(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】金属ガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/08 20060101AFI20221108BHJP
F02F 11/00 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
F16J15/08 P
F02F11/00 B
(21)【出願番号】P 2019060806
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000230423
【氏名又は名称】日本リークレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】平山 信一
(72)【発明者】
【氏名】松下 義孝
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-353851(JP,A)
【文献】特開2014-047900(JP,A)
【文献】実開平05-061564(JP,U)
【文献】特開2004-239313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/08
F02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関におけるシリンダヘッドとシリンダブロックの間に装着して用いられ、前記シリンダヘッドのウォータジャケットと前記シリンダブロックのウォータジャケットとを連通させる冷却水孔を有する金属ガスケットであって、
3枚重ねた状態で共にカシメ固定された金属基板、段差調整板、及び補強板を備え、
前記カシメ固定により形成されるカシメ部が、前記金属基板側から前記補強板側に向けて突き出す様態であり、
前記金属基板には、前記冷却水孔をシールするためのハーフビードが設けられており、
前記金属基板と前記補強板に挟まれた前記段差調整板における少なくとも前記補強板側の面にはシール材が塗布されており、
金属ガスケットを前記シリンダヘッドと前記シリンダブロックの間に装着した状態で、前記補強板が前記シリンダブロックのウォータジャケットの内側に収まるように構成されており、
前記段差調整板には、前記金属基板に形成されたシリンダボア孔と同一形状のシリンダボア孔が形成されており、
前記段差調整板は、金属ガスケットを前記シリンダヘッドと前記シリンダブロックの間に装着した状態で、該段差調整板の外周縁部が前記シリンダブロックのウォータジャケットの内側に収まるように構成されていることを特徴とする金属ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用等の内燃機関(エンジン)におけるシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に装着されて、燃焼ガスのリーク及び冷却水や潤滑油等の液体のリークを防止する金属ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用等の内燃機関におけるシリンダヘッドとシリンダブロックとの間には金属ガスケットが装着され、シリンダボア孔からの高圧の燃焼ガスのリークを防止するとともに、冷却水孔や潤滑油孔等の液体孔からの冷却水や潤滑油(オイル)等の液体のリークを防止するようにしている。
【0003】
このような金属ガスケットとしては、弾性金属板を素材とした金属基板に、シリンダボア孔を単独に囲繞するフルビードと、冷却水、オイル等の液体孔を囲繞するハーフビードを設けた構成のものが知られている。また、上記金属ガスケットにおいては、金属同士の直接的な接触を避けて接合面のシール性を高めるために、弾性金属板の外表面にラバー等のシール材を塗布した金属基板が用いられている。
【0004】
例えば特許文献1には、
図10に示すように、シリンダボア孔シール用のフルビード16と液体孔シール用のハーフビード17とを備えた1枚の金属基板2を有する金属ガスケット100であって、シリンダボア孔側のフルビード16に、金属基板2より板厚が薄い金属板をあてがって段差調整板3とし、この金属基板2と段差調整板3を同時にランスロックと称される方法でカシメ固定(カシメ部15)し、フルビード16側とハーフビード17側との板厚を相違させるようにした金属ガスケット100が記載されている。
