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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/56 20060101AFI20221108BHJP
   C25D 5/02 20060101ALI20221108BHJP
   C25D 5/54 20060101ALI20221108BHJP
   C23C 18/22 20060101ALI20221108BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20221108BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20221108BHJP
   H05K 3/06 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C25D5/56 A
C25D5/02 E
C25D5/54
C23C18/22
H05K3/38 A
H05K3/18 K
H05K3/06 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019556114
(86)(22)【出願日】2018-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2018034567
(87)【国際公開番号】W WO2019102701
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2017223999
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598014825
【氏名又は名称】株式会社クオルテック
(72)【発明者】
【氏名】大矢 怜史
(72)【発明者】
【氏名】貝原 誠一
(72)【発明者】
【氏名】新子 比呂志
(72)【発明者】
【氏名】志方 廣一
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-166003(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152938(WO,A1)
【文献】特開2015-010268(JP,A)
【文献】株式会社クオルテック,フェムト秒レーザを用いた微細加工技術,2012年,全文,http://www.qualtec.co.jp/seminar/pdf/electrotest_2010_3.pdf
【文献】上山宏治,プリント配線板の製造法,表面技術,日本,1993年,Vol.44、No.7,p.566-572
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/56
C25D 5/02
C23C 18/20
C23C 18/22
H05K 3/18
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に配線が形成された電子部品の製造方法であって、
パルス幅の単位がピコ秒であるピコ秒レーザ光、又はフェムト秒であるフェムト秒レーザ光を前記基材表面に照射して配線パターンを形成する第1の工程と、
Sn-Pd触媒を前記基材の表面に付与した後、前記基材の表面に第1の銅めっき層を形成する第2の工程と、
前記第1の銅めっき層上にマスクを形成する第3の工程と、
レーザ光を前記配線パターンに対応する前記マスクの表面に照射し、前記マスクを開口させる第4の工程と、
第2の銅めっき層を、前記配線パターン部の前記第1の銅めっき層に形成する第5の工程と、
前記マスクを剥離する第6の工程と、
前記マスクの剥離により露出した前記第1の銅めっき層を、除去する第7の工程を行うことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記基材は、アクリル樹脂、PET、PTFE、ガラス、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、及びポリイミド樹脂からなる群から選択される材料を含むことを特徴とする請求項1記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記第1の銅めっき層は、無電解銅めっき層であり、
前記第2の銅めっき層は、電解銅めっき層であることを特徴とする請求項1記載の電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記フェムト秒レーザ光のパルス幅は、1フェムト秒~1000フェムト秒であり、
前記ピコ秒レーザ光のパルス幅は、1ピコ秒~10ピコ秒であることを特徴とする請求項1記載の電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程において、前記レーザ光の照射により前記基材の表面を粗化し、
