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特許7171104植物栽培システムに用いられる栽培用ポット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】植物栽培システムに用いられる栽培用ポット
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20221108BHJP
【FI】
A01G31/00 611Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022069514
(22)【出願日】2022-04-20
【審査請求日】2022-04-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521443210
【氏名又は名称】株式会社GAC
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】特許業務法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】山根 基広
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第210928804(CN,U)
【文献】特開2007-151543(JP,A)
【文献】特開平10-271926(JP,A)
【文献】特開2015-084750(JP,A)
【文献】特開2005-198563(JP,A)
【文献】特開平09-056283(JP,A)
【文献】実開昭55-164950(JP,U)
【文献】中国実用新案第209806586(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2002/0035803(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00 - 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液が収容された栽培槽で植物を栽培する植物栽培システムにおいて、栽培される植物を収容する栽培用ポットであって、
植物を収容する細長い形状の複数の収容部が並置されており、
前記複数の収容部の各々は、
複数の第1の開口が設けられた底面と
前記底面の幅方向の両縁部の各々から立ち上がる側面と、
前記側面の各々の上部に設けられた頂部と、
前記側面、前記頂部、又は前記側面と前記頂部との交差部のいずれかに設けられた複数の第2の開口と
を有し、
前記複数の収容部は、隣接する2つの前記頂部において連結されていることによって全体として一体化されており、
隣接する2つの前記頂部のいずれか一方、又は、隣接する2つの前記頂部の連結部分には、長さ方向に延びるリブが立設されている、
栽培用ポット。
【請求項2】
前記複数の収容部の各々における2つの前記側面は、互いの間隔が、前記底面から上方に向かうにつれて広くなるように形成されている、請求項1に記載の栽培用ポット。
【請求項3】
前記複数の収容部のうち最外方に位置する2つの収容部の前記頂部には、外方に向かって複数の段が形成された外壁が長さ方向に延びるように立設されている、請求項1又は請求項2に記載の栽培用ポット。
【請求項4】
前記頂部は平面状に構成されている、請求項1又は請求項2に記載の栽培用ポット。
【請求項5】
前記複数の収容部の各々の少なくとも前記底面に接するように種蒔きシートが配置されている、請求項1又は請求項2に記載の栽培用ポット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の人工栽培に関し、より具体的には、植物の養液栽培のための栽培槽に設置して、栽培される植物を収容し、支持する栽培用ポットに関する。
【背景技術】
【0002】
野菜、花卉等を含む植物は、一般に、屋外又は屋内における土耕栽培方式(開放型又は半閉鎖型の土耕栽培方式)によって生産される。しかし、土耕栽培方式には、収穫が季節や天候に左右されること、連作障害が発生すること、害虫などによる病気の恐れがあることなどといった課題がある。こうした土耕栽培方式に対して、近年、養液栽培を利用して植物を屋内で栽培する屋内型人工栽培方式が実用化されている。
【0003】
養液栽培には種々の方式があるが、主に用いられている方式は、流動する養液を用いて植物の根に養分を供給するものであり、この方式は、大きく薄膜型養液栽培方式と湛液型養液栽培方式とに分けられる。薄膜型養液栽培方式は、植物の生長に必要な養分を水に溶解させた養液を、緩やかな傾斜を持つ平面上に薄く流下させ、その養液によって植物を栽培する方式である。薄膜型養液栽培方式は、根の伸長が妨げられるため、植物の生長に問題が生じる場合がある。
