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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】成膜制御装置、成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/54 20060101AFI20221108BHJP
【FI】
C23C14/54 A
C23C14/54 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021181904
(22)【出願日】2021-11-08
【審査請求日】2022-09-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007216
【氏名又は名称】株式会社シンクロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】松平 学幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛
(72)【発明者】
【氏名】宮内 充祐
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-107053(JP,A)
【文献】特開2007-231303(JP,A)
【文献】特開2014-066536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C23C 16/00-16/56
G01B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に配置された基板に光を照射する光源と、
前記光源から照射した光に対し、前記基板に成膜された薄膜の層を透過する透過光または反射する反射光を受光する受光部と、
前記回転体の円周方向の位置に対応した位置情報を取得する位置情報取得部と、
成膜条件を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記位置情報取得部で取得した前記回転体の円周方向の位置情報に基づいて目的とする基板の位置を特定し、当該特定した位置の基板に対して前記光源から照射した光の透過光または反射光を受光するタイミングを制御するタイミング制御部と、
前記受光部で受光した透過光または反射光に基づいて、複数の層からなる薄膜の各層の膜厚を算出し、前記各層の膜厚と、所望の分光特性を有する薄膜を構成する各層の目標膜厚との膜厚差を判定する膜厚判定部と、
成膜処理で得られた薄膜の分光特性が前記所望の分光特性の許容範囲にあるか否かを判定する分光特性判定部と、
前記成膜処理で得られた薄膜の分光特性が前記所望の分光特性の許容範囲にない場合であって、前記各層の膜厚が前記目標膜厚に対して所定値以上の膜厚差があるときは、当該膜厚差がある層の膜厚が当該層の目標膜厚になるように次の基板の当該層に対する成膜条件を補正し、前記成膜処理で得られた薄膜の分光特性が前記所望の分光特性の許容範囲にある場合には、前記各層の成膜条件を補正しない成膜条件設定部と、を含む成膜制御装置。
【請求項2】
前記成膜条件設定部は、前記成膜処理で得られた薄膜の分光特性が前記所望の分光特性の許容範囲にない場合であって、前記各層の膜厚が前記目標膜厚に対して所定値以上の膜厚差がないときは、当該膜厚差がない層の成膜条件を補正しない請求項1に記載の成膜制御装置。
【請求項3】
前記膜厚判定部は、前記受光部で受光した透過光の強度から透過率を算出するか、又は反射光の強度から反射率を算出し、算出された透過率又は反射率から前記各層の膜厚を算出する請求項1又は2に記載の成膜制御装置。
【請求項4】
前記膜厚判定部は、
前記光源から照射した光が、前記基板及び薄膜を構成する各層を透過せずに成膜空間のみを介して前記受光部に受光した場合の強度、又は
前記光源から照射した光が、前記基板のみに反射して前記受光部に受光した場合の強度、を参照強度とし、
当該参照強度と、薄膜を構成する各層を透過した透過光又は反射した反射光の強度とを比較して前記各層の膜厚を算出する請求項に記載の成膜制御装置。
【請求項5】
前記基板が配置された前記回転体の同一円周上の位置に通孔が形成され、
前記光源から照射した光が、前記通孔を通過して受光部に受光したときの強度を前記参照強度に設定する請求項に記載の成膜制御装置。
【請求項6】
前記位置情報取得部は、
