(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】酵素固定化用担体および固定化酵素
(51)【国際特許分類】
C12N 11/12 20060101AFI20221108BHJP
C12N 9/96 20060101ALI20221108BHJP
C08B 11/145 20060101ALI20221108BHJP
C08B 15/08 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C12N11/12
C12N9/96
C08B11/145
C08B15/08
(21)【出願番号】P 2018200157
(22)【出願日】2018-10-24
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 武
(72)【発明者】
【氏名】澤田 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】西浦 聖人
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-052081(JP,A)
【文献】特開昭61-015900(JP,A)
【文献】特開昭63-304000(JP,A)
【文献】特開昭62-228273(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140369(WO,A1)
【文献】Enzymatic synthesis and protein adsorption properties of crystalline nanoribbons composed of cellulose oligomer derivatives with primary amino groups,Journal of Biomaterials Science, Polymer Edition,2017,Vol. 28,p. 925-938
【文献】セルロースオリゴマーの自己組織化を利用したクリスピーゲルの構築と三次元細胞培養への展開,高分子学会予稿集,2018年08月29日,67巻2号,1T12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料と、アミノ基を含む置換基をアノマー位に有し前記多孔質材料に固定化されたセルロースと、を含む、
等電点がpH7.0以下の酵素を固定化するための酵素固定化用担体。
【請求項2】
前記セルロースが下記一般式(1)で表される、請求項1に記載の酵素固定化用担体。
【化1】
(式中、Aは炭素数1~20の2価の炭化水素基を表し、nは6~16である。)
【請求項3】
前記多孔質材料が繊維質材料からなる、請求項1又は2に記載の酵素固定化用担体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酵素固定化用担体と、前記セルロースに固定化された
等電点がpH7.0以下の酵素と、を含む、固定化酵素。
【請求項5】
等電点がpH7.0以下の酵素を固定化するための担体を製造する方法であって、
アミノ基を含む置換基をアノマー位に有するセルロースをアルカリ水溶液に溶解させた水溶液に、酸を加えて多孔質材料の存在下で前記セルロースを析出させることにより、前記多孔質材料に前記セルロースを固定化させる、酵素固定化用担体の製造方法。
【請求項6】
アミノ基を含む置換基をアノマー位に有するセルロースをアルカリ水溶液に溶解させた水溶液に、酸を加えて多孔質材料の存在下で前記セルロースを析出させることにより、前記多孔質材料に前記セルロースを固定化させる工程と、
前記セルロースに
等電点がpH7.0以下の酵素を固定化させる工程と、
を含む、固定化酵素の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質材料に前記セルロースを固定化させた後に、前記セルロースに前記酵素を固定化させる、請求項6に記載の固定化酵素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素固定化用担体、固定化酵素、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性のセルロースを人工的に合成する方法が知られている。例えば、加リン酸分解酵素であるセロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)の逆反応を利用して、α-グルコース-1-リン酸(αG1P)とプライマーとしてのグルコースとを、CDPと反応させることにより、人工的にセルロースを合成することができる(特許文献1参照)。
【0003】