【0005】
この金属ガスケット100によれば、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に金属ガスケットを装着して締付ボルトで締付けた時に、ハーフビード17側よりも段差調整板3が重ねられたフルビード16側により大きな締付け力を加えることができる。そのため、フルビード16の面圧をハーフビード17の面圧よりも大幅に高め、加えてフルビード16の圧縮効果を促進することができるので、燃焼ガスのリークに対するシール性能を高めることができる。また、金属ガスケットのハーフビード17側を金属基板1枚のみの構成とすることができるので、燃焼ガスに対するシール性能を高めつつ、エンジン設計面から要求される計量化及び熱伝導性の向上やコストダウン等を図ることができる。
【0006】
また、特許文献2には、長期間の使用によって金属板からシール材等が剥離し、当該シール材等が冷却水とともに循環してサーモスタットやラジエータ等に付着するといった問題を回避するために、ウォータジャケット部域のシール材を事前に剥離しておく内容が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-135823号公報
【文献】特開昭64-073156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載されるような従来の金属ガスケット100をシリンダブロック及びシリンダヘッド間で締め付けると、段差調整板3に設けたフルビード16がシリンダライナ上面部を強く押圧することになるので、シリンダブロック内のシリンダライナ上面側の面圧が大きくなる。また、締付ボルトの近傍部は他に比して大きな締付力が加わるために変形し易く、一方締付ボルトから離間した部分には比較的、締付力が加わり難いため変形が生じ難い。こうした変形はシリンダライナの真円度を悪化させ、ピストンの摺動に伴う摺動抵抗の増大を招き、内燃機関の出力低下や制限、オイル消費やブローバイガスの増大、摩擦損失の増大、ピストン打音が大きくなる等の一因となる。そのため、シリンダライナの変形を最小限にしながら、燃焼ガスのシール性能を維持する観点から段差調整板3の板厚選定が重要であり、通常は板厚tが0.05mm~0.1mm程度のSUS材等の金属箔が用いられている。
【0009】
しかしながら、自動車用等のエンジンは、稼働と停止が頻繁に繰り返されるために温度変化が大きく、エンジン本体は熱膨張、冷間収縮を繰り返している。そして、シリンダヘッドとシリンダブロック間に装着されているシリンダヘッドガスケット(金属ガスケット)は、上記冷熱サイクルによるエンジンの膨張及び収縮の影響を直接受けるため、ランスロックによるカシメ部の亀裂、及び段差調整板の脱落又は部分的なズレ等の発生を防止する必要がある。すなわち、燃焼ガスシールの安定化及び長期的な重要補償の一つであるが、上述したように段差調整板の板厚tは0.05mm~0.1mm程度の金属箔が使用されており、段差調整板の脱落やズレが発生し易いものであった。
【0010】
また、上記のような状況下で、金属板に塗布したラバー等のシール材が、冷熱サイクルを受ける冷却水に長期間に渡って曝されると、特に冷却水の流れが激しいシリンダブロック側はシール材の一部が金属板表面から剥離する虞があり、それが冷却水とともに循環してサーモスタットやラジエータ等に付着するといった問題がある。これらの問題を回避するため、特許文献2のように、ウォータジャケット部域のシール材を事前に剥離する工程を行っていたが、工程の煩雑さからこうした工程は除くことが望ましかった。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の稼働と停止が頻繁に繰り返されることで生じる冷熱環境下でも、段差調整板の変形、ずれ、及びクラックが発生せず、また、金属板に塗布されたシール材の剥離及び膨れも抑制することができる金属ガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の金属ガスケットは、内燃機関におけるシリンダヘッドとシリンダブロックの間に装着して用いられ、前記シリンダヘッドのウォータジャケットと前記シリンダブロックのウォータジャケットとを連通させる冷却水孔を有する金属ガスケットであって、
3枚重ねた状態で共にカシメ固定された金属基板、段差調整板、及び補強板を備え、
前記カシメ固定により形成されるカシメ部が、前記金属基板側から前記補強板側に向けて突き出す様態であり、