【0004】
一方、湛液型養液栽培方式は、植物の生育が行われる栽培槽に、植物の根が養液に浸漬するように養液を供給する方式である。湛液型養液栽培方式は、薄膜型養液栽培方式と比べて、養液の量が多いため水深が深く、根の生長が妨げられないこと、養分濃度や液温の変化がゆるやかであるため管理が容易であることなどといった特徴がある。本発明は、後者の湛液型養液栽培方式に関するものであり、以下において養液栽培というときは、湛液型養液栽培をいう。本出願の発明者は、特許文献1において湛液型養液栽培に関する提案を行っている。
【0005】
特許文献1においては、湛液型養液栽培を行うための栽培ポット及び栽培シートが提案されている。この植物栽培システムでは、特許文献1の図7に示される栽培ポット13Aの内部に図12に示される栽培シート15を入れ、それを、栽培槽内の養液の液面に浮かべるフロートの長孔に設置することによって構成される支持体が用いられる。栽培シート15は、一枚のシートが栽培ポット13Aの幅方向に蛇腹状に折り畳まれることによって、長手方向に沿って延びる複数の山部15a及び谷部15bを有するように形成されており、山部15aと谷部15bとの間に培地14が配置されている。山部15aには、長手方向に沿って適当な間隔で切欠部15cが設けられている。この切欠部15cによって、植物の生長初期段階においても太陽光が遮られずに適切に植物に当たるとともに、栽培中においても植物の根に対する適切な太陽光の照射を実現することができるとされている。栽培シート15の材料は、例えばポリプロピレンなどといった樹脂材料を用いることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-84750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的な養液栽培では、栽培槽内の養液の液面に浮かべるフロートに孔を開け、その孔にスポンジを挿入し、そのスポンジ上に植物の種を播種して植物を生長させる方法が採用されている。しかし、フロートに設けられた孔では植物を支持することができず、植物が根本から曲がってフロートの表面に接し、そのように曲がった状態で上方に伸びることがある。この場合、植物の形状が歪むことによる生長阻害が起こったり、フロート表面に接した部分に病気が発生したりといった問題がある。
【0008】
また、特許文献1に提案されている栽培ポット及び栽培シートからなる支持体には、次のような問題がある。特許文献1の栽培シートは、一枚のシートを折り畳んで使用するものであるため、谷部15bから山部15aまでの高さや、隣接する山部15aの間隔が列ごとに異なることがある。谷部15bから山部15aまでの高さが、列ごとに一定ではない場合には、一部の列の谷部15bについて水面に届かない箇所が発生し、その箇所に植えられた植物に根がつかないおそれがある。また、隣接する山部15aの間隔が狭い場合には、その部分の植物の生長が妨げられるおそれがあり、逆にその間隔が広い場合には、間隔が広い箇所に植えられた植物が倒れるおそれがある。
【0009】
本発明は、養液が収容された栽培槽で植物を栽培する植物栽培システムにおいて、安定的に植物を栽培することができ、植物の生長に効果的な環境を形成するとともに、多くの植物を収容した場合でもそれ自体の強度を維持することができる、栽培用ポットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、養液が収容された栽培槽で植物を栽培する植物栽培システムにおいて用いることができる、栽培される植物を収容する栽培用ポットを提供する。この栽培用ポットは、限定されるものではないが、葉野菜の栽培に用いられる栽培槽(平ベッドともいう)に適するように設計されている。
【0011】
栽培用ポットは、植物を収容する細長い形状の複数の収容部が並置されている。複数の収容部の各々は、複数の第1の開口が設けられた底面と、底面の幅方向の両縁部の各々から立ち上がる側面と、側面の各々の上部に設けられた頂部と、側面、頂部、又は側面と頂部との交差部のいずれかに設けられた複数の第2の開口とを有する。複数の収容部は、隣接する2つの頂部において連結されていることによって全体として一体化されている。好ましくは、複数の収容部の各々における2つの側面は、互いの間隔が、底面から上方に向かうにつれて広くなるように形成されている。
【0012】