前記回転体に配置された反射板と、
前記反射板にレーザ光を照射し、前記反射板から反射された反射レーザ光を受光するレーザ装置と、を含み、
前記タイミング制御部は、
前記レーザ装置が受光した反射レーザ光の強度分布から、前記回転体の位置情報を取得し、取得した位置情報に基づき、前記光源がパルス光を発光する第1のタイミングと、前記受光部がパルス光を受光する第2のタイミングとを制御する請求項1~のいずれか一項に記載の成膜制御装置。
【請求項7】
前記位置情報取得部は、
前記回転体と共に回転する回転軸と、前記回転軸に配置された2つの切り欠き部を含む反射板と、前記反射板に向けて光を投光する投光部と、前記投光部からの光を受光する投光受光部と、を含み、
前記タイミング制御部は、前記投光受光部が受光した光の強度分布から、前記回転体の位置情報を取得し、取得した位置情報に基づき、前記光源がパルス光を発光する第1のタイミングと、前記受光部がパルス光を受光する第2のタイミングを制御する請求項1~のいずれか一項に記載の成膜制御装置。
【請求項8】
所定圧力に設定され、基板が配置された回転体を含む成膜チャンバと、
所定の成膜条件にしたがって複数の層からなる薄膜の成膜処理を実行する成膜処理部と、
請求項1~のいずれか一項に記載の成膜制御装置と、を備える成膜装置において、
前記成膜制御装置は、前記成膜処理部の前記所定の膜厚条件を設定する成膜装置。
【請求項9】
回転体に配置された基板に、複数の層からなる薄膜を成膜する成膜方法において、
前記回転体の円周方向の位置情報に基づいて目的とする基板の位置を特定し、
当該特定した位置の基板に対し、光源から前記基板に光を照射するとともに、前記光源から照射した光に対し、前記基板に成膜された層を透過する透過光または反射する反射光を受光し、
前記受光した透過光または反射光に基づいて薄膜を構成する各層の膜厚を算出し、前記各層の膜厚と、所望の分光特性を有する薄膜を構成する各層の目標膜厚との膜厚差を判定し、
成膜処理で得られた薄膜の分光特性が前記所望の分光特性の許容範囲にあるか否かを判定し、
前記成膜処理で得られた薄膜の分光特性が前記所望の分光特性の許容範囲にない場合であって、前記各層の膜厚が前記目標膜厚に対して所定値以上の膜厚差があるときは、当該膜厚差がある層の膜厚が当該層の目標膜厚になるように次の基板の当該層に対する成膜条件を補正し、
前記成膜処理で得られた薄膜の分光特性が前記所望の分光特性の許容範囲にある場合には、前記各層の成膜条件を補正しないで、成膜処理を実行する成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜制御装置、成膜装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス、プラスチック又は半導体基板といった基板の表面に、蒸着やスパッタなどの成膜方法を用いて複数の層からなる薄膜を成膜することが行われている。この種の多層薄膜を成膜する場合、薄膜を構成する各層の分光特性を、成膜処理を中断することなく測定する光学測定装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5938155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、成膜途中にある各層の分光特性の測定結果から、たとえば屈折率、反射率、消衰係数を算出できるとされているものの、分光特性が許容範囲を外れている場合にはどのように対処すべきかの言及はされていない。したがって、目的とする所望の分光特性を有する多層薄膜が成膜できる成膜制御装置、成膜装置及び成膜方法が求められていた。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、多層薄膜を成膜する場合に、目的とする分光特性が得られるように多層薄膜の成膜条件を制御できる成膜制御装置、成膜装置及び成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転体に配置された基板に光を照射する光源と、
前記光源から照射した光に対し、前記基板に成膜された薄膜の層を透過する透過光または反射する反射光を受光する受光部と、
前記回転体の円周方向の位置に対応した位置情報を取得する位置情報取得部と、