粗化された前記基材の表面の算術平均粗さRaが0.2μm以上であることを特徴とする請求項1記載の電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記マスクは、アルカリ溶液で可溶するアクリルポリマーを含み、
前記マスクは、染料を含んでいることを特徴とする請求項1記載の電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被めっき層上にめっき部を形成する電子部品の製造方法、及び電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばプリント配線板の場合、例えばガラス製の基板に積層し、表面の全面に金属膜を形成した後、フォトリソグラフィの技術により、金属膜をパターン化して金属配線を設けている。特許文献1には、高分子樹脂を含む基材の表裏両面又は片面に電気的導電性を有する金属配線をフォトリソグラフィによって形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-290082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のフォトリソグラフィはレジスト塗布、露光、現像、エッチング等の工程を要し、工程数が多く、煩雑である。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、難めっき材料からなる被めっき層に対しても、特殊な薬液又はフォトリソグラフィの技術を用いることなく、容易に、密着性が良好であるめっきを行うことができる電子部品の製造方法、及び銅箔引き剥がし試験を行った場合のピール強度が0.1N/mm以上である電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電子部品の製造方法は、パルス幅の単位がピコ秒であるピコ秒レーザ光、又はフェムト秒であるフェムト秒レーザ光を被めっき層の表面に照射して該表面を粗化し、マスクを用いて配線パターンを形成し、該配線パターンの表面にめっき部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
ピコ秒レーザ光又はフェムト秒レーザ光のパルス幅は非常に短く、熱拡散する前に融点を超える温度に被めっき層が加熱され、蒸発が起こるので、熱影響の少ない加工ができ、表面に微細で鋭い多角錐状の凹凸が形成される。アンカー効果により、めっき部の被めっき層への密着性が良好である。即ち、被めっき層が、めっき部との間で化学結合が得られにくい、又は表面に凹凸が得られにくい難めっき材料からなる場合であっても、良好な密着性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る電子部品の配線部分を示す模式的断面図である。
図2】めっき処理を示すフローチャートである。
図3A】電子部品の製造を説明するための模式的断面図である。
図3B】電子部品の製造を説明するための模式的断面図である。
図3C】電子部品の製造を説明するための模式的断面図である。
図3D】電子部品の製造を説明するための模式的断面図である。
図3E】電子部品の製造を説明するための模式的断面図である。
図4A】実施の形態1のめっき部分を説明するための模式的断面図である。
図4B】実施の形態1のめっき部分を説明するための模式的断面図である。
図4C】実施の形態1のめっき部分を説明するための模式的断面図である。
図5A】従来のめっき部分を示す模式的断面図である。
図5B】従来のめっき部分を示す模式的断面図である。
図5C】従来のめっき部分を示す模式的断面図である。
図6】実施の形態2に係る電子部品の配線部分を示す模式的断面図である。
図7】めっき処理を示すフローチャートである。
図8A】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図8B】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図8C】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図8D】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図8E】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図8F】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図9】実施の形態3に係る電子部品の配線部分を示す模式的断面図である。
図10】めっき処理を示すフローチャートである。
