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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】撮影装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20221108BHJP
【FI】
A61B5/055 382
A61B5/055 390
A61B5/055 366
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019050724
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2020151047
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-12-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人日本放射線技術学会,日本放射線技術学会 第74回総会学術大会 予稿集,第201頁 155,2018年3月20日発行
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】沼野 智一
(72)【発明者】
【氏名】波部 哲史
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-501416(JP,A)
【文献】特開2002-010991(JP,A)
【文献】特表2018-521711(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0345547(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/28-33/64
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場と、位置に応じて磁場が変化する傾斜磁場と、プロトンの磁気共鳴条件に基づいて予め設定された交番磁場と、を被検者の被検査部に対して発生させる磁場発生装置と、
前記交番磁場を予め設定された繰り返し時間をあけて印加する交番磁場の印加手段と、
前記交番磁場で励起された被検査部のプロトンが緩和する際に放出される電磁波を受信する時間であるエコー時間に基づいて、前記電磁波を受信する受信手段と、
被検査部に振動を付与する振動付与部材であって、腰椎に沿って延びる導入部と、前記導入部に接続して形成され且つ体外から体表に向かう方向に沿って延びる凹部状の接続部と、を有し、被検査部に対応する体表面に前記接続部が接触した状態で、前記導入部に接続された音源からの音圧を前記被検者の体表に付与することで前記被検査部に振動を付与する前記振動付与部材と、
被検査部に対して予め設定された方向からMRE用の傾斜磁場を印加する傾斜磁場の印加手段と、
前記傾斜磁場を印加する時期に対応する前記エコー時間に応じて取得された電磁波に基づいて、電磁波信号の位相に応じたMR位相画像を取得するMR位相画像の取得手段と、
を備えたことを特徴とする撮影装置。
【請求項2】
前記接続部は、前記腰椎の延びる方向に交差する幅方向の幅が、前記体外から体表に向かうにつれて大きくなる
ことを特徴とする請求項1に記載の撮影装置。
【請求項3】
前記接続部は、前記腰椎の延びる方向に交差する幅方向の幅が、前記体外から体表に向かうに対して段差状に大きくなる
ことを特徴とする請求項1に記載の撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影装置に関し、特に、組織の硬さを測定するMRエラストグラフィ(Magnetic Resonance Elastography : MRE)の撮影が可能な撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場において、患者に対して放射線被曝等の影響の少ないMRI装置(Magnetic Resonance Imaging装置:磁気共鳴画像装置)が使用されている。MRI装置では、人体の各細胞に含まれる水素原子核(プロトン)に対して、プロトンのスピンに応じた高周波磁場を印加して励起し、励起したプロトンが元の状態に戻る(緩和)際に発する電磁波に基づいて、プロトンの密度が異なる部分(例えば、水と脂肪)を濃淡で表した画像を得ることが可能である。
MRE(Magnetic Resonance Elastography:磁気共鳴エラストグラフィ)は、対象物に振動(体幹部の場合には、50Hz~100Hz程度)を加えながら、MRI装置で撮像することで、対象部内部の「硬さ」の違いによる振動波の伝播の違いを利用し、硬さを画像化する撮像法である(特許文献1,2参照)。
【0003】
現状では、腰痛(Low Back Pain:LBP)と呼ばれる症状において、MRIやCT等の画像診断等で原因が判明する腰痛(=特異的腰痛、ヘルニアや腰椎すべり症等)は全体の約15%とされ、残りの約85%は、非特異的腰痛とされ原因が不明である。