成膜条件を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記位置情報取得部で取得した前記回転体の円周方向の位置情報に基づいて目的とする基板の位置を特定し、当該特定した位置の基板に対して前記光源から照射した光の透過光または反射光を受光するタイミングを制御するタイミング制御部と、
前記受光部で受光した透過光または反射光に基づいて、複数の層からなる薄膜の各層の膜厚を算出し、前記各層の膜厚と、所望の分光特性を有する薄膜を構成する各層の目標膜厚との膜厚差を判定する膜厚判定部と、
成膜処理で得られた薄膜の分光特性が前記所望の分光特性の許容範囲にあるか否かを判定する分光特性判定部と、
前記成膜処理で得られた薄膜の分光特性が前記所望の分光特性の許容範囲にない場合であって、前記各層の膜厚が前記目標膜厚に対して所定値以上の膜厚差があるときは、当該膜厚差がある層の膜厚が当該層の目標膜厚になるように次の基板の当該層に対する成膜条件を補正し、前記成膜処理で得られた薄膜の分光特性が前記所望の分光特性の許容範囲にある場合には、前記各層の成膜条件を補正しない成膜条件設定部と、を含むことによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、多層薄膜の成膜処理を中断することなく成膜途中において各層の透過率又は反射率などの分光特性を測定し、成膜終了後に、得られた分光特性から各層の膜厚を算出する。そして、目標膜厚との膜厚差が大きい場合には、膜厚差が小さくなる成膜条件に補正したうえで以後の成膜処理を実行する。したがって、多層薄膜を成膜する場合に、目的とする分光特性が得られるように多層薄膜の成膜条件を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る成膜装置の一実施の形態を示す縦断面図を含むブロック図である。
図2A図1のレーザセンサ及び反射板の要部を示す平面図である。
図2B図2Aの基板ホルダが定速で回転した場合にレーザセンサにて検出される受光強度を示すグラフである。
図3A図1のレーザセンサ及び反射板の要部の他の例を示す正面図である。
図3B図3Aの平面図である。
図3C図3Aの回転軸が定速で回転した場合にレーザセンサにて検出される受光強度を示すグラフである。
図4図1の基板ホルダの底面図であって、基板が装着される側の面を示す図である。
図5図1に示す水晶発振式膜厚計及び光学膜厚計が設けられた回転軸の中心部を示す拡大断面図である。
図6】本発明に係る成膜装置を用いた成膜処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明に係る成膜装置を用いた成膜処理の一例であって、第N回成膜時及び第(N+1)回成膜時それぞれの各層の成膜材料、目標膜厚、解析膜厚、解析結果、現フィードバック係数、新フィードバック係数を示す表である。
図8】本発明に係る成膜装置の他の実施の形態を示す縦断面図を含むブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下において、図1は、本発明に係る成膜制御装置、成膜装置及び成膜方法を適用した成膜装置1の一実施の形態を示す図であり、主要部の縦断面図を含むブロック図である。本発明の成膜装置1は、典型的には真空蒸着装置又は真空スパッタ装置として具現化することができるので、以下においては、真空蒸着法を用いた成膜装置1を本発明の一実施の形態として説明し、真空スパッタ法を用いた成膜装置1を本発明の他の実施の形態として説明する。ただし、本発明の成膜制御装置、成膜装置及び成膜方法は、真空蒸着法を用いた真空蒸着装置や真空スパッタ法を用いた真空スパッタ装置にのみ限定される趣旨ではなく、真空蒸着装置及び真空スパッタ装置以外の成膜装置を含めた広い意味での成膜装置にも適用することができる。
【0010】
《真空蒸着装置》
本実施形態の成膜装置1は、少なくとも成膜材料Mと基板Sが設けられ、所定の成膜雰囲気、具体的には真空度などに設定可能な成膜チャンバ2を備える。成膜チャンバ2には、仕切バルブ22を介して排気装置21が設けられ、仕切バルブ22を開いて成膜チャンバ2の内部の気体を排気することで、成膜チャンバ2の内部を、たとえば蒸着処理に適した真空雰囲気に設定することができる。成膜チャンバ2の内部の真空度が高くなると、蒸発した成膜材料Mの平均自由行程が大きくなり、また成膜材料の蒸発温度も下がるので、蒸着処理が促進される。なお、排気装置21及び仕切バルブ22は、制御器3からの指令信号により制御される。
【0011】