図11A】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図11B】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図11C】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図11D】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図11E】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図11F】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図11G】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図11H】電子部品の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図12】アクリル樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、スライドガラス、エポキシ樹脂、又は液晶ポリマーからなる基材のピール強度を示すグラフである。
図13】アクリル樹脂の基材にフェムト秒グリーンレーザ光を照射したときの加工部を示すSEM写真である。
図14】加工部と未加工部との境界を示すSEM写真である。
図15】アクリル樹脂製の基材にフェムト秒グリーンレーザ光を照射し、Cuめっきを設けたときの断面を示すSEM写真である。
図16】PET樹脂製の基材にフェムト秒グリーンレーザ光を照射し、Cuめっきを設けたときの断面を示すSEM写真である。
図17】PTFE製の基材にフェムト秒グリーンレーザ光を照射し、Cuめっきを設けたときの断面を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施形態の概要)
実施形態の電子部品の製造方法は、パルス幅の単位がピコ秒であるピコ秒レーザ光、又はフェムト秒であるフェムト秒レーザ光を被めっき層の表面に照射して該表面を粗化し、粗化した該表面上にめっき部を形成する。
上記のように、ピコ秒レーザ光又はフェムト秒レーザ光により、表面を粗化した上でめっきを行う。ピコ秒レーザ光又はフェムト秒レーザ光は、パルス幅がピコ秒オーダー又はフェムト秒オーダーであり、非常に短く、熱拡散する前に融点を超える温度に被めっき層が加熱され、蒸発が起こる。レーザ光が照射された部分はアブレーションが生じて除去される。熱影響の少ない加工ができ、被めっき層の表面に微細で鋭い多角錐形状の凹凸が形成される。従って、アンカー効果により、めっき部の被めっき層への密着性が良好である。被めっき層が、めっき部との間で化学結合が得られにくい、又は表面に凹凸が得られにくい難めっき材料からなる場合であっても、良好な密着性が得られる。
【0010】
実施形態の電子部品の製造方法は、パルス幅の単位がピコ秒であるピコ秒レーザ光、又はフェムト秒であるフェムト秒レーザ光を被めっき層の表面に照射して該表面を粗化し、マスクを用いて配線パターンを形成し、該配線パターンの表面にめっき部を形成する。
上記構成によれば、熱影響の少ない加工ができ、被めっき層の表面に微細で鋭い多角錐形状の凹凸が形成される。アンカー効果により、めっき部の被めっき層への密着性が良好である。被めっき層が、めっき部との間で化学結合が得られにくい、又は表面に凹凸が得られにくい難めっき材料からなる場合であっても、良好な密着性が得られる。
そして、非配線パターン部分がマスクにより保護された状態で、配線パターンが形成される。配線のパターニングの精度が良好である。工程数が多く、煩雑であるフォトリソグラフィの手法を用いて配線を設ける場合と比較して、少ない工程数で、容易に配線を設けることができる。
【0011】
上述の電子部品の製造方法において、前記表面を粗化する前に、該表面にマスクを設け、前記ピコ秒レーザ光又は前記フェムト秒レーザ光を照射して、前記表面を粗化しつつ前記マスクを除去して前記配線パターンを形成してもよい。
上記構成によれば、表面を粗化するときにマスクを除去することができ、非配線パターン部分がマスクにより保護された状態で、配線パターンが容易に形成される。
【0012】
上述の電子部品の製造方法において、粗化した前記表面、及び残存するマスクの表面に触媒を付与して活性化し、前記マスクを剥離し、前記配線パターンの表面に、無電解銅めっき液を用いて銅めっき部を形成してもよい。
上記構成によれば、粗化部分のみに触媒を残存させて銅めっきを行うので、一度に所望の厚みの銅めっき部を形成することができる。
【0013】
上述の電子部品の製造方法において、粗化した表面を含む前記被めっき層の表面に無電解銅めっきを行って第1銅めっき部を形成し、該第1銅めっき部の表面にマスクを設け、該マスクを開口して前記配線パターンを形成し、開口した部分に電解銅めっきを行って第2銅めっき部を形成し、前記マスクを剥離し、露出した前記第1銅めっき部をエッチングにより除去してもよい。
上記構成によれば、被めっき層の全面に第1銅めっき部を形成しているので、給電パターンを設けることなく、電解銅めっきを行って、第2銅めっき部を形成することができる。