前記金属基板には、前記冷却水孔をシールするためのハーフビードが設けられており、
前記金属基板と前記補強板に挟まれた前記段差調整板における少なくとも前記補強板側の面にはシール材が塗布されており、
金属ガスケットを前記シリンダヘッドと前記シリンダブロックの間に装着した状態で、前記補強板が前記シリンダブロックのウォータジャケットの内側に収まるように構成されており、
前記段差調整板には、前記金属基板に形成されたシリンダボア孔と同一形状のシリンダボア孔が形成されており、
前記段差調整板は、金属ガスケットを前記シリンダヘッドと前記シリンダブロックの間に装着した状態で、該段差調整板の外周縁部が前記シリンダブロックのウォータジャケットの内側に収まるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内燃機関の稼働と停止が頻繁に繰り返されることで生じる冷熱環境下でも、段差調整板の変形、ずれ、及びクラックが発生せず、また、金属板に塗布されたシール材の剥離及び膨れも抑制することができる金属ガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る金属ガスケットの平面図である。
【
図2】
図1の金属ガスケットのA-A線における断面図である。
【
図3】
図2に示すウォータジャケットの溝とカシメ部の関係を表した断面図である。
【
図4】
図1のB-B線における金属ガスケットの断面と、ウォータジャケットの溝との関係を表した断面図である。
【
図5】
図4におけるウォータジャケットの溝とシール材の塗布位置と、シール材剥離防止の関係の概要を表した締付時の断面図である。
【
図6】比較例の金属ガスケットにおける、
図1のB-B線に相当する締付時の概要を表した断面図である。
【
図7】
図1の金属ガスケットにおける補強板を単独で示す平面図である。
【
図8】
図1の金属ガスケットにおける段差調整板を単独で示す平面図である。
【
図9】本発明の他の実施形態に係る金属ガスケットの、
図1のA-A線に相当する断面を表す断面図である。
【
図10】比較例の金属ガスケットにおける、
図1のB-B線に相当する断面を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に例示説明する。
図1は、本発明の一実施形態としての金属ガスケット1を示す平面図である。金属ガスケット1は、金属製のシリンダヘッドガスケットである。金属ガスケット1は、
図3、4等に示すように、内燃機関のシリンダヘッド21とシリンダブロック22との間に挟まれるように装着されて、燃焼ガス、並びに冷却水及び潤滑油(オイル)等の液体のリーク(漏出)を防止するためのものである。
【0016】
金属ガスケット1は、
図1、及びそのA-A線に沿った断面図である
図2に示すように、1枚の金属基板2、1枚の段差調整板3、及び1枚の補強板4を備える。金属ガスケット1において、フルビード16を形成する部分は、金属基板2及び段差調整板3からなる2枚重ねの構成とし、ハーフビード17を形成する部分は金属基板2のみの構成とし、ウォータジャケット23、24の領域に配置される冷却水孔11が形成される部分は、金属基板2、段差調整板3及び補強板4の3枚重ねの構成としている。金属ガスケット1は、ランスロックと称されるプレス手法のカシメ固定によって、金属基板2、段差調整板3及び補強板4が、3枚同時に固定された構造となっている。カシメ固定により形成されるカシメ部15は、金属基板2側から補強板4側に向けて突き出す様態である。金属ガスケット1のカシメ部15は、シリンダヘッド21側からシリンダブロック22側のウォータジャケット24溝内に突き出す様態である(
図3参照)。
図1に示すように、金属ガスケット1は、シリンダボア孔10、冷却水孔11、オイル孔12、カムチェーン通過用のチャンバ孔13、締付ボルト孔14を有する。なお、冷却水孔11は、金属基板2、段差調整板3、及び補強板4を全て貫通している。
【0017】