成膜チャンバ2の天井には、半導体ウェーハ、ガラス基板、プラスチック基板などの基板Sを支持する基板ホルダ25が垂下して設けられている。特に限定する趣旨ではないが、本実施形態の基板ホルダ25は、成膜材料Mが蒸発するハースライナ(坩堝)23と、それぞれの基板Sとの距離がなるべく均等になるように、凹状の球面を有する板状部材で構成されている。また、同じく特に限定する趣旨ではないが、本実施形態の基板ホルダ25は、モータなどで構成されたホルダ駆動部26により回転可能とされ、これによっても、それぞれの基板Sに形成される膜の厚さがほぼ均等になる。さらに、同じく特に限定する趣旨ではないが、成膜チャンバ2のハースライナ23と基板ホルダ25との間には、ハースライナ23から蒸発した成膜材料Mを邪魔して基板Sに堆積する薄膜の膜厚を調整するための可倒式の膜厚補正板28が設けられている。膜厚補正板28は、必要に応じて図1に示すように倒立させることで、1回転する間の所定回転角度範囲における基板Sへの堆積を邪魔する。これによっても、それぞれの基板Sに形成される膜の厚さがほぼ均等になる。なお、ホルダ駆動部26は、制御器3からの指令信号により制御され、設定された定速度で基板ホルダ25を回転させる。
【0012】
特に限定する趣旨ではないが、基板ホルダ25は、ホルダ駆動部26の回転軸27などに対して着脱可能とされている。そして、成膜処理を行う場合には、成膜前の複数の基板Sが装着された基板ホルダ25を、図示しないロボットなどを用いて把持し、図示しないロードロックチャンバを介して成膜チャンバ2に搬入し、ホルダ駆動部26の回転軸27に装着する。また、成膜処理を終了したら、ロードロックチャンバを成膜チャンバ2と同じ真空雰囲気に設定したのち、成膜後の基板Sが装着された基板ホルダ25を、図示しないロボットなどを用いて把持し、成膜チャンバ2からロードロックチャンバへ搬出する。このように、成膜チャンバ2にロードロックチャンバを設けることにより、成膜チャンバ2の真空雰囲気を維持したまま、基板Sを成膜チャンバ2に搬入したり、成膜チャンバ2から搬出したりすることができる。
【0013】
加熱源24は、成膜チャンバ2の内部に設けられ、ハースライナ23に収容された成膜材料Mを加熱して蒸発させる。加熱源24としては、電子銃を用いた電子ビーム加熱のほか、抵抗加熱、高周波誘導加熱、レーザービーム加熱を用いることができる。図1に示す実施形態の加熱源24は、電子銃を用いた電子ビーム加熱であり、近接した位置にあるハースライナ23に対して、電子ビームが照射される。シャッター23aの開閉と加熱源24のON/OFFは、制御器3からの指令信号により制御される。なお、本実施形態の成膜装置1のように、複数の成膜材料Mの複数の層からなる薄膜を成膜する場合、成膜材料M毎に複数のハースライナ23を設け、それぞれのハースライナ23のシャッター23aの開閉タイミングを制御する。
【0014】
本実施形態の成膜装置1は、成膜条件制御器4を備える。本実施形態の成膜条件制御器4は、回転する基板ホルダ25に固定された基板Sの位置を特定し、薄膜を構成する各層の分光特性を成膜中に連続して測定し、成膜終了後に、得られた薄膜の分光特性が許容範囲を外れている場合には、その分光特性に起因する成膜条件(たとえば膜厚)を補正したうえで、次の成膜処理を実行する。
【0015】
そのため、本実施形態の成膜条件制御器4は、基板ホルダ25の円周方向の位置に対応した位置情報を取得するレーザセンサ48と反射板251とを備え、これらが本発明の位置情報取得部に相当する。図2Aは、レーザセンサ48及び反射板251を含む基板ホルダ25の要部を示す平面図であり、反射板251は、基板ホルダ25の外周端部に、たとえば180°の位相をもって2箇所に設けられている。なお、反射板251の数は2箇所に限定されず、基板ホルダ25の外周端部に1箇所又は3箇所以上設けてもよい。
【0016】
レーザセンサ48は、成膜チャンバ2の外部に固定され、覗き窓29bを介して反射板251が設けられた位置に向かってレーザ光を照射し、その反射光を受光することで受光強度を出力する。なおレーザセンサ48は、成膜チャンバ2の内部に配置してもよい。図2Bは、基板ホルダ25が定速で回転した場合にレーザセンサ48にて検出される受光強度を示すグラフであり、反射板251にてレーザ光が反射されるタイミングにて所定の受光強度が検出され、それ以外のタイミングでは受光が検出されない。
【0017】