電解銅めっきによりめっき部の厚みを厚くすることができ、被めっき層の表面からめっき部を平面視で長方形状又は台形状に突出させることができる。無電解Cuめっきは、自己触媒めっきであるのが好ましい。
【0014】
上述の電子部品の製造方法において、前記ピコ秒レーザ光、又は前記フェムト秒レーザ光を被めっき層の表面に照射して前記マスクを開口してもよい。
上記構成によれば、表面粗化に用いるピコ秒レーザ光、又は前記フェムト秒レーザ光を用いて、効率良く、マスクを開口することができる。
【0015】
上述の電子部品の製造方法において、前記マスクはアルカリ可溶タイプのアクリルポリマーを含んでもよい、
銅めっきの場合、酸性又は中性の溶液を用いる複数の工程を有するが、上記構成によれば、これらの工程でマスクが反応により減じることがなく、アルカリ溶液を用いるマスクの除去工程においてのみ、マスクが除去される。
【0016】
上述の電子部品の製造方法において、前記フェムト秒レーザ光はフェムト秒グリーンレーザを用いて照射することにしてもよい。
フェムト秒グリーンレーザは、第二高調波であるため、比較的高出力を取り出すことができ、被めっき層が合成樹脂製等であっても、被めっき層への吸収が良好である。
フェムト秒グリーンレーザが出射する光の波長は500nm~530nmであるのが好ましい。パルス幅は、1フェムト秒~1000フェムト秒であるのが好ましい。
また、ピコ秒レーザを用いる場合、ピコ秒レーザが出射する光の波長は500nm~530nmであるのが好ましい。パルス幅は、1ピコ秒~10ピコ秒であるのが好ましい。
【0017】
上述の電子部品の製造方法において、前記被めっき層は、アクリル樹脂、PET、PTFE、ガラス、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、及びポリイミド樹脂からなる群から選択される材料を含んでもよい。
本実施の形態の電子部品の製造方法によれば、アクリル樹脂、PET、PTFE、スライドガラス等のガラス、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、及びポリイミド樹脂等の難めっき性材料の被めっき層にも密着性良好にめっき部を設けることができる。
【0018】
なお、難めっき材料の被めっき層に対して密着性良好にめっき部を設けることができるので、被めっき層として、従来の基板材料である紙フェノール基板、紙エポキシ基板、ガラスコンポジット基板、ガラスエポキシ基板、セラミック基板等に対しても密着性良好にめっき部を設けることができる。
【0019】
上述の電子部品の製造方法において、前記めっき層は銅めっき部であり、前記被めっき層から前記めっき部を引き剥がす銅箔引き剥がし試験を行った場合のピール強度は、0.1N/mm以上であるのが好ましい。
上記構成によれば、電子部品のめっき部の被めっき層への密着性が良好である。
ピール強度は、アクリル樹脂の場合、0.2N/mm以上、0.3N/mm以上の順により好ましい。PETの場合、0.2N/mm以上であるのがより好ましい。スライドガラスの場合、0.3N/mm以上であるのがより好ましい。PTFE、エポキシ樹脂、及び液晶ポリマーの場合、0.7N/mm以上、0.8N/mm以上の順により好ましい。
【0020】
上述の電子部品の製造方法において、前記被めっき層の算術平均粗さRaが0.2μm以上になるように、前記被めっき層の表面を粗化してもよい。
上記構成によれば、めっき部の被めっき層に対する密着性が良好である。算術平均粗さRaは、0.3μm以上、0.4μm以上、0.5μm以上の順により好ましい。
【0021】
本実施の形態の電子部品は、アクリル樹脂、PET、PTFE、ガラス、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、及びポリイミド樹脂からなる群から選択される材料を含む被めっき層の表面に銅めっき部が設けられている電子部品において、前記被めっき層の表面は、パルス幅の単位がピコ秒であるピコ秒レーザ光、又はフェムト秒であるフェムト秒レーザ光により粗化されており、前記被めっき層から前記銅めっき部を引き剥がす銅箔引き剥がし試験を行った場合のピール強度は、0.1N/mm以上である。
上記構成によれば、電子部品の銅めっき部の被めっき層への密着性が良好である。
ピール強度は、アクリル樹脂の場合、0.2N/mm以上、0.3N/mm以上の順により好ましい。PETの場合、0.2N/mm以上であるのがより好ましい。スライドガラスの場合、0.3N/mm以上であるのがより好ましい。PTFE、エポキシ樹脂、及び液晶ポリマーの場合、0.7N/mm以上、0.8N/mm以上の順により好ましい。
【0022】