一実施形態において、隣接する2つの頂部のいずれか一方、又は、隣接する2つの頂部の連結部分には、長さ方向に延びるリブが立設されていることが好ましい。また、一実施形態において、複数の収容部のうち最外方に位置する2つの収容部の頂部には、外方に向かって複数の段が形成された外壁が長さ方向に延びるように立設されていることが好ましい。頂部は、平面状に形成されていること、すなわち頂面であることが好ましい。
【0013】
複数の収容部には、各々の少なくとも底面に接するように種蒔きシートが配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る栽培用ポットは、隣接する同幅の列の各々の側面が上部に頂部(好ましくは平面状の頂面)を有し、隣接する列同士が互いに頂部で繋がった構造であり、これによって、隣接する列を隔てるように長手方向に延びる複数の山が形成される。この山は、野菜の根元の部分が側面で支えられることによって、植物が倒れないように支持する。すなわち、この山は、土耕栽培における土壌と同じ役割を果たすことになる。したがって、本発明に係る栽培用ポットで栽培される植物は、自身が倒れないようにするエネルギーを成長のために優先的に使用することができ、当該栽培用ポットを使用しない場合より、短期間に高栄養価で形がよく商品価値の高い植物を生長させることができる。
【0015】
また、本発明に係る栽培用ポットには、各々の列の、好ましく上部に、複数の開口が設けられている。これらの開口により、(1)植物の根元に太陽の光を当てること、(2)根から発生する炭酸ガスを空気中に逃がすこと、(3)栽培槽の養液のエアレーションによる空気が開口から上方に抜けて植物を冷却すること、などといった利点が得られる。また、(3)の特徴に関する副次的な効果として、各々の列内において空気の流れが生じるため、植物の一部が山(すなわち側面)に接触している部分にも空気が流れ、病気が発生しない。これらの特徴もまた、本発明に係る栽培用ポットにおける、高栄養価の植物の短期間での生長に寄与する。
【0016】
さらに、本発明に係る栽培用ポットには、平坦部から上方に向かってリブが形成されている。このリブによって、例えば栽培用ポットが軽量樹脂で成型される場合における野菜重量によるねじれや撓みを防止することができる。
【0017】
本発明に係る栽培用ポットを使用することによって、フロートが不要になり、それにより栽培面積を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る栽培用ポットが用いられる植物栽培システムの概略的な全体図である。
図2】本発明の一実施形態に係る栽培用ポットが用いられた栽培槽の概略的な側断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る栽培用ポットの一部の斜視図である。
図4図3に示される栽培用ポットの収容部の一つに葉物野菜(ほうれん草)が支持されている状態を示す概略図である。
図5図3に示される栽培用ポットを重ねたときの長辺及び短辺の収まり状態を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る栽培用ポットが栽培槽に設置される例を示す図であり、栽培用ポットがその2倍の幅の栽培槽に設置された例を示す。この図は、長さ方向の端部側から栽培槽を見た状態である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(植物栽培システムの概要)
図1は、本発明の一実施形態に係る栽培用ポットが用いられる植物栽培システム1の概略図を示す。植物栽培システム1は、ハウス60と、ハウス60内に収容され、植物を栽培する1つ又は複数の栽培槽10と、改質空気RAを製造するための改質空気製造手段20とを含む。製造される改質空気RAは、酸素含有量が高くなるように空気を改質したものである。図1においては、改質空気製造手段20は、ハウス60の外部に設けられているが、ハウス60の内部に設けてもよい。
【0020】
栽培槽10は、単品目又は多品目の植物が支持体(栽培用ポット又はフロート)で支持されるとともに、植物を生長させるための養分が含まれる養液Sが内部を流れるようになっている。栽培槽10は、例えば支持フレーム19によって支持される。多品目の植物が栽培される場合には、植物の種類や収穫までの時間に対応可能となるように多段式に構成されることが好ましい。栽培槽10の養液Sには、栽培される植物の根が浸漬する。養液Sには、改質空気RAが供給される。ハウス60の地下部分には、養液タンク41などの設備が埋設される。
【0021】