このように、レーザセンサ48から照射したレーザ光は、基板ホルダ25が1回転する間に2回、反射板251で反射し、その反射信号が入力される。基板ホルダ25における反射板251の円周方向の位置と、各基板Sの円周方向の装着位置とは既知であり、またホルダ駆動部26による基板ホルダ25の回転速度も定速の既知値であるとすると、レーザセンサ48が反射板251を検出したタイミングから、特定の基板Sの位置を同定することができる。レーザセンサ48の検出信号は、LED電源43と分光器46に出力される。
【0018】
なお、反射板251を設ける位置は、図1及び図2Aに示すような基板ホルダ25の外周端部に限定されず、基板ホルダ25とともに回転する部位であればよいので、回転軸27に設けてもよい。図3Aは、回転軸27に固定されて連れ回りする反射板251を示す正面図、図3Bは平面図であり、本例の反射板251は、その外周部に2つの切り欠き部252が形成されている。なお、切り欠き部252の数は2箇所に限定されず、反射板251の外周部に1箇所又は3箇所以上設けてもよい。
【0019】
そして、レーザセンサ48は、図3Bに示すように切り欠き部252が形成された位置に向かってレーザ光を照射し、その反射光を受光することで受光強度を出力する。図3Bにおいて、×印がレーザセンサ48によるレーザ光の照射位置を示し、回転軸27の回転に伴うレーザ光の照射軌跡を点線で示す。図3Cは、回転軸27(基板ホルダ25)が定速で回転した場合にレーザセンサ48にて検出される受光強度を示すグラフであり、反射板251にてレーザ光が反射されるタイミングにて所定の受光強度が検出されるのに対し、レーザ光が切り欠き部252を通過するタイミングでは受光が検出されない。
【0020】
図1に戻り、本実施形態の成膜条件制御器4は、基板Sに形成された層の分光特性を成膜処理中に測定するために、基板SにLED光を照射するLED投光器42(本発明の光源に相当)を備える。LED投光器42で発光したLED光は、光ファイバ44を介して投光レンズユニット41に導かれ、基板ホルダ25の所定位置に装着された基板Sに照射される。LED投光器42は、LED電源43からの供給を受けるとLED光を発光し、LED電源43は、上述したレーザセンサ48からの検出信号に基づく所定のタイミングでON/OFFする。投光レンズユニット41は、蒸着材料Mの堆積を避けるため膜厚補正板28の上面に固定されている。また、基板ホルダ25と基板Sは、LED光が透過可能な材料で構成されている。
【0021】
本実施形態の成膜条件制御器4は、LED投光器42から照射されたLED光に対し、基板S上に成膜された層を透過する透過光を受光する分光器46(本発明の受光部に相当)を備える。分光器46で受光するLED光は、受光レンズユニット45と光ファイバ47により導かれる。本実施形態の受光レンズユニット45は、成膜チャンバ2の外部に固定され、覗き窓29aを介してLED光を受光する。受光レンズユニット45は、成膜チャンバ2の内部に配置してもよい。分光器46には、レーザセンサ48からの検出信号が入力されるので、上述したLED電源43の発光タイミングに同期したタイミングで受光処理を実行することができる。
【0022】
分光器46は、受光した透過光に含まれる各波長の強度(スペクトル)を出力し、このスペクトルに基づいて、光学的に膜厚を測定することができる。すなわち、受光した透過光の強度と参照光の強度(参照強度)との比から透過率(目的物を透過した割合)が算出され、算出された透過率と、予め求めておいた透過率-膜厚の関係式から、膜厚を算出することができる。ここで参照光とは、測定すべき層が形成されていない状態に照射されるLED光である。図4は、基板ホルダ25の基板Sの装着面を示す平面図(基板ホルダ25の底面図)であり、図示するように複数の基板Sが放射状に規則正しく固定されている。同図において点線L2は、基板ホルダ25が回転した場合に、投光レンズユニット41を介して照射されるLED光の照射点を結ぶ軌跡を示す。本実施形態では、基板ホルダ25の点線L2上の位置にLED光が通過することができる程度の径を有する通孔253を形成し、ここには基板Sを装着しないでおく。こうすることで、基板ホルダ25が回転してこの通孔253が、投光レンズユニット41からのLED光の照射位置に達すると、受光レンズユニット45には、薄膜の層も基板Sも透過せず、成膜チャンバ2の成膜空間のみを通過したLED光が受光される。これを参照光とし、その強度を参照強度とすることで透過率を算出する。
【0023】