本実施の形態の電子部品は、アクリル樹脂、PET、PTFE、ガラス、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、及びポリイミド樹脂からなる群から選択される材料を含む被めっき層の表面に銅めっき部が設けられている電子部品において、前記被めっき層の表面は、パルス幅の単位がピコ秒であるピコ秒レーザ光、又はフェムト秒であるフェムト秒レーザ光により粗化されており、前記被めっき層の算術平均粗さRaは0.2μm以上である。
上記構成によれば、銅めっき部の被めっき層に対する密着性が良好である。算術平均粗さRaは、0.3μm以上、0.4μm以上、0.5μm以上の順により好ましい。
【0023】
以下、図面に基づいて具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る電子部品1の配線部分を示す模式的断面図である。
電子部品1は、表面に複数の凹部20が設けられた基層2を有する。各凹部20の表面には、Cuからなる配線部5が設けられている。配線部5は、凹部20の底面及び側面に設けられた第1Cuめっき部3と、第1Cuめっき部3の表面に、凹部20を充填するように設けられた第2Cuめっき部4とを有する。第1Cuめっき部3と第2Cuめっき部4とは一体化されている。
【0024】
以下、電子部品1の製造方法について説明する。
図2はめっき処理を示すフローチャート、図3A~Eは電子部品の製造を説明するための模式的断面図である。
基層2は、アクリル樹脂、PET、PTFE、スライドガラス等のガラス、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、又はポリイミド樹脂等の材料からなる(図3A)。
まず、基層2の表面を粗化する(S1、図3B)。フェムト秒レーザ光又はピコ秒レーザ光を照射し、基層2の表面の、配線パターンに対応する部分を除去して角溝状の凹部20を形成し、かつ凹部20の底面及び側面を粗化する。
【0025】
次に、基層2の表面に無電解Cuめっきを行い、めっき膜30を形成する(S2、図3C)。無電解Cuめっき液としては、強アルカリ領域でホルマリンを還元剤とする還元析出型の無電解Cuめっき液を用いることができる。キレート剤としては、EDTA又はロッシェル塩を用いることができる。めっきの前に、無電解Cuめっき液中の還元剤が基層2上で電子を放出するように触媒となるPdを付与する。無電解Cuめっき液中のCuイオンが、還元剤の酸化反応で放出される電子によって還元され、基層2の表面に析出し、めっき膜30が形成される。
【0026】
表面研磨を行い、非粗化部分に形成されためっき膜30を除去する(S3、図3D)。凹部20の底面及び側面には、第1Cuめっき部3が残存する。
【0027】
電解Cuめっきを行い、第1Cuめっき部3上に第2Cuめっき部4を形成する(S4、図3E)。電解Cuめっき液組成及びめっき条件の一例を下記に示す。
<電解Cuめっき液組成>
硫酸銅・五水和物:100g/L
硫酸:190g/L
塩素:50mg/L
光沢剤:適量
<電解Cuめっき条件>
液温:室温
電流密度:2A/dm2
【0028】
以上より、配線部5が形成される。配線部5は、基層2の表面から側面視で長方形状又は台形状に突出するように設けてもよい。電解Cuめっきは場合により、省略することができる。
最後に、例えば80~200℃で、30分間~1時間ベーキングを行う(S5)。なお、基層2がPETからなる場合、ベーキングを省略することができる。
【0029】
図4A~Cは、本実施の形態のめっき部分を説明するための模式的断面図である。基層2にフェムト秒レーザ光を照射することにより(図4A)、基層2に凹部20が形成される(図4B)。凹部20は、表面に微細な多角錐状の凹凸20aを有する。
凹部20上に第1Cuめっき部3が形成される(図4C)。アンカー効果により、密着性が顕著に向上する。
【0030】
図5A~Cは、従来のめっき部分を示す模式的断面図である。基層2(図5A)に、特殊の薬液等を用いてCuめっき層33を設ける(図5B)。
図5A~Cに示すように、基層2-Cuめっき層33間の化学結合に乏しく、また、基層2の表面に凹凸がないので密着性が悪く、Cuめっき層33は容易に剥離する。
【0031】
本実施形態によれば、難めっき材料からなる基層2に対して、特殊な薬液又はフォトリソグラフィの技術を用いることなく、容易に、密着性が良好であるめっきを行うことができる。
【0032】
(実施の形態2)
図6は、実施の形態2に係る電子部品11の配線部分を示す模式的断面図である。
電子部品11は、表面に複数の凹部21が設けられた基層2を有する。各凹部21の表面には、Cuからなる配線部12が設けられている。
【0033】
以下、電子部品11の製造方法について説明する。
図7はめっき処理を示すフローチャート、図8A~Fは電子部品11の製造方法を説明するための模式的断面図である。
基層2は、アクリル樹脂、PET、PTFE、スライドガラス等のガラス、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、又はポリイミド樹脂等の材料からなる(図8A)。