植物栽培システム1では、ホウレンソウ、リーフレタスなどの葉野菜、トマト、ナス、キュウリなどの果菜、白菜、キャベツ、レタスなどの結球野菜、エンドウ、ソラマメ、落花生などの豆類、いちご、メロンなどの果物、花卉などを、単品目又は多品目で、年間を通して栽培することができる。また、植物栽培システム1において多品目の植物を栽培する場合には、発芽直後から収穫までにわたって、生長段階の異なる植物を混在させながら、同時に栽培することができる。
【0022】
植物栽培システム1においては、すべての栽培槽10間で、同一の養分が全体的に均質になるように混合された養液Sが一定の状態で常に循環するように構成されている。養液Sは、植物の品目、生長段階及び栽培時期に関わらず、同一成分の養液Sが連続的に用いられ、蒸発及び植物による吸収によって減少した分だけ、水及び/又は養分を補充するだけでよい。
【0023】
養液Sに含まれる成分は特に限定されるものではなく、一般的な養液栽培において使用される養液を用いることができる。養液Sは、成分として、例えば、アンモニア性窒素、水溶性リン酸、硝酸性窒素、水溶性カリウム、硝酸カルシウム、水溶性マグネシウム、水溶性マンガン、水溶性ホウ素、水溶性鉄、水溶性銅、水溶性モリブデン、水溶性亜鉛を含むものとすることができる。養液Sは、その状態すなわち、少なくとも溶存酸素濃度(DO)、電気伝導度(EC)、温度Ts、水素イオン濃度指数(pH)及び酸化還元電位(ORP)といったパラメータの値が、概ね一定に維持されるように管理される。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態に係る栽培用ポット12が用いられる栽培槽10及び周辺設備を示す模式的な側面図である。栽培槽10は、内部において養液Sが一方向に所定速度で流れるように構成された槽である。
【0025】
栽培槽10の長さ、幅及び深さは、それぞれの栽培槽10で栽培される植物の種類、量及び栽培施設の規模などに応じて決められ、特に幅及び深さは、栽培される植物の根や茎がその本来の生長形状を維持することができるように決定される。栽培槽10のサイズは、例えば、葉野菜の場合であれば、幅が約1000mm、深さが約200mmのものが用いられ、ナスやトマトなどの果菜の場合であれば、幅及び深さが約300mm、レタスなどの結球野菜であれば、幅及び深さが約200mmのものが用いられる。槽10の長さは、いずれの植物の場合でもハウス60の規模によって適宜設定され、例えば、短いもので約50cm、長いものでは約100mの場合もある。
【0026】
栽培槽10には、栽培用ポットが設置される。栽培用ポットは、栽培される植物の種類及び栽培槽10の大きさに応じて種々のサイズのものを適宜用いることができる。本発明の一実施形態による栽培用ポット12は、葉野菜の栽培に用いられる栽培槽10(平ベッドともいう)に適するように設計されたものである。栽培用ポット12の詳細は、後述される。
【0027】
栽培槽10には、供給経路45から養液Sが供給される。供給口45aから供給された養液Sは、栽培槽10内を、図2の矢印Sの方向に流れる。
【0028】
栽培槽10内部には、空気配管34と空気供給部36とが設けられる。改質空気RAは、空気配管34を通して空気供給部36に供給され、空気供給部36から養液Sに改質空気RAが供給される。空気供給部36は、限定されるものではないが、セラミックスを高温で焼成した中空筒状の多孔質体であることが好ましい。
【0029】
栽培槽10には、養液Sの排出装置25が設けられており、栽培槽10内を流れてきた養液Sは、この排出装置25から排出される。排出装置25は、2つの排出部25A、25Bからなるものであることが好ましいが、これに限定されるものではない。この実施形態では、第1の排出部25Aは、養液Sの排出口が養液Sの液面と同じ高さに位置するように設けられている。また、第2の排出部25Bは、下端に養液Sの取入口が設けられたさや管を有し、養液Sの排出口が第1の排出部25Aの排出口より低い位置に設けられている。この実施形態による排出装置について、本出願の出願人は、別途特許出願を行っている(特願2022-001446)。
【0030】
栽培槽10から排出された養液Sは、排出経路46a、46bを通り、好ましくは地中に埋設された排出側タンク41内に入る。排出側タンク41の養液Sは、循環ポンプ(図示せず)によって、配管43を通り、好ましくは地中に埋設された供給側タンク44に供給される。供給側タンク44内の養液Sは、供給ポンプ(図示せず)によって、供給経路45を通って、供給口45aから栽培槽10に供給される。供給経路45には、養液Sの供給量をより精密に制御することができるように、必要に応じて、経路を開閉するバルブ(図示せず)を設けてもよい。
【0031】
(栽培用ポット)