また、CDPを利用したセルロースの人工合成において、プライマーとしてアノマー位に置換基を持つグルコース誘導体を用いることで、置換基を有するセルロースを合成することも知られている(特許文献2参照)。
【0004】
なお、人工合成で得られるセルロースは、一般に重合度が低いことから、オリゴマーであり、セロオリゴ糖ないしセロデキストリンとも称させるが、ここでは区別せずにすべてセルロースと称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2016/113933号
【文献】国際公開WO2016/140369号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来、酵素の有効利用を図るために、酵素を担体に固定化することが行われている。
【0007】
本発明の実施形態は、人工的に合成したセルロースを用いて酵素を固定化することを可能にする新規な酵素固定化用担体、および固定化した酵素、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る酵素固定化用担体は、多孔質材料と、アミノ基を含む置換基をアノマー位に有し前記多孔質材料に固定化されたセルロースと、を含むものである。
【0009】
本発明の実施形態に係る固定化酵素は、前記酵素固定化用担体と、前記セルロースに固定化された酵素と、を含むものである。
【0010】
本発明の実施形態に係る酵素固定化用担体の製造方法は、アミノ基を含む置換基をアノマー位に有するセルロースをアルカリ水溶液に溶解させた水溶液に、酸を加えて多孔質材料の存在下で前記セルロースを析出させることにより、前記多孔質材料に前記セルロースを固定化させるものである。
【0011】
本発明の実施形態に係る固定化酵素の製造方法は、アミノ基を含む置換基をアノマー位に有するセルロースをアルカリ水溶液に溶解させた水溶液に、酸を加えて多孔質材料の存在下で前記セルロースを析出させることにより、前記多孔質材料に前記セルロースを固定化させる工程と、前記セルロースに酵素を固定化させる工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態であると、酵素を容易に固定化することができる酵素固定化用担体及び固定化酵素を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1,2および比較例1~6の複合体の安定性評価結果を示す、複合体洗浄液の紫外可視吸収スペクトルの図
【
図2】実施例2および比較例6の複合体の赤外吸収スペクトルを示す図
【
図3】実施例2および比較例6の酵素活性を示す、反応液の紫外可視吸収スペクトルの図
【
図4】実施例2および比較例6の酵素活性を示す、反応液の紫外可視吸収スペクトルの405nmにおける吸光度のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.酵素固定化用担体
本実施形態に係る酵素固定化用担体は、(A)多孔質材料と、(B)アミノ基を有するセルロース(以下、アミノ化セルロースということもある。)と、を含むものである。
【0015】
(A)多孔質材料
多孔質材料とは、多数の微細な空隙を持つ物質であり、水不溶性の様々な多孔質材料を担体に用いることができる。多孔質材料は、繊維質であってもよく、非繊維質であってもよい。多孔質材料としては、内部に水が浸み込むことができるものを用いることが好ましく、より好ましくは水を透過することができる貫通気孔を持つものである。
【0016】
繊維質材料(即ち、多孔質の繊維質材料)としては、例えば、濾紙等の紙、不織布、織物、編物、ガラス繊維濾紙等が挙げられる。濾紙としては、植物繊維からなるセルロース濾紙でもよい。不織布、織物及び編物の材質としては、例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0017】
非繊維質材料(即ち、多孔質の非繊維質材料)の材質としては、例えば、セラミックス、ガラス、金属などの無機材料でもよく、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの有機材料でもよい。
【0018】
(B)アミノ化セルロース
アミノ化セルロースとしては、グルコースがβ-1,4結合により連結された構造を持つセルロース(より詳細にはセロオリゴ糖)において、そのアノマー位にアミノ基を含む置換基を持つものが用いられる。アミノ基としては、1級アミノ基であることが好ましい。アミノ基を有することにより、酵素を吸着して固定化することが可能となる。
【0019】
アミノ化セルロースとしては、より具体的には、下記一般式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。
【化1】
(式中、Aは炭素数1~20の2価の炭化水素基を表し、nは6~16である。)
【0020】