また、分光器46により受光したLED光の強度に基づいて、反射率、屈折率、消衰係数などの特性値も求めることができる。なお、本実施形態の成膜装置1では、成膜条件制御器4により成膜中の層の膜厚を光学的に測定できるほか、基板ホルダ25の中央などに設けた水晶発振式膜厚計5や光学膜厚計6によっても成膜中の層の膜厚を測定することができる。図5は、水晶発振式膜厚計5及び光学膜厚計6が設けられた回転軸27を拡大して示す断面図である。回転軸27の下端部には、水晶発振式膜厚計5の測定対象となる水晶振動子S1と、光学膜厚計6の測定対象となるモニタガラス基板S2とが装着され、成膜時には、ハースライナ23から蒸発した蒸着材料Mがこれらの水晶振動子S1,モニタガラス基板S2にそれぞれ堆積する。
【0024】
水晶発振式膜厚計5は、水晶振動子S1の振動周波数の変化を検出することで水晶振動子S1に堆積した薄膜の質量を測定するセンサであり、測定された堆積質量とその蒸着材料Mの密度とから膜厚を算出することができる。光学膜厚計6は、反射率から膜厚を求めるものであり、まず成膜前にモニタガラス基板S2に照射した白色光の反射光の強度を参照強度として測定しておく。そして、薄膜が堆積したモニタガラス基板S2に照射した白色光の反射光の強度を測定し、参照強度と測定した反射光の強度の比から相対反射率を算出し、算出された相対反射率と、予め設定しておいた相対反射率-膜厚の関係式から、膜厚を算出する。
【0025】
再び図1に戻り、本実施形態の成膜条件制御器4は、成膜条件設定部40を備え、分光器46で受光した透過光に基づいて薄膜を構成する各層の膜厚を算出し、各層の膜厚と、所望の分光特性を有する薄膜を構成する各層の目標膜厚との膜厚差を判定する。そして、成膜条件設定部40は、各層の膜厚が目標膜厚に対して所定値以上の膜厚差がある場合には、当該膜厚差がある層の膜厚が当該層の目標膜厚になるように当該層に対する成膜条件を補正したうえで、成膜条件を更新する。なお、成膜条件設定部40は、各層の膜厚が目標膜厚に対して所定値以上の膜厚差がない場合には、当該膜厚差がない層の成膜条件を補正しないで、それまでの設定値を維持する。さらに、成膜条件設定部40は、成膜処理で得られた最終的な薄膜の分光特性(たとえば透過率や反射率)が、所望の分光特性の許容範囲にあるか否かを判定し、測定した分光特性が許容範囲にないと判定した場合に、成膜条件の補正を実行する。成膜条件設定部40で更新された成膜条件は制御器3に出力され、当該更新された成膜条件にしたがって次の成膜処理が実行される。
【0026】
次に、本実施形態の成膜装置1を用いた成膜処理の手順を説明する。図6は、本発明に係る成膜装置1を用いた成膜処理の手順の一例を示すフローチャートである。ここでは、2種類の成膜材料M(SiOとTiO)を交互に7層を成膜する例を挙げて説明する。図7は、第N回成膜時及び第(N+1)回成膜時それぞれの各層の成膜材料、目標膜厚、解析膜厚、解析結果(解析膜厚/目標膜厚の百分率)、現フィードバック係数、新フィードバック係数を示す表である。
【0027】
図6において、成膜処理が開始すると、ステップS1にて第1層(SiO)の成膜を開始するとともに、ステップS2にて第1層の膜厚を測定する。ステップS1における第1層の成膜処理は、制御器3からの指令信号により第1層のSiOが収納されたハースライナ23のシャッター23aを開くとともに加熱源24によりSiOを加熱して蒸発させる。これとともに基板ホルダ25を定速度で回転させる。これにより、各基板Sに第1層のSiOが形成される。図7の上段(第N回成膜時)に示すように、第1層の目標膜厚は180nmに設定されているので、水晶発振式膜厚計5又は光学膜厚計6により計測された水晶振動子S1又はモニタガラス基板S2の膜厚がこの目標膜厚に達したらシャッター23aを閉じる。あるいはこれに代えて、この目標膜厚180nmに相当する成膜時間が経過したらシャッター23aを閉じる。
【0028】
そして、実際の基板Sについては、第1層の成膜が終了したときの基板Sに形成された第1層の膜厚を、分光器46で受光した透過光から解析して求めておく。図7の上段(第N回成膜時)に示すように、第1層の解析膜厚が190nmであったとすると解析結果(ここでは、解析膜厚/目標膜厚の百分率で定義する。)は105.6%となる。
【0029】