金属基板2には、シリンダボア孔10、冷却水孔11、オイル孔12、カムチェーン通過用のチャンバ孔13、締付ボルト孔14が形成されている。また金属基板2には、シリンダボア孔10をシールするためのフルビード16と、冷却水孔11をシールするための1本で構成されたハーフビード17と、オイル孔12及びチャンバ孔13用のハーフビード17とが設けられている。金属基板2は、弾性金属板としての板厚tが0.20mmのステンレス鋼板(SUS301H-CSP)に、ニトリロゴム(NBR)からなる軟質のシール材5(ミクロシール材)を両面に塗布した後、シリンダボア孔10及びシリンダボア孔10をシールするためのフルビード16を形成し、エンジン稼働時の冷却効果を考慮して開孔された複数の冷却水孔11及び冷却水孔11をシールするための1本で構成されたハーフビード17を形成したものである。なお、本例においてフルビード16のビード高さは、0.15mm、ビード幅は、3.0mmであり、上記冷却水孔11用のハーフビード17のビード高さは、0.20mm、ビード幅は、1.5mmである。また本例では、潤滑用オイル貫通用の複数のオイル孔12及びカムシャフト貫通用のチャンバ孔13用のハーフビード17のビード高さを0.20mm、ビード幅を、1.5mmとした。なお、金属基板2の構成は上記例に限定されない。
【0018】
本例の段差調整板3は、金属基板2よりも板厚が薄い金属板から形成されている。段差調整板3には、シリンダボア孔10、冷却水孔11が形成されている。また、本例の段差調整板3は、板厚tが0.05mmのステンレス鋼板(SUS301H-CSP)の少なくとも一方の面に、ニトリロゴム(NBR)からなる軟質のシール材5を塗布したものであり、
図5に示すようにシール材5が塗布された面が、シリンダブロック22側に位置するように配置される。
【0019】
ここで、
図1、8に示す段差調整板3に形成されたシリンダボア孔10の内周縁部3aの大きさ(形状)は、金属基板2のシリンダボア孔10と同一である。すなわち段差調整板3には、金属基板2に形成されたシリンダボア孔10と同一形状のシリンダボア孔10が形成されており、金属基板2と段差調整板3のシリンダボア孔10の位置は相互に一致している。また、段差調整板3は、金属ガスケット1をシリンダヘッド21とシリンダブロック22の間に装着した状態で、段差調整板3の外周縁部がシリンダブロック22のウォータジャケット24の内側に収まるように構成されている。換言すれば、段差調整板3の外周縁部3bの直径は、
図3に示すようにシリンダブロック22のウォータジャケット24の内壁24bの直径よりも若干小さくしている。つまり、段差調整板3の外周縁部3bがシリンダブロック22のウォータジャケット24の内壁24bよりも内側に位置するようにしている。ここで、段差調整板3の外周縁部3bは、シリンダブロック22のウォータジャケット24の内壁24bにできるだけ近づけることが望ましい。このような構成とすることで、シリンダヘッド21とシリンダブロック22の間で金属ガスケット1が締付けられた時、締付けが阻害されずにウォータジャケット24の溝内に確実に納まるとともに、金属箔からなる段差調整板3の強度アップのために出来るだけ接触面積を大きく取ることができる。なお本例では、段差調整板3の外周縁部3bがシリンダブロック22のウォータジャケット24の内壁24bよりも0.5mm内側に位置するように形成している。なお、段差調整板3の構成は上記例に限定されない。
【0020】
本例の補強板4は、金属基板2よりも板厚が薄い金属板から形成されている。補強板4には、冷却水孔11が形成されている。また、補強板4には、シリンダボア孔10よりも大きい開口(内周縁部4aの輪郭参照)が形成されている。補強板4は、板厚tが0.15mmのステンレス材からなり、シリンダブロック22に設けられたウォータジャケット24の溝内に補強板4全体が収まるようにしている。すなわち、
図3に示すように、補強板4の内周縁部4aの直径は、ウォータジャケット24の内壁24aの直径よりも大きく、補強板4の外周縁部4bの直径は、ウォータジャケット24の内壁24bの直径よりも小さくなるようにしている。具体的に、本例では、補強板4の内周縁部4aの寸法(直径)は、内壁24a寸法より0.5mm大きく加工し、外周縁部4bの寸法(直径)は、内壁24b寸法より0.5mm小さくしている。これにより、補強板4が金属ガスケット1の締付けを確実に阻害しないようにすることができる。すなわち、金属ガスケット1の締付けの際に、補強板4がシリンダブロック22に接触しないようにすることができる。補強板4は、段差調整板3の下面側に押圧され、板厚tが0.05mmの金属箔で構成された段差調整板3のカシメ部15からの脱落や一部のズレを長期的に防止するための構成である。したがって、補強板4のサイズを上記のようにする目的の一つは、段差調整板3の広範囲を補強板4によって確実に押圧して抑える必要があるからである。また、補強板4のサイズを上記のようにする目的の二つ目は、補強板4で段差調整板3に塗布されたシール材5の全域を覆うことで、シリンダブロック22側に位置している段差調整板3に塗布されたシール材5の全域が、水流が激しい冷却水に長時間曝されるのを防ぐことができるからである。なお、補強板4の構成は上記例に限定されない。