式中のAは、2価の脂肪族炭化水素基でもよく、2価の芳香族炭化水素基でもよい。2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルカンジイル基やアルケンジイル基などが挙げられ、直鎖でも分岐鎖を有してもよい。2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、芳香環の置換基を持つ2価の脂肪族炭化水素基や、アレーンジイル基などが挙げられ、これらの芳香環にはアルキル基などの置換基が付加されてもよい。Aの炭素数は、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~5である。Aは、好ましくは炭素数1~10のアルカンジイル基であり、より好ましくは炭素数1~5のアルカンジイル基である。
【0021】
式中のnは、セルロースの重合度を示し、6~16の整数である。nは、好ましくは7以上であり、また好ましくは15以下である。式(1)で表されるアミノ化セルロースは、通常は重合度の異なる化合物の混合物であり、平均重合度は、特に限定しないが、例えば7以上であることが好ましく、8以上でもよく、また、例えば14以下であることが好ましく、12以下でもよい。
【0022】
一実施形態において、アミノ化セルロースとしては、下記式(2)で表されるものを用いることが好ましい。
【化2】
(式中、nは、式(1)のnと同じである。)
【0023】
本実施形態に係るアミノ化セルロースは、セルロースII型の結晶構造を持つセルロース構造体であってもよい。すなわち、一実施形態において、アミノ化セルロースは、式(1)で表される化合物を構成成分として含有する、セルロースII型の結晶構造を持つセルロース構造体であってもよい。該セルロース構造体は、シート状の構造(セルロースナノシート)を持つものでもよい。天然由来のセルロース鎖が平行に配列したセルロースI型の結晶構造を持つのに対し、人工合成されたアミノ化セルロースは、熱力学的に安定であるセルロースII型の結晶構造を形成する。その際、セルロース鎖末端のアミノ基含有置換基(例えば、式(2)における2-アミノエチル基)は結晶形に影響を与えず、アミノ基含有置換基を持つセルロース誘導体はセルロースナノシートの膜厚方向に配列してラメラ結晶を形成しており、アミノ基がシート表面に露出する。
【0024】
本実施形態に係るアミノ化セルロースの合成方法は、特に限定されない。例えば、式(2)で表されるアミノ化セルロースは、下記反応に準じて製造することができる。
【化3】
【0025】
この反応はセロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)の逆反応を利用した酵素合成反応である。α-グルコース-1-リン酸(αG1P)と2-アミノエチル-β-D-グルコシドとを、CDPと反応させることにより、プライマーとしての2-アミノエチル-β-D-グルコシドに対してαG1Pがモノマーとして逐次的に重合され、式(2)で表されるアミノ化セルロースが得られる。なお、プライマーにおけるアノマー位の置換基を替えておくことで、式(1)で表される様々な置換基を持つアミノ化セルロースを合成することができる。
【0026】
ここで、2-アミノエチル-β-D-グルコシドとしては、例えばB.Raoら,Chem. Commun.,2013年,49,10808-10810に記載の方法を参考にして合成することができる。具体的には、O-ペンタアセチル-β-D-グルコシドと2-ブロモエタノールとからO-テトラアセチル-2-ブロモエチル-β-D-グルコシドを合成し、O-ペンタアセチル-2-ブロモエチル-β-D-グルコシドとアジ化ナトリウムとからO-ペンタアセチル-2-アジドエチル-β-D-グルコシドを合成し、ナトリウムメトキシドによって脱アセチル化し、その後アジド基を還元することにより2-アミノエチル-β-D-グルコシドを得ることができる。
【0027】
CDPについては、クロストリジウム・サーモセラリム(Clostridium thermocellum)、セルロモナス(Cellulomonas)属などの微生物が産生することが知られており、これらの微生物を利用して公知の方法により取得することができる。例えば、M.Krishnareddyら,J.Appl.Glycosci.,2002年,49,1-8に記載の方法に準じて、大腸菌発現系によりClostridium thermocellum YM4由来CDPを調製することができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
CDPの濃度は、特に限定されず、例えば0.1U/ml以上であってよく、0.2U/ml以上でもよい。ここで、CDPの酵素量は、例えば、酵素活性をもとに決定することができる。この場合、例えば、αG1PとD-(+)-セロビオースおよびCDPをインキュベーションし、CDPにより生成されるリン酸を定量し、1分間あたり1μmolのリン酸を遊離する酵素量を1Uとすることができる。