まず、基層2の表面にマスク13を塗布する(S11、図8B)。)マスクとしては、アルカリ可溶タイプのアクリルポリマーを含むのが好ましい。
【0034】
基層2の表面を粗化する(S12、図8C)。フェムト秒レーザ光又はピコ秒レーザ光を照射し、基層2の表面の、配線パターンに対応する部分を除去して角溝状の凹部21を形成し、かつ凹部21の底面及び側面を粗化する。このとき、配線部12を形成する部分に対応するマスク13の部分が除去され、孔13aが形成される。配線のパターニングは、マスク13の表面に形成されたマークに基づいて行ってもよく、基層2上に形成された十字マーク等に基づいて行ってもよい。
【0035】
基層2に対し酸性脱脂剤を用い、例えば45℃、5分の条件で脱脂を行う(S13)。
塩酸系水溶液を用いてプリディップ処理を行う(S14)。保持時間は、例えば2分である。
【0036】
次に、Sn-Pd触媒14を凹部21の表面、及びマスク13の残存している部分の表面に付与する(S15、図8D)。Sn-Pd触媒14はコロイド状の粒子であり、Pd-Snの核部の表面にSn-rich層、及びSn2+層が順に形成されている。
活性化を行う(S16)。Sn-Pd触媒14を付与した基層2を塩酸系の溶液に浸漬することでSnの層が除去され、内部のPd触媒が露出する。Pd触媒が露出するので、Sn-Pd触媒14が存在する部分において、後述する無電解Cuめっき液による反応が生じる。
【0037】
アルカリ溶液を用いて、マスク13を剥離する(S17、図8E)。基層2のマスク13が剥離された部分にはSn-Pd触媒14が存在しない。
そして、基層2の表面に無電解Cuめっきを行い、配線部12が形成される(S18、図8F)。無電解Cuめっき液としては、上述の強アルカリ領域でホルマリンを還元剤とする還元析出型の無電解Cuめっき液を用いることができる。キレート剤としては、EDTA又はロッシェル塩を用いることができる。無電解Cuめっき液中の還元剤が基層2上で電子を放出するように触媒として機能するPdが付与されている。従って、無電解Cuめっき液中のCuイオンが、還元剤の酸化反応で放出される電子によって還元され、基層2の表面に析出し、配線部12が形成される。
【0038】
本実施形態によれば、難めっき材料からなる基層2に対して、特殊な薬液又はフォトリソグラフィの技術を用いることなく、容易に、密着性が良好であるめっきを行うことができる。
【0039】
実施の形態1においては、粗化部分及び非粗化部分に同一厚みのめっき膜30を形成した後、表面研磨を行って非粗化部分のめっき膜30を除去し、凹部20の底面及び側面に第1Cuめっき部3を残存させ、第1Cuめっき部3上に第2Cuめっき部4を形成し、配線部5の厚みを制御していた。
【0040】
本実施の形態においては、マスク13を用い、配線部12に対応する基層2の粗化部分のみにSn-Pd触媒14を残存させてめっきを行うので、配線部12のパターニングの精度が良好であり、表面研磨が不要である。配線パターンに対応する部分以外の部分がマスク13により保護された状態で、配線パターンが容易に形成される。粗化部分のみに無電解Cuめっきを行うので、所望の厚みの配線部(Cuめっき部)12を形成することができ、実施の形態1のように2段階でCuめっきを行う必要がない。
【0041】
(実施の形態3)
図9は、実施の形態3に係る電子部品15の配線部分を示す模式的断面図である。
電子部品15は、表面に複数の凹部22が設けられた基層2を有する。各凹部22の表面には、Cuからなる配線部16が設けられている。配線部16は、凹部22の底面及び側面に設けられた第1Cuめっき部17と、第1Cuめっき部17の表面に、凹部22を充填するように設けられた第2Cuめっき部18とを有する。第2Cuめっき部18は基層2の表面から側面視で長方形状又は台形状に突出している。第1Cuめっき部17と第2Cuめっき部18とは一体化されている。
【0042】
以下、電子部品15の製造方法について説明する。
図10はめっき処理を示すフローチャート、図11A~Hは電子部品15の製造方法を説明するための模式的断面図である。
基層2は、アクリル樹脂、PET、PTFE、スライドガラス等のガラス、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、又はポリイミド樹脂等の材料からなる(図11A)。
【0043】
基層2の表面を粗化する(S21、図11B)。フェムト秒レーザ光又はピコ秒レーザ光を照射し、基層2の表面の、配線パターンに対応する部分を除去して角溝状の凹部22を形成し、かつ凹部22の底面及び側面を粗化する。
【0044】
基層2に対し酸性脱脂剤を用い、例えば45℃、5分の条件で脱脂を行う(S22)。
塩酸系水溶液を用いてプリディップ処理を行う(S23)。保持時間は、例えば2分である。
Sn-Pd触媒を基層2の表面に付与する(S24)。Sn-Pd触媒はコロイド状の粒子であり、Pd-Snの核部の表面にSn-rich層、及びSn2+層が順に形成されている。
