、ことを特徴とする
基本意識モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューラルネットワーク技術で作られた意識モジュールの開発コスト低減化と意識機能の高速処理に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
この種の意識モジュールは、本出願人がすでに基本技術を提案し公知となっている(特許文献1)。それは、当文献の
図1に示す如く、共通の神経細胞群Nを介して2種の再帰的ニューラルネットワークがリンクした構造であり、一方が外環境からの情報を処理し、他の一方は内環境の情報を処理する仕組みとなっている。すなわち、この意識モジュールは外環境の情報と内環境の情報をトップダウン・ボトムアップ的に処理するある種の通信モジュールともいえる。この意識モジュールがヒト意識に似た機能を代行できることは明らかである(非特許文献1)。しかしながら、個々の意識モジュールを開発するにあたって開発コストの低減化と、モジュールの処理速度の高速化が必要と認識されたため、本発明に至ったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-350973(段落番号0001~0019、
図1)
【非特許文献】
【0004】
【文献】「心をもつロボット」、日刊工業新聞社、p.169~176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の装置は、初期学習において認知過程の学習と行動過程の学習という2つの異なる学習情報を同時に利用して一つの装置の機能として統合的に学習を行っている。しかし、この初期学習に利用する一つの装置の機能として統合的に利用できる認知過程の学習と行動過程の学習という2つの異なる学習情報を事前に準備する開発コストは膨大であって、このコストの低減化が是非とも必要であった。また、この装置の処理プロセスの殆どは、現在のところ、情報科学でいうところの多数の人工脳細胞へのニューロ計算に基づいているため、この計算量の全体的な軽減化が必要であった。したがって、本発明が解決しようとする課題は、従来の装置が持つ、初期学習に利用する学習・教師データを準備する開発コストの低減と装置そのものの計算量の軽減化である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
解決手段は、装置Sbの内外いずれかに記憶装置Mを付加し、そのMの内部情報として認知過程のための初期学習において取得した、幾つかの情報を格納することである。本発明では、Sbの重要な機能を司る、少なくとも4つの情報を要素とした、組情報を一単位として
る。通常、組情報は単一あるいは複数の単位がMに格納される。ここでSbの通常な処理としてRLの情報がBLに複写されている点、またBLの受け入れる情報は初期学習時に学習されたRLの情報パターンのみであるという点に注目すべきである。さらに、その組情報はSbの初期学習において取り入れられた情報であり、かつSbの認知過程で利用される情報であるのにも関わらず、Sbの行動過程においてもそのまま利用できる情報(IN,SSU,N,BL)でもあるのである。なぜなら、RLの持つ前述2件の条件から明らかであろう。
【0007】
まず、SbにおいてBLが単にRLから情報を複写された場合を考察する。これは認知過程そのものであるので後に述べる。
続いてSbにおいてBLが単なるRLから複写を受けたのではない場合、すなわちBLが内環
情報と既にSb上に存在しているINやSSUの情報と共にニューロ計算を実施して、まず神経細胞群Nの情報を計算し、さらにそのNの情報から、OUTとRLを計算する手順となる。しかし本発明による手法では予め初期学習で取得した組情報の1つの要素m3を神経細胞群Nへ複写すればよいことから、新しいSbでは行動過程の計算量を減少させることが出来ることとなる。m3の情報を見つけるのにあたって情報m1,m2を、一時記憶メモリw3,w4を経て、Sbへ新たに入力する必要が生じるが、それらの情報はSb上にあるINやSSUの情報ではなく、内環境にある他のSbあるいは計算ユニットからの情報として与えられる点に注意するべきである。それらの情報はSbの初期学習によって得られた記憶装置Mに記録されている組情報が既に内環境にある他のSbあるいは計算ユニットによって利用ができることを主張すれば十分であろう。
【0008】
また、前述したようにSbの認知過程においてもこの組情報がその過程における計算量の軽量化を実現することは明らかである。また、Sbの初期学習によって得られたこの組情報が、Sbの認知過程や行動過程に同時に利用されることによって、本発明によるSbにおいて従来のSbより計算量が軽量化されることは明らかである。さらに、本発明によるSbは、従来のSbが必要としていた初期学習時に認知過程の学習と行動過程の学習という2つの異なる学習情報を同時に利用して一つの装置の機能として統合的に学習を行うという2重の処理を実施せずとも、単一の認知過程の学習のみにて初期学習を完成させることが出来るため、Sbの開発コストを低減化できることも明白であろう。
【発明の効果】
【0009】