【0029】
例えば、10~1000mMのαG1P、10~200mMの2-アミノエチル-β-D-グルコシド、及び0.1U/mL以上のCDPを、100~1000mMの2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝液(pH7.0~8.0)中で混合し、10~80℃で30分間~30日間インキュベートし、反応させることで、式(2)のアミノ化セルロースを合成することができる。
【0030】
本実施形態に係る酵素固定化用担体において、アミノ化セルロースは多孔質材料に固定化されている。詳細には、アミノ化セルロースは、水で洗浄しても脱落しないように多孔質材料内に保持されている。上記のようにアミノ化セルロースはアミノ基を有することで酵素を固定化できるため、アミノ化セルロースを介して酵素を多孔質材料に固定化することができる。
【0031】
固定化されたアミノ化セルロースの多孔質材料に対する比率は、特に限定されず、例えば、アミノ化セルロースの付着量は、多孔質材料100質量部に対して、0.1~30質量部でもよく、1~20質量部でもよい。
【0032】
2.固定化酵素
本実施形態に係る固定化酵素は、上記酵素固定化用担体と、アミノ化セルロースに固定化された酵素とを含むものである。すなわち、固定化酵素は、多孔質材料と、前記多孔質材料に固定化されたアミノ化セルロースと、前記アミノ化セルロースに固定化された酵素と、を含むものである。
【0033】
上記アミノ化セルロースは、タンパク質である酵素をその活性を維持したまま吸着することができるものである。詳細には、酵素は、アミノ化セルロースからなるセルロース構造体の表面に単層吸着する。この吸着には静電相互作用が寄与する。
【0034】
酵素としては、特に限定されず、例えば、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、リアーゼ、異性化酵素、リガーゼなどの様々な酵素を用いることができる。アミノ化セルロースに対する吸着性の点から、酵素としては、アミノ化セルロースが正電荷を持つpHよりも低いpHに等電点を持つことが好ましい。より詳細には、酵素としては、中性域(例えばpH6.5~7.5)で負に帯電するものであることが好ましく、等電点がpH7.0以下のものを用いることがより好ましい。ここで、等電点は、pH勾配を有するゲルを用いて当該酵素を電気泳動し、泳動しなくなったゲル部位におけるpHを等電点とする等電点電気泳動により測定される。
【0035】
固定化された酵素のアミノ化セルロースに対する比率は、特に限定されず、例えば、酵素の付着量は、アミノ化セルロース100質量部に対して、0.1~20質量部でもよく、1~10質量部でもよい。
【0036】
3.酵素固定化用担体の製造方法
本実施形態に係る酵素固定化用担体は、上記アミノ化セルロースをアルカリ水溶液に溶解させた水溶液に、酸を加えて多孔質材料の存在下でアミノ化セルロースを析出させることにより製造することができる。すなわち、多孔質材料の存在下でアミノ化セルロースを析出させることにより、多孔質材料にアミノ化セルロースが固定化されるため、本実施形態に係る酵素固定化用担体が得られる。
【0037】
アルカリ水溶液としてはアミノ化セルロースを溶解させることができれば、特に限定されず、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を用いることができる。アミノ化セルロースを溶解させた水溶液(以下、セルロース水溶液という。)におけるアミノ化セルロースの濃度は、特に限定されない。例えば、酸を加えてアミノ化セルロースを析出させる際の濃度で、1~10%(w/v)でもよく、1~5%(w/v)でもよい。なお、「%(w/v)」は、溶液100mL中に含まれる対象成分の質量(g)を意味する。
【0038】
アルカリ性であるセルロース水溶液に酸を加えて中性ないし酸性にすることにより、アミノ化セルロースが不溶性となり析出される。その際、攪拌・振動等しながらインキュベーションしてもよく、静置(攪拌・振動等を行わず、静止した状態に置くこと)してインキュベーションしてもよく、インキュベーションにより、アミノ化セルロースが自己組織化する。すなわち、アミノ化セルロースの分子が整列してセルロースII型の結晶構造を持つセルロース構造体となる。なお、攪拌・振動してもアミノ化セルロースは自己組織化するが、静置してインキュベーションすることにより、アミノ化セルロースをより大きな集合体として自己組織化させることができる。ここで、インキュベーションとしては、特に限定されないが、例えば10~80℃で30分間~30日間でもよい。
【0039】