以下、本発明の一実施形態による栽培用ポット12を詳細に説明する。
図3は、栽培用ポット12の斜視図である。この図では、栽培用ポット12の長さ方向の一方の端部付近の一部のみが示されており、省略されている部分には、図3に示されている形状が長さ方向に続いている。栽培用ポット12は、全体として長方形のトレイ状に形成されており、内部には、長さ方向に延びる複数の列121~127が、幅方向に並置されている。全体形状は、長方形に限定されるものではなく、正方形のトレイ状に形成されていてもよい。なお、本明細書では、図3の栽培用ポット12の長辺に沿った方向を長さ方向(図3の紙面の上下方向)、短辺に沿った方向を幅方向(図3の紙面の左右方向)という。これらの複数の列121~127の各々には、栽培される植物が収容される。以下、複数の列121~127を収容部という。
【0032】
収容部121~127の各々は、底面13を有する。なお、図2においては、図面が煩雑にならないように、収容部の要素の参照番号は、主に収容部122の部分にのみ示されている。底面13には、植物の根が挿通する複数の開口13a(複数の第1の開口)が、収容部121~127の長さ方向に沿って並ぶように設けられている。開口13aの大きさは、栽培される植物の種類(すなわち、根の束の太さ)に応じて、適宜決定することができる。この実施形態では、開口13aの幅は底面13の幅と同じであるが、これに限定されるものではなく、開口13aは底面13より狭い幅でもよい。開口13aの形状は、この実施形態による栽培用ポット12では四角形であるが、これに限定されるものではなく、例えば円形であってもよい。
【0033】
また、この実施形態による栽培用ポット12では、同じ大きさの複数の開口13aが、収容部121~127の長さ方向に均等な間隔で並んでいるが、これに限定されるものではなく、例えば、異なる大きさの複数の開口が互いに均等な間隔若しくは不均等な間隔で並んでいてもよく、又は、同じ大きさの複数の開口が不均等な間隔で並んでいてもよい。例えば、1つの収容部に異なる種類の植物が収容される場合には、異なる大きさの開口が均等又は不均等な間隔で並ぶ実施形態を採用することもできる。
【0034】
収容部121~127の各々は、底面13の幅方向の両縁部の各々から立ち上がる側面14(141、142)を有する。側面141と142とは、底面13から上方に向かうにつれて互いの間隔が広くなるように対向していることが好ましい。すなわち、収容部121~127の各々の横断面形状は、概ね逆台形状であることが好ましい。この形状は、栽培される植物の収容部に収まる部分が概ね逆円錐状の形状を有することに対応して形成されている。側面141と142の距離は、収容部121~127に収まる植物の部分のサイズに合わせて設計される。
【0035】
側面14の各々の最上部には、頂部が設けられる。頂部は、平面状の頂面15(151、152)であることが好ましい。頂部は、平面状であることには限定されず、例えば上方又は下方に凸の面として形成されていてもよい。1つの収容部(例えば、収容部122)についてみると、側面141の最上部に頂面151が設けられ、側面142の最上部に頂面152が設けられている。頂面151、152は、側面141、142から互いに離れる方向に延出するように設けられる。この実施形態では、頂面151、152は、側面141、142の最上部に設けられているが、これに限定されるものではなく、側面141、142の最上部より下方の位置(ただし、上部であることが好ましい)から延出するように設けられてもよい。頂面151、152は、水平な延出に限定されるものではなく、例えば側面141、142の最上部から上向きの角度又は下向きの角度で延出するように設けてもよい。
【0036】
隣接する収容部は、それぞれの隣接する頂面151、152で連結されている。例えば、収容部122と収容部123とは、収容部122の頂面152と、収容部123の頂面151とが連結されてつながっている。このように、隣接する収容部121~127が互いに隣接する頂面151、152で連結されていることによって、栽培用ポット12は、長さ方向に延びる収容部121~127が全体として一体化され、幅方向に並置された構造を形成する。
【0037】
言い換えると、栽培用ポット12は、隣接する収容部が、長手方向に延びる複数の山(側面141、頂面151、頂面152、及び側面142によって形成される山)によって隔てられた構造を有する。この山は、収容部121~127の各々に収容された植物が倒れないように支持する機能を有する。図4に模式的に示されるように、収容された植物は、この山(具体的には、山の側面141、142)によって支えられる。すなわち、この山の部分は、通常の土耕栽培における土壌と同じ役割を果たすことになる。植物は、自身が倒れないようにするためにエネルギーを使用するが、本発明に係る栽培用ポットは、この山の部分で人工的に植物を支えることができ、結果として、植物は、自身が倒れないようにするエネルギーを、成長のために優先的に使用することができると考えられる。