活性化を行う(S25)。Sn-Pd触媒14を付与した基層2を塩酸系の溶液に浸漬することでSnの層が除去され、内部のPd触媒が露出する。
【0045】
基層2の表面に無電解Cuめっきを行い、めっき膜30を形成する(S26、図11C)。無電解Cuめっき液としては、上述の強アルカリ領域でホルマリンを還元剤とする還元析出型の無電解Cuめっき液を用いることができる。キレート剤としては、EDTA又はロッシェル塩を用いることができる。無電解Cuめっき液中のCuイオンが、還元剤の酸化反応で放出される電子によって還元され、基層2の表面に析出し、めっき膜30が形成される。
【0046】
基層2の表面にマスク13を塗布する(S27、図11D)。マスク材としては、アルカリ可溶タイプのアクリルポリマーを含むのが好ましい。マスク材は、顔料、染料、又は色素を含んでもよい。これにより、レーザ加工性が向上する。
表面を乾燥させる(S28)。乾燥は、例えば温度20℃~80℃で行う。
【0047】
フェムト秒レーザ光又はピコ秒レーザ光を照射し、マスク13の配線パターンに対応する部分を開口する(S29、図11E)。マスクの開口は、UVレーザ、YAGレーザ、CO2 レーザ、又はエキシマレーザにより行ってもよい。
【0048】
電解Cuめっきを行い、めっき膜30の配線部に対応する部分に第2Cuめっき部18を形成する(S30、図11F)。電解Cuめっき液組成及びめっき条件は、実施の形態1の電解Cuめっき液組成及びめっき条件と同様である。
【0049】
基層2の全面にめっき膜30を形成しているので、給電時に配線パターンが電気的に接続された状態で、電解Cuめっきを行い、表面にマスク13が存在しない配線部分に第2Cuめっき部18を形成することができる。第2Cuめっき部18は、基層2の表面から側面視で長方形状又は台形状に突出するように設ける。
【0050】
アルカリ溶液を用いて、マスク13を剥離する(S31、図11G)。
露出しためっき膜30をエッチングにより除去する(S32、図11H)。エッチング液はCuを溶かすことができる液を用いる。めっき膜30の厚みは0.1μm~1μm程度であり、第2Cuめっき部18の表面からの突出量は例えば十数μmであり、オーダーが異なる。エッチングによりめっき膜30は除去されるが、第2Cuめっき部18の厚みが減少しないような時間、電子部品15をエッチング液に浸漬する。
【0051】
表面を乾燥させる(S33)。乾燥は、例えば温度20℃~80℃で行う。
以上より、第1Cuめっき部17と第2Cuめっき部18とを有する配線部16が形成される。
【0052】
本実施形態によれば、難めっき材料からなる基層2に対して、特殊な薬液又はフォトリソグラフィの技術を用いることなく、容易に、密着性が良好であるめっきを行うことができる。
実施の形態1においては、図3Dに示すように、配線パターンが電気的に接続されていないので、電解Cuめっきを行うために、給電パターンを要する。
本実施形態においては、上述したように全面にめっき膜30が形成されているので、給電パターンを設けることなく、電解Cuめっきを行って第2Cuめっき部18を形成することができる。配線パターンを接続するための給電パターンが不要であるので、工程数を減らすことができる。
【0053】
本実施の形態においては、マスク13を用い、配線部16に対応する基層2の粗化部分のみにCuめっきを行うので、配線部16のパターニングの精度が良好であり、表面研磨も不要である。配線パターンに対応する部分以外の部分がマスク13により保護された状態で、配線パターンが容易に形成される。形成する第2Cuめっき部18の厚みの自由度も高い。
【0054】
以下、本実施の形態の製造方法により製造した試験基板の評価試験及び断面観察について説明する。
【0055】
(評価試験及び断面観察)
アクリル樹脂、PET、PTFE、スライドガラス、エポキシ樹脂、又は液晶ポリマーからなる基材上に、上述のようにして、フェムト秒グリーンレーザを用いて実施の形態1の製造方法によりCu箔を設け、ピール(銅箔引き剥がし)試験を行ってピール強度を求めた。
【0056】
ピール試験は、めっきにより銅箔を設けた基材を両面テープにより試験基板に貼り付け、試験基板を長手方向にスライドさせながら、90°上方向へ銅箔を引き剥がすことにより行った。
試験条件は以下の通りである。
・試験装置 引張圧縮試験機(株式会社島津製作所製「EZ TEST」)
・引き剥がし速度 50mm/min
・引き剥がし方向 90°
・引き剥がし長さ 30mm
・銅箔寸法 幅5mm×長さ90mm
・引き剥がし速度 54mm/min
その結果を下記の表1及び図12に示す。図12の横軸のaはアクリル樹脂、bはPET、cはPTFE、dはスライドガラス、eはエポキシ樹脂、fは液晶ポリマーである。図12の縦軸は、ピール強度(N/mm)である。
【0057】
【表1】
【0058】
フェムト秒グリーンレーザのレーザ条件1、2、3を下記の表2~表4に示す。表2中、「繰り返し周波数」はパルス/secである。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