【0021】
上記のように、金属ガスケット1は、内燃機関におけるシリンダヘッド21とシリンダブロック22の間に装着して用いられ、シリンダヘッド21のウォータジャケット23とシリンダブロック22のウォータジャケット24とを連通させる冷却水孔11を有する金属ガスケット1であって、3枚重ねた状態で共にカシメ固定された金属基板2、段差調整板3、及び補強板4を備え、金属基板2と補強板4に挟まれた段差調整板3における少なくとも補強板4側の面にはシール材5が塗布されており、金属ガスケット1をシリンダヘッド21とシリンダブロック22の間に装着した状態で、補強板4がシリンダブロック22のウォータジャケット24の内側に収まるように構成されている。このような構成により、内燃機関のシリンダヘッド21とシリンダブロック22の間に装着されて締付けられた時には、補強板4によって金属ガスケット1の全域の締付けが阻害されない。また、内燃機関の稼働、停止が繰り返される冷熱環境下において、金属基板2から段差調整板3が脱落したり変形したりすることを補強板4によって防止することができる。また、補強板4によって、段差調整板3に塗布されたシール材5の表面全域がウォータジャケット24内に満たされた冷却水に直接曝されないようにしたことで、シール材5の剥離等を防止することができる。すなわち、内燃機関の稼働と停止が頻繁に繰り返されることで生じる冷熱環境下でも、段差調整板3の変形、ずれ、及びクラックの発生等を抑制することができ、また、段差調整板3に塗布されたシール材5の剥離及び膨れ等も抑制することができる。
【0022】
ここで、本発明の実施例として金属ガスケット1を形成した。具体的には、
図2、3、4に示すように、シリンダヘッド21側から、金属基板2、段差調整板3、補強板4の順にセットして、ランスロックと称されるカシメ手法を用いて3枚の金属板(金属基板2、段差調整板3、及び補強板4)を固定した。なお、カシメ部15の突出し方向は、シリンダヘッド21側からシリンダブロック22側方向に向かう方向であり、シリンダブロック22のウォータジャケット24内にカシメ部15が位置するようにしている。なお、金属ガスケット1の寸法は上述の通りである。
【0023】
また、本発明の効果を確認するための試験に供した比較例として、
図10に示す金属ガスケット100を形成した。金属ガスケット100は、実施例の金属ガスケット1から補強板4を除いた構成としている。すなわち、比較例の金属ガスケット100は、1枚の金属基板2及び1枚の段差調整板3からなり、フルビード16部分、及びシリンダブロック22のウォータジャケット24の溝域は、金属基板2及び段差調整板3の2枚重ねの構成とし、ハーフビード17部分は金属基板2のみの構成とし、ランスロックのカシメ部15によって2枚同時に固定した構造となっている。なお、カシメ部15はシリンダヘッド21側からシリンダブロック22側のウォータジャケット24溝内に突き出す様態となっている。
【0024】
上記実施例としての金属ガスケット1および比較例としての金属ガスケット100を用いて、本発明の作用効果を確認するための蒸気冷熱試験を行った。
【0025】
ここで内燃機関(エンジン)は周知のように、エンジンの稼働と停止が頻繁に繰り返されるために温度変化が大きく、且つ、その頻度も多く、その冷間、熱間でエンジン本体は熱膨張を繰り返している。特に、シリンダヘッド21とシリンダブロック22間に介挿されている金属ガスケットは、上記の冷熱サイクルによるエンジンの膨張収縮を直接受けるため、燃焼ガス等のリーク防止の他に、段差調整板3の変形、脱落等を防止する補償が必要である。本発明の効果を確認する実験として、シリンダヘッド21とシリンダブロック22との間に金属ガスケット1、100をそれぞれ装着し、蒸気と冷水とを交互にウォータジャケット24に流入して、金属基板2からの段差調整板3の脱落、及び変形の有無について確認した。
【0026】