上記のインキュベーションの際に、多孔質材料の存在下でアミノ化セルロースを析出させることにより、アミノ化セルロースは多孔質材料中で析出されるため、多孔質材料の微細な空隙内に保持され又は絡まった状態となり、多孔質材料に固定化される。
【0040】
多孔質材料にアミノ化セルロースを固定化させる具体的な方法としては、例えば、上記セルロース水溶液に酸を加えて中和した後、直ちに、当該中和したセルロース水溶液を多孔質材料に浸透させ、その状態でインキュベーションしてもよく(方法1)、あるいはまた、上記セルロース水溶液を多孔質材料に浸透させた後、該セルロース水溶液に酸を加えて中和してからインキュベーションしてもよい(方法2)。ここで、セルロース水溶液を多孔質材料に浸透させる方法としては、例えば、多孔質材料にセルロース水溶液を加えて浸透させてもよく、セルロース水溶液中に多孔質材料を浸漬してもよい。
【0041】
上記方法1及び方法2は、ともに多孔質材料の存在下でアミノ化セルロースを析出させるものではあるが、方法1では予め中和することでアミノ化セルロースが一部析出(即ち、自己組織化)した状態で多孔質材料に浸透することになるため、多孔質材料に浸透しにくくなると考えられる。そのため、方法2のようにセルロース水溶液を予め多孔質材料に浸透させてから酸を加えて中和することがより好ましい。
【0042】
4.固定化酵素の製造方法
本実施形態に係る固定化酵素は、以下の工程により製造することができる。
(1)上記アミノ化セルロースをアルカリ水溶液に溶解させた水溶液に、酸を加えて多孔質材料の存在下でアミノ化セルロースを析出させることにより、前記多孔質材料にアミノ化セルロースを固定化させるセルロース固定化工程、及び、
(2)アミノ化セルロースに酵素を固定化させる酵素固定化工程。
【0043】
セルロース固定化工程と酵素固定化工程は、いずれを先に実施してもよい。すなわち、多孔質材料にアミノ化セルロースを固定化させた後に、該アミノ化セルロースに酵素を固定化させてもよく、あるいは、アミノ化セルロースに酵素を固定化させた後に、該酵素が固定化されたアミノ化セルロースを用いて多孔質材料に固定化させてもよい。セルロース固定化工程ではアミノ化セルロースをアルカリ水溶液に溶解させるため、酵素の変性が懸念されることから、前者の方法、すなわち、多孔質材料にアミノ化セルロースを固定化させた後に、該アミノ化セルロースに酵素を固定化させることが好ましい。
【0044】
セルロース固定化工程は、上記の酵素固定化用担体の製造方法と同様に実施することができる。
【0045】
酵素固定化工程の具体的な方法は特に限定されない。アミノ化セルロースはそのアミノ基の存在により酵素を吸着させて固定化させることができるため、アミノ化セルロースに酵素を接触させればよい。例えば、アミノ化セルロースを固定化させた多孔質材料に酵素の水溶液を浸透させ、その状態で、例えば10~80℃で30分間~30日間インキュベーションしてもよい。酵素の水溶液としては、中性域に調整された緩衝液を用いることが好ましい。その後、酵素を含まない水ないし緩衝液で洗浄することにより、アミノ化セルロースを介して酵素を多孔質材料に固定化させた固定化酵素が得られる。
【0046】
5.用途
本実施形態に係る酵素固定化用担体及び固定化酵素は、酵素を利用して物質の検知等を行うバイオセンサや、酵素を利用して物質の生産等を行うバイオリアクターなど、公知の様々な用途に用いることができる。
【0047】
また、本実施形態に係る酵素固定化用担体であると、酵素の水溶液を浸透させるという簡単な操作で酵素を固定することができるため、ユーザーにおいて種々の酵素を簡単に固定化して、目的に応じた固定化酵素を作製することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
1.試薬
4N水酸化ナトリウム水溶液、6N塩酸、塩化マグネシウム六水和物、2-メルカプトエタノールはナカライテスクより購入した。αGDP二ナトリウム水和物、β-ガラクトシダーゼ(β-Gal、等電点:pH4.6)、p-ニトロフェニルβ-D-ガラクトピラノシド(PNPG)、リン酸二水素ナトリウム二水和物は和光純薬工業より購入した。濾紙(Whatman、グレード1、円型、直径10mm)はGEヘルスケアより購入した。超純水は、Milli-Qシステム(Milli-Q Advantage A-10,Merck Millipore)で供給した。その他は、ナカライテスクより特級以上の試薬を購入し、使用した。
【0050】
2.実験方法
(1)セルロースおよびアミノ化セルロースの調製
T.Serizawaら,Polym.J.,2016年,48,539-544に記載の方法に従い、平均重合度が10のセルロース(下記式(3))を合成した。また、下記方法に従い、平均重合度が10のアミノ化セルロース(下記式(4))を合成した。
【0051】
【0052】
アミノ化セルロースの合成方法:
2-アミノエチル-β-D-グルコシドは、B.Raoら,Chem. Commun.,2013年,49,10808-10810に記載の方法に基づき調製した。CDPは、CDPは、M.Krishnareddyら,J.Appl.Glycosci.,2002年,49,1-8に記載の方法に基づき調製した。
200mMのαG1P、50mMの2-アミノエチル-β-D-グルコシド、及び0.2U/mLのCDPを、500mMのHEPES緩衝液(pH7.5)中で混合し、60℃で3日間インキュベートした。沈澱した生成物を含む反応液を遠心(15000rpm、10分間以上、4℃)し、上清を取り除いた後、超純水を加えて生成物を再分散させ、遠心(同条件)する操作を繰り返することで、上清の置換率が99.999%以上となるまで精製して、アミノ化セルロースを得た。
【0053】
生成物の平均重合度は、プロトン核磁気共鳴(NMR)装置により測定した。試料は、凍結乾燥した15mg以上の生成物を500μLの4%重水酸化ナトリウム重水溶液に溶解させることで調製した。NMR装置は、AVANCE III HD500(Bruker Biospin、磁場強度:500MHz、積算回数16回)を用いた。平均重合度は、アミノ化セルロースのセルロース部位における還元末端のアノマー位(δ~4.2)およびそれ以外のアノマー位(δ~4.3)のプロトンの積分値をもとに算出した。
【0054】
(2)濾紙/セルロース複合体および濾紙/アミノ化セルロース複合体の調製
1.7mLチューブ中で凍結乾燥した所定量のセルロースまたはアミノ化セルロースに1N水酸化ナトリウム水溶液を加えて分散させた。これを-20℃で30分間インキュベーションし、溶液を室温に戻した後にピペッティングして溶解させ、2%(w/v)、4%(w/v)、6%(w/v)のセルロース水溶液、及び6%(w/v)のアミノ化セルロース水溶液をそれぞれ調製した。
【0055】
多孔質材料である濾紙に対するセルロース又はアミノ化セルロースの固定化(即ち、濾紙とセルロース又はアミノ化セルロースとの複合化)は、2通りの複合化方法を用いて実施した。
【0056】
一つ目の複合化方法(方法1)では、1.7mLチューブ中でセルロースまたはアミノ化セルロースの水溶液15μLと1N塩酸15μLをピペッティングにより混合した後に、24穴プレートのウェルに置いた濾紙に直ちに含浸させ、25℃で1時間静置した。2%(w/v)のセルロース水溶液を用いて複合化したもの(セルロースの終濃度:1%(w/v))を比較例1とし、4%(w/v)のセルロース水溶液を用いて複合化したもの(セルロースの終濃度:2%(w/v))を比較例3とし、6%(w/v)のセルロース水溶液を用いて複合化したもの(セルロースの終濃度:3%(w/v))を比較例5とする。また、6%(w/v)のアミノ化セルロース水溶液を用いて複合化したもの(アミノ化セルロースの終濃度:3%(w/v))を実施例1とする。
【0057】
もう一つの複合化方法(方法2)では、濾紙にセルロースまたはアミノ化セルロースの水溶液15μLを含浸させた後に、1N塩酸15μLを濾紙に含浸させ、25℃で1時間静置した。2%(w/v)のセルロース水溶液を用いて複合化したもの(セルロースの終濃度:1%(w/v))を比較例2とし、4%(w/v)のセルロース水溶液を用いて複合化したもの(セルロースの終濃度:2%(w/v))を比較例4とし、6%(w/v)のセルロース水溶液を用いて複合化したもの(セルロースの終濃度:3%(w/v))を比較例6とする。また、6%(w/v)のアミノ化セルロース水溶液を用いて複合化したもの(アミノ化セルロースの終濃度:3%(w/v))を実施例2とする。
【0058】
(3)濾紙/セルロース複合体および濾紙/アミノ化セルロース複合体の安定性評価
方法1および2で調製した実施例1,2の濾紙/アミノ化セルロース複合体および比較例1~6の濾紙/セルロース複合体を、それぞれ24穴プレート内で超純水3mLにより10回ピペッティングすることで洗浄した。洗浄液の紫外可視吸収スペクトルを紫外可視分光光度計(V-670、日本分光)により測定した。測定条件は、測定波長:200-800nm、操作速度:400nm/min、バンド幅:0.5nm、データ取り込み間隔:0.5nm、レスポンス:Fastとした。
【0059】
その際、2%、4%、6%(w/v)のセルロース水溶液および6%(w/v)のアミノ化セルロース水溶液の各15μLに、それぞれ1N塩酸15μLを添加して得られた生成物を、3mLの超純水に分散させた試料(コントロール分散液)についても、同様に測定した。
【0060】
500nmにおける吸光度から、セルロースまたはアミノ化セルロースの濾紙への担持率(担持率(%)=100-100×洗浄液の吸光度/コントロール分散液の吸光度)を算出した。実験はいずれも3回行い、3回の平均値を算出した。
【0061】