【0038】
それぞれの収容部121~127において、側面141、142と頂面151、152との交差部16(16a、16b)に、複数の開口17a、17b(複数の第2の開口)を有する。側面141と頂面151との交差部16aには、交差部16aの長さ方向に沿って複数の開口17aが設けられる。同様に、側面142と頂面152との交差部16bには、交差部分の長さ方向に沿って複数の開口17bが設けられる。このような位置に開口17a、17bを設けることによって、(1)植物の根元に太陽の光を当てること、(2)根から発生する炭酸ガスを空気中に逃がすこと、(3)栽培槽の養液のエアレーションによる空気が開口から上方に抜けて植物を冷却すること、などといった利点が得られる。また、(3)の特徴に関する副次的な効果として、各々の収容部121~127において空気の流れが生じるため、植物の一部が側面141、142に接触している部分にも空気が流れ、病気が発生しない。
【0039】
開口17a、17bの形状及び大きさは、開口を設けることについての上記の利点を損なわないものであれば、特に限定されるものではない。また、図3の実施形態では、側面141、142と頂面151、152との交差部16(16a、16b)において、側面141、142と頂面151、152とにまたがるように開口17a、17bが形成されているが、これに限定されるものではない。開口17a、17bは、開口についての上記の利点を損なわない限り、例えば、側面141、142の上方、好ましくは交差部16(16a、16b)に近い部分、又は、頂面151、152、好ましくは交差部16(16a、16b)に近い部分に、開口が形成されてもよい。さらに、図3の実施形態では、開口17a、17bが、収容部121~127の長さ方向に均等な間隔で並んでいるが、これに限定されるものではなく、例えば、異なる大きさの開口が互いに均等な間隔若しくは不均等な間隔で並んでいてもよく、又は、同じ大きさの開口が不均等な間隔で並んでいてもよい。
【0040】
栽培用ポット12は、隣接する2つの頂面151、152の連結部分に、長さ方向に延びるリブ18が立設されていることが好ましい。リブ18は、好ましくは、2つの頂面151、152の連結部分から上方に向かって突出する板状体である。リブ18が形成されることによって、特に栽培用ポット12が軽量の樹脂で成型される場合などに、大量の植物が栽培される際の植物重量による栽培用ポット12のねじれや撓みを防止することができる。
【0041】
リブは、2つの頂面151、152の連結部分に設けられることに限定されるものではなく、栽培用ポット12のねじれや撓みを防止することができる限り、頂面151又は頂面152のどちらかの上に立設するように設けられてもよい。また、リブは、頂面151、152の連結部分のすべてに設けられることに限定されるものではなく、栽培用ポット12のねじれや撓みを防止することができる限り、連結部分の一つおきに設けられてもよい。さらに、それぞれのリブ18は、長さ方向に連続する板状体として形成されているが、例えば、一つの連結部分において長さ方向に複数の板状体を並べることによってリブを形成してもよい。さらに、リブ18は、頂面151及び152のそれぞれの幅方向に1つに板状体のみが設けられているが、これに限定されるものではなく、それぞれの幅方向に、例えば2つの板状体を並置してもよい。
【0042】
複数の収容部121~127のうち最外方に位置する収容部121及び127の頂面151、152には、長さ方向に延びる長辺外壁128が立設されている。長辺外壁128は、外方に向かって2つの段128a、128b(複数の段)が形成された状態で頂面151、152に立設されることが好ましい。第1段128aと第2段128bとの間には、平坦部128cが形成される。
【0043】
また、複数の収容部121~127の長さ方向の両端部には、それぞれの収容部の底面13(より具体的には、底面13の両端部に位置する底面端部13b)及び側面141、142の端面に接するように、幅方向に延びる短辺外壁129が設けられている。短辺外壁129は、外方に向かって2つの段129a、129bが形成された状態で底面13の端面から立設されることが好ましい。第1段129aと第2段129bとの間には、平坦部129cが形成される。
【0044】