表1及び図12より、PETで0.2~0.26N/mm、アクリル樹脂で0.1~0.34N/mm、スライドガラスで0.3N/mm、PTFE、エポキシ樹脂、及び液晶ポリマーで0.75~0.88N/mmの高いピール強度が得られており、密着性が良好であることが分かる。ピール強度は0.1N/mm以上であるのが好ましい。アクリル樹脂の場合、0.2N/mm以上、0.3N/mm以上の順により好ましい。PETの場合、0.2N/mm以上であるのがより好ましい。スライドガラスの場合、0.3N/mm以上であるのがより好ましい。PTFE、エポキシ樹脂、及び液晶ポリマーの場合、0.7N/mm以上、0.8N/mm以上の順により好ましい。
【0063】
図13は、アクリル樹脂の基材にフェムト秒グリーンレーザ光を照射したときの加工部を示すSEM写真であり、図14は加工部と未加工部との境界を示すSEM写真である。
図13及び図14より、アクリル樹脂の基材の表面が粗化されていることが分かる。
【0064】
図15は、アクリル樹脂製の基材にフェムト秒グリーンレーザ光を照射し、Cuめっきを設けたときの断面を示すSEM写真である。図16は、PET製の基材にフェムト秒グリーンレーザ光を照射し、Cuめっきを設けたときの断面を示すSEM写真である。図17は、PTFE製の基材にフェムト秒グリーンレーザ光を照射し、Cuめっきを設けたときの断面を示すSEM写真である。
いずれの場合も、基材とCuめっき層との間に微細な凹凸があり、アンカー効果により強固に接合されていることが分かる。
【0065】
下記の表5に、各材質の基材にレーザ条件1によりフェムト秒グリーンレーザ光を照射したときの表面粗さとしての算術平均粗さRa(μm)及び最大高さ粗さRz(μm)を求めた結果を示す。
【0066】
【表5】
【0067】
表5より、いずれの材質の基材も、未加工部と比較して、レーザ加工部が著しく表面粗さが大きくなっていることが分かる。
【0068】
次に、基材としてアクリル樹脂を用い、フェムト秒グリーンレーザ光の照射による表面粗さを変え、実施の形態1の製造方法によりCu箔を設けたときの、表面粗さとCu箔の密着性との関係を調べた。その結果を下記の表6に示す。密着性の評価は、めっきの密着性試験方法のテープ試験(JIS H8504 15.1)に準じて行った。このテープ試験においては、張り付けない部分を30~50mm残して試験用テープ(JIS Z 1522に規定された粘着テープ)をめっき面に張り付け、残した部分のテープを持ち、めっき面に垂直になるように強く引っ張り、テープを瞬間に引きはがす。引きはがしたテープの粘着面にめっきの付着があれば,めっきは密着不良とする。試験箇所を目視によって観察し,めっきのはく離又は膨れが明らかなときは,密着不良とする。
【0069】
【表6】
【0070】
フェムト秒グリーンレーザのレーザ条件4及び5を下記の表7に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
表6より、算術平均粗さRa(μm)が0.2μm以上である場合、Cuめっき部の密着性が良好であることが分かる。算術平均粗さRa(μm)は、0.3μm以上、0.4μm以上、0.5μm以上の順により好ましい。
表6より、最大高さ粗さRz(μm)は2μm以上である場合、Cuめっき部の密着性が良好であることが分かる。最大高さ粗さRz(μm)は、3μm以上、4μm以上、5μm以上の順により好ましい。
【0073】
以上より、本実施の形態の電子部品の製造方法により、基層の表面に微細で鋭い多角錐形状の凹凸が形成され、被めっき層が、めっき層との間で化学結合が得られにくい、又は表面に凹凸が得られにくい難めっき材料からなる場合であっても、アンカー効果によりめっき層の被めっき層への密着性が良好であることが確認された。
本実施の形態の製造方法により得られた電子部品のピール強度は、0.1N/mm以上である。
【0074】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、請求の範囲と均等の意味及び請求の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば電子部品はプリント配線板に限定されない。めっきも配線部分に行う場合に限定されない。めっきの種類もCuめっきに限定されず、Niめっき等を行うことができる。
フェムト秒レーザの照射条件も実施の形態において説明した場合に限定されない。
【符号の説明】
【0075】
1、11、15 電子部品
2 基層
20、21、22 凹部
3、17 第1Cuめっき部
30 めっき膜
4、18 第2Cuめっき部
5、12、16 配線部
13 マスク
14 Sn-Pd触媒
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図11H
図12
図13
図14
図15
図16
図17