腰痛の診断では、特別な機器を使用せずに手軽に実施可能な触診が広く行われているが、触診では、触診を行う術者の感覚や経験により評価が大きく変わり、いわば定性的な評価となる。また、触診では、体表に近い部分の筋肉等の硬さしかわからず、体の深部の臓器や筋肉の診断を行うことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2005-507691号公報(「0008」、「0014」~「0023」)
【文献】特開2011-98158号公報(「0003」~「0018」、「0026」~「0029」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(従来技術の問題点)
前述のように、腰痛の診断において、従来の画像診断で原因が判明するものは限られており、触診では、定量的な評価が困難であるとともに、深部の臓器等の診断を行うことができない問題もあった。
本発明者らは、長時間座り続ける人に腰痛が多いことに着目した。人が座る姿勢を取ると、背骨の横側(前側)において腰椎から大腿骨に渡る大腰筋(Psoas Major Muscle: PM)が縮んだ状態(緊張した状態)となり、背骨の後側の脊柱起立筋群が延びた状態となる。したがって、人が長時間座った状態となると、脊柱起立筋群とPMの負荷バランスに乱れが生じ、脊柱起立筋群が過負荷状態になると考えた。
【0006】
ここで、脊柱起立筋群は比較的体表に近いので、触診が可能かもしれないが、PMについては体の奥にあり、触診は困難である。
PMの硬さを測定するために、MREを使用することが考えられる。しかしながら、MREでは、患部(被検査部)を振動させる必要がある。現在、MREを使用して診断が行われているのは、肝臓の硬さ(肝硬変等)が主であり、肝臓は体内でも比較的大きな臓器であると共に、比較的体表にも近い。したがって、肝臓のMRE撮影では、既製品の大型のパッドを使用して面を揺らすような形で、振動を伝えることができている。
しかしながら、PMのような体の中心に近い場所にある筋肉に対して肝臓用のパッドを使用しても途中の臓器や筋肉で振動が減衰してしまい、PMを振動させることは困難である。
【0007】
本発明は、従来の構成に比べて、体内の被検査部についてMRE撮影可能にすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の撮影装置は、
静磁場と、位置に応じて磁場が変化する傾斜磁場と、プロトンの磁気共鳴条件に基づいて予め設定された交番磁場と、を被検者の被検査部に対して発生させる磁場発生装置と、
前記交番磁場を予め設定された繰り返し時間をあけて印加する交番磁場の印加手段と、
前記交番磁場で励起された被検査部のプロトンが緩和する際に放出される電磁波を受信する時間であるエコー時間に基づいて、前記電磁波を受信する受信手段と、
被検査部に振動を付与する振動付与部材であって、腰椎に沿って延びる導入部と、前記導入部に接続して形成され且つ体外から体表に向かう方向に沿って延びる凹部状の接続部と、を有し、被検査部に対応する体表面に前記接続部が接触した状態で、前記導入部に接続された音源からの音圧を前記被検者の体表に付与することで前記被検査部に振動を付与する前記振動付与部材と、
被検査部に対して予め設定された方向からMRE用の傾斜磁場を印加する傾斜磁場の印加手段と、
前記傾斜磁場を印加する時期に対応する前記エコー時間に応じて取得された電磁波に基づいて、電磁波信号の位相に応じたMR位相画像を取得するMR位相画像の取得手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の撮影装置において、
前記接続部は、前記腰椎の延びる方向に交差する幅方向の幅が、前記体外から体表に向かうにつれて大きくなる
ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の撮影装置において、
前記接続部は、前記腰椎の延びる方向に交差する幅方向の幅が、前記体外から体表に向かうに対して段差状に大きくなる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、肝臓用の大きなパッドを使用する従来の構成に比べて、体内の被検査部についてMRE撮影可能にすることができる。
請求項2,3に記載の発明によれば、接続部の幅が狭い構成に比べて、振動付与部材が被検者の腰椎からずれてもMRE測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の実施例1の磁気共鳴撮影装置の説明図である。
図2図2は実施例1の振動付与部材の説明図であり、図2Aは説明図、図2B図2AのIIB-IIB線断面図である。
図3図3は実施例1の磁気共鳴撮影装置におけるコンピュータ本体の機能ブロック図である。
図4図4は実施例1の磁場の印加および振動の付与の説明図であり、横軸に時間を取ったグラフである。