(4)濾紙内に担持したセルロースおよびアミノ化セルロースの結晶構造解析
方法2により調製した比較例6の濾紙/セルロース複合体および実施例2の濾紙/アミノ化セルロース複合体について、それぞれ赤外吸収スペクトルを全反射赤外分光光度計(FT/IR-4100typeA、日本分光)により測定し、濾紙内に担持したセルロースおよびアミノ化セルロースの結晶構造を評価した。酵素反応によりあらかじめ調製したセルロースまたはアミノ化セルロースの結晶化物(コントロール試料)、ならびに、未処理の濾紙のみについても、同様に測定した。測定条件は、測定波長:350-7800cm-1、分解能:2cm-1、積算回数:100とした。
【0062】
(5)濾紙/セルロース複合体および濾紙/アミノ化セルロース複合体に対する酵素(β-Gal)の固定化とその活性測定
24穴プレートのウェルにβ-Gal水溶液500μL(10nMβ-Gal、50mMリン酸緩衝液、1mM塩化マグネシウム(pH7.3))を添加した後に、サンプルを25℃で30分間、浸漬させた。その後、洗浄液1mL(50mMリン酸緩衝液、1mM塩化マグネシウム(pH7.3))を添加した24穴プレートに、β-Galを固定化したサンプルを移し、15分間、静置した。これを5回繰り返すことで、サンプルを洗浄した。サンプルとしては、比較例6の濾紙/セルロース複合体、実施例2の濾紙/アミノ化セルロース複合体、濾紙のみ(濾紙を30μLの超純水で濡らしたもの)を用いた。
【0063】
24穴プレートのウェルにβ-Galの基質であるPNPGの水溶液500μL(1mM PNPG、86mMリン酸緩衝液(pH7.3)、116mM 2-メルカプトエタノール、1mM塩化マグネシウム)を添加した後に、β-Galを固定化したサンプルを25℃で30分間、浸漬し、反応させた。反応液の吸光度を紫外可視分光光度計(V-670、日本分光)により測定した。測定条件は、測定波長:200-800nm、操作速度:400nm/min、バンド幅:0.5nm、データ取り込み間隔:0.5nm、レスポンス:Fastとした。実験はいずれも3回行い、3回の平均値を求めた。
【0064】
3.結果および考察
上記安定性評価における複合体洗浄液の紫外可視吸収スペクトルを
図1に示し、これらから得られた担持率を下記表1に示す。複合化方法に関し、方法1に比べて、方法2の方がより高い担持率となり、方法2の担持率は条件によらず97%以上の値であった。方法1ではセルロースまたはアミノ化セルロースをあらかじめ部分的に自己組織化させているため、溶液内で生成した自己組織化物が濾紙内に浸透しにくく、濾紙から洗浄除去されてしまうものと考えられる。これに対し、方法2ではセルロースまたはアミノ化セルロースを最初から濾紙内で自己組織化させているため、自己組織化物が濾紙の網目と物理的に絡み合い、洗浄除去されにくいものと考えられる。このように、濾紙内にセルロースまたはアミノ化セルロースを安定に担持するには、最初からそれらを濾紙内で自己組織化させる手法(方法2)が有効であることがわかった。但し、アミノ化セルロースでは、方法1でも70%以上固定化されていた。そのため、アミノ化セルロースを固定化させる酵素固定化用担体の製造方法としては、実施例2に係る方法2だけでなく、実施例1に係る方法1についても有用性が認められた。
【0065】
【0066】
実施例2の濾紙/アミノ化セルロース複合体と比較例6の濾紙/セルロース複合体についての赤外吸収スペクトルを
図2に示す。セルロースII型結晶の存在を示す二つのピークが3443cm
-1と3491cm
-1付近に観察された。それらのピークが濾紙のみでは観察されないことから、濾紙内で自己組織化させたセルロースまたはアミノ化セルロースは、酵素反応によりあらかじめ調製したコントロール試料と同様にセルロースII型の結晶構造をもつことがわかった。
【0067】
上記酵素活性測定における反応液の紫外可視吸収スペクトルを
図3に示す。濾紙/アミノ化セルロース複合体にβ-Galを固定化させた実施例2では、β-GalによりPNPGを加水分解した際に生成するp-ニトロフェノールに由来する吸収が400nm付近に観察されたことから、アミノ化セルロースを介して濾紙に固定化したβ-Galが酵素活性を有することがわかった。405nmにおける吸光度を比較したところ、
図4に示すように、濾紙/セルロース複合体にβ-Galを固定化した比較例6に比べて、濾紙/アミノ化セルロース複合体にβ-Galを固定化した実施例2では、13.5倍の酵素活性を示した。また、実施例2の酵素活性は、濾紙のみにβ-Galを固定化した場合と比べても、4.9倍の活性を示した。このように、アミノ化セルロースを担持させた濾紙であると、β-Galを効率よく固定化した固定化酵素が得られ、酵素活性を発揮できることがわかった。
【0068】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。