長辺外壁128及び短辺外壁129がこのように形成されていることによって、複数の栽培用ポット12を安定して重ねることができる。複数の栽培用ポット12を重ねたときに、図5(a)に示されるように、長辺外壁128においては、下の栽培用ポット12の平坦部128cの上面に上の栽培用ポット12の(長辺外壁128の直近の)頂面151、152の下面が載り、下の栽培用ポット12の第2段128bの上端128dに上の栽培用ポット12の平坦部128cの下面が位置する。同様に、図5(b)に示されるように、短辺外壁129においては、下の栽培用ポット12の第2段129bの上端129dの上方に、上の栽培用ポット12の平坦部129cの下面が位置する。
【0045】
複数の収容部121~127の各々には、栽培する植物の種を置くための種蒔きシート19が、少なくとも底面13の複数の開口13aを覆うように配置されることが好ましい。図3においては、収容部123に種まきシート19が示されているが、他の収容部121、122、124~127の一部又は全部にも、同様の種まきシート19を配置することができる。
【0046】
種蒔きシート19として、収容部121~127の少なくとも底面13の幅を覆うサイズにカットされた細長い不織布が用いられることが好ましい。種蒔きシート19は、底面13だけでなく側面141、142の下方のある程度の高さまで覆うサイズのものであってもよい。種まきシート19の長さは、必要に応じて、収容部121~127の底面13の長さと同じであっても、その長さより短くてもよい。種蒔きシート19には、底面13の開口13aに対応する位置に孔が設けられていないが、植物の根は、種蒔きシート19を自ら貫通して下方に伸びることができる。
【0047】
栽培用ポット12は、栽培槽10を流れる養液Sの液面に、栽培用ポット12の底面13の下面が接するように、栽培槽10に設置される。栽培用ポット12を栽培槽10に設置するための一実施形態が、図6に示される。栽培槽10は、幅方向の両側壁10bの上端部に、外方に張り出した断面略L字形状の第1のポット載置部10dが形成されている。また、栽培槽10の幅方向中央部には、長さ方向に延びる板状支持部10eが底面に置かれ、その上端両側には、板状支持部10eの両面から外向きに張り出した断面略逆L字形状の第2のポット載置部10fが設けられている。栽培用ポット12は、その長辺の下部を第1のポット載置部10d及び第2のポット載置部10fに載せることによって、栽培槽10に設置することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 植物栽培システム
10 栽培槽
10a 底面
10b、10c 側面
10d、10f ポット載置部
10e 板状支持部
11 支持体
12 栽培用ポット
121~127 植物の収容部
128 長辺外壁
128a 第1段
128b 第2段
128c 平坦部
128d 上端
129 短辺外壁
129a 第1段
129b 第2段
129c 平坦部
129d 上端
13 底面
13a 開口(第1の開口)
13b 底面端部
14、141、142 側面
15、151、152 頂面
16a、16b 側面と頂面との交差部
17a、17b 開口(第2の開口)
18 リブ
19 種蒔きシート
25 排出装置(番号変更)
25A 第1の排出部(番号変更)
25B 第2の排出部(番号変更)
20 改質空気製造手段
30 改質空気供給手段
34 空気配管
36 空気供給部
40 養液循環手段
41 排出側タンク
41a、41b 受液口
41c 送液口
43 配管
44 供給側タンク
45 供給経路
45a 供給口
46a、46b 排出経路
60 ハウス
RA 改質空気
S 養液

【要約】
【課題】 養液が収容された栽培槽で植物を栽培する植物栽培システムにおいて、安定的に植物を栽培することができ、植物の生長に効果的な環境を形成するとともに、多くの植物を収容した場合でもそれ自体の強度を維持することができる、栽培用ポットを提供する
【解決手段】 栽培用ポットは、植物を収容する細長い形状の複数の収容部が並置されている。複数の収容部の各々は、複数の第1の開口が設けられた底面と、底面の幅方向の両縁部の各々から立ち上がる側面と、側面の各々の上部に設けられた頂面と、側面、頂面、又は側面と頂面との交差部のいずれかに設けられた複数の第2の開口とを有する。複数の収容部は、隣接する2つの頂面が連結されることによって全体として一体化され、それにより、栽培用ポットは、全体として長方形のトレイ状に形成される。
【選択図】 図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6