図5図5は実施例1の実験結果の説明図であり、MRE画像の説明図である。
図6図6は実施例2の振動パッドの説明図であり、実施例1の図2Bに対応する図である。
図7図7は実施例3の振動パッドの説明図であり、実施例1の図2Bに対応する図である。
図8図8は実施例4の振動パッドの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(以下、実施例と記載する)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の実施例1の磁気共鳴撮影装置の説明図である。
図1において、本発明の撮影装置の一例としての実施例1の磁気共鳴撮影装置1は、磁場発生装置の一例としての磁石部2を有する。磁石部2には、内部を水平方向に貫通する貫通孔3が形成されている。貫通孔3には、寝た状態の被検者4が支持される寝台6が貫通可能である。
磁石部2は、静磁場印加部材の一例としての静磁場発生磁石11を有する。なお、静磁場発生磁石として、超電導電磁石や永久磁石を使用することが可能である。静磁場発生磁石11の内側には、傾斜磁場印加部材の一例としての傾斜磁場発生コイル12が配置されている。傾斜磁場発生コイル12の内側には、励起磁場印加部材の一例としての高周波磁場発生コイル13が配置されている。高周波磁場発生コイル13の内側には、受信部の一例として、電磁波を受信する受信コイル14が配置されている。
【0015】
図2は実施例1の振動付与部材の説明図であり、図2Aは説明図、図2B図2AのIIB-IIB線断面図である。
実施例1では、被検者4には、被検査部の一例としての大腰筋のMRE測定をするために、背骨側の体表面の部分に、振動付与部材の一例としての振動パッド16が支持されている。
図2において、振動パッド16には、接続部の一例として凹部状の振動伝播空間16aが形成されている。振動伝播空間16aの底部には、腰椎17の延びる方向に沿って延びる導入部の一例としての導入溝16bが形成されている。
図2Bにおいて、実施例1の振動伝播空間16aは、腰椎17の延びる方向に交差する幅方向の幅L1が、体外(導入溝16b側)から体表(開口16c側)に向かうにつれて大きくなる。開口16cでの幅は、腰椎の太さ(幅)よりも大きくなるように設定されている。
【0016】
導入溝16bの一端部は、振動パッド16の本体を貫通して外部に延びている。そして、導入溝16bの外端は、ホース18の一端に接続されており、ホース18の他端は、音源の一例としてのスピーカ19に接続されている。
したがって、スピーカ19が所定の周波数の音を出力することで、その音圧がホース18を通じて導入溝16b、振動伝播空間16aに伝播し、振動伝播空間16aの開口16cに接触する被検者4を振動させる。
【0017】
なお、実施例1では、振動パッド16の振動伝播空間16aの長さ(腰椎17の延びる方向の長さ)L2は、一例として、第2腰椎17aから第4腰椎17cに対応する長さに設定されている。すなわち、複数の腰椎17a~17cに渡る範囲を振動させるように設定されている。
また、実施例1では、開口16cにフィルム等の膜状部材を貼り付けていないが、膜状部材を設置した構成とすることも可能である。すなわち、被検者4の体表に、膜状部材を介して振動伝播空間16aが接触する構成も含む。
なお、実施例1では、振動パッド16の内部に軽量化および材料費節約のための孔16dを複数形成しているが、孔16dを形成しない構成とすることも可能である。
【0018】
前記磁石部2には、情報処理装置の一例としてのコンピュータ装置21がケーブルCbを介して電気的に接続されている。したがって、コンピュータ装置21は、磁石部2との間で、静磁場発生磁石11等の制御信号や受信コイル14での検知信号等が送受信可能に構成されている。コンピュータ装置21は、コンピュータ本体22と、表示部の一例としてのディスプレイ23と、入力部の一例としてのキーボード24およびマウス25と、を有する。なお、実施例1では、コンピュータ装置21と磁石部2とをケーブルCbで接続する構成を例示したが、これに限定されず、携帯電話回線やBluetooth(登録商標)、無線LAN等、任意の無線通信方式で情報の送受信を行うことも可能である。
【0019】
(実施例1のコンピュータ本体22の制御部の説明)
図3は実施例1の磁気共鳴撮影装置におけるコンピュータ本体の機能ブロック図である。
図3において、実施例1のコンピュータ本体22の制御部41は、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行うI/O(入出力インターフェース)、必要な起動処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータ及びプログラムを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM等に記憶された起動プログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)ならびにクロック発振器等を有するコンピュータ装置により構成されており、前記ROM及びRAM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