具体的には、熱間は高圧蒸気によって行われ、180℃の高圧蒸気をシリンダヘッド21側のインテークポートに設置された蒸気流入孔より燃焼室内に流入させるとともに、さらにその一部の蒸気を冷却水孔11に出入りさせてエンジン全域を一定時間加圧加熱する。また、冷間は冷水によって行われ、蒸気加熱を停止させると同時に、15℃の冷水をシリンダブロック22側のウォータジャケット24に流入孔より流入させるととともに、さらに金属ガスケット1の冷却水孔11を通してシリンダヘッド21に流入させてエンジン全域を一定時間冷却する。そして、この熱間及び冷間を1サイクルとして、これを所定のサイクル数(例えば20サイクル)繰り返したところで、締付けボルト緩めて金属ガスケット1、100をそれぞれ取り出し確認を行った。
【0027】
上記試験の結果、実施例の金属ガスケット1においては、金属基板2からの段差調整板3の脱落及び変形、及び段差調整板3に塗布されたシール材5の表面状態に剥離や膨れ等の変化は認められなかった。一方で、比較例の金属ガスケット100においては、金属基板2からの段差調整板3の脱落及び変形、及び段差調整板3に塗布されたシール材5の表面状態に剥離や膨れ等の変化が認められた。
【0028】
上記試験結果から、段差調整板3が位置するシリンダブロック22のウォータジャケット24の溝全域に、補強板4が覆い被さる様態で、補強板4の内側端部4a(内周縁部)をウォータジャケット24の内壁24aよりも僅かに(例えば0.5mm)大きく加工し、補強板4の外側端部4b(外周縁部)を、ウォータジャケット24の内壁24bより僅かに(例えば0.5mm)小さく加工して組み付けることにより、金属箔で構成された段差調整板3を広範囲に確実に押圧して抑えることができ、その結果、段差調整板3の強度が増し、段差調整板3をカシメ部15からの脱落や一部のズレ等の発生を抑制する改善効果が確認できた。
【0029】
また、金属ガスケット1においてシリンダブロック22側に位置している補強板4は、前述のように段差調整板3を広範囲に確実に押圧しているので、段差調整板3に塗布されたシール材5と補強板4間への冷却水の浸入も抑えられ(
図5参照)、且つ、
図6に示すように段差調整板3全体が冷却水に晒されることもなく、シール材5の表面に剥離や膨れ等の改善効果が確認できた。
【0030】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
図9は、本発明の他の実施形態に係る金属ガスケット1’の一例であり、フルビード16の突き出し方向は段差調整板3(シリンダブロック22側)方向を向き、ハーフビード17もそれにつれて傾斜している。このようにフルビード16の突き出方向は上記実施例に限定されるものではなく、フルビード16の突き出し方向がシリンダヘッド21側方向を向き、ハーフビード17もそれにつれて傾斜してもよく、状況に応じて適宜変更可能である。
【0031】
また、本願発明の
図5、6では、シリンダヘッド21におけるウォータジャケット23の内壁23a、23bの間隔が、シリンダブロック22におけるウォータジャケット24の内壁24a、24bの間隔よりも大きい構成としているが、これに限られない。すなわち、各エンジンによってウォータジャケット23、24の内壁23a、23b、24a、24bの間隔は様々であり、本願において重要な補強板4の端部4a及び4bの設定は、シリンダヘッド21のウォータジャケット23には左右されず、シリンダブロック22のウォータジャケット24の内壁24a、24bを基準とすればよい。
【0032】
また、シリンダボア孔10、冷却水孔11、オイル孔12、チャンバ孔13、及び締付ボルト孔14の数やその配置等は特に限定されず、内燃機関を構成するシリンダヘッド21及びシリンダブロック22の形状等に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0033】
1、1’:金属ガスケット
2:金属基板
3:段差調整板
3a:段差調整板の内側の端部(内周縁部)
3b:段差調整板の外側の端部(外周縁部)
4:補強板
4a:補強板の内側の端部(内周縁部)
4b:補強板の外側の端部(外周縁部)
5:シール材
10:シリンダボア孔
11:冷却水孔
12:オイル孔
13:カムチェーン通過用チャンバ孔
14:締付ボルト孔
15:カシメ部
16:フルビード
17:ハーフビード
21:シリンダヘッド
22:シリンダブロック
23:シリンダヘッドのウォータジャケット
23a、23b:シリンダヘッドのウォータジャケットの内壁
24:シリンダブロックのウォータジャケット
24a、24b:シリンダブロックのウォータジャケットの内壁
100:比較例の金属ガスケット