続くステップS3にて、第7層までの成膜が終了したか否かを判断し、終了していない場合は、第7層の成膜処理が終了するまでステップS1及びS2を順次繰り返す。図7の上段(第N回成膜時)に、第2層から第7層までの目標膜厚、解析膜厚、解析結果を示す。図6のステップS3において、全ての層、すなわち第7層までの成膜が終了したら本例の薄膜が完成するので、ステップS4へ進み、薄膜の分光特性(たとえば透過率や反射率)を測定する。
【0030】
続くステップS5では、成膜を終了した薄膜の分光特性が所定の許容範囲にあるか否かを判定し、許容範囲内にある場合は、今回の成膜条件を補正しないで維持する。これに対して、薄膜の分光特性が許容範囲を外れている場合は、ステップS6へ進み、第1層から第7層までの各層の解析膜厚と、第1層から第7層までの各層の目標膜厚との膜厚差を求め、所定の閾値以下か否かを判定する。ここで、解析膜厚と目標膜厚との膜厚差は、図7に示すような割合(解析膜厚/目標膜厚の百分率)でもよいし、解析膜厚から目標膜厚を減算した差分でもよい。
【0031】
ステップS6において、求められた各層の目標膜厚との膜厚差が所定の閾値を超える場合は、ステップS7へ進み、当該層の膜厚差が所定の閾値以下になるように成膜条件を補正する。これに対して、求められた各層の目標膜厚との膜厚差が所定の閾値以下である場合は、各層の膜厚に起因する成膜条件以外の要因が関係していると考えられることから、ステップS7の処理は実行しないで、他の措置を講じる。
【0032】
図7における具体例では、ステップS6における解析結果の閾値を0%とし、100%以外の場合はフィードバック係数を算出し、算出した新フィードバック係数を第(N+1)回成膜時の現フィードバック係数に設定したうえで第(N+1)回の成膜処理を実行する。ステップS7において、補正された成膜条件は制御部3へ出力され、次のバッチの基板Sに対する成膜処理に反映される。
【0033】
《真空スパッタ装置》
本発明に係る成膜装置1は、図1に示す蒸着装置以外にもスパッタ装置として具現化することができる。図8は、本発明に係る成膜装置の他の実施の形態を示す縦断面図を含むブロック図であり、真空スパッタ装置に適用した例である。なお、図1に示す蒸着装置に具現化した成膜装置1と共通する部材には同一の符号を付し、その説明をここに援用する。
【0034】
本実施形態の成膜装置1は、少なくともターゲットが装着されたスパッタ電極(不図示)と基板Sとが設けられ、所定の成膜雰囲気、具体的には所定の真空度などに設定可能な成膜チャンバ2を備える。成膜チャンバ2には、仕切バルブ22を介して排気装置21が設けられ、仕切バルブ22を開いて成膜チャンバ2の内部の気体を排気することで、成膜チャンバ2の内部を、たとえばスパッタ処理に適した真空雰囲気に設定することができる。図示は省略するが、成膜チャンバ2には、不活性ガスなどの各種ガスが供給される。成膜チャンバ2の内部の真空度が高くなると、スパッタされたターゲット原子の平均自由行程が大きくなので、スパッタ処理が促進される。なお、排気装置21及び仕切バルブ22は、制御器3からの指令信号により制御される。
【0035】
図8に示すように、半導体ウェーハ、ガラス基板、プラスチック基板などの基板Sは、ドラム型に形成された基板ホルダ25の側面に装着され、これらの基板Sに対面する成膜チャンバ2の側壁に上述したスパッタ電極(不図示)が設けられている。ドラム型の基板ホルダ25は、その上端に接続された回転軸27を介してホルダ駆動部26により所定の定速で回転する。ホルダ駆動部26は、制御器3からの指令信号により制御される。
【0036】
本実施形態の成膜装置1は、成膜条件制御器4を備える。本実施形態の成膜条件制御器4は、回転する基板ホルダ25に固定された基板Sの位置を特定し、薄膜を構成する各層の分光特性を成膜中に連続して測定し、成膜終了後に、得られた薄膜の分光特性が許容範囲を外れている場合には、その分光特性に起因する成膜条件(たとえば膜厚)を補正したうえで、次の成膜処理を実行する。
【0037】
そのため、本実施形態の成膜条件制御器4は、基板ホルダ25の円周方向の位置に対応した位置情報を取得するレーザセンサ48と反射板251とを備え、これらが本発明の位置情報取得部に相当する。詳細な図示は省略するが、反射板251は、基板ホルダ25の外周端部に、たとえば180°の位相をもって2箇所に設けられている。
【0038】