制御部41には、基本動作を制御する基本ソフト、いわゆる、オペレーティングシステムOS、アプリケーションプログラムの一例としての撮影装置制御プログラムAP1、その他の図示しないソフトウェアが記憶されている。
【0020】
(実施例1の制御部41に接続された要素)
制御部41には、キーボード24やマウス25、受信コイル14等の信号出力要素からの出力信号が入力されている。
また、実施例1の制御部41は、ディスプレイ23、静磁場発生磁石11、傾斜磁場発生コイル12、高周波磁場発生コイル13等の被制御要素へ制御信号を出力している。
【0021】
(制御部41の機能)
実施例1の制御部41の撮影装置制御プログラムAP1は、下記の機能手段(プログラムモジュール)51~58を有する。
【0022】
磁場制御手段51は、磁石部2を制御して、被検者4の被検査部をMR撮影するための磁場を制御する。実施例1の磁場制御手段51は、繰り返し時間記憶手段51aと、エコー時間記憶手段51bと、静磁場印加手段51cと、傾斜磁場印加手段51dと、交番磁場の印加手段の一例としての高周波磁場印加手段51eと、を有する。
【0023】
図4は実施例1の磁場の印加および振動の付与の説明図であり、横軸に時間を取ったグラフである。
繰り返し時間記憶手段51aは、被検者4の被検査部に含まれるプロトンを励起するために印加される交番磁場の一例としての高周波磁場を印加する間隔である繰り返し時間TRを記憶する。
【0024】
エコー時間記憶手段51bは、高周波磁場が印加されてから、励起されたプロトンが元の状態に戻る(緩和する)際に発する電磁波を取得するまでの間隔であるエコー時間TEを記憶する。なお、実施例1では、繰り返し時間TRおよびエコー時間TEは、予め設定されているが、磁気共鳴撮影装置1の利用者が手動で入力して、設定、変更が可能に構成することも可能である。
【0025】
静磁場印加手段51cは、静磁場発生磁石11を制御して、静磁場を発生させる。実施例1の静磁場印加手段51cは、一例として、3[T]の静磁場を発生させる。
傾斜磁場印加手段51dは、傾斜磁場発生コイル12を制御して、位置に応じて磁場が変化するMRE用の傾斜磁場(勾配磁場)を発生させる。従って、傾斜磁場が振動検出傾斜磁場MEG(motion encoding gradient)と呼ばれる磁場である。実施例1の傾斜磁場印加手段51dは、図4に示すように、互いに直交するスライス(slice)方向、リードアウト(read out)方向およびフェーズ(phase)方向の3軸方向において、スライス方向(スライス軸)に傾斜磁場を発生させる。
高周波磁場印加手段51eは、高周波磁場発生コイル13を制御して、プロトンを励起する周波数に対応する交番磁場である高周波磁場を発生させる。
【0026】
振動付与制御手段52は、スピーカ19のオン/オフを制御して、振動パッドにより被検査部に振動を付与する。
受信手段の一例としての信号取得手段53は、エコー時間TEの時期に、受信コイル14を介して被検者4のプロトンが緩和する際に発生する電磁波信号を取得する。したがって、実施例1では、図4に示す振動が振動付与制御手段52で付与された状態で、エコー時間TEにおいて受信コイル14で信号を測定することで、振動(Vibration)を付与しながらのMR画像を撮像する。
【0027】
MR画像取得手段54は、信号処理手段54aと、MR強度画像の作成手段54bと、MR位相画像の作成手段54cと、を有し、信号取得手段53が取得した電磁波信号に基づいて、MR画像を作成する。
信号処理手段54aは、受信した電磁波信号において信号処理をする。実施例1の信号処理手段54aは、信号取得手段53が取得した信号を実数部r(real part)とし、信号取得手段53が取得した信号をπ/2位相を遅らせた信号を虚数部i(imaginary part)とする。すなわち、受信した電磁波信号に基づいた複素数、いわゆる、MRIの技術分野におけるk空間(周波数空間)の信号を生成する。そして、実数部rと虚数部iに対して、フーリエ逆変換(実施例では高速フーリエ逆変換)を行って、実空間の信号R,Iに変換する。そして、実空間における実数部Rと虚数部Iとに基づいて、複素平面における強度M=(R2+I21/2と、位相φ=tan-1(I/R)とを演算する。なお、この演算は、従来のMRI装置において導入されており、公知であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0028】
MR強度画像の作成手段54bは、信号処理手段54aで算出された強度Mに基づいて、MR強度画像を作成する。なお、MR強度画像は、一般的にMRI画像として、診断に使用される画像である。