従来の基本意識モジュールSbは初期学習の時に認知過程の学習情報と行動過程の学習情報の両者が準備される必要がある。さらにこの2種類の学習情報は単一のSbで利用されるため、勿論それらの情報が互いに矛盾が無く作成されねばならない。この時注意すべきは、それらの学習情報を構成する情報パターンがSbにおいて夫々異なる概念(意味)を持っている(例えば、011という情報パターンが“上方”を意味する)ことから、それらの情報パターンの中からそれぞれの矛盾情報を取り除く作業は自動化が困難であり手作業となっていて、認知過程と行動過程の学習情報の両者を準備すらための開発コストを膨大に増加させていた。さらに、従来のSbにおける行動過程の学習情報は、認知過程の場合の様に、Sbの内部情報SSUやBLをそのまま利用できない場合がほとんどで、未確定情報(例えば、3ビットで構成されるSSUが未確定であれば、学習情報に3ビットで構成されるすべての情報パターン000,001,010,011,100,101,110,111)を行動過程の学習情報として考慮しなければならず、しかも学習情報のそれぞれに矛盾が生じないように学習情報を構成する必要があった。勿論のこと、学習情報の中に互いに矛盾する情報があれば、Sbの初期学習が終了せず、Sbの活動機能が取得不可能となる。すなわち、これらの情報を生成する開発コストは膨大であり勿論自動化も困難であった。しかし、本発明によって新たなSbでは認知過程の学習手順のみで行動過程の学習が同時に実現できることになった。すなわち新たなSbでは行動過程の学習手順が不要となり、新たなSbの開発コストが低減化された。また、本発明によって新たなSbの総計算量は削減されたといえる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】基本意識モジュールSbと記憶装置Mへの組情報の格納について
【
図2】Sbが行動過程を実施する時の組情報の利用について
【
図3】Sbが認知過程を実施する時の組情報の利用について
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記に述べた発明装置の実施例は
図1、
図2、
図3に示す。
図1は基本意識モジュールSbと記憶装置Mへの組情報の格納について述べている。図中のSbの一部は既に特許等によって公開情報(特願2006-350973)がある。その公開情報に新たな部分が付加された。それは図中に示されている記憶装置Mと一時記憶メモリw3とw4である。これらの付加された装置そのものは特段の新規性は無いが、Sbの内部あるいは外部にこれらの装置が設置されると基本意識モジュールSbは新たにその機能が改善できるという新規性を有する。その新規性は前項に既に述べているが、Sbの初期学習に必要とされる開発コストを低減化できる点、またSbの認知過程や行動過程の計算量を軽減化できる点にある。
図1に示している組情報(m1,m2,m3,m4)は記憶装置Mに格納される要素の1例である。組情報m1,m2,m3,m4は1つの学習情報で決定できる夫々、SSU,IN,N,RLの情報である。この組情報の意味は、Sbの体性感覚情報SSUと入力INの情報が決ると、神経細胞群Nの情報によって計算がなされ、RLの情報を決定することである。この時の計算の一例は、情報科学でいうところのニューロ計算である。また、ここでいう学習情報という意味の一例は、情報科学でいうところの学習・教師データで構わない。また、組情報の要素数は、Sbで最も重要なSSU,IN,N,RLなる4種の情報を含み、少なくとも4となる。さらに、Sbの初期学習において記憶装置Mに格納される組情報の個数は、初期学習のために準備された学習情報の数、すなわち学習・教師データの個数に等しい。
【0012】
図2はSbが行動過程にある状況である。行動過程とは、内環境にある他のSbあるいは計算
とRLが計算される過程である。すなわち、その主たる違いはSbが生成するOUTの情報が、外環境からの情報に基づくのか、あるいは内環境にあるSbからの情報に基づくのかによ
を組情報の要素m1,m2,m4と夫々比較する。これらが全て一致する組情報からm3を発見する。通常は、m3の情報が必ず一意に決定できる。そしてm3の情報をSbの神経細胞群Nに複写すれば、SbはOUTとRLの情報を自動的に計算することが出来る。もし、組情報の中に一
ついては既に述べた。
【0013】
図3はSbが認知過程にある状況である。認知過程とはすなわち、Sbが入力情報INに外環境
SSU,BLの情報から、神経細胞群Nを経て、OUTとRLの情報が情報科学でいうところのニューロ計算によって決定する。しかし、本発明による記憶装置Mに格納された組情報を利用
を神経細胞群Nに複写すれば良い。m3の情報をSbの神経細胞群Nに複写すれば、SbはOUTとRLの情報を自動的に計算することが出来る。組情報が一つも発見できなければ、Sbに与えられたINの情報が未知情報であったことを意味し、その処理については既に述べた。
なお、本特許におけるSbのMを用いた連携計算はアナログ情報とデジタル情報が相互に変換しあう情報システムの一例を示している。そしてこの例はヒトが外界から得られるアナログ情報とその意味をいかにしてデジタル情報に引き渡しているのかを説明する一つの良い実例を示しているともいえる。