レーザセンサ48は、成膜チャンバ2の外部に固定され、覗き窓29bを介して反射板251が設けられた位置に向かってレーザ光を照射し、その反射光を受光することで受光強度を出力する。レーザセンサ48から照射したレーザ光は、基板ホルダ25が1回転する間に2回、反射板251で反射し、その反射信号が入力される。基板ホルダ25における反射板251の円周方向の位置と、各基板Sの円周方向の装着位置とは既知であり、またホルダ駆動部26による基板ホルダ25の回転速度も定速の既知値であるとすると、レーザセンサ48が反射板251を検出したタイミングから、特定の基板Sの位置を同定することができる。レーザセンサ48の検出信号は、LED電源43と分光器46に出力される。
【0039】
本実施形態の成膜条件制御器4は、基板Sに形成された層の分光特性を成膜処理中に測定するために、基板SにLED光を照射するLED投光器42(本発明の光源に相当)を備える。LED投光器42で発光したLED光は、光ファイバ44を介して投光レンズユニット41に導かれ、基板ホルダ25の所定位置に装着された基板Sに照射される。LED投光器42は、LED電源43からの供給を受けるとLED光を発光し、LED電源43は、上述したレーザセンサ48からの検出信号に基づく所定のタイミングでON/OFFする。投光レンズユニット41は、成膜チャンバ2の外部に設けられ、覗き窓29cを介してLED光を照射する。また、基板ホルダ25と基板Sは、LED光が透過可能な材料で構成されている。
【0040】
本実施形態の成膜条件制御器4は、LED投光器42から照射されたLED光に対し、基板S上に成膜された層を透過する透過光を受光する分光器46(本発明の受光部に相当)を備える。分光器46で受光するLED光は、受光レンズユニット45と光ファイバ47により導かれる。本実施形態の受光レンズユニット45は、成膜チャンバ2の外部に設けられ、覗き窓29aを介してLED光を受光する。分光器46には、レーザセンサ48からの検出信号が入力されるので、上述したLED電源43の発光タイミングに同期したタイミングで受光処理を実行することができる。
【0041】
分光器46は、受光した透過光に含まれる各波長の強度(スペクトル)を出力し、このスペクトルに基づいて、光学的に膜厚を測定することができる。すなわち、受光した透過光の強度と参照光の強度(参照強度)との比から透過率(目的物を透過した割合)が算出され、算出された透過率と、予め求めておいた透過率-膜厚の関係式から、膜厚を算出することができる。ここで参照光とは、測定すべき層が形成されていない状態に照射されるLED光であり、上述した図4に示す実施形態と同様に、基板ホルダ25の所定位置にLED光が通過することができる程度の径を有する通孔253を形成することで、受光レンズユニット45にて受光することができる。これを参照光とし、その強度を参照強度とすることで透過率を算出する。
【符号の説明】
【0042】
1…成膜装置
2…成膜チャンバ
21…排気装置
22…仕切バルブ
23…ハースライナ
24…加熱源
25…基板ホルダ(回転体)
251…反射板(位置情報取得部)
252…切り欠き部
253…通孔
26…ホルダ駆動部
27…回転軸
28…膜厚補正板
29a,29b,29c…覗き窓
3…制御器(成膜処理部)
4…成膜条件制御器(制御部)
40…成膜条件設定部
41…投光レンズユニット
42…LED投光器(光源)
43…LED電源
44…光ファイバ
45…受光レンズユニット
46…分光器
47…光ファイバ
48…レーザセンサ(位置情報取得部)
5…水晶発振式膜厚計
6…光学膜厚計
M…成膜材料
S…基板
【要約】      (修正有)
【課題】目的とする分光特性が得られるように多層薄膜の成膜条件を制御する成膜制御装置を提供する。
【解決手段】回転体25に配置された基板Sに光を照射する光源42と、照射した光に対し、成膜された薄膜の層を透過する透過光または反射する反射光を受光する受光部46と、回転体の位置に対応した位置情報を取得する位置情報取得部48と、成膜条件を制御する制御部4とを備え、制御部は、位置情報取得部で取得した位置情報に基づいて基板の位置を特定し、基板に対して透過光または反射光を受光するタイミングを制御するタイミング制御部と、透過光または反射光に基づいて薄膜の各層の膜厚を算出し、各層の膜厚と、目標膜厚との膜厚差を判定する膜厚判定部と、各層の膜厚が前記目標膜厚に対して所定値以上の膜厚差がある場合には、目標膜厚になるように当該層に対する成膜条件を補正した上で、成膜条件を設定する成膜条件設定部と、を含む。
【選択図】図1
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8