【0029】
MR位相画像の作成手段54cは、電磁波信号から算出された位相φに基づいて、MR位相画像(MREではWave Imageとして利用される)を作成する。ここで、実施例1のMR位相画像の作成手段54cでは、エコー時間TEで測定された電磁波信号から算出された位相φに基づいて、MR位相画像(MRE画像)を作成する。
【0030】
波長取得手段55は、振動パッド16で付与された振動により被検者4の内部を伝播する振動波の波長λを取得する。
硬さ推定手段56は、振動波の波長λと、振動パッド16で付与された振動波の周波数fと、被検査部の密度ρと、に基づいて、被検査部の硬さμを推定する。なお、振動波の周波数fは、振動パッド16で付与される振動波の周波数fから既知であり、被検査部の密度ρについては、人体の密度はほぼ1[g/cm3]である。そして、硬さ(弾性率)μは、μ=ρ・(λ・f)2から計算される。
MRE画像作成手段57は、MR現象を利用して硬さを画像化したMRElastogram画像(MRE画像)を作成する。実施例1のMRE画像作成手段57は、局所領域(画素)毎に計算された硬さμに応じて色分けされたMRE画像を作成する。一例として、硬い部分(硬さμの値の大きな画素)を赤く表示し、軟らかくなる(硬さμの値が小さくなる)に連れて、黄、緑、青、紫と変化するように表示することが可能である。
【0031】
画像表示手段58は、MR画像取得手段54やMRE画像作成手段57で作成された画像を、ディスプレイ23に表示する。すなわち、被検査部の断面画像であるMR強度画像(通常の診断で利用する画像)と、MR位相画像(MREではWave Imageとして利用)と、Elastogram画像(MRE画像)とがディスプレイ23に表示される。なお、実施例1では、Wave Image画像やElastogram画像だけでは、解剖学的構造がわかりにくいので、MR強度画像と、Wave Image画像やElastogram画像とを重ねて表示する表示モードも備えることが可能である。なお、画像を重ねて表示したり、全ての画像をディスプレイ23に表示せず、入力に応じて、MR強度画像と、Wave Image画像やElastogram画像を切替えて表示することも可能である。また、同一の断面において、MR強度画像とElastogram画像を並べて配置することも可能であるし、異なる断面におけるElastogram画像を並べて表示する等、任意の変更が可能である。
【0032】
(実施例1の作用)
図5は実施例1の実験結果の説明図であり、MRE画像の説明図である。
前記構成を備えた実施例1の磁気共鳴撮影装置1では、振動パッド16が付与した振動は、体表から、体表近くにある腰椎17a~17cを振動させる。したがって、腰椎17a~17cの振動に伴って、腰椎17a~17cに一端が接続されている大腰筋101も振動することとなる。したがって、大腰筋101の振動と、静磁場や傾斜磁場によってMRE画像が取得可能である。よって、実施例1の磁気共鳴撮影装置1では、従来の肝臓用の振動パッドしかない従来の構成に比べて、体内の深部にある大腰筋101についてMRE撮影可能にすることができる。
また、実施例1の磁気共鳴撮影装置1では、大腰筋101の硬さ(弾性率μの大きさ)が定量的に測定され、可視化もされる。したがって、大腰筋101が硬いと、大腰筋に負荷がかかっていることがわかり、腰痛の診断に資することができる。
【実施例2】
【0033】
図6は実施例2の振動パッドの説明図であり、実施例1の図2Bに対応する図である。
次に本発明の実施例2の説明をするが、この実施例2の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
この実施例2は下記の点で、前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成される。
【0034】
図6において、実施例2の振動パッド16′では、実施例1の振動パッド16の振動伝播空間16aとは異なる振動伝播空間16a′を有する。実施例2の振動伝播空間16a′は、導入溝16bの幅で開口16c側に延びている。
【0035】
(実施例2の作用)
前記構成を備えた実施例2の磁気共鳴撮影装置1では、実施例1と同様に、振動伝播空間16a′を伝播する音(振動)で、被検査部である大腰筋101を揺らすことができる。実施例2の振動伝播空間16a′では、実施例1の振動伝播空間16aに比べて、幅が狭く、空間の体積が小さい。したがって、音圧が上がるため、実施例1に比べて、大腰筋101を揺らしやすくなることが期待される。
【実施例3】
【0036】
図7は実施例3の振動パッドの説明図であり、実施例1の図2Bに対応する図である。
次に本発明の実施例3の説明をするが、この実施例3の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
この実施例3は下記の点で、前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成される。
【0037】
図7において、実施例3の振動パッド16″では、実施例1の振動パッド16の振動伝播空間16aとは異なる振動伝播空間16e+16fを有する。実施例3の振動伝播空間16e+16fは、導入溝16bの幅で開口16c側に延びる幅狭部16eと、幅狭部16eの開口16c側の端部に段差状、階段状に接続された幅広部16fとを有する。
【0038】
(実施例3の作用)
前記構成を備えた実施例3の磁気共鳴撮影装置1では、振動パッド16″が幅狭部16eと幅広部16fを有する。実施例2の構成では、振動伝播空間16a′の幅が狭いため、振動パッド16′を装着する位置が腰椎17からずれると、左右の大腰筋101で差が出やすくなり、ずれが大きいと大腰筋101をほとんど振動させられない場合もある。これに対して、実施例3では、開口16c側に幅広部16fが形成されており、振動パッド16″の装着位置が多少ずれても開口16cの内側に腰椎17が収まりやすい。また、幅狭部16eで、開口16cの近傍まで音圧が高い状態を維持することができ、実施例1に比べて音圧が高くなることが期待される。
【実施例4】
【0039】
図8は実施例4の振動パッドの説明図である。
次に本発明の実施例4の説明をするが、この実施例4の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
この実施例4は下記の点で、前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成される。
【0040】
図8において、実施例4の振動パッド201では、実施例2の振動パッド16′を間隔をあけて3つ接続したものである。
【0041】
(実施例4の作用)
前記構成を備えた実施例4の磁気共鳴撮影装置1では、振動パッド201が3つつながっており、中央(C:Center)、左(L:Left)、右(R:Right)の3つのそれぞれの振動パッドから入力される振動を個別に調整可能である。したがって、MRE画像を見て、左右でバランスが取れていない状況では、左右の振動パッドから入力される振動を強めたり弱めたりして左右の振動のバランスを取ることが可能である。
【0042】
実施例4のほかにも、音源であるスピーカ19は共通のものを使用して、スピーカ19から延びるホース18を3つに分岐して、それぞれのホースの長さを波長に合わせて(調整して)決定することで、各振動パッド201に入力される振動の位相を変えることも可能である。すなわち、振動周波数が決まれば波長が決まるので、それぞれのホース長を「波長」に合わせて調整すればC,L,Rを各々任意の振動位相に調整でき、振動位相に応じたMRE画像を取得することも可能である。このようにすることで、スピーカ19の個数を減らすことができ、1つのスピーカで振動させている既存のシステム構成の場合には、振動パッド201とホースを実施例の構成と交換することで利用可能である。
なお、ホースの長さの調整方法は、ホース自体を交換する方法でも可能であるし、途中に蛇腹やスライドして伸縮する筒等の長さ調整機構を設けて蛇腹等を伸縮することでホース全体の長さを調整する構成とすることも可能である。
【0043】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H04)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、磁石部2がリング状、いわゆる、トンネル型の磁気共鳴撮影装置を例示したが、これに限定されない。例えば、磁石部2がコの字型、いわゆる、オープン型の磁気共鳴撮影装置にも適用可能である。
(H02)前記実施例において、例示した具体的な数値は、設計や仕様等に応じて、任意に変更可能である。
【0044】
(H03)前記実施例において、振動パッド16,16′,16″の具体的な形状や長さ、幅や、振動伝播空間16a,16a′,16e+16fの形状等は、設計や仕様等に応じて、変更可能である。
(H04)前記実施例において、大腰筋101のMRE画像を撮影することを例示したがこれに限定されない。例えば、腸腰筋等の骨に一端が接続されている筋肉や、仰向けの姿勢において重力で腰椎に近接した状態となる膵臓のように、骨の近傍の筋肉や臓器に適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…撮影装置、
2…磁場発生装置、
16…振動付与部材、
16a,16a′,16e+16f…接続部、
16b…導入部、
17…腰椎、
19…音源、
51d…傾斜磁場の印加手段、
51e…交番磁場の印加手段、
53…受信手段、
54c…MR位相画像の取得手段、
101…被検査部、
L1…接続部の幅。
図1
図2
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